(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241126BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20241126BHJP
F02P 5/145 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
F02D45/00 368S
F02D45/00 364A
F02D43/00 301N
F02D43/00 301E
F02D43/00 301A
F02D43/00 301S
F02D43/00 301U
F02D43/00 301B
F02P5/145 D
(21)【出願番号】P 2021067030
(22)【出願日】2021-04-12
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】助川 義寛
(72)【発明者】
【氏名】赤城 好彦
(72)【発明者】
【氏名】押領司 一浩
(72)【発明者】
【氏名】熊野 賢吾
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-312426(JP,A)
【文献】特開2016-094854(JP,A)
【文献】特開2019-210827(JP,A)
【文献】特開2017-186957(JP,A)
【文献】特開平10-196429(JP,A)
【文献】特開平10-169498(JP,A)
【文献】特開平11-257150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
F02P 5/145 - 5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火時期近傍に取得された第一の筒内圧と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧と、に基づいて、内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定部を備え
、
前記燃焼状態推定部は、前記第一の筒内圧と前記第二の筒内圧との差を複数サイクルで算出し、前記複数サイクルにおける前記差の変動率に基づいて、前記内燃機関のトルク変動の大きさを推定する
内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記トルク変動の大きさに基づいて、EGR率、又は空燃比を制御する機関制御部を備える
請求項
1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記トルク変動の大きさに基づいて、点火エネルギー、筒内流動強さ、圧縮比、及び吸気温度のうち、少なくとも一つを制御する機関制御部を備える
請求項
1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項4】
点火時期近傍に取得された第一の筒内圧と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧と、に基づいて、内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定部を備え、
前記燃焼状態推定部は、前記第一の筒内圧と前記第二の筒内圧との比に基づいて、燃焼位相を推定する
内燃機関制御装置。
【請求項5】
前記第一の筒内圧と前記第二の筒内圧との比に基づいて、点火時期を制御する機関制御部を備える
請求項
4に記載の内燃機関制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、燃料消費量(燃費)や排気ガス有害成分に関する規制が強化され、このような規制は今後もますます強化される傾向にある。このような状況下において、エンジンの燃焼室内の状態を推定し、その推定結果に基づいてエンジンを制御する技術が知られている。現在の燃焼状態に応じて空燃比や点火時期などを適切に制御することによって、エンジンの熱効率を高めたり、有害ガスの排出を減らしたりすることができる。
【0003】
エンジンの燃焼状態の推定には、圧力センサによる筒内圧の検知結果から熱発生分布や燃焼トルクを求める手法が広く適用されている。このような燃焼状態の推定技術は、例えば特許文献1及び2に開示されている。
【0004】
特許文献1には、気筒の圧力を筒内圧として検出する筒内圧センサを備え、筒内圧センサによって検出された筒内圧に基づいて図示トルクとポンプ損失トルクを算出し、図示トルクとポンプ損失トルクを用いて内燃機関のエンジントルクを算出することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、上死点前60°のクランク角度位置及び上死点後60°のクランク角度位置にて、筒内圧をサンプリングし、検出圧比を燃焼状態パラメータとして採用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-57803号公報
【文献】特開2002-97996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された筒内圧センサの計測結果(筒内圧)に基づいて燃焼状態を推定する方法は、エンジンサイクルの所定区間、例えば圧縮上死点を中心としたクランク角360°の区間での時系列の圧力値が必要となる。更に燃焼状態を充分な精度で推定するには、圧力を概ねクランク角1°以下の間隔でサンプリングする必要がある。このため、燃焼状態を推定する制御装置には、多くの記憶容量と高速な演算能力が要求される。また高速なサンプリングに対応した圧力センサも必要となる。これらによってエンジンシステムのコストが高くなるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2には、上死点前60°のクランク角度位置及び上死点後60°のクランク角度位置で筒内圧を検出することが記載されているものの、当該位置で検出された筒内圧に基づいて、内燃機関(エンジン)の燃焼状態を正確に推定できないことが分かった。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、内燃機関の燃焼状態を低コストで推定可能な内燃機関制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る内燃機関制御装置は、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧と、に基づいて、内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定部を備え、燃焼状態推定部は、第一の筒内圧と第二の筒内圧との差を複数サイクルで算出し、複数サイクルにおける差の変動率に基づいて、内燃機関のトルク変動の大きさを推定する。
また、本発明に係る内燃機関制御装置は、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧と、に基づいて、内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定部を備え、燃焼状態推定部は、第一の筒内圧と第二の筒内圧との比に基づいて、燃焼位相を推定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内燃機関の燃焼状態を低コストで推定可能な内燃機関制御装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るエンジンの全体構成例を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係るコントローラのトルク変動推定部によって実施される、エンジントルク変動の大きさの推定処理の例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る差圧のサイクル変動率と、エンジントルク変動の大きさとの相関を示す特性図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る筒内圧の検出タイミングの例を示すグラフである。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る第一の筒内圧の取得時期と点火時期との差に対するトルク変動の推定誤差の例を示す特性図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係る点火時期の変化に対して、第一の筒内圧の取得時期の望ましい変化形態を示す図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係る第二の筒内圧の取得時期と、CA90+20°との差に対するエンジントルク変動の推定誤差の例を示す特性図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る燃焼時期と、熱発生率の積分値との関係を示した特性図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係るCA90+20°の変化に対する第二の筒内圧の取得時期の望ましい変化形態を示す図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態に係るEGR制御を行うコントローラの制御ブロックの例を示す図である。
【
図12】本発明の第1の実施の形態に係るEGRシステムにおける、偏差δCoVに基づいてアクチュエータの制御例を示す図である。
【
図13】本発明の第1の実施の形態に係るコントローラが、偏差δCoVに基づいて点火エネルギーの量、ガス流動の強さ、圧縮比、吸気温度を制御する例を示す図である。
【
図14】本発明の第1の実施の形態に係る希薄燃焼システムにおける、偏差δCoVに基づいてアクチュエータの制御例を示す図である。
【
図15】本発明の第2の実施の形態に係るコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図16】本発明の第2の実施の形態に係る基準燃焼重心と、第一の筒内圧と第二の筒内圧との比の相関を示す特性図である。
【
図17】本発明の第2の実施の形態に係る体積効率の変化に対する、基準燃焼重心からの補正量の例を示す図である。
【
図18】本発明の第2の実施の形態に係るエンジン回転速度の変化に対する、基準燃焼重心からの補正量の例を示す図である。
【
図19】本発明の第2の実施の形態に係るコントローラの燃焼重心推定部によって実施される、燃焼重心の推定手順の例を示すフローチャートである。
【
図20】本発明の第2の実施の形態に係る最適な燃焼重心とエンジンの燃料消費率との一般的な関係を示す図である。
【
図21】本発明の第2の実施の形態に係るEGR制御を行うコントローラの制御ブロックの例を示す図である。
【
図22】本発明の第2の実施の形態に係る第一の筒内圧と第二の筒内圧との差と、基準燃焼重心との相関を示す特性図である。
【
図23】本発明の第2の実施の形態に係る点火信号と、点火コイルの一次電圧及び二次電圧と、二次電流の時間履歴の一例を示す図である。
【
図24】本発明の第2の実施の形態に係る放電開始直後の一次電圧の最大値、二次電圧の最大値と、放電時の筒内圧との相関を示す特性図である。
【
図25】本発明の第2の実施の形態に係るコントローラが点火コイルの二次電圧に基づいて筒内圧を求める場合における、点火コイルからコントローラまでの構成例を示すブロック図である。
【
図26】本発明の第2の実施の形態に係る放電期間と、放電時の筒内圧との相関を示す特性図である。
【
図27】本発明の第2の実施の形態に係るコントローラがクランク軸の角加速度に基づいて筒内圧を求める場合における、クランク角センサからコントローラまでの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0014】
<第1の実施形態>
[エンジンの構成例]
まず、本発明が適用されるエンジンの例について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るエンジン1の全体構成例を示す断面図である。
【0015】
エンジン1は、火花点火4サイクルガソリンエンジンの一例である。エンジン1の燃焼室は、エンジンヘッドとシリンダ13、ピストン14、吸気弁15、及び排気弁16によって形成されている。エンジン1では、燃料噴射弁18が吸気ポート21に設けられるとともに、燃料噴射弁18の噴射ノズルが吸気ポート21内に貫通していることにより、所謂、ポート噴射式の内燃機関を構成している。
【0016】
エンジンヘッドには点火プラグ17bが設置され、さらに点火プラグ17bの上部には点火コイル17aが設置されている。また、エンジンヘッドには圧力センサ10が併設されている。圧力センサ10は、例えば、差圧による金属ダイアフラムの変形をピエゾ抵抗素子で捉えることで、シリンダ13(気筒)内の筒内圧を検出するものである。
【0017】
燃焼用の空気は、エアクリーナ19、スロットルバルブ20、及び吸気ポート21を通って、燃焼室内に取り込まれる。そして、燃焼室から排出される燃焼後のガス(排気ガス)は、排気ポート24、及び触媒コンバータ25を通って大気に排出される。
【0018】
燃焼室に取り込まれる空気の量は、スロットルバルブ20の上流側に設けられたエアフローセンサ22によって計量される。また、燃焼室から排出されたガス(排気ガス)の空燃比は、触媒コンバータ25の上流側に設けられた空燃比センサ27によって検出される。
【0019】
排気ポート24と吸気ポート21はEGR管28によって連通しており、排気ポート24を流れる排気ガスの一部が吸気ポート21の内部に戻される、所謂、排気再循環システム(EGRシステム)が構成されている。EGR管28を流れる排気ガスの量はEGRバルブ29によって調整される。
【0020】
さらに、クランクシャフトの軸部には、時期ロータ26(シグナルロータ)が設けられている。時期ロータ26(被検出部)の近傍に対向配置されたクランク角センサ11(検出部)は、時期ロータ26の回転を検出することでクランクシャフトの回転と位相、即ちクランク回転速度(エンジン回転速度)を検出する。圧力センサ10、クランク角センサ11、エアフローセンサ22、空燃比センサ27の検出信号は、コントローラ12へ取り込まれる。
【0021】
コントローラ12は、エンジン1の制御装置の一例であり、例えばECU(Engine Control Unit)が用いられる。コントローラ12は、各種センサの検出値に基づいて、スロットルバルブ20の開度、EGRバルブ29の開度、燃料噴射弁18による燃料噴射時期や燃料噴射量、点火プラグ17bによる点火時期などの指令を出力し、エンジン1を所定の運転状態に制御する。
【0022】
なお、
図1にはエンジン1の燃焼室の構成を示すため単一気筒のみを示したが、本発明の実施形態に係るエンジンは、複数の気筒から構成される多気筒エンジンであってもよい。
【0023】
[コントローラの構成例]
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るコントローラ12の構成例を示すブロック図である。
【0024】
コントローラ12は、不図示のシステムバスを介して相互に電気的に接続された入出力部121、制御部122、及び記憶部123を備える。
入出力部121は、図示しない入力ポートや出力ポートを備え、エンジン1を搭載する車両内の各装置や各センサに対して各種信号の入力及び出力の処理を行う。例えば、入出力部121は、圧力センサ10の信号を読み込み、当該信号を制御部122へ送る。また、入出力部121は、制御部122のコマンドに従い制御信号を各装置へ出力する。
【0025】
制御部122は、エンジン1の動作を制御する。例えば、制御部122は、エンジン1の燃焼安定状態に応じてスロットル開度、EGR開度、燃料噴射量、点火時期を制御する。第1の実施の形態に係る制御部122は、トルク変動推定部122aと、機関制御部122bを備える。トルク変動推定部122aは、燃焼状態推定部の一例として用いられる。
【0026】
トルク変動推定部122aは、圧力センサ10によって検出された筒内圧に基づいて、エンジントルク変動の大きさを推定する。本実施形態で推定されるエンジン1の燃焼状態は、エンジントルク変動の大きさとする。この燃焼状態推定部(トルク変動推定部122a)は、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧P2と、に基づいて、内燃機関(エンジン1)の燃焼状態を推定する。このため、燃焼状態推定部(トルク変動推定部122a)は、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2との差を複数サイクルで算出し、複数サイクルにおける差の変動率に基づいて、内燃機関(エンジン1)のエンジントルク変動の大きさを推定する。
【0027】
機関制御部(機関制御部122b)は、エンジントルク変動の大きさに基づいて、EGR率、又は空燃比を制御する。例えば、機関制御部122bは、トルク変動推定部122aで求められたエンジントルク変動の大きさに基づいて、エンジン1のEGR開度、スロットル開度、燃料噴射量を変えることで、EGR率、又は空燃比を制御することが可能となる。また、機関制御部(機関制御部122b)は、エンジントルク変動の大きさに基づいて、点火エネルギー、筒内流動強さ、圧縮比、及び吸気温度のうち、少なくとも一つを制御することも可能である。
【0028】
記憶部123は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリ、又はROM(Read Only Memory)等の不揮発性のメモリである。記憶部123には、コントローラ12が備える演算処理装置(図示略)により実行される制御プログラムが記録されている。演算処理装置が、記憶部123から制御プログラムを読み出して実行することにより、制御部122の各ブロックの機能が実現される。例えば演算処理装置として、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)が用いられる。なお、コントローラ12が半導体メモリ等からなる不揮発性の補助記憶装置を有し、上記の制御プログラムが補助記憶装置に格納されてもよい。
【0029】
[エンジントルク変動の大きさの推定処理]
次に、コントローラ12によって実施される、エンジントルク変動の大きさの推定処理の例について、
図3を参照して説明する。
図3は、コントローラ12のトルク変動推定部122aによって実施される、エンジントルク変動の大きさの推定処理の例を示すフローチャートである。
【0030】
始めに、トルク変動推定部122aは、変数S及び変数Qをゼロに初期化する(S1)。そして、トルク変動推定部122aは、圧力センサ10によって検出される点火時期近傍の第一の筒内圧P1(図中では「筒内圧P1」と記載)を取り込む(S2)。続いて、トルク変動推定部122aは、圧力センサ10によって検出される燃焼終了時期近傍の第二の筒内圧P2(図中では「筒内圧P2」と記載)を取り込む(S3)。
【0031】
続いて、トルク変動推定部122aは、第二の筒内圧P2と第一の筒内圧P1との差圧dP=P2-P1を演算し(S4)、dPを変数Sに足し込む(S5)。更にdPの二乗値を変数Qに足し込む(S6)。トルク変動推定部122aは、ステップS2からステップS6までの処理を、所定のサイクル数として設定されるN回(例えばN=100)繰り返すことで、Nサイクル分の圧力差dPの積算値を変数Sとして求める。また、トルク変動推定部122aは、Nサイクル分の圧力差dPの二乗の積算値を変数Qとして求める。
【0032】
次に、トルク変動推定部122aは、圧力差dPの積算値Sを所定のサイクル数Nで除することによって、圧力差dPのサイクル平均値dPmeanを求める(S7)。
【0033】
次に、トルク変動推定部122aは、差圧dPのサイクル変動率Cov of dPを求める(S8)。差圧dPのサイクル変動率Cov of dPは、差圧dPのサイクル標準偏差を圧力差dPのサイクル平均値dPmeanで規格化し、百分率で表したものであり、次式(1)で求められる。また、変動係数をCov(Coefficient of variation)で表す。
【0034】
【0035】
次に、トルク変動推定部122aは、差圧dPのサイクル変動率Cov of dPからエンジントルク変動の大きさCov of IMEPを算出する(S9)。ここで、ステップS9によるエンジントルク変動の大きさを算出する方法について、
図4を参照して説明する。
【0036】
図4は、差圧dPのサイクル変動率Cov of dP[%]と、エンジントルク変動の大きさ(Cov of IMEP[%])との相関を示す特性図である。この特性図には、火花点火式エンジンを用いて差圧dPのサイクル変動率Cov of dPと、エンジントルク変動の大きさ(Cov of IMEP)との実測結果が示される。
【0037】
エンジントルク変動の大きさは、図示平均有効圧力IMEP(Indicated Mean Effective Pressure)のNサイクルにおける標準偏差を、IMEPのNサイクルにおける平均値で規格化した量であるCov of IMEP[%]として定義している。
【0038】
本願の発明者の新たな知見によれば、エンジントルク変動の大きさ(度合い)を示すCov of IMEPと差圧dPのサイクル変動率Cov of dPとの間には、
図4で示されるように強い相関が得られることが判った。このため、本願の発明者は、差圧dPのサイクル変動率Cov of dPから、エンジントルク変動の大きさを推定可能であることが判った。
【0039】
コントローラ12の記憶部123には、予めキャリブレーションで求めたCov of IMEPとCov of dPとの相関が相関式又はテーブルデータとして保持されている。トルク変動推定部122aは、記憶部123から相関式又はテーブルデータを参照し、Cov of dPからエンジントルク変動の大きさCov of IMEPを求める。
【0040】
そして、トルク変動推定部122aは、求めたエンジントルク変動の大きさCov of IMEPを、機関制御部122bに送出する(S10)。所定時間後、再び、ステップS1から本フローチャートの処理が行われる。
【0041】
ここで、筒内圧の検出タイミングについて、
図5を参照して説明する。
図5は、筒内圧の検出タイミングの例を示すグラフである。
図5に示すグラフは、いずれも横軸をクランク角[deg]、縦軸を筒内圧[bar]としている。
【0042】
図5のグラフ(1)は、従来の筒内圧の検出タイミングの例を示す。グラフ(1)に示す筒内圧の変化の様子から、クランク角が360°付近で筒内圧が最大となることが分かる。
【0043】
特許文献1に開示されたような従来のコントローラは、筒内圧センサが高サンプリングレート(例えば、クランク角が1度以下の間隔)で検知した筒内圧を取得して、燃焼室内の燃焼状態を推定していた。図中のグラフに沿って付加される丸印は、筒内圧の検出タイミングを表す。しかし、従来のコントローラが高サンプリングレートで筒内圧を取得する方法は、コントローラに演算負荷がかかるばかりか、コントローラが取得した筒内圧を保存するためのメモリ容量も大きくしなければならなかった。このため、従来の方法を採用すると、エンジンシステムのコストが増大していた。
【0044】
なお、特許文献2に開示されたような従来のコントローラについても、上死点前60°のクランク角度位置及び上死点後60°のクランク角度位置の2点で検出された筒内圧を用いてエンジンの燃焼状態を把握するものであったが、本実施の形態に係る筒内圧の取得時期とは異なる。このため、特許文献2に開示された技術で燃焼状態を把握するためには、複雑な計算を要し、燃焼状態を低コストで正確に推定することはできなかった。
【0045】
[圧力検出時期]
図5のグラフ(2)は、本実施の形態に係る筒内圧の検出タイミングの例を示す。グラフ(2)に示す筒内圧の変化は、グラフ(1)に示す筒内圧の変化と同様である。そして、図中には、点火マークで表される点火時期、太い棒線で表される燃焼期間とが新たに追加されている。
【0046】
第1の実施の形態に係るコントローラ12が行う燃焼状態の推定処理では、1サイクルのうち、2か所のタイミングで筒内圧を取得する。2か所のタイミングは、圧縮行程で第一の筒内圧P1を取得するタイミング(図中の「P1圧力取得」)と、膨張行程で第二の筒内圧P2を取得するタイミング(図中の「P2圧力取得」)である。コントローラ12が第一の筒内圧P1を取得するタイミングは、点火時期近傍である。また、コントローラ12が第二の筒内圧P2を取得するタイミングは、燃焼終了時期近傍である。このように筒内圧の取得時期を規定したのは、燃焼で発生する燃焼エネルギーの大きさが、燃焼前後の筒内圧の差となって反映されるためである。
【0047】
例えば、第一の筒内圧P1の取得時期が点火時期よりも早い場合には、その圧力取得時期から燃焼開始時期である点火時期までに筒内ガスを圧縮するエネルギーが、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2の差に反映される。また、例えば、第二の筒内圧P2の取得時期が燃焼終了時期よりも遅い場合には、燃焼終了時期からその圧力取得時期までに筒内ガスが膨張するエネルギーが、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2の差に反映される。
【0048】
これらの圧縮エネルギーと膨張エネルギーは、燃焼によって生じるエネルギーに対して余剰に付与されるものであり、第1の実施の形態に係る燃焼状態の推定処理においては、推定誤差を生じる原因となる。このため、コントローラ12が燃焼状態を正確に推定するには、第一の筒内圧P1の取得時期をできるだけ点火時期に近くすることが好ましく、第二の筒内圧P2の取得時期をできるだけ燃焼終了時期に近くすることが好ましい。そして、コントローラ12は、2か所のタイミングで取得した第一の筒内圧P1及び第二の筒内圧P2に基づいて、エンジン1の燃焼状態(点火時期等)を判定する。このため、コントローラ12の演算負荷が軽くなり、筒内圧を保存するためのメモリ容量を削減することができる。
【0049】
図6は、第一の筒内圧P1の取得時期と点火時期との差(ms)に対するエンジントルク変動の推定誤差の例を示す特性図である。点火時期とは、点火プラグ17bにおいて点火のための放電が開始される時期のことである。この特性図では、第一の筒内圧P1の取得時期と点火時期との差に対して、第1の実施の形態に係るエンジントルク変動の大きさの推定値と実測値との誤差[%]がどのように変化するかが示される。
【0050】
図6に示されるように、第一の筒内圧P1の取得時期と点火時期との差が大きくなるにつれて、エンジントルク変動の大きさの推定誤差は増大する。そこで、エンジントルク変動の大きさの推定誤差を許容できる許容誤差が設定される。そして、エンジントルク変動の大きさの推定誤差を、エンジン制御で要求される誤差よりも小さくするためには、第一の筒内圧P1の取得時期と点火時期との差は1ms以内にすることが望ましい。そこで、燃焼状態推定部(トルク変動推定部122a)は、第一の筒内圧P1の取得時期と、当該気筒の点火時期との差を1ms以内とする。
【0051】
図7は、点火時期の変化に対して、第一の筒内圧P1の取得時期の望ましい変化形態を示す図である。
図7において、点線は、点火時期と第一の筒内圧P1の取得時期が同じであることを示す。また、実線は、点火時期と第一の筒内圧P1の取得時期との差が1msであることを示す。即ち2本の実線で挟まれた範囲が、第一の筒内圧P1の望ましい取得時期である。そこで、燃焼状態推定部(トルク変動推定部122a)は、第一の筒内圧P1の取得時期を、当該気筒の点火時期に対応して変化させる。
【0052】
図8は、第二の筒内圧P2の取得時期と、90%燃焼時期CA90から20°遅角した時期(以下、「CA90+20°」と略記)との差(°)に対するエンジントルク変動の推定誤差の例を示す特性図である。この特性図により、第二の筒内圧P2の取得時期と、CA90+20°との差に対して、エンジントルク変動の大きさの推定と実測値との誤差[%]がどのように変化するかが示される。そこで、燃焼状態推定部(トルク変動推定部122a)は、第二の筒内圧P2の取得時期を、当該気筒の90%燃焼時期CA90に対応して変化させる。
【0053】
図8に示されるように、第二の筒内圧P2の取得時期と、CA90+20°との差が大きくなるにつれて、エンジントルク変動の大きさの推定誤差は増大する。そこで、エンジントルク変動の大きさの推定誤差を許容できる許容誤差が設定される。エンジントルク変動の大きさの推定誤差を、エンジン制御で要求される誤差よりも小さくするためには、第二の筒内圧P2の取得時期と、CA90+20°との差を10°以内にすることが望ましい。
【0054】
図9は、燃焼時期と、熱発生率の積分値との関係を示した特性図である。
図中に示す90%燃焼時期CA90は、燃焼終了時の熱発生率の積分値を100%としたとき、熱発生率の積分値が90%となるクランク角(°)として定義される。同様に、50%燃焼時期CA50は、熱発生率の積分値が50%となるクランク角として定義される。燃焼時期CA50は、基準燃焼重心CA50refとも呼ぶ。
【0055】
燃焼速度がサイクル毎に変化することによって、90%燃焼時期もサイクル毎に変化する。このため、
図9に示す第1の実施の形態に係る90%燃焼時期CA90は、所定サイクル数(例えば100サイクル)で平均化した90%燃焼時期のことを示す。
【0056】
図10は、CA90+20°の変化に対する第二の筒内圧P2の取得時期の望ましい変化形態を示す図である。
図10において点線は、CA90+20°と第二の筒内圧P2の取得時期が同じであることを示す。また、実線は、CA90+20°と第二の筒内圧P2の取得時期との差が10°であることを示す。即ち2本の実線で挟まれた範囲が、第二の筒内圧P2の望ましい取得時期である。そこで、燃焼状態推定部(トルク変動推定部122a)は、第二の筒内圧P2の取得時期と、当該気筒の90%燃焼時期CA90の20°遅角時期(90%燃焼時期CA90+20°)との差を10°以内とする。
【0057】
一般的に、90%燃焼時期CA90は、エンジン回転速度、負荷、空燃比、EGR率、点火時期、冷却水温などのエンジン運転状態パラメータによって変化する。コントローラ12の記憶部123には、キャリブレーションによって予め求められた、エンジン運転状態パラメータに対する90%燃焼時期CA90が、マップデータとして格納される。トルク変動推定部122aは、現在のエンジン運転状態パラメータに基づいて、マップデータを参照することで90%燃焼時期CA90を求めることができる。
【0058】
[EGRシステム]
次に、機関制御部122bによる機関制御の例について説明する。
例えば、エンジン1を構成するEGRシステムにおいて、エンジン1の熱効率を高めるには、コントローラ12がEGR率を適切に制御する必要がある。一般的に、部分負荷においてEGR率を高くするとポンピング損失が減って熱効率が高くなる。また、EGR率を高くすることで燃焼温度が下がるため、冷却損失やNOxの排出を減らすことも可能である。さらに、高負荷においてはEGR率を高くすることでノッキングを抑制し、排気損失を減らすことも可能である。
【0059】
一方、EGR率が過度に高くなると、混合気の着火性が低くなったり、火炎伝播性が低下したりするため、失火が起こる可能性が高くなる。したがって、コントローラ12は、失火が起こらない範囲、又は失火が許容できる範囲で、できるだけEGR率を高めることがエンジン1の熱効率を高める上で重要である。
【0060】
エンジン1の運転において失火したサイクルがあると、エンジントルク変動が大きくなる。そこで、コントローラ12は、エンジントルク変動の大きさを推定し、エンジントルク変動の大きさに基づいてEGR率を変えることで、失火を抑制しつつ、エンジンの熱効率を高めることが可能となる。
【0061】
図11は、EGR制御を行うコントローラ12の制御ブロックの例を示す図である。
トルク変動推定部122aは、エンジン1の圧力センサ10の出力に基づき、現在のエンジントルク変動の大きさCov of IMEPを推定する。
【0062】
機関制御部122bが有する偏差算出部122cは、現在のエンジントルク変動の大きさCov of IMEPから目標エンジントルク変動の大きさ(目標CoV)を差し引いた偏差δCoVを算出する。目標CoVは、機関制御部122bが記憶部123のROMから読み込む値である。
【0063】
機関制御部122bが有する操作量演算部122dは、偏差δCoVに基づきエンジン1のアクチュエータに対する操作量を演算する。アクチュエータは、例えば、スロットルバルブ20、EGRバルブ29の開度を調整したり、点火プラグ17bの点火時期を調整したりするためのエンジン1に設けられる装置である。そして、操作量演算部122dは、例えばPIDコントローラにより構成されている。操作量演算部122dは、現在のエンジントルク変動の大きさCov of IMEPと、目標エンジントルク変動の大きさ(目標CoV)とが近づくように、エンジン1のアクチュエータの操作量を求める。そして、機関制御部122bはエンジン1のアクチュエータ操作量をエンジン1に送出し、エンジン1の運転状態を制御する。
【0064】
(EGRシステムにおけるアクチュエータの制御の例)
図12は、EGRシステムにおける、偏差δCoVに基づいてアクチュエータの制御例を示す図である。横軸は偏差δCoV[%]、縦軸はアクチュエータ等の状態を表す。
【0065】
EGRシステムのコントローラ12は、偏差δCoVに基づいてアクチュエータを制御する際、例えば偏差δCoVの増加に伴い、エンジントルク変動の大きさを抑制する。このため、コントローラ12は、EGRバルブ29の開度(点線)及びスロットルバルブ20の開度(実線)が小さくなるように制御する。この制御によってEGR率が低くなるので、着火遅れ時間は短くなり、燃焼速度は速くなる。そこで、コントローラ12は、燃焼を適切な時期(燃費最良時期)にするため、点火進角量(一点鎖線)が小さくなるように制御する。
【0066】
コントローラ12の制御によって、エンジントルク変動の大きさが所定値以上である場合には、トルクのサイクル変動を抑えるようにEGR率が低く設定される。これにより、エンジン1の燃焼が安定する方向に制御される。また、エンジントルク変動の大きさが所定値よりも小さい場合には、コントローラ12はEGR率を高く設定することで、エンジン1の熱効率を高めることができる。
【0067】
また、点火プラグ17bへ供給する点火エネルギーの量や筒内のガス流動の強さ、圧縮比、吸気温度を調整可能な構成とし、これらの調整量をコントローラ12が偏差δCoVに基づいて制御することも考えられる。
【0068】
図13は、コントローラ12が、偏差δCoVに基づいて点火エネルギーの量、ガス流動の強さ、圧縮比、吸気温度を制御する例を示す図である。
図13の横軸は偏差δCoV[%]、縦軸は点火エネルギー等を表す。
【0069】
点火エネルギーの量や筒内のガス流動の強さ、圧縮比、吸気温度は、一般的に高い値をとるほど着火、又は火炎伝播を促進し、トルク変動を抑制する効果がある。したがって、
図13に示すように、コントローラ12は、偏差δCoVの増加に対して、これらの項目の値が増大する方向に制御を行うことが望ましい。
【0070】
例えば、点火エネルギーの量は、コントローラ12が点火プラグ17bに供給する電流の量を制御することで調整可能である。また、筒内のガス流動の強さは、コントローラ12が吸気ポート21内の空気の流速を制御することで調整可能である。また、圧縮比は、コントローラ12が、ピストン14の上死点の位置を制御することで調整可能である。また、吸気温度は、コントローラ12が、吸気ポート21に設けたヒータのオンオフを制御することで調整可能である。
【0071】
なお、これらの制御は、コントローラ12が、ガス流動の強さ、圧縮比、及び吸気温度のいずれかを単独で制御してもよく、また、いくつかを組み合わせて制御してもよい。また、コントローラ12は、これらの制御に加えて、前述したEGRバルブ開度、スロットルバルブ開度、又は点火進角量の制御を組み合わせてもよい。
【0072】
[希薄燃焼システム]
さらに、エンジン1を構成する希薄燃焼システムにおいても、エンジン1の熱効率を高めるには空燃比を適切に制御する必要がある。一般的に、部分負荷において空燃比を高くするとポンピング損失が減って熱効率が高くなる。また、空燃比を高くすることで燃焼温度が下がるため、冷却損失やNOxの排出を減らすことも可能である。一方、空燃比が過度に高くなると、混合気の着火性が低くなったり、火炎伝播性が低下したりするため、失火が起こる可能性が高くなる。したがって、コントローラ12は、失火が起こらない範囲、又は失火が許容できる範囲で、できるだけ空燃比を高める制御を行うことが、エンジン1の熱効率を高める上で重要である。
【0073】
(希薄燃焼システムにおけるアクチュエータの制御の例)
図14は、希薄燃焼システムにおける、偏差δCoVに基づいてアクチュエータの制御例を示す図である。
図14の横軸は偏差δCoV[%]、縦軸はアクチュエータ等の状態を表す。
【0074】
希薄燃焼システムにおけるコントローラ12は、偏差δCoVに基づいてアクチュエータを制御する。例えば、コントローラ12は、トルクのサイクル変動を抑制するため、偏差δCoVの増加に伴い、スロットルバルブ20の開度(実線)が小さくなるようにアクチュエータを制御する。この制御によって空燃比が低くなるので、着火遅れ時間は短くなり、燃焼速度は速くなる。そこで、コントローラ12は、燃焼を適切な時期(燃費最良時期)にするため、点火進角量(一点鎖線)が小さくなるようにアクチュエータを制御する。
【0075】
この制御によって、エンジントルク変動の大きさが所定値以上である場合には、トルクのサイクル変動を抑えるように空燃比が低く設定される。空燃比が低く設定されることで、エンジン1の燃焼が安定する方向に制御される。また、エンジントルク変動の大きさが所定値よりも小さい場合には、空燃比が高く設定されるので、熱効率を高めることができる。
【0076】
また、
図13で示された、点火エネルギーの量、筒内のガス流動の強さ、圧縮比、及び吸気温度の制御は、希薄燃焼システムにおいても、上述したEGRシステムと同様に適用することが可能である。
【0077】
<第2の実施形態>
[燃焼重心の推定]
次に、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧P2に基づいて燃焼重心CA50を推定する、本発明の第2の実施形態に係るコントローラについて説明する。
【0078】
燃焼重心CA50は、
図9に示されるように、燃焼終了時の熱発生率の積分値を100%としたとき、熱発生率の積分値が50%となるクランク角として定義される。また、燃焼重心は、燃焼速度のサイクル変動によってサイクル毎に変化するが、第2の実施形態に係る燃焼重心CA50は、所定サイクル数(例えば100サイクル)で平均化した燃焼重心を示す。
【0079】
図15は、第2の実施の形態に係るコントローラ12Aの構成例を示すブロック図である。
【0080】
コントローラ12Aは、不図示のシステムバスを介して相互に電気的に接続された入出力部121、制御部124、及び記憶部123を備える。
入出力部121及び記憶部123については、第1の実施の形態におけるコントローラ12の入出力部121及び記憶部123と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0081】
制御部124は、エンジン1の動作を制御する。例えば、制御部124は、エンジン1の燃焼安定状態に応じてスロットル開度、EGR開度、燃料噴射量、点火時期を制御する。第2の実施の形態に係る制御部124は、燃焼重心推定部124aと、機関制御部124bを備える。
【0082】
燃焼重心推定部124aは、圧力センサ10によって検出された筒内圧に基づいて、燃焼重心CA50を推定する。本実施形態で推定されるエンジン1の燃焼状態は、燃焼重心CA50とする。
機関制御部(機関制御部122b)は、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2との比に基づいて、点火時期を制御する。例えば、機関制御部124bは、燃焼重心推定部124aが求めた燃焼重心CA50に基づいて、エンジン1の点火時期などを制御する。
【0083】
[燃焼重心の推定原理]
次に、燃焼重心の推定原理について、
図16~
図18を参照して説明する。
【0084】
図16は、基準燃焼重心CA50ref(°)と、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2の比との相関を示す特性図である。この特性図は、火花点火式エンジンを用いた、圧力比P2/P1と、基準燃焼重心CA50refとの実測結果を表す。燃焼重心推定部124aは、第一の筒内圧P1を、圧力センサ10によって点火時期近傍で取得し、第二の筒内圧P2を、燃焼終了時期近傍で取得する。なお、
図16は、エンジン1の体積効率、エンジン回転速度を一定にした圧力比P2/P1と、基準燃焼重心CA50refとの測定結果である。ここでは、その体積効率を基準体積効率ηref、その回転速度を基準回転速度Nrefと定義する。
【0085】
本願の発明者の新たな知見によれば、基準燃焼重心CA50refと、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧P2との比P2/P1との間には、
図16で示されるように強い相関が得られることが判った。このため、本願の発明者は、圧力比P2/P1から、基準燃焼重心CA50refを推定可能であることが判った。
【0086】
また、本願の発明者の新たな知見によれば、体積効率が基準体積効率ηrefと異なり、かつ、エンジン回転速度が基準回転速度Nrefと異なる場合には、燃焼重心推定部124aが基準体積効率ηrefと基準回転速度Nrefで推定された基準燃焼重心CA50refを補正することで、現在の回転速度、及び体積効率における燃焼重心CA50を推定可能であることが判った。
【0087】
図17は、体積効率(%)の変化に対する、基準燃焼重心CA50refからの補正量ΔCA50_1(°)の例を示す図である。
図18は、エンジン回転速度(1/min)の変化に対する、基準燃焼重心CA50refからの補正量ΔCA50_2(°)の例を示す図である。
これらの補正量ΔCA50_1,ΔCA50_2に基づき、現在の回転速度、体積効率における燃焼重心CA50が次式(2)で求められる。
【0088】
【0089】
また、燃焼重心推定部124aは、体積効率と回転速度だけではなく、例えばEGR率、空燃比、点火時期、冷却水温などに対しても、それぞれの基準値からの基準燃焼重心CA50refの補正量を求めておき、基準燃焼重心CA50refに補正をかけることで、より高精度に燃焼重心CA50を推定可能である。
【0090】
次に、コントローラ12Aによって実施される、燃焼重心CA50の推定処理について
図19を参照して説明する。
図19は、コントローラ12Aの燃焼重心推定部124aによって実施される、燃焼重心の推定手順の例を示すフローチャートである。
【0091】
始めに、燃焼重心推定部124aは、変数Rをゼロに初期化する(S21)。次に、燃焼重心推定部124aは、圧力センサ10によって検出された点火時期近傍の第一の筒内圧P1を取り込む(S22)。続いて、燃焼重心推定部124aは、圧力センサ10によって検出された燃焼終了時期近傍の第二の筒内圧P2を取り込む(S23)。
【0092】
次に、燃焼重心推定部124aは、第二の筒内圧P2と第一の筒内圧P1との比PR=P2/P1を求め(S24)、比PRを変数Rに足しこむ(S25)。燃焼重心推定部124aは、ステップS22からステップS25までを所定サイクル数N回(例えば、N=100)繰り返すことで、RにはNサイクル分の圧力比PRの積算値が求められる。
【0093】
Nサイクルが経過した後、燃焼重心推定部124aは、PRの積算値Rを所定サイクル数Nで除することによって圧力比PRのサイクル平均値PRmeanを求める(S26)。
【0094】
次に、燃焼重心推定部124aは、圧力比PRの平均値PRmeanから基準燃焼重心CA50refを算出する(S27)。コントローラ12Aの記憶部123には、予めキャリブレーションで求めた圧力比PRと基準燃焼重心CA50refとの相関が、相関式又はテーブルデータとして保持されている。燃焼重心推定部124aは、この相関式又はテーブルデータを参照することで、圧力比PRの平均値PRmeanから基準燃焼重心CA50refを算出する。
【0095】
引き続き、燃焼重心推定部124aは、基準燃焼重心CA50refと燃焼重心の補正値ΔCA50から、燃焼重心CA50を算出する。コントローラ12Aの記憶部123には、予めキャリブレーションで求めた、体積効率と燃焼重心補正値との相関、回転速度と燃焼重心補正値との相関、などが相関式又はテーブルデータとして保持されている。燃焼重心推定部124aは、この相関式又はテーブルデータを参照して、燃焼重心の補正値ΔCA50の和を求め、それらを基準燃焼重心CA50refに加えることで、燃焼重心CA50を求める(S28)。
【0096】
最後に、燃焼重心推定部124aは、求めた燃焼重心CA50を、機関制御部124bに送出する(S29)。
【0097】
[機関制御]
次に、機関制御部124bによる機関制御の例について説明する。
エンジンの熱効率を高めるには、燃焼重心を適切に設定する必要がある。
図20は、最適な燃焼重心CA50とエンジンの燃料消費率との一般的な関係を示す図である。
【0098】
一般的に、燃焼重心が適正時期よりも進角すると、ピストンの圧縮仕事が増加し熱効率が低くなる。また、燃焼重心が適正時期(目標)よりも遅角すると、排気エネルギーが増加し熱効率が低くなる。
【0099】
通常、エンジンは、燃焼重心が最適時期になるように、負荷や回転速度毎に点火時期が予め設定されている。しかし、環境条件の変化や、エンジン部品特性の経時変化などによって燃焼重心が最適時期から移動することが考えられる。そこで、機関制御部124bは、点火時期を制御して、燃焼重心を予め定められた最適時期に設定することで、環境条件の変化や、エンジン部品特性の経時変化があった場合でも、エンジンの熱効率を高く維持することができる。
【0100】
図21は、EGR制御を行うコントローラ12Aの制御ブロックの例を示す。
燃焼重心推定部124aは、エンジン1に設けられた圧力センサ10の出力(筒内圧)に基づき、現在の燃焼重心CA50を推定する。
【0101】
機関制御部124bが有する偏差算出部124cは、現在の燃焼重心CA50と目標燃焼重心CA50(図では「目標CA50」と記載)との偏差δCA50を求める。
機関制御部124bが有する点火時期演算部124dは、偏差δCA50に基づき、エンジン1の点火時期を演算する。点火時期演算部124dは、例えばPIDコントローラにより構成されており、現在の燃焼重心と目標燃焼重心が近づくように、エンジン1の点火時期を求める。そして、機関制御部124bは、点火時期演算部124dが求めた点火時期をエンジン1に送出し、新たな点火時期でエンジン1の運転が行われる。
【0102】
なお、本実施の形態では、燃焼重心CA50の推定方法について示したが、本発明は燃焼重心CA50に限定されるものでは無い。燃焼状態推定部は、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2との比に基づいて、燃焼位相を推定することが可能である。例えば、10%燃焼時期CA10や、90%燃焼時期CA90などの燃焼位相を、燃焼状態推定部が、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧P2との比P2/P1を用いて推定可能である。
【0103】
また、圧力比はP2/P1に限定されるものではなく、圧力比をP1/P2としても良い。さらに圧力比の代わりに圧力差ΔP=P2-P1、又はΔP=P1-P2を用いても同様の方法で燃焼位相を推定することができる。圧力差ΔP=P2-P1とする例について、
図22を参照して説明する。
【0104】
図22は、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2との差と、基準燃焼重心CA50ref(°)との相関を示す特性図である。この特性図は、火花点火式エンジンを用いた、圧力差P2-P1と、基準燃焼重心CA50refとの実測結果を表す。ここでも、第一の筒内圧P1は、圧力センサ10によって点火時期近傍に取得され、第二の筒内圧P2は、燃焼終了時期近傍に取得される。なお、
図22は、エンジン1の体積効率、エンジン回転速度を一定にして圧力差P2-P1と基準燃焼重心CA50refを測定した結果である。ここでは、その体積効率を基準体積効率ηref、その回転速度を基準回転速度Nrefと定義する。
【0105】
本願の発明者の新たな知見によれば、基準燃焼重心CA50refと、点火時期近傍に取得された第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧P2との圧力差P2-P1との間には、
図22で示されるように強い相関が得られることが判った。このため、本願の発明者は、圧力差P2-P1から、基準燃焼重心CA50refを推定可能であることが判った。
【0106】
また、本願の発明者の新たな知見によれば、体積効率が基準体積効率ηrefと異なり、かつ、エンジン回転速度が基準回転速度Nrefと異なる場合には、燃焼重心推定部124aが基準体積効率ηrefと基準回転速度Nrefで推定された基準燃焼重心CA50refを補正することで、現在の回転速度、及び体積効率における燃焼重心CA50を推定可能であることが判った。
【0107】
<放電電圧を用いて筒内圧を求める例>
上述した実施形態に係るコントローラ12,12Aは、圧力センサ10を用いて筒内圧を検出する例を示したが、圧力センサ10以外の方法を用いて筒内圧を求めることも可能である。
【0108】
例えば、コントローラ12は、点火コイル17aの放電電圧から筒内圧を求めることができる。そこで、燃焼状態推定部(圧力算出部31a)は、点火コイル(点火コイル17a)の電圧値、点火コイル(点火コイル17a)の電流値、又は点火コイル(点火コイル17a)の放電時間に基づいて、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2とを求めることが可能である。
【0109】
図23は、点火信号と、点火コイル17aの一次電圧及び二次電圧と、二次電流の時間履歴の一例を示す図である。点火コイル17aには、コントローラ12から点火信号が創出される。そして、点火コイル17aの一次側の電圧(一次電圧)と、二次側の電圧(二次電圧)及び二次側の電流(二次電流)が時間変化する。点火信号がハイレベルからローレベルに遷移したタイミングで二次電流が変化開始し、二次電流が元の値に戻るまでを放電期間と定義する。
【0110】
図24は、放電開始直後の一次電圧の最大値V1max、二次電圧の最大値V2maxと、放電時の筒内圧との相関を示す特性図である。
図24には、点火信号、点火コイル17aの一次電圧及び二次電圧、二次電流の変化の様子が示される。
【0111】
点火信号がハイレベルからローレベルに遷移すると点火コイル17aの二次側には大きな電位差が生じ、点火プラグ17bにて放電が開始される。放電開始直後の二次電圧の最大値V2max(kV)は、
図24に示されるように放電時の筒内圧と高い相関が現れる。このため、二次電圧の最大値V2maxを計測することで、放電時の筒内圧を求めることができる。
【0112】
また、点火プラグ17bの放電直後には点火コイル17aの一次側に逆起電力が生じ、放電開始直後の一次電圧の最大値V1max(V)についても、
図24に示されるように放電時の筒内圧と高い相関が現れる。このため、コントローラ12は、点火コイル17aの一次電圧の最大値V1maxを計測することでも、放電時の筒内圧を求めることができる。
【0113】
図25は、コントローラ12が点火コイル17aの二次電圧に基づいて筒内圧を求める場合における、点火コイル17aからコントローラ12までの構成例を示すブロック図である。
【0114】
内燃機関(エンジン1)は、点火コイル(点火コイル17a)と、点火コイル(点火コイル17a)の電圧を検出し、点火コイル(点火コイル17a)の電圧のピーク値を保持する電圧ピーク値保持部(ピークホールド回路30)と、を備える。そして、燃焼状態推定部(圧力算出部31a)は、ピーク値に基づいて第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2を算出する。
【0115】
点火コイル17aの二次電圧は、ピークホールド回路30に送出され、ピークホールド回路30によって、所定時間内に計測された二次電圧のピーク値がホールドされ、この二次電圧のピーク値が、二次電圧の最大値V2maxとして検出される。ピークホールド回路30は、点火コイル17aに点火信号を供給する回路内に設けられてよい。
【0116】
ピークホールド回路30は、二次電圧の最大値V2maxをコントローラ12に送出する。コントローラ12内の圧力算出部31aは、予めキャリブレーションによって求められた二次電圧最大値V2maxと筒内圧との相関式、又はテーブルデータを用いて、放電時の筒内圧を求める。
【0117】
また、圧力算出部31aは、点火コイル17aの一次電圧から筒内圧を求める処理を、二次電圧から筒内圧を求める処理と同様に行う。即ち、ピークホールド回路30によって点火コイル17aの一次電圧の最大値V1maxが検出され、コントローラ12に送出される。コントローラ12に設けられた圧力算出部31aは、予めキャリブレーションによって求められた一次電圧最大値V1maxと筒内圧との相関式、又はテーブルデータを用いて、放電時の筒内圧を求める。
【0118】
本実施の形態に係る燃焼状態の推定手法に、点火コイル17aによる筒内圧検知を適用する場合、まず圧力算出部31aは、点火時期の放電に伴う二次電圧最大値V2max、又は一次電圧最大値V1maxに基づいて、第一の筒内圧P1を求める。また、燃焼の終了時期近傍において、コントローラ12が点火コイル17aに点火信号を送出し、点火コイル17aによる放電を行う。第二の筒内圧P2を求めるタイミングで2回目の放電が行われるが、このタイミングでは点火しない。圧力算出部31aは、この放電時の点火コイル17aの二次電圧最大値V2max、又は一次電圧最大値V1maxに基づいて第二の筒内圧P2を求める。
【0119】
圧力算出部31aが点火コイル17aの電圧に基づいて筒内圧を求める場合には、点火コイル17aの充電と放電が必要であるため、筒内圧の検知は一定間隔(例えば4ms)以上空ける必要がある。ただし、本実施の形態に係る燃焼状態の検知方法では、圧力算出部31aが点火時期近傍と、燃焼終了時期近傍で筒内圧を検出すればよい。通常、点火時期と燃焼終了時期との間隔は、点火コイル17aの充放電時間に比べて長い。このため、本実施の形態に係る燃焼状態の推定手法において、点火コイル17aの電圧に基づいて筒内圧を検知する手法を適用することは好適である。
【0120】
このように圧力算出部31aが点火コイル17aの電圧に基づいて筒内圧を検出すると、圧力センサ10が不要となり、エンジンシステムのコストを低減することができる。また、エンジンに圧力センサ10を取り付けるためのスペースが不要となり、冷却水通路や燃焼室形状などエンジン設計の自由度が大きくなるメリットがある。
【0121】
(放電期間を用いて筒内圧を求める例)
なお、筒内圧は、点火コイル17aの最大電圧のみでなく、放電期間を用いても求めることが可能である。一般に筒内圧が高くなると点火コイル17aの放電期間は短くなる。
図26には、放電開始から、点火コイル17aの二次電流が所定値以下になるまでの期間が放電期間であることが示される。
【0122】
図26は、放電期間と、放電時の筒内圧との相関を示す特性図である。この特性図は、火花点火式エンジンを用いて、放電期間[ms]と、放電時の筒内圧との実測結果を表す。
【0123】
本願の発明者の新たな知見によれば、放電期間と、放電時の筒内圧との間には、
図26で示されるように強い相関を得られることが判った。圧力算出部31aは、筒内圧と点火コイル17aの放電期間との相関を用いて筒内圧を求めることができる。このため、放電期間から点火時期近傍に取得された第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍に取得された第二の筒内圧P2とに基づいて、燃焼重心CA50を推定することが可能となる。
【0124】
(クランク軸の角加速度を用いて筒内圧を求める例)
更に、燃焼状態推定部(圧力算出部31b)は、クランク軸の角加速度に基づいて、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2とを求めることができる。
クランク軸の角加速度は次式(3)で表される。ωはクランク回転速度、Jは慣性モーメント、Teは燃焼トルク、TLは負荷トルクを表す。なお、負荷トルクTLは、エンジン1の回転速度に基づいて推定される。
【0125】
【0126】
また、燃焼トルクTeは筒内圧Pcとクランク角θの関数である次式(4)で表される。
【0127】
【0128】
コントローラ12は、クランク角θにおけるクランク軸の角加速度dω/dtを式(3)に代入し、式(4)との連立方程式を解くことで、クランク角θにおける筒内圧Pcを求めることができる。
【0129】
図27は、コントローラ12がクランク軸の角加速度に基づいて筒内圧を求める場合における、クランク角センサ11からコントローラ12までの構成例を示すブロック図である。
【0130】
内燃機関(エンジン1)は、クランク軸の角加速度を算出する角加速度算出部(角加速度算出部32)を備える。
また、燃焼状態推定部(圧力算出部31b)は、クランク軸の角加速度に基づいて、第一の筒内圧P1と第二の筒内圧P2を算出する。
【0131】
クランク角センサ11によって検出されたクランク角θは、角加速度算出部32に送出される。角加速度算出部32は、クランク角θを用いて、クランク軸の角加速度dω/dtを算出する。そして、角加速度算出部32は、クランク軸の角加速度dω/dtと、クランク角θとをコントローラ12に送出する。コントローラ12内の圧力算出部31bは、式(3)、式(4)の連立方程式を解くことで筒内圧を求める。
【0132】
本実施の形態に係る燃焼状態の推定手法に、クランク軸の角加速度による筒内圧検知を適用する場合は、点火時期近傍と燃焼終了時期近傍に、角加速度算出部32がクランク角センサ11を用いてクランク軸の角加速度dω/dtを検出する。そして、圧力算出部31bが角加速度dω/dtを用いて式(3)、式(4)の連立方程式を解くことで、点火時期近傍における第一の筒内圧P1と、燃焼終了時期近傍における第二の筒内圧P2を求める。
【0133】
このようにクランク軸の角加速度に基づいて筒内圧Pcを検出すると、圧力センサ10が不要となり、エンジンシステムのコストを低減することができる。
【0134】
以上説明した第1及び第2の実施の形態に係るコントローラ12では、筒内圧を用いて、燃焼状態(トルク変動、燃焼位相)を精度よく推定することができる。第1及び第2の実施の形態では、燃焼状態の推定に1サイクルあたりに点火時期近傍と燃焼終了時期近傍に取得された2点の筒内圧を用いて、燃焼状態を正確に推定することができる。また、2点の筒内圧で計算するため、所要メモリ、所要演算負荷を少なくすることができる。
【0135】
また、高速度の圧力サンプリングが不要であるため、コントローラ12は、筒内圧センサを用いなくても、点火コイル17aやクランク角センサ11など、既存のエンジンデバイスを用いて筒内圧を検出可能である。これらによって、燃焼状態推定に必要なシステムコストを低く抑えることが可能である。
【0136】
<その他>
本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにコントローラ12の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成要素に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成要素を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
また、上記のコントローラ12の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いてもよい。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
また、
図3と
図19に示すフローチャートにおいて、処理結果に影響を及ぼさない範囲で、複数の処理を並列的に実行したり、処理順序を変更したりしてもよい。
【符号の説明】
【0137】
1…エンジン、10…圧力センサ、12…コントローラ、17a…点火コイル、17b…点火プラグ、30…ピークホールド回路、31a…圧力算出部、31b…圧力算出部、32…角加速度算出部、121…入出力部、122…制御部、122a…トルク変動推定部、122b…機関制御部、122c…偏差算出部、122d…操作量演算部、123…記憶部