(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20241126BHJP
【FI】
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2021179030
(22)【出願日】2021-11-01
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】清住 香奈
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-74866(JP,A)
【文献】特開2007-274863(JP,A)
【文献】特開2018-98843(JP,A)
【文献】特開2020-156243(JP,A)
【文献】特開平11-299297(JP,A)
【文献】特開2012-253889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0111992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波の電圧値と第1電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させるインバータ回路と、
前記電動機に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換部と、
前記電動機の回転数と回転数指令値との回転数差によりd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する電流指令値出力部と、
前記d軸電流と前記d軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、
前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を第2電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、
前記第2電圧指令値が、前記インバータ回路の入力電圧と第1変調率とを乗算して求められる電圧制限値より大きい場合、前記電圧制限値を前記第1電圧指令値として出力し、前記第2電圧指令値が前記電圧制限値以下である場合、前記第2電圧指令値を前記第1電圧指令値として出力する制限部と、
前記第2電圧指令値から、前記第1変調率より小さい第2変調率と前記入力電圧により求められる最大電圧指令値とを乗算した値を減算した値である電圧飽和量が正の値であるとき、前記d軸電流指令値を負方向に増加させ、前記電圧飽和量が負の値であるとき、前記d軸電流指令値を負方向に減少させる調整部と、
を備える電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置であって、
前記第2変調率は、前記d軸電圧指令値をVd*とし、前記q軸電圧指令値をVq*とし、前記入力電圧をVinとする場合において、下記式1を計算することで得られる実変調率が前記第1変調率以下であるとき、または、前記第2電圧指令値の変動幅の最大値が前記電圧制限値以下であるとき、前記実変調率の取り得る最大の変調率である第3変調率に係数を乗算した値とし、前記実変調率が前記第1変調率より大きいとき、または、前記第2電圧指令値の変動幅の最大値が前記電圧制限値より大きいとき、前記第1変調率から前記実変調率の変動幅を減算した値とする
【数1】
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の動作を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御装置として、電動機に流れる電流と電流指令値との差に基づく電圧指令値が電圧制限値以下である場合、電圧指令値に応じて電動機の動作を制御するとともに電圧指令値に応じてd軸電流指令値を負方向に減少させ、電圧指令値が電圧制限値より大きい場合、電圧制限値に応じて電動機の動作を制御するとともに電圧指令値に応じてd軸電流指令値を負方向に増加させるものがある。関連する技術として、非特許文献1がある。
【0003】
ところで、電動機の回転数が比較的高い場合、電圧指令値が電圧制限値より大きくなり易い。また、電圧指令値が電圧制限値より大きい場合では、電動機の動作を制御するための電圧とd軸電流指令値を制御するための電圧との間に乖離が生じるため、電動機に流れる電流を適切に制御できない状態が発生してしまう。
【0004】
そのため、上記制御装置では、電動機の回転数が高くなるほど、電動機の制御周期に対する、電圧指令値が電圧制限値より大きくなる時間の割合が高くなるため、電動機に流れる電流を適切に制御することができない時間が増加し、電動機に流れる電流に脈動が生じて電動機の制御性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】松本純、長谷川勝、「PMSMの電流制御系における電圧飽和量を用いたフィードバック型弱め磁束制御の実機検証」、平成28年電気学会産業応用部門大会講演論文集、2016年8月30日、3-46、III-263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、高回転時の電動機の制御性が低下することを抑制することが可能な電動機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、インバータ回路と、電流変換部と、電流指令値出力部と、電圧指令値算出部と、電圧指令値変換部と、制限部と、調整部とを備える。
【0008】
前記インバータ回路は、搬送波の電圧値と第1電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させる。
【0009】
前記電流変換部は、前記電動機に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する。
【0010】
前記電流指令値出力部は、前記電動機の回転数と回転数指令値との回転数差によりd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する。
【0011】
前記電圧指令値算出部は、前記d軸電流と前記d軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する。
【0012】
前記電圧指令値変換部は、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を第2電圧指令値に変換する。
【0013】
前記制限部は、前記第2電圧指令値が、前記インバータ回路の入力電圧と第1変調率とを乗算して求められる電圧制限値より大きい場合、前記電圧制限値を前記第1電圧指令値として出力し、前記第2電圧指令値が前記電圧制限値以下である場合、前記第2電圧指令値を前記第1電圧指令値として出力する。
【0014】
前記調整部は、前記第2電圧指令値から、前記第1変調率より小さい第2変調率と前記入力電圧により求められる最大電圧指令値とを乗算した値を減算した値である電圧飽和量が正の値であるとき、前記d軸電流指令値を負方向に増加させ、前記電圧飽和量が負の値であるとき、前記d軸電流指令値を負方向に減少させる。
【0015】
このように、第2変調率を第1変調率より小さくしているため、第2電圧指令値が電圧制限値より大きくなるよりも先に電圧飽和量を正の値に変化させ易くすることができる。これにより、回転数が比較的高く第2電圧指令値が電圧制限値より大きくなり易い状態であっても、第2電圧指令値が電圧制限値より大きくなる手前において弱め磁束制御が行われ易くすることができるため、電動機に流れる電流を適切に制御することができない時間の増加を抑えることができ、電動機に流れる電流が脈動することを抑え電動機の制御性が低下することを抑制することができる。
【0016】
また、前記第2変調率は、前記d軸電圧指令値をVd*とし、前記q軸電圧指令値をVq*とし、前記入力電圧をVinとする場合において、下記式1を計算することで得られる実変調率が前記第1変調率以下であるとき、または、前記第2電圧指令値の変動幅の最大値が前記電圧制限値以下であるとき、前記実変調率の取り得る最大の変調率である第3変調率に係数を乗算した値とし、前記実変調率が前記第1変調率より大きいとき、または、前記第2電圧指令値の変動幅の最大値が前記電圧制限値より大きいとき、前記第1変調率から前記実変調率の変動幅を減算した値とするように構成してもよい。
【0017】
【数1】
これにより、第2変調率が第1変調率未満になるように、第2変調率を適切な値に変化させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高回転時の電動機の制御性が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【
図4】実施形態の電動機の制御装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0021】
図1は、実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0022】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mの動作を制御するものであって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、電動機Mは、例えば、表面磁石型同期モータ(Surface Permanent Magnetic Synchronous Motor)などである。
【0023】
インバータ回路2は、電源Pから供給される電力により電動機Mを駆動させるものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1、Se2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端子が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端子が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0024】
コンデンサCは、電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される入力電圧Vinを平滑する。
【0025】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に印加され電動機Mの回転子が回転する。
【0026】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れるU相電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れるV相電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0027】
制御回路3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。
【0028】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成される。また、記憶部4は、後述する、変調率M1(第1変調率)及び変調率M2(第2変調率)などを記憶している。
【0029】
図2は、変調率M1~M3の一例を示す図である。なお、
図2に示す2次元座標の横軸は回転子の位置を示し、縦軸はインバータ回路2に入力される電圧に対する電圧指令値の割合を示す変調率を示している。また、
図2に示す実線は実変調率を示している。また、
図2に示す変調率M1、変調率M2、変調率M3(第3変調率)は、実験やシミュレーションなどにより予め算出されるものとする。また、電圧指令値および入力電圧を用いて算出される変調率を実変調率とする。
【0030】
図2に示す変調率M1は、下記式2により算出される。なお、Vd*を電圧指令値算出部15から出力されるd軸電圧指令値Vd*とし、Vq*を電圧指令値算出部15から出力されるq軸電圧指令値Vq*とし、Vinをインバータ回路2に入力される入力電圧Vinとする。
【0031】
【数2】
また、
図2に示す実変調率は、下記式1により算出される。なお、実変調率の変動幅は、電動機M、インバータ回路2、及び電動機Mの制御のそれぞれの仕様毎に異なり、U相搬送波、V相搬送波、及びW相搬送波の周波数、入力電圧Vin、電圧指令値算出部15または後述する調整用電流指令値算出部122におけるPI制御のゲイン、電動機Mの変調方式、及びU相電流IuやV相電流Ivのアナログ-デジタル変換方式の5つの因子が比較的悪条件であるときに測定される値とする。
【0032】
【数3】
また、
図2に示す変調率M3は、実変調率の取り得る最大の変調率とする。
【0033】
また、
図2に示す変調率M2は、変調率M1より小さい値になるように算出される。例えば、変調率M2は、実変調率が変調率M1以下であるとき、変調率M3に係数kを乗算した値とし、実変調率が変調率M1より大きいとき、変調率M1から実変調率の振幅値を減算した値とする。または、変調率M2は、電圧指令値Vdq*の変動幅の最大値が、後述する電圧制限値Vth以下であるとき、変調率M3に係数kを乗算した値とし、電圧指令値Vdq*の変動幅の最大値が、後述する電圧制限値Vthより大きいとき、変調率M1から実変調率の振幅値を減算した値とする。
【0034】
なお、係数kは例えば1~0.9に設定される。もし、変調率M3≦変調率M2を満たす場合には、弱め磁束が作動しなくなる。想定外の制御が生じて弱め磁束が作動しなくなる場合を考慮し、変調率M3>変調率M2となるよう変調率M2に余裕を持たせる目的で設定される。係数kを0.9≦K≦1と設定することで、変調率M2=変調率M3の場合に限らず、変調率M2を変調率M3よりやや小さい値に設定することができる。
【0035】
このように変調率M2を算出することにより、変調率M2が変調率M1未満になるように、変調率M2を適切な値に変化させることができる。
【0036】
また、
図1に示すドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部6から出力される電圧指令値V**(第1電圧指令値)とU相搬送波の電圧値とを比較し、その比較結果を駆動信号S1、S2として出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**とV相搬送波の電圧値とを比較し、その比較結果を駆動信号S3、S4として出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**とW相搬送波の電圧値とを比較し、その比較結果を駆動信号S5、S6として出力する。なお、U相搬送波、V相搬送波、及びW相搬送波は、三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波などであり、互いに120度位相が異なるものとする。例えば、ドライブ回路5は、電圧指令値V**がU相搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1をスイッチング素子SW1のゲート端子に出力するとともにローレベルの駆動信号S2をスイッチング素子SW2のゲート端子に出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**がU相搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1をスイッチング素子SW1のゲート端子に出力するとともにハイレベルの駆動信号S2をスイッチング素子SW2のゲート端子に出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**がV相搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3をスイッチング素子SW3のゲート端子に出力するとともにローレベルの駆動信号S4をスイッチング素子SW4のゲート端子に出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**がV相搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3をスイッチング素子SW3のゲート端子に出力するとともにハイレベルの駆動信号S4をスイッチング素子SW4のゲート端子に出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**がW相搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5をスイッチング素子SW5のゲート端子に出力するとともにローレベルの駆動信号S6をスイッチング素子SW6のゲート端子に出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値V**がW相搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5をスイッチング素子SW5のゲート端子に出力するとともにハイレベルの駆動信号S6をスイッチング素子SW6のゲート端子に出力する。
【0037】
なお、電圧指令値V**がU相搬送波、V相搬送波、及びW相搬送波の電圧値の最小値から最大値までの範囲内で変動しているときで、かつ、電動機Mの制御周期においてスイッチング素子SW1、SW3、SW5(またはスイッチング素子SW2、SW4、SW6)が繰り返しオン、オフしているときの電動機Mの変調方式を正弦波変調方式とする。
【0038】
また、電圧指令値V**がU相搬送波、V相搬送波、及びW相搬送波の最大値より大きいときで、かつ、電動機Mの制御周期においてスイッチング素子SW1、SW3、SW5(またはスイッチング素子SW2、SW4、SW6)のうちの2つのスイッチング素子が繰り返しオン、オフしているとともに残りのスイッチング素子が常時オンまたはオフしているときの電動機Mの変調方式を2相変調方式とする。
【0039】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、電流変換部7と、推定部8と、減算部9と、トルク指令値算出部10と、電流指令値出力部11と、調整部12と、減算部13と、減算部14と、電圧指令値算出部15と、電圧指令値変換部16と、制限部17とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、電流変換部7、推定部8、減算部9、トルク指令値算出部10、電流指令値出力部11、調整部12、減算部13、減算部14、電圧指令値算出部15、電圧指令値変換部16、及び制限部17が実現される。
【0040】
電流変換部7は、電流センサSe1により検出されるU相電流Iu及び電流センサSe2により検出されるV相電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れるW相電流Iwを求める。
【0041】
また、電流変換部7は、推定部8により推定される電動機Mの回転子の位置θ^を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id(電動機Mに弱め磁束を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(電動機Mにトルクを発生させるための電流成分)に変換する。例えば、電流変換部7は、下記式3に示す変換行列C1を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0042】
【数4】
なお、電流センサSe1、Se2により検出される電流は、U相電流Iu及びV相電流Ivの組み合わせに限定されず、V相電流Iv及びW相電流Iwの組み合わせ、または、U相電流Iu及びW相電流Iwの組み合わせでもよい。電流センサSe1、Se2によりV相電流Iv及びW相電流Iwが検出される場合、電流変換部7は、V相電流Iv及びW相電流Iwを用いて、U相電流Iuを求める。また、電流センサSe1、Se2によりU相電流Iu及びW相電流Iwが検出される場合、電流変換部7は、U相電流Iu及びW相電流Iwを用いて、V相電流Ivを求める。
【0043】
また、インバータ回路2において、電流センサSe1、Se2の他に、電動機MのW相に流れる電流を検出する電流センサSe3をさらに備える場合、電流変換部7は、推定部8により推定される位置θ^を用いて、電流センサSe1~Se3により検出されるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。
【0044】
推定部8は、電流変換部7から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqなどを用いて、電動機Mの回転子の位置θ^及び回転数ω^を推定する。例えば、推定部8は、下記式4に示す電圧方程式を用いて、回転数ω^を求め、その求めた回転数ω^に所定時間(演算部6の動作クロックなど)を乗算することにより位置θ^を求める。なお、Vdは電圧指令値算出部15から出力されるd軸電圧指令値Vd*とし、Vqは電圧指令値算出部15から出力されるq軸電圧指令値Vq*とし、Rは電動機Mの抵抗成分とし、pは微分演算子とし、Ldは電動機Mのd軸インダクタンスとし、Lqは電動機Mのq軸インダクタンスとし、Idは電流変換部7から出力されるd軸電流Idまたは電流指令値出力部11から出力されるd軸電流指令値Id*とし、Iqは電流変換部7から出力されるq軸電流Iqまたは電流指令値出力部11から出力されるq軸電流指令値Iq*とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0045】
【数5】
減算部9は、外部から入力される回転数指令値ω*と推定部8により推定される回転数ω^との回転数差Δωを算出する。
【0046】
トルク指令値算出部10は、減算部9から出力される回転数差Δωを用いて、トルク指令値T*を算出する。例えば、トルク指令値算出部10は、記憶部4に記憶されている、電動機Mの回転子の回転数と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、回転数差Δωに相当する回転数に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0047】
電流指令値出力部11は、トルク指令値算出部10から出力されるトルク指令値T*を用いて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。例えば、電流指令値出力部11は、記憶部4に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。なお、d軸電流指令値Id*は、トルク指令値T*に応じて変動させてもよいし、トルク指令値T*によらない固定値であってもよい。
【0048】
調整部12は、電圧指令値変換部16から出力される電圧指令値Vdq*(第2電圧指令値)や変調率M2などを用いて、電動機Mに入力される電圧が飽和する手前で弱め磁束制御(d軸電流Idが負の値になることで電動機Mに生じる起電力を小さくさせて回転数ω^を増加させる制御)が行われるように、電流指令値出力部11から出力されるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*´に調整する。
【0049】
【0050】
図3(a)に示す調整部12は、電圧飽和量算出部121と、調整用電流指令値算出部122と、加算部123とを備える。
【0051】
電圧飽和量算出部121は、電圧指令値変換部16から出力される電圧指令値Vdq*を取得するとともに記憶部4に記憶されている変調率M2を取得し、電圧指令値Vdq*から、変調率M2と最大電圧指令値Vmとの乗算値を減算した値を、電圧飽和量Vsとして算出する。すなわち、電圧飽和量算出部121は、下記式5を計算することにより、電圧飽和量Vsを算出する。なお、最大電圧指令値Vmは、下記式6を計算することにより求められるものとする。Vinは入力電圧Vinとする。
【0052】
電圧飽和量Vs=電圧指令値Vdq*-変調率M2×最大電圧指令値Vm ・・・式5
【0053】
【数6】
調整用電流指令値算出部122は、電圧飽和量算出部121から出力される電圧飽和量Vsが小さくなるように、PI(Proportional Integral)制御により調整用d軸電流指令値Idsを算出する。例えば、調整用電流指令値算出部122は、下記式7を計算することにより調整用d軸電流指令値Idsを求める。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とする。
【0054】
調整用d軸電流指令値Ids=Kp×電圧飽和量Vs+∫(Ki×電圧飽和量Vs) ・・・式7
加算部123は、電流指令値出力部11から出力されるd軸電流指令値Id*と、調整用電流指令値算出部122から出力される調整用d軸電流指令値Idsとの加算結果をd軸電流指令値Id*´として出力する。
【0055】
例えば、d軸電流指令値Id*が負の固定値である場合において、電圧飽和量Vsが正の値であるとき、調整用d軸電流指令値Idsが負の値になり、電圧飽和量Vsが負の値であるとき、調整用d軸電流指令値Idsが正の値になる場合を想定する。
【0056】
この場合、電圧飽和量Vsが正の値であるとき、d軸電流指令値Id*´が負方向に増加し、電圧飽和量Vsが負の値であるとき、d軸電流指令値Id*´が負方向に減少する。
【0057】
すなわち、調整部12は、電圧指令値変換部16から出力される電圧指令値Vdq*から、変調率M2と最大電圧指令値Vmとを乗算した値を減算した値である電圧飽和量Vsが正の値であるとき、d軸電流指令値Id*´を負方向に増加させ、電圧飽和量Vsが負の値であるとき、d軸電流指令値Id*´を負方向に減少させる。
【0058】
このように、調整部12により制御周期毎にd軸電流指令値Id*を調整することができるため、電動機Mに入力される電圧が飽和状態になりそうになっても、その状態を比較的早く解消させることができる。
【0059】
また、
図1に示す減算部13は、調整部12から出力されるd軸電流指令値Id*´と、電流変換部7から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0060】
減算部14は、電流指令値出力部11から出力されるq軸電流指令値Iq*と、電流変換部7から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0061】
電圧指令値算出部15は、減算部13から出力される差ΔId及び減算部14から出力される差ΔIqを用いたPI制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電圧指令値算出部15は、下記式8によりd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式9によりq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mのd軸インダクタンスとし、ω^は推定部8により推定される回転数ω^とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0062】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+∫(Ki×差ΔId)-ω^LqIq・・・式8
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+∫(Ki×差ΔIq)+ω^LdId+ω^Ke・・・式9
すなわち、電圧指令値算出部15は、d軸電流Idとd軸電流指令値Id*´との差ΔIdが小さくなるようにd軸電圧指令値Vd*を算出するとともにq軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との差ΔIqが小さくなるようにq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0063】
電圧指令値変換部16は、電圧指令値算出部15から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vdq*に変換する。例えば、電圧指令値変換部16は、下記式10を計算することにより電圧指令値Vdq*を求める。なお、Vd*は電圧指令値算出部15から出力されるd軸電圧指令値Vd*とし、Vq*は電圧指令値算出部15から出力されるq軸電圧指令値Vq*とする。
【0064】
【数7】
制限部17は、電圧指令値変換部16から出力される電圧指令値Vdq*を制限し、その制限後の電圧指令値V**をドライブ回路5に出力する。
【0065】
【0066】
図3(b)に示す制限部17は、制限値算出部171と、比較部172とを備える。
【0067】
制限値算出部171は、入力電圧Vin及び記憶部4に記憶されている変調率M1を用いて電圧制限値Vthを算出する。例えば、制限値算出部171は、下記式11を計算することにより電圧制限値Vthを求める。なお、Vinを入力電圧Vinとし、M1を変調率M1とする。
【0068】
【数8】
比較部172は、電圧指令値変換部16から出力される電圧指令値Vdq*と制限値算出部171から出力される電圧制限値Vthとを比較し、電圧指令値Vdq*が電圧制限値Vthより大きい場合、電圧制限値Vthを電圧指令値V**として出力し、電圧指令値Vdq*が電圧制限値Vth以下である場合、電圧指令値Vdq*を電圧指令値V**として出力する。
【0069】
すなわち、制限部17は、電圧指令値Vdq*が、入力電圧Vinと変調率M1とを乗算した電圧制限値Vthより大きい場合、電圧制限値VthをU相搬送波、V相搬送波、及びW相搬送波の電圧値と比較される電圧指令値V**として出力し、電圧指令値Vdq*が電圧制限値Vth以下である場合、電圧指令値Vdq*をU相搬送波、V相搬送波、及びW相搬送波の電圧値と比較される電圧指令値V**として出力する。
【0070】
このように、実施形態の制御装置1では、電圧飽和量Vsを求めるために使用される変調率M2を、電圧制限値Vthを求めるために使用される変調率M1より小さくしているため、電圧指令値V**が電圧制限値Vthより大きくなるよりも先に電圧飽和量Vsを正の値に変化させ易くすることができる。これにより、回転数ω^が比較的高く電圧指令値V**が電圧制限値Vthより大きくなり易い状態であっても、電圧指令値V**が電圧制限値Vthより大きくなる手前において弱め磁束制御が行われ易くすることができるため、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwを適切に制御することができない時間の増加を抑えることができ、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwが脈動することを抑え電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。
【0071】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0072】
<変形例>
図4は、実施形態の制御装置1の変形例を示す図である。なお、
図4に示す構成において、
図1に示す構成と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
図4に示す制御装置1において、
図1に示す制御装置1と異なる点は、回転子の位相θ^(電気角)を検出し、その検出した位相θ^を制御回路3に出力する電気角検出部Sp(レゾルバなど)を備えている点と、演算部6の推定部8の替わりに回転数算出部18を備えている点である。
【0074】
回転数算出部18は、電気角検出部Spにより検出される位相θ^を用いて、電動機Mの回転数ω^を演算する。例えば、回転数算出部18は、位相θ^を所定時間(演算部6の動作クロックなど)で除算することにより回転数ω^を求める。
【0075】
このように構成しても、回転数ω^が比較的高く電圧指令値V**が電圧制限値Vthより大きくなり易いとき、電圧指令値V**が電圧制限値Vthより大きくなる手前において弱め磁束制御を行うことができるため、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwを制御することができない時間の増加を抑えることができ、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwが脈動することを抑え電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 電流変換部
8 推定部
9、13、14 減算部
10 トルク指令値算出部
11 電流指令値出力部
12 調整部
15 電圧指令値算出部
16 電圧指令値変換部
17 制限部
18 回転数算出部
121 電圧飽和量算出部
122 調整用電流指令値算出部
123 加算部
171 制限値算出部
172 比較部