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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】R‐T‐B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241126BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241126BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20241126BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20241126BHJP
   B22F 3/20 20060101ALN20241126BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20241126BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20241126BHJP
【FI】
H01F1/057 160
C22C38/00 303D
C22C33/02 K
B22F9/04 C
B22F3/20 C
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021143354
(22)【出願日】2021-09-02
(65)【公開番号】P2022099231
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020212697
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】劉 麗華
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-27852(JP,A)
【文献】特開2013-111599(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174795(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
C22C 38/00
C22C 33/02
B22F 9/04
B22F 3/20
B22F 1/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、複数の主相粒子と、複数のRリッチ相と、を備え、
前記主相粒子は、少なくともR、T及びBを含有し、
前記Rリッチ相は、少なくともRを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石の断面において観察される前記主相粒子は、扁平であり、
前記断面は、前記R‐T‐B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行であり、
前記Rリッチ相は、複数の前記主相粒子の間に位置し、
前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下であり、
前記断面において観察される前記主相粒子の短軸の長さの平均値は、20nm以上200nm以下である、
R‐T‐B系永久磁石。
【請求項2】
Rの含有量は、28質量%以上33質量%以下であり、
Bの含有量は、0.8質量%以上1.1質量%以下である、
請求項1に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項3】
複数の扁平な前記主相粒子が、前記磁化容易軸方向に沿って積み重なっている、
請求項1又は2に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項4】
熱間加工磁石である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項5】
前記Rリッチ相におけるRの濃度は、前記断面におけるRの濃度の平均値よりも高く、
Rの濃度の単位は、原子%である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項6】
前記Rリッチ相におけるRの濃度は、前記主相粒子におけるRの濃度よりも高く、
Rの濃度の単位は、原子%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R‐T‐B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R‐T‐B系永久磁石は希土類元素R(Nd等)、遷移金属元素T(Fe等)及びホウ素(B)を含有する。R‐T‐B系永久磁石は、磁気特性に優れ、広く用いられている。R‐T‐B系永久磁石には、粉末冶金法により製造される焼結磁石と、熱間塑性加工法により製造される熱間加工磁石がある。(下記特許文献1、非特許文献1及び2参照。)熱間加工磁石の原料である合金薄帯は、超急冷凝固法によって得られる。超急冷凝固法では、R‐T‐B系合金の溶湯が冷却ロールの表面において急速に冷却される。その結果、溶湯が凝固し、合金薄帯が形成される。超急冷凝固法によって得られる合金薄帯は、合金の微結晶(及び非晶質合金)を含む。したがって、熱間加工磁石を構成する結晶粒(主相粒子)は、焼結磁石に比べて微細である。クローンミュラー(Kronmuller)の式に示されるように、R‐T‐B系永久磁石の結晶粒子径が微細であるほど、保磁力(HcJ)が増加することが知られている。したがって、熱間加工磁石は、焼結磁石に比べて高い保磁力を有するはずである。しかしながら、従来の熱間加工磁石の保磁力は、同様の組成を有する焼結磁石の保磁力と同等であり、微細な結晶粒子径から期待される高い保磁力は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016‐96203号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】M. Soderznik et al, Magnetizationreversal process of anisotropichot-deformed magnets observed by magneto-opticalKerr effect microscopy,Journal of Alloys and Compounds 771 (2019) 51 - 59.
【文献】LAI Bin et al, Quasi-periodiclayer structure of die-upset NdFeB magnets,JOURNAL OF RARE EARTHS, Vol. 31, No.7, July 2013, P. 679 - 684.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、従来のR‐T‐B系永久磁石(例えば、熱間加工磁石)において微細な結晶粒子径に見合った高い保磁力が得られない原因を調査及び検討した。その結果、本発明者らは、磁化容易軸方向に略平行なR‐T‐B系永久磁石の断面におけるRリッチ相の分布が保磁力に影響することを見出した。さらに本発明者らは上記断面におけるRリッチ相の分布の制御により、高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石を得る方法を見出した。
【0006】
本発明の目的は、高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るR‐T‐B系永久磁石は、希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、R‐T‐B系永久磁石は、複数の主相粒子と、複数のRリッチ相と、を備え、主相粒子は、少なくともR、T及びBを含有し、Rリッチ相は、少なくともRを含有し、R‐T‐B系永久磁石の断面において観察される主相粒子は、扁平であり、上記断面は、R‐T‐B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行であり、Rリッチ相は、複数の主相粒子の間に位置し、磁化容易軸方向に略垂直な方向におけるRリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下であり、上記断面において観察される主相粒子の短軸の長さの平均値は、20nm以上200nm以下である。
【0008】
R‐T‐B系永久磁石におけるRの含有量は、28質量%以上33質量%以下であってよく、R‐T‐B系永久磁石におけるBの含有量は、0.8質量%以上1.1質量%以下であってよい。
【0009】
複数の扁平な主相粒子が、磁化容易軸方向に沿って積み重なっていてよい。
【0010】
R‐T‐B系永久磁石は、熱間加工磁石であってよい。
【0011】
Rリッチ相におけるRの濃度は、上記断面におけるRの濃度の平均値よりも高くてよく、Rの濃度の単位は、原子%であってよい。
【0012】
Rリッチ相におけるRの濃度は、主相粒子におけるRの濃度よりも高くてよく、Rの濃度の単位は、原子%であってよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係るR‐T‐B系永久磁石の模式的な斜視図であり、図1中の(b)は、図1中の(a)に示されるR‐T‐B系永久磁石の断面の模式図(b‐b線方向の矢視図)である。
図2図2は、図1中の(b)に示される断面の一部(領域II)の拡大図、及び領域IIの反射電子像の輝度分布である。
図3図3は、実施例2のR‐T‐B系永久磁石の断面の反射電子像である。
図4図4は、比較例8のR‐T‐B系永久磁石の断面の反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「永久磁石」とは、R‐T‐B系永久磁石を意味する。以下に記載の永久磁石中の各元素の濃度の単位は、原子%である。
【0016】
(永久磁石)
本実施形態に係る永久磁石は、少なくとも希土類元素(R)、遷移金属元素(T)及びホウ素(B)を含有する。本実施形態に係る永久磁石は、熱間加工磁石である。ただし、本発明に係る永久磁石は、焼結磁石であってもよい。
【0017】
永久磁石は、希土類元素Rとして、少なくともネオジム(Nd)を含有する。永久磁石は、Ndに加えて、更に他の希土類元素Rを含有してもよい。永久磁石に含有される他の希土類元素Rは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0018】
永久磁石は、遷移金属元素Tとして、少なくとも鉄(Fe)を含有する。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Feのみを含有してよい。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Fe及びコバルト(Co)の両方を含有してもよい。
【0019】
図1中の(a)は、本実施形態に係る永久磁石2の斜視図である。図1中の(b)は、永久磁石2の断面2csの模式図であり、永久磁石2の断面2csは、永久磁石2の磁化容易軸方向Cに略平行である。磁化容易軸方向Cは、永久磁石2の一対の磁極を結ぶ直線に平行な方向である。つまり、磁化容易軸方向Cは、永久磁石2のS極から永久磁石2のN極へ向く方向である。磁化容易軸方向Cは、永久磁石2の磁束分布の測定に基づいて特定されてよい。磁化容易軸方向Cは、永久磁石2から分離された分析用試料の磁束分布の測定に基づいて特定されてもよい。
【0020】
本実施形態に係る永久磁石2は、直方体(板)である。ただし、永久磁石2の形状は、直方体に限定されない。例えば、永久磁石2の形状は、例えば、立方体、多角柱、アークセグメント、扇(annular sector)、球、円板、円柱、筒、又はリングであってよい。永久磁石2の断面2csの形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓形、アーチ形、C字形、又は円であってよい。
【0021】
図2は、図1中の(b)に示される断面2csの一部(領域II)の拡大図である。図2に示されるように、永久磁石2は、複数の主相粒子4と、複数のRリッチ相6とを含む。Rリッチ相6は、複数の主相粒子4の間に位置する。Rリッチ相6は、複数の主相粒子4の間の粒界に含まれる粒界相の一種であってよい。Rリッチ相6が含まれる粒界は、3つ以上の主相粒子4の囲まれた粒界多重点であってよく、2つの主相粒子4の間の二粒子粒界であってもよい。永久磁石2における主相粒子4の体積の割合の合計は、特に限定されないが、例えば、80体積%以上100体積%未満、90体積%以上100体積%未満、又は95体積%以上100体積%未満であってよい。
【0022】
主相粒子4は、少なくともNd、T及びBを含有する。主相粒子4は、一つの結晶粒(つまり一次粒子)と言い換えられえてよい。主相粒子4は、R14Bの結晶(単結晶又は多結晶)を含む。R14Bは、強磁性を有する三元金属間化合物である。主相粒子4は、R14Bの結晶のみからなってよい。R14Bの結晶は、正方晶であってよい。つまり、R14Bの結晶軸は、a軸、b軸及びc軸であり、a軸、b軸及びc軸は、互いに直交し、R14Bのa軸方向の格子定数は、R14Bのb軸方向の格子定数と等しくてよく、R14Bのc軸方向の格子定数は、a軸方向及びb軸方向其々の格子定数と異なってよい。R14Bのc軸方向は、永久磁石2の磁化容易軸方向Cに略平行であってよい。
【0023】
主相粒子4は、Nd、T及びBに加えて他の元素を含有してもよい。例えば、主相粒子4を構成するR14Bは、(Nd1-xPr(Fe1-yCo14Bと表されてよい。xは0以上1未満であってよい。yは0以上1未満であってよい。主相粒子4は、Rとして、軽希土類元素に加えて、Tb及びDy等の重希土類元素を含有してもよい。R14BにおけるBの一部が、炭素(C)等の他の元素で置換されていてもよい。主相粒子4内の組成は均一であってよい。主相粒子4内の組成は不均一であってもよい。例えば、主相粒子4におけるR、T及びB其々の濃度分布が勾配を有していてもよい。
【0024】
主相粒子4は、表層部と、表層部に覆われた中心部、とから構成されていてよい。表層部はシェルと言い換えられてよく、中心部はコアと言い換えられてよい。主相粒子4の表層部は、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有してよい。全ての主相粒子4其々の表層部が、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有してよい。全ての主相粒子4のうち一部の主相粒子4の表層部が、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有してもよい。表層部が重希土類元素を含有することにより、粒界近傍において異方性磁界が局所的に増加し易く、粒界近傍において磁化反転の核が発生し難い。その結果、高温(例えば、100~200℃)での永久磁石2の保磁力が増加する。永久磁石2の残留磁束密度(Br)及び保磁力が両立し易いことから、表層部における重希土類元素の濃度の合計は、中心部における重希土類元素の濃度の合計よりも高くてよい。
【0025】
Rリッチ相6は、非強磁性相である。Rリッチ相6は、少なくともRを含有する。例えば、Rリッチ相6は、Rとして、Ndを含有してよい。Rリッチ相6は、Rとして、Ndに加えて、一種以上の他の希土類元素を更に含有してよい。Rリッチ相6は、Rに加えて、一種以上のR以外の元素を更に含有してよい。Rリッチ相6は、金属、合金、金属間化合物及び酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分を含有してよい。例えば、一部又は全部のRリッチ相6は、Rの単体、Rを含む合金、及びRを含む金属化合物のうち少なくとも一種の成分のみからなっていてよい。一部又は全部のRリッチ相6は、Rの酸化物を含有してもよい。例えば、Rの酸化物は、Ndの酸化物であってよい。主相粒子4の酸化された表面が、Rの酸化物であってもよい。一部のRリッチ相6は、Rの酸化物のみからなっていてもよい。本発明者らは、Rの酸化物を含有するRリッチ相6は、永久磁石2の製造過程(特に、後述される各搬送工程)における合金薄帯又は合金粉末(主相粒子4の前駆体)の表面近傍に位置するRの酸化によって形成され得る、と考える。
【0026】
Rリッチ相6におけるRの濃度は、上記断面2csにおけるRの濃度の平均値よりも高くてよい。Rリッチ相6におけるRの濃度は、主相粒子4におけるRの濃度の平均値よりも高くてよい。永久磁石2が複数種のRを含有する場合、Rの濃度とは、複数種のRの濃度の合計であってよい。
【0027】
図2に示されるように、断面2csにおいて観察される各主相粒子4は、扁平である。換言すれば、断面2csにおいて観察される各主相粒子4は、板状であってよい。複数の扁平な主相粒子4は、磁化容易軸方向Cに沿って積み重なっていてよい。永久磁石2は、互いに結合した複数の主相粒子4から構成される二次粒子4aを更に含んでよい。永久磁石2は、複数の二次粒子4aを含んでよい。少なくとも一部のRリッチ相6は、複数の二次粒子4aの間の粒界に位置してよい。二次粒子4aの酸化された表面が、Rの酸化物であってもよい。複数のRリッチ相6は、磁化容易軸方向Cに略垂直な方向に沿って並んでいる。換言すれば、複数のRリッチ相6は、磁化容易軸方向Cに略垂直な方向に沿って、断面2cs中に点在してよい。磁化容易軸方向Cに略垂直な方向に沿って並ぶ複数のRリッチ相6其々が、少なくとも二つの主相粒子4の間に位置してよい。一部のRリッチ相6は、磁化容易軸方向Cに略垂直な方向に拡がる層であってもよい。一部のRリッチ相6は、磁化容易軸方向Cに沿って積み重なる複数の扁平な主相粒子4の間に位置してよい。
【0028】
以下に記載の「AB方向」とは、磁化容易軸方向Cに略垂直な方向を意味する。
【0029】
AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEは、30μm以上1000μm以下である。AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEは、30.42μm以上975.00μm以下、34μm以上1000μm以下、34.89μm以上975.00μm以下、34μm以上38μm以下、34.89μm以上37.77μm以下、34μm以上36μm以下、又は34.89μm以上35.82μm以下であってもよい。AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEの下限値は、30μm、30.42μm、34.89μm、35.82μm、37.77μm、269.87μm、446.70μm、674.12μm、886.36μm及び975.00μmからなる群より選ばれる一つの値であってよく、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEの上限値は、30.42μm、34.89μm、35.82μm、37.77μm、269.87μm、446.70μm、674.12μm、886.36μm、975.00μm及び1000μmからなる群より選ばれる一つの値であってよい。Rリッチ相6の間隔の平均値iAVEが上記範囲内であることにより、永久磁石2は室温及び高温において高い保磁力を有することができる。AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEは、AB方向において一対のRリッチ相6の間に位置する一つ以上の主相粒子4の幅の合計の平均値と略等しくてよい。AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値は、以下の方法によって測定される。
【0030】
永久磁石2の断面2csの一部(領域II)の反射電子像が、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影される。反射電子像の拡大率は、例えば、300倍であってよい。図2に示されるように、輝度が比較的高い複数の部分(6)がAB方向に沿って並んでいる任意の矩形の測定領域Aが反射電子像から選定される。AB方向における測定領域Aの幅は、磁化容易軸方向Cにおける測定領域Aの幅よりも大きい。例えば、AB方向における測定領域Aの幅は、400μmであってよく、磁化容易軸方向Cおける測定領域Aの幅は、15μmであってよい。測定領域Aが、AB方向に沿って電子線で走査され、測定領域A内の各測定点の輝度が、AB方向に沿って連続的に測定される。その結果、AB方向に沿った測定領域Aの輝度分布Dが得られる。測定点の間隔は、例えば1μm以下であってよい。輝度とは、各測定点における反射電子線の強度(図2中のINTENSITY)である。輝度の単位は、任意単位(a.u.)である。元素の原子量が大きいほど、その元素が存在する測定点の輝度は高く、原子量が大きい元素の濃度が測定点において高いほど、測定点の輝度は高い。永久磁石2に含有される全元素のうち、Rの原子量は比較的大きい。したがって、輝度分布Dにおけるピークは、Rリッチ相の存在を示唆している。測定領域A内の任意の測定点Xの輝度、測定点Xの輝度の測定直前に測定される5つの測定点其々の輝度、及び測定点Xの輝度の測定直後に測定される5つの測定点其々の輝度から、輝度の移動平均IAVEが算出される。つまり、測定点Xを含む計11か所の測定点の輝度から、輝度の移動平均IAVEが算出される。測定点Xの輝度からIAVEを引いた値が、IAVEの7%以上である場合、測定点Xは、Rリッチ相6である。つまり測定点Xの輝度が、IAVEの107%以上である場合、測定点X(測定点Xにおける輝度のピーク)の位置(図2中のPOSITION)は、Rリッチ相6の位置である。隣り合う二つのRリッチ相6間の距離(AB方向における距離)は、AB方向におけるRリッチ相6の間隔である。以上の前提に基づき、測定領域A内におけるRリッチ相6の間隔の平均値が算出される。例えば、図2に示される測定領域A内には、4つのRリッチ相6が存在し、Rリッチ相6の間隔として、i1、i2及びi3が測定される。図2に示される測定領域A内におけるRリッチ相6の間隔の平均値は、(i1+i2+i3)/3である。
複数の異なる測定領域Aが反射電子像内から選定され、各測定領域AにおけるRリッチ相6の間隔の平均値が、上記の方法で測定される。例えば、5つの測定領域Aが反射電子像内から選定されてよい。複数の測定領域A其々におけるRリッチ相6の間隔の平均値を更に平均することにより、上述の平均値iAVEが得られる。なお、図2中の輝度分布Dの平均線(100%の線)は、曲線であってよい。
【0031】
Rリッチ相6は、永久磁石2の保磁力の低下の原因である。しかし、本実施形態に係る永久磁石2は、同様の組成を有する従来の永久磁石に比べて高い保磁力を有することができる。換言すれば、本実施形態に係る永久磁石2によれば、Rリッチ相6に起因する保磁力の低下が抑制される。Rリッチ相6に起因する保磁力の低下が抑制されるメカニズムは、以下に説明される。ただし、本発明の技術的範囲は、下記のメカニズムによって限定されない。
【0032】
R‐T‐B系永久磁石の保磁力機構は、ニュークリエーション型であるため、逆磁区の生成が磁化反転の核となる。つまり、逆磁区の生成が保磁力低下の原因となる。逆磁区は、局所反磁界の大きい場所から生成する。局所反磁界の大きい場所は、空孔、主相粒子の表面、及び異相である。
<空孔>
焼結磁石及び熱間加工磁石のいずれも、略真密度まで緻密化されているので、空孔は存在し難い。
<主相粒子の表面>
焼結磁石を構成する主相粒子の形状は、気流粉砕によって得られた合金粉末の形状を反映するので、焼結磁石を構成する主相粒子の形状は異形(歪)である。異形な主相粒子の表面は平滑ではないため、逆磁区生成の起点となり易い。
一方、熱間加工磁石を構成する主相粒子は、極微細な結晶粒からの異方的な結晶成長を経た板状結晶である。その結果、熱間加工磁石を構成する主相粒子の形状は比較的揃っており、熱間加工磁石を構成する主相粒子の表面は、焼結磁石を構成する主相粒子の表面に比べて平滑である。したがって、熱間加工磁石を構成する主相粒子の表面では、局所反磁界が小さく、逆磁区が生成し難い。その結果、熱間加工磁石は高い保磁力を有し易い。
<異相>
焼結磁石は焼結工程によって緻密化する。焼結工程では、合金粉末から形成された成形体が焼結される。焼結過程では、合金粉末の表面が液相となり、液相が合金粉末間の隙間を満たして粒界相(Rリッチ相)になることにより、緻密な焼結体が得られる。二粒子粒界相は主相粒子間の磁壁の移動を妨げる磁気的分離に有用である。二粒子粒界相以外の余分な粒界相の成分は、焼結体の表面から排出されるが、その量はわずかであり、多くは粒界多重点に偏析する。粒界多重点に偏析した粒界相は有用でない。粒界多重点に偏析した粒界相は、異相になり、逆磁区が生成する起点となるからである。しかしながら、上記の通り、焼結磁石は緻密化に液相を必要とするため、粒界多重点への粒界相(Rリッチ相)の偏析は不可避である。
一方、熱間加工磁石の緻密化は、熱間成形(hоt pressing)及び熱間塑性加工(hоt defоrming)の温度及び圧力に依る。したがって、熱間加工磁石の緻密化には、焼結磁石ほどの粒界相を必要としない。液相である粒界相(Rリッチ相)は、異方的に成長した板状の主相粒子が熱間塑性加工によって再配列する際に、主相粒子の潤滑性(粒界滑り)に有用である。しかし、主相粒子の潤滑性に要する液相量は、焼結磁石の緻密化に要する液相量よりも少なくてよい。そのため、熱間加工磁石の粒界多重点にけるRリッチ相の偏析及び凝集は、焼結磁石に比べて少ない。つまり、熱間加工磁石中の異相は、焼結磁石に比べて少ない。したがって、熱間加工磁石は高い保磁力を有し易い。
しかしながら、熱間加工磁石も不可避的にRリッチ相を含む。二粒子粒界相等のRリッチ相が各主相粒子の表面を覆うことにより、隣り合う主相粒子同士が磁気的に分離され、永久磁石の保磁力が増加する。一方、粒界多重点に偏析及び凝集したRリッチ相では、逆磁区が生成し易い。つまり、粒界多重点に偏析及び凝集したRリッチ相が磁化反転の核になる。この磁化反転の核を起点に主相粒子の磁化反転が進行し、永久磁石の保磁力が低下する。
上述の通り、従来の焼結磁石及び熱間加工磁石では、粒界多重点に偏析及び凝集したRリッチ相に起因する保磁力の低下が起きる。
対照的に、本実施形態に係る永久磁石2の場合、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEが30μm以上であり、AB方向におけるRリッチ相6の間隔が比較的大きい。したがって、AB方向におけるRリッチ相6の偏析及び凝集(磁化反転の核の生成)が抑制され、AB方向における逆磁区の生成頻度が低減される。その結果、Rリッチ相6の偏析及び凝集に起因する保磁力の低下が抑制される。
AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEが30μm以上である場合、粒界多重点に偏析及び凝集したRリッチ相6が少なく、Rリッチ相6は各主相粒子4を斑なく囲み易い。その結果、隣り合う主相粒子同士が磁気的に分離され、永久磁石2の保磁力が増加する。
ただし、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEの増加に伴って、AB方向において一対のRリッチ相6の間に位置する各主相粒子4の幅が増加する傾向がある。つまり、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEの増加に伴って、AB方向において一対のRリッチ相6の間に位置する主相粒子4の粒径(結晶粒子径)が増加する傾向がある。主相粒子4の粒径(結晶粒子径)の増加に因り、永久磁石2の保磁力が低下し易く、温度上昇に伴って保磁力が低下し易く、永久磁石2の角形比(Hk/HcJ)も低下し易い。(Hkとは、磁化曲線の第二象限における残留磁束密度の90%に相当する減磁界の強度である。)また粗大な主相粒子4は、熱間塑性加工中に回転し難く、磁化容易軸方向Cにおいて配向し難いため、残留磁束密度の低下の一因になる。
しかし本実施形態によれば、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEが1000μm以下であるため、粒径(結晶粒子径)が過度に大きい主相粒子4が永久磁石2に含まれ難い。その結果、主相粒子4の粒径(結晶粒子径)の増加に因る保磁力の低下が抑制され、温度上昇に伴う保磁力の低下が抑制され、角形比の低下が抑制され、残留磁束密度の低下が抑制される。
【0033】
上記断面2csにおいて観察される主相粒子4(一次粒子)の短軸の長さの平均値は、例えば、20nm以上200nm以下である。主相粒子4の短軸の長さの平均値が20nm未満である場合、各主相粒子4(R14Bの結晶)の異方成長が不充分であり、各主相粒子4が磁化容易軸方向Cにおいて配向し難く、保磁力、角形比及び残留磁束密度が低下し易い。主相粒子4の短軸の長さの平均値が200nmよりも大きい場合、主相粒子4の粒径(結晶粒子径)が過度に大きく、主相粒子4が磁化容易軸方向Cにおいて配向し難く、保磁力、角形比及び残留磁束密度が低下し易い。保磁力、角形比及び残留磁束密度の低下が抑制され易いことから、上記断面2csにおいて観察される主相粒子4の短軸の長さの平均値は、22nm以上187nm以下であってもよい。同様の理由から、上記断面2csにおいて観察される主相粒子4の短軸の長さの平均値の下限値は、20nm、22.00nm、86.00nm、92.00nm、122.00nm、157.00nm、164.00nm、172.00nm、187.00nm及び198.00nmからなる群より選ばれる一つの値であってよく、上記断面2csにおいて観察される主相粒子4の短軸の長さの平均値の上限値は、22.00nm、88.00nm、92.00nm、122.00nm、157.00nm、164.00nm、172.00nm、187.00nm、198.00nm及び200nmからなる群より選ばれる一つの値であってよい。
上記断面2csにおいて観察される主相粒子4(一次粒子)の長軸の長さの平均値は、例えば、100nm以上1000nm以下であってよい。主相粒子4の長軸の長さの平均値が上記の範囲内である場合、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEが上記の範囲内に制御され易い。主相粒子4の長軸の長さの平均値が大きいほど、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEが大きい傾向がある。主相粒子4の長軸の長さの平均値が小さいほど、永久磁石2の保磁力が高い傾向がある。
断面2csにおいて観察される各主相粒子4の短軸は、磁化容易軸方向Cと略平行であってよい。各主相粒子4の長軸は、磁化容易軸方向Cと略垂直であってよい。断面2csにおける主相粒子4の形状は長方形に限定されない。断面2csにおける主相粒子4の形状は歪であってよい。断面2csにおける主相粒子4の形状は一様でなくてよい。断面2csにおける主相粒子4の形状が歪である場合、主相粒子4の形状は、主相粒子4に外接する四角形のうち面積が最小である四角形で近似されてよい。四角形は、長方形であってよい。この四角形の短辺の長さが、主相粒子4の短軸の長さとみなされてよく、上記四角形の長辺の長さが、主相粒子4の長軸の長さとみなされてよい。主相粒子4の短軸の長さの平均値は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影される断面2csの反射電子像内に存在する全ての主相粒子4の短軸の長さの測定値から算出されてよい。主相粒子4の長軸の長さの平均値も、上記反射電子像内に存在する全ての主相粒子4の長軸の長さの測定値から算出されてよい。ただし、反射電子像からはみ出している主相粒子4の寸法は、平均値の計算から除外される。主相粒子4の短軸及び長軸其々の長さの測定に用いる反射電子像の寸法の最大値は、例えば、縦120μm×横80μm、又は縦80μm×横120μmであってよい。これらの低倍率で撮影された反射電子像内の代表的な複数の箇所を選定して、各箇所の反射電子像が高倍率で撮影されてよい。そして、高倍率の反射電子像内で測定された全主相粒子4の長軸及び短軸其々の長さから、長軸及び短軸其々の平均値が算出されてよい。以上の主相粒子4の形状(輪郭線)の特定、及び主相粒子4(主相粒子4に外接する四角形)の寸法の測定には、市販の画像解析ソフトが用いられてよい。
【0034】
磁化容易軸方向Cにおける各Rリッチ相6の幅は、例えば、100nm以上20000nm以下であってよい。AB方向における各Rリッチ相6の幅は、例えば、100nm以上20000nm以下であってよい。Rリッチ相6の幅が上記範囲内である場合、Rリッチ相6に因る主相粒子4の磁化反転が抑制され易く、永久磁石2が高い保磁力を有し易い。磁化容易軸方向CにおけるRリッチ相6の幅は、主相粒子4(一次粒子)の短軸の長さ以下であってよい。磁化容易軸方向CにおけるRリッチ相6の幅は、二次粒子4aの短軸の長さ以下であってよい。AB方向におけるRリッチ相6の幅は、主相粒子4(一次粒子)の長軸の長さ以下であってもよい。AB方向におけるRリッチ相6の幅は、二次粒子4aの長軸の長さ以下であってもよい。
【0035】
AB方向における永久磁石2の幅は、AB方向におけるRリッチ相6の間隔の平均値iAVEの下限値及び上限値よりも桁違いに大きい。AB方向における永久磁石2の幅は、例えば、数mm以上数百mm以下、又は数十mm以上数百mm以下であってよい。AB方向に垂直な方向における永久磁石2の縦幅も、例えば、数mm以上数百mm以下、又は数十mm以上数百mm以下であってよい。AB方向に垂直な方向における永久磁石2の横幅も、例えば、数mm以上数百mm以下、又は数十mm以上数百mm以下であってよい。
【0036】
Rリッチ相6以外の粒界相が、粒界に含まれてよい。例えば、粒界が、後述される粒界拡散工程によって永久磁石2内に導入される元素を含む粒界相を含んでよい。粒界拡散工程によって永久磁石2内に導入される元素は、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素であってよい。粒界拡散工程によって永久磁石2内に導入される元素は、重希土類元素及び軽希土類元素であってよく、軽希土類元素は、Nd及びPrのうち少なくとも一つであってよい。粒界拡散工程によって永久磁石2内に導入される元素は、重希土類元素、軽希土類元素及び銅であってもよい。
【0037】
主相粒子4及びRリッチ相6其々は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査型透過電子顕微鏡(STEM)で撮影された永久磁石2の断面2csの画像のコントラストに基づいて識別することができる。主相粒子4及びRリッチ相6其々の組成は、エネルギー分散型X線分光(EDS)装置が搭載された電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)によって分析されてよい。
【0038】
永久磁石2の全体の組成が、以下に説明される。ただし、永久磁石2の組成は下記の組成に限定されない。永久磁石2中の各元素の含有量は、下記の範囲を外れてもよい。
【0039】
永久磁石2における希土類元素Rの含有量の合計は、25.00質量%以上35.00質量%以下、又は28.00質量%以上33.00質量%以下であってよい。Rの含有量が上記範囲内であることにより、永久磁石2の残留磁束密度及び保磁力が増加し易い。Rの含有量が少な過ぎる場合、主相粒子4を構成するR14Bが形成され難く、軟磁性を有するα‐Fe相が形成され易い。その結果、保磁力が低下し易い。一方、Rの含有量が多過ぎる場合、主相粒子4の体積比率が低くなり、残留磁束密度が低下し易い。残留磁束密度及び保磁力が増加し易いことから、全希土類元素Rに占めるNd及びPrの割合の合計は、80原子%以上100原子%以下、又は95原子%以上100原子%以下であってよい。
【0040】
永久磁石2におけるTb及びDyの含有量の合計値は、0.20質量%以上5.00質量%以下であってよい。永久磁石2がTb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有することにより、永久磁石2の磁気特性(特に高温での保磁力)が増加し易い。ただし、永久磁石2はTb及びDyを含有しなくてもよい。
【0041】
永久磁石2におけるBの含有量は、0.70質量%以上1.10質量%以下、又は0.80質量%以上1.10質量%以下であってよい。Bの含有量が0.70質量%以上である場合、残留磁束密度が増加し易い。Bの含有量が1.10質量%以下である場合、永久磁石2の保磁力が増加し易い。Bの含有量が上記の範囲内である場合、永久磁石2の角型比が1.0に近づき易い。
永久磁石2における希土類元素Rの含有量の合計が28.00質量%以上33.00質量%以下であり、永久磁石2におけるBの含有量が0.80質量%以上1.10質量%以下である場合、永久磁石2における希土類元素Rの含有量がR14Bの化学量論比に対して大きい。その結果、後述される熱間塑性加工工程において、液相が粒界において生成し易い。粒界中の液相は、結晶粒(R14B)の異方成長、粒界すべり及び結晶粒の回転を促進する。その結果、結晶粒のc軸が応力方向に配向し易く、永久磁石2中の結晶粒の充填率が高まり易く、(換言すれば主相の体積比率が高まり易く、)永久磁石2の保磁力及び残留磁束密度が高まり易い。
【0042】
永久磁石2は、ガリウム(Ga)を含有してよい。Gaの含有量は、0.03質量%以上1.00質量%以下、又は0.20質量%以上0.80質量%以下であってよい。Gaの含有量が上記範囲内である場合、副相(例えば、R、T及びGaを含有する相)の生成が適度に抑制され、永久磁石2の残留磁束密度及び保磁力が増加し易い。ただし、永久磁石2はGaを含有しなくてもよい。
【0043】
永久磁石2は、アルミニウム(Al)を含有してもよい。永久磁石2におけるAlの含有量は、0.01質量%以上0.2質量%以下、又は0.04質量%以上0.07質量%以下であってよい。Alの含有量が上記範囲内であることにより、永久磁石の保磁力及び耐食性が向上し易い。ただし、永久磁石2はAlを含有しなくてもよい。
【0044】
永久磁石2は、銅(Cu)を含有してよい。永久磁石2におけるCuの含有量は0.01質量%以上1.50質量%以下、又は0.04質量%以上0.50質量%以下であってよい。Cuの含有量が上記範囲内であることにより、永久磁石2の保磁力、耐食性及び温度特性が向上し易い。ただし、永久磁石2はCuを含有しなくてもよい。
【0045】
永久磁石2は、コバルト(Co)を含有してよい。永久磁石におけるCoの含有量は、0.30質量%以上6.00質量%以下、又は0.30質量%以上4.00質量%以下であってよい。永久磁石2がCoを含有することにより、永久磁石2のキュリー温度が向上し易い。また永久磁石2がCoを含有することにより、永久磁石2の耐食性が向上し易い。ただし、永久磁石2はCoを含有しなくてもよい。
【0046】
永久磁石2から上記の元素を除いた残部は、Feのみ、又はFe及びその他の元素であってよい。永久磁石2が十分な磁気特性を有するためには、残部のうち、Fe以外の元素の含有量の合計は、永久磁石2の全質量に対して5質量%以下であってよい。
【0047】
永久磁石2は、その他の元素(例えば、不可避不純物)として、珪素(Si)、チタン(Ti)、Mn(マンガン)、Zr(ジルコニウム)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)、カルシウム(Ca)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、塩素(Cl)、硫黄(S)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。永久磁石2におけるその他の元素の含有量の合計は、0.001質量%以上0.50質量%であってよい。
【0048】
永久磁石2全体の組成は、例えば、蛍光X線(XRF)分析法、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、不活性ガス融解‐非分散型赤外線吸収(NDIR)法、酸素気流中燃焼‐赤外吸収法、及び不活性ガス融解‐熱伝導度法等によって分析されてよい。
【0049】
永久磁石2は、モーター、発電機又はアクチュエーター等に適用されてよい。例えば、永久磁石2は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用される。
【0050】
(永久磁石の製造方法)
本実施形態に係る永久磁石の製造方法は、少なくとも薄帯作製工程、第一搬送工程、粉砕/分級工程、第二搬送工程、熱間成形工程、第三搬送工程、及び熱間塑性加工工程を含む。永久磁石の製造方法は、熱間塑性加工工程に続く粒界拡散工程等の他の工程を更に含んでよい。ただし、粒界拡散工程は必須ではない。
【0051】
薄帯作製工程は、超急冷凝固法によって原料合金から合金薄帯を作製する工程である。得られる。超急冷凝固法では、容器内の溶湯が、容器の先端に位置するノズルから冷却ロールの表面へ噴射される。溶湯は、冷却ロールの表面に接触し、高速で回転する冷却ロールによって瞬時に弾き飛ばされ、多数の細長いリボン状になる。冷却ロールの表面への接触により、溶湯は急速に冷却され、凝固する。その結果、多数の細長い合金薄帯が形成される。冷却ロールによって合金薄帯が弾き飛ばされる方向には、容器が設置されており、合金薄帯が容器内へ回収される。
【0052】
ノズルの孔径は、例えば、0.2mm以上1.0mm以下であってよい。ノズルの孔径が0.2mm以上1.0mm以下である場合、粉砕/分級工程においてアスペクト比の平均値が1以上2以下である合金粉末が回収され易い。
【0053】
溶湯は、永久磁石を構成する各元素を含む金属(原料金属)である。原料金属は、例えば、希土類元素の単体(金属単体)、希土類元素を含有する合金、純鉄、フェロボロン、又はこれらを含有する合金であってよい。これらの原料金属は、所望の永久磁石の組成に一致するように秤量される。
【0054】
溶湯は、容器内の原料金属を高周波誘導加熱によって加熱することに得られてよい。ノズルから噴射される溶湯の温度(噴射温度)は、例えば、約1400℃であってよい。原料金属の温度が噴射温度に達するまでの昇温速度は、例えば、約20~100℃/秒であってよい。
【0055】
冷却ロールの表面は、Cu等の熱伝導率が高い金属から構成されてよい。冷却ロールの表面の温度は、冷却ロール内を流れる冷媒によって制御されてよい。例えば、冷却ロールの表面における溶湯の冷却速度が約10~10℃/秒となるように、冷却ロールの表面の温度が制御されてよい。冷却速度が高いほど、合金薄帯に含まれる結晶(R14B)の粒子径が微細になり易く、永久磁石の保磁力が高まり易い。単位時間あたりに冷却ロールの表面へ噴射される溶湯の量が少ないほど、冷却ロールの表面に付着する溶湯が薄くなり、冷却速度が高くなり、合金薄帯も薄くなる。冷却ロールの周速が高いほど、冷却ロールの表面に付着する溶湯が薄くなり、冷却速度が高くなり、合金薄帯も薄くなる。磁化容易軸方向における主相粒子の厚さ(主相粒子の短軸の長さ)は、合金薄帯の厚さ(並びに合金薄帯の粉砕及び分級)に依る。合金薄帯が薄いほど、主相粒子の厚さ(粒子径)が小さくなり、永久磁石の保磁力が高まる傾向がある。ただし、Rリッチ相の一因は、合金薄帯の表面の酸化であり、合金薄帯が薄いほど、表面が酸化された薄い主相粒子が永久磁石に含まれ易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが小さくなる傾向がある。合金薄帯の厚さは、例えば、20μm以上60μm以下、又は30μm以上50μm以下であってよい。合金薄帯の幅は、例えば、1.0mm以上5.0mm以下であってよい。合金薄帯が上記の寸法を有する場合、粉砕/分級工程においてアスペクト比の平均値が1以上2以下である合金粉末が回収され易い。
【0056】
溶湯の酸化を抑制するために、溶湯の容器内の雰囲気は、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスで置換されてよい。溶湯の容器内の気圧は、例えば、100kPa以上240kPa以上であってよい。
【0057】
冷却ロールは、チャンバー内に設置されている。Rリッチ相の一因は、合金薄帯の表面近傍に含有されるRの優先的な酸化である。溶湯及び合金薄帯の酸化に因るRリッチ相の生成を抑制するために、チャンバー内の雰囲気は、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスで置換されてよい。同様の理由から、チャンバー内の雰囲気は、不活性ガスに加えて水素ガス(H)等の還元性ガスを含んでよい。チャンバー内の雰囲気における水素ガスの濃度は、例えば、0.1質量%以上0.5質量%以下であってよい。チャンバー内の雰囲気中の水素の還元性により、溶湯及び合金薄帯の酸化(Rリッチ相の生成)が更に抑制される。したがって、チャンバー内の雰囲気が水素を含有することにより、Rリッチ相の間隔が更に大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。チャンバー内の雰囲気における水素の濃度の増加に伴って、Rリッチ相の間隔が更に大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。チャンバー内の気圧は、例えば、60kPa以上200kPa以下であってよい。溶湯は冷却ロールの表面において直ちに室温まで冷却されるわけではない。凝固直後の合金薄帯の温度は未だ高温であり、超急冷凝固装置の筐体及びチャンバー内の雰囲気への熱伝導によって、合金薄帯の冷却が継続される。チャンバー内の気圧が低い場合(例えば、チャンバー内の気圧が20kPaである場合)、合金薄帯からチャンバー内の雰囲気への熱伝導が小さく、合金薄帯の冷却速度が遅くなる。冷却速度が遅い場合、R14Bの化学量論比に対して過剰なRは合金薄帯の内部から表面へ排出される。その結果、合金薄帯の表面近傍においてRが過剰となり、Rの酸化物が合金薄帯の表面に形成され易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm未満になり易い。
溶湯の容器内の気圧は、チャンバー内の気圧よりも高い。溶湯の容器内の気圧とチャンバー内の気圧との差は、ノズルから噴射される溶湯の圧力(噴射差圧)である。
【0058】
薄帯作製工程後、第一搬送工程が実施される。第一搬送工程は、超急冷凝固法によって作製された合金薄帯を、粉砕/分級工程に用いる粉砕/分級装置まで搬送する工程である。第一搬送工程の雰囲気は、非酸化的雰囲気である。つまり、合金薄帯が形成された時点から合金薄帯が粉砕/分級装置へ到達する時点までの間、合金薄帯は、非酸化的雰囲気中に維持される。例えば、超急冷凝固装置(冷却ロールが設置されたチャンバー)から粉砕/分級装置まで連通する搬送路内の雰囲気が、非酸化的雰囲気であってよく、この搬送路内で合金薄帯が搬送されてよい。非酸化的雰囲気で満たされた容器内に容れられた合金薄帯が、チャンバーから粉砕/分級装置まで搬送されてもよい。第一搬送工程の雰囲気(非酸化的雰囲気)は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。第一搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度は、0質量ppm以上20質量ppm以下である。第一搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度が低いほど、第一搬送工程中に合金薄帯の表面が酸化され難く、合金薄帯の酸化された表面に由来するRリッチ相が永久磁石に含有され難い。その結果、Rリッチ相の間隔が大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。一方、第一搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度が20質量ppmよりも高い場合、Rリッチ相の間隔が小さくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm未満になり易い。
【0059】
第一搬送工程後、粉砕/分級工程が実施される。粉砕/分級工程は、粉砕装置を用いて合金薄帯を粉砕して粗粉末を作製し、粗粉末を分級することにより、所定の粒子径及びアスペクト比を有する合金粉末を回収する工程である。合金粉末は、永久磁石に含まれる主相粒子の前駆体である。合金粉末を構成する各合金粒子の形状は、板状又はフレーク状であってよい。合金薄帯の粉砕方法は、例えば、カッターミル及びプロペラミルのうち少なくとも一つの方法であってよい。粗粉末の分級の手段は、篩である。分級によって得られた合金粉末の粒子径及び粒度分布は、例えばレーザー回折散乱法によって測定されてよい。分級によって得られた合金粉末の粒子径は、例えば、60μm以上2800μm以下、又は150μm以上2800μm以下であってよい。
【0060】
粉砕/分級工程において回収される合金粉末のアスペクト比の平均値は、1以上2以下である。合金粉末のアスペクト比の平均値は小さいほど好ましく、合金粉末のアスペクト比の平均値は1であることが最も好ましい。合金粉末のアスペクト比の平均値が1以上2以下である場合、熱間成形工程及び熱間塑性加工工程においてRリッチ相の偏析及び凝集が抑制され、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上である永久磁石が得られ易い。換言すれば、合金粉末のアスペクト比の平均値の減少に伴って、熱間塑性加工工程においてRリッチ相の偏析及び凝集が抑制され、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが増加する。同様の理由から、合金粉末のアスペクト比の標準偏差σはできるだけ小さいことが好ましい。例えば、合金粉末のアスペクト比の標準偏差σは0以上2以下であってよい。
【0061】
合金粉末のアスペクト比の平均値が大き過ぎる場合、各合金粒子の形状が歪であるため、熱間成形工程及び熱間塑性加工工程において各合金粒子に作用する力が不均一であり、各合金粒子が破砕し易い。破砕によって生じた各合金粒子の断面が位置する粒界においては、各合金粒子から染み出した液相(Rリッチ相)が凝集し易い。その結果、多数のRリッチ相が永久磁石内に形成され易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm未満になり易い。また凝集した液相(Rリッチ相)に因り、各合金粒子の異常成長が起こり易く、粗大な主相粒子が形成され易い。液相の凝集に伴う成形体中の応力の分散と主相粒子の粗大化に因り、主相粒子が回転し難く、主相粒子が磁化容易軸方向において配向し難い。また合金粉末のアスペクト比の平均値が大き過ぎる場合、各合金粒子の形状が歪であるため、熱間成形工程及び熱間塑性加工工程において、各合金粒子が成形体中に緻密に充填され難く、成形体中に隙間が生じ易い。その結果、残留磁束密度が低下し易い。
【0062】
以下の通り、ノズルの孔径と、粗粉末の分級に用いる篩によって、合金粉末のアスペクト比の平均値が制御される。
粗粉末を構成する扁平な合金粒子の長軸の長さは、l(小文字のL)と表される。合金粒子の短軸の長さは、wと表される。合金粒子の厚さは、tと表される。l、w及びtは、t<w≦lを満たす。合金粒子のアスペクト比ARは、l/wと表される。ARは1以上の実数である。lは、合金粒子の厚さ方向に略垂直な方向における合金粒子の長径と言い換えられてよい。wは、合金粒子の厚さ方向に略垂直な方向における合金粒子の短径と言い換えられてよい。合金粒子の厚さ方向は、磁化容易軸方向に平行な永久磁石の断面における主相粒子の短軸の方向に対応してよい。合金粒子の厚さtは、合金薄帯の厚さと略同じであってよく、例えば、20μm以上60μm以下、又は30μm以上50μm以下であってよい。合金粒子の短軸の長さwは、合金薄帯の幅と略同じであってよく、例えば、1.0mm以上5.0mm以下であってよい。
粗粉末の分級では、第一篩と、第一篩よりも目開きの内径(孔径)が小さい第二篩が用いられる。第一篩の目開きの内径は、D1と表される。換言すれば、第一篩の目開きは正方形であり、正方形の一辺の長さがD1である。第二篩の目開きの内径は、D2と表される。換言すれば、第二篩の目開きは正方形であり、正方形の一辺の長さがD2である。D2はD1よりも小さい。合金薄帯の粉砕によって得られた粗粉末のうち、第一篩を通過した後に第二篩を通過しなかった合金粉末が回収され、永久磁石の材料として用いられる。換言すれば、長軸の長さlがD1以下であり且つD2よりも大きい合金粒子が、第一篩と第二篩との間から回収され易い。したがって、第一篩と第二篩との間から回収される合金粉末を構成する各合金粒子は、下記不等式1を満たす傾向がある。合金粒子の長軸の長さlはw×ARと表されるので、下記記不等式1は、下記不等式2と等価である。下記不等式2から下記不等式3が導出される。第一篩の目開きの内径D1が一定である場合、下記不等式3は、合金粒子の短軸の長さwの減少に伴って、合金粒子のアスペクト比が増加する傾向を示している。合金粒子の短軸の長さwが一定である場合、下記不等式3は、第一篩の目開きの内径D1の増加に伴って、合金粒子のアスペクト比が増加する傾向を示している。また下記不等式3は、D1及びD2の差(D1-D2)の減少に伴って、合金粒子のアスペクト比の範囲が狭まり、アスペクト比の標準偏差σが減少する傾向を示している。
D2<l≦D1 (1)
D2<w×AR≦D1 (2)
(D2/w)<AR≦(D1/w) (3)
以下の理由により、合金粒子の短軸の長さw及び合金粒子のアスペクト比(l/w)は、上記の超急冷凝固法に用いるノズルの孔径に依存する。
ノズルから噴射される溶湯(液滴)の寸法は、ノズルの孔径と略等しい。そして、ノズルから冷却ロールの表面へ噴射された溶湯(液滴)は、冷却ロールへの表面において瞬間的に潰れて拡がる。その結果、扁平で細長い合金薄帯が形成される。したがって、合金薄帯の幅は、ノズルの孔径(液滴の寸法)よりも大きい傾向があり、合金薄帯の粉砕によって形成される合金粒子の短軸の長さwも、ノズルの孔径(液滴の寸法)よりも大きい傾向がある。そして、ノズルの孔径の減少に伴って、液滴は小さくなり、液滴から形成される合金薄帯は細長くなり、合金薄帯の粉砕によって得られる形成される合金粒子の短軸の長さwは減少する傾向がある。したがって、合金粒子の短軸の長さw及び合金粒子のアスペクト比(l/w)は、ノズルの孔径によって制御可能である。
合金粒子の長軸の長さlは、合金粒子の短軸の長さwに比べてノズルの孔径に依存し難い。合金粒子の長軸の長さlは、合金薄帯の粉砕の方法及び条件によって所望の範囲内に制御され易い。
上述の通り、ノズルの孔径、合金粒子の短軸の長さw、合金粒子の長軸の長さl並びに各篩の目開きの内径(D1及びD2)の間の関係に基づいて、分級によって回収される合金粉末のアスペクト比が制御される。
第一篩を通過しなかった合金粉末は、再利用されてよい。例えば、第一篩を通過しなかった粗粉末は、回収され、合金薄帯と共に再び粉砕されてよい。第二篩を通過した合金粉末も、再利用されてよい。例えば、第二篩を通過した合金粉末は、回収され、溶湯の原料に用いられてよい。第二篩を通過した合金粉末は、廃棄されてもよい。
【0063】
粉砕/分級工程において回収される合金粉末のアスペクト比の平均値は、以下の方法によって測定されてよい。合金粉末を構成する各合金粒子は、互いに重ならないように、平坦な面上に載置される。平坦な面は、各合金粒子を固定するために粘着性を有していてよい。平坦な面上に載置された多数の合金粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される。SEMによって観察される視野の寸法は、例えば、縦1mm×横1mmmであってよい。SEMによって観察される視野内に観察される合金粒子の個数は、例えば、約100個以上1000個以下であってよい。各合金粒子は、板状又はフレーク状であり、各合金粒子の厚さtは、各合金粒子の長軸の長さl及び短軸の長さwよりも小さい。したがって、平坦な面上に載置された各合金粒子は、各合金粒子の長軸及び短軸を含む2次元の形状として観察される。各合金粒子の形状は、各合金粒子に外接する四角形のうち面積が最小である四角形で近似されてよい。四角形は、長方形又は正方形である。この四角形の短辺の長さが、合金粒子の短軸の長さwとみなされる。上記四角形の長辺の長さが、合金粒子の長軸の長さlとみなされる。以上の前提に基づき、各合金粒子の長軸の長さl及び短軸の長さwが測定され、各合金粒子のアスペクト比(l/w)が算出される。SEMによって観察される視野内に存在する全ての合金粒子のアスペクト比から、合金粉末のアスペクト比の平均値、及びアスペクト比の標準偏差が算出される。各合金粒子の形状(輪郭線)の特定、及び各合金粒子に外接する四角形の寸法の測定には、市販の画像解析ソフトが用いられてよい。
【0064】
合金粉末の比表面積は、合金薄帯の比表面積よりも大きいので、合金粉末は合金薄帯よりも酸化され易い。(合金薄帯の比表面積は、合金粉末から形成される成形体の比表面積よりも大きいので、合金薄帯は成形体よりも酸化され易い。)また合金粉末の粒子径が小さいほど、合金粉末の比表面積が大きく、合金粉末の表面が酸化され易い。合金粉末の酸化により、合金粉末の酸化された表面に由来する多数のRリッチ相が永久磁石に含有され易い。したがって、合金粉末の粒子径が小さいほど、Rリッチ相の間隔が小さくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm未満になり易い。換言すれば、合金粉末の粒子径が大きいほど、合金粉末の比表面積が小さく、合金粉末の表面の酸化が抑制される。合金粉末の酸化の抑制により、永久磁石に含有されるRリッチ相の数が減少する。したがって、合金粉末の粒子径が大きいほど、Rリッチ相の間隔が大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。
【0065】
粉砕/分級工程の雰囲気は、非酸化的雰囲気である。非酸化的雰囲気下で粉砕/分級工程を実施することにより、粉砕/分級工程中の合金薄帯、粗粉末及び合金粉末の酸化が抑制される。その結果、Rリッチ相の間隔が大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。粉砕/分級工程の雰囲気(非酸化的雰囲気)は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。粉砕/分級工程の雰囲気中の酸素の濃度は、0質量ppm以上20質量ppm以下である。粉砕/分級工程の雰囲気中の酸素の濃度が低いほど、Rリッチ相の間隔が大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。一方、粉砕/分級工程の雰囲気中の酸素の濃度が20質量ppmよりも高い場合、Rリッチ相の間隔が小さくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm未満になり易い。
【0066】
粉砕/分級工程後、第二搬送工程が実施される。第二搬送工程は、粉砕/分級工程によって得られた合金粉末を、熱間成形工程に用いる成形装置まで搬送する工程である。第二搬送工程の雰囲気は、非酸化的雰囲気である。つまり、合金粉末が形成された時点から合金粉末が成形装置へ到達する時点までの間、合金粉末は、非酸化的雰囲気中に維持される。例えば、粉砕/分級装置から成形装置まで連通する搬送路内の雰囲気が、非酸化的雰囲気であってよく、この搬送路内で合金粉末が搬送されてよい。非酸化的雰囲気で満たされた容器内に容れられた合金粉末が、粉砕/分級装置から成形装置まで搬送されてもよい。第二搬送工程の雰囲気(非酸化的雰囲気)は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。第二搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度は、0質量ppm以上20質量ppm以下である。第二搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度が低いほど、第二搬送工程中に合金粉末の表面が酸化され難く、合金粉末の酸化された表面に由来するRリッチ相が永久磁石に含有され難い。その結果、Rリッチ相の間隔が大きくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm以上になり易い。一方、第二搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度が20質量ppmよりも高い場合、Rリッチ相の間隔が小さくなり易く、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが30μm未満になり易い。
【0067】
第二搬送工程後、熱間成形工程が実施される。熱間成形工程は、合金粉末を加熱しながら加圧することにより、成形体を形成する工程である。例えば、金型内の合金粉末を加熱しながら、合金粉末が金型で圧縮されてよい。合金粉末の加圧により、合金粉末間の空隙が減少して、緻密な成形体が得られる。また加圧に伴う合金粉末の加熱により、合金粉末の表面から液相(Ndリッチ相等のRリッチ相)が形成され、液相が合金粉末間の空隙(粒界)を満たし、且つ液相によって合金粉末が潤滑になることにより、緻密な成形体が得られる。熱間成形工程前に冷間成形工程が実施されてもよい。冷間成形工程では、常温(室温)で合金粉末を加圧することにより、成形体が形成されてよい。冷間成形工程によって得られた成形体を熱間成形工程において加熱しながら加圧することにより、成形体が緻密化されてよい。熱間成形工程における合金粉末の温度(熱間成形温度)は、例えば、700℃以上800℃以下であってよい。熱間成形温度が低過ぎる場合、十分な液相が合金粉末の表面から形成されず、成形体が緻密化され難い。熱間成形温度が高過ぎる場合、合金粉末を構成する結晶(R14B)の粒成長が過度に進行し、永久磁石の保磁力が低下し易い。熱間成形工程において合金粉末に及ぶ圧力(熱間成形圧力)は、50MPa以上200MPa以下であってよい。合熱間成形温度及び熱間成形圧力が上記の範囲に保持される時間(熱間成形時間)は、例えば、数十秒以上数百秒以下であってよい。
【0068】
熱間成形工程における合金粉末及び成形体の酸化を抑制するために、非酸化的雰囲気中で熱間成形工程が実施されてよい。熱間成形工程の雰囲気(非酸化的雰囲気)は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。熱間成形工程の雰囲気中の酸素の濃度は、例えば、0質量ppm以上20質量ppm以下であってよい。
【0069】
熱間成形工程後、第三搬送工程が実施される。第三搬送工程は、熱間成形工程によって得られた成形体を、熱間塑性加工工程に用いる成形装置まで搬送する工程である。成形体の酸化を抑制するために、第三搬送工程の雰囲気は、非酸化的雰囲気であってもよい。つまり、成形体が形成された時点から成形体が熱間塑性加工用の成形装置へ到達する時点までの間、成形体は、非酸化的雰囲気中に維持されてよい。例えば、熱間成形用の成形装置から熱間塑性加工用の成形装置まで連通する搬送路内の雰囲気が、非酸化的雰囲気であってよく、この搬送路内で成形体が搬送されてよい。非酸化的雰囲気で満たされた容器内に容れられた成形体が、熱間成形用の成形装置から成形装置まで搬送されてもよい。第三搬送工程の雰囲気は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。合金粉末から形成される成形体の比表面積は、合金粉末及び合金薄帯其々の比表面積よりも著しく小さいので、成形体(特に成形体の内部)は、合金粉末及び合金薄帯よりも酸化され難い。したがって、第三搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度が第一搬送工程及び第二搬送工程其々の雰囲気中の酸素の濃度よりも高い場合であっても、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEを30μm以上に制御することができる。例えば、第三搬送工程の雰囲気が空気である場合も、第一搬送工程及び第二搬送工程其々の雰囲気中の酸素の濃度の低減によって、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEを30μm以上に制御することができる。第三搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度は、0質量ppm以上200000ppm以下、好ましくは0質量ppm以上2000質量ppm以下、より好ましくは0質量ppm以上20質量ppm以下であってよい。
【0070】
第三搬送工程後、熱間塑性加工工程が実施される。熱間塑性加工工程は、熱間成形工程によって得られた成形体の熱間押出し成形により、c軸(磁化容易軸)が所定の方向に配向した複数の主相粒子(R14Bの結晶粒)を含む磁石基材を得る工程である。例えば、熱間塑性加工工程では、成形体を加熱しながら成形体が金型から押し出される。金型内では、加熱された成形体中の粒界相が液化して液相(Rリッチ相)が生成すると共に、所定の方向において応力が成形体に作用し、成形体を構成する各合金粒子が歪む。液相の生成と合金粒子の歪みに伴って、結晶粒のc軸と垂直な方向における結晶粒の異方成長が進行する。また液相が各結晶粒を潤滑にし、応力に応じて各結晶粒に力が作用する。その結果、結晶粒が粒界すべりによって回転し、各結晶粒(主相粒子)のc軸が応力方向と略平行に配向する。換言すれば、c軸と略垂直な方向に延びる複数の扁平な主相粒子が、応力方向に沿って積み重なる。
熱間塑性加工工程における成形体の温度(熱間塑性加工温度)は、例えば、700℃以上900℃未満、又は700℃以上850℃以下であってよい。
熱間塑性加工温度が低過ぎる場合、液相(Ndリッチ相等のRリッチ相)が成形体内の粒界において生成し難く、結晶粒が成長し難く、粒界すべりに因る結晶粒の回転が起き難い。その結果、主相粒子の短軸の長さの平均値が20nm未満になり易く、各主相粒子(結晶粒)のc軸が応力方向と略平行に配向し難い。
熱間塑性加工温度が高過ぎる場合(例えば、熱間塑性加工温度が900℃以上である場合)、液相(Rリッチ相)が各合金粒子から過度に染み出して、各合金粒子の表面及び合金粒子間の界面へ偏析し、殆どの液相が結晶粒の粒成長に消費される。その結果、AB方向におけるRリッチ相の生成の頻度が低下して、Rリッチ相の間隔の平均値iAVEが1000μmを超え易い。また殆どの液相が結晶粒の粒成長に消費されることにより、主相粒子(結晶粒)の粒成長が異常に進行し、粗大な主相粒子が形成され易く、主相粒子の短軸の長さの平均値が200nmを超え易い。粗大な主相粒子は、磁化容易軸方向において配向し難い。
熱間押出し成形の押出速度は、10-2mm/秒以上9.9mm/秒以下であってよい。押出速度が高過ぎる場合(例えば、押出速度が10mm/秒以上である場合)、成形体中の主相粒子(結晶粒)の異方成長が十分に進行しないため、主相粒子(一次粒子)の短軸の長さの平均値が20nm未満になり易い。つまり押出速度が高過ぎる場合、成形体中の結晶粒の異方成長が十分に進行する前に、成形体が金型から押し出されてしまう。その結果、各主相粒子(結晶粒)のc軸が応力方向と略平行に配向し難い。
熱間塑性加工工程において成形体に及ぶ圧力(熱間塑性加工圧力)は、50MPa以上200MPa以下であってよい。熱間塑性加工温度及び熱間塑性加工圧力が上記の範囲に保持される時間(熱間塑性加工時間)は、例えば、数十秒であってよい。
【0071】
熱間塑性加工工程における成形体及び磁石基材の酸化を抑制するために、非酸化的雰囲気中で熱間塑性加工工程が実施されてよい。熱間塑性加工工程の雰囲気(非酸化的雰囲気)は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。熱間塑性加工工程の雰囲気中の酸素の濃度は、例えば、0質量ppm以上20質量ppm以下であってよい。
【0072】
以上の工程によって得られた磁石基材が、永久磁石の完成品であってよい。下記の粒界拡散工程を経た磁石基材が、永久磁石の完成品であってもよい。
【0073】
熱間塑性加工工程後、下記の粒界拡散工程が実施されてもよい。粒界拡散工程は、重希土類元素を含む拡散材を磁石基材の表面に付着させ、拡散材及び磁石基材を加熱する工程である。拡散材が付着した磁石基材の加熱により、拡散材中の重希土類元素が磁石基材の表面から磁石基材の内部へ拡散する。磁石基材の内部では、重希土類元素が、粒界を介して主相粒子の表面近傍へ拡散する。主相粒子の表面近傍において、一部の軽希土類元素(Nd等)が重希土類元素で置換される。重希土類元素が主相粒子の表面近傍及び粒界に局在することにより、異方性磁界が粒界の近傍において局所的に大きくなり、磁化反転の核が粒界の近傍において発生し難くなる。その結果、高い保磁力を有する永久磁石が得られる。
粒界拡散工程では、拡散材に含有される各元素が、磁石基材内の各粒界及び各結晶粒の表面へ略均一に拡散する。また、熱拡散材に由来する各元素から形成される粒界相は、酸化に因るRリッチ相よりも微細であり、Rリッチ相の間隔の測定中に検出され難い。したがって、拡散材に由来する各元素は、Rリッチ相の間隔に影響し難い。
【0074】
粒界拡散工程における磁石基材の酸化を抑制するために、非酸化的雰囲気中で粒界拡散工程が実施されてよい。粒界拡散工程の雰囲気(非酸化的雰囲気)は、例えば、Arガス等の不活性ガスであってよい。粒界拡散工程の雰囲気中の酸素の濃度は、例えば、0質量ppm以上20質量ppm以下であってよい。粒界拡散工程の雰囲気の気圧は、例えば、50kPa以上120kPa以下であってよい。粒界拡散工程における拡散材及び磁石基材の温度(拡散温度)は、例えば、550℃以上900℃以下であってよい。拡散温度が上記の範囲に保持される時間(拡散時間)は、例えば、1分以上1440分以下であってよい。
【0075】
拡散材は、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有してよい。拡散材は、重希土類元素に加えて、Nd及びPrのうち少なくとも一種の軽希土類元素を更に含有してよい。拡散材は、重希土類元素及び軽希土類元素に加えて、Cuを更に含有してもよい。拡散材は、例えば、一種の上記元素からなる金属、一種の上記元素の水素化物、複数種の上記元素を含む合金、又は当該合金の水素化物であってよい。拡散材は、粉末であってよい。粒界拡散工程では、拡散材及び有機溶媒を含むスラリーが磁石基材の表面に塗布されてよい。粒界拡散工程では、磁石基材の表面が、拡散材及びバインダを含むシートで覆われてもよい。粒界拡散工程では、磁石基材の表面が、拡散材から構成される合金箔(リボン)で覆われてもよい。
【0076】
拡散材の拡散を促進するため、粒界拡散工程前に磁石基材の表面が研磨されてよい。粒界拡散工程後に磁石基材の表面に残存する拡散材を除去するために、粒界拡散工程後の磁石基材の表面が研磨されてもよい。
【0077】
磁石基材の切削及び研磨等により、磁石基材の寸法及び形状が調整されてよい。磁石基材の表面の酸化又は化成処理(chemical treatment)により、不動態(passive)層が磁石基材の表面に形成されてよい。磁石基材の表面が樹脂膜等の保護膜で覆われてもよい。不動態層又は保護膜により、永久磁石の耐食性が向上する。
【0078】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【実施例
【0079】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0080】
<永久磁石の作製>
(実施例1)
薄帯作製工程では、超急冷凝固法によって原料合金から合金薄帯が作製された。薄帯作製工程に用いた原料金属(溶湯)は、Nd、Fe、Co、Ga、Al及びBを含有していた。
原料金属中のNdの含有量は、30.17質量%であった。
原料金属中のCoの含有量は、3.96質量%であった。
原料金属中のGaの含有量は、0.59質量%であった。
原料金属中のAlの含有量は、0.04質量%であった。
原料金属中のBの含有量は、0.97質量%であった。
Nd、Co、Ga、Al及びBを除く原料金属の残部は、Feであった。
【0081】
ノズルから噴射される溶湯の温度(噴射温度)は、1400℃であった。原料金属の温度が噴射温度に達するまでの昇温速度は、100℃/秒であった。冷却ロールの表面における溶湯の冷却速度は、約10℃/秒に制御された。冷却ロールの周速は、40m/秒であった。ノズルの孔径は、下記表1に示される値であった。
【0082】
ノズル内のガス(溶湯の容器内の雰囲気)は、Arであった。ノズルの圧力(溶湯の容器内の気圧)は、100kPaであった。
【0083】
冷却ロールが設置されたチャンバー内のガス(雰囲気)は、Arであった。チャンバー内の雰囲気における水素ガスの濃度は、0.00質量%であった。チャンバーの圧力(チャンバー内の気圧)は、60kPaであった。噴射差圧は、40kPaであった。
【0084】
薄帯作製工程後の第一搬送工程では、合金薄帯が、超急冷凝固装置から粉砕/分級装置まで輸送された。第一搬送工程のガス(雰囲気)は、Arであった。第一搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度は、20質量ppmであった。
【0085】
第一搬送工程後の粉砕/分級工程では、合金薄帯の粉砕及び分級により、所定のアスペクト比を有する合金粉末が回収された。分級に用いた第一篩の目開きの内径D1は、下記表1に示される値であった。分級に用いた第二篩の目開きの内径D2は、下記表1に示される値であった。回収された合金粉末のアスペクト比の平均値ARAVEが上述の方法で測定された。回収された合金粉末のアスペクト比の平均値ARAVEは、下記表1に示される値であった。合金粉末のアスペクト比の標準偏差σは、下記表1に示される値であった。
【0086】
粉砕/分級工程のガス(雰囲気)は、Arであった。粉砕/分級工程の雰囲気中の酸素の濃度は、20質量ppmであった。
【0087】
粉砕/分級工程後の第二搬送工程では、合金粉末が、粉砕/分級装置から成形装置まで搬送された。第二搬送工程のガス(雰囲気)は、Arであった。第二搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度は、20質量ppmであった。
【0088】
第二搬送工程後の熱間成形工程では、金型内の合金粉末を加熱しながら、合金粉末を金型で圧縮することにより、成形体が作製された。成形体は薄い板であった。成形体の長さは80mmであり、成形体の幅は22mmであり、成形体の厚さは11mmであった。熱間成形温度は、750℃であった。熱間成形圧力は、100MPaであった。熱間成形時間は、300秒であった。熱間成形工程のガス(雰囲気)は、Arであった。熱間成形工程の雰囲気中の酸素の濃度は、20質量ppmであった。
【0089】
熱間成形工程後の第三搬送工程では、成形体が熱間成形用の成形装置から熱間塑性加工用の成形装置まで搬送された。第三搬送工程のガス(雰囲気)は、Arであった。第三搬送工程の雰囲気中の酸素の濃度は、20質量ppmであった。
【0090】
第三搬送工程後、熱間塑性加工工程が実施された。熱間塑性加工工程(成形体の熱間押出し成形)に用いた金型は、筒状である。つまり、金型のキャビティーは、成形体用の入口が開く金型の端面(始端面)から、成形体用の押出口が開く金型の端面(終端面)へ向かって金型を貫通している。始端面及び終端面は、互いに平行な平面である。始端面から終端面への方向が成形体の押出方向であり、押出方向は始端面及び終端面に垂直である。成形体の押出口の開口面積は、成形体の入口の開口面積よりも小さい。
キャビティーは、押出方向に沿って、入口側領域、中間領域、及び押出口側領域に区画される。入口側領域は、始端面において開口する。押出口側領域は、終端面において開口する。中間領域は、押出方向において入口側領域と押出口側領域の間に位置する。
押出方向に垂直な金型の断面(始端面及び終端面に平行な金型の断面)におけるキャビティーの形状は、4つの角の全てが直角である四辺形である。この四辺形において向かい合う一対の辺は、第1辺と表記され、上記四辺形において向かい合う他の一対の辺は、第2辺と表記される。
入口側領域のおける第1辺及び第2辺其々の長さは一定である。つまり、押出方向に垂直な断面における入口側領域の開口面積は一定である。中間領域においては、押出方向に沿って第1辺の長さが徐々に減少し、最終的には押出口側領域のおける第1辺の長さと一致する。したがって、押出口側領域のおける第1辺は、入口側領域のおける第1辺よりも短い。また中間領域においては、押出方向に沿って第2辺の長さが徐々に増加し、最終的には押出口側領域のおける第2辺の長さと一致する。したがって、押出口側領域のおける第2辺は、入口側領域のおける第2辺よりも長い。さらに、押出方向に垂直な断面における中間領域の開口面積は、押出方向に沿って徐々に減少し、最終的には押出方向に垂直な断面における押出口側領域の開口面積と一致する。したがって、押出方向に垂直な断面における押出口側領域の開口面積は、押出方向に垂直な断面における入口側領域の開口面積よりも小さい。押出口側領域における第1辺及び第2辺其々の長さは、一定である。つまり、押出方向に垂直な断面における押出口側領域の開口面積は一定である。
入口側領域(始端面)における第1辺の長さは、22mmであり、入口側領域(始端面)における第2辺の長さは、11mmであった。押出口側領域(終端面)における第1辺の長さは、7mmであり、押出口側領域(終端面)における第2辺の長さは、30mmであった。押出方向における入口側領域の長さは、80mmであった。押出方向における中間領域の長さは、20mmであった。押出方向における押出口側領域の長さは、20mmであった。
上述の通り、押出方向に垂直な断面における押出口側領域の開口面積は、押出方向に垂直な断面における入口側領域の開口面積よりも小さく、出口側領域(終端面)における第1辺は、押出口側領域(終端面)における第2辺よりも短い。したがって、押出口側領域において、第1辺に略平行な応力が成形体に作用し、粒界すべり、及び主相粒子の回転が起きる。その結果、主相粒子のc軸が応力方向(第1辺の方向)に沿って配向する。つまり、熱間押出し成形によって得られる磁石基材の磁化容易軸方向は、押出口側領域(終端面)における第1辺の方向である。
【0091】
熱間塑性加工工程では、上記の金型を用いた成形体の熱間押出し成形により、磁石基材が作製された。金型の入口の温度は、下記表1に示される値であった。金型の押出口(出口)の温度は、下記表1に示される値であった。熱間塑性加工圧力は、100MPaであった。熱間押出し成形の押出速度は、下記表1に示される値であった。
【0092】
熱間塑性加工工程のガス(雰囲気)は、Arであった。熱間塑性加工工程の雰囲気中の酸素の濃度は、20質量ppmであった。
【0093】
熱間塑性加工工程後の粒界拡散工程では、拡散材が付着した磁石基材が加熱された。拡散材は、Nd、Tb及びCuからなる共晶合金の水素化物の粉末であった。粒界拡散工程では、拡散材及び有機溶媒の混合物であるスラリーが、磁石基材の全表面に塗布された。拡散材中のNdの含有量は60質量%であった。拡散材中のTbの含有量は20質量%であった。拡散材中のCuの含有量は20質量%であった。永久磁石(粒界拡散工程後の磁石基材)におけるTbの含有量が2質量%に一致するように、磁石基材へ付着する拡散材の質量が調整された。
【0094】
粒界拡散工程のガス(雰囲気)は、Arであった。粒界拡散工程の圧力(粒界拡散工程の雰囲気の気圧)は、100kPaであった。拡散温度は、700℃であった。拡散時間は、300分であった。
【0095】
以上の方法により、実施例1の永久磁石が作製された。
【0096】
(実施例2~9及び比較例1~12)
実施例2~9及び比較例1~12其々のノズルの孔径は、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の第一篩の目開きの内径D1は、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の第二篩の目開きの内径D2は、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の合金粉末のアスペクト比の平均値ARAVEは、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の合金粉末のアスペクト比の標準偏差σは、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の熱間塑性加工工程における金型の入口の温度は、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の熱間塑性加工工程における金型の押出口(出口)の温度は、下記表1に示される値であった。
実施例2~9及び比較例1~12其々の熱間押出し成形の押出速度は、下記表1に示される値であった。
下記表1に示される諸製造条件を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~9及び比較例1~12其々の永久磁石が作製された。
【0097】
<永久磁石の分析>
(永久磁石の組成及び微細構造)
全ての実施例及び比較例其々の永久磁石の断面が、走査電子顕微鏡(SEM)によって観察された。観察された各永久磁石の断面は、各永久磁石の磁化容易軸方向に平行であった。また各永久磁石の断面の組成が、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)及びエネルギー分散型X線分光(EDS)装置で分析された。
全ての実施例及び比較例の場合において、永久磁石は、多数の主相粒子(NdFe14Bの結晶粒)と、複数のRリッチ相(Ndリッチ相)と、を含んでいた。全ての実施例及び比較例の場合において、断面において観察される各主相粒子は扁平であり、複数の扁平な主相粒子が、磁化容易軸方向に沿って積み重なっていた。全ての実施例及び比較例の場合において、各Rリッチ相は、複数の主相粒子の間に位置していた。少なくとも一部のRリッチ相は、AB方向に沿って並ぶ複数の主相粒子の間に位置していた。全ての実施例及び比較例の場合において、一部のRリッチ相は、Ndの酸化物を含有していた。
【0098】
実施例2の永久磁石の断面の一部の反射電子像が、図3に示される。図3中の5つの反射電子像は同一である。反射電子像は、SEMによって撮影された。反射電子像が撮影された断面は、磁化容易軸方向に平行であった。
【0099】
図3中の測定領域A(a)、A(b)、A(c)、A(d)及びA(e)其々において、AB方向に沿って輝度分布が測定された。AB方向における各測定領域の幅は、400μmであった。磁化容易軸方向Cにおける各測定領域の幅は、15μmであった。各測定領域において、輝度分布に基づき、AB方向におけるRリッチ相の間隔の平均値が測定された。5つの上記測定領域其々におけるRリッチ相の間隔の平均値を更に平均することにより、AB方向におけるRリッチ相の間隔の平均値iAVEが得られた。輝度分布及びRリッチ相の間隔の測定方法の詳細は、上記実施形態に記載の通りであった。
【0100】
比較例8の永久磁石の断面の一部の反射電子像が、図4に示される。図4中の5つの反射電子像は同一である。反射電子像は、SEMによって撮影された。反射電子像が撮影された断面は、磁化容易軸方向に平行であった。図4中の測定領域A’(a)、A’(b)、A’(c)、A’(d)、及びA’(e)其々において、AB方向に沿って輝度分布が測定された。そして、実施例2と同様の方法で、比較例8のRリッチ相の間隔の平均値iAVEが得られた。
【0101】
実施例2と同様の方法で、全ての実施例及び比較例其々のRリッチ相の間隔の平均値iAVEが得られた。実施例1~9及び比較例11~12其々のRリッチ相の間隔の平均値iAVEは、下記表1に示される。
【0102】
(主相粒子の寸法)
実施例2の永久磁石の断面の反射電子像が、SEMで撮影された。反射電子像が撮影された断面は、磁化容易軸方向に平行であった。反射電子像の寸法は、縦88μm×横126μmであった。反射電子像内の代表的な複数の箇所を選定して、各箇所の反射電子像が高倍率で撮影された。高倍率の反射電子像内に存在する主相粒子(一次粒子)の長軸及び短軸其々の長さが測定された。各主相粒子の形状は、主相粒子に外接する長方形のうち面積が最小である長方形で近似された。この長方形の長辺の長さが、主相粒子の長軸の長さとみなされ、長方形の短辺の長さが、主相粒子の短軸の長さとみなされた。高倍率の反射電子像内に存在する全ての主相粒子の長軸の長さの平均値Labが算出された。高倍率の反射電子像内に存在する全ての主相粒子の短軸の長さの平均値Lcが算出された。
【0103】
実施例2と同様の方法で、全ての実施例及び比較例其々の主相粒子の長軸及び短軸其々の長さが測定された。実施例1~9及び比較例11~12其々の主相粒子(一次粒子)の短軸の長さの平均値Lcは、下記表1に示される。
【0104】
各実施例の主相粒子(一次粒子)の長軸の長さの平均値Labのうち、最小値は、約100nmであった。各実施例の主相粒子(一次粒子)の長軸の長さの平均値Labのうち、最大値は、約1000nmであった。
【0105】
(永久磁石の磁気特性)
全ての実施例及び比較例其々の永久磁石の残留磁束密度(Br)、保磁力(HcJ)及び角形比(Hk/HcJ)が測定された。残留磁束密度、保磁力及び角形比は、BHトレーサーによって測定された。保磁力は23℃及び150℃において測定された。Brは室温において測定された。角形比は、23℃において測定された。全ての実施例及び比較例其々の保磁力の温度係数βが算出された。温度係数βは、下記数式4によって定義される。下記数式4中のHcJ150は、150℃での保磁力である。下記数式4中のHcJ23は、23℃での保磁力である。
β=100×(HcJ150-HcJ23)/HcJ23(150-23) (4)
【0106】
以上の永久磁石の磁気特性の測定値は、下記表1に示される。
【0107】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係るR‐T‐B系永久磁石は、例えば、例えば、電気自動車又はハイブリッド車に搭載されるモーターの材料に適している。
【符号の説明】
【0109】
2…R‐T‐B系永久磁石、2cs…永久磁石の断面、4…主相粒子(一次粒子)、4a…二次粒子、6…Rリッチ相、C…磁化容易軸方向、AB…磁化容易軸方向に略垂直な方向。

図1
図2
図3
図4