(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電磁流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/60 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01F1/60
(21)【出願番号】P 2021038231
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 修
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-324361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流れ方向に直交する方向に沿って磁界をその向きが所定周期で反転するように発生させ、前記流れ方向と前記磁界の方向とに直交する方向に生じる起電力に基づいて前記流体の流量を計測する電磁流量計であって、
前記流れ方向と前記磁界の方向との両者に直交する方向に沿って対向し、前記磁界と前記流体の流量とに応じて生じる起電力を表す交流電圧信号を第1流量信号として出力する1対の第1検出電極及び第2検出電極と、
前記流体に接触しかつ接地されたコモン電位を有するコモン電極と、
前記第1検出電極及び前記第2検出電極にそれぞれ接続され、前記第1流量信号を伝送する第1信号ライン及び第2信号ラインと、
前記第1信号ラインに第1バイアス電圧VbAを印加し、前記第2信号ラインに前記第1バイアス電圧よりも小さい第2バイアス電圧VbBを印加することで、前記第1流量信号をバイアスする第1バイアス回路と、
直流電源電圧Vanaにより動作し、前記第1バイアス回路によりバイアスされた前記第1流量信号である第2流量信号を増幅率G1で増幅して第3流量信号を得る差動増幅回路と、を備え、
前記差動増幅回路は、前記コモン電位を基準電位とし、前記第2流量信号の直流成分である、前記第1バイアス電圧VbAから前記第2バイアス電圧VbBを減じた電圧Vdefと、前記第2流量信号の交流成分と、を前記増幅率G1で増幅して、前記第3流量信号を得て、
前記電圧Vdefに前記増幅率G1を乗じた値が、0より大きくかつ前記直流電源電圧Vanaよりも小さい、
電磁流量計。
【請求項2】
前記差動増幅回路は、前記第3流量信号を出力端子から出力するオペアンプを備え、
前記オペアンプの非反転入力端子が抵抗を介して前記コモン電位に接続されることで、前記差動増幅回路の前記基準電位が前記コモン電位に設定されている、
請求項1に記載の電磁流量計。
【請求項3】
前記差動増幅回路は、
前記第1信号ラインが接続された非反転入力端子を有する第1オペアンプと、前記第2信号ラインが接続された非反転入力端子を有する第2オペアンプと、を備え、前記第2流量信号を増幅する第1回路と、
反転入力端子と、前記第1回路により増幅された前記第2流量信号が入力される非反転入力端子とを備え、前記コモン電位を基準電位とする前記第3流量信号を出力端子から出力する第3オペアンプと、を備え、
前記第3オペアンプの前記非反転入力端子が抵抗を介して前記コモン電位に接続されることで、前記差動増幅回路の前記基準電位が前記コモン電位に設定されている、
請求項1又は2に記載の電磁流量計。
【請求項4】
前記差動増幅回路の後段に設けられ、前記差動増幅回路から出力された前記第3流量信号を増幅する後段増幅回路と、
前記差動増幅回路と前記後段増幅回路との間に配置され、前記差動増幅回路から出力された前記第3流量信号の直流成分をカットするカップリングコンデンサと、
をさらに備える請求項1から3のいずれか1項に記載の電磁流量計。
【請求項5】
前記カップリングコンデンサにより直流成分がカットされた前記第3流量信号を第3バイアス電圧VbCでバイアスする第2バイアス回路と、
前記後段増幅回路は、前記第2バイアス回路によりバイアスされた前記第3流量信号を増幅率G2で増幅して第4流量信号として得て、
前記第4流量信号が直接又は間接的に入力されるアナログ/デジタル変換回路をさらに備え、
前記後段増幅回路は、前記コモン電位を基準電位とし、前記第2バイアス回路によりバイアスされた前記第3流量信号の直流成分である前記第3バイアス電圧VbCを前記増幅率G2で増幅し、前記第2バイアス回路によりバイアスされた前記第3流量信号の交流成分を前記増幅率G2で増幅して、前記第4流量信号を得て、
前記第3バイアス電圧VbCに前記増幅率G2を乗じた値が、0より大きくかつ前記アナログ/デジタル変換回路に入力される電圧の上限値よりも小さい、
請求項4に記載の電磁流量計。
【請求項6】
前記後段増幅回路は、前記第3流量信号が入力される非反転入力端子と前記第4流量信号を出力する出力端子とを備える第4オペアンプを備え、
前記第4オペアンプの反転入力端子が抵抗を介して前記コモン電位に接続されることで、前記後段増幅回路の前記基準電位が前記コモン電位に設定されている、
請求項5に記載の電磁流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流量を計測する電磁流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁流量計は、流体の流れ方向に直交する方向に磁界を発生させることにより生じる起電力を利用して流体の流量を計測する。このような電磁流量計は、起電力を流量信号として取り出すが、当該流量信号は電圧値の小さな微弱な信号である。従って、電磁流量計には、流量信号を増幅する増幅回路が設けられている。この増幅回路に関する技術として、特許文献1には、起電力に基づく流量信号を増幅する差動増幅回路のオペアンプ用の電源電圧V1と、V1の1/2の電圧である電源電圧V2とを用いて、流量信号を増幅する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、流量信号を増幅する基準電圧が電源電圧V2となっているが、この場合、電源電圧V2の電圧安定性が良いことが要求される。しかしながら、電源電圧V2の電圧安定性は、一般に良くない。電源電圧V2の電圧安定性が悪いと、流量信号の増幅の安定性も悪くなる。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、差動増幅回路による流量信号の増幅を安定して行うことができる電磁流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点に係る電磁流量計は、流体の流れ方向に直交する方向に沿って磁界をその向きが所定周期で反転するように発生させ、前記流れ方向と前記磁界の方向とに直交する方向に生じる起電力に基づいて前記流体の流量を計測する電磁流量計であって、前記流れ方向と前記磁界の方向との両者に直交する方向に沿って対向し、前記磁界と前記流体の流量とに応じて生じる起電力を表す交流電圧信号を第1流量信号として出力する1対の第1検出電極及び第2検出電極と、前記流体に接触しかつ接地されたコモン電位を有するコモン電極と、前記第1検出電極及び前記第2検出電極にそれぞれ接続され、前記第1流量信号を伝送する第1信号ライン及び第2信号ラインと、前記第1信号ラインに第1バイアス電圧VbAを印加し、前記第2信号ラインに前記第1バイアス電圧よりも小さい第2バイアス電圧VbBを印加することで、前記第1流量信号をバイアスする第1バイアス回路と、直流電源電圧Vanaにより動作し、前記第1バイアス回路によりバイアスされた前記第1流量信号である第2流量信号を増幅率G1で増幅して第3流量信号を得る差動増幅回路と、を備え、前記差動増幅回路は、前記コモン電位を基準電位とし、前記第2流量信号の直流成分である、前記第1バイアス電圧VbAから前記第2バイアス電圧VbBを減じた電圧Vdefと、前記第2流量信号の交流成分と、を前記増幅率G1で増幅して、前記第3流量信号を得て、前記電圧Vdefに前記増幅率G1を乗じた値が、0より大きくかつ前記直流電源電圧Vanaよりも小さい。
【0007】
前記差動増幅回路は、前記第3流量信号を出力端子から出力するオペアンプを備え、前記オペアンプの非反転入力端子が抵抗を介して前記コモン電位に接続されることで、前記差動増幅回路の前記基準電位が前記コモン電位に設定されている、ようにしてもよい。
【0008】
前記差動増幅回路は、前記第1信号ラインが接続された非反転入力端子を有する第1オペアンプと、前記第2信号ラインが接続された非反転入力端子を有する第2オペアンプと、を備え、前記第2流量信号を増幅する第1回路と、反転入力端子と、前記第1回路により増幅された前記第2流量信号が入力される非反転入力端子とを備え、前記コモン電位を基準電位とする前記第3流量信号を出力端子から出力する第3オペアンプと、を備え、前記第3オペアンプの前記非反転入力端子が抵抗を介して前記コモン電位に接続されることで、前記差動増幅回路の前記基準電位が前記コモン電位に設定されている、ようにしてもよい。
【0009】
前記差動増幅回路の後段に設けられ、前記差動増幅回路から出力された前記第3流量信号を増幅する後段増幅回路と、前記差動増幅回路と前記後段増幅回路との間に配置され、前記差動増幅回路から出力された前記第3流量信号の直流成分をカットするカップリングコンデンサと、をさらに備える、ようにしてもよい。
【0010】
前記カップリングコンデンサにより直流成分がカットされた前記第3流量信号を第3バイアス電圧VbCでバイアスする第2バイアス回路と、前記後段増幅回路は、前記第2バイアス回路によりバイアスされた前記第3流量信号を増幅率G2で増幅して第4流量信号として得て、前記第4流量信号が直接又は間接的に入力されるアナログ/デジタル変換回路をさらに備え、前記後段増幅回路は、前記コモン電位を基準電位とし、前記第2バイアス回路によりバイアスされた前記第3流量信号の直流成分である前記第3バイアス電圧VbCを前記増幅率G2で増幅し、前記第2バイアス回路によりバイアスされた前記第3流量信号の交流成分を前記増幅率G2で増幅して、前記第4流量信号を得て、前記第3バイアス電圧VbCに前記増幅率G2を乗じた値が、0より大きくかつ前記アナログ/デジタル変換回路に入力される電圧の上限値よりも小さい、ようにしてもよい。
【0011】
前記後段増幅回路は、前記第3流量信号が入力される非反転入力端子と前記第4流量信号を出力する出力端子とを備える第4オペアンプを備え、前記第4オペアンプの反転入力端子が抵抗を介して前記コモン電位に接続されることで、前記後段増幅回路の前記基準電位が前記コモン電位に設定されている、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、差動増幅回路による流量信号の増幅が安定して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電磁流量計の構成図である。
【
図2】
図2は、電磁流量計の信号処理回路の回路図である。
【
図3】
図3は、信号処理回路の動作波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る電磁流量計10は、非接液型の電磁流量計として構成され、計測管Pを流れる流体の流れ方向に直交する方向に沿って磁界をその向きが所定周期で反転するように発生させ、流体の流れ方向と磁界の方向とに直交する方向に生じる起電力に基づいて流体の流量を計測する。電磁流量計10は、信号処理回路20と、検出部30と、電源回路40と、励磁回路50と、制御回路60と、測定結果出力部70と、を備える。本実施の形態では、信号処理回路20に特徴があり、検出部30、電源回路40、励磁回路50、制御回路60、及び、測定結果出力部70の各構造は公知の構造が採用されている。以下、検出部30~測定結果出力部70を簡単に説明してから、信号処理回路20について説明する。
【0015】
検出部30は、一対の励磁コイル31A及び31Bと、一対の検出電極32A及び32Bと、コモン電極32Cと、を備える。検出部30は、計測管Pを含んで構成されてもよい。励磁コイル31A及び31Bは、計測管Pを挟んで配置され、励磁回路50により励磁され磁界を発生させる(詳細は後述)。検出電極32A及び32Bは、計測管Pを挟んで、励磁コイル31A及び31Bが発生させる磁界の方向と計測管P内を流れる流体が流れる方向との両者に直交する方向に沿って対向している。検出電極32A及び32Bは、励磁コイル31A及び31Bにより発生した磁界により発生する、計測管Pを流れる流体の流量(ここでは流速)に応じた起電力を表す電圧信号を流量信号として出力する。コモン電極32Cは、計測管Pを流れる流体と接触している。コモン電極32Cは、接地されており、0Vのコモン電位Acomを有する。
【0016】
電源回路40は、上位装置(図示せず)から供給される入力直流電力DCin(例えば24V)から複数の直流電力を生成し、生成した各直流電力を、信号処理回路20、励磁回路50、及び、制御回路60に供給する電源として機能している。電源回路40は、コモン電位Acom(0V)を基準電位とする電源電圧Vana(例えば、5V)を信号処理回路20に供給する。さらに、電源回路40は、励磁回路50及び制御回路60それぞれにも、コモン電位(0V)を基準電位とした電源電圧を供給する。
【0017】
励磁回路50は、電源回路40からの直流電力により動作する。励磁回路50は、制御回路60により制御され、検出部30の励磁コイル31A及び31Bに対して、所定周期で励磁極性が切り替えられる励磁電流を供給する。これにより、計測管Pには、所定周期で極性が反転する磁界が発生する。
【0018】
検出電極32Aと検出電極32Bとの間には、励磁回路50によって発生する磁界及び計測管Pを流れる流体の流量に応じて、前記の一定周期で正負が反転する交流の起電力が生じる。検出電極32A及び32Bは、この交流の起電力を表す交流電圧信号を流量信号として信号処理回路20に出力する。詳細は後述するが、信号処理回路20は、検出電極32A及び32Bからの交流電圧信号を増幅及びアナログ・デジタル変換し、計測管Pを流れる流体の流量に応じた数値のデジタルデータを制御回路60に出力する。
【0019】
制御回路60は、電磁流量計10全体を制御する。制御回路60は、特に、信号処理回路20及び励磁回路50の動作を制御する。上述のように、制御回路60には、信号処理回路20から出力された前記数値のデジタルデータに基づいて、計測管Pを流れる流体の流量を算出し、算出した流量を測定結果出力部70に出力する。制御回路60は、例えば、前記数値に計測管Pの断面積をかけて流量を算出する。
【0020】
測定結果出力部70は、制御回路60から供給された流量をアナログ信号(例えば、4~20mAの信号)に変換して電磁流量計10の外部に出力するアナログ出力回路71を備える。測定結果出力部70は、制御回路60に制御されて流量を表示するディスプレイ72も備える。
【0021】
図2に示すように、信号処理回路20は、カップリングコンデンサC1~C3と、第1バイアス回路21と、第1差動増幅回路22と、第2バイアス回路23と、非反転増幅回路24と、サンプルホールド回路25と、第2差動増幅回路26と、A/D(アナログ/デジタル)変換回路27と、を備える。なお、以下の説明では、適宜
図3に示す動作波形も適宜参照する。
図3に示す波形は、流量が一定のときの波形であり、後述の流量信号V1~V8などの波形を示す。
【0022】
信号処理回路20において、カップリングコンデンサC1及びC2の各一端は、検出電極32A及び32Bにそれぞれ接続されている。カップリングコンデンサC1及びC2の各他端は、信号ラインL1及びL2をそれぞれ介して第1差動増幅回路22に接続されている。検出電極32A及び32Bからの流量信号V1は、その直流成分がカップリングコンデンサC1及びC2によりカットされて、第1差動増幅回路22に供給される。
図3に示すように、ここでの流量信号V1は、励磁コイル31A及び31Bの励磁極性に応じて、-1.0mVと1.0mVとの値を交互にとる交流電圧信号であるものとする。なお、流量信号V1の振幅の中心電位(流量が0のときの電位)は、0mVとなっている。流量信号V1は、検出電極32A及び32Bにより検出された、上記磁界と流体の流量とに応じて生じた起電力を表す。
【0023】
第1バイアス回路21は、信号ラインL1及びL2に、バイアス電圧VbA及びVbBをそれぞれ印加し、信号ラインL1及びL2により伝送される流量信号V1をバイアスする。バイアス後の流量信号V1を、流量信号V2ともいう。第1バイアス回路21は、抵抗R1~R5から構成されている。
【0024】
抵抗R1~R3は、直列に接続されており、その両端には電源回路40からの電源電圧Vanaが印加される。抵抗R4及びR5は、バイアス電圧印加用の抵抗である。抵抗R4の一端は、抵抗R1と抵抗R2とを接続している節点N1に接続され、他端は、信号ラインL1に接続されている。抵抗R5の一端は、抵抗R2と抵抗R3とを接続している節点N2に接続され、他端は、信号ラインL2に接続されている。抵抗R4及びR5の各抵抗値は、流量信号の信号インピーダンスに対して小さいと流量信号が減衰してしまうため、十分に大きい抵抗値(例えば10MΩ以上)であることが望ましい。
【0025】
以上のような第1バイアス回路21の構成により、信号ラインL1には、電源電圧Vanaを抵抗R1~R3により分圧したバイアス電圧VbAが、抵抗R4を介して印加される。信号ラインL2には、電源電圧Vanaを抵抗R1~R3により分圧したバイアス電圧VbBが、抵抗R5を介して印加される。バイアス電圧VbAは、バイアス電圧VbBよりも大きい電圧値を有する(詳細は後述)。
図3に示すように、流量信号V2は、バイアス電圧VbA-バイアス電圧VbBで求まる電圧分、ここでは、250mVだけバイアスされる。流量信号V2は、250mVを振幅の中心電位として、流量信号V1と同じ振幅幅で振幅している。つまり、流量信号V2は、バイアス分の250mVの直流成分と、上記起電力を表す交流成分と、を含んでいる。
【0026】
第1差動増幅回路22は、第1バイアス回路21によるバイアス後の流量信号V2を増幅する。第1差動増幅回路22は、オペアンプU1~U3及び抵抗R6~R12を含んで構成されている。オペアンプU1~U3それぞれは、電源回路40からの電源電圧Vanaにより動作する。オペアンプU1及びU2と抵抗R6~8とは、流量信号V2を増幅するプリアンプ回路を構成する。増幅された流量信号V2を流量信号V3ともいう。オペアンプU3と抵抗R9~R12は、プリアンプ回路により増幅された後の流量信号V3の電位差を、コモン電位Acom(0V)を基準電位とした電位を示す流量信号V4に変換する。
【0027】
オペアンプU1の非反転入力端子(+)には、信号ラインL1が接続されている。オペアンプU1の反転入力端子(-)及び出力端子には、抵抗R7の一端及び他端がそれぞれ接続されている。オペアンプU2の非反転入力端子(+)には、信号ラインL2が接続されている。オペアンプU2の反転入力端子(-)及び出力端子には、抵抗R8の一端及び他端がそれぞれ接続されている。オペアンプU1及びU2の反転入力端子(-)同士は、抵抗R6を介して接続されている。
【0028】
オペアンプU1の出力端子は、抵抗R9を介して、オペアンプU3の非反転入力端子(+)に接続されている。抵抗R9とオペアンプU3の非反転入力端子(+)とが接続されている節点N3は、抵抗R11を介してコモン電位Acomに接続されている。これにより、第1差動増幅回路22の増幅の基準電圧がコモン電位Acomに設定されている。オペアンプU2の出力端子は、抵抗R10を介して、オペアンプU3の反転入力端子(-)に接続されている。オペアンプU3の反転入力端子(-)及び出力端子には、抵抗R12の一端及び他端がそれぞれ接続されている。
【0029】
以上のような構成の第1差動増幅回路22により、流量信号V2の直流成分は、基準電位をコモン電位Acomとして、流量信号V4の直流成分Vb4に増幅される。流量信号V2の交流成分も、基準電位をコモン電位Acomとして、第1差動増幅回路22により増幅され、増幅された交流成分は、流量信号V4の交流成分となる。このような流量信号V4は、直流成分Vb4の電圧値を振幅の中心電位として交流成分が振幅する交流信号となる。
【0030】
流量信号V4の直流成分Vb4(振幅の中心電位)は、例えば、下記の式(1)のように、電源電圧Vanaの1/2に設定される。下記のG1は、第1差動増幅回路22(ここでは、特に、プリアンプ回路)の増幅率である。
Vb4=(VbA-VbB)*G1=Vana/2・・・(1)
【0031】
ここで、Vana=5V、G1=10倍、抵抗R1=R3=9.5kΩ、抵抗R2=1kΩ、として、VbA=2.625V、VbB=2.375Vに設定すると、Vb4=(2.625-2.375)×10=2.5Vとなり、電源電圧Vanaの中間値が得られる。
【0032】
なお、VbA-VbB=電圧Vdefとすると、電圧Vdefに増幅率G1を乗じた値が、0より大きくかつ直流の電源電圧Vanaよりも小さければよい。これにより、電圧Vdefを増幅した値が大きくなって、第1差動増幅回路22で出力飽和が生じるといった不都合の発生を抑制できる。
【0033】
図3に示すように、流量信号V3及びV4は、直流成分Vb4の電圧値である2.5Vを振幅の中心電位として、±10mV振幅する交流信号となっている。流量信号V3等と、流量信号V2とを比較すると、第1差動増幅回路22(ここでは、特に、プリアンプ回路)により流量信号V2の直流成分の電位250mV及び交流成分の±1mVの振幅が増幅率10倍で増幅されている。従って、流量信号V3及びV4は、250mV×10=2.5Vを振幅の中心電位として、±1mV×10=±10mVだけ振幅している。
【0034】
オペアンプU3の出力端子と抵抗R12とが接続された接点N5には、カップリングコンデンサC3の一端が接続されている。カップリングコンデンサC3の他端は、信号ラインL3を介して非反転増幅回路24に接続されている。カップリングコンデンサC3は、第1差動増幅回路22から出力された流量信号V4の直流成分Vb4をカットする。
【0035】
第2バイアス回路23は、信号ラインL3に、バイアス電圧VbCを印加し、信号ラインL3により伝送される、カップリングコンデンサC3により直流成分Vb4がカットされた後の流量信号V4をバイアス電圧VbCでバイアスする。バイアス後の流量信号V4を、流量信号V5ともいう。第1バイアス回路21は、抵抗R13~R15から構成されている。カップリングコンデンサC3により直流成分Vb4がカットされているので、バイアス電圧VbCは、直流成分Vb4とは関係なく設定可能であり、直流成分Vb4よりも低くしてもよい。
【0036】
抵抗R13及びR14は、直列に接続されており、その両端には電源回路40からの電源電圧Vanaが印加される。抵抗R15は、バイアス電圧印加用の抵抗である。抵抗R15の一端は、抵抗R13と抵抗R14とを接続している節点N6に接続され、他端は、信号ラインL3に接続されている。抵抗R15の抵抗値は、カップリングコンデンサC3のインピーダンスに対して小さいと流量信号が減衰してしまうため、十分に大きい抵抗値(例えば1MΩ以上)であることが望ましい。
【0037】
以上のような第2バイアス回路23の構成により、信号ラインL3には、電源電圧Vanaを抵抗R13及びR14により分圧したバイアス電圧VbCが、抵抗R15を介して印加される。
【0038】
図3のように、流量信号V5は、直流成分がカットされた流量信号V4から500mV分バイアスされており、流量信号V5は、500mVを振幅の中心電位として、流量信号V4と同じ振幅幅(10mV)で振幅している。つまり、流量信号V5は、バイアス分の500mVの直流成分と、±10mVの振幅の交流成分と、を含んでいる。
【0039】
非反転増幅回路24は、第2バイアス回路23によるバイアス後の流量信号V5を増幅する。非反転増幅回路24により増幅され出力された流量信号V5を流量信号V6ともいう。非反転増幅回路24は、オペアンプU4と抵抗R16及びR17とを含んで構成されている。オペアンプU4は、電源回路40からの電源電圧Vanaにより動作する。
【0040】
オペアンプU4の非反転入力端子(+)には、信号ラインL3が接続されている。オペアンプU4の反転入力端子(-)及び出力端子には、抵抗R16の一端及び他端がそれぞれ接続されている。オペアンプU4の反転入力端子(-)は、抵抗R17を介して接地され、これにより、コモン電位Acomに接続されている。これにより、非反転増幅回路24の基準電位は、コモン電位Acomに設定されている。
【0041】
非反転増幅回路24は、コモン電位Acomを基準電位として、流量信号V5の直流成分つまりバイアス電圧VbCを増幅するとともに、流量信号V5の交流成分つまりカップリングコンデンサC3により直流成分Vb4がカットされた後の流量信号V4を増幅する。非反転増幅回路24から出力される流量信号V6は、バイアス電圧VbCを非反転増幅回路24で増幅した流量信号V6の直流成分Vb6の電圧値を振幅の中心電圧として交流成分が振幅する交流信号となる。
【0042】
バイアス電圧VbCは、例えば、下記の式(2)のように、流量信号V6の直流成分Vb6が、後段のA/D変換回路27の入力電圧範囲の上限値Vmaxの1/2となるように設定される。下記のG2は、非反転増幅回路24の増幅率である。
Vb6=VbC*G2=Vmax/2・・・(2)
【0043】
ここで、Vana=5V、Vmax=5V、G2=5倍、抵抗R13=9kΩ、抵抗R14=1kΩ、として、VbC=0.5Vに設定すると、Vb6=0.5×5=2.5Vとなり、Vmax=5Vの中間値が得られる。
【0044】
バイアス電圧VbCに増幅率G2を乗じた値は、0より大きくかつVmaxよりも小さければよい。これにより、バイアス電圧VbCを増幅した電圧値が大きくなって、A/D変換回路27でレンジオーバーが生じることが抑制される。なお、このような効果は、特に、第2差動増幅回路26が省略されたときに有効である。
【0045】
図3に示すように、流量信号V6は、直流成分Vb6の電圧値である2.5Vを振幅の中心電位として、±50mV振幅する交流信号となっている。流量信号V6と、流量信号V5とを比較すると、非反転増幅回路24により流量信号V5の直流成分の電位500mV及び交流成分の±10mVの振幅が増幅率5倍で増幅されている。従って、流量信号V6は、500mV×5=2.5Vを振幅の中心電位として、±10mV×5=±50mVだけ振幅している。
【0046】
オペアンプU4の出力端子は、サンプルホールド回路25の節点N7に接続されている。サンプルホールド回路25は、スイッチSW1及びSW2と、コンデンサC4及びC5とを備える。スイッチSW1及びSW2の各一端は、節点N7に接続されている。コンデンサC4は、一端がスイッチSW1に接続され、他端が、接地されコモン電位Acomに接続されている。コンデンサC5は、一端がスイッチSW2に接続され、他端が、接地されコモン電位Acomに接続されている。
【0047】
サンプルホールド回路25は、制御回路60により制御される。制御回路60は、励磁回路50とともにサンプルホールド回路25を制御する。制御回路60は、
図3に示すように励磁コイル31A及び31Bの励磁周期の正極性期間の後半(例えば1/8の期間)だけSW1をオンする制御信号SMP1をサンプルホールド回路25に供給する。制御回路60は、励磁コイル31A及び31Bの励磁周期の負極性期間の後半(例えば1/8の期間)だけSW2をオンする制御信号SMP2をサンプルホールド回路25に供給する。このオンにより、サンプルホールド回路25は、流量信号V6の振幅をコンデンサC4及びC5にて保持する。これにより、流量信号V6は交流信号から直流信号に変換され、サンプルホールド回路25から出力される。このサンプルホールド回路25から出力される直流信号を流量信号V7ともいう。
図3に示すように、流量信号V7は、流量信号V6の振幅×2の100mVの直流信号である。
【0048】
第2差動増幅回路26は、サンプルホールド回路25から出力される流量信号V7を、後段のA/D変換回路27で十分な分解能が得られるレベルまで、さらに差動増幅する。差動増幅された後の流量信号V7を流量信号V8ともいう。第2差動増幅回路26は、第1差動増幅回路22のプリアンプ回路と同様に、オペアンプU5及びU6と抵抗R20~R22とを備える。第2差動増幅回路26は、流量信号V8をA/D変換回路27に出力する。第2差動増幅回路26は、増幅率20倍で流量信号V7を増幅して流量信号V8(
図3参照)を得る。
【0049】
A/D変換回路27は、制御回路60により制御され、流量信号V8(直流信号)をアナログ・デジタル変換し、変換後のデジタルデータの数値を制御回路60に供給する。A/D変換回路27は、差動入力タイプであるので、第2差動増幅回路26からの出力はそのままA/D変換回路27に入力されることができる。これにより、第2差動増幅回路26は、基準電位に接続される必要がなく、特別な基準電圧電源なども不要である。
【0050】
本実施の形態では、第1差動増幅回路22が、接地されたコモン電位(0V)を基準電位とし、流量信号V2に含まれる、起電力つまり流量を表す交流成分と、バイアス電圧VbAとバイアス電圧VbBとの差である電圧Vdefつまり直流成分と、を増幅するので、基準電位が不安定となることはない(接地されているため)。従って、第1差動増幅回路22よる流量信号V2の増幅が安定して行われる。なお、接地されたコモン電位(0V)を基準電位としても、電圧Vdefが大きいと、電圧Vdefを増幅した値が大きなって、第1差動増幅回路22で出力飽和が生じ、流量信号V2の増幅が安定しない。そこで、この実施の形態では、電圧Vdefに増幅率G1を乗じた値が、0より大きくかつ直流の電源電圧Vanaよりも小さくなるように電磁流量計10が構成されている。これにより、前記の出力飽和を抑制でき、第1差動増幅回路22により流量信号V2の増幅が安定して行われる。
【0051】
この実施の形態では、信号処理回路20を動作させる電力が電源回路40という単一の電源から供給されるので、電磁流量計の製造コストを抑えることができる。
【0052】
また、この実施の形態では、第1差動増幅回路22と、非反転増幅回路24と、第2差動増幅回路26との3段で信号増幅を行い、それぞれの増幅率を低くすることにより(上記では、10倍、5倍、20倍とし、全体で1000倍)、各増幅回路での出力飽和およびA/D変換回路27でのレンジオーバーの発生を抑制している。
【0053】
さらに、この実施の形態では、第1差動増幅回路22と、非反転増幅回路24と、の間に、第1差動増幅回路22から出力された流量信号V4の直流成分をカットするカップリングコンデンサC3が設けられている。これにより、非反転増幅回路24以降で、流量信号の電圧が大きくなって、出力飽和が発生する可能性を軽減できる。また、第1差動増幅回路22から出力された流量信号V4に対して、第1バイアス回路21で印加されたバイアス電圧とは別のバイアス電圧VbCを加えることができる。上記のように、増幅回路を多段階として、増幅回路の間に、増幅された流量信号の直流成分をカットするカップリングコンデンサC3を設けることで、流量信号の電圧値(特に、直流分の電圧値つまり交流成分の振幅の中心電位)が必要以上に高くなることが抑制される。
【0054】
非反転増幅回路24でも、基準電位をコモン電位Vcomとしたので、当該基準電位が安定し、非反転増幅回路24での増幅も安定して行われる。
【0055】
A/D変換回路27に最終的に入力される流量信号は、サンプルホールド回路25のコンデンサC4及びC5によって直流化および平均化されている。このため、計測対象の流体に気泡又は異物などが混入したり、計測対象の流体が低導電率流体であったりして、瞬間的に異常な流量信号が発生したとしても、第2差動増幅回路26への差動入力信号の急激な変化は抑制される。これにより、第2差動増幅回路26が非反転増幅回路24より大きな増幅率を有しても、A/D変換回路27に入力電圧範囲外の電圧が入力されてしまうことが抑制される。
【0056】
A/D変換回路27が差動入力タイプであることにより、逆流方向の流量も計測可能である。A/D変換回路27の入力端子INPとINNに入力される電圧の大小関係は、通常方向の流れのときはINP>INNであるが、逆流のときINP<INNとなる。
【0057】
上記実施の形態について変形を施してもよい。たとえば、第1差動増幅回路22と、非反転増幅回路24と、第2差動増幅回路26との各増幅率の割り当ては任意である。非反転増幅回路24を増幅率1倍のバッファアンプとしてもよい。なお、「増幅」は、増幅率1倍を含んでもよい。つまり、増幅回路は、オペアンプ等を用いて信号を1倍よりも大きくする回路の他、適宜1倍する回路であってもよい。非反転増幅回路24の増幅率を大きくして第2差動増幅回路26を省略してもよい。
【0058】
非反転増幅回路24からの出力は、A/D変換回路27の入力端子INPに直接入力されてもよい。この場合、入力端子INNはコモン電位Acom(0V)に接続する。
【0059】
本発明は、検出電極が接液しない容量式電磁流量計に限らず、検出電極が計測対象の流体に接触する接液式電磁流量計などにも適用可能である。信号処理回路20などの回路構成は任意であり、上記構成には限定されない。
【0060】
(本発明の範囲)
以上、実施形態及び変形例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、本発明には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る、上記実施形態及び変形例に対する様々な変更が含まれる。上記実施形態及び変形例に挙げた各構成は、矛盾の無い範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0061】
10…電磁流量計、20…信号処理回路、21…第1バイアス回路、22…第1差動増幅回路、23…第2バイアス回路、24…非反転増幅回路、25…サンプルホールド回路26…第2差動増幅回路、27…A/D変換回路、30…検出部、31A,31B…励磁コイル、32A,32B…検出電極、32C…コモン電極、40…電源回路、50…励磁回路、60…制御回路、C1~C3…カップリングコンデンサ、L1~L3…信号ライン、P…計測管、R1~R22…抵抗、U1~U6…オペアンプ。