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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241126BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20241126BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20241126BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20241126BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241126BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241126BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241126BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241126BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241126BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241126BHJP
【FI】
H01M4/13
H01G11/30
H01G11/56
H01G11/60
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021540649
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024711
(87)【国際公開番号】W WO2021033424
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019151672
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打田 眞人
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 英昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彩子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓
(72)【発明者】
【氏名】水谷 秀俊
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】▲高▼橋 徳浩
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-191547(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099248(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/30
H01G 11/56
H01G 11/60
H01M 4/13
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス用電極において、
酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と、
活物質と、
イオン液体と、
を含有し、
前記活物質が、LiFePO、またはNCAであり、
前記活物質の体積含有率が、40vol%以上、85vol%以下であり、
前記酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の体積含有率が、5vol%以上、40vol%以下であり、
前記イオン液体の体積含有率が、3vol%以上、35vol%以下であることを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイス用電極において、
前記酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有する、
ことを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
固体電解質層と、正極と、負極と、集電体と、を備える蓄電デバイスにおいて、
前記正極は、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用電極である、
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、蓄電デバイス用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器の普及、電気自動車の普及、太陽光や風力等の自然エネルギーの利用拡大等に伴い、高性能な電池の需要が高まっている。なかでも、電池要素がすべて固体で構成された全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)の活用が期待されている。全固体電池は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液を用いる従来型のリチウムイオン二次電池と比べて、有機電解液の漏洩や発火等のおそれがないため安全であり、また、外装を簡略化することができるため単位質量または単位体積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0003】
全固体電池の固体電解質層を構成する固体電解質としては、例えば、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質や硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質が用いられる。酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、粉末の状態において比較的硬いため、粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態やバインダーを用いてシート状に成形した成形体の状態においては、粒子間の密着性が低く、リチウムイオン伝導性が低い。酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の粉末を用いて焼結や蒸着を行うことにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、熱処理に伴う反りや変形によって電池の大型化が困難になる。
【0004】
一方、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、粉末の状態において比較的柔らかいため、粉末を加圧成形した成形体やバインダーを用いてシート状に成形した成形体の状態において、粒子間の密着性が高く、リチウムイオン伝導性が高い。しかし、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、大気中で水分と反応して硫化水素ガスを発生するため、安全面において好ましくない場合がある。
【0005】
また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質とを混合してリチウムイオン伝導体を作製することにより、安全性の向上とリチウムイオン伝導性の向上とを両立させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2015/0171463号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体電池において、例えば、電極(正極および/または負極、以下同様)のリチウムイオン伝導性を向上させるため、電極に、活物質に加えて、リチウムイオン伝導性固体電解質を添加することが考えられる。電極に添加する固体電解質として、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を用いると、上述した固体電解質層の場合と同様に、加圧成形した成形体の状態やバインダーを用いてシート状に成形した成形体の状態において、粒子間の密着性が低く、リチウムイオン伝導性が低くなる。一方、電極に添加する固体電解質として、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を用いると、安全面において好ましくない場合がある。また、電極に添加する固体電解質として、上記のような酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質との混合物を用いると、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の含有割合は減るものの、やはり硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を含むため、安全面において向上の余地がある。
【0008】
なお、このような課題は、全固体リチウムイオン二次電池用の電極に限らず、蓄電デバイス用の電極に共通の課題である。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される蓄電デバイス用電極は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と、活物質と、イオン液体と、を含有する。本蓄電デバイス用電極は、毒性ガスの発生のおそれのある硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質ではなく、毒性ガスの発生のおそれのない酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を含有するため、毒性ガスの発生を回避することができる。また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、塑性変形しにくい材料であるため、焼成を行わないと粒子間の接触が不十分となり、高いリチウムイオン伝導性を発揮することができないが、本電極は、不揮発性・難燃性であり、かつ、流動性のあるリチウムイオン伝導成分として機能するイオン液体を含有するため、イオン液体の存在によって電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができる。従って、本電極を用いて蓄電デバイスを構成すれば、蓄電デバイスの性能を向上させることができる。
【0012】
(2)上記蓄電デバイス用電極において、前記活物質の体積含有率が、40vol%以上、85vol%以下であり、前記酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の体積含有率が、5vol%以上、40vol%以下であり、前記イオン液体の体積含有率が、3vol%以上、35vol%以下である構成としてもよい。このような構成を採用すれば、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができる。従って、このような構成の電極を用い蓄電デバイスを構成すれば、蓄電デバイスの性能を効果的に向上させることができる。
【0013】
(3)上記蓄電デバイス用電極において、前記酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有する構成としてもよい。このような酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、他の酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と比較して電位窓が広いため、本構成を採用すれば、電極の活物質の材料選択範囲を広くすることができ、最適な活物質材料を含有する電極を構成することができる。
【0014】
(4)本明細書に開示される蓄電デバイスは、固体電解質層と、正極と、負極と、集電体と、を備え、前記正極と前記負極との少なくとも一方は、上記蓄電デバイス用電極である構成としてもよい。本蓄電デバイスによれば、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を向上させることによって、蓄電デバイスの性能を向上させることができる。
【0015】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス用電極を備える蓄電デバイス、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池102の断面構成を概略的に示す説明図
図2】正極114の一部分の構成を模式的に示す説明図
図3】負極116の一部分の構成を模式的に示す説明図
図4】ガーネット型結晶構造を模式的に示す説明図
図5】正極114についての性能評価の結果を示す説明図
図6】正極114についての性能評価の結果を示す説明図
図7】負極116についての性能評価の結果を示す説明図
図8】負極116についての性能評価の結果を示す説明図
図9】正極114についての性能評価に用いられた加圧治具300およびサンプルSの構成を模式的に示す説明図
図10】負極116についての性能評価に用いられた加圧治具300およびサンプルSの構成を模式的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
A-1.全固体電池102の構成:
(全体構成)
図1は、本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)102の断面構成を概略的に示す説明図である。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向という。
【0018】
全固体電池102は、電池本体110と、電池本体110の一方側(上側)に配置された正極側集電体154と、電池本体110の他方側(下側)に配置された負極側集電体156とを備える。正極側集電体154および負極側集電体156は、導電性を有する略平板形状部材であり、例えば、ステンレス鋼、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、これらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって形成されている。以下の説明では、正極側集電体154と負極側集電体156とを、まとめて集電体ともいう。
【0019】
(電池本体110の構成)
電池本体110は、電池要素がすべて固体で構成されたリチウムイオン二次電池本体である。なお、本明細書において、電池要素がすべて固体で構成されているとは、すべての電池要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。電池本体110は、正極114と、負極116と、正極114と負極116との間に配置された固体電解質層112とを備える。以下の説明では、正極114と負極116とを、まとめて電極ともいう。全固体電池102または電池本体110は、特許請求の範囲における蓄電デバイスに相当する。
【0020】
(固体電解質層112の構成)
固体電解質層112は、略平板形状の部材であり、リチウムイオン伝導性固体電解質(例えば、後述するLLZ系リチウムイオン伝導性固体電解質)を含んでいる。固体電解質層112は、さらに、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでいてもよい。固体電解質層112は、リチウムイオン伝導性固体電解質の粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)であってもよいし、リチウムイオン伝導性固体電解質の粉末にバインダーを加えてシート状に成形した成形体であってもよい。
【0021】
(正極114の構成)
正極114は、略平板形状の部材である。図2は、正極114の一部分(図1のX1部)の構成を模式的に示す説明図である。図2に示すように、正極114は、正極活物質214を含んでいる。正極活物質214は、例えば、正極114においてリチウムイオンの挿入・離脱できる量を増やし、エネルギー密度を向上させるために添加される。正極活物質214としては、例えば、S(硫黄)、TiS、LiCoO(以下、「LCO」という。)、LiMn、LiFePO、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O(以下、「NCM」という。)、LiNi0.8Co0.15Al0.05(以下、「NCA」という。)等が用いられる。正極114は、さらに導電助剤(例えば、導電性カーボン、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Ag(銀))を含んでいてもよい。
【0022】
また、正極114は、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体224を含んでいる。イオン液体224は、例えば、正極114の内部抵抗を低下させるために添加される。リチウムイオン伝導性を有するイオン液体224は、例えば、リチウム塩を溶解させたイオン液体である。なお、イオン液体は、カチオンおよびアニオンのみからなり、常温で液体であり、不揮発性、難燃性の物質である。正極114が含有するイオン液体224の具体的な材料等については、後述する。
【0023】
また、正極114は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204を含んでいる。酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204は、例えば、正極114のリチウムイオン伝導性の低下を抑制するため、および、正極114に隣接して設けられる正極側集電体154にイオン液体224が触れる面積を小さくすることによって正極側集電体154の腐食を抑制するために添加される。正極114が含有する酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204の具体的な材料等については、後述する。
【0024】
(負極116の構成)
負極116は、略平板形状の部材である。図3は、負極116の一部分(図1のX2部)の構成を模式的に示す説明図である。図3に示すように、負極116は、負極活物質216を含んでいる。負極活物質216は、例えば、負極116においてリチウムイオンの挿入・離脱できる量を増やし、エネルギー密度を向上させるために添加される。負極活物質216としては、例えば、Li金属、Li-Al合金、LiTi12(以下、「LTO」という。)、カーボン(グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、表面に低結晶性炭素がコーティングされたコアシェル型黒鉛)、Si(ケイ素)、SiO等が用いられる。負極116は、さらに導電助剤(例えば、導電性カーボン、Ni、Pt、Ag)を含んでいてもよい。
【0025】
また、負極116は、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体226を含んでいる。イオン液体226は、例えば、負極116の内部抵抗を低下させるために添加される。リチウムイオン伝導性を有するイオン液体226は、例えば、リチウム塩を溶解させたイオン液体である。負極116が含有するイオン液体226の具体的な材料等については、後述する。
【0026】
また、負極116は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206を含んでいる。酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206は、例えば、負極116のリチウムイオン伝導性の低下を抑制するため、および、負極116に隣接して設けられる負極側集電体156にイオン液体226が触れる面積を小さくすることによって負極側集電体156の腐食を抑制するために添加される。負極116が含有する酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204の具体的な材料等については、後述する。
【0027】
A-2.正極114および負極116の詳細構成:
次に、電池本体110を構成する電極(正極114および負極116)の構成についてさらに詳細に説明する。上述したように、正極114は、正極活物質214に加えて、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204を含んでおり、負極116は、負極活物質216に加えて、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206を含んでいる。酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206としては、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)とを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有する固体電解質が用いられる。より具体的には、例えば、LiLaZr12(以下、「LLZ」という。)や、LLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)およびBa(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも一種の元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったもの(例えば、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-MgSr」という。))が用いられる。以下、これらのリチウムイオン伝導性固体電解質を、「LLZ系リチウムイオン伝導性固体電解質(またはLLZ系リチウムイオン伝導性粉末)」という。
【0028】
なお、「ガーネット型結晶構造」とは、一般式C12で表される結晶構造である。図4は、ガーネット型結晶構造を模式的に示す説明図である。図4に示すように、ガーネット型結晶構造において、CサイトScは酸素原子Oaと12面体配位し、AサイトSaは酸素原子Oaと8面体配位し、BサイトSbは酸素原子Oaと4面体配位している。なお、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末(リチウムイオン伝導性固体電解質)では、通常のガーネット型結晶構造では酸素原子Oaと8面体配位する箇所であって、空隙Vとなる箇所に、リチウムが存在し得る。空隙Vは、例えば、図4におけるBサイトSb1とBサイトSb2とに挟まれる箇所である。空隙Vに存在するリチウムは、BサイトSb1を形成する4面体の面Fb1とBサイトSb2を形成する4面体の面Fb2とを一部に含む8面体を構成する酸素原子Oaと8面体配位している。例えばLiLaZr12という組成のガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末(リチウムイオン伝導性固体電解質)では、CサイトScをランタンが占有し、AサイトSaをジルコニウムが占有し、BサイトSbと空隙Vとをリチウムが占有し得る。
【0029】
また、リチウムイオン伝導性固体電解質(リチウムイオン伝導性粉末)がLiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するものであることは、X線回折装置(XRD)で分析することにより確認することができる。具体的には、リチウムイオン伝導性固体電解質をX線回折装置により分析することにより、X線回折パターンを得る。得られたX線回折パターンと、LLZに対応するICDD(International Center for Diffraction Data)カード(01-080-4947)(LiLaZr12)とを対比し、両者における回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致していれば、該リチウムイオン伝導性固体電解質はLiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するものであると判定することができる。例えば、後述の「A-7.LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の好ましい態様」に記載された各リチウムイオン伝導性粉末は、該リチウムイオン伝導性粉末から得られたX線回折パターンとLLZに対応するICDDカードとの両者における回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致するため、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するものであると判定される。
【0030】
また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206として、LLZ系リチウムイオン伝導性固体電解質以外の固体電解質(例えば、以下のもの)が用いられてもよい。
(1)少なくともLiとM(MはTi、Zr、Ge(ゲルマニウム)の内の少なくとも1つ)とP(リン)とOとを含有するNASICON型結晶構造を有する固体電解質(例えば、(Li,Ti,Al)(PO、LiZr(PO、(Li,Ge,Al)(PO
(2)少なくともLiとTiとLaとOとを含有するペロブスカイト型結晶構造を有する固体電解質(例えば、(La,Li)TiO
(3)少なくともLiとClとOとを含有するアンチペロブスカイト型結晶構造を有する固体電解質(例えば、Li(OH)Cl)
(4)錯体水素化物
【0031】
なお、電極(正極114および負極116)に含まれる酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の平均粒径は、0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0032】
また、上述したように、正極114は、リチウム塩を溶解させたイオン液体224を含んでおり、負極116は、リチウム塩を溶解させたイオン液体226を含んでいる。上記リチウム塩としては、例えば、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)(以下、「Li-TFSI」という。)、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))(以下、「Li-FSI」という。)、リチウム ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO)等が用いられる。
【0033】
また、上記イオン液体としては、カチオンとして、
ブチルトリメチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム等のアンモニウム系、
1-エチル-3メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム系、
1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム等のピペリジニウム系、
1-ブチル-4-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム等のピリジニウム系、
1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム等のピロリジニウム系、
トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等のスルホニウム系、
ホスホニウム系、
モルホリニウム系、
等を有するものが用いられる。
【0034】
また、上記イオン液体としては、アニオンとして、
Cl、Br等のハロゲン化物系、
BF 等のホウ素化物系、
(NC)
(CFSO、(FSO等のアミン系、
CHSO
CFSO 等のスルファート、スルホナート系、
PF 等のリン酸系、
等を有するものが用いられる。
【0035】
より具体的には、上記イオン液体として、ブチルトリメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルプロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「EMI-FSI」という。)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「P13-FSI」という。)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「PP13-FSI」という。)等が用いられる。
【0036】
なお、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、高温焼成を行うことにより形成された焼結体ではない。そのため、本実施形態の電極は、炭化水素を含んでいる。より具体的には、本実施形態の電極を構成するイオン液体は、炭化水素を含んでいる。なお、電極(イオン液体)が炭化水素を含んでいることは、NMR(核磁気共鳴)、ラマン分光法、LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)等の方法の内の1つまたは複数の組合せにより特定することができる。
【0037】
このように、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206および活物質(正極活物質214、負極活物質216)に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体224,226を含んでおり、加圧成形された成形体(圧粉体)の状態において高いリチウムイオン伝導性を有する。そのため、本実施形態の電極を用いれば電池本体110の性能を向上させることができる。なお、本実施形態の電極がこのような高いリチウムイオン伝導性を有する理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
【0038】
一般に、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、酸化物系以外のリチウムイオン伝導性固体電解質(例えば、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質)と比較して硬いため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態においては、粒子間の接触が点接触となって粒子間の抵抗が高くなり、リチウムイオン伝導性が比較的低くなる。また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴い反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。しかしながら、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体224,226を含んでいる。イオン液体224,226は、図2および図3に示すように、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の粒子の周囲に分布する。そのため、加圧成形された成形体の状態において、該成形体の全体にわたって酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の粒界にリチウムイオン伝導パスとして機能するイオン液体224,226が介在し、該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上し、その結果、電極内および電極と他の部材(例えば、固体電解質層112)との界面におけるリチウムイオン伝導性が向上したものと考えられる。
【0039】
なお、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206、活物質(正極活物質214、負極活物質216)およびイオン液体224,226に加えて、さらにバインダーを含み、シート状に形成された構成であってもよい。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(以下、「PVDF-HFP」という。)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミド、シリコーン(ポリシロキサン)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が用いられる。このような構成とすれば、電極のリチウムイオン伝導性を向上させつつ、電極の成形性やハンドリングを向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態の電極(正極114および負極116)において、活物質(正極活物質214、負極活物質216)の体積含有率は、40vol%以上、85vol%以下であることが好ましい。電極における活物質の体積含有率が過度に低いと、電池の容量が十分に確保されず、一方、電極における活物質の体積含有率が過度に高いと、電極の内部抵抗を効果的に低下させることができない。電極における活物質の体積含有率は、40vol%以上、70vol%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また、電極(正極114および負極116)において、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の体積含有率は、5vol%以上、40vol%以下であることが好ましい。電極における酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の体積含有率が過度に低いと、電極のリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができず、かつ、集電体の腐食を効果的に抑制することができず、一方、電極における酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の体積含有率が過度に高いと、電極の内部抵抗を効果的に低下させることができない。電極における酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の体積含有率は、10vol%以上、40vol%以下であることがさらに好ましく、20vol%以上、40vol%以下であることが一層好ましい。
【0042】
また、電極(正極114および負極116)において、イオン液体224,226の体積含有率は、3vol%以上、35vol%以下であることが好ましい。電極におけるイオン液体224,226の体積含有率が過度に低いと、電極の内部抵抗を効果的に低下させることができず、一方、電極におけるイオン液体224,226の体積含有率が過度に高いと、イオン液体の染み出しが発生するおそれがある。電極におけるイオン液体224,226の体積含有率は、10vol%以上、25vol%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
電極(正極114および負極116)において、活物質(正極活物質214、負極活物質216)の体積含有率を、40vol%以上、85vol%以下とし、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の体積含有率を、5vol%以上、40vol%以下とし、イオン液体224,226の体積含有率を、3vol%以上、35vol%以下とすれば、集電体の腐食の発生やイオン液体の染み出しの発生を抑制しつつ、電極内および電極と他の部材(例えば、固体電解質層112)との界面におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができ、該電極を用いた電池本体110の性能を効果的に向上させることができる。
【0044】
A-3.全固体電池102の製造方法:
次に、本実施形態の全固体電池102の製造方法の一例を説明する。はじめに、固体電解質層112を作製する。例えば、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の粉末とイオン液体とを混合し、この混合体を所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより、固体電解質層112を作製する。
【0045】
また、別途、正極114および負極116を作製する。具体的には、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204の粉末とイオン液体224とを混合し、この混合体に、正極活物質214の粉末(導電助剤を用いる場合には、正極活物質214の粉末と導電助剤との混合物)を加えてさらに混合する。この混合体を所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより、正極114を作製する。同様に、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206の粉末とイオン液体226とを混合し、この混合体に、負極活物質216の粉末(導電助剤を用いる場合には、負極活物質216の粉末と導電助剤との混合物)を加えてさらに混合する。この混合体を所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより、負極116を作製する。
【0046】
次に、正極側集電体154と、正極114と、固体電解質層112と、負極116と、負極側集電体156とをこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成の全固体電池102が製造される。
【0047】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の電池本体110用の電極(正極114および負極116)は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206と、活物質(正極活物質214、負極活物質216)と、イオン液体224,226とを含有する。このように、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、毒性ガスの発生のおそれのある硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質ではなく、毒性ガスの発生のおそれのない酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206を含有するため、毒性ガスの発生を回避することができる。また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206は、塑性変形しにくい材料であるため、焼成を行わないと粒子間の接触が不十分となり、高いリチウムイオン伝導性を発揮することができないが、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、不揮発性・難燃性であり、かつ、流動性のあるリチウムイオン伝導成分として機能するイオン液体224,226を含有するため、イオン液体224,226の存在によって電極内および電極と他の部材(例えば、固体電解質層112)との界面におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができる。従って、本実施形態の電極を用いて電池本体110を構成すれば、電池本体110の性能を向上させることができる。
【0048】
なお、本実施形態の電極(正極114および負極116)は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206を含有するため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206を含有しない構成と比較して、電極に隣接して設けられる集電体(正極側集電体154および負極側集電体156)にイオン液体224,226が触れる面積を小さくすることができ、集電体の腐食を抑制することができる。上述したように、イオン液体224,226に含まれるリチウム塩の濃度が高いと(具体的には、0.4mol/L以上であると)集電体の腐食が発生しやすいため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206を含有することによる集電体の腐食抑制効果がより有用になる。
【0049】
また、本実施形態の電極(正極114および負極116)において、活物質(正極活物質214、負極活物質216)の体積含有率は、40vol%以上、85vol%以下であることが好ましく、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206の体積含有率は、5vol%以上、40vol%以下であることが好ましく、イオン液体224,226の体積含有率は、3vol%以上、35vol%以下であることが好ましい。このような構成とすれば、電極内および電極と他の部材(例えば、固体電解質層112)との界面におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができる。従って、このような構成の電極を用いて電池本体110を構成すれば、電池本体110の性能を効果的に向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態の電極(正極114および負極116)に含まれる酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有する固体電解質(LLZ系リチウムイオン伝導性固体電解質)であることが好ましい。LLZ系リチウムイオン伝導性固体電解質は、他の酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と比較して電位窓が広いため、電極の活物質(正極活物質214、負極活物質216)の材料選択範囲を広くすることができ、最適な活物質材料を含有する電極を構成することができる。例えば、正極材料としては、LCO、LiMn、LiFePO、NCM、NCAなどがあげられ、負極材料としては、Li金属、Li-Al合金、LTO、カーボン(グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、表面に低結晶性炭素がコーティングされたコアシェル型黒鉛)、Si(ケイ素)、SiOなどがあげられる。
【0051】
A-5.電極の組成(各成分の体積含有率)の特定方法:
電池本体110を構成する電極(正極114、負極116)の組成、すなわち、活物質(正極活物質214、負極活物質216)、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204,206、および、イオン液体224,226のそれぞれの体積含有率(vol%)の特定方法は、以下の通りである。
【0052】
対象となる電極合材を溶媒(例えば、クロロホルム)中に溶解させて、可溶物(バインダー、イオン液体)と沈殿物(活物質、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質、導電助剤)とに分離する。可溶物については、LC-MS測定(液体クロマトグラフィー質量分析法)により、材料成分(イオン液体、バインダー)の定性分析を行うことで、バインダーの成分とイオン液体の成分を特定する。また、各材料成分について検量線を作成することで各材料成分の結果から、可溶物全体における各成分の含有量を求める。
【0053】
沈殿物については、沈殿物全体の重量を測定する。また、沈殿物に対してXRD測定(X線解析)を行うことによって、化学組成を分析し、活物質と酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の材料成分を特定する。また、沈殿物に対してXRF測定(蛍光X線分析)を行うことによって、材料成分の比率を測定する。これにより、活物質と酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と導電助剤との比率を特定する。沈殿物全体の重量と、活物質と酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と導電助剤との比率とから、活物質と酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質との含有量を求める。
【0054】
上記において算出した各成分(バインダー、イオン液体、活物質、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質)の含有量から、各成分の体積含有率を特定する。
【0055】
なお、活物質および酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の比率については、以下の方法で求めることも可能である。対象となる電極について、各物質が固定された状態を得るために液体窒素等で凍結させ、CP法(クロスセクションポリッシャ法)により断面を得、この断面を対象として、EDS(エネルギー分散型X線分析)による元素マッピングを行うことで、活物質および酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の体積比率を求めることが可能である。
【0056】
A-6.性能評価:
電池本体110用の電極(正極114、負極116)について、性能評価を行った。図5および図6は、正極114についての性能評価の結果を示す説明図であり、図7および図8は、負極116についての性能評価の結果を示す説明図である。また、図9は、正極114についての性能評価に用いられた加圧治具300およびサンプルSの構成を模式的に示す説明図であり、図10は、負極116についての性能評価に用いられた加圧治具300およびサンプルSの構成を模式的に示す説明図である。
【0057】
図5および図6に示すように、正極114の性能評価には、12個のサンプル(S1~S12)が用いられた。また、図7および図8に示すように、負極116の性能評価には、13個のサンプル(S21~S33)が用いられた。正極114および負極116のそれぞれについて、各サンプルは、組成(各成分の材料および体積含有率)が互いに異なっている。
【0058】
図5および図6に示すように、正極114について、サンプルS1~S10は、正極活物質214と、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204と、イオン液体224と、導電助剤と、バインダーとを含有するシート状の成形体である。また、サンプルS11は、正極活物質214と、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204と、イオン液体224と、導電助剤とを含有し、バインダーを含有しない圧粉体である。一方、サンプルS12は、正極活物質214と、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204と、導電助剤と、バインダーとを含有するシート状の成形体であるが、他のサンプルと異なり、イオン液体224を含有していない。
【0059】
なお、正極活物質214としては、サンプルS1~S9,S12では、上述したNCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05)が用いられ、サンプルS10では、上述したLCO(LiCoO)が用いられ、サンプルS11では、上述したNCM(Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O)が用いられた。また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204としては、いずれのサンプルでも、上述したLLZ-Mg,Srが用いられた。また、イオン液体224としては、サンプルS1~S9では、上述したリチウム塩Li-FSIを溶解させたイオン液体EMI-FSI(以下、「Li-FSI(EMI-FSI)」という。)(リチウム塩の濃度:1.0M(=mol/L))が用いられ、サンプルS10,S11では、上述したリチウム塩Li-TFSIを溶解させたイオン液体EMI-FSI(以下、「Li-TFSI(EMI-FSI)」という。)(リチウム塩の濃度:0.8M)が用いられた。また、導電助剤としては、サンプルS1~S6,S11,S12では、アセチレンブラック(AB)が用いられ、サンプルS7~S10では、気相成長炭素繊維(VGCF)が用いられた。また、バインダーとしては、バインダーを含有するいずれのサンプル(S1~S10,S12)でも、上述したPVDF-HFPが用いられた。
【0060】
また、図7および図8に示すように、負極116について、サンプルS21~S30,S32は、負極活物質216と、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206と、イオン液体226と、バインダーとを含有するシート状の成形体である。なお、サンプルS29,S30,S32は、さらに、導電助剤(VGCF)を含有している。また、サンプルS31は、負極活物質216と、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206と、イオン液体226とを含有し、バインダーを含有しない圧粉体である。一方、サンプルS33は、負極活物質216と、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206と、バインダーとを含有するシート状の成形体であるが、他のサンプルと異なり、イオン液体226を含有していない。
【0061】
なお、負極活物質216としては、サンプルS21~S27,S31~S33では、人造黒鉛(MCMB)が用いられ、サンプルS28~S30では、天然黒鉛が用いられた。また、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206としては、いずれのサンプルでも、上述したLLZ-Mg,Srが用いられた。また、イオン液体226としては、イオン液体226を含有するいずれのサンプル(S21~S32)でも、1.0MのLi-FSI(EMI-FSI)が用いられた。また、バインダーとしては、バインダーを含有するいずれのサンプル(S21~S30,S32,S33)でも、上述したPVDF-HFPが用いられた。
【0062】
以下の手順に従い、各サンプルを作成し、各サンプルの放電容量を測定した。まず、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質としてのLLZ-MgSr粉末を、以下のように作製した。すなわち、組成:Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012(LLZ-MgSr)となるように、LiCO、MgO、La(OH)、SrCO、ZrOを秤量した。その際、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰になるように、LiCOをさらに加えた。この原料をジルコニアボールとともにナイロンポットに投入し、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、1100℃で10時間、MgO板上にて仮焼成を行った。仮焼成後の粉末にバインダーを加え、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧を印加することにより、成形体を得た。この成形体を成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、還元雰囲気において1100℃で4時間焼成することにより焼結体を得た。この焼結体をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で粉砕し、LLZ-MgSrの粉末を得た。得られたLLZ-MgSrの粒径は、0.3~0.8μm程度であった。
【0063】
このようにして得られた酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質(LLZ-MgSr)の粉末に、サンプル毎に定められたイオン液体を加えて乳鉢混合し、固体電解質とイオン液体との合材を得た。また、正極114については、サンプル毎に定められた正極活物質214と導電助剤とを加えて乳鉢混合し、この混合材を、上述した固体電解質とイオン液体との合材(ただし、サンプルS12については固体電解質)に加えて混合することにより、電極複合粉末を得た。また、負極116については、サンプル毎に定められた負極活物質216を、上述した固体電解質とイオン液体との合材(ただし、サンプルS33については固体電解質)に加えて混合することにより、電極複合粉末を得た。
【0064】
また、バインダーを含有するサンプルについては、上述した電極複合粉末に、10wt%のPVDF-DMC(炭酸ジメチル)溶液を少量ずつ滴下しながらメノウ乳鉢にて混合し、さらにDMC溶媒を少量ずつ加えて粘度を調整することにより、電極複合スラリーを得た。ガラス上にDMCとローラーを用いて均一に貼った金属箔上に、アプリケーターを用いて電極複合スラリーを塗工し、80℃で10時間、減圧乾燥させることにより、電極複合シートを得た。
【0065】
次に、図9および図10に示すように、加圧治具300の短軸にマコール管をセットし、別途準備した酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質(LLZ-MgSr)とイオン液体(1.0MのLi-FSI(EMI-FSI))との合材(固体電解質層の材料)を150mg秤量して投入した。その後、長軸をマコール管にセットし、100MPaで加圧した。加圧後、短軸を抜き、電極(正極114または負極116)の材料、すなわち、直径10mmに打ち抜いた電極複合シート(または、電極複合粉末)を投入し、短軸をマコール管にセットして500MPaで加圧した。その後、加圧治具を反転させて長軸を抜き、対極の材料、すなわち、直径10mmに打ち抜いたIn-Li箔を投入し、さらに直径10mmに打ち抜いたCu箔を投入した後、長軸をマコール管にセットして80MPaで加圧した。その後、固定用治具(カラー)を取り付け、ボルトにより8Nで締結固定した。
【0066】
この状態で、電流密度:50μA/cm、測定温度:25℃、カットオフ電圧:2.0~3.9V(正極114のサンプルにおいて正極活物質214としてNCMを用いた場合)、2.0~3.7V(正極114のサンプルにおいて正極活物質214としてNCAまたはLCOを用いた場合)、-0.6~1.0V(負極116のサンプル)という条件で電池の放電を行い、初回放電容量を測定した。正極114については、放電容量が50μAh未満であった場合に「×」(不合格)と判定し、放電容量が50μAh以上、400μAh未満であった場合に「〇」(合格)と判定し、放電容量が400μAh以上であった場合に「◎」(優秀)と判定した。負極116については、放電容量が100μAh未満であった場合に「×」(不合格)と判定し、放電容量が100μAh以上、400μAh未満であった場合に「〇」(合格)と判定し、放電容量が400μAh以上であった場合に「◎」(優秀)と判定した。
【0067】
図5および図6に示すように、正極114については、イオン液体224を含有しないサンプルS12では、放電容量が50μAh未満であったため、不合格(×)と判定された。サンプルS12は、イオン液体224を含有しないため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204の粒子間の接触が点接触となって粒子間の抵抗が高くなり、その結果、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性が低くなって、電池の容量が低くなったものと考えられる。
【0068】
これに対し、イオン液体224を含有するサンプルS1~S11(ただし、サンプルS6を除く)では、放電容量が50μAh以上であったため、合格(〇)または優秀(◎)と判定された。これらのサンプルは、イオン液体224を含有するため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204の粒子間にリチウムイオン伝導パスとして機能するイオン液体224が介在し、該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上し、その結果、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性が向上して、電池の容量が高くなったものと考えられる。この結果から、正極114が、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204および正極活物質214に加えて、イオン液体224を含有していると、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができると言える。
【0069】
なお、サンプルS7~S11では、放電容量が400μAh以上であったため、優秀(◎)と判定された。これらのサンプルでは、正極活物質214の体積含有率が40vol%以上、85vol%以下であり、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質204の体積含有率が5vol%以上、40vol%以下であり、イオン液体224の体積含有率が3vol%以上、35vol%以下である。一方、サンプルS6は、成形時にイオン液体の染み出しが発生したため、測定不能(-)と判定された。これらの結果から、電極が上記体積含有率についての条件を満たせば、イオン液体の染み出しの発生を抑制しつつ、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができると言える。
【0070】
また、図7および図8に示すように、負極116については、イオン液体226を含有しないサンプルS33では、放電容量が100μAh未満であったため、不合格(×)と判定された。サンプルS33は、イオン液体226を含有しないため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206の粒子間の接触が点接触となって粒子間の抵抗が高くなり、その結果、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性が低くなって、電池の容量が低くなったものと考えられる。
【0071】
これに対し、イオン液体226を含有するサンプルS21~S32(ただし、サンプルS26を除く)では、放電容量が100μAh以上であったため、合格(〇)または優秀(◎)と判定された。これらのサンプルは、イオン液体226を含有するため、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206の粒子間にリチウムイオン伝導パスとして機能するイオン液体226が介在し、該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上し、その結果、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性が向上して、電池の容量が高くなったものと考えられる。この結果から、負極116が、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206および負極活物質216に加えて、イオン液体226を含有していると、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができると言える。
【0072】
なお、サンプルS27~S32では、放電容量が400μAh以上であったため、優秀(◎)と判定された。これらのサンプルでは、負極活物質216の体積含有率が40vol%以上、85vol%以下であり、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質206の体積含有率が5vol%以上、40vol%以下であり、イオン液体226の体積含有率が3vol%以上、35vol%以下である。一方、サンプルS26は、成形時にイオン液体の染み出しが発生したため、測定不能(-)と判定された。これらの結果から、電極が上記体積含有率についての条件を満たせば、イオン液体の染み出しの発生を抑制しつつ、電極内および電極と他の部材との界面におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができると言える。
【0073】
A-7.LLZ系イオン伝導性粉末の好ましい態様:
上述したように、本実施形態におけるリチウムイオン伝導体は、LLZ系イオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性固体電解質粉末)を含んでいる。LLZ系イオン伝導性粉末としては、Mg、Al、Si、Ca(カルシウム)、Ti、V(バナジウム)、Ga(ガリウム)、Sr、Y(イットリウム)、Nb(ニオブ)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Ba(バリウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)およびランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも1種類の元素を含むものを採用することが好ましい。このような構成とすれば、LLZ系イオン伝導性粉末が良好なリチウムイオン伝導率を示す。
【0074】
また、LLZ系イオン伝導性粉末として、Mgと元素A(Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素)との少なくとも一方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1)~(3)を満たすものを採用することが好ましい。なお、Mgおよび元素Aは、比較的埋蔵量が多く安価であるため、LLZ系イオン伝導性粉末の置換元素としてMgおよび/または元素Aを用いれば、LLZ系イオン伝導性粉末の安定的な供給が期待できると共にコストを低減することができる。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
【0075】
また、LLZ系イオン伝導性粉末としては、Mgと元素Aとの両方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1´)~(3´)を満たすものを採用することがより好ましい。
(1´)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(2´)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(3´)0.04≦A/(La+A)≦0.17
【0076】
上述の事項を換言すると、LLZ系イオン伝導性粉末は、次の(a)~(c)のいずれかを満たすことが好ましく、これらの中でも(c)を満たすことがより好ましく、(d)を満たすことがさらに好ましいと言える。
(a)Mgを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/La≦3、かつ、0≦Mg/La≦0.5 を満たす。
(b)元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、かつ、0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(c)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、0≦Mg/(La+A)≦0.5、かつ0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(d)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、2.0≦Li/(La+A)≦2.5、0.01≦Mg/(La+A)≦0.14、かつ0.04≦A/(La+A)≦0.17 を満たす。
【0077】
LLZ系イオン伝導性粉末は、上記(a)を満たすとき、すなわち、Li、La、ZrおよびMgを、モル比で上記式(1)および(2)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系イオン伝導性粉末がMgを含有すると、Liのイオン半径とMgのイオン半径とは近いので、LLZ結晶相においてLiが配置されているLiサイトにMgが配置されやすく、LiがMgに置換されることで、LiとMgとの電荷の違いにより結晶構造内のLiサイトに空孔が生じてLiイオンが動きやすくなり、その結果、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系イオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系イオン伝導性粉末におけるMgの含有量が多くなるほどLiサイトにMgが配置され、Liサイトに空孔が生じ、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、Mgを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。このMgを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなる。Mgを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0078】
LLZ系イオン伝導性粉末は、上記(b)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zrおよび元素Aを、モル比で上記式(1)および(3)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系イオン伝導性粉末が元素Aを含有すると、Laのイオン半径と元素Aのイオン半径とが近いので、LLZ結晶相においてLaが配置されているLaサイトに元素Aが配置されやすく、Laが元素Aに置換されることで、格子ひずみが生じ、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系イオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系イオン伝導性粉末における元素Aの含有量が多くなるほどLaサイトに元素Aが配置され、格子ひずみが大きくなり、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対する元素Aのモル比が0.67を超えると、元素Aを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。この元素Aを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また元素Aを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0079】
上記元素Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素である。Ca、SrおよびBaは、周期律表における第2族元素であり、2価の陽イオンになりやすく、いずれもイオン半径が近いという共通の性質を有する。Ca、SrおよびBaは、いずれもLaとイオン半径が近いので、LLZ系イオン伝導性粉末におけるLaサイトに配置されているLaと置換されやすい。LLZ系イオン伝導性粉末が、これらの元素Aの中でもSrを含有することが、焼結により容易に形成されることができ、高いリチウムイオン伝導率が得られる点で好ましい。
【0080】
LLZ系イオン伝導性粉末は、上記(c)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1)~(3)を満たすように含むとき、焼結により容易に形成されることができ、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。また、LLZ系イオン伝導性粉末が、上記(d)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1´)~(3´)を満たすように含むとき、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系イオン伝導性粉末におけるLiサイトのLiがMgに置換され、また、LaサイトのLaが元素Aに置換されることで、Liサイトに空孔が生じ、かつ自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率がより一層良好になると考えられる。さらに、LLZ系イオン伝導性粉末が、Li、La、Zr、MgおよびSrを上記式(1)~(3)を満たすように、特に上記式(1´)~(3´)を満たすように含むことが、高いリチウムイオン伝導率が得られ、また、高い相対密度を有するリチウムイオン伝導体が得られる点から好ましい。
【0081】
なお、上記(a)~(d)のいずれの場合においても、LLZ系イオン伝導性粉末は、Zrを、モル比で以下の式(4)を満たすように含むことが好ましい。Zrを該範囲で含有することにより、ガーネット型結晶構造を有するイオン伝導性粉末が得られやすくなる。
(4)0.33≦Zr/(La+A)≦1
【0082】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0083】
上記実施形態における全固体電池102の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、正極114および負極116は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と、活物質と、イオン液体とを含有しているが、正極114および負極116が、これら以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、正極114および負極116の両方について、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質と、活物質と、イオン液体とを含有する構成が採用されているが、正極114および負極116の一方のみについて、該構成が採用されてもよい。例えば、正極114はイオン液体を含有するが、負極116はイオン液体を含有しない構成が採用されてもよい。
【0085】
また、上記実施形態において、全固体電池102を構成する各要素を形成する材料は、あくまで例示であり、各要素が他の材料により形成されてもよい。また、上記実施形態において、全固体電池102の製造方法は、あくまで一例であり、他の製造方法が採用されてもよい。
【0086】
また、本明細書に開示される技術は、全固体電池102用の電極に限られず、他の蓄電デバイス(例えば、リチウム空気電池やリチウムフロー電池、固体キャパシタ等)用の電極にも適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
102:全固体リチウムイオン二次電池 110:電池本体 112:固体電解質層 114:正極 116:負極 154:正極側集電体 156:負極側集電体 204,206:酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質 214:正極活物質 216:負極活物質 224,226:イオン液体 300:加圧治具
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