(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電子顕微鏡及び検出ユニット
(51)【国際特許分類】
H01J 37/244 20060101AFI20241126BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/26
(21)【出願番号】P 2021112081
(22)【出願日】2021-07-06
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 佳和
(72)【発明者】
【氏名】川本 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】久保 友則
(72)【発明者】
【氏名】材木 寿志
(72)【発明者】
【氏名】ティミシェル フェリックス
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180903(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/016988(WO,A1)
【文献】特開平11-016531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室内の試料に対して電子線を照射する照射部と、
前記試料から放出される電子に由来するガスシンチレーション光を検出する検出ユニットと、
前記試料室を囲むハウジングと、
を含み、
前記検出ユニットは、
前記試料室内に設けられた入射窓を有する
光電子増倍管と、
前記入射窓へ電子を引き寄せるための電界を生じさせる電極と、
前記ハウジングに固定されて前記光電子増倍管を保持する保持器と、
を含み、
前記保持器は、
前記光電子増倍管を収容した保持器本体と、
前記保持器本体に固定された絶縁部材であって、前記入射窓の周縁に当たる環状フックを有し、前記光電子増倍管の前進運動を制限するキャップと、
を含み、
前記試料室内において前記入射窓が露出しており、前記ガスシンチレーション光が導光部材を経由せずに前記入射窓に到達する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記電極は前記入射窓を覆うように前記入射窓に対してギャップを介して設けられ、
前記電極は前記ガスシンチレーション光を通過させる複数の開口を有する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項
1記載の電子顕微鏡において、
前記環状フックは前記周縁に当たる環状斜面を有し、
前記保持器本体は前記キャップを囲む環状部材を有し、
前記環状斜面の作用により前記光電子増倍管の前進力が前記環状フックの広がり力に転換され、
前記環状フックの広がりが前記環状部材によって抑制される、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項
1記載の電子顕微鏡において、
前記環状フックは、前記入射窓と前記電極との間においてスペーサとして機能する部分を含む、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項
1記載の電子顕微鏡において、
前記キャップは、前記光電子増倍管の中心軸に対して直交する方向に広がる鍔部を有し、
前記保持器本体は、前記鍔部を挟み込む筒状部材及び環状部材を有する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項
1記載の電子顕微鏡において、
前記保持器は、前記
光電子増倍管の外面と前記保持器の内面との間においてシール作用を発揮する弾性部材を有する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項2記載の電子顕微鏡において、
前記
光電子増倍管は、傾斜した中心軸を有し、
前記電極は、
前記複数の開口を有するグリッド部と、
前記グリッド部から前記中心軸に直交する水平方向の一方側へ引き出された第1アームと、
前記グリッド部から前記水平方向の他方側へ引き出された第2アームと、
を有し、
前記第1アーム及び前記第2アームの内の少なくとも一方に信号線が接続されている、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
電子顕微鏡に設けられ、試料から放出される電子に由来するガスシンチレーション光を検出する検出ユニットであって、
前記電子顕微鏡の試料室内に設けられた入射窓を有する光電子増倍管と、
前記入射窓へ電子を引き寄せるための電界を生じさせる電極と、
前記電子顕微鏡の試料室を囲むハウジングに固定されて前記光電子増倍管を保持する保持器と、
を含み、
前記保持器は、
前記光電子増倍管を収容した保持器本体と、
前記保持器本体に固定された絶縁部材であって、前記入射窓の周縁に当たる環状フックを有し、前記光電子増倍管の前進運動を制限するキャップと、
を含み、
前記試料室内において前記入射窓が露出しており、前記ガスシンチレーション光が導光部材を経由せずに前記入射窓に到達する、
ことを特徴とする検出ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡及び検出ユニットに関し、特に、ガスシンチレーション現象によって生じた光を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガスシンチレーション現象によって生じた光(以下、ガスシンチレーション光)を検出する検出部を備えた電子顕微鏡が開示されている。検出部は、光電子増倍管、ライトガイド、及び、電極を有する。電極は、試料から放出された二次電子、及び、二次電子に由来する電子(気体分子の電離により生じた電子)を引き寄せるための電界を生じさせる。その電界により、いわゆるカスケード増幅が生じ、ガスシンチレーション現象に寄与する電子の個数が増大する。
【0003】
ライトガイドに入ったガスシンチレーション光は、ライトガイドの後面を通過して光電子増倍管の入射窓に到達する。これによりガスシンチレーション光が検出される。ライトガイドの後面と光電子増倍管の入射窓は接合されている。換言すれば、光電子増倍管の入射窓それ全体がライトガイドの後面によって覆われている。ガスシンチレーション光の検出によれば、試料からの情報を応答性良く収集できる。すなわち、二次元の試料画像の形成に際し、電子ビームの走査速度を上げられる。
【0004】
一般に、光電子増倍管内のダイノード部分には負の高電圧が印加される。対物レンズ、試料ステージ等(試料室内の構造物)に対して光電子増倍管を不用意に近付けると、放電現象が生じる。放電現象の発生を回避するために、光電子増倍管の受光面を試料室内の構造物から遠ざけるという認識が今までの一般的な認識であった、と認められる。
【0005】
なお、特許文献2には、検出部を有する荷電粒子線装置が開示されている。検出部は、試料室内に配置されており、それはシンチレータ及び光電子増倍管を有する。特許文献2には、ガスシンチレーション光の検出については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-182550号公報
【文献】特開2014-132598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光電子増倍管の入射窓の前側に導光部材(ライトガイド等)を設ける場合、導光部材内での光の減衰や光スペクトルの変化という問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、ガスシンチレーション光を直接的に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電子顕微鏡は、試料室内の試料に対して電子線を照射する照射部と、前記試料から放出される電子に由来するガスシンチレーション光を検出する検出ユニットと、を含み、前記検出ユニットは、前記試料室内に設けられた入射窓を有する光検出器と、前記入射窓へ電子を引き寄せるための電界を生じさせる電極と、を含み、前記試料室内において前記入射窓が露出しており、前記ガスシンチレーション光が導光部材を経由せずに前記入射窓に到達する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る検出ユニットは、電子顕微鏡に設けられ、試料から放出される電子に由来するガスシンチレーション光を検出する検出ユニットであって、前記電子顕微鏡の試料室内に設けられた入射窓を有する光電子増倍管と、前記入射窓へ電子を引き寄せるための電界を生じさせる電極と、を含み、前記試料室内において前記入射窓が露出しており、前記ガスシンチレーション光が導光部材を経由せずに前記入射窓に到達する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導光部材を用いることなく、ガスシンチレーション光を直接的に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る電子顕微鏡を示す模式図である。
【
図6】検出ユニットの先端部を示す第1断面図である。
【
図7】検出ユニットの先端部を示す第2断面図である。
【
図8】パッシェン(Paschen)の法則を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る電子顕微鏡は、照射部、及び、検出ユニットを有する。照射部は、試料室内の試料に対して電子線を照射する。検出ユニットは、試料から放出される電子に由来するガスシンチレーション光を検出する。検出ユニットは、試料室内に設けられた入射窓を有する光検出器と、入射窓へ電子を引き寄せるための電界を生じさせる電極と、を含む。試料室内において入射窓が露出しており、ガスシンチレーション光が導光部材を経由せずに入射窓に到達する。
【0015】
上記構成によれば、ガスシンチレーション光が入射窓に直接的に到達するので、導光部材内での光の減衰や光スペクトルの変化という問題が生じない。実施形態に係る検出ユニットにおいては、後述するように、放電を防止しつつ入射窓を試料に対して近付けるために、幾つかの新しい構造及び条件が採用されている。
【0016】
試料から放出される電子の概念には、二次電子が含まれる。その概念に、反射電子が含まれてもよい。ガスシンチレーション光は、ガスシンチレーション現象により生じる光である。低真空下にある試料室内には若干の気体が含まれる。試料から放出される電子が気体分子を電離させ、その電離により生じた電子が他の気体分子を電離させる。このような現象が繰り返され、移動する電子数が増大していく。これはカスケード増幅と称されている。カスケード増幅の過程において又はカスケード増幅の結果として、ガスシンチレーション光が生じる。光検出器の概念には光電子増倍管が含まれる。光電子増倍管以外の光検出器が用いられてもよい。
【0017】
実施形態において、電極は、入射窓を覆うように入射窓に対してギャップを介して設けられる。電極はガスシンチレーション光を通過させる複数の開口を有する。電極は集光電極として機能する。電極における開口率を大きくすれば、電極において遮断される光の量を低減できる。
【0018】
光検出器として光電子増倍管を用いる場合、光電子増倍管に印加される負の高電位に起因して放電が生じ易くなる。その放電には、光電子増倍管と電極との間の放電が含まれる。パッシェンの法則によれば、入射窓と電極との間のギャップを小さくすると、それらの間で生じ得る放電を抑制できる。実施形態においては、かなり小さなギャップが設定されている。
【0019】
実施形態に係る電子顕微鏡は、試料室を囲むハウジングを有する。検出ユニットは、ハウジングに固定されて光検出器を保持する保持器を有する。実施形態において、光検出器は光電子増倍管である。保持器は、保持器本体、及び、キャップを有する。保持器本体は、光電子増倍管を収容する。キャップは、保持器本体に固定された絶縁部材であって、入射窓の周縁に当たる環状フックを有し、光電子増倍管の前進運動を制限する。
【0020】
試料室の圧力が下がると、光電子増倍管を試料室内に引き込む力(光電子増倍管の前進力)が生じる。上記構成によれば、入射窓の周縁が環状フックに当たっており、光電子増倍管の前進運動が制限される。
【0021】
実施形態において、環状フックは、入射窓の周縁に当たる環状斜面を有する。保持器本体は、キャップを囲む環状部材を有する。環状斜面の作用により光電子増倍管の前進力が環状フックの広がり力に転換される。環状フックの広がりが環状部材によって抑制される。この構成によれば、環状部材により、光電子増倍管の前進力を効果的に又は自然に吸収することが可能となる。
【0022】
実施形態において、環状フックは、入射窓と電極との間においてスペーサとして機能する部分を含む。このスペーサの厚みが上記ギャップの大きさを規定する。
【0023】
実施形態において、キャップは、光電子増倍管の中心軸に対して直交する方向に広がる鍔部を有する。保持器本体は、鍔部を挟み込む筒状部材及び環状部材を有する。鍔部の挟み込みにより、キャップが確実に保持される。
【0024】
実施形態において、保持器は、光検出器の外面と保持器の内面との間においてシール作用を発揮する弾性部材を有する。この構成によれば、試料室の真空度を維持できる。
【0025】
実施形態において、光検出器は、傾斜した中心軸を有する。電極は、複数の開口を有するグリッド部と、グリッド部から中心軸に直交する水平方向の一方側へ引き出された第1アームと、グリッド部から中心軸に直交する水平方向の他方側へ引き出された第2アームと、を有する。第1アーム及び第2アームの内の少なくとも一方に信号線が接続されている。
【0026】
仮に、2つのアームを中心軸及び水平方向に直交する方向に引き出した場合、一方のアームが対物レンズに近付き、他方のアームが試料ステージに近付くことになる。これにより放電が生じ易くなる。上記構成によれば、2つのアームがいずれも水平方向に引き出されているので、それらが対物レンズ及び試料ステージに近付かない。
【0027】
実施形態に係る検出ユニットは、電子顕微鏡に設けられ、試料から放出される電子に由来するガスシンチレーション光を検出するものである。検出ユニットは、光電子増倍管、及び、電極を有する。光電子増倍管は、電子顕微鏡の試料室内に設けられた入射窓を有する。電極は、入射窓へ電子を引き寄せるための電界を生じさせる。試料室内において入射窓が露出しており、ガスシンチレーション光が導光部材を経由せずに入射窓に到達する。検出ユニットにより、ガスシンチレーション光の他に、電子及びイオンが検出されてもよい。
【0028】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る電子顕微鏡が模式的に示されている。図示された電子顕微鏡は走査電子顕微鏡である。電子顕微鏡は、観察部10及び情報処理部12を有する。
【0029】
観察部10は、照射部13、ハウジング14、試料ステージ22等を有する。照射部13は、電子ビーム20を生成するものであり、照射部13には、電子銃、集束レンズ、対物レンズ18等が含まれる。ハウジング14の内部空間が試料室16である。試料ステージ22上には試料ホルダ24が設置されており、試料ホルダ24によって試料26が保持されている。試料ステージ22により、試料26の位置及び姿勢が変更される。
【0030】
試料室16は低真空状態にあり、試料室16内には僅かながら気体(エア)が含まれる。ハウジング14には複数のポートが形成されており、その内のいずれかのポート30に検出ユニット28が取り付けられている。エアに代えて他のガス(例えば不活性ガス)を用いてもよい。
【0031】
検出ユニット28は、ガスシンチレーション光を検出する機能を有する。検出ユニット28は、光検出器としての光電子増倍管(PMT)32を有する。光電子増倍管32の入射窓34は、試料室16内において、試料26の方を向きつつ、試料26に対して比較的に近い位置に設けられている。入射窓34は、試料室16内に臨んでおり、それは試料室16内において露出している(入射窓34の全部が剥き出し状態にある)。光電子増倍管32の中心軸は傾斜している。その中心軸に対して入射窓34は直交している。
【0032】
検出ユニット28は、電極36を有する。電極36は、電子を捕集する電界、つまり電子を引き寄せる電界を生じさせるものである。電極36には、正の数百Vの電圧が印加されている。電極36は、入射窓34を覆うように、入射窓34に近接した位置に設けられている。入射窓34と電極36との間にはギャップが存在する。
【0033】
電極36が有する複数の開口をガスシンチレーション光が通過し、そのガスシンチレーション光が入射窓34に到達する。これにより、ガスシンチレーション光が光電子増倍管32により検出される。より詳しくは、光電子増倍管32は、光電面及び増倍部を有する。入射窓を通過して、光電子増倍管32の内部に進入した光が、光電面において光電子に変換される。その光電子が増倍部において高い増倍率で増倍される。増倍部には、負の高電圧が印加されている。
【0034】
試料26に対して電子ビーム20が照射されると、試料から二次電子が放出される。二次電子が電界の作用により、電極36の方へ導かれる。その過程において、二次電子が気体分子に衝突し、その気体分子を電離させる。これにより電子が生じる。その電子も電界の作用により電極36の方へ導かれる。その電子が他の気体分子を電離させる。気体分子の電離の段階的な増大により、移動する電子数が増大していく。
【0035】
そのようなカスケード増幅過程において、気体中の原子又は分子が励起状態になる。その後、励起状態から基底状態へ遷移すると、その遷移に伴って光が生じる。それはガスシンチレーション現象と呼ばれる。ガスシンチレーション現象により生じた光を本願明細書ではガスシンチレーション光と称している。ガスシンチレーション光は様々な方向に放射されるが、その中で、電極36における複数の開口を通過したガスシンチレーション光、及び、電極36の外側を通過したガスシンチレーション光が、光電子増倍管32の入射窓34に到達する。
【0036】
図1において、符号46はカスケード増幅の過程を表現している。符号48はガスシンチレーション光を表現している。符号50は、カスケード増幅の過程を経て電極36に到達した電子を表現している。電極36は、電子を検出する機能を備えている。検出ユニット28に、イオンを検出する他の電極を設けてもよい。
【0037】
電子ビームの二次元走査の過程で、ガスシンチレーション光が連続的に検出される。二次電子に由来するガスシンチレーション光の他、反射電子に由来するガスシンチレーション光が検出されてもよい。
【0038】
続いて、情報処理部12について説明する。情報処理部12は例えば情報処理装置(コンピュータ)により構成される。
図1においては、情報処理部12が有する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。情報処理部12は、制御部38、画像形成部40、画像形成部42、電圧印加部44等を有する。電子顕微鏡に対して検出ユニット28が設置される場合に、画像形成部40、画像形成部42及び電圧印加部44が機能する。
図1においては、二次電子検出器からの信号や反射電子検出器からの信号を処理する他のモジュールについては図示省略されている。
【0039】
制御部38は、照射部13を含む観察部10の動作を制御する。制御部38は、検出ユニット28の動作を制御し、試料室16の圧力を制御する。画像形成部40は、光電子増倍管32の出力信号(ガスシンチレーション光検出信号)に基づいて二次元の試料画像を生成するものである。
図1においては、光電子増倍管32の出力信号を処理する電子回路の図示が省略されている。なお、他の検出ユニットが備える既存の増幅回路に対して光電子増倍管32の出力信号を与えてもよい。
【0040】
画像形成部42は、電極36からの出力信号(電子検出信号)に基づいて二次元の試料画像を生成するものである。
図1においては、電極36の出力信号を処理する電子回路の図示が省略されている。電圧印加部44は、電極36に対して正の高電圧を印加するものである。その高電圧は、例えば、+300V~+500Vの範囲内に設定される。放電を生じさせず、且つ、電子を効果的に捕集できるよう、正の高電圧が定められる。電極36への高電圧の印加により、電子を引き寄せる電界が形成される。
【0041】
図2には、検出ユニット28の詳細な断面が示されている。既に説明したように、検出ユニット28は、ハウジング14に固定されている。具体的には、ハウジング14には複数のポート(開口部、取付部)が形成されており、その中の特定のポートに検出ユニット28が固定されている。図示の例では、スペーサとして機能する環状の台座31に対して検出ユニット28が固定されている。検出ユニット28の先端部分は、台座31の内部を通過して試料室内に進入している。検出ユニット28の後端部分は、ハウジング14の外部へ突出している。
【0042】
光電子増倍管32は円筒状の形態を有する。光電子増倍管32の先端面が入射窓34である。入射窓34はガラス等の透明性を有する部材により構成される。光電子増倍管32の中心軸に平行な方向がz方向であり、それに直交する2つの方向がx方向及びy方向である。x方向は水平方向であり、つまり、観察部が有する光軸に対して直交する方向であり、換言すれば、床面に対して平行な方向である。y方向は、z方向及びx方向に直交する方向である。光電子増倍管32の中心軸は傾斜軸である。入射窓34は、x方向及びy方向に広がる面であり、入射窓34は傾斜面である。なお、
図2においては、光電子増倍管32の内部構造の図示が省略されている。検出ユニット28の内部構造の一部の図示も省略されている。光電子増倍管32に代えて、他の光検出器を用いてもよい。
【0043】
検出ユニット28は、保持器51を有する。保持器51の内部に光電子増倍管32が収容されており、保持器51によって光電子増倍管32が保持されている。保持器51は、具体的には、筒状部材52、キャップ58及び環状部材60により構成される。筒状部材52及び環状部材60が保持器本体を構成し、保持器本体にキャップが固定されている。
【0044】
筒状部材52は、鉄等の金属により構成される中空部材である。筒状部材52をシリンジと称してもよい。筒状部材52の内部には、絶縁部材により構成される中空のシース54が設けられている。シース54は光電子増倍管32の周囲を囲む緩衝部材である。筒状部材52の先端部の内面は、光電子増倍管32の外面に近接しており又は接触している。
【0045】
キャップ58は、高い絶縁性をもった絶縁部材(例えば樹脂)により構成される。後述するように、キャップ58は、鍔部を有するハット状の形態を有する。キャップ58の先端部分(試料に近い端部)には、開口が形成されており、その開口を通じて入射窓34が露出する。キャップ58は、後に詳述する環状フックを有する。環状フックが、光電子増倍管32の前進運動を制限しており、また、電極36と入射窓34との間のギャップの大きさを規定している。
【0046】
環状部材60は、キャップ58を包み込む中空の形態を有する。環状部材60は、鉄等の金属により構成されている。筒状部材52及び環状部材60からなる保持器本体はシール作用を発揮する。環状部材60の後端面と筒状部材52の先端面との間に、キャップ58の鍔部が挟み込まれている。
【0047】
光電子増倍管32の外面と保持器本体の内面との間の隙間をシールするため絶縁部材からなるOリング61が設けられている。具体的には、筒状部材52の先端部にテーパー部が形成されており、それによって三角形の断面を有する隙間が生じている。その隙間にOリング61が配置されている。
【0048】
図3には、検出ユニットの先端部が示されている。筒状部材52と環状部材60との間にキャップ58の鍔部が挟み込まれている。入射窓に対してギャップを介した位置に電極36が配置されている。電極36と入射窓は非接触である。
図3におけるA-A断面が後に説明する
図6に示されている。
図3におけるB-B断面が後に説明する
図7に示されている。
【0049】
図4を用いて電極36について詳述する。
図4において、横方向がx方向つまり水平方向であり、縦方向がy方向である。電極36は、それ全体として、シート状又はフィルム状の形態を有する。電極36の厚みは例えば0.1~0.5mmの範囲内にあり、実施形態においては、0.2~0.3mmの範囲内にある。電極36は、導電性部材としての例えば銅により構成される。
【0050】
電極36は、電極本体としてのグリッド部62を有する。グリッド部62からx方向一方側にアーム64が引き出されており、グリッド部62からx方向他方側にアーム66が引き出されている。グリッド部62は、円形の外枠70及びその内部に設けられた複数の線状要素68により構成される。グリッド部62は複数の開口69を有する。各開口69は水平方向に伸長したスリットである。グリッド部62における開口率は例えば60%以上であり、望ましくは70%以上である。グリッド部62の形態つまり開口パターンとして各種のものを採用し得る。入射窓34の大部分がグリッド部62によって覆われている。グリッド部62の外側において入射窓34の一部が露出している。
【0051】
アーム64は、絶縁性を有するネジ72によって、環状部材に固定されている。同じく、アーム66は、絶縁性を有するネジ74によって、環状部材に固定されている。アーム66には信号線76が接続されている。信号線76によって電極36に対して正の高電圧が印加される。また、電極36への電子の到達によって生成される信号が信号線76を介して外部に取り出されている。
【0052】
仮に、2つのアーム64,66をy方向に平行に配置した場合、一方のアームが対物レンズに近付き、他方のアームが試料ステージに近付く。これにより放電が生じ易くなる。2つのアーム64,66をx方向に平行に配置すれば、そのような問題が生じない。
【0053】
図5には、キャップ58が示されている。キャップ58の一部が破断されており、キャップ58の断面が露出している。キャップ58は、筒状のキャップ本体78及び鍔部80を有する。鍔部80は、光電子増倍管の中心軸に直交する方向に広がっている。キャップ本体78の先端部分が環状フック82を構成している。環状フック82は、中心軸に近付くように内側へ折れ曲がった形態を有し、環状フック82の縁が開口を画定している。環状フック82の内側には環状の斜面84が設けられている。斜面84は、中心軸に対して傾斜した面であり、それは入射窓の方を向いている。
【0054】
図6には、検出ユニットの先端部のA-A断面が示されている。筒状部材52の先端部には斜面(テーパー面)92が形成され、それによって隙間が生じている。その隙間にOリング61が配置されている。筒状部材52の先端面と環状部材60の後端面との間に、キャップ58の鍔部80が挟み込まれている。光電子増倍管32の入射窓34に対して微小のギャップGを介して電極36が配置されている。電極36における2つのアームが2つの絶縁性ネジ72,74によって環状部材60に固定されている。符号86,88は、絶縁性ワッシャを示している。符号76は信号線を示している。
【0055】
環状フック82が有する環状の斜面84に対して、光電子増倍管32の角部分、つまり入射窓34の周縁90が当接している。試料室内の圧力の減少に伴って、光電子増倍管32に対してそれを試料室内に引き込む力が働く。つまり、光電子増倍管32の前進力z1が生じる。前進力z1が斜面84に及ぶと、環状フック82を外側に広げる拡張力x1が生じる。つまり、斜面84と周縁90の当接関係により、前進力z1が拡張力x1に転換される。環状フック82が広がろうとしても、環状フック82は環状部材60によって包み込まれているので、環状フック82の拡張は制限される。つまり、光電子増倍管32の前進運動が環状フック82によって阻止されることになる。実施形態によれば、複雑な保持構造を設けることなく、しかも、ギャップGを増大させることなく、光電子増倍管32を確実に保持することが可能である。
【0056】
環状フック82において、電極36と入射窓34との間に存在している部分82aがスペーサとして機能する。その部分82aの厚みを調整することにより、所望の大きさをもったギャップGを容易に実現できる。
【0057】
図7には、検出ユニットの先端部のB-B断面が示されている。環状部材60は複数の導電性ネジ94によって筒状部材52に固定されている。
【0058】
図8はパッシェンの法則が示されている。横軸は、ガス圧力とギャップ長の乗算値を示している。縦軸は放電開始電圧を示している。U字状又はJ字状の特性は、谷の頂点Vを基準として、乗算値を上げても下げても、放電開始電圧を高められることを意味している。所定のガス圧力を前提として、集光率を高くし且つ放電を確実に防止するために、頂点Vよりも左側の範囲Rの中に乗算値が入るように、ギャップGの大きさ(及び電極印加電圧)を定めることが望まれる。電極と入射窓との接触を回避する必要もある。例えば、ギャップGの大きさは、0.2~2.0mmの範囲内に設定され、望ましくは、0.5~1.0mmの範囲内に設定される。
【0059】
実施形態においては、光電子増倍管と試料室内の構造物との間での放電を生じさせないという条件が満たされるように、検出ユニットの挿入量、及び、電極印加電圧が定められる。
【0060】
上記実施形態によれば、光電子増倍管の前段に導光部材が設けられていないので、ガスシンチレーション光を直接的に検出できる。光電子増倍管の入射窓に近接させて電極を設けたので、集光率を引き上げることができ、且つ、光電子増倍管と電極との間の放電を防止できる。また、上記実施形態によれば、簡易な構造により、光電子増倍管を確実に保持しつつ所望のギャップを設定できる。
【符号の説明】
【0061】
10 観察部、12 情報処理部、14 ハウジング、26 試料、28 検出ユニット、32 光電子増倍管、34 入射窓、36 電極、44 電圧印加部、51 保持器、52 筒状部材、58 キャップ、60 環状部材、62 グリッド部、82 環状フック、84 斜面。