(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】送水制御装置の手動操作方法および電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20241126BHJP
E02B 13/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A01G25/00 501D
E02B13/02 G
(21)【出願番号】P 2021166694
(22)【出願日】2021-10-11
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100090181
【氏名又は名称】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】井内 友昭
(72)【発明者】
【氏名】四元 友治
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-031913(JP,A)
【文献】特開2020-103044(JP,A)
【文献】特開2020-089317(JP,A)
【文献】再公表特許第01/069113(JP,A1)
【文献】WATARAS 再設置の手順と注意事項について,説明書,日本,株式会社クボタケミックス,2021年03月24日,第1―5頁,https://agriculture.kubota.co.jp/after-support/manual/download.html?hash=234833147b97bb6aed53a8f4f1c7a7d8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
E02B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動アクチュエータが取り付けられた送水制御装置の手動操作方法であって、
前記送水制御装置は、
圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を備え、
前記電動アクチュエータは、
前記変位機構を駆動する駆動機構と、前記駆動機構を収容する本体ケースとを有するアクチュエータ本体
、
前記送水制御装置に前記アクチュエータ本体を取り付けるための取付部
、
前記本体ケースの外部に設けられ、前記駆動機構を制御する制御部と前記制御部を収容する第2のケースとを有する制御装置、および
前記駆動機構と前記制御部とを電気的に接続する配線を備え、
前記配線は、前記本体ケースの外部にコネクタを有しており、
前記アクチュエータ本体は、前記取付部に対して回転不可に固定された固定状態と、前記取付部に対して周方向に
360度以上回転可能である回転可能状態とに切り替え可能であって、
前記送水制御装置を手動で操作するときには、前記アクチュエータ本体を前記回転可能状態にし、前記変位機構と前記駆動機構とを連結したまま前記アクチュエータ本体を周方向に回転させることで、前記変位機構を変位させる、送水制御装置の手動操作方法。
【請求項2】
圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を備える送水制御装置に取り付けられて、前記変位機構を作動させる電動アクチュエータであって、
前記変位機構を駆動する駆動機構と、前記駆動機構を収容する本体ケースとを有するアクチュエータ本体
、
前記送水制御装置に前記アクチュエータ本体を取り付けるための取付部
、
前記本体ケースの外部に設けられ、前記駆動機構を制御する制御部と前記制御部を収容する第2のケースとを有する制御装置、および
前記駆動機構と前記制御部とを電気的に接続する配線を備え、
前記配線は、前記本体ケースの外部にコネクタを有しており、
前記アクチュエータ本体は、前記取付部に対して回転不可に固定された固定状態と、前記取付部に対して周方向に
360度以上回転可能である回転可能状態とに切り替え可能である、電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記本体ケースは、
当該本体ケースの下端部に形成された第1ボルト孔、および
前記第1ボルト孔と異なる高さ位置において、当該本体ケースの下端部に形成された第2ボルト孔を有し、
前記取付部は、
前記本体ケースの下端部と嵌め合わされた側壁部、
前記第1ボルト孔と対応する位置において前記側壁部に形成された貫通孔、および
前記第2ボルト孔と対応する位置において前記側壁部に形成され、当該側壁部の周方向に延びる環状の案内溝を有し、
前記貫通孔を介して前記第1ボルト孔に螺合された固定ボルト、および
前記第2ボルト孔に螺合されると共に、先端部が前記案内溝に係合された案内ボルトを備え、
前記固定ボルトは、先端部のみにねじ山が形成された脱落防止ボルトであり、
前記アクチュエータ本体は、
前記案内ボルトによって前記取付部に対して上下方向に抜け止めされた状態で、前記回転可能状態において前記取付部に対して周方向に回転可能である、請求項2記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記アクチュエータ本体は、前記本体ケースの外側面から外方に突出する
円環板状または棒状のハンドル部を有する、請求項2または3記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記アクチュエータ本体は、前記固定状態となる周方向位置を変更可能である、請求項2から4のいずれかに記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送水制御装置の手動操作方法および電動アクチュエータに関し、特にたとえば、電動アクチュエータが取り付けられた送水制御装置を電動アクチュエータの故障時などに手動操作するための送水制御装置の手動操作方法、およびそれに用いられる電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動アクチュエータが取り付けられた送水制御装置の一例が特許文献1に開示される。特許文献1の技術では、給水栓または落水口などの送水制御装置にこれを駆動する電動アクチュエータを取り付けることで、圃場の用水管理を遠隔操作または自動制御で行うことを可能としている。送水制御装置に電動アクチュエータを取り付ける際には、送水制御装置の弁軸(または連結軸)と電動アクチュエータの回転軸とが連結される。
【0003】
また、従来の電動アクチュエータの他の一例が特許文献2に開示される。特許文献2の電動アクチュエータは、パートターン弁を駆動する減速機の入力側に取り付けられ、モータの回転をウォームとウォームホイールにより減速して減速機を駆動する電動バルブアクチュエータである。この電動アクチュエータでは、ウォームホイールの内側にドライブスリーブを設けると共にドライブスリーブの内側に減速機と連結する出力軸を設ける。また、ドライブスリーブまたは出力軸にクラッチの一端側を設け、クラッチの他端側に手動ハンドルを設ける。そして、クラッチはモータの起動により遮断状態となり、モータの停止により接続状態とされ、モータが停止しているときに手動ハンドルを回転するだけでバルブを開閉可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-103099号公報
【文献】特開2016-160969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動アクチュエータの故障時などには、送水制御装置の変位機構を人力による手動操作で変位(開閉)させる必要が生じる。特許文献1の技術では、送水制御装置を手動操作する際には、送水制御装置の弁軸(または連結軸)と電動アクチュエータの回転軸との連結を外した後、弁軸にハンドルを取り付けて回す必要があるので、手動操作を行うのに手間がかかる。
【0006】
一方、特許文献2の技術では、モータ軸を切り離すクラッチ機構や、手動ハンドルの回転を電動アクチュエータの回転軸に伝達する機構が必要であるので、電動アクチュエータの構造が複雑となる。構造が複雑となる分、電動アクチュエータが大きくなり、価格もアップする。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、送水制御装置の手動操作方法および電動アクチュエータを提供することである。
【0008】
この発明の他の目的は、電動アクチュエータの故障時などに送水制御装置を容易に手動操作することができる、送水制御装置の手動操作方法および電動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、電動アクチュエータが取り付けられた送水制御装置の手動操作方法であって、送水制御装置は、圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を備え、電動アクチュエータは、変位機構を駆動する駆動機構と、駆動機構を収容する本体ケースとを有するアクチュエータ本体、送水制御装置にアクチュエータ本体を取り付けるための取付部、本体ケースの外部に設けられ、駆動機構を制御する制御部と制御部を収容する第2のケースとを有する制御装置、および駆動機構と制御部とを電気的に接続する配線を備え、配線は、本体ケースの外部にコネクタを有しており、アクチュエータ本体は、取付部に対して回転不可に固定された固定状態と、取付部に対して周方向に360度以上回転可能である回転可能状態とに切り替え可能であって、送水制御装置を手動で操作するときには、アクチュエータ本体を回転可能状態にし、変位機構と駆動機構とを連結したままアクチュエータ本体を周方向に回転させることで、変位機構を変位させる、送水制御装置の手動操作方法である。
【0010】
第1の発明では、電動アクチュエータが取り付けられた給水栓および落水口などの送水制御装置を手動で操作する。電動アクチュエータは、駆動機構および本体ケースを有するアクチュエータ本体と、送水制御装置にアクチュエータ本体を取り付けるための取付部と、制御部および第2のケースを有し、本体ケースの外部に設けられる制御装置と、駆動機構と制御部とを電気的に接続する配線とを備える。この配線は、本体ケースの外部にコネクタを有している。また、アクチュエータ本体は、取付部に対して回転不可に固定された固定状態と、取付部に対して周方向に360度以上回転可能である回転可能状態とに切り替え可能に設けられている。送水制御装置を手動で操作するときには、アクチュエータ本体を回転可能状態にし、送水制御装置の変位機構と電動アクチュエータの駆動機構とを連結したまま、アクチュエータ本体を周方向に回転させる。
【0011】
第1の発明によれば、送水制御装置の変位機構と電動アクチュエータの駆動機構との連結を解除することなく、また、電動アクチュエータにクラッチ構造などの複雑な機構を設けることなく、緊急時などに送水制御装置を容易に手動操作することができる。
【0012】
第2の発明は、圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を備える送水制御装置に取り付けられて、変位機構を作動させる電動アクチュエータであって、変位機構を駆動する駆動機構と、駆動機構を収容する本体ケースとを有するアクチュエータ本体、送水制御装置にアクチュエータ本体を取り付けるための取付部、本体ケースの外部に設けられ、駆動機構を制御する制御部と制御部を収容する第2のケースとを有する制御装置、および駆動機構と制御部とを電気的に接続する配線を備え、配線は、本体ケースの外部にコネクタを有しており、アクチュエータ本体は、取付部に対して回転不可に固定された固定状態と、取付部に対して周方向に360度以上回転可能である回転可能状態とに切り替え可能である、電動アクチュエータである。
【0013】
第2の発明では、電動アクチュエータは、駆動機構および本体ケースを有するアクチュエータ本体と、送水制御装置にアクチュエータ本体を取り付けるための取付部と、制御部および第2のケースを有し、本体ケースの外部に設けられる制御装置と、駆動機構と制御部とを電気的に接続する配線とを備える。この配線は、本体ケースの外部にコネクタを有している。そして、アクチュエータ本体は、取付部に対して回転不可に固定された固定状態と、取付部に対して周方向に360度以上回転可能である回転可能状態とに切り替え可能に設けられている。
【0014】
第2の発明によれば、アクチュエータ本体を回転可能状態にするだけで、送水制御装置の変位機構と電動アクチュエータの駆動機構との連結を解除することなく、また、電動アクチュエータにクラッチ構造などの複雑な機構を設けることなく、アクチュエータ本体を周方向に回転させることで送水制御装置の変位機構を変位させることができる。したがって、緊急時などに送水制御装置を容易に手動操作することができる。
【0015】
第3の発明は、第2の発明に従属し、本体ケースは、当該本体ケースの下端部に形成された第1ボルト孔、および第1ボルト孔と異なる高さ位置において、当該本体ケースの下端部に形成された第2ボルト孔を有し、取付部は、本体ケースの下端部と嵌め合わされた側壁部、第1ボルト孔と対応する位置において側壁部に形成された貫通孔、および第2ボルト孔と対応する位置において側壁部に形成され、当該側壁部の周方向に延びる環状の案内溝を有し、貫通孔を介して第1ボルト孔に螺合された固定ボルト、および第2ボルト孔に螺合されると共に、先端部が案内溝に係合された案内ボルトを備え、固定ボルトは、先端部のみにねじ山が形成された脱落防止ボルトであり、アクチュエータ本体は、案内ボルトによって取付部に対して上下方向に抜け止めされた状態で、回転可能状態において取付部に対して周方向に回転可能である。
【0016】
第3の発明によれば、アクチュエータ本体をスムーズに安定して回転させることができるので、送水制御装置をより容易に手動操作することができる。
【0017】
第4の発明は、第2または第3の発明に従属し、アクチュエータ本体は、本体ケースの外側面から外方に突出する円環板状または棒状のハンドル部を有する。
【0018】
第4の発明によれば、ハンドル部を把持することでアクチュエータ本体を回転させ易くなるので、送水制御装置をより容易に手動操作することができる。
【0019】
第5の発明は、第2から第4のいずれかの発明に従属し、アクチュエータ本体は、固定状態となる周方向位置を変更可能である。
【0020】
第5の発明によれば、アクチュエータ本体に太陽電池パネルを設ける場合に、太陽電池パネルの向き(設置方向)を南向きなどに調整可能となる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、送水制御装置の変位機構と電動アクチュエータの駆動機構との連結を解除することなく、また、電動アクチュエータにクラッチ構造などの複雑な機構を設けることなく、緊急時などに送水制御装置を容易に手動操作することができる。
【0022】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の一実施例である電動アクチュエータを用いた圃場水管理システムを示す図解図である。
【
図3】電動アクチュエータの内部構造を示す図解図である。
【
図6】電動アクチュエータを取り付けた給水栓を示す図解図である。
【
図7】固定状態にあるアクチュエータ本体と取付部との連結部分を拡大して示す図解図である。
【
図8】回転可能状態にあるアクチュエータ本体と取付部との連結部分を拡大して示す図解図である。
【
図9】この発明の他の実施例である電動アクチュエータを示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照して、この発明の一実施例である電動アクチュエータ16は、圃場100に設置される給水栓12および落水口14などの送水制御装置に取り付けられて、送水制御装置が有する変位機構を作動させる。詳細は後述するように、電動アクチュエータ16は、アクチュエータ本体40とその下側に設けられる取付部42とを備えており、アクチュエータ本体40と取付部42との連結部分は、固定状態と回転可能状態とに切り替え可能な構造を有している。
【0025】
この実施例では、電動アクチュエータ16は、圃場水管理システム10に用いられる。以下では、先ず、圃場水管理システム10の構成の一例について簡単に説明する。ただし、圃場水管理システム10の構成(給水栓12、落水口14および電動アクチュエータ16の具体的構成など)については、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0026】
図1に示すように、圃場水管理システム10は、圃場100の水管理を遠隔操作または予め記憶されたプログラムに基づく自動制御などによって行う圃場用設備である。この実施例では、圃場水管理システム10は、給水栓12と落水口14とを備えており、給水栓12および落水口14のそれぞれには、電動アクチュエータ16が取り付けられる。つまり、給水栓12および落水口14の変位機構を駆動する電動アクチュエータとしては、同じ構造を有する電動アクチュエータ16が用いられる。
【0027】
図示は省略するが、圃場100には、圃場水位を検出する超音波センサ等の水位センサ、気温や水温を検出する各温度センサ、気圧を検出する圧力センサ、土壌水分を検出する土壌水分センサ等のセンサ端末が適宜設けられる。センサ端末は、配線を介して電動アクチュエータ16と接続される。
【0028】
また、この実施例では、圃場水管理システム10は、畦畔102によって区画された複数の耕作区を含むシステムとなっている。給水栓12および落水口14のそれぞれは、各耕作区に設置され、これらに取り付けられた各電動アクチュエータ16は、特定小電力無線規格(920MHz帯)に従った無線通信方法によって中継機(親機)と無線通信可能に接続される。そして、各電動アクチュエータ16は、この中継機およびネットワーク上に設けられた管理サーバ等を経由して、ユーザが所有するスマートフォン、タブレット端末、PDAおよびPCのような遠隔操作端末と無線通信可能に接続される。ただし、電動アクチュエータ16は、中継機を介さずに、管理サーバまたは遠隔操作端末などの外部機器と無線通信を行うようにしてもよい。
【0029】
なお、この無線通信においては、クラウドコンピューティングを利用するとよい。たとえば、各電動アクチュエータ16で取得された情報(給水栓12のバルブ開度および落水口14の排水口高さなどの給水栓12および落水口14の状態に関する情報、およびセンサ端末から受信した圃場水位などのセンサ情報など)を管理サーバの一例であるクラウドサーバに随時送信して記憶しておく。ユーザは、遠隔操作端末からクラウドサーバにアクセスすることで、各電動アクチュエータ16で取得された情報を確認し、遠隔操作端末を用いて各電動アクチュエータ16を遠隔操作することで、圃場100の水管理を行うことができる。
【0030】
給水栓12は、圃場100への給水を制御するための給水装置であって、弁軸および弁体などを含む変位機構を有する。この実施例では、一般的に広く普及している、弁軸の軸回転に伴い弁軸及び弁体が上下動する方式の給水栓12を用いている。
【0031】
図2を参照して簡単に説明すると、給水栓12は、円筒状の弁箱20を備える。弁箱20の上半部は、ドーム状の飛散防止カバー22によって覆われており、弁箱20の側壁上部には、複数の吐水口24が周方向に並ぶように形成される。また、弁箱20の上端部には、内周面に雌ねじが形成された軸受26が設けられ、この軸受26には、飛散防止カバー22を貫通するように、外周面に雄ねじが形成された弁軸28が螺合されている。この弁軸28の下端には、下面に止水ゴム30aを有する円板状の弁体30が設けられる。また、弁箱20内の略中央部には、通水口32aを有する弁座32が設けられる。このような給水栓12において、弁軸28に対して軸線回りの回転力が加えられると、送りねじ機構によって弁軸28および弁体30が上下動し、弁座32の通水口32aが開閉される。すなわち、この実施例の給水栓12は、弁軸28の回転に伴い上下動する弁体30を含む変位機構を備える。
【0032】
図1に戻って、このような給水栓12は、畦畔102に設けられた給水桝104内に配置され、畦畔102の下に敷設される用水パイプライン106から分岐して圃場100内まで延びる分岐管108の下流側端部に取り付けられる。そして、給水栓12の上には、電動アクチュエータ16が取り付けられ、電動アクチュエータ16によって給水栓12の変位機構(弁軸28および弁体30)が作動される。
【0033】
一方、落水口14は、圃場100からの排水を制御するための排水装置であって、仕切体などを含む変位機構を有する。この実施例では、水位設定機能を有する落水口14を用いている。簡単に説明すると、落水口14は、上端開口が排水口として機能する円筒状の仕切体34を備えており、この仕切体34が上下動することで、排水口を任意の高さに調整することが可能である。
【0034】
このような落水口14は、畦畔102に設けられた排水桝110内に配置され、排水路112まで延びる排水管114の上流側端部に取り付けられる。そして、落水口14には、電動アクチュエータ16が取り付けられ、電動アクチュエータ16によって落水口14の変位機構(仕切体34)が上下動される。ただし、落水口14に電動アクチュエータ16を取り付ける際には、電動アクチュエータ16の回転軸66の回転力を上下方向(軸方向)の力に変換して仕切体34に伝達可能なアダプタ36が用いられる。
【0035】
図1と共に
図3を参照して、電動アクチュエータ16は、モータ60の駆動力を用いて給水栓12および落水口14などの送水制御装置の変位機構を作動させるための装置であって、アクチュエータ本体40と、送水制御装置にアクチュエータ本体40を取り付けるための取付部42(取付台)とを備える。
【0036】
図3および
図4に示すように、アクチュエータ本体40は、硬質ポリ塩化ビニル等の合成樹脂によって形成された円筒状の本体ケース50を備える。本体ケース50は、電動アクチュエータ16の筐体上部を構成する。また、本体ケース50の下端部には、固定ボルト80と螺合する複数の第1ボルト孔50aが周方向に所定間隔をあけて形成される。この実施例では、4つの第1ボルト孔50aが90度間隔で形成される。
【0037】
本体ケース50の上には、太陽電池パネル52が着脱可能に取り付けられる。太陽電池パネル52は、屈曲板状の金属製の保持体54によって所定角度となるように支持される。
【0038】
また、本体ケース50の内部には、電子基板56と、蓄電池58と、モータ60およびメインギア62等を含む駆動機構とが収容される。
【0039】
電子基板56には、図示は省略するが、CPUおよびメモリ等を含む制御部、および無線通信モジュール等を含む無線通信部などが配設される。制御部には、モータ60、操作パネル68、無線通信部およびセンサ端末などが電気的に接続される。制御部のCPUは、電動アクチュエータ16の全体制御を司り、モータ60等の駆動を制御する。メモリは、ROM、RAMおよびHDDなどを包括的に示したものであり、電動アクチュエータ16の動作を制御する制御プログラムを記憶したり、CPUが動作する際のワークエリアとして機能したりする。また、無線通信部は、アンテナと接続され、アンテナを介して中継機などの外部機器と無線通信を行う。
【0040】
蓄電池58は、太陽電池パネル52によって発電された電力を蓄電する。モータ60は、蓄電池58に蓄えられた電力によって駆動される。このモータ60の出力軸60aの先端部には、小ギア64が設けられており、メインギア62は、この小ギア64と連結されることで、モータ60からの駆動力を受けて軸線回りに回転する。
【0041】
メインギア62は、両ボス型のギアであり、メインギア62の軸部には、略円柱状の回転軸66が挿通される。この回転軸66の下端部には、給水栓12の弁軸28の上端部などと連結されるカップリング部66aが形成される。また、メインギア62の軸部の内周面には、軸方向に沿って延びるキー溝62aが形成され、回転軸66の外周面には、キー溝62aと嵌合される滑りキー66bが軸方向に沿って延びるように形成される。これによって、回転軸66は、メインギア62が回転すると共に回転し、かつメインギア62の軸部に対して軸方向に摺動可能となる。
【0042】
また、本体ケース50の外側面には、使用者による操作指示を受け付ける、つまり使用者が電動アクチュエータ16を直接操作するための操作パネル68が設けられる。操作パネル68には、主電源スイッチ、上昇ボタン、下降ボタン、および電動アクチュエータ16の動作モード(遠隔モード、自動モードまたは手動モード等)を切り替えるための選択ボタン等が適宜設けられる。この操作パネル68には、センサ端末から延びる配線を接続するための接続端子なども設けられる。
【0043】
図5に示すように、取付部42は、電動アクチュエータ16の筐体下部を構成するものであり、円筒状の側壁部70と、側壁部70の下端部に設けられる底板部72とを含む。側壁部70は、たとえば、硬質ポリ塩化ビニル等の合成樹脂によって形成され、底板部72は、アルミニウムおよびステンレス等の金属によって形成される。
【0044】
側壁部70には、回転軸66などの動作確認および清掃などの維持管理作業を行うための点検口70a(
図3参照)が形成される。また、側壁部70の上端部には、周方向に所定間隔で並ぶ複数の孔70bが形成されている。この実施例では、4つの孔70bが90度間隔で形成される。この孔70bを介して本体ケース50の第1ボルト孔50aに固定ボルト80を締結することで、本体ケース50の下端部に取付部42が固定される。一方、底板部72の中央部には、給水栓12の弁軸28の上端部などが挿通される通孔72aが形成される。また、底板部72には、通孔72aの周囲に、周方向および径方向に並ぶ複数の孔72bが形成されており、この孔72bを用いて給水栓12の上面などに取付部42(延いては電動アクチュエータ16)がボルト止めされる。
【0045】
図6に示すように、給水栓12の上に電動アクチュエータ16を取り付ける際には、給水栓12の飛散防止カバー22上に電動アクチュエータ16を載置した状態で、飛散防止カバー22および軸受26と取付部42の底板部72とをボルト止めする。また、給水栓12の弁軸28の上端部と電動アクチュエータ16の回転軸66のカップリング部66aとを回転不可に連結する。
【0046】
電動アクチュエータ16を取り付けた給水栓12においては、たとえば、ユーザが遠隔操作端末を用いて管理サーバにアクセスし、給水栓12を全閉、全開または任意の開度とするため等の操作指示(制御信号)を送信すると、この操作指示に応じた制御信号が管理サーバから中継機を介して電動アクチュエータ16に対して送信される。電動アクチュエータ16の制御部は、受信した制御信号に応じてモータ60を駆動させる。このモータ60の駆動力は、メインギア62に伝達されて、メインギア62と共に回転軸66が回転する。これにより、回転軸66に固定的に連結された給水栓12の弁軸28に対して、回転力が付与される。回転力が加えられた弁軸28は、ねじ機構によって上下動され、弁体30が全開位置および全閉位置などに移動される。
【0047】
同様に、図示は省略するが、落水口14の上に電動アクチュエータ16を取り付ける際には、落水口14に設けた台座上に電動アクチュエータ16を載置してボルト止めすると共に、アダプタ36の連結軸の上端部を回転軸66のカップリング部66aに対して回転不可に連結する。電動アクチュエータ16を取り付けた落水口14においては、ユーザが落水口14の排水口高さ(仕切体34の高さ位置)を設定するための操作指示を送信すると、電動アクチュエータ16の制御部は、制御信号に応じてモータ60を駆動させ、落水口14の排水口高さを変更する。
【0048】
上述のように、電動アクチュエータ16が取り付けられた送水制御装置(給水栓12または落水口14)では、通常時には、送水制御装置の変位機構が電動アクチュエータ16によって電動で変位(作動)される。しかしながら、電動アクチュエータ16に故障(動作不良)が生じたとき等には、送水制御装置の変位機構を人力による手動操作で変位させる必要が生じる。この際、給水栓12の弁軸28と電動アクチュエータ16の回転軸66との連結を外したり、弁軸28にハンドルを取り付けたりして手動操作を行うのには、手間がかかる。
【0049】
そこで、この実施例では、電動アクチュエータ16に下記の構成を採用すると共に、下記の手動操作方法を採用することで、送水制御装置を容易に手動操作できるようにした。以下、
図3~
図8を参照して具体的に説明する。
【0050】
図3~
図8に示すように、この実施例の電動アクチュエータ16では、アクチュエータ本体40と取付部42との連結部分に、アクチュエータ本体40を固定状態と回転可能状態とに切り替え可能とする構造を設けている。つまり、アクチュエータ本体40は、取付部42に対して回転不可に固定された固定状態と、取付部42に対して周方向に回転可能である回転可能状態とに切り替え可能に設けられている。
【0051】
上述のように、アクチュエータ本体40の本体ケース50の下端部には、複数の第1ボルト孔50aが周方向に所定間隔をあけて形成されている。一方、取付部42の側壁部70の上端部には、複数の孔70bが周方向に所定間隔をあけて形成されている。そして、
図7からよく分かるように、孔70bを介して第1ボルト孔50aに固定ボルト80を螺合させることで、本体ケース50の下端部に取付部42が固定される。つまり、アクチュエータ本体40は、取付部42に対して回転不可に固定された固定状態となる。
【0052】
一方、
図8に示すように、第1ボルト孔50aから固定ボルト80を取り外す(螺合を解除する)ことで、本体ケース50に対する取付部42の固定が解除される。つまり、アクチュエータ本体40は、取付部42に対して周方向に回転可能である回転可能状態となる。この実施例では、固定ボルト80として、先端部のみにねじ山80aが形成された脱落防止ボルトを用いている。これにより、第1ボルト孔50aに対する固定ボルト80の螺合を解除したときに、取付部42からの固定ボルト80の脱落が防止され、固定ボルト80の紛失などが防止される。
【0053】
また、この実施例では、アクチュエータ本体40は、回転可能状態において、取付部42に対して上下方向に抜け止めされた状態で回転可能に設けられている。具体的には、取付部42の側壁部70の上端部内面には、孔70bよりも下方の高さ位置に、周方向に延びる環状の案内溝70cが形成される。ただし、案内溝70cの高さ位置は、孔70bの近くであれば、孔70bの下方でも上方でもよい。一方、アクチュエータ本体40の本体ケース50の下端部には、案内溝70cと対応する高さ位置に、1または複数の第2ボルト孔50bが形成される。たとえば、2つの第2ボルト孔50bが180度間隔で形成される。この第2ボルト孔50bには、案内ボルト82が取り付けられる。この際、案内ボルト82は、先端部が本体ケース50の外面から突出するように設けられ、案内ボルト82の先端部(突出部)は、案内溝70cと係合する案内突起82aとして用いられる。
【0054】
アクチュエータ本体40を回転させる際には、案内溝70cに嵌め込まれた状態の案内突起82aが案内溝70cに沿って移動することで、アクチュエータ本体40が取付部42に対して上下方向に抜け止めされた(動きが規制された)状態で回転される。このように、アクチュエータ本体40が取付部42に対して上下方向に抜け止めされた状態で回転可能なことによって、アクチュエータ本体40をスムーズに安定して回転させることができる。したがって、送水制御装置をより容易に手動操作することができる。
【0055】
さらに、本体ケース50の上端部には、外側面から外方に突出するハンドル部86(把持部)が設けられる。この実施例では、ハンドル部86は、硬質ポリ塩化ビニル等の合成樹脂によって円環板状(鍔状)に形成され、溶接などの適宜の方法で本体ケース50の外側面に固着される。ただし、ハンドル部86の形状は、適宜変更可能であり、ハンドル部86を棒状などに形成することもできる。このようなハンドル部86を設けることで、作業者は力を入れ易くなり、アクチュエータ本体40を回転させ易くなる。したがって、送水制御装置をより容易に手動操作することができる。
【0056】
さらに、この実施例では、アクチュエータ本体40は、固定状態となる周方向位置を変更可能である。上述のように、この実施例では第1ボルト孔50aが90度間隔で形成されているので、アクチュエータ本体40は、取付部42に対する周方向位置(つまり設置する向き)を4方向に変更可能である。このように、固定状態となるアクチュエータ本体40の周方向位置を変更可能にしておくことで、太陽電池パネル52の向き(設置方向)を南向きなどに調整可能となる。なお、第1ボルト孔50aの数を増やすことで、より細やかにアクチュエータ本体40の周方向位置(延いては太陽電池パネル52の向き)を調整することが可能となる。
【0057】
続いて、上述のような電動アクチュエータ16が取り付けられた送水制御装置の手動操作方法について簡単に説明する。たとえば、電動アクチュエータ16が取り付けられた給水栓12おいて、給水栓12を手動で操作する必要が生じたときには、
図8に示すように、第1ボルト孔50aに対する固定ボルト80の螺合を解除して、アクチュエータ本体40を回転可能状態にする。なお、電動アクチュエータ16に水位センサ等のセンサ端末が接続されている場合には、コネクタを外しておく。そして、給水栓12の弁軸28と電動アクチュエータ16の回転軸66との連結を外すことなく(つまり送水制御装置の変位機構と電動アクチュエータ16の駆動機構とを連結したまま)、ハンドル部86を把持してアクチュエータ本体40を周方向(時計回りまたは反時計回り)に回転させる。つまり、給水栓12に取付部42を固定したまま、取付部42に対してアクチュエータ本体40の全体を回転させる。アクチュエータ本体40を回転させると、回転軸66と共に給水栓12の弁軸28も回転するので、回転力が加えられた弁軸28は、ねじ機構によって上下動され、弁体30が全開位置および全閉位置などに移動される(つまり変位機構が変位される)。
【0058】
以上のように、この実施例によれば、アクチュエータ本体40が取付部42に対して固定状態と回転可能状態とに切り替え可能に設けられており、アクチュエータ本体40を周方向に回転させることで送水制御装置の変位機構を変位させるので、送水制御装置を容易に手動操作することができる。すなわち、送水制御装置の変位機構と電動アクチュエータ16の駆動機構との連結を解除することなく、また、電動アクチュエータ16にクラッチ構造などの複雑な機構を設けることなく、緊急時などに送水制御装置を容易に手動操作することができる。
【0059】
なお、上述の実施例では、本体ケース50の内部に、電子基板56、蓄電池58、モータ60およびメインギア62等を収容しているが、これに限定されない。たとえば、
図9に示す実施例のように、モータ60およびメインギア62等の駆動機構のみを本体ケース50内に収容し、電子基板56および蓄電池58などは、本体ケース50の外部に設けた他のケース内に配置することもできる。すなわち、電動アクチュエータ16を、駆動機構を含む駆動装置と電子基板56(制御部)を含む制御装置とに分割し、送水制御装置に取り付けるアクチュエータ本体40を駆動装置のみで構成することもできる。この場合、モータ60は、配線88などを介して電子基板56と電気的に接続するとよい。
【0060】
図9に示す実施例のように、本体ケース50内にモータ60およびメインギア62等の駆動機構のみを収容する、つまり送水制御装置に取り付けるアクチュエータ本体40を駆動装置のみで構成することで、アクチュエータ本体40の小型化および軽量化を図ることができる。したがって、アクチュエータ本体40を取付部42に対して周方向に回転させることが容易となり、緊急時などに送水制御装置をより容易に手動操作することができる。
【0061】
また、上述の実施例では、電動アクチュエータ16は、太陽電池パネル52を備えるようにしたが、容量の大きい蓄電池58を用いる場合には、必ずしも太陽電池パネル52を備える必要はない。また、商用電源などの他の電源を使用できる環境に圃場水管理システム10が適用される場合には、電動アクチュエータ16は、必ずしも太陽電池パネル52および蓄電池58を備える必要はない。
【0062】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値および具体的形状などは、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 …圃場水管理システム
12 …給水栓(送水制御装置)
14 …落水口(送水制御装置)
16 …電動アクチュエータ
40 …アクチュエータ本体
42 …取付部
50 …本体ケース
70c …案内溝
80 …固定ボルト
82 …案内ボルト
82a …案内突起
86 …ハンドル部
100 …圃場