(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】硫化検出センサおよび硫化検出センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20241126BHJP
H01C 7/00 20060101ALI20241126BHJP
H01C 13/00 20060101ALI20241126BHJP
H01C 17/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01N27/04 F
H01C7/00 600
H01C13/00 N
H01C17/00 100
(21)【出願番号】P 2021057233
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 太郎
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-012068(JP,A)
【文献】特開2020-118568(JP,A)
【文献】特開2021-012067(JP,A)
【文献】特開平11-204301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011161(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 33/00-33/46
G01N 17/00-19/10
H01C 7/00
H01C 13/00
H01C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における長手方向両端部に形成された一対の表電極と、一対の前記表電極の間に形成され、硫化ガスで硫化される金属を含有する材料からなる硫化検出導体と、前記硫化検出導体
に接続すると共に一対の前記表電極に接続
する抵抗体と、前記硫化検出導体の
露出部を除く表面と前記抵抗体の
表面全体を覆
う硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜と、を備え、
前記抵抗体と前記硫化検出導体は、前記硫化検出導体を通る電流が最短経路となるように接続されており、前記硫化検出導体は、前記絶縁性保護膜から
前記絶縁基板の短手方向に沿って外部に露出する
前記露出部を有していることを特徴とする硫化検出センサ。
【請求項2】
前記抵抗体は、チャンネル形状の蛇行部を有する帯状パターンとして形成されており、前記硫化検出導体は、前記蛇行部で囲まれた領域内に形成されて前記抵抗体と接続していることを特徴とする請求項1に記載の硫化検出センサ。
【請求項3】
前記硫化検出導体は、前記絶縁基板の短手方向に延びる連結導体部と、前記絶縁基板の長手方向に延びて前記連結導体部に交差すると共に、両端部が前記蛇行部に接続する複数本の接続導体部とを有し、前記連結導体部の一端側が前記露出部となっていることを特徴とする請求項2に記載の硫化検出センサ。
【請求項4】
前記抵抗体は、前記蛇行部から離れた位置に調整部を有しており、前記調整部に抵抗値調整用のトリミング溝が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の硫化検出センサ。
【請求項5】
前記抵抗体は、いずれか一方の前記表電極に接続する第1抵抗体と、いずれか他方の前記表電極に接続する第2抵抗体とからなり、前記硫化検出導体は前記第1抵抗体と前記第2抵抗体との間に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の硫化検出センサ。
【請求項6】
前記第1抵抗体と前記第2抵抗体は、前記硫化検出導体の中央部を前記絶縁基板の短手方向に沿って通る直線に関して線対称なL字状パターンとして形成されていることを特徴とする請求項5に記載の硫化検出センサ。
【請求項7】
絶縁材料からなる大判基板の主面に所定間隔を存して一対の表電極を形成する工程と、
前記大判基板の主面と反対面に所定間隔を存して一対の裏電極を形成する工程と、
一対の前記表電極の間に、硫化ガスで硫化される金属を含有する材料からなる硫化検出導体と、該硫化検出導体
に接続すると共に一対の前記表電極に接続する抵抗体とを形成する工程と、
前記硫化検出導体の
露出部を除く表面と前記抵抗体の
表面全体を覆うように硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜を形成する工程と
前記絶縁性保護膜から露出する前記硫化検出導体の
前記露出部を覆うマスキング樹脂層を形成する工程と、
前記マスキング樹脂層の形成後に前記大判基板を短冊状基板に1次分割する工程と、
前記短冊状基板の両分割面に前記表電極と前記裏電極間を導通する一対の端面電極を形成する工程と、
前記端面電極の形成後に前記短冊状基板を複数のチップ基板に2次分割する工程と、
前記チップ基板に電解めっきを施して前記端面電極を覆う一対の外部電極を形成する工程と、
前記外部電極の形成後に前記マスキング樹脂層を除去して前記露出部を外部に露出させる工程と、
を含み、
前記絶縁性保護膜の外縁部に平面視凹状の切欠部が形成されており、前記切欠部の内部に前記硫化検出導体の前記露出部が配置されていることを特徴とする硫化検出センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食環境の累積的な硫化量を検出するための硫化検出センサと、そのような硫化検出センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にチップ抵抗器等の電子部品の内部電極としては、比抵抗の低いAg(銀)系の電極材料が使用されているが、銀は硫化ガスに曝されると硫化銀となり、硫化銀は導電率が低くなる(比抵抗を高める)ことから、電子部品が断線してしまうという不具合が発生してしまう。そこで近年では、AgにPd(パラジウム)やAu(金)を添加して硫化しにくい電極を形成したり、電極を硫化ガスが到達しにくい構造にする等の硫化対策が講じられている。
【0003】
しかし、このような硫化対策を電子部品に講じたとしても、当該電子部品が硫化ガス中に長期間曝された場合や高濃度の硫化ガスに曝された場合は、断線を完全に防ぐことが難しくなるため、未然に断線を検知して予期せぬタイミングでの故障発生を防止することが必要となる。そこで従来より、特許文献1に記載されているように、電子部品の累積的な硫化の度合いを検出して、電子部品が硫化断線する等して故障する前に危険性を検出可能とした硫化検出センサが提案されている。
【0004】
上記特許文献1には、絶縁基板の主面における両端部に一対の電極を形成し、これら電極間にAgを主体とした硫化検出導体と抵抗体とを直列に接続した状態で形成すると共に、抵抗体を覆う絶縁性保護膜から硫化検出導体を露出させた構成の硫化検出センサが開示されている。
【0005】
このように構成された硫化検出センサを他の電子部品と共に回路基板上に実装した後、該回路基板を硫化ガスを含む雰囲気で使用すると、硫化ガスの濃度と経過時間に応じて硫化検出導体を構成するAgが硫化銀に変化して導電率が低くなり、それに伴って一対の電極間の抵抗値が次第に上昇していき、最終的には電子部品(硫化検出センサ)の断線に至る。したがって、硫化検出導体の抵抗値変化や導通状態を検出することにより、硫化の度合いを検出することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の硫化検出センサにおいて、硫化検出導体の材料としてはAg(銀)やCu(銅)等の金属が用いられ、電極の材料にもAgやCu等の金属が用いられているが、金属のTCR(抵抗温度係数)は非常に高いため、硫化検出導体の抵抗値が製品全体の抵抗値に占める割合がある程度大きくなると、硫化検出時の抵抗値が周囲温度によって振られてしまい、正確な検出が困難になるという課題がある。
【0008】
上記特許文献1に記載の硫化検出センサでは、一対の電極間に硫化検出導体と抵抗体が直列に接続されているため、抵抗体の抵抗値を例えば1KΩに設定すると、抵抗体の抵抗値が製品全体の抵抗値に占める割合が大きくなり、逆に硫化検出導体の抵抗値が製品全体の抵抗値に占める割合が小さくなってTCRを改善することができる。しかし、硫化検出導体の抵抗値が製品全体の抵抗値に占める割合を小さくした場合、硫化検出導体の硫化が進んでも製品全体の抵抗値はほとんど変化せず、硫化検出導体がほぼ導通しなくなった時点(以降、本願では硫化検出導体の導電率が硫化により低くなったことと、電子部品が硫化により断線することも併せて断線という)での硫化判定となるため、電子部品の断線の予兆を検出することはできなくなる。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、第1の目的は、硫化の度合いを正確に検出することができる硫化検出センサを提供することにあり、第2の目的は、そのような硫化検出センサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成するために、本発明の硫化検出センサは、直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における長手方向両端部に形成された一対の表電極と、一対の前記表電極の間に形成され、硫化ガスで硫化される金属を含有する材料からなる硫化検出導体と、前記硫化検出導体に接続すると共に一対の前記表電極に接続する抵抗体と、前記硫化検出導体の露出部を除く表面と前記抵抗体の表面全体を覆う硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜と、を備え、前記抵抗体と前記硫化検出導体は、前記硫化検出導体を通る電流が最短経路となるように接続されており、前記硫化検出導体は、前記絶縁性保護膜から前記絶縁基板の短手方向に沿って外部に露出する前記露出部を有していることを特徴としている。
【0011】
このように構成された硫化検出センサでは、一対の表電極の間に直列に接続された抵抗体と硫化検出導体のうち、硫化検出導体が硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜から外部に露出する露出部を有しているため、硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、硫化検出導体の露出部から硫化が開始し、絶縁性保護膜で覆われた部分の硫化検出導体へと硫化が進んでいく。硫化検出導体を構成する銀や銅等の金属は硫化によって硫化銀や硫化銅に変化し、これら硫化物の抵抗値は数MΩ以上に上昇するため、硫化の進行に伴って一対の表電極間を流れる電流経路が変化していき、それに伴って製品全体の抵抗値が次第に上昇していく。これにより、硫化検出導体の抵抗値が製品全体の抵抗値に占める割合を小さくした場合でも、硫化の進行に伴う抵抗値の連続的変化に基づいて断線の予兆を正確に検出することができる。
【0012】
上記構成の硫化検出センサにおいて、抵抗体がチャンネル形状(コの字形状)の蛇行部を有する帯状パターンとして形成されており、この蛇行部で囲まれた領域内に硫化検出導体を形成して抵抗体に接続させると、硫化の進行に伴って電流経路が大きく変化するため、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0013】
この場合において、硫化検出導体が、絶縁基板の短手方向に延びる連結導体部と、絶縁基板の長手方向に延びて連結導体部に交差すると共に、両端部が抵抗体の蛇行部に接続する複数本の接続導体部とを有しており、連結導体部の一端側が露出部となっている構成であると、硫化の進行に伴って露出部に近い側の接続導体部から順に断線して(電流が流れにくくなって)いくため、硫化の度合いを段階的に検出することができる。
【0014】
また、上記構成の硫化検出センサにおいて、抵抗体が蛇行部から離れた位置に調整部を有しており、この調整部に抵抗値調整用のトリミング溝が形成されていると、製品全体の初期抵抗値を高精度に設定することができる。
【0015】
また、上記構成の硫化検出センサにおいて、抵抗体が、いずれか一方の表電極に接続する第1抵抗体と、いずれか他方の表電極に接続する第2抵抗体とからなり、これら第1抵抗体と第2抵抗体との間に硫化検出導体が形成されていると、第1抵抗体と第2抵抗体との間に存する電流通路が硫化の進行に伴って次第に狭められていくことにより、硫化の進行度合いを検出でき、電子部品の断線の予兆を正確に検出することができる。
【0016】
この場合において、第1抵抗体と第2抵抗体が、硫化検出導体の中央部を絶縁基板の短手方向に通る直線に関して線対称なL字状パターンとして形成されていると、硫化の進行に伴って電流経路が大きく変化するため、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0017】
また、上記第2の目的を達成するために、本発明による硫化検出センサの製造方法は、絶縁材料からなる大判基板の主面に所定間隔を存して一対の表電極を形成する工程と、前記大判基板の主面と反対面に所定間隔を存して一対の裏電極を形成する工程と、一対の前記表電極の間に、硫化ガスで硫化される金属を含有する材料からなる硫化検出導体と、該硫化検出導体に接続すると共に一対の前記表電極に接続する抵抗体とを形成する工程と、前記硫化検出導体の露出部を除く表面と前記抵抗体の表面全体を覆うように硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜を形成する工程と、前記絶縁性保護膜から露出する前記硫化検出導体の前記露出部を覆うマスキング樹脂層を形成する工程と、前記マスキング樹脂層の形成後に前記大判基板を短冊状基板に1次分割する工程と、前記短冊状基板の両分割面に前記表電極と前記裏電極間を導通する一対の端面電極を形成する工程と、前記端面電極の形成後に前記短冊状基板を複数のチップ基板に2次分割する工程と、前記チップ基板に電解めっきを施して前記端面電極を覆う一対の外部電極を形成する工程と、前記外部電極の形成後に前記マスキング樹脂層を除去して前記露出部を外部に露出させる工程と、を含み、前記絶縁性保護膜の外縁部に平面視凹状の切欠部が形成されており、前記切欠部の内部に前記硫化検出導体の前記露出部が配置されていることを特徴としている。
【0018】
このように絶縁性保護膜に形成した切欠部の内部に硫化検出導体の露出部を配置し、この露出部をマスキング樹脂層で覆った状態で電解めっき処理を施すようにすると、電解めっき処理中に製品同士の接触によってマスキング樹脂層が剥離してしまうことが低減され、外部電極の形成後にマスキング樹脂層を除去することにより、断線の予兆を正確に検出可能な硫化検出センサを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硫化の度合いを正確に検出可能な硫化検出センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る硫化検出センサの平面図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】該硫化検出センサの硫化に伴う電流経路を示す説明図である。
【
図5】該硫化検出センサにおける経過時間と抵抗値の関係を示す説明図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る硫化検出センサの平面図である。
【
図7】該硫化検出センサの硫化に伴う電流経路を示す説明図である。
【
図8】該硫化検出センサにおける経過時間と抵抗値の関係を示す説明図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る硫化検出センサの平面図である。
【
図10】該硫化検出センサにおける経過時間と抵抗値の関係を示す説明図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る硫化検出センサの平面図である。
【
図12】本発明の第5の実施形態に係る硫化検出センサの平面図である。
【
図13】本発明の第6の実施形態に係る硫化検出センサの平面図である。
【
図14】該硫化検出センサの製造工程を示す平面図である。
【
図15】該硫化検出センサの製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は本発明の第1の実施形態に係る硫化検出センサの平面図、
図2は
図1のII-II線に沿う断面図、
図3は
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【0023】
図1~
図3に示すように、第1の実施形態に係る硫化検出センサ1は、直方体形状の絶縁基板2と、絶縁基板2の表面の長手方向両端部に形成された一対の表電極3と、これら一対の表電極3の間に形成された硫化検出導体4と、この硫化検出導体4と一方(図示左側)の表電極3および他方(図示右側)の表電極3との間に形成された一対の抵抗体5と、硫化検出導体4の露出部4aを除く大部分および一対の抵抗体5の全体を覆う絶縁性保護膜6と、絶縁基板2の裏面の長手方向両端部に形成された一対の裏電極7と、絶縁基板2の長手方向両端部に形成された一対の端面電極8と、これら端面電極8の表面に形成された一対の外部電極9と、によって主として構成されている。
【0024】
絶縁基板2は、シート状の大判基板を縦横の分割溝に沿って分割して多数個取りされたものであり、大判基板の主成分はアルミナを主成分とするセラミックス基板である。
【0025】
一対の表電極3は、銀(Ag)にパラジウム(Pd)を含有するAg系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、これら両表電極3は所定間隔を存して対向するように絶縁基板2の長手方向両端部に形成されている。
【0026】
硫化検出導体4は、硫化ガスにより硫化される金属、例えば、硫化されやすい銀を主成分とするAgペーストや銅を主成分とするCu系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、絶縁基板2の中央部に矩形状に形成されている。
【0027】
一対の抵抗体5は、酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものである。一方の抵抗体5の両端部は図示左側の表電極3と硫化検出導体4とに接続されており、他方の抵抗体5の両端部は図示右側の表電極3と硫化検出導体4とに接続されている。すなわち、左右の両表電極3の間に、硫化検出導体4を介して一対の抵抗体5が直列に接続されている。
【0028】
絶縁性保護膜6は、アンダーコート層10とオーバーコート層11の2層構造からなる。アンダーコート層10は、ガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、一対の抵抗体5の全体と硫化検出導体4の長手方向両端部(
図1の上下両端部)を除く大部分を覆うように矩形状に形成されている。オーバーコート層11は、エポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化したものであり、アンダーコート層10の全体を覆うように矩形状に形成されている。ただし、硫化検出導体4の露出部4aはオーバーコート層11に覆われずに外部に露出している。
【0029】
一対の裏電極7は、Agペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、これら裏電極7は絶縁基板2の表面側の表電極3と対応する位置に形成されている。
【0030】
一対の端面電極8は、絶縁基板2の端面にNi/Crをスパッタしたものであり、これら端面電極8は対応する表電極3と裏電極7間を導通するように形成されている。
【0031】
一対の外部電極9はバリヤー層と外部接続層の2層構造からなり、そのうちバリヤー層は電解メッキによって形成されたNiメッキ層であり、外部接続層は電解メッキによって形成されたSnメッキ層である。これら外部電極9により、裏電極7の一部と端面電極8の表面が被覆されている。
【0032】
図4は、第1の実施形態に係る硫化検出センサ1の硫化に伴う電流経路を示す説明図、
図5は、該硫化検出センサ1における経過時間と抵抗値の関係を示す説明図である。
【0033】
第1の実施形態に係る硫化検出センサ1が硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、絶縁性保護膜6のオーバーコート層11から外部に突出する硫化検出導体4の露出部4aから硫化が開始し、
図4(b)の黒塗り部分で示すように、絶縁性保護膜6の下方に位置する硫化検出導体4へと硫化が進行していく。ここで、硫化によって変化した硫化検出導体4の硫化銀や硫化銅は抵抗値が数MΩ以上に上昇するため、一対の表電極3間を流れる電流経路は、硫化検出導体4の硫化前の
図4(a)に示す状態から、硫化検出導体4の硫化の進行に伴って
図4(b)に示す状態へと変化していく。このように硫化の進行に伴って電流経路が変化していくため、
図5に示すように、硫化検出センサ1の抵抗値が時間の経過に伴って次第に上昇していく。
【0034】
以上説明したように、第1の実施形態に係る硫化検出センサ1では、一対の表電極3の間に硫化検出導体4を介して一対の抵抗体5が直列に接続され、この硫化検出導体4が硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜6から外部に露出する露出部4aを有しているため、硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、硫化検出導体4の露出部4aから硫化が開始し、絶縁性保護膜6で覆われた部分の硫化検出導体4へと硫化が進んでいく。そして、硫化によって変化した硫化検出導体4の硫化銀や硫化銅は抵抗値が数MΩ以上に上昇するため、硫化の進行に伴って一対の表電極3間を流れる電流経路が変化していき、それに伴って硫化検出センサ1の抵抗値が次第に上昇していく。これにより、硫化検出導体4の抵抗値が硫化検出センサ1全体の抵抗値に占める割合を小さくした場合でも、硫化の進行に伴う抵抗値の連続的変化に基づいて断線の予兆を正確に検出することができる。
【0035】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る硫化検出センサ20の平面図であり、
図1に対応する部分に同一符号を付すと共に、端面電極8と外部電極9は図示省略してある。
【0036】
図6に示すように、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20は、抵抗体5がチャンネル形状(コの字状)の蛇行部5aを有する1本の帯状パターンとして形成されていると共に、この蛇行部5aで囲まれた領域内に形成した硫化検出導体4が抵抗体5と接続するように構成されており、それ以外の構成は第1の実施形態に係る硫化検出センサ1と基本的に同じである。
【0037】
すなわち、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20は、一対の表電極3の間に形成された抵抗体5の全体と、抵抗体5の蛇行部5a内に形成された硫化検出導体4の一部とを硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜6で覆い、この絶縁性保護膜6から硫化検出導体4の露出部4aを外部に露出させた構成となっている。
【0038】
図7は、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20の硫化に伴う電流経路を示す説明図、
図8は、該硫化検出センサ20における経過時間と抵抗値の関係を示す説明図である。
【0039】
第2の実施形態に係る硫化検出センサ20が硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、絶縁性保護膜6から外部に突出する硫化検出導体4の露出部4aから硫化が開始し、
図7(b)の黒塗り部分で示すように、絶縁性保護膜6の下方に位置する硫化検出導体4へと硫化が進行していく。そして、硫化によって変化した硫化検出導体4の硫化銀は抵抗値が数MΩ以上に上昇するため、一対の表電極3間を流れる電流経路は、硫化検出導体4の硫化前の
図7(a)に示す状態から、硫化検出導体4の硫化の進行に伴って
図7(b)に示す状態へと変化していく。このように硫化の進行に伴って電流経路が変化していくため、
図8に示すように、硫化検出センサ1の抵抗値が時間の経過に伴って次第に上昇していき、硫化検出導体4の全てが硫化した時点で、抵抗体5が有する一定の抵抗値となる。
【0040】
以上説明したように、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20では、抵抗体5がチャンネル形状(コの字状)の蛇行部5aを有する帯状パターン(ミアンダパターン)として形成されていると共に、蛇行部5aで囲まれた領域内に抵抗体5と接続するように硫化検出導体4が形成されており、第1の実施形態に係る硫化検出センサ1と比較すると、硫化の進行に伴って電流経路を大きく変化させることができるため、硫化検出導体4の硫化に伴う抵抗値変化量が大きくなり、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0041】
図9は、本発明の第3の実施形態に係る硫化検出センサ30の平面図であり、
図6に対応する部分には同一符号を付してある。
【0042】
図9に示すように、第3の実施形態に係る硫化検出センサ30では、抵抗体5の蛇行部5a内に形成された硫化検出導体4が、絶縁基板2の短手方向(図の上下方向)に延びる連結導体部4bと、絶縁基板2の長手方向(図の左右方向)に延びて連結導体部4bに交差する複数本(本実施例では2本)の接続導体部4cとを有しており、これら接続導体部4cの両端部が抵抗体5の蛇行部5aに接続するように構成されており、それ以外の構成は第2の実施形態に係る硫化検出センサ20と基本的に同じである。
【0043】
このように構成された第3の実施形態に係る硫化検出センサ30が硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、絶縁性保護膜6から外部に突出する硫化検出導体4の露出部4aから硫化が開始し、絶縁性保護膜6で覆われた連結導体部4bへと硫化が進行していく。そして、硫化の進行に伴って露出部4aに近い1本目の接続導体部4cが先に断線した後、さらなる硫化の進行によって2本目の接続導体部4cが断線することにより、抵抗体5を流れる電流の経路長が段階的に長くなっていくため、
図10に示すように、硫化検出センサ30の抵抗値が時間の経過に伴って段階的に上昇していき、硫化の進行に伴う抵抗値の段階的変化に基づいて断線の予兆を正確に検出することができる。なお、硫化検出導体4に形成される接続導体部4cの数は3本以上であっても良く、接続導体部4cの数が増えるほど断線の階段数が増加する。
【0044】
図11は、本発明の第4の実施形態に係る硫化検出センサ40の平面図であり、
図6に対応する部分には同一符号を付してある。
【0045】
図11に示すように、第4の実施形態に係る硫化検出センサ40では、抵抗体5が蛇行部5aから離れた位置に調整部5bを有しており、この調整部5bに抵抗値調整用のトリミング溝41が形成されており、それ以外の構成は第2の実施形態に係る硫化検出センサ20と基本的に同じである。なお、トリミング溝41は、ガラス材料からなるアンダーコート層10の上からレーザー光を照射することで調整部5bに形成され、トリミング溝41の形成後に樹脂材料からなるオーバーコート層11でアンダーコート層10を覆うことにより、アンダーコート層10とオーバーコート層11からなる2層構造の絶縁性保護膜6が形成される。
【0046】
このように構成された第4の実施形態に係る硫化検出センサ40においても、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20と同様に、抵抗体5がチャンネル形状の蛇行部5aを有する帯状パターンとして形成されていると共に、蛇行部5aで囲まれた領域内に抵抗体5と接続するように硫化検出導体4が形成されているため、硫化検出導体4の硫化に伴う抵抗値変化量が大きくなり、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。しかも、抵抗体5が蛇行部5aとは別にトリミングを行う調整部5bを有しているため、抵抗体5の初期抵抗値を高精度に設定することができる。
【0047】
図12は、本発明の第5の実施形態に係る硫化検出センサ50の平面図であり、
図6に対応する部分には同一符号を付してある。
【0048】
図12に示すように、第5の実施形態に係る硫化検出センサ50は、硫化検出導体4に接続する抵抗体が、図示左側の表電極3に接続する第1抵抗体5Aと、図示右側の表電極3に接続する第2抵抗体5Bとに2分割されていると共に、これら第1抵抗体5Aと第2抵抗体5Bが、硫化検出導体4の中央部を絶縁基板2の短手方向に通る直線Pに関して線対称なL字状パターンとして形成されており、それ以外の構成は第2の実施形態に係る硫化検出センサ20と基本的に同じである。
【0049】
このように構成された第5の実施形態に係る硫化検出センサ50においても、絶縁性保護膜6から外部に突出する硫化検出導体4の露出部4aから硫化が開始し、絶縁性保護膜6の下方に位置する硫化検出導体4へと硫化が進行していくため、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20と同様に、硫化検出導体4の硫化の進行に伴って電流経路を大きく変化させることができ、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。なお、第2の実施形態に係る硫化検出センサ20では、硫化検出導体4の全てが硫化しても抵抗体5の導通状態は維持されるが、第5の実施形態に係る硫化検出センサ50では、硫化検出導体4の全てが硫化した時点で第1抵抗体5Aと第2抵抗体5B間の導通が遮断される。
【0050】
図13は、本発明の第6の実施形態に係る硫化検出センサ60の平面図であり、
図6に対応する部分には同一符号を付してある。
【0051】
図13に示すように、第6の実施形態に係る硫化検出センサ60は、絶縁性保護膜6を構成するオーバーコート層11の外縁部に、硫化検出導体4の露出部4aを包囲する平面視凹状の切欠部11aが形成されており、それ以外の構成は第2の実施形態に係る硫化検出センサ20と基本的に同じである。
【0052】
このように構成された硫化検出センサ60の製造工程について、
図14と
図15を用いて説明する。なお、
図14は硫化検出センサ60の製造工程を示す平面図、
図15は硫化検出センサ60の製造工程を示す断面図である。
【0053】
まず、絶縁基板2が多数個取りされる大判基板を準備する。この大判基板には予め1次分割溝と2次分割溝が格子状に設けられており、両分割溝によって区切られたマス目の1つ1つが1個分のチップ領域となる。
図14と
図15には1個分のチップ領域に相当する大判基板2Aが代表して示されているが、実際は多数個分のチップ領域に相当する大判基板に対して以下に説明する各工程が一括して行われる。
【0054】
すなわち、大判基板2Aの裏面にAgペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、大判基板2Aの裏面に所定間隔を存して対向する一対の裏電極7を形成する。次に、これと同時あるいは前後して、、大判基板2Aの表面にAg系ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、
図14(a)と
図15(a)に示すように、大判基板2Aの表面に所定間隔を存して対向する一対の表電極3を形成する(電極形成工程)。
【0055】
次に、大判基板2Aの表面にAgを主体とするAg系ペーストまたはCuを主体とするCu系ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、
図14(b)と
図15(b)に示すように、一対の表電極3の中間位置に矩形状の硫化検出導体4を形成する(硫化検出導体形成工程)。
【0056】
次に、大判基板2Aの表面に酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、
図14(c)と
図15(c)に示すように、両端部が一対の表電極3に接続するミアンダ形状の抵抗体5を形成する(抵抗体形成工程)。その際、抵抗体5に形成されたチャンネル形状(コの字状)の蛇行部5aを硫化検出導体4の周縁部に重ね合わせることにより、抵抗体の蛇行部5aを硫化検出導体4に接続する。
【0057】
次に、大判基板2Aの表面側にガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成化することにより、
図14(d)と
図15(d)に示すように、抵抗体5の全体と硫化検出導体4の一部を覆うアンダーコート層10を形成する。なお、硫化検出導体4の一端部はアンダーコート層10で覆われずに外方に突出しており、この突出部分が硫化検出導体4の露出部4aとなる。
【0058】
次に、アンダーコート層10の上からエポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化することにより、
図14(e)と
図15(e)に示すように、アンダーコート層10を覆うオーバーコート層11を形成し、これらアンダーコート層10とオーバーコート層11によって2層構造の絶縁性保護膜6が構成される(保護膜形成工程)。このオーバーコート層11には、硫化検出導体4の露出部4aを包囲する平面視凹状の切欠部11aが形成されており、露出部4aはオーバーコート層11で覆われずに外部に露出している。
【0059】
次に、露出部4aの上から可溶性のマスキングをスクリーン印刷して乾燥することにより、
図14(f)に示すように、切欠部11aで囲まれた露出部4aを覆うマスキング樹脂層61を形成する(マスキング形成工程)。なお、マスキング樹脂層61はオーバーコート層11と接触していても良いが、マスキング樹脂層61の上面がオーバーコート層11の上面よりも低くなるように留意する必要がある。
【0060】
次に、大判基板2Aを一次分割溝に沿って短冊状基板2Bに1次分割した後、短冊状基板2Bの分割面にNi/Crをスパッタすることにより、
図14(g)と
図15(g)に示すように、短冊状基板11Bの両端部に表電極3と裏電極7間を接続する端面電極8を形成する(端面電極形成工程)。
【0061】
次に、短冊状基板2Bを二次分割溝に沿って複数のチップ状基板2Cに2次分割した後、これらチップ状基板2Cに対して電解めっき(バレルめっき)を施すことにより、
図14(h)と
図15(h)に示すように、裏電極7の一部と端面電極8の表面を覆う2層構造(Niメッキ層とSnメッキ層)の外部電極9を形成する(外部電極形成工程)。この電解めっきは、多数のチップ状基板2Cを入れたバレルを回転させながら行われるため、めっき中にチップ状基板2C同士が接触することになるが、絶縁性保護膜6のオーバーコート層11がマスキング樹脂層61を囲むように形成されているため、オーバーコート層11によってマスキング樹脂層61の剥離が防止される。
【0062】
このように電解めっき処理を行って外部電極9を形成した後、チップ状基板2Cをオーバーコート層11が溶解せず、マスキング樹脂層61だけが溶解する溶液に浸漬することにより、マスキング樹脂層61を剥離(除去)して露出部4aを露出させる(マスキング除去工程)。これにより、
図13に示す硫化検出センサ60が完成する。
【0063】
以上説明したように、第6の実施形態に係る硫化検出センサ60の製造方法によれば、絶縁性保護膜6のオーバーコート層11に硫化検出導体4の露出部4aを囲む切欠部11aを形成し、この露出部4aをマスキング樹脂層61で覆った状態で電解めっきにより外部電極9を形成するようにしたので、電解めっき処理中に製品同士の接触によってマスキング樹脂層61が剥離してしまうことが低減され、外部電極9の形成後にマスキング樹脂層61を除去することにより、断線の予兆を正確に検出可能な硫化検出センサ60を製造することができる。
【0064】
なお、上記各実施形態に係る硫化検出センサでは、絶縁性保護膜6の外縁部から外部に突出する硫化検出導体4の端部を露出部4aとしているが、絶縁性保護膜6の一部に開口を形成し、この開口内に露出する部分の硫化検出導体4を露出部4aとしても良い。
【0065】
また、上記各実施形態に係る硫化検出センサでは、絶縁性保護膜6がアンダーコート層10とオーバーコート層11の2層構造となっているため、アンダーコート層の材料であるガラスが有する高いガスバリア性と、オーバーコート層11の材料である樹脂が有する柔軟性とを利用して、破損し難くい硫化ガス非透過性の絶縁性保護膜6を実現することができる。ただし、アンダーコート層10とオーバーコート層11は両方共に硫化ガスの非透過性を有するため、いずれか一方を省略して単層構造の絶縁性保護膜6とすることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1,20,30,40,50,60 硫化検出センサ
2 絶縁基板
2A 大判基板
2B 短冊状基板
2C チップ状基板
3 表電極
4 硫化検出導体
4a 露出部
4b 連結導体部
4c 接続導体部
5抵抗体
5a 蛇行部
5b 調整部
5A 第1抵抗体
5B 第2抵抗体
6 絶縁性保護膜
7 裏電極
8 端面電極
9 外部電極
10 アンダーコート層
11 オーバーコート層
11a 切欠部
41 トリミング溝
61 マスキング樹脂層