(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】重炭酸イオンを含む水の処理方法及びその方法を用いた窒素肥料の製造方法、培養液の製造方法及び培養液製造装置、並びに培養液製造装置を含む栽培システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20241126BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20241126BHJP
C05C 5/00 20060101ALI20241126BHJP
C05F 17/40 20200101ALI20241126BHJP
【FI】
C02F3/34 101C
A01G31/00 601A
C05C5/00
C05F17/40
(21)【出願番号】P 2021034226
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小林 紀子
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭63-045275(JP,B2)
【文献】特開平09-052099(JP,A)
【文献】特開昭62-115222(JP,A)
【文献】特開2009-166044(JP,A)
【文献】国際公開第2020/237283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
A01G 31/00
C05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重炭酸イオンを含む水に炭酸アンモニウムを添加し硝化して、前記水に含まれるアンモニア態窒素を硝酸態窒素へ変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換すること、を含
み、
ECセンサによりEC値を測定して、前記炭酸アンモニウムの添加量を制御する、重炭酸イオンを含む水の処理方法。
【請求項2】
前記水のpHを測定し、前記水のpH値が4.5未満に低下した場合、前記水に炭酸アンモニウム、および炭酸カリウムの炭酸塩の少なくとも一以上を添加して、前記水のpH値を4.5以上6.5以内の範囲内に調整する、請求項
1に記載の重炭酸イオンを含む水の処理方法。
【請求項3】
前記硝化を硝化菌が行う、請求項1
又は2に記載の重炭酸イオンを含む水の処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の重炭酸イオンを含む水の処理方法を用いた窒素肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、重炭酸イオンを含む水から重炭酸イオンを除去する方法、その方法を含む窒素肥料、培養液の製造方法に関する。また、本発明の一実施形態は、重炭酸イオンを含む水を処理して培養液を製造する培養液製造装置、及びその培養液製造装置を含む栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の水耕栽培は、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、ニッケル、銅といった植物の育成に必須の元素を肥料として施用することが必要とされている。水耕栽培ではこれらの必須元素を含む化成肥料を水に溶かしたものを培養液として用いている。培養液の作製に使用される原水に重炭酸イオン(HCO3
-)が多く含まれる場合、培養液のpHを上昇させるため、煩雑なpH調整や頻繁な培養液の交換が必要となる。そこで、原水のpH値を調整するために前処理として硝酸やリン酸で中和して、重炭酸イオンの濃度を20~50ppm程度まで低下させておくと良いとされている(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】“VII 養液栽培における肥料と養液管理”、インターネット<http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-325/hiryou/documents/sehi16-dai3bu7.pdf>
【文献】“養液栽培の計算方法”、インターネット<https://www.kaneyama.co.jp/image/technical_data/technical_sheet_04.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水耕栽培において、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、水等に含まれる重炭酸イオンは、pH値を上昇させるばかりでなく、培養液に含まれるカルシウムイオン等の陽イオンと結合して析出し、培養液の水槽や水路の中での沈着、肥効率の低下、培養液の品質低下、開口部及び配管の目詰まりや閉塞、管理コストの増加の原因となるため前処理が必要とされている。
【0005】
従来技術のように、前処理として原水に硝酸やリン酸を添加した場合には、添加された硝酸やリン酸塩の分を差し引いて肥料成分の調製をしなければならず複雑な肥料計算が必要となる。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明の一実施形態は、重炭酸イオンを含む水から重炭酸イオンを除去する方法を提供することを目的とする。また、本発明の一実施形態は、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の炭酸塩を培養液に使用する場合に、培養液の製造に用いる水に重炭酸イオンが含まれていても培養液中に析出物が生成されることを防ぎ、肥料調整の際に複雑な肥料計算を必要としない重炭酸イオンを含む水の処理方法および培養液の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本発明の一実施形態は、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の炭酸塩を培養液に使用する場合に、培養液を製造する水に重炭酸イオンが含まれている場合でも析出物が生成されることを防ぐことのできる培養液の製造装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の炭酸塩を培養液に使用する場合に、原水に重炭酸イオンが含まれていても析出物が生成されることを防ぎ、複雑な肥料計算を必要としない培養液の製造方法であって、重炭酸イオン(HCO3
-)及びアンモニアイオンを含む水を硝化させることで、アンモニア態窒素を硝酸態窒素へ変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換することを含む。
【0008】
本発明の一実施形態に係る重炭酸イオンを含む水の処理方法は、重炭酸イオン(HCO3
-)が含まれる水に炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を添加し、硝化させることで、アンモニア態窒素を硝酸態窒素へ変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換することを含む。
【0009】
本発明の一実施形態は、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の炭酸塩が添加された培養液、又は重炭酸イオンが含まれる水を硝化により処理した水(処理水)のpH値を測定し、培養液又は処理水のpH値が4.5未満に低下した場合、培養液又は処理水に、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)と、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、および炭酸マグネシウム(MgCO3)等の炭酸塩との少なくとも一方を添加して、培養液又は処理水のpH値を4.5以上6.5以内の範囲内に調整することを含む。重炭酸イオン(HCO3
-)及び炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を含む水の硝化は硝化菌を用いて行うことができる。
【0010】
本発明の一実施形態に係る培養液の製造方法は、重炭酸イオン(HCO3
-)が含まれる水、又は炭酸カリウム(K2CO3)等の炭酸塩が添加された培養液に、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を添加し、硝化させることで、重炭酸イオンが含まれる水又は炭酸塩が添加された培養液に含まれるアンモニア態窒素を硝酸態窒素へ変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換する第1の段階と、第1の段階を経た処理水に、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、ニッケル、および銅から選ばれた少なくとも1種の元素を含む肥料成分を添加する第2段階と、を含む。
【0011】
本発明の一実施形態に係る培養液の製造方法は、硝化処理中の水のpHを測定し、処理水のpH値が4.5未満に低下した場合、硝化処理中の水に炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)と、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、および炭酸マグネシウム(MgCO3)等の炭酸塩との少なくとも一方を添加して、処理水のpH値を4.5以上6.5以内の範囲内に調整することを含む。重炭酸イオン(HCO3
-)及び炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を含む水の硝化は硝化菌を用いて行うことができる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る培養液製造装置は、重炭酸イオン(HCO3
-)が含まれる水、又は炭酸カリウム(K2CO3)等の炭酸塩が添加された培養液に炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を添加し硝化させることで、処理水に含まれるアンモニア態窒素を硝酸態窒素へ変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換する前処理部と、第1の段階を経た処理水に、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、ニッケル、および銅から選ばれた少なくとも1種の元素を含む肥料成分を添加する調整部を含む。
【0013】
本発明の一実施形態に係る培養液製造装置は、前処理部に処理水のpH値を計測するpHセンサと、処理水に炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を添加する第1薬剤供給部とが含まれてもよい。また、本発明の一実施形態に係る培養液製造装置は制御部を含み、制御部が、前処理部のpHセンサの計測値が4.5未満であるとき、処理水のpH値が4.5以上6.5以下となるように、第1薬剤供給部から炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を添加する機能を有していてもよい。前処理部は、処理水を攪拌する攪拌部及び処理水を曝気する曝気部の少なくとも一方又は両方を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態に係る水耕栽培システムは、前処理部と調整部を含む培養液製造装置と植物を栽培する栽培槽とを含み、栽培槽に調整部から培養液が供給される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、重炭酸イオン(HCO3
-)が含まれる水、又は炭酸カリウム(K2CO3)等の炭酸塩が添加された培養液に炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を添加し硝化することで、pH値の上昇を抑制し、且つ重炭酸イオンを除去することができる。また、硝化処理された水を培養液に用いる場合に、肥料成分を加えて調整を行っても沈殿物の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る培養液製造装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る水耕栽培システムの構成を示す図である。
【
図3】実施例1で測定された、植物の栽培に用いられた培養液のpH値の変化を示すグラフである。
【
図4】実施例1で測定された、植物の栽培に用いられた培養液の析出物の状態を観察した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有しない。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る培養液製造装置100の構成を示す。培養液製造装置100は前処理部102及び調整部104を含む。前処理部102は窒素肥料(又は培養液)を製造するための水(前処理水110)が溜められる前処理槽106を有する。調整部104は、前処理槽106で所定の処理がされた水(前処理水110)に肥料成分等が添加されて培養液112が生成される調整槽108を有する。
【0019】
前処理槽106と調整槽108とは第1配管116で接続されている。第1配管116には溶液の流れを制御する第1バルブ120が設けられる。前処理槽106から調整槽108への前処理された水(前処理水110)の流れは第1バルブ120の開閉により制御される。前処理槽106から調整槽108への前処理水110の給水は、図示されないポンプを介して行われてもよいし、2つの槽の水位の高低差を利用して行われてもよい。培養液製造装置100は制御部114を有し、第1バルブ120の開閉は制御部114から出力される信号によって行われてもよい。また、第1配管116には微粒子を除去するためのフィルタ118が設けられていてもよい。
【0020】
前処理槽106には処理水供給部122から窒素肥料(又は培養液)を製造するための水(原水:処理を行う前の水)が供給される。処理水供給部122から供給される原水に限定はなく、河川水又は地下水をはじめ、生活排水の二次処理水、工場排水等様々な水が使用可能である。処理水供給部122から供給される原水には重炭酸イオン(HCO3
-)が含まれていてもよい。処理水供給部122は図示されない原水を貯留する水槽又はタンクと接続されていてもよい。
【0021】
処理水供給部122と前処理槽106とは配管で接続され、配管の経路に第1送水ポンプ134、第2バルブ128が設けられている。第1送水ポンプ134の駆動及び第2バルブ128の開閉で処理水供給部122から前処理槽106への原水の供給が制御される。第1送水ポンプ134の動作及び第2バルブ128の開閉は制御部114で制御される。
【0022】
前処理槽106は第1薬剤供給部124と接続される。第1薬剤供給部124は第1薬剤を前処理槽106に供給する機能を有している。本実施形態において、第1薬剤は炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)であり、第1薬剤供給部124からは炭酸アンモニウム水溶液として供給されてもよい。第1薬剤供給部124は、図示されない第1薬剤槽と接続され、第1薬剤槽から第1薬剤を供給する構成を有していてもよい。
【0023】
第1薬剤供給部124と前処理槽106は配管で接続される。配管の経路には第2送水ポンプ136、第3バルブ130が設けられている。第2送水ポンプ136の駆動及び第3バルブ130の開閉で第1薬剤供給部124から前処理槽106への第1薬剤の供給が制御される。第2送水ポンプ136の動作及び第3バルブ130の開閉は制御部114で制御される。なお、炭酸アンモニウム粉体を前処理槽106に供給する場合には第2送水ポンプ136は省略される。
【0024】
前処理槽106には第2薬剤供給部126が接続されていてもよい。第2薬剤供給部126は第2薬剤を前処理槽106に供給する機能を有している。第2薬剤は、植物の肥料となる成分を含んでもよく、例えば、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)等が含まれ得る。第2薬剤供給部126は、一つ又は複数の薬剤の供給系統を有し、炭酸カリウム又は炭酸カリウム水溶液、炭酸カルシウム又は炭酸カルシウム水溶液、炭酸マグネシウム及び炭酸マグネシウム水溶液から選ばれた一種又は複数種の水溶液を前処理槽106に供給する。第2薬剤供給部126は、図示されない第2薬剤槽と接続され、第2薬剤槽から第2薬剤を供給する構成を有していてもよい。
【0025】
第2薬剤供給部126と前処理槽106は配管で接続される。配管の経路には第3送水ポンプ138、第4バルブ132が設けられている。第3送水ポンプ138の駆動及び第4バルブ132の開閉で第2薬剤供給部126から前処理槽106への第2薬剤の供給が制御される。第3送水ポンプの動作及び第4バルブ132の開閉は制御部114で制御される。
【0026】
前処理槽106には硝化菌が加えられる。硝化菌は前処理槽106の中に直接的に、硝化菌を含む担体と共に、汚泥、又は土壌の中に含ませて提供される。硝化菌は前処理水110との体積比で5~20%、例えば10%の割合で加えられる。
図1は、前処理槽106に硝化菌を含む担体146が提供されている態様を示す。前処理槽106は、硝化菌を含むことにより前処理水110に含まれる重炭酸イオンや炭酸アンモニウムの硝化を行うことができる。すなわち、重炭酸イオンや炭酸アンモニウムが含まれる水を硝化菌により硝化させ、アンモニア態窒素を硝酸態窒素へ、重炭酸イオンを二酸化炭素へ変換して窒素肥料成分とすることができる。
【0027】
前処理槽106には、前処理水110の中で硝化菌による反応が進むように攪拌機140が設けられる。攪拌機140の形式に限定はなく、例えば、プロペラ式の攪拌機用いることができる。攪拌機140で前処理水110を攪拌することにより、硝化反応を促進することができる。また、攪拌機140に代えて前処理槽106の中に水中ポンプを設置して、槽内で前処理水110が循環するようにしてもよい。
【0028】
前処理槽106には曝気を行う曝気装置142が設置されてもよい。曝気装置142は空気を送るエアポンプ143とエアストーン又はマイクロナノバブルノズル等の微細孔体144で構成される。微細孔体144は前処理槽106の底部に設置されることが好ましい。曝気装置142により前処理槽106の底部から空気を送り込むことにより、アンモニア性窒素を硝酸性窒素に変え、重炭酸イオンを二酸化炭素に変え、有機物は水と二酸化炭素に酸化する反応を促進することができる。
【0029】
前処理槽106には前処理水110の状態を検出するセンサが設けられる。
図1は、前処理槽106に設けられるセンサとして、pHセンサ148、ECセンサ150、水位センサ152が設置される例を示す。pHセンサ148は前処理水110のpH値を測定するために設けられる。前処理槽106の前処理水110は継続的な硝化反応を維持するため、pH値が4.5以上6.5以下の範囲に制御されていることが好ましい。pHセンサ148は前処理水110のpH値をモニタリングすることで、硝化反応を適切な条件下で行うことができる。pHセンサ148の計測値は制御部114に出力される。
【0030】
ECセンサ150は前処理水110の電気伝導度を測定するために用いられる。ECセンサ150で前処理水110の電気伝導度を測定することでイオン濃度を評価することができる。また、硝酸イオンセンサ、アンモニアイオンセンサを設け、硝酸イオン、アンモニアイオンを直接的に計測するようにしてもよい。
【0031】
水位センサ152は前処理槽106の水位を検出するために設けられる。水位センサ152の計測値は制御部114に出力される。原水を前処理槽106へ供給する場合には、制御部114が水位センサ152の信号に基づいて処理水供給部122の動作を制御し、所定の水位を超えないようにすることができる。
【0032】
調整部104には、調整槽108の培養液112を攪拌する攪拌機141、培養液112へ肥料成分を添加する養液供給装置154、養液供給装置154の動作を制御する養液調整装置156、水位センサ153が設けられる。養液調整装置156は、センサ(pHセンサ149、ECセンサ151)を含む。養液調整装置156は、pHセンサ149により培養液112のpH値を検出し、ECセンサ151により培養液112の電気伝導度を検出する。養液調整装置156は、これらのセンサの計測値に基づいて養液供給装置154から、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、ニッケル、及び銅等の成分を含む肥料成分を培養液112に添加する。調整槽108には送水口158が設けられ、貯留されている培養液112が外部に送水される。
【0033】
制御部114は前処理部102及び調整部104の動作を制御し、前処理水110及び培養液112のデータを収集する機能を有する。また、制御部114は、収集されたデータに基づいて前処理水110の処理条件を制御し、培養液112の品質を管理する。
【0034】
本実施形態に係る培養液製造装置100によれば、前処理部102で窒素肥料(又は培養液)の製造に使用する水(原水)を硝化菌で処理することで様々な水質の原水を使用することができる。すなわち、原水に重炭酸イオンが含まれていてもこれを二酸化炭素に変換することができる。また、前処理水110に含まれる炭酸アンモニウムを硝酸態窒素へ変換して窒素肥料成分とすることができる。これにより、前処理水110のpH値の上昇を抑制し、且つ調整部104で培養液に肥料成分を加えて調整を行っても沈殿物の生成を抑制することができる。それにより、培養液112のpH値の上昇を抑制し、且つ調整槽108の中で析出物が生成し配管等の開口部に沈着し目詰まりや閉塞の発生を防ぐことができる。
【0035】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態に示す培養液製造装置100の動作と、この装置を用いた重炭酸イオンを含む水の処理方法、この装置により製造される窒素肥料、及び培養液の製造方法について説明する。
【0036】
培養液製造装置100は、前処理部102で窒素肥料(又は培養液)の製造に使用する水(原水)の処理が行われ、調整部104で窒素肥料(又は培養液)の調整が行われる。最初に、処理水供給部122から前処理槽106へ、水が供給される。前処理層106へ供給される水は、窒素肥料(又は培養液)の製造に用いる水である。なお、この水は第1実施形態で説明したように様々な種類の水(排水等)を用いることができ、その水には重炭酸イオンが含まれていてもよい。
【0037】
処理水供給部122から原水の供給と同時、又は供給後に、第1薬液供給部124から炭酸アンモニウム水溶液を前処理槽106へ供給する。前処理槽106に導入された炭酸アンモニウム及び重炭酸イオンを含む前処理水110に対し、硝化菌、硝化菌を含む担体、硝化菌を含む汚泥、又は土壌を体積比で10%以上加える。なお、硝化菌、硝化菌を含む担体、硝化菌を含む汚泥、又は土壌は予め前処理槽106に入れられていてもよい。
【0038】
次に、攪拌機140を動作させて前処理水110を攪拌して硝化菌による硝化反応を促進する。攪拌に変えて曝気装置142による曝気を行ってもよい。曝気装置142により前処理水110を曝気することで硝化菌による硝化反応を促進することができる。また、前処理水110を硝化菌と反応させる処理は、攪拌と曝気を同時に、又は攪拌と硝化を交互に行ってもよい。炭酸アンモニウムと重炭酸イオンを含む前処理水110に対し、攪拌又は曝気、若しくは攪拌及び曝気を行い、硝化により前処理水110に含まれるアンモニウムイオンを硝酸イオンへ変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換することができる。
【0039】
前処理水110のpH値はpHセンサ148で測定し、pH値が4.5以上6.5以下の範囲内になるように管理する。pH値が4.5以下になった場合には、第1薬剤供給部124から炭酸アンモニウム水溶液を前処理水110に加えてpH値を上昇させる。pH値が6.5以上になった場合は炭酸アンモニウムの添加を中断する。
【0040】
前処理水110の硝化反応はECセンサ150(又は硝酸イオンセンサ、アンモニアイオンセンサ)によりモニタリングしてもよい。前処理水110の電気伝導度をECセンサ150で測定しながら炭酸アンモニウムの添加を行い、ECセンサ150の計測値(EC値)が所定の値になった場合に炭酸アンモニウムの添加を中断することで前処理水110の水質を管理することができる。ECセンサ150による電気伝導度の管理水準は培養液に設定されるEC値によって決められる。例えば、培養液112のEC値を1.5以上2.0以下とする場合には、前処理槽106の前処理水110のEC値が0.4dS/mになった時点で炭酸アンモニウムの添加が中断される。
【0041】
以上のような処理により、重炭酸イオンが含まれている水から、重炭酸イオンを除去することができる。この水の処理方法では、重炭酸イオンが除去された水のpH値を調整することもできる。別言すれば、重炭酸イオンを除去する水に炭酸アンモニウムを添加する際に、炭酸アンモニウムの添加量が過剰にならないように制御することができる。
【0042】
前処理槽106の前処理水110の水位は水位センサ152によりモニタリングする。前処理槽106の水位が低下した場合には、処理水供給部122から原料となる水(原水)が所定の水位となるまで供給される。
【0043】
前処理槽106でpH値が4.5以上6.5以下に調整された前処理水110は調整槽108へ移される。調整槽108の水位は水位センサ153で測定され、所定の水位以下になると前処理水110が供給される。第1バルブ120の開閉は制御部114から出力される信号によって制御される。前処理槽106から調整槽108への前処理水110の給水は第1配管116を通して行われる。前処理水110の給水は、例えば、前処理槽106と調整槽108との水位差を利用して行われる。前処理槽106と調整槽108と間に水位差がある場合、第1バルブ120を開くことで、第1配管116を通して前処理槽106から調整槽108へ前処理水110が流れ込む。また、ポンプ(図示されない)を用いて前処理槽106から前処理水110を汲み出す方式を用いてもよい。調整槽108は所定の水位になるまで前処理水110が供給される。調整槽108の水位は水位センサ153によりモニタリングされる。
【0044】
前処理槽106から調整槽108へ前処理水110を給水する場合には、攪拌又は曝気若しく攪拌及び曝気の処理が5分から10分程度停止され、前処理水110の中に浮遊する固形物が沈殿した後に行われる。すなわち、攪拌又は曝気若しく攪拌及び曝気処理後の前処理水110の上澄みが調整槽108に移される。第1配管116には第1フィルタ118が設けられているが、前処理水110の浮遊物が沈殿しないまま給水すると第1フィルタ118が直ぐに目詰まりするので、前述のように所定時間経過した後に行うことが好ましい。
【0045】
水位が低下した前処理槽106には処理水供給部122から水(原水)が補充される。補充される水(原水)の量は水位センサ152によって制御される。水(原水)が補充された後、前処理槽106に溜められる前処理水110の水質は、pHセンサ148、ECセンサ150によってモニタリングされ、必要に応じて第1薬剤供給部124から炭酸アンモニウムが添加される。pH値が4.5以下の場合は第1薬剤供給部124から炭酸アンモニアが添加され、pH値が6.5以上になった時点で炭酸アンモニアの添加が中断される。攪拌又は曝気、若しくは攪拌及び曝気の処理は適宜行われる。
【0046】
調整槽108に移された前処理水110には炭酸アンモニウムが硝化されて変換された硝酸態窒素が含まれている。したがって、この水溶液を窒素肥料として、又は窒素肥料の原料として用いることができる。
【0047】
また、調整槽108へ移された前処理水110へ肥料成分を添加することで植物の栽培に用いる培養液112を製造することができる。培養液112のpH値やEC値は、養液調整装置156に接続されたpHセンサ149及びECセンサ151により計測される。調整槽108への肥料成分の添加は、養液供給部154により行われる。肥料成分としては窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、鉄、マンガン、 亜鉛、モリブデン、ニッケル、銅から選ばれた一種又は複数種の成分が含まれる。
【0048】
本実施形態に示す培養液製造装置100を用いることで、重炭酸イオンを含む水に炭酸アンモニウムを添加し、硝化菌により硝化することで炭酸アンモニウムを硝酸態窒素に変換し、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換し、pH値を4.5から6.5の範囲内に調整することができる。別言すれば、炭酸アンモニウムを含む水を硝化菌で硝化することで、硝酸態窒素を含む窒素肥料を製造することができ、さらに肥料成分を加えて培養液112を製造することができる。また、本実施形態に示す培養液製造装置100を用いることで、培養液中の陽イオンと結合して析出しやすい炭酸イオン、重炭酸イオンを含む水(原水)から簡易な方法で重炭酸イオンを除去することができ、硝酸やリン酸塩等を使用しないことにより複雑な肥料計算を不要にすることができる。
【0049】
前処理槽106から移された前処理水110は硝化菌で処理されていることにより重炭酸イオンが除去されているので、カルシウム等の肥料成分を添加しても析出物が生成され沈着することを防ぐことができる。また、炭酸アンモニウムが硝酸態窒素に変換されていることで、培養液112のpH値を4.5以上6.5以下の範囲内に調整することができ肥効率を維持することができる。また、炭酸アンモニウムを硝酸イオンに変換することにより、アンモニアイオン濃度を低減することができ、アンモニア濃度が高い養液を好まない植物の栽培が可能となる。
【0050】
[第3実施形態]
図2は、本発明の一実施形態に係る水耕栽培システム160を示す。水耕栽培システム160は、第1実施形態に示す培養液製造装置100と植物が栽培される栽培部161とを含む。水耕栽培の方式は、大別して湛液型水耕法と薄膜型水耕法の二種類が知られている。
図2は、水耕栽培システム160の栽培部161として湛液型水耕法が適用された一例を示す。勿論、水耕栽培システム160として薄膜型水耕法を適用することもできる。第1実施形態で培養液製造装置100について、第2実施形態で培養液の製造方法について説明されているので、本実施形態では栽培槽162に関連する部分を中心に説明を行う。
【0051】
栽培槽162には調整槽108から培養液112が供給される。培養液112は調整槽108から栽培槽162へポンプ157によって供給される。培養液112は供給管166を通して栽培槽162へ供給される。栽培槽162の上には栽培用パネル164が設置される。栽培する植物200は、根が栽培槽162の中に伸びるように栽培用パネル164に並べて栽培される。
【0052】
図2は、水耕栽培システム160が循環型である場合を示す。栽培槽162にはオーバーフロー管168が設けられており、所定の水位に達した培養液はオーバーフロー管168から流れ出し調整槽108に循環する水路が形成されている。図示されないが、水路にはオーバーフロー管168から流れ出た培養液を一時的に貯留する貯留タンクが設けられていてもよい。なお、
図2は、栽培槽162が一段である例を示すが、これに限定されず栽培槽162が多段に配置されていてもよい。
【0053】
調整槽108では、養液供給部154から水耕栽培に必要な肥料成分が培養液に添加される。また、調整槽108では、pHセンサ149でpH値が計測され、ECセンサ151でEC値が計測され、培養液112として適した範囲内になるように水質が管理される。調整槽108の水位が低下した場合には、前処理槽106から処理済みの前処理水110が供給される。このように、調整槽108で培養液112の水量が管理され、減少分が前処理槽106から供給されることで、水耕栽培を連続的に行うことができる。
【0054】
本実施形態に係る水耕栽培システム160によれば、培養液の製造に使用する水(原水)を硝化菌で処理することで様々な水質の原水を使用することができる。すなわち、原水に重炭酸イオンが含まれていてもこれを二酸化炭素に変換することができる。また、前処理水110に含まれる炭酸アンモニウムを硝酸態窒素へ変換して窒素肥料成分とすることができる。調整部104で培養液に肥料成分を加えて培養液112製造しても沈殿物の生成を抑制することができる。それにより、調整槽108、供給管166等の水路の中で析出物が沈着し目詰まりや閉塞の発生を防ぐことができる。
【実施例1】
【0055】
第2実施形態に示す製造方法で製造された培養液と、通常の培養液を用いて植物を育成したときの培養液のpH値の変化を示す。
【0056】
水耕栽培は灌液水耕方式により行った。栽培場所は屋内であり、人工照明付きの栽培ラックで行われた。植物としてコンテナレタスを栽培した。培養液として4種類の培養液を用いた。
【0057】
培養液と内訳は以下の通りである。
試料A:炭酸アンモニウムから硝酸イオンを生成したものを培養液の調整に使用した培養液
試料B:最初に炭酸アンモニウムから硝酸イオンを生成したものを用いて培養液の調整を行い、追肥の際は、炭酸アンモニウムを培養液の調整に使用した培養液
試料C:比較例であり、化成肥料から作製した培養液
試料D:比較例であり、炭酸アンモニウムを培養液の調整に使用した培養液
【0058】
図3に示すグラフは、試料A及び試料Bを用いてコンテナレタスを栽培したときの培養液のpH値の変化を示す。
図3に示すグラフは、比較例の試料C及び試料Dの結果も同時に示す。栽培期間43日間に2回の栽培が行われて、第1期は1日から22日迄、第2期は22日から43日迄である。
【0059】
試料A及び試料Bの培養液を用いた場合、コンテナレタスを栽培した第1期及び第2期の期間中においてpH値は5から7の範囲内に収まっており、大幅な変動は確認されていない。一方、比較例である試料Cの培養液を用いた場合には、第1期から第2期に移った後にpH値が大幅に増加していることが確認される。また、比較例である試料Dの培養液でもpH値の大幅な増加が確認されている。
【0060】
比較例の試料CにおけるpH値の大幅な変化は、育成したコンテナレタスが培養液に含まれる特定の成分を多く吸収し、培養液中のイオンバランスが初期の状態から変化した結果であると考えられる。比較例の試料CのpH値が7以上に増加する変化は、例えば、培養液中に含まれる硝酸態窒素のような成分が吸収され、根からOH-が排出された結果であると推測される。なお、アンモニア態窒素のような成分が吸収された場合には、根からH+が排出され、pH値は低下する。一方、実施例の試料A及び試料Bの培養液は、硝化菌による硝化によりpH値は4.5以上6.5以下で安定化され、且つ適度なアンモニア態窒素が培養液中に存在することで、植物への硝酸態窒素とアンモニア態窒素の吸収バランスが良いためpH値の急激な変化を防いでいると考えられる。さらに、残留する硝化菌がアンモニア態窒素を硝化およびバッファーとして働くことでpH値の急激な変化を防いでいると考えられる。
【0061】
このように、本実施例によれば、硝化菌を用いて前処理がされた培養液を用いた場合にpH値の急激な変動が抑制されることが確認された。
【実施例2】
【0062】
実施例1で用いた試料A、Bの培養液と、比較例である試料C、Dの培養液を43日間使用した後の析出物の有無を観察した。
【0063】
試料A、Bの培養液では析出物が確認されずクリアな状態であった。一方、比較例である試料C、Dの培養液には析出物が確認された。この結果より、前処理水を硝化菌で処理することで、炭酸イオンや重炭酸イオンが除去されており、肥料成分との反応による析出物の発生を防ぐことができることが確認された。
【0064】
以上、実施例1及び実施例2によれば、硝化菌を用いて前処理水に含まれる炭酸アンモニウムや重炭酸イオンを除去することで、培養液のpH値を安定化させ、析出物の生成を防ぐ効果があることが確認された。
【符号の説明】
【0065】
100:培養液製造装置、102:前処理部、104:調整部、106:前処理槽、108:調整槽、110:前処理水、112:培養液、114:制御部、116:第1配管、118:第1フィルタ、120:第1バルブ、122:処理水供給部、124:第1薬剤供給部、126:第2薬剤供給部、128:第2バルブ、130:第3バルブ、132:第4バルブ、134:第1送水ポンプ、136:第2送水ポンプ、138:第3送水ポンプ、140:攪拌機、141:攪拌機、142:曝気装置、143:エアポンプ、144:微細孔体、146:硝化菌を含む担体、148:pHセンサ、149:pHセンサ、150:ECセンサ、151:ECセンサ、152:水位センサ、153:水位センサ、154:養液供給部、156:養液調整装置、157:ポンプ、158:送水口、160:水耕栽培システム、161:栽培部、162:栽培槽、164:栽培用パネル、166:供給管、168:オーバーフロー管、200:植物