(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】紙製品から炭素繊維を作製する方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/16 20060101AFI20241126BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20241126BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20241126BHJP
【FI】
D01F9/16
D01F2/00 Z
D04H1/4242
(21)【出願番号】P 2021566233
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2020062658
(87)【国際公開番号】W WO2020229282
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-24
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520217249
【氏名又は名称】アンスティチュ・ドゥ・ルシェルシュ・テクノロジク・ジュール ヴェルヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】521486011
【氏名又は名称】サントル・テクノロジク・ヌーヴェル-アキテーヌ・コンポジト エ マテリオ・アヴァンセ
(73)【特許権者】
【識別番号】520217250
【氏名又は名称】フォルシア・セルヴィス・グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ピノー,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】メルカデル,セリア
(72)【発明者】
【氏名】ラルゴー,セリーヌ
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-537125(JP,A)
【文献】特表平09-505119(JP,A)
【文献】国際公開第1998/021217(WO,A1)
【文献】特開2016-164313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 2/00,9/00-9/32
D04H 1/4242
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造された紙製品から炭素繊維を製造する方法であって、
a)セルロース系繊維を調製することであって、連続する以下の
a1)前記紙製品を破砕して、
紙の破砕
材料を得る工程、
a3)工程a1)の最後に得られる前記破砕材料をリン酸水溶液に直接溶解して、いわゆる紡糸液を形成する工程、
a4)前記紡糸液を用いて、溶剤紡糸プロセスを実施することによりセルロース系連続繊維を製造する工程、及び
a5)必要に応じて、得られるセルロース系連続繊維を延伸する工程、
を含む、セルロース系繊維を調製することと、
b)前記セルロース系連続繊維を炭化して、炭素繊維を形成することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記紡糸液は事前の乾燥工程を受けることなく、前記溶剤紡糸プロセスに付される、請求項1に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項3】
前記リン酸水溶液は前記水溶液の全体積に基づき75から99体積%のリン酸濃度を含有する、請求項1又は2に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項4】
セルロース系繊維を調製する工程a)において、温度は45℃を超えない、請求項1から3のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項5】
工程a1)において、前記破砕は粒子から形成される破砕材料を得るような方法で実施され、その最も大きな寸法は200から500μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項6】
前記紙製品は化学製紙用パルプから生じる紙から形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項7】
工程a3)において、前記破砕材料は精製セルロースと混合される、請求項1から6のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項8】
工程a3)において、前記リン酸水溶液に溶解された破砕材料の濃度、又は破砕材料及び精製セルロースの混合物の濃度は、前記紡糸液の総重量に基づき1から50重量%
である、請求項1から7のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項9】
前記紡糸液は、
非イオン性乳化剤を含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項10】
単独又は混合された特にカーボンナノチューブ及びグラフェンの中から選択されるナノサイズ炭素質フィラーは、
前記紡糸液に添加される、請求項1から9のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法。
【請求項11】
工程a4)又はa5)で得られる複数のセルロース系連続繊維からセルロース系繊維のウェブを形成する工程を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法であって、前記セルロース系連続繊維を炭化する工程b)は、セルロース系連続繊維の前記ウェブを炭化することにより実施して、炭素繊維系ウェブを形成する、方法。
【請求項12】
有機ポリマー樹脂マトリックスに分散した炭素繊維を含有する複合材料製の物品を製造する方法であって、
‐請求項1から10のいずれか一項に記載の炭素繊維を製造する方法を実施して、得られる複数の前記炭素繊維から炭素繊維ウェブを形成すること、又は請求項11に記載の炭素繊維を製造する方法を実施して、炭素繊維系ウェブを形成すること、及び
‐このようにして得られる複数の炭素繊維ウェブから複合材料製の前記物品を製造すること、を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を製造する全般的な分野に属し、特にバイオ素材を使用した材料から複合材料を調製することを対象とする。
【0002】
より詳細には、本発明は紙製品から炭素繊維を製造する方法に関する。さらに、本発明は有機ポリマー樹脂マトリックスに分散した炭素繊維系の複合材料製物品を製造するより一般的な方法に関し、この方法は本発明による炭素繊維を製造する方法を実施することを含む。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維は多くの分野で使用され、その特に有利な機械的、電気的及び熱的特性、並びに低重量が活用されている。
【0004】
予測される化石資源枯渇の問題を回避するため、再生可能なバイオ素材を使用した材料から炭素繊維を製造することは、過去数十年間に多くの研究の主題となっている。特に、先行技術では、植物の細胞壁を作る高分子炭水化物であり、木材の主成分であるセルロースからこのような繊維を製造することが提案されている。セルロースは地球上で最も豊富な有機材料である。セルロースから得られる炭素繊維は、非常に優れた構造化という特定の利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/142025号
【文献】国際公開第2014/162062号
【文献】米国特許第5601767号明細書
【文献】国際公開第85/05115号
【文献】米国特許第5817801号明細書
【文献】米国特許第5804120号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Boerstel、Polymer,42:7371-7379、2001
【文献】Swatloski、JACS、124:4974-4975、2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低コストで、実行できる最も環境に優しい方法により、セルロースから十分に優れた機械的特性を有する連続炭素繊維を製造する方法を提供することを目的とし、この繊維は多くの用途、特に複合材料製の物品を製造するのに使用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明者は紙リサイクル産業を調査している。
【0009】
より詳細には、紙は木材又は再生紙から抽出される約70~85%のセルロース繊維で構成される。残りの15~30%は、主に炭酸塩からなる鉱物フィラー型の添加剤、並びに接着剤、デンプン、顔料等の様々な添加剤であり、紙の製造中に添加されて、特定の特性を与える。
【0010】
現在、非常に大量の紙が、特に印刷用紙、包装用紙、衛生紙及び家庭紙などの紙製品、また衛生用品及び医療用品を製造するために世界中で消費されている。従って、紙製品、特に古紙製品のリサイクルは、特に炭素繊維製造という観点から生態学的及び経済的に重要である。確かに、古紙の原価は、特に製紙業の炭素繊維を製造するのに使用する従来の前駆体材料、例えば精製セルロース、又はポリアクリロニトリルよりもはるかに低い。
【0011】
国際公開第2018/142025号(特許文献1)は、炭素繊維の前駆体として用いることができるセルロース繊維を日常のセルロース廃棄物から調製する方法を記載している。この方法は、アルカリ性グリセロール液中で蒸解することにより廃棄物を処理する最初の工程、その後結果として生じるセルロースパルプをイオン液に溶解する工程、及び得られる溶液を紡糸して、セルロース繊維を形成する工程を含む。
【0012】
国際公開第2014/162062号(特許文献2)は、リグノセルロース材料からセルロース繊維を作製する方法を記載している。この方法は、特定の溶媒であるジアザビシクロノネン系イオン液に材料を溶解すること、及び得られる溶液を紡糸して、セルロース繊維を形成することを含む。
【0013】
米国特許第5601767号明細書(特許文献3)は、紙からセルロース繊維を作製する方法を記載しており、破砕紙をアミンオキシド水溶液に溶解すること、高温で乾燥することにより水を除去すること、及び溶剤紡糸によりセルロース繊維を形成することを含む。しかし、この文献では、このセルロース繊維を用いて炭素繊維を形成することができることに言及していない。
【0014】
本発明者は、従来の紡糸プロセスで使用することができるように、通常紙セルロースパルプに適用することができるように、十分にほとんど分解していない形態で、製造された紙製品に含有されるセルロースを回収して個別の及び連続セルロース系繊維を形成し、その後セルロース系繊維に炭化を行って、かなり十分な機械特性を有し、炭化工程中の優れた炭素収率を有する炭素繊維を得ることができることを発見している。より詳細には、本発明者は、炭素繊維のためのセルロース繊維前駆体を製造することに関して先行技術で推奨されることに反して、特定の操作条件下、最低工程数で、紡糸工程前に、特に製造された製品又はそこに含有されるセルロースの蒸解、洗浄、パルプ化等の前処理工程を実施することなく、炭化工程自体以外の著しい温度入力を必要とすることなく、このような結果を得ることができることを発見している。特に、複合材料を製造するためにこれらの炭素繊維を使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従って、本発明は紙製品をリサイクルすることにより炭素繊維を製造する方法を提案する。
【0016】
本明細書において、「紙製品」という用語は、紙パルプから作られる任意の製造された製品、例えば限定されないが、印刷物及び封筒を含む事務用紙又は印刷用紙製品、紙タオル、紙ティッシュ、トイレットペーパー、紙ナプキン等を意味すると理解される。
【0017】
「紙製品」という用語は、製紙業において実施される化学的又は機械的プロセスにより木材から直接得られるパルプを含まない。
【0018】
本発明による方法で使用する製造された製品は、新しい製品又は使用済み製品でよく、特にその寿命の終わりであるものでよい。
【0019】
本発明による炭素繊維を製造する方法は、紙製品を回収する工程後に、
a)セルロース系繊維を調製することであって、連続する以下の
a1)この紙製品を破砕/細断して、破砕紙材料を得る工程、
a3)セルロースを溶解する溶媒溶液として作用するリン酸水溶液に、工程a1)の最後に得られる破砕材料を直接溶解して、いわゆる紡糸液を形成する工程、
a4)この紡糸液を用いて、一般的に湿式紡糸プロセスとも呼ばれる溶剤紡糸プロセスを実施することによりセルロース系連続繊維を製造する工程、及び
a5)必要に応じて、得られるセルロース系連続繊維を延伸して、より長い繊維を形成する工程であって、このような延伸工程の実施は本発明の範囲内で特に好ましい工程、
を含むセルロース系繊維を調製することと、
b)結果として生じるセルロース系連続繊維を炭化して、炭素繊維を形成することと、
を含む。
【0020】
「リン酸水溶液に破砕材料を直接溶解する」という表現は、本明細書では、工程a1)の最後に得られる破砕材料に1つ又は複数の事前の処理工程を行うことなく、水溶液にそのまま直接溶解することを意味すると理解される。
【0021】
本発明による方法の工程a4)で実施する溶剤紡糸プロセス、つまり湿式紡糸プロセスは、それ自体従来の方法で、いわゆる凝固浴に紡糸口金を通して紡糸液を押し出すことからなる。凝固浴は、紡糸液を調製するのに用いられる溶媒溶液、つまりリン酸水溶液と混和性を有するセルロース用の非溶媒を含有する。
【0022】
本発明により実施する溶剤紡糸プロセスは、紡糸口金が凝固浴に浸漬したいわゆる「湿式」プロセス、又は紡糸口金が一般的に凝固浴上1mmから20cmの距離に配置されるいわゆる「ドライジェット」プロセスでよい。
【0023】
本発明による炭素繊維を製造する方法は、実施が簡単であり、その各工程は当業者に公知の技術により実施することができる。優れた特性、特に機械的特性を有する炭素繊維は、極めて少ない工程数で、特に有利なコストで形成することができる。そのコストは、製紙業の従来の前駆体材料、例えば精製セルロース、又はポリアクリロニトリルを用いて炭素繊維を製造するのに必要であるよりもはるかに少ない。
【0024】
特に、本発明による方法はセルロース系連続繊維を調製する工程を含み、繊維内で分子構造の再配列を誘導して、繊維内にセルロースの結晶構造を引き起こし、非常に優れた機械的特性を有する最終炭素繊維が得られる。特に、本発明による方法は引張強度が1,200MPa超、ヤング率が75GPa超、さらに黒鉛化後の引張強度が2,500MPa以上、ヤング率が200GPa以上の炭素繊維が得られる。これらの機械的特性は、高強度の材料が必要とされる用途の分野で使用するのに好適である。このような十分な機械的特性をこのように少数の工程、つまり製造された紙製品を破砕する工程、任意の他の前処理を行うことなく破砕材料をリン酸水溶液に溶解する工程、及び結果として生じる溶液を溶剤紡糸する工程により得ることができると提案した先行技術はなかった。
【0025】
より一般的に、本発明による製造方法で得られる炭素繊維は、多くの分野で用いることができ、特に建設及びインフラ、産業機器、自動車、鉄道又は船舶輸送、電気及び電子、スポーツ及びレジャー、再生可能エネルギ、特に風力等の分野ほど多様な分野において、使用が意図される材料又は部品を作製するために用いることができる。この目的のため、そのままで用いることができ、不織布状、又は織物状もしくは編物状に集合させることができ、必要に応じて他の種類の繊維と混合することができる。
【0026】
その低コストのため、本発明による製造方法で得られる炭素繊維は、適度な引張強度及び低製造コストの強化用繊維を使用する必要がある用途において、ガラス繊維を置き換えるのに有利に用いることができる。例えば、本発明による方法で得られた炭素繊維は、風力もしくは船舶用タービンブレードなど、建設又は再生可能エネルギ産生の分野において構造物を製造するのに使用することができ、これまで使われてきたガラス繊維の全て又は一部が置き換えられる。本発明による炭素繊維は、例えばこれらのガラス繊維の5~40%、特に10~30%を置き換えるのに使用することができる。
【0027】
従って、本発明は特に、大きな寸法、つまり少なくとも長さ30メートル、典型的に長さ40~100メートルの風力タービンブレード、又は船舶用タービンブレードに関する。これらのタービンは、ポリマー樹脂マトリックスに分散した強化用繊維製の複合材料から形成され、ブレード用強化用繊維として、5から40%、好ましくは10から30%の本発明による製造方法で得られたセルロース由来の炭素繊維を含み、強化用繊維の残りはガラス繊維により構成される。後者は典型的に2つのハーフブレードから形成される。これらのセルロース由来の炭素繊維の密度は、1.3から1.8g/m3であることが好ましく有利であり、ガラス繊維の密度は約2.2g/m3に等しい。強化用繊維の総量に対する本発明により得られるセルロース由来の炭素繊維の上記割合は、ブレードのエアフォイルの強化用繊維について定義され、樹脂-炭素複合材料製のスパー(一般的に「スパーキャップ」と呼ばれる)に含まれる炭素繊維の割合に追加されるものであると理解される。スパーキャップは、ハーフブレードにより画定される体積において、大きなブレードのためにブレード内部に組み込まれる。
【0028】
ブレードにおけるセルロース由来の炭素繊維の割合及び分散は、特に寸法及び機械的特性、風力タービンの重量、大きさ、モータのエネルギ、並びに標的出力(有利には3~8MW)など、いくつかの基準により計算される。
【0029】
風力タービン又は同様の構造物(例えば船舶用タービン)用の得られるブレードは、目標長及び機械的特性のため、構造物のモータの必要とされる電力を低下させる。
【0030】
本発明による方法は、単独で、又は任意の技術的に可能な組合せにより実施され、1つ又は複数の下記特徴をさらに含むことができる。
【0031】
本発明による方法の工程a1)で実施する紙製品の破砕/細断は、例えばそれ自体従来のものであるミル/シュレッダにより、当業者に公知の任意の方法に従って実施することができる。
【0032】
好ましくは、工程a1)において、粒子から形成される破砕材料を得るような方法で破砕を実施し、最も大きな寸法は100から1,000μm、好ましくは200から500μmである。これらの粒子は塊状でないのが好ましい。
【0033】
この工程に先行して、紙製品を清潔にする及び/又は除塵を行う様々な操作、並びに切断操作を行うことができる。
【0034】
このようにして得られた破砕材料を紡糸液に直接溶解する。
【0035】
従って、本発明による方法は、先行技術で提案されたリグノセルロースバイオマスから炭素繊維を製造する目的で、高度な精製工程を含むセルロースを調製する方法と比較して特に有利である。従って、本発明による方法で炭素繊維を製造するのに必要とする時間及びコストは、リグノセルロースバイオマスから炭素繊維を調製する従来の方法よりはるかに少ない。特に、紡糸工程を受けたセルロース原料のコストは、炭素繊維を調製する従来の方法より著しく少ない。
【0036】
或いは、炭素繊維を製造する方法は、絶対に必要ではないが、紙製品を破砕する工程a1)後、紡糸液を調製する工程a3)の前に、得られる破砕材料を前処理する工程a2)を含むことができ、その鉱物フィラー含有量を好ましくは1%以下の値、優先的に0.3%以下の値まで低減させる。破砕材料の鉱物フィラー含有量は、当業者にとってそれ自体従来の方法で、例えば空気中で500℃から1,000℃の熱重量分析により、前処理工程の前、中、後に決定することができる。
【0037】
破砕材料を前処理する工程a2)は紙を精製する任意の従来のプロセスにより実施することができ、実質的にセルロースのみを保持する。
【0038】
破砕材料を前処理する工程a2)はこの破砕材料のパルプ化を含むことができ、紙パルプが得られ、その後連続的にハイパー洗浄、乾燥及び破砕を行う。これらの工程は、それぞれ当業者に公知の任意の方法により実施することができる。
【0039】
破砕紙材料のパルプ化は、例えばクロスブレードを備えた型、ドラムパルパー型又はらせんパルパー型のパルパーにより例えば実施することができ、水溶液に懸濁した破砕材料を例えば約15分間撹拌する。破砕材料を例えば15分間から4時間、予め水溶液に浸漬したままにすることができる。この水溶液は、任意に水酸化ナトリウム、過酸化水素、ケイ酸塩、脂肪酸及び/又は任意の他の脱インキ添加剤などの1つ又は複数の添加剤を含有することができる。
【0040】
破砕紙材料をパルプ化する工程において、紙を機械的に分割し、含有されるセルロース繊維を水性懸濁液に入れる。この工程は、約2重量%の紙を含有するパルプが得られる条件下で実施するのが好ましい。
【0041】
世界的に、ハイパー洗浄工程は紙パルプを大量の水で清潔にすることからなり、含有されるセルロース繊維のみを保持し、鉱物フィラー及び他の汚染物質を除去する。
【0042】
ハイパー洗浄は、例えばディフューザを用いて実施することができ、パルプをスクリーンに配置した後、洗浄水がきれいになるまで大量の水で洗浄する。或いは、ハイパー洗浄は遠心脱水機、つまり紙パルプを含有する布袋が内部に配置された回転ドラムにより実施することができる。水は回転ドラムに注入する。このような実施は、多量のパルプをハイパー洗浄し、きれいになるとパルプを脱水する特定の利点を有し、少量の水を含有するパルプが得られる。
【0043】
任意の他の従来のハイパー洗浄方法は、その他の方法で実施することができる。
【0044】
必要に応じて、ハイパー洗浄工程の次に、例えば遠心分離又はろ過によりセルロースパルプを濃縮する工程;及び/又はその構造を機械的に開くことからなり、パルプを膨らませるものとして公知の工程を行うことができる。
【0045】
得られるパルプの乾燥は、例えばオーブン中で実施することができる。パルプの水分含有量が20%未満、好ましくは10%未満になるまで実施するのが好ましい。パルプの初期水分含有量が非常に高いとき、オーブン乾燥に先行して、特に回転ドラムでパルプ脱水を行うことができ、水分含有量を約60%以下の値まで低減させる。
【0046】
水分含有量は、本明細書では、空気の相対湿度60%、約20℃の条件下、パルプの全質量に基づき、パルプに含有される水の質量パーセントとして従来の方法で定義される。特に、この水分含有量は、パルプサンプルの重量を、実質的に一定なサンプル重量が得られるまで100℃超の乾燥工程を行った後、同じサンプルの重量と比較することにより決定することができる。
【0047】
乾燥後、紙パルプを機械的に破砕/細断して破砕材料を形成することができ、本発明による方法の工程a3)を実施して、紡糸液を形成する。
【0048】
製品がインクの付いた紙から形成される構成では、炭素繊維を製造する方法はパルプ化工程後、紙パルプの浮遊工程を含むことができ、含有されるインクを除去する。この浮遊工程は、当業者に公知の任意の方法により実施することができる。
【0049】
本発明による方法が、このような破砕紙材料を前処理する工程a2)を含まない場合、このような前処理工程を含む方法と比較して、溶剤紡糸工程の実施は同じように有利に容易であり、炭素繊維の製造収率は同じように高い。従って、本発明による方法は速度、効率及び低コストを有利に兼ね備える。
【0050】
好ましくは、本発明による方法の工程a3)において溶媒溶液に溶解される破砕材料は、破砕材料の総重量に基づき90重量%超、好ましくは95重量%超のセルロースを含有する。その水含有量は、破砕材料の総重量に基づき15重量%以下が好ましい。その鉱物含有量は、破砕材料の総重量に基づき好ましくは0.3重量%以下、優先的に0.1重量%以下である。このような特徴は、本発明による方法で得られる炭素繊維の機械的特性を向上するのに都合がよい。
【0051】
本発明による方法が使用する紙製品を再生紙から形成することができる。
【0052】
或いは、化学製紙用パルプ、特にクラフトパルプ又は亜硫酸水素塩パルプから生じる紙から形成することができる。例えば、筆記又は印刷用紙である。化学紙パルプは木材を化学物質で蒸解することにより得られる。主な2つの方法があり、亜硫酸水素塩パルプを生成する酸性方法、及び水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムを含有する液中で木材を蒸解することを含むクラフト方法である。
【0053】
本方法の工程a1)の最後に得られる破砕材料を溶解する工程a3)は、セルロース用の溶媒溶液としてリン酸水溶液を使用する。
【0054】
従来の別の溶媒溶液は、塩化亜鉛溶液、ギ酸、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)、イオン液、又は技術的に可能なその任意の混合物である。
【0055】
溶媒溶液として、リン酸水溶液はリン酸濃度が好ましくは水溶液の全体積に基づき75~99体積%であり、驚くべきことにこれだけで、溶媒溶液に溶解する前に単純な破砕工程を受けた製造された紙製品から、特に有利な機械的特性を有する炭素繊維が得られる。
【0056】
溶媒溶液への破砕材料の溶解は、例えば従来の方法により減圧下で加熱した後、非常に低温に冷却する熱処理により促進することができる。
【0057】
しかし、この熱処理は45℃以下の温度に限定されることが好ましい。
【0058】
より一般的に、セルロース系繊維を調製する工程a)において、セルロースに適用される温度は45℃を超えない。これにより、低エネルギ消費の利点と共に、最終炭素繊維の特に優れた機械的特性が得られる。
【0059】
本発明の具体的な実施において、特に水を除去することを意図した事前の乾燥工程を行うことなく、紡糸液を溶剤紡糸プロセスに付する。従って、本発明による方法における工程の数を最低限にするのに都合がよい。
【0060】
紡糸液は、下記のような追加の要素をこの溶液に混合することを除いて、紡糸自体の前に任意の更なる工程を行わないことが好ましい。任意にろ過を行うこともできる。本発明の好ましい実施形態において、紡糸前に紡糸液をろ過しない。
【0061】
本発明の好ましい実施形態において、リン酸水溶液からなる溶媒溶液に破砕材料を溶解する工程a3)で、破砕材料を精製セルロースと混合する。
【0062】
精製セルロースという用語は、本明細書では、リグノセルロースバイオマスから得られるセルロース、特にいわゆる紙セルロース、つまり製紙プロセスから得られ、本発明により得られた破砕材料に含まれるセルロースより高い純度を有するセルロースを意味すると理解される。精製セルロースは、炭素繊維を製造する先行技術の方法で一般的に用いられる。
【0063】
本発明に関して用いられる精製セルロースは、わら又は綿など、一年生植物の堅木又は軟木から得ることができる。任意の従来の方法、例えばクラフト又は水酸化ナトリウム蒸解方法により得ることができる。
【0064】
紡糸液と混合される破砕材料及び精製セルロースの混合物において、好ましくは、精製セルロースは破砕材料及び精製セルロースの混合物の総重量に基づき20から90重量%、好ましくは40から60重量%、例えば約50重量%の量で存在する。
【0065】
本方法の工程a3)において溶媒溶剤に溶解される破砕材料の総量、又は適当な場合、破砕材料及び添加される精製セルロースの混合物の総量は、得られる紡糸液の総重量に基づき1から50重量%、好ましくは5から30重量%、優先的に5から20重量%、例えば5から15重量%である。
【0066】
従って、本発明による方法の工程a3)において溶媒溶剤に溶解される破砕材料の濃度、又は適当な場合、破砕材料及び精製セルロースの混合物の濃度は、得られる紡糸液の総重量に基づき1から50重量%、好ましくは5から30重量%、優先的に5から20重量%、例えば5から15重量%である。
【0067】
破砕紙又は紙パルプ材料は精製セルロース以外の物質、例えばポリアクリロニトリルと混合することもでき、さらに向上した機械的特性、特に黒鉛化後の引張強度4,000MPa超を有する炭素繊維が有利に得られる。これらの機械的特性は、非常に高い材料強度を必要とする用途で使用するのに特に好適であり、例えば水素タンクを製造する。
【0068】
本発明による方法は、1つ又は複数の添加剤を紡糸液に添加することを含み、材料のより優れた構造化、形成される繊維の機械的特性の向上等を行うことができる。
【0069】
これらの各添加剤は、特に紡糸液の総重量に基づき1ppmから10重量%、紡糸液の総重量に基づき好ましくは1ppmから5重量%、例えば100ppmから1重量%の含有量で紡糸液に存在することができる。
【0070】
本発明による紡糸液に添加することができる添加剤の例としては、無水マレイン酸グラフトポリマー又はコポリマーなどの相溶化剤が挙げられる。特に、例えばアルケマから市販されるLotader(登録商標)3300、又はDzBhのBeiwa(登録商標)901が挙げられる。
【0071】
本発明の具体的な実施形態において、紡糸液は工程a3)で溶媒溶液に溶解される破砕材料の重量に基づき、適当な場合、破砕材料及び精製セルロースの混合物の重量に基づき好ましくは0.1から1重量%、例えば約0.2重量%の濃度で、非イオン性乳化剤を含有する。紡糸液は、例えばBASFからエムラン(登録商標)の商品名で販売される1つ又は複数の乳化剤を含有することができる。
【0072】
本発明による方法の次の工程を実施する前に、紡糸液をろ過して、固体粒子を除去することができる。
【0073】
本発明の具体的な実施において、1つ又は複数のナノサイズ炭素質フィラーは、本発明による方法の工程a3)中、又はその直前もしくは直後に紡糸液に添加される。工程a3)で溶媒溶液に溶解される破砕材料の重量に基づき、適当な場合、破砕材料及び精製セルロースの混合物の重量に基づき好ましくは1ppmから30重量%の量でナノサイズ炭素質フィラーを紡糸液に添加する。この濃度は優先的に0.001から5重量%、特に0.01から5重量%である。
【0074】
「ナノサイズ炭素質フィラー」の表現は、本明細書では、単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フラーレン、セルロースナノフィブリル、セルロースナノクリスタル及びカーボンブラック、又はこれらの要素の任意の混合物からなる群の一要素を含むフィラーを意味すると理解される。好ましくは、本発明による紡糸液に混合されるナノサイズ炭素質フィラーは、カーボンナノチューブ単独、又はグラフェンとの混合物である。カーボンナノチューブは、例えばGraphistrength(登録商標)の商品名でアルケマから市販されている。
【0075】
本発明によるナノサイズ炭素質フィラーは、0.1から200nm、好ましくは0.1から160nm、優先的に0.1から50nmのより小さな寸法を有することができる。この寸法は、例えば光散乱法により測定することができる。
【0076】
「グラフェン」という用語は、本発明によれば、平面で分離した別個のグラファイトシートを意味するが、伸長により1から数十のシートを含み、平面又はほぼ波形構造を有する集合体も意味すると理解される。従って、この定義はFLG(数層グラフェン)、NGP(ナノグラフェンプレート)、CNS(カーボンナノシート)及びGNR(グラフェンナノリボン)を包含する。しかし、1つ又は複数のグラフェンシートの同軸巻、及びこれらのシートの乱層積層により構成される、それぞれカーボンナノチューブ及びナノ繊維は除外される。
【0077】
ナノサイズ炭素質フィラーを水又は溶媒系の液分散状で、本発明による紡糸液に混合することが好ましい。
【0078】
ナノサイズ炭素質フィラーの分散は、超音波プローブ、ボールミル、高せん断ミキサー、又は従来用いられる任意の他の装置により、必要に応じて界面活性剤の存在下で実施することができる。
【0079】
連続セルロース繊維を形成するために、本発明による方法の工程a4)において実施される紡糸プロセスは、当業者に公知の任意のタイプでよい。
【0080】
上記の通り、この工程において、1つ又は複数の穴からなる紡糸口金を通して、凝固浴に直接(湿式紡糸)又は空隙(ドライジェット湿式紡糸)を通して静的に又は流入で紡糸液を注入する。凝固浴に接触すると、繊維は凝固する。これはセルロース系連続繊維を作製するのに都合がよい。
【0081】
使用する凝固浴は、紡糸液中のリン酸と相溶性のある任意の従来の組成物を有することができ、特定のタイプの溶剤紡糸プロセスを実施する。
【0082】
例えば、凝固浴は、イソプロパノール、水、アセトン、又は接触するとセルロースを凝固させる任意の他の溶媒、又はその任意の混合物から作製することができる。
【0083】
従来の別の溶剤紡糸プロセスとしては、ビスコースプロセス、リヨセルプロセス、又は紡糸液用の溶媒としてイオン液を用いるプロセスが挙げられる。
【0084】
従来の溶剤紡糸プロセスの具体的な例は、特に国際公開第85/05115号(特許文献4)、米国特許第5817801号明細書(特許文献5)、米国特許第5804120号明細書(特許文献6)、又はPolymer、42:7371-7379のBoerstel、2001(非特許文献1)、又はJACS、124:4974-4975のSwatloski、2002(非特許文献2)による刊行物に記載されている。
【0085】
本発明の具体的な実施形態において、紡糸液は必要に応じて非イオン性乳化剤の存在下でリン酸から形成され、凝固浴はイソプロパノール単独、又は水との混合物から形成される。
【0086】
本発明による紡糸プロセスにより得られるセルロース系連続繊維は、モノフィラメント又はマルチフィラメントの形状を取ることができ、その後洗浄、乾燥することができる。
【0087】
任意に、延伸工程a5)を行って、より長い繊維を形成する。
【0088】
繊維延伸工程は、任意の方法に従って、当業者に公知のこのような操作を実施する任意の機器により実施することができる。特に、繊維を構成する材料が軟化する温度で実施することができる。この目的のため、繊維は上記温度に加熱された炉を通って、いわゆるフィードローラのテーブルを経過し、その後いわゆる延伸ローラのテーブルを連続的に経過する。フィードローラ及び延伸ローラの回転速度比により、ローラの2つのテーブル間で延伸を受ける。或いは、異なる速度で回転する加熱ローラで延伸することができる。
【0089】
このような延伸は、繊維軸に沿ってポリマー鎖を並べるのに都合がよい。
【0090】
ガンマ線、ベータ線、電子ビーム又は紫外線などの放射線で、紡糸プロセスの最後に繊維を任意に処理することができる。
【0091】
得られるセルロース系繊維はかなり長く、その後例えばボール紙の筒に巻き付けることができる。
【0092】
その後、炭化工程前に、本発明により得られるセルロース系繊維を従来の方法でサイジングすることができ、連続炭素繊維が得られる。
【0093】
本発明の代替実施形態によれば、ナノサイズ炭素質フィラーはサイジング浴に導入され、上記のように紡糸液に導入されない。
【0094】
本発明による方法のセルロース系連続繊維を炭化する工程b)は、先行技術に記載されるセルロース繊維を炭化するための操作パラメータを任意に組み合わせて、従来の方法で実施される。
【0095】
不活性雰囲気で実施することが好ましい。
【0096】
繊維が炭化炉を通り抜ける状態で連続的に、又は繊維が好ましくは炉において張力を受けた状態で不連続的に、つまり静的に炭化を実施することができる。
【0097】
炭化前、セルロース系連続繊維に1つ又は複数の添加剤、特にいわゆる炭化剤を含浸させることができる。含浸剤は、最終的に得られる炭素繊維の機械的特性を増加させ、炭化工程の炭素収率を増加させるのに役立つ。これらの添加剤はそれ自体従来のものである。例として、セルロース系繊維に1つ又は複数の以下の添加剤:ブレンステッド酸化合物又は加熱するとブレンステッド酸を放出する化合物、特にハロゲン化水素、ナトリウム、カリウムもしくはアンモニウム等の任意の対イオンを有するハロゲン化物、硫酸、ナトリウム、カリウムもしくはアンモニウム等の任意の対イオンを有する硫酸塩、メチルスルホン酸などのアルキル基を有する有機スルホン酸、もしくはパラトルエンスルホン酸などのアリール基を有する有機スルホン酸、もしくは任意の他の有機基を有する有機スルホン酸、上記スルホン酸に相当し、ナトリウム、カリウムもしくはアンモニウム等の任意の対イオンを有する有機スルホン酸塩、リン酸及びポリリン酸、並びに/又はナトリウム、カリウムもしくはアンモニウム等の任意の対イオンを有するリン酸塩及びポリリン酸塩;ルイス酸化合物、特にホウ酸及び/又は塩化アルミニウムAlCl3もしくは塩化鉄FeCl2など金属ハロゲン化物;尿素;ナノサイズ炭素質フィラー;並びに/或いはシリコン処理したポリマーベース、例えば特に架橋剤と組み合わせたポリジメチルシロキサンベースを有する製剤を含浸させることができる。このような一覧は決して本発明を限定しない。
【0098】
シリコン処理したポリマーに基づく含浸添加剤は、本発明により得られる炭素繊維の機械的特性をさらに向上させることができるため、本発明の観点から特に好ましい。セルロース繊維及び添加剤の総重量に基づく添加剤の重量パーセントとして定義される率が0.01から20重量%、好ましくは0.5から10重量%、より好ましくは1から5重量%で、シリコン処理型の含浸添加剤を使用するのが好ましい。
【0099】
炭化は温度1,000から1,500℃の温度で実施することができ、炭化に先行して温度約250℃の空気中で安定化工程を実施してもしなくてもよい。
【0100】
本発明の具体的な実施において、炭化炉を密封し、真空下、1.104Pa(0.1バール)未満にする。その後、窒素又はアルゴン等の不活性ガスで満たし、ガス流量は1時間あたり炉の体積変化が50から500であるようにガスを漏出させる。炉内圧力は好ましくは1.103Paから5.104Pa超の気圧である。炭化炉で適用される温度は、好ましくは800℃から1,500℃である。
【0101】
この炭化処理は炭素繊維を作製する。
【0102】
その後、炭素のより優れた構造化、従ってより有利な機械的特性を得るため、この炭素繊維に任意に黒鉛化処理を行うことができる。この処理は、例えば繊維を不活性ガス中で2,000から3,000℃の温度に、例えば30秒から10分間加熱することにより実施することができる。
【0103】
それ以外では、不活性雰囲気下、800℃から1,500℃の温度で炭化炉を含む様々な炉、その後2,500℃までの温度で黒鉛化炉を連続的に通過させることにより、本発明によるセルロース系繊維を継続的に炭化することができる。従って、繊維がこれらの炉を通過する速度は、優先的に0.1から10m/hである。
【0104】
本発明による方法を用いて得られた炭素繊維は、直径5から30μm、長さ数メートルを有することができる。
【0105】
本発明の特定の実施形態において、本方法は工程a4)又はa5)で得られる複数のセルロース系連続繊維から、セルロース系繊維のウェブを形成する工程を含む。その後、このセルロース系連続繊維を炭化する工程b)をセルロース系連続繊維のウェブを炭化することにより実施して、炭素繊維系ウェブを形成する。
【0106】
本発明によるセルロース系繊維から形成されるウェブは任意の形状及びサイズでよい。この繊維は、例えばタフタ、綾織物、サテンなど、単独で又は組み合わせて用いられる異なる重量及び織りを有する織物、或いは不織の布地、フェルト又はフィルムなど、例えば繊維がすべて同じ方向に配向するか、又は繊維が無作為に配向する不織布に配置することができる。これらは単方向ウェブとして知られる。
【0107】
本発明によるセルロース系連続繊維は、ウェブ単独で、又は他の種類の繊維と組み合わせて使用することができる。
【0108】
セルロース系連続繊維のウェブの炭化は、静的に、又は炭化炉を通して連続運動により、当業者に公知の任意の炭化プロセスで実施することができる。本発明によるセルロース系連続繊維のウェブの炭化のため、個別の繊維の処理に関する上記特徴が同様の方法で適用される。
【0109】
本発明によるセルロース系連続繊維のウェブは個別に炭化することができ、或いは平らに積み重ねたウェブ、又は必要に応じて所望の形状に形成後の積み重ねたウェブとして炭化することができる。
【0110】
本発明の別の態様は、本発明による方法で得られ、1つ又は複数の上記特徴を有する炭素繊維に関する。
【0111】
この炭素繊維はつながっており、直径1から1,000μm、好ましくは15から30μm、長さ数メートルを有することができる。
【0112】
引張強度1,200MPa超、好ましくは黒鉛化後に2,000MPa以上、及び/又はヤング率75GPa超、好ましくは黒鉛化後に200GPa以上を有利に有することができ、これらのパラメータは国際規格ISO11566の方法Bに従って測定される。
【0113】
本発明の別の態様は、本方法の工程a)の最後に、本発明による炭素繊維を製造する方法を実施する際の中間生成物として得られるセルロース系連続繊維に関する。このセルロース系繊維は、再生紙製品から、単独で又は上記に一覧するような他の構成成分と混合して作製される。
【0114】
このセルロース系連続繊維は、直径10から30μm、及び/又は強度10から40cN/テックス、及び/又はヤング率10から30GPaを有することができ、これらのパラメータは国際規格ISO2062に従って測定される。
【0115】
保存し、輸送することができるのが都合がよい。
【0116】
別の態様によれば、本発明は、本発明による炭素繊維から得られる炭素繊維ウェブに関し、炭素繊維を一緒に織るか又は編み、或いは不織布状に並置する。
【0117】
本発明の別の態様は、本発明による炭素繊維を製造する方法により得られる炭素繊維ウェブに関し、この方法は、本方法の工程a4)又はa5)で得られる複数のセルロース系連続繊維から、セルロース系繊維のウェブを形成する工程と、セルロース系連続繊維のウェブを炭化して、炭素繊維系ウェブを形成する工程と、を含む。
【0118】
さらに、本発明は本発明によるセルロース系連続繊維の複数のウェブを積み重ねることにより、又は本発明による複数の炭素繊維ウェブを積み重ねることにより得られる3次元繊維構造に関し、必要に応じて所望の形状に成形して、例えば結合剤に分散した強化用繊維を含有する複合材料製の物品を製造するために予備成形物を形成する。
【0119】
別の態様によれば、本発明は本発明による炭素繊維又は炭素繊維ウェブの使用に関し、有機ポリマー樹脂マトリックスに分散した炭素繊維を含有する複合材料製の物品を製造する。
【0120】
さらに、本発明の別の態様は、有機ポリマー樹脂マトリックスに分散した炭素繊維を含有する複合材料製の物品を製造する方法に関する。この方法は、個別のセルロース系連続繊維の炭化により炭素繊維を製造することを含む本発明による炭素繊維を製造する方法を実施すること、及びこのようにして得られた複数の炭素繊維から炭素繊維ウェブを形成すること;又はセルロース系連続繊維のウェブを形成すること、及びこの繊維のウェブを炭化して、炭素繊維系ウェブを形成することを含む本発明による炭素繊維を製造する方法を実施すること;並びにこのようにして得られた複数の炭素繊維ウェブから複合材料製の物品を製造すること、を含む。
【0121】
本発明に従って得られた複数の炭素繊維ウェブから複合材料製の物品を製造することは、当業者にとって従来のものである任意の方法により実施することができる。
【0122】
複合材料は、本明細書において、従来のように、つまり共に結合する複数の異なる材料又は基本成分の集合体、より具体的には長く、機械的に強い繊維、この場合有機ポリマー樹脂マトリックスに分散した炭素繊維からなるものとして定義される。樹脂という用語は、本明細書において高分子化合物を定義するために用いられ、熱可塑性又は熱硬化性型でよく、繊維がほぼ組織的に分散する構造用接着剤として作用する。このように形成される複合材料はそれ自体の機械的特性を有し、機械的強度及び軽さの観点から非常に有利である。
【0123】
概略的に、このような複合材料の製造は、重合していない有機樹脂を含浸させた炭素繊維の複数のウェブの積み重ねを条件、特にこの樹脂を重合させる温度条件下、所望の形状に成形することからなる。
【0124】
本発明による複合材料製の物品は、例えば樹脂を事前に含浸させた層をドレープする技術を用い、その後オートクレーブで集合体を重合して、従来の方法で複合材料を形成することにより製造することができる。これらの層の少なくとも一部は本発明による炭素繊維ウェブにより構成される。或いは、乾燥繊維層で樹脂注入又は含浸技術、特に樹脂トランスファー成形(RTM)技術により製造することができ、これらの層の一部は本発明による炭素繊維ウェブからなる。
【0125】
本発明により製造する複合材料は、モノリシック型及び/又は例えばハニカム構造を有するサンドイッチ型でよい。
【0126】
この繊維は、本発明では、例えばタフタ、綾織物、サテンなど、単独で又は組み合わせて用いられる異なる重量及び織りを有する織物、或いは例えば繊維がすべて同じ方向に配向する不織布に配置することができる。
【0127】
本発明に従って得られる炭素繊維は、単独で、或いは1つ又は複数の他の種類の繊維と組み合わせて実装することができ、このような組合せの任意の構成は本発明の範囲内に含まれる。
【0128】
特に熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂又はその混合物、或いは熱可塑性樹脂など、任意の従来の樹脂は本発明の状況で使用することができる。
【0129】
別の態様によれば、本発明は、本発明による製造方法で得られる有機ポリマー樹脂マトリックスに分散した炭素繊維を含有する複合材料製の物品に関し、1つ又は複数の上記特徴を満たす。
【0130】
複合材料製のこのような物品は、多くの分野で有利に利用することができる。
【0131】
本発明の特徴及び利点は実施例を考慮してより理解されるであろう。実施例は、説明の目的のためにのみ記載され、本発明の範囲を限定しない。
【0132】
比較例1-事務用紙
例として、印刷及び筆記用事務用紙などの紙製品(クレールフォンテーヌのA4のClairalpha80g/m2紙)を使用して炭素繊維を製造する方法を実施する。
【0133】
この紙に含有されるフィラーをまず除去する。これを行うため、紙に以下の手順を行う。
【0134】
まず、複数の紙を自動的に細断する。
【0135】
その後、得られる断片を前処理して、その鉱物フィラー含有量並びに他の不純物を低減させる。これを行うため、パルパーに水と入れて、20g/乾燥物質Lで水に懸濁する紙パルプを形成する。水がきれいになるまで、50μmスクリーンで加圧ウォータージェットを用いて3回このパルプを洗浄する(ハイパー洗浄)。その後、ハイパー洗浄したパルプを95℃で一晩、オーブン乾燥した後、破砕して、約250μm以下の寸法の粒子を形成する。
【0136】
本方法の異なる工程における熱重量分析で、材料の鉱物フィラー含有量を決定することにより、その効率が制御される。この目的のため、まず、材料サンプルを空気中、500℃の温度にさらして、その全体的な鉱物フィラー含有量を決定し、その後空気中、900℃の温度にさらして、これらの鉱物フィラーにおける炭酸塩の割合を決定する。
【0137】
このようにして、初期の紙は14%の鉱物フィラー(94%炭酸塩から作られる)及び5%の水を含有することが決定される。前処理の最後には、破砕紙パルプの鉱物フィラー含有量は1%未満である。
【0138】
その後、混合物の総重量に基づき10重量%の量まで破砕紙パルプをリン酸に溶解する。
【0139】
この溶液にカーボンナノチューブの水分散液を添加する。この分散液は、ボールミル及び超音波プローブに連結する反応器を用い、1.2重量%濃度のBrij(登録商標)S20として市販される界面活性剤の存在下、水に0.9重量%の量でカーボンナノチューブを分散することにより形成される。
【0140】
紡糸液に含まれる破砕パルプの重量に基づき0.1重量%の量でこの水分散液を紡糸液に添加する。溶解の質は光学顕微鏡法及び粘度測定により確認する。この分散液は、1μm以上のサイズを有する任意の凝集体を含有しない。
【0141】
この溶液に、エムラン(登録商標)として販売される製品など、非イオン性乳化剤を紡糸液に含有される破砕パルプの重量に基づき0.2重量%の量で添加する。このような非イオン性乳化剤は、リン酸の再生紙セルロースへの含浸を促進するのに都合がよい。
【0142】
混合物を100ミリバールの減圧下、40rpmで撹拌しながら、45℃で15分間加熱し、その後同じ減圧及び撹拌下、3時間、-10℃まで冷却する。その後、さらに同じ減圧及び撹拌条件下、0℃で一晩置き、最後に-10℃まで冷却する。
【0143】
得られる紡糸液を直径各80μmの穴500個を有する紡糸口金から押し出し、イソプロパノール/水混合物(体積60:40)からなる凝固浴に直接注入する。
【0144】
紡糸パラメータは、例えば紡糸液の温度0℃、移送ポンプの速度800rpm、凝固浴の温度20℃である。
【0145】
カーボンナノチューブを捕捉し、十分に分散させた凝固浴で、セルロース繊維を形成する。
【0146】
繊維に残っているリン酸を除去するため、このようにして形成される繊維に20℃の水酸化カリウムKOHを含む中和浴を通過させ、その後250℃の炉中で熱風により乾燥させる前に15℃の水洗浴を通過させる。
【0147】
その後、従来の方法により温度160℃の加熱ローラで延伸する。
【0148】
その後、セルロース系繊維を巻取速度12m/分でスプールに巻きつける。
【0149】
これは、直径約25μm、長さ数メートルのセルロース系マルチフィラメント繊維となる。
【0150】
このセルロース系連続繊維は、強度が10から40cN/テックス、ヤング率が10から30GPaである(これらのパラメータは国際規格ISO2062に記載されるプロトコールに従って測定される)。
【0151】
その後、1,200℃までの窒素中における炭化工程の前に、このセルロース系連続繊維に温度約250℃の空気中で安定化工程を行うことができる。
【0152】
本方法は、非黒鉛化状態で、引張強度1,200MPa超、ヤング率75GPa超を有する炭素繊維を作製する(これらのパラメータは、国際規格ISO11566の方法Bに記載されるプロトコールに従って測定される)。
【実施例】
【0153】
実施例1-事務用紙
上記比較例1で使用したものと同じ紙製品である、印刷及び筆記用事務用紙(クレールフォンテーヌのA4のClairalpha80g/m2紙)を使用して、本発明に従って炭素繊維を製造する方法を実施する。
【0154】
まず、複数の紙を自動的に細断する。得られる断片を破砕して、約250μmの寸法の粒子を形成する。
【0155】
本発明に従って、その後85%リン酸水溶液(水溶液の全体積に基づき85体積%のリン酸濃度を含有する)に、混合物の総重量に基づき7重量%の量で破砕紙を直接溶解して、紡糸液を形成する。
【0156】
この溶液に、エムラン(登録商標)として販売される製品など、非イオン性乳化剤を紡糸液に含有される破砕紙の重量に基づき0.2重量%の量で添加する。このような非イオン性乳化剤は、リン酸の再生紙セルロースへの含浸を促進するのに都合がよい。
【0157】
混合物を100ミリバールの減圧下、40rpmで撹拌しながら、45℃で15分間加熱し、その後同じ減圧及び撹拌下、3時間、-10℃まで冷却する。その後、さらに同じ減圧及び撹拌条件下、0℃で一晩置き、最後に-10℃まで冷却する。
【0158】
本方法の代替実施形態において、製紙プロセスにより得られる木材由来の高い純度のセルロースと共に、破砕紙をリン酸溶液に混合することができ、例えば高純度セルロースに対する破砕紙の重量比が20:80又は50:50である。
【0159】
紡糸液を直径各80μmの穴500個を有する紡糸口金から押し出し、イソプロパノール/水混合物(体積60:40)からなる凝固浴に直接注入する。
【0160】
紡糸パラメータは、例えば紡糸液の温度0℃、移送ポンプの速度600rpm、凝固浴の温度20℃である。
【0161】
セルロース繊維は凝固浴で形成される。
【0162】
繊維に残っているリン酸を除去するため、このようにして形成される繊維に20℃で水に3重量%で水酸化カリウムKOHを含む中和浴を通過させ、その後250℃の炉中で熱風により乾燥させる前に15℃の水洗浴を通過させる。
【0163】
その後、従来の方法により温度160℃の加熱ローラで延伸する。
【0164】
その後、セルロース系繊維を巻取速度10m/分でスプールに巻きつける。
【0165】
これは、直径約28μm、長さ数メートルのセルロース系マルチフィラメント繊維となる。
【0166】
このセルロース系連続繊維は、強度が10から40cN/テックス、ヤング率が10から40GPaである(これらのパラメータは国際規格ISO2062に記載されるプロトコールに従って測定される)。
【0167】
その後、1,200℃までの窒素中における炭化工程の前に、このセルロース系連続繊維に温度約250℃の空気中で安定化工程を行うことができる。
【0168】
炭化工程の前に、セルロース系連続繊維をいわゆる炭化剤で含浸することができる。含浸剤は最終的に得られる炭素繊維の機械的特性、及び炭化工程の炭素収率を増加させるのに役立つ。
【0169】
炭化工程の後に、不活性ガス中2,000から3,000℃の温度で1から10分間繊維を加熱することにより、黒鉛化工程を行うことができる。
【0170】
本方法は、特に非黒鉛化状態で、引張強度1,200MPa超、ヤング率75GPa超の特に十分な機械的特性を有する炭素繊維を作製する(これらのパラメータは、国際規格ISO11566の方法Bに記載されるプロトコールに従って測定される)。これらの機械的特性は比較例1で得られる炭素繊維と同等に優れている。比較例1では破砕紙材料をリン酸水溶液に溶解する前に前処理を行った。
【0171】
さらに、添加剤を添加することなく、本発明により得られる炭素繊維は、窒素中1,000℃の炭素収率が15.4%、無機物含有量が0.007%未満である(これらのパラメータは1,000℃までの窒素における10℃/分の熱重量分析、その後1,000℃の空気雰囲気に通過させることにより測定する)。
【0172】
先行技術で提案された従来の方法により形成される炭素繊維と比較して、この炭素繊維は非常に低コストで得られた。
【0173】
この炭素繊維は多くの用途、例えば複合材料製の物品製造に使用することができ、この繊維は有機ポリマー樹脂に分散される。
【0174】
実施例2-紙タオル
紙タオルを用いて本発明により炭素繊維を製造する方法を実施する。
【0175】
この紙を破砕後に、混合物の総重量に基づき7重量%の量でリン酸(85%水溶液)に溶解する。
【0176】
この溶液に、エムラン(登録商標)として販売される製品など、非イオン性乳化剤を紡糸液に含まれる破砕パルプの重量に基づき0.2重量%の量で添加する。
【0177】
混合物を100ミリバールの減圧下、40rpmで撹拌しながら、45℃で30分間加熱し、その後同じ減圧及び撹拌下で一晩、-10℃まで冷却する。
【0178】
得られる紡糸液を直径各80μmの穴500個を有する紡糸口金から押し出し、イソプロパノール/水混合物(体積60:40)からなる凝固浴に直接注入する。
【0179】
紡糸パラメータは、例えば紡糸液の温度0℃、移送ポンプの速度600rpm、凝固浴の温度20℃である。
【0180】
セルロース繊維は凝固浴で形成される。
【0181】
繊維に残っているリン酸を除去するため、このようにして形成される繊維に20℃の水酸化カリウムKOHを含む中和浴を通過させ、その後260℃の炉中で熱風により乾燥させる前に15℃の水洗浴を通過させる。
【0182】
その後、従来の方法により温度120℃の加熱ローラで延伸する。
【0183】
その後、これらのセルロース繊維に上記実施例1に示すプロトコールに従って、炭化工程を行う。