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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
C09D17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021045415
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144415
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】福井 健二
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112602(JP,A)
【文献】特開2004-331852(JP,A)
【文献】特開2013-204030(JP,A)
【文献】特開2009-172529(JP,A)
【文献】特開2005-179682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09C 1/
B01J 13/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散体であって、
ベース液体と、
金属酸化物粒子であって、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が10nm以下である小粒子と、
金属酸化物粒子であって、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が100nmより大きく、1μmより小さい大粒子と、
を含み、
前記小粒子の前記分散体中の濃度は、0.16wt%以下であり、
前記小粒子は、コロイド粒子である、
分散体。
【請求項2】
請求項1に記載の分散体であって、
前記大粒子の前記分散体中の濃度は、10wt%以下である、
分散体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の分散体であって、
前記小粒子は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が0.8nm以上4nm未満であり且つ累積体積が90%となる粒子径D90が前記粒子径D50の2.5倍以下である前記金属酸化物の結晶子および/またはその凝集体である、
分散体。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の分散体であって、
前記分散体中の前記大粒子のゼータ電位の絶対値が、35mV以上である、
分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体粒子が液体に分散された分散体が、種々の産業分野で用いられている。例えば、熱交換器に用いられる熱輸送流体の熱伝導率を向上させるために、ベース液体に固体粒子を分散させた分散体を、熱輸送流体として用いる技術が提案されている。また、顔料(微粒子)をバインダーに分散させた分散体が、塗料や印刷インク等として用いられている。
【0003】
固体粒子が液体に分散された分散体において、固体粒子の凝集を抑制し、分散性を良好にする技術が提案されている(例えば、特許文献1、および非特許文献1参照)。特許文献1には、ダイヤモンド構造を有する微粒子を水などの媒体に分散させた分散体において、分散剤としてビスフェノールスルホン酸ポリマーと、含窒素カチオンポリマーとを添加することにより、粒子の凝集を抑制する技術が開示されている。また、非特許文献1には、湿潤オリゴマーと高分子量ポリマーとを主成分とする液状の分散剤、沈降防止剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5691007号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】共栄社化学株式会社、「KYOEI 2017 No.143」、9-10頁、「無機粒子、シリカ用分散剤、沈降防止剤「フローレンDOPA-100」」、[online]、[2020年11月13日検索]、インターネット<URL:https://www.kyoeisha.co.jp/wpja/wp-content/uploads/2017/06/18f4991f62203ee64eee1fcafc585653.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体分子の分散性を向上させるために、上記特許文献1および非特許文献1に記載の技術を用いると、分散体の粘度が増大する。そのため、例えば、熱輸送流体として当該分散体を用いる場合には、分散体を流動させる際の圧損が増大するという課題がある。
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明は、液体に固体粒子が分散される分散体において、固体粒子の沈降を抑制する他の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、分散体が提供される。この分散体は、ベース液体と、金属酸化物粒子であって、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が10nm以下である小粒子と、金属酸化物粒子であって、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が100nmより大きく、1μmより小さい大粒子と、を含み、前記小粒子の前記分散体中の濃度は、0.16wt%以下である。
【0010】
この構成によれば、分散体中に、大きさが大きく異なる2種の金属酸化物粒子が含まれる。大きい金属酸化物粒子である大粒子の間に、小さい金属酸化物粒子である小粒子が適量存在すると、浸透圧により大粒子間にベース液体が流入し、大粒子の凝集を抑制し、大粒子の沈降を抑制することができる。
【0011】
(2)上記形態の分散体であって、前記小粒子は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が0.8nm以上4nm未満であり且つ累積体積が90%となる粒子径D90が前記粒子径D50の2.5倍以下である前記金属酸化物の結晶子および/またはその凝集体であってもよい。このような小粒子は、粒子径が均一なものとなるため、小粒子の分散状態が安定化される。そのため、大粒子の沈降をより抑制することができる。
【0012】
(3)上記形態の分散体であって、前記大粒子の前記分散体中の濃度は、10wt%以下であってもよい。このようにすると、分散体の粘度を抑制することができる。
【0013】
(4)上記形態の分散体であって、分散体中の前記大粒子のゼータ電位の絶対値が、35mV以上であってもよい。このようにすると、分散安定性を良好にすることができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、分散体を用いた熱輸送システム、その熱輸送システムを備えるシステムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】小粒子の粒度分布の一例を示す説明図である。
図2】本実施形態の分散体における大粒子の分散を概念的に示す説明図である。
図3】サンプル諸元を示す。
図4】小粒子による金属酸化物粒子の沈降抑制効果を示す図である。
図5】小粒子の濃度と沈降抑制効果との関係を示す図である。
図6】大粒子の種類および平均粒子径と小粒子による沈降抑制効果との関係を示す図である。
図7】大粒子の平均粒子径と小粒子による沈降抑制効果との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態の分散体は、ベース液体と、金属酸化物粒子であって、平均粒子径が10nm以下である小粒子と、金属酸化物粒子であって、平均粒子径が100nmより大きく、1μmより小さい大粒子と、を含む。
【0017】
(1)ベース液体
ベース液体は、特に限定されない。例えば、水、エチレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液等のアルコール水溶液、塗料、印刷インキ、記録媒体、および化粧品色材用のバインダー等を用いることができる。
【0018】
(2)小粒子
小粒子は、金属酸化物粒子であれば、金属の種類は特に限定されない。例えば、ジルコニア粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、マグネシア粒子、チタニア粒子等の種々の金属酸化物粒子を用いることができる。小粒子は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる平均粒子径D50が、10nm以下である。小粒子の粒度分布は、動的光散乱法により測定されたものである。
【0019】
小粒子は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50が0.8nm以上4nm未満であり且つ累積体積が90%となる粒子径D90が累積体積が50%となる粒子径D50の2.5倍以下である前記金属酸化物の結晶子および/またはその凝集体であることが好ましい。なお、体積基準の粒度分布と質量基準の粒度分布は、一致する。このような小粒子は、特許4784623号公報、特許6658564号公報、特開2011-143340号公報に記載された方法により製造可能であり、当該方法により製造された金属コロイド溶液に含まれる金属酸化物粒子である。このような小粒子は、粒子径が均一なものとなるため、小粒子の分散状態が安定化される。ベース液体に大粒子が添加された液体に、このような金属コロイド溶液を添加すると、大粒子の沈降を抑制することができ、金属コロイド溶液を、分散剤として利用することができる。以降の説明において、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50を、単に、「平均粒子径」とも呼ぶ。
【0020】
図1は、小粒子の粒度分布の一例を示す説明図である。図1では、後述する実施例のサンプル1に用いられる小粒子の粒度分布を示しており、小粒子は、ジルコニア粒子である。
【0021】
小粒子の分散体中の濃度は、特に限定されないが、0.16wt%以下であると、分散体の粘度を適正に保つと共に、大粒子の凝集を抑制することができるため、好ましい。
【0022】
(3)大粒子
大粒子は、金属酸化物粒子であれば、金属の種類は特に限定されない。例えば、ジルコニア粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、マグネシア粒子、チタニア粒子等の種々の金属酸化物粒子を用いることができる。大粒子の種類は、小粒子と同一であってもよいし、異なっていてもよい。大粒子は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる平均粒子径D50が、100nmより大きく、1μmより小さい。大粒子の粒度分布も、小粒子と同様に、動的光散乱法により測定する。分散体は、金属酸化物粒子を有するため、分散体が熱輸送流体として用いられた場合に、熱伝達促進効果を発現することができる。
【0023】
大粒子の分散体中の濃度は、特に限定されない。本願の発明者らによる先の出願である特開2018-95845号公報に記載されている通り、大粒子の分散体中の濃度が、10wt%以下であると、分散体の粘度を抑制することができるため、好ましい。例えば、分散体を、熱輸送流体として用いる場合には、分散体を流動させる際の圧損を抑制することができるため、好適である。
【0024】
分散体中の大粒子のゼータ電位の絶対値は、特に限定されないが、35mV以上であると、分散安定性を良好にすることができるため、好ましい。分散体中の大粒子のゼータ電位は、大粒子の種類、平均粒子径を調製することにより変更することができる。その他、ベース流体のpHにより調整することができる。
【0025】
上述の通り、大粒子と小粒子は、粒子径のオーダーに2桁の差異があるため、分散体中における、大粒子および小粒子それぞれの平均粒子径は、動的光散乱法を利用した粒度分布測定により、求めることができる。また、当該粒度分布測定における粒子の体積と平均粒子径D50の関係により、大粒子と小粒子それぞれの濃度を推定することができる。
【0026】
分散体中における大粒子および小粒子は、特開2011一143340号公報に記載されている方法により特定することができる。すなわち、分散体の一部を乾燥させ、粉末状の試料を作製し、試料について高分解能透過型電子顕微鏡(高分解能TEM)の電子線回折測定を行い、得られた電子線回折パターンから金属酸化物の構造、組成を特定することができる。
【0027】
図2は、本実施形態の分散体における大粒子の分散を概念的に示す説明図である。本実施形態の分散体は、ベース液体と小粒子10と大粒子20と、を有する。小粒子10は、平均粒子径が10nm以下の金属酸化物粒子であり、大粒子20は、平均粒子径が、100nmより大きく、1μmより小さい。このように大きさが大きく異なる2種類の金属酸化物粒子を有する分散体では、図示するように、大粒子20の間に適量の小粒子10が存在することで、浸透圧により大粒子20の間に適量の小粒子10が存在することで、浸透圧により大粒子20間にベース液体が流入し、大粒子20間に斥力が働く、という浸透圧効果が生じる。これにより、大粒子20の凝集を抑制し、沈降を抑制することができる。なお、本実施形態の分散体は、日数を経て、大粒子20が沈降したとしても、撹拌することにより、容易に大粒子20および小粒子10を分散させることができる。
【0028】
本実施形態の分散体によれば、小粒子を有することにより、大粒子の凝集を抑制することができる。そのため、界面活性剤や高分子などの分散剤を添加し、固液界面の濡れ性を改善したり立体障害効果を発現させることにより大粒子の凝集を抑制する場合と比較して、液体の粘度の増加を抑制することができる。その結果、例えば、分散体を熱輸送流体として用いる場合等、流動させて使う際には、圧損(ポンプ動力)が増大を抑制することができる。分散体が、界面活性剤や高分子などの分散剤を有する場合にも、界面活性剤や高分子などの分散剤のみにより大粒子の凝集を抑制する場合と比較すると、界面活性剤や高分子などの分散剤の量を低減することができるため、分散体の粘度の増加を抑制することができる。
【0029】
本実施形態の分散体は、例えば、電気自動車の電池冷却回路に用いられる熱輸送流体として用いることができる。この時、分散した大粒子による熱伝達促進効果を得ることができる。また、大粒子が多孔質粒子であって、細孔の内部にイオンを捕獲可能な粒子である場合は、絶縁効果を得ることができる。本実施形態の分散体は、電気自動車以外の自動車、その他の移動体、空調設備等、燃料電池、インバータ、モータジェネレータ等、種々の物体で用いられる熱輸送流体として用いることができる。分散体は、その他、塗料や印刷インク等として用いられてもよい。
【実施例
【0030】
実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
図3は、サンプル諸元を示す。図3に示すサンプル1~16を用いて、大粒子と小粒子とが分散された分散体における凝集および沈降の抑制効果を確認した。サンプル1~6が実施例であり、サンプル7~16が比較例である。
【0031】
<サンプルの調製>
1.サンプル1
ベース液体としてエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第1分散液を調製した。第1分散液に、小粒子としてのジルコニア(ZrO2)を添加した。実施例において、小粒子としてのジルコニア(ZrO2)を、金属コロイド溶液(後述する)として添加した。上述の通り、小粒子を添加することにより、大粒子の分散性が向上されるため、当該金属コロイド溶液を、分散剤として用いることができる。そこで、以降の説明および図において、金属コロイド溶液を分散剤として記載している。サンプル1では、第1分散液に、分散剤濃度が4.0wt%になるように金属コロイド溶液を添加して、サンプル1の分散体を調製した。サンプル1に含まれる大粒子は、平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。なお、後述するように、当該金属コロイド溶液は、一般に、分散剤として用いられているACA(6-アミノカプロン酸)と、中和剤として用いられているMEA(モノエタノールアミン)を含む。そのため、図2では、分散剤の濃度として、金属コロイド溶液の濃度と共に、カッコ書きで、ACA濃度/MEA濃度を記載している。サンプル1におけるACA濃度は0.03wt%、MEA濃度は0.1wt%である。
【0032】
1-1.金属コロイド溶液
特許第4784623号公報に記載された方法により、金属コロイド溶液を調製した。本実施例において、A液として、エチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液100mLに、硝酸ジルコニル(ZrO(NO3) 2・2H2O)を26.73g、ACA(6-アミノカプロン酸) 1.68gを添加したものを用いた。B液として、エチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液100mLに、MEA(モノエタノールアミン) 6.11gを添加したものを用いた。市販のホモジナイザを用いて、A液とB液とを互い違いに吐出し、撹拌することにより、小粒子としてのジルコニアの濃度が、ZrO2 0.357 mol/Lの金属コロイド溶液を得た。金属コロイド溶液中の小粒子の平均粒子径を、Malvern社製「ゼータサイザーナノZSP」を用いて室温(25℃)において測定した。また、粒度分布における累積質量が50%となる粒子径D50が1nmであり且つ累積質量が90%となる粒子径D90が前記粒子径D50の2倍であった。
【0033】
2.サンプル2
サンプル1と同じ第1分散液に、分散剤として、サンプル1と同じコロイド溶液を、分散剤濃度が1.0wt%になるように添加して、サンプル2の分散体を調製した。サンプル2に含まれる大粒子は、平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.04wt%である。
【0034】
3.サンプル3
サンプル1と同じ第1分散液に、分散剤として、サンプル1と同じコロイド溶液を、分散剤濃度が3.0wt%になるように添加して、サンプル3の分散体を調製した。サンプル3に含まれる大粒子は、平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.12wt%である。
【0035】
4.サンプル4
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径300nmのシリカ(SiO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第2分散液を調製した。第2分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル4の分散体を調製した。サンプル4に含まれる大粒子は、平均粒子径300nmのシリカ(SiO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル4は、サンプル1と大粒子の種類が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0036】
5.サンプル5
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径200nmのシリカ(SiO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第3分散液を調製した。第3分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル5の分散体を調製した。サンプル5に含まれる大粒子は、平均粒子径200nmのシリカ(SiO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル5は、サンプル4と大粒子の平均粒子径が異なるものの、他はサンプル4と同様である。
【0037】
6.サンプル6
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径500nmのシリカ(SiO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第4分散液を調製した。第4分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル6の分散体を調製した。サンプル6に含まれる大粒子は、平均粒子径500nmのシリカ(SiO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル6は、サンプル4、5と大粒子の平均粒子径が異なるものの、他はサンプル4、5と同様である。
【0038】
7.サンプル7
サンプル1に用いられた第1分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が5.0wt%になるように添加して、サンプル7の分散体を調製した。サンプル7に含まれる大粒子は、平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.20wt%である。すなわち、サンプル7は、サンプル1と小粒子の濃度と分散剤の濃度が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0039】
8.サンプル8
サンプル1に用いられた第1分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が7.0wt%になるように添加して、サンプル8の分散体を調製した。サンプル8に含まれる大粒子は、平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.28wt%である。すなわち、サンプル8は、サンプル1と小粒子の濃度と分散剤の濃度が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0040】
9.サンプル9
サンプル1に用いられた第1分散液に、分散剤として、界面活性剤を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル9の分散体を調製した。界面活性剤としては、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 レオコン1020Hを用いた。サンプル9に含まれる大粒子は、サンプル1と同じ平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は含まれていない。
【0041】
10.サンプル10
サンプル1に用いられた第1分散液に、分散剤として、ポリエチレングリコールを、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル10の分散体を調製した。サンプル10に含まれる大粒子は、サンプル1と同じ平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は含まれていない。
【0042】
11.サンプル11
サンプル1に用いられた第1分散液に、分散剤として、ACA/MEAを添加して、サンプル11の分散体を調製した。ACAの濃度は0.03wt%、MEAの濃度は0.1wt%である。分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル10の分散体を調製した。サンプル11に含まれる大粒子は、サンプル1と同じ平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は含まれていない。ACA/MEAの濃度は、サンプル1に含まれるACA/MEAの濃度と同じである。
【0043】
12.サンプル12
サンプル1に用いられた第1分散液を、大粒子の濃度が7.0wt%になるようにベース液体で希釈して、サンプル12として用いた。すなわち、サンプル12は、分散剤を含まない。サンプル12に含まれる大粒子は、サンプル1と同じ平均粒子径300nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は含まれていない。
【0044】
13.サンプル13
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径4000nmのアルミナ(Al23)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第5分散液を調製した。第5分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル13の分散体を調製した。サンプル13に含まれる大粒子は、平均粒子径4000nmのアルミナ(Al23)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル13は、サンプル1と大粒子の種類および平均粒子径が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0045】
14.サンプル14
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径6000nmの二酸化チタン(TiO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第6分散液を調製した。第6分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル14の分散体を調製した。サンプル14に含まれる大粒子は、平均粒子径6000nmの二酸化チタン(TiO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル14は、サンプル1と大粒子の種類および平均粒子径が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0046】
15.サンプル15
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径100nmのシリカ(SiO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第7分散液を調製した。第7分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル15の分散体を調製した。サンプル15に含まれる大粒子は、平均粒子径100nmのシリカ(SiO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル15は、サンプル1と大粒子の種類および平均粒子径が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0047】
16.サンプル16
ベース液体として、サンプル1と同様にエチレングリコール濃度50wt%のエチレングリコール水溶液を用い、これに、大粒子として、平均粒子径1000nmのシリカ(SiO2)を、粒子濃度が10wt%になるように添加した第8分散液を調製した。第8分散液に、分散剤として、サンプル1に用いたのと同じ金属コロイド溶液を、分散剤濃度が4.0wt%になるように添加して、サンプル16の分散体を調製した。サンプル16に含まれる大粒子は、平均粒子径1000nmのシリカ(SiO2)であり、その濃度は7.0wt%、小粒子は、平均粒子径1nmのジルコニア(ZrO2)であり、その濃度は0.16wt%である。すなわち、サンプル15は、サンプル1と大粒子の種類および平均粒子径が異なるものの、他はサンプル1と同様である。
【0048】
サンプル1~16を用いて、沈降までに要した時間(日数)、粘性比(分散剤を含まない構成に対する各サンプルの粘度)、大粒子のゼータ電位を測定した。各測定方法を以下に示す。
【0049】
<沈降までに要した時間>
サンプルを調製後、静置し、目視により相分離の有無を確認した。液高さの50%以上の透明上澄み部が出現している場合、沈降していると判断した。
【0050】
<粘性比>
JIS Z 8803:2011 共軸二重円筒形回転粘度計による粘度測定方法に従い、TA Instruments 動的粘弾性測定装置ARES-G2 を用いて、25℃にて測定した。
【0051】
<大粒子のゼータ電位>
JIS Z 8836:2017 電気泳動光散乱(ELS)法に従い、Malvern Panalytical Zetasizer Nano ZSP を用いて、25℃にて測定した。
【0052】
図4は、小粒子による金属酸化物粒子の沈降抑制効果を示す図である。図示するように、サンプル1と、サンプル9~12は、大粒子の種類、平均粒子径、および濃度は同じである。サンプル12は、分散剤が添加されておらず、沈降までに要した時間は、5.0日である。これに対し、サンプル11は、サンプル1の分散剤として用いられた金属コロイド溶液に含まれるACA/MEAを、サンプル1と同量(wt%)含む。沈降までに要した時間は、サンプル11では、5.0日であり、分散剤が添加されてないサンプル12と同じである。すなわち、サンプル11における分散剤の種類および量(wt%)では、沈降抑制効果が発現されない。
【0053】
これに対し、サンプル9、10では、分散剤の量を4.0wt%に増やし、分散剤の種類を変更した結果、沈降までに要した時間が、サンプル9では7.5日、サンプル10では、6.0日であり、沈降抑制効果が見られる。しかしながら、サンプル10は、粘性比が1.1であり、圧損が大きくなる。
【0054】
サンプル1は、分散剤として上述の小粒子(平均粒子径が1nmのジルコニア粒子)を含む金属コロイド溶液を、サンプル9、10と同量の4.0wt%含む。サンプル1は、沈降までに要した時間が12日であり、サンプル9、10よりさらに沈降抑制効果が得られた。また、粘性比も1.0で、分散剤を添加していないサンプル12と同等の粘度であり、粘度の増加を抑制することができた。また、サンプル1は、サンプル11に対して、小粒子を添加したのと同等の分散体であり、小粒子の添加により沈降抑制効果が得られたと言える。以上のことから、分散体において、大粒子と小粒子とを含むことにより、粒子の沈降が抑制されるといえる。
【0055】
図5は、小粒子の濃度と沈降抑制効果との関係を示す図である。図5に示すサンプルは、全て、大粒子として、平均粒子径300nmのジルコニア粒子を有し、小粒子として平均粒子径1nmのジルコニア粒子を有する。小粒子は、上述の通り、分散剤としての金属コロイド溶液に含まれている。図5に示すサンプルスは、表の下の行にいくほど、小粒子の濃度(wt%)が高くなる。サンプル1~3は、小粒子を含まないサンプル9~12(図4)と比較して、沈降までに要した時間が長くなっており、沈降抑制効果が得られた。一方、サンプル7、8は、共に、沈降までに要した時間が0.2日であり、小粒子を含まないサンプル9~12(図4)と比較しても、沈降までに要した時間が短くなっており、沈降抑制効果が見られなかった。サンプル7、8は、粘性比が、それぞれ、1.9と2.1であり、粘度も高い。サンプル7、8では、小粒子の濃度が大きいことにより、流動性が悪くなり、凝集および沈降が生じやすくなったと考えられる。図5に示した結果より、小粒子の濃度が0.16wt%以下であると、好適に酸化金属粒子の沈降を抑制することができる。
【0056】
図6は、大粒子の種類および平均粒子径と小粒子による沈降抑制効果との関係を示す図である。図6に示すサンプルは、全て、小粒子として平均粒子径1nmのジルコニア粒子を有し、その濃度は0.16wt%である。小粒子は、上述の通り、分散剤としての金属コロイド溶液に含まれている。図示するサンプルは、大粒子の種類および平均粒子径が、互いに異なる。図6では、大粒子のゼータ電位、沈降までに要した時間、粘性比に加え、小粒子による沈降抑制効果を示すために、各サンプルにおいて分散剤を含まない場合(ベース液体と大粒子のみの分散体)の沈降までに要する時間を示している。
【0057】
図示するように、サンプル1とサンプル4について、分散剤がない場合は沈降までに要した時間が5.0日であるのに対し、小粒子を有するサンプル1とサンプル4は、沈降までに要した時間が12日であり、小粒子による沈降抑制効果が得られたといえる。一方、サンプル13とサンプル14については、分散剤がない場合に沈降までに要した時間が0.2日であるのに対し、小粒子を有するサンプル13とサンプル14も沈降までに要した時間が0.2日であり、小粒子が添加されても沈降までに要した時間に変化がない。すなわち、サンプル13とサンプル14では、小粒子による沈降抑制効果が得られなかった。サンプル1とサンプルは、大粒子の種類が異なるものの、平均粒子径が300nmであり、サンプル13とサンプル14は、大粒子の平均粒子径が、それぞれ、4000nm、6000nmであり、サンプル1、4と比較して、非常に大きい。この結果から、大粒子の種類によらず、大粒子の平均粒子径がμmオーダーの場合には、小粒子の添加による凝集抑制効果をえることができないと考えられる。
【0058】
図7は、大粒子の平均粒子径と小粒子による沈降抑制効果との関係を示す図である。図7に示すサンプルは、全て、図6に示すサンプルと同様に、小粒子として平均粒子径1nmのジルコニア粒子を有し、その濃度は0.16wt%である。小粒子は、上述の通り、分散剤としての金属コロイド溶液に含まれている。また、図示するサンプルは、全て、大粒子として、シリカ(SiO2)を含むものの、その平均粒子径が、互いに異なる。図7では、図6と同様に、大粒子のゼータ電位、沈降までに要した時間、粘性比に加え、小粒子による沈降抑制効果を示すために、各サンプルにおいて分散剤を含まない場合(ベース液体と大粒子のみの分散体)の沈降までに要する時間を示している。
【0059】
図示するように、サンプル15は、小粒子の有無に関わらず、12日以上沈降しなかった。サンプル16については、分散剤がない場合は沈降までに要した時間が2.0日であるのに対し、小粒子を有するサンプル16も、沈降までに要した時間が2.0日であり、小粒子が添加されても沈降までに要した時間に変化がない。すなわち、サンプル16では、小粒子による沈降抑制効果が得られなかった。サンプル5について、分散剤がない場合は沈降までに要した時間が6.0日であるのに対し、小粒子を有するサンプル5は、沈降までに要した時間が12日である。サンプル4について、分散剤がない場合は沈降までに要した時間が5.0日であるのに対し、小粒子を有するサンプル4は、沈降までに要した時間が12日である。サンプル6について、分散剤がない場合は沈降までに要した時間が3.0日であるのに対し、小粒子を有するサンプル6は、沈降までに要した時間が6.0日である。このように、サンプル4~6については、小粒子による沈降抑制効果が得られたといえる。図7に示したサンプルは、大粒子の種類は同一で、平均粒子径が互いに異なる。図6および図7に示した結果から、大粒子の種類によらず、平均粒子径が100nmより大きく、1000nm(1μm)より小さい場合に、小粒子による沈降抑制効果を得ることができると考えられる。図6および図7に示すように、サンプル1、4~6は、大粒子のゼータ電位の絶対値が、35mV以上であり、分散性が高いといえる。
【0060】
また、図4~7に示すように、サンプル1~6は、粘性比が1.0であり、粘度の上昇、流動性の低下を抑制することができた。すなわち、分散剤として小粒子を含む金属コロイド溶液を用いることにより、界面活性剤や高分子系分散剤の使用料を低減することができる。これにより、分散体の粘度を抑制することができる。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、金属酸化物粒子を有する分散体において、金属酸化物粒子の沈降を抑制することができる。
【0062】
以上、実施形態、実施例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…小粒子
20…大粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7