(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20241126BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20241126BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
H01J37/09 A
(21)【出願番号】P 2021132241
(22)【出願日】2021-08-16
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】糸瀬 悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛之
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 晴基
(72)【発明者】
【氏名】千葉 悠希
(72)【発明者】
【氏名】新美 大伸
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-109960(JP,A)
【文献】特開2004-095459(JP,A)
【文献】特開平11-025898(JP,A)
【文献】特開2012-234754(JP,A)
【文献】特開平03-067449(JP,A)
【文献】特開2010-016002(JP,A)
【文献】特開平11-233053(JP,A)
【文献】特開2020-181629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0320385(US,A1)
【文献】米国特許第06166380(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0286160(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0125806(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出する電子銃と、
前記電子線の一部を通過させる絞り孔を有する絞りと、
前記電子線を集束して電子プローブを形成するレンズと、
前記電子プローブで試料を走査することによって前記試料から放出された電子を検出する検出器と、
前記検出器で前記電子を検出することによって得られた走査電子顕微鏡像を取得し、前記走査電子顕微鏡像に基づいて前記電子プローブの径の推定値を求める処理部と、
を含
み、
前記処理部は、
前記走査電子顕微鏡像に基づいて非点収差量を求め、
前記推定値が所定範囲外か否かを判定し、
前記推定値が前記所定範囲外と判定した場合に前記非点収差量が所定値以下か否かを判定し、
前記非点収差量が前記所定値以下と判定した場合に、前記絞りを加熱し、
前記非点収差量が前記所定値以下ではないと判定した場合に、前記絞りの交換を通知する、走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記処理部は、前記走査電子顕微鏡像に基づいてコントラスト伝達関数を求め、前記コントラスト伝達関数に基づいて前記推定値を求める、走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、
前記処理部は、前記走査電子顕微鏡像に基づいて像シャープネスを求め、前記像シャープネスに基づいて前記推定値を求める、走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか1項において、
前記絞りは、前記絞り孔と同じ絞り径を有する基準絞り孔を有し、
前記処理部は、
前記絞りを用いて得られた第1走査電子顕微鏡像に基づいて、第1推定値を求め、
前記基準絞り孔を用いて得られた第2走査電子顕微鏡像に基づいて、第2推定値を求め、
前記第1推定値と前記第2推定値を比較する、走査電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡は、電子線の一部を通過させる絞りを有しており、絞りによって不要な電子線をカットできる。
【0003】
走査電子顕微鏡を長時間使用すると、絞り孔の縁にハイドロカーボンなどの汚れが付着してしまう場合がある。絞りの縁に汚れが付着すると、プローブ電流が減少し、SEM像のコントラストが小さくなってしまう。そのため、定期的に絞りをクリーニングしたり、絞りを交換したりする必要があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、SEM像の画質の良否、真空度の良否、電子線の軸ずれの有無、ならびに、非点の大小から、絞り孔の汚染をチェックし、絞りのクリーニング時期を自動で判断できる走査電子顕微鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、絞りの汚染をチェックするために、SEM像の画質の良否、真空度の良否、電子線の軸ずれの有無、ならびに、非点の大小を判断しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る走査電子顕微鏡の一態様は、
電子線を放出する電子銃と、
前記電子線の一部を通過させる絞り孔を有する絞りと、
前記電子線を集束して電子プローブを形成するレンズと、
前記電子プローブで試料を走査することによって前記試料から放出された電子を検出する検出器と、
前記検出器で前記電子を検出することによって得られた走査電子顕微鏡像を取得し、前記走査電子顕微鏡像に基づいて前記電子プローブの径の推定値を求める処理部と、
を含み、
前記処理部は、
前記走査電子顕微鏡像に基づいて非点収差量を求め、
前記推定値が所定範囲外か否かを判定し、
前記推定値が前記所定範囲外と判定した場合に前記非点収差量が所定値以下か否かを判定し、
前記非点収差量が前記所定値以下と判定した場合に、前記絞りを加熱し、
前記非点収差量が前記所定値以下ではないと判定した場合に、前記絞りの交換を通知する。
【0008】
このような走査電子顕微鏡では、処理部が走査電子顕微鏡像に基づいて電子プローブの径の推定値を求める。当該推定値は、絞り孔の径に応じた値をとるため、当該推定値から絞りの汚れの程度を判断できる。したがって、このような走査電子顕微鏡では、絞りのクリーニングのタイミングや絞りの交換のタイミングを容易に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る走査電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図2】第1実施形態に係る走査電子顕微鏡の処理部の処理の一例を示すフローチャート。
【
図3】第2実施形態に係る走査電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図4】第2実施形態に係る走査電子顕微鏡の処理部の処理の一例を示すフローチャート。
【
図5】第3実施形態に係る走査電子顕微鏡の処理部の処理の一例を示すフローチャート。
【
図6】第4実施形態に係る走査電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図7】第4実施形態に係る走査電子顕微鏡の処理部の処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0011】
1. 第1実施形態
1.1. 走査電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る走査電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る走査電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0012】
走査電子顕微鏡100は、電子プローブEPで試料Sを走査して走査電子顕微鏡像(SEM像)を取得する。走査電子顕微鏡100では、走査像として、二次電子像、および反射電子像を取得できる。
【0013】
走査電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子銃10と、コンデンサーレンズ20と、絞り30(対物レンズ絞り)と、走査コイル40と、対物レンズ50と、試料ステージ60と、二次電子検出器70と、反射電子検出器72と、処理部80と、表示部82と、記憶部84と、を含む。
【0014】
電子銃10は、電子線を放出する。電子銃10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。
【0015】
コンデンサーレンズ20および対物レンズ50は、電子銃10から放出された電子線を集束させて電子プローブEPを形成する。コンデンサーレンズ20によって、電子プローブEPの径およびプローブ電流を制御できる。
【0016】
絞り30は、コンデンサーレンズ20の後方に配置されている。絞り30は、電子線の経路に配置されている。
【0017】
絞り30は、絞り孔32を有する絞り板34を含む。絞り板34には、電子線が通過する絞り孔32が形成されている。電子銃10から放出された電子線の一部が、絞り孔32を通過する。絞り30は、対物レンズ50に入射する電子線を制限する。例えば、絞り30は、対物レンズ50に入射する電子線のうち、対物レンズ50の光軸近傍の電子線だけを通して、それ以外の電子線を遮蔽する。
【0018】
走査コイル40は、電子プローブEPを二次元的に偏向させる。走査コイル40で電子プローブEPを二次元的に偏向させることによって、電子プローブEPで試料Sを走査できる。
【0019】
試料ステージ60には、試料Sが載置される。試料ステージ60は、試料Sを保持することができる。試料ステージ60は、試料Sを移動させるための移動機構を有している。
【0020】
二次電子検出器70は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された二次電子を検出する。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された二次電子を二次電子検出器70で検出することで、二次電子像を得ることができる。
【0021】
反射電子検出器72は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された反射電子を検出する。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された反射電子を反射電子検出器72で検出することで、反射電子像を得ることができる。反射電子像では、原子番号に応じたコントラストがつく。
【0022】
なお、走査電子顕微鏡100は、図示はしないが、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出されたX線を検出するX線検出器を備えていてもよい。走査電子顕微鏡100は、X線検出器として、エネルギー分散型X線検出器や波長分散型X線検出器を備えていてもよい。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された特性X線をX線検出器で検出することで、元素マップを得ることができる。
【0023】
表示部82は、処理部80によって生成された画像を表示する。また、表示部82には、SEM像が表示される。表示部82の機能は、LCD(liquid crystal display)、入力機器としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0024】
記憶部84は、処理部80で各種処理を行うためのプログラムや各種データを記憶している。また、記憶部84は、処理部80のワーク領域としても機能する。記憶部84の機能は、ハードディスク、およびRAM(Random Access Memory)などにより実現できる。
【0025】
処理部80は、走査電子顕微鏡100で撮影されたSEM像を取得し、SEM像に基づいて電子プローブEPの径の推定値を求める。また、処理部80は、電子プローブEPの径の推定値が所定範囲外か否かを判定し、当該推定値が所定範囲外と判定した場合には、ユーザーに絞り30の交換を通知する。
【0026】
処理部80の機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの各種プロセッサでプログラムを実行することにより実現できる。
【0027】
1.2. 処理
1.2.1. 絞りの状態の評価
走査電子顕微鏡100では、長時間の使用により絞り板34にハイドロカーボンなどが付着し、SEM像のコントラストが低下したり、SEM像がぼけたりしてしまう。
【0028】
走査電子顕微鏡100では、処理部80が電子プローブEPの径の推定値を求め、当該推定値から絞り30の絞り孔32の径を推定し、絞り30の交換が必要か否かを判定する。
【0029】
図2は、走査電子顕微鏡100の処理部80の処理の一例を示すフローチャートである。
【0030】
まず、処理部80は、ユーザーが絞り30の状態を評価する処理を開始する指示(開始指示)を行ったか否かを判定する(S100)。
【0031】
例えば、ユーザーが処理部80に対して処理を開始する指示を入力した場合に処理部8
0は開始指示が行われたと判定する。なお、あらかじめ処理を開始する時間や時間間隔が設定されており、処理部80は、あらかじめ設定された時間や、設定された時間間隔で処理を開始してもよい。
【0032】
処理部80は、開始指示があったと判定した場合(S100のYes)、設定された観察条件で撮影されたSEM像を取得する(S102)。例えば、記憶部84には、あらかじめ、観察倍率、加速電圧などの条件を含む観察条件が記憶されている。処理部80は、記憶部84からこの観察条件を読みだして、当該観察条件に基づいてコンデンサーレンズ20、走査コイル40、対物レンズ50を含む光学系を制御しSEM像を撮影する。
【0033】
処理部80は、取得したSEM像に基づいて電子プローブEPの径の推定値NPを求める(S104)。処理部80は、例えば、SEM像からコントラスト伝達関数を求め、当該コントラスト伝達関数に基づいて推定値NPを求める。
【0034】
具体的には、まず、SEM像を二次元フーリエ変換し、二次元フーリエ変換画像を得る。次に、二次元フーリエ変換画像を周方向に平均化する。これにより、一次元のスペクトルが得られる。この一次元のスペクトルの強度が、最大強度の10%となる半径方向の値(CTF(Contrast Transfer Function)値)を求める。なお、ここでは、スペクトルの強度が最大強度の10%となるCTF値を求めたが、最大強度の何%の値をCTF値とするかは任意に設定可能である。その後、求めたCTF値を最大値で規格化し、電子プローブEPの径の推定値NPとする。
【0035】
次に、処理部80は、求めた推定値NPが設定された範囲外か否かを判定する(S106)。
【0036】
設定された範囲は、例えば、上限値をAとし、下限値をBとする。上限値Aおよび下限値Bの決定方法は、後述する「1.2.2. 上限値Aと下限値Bの決定方法」で説明する。
【0037】
処理部80は、推定値NPが設定された範囲外であると判定した場合(S106のYes)、すなわち、NP<B,NP>Aを満たすと判定した場合、絞り30の交換を通知する(S108)。
【0038】
処理部80は、例えば、表示部82に絞り30を交換すべき旨を示すメッセージを表示させる。なお、通知は、ブザーなどの音による通知であってもよいし、ランプの点灯などによる視覚的な通知であってもよい。
【0039】
処理部80は、推定値NPが設定された範囲外ではないと判定した場合(S106のNo)、すなわち、NP<B,NP>Aを満たさないと判定した場合、ユーザーに絞り30の使用が可能である旨を通知する(S110)。
【0040】
処理部80は、例えば、表示部82に絞り30をそのまま使用可能である旨を示すメッセージを表示させる。なお、処理部80は、推定値NPが設定された範囲外ではないと判定した場合には通知を行わなくてもよい。
【0041】
処理部80は、ユーザーに通知した後、処理を終了する。
【0042】
1.2.2. 上限値Aと下限値Bの決定方法
まず、絞り孔の径が異なる絞りを複数準備する。例えば、孔径がX1μmの絞り30A、孔径がX2μmの絞り30B、孔径がX3μmの絞り30C、および孔径がX4μmの
絞り30Dを準備する。
【0043】
次に、各絞りを用いて得られたSEM像を取得する。すなわち、絞り30Aを用いて得られたSEM像、絞り30Bを用いて得られたSEM像、絞り30Cを用いて得られたSEM像、および絞り30Dを用いて得られたSEM像を取得する。
【0044】
次に、各SEM像に基づいて推定値NP(CTF値)を求める。推定値NPは、上述した処理S104と同様に求めることができる。これにより、絞り30Aを用いたときの推定値NP=C1、絞り30Bを用いたときの推定値NP=C2、絞り30Cを用いたときの推定値NP=C3、および絞り30Dを用いたときの推定値NP=C4を求める。
【0045】
このようにして得られた実験による推定値NP=C1、推定値NP=C2、推定値NP=C3、推定値NP=C4に対して外挿を行い、絞り孔32の径が下限値をとるときの推定値A1、絞り30の絞り孔32の径が上限値をとるときの推定値B1を求める。そして、推定値A1、推定値B1を規格化して、上限値Aおよび下限値Bを求める。
【0046】
なお、上記の実験により求めた上限値Aおよび下限値Bが適切な値か否かを確認するために、計算(シミュレーション)により上限値Aおよび下限値Bを求めて、上記の実験で求めた上限値Aおよび下限値Bと比較してもよい。
【0047】
具体的には、まず、孔径がX1μmの絞り30Aを用いた場合の電子プローブEPの径の大きさを計算し、プローブ径の計算値D1を求める。同様に、孔径がX2μmの絞り30Bを用いた場合の電子プローブEPの径の計算値D2、孔径がX3μmの絞り30Cを用いた場合の電子プローブEPの径の計算値D3、および孔径がX4μmの絞り30Dを用いた場合の電子プローブEPの径の計算値D4を計算する。このようにして計算された電子プローブEPの径の計算値D1,D2,D3,D4が、実験値である推定値NP=C1、推定値NP=C2、推定値NP=C3、推定値NP=C4と同様の傾向を示しているかを確認する。
【0048】
これにより、上限値Aおよび下限値Bが適切な値か否かを判断できる。
【0049】
1.3. 効果
走査電子顕微鏡100では、処理部80は、検出器で電子を検出することによって得られたSEM像を取得し、SEM像に基づいて推定値NPを求める。ここで、推定値NPは、絞り30の絞り孔32の径に応じた値をとる。ここでは、推定値NPはCTF値であり、CTF値は絞り孔32の径が大きくなるほど大きな値をとる。そのため、推定値NPから絞り30の汚れの程度を判断できる。したがって、走査電子顕微鏡100では、絞り30の交換のタイミングを容易に判定できる。
【0050】
なお、上記では、絞り孔32の径が汚れによって許容範囲から外れた場合に絞り30の交換を通知したが、絞り孔32の径が製造誤差などによって許容範囲から外れていた場合でも、同様の処理を行うことによって、絞り30の交換を通知できる。
【0051】
走査電子顕微鏡100では、処理部80は、推定値NPが所定範囲外か否かを判定し、推定値NPが所定範囲外と判定した場合に、絞り30の交換を通知する。そのため、走査電子顕微鏡100では、ユーザーは容易に絞り30の交換のタイミングを知ることができる。
【0052】
2. 第2実施形態
2.1. 走査電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る走査電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図3は、第2実施形態に係る走査電子顕微鏡200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る走査電子顕微鏡200において、上述した第1実施形態に係る走査電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0053】
走査電子顕微鏡200は、
図3に示すように、絞り30を加熱するための加熱装置202を含む。加熱装置202は、例えば、ヒーターを含み、ヒーターで絞り板34を加熱する。また、加熱装置202は、絞り板34に電流を流して絞り板34を加熱させてもよい。加熱装置202で絞り30(絞り板34)を加熱することによって、絞り板34に付着したハイドロカーボンなどの汚れを除去できる。
【0054】
2.2. 処理
図4は、走査電子顕微鏡200の処理部80の処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図4では、
図2に示す処理と同様の処理については同じ符号を付している。
【0055】
図4に示すように、走査電子顕微鏡200では、
図2に示す絞り30の交換を通知する処理S108にかえて、絞り30を加熱する処理S109を行う点で、
図2に示す絞り30の処理と異なる。以下、
図4に示す絞り30の状態を評価する処理において、
図2に示す処理と異なる点について説明し、同様の処理についてはその説明を省略する。
【0056】
処理部80は、推定値NPが設定された範囲外であると判定した場合(S106のYes)、加熱装置202に絞り30を加熱させる(S109)。例えば、処理部80は、あらかじめ設定された時間だけ加熱装置202に絞り30を加熱させる。これにより、絞り30に付着した汚れを除去できる。
【0057】
処理部80は、加熱装置202に絞り30を加熱させた後、処理を終了する。
【0058】
2.3. 効果
走査電子顕微鏡200では、推定値NPが所定範囲外か否かを判定し、推定値NPが所定範囲外と判定した場合に、加熱装置202に絞り30を加熱させる。これにより、絞り30に付着した汚れを除去できる。
【0059】
3. 第3実施形態
3.1. 走査電子顕微鏡
第3実施形態に係る走査電子顕微鏡の構成は、
図3に示す第2実施形態に係る走査電子顕微鏡200の構成と同様であり、その説明を省略する。
【0060】
3.2. 処理
第3実施形態に係る走査電子顕微鏡では、処理部80は、SEM像に基づいて推定値NPおよび光学系(対物レンズ50)の非点収差量を求め、推定値NPおよび非点収差量に基づいて絞り30の状態を評価する。
【0061】
図5は、第3実施形態に係る走査電子顕微鏡の処理部80の処理の一例を示すフローチャートである。
【0062】
まず、処理部80は、ユーザーが開始指示を行ったか否かを判定する(S300)。処理部80は、開始指示があったと判定した場合(S300のYes)、設定された観察条件でSEM像を撮影し、SEM像を取得する(S302)。
【0063】
次に、処理部80は、取得したSEM像に基づいて電子プローブEPの径の推定値NPを求める(S304)。
【0064】
次に、処理部80は、取得したSEM像に基づいて非点収差量Cを求める(S306)。非点収差量Cは、非点収差の大きさを表す量である。
【0065】
次に、処理部80は、求めた推定値NPが設定された範囲外か否かを判定する(S308)。
【0066】
処理部80は、推定値NPが設定された範囲外であると判定した場合(S308のYes)、非点収差量Cが設定された所定値以下か否かを判定する(S310)。
【0067】
例えば、所定値として、許容できる非点収差量Cの上限値を設定する。所定値は、任意に変更可能である。
【0068】
処理部80は、非点収差量Cが所定値以下と判定した場合(S310のYes)、加熱装置202に絞り30を加熱させる(S312)。これにより、絞り30に付着した汚れを除去できる。
【0069】
処理部80は、加熱装置202に絞り30を加熱させた後、処理を終了する。
【0070】
処理部80は、非点収差量Cが所定値以下ではないと判定した場合(S310のNo)、絞り30の交換を通知する(S314)。
【0071】
処理部80は、推定値NPが範囲外ではないと判定した場合(S308のNo)、ユーザーに絞り30の使用が可能である旨を通知する(S316)。処理部80は、ユーザーに通知した後、処理を終了する。
【0072】
3.3. 効果
第3実施形態に係る走査電子顕微鏡では、処理部80は、SEM像に基づいて非点収差量Cを求め、推定値NPが所定範囲外か否かを判定し、推定値NPが所定範囲外と判定した場合に非点収差量Cが所定値以下か否かを判定し、非点収差量Cが所定値以下と判定した場合に絞り30を加熱し、非点収差量Cが所定値以下ではないと判定した場合に、絞り30の交換を通知する。
【0073】
ここで、推定値NPが所定範囲外であって、非点収差量Cが所定値以下の場合、絞り30の汚れが多くないと判断できる。したがって、絞り30を加熱して絞り30の汚れの除去を行う。また、推定値NPが所定範囲外であって非点収差量Cが所定値以下ではない場合、すなわち、推定値NPが所定範囲外であって非点収差量Cが大きい場合、絞り30の交換を行う。このように、推定値NPと非点収差量Cによって、絞り30の状態を正確に評価できる。
【0074】
4. 第4実施形態
4.1. 走査電子顕微鏡
次に、第4実施形態に係る走査電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図6は、第4実施形態に係る走査電子顕微鏡300の構成を示す図である。以下、第4実施形態に係る走査電子顕微鏡300において、上述した第2実施形態に係る走査電子顕微鏡200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0075】
走査電子顕微鏡300では、絞り30は、絞り孔32と基準絞り孔33とを有している。すなわち、絞り板34には、絞り孔32と、基準絞り孔33と、が形成されている。
【0076】
基準絞り孔33は、絞り孔32と同じ絞り径を有する。すなわち、基準絞り孔33の直径と絞り孔32の直径は等しい。基準絞り孔33は、後述するように絞り孔32の状態を評価するため基準となる。
【0077】
絞り30は、可動絞りであり、絞り孔32と基準絞り孔33を切り替えて使用できる。走査電子顕微鏡300は、図示はしないが、絞り30を移動させるための移動機構を備えており、処理部80が当該移動機構を制御することで、絞り孔32を光軸上に配置した状態と、基準絞り孔33を光軸上に配置した状態を切り替えることができる。
図6に示す例では、絞り孔32が光軸上に配置されている。なお、手動で絞り孔32を光軸上に配置した状態と、基準絞り孔33を光軸上に配置した状態を切り替えることもできる。
【0078】
4.2. 処理
走査電子顕微鏡300では、絞り孔32を用いて得られたSEM像に基づいて推定値(以下、第1推定値NP1ともいう)を求め、基準絞り孔33を用いて得られたSEM像に基づいて推定値(以下、第2推定値NP2ともいう)を求め、第1推定値NP1と第2推定値NP2を比較する。第1推定値NP1と第2推定値NP2を比較することによって、絞り30の状態を評価できる。
【0079】
図7は、第4実施形態に係る走査電子顕微鏡の処理部80の処理の一例を示すフローチャートである。
【0080】
まず、処理部80は、ユーザーが開始指示を行ったか否かを判定する(S400)。処理部80は、開始指示があったと判定した場合(S400のYes)、絞り孔32を光軸上に配置する(S402)。これにより、絞り孔32を通過した電子線が試料Sに照射される。
【0081】
処理部80は、絞り孔32が光軸上に配置された状態で、SEM像(以下「第1SEM像」ともいう)を撮影し、第1SEM像を取得する(S404)。処理部80は、取得した第1SEM像に基づいて電子プローブEPの径の第1推定値NP1を求める(S406)。
【0082】
次に、処理部80は、基準絞り孔33を光軸上に配置する(S408)。処理部80は、基準絞り孔33が光軸上に配置された状態で、SEM像(以下、「第2SEM像」ともいう)を撮影し、第2SEM像を取得する(S410)。処理部80は、取得した第2SEM像に基づいて電子プローブEPの径の第2推定値NP2を求める(S412)。
【0083】
次に、処理部80は、求めた第1推定値NP1と第2推定値NP2とを比較する。具体的には、処理部80は、第1推定値NP1が第2推定値NP2よりも大きいか否かを判定する(S414)。すなわち、NP2<NP1を満たすか否かを判定する。
【0084】
なお、ここでは、NP2<NP1を満たすか否かを判定することで第1推定値NP1と第2推定値NP2とを比較したが、その他の方法で、第1推定値NP1と第2推定値NP2とを比較してもよい。
【0085】
処理部80は、第1推定値NP1が第2推定値NP2よりも大きいと判定した場合(S414のYes)、第1SEM像に基づいて非点収差量Cを求める(S416)。
【0086】
処理部80は、第1推定値NP1が設定された範囲外か否かを判定する(S418)。
【0087】
処理部80は、第1推定値NP1が設定された範囲外であると判定した場合(S418のYes)、非点収差量Cが設定された所定値以下か否かを判定する(S420)。
【0088】
処理部80は、非点収差量Cが所定値以下と判定した場合(S420のYes)、加熱装置202に絞り30を加熱させる(S422)。これにより、絞り30に付着した汚れを除去できる。
【0089】
処理部80は、加熱装置202に絞り30を加熱させた後、処理を終了する。
【0090】
処理部80は、非点収差量Cが所定値以下ではないと判定した場合(S420のNo)、絞り30の交換を通知する(S424)。そして、処理部80は処理を終了する。
【0091】
処理部80は、第1推定値NP1が第2推定値NP2よりも大きくないと判定した場合(S414のNo)、または第1推定値NP1が範囲外ではないと判定した場合(S418のNo)、ユーザーに絞り30の使用が可能である旨を通知する(S426)。処理部80は、ユーザーに通知した後、処理を終了する。
【0092】
4.3. 効果
走査電子顕微鏡300では、絞り30は、絞り孔32と同じ絞り径を有する基準絞り孔33を有し、処理部80は、絞り30を用いて得られた第1SEM像に基づいて、第1推定値NP1を求め、基準絞り孔33を用いて得られた第2SEM像に基づいて、第2推定値NP2を求め、第1推定値NP1と第2推定値NP2を比較することで、絞り30の状態を評価する。そのため、走査電子顕微鏡300では、絞り30の状態を容易に正確に評価できる。
【0093】
5. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0094】
5.1. 第1変形例
上述した第1実施形態では、電子プローブEPの径の推定値NPを、コントラスト伝達関数に基づいて求めたが、推定値NPはこれに限定されない。例えば、推定値NPを、像シャープネスに基づいて求めてもよい。
【0095】
像シャープネスは、SEM像のぼけを評価する指標のひとつである。像シャープネスは、FT(Fourier Transform)法や、DR(Derivative)法などにより求めることができる。FT法は、SEM像のフーリエ変換から像シャープネスを評価する手法である。DR法は粒子エッジ部の画像の明るさの変化から像シャープネスを評価する手法である。DR法では、SEM像のエッジ部分を横切るラインプロファイルを抽出して誤差関数をフィッテングし、当該誤差関数から像シャープネスを求める。
【0096】
像シャープネスは、CTF値と同様に、絞り30の絞り孔32の径に応じて変化する。そのため、像シャープネスを用いた場合でも、CTF値を用いたときと同様の手法で、絞り30の状態を評価できる。
【0097】
なお、上述した第2実施形態、第3実施形態、および第4実施形態についても同様であり、CTF値のかわりに像シャープネスに基づいて推定値NPを求めてもよい。
【0098】
5.2. 第2変形例
上述した第1実施形態に係る走査電子顕微鏡100は、外乱磁場の変動を低減するための外乱磁場キャンセル装置を備えていてもよい。外乱磁場キャンセル装置は、外乱磁場変動を磁気センサで検出し、コントローラーで最適な補正磁場を計算後、計算結果をキャンセラーコイルに出力させ、磁気センサ付近の磁場変動を低減する。外乱磁場の変動を低減することで、SEM像のノイズを低減でき、正確に絞り30の状態を評価できる。
【0099】
また、上述した
図1に示す走査電子顕微鏡100は、床振動を低減する除振器を備えていてもよい。床振動を低減することで、SEM像のノイズを低減でき、正確に絞り30の状態を評価できる。
【0100】
なお、第2実施形態に係る走査電子顕微鏡、第3実施形態に係る走査電子顕微鏡、および第4実施形態に係る走査電子顕微鏡についても同様であり、外乱磁場キャンセル装置や除振器を備えていてもよい。
【0101】
また、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0102】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0103】
10…電子銃、20…コンデンサーレンズ、30…絞り、30A…絞り、30B…絞り、30C…絞り、30D…絞り、32…絞り孔、33…基準絞り孔、34…絞り板、40…走査コイル、50…対物レンズ、60…試料ステージ、70…二次電子検出器、72…反射電子検出器、80…処理部、82…表示部、84…記憶部、100…走査電子顕微鏡、200…走査電子顕微鏡、202…加熱装置、300…走査電子顕微鏡