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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】排水処理装置および排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20241126BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20241126BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20241126BHJP
【FI】
C02F3/12 D
C02F3/10 A
C02F1/58 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022059292
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023150273
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】花本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】福島 智彦
(72)【発明者】
【氏名】津田 収
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-179280(JP,A)
【文献】特開2013-202511(JP,A)
【文献】特開平10-328682(JP,A)
【文献】特開平10-128369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 3/02- 3/10
C02F 1/58- 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する処理槽と、
前記被処理水に含まれるリンを除去する凝集剤を前記処理槽に添加する凝集剤添加装置と、
前記処理槽に投入されており、硝化細菌が固定化された包括固定化担体と、を備え
前記処理槽において、前記包括固定化担体を投入して硝化処理を行うと共に、アルミ系凝集剤を含む凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う排水処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排水処理装置であって、
前記処理槽は、回分式活性汚泥法による処理を行う回分槽である排水処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の排水処理装置であって、
前記凝集剤は、硫酸アルミニウムまたはポリ塩化アルミニウムである排水処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の排水処理装置であって、
前記凝集剤の添加量が、3mg-Al/L以上である排水処理装置。
【請求項5】
被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する処理工程を含み、
前記処理工程において、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を前記被処理水に投入して硝化処理を行うと共に、前記被処理水に含まれるリンを除去するアルミ系凝集剤を含む凝集剤を前記被処理水に添加して凝集沈殿処理を行う排水処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の排水処理方法であって、
前記処理工程は、回分式活性汚泥法による処理の一工程である排水処理方法。
【請求項7】
請求項5に記載の排水処理方法であって、
前記凝集剤は、硫酸アルミニウムまたはポリ塩化アルミニウムである排水処理方法。
【請求項8】
請求項5に記載の排水処理方法であって、
前記凝集剤の添加量が、3mg-Al/L以上である排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水に含まれる窒素およびリンを処理する排水処理装置および排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水環境を保全するために、下水、生活排水、産業排水等を処理する排水処理装置が導入されている。排水に含まれる有機物、窒素等は、硝化細菌等を含む活性汚泥によって生物学的に処理されている。排水の安定的な処理や、運転管理の簡易化等の観点から、標準活性汚泥法、オキシデーションディッチ法、回分式活性汚泥法(Sequencing Batch Reactor:SBR)等が利用されている。
【0003】
排水に含まれる窒素の除去は、典型的には、無酸素・好気循環式硝化脱窒法によって行われている。原水は、脱窒槽に導入された後、硝化槽に導入されている。硝化槽から脱窒槽に対しては、処理水や汚泥の循環的な返送が行われている。原水に含まれるアンモニア性窒素は、硝化工程において、好気性条件下、硝酸性窒素まで酸化されている。硝酸性窒素は、脱窒工程において、無酸素条件下、有機物を利用して窒素ガスに変換されている。
【0004】
硝化工程では、アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌が利用されている。硝化細菌は、独立栄養細菌であるため、増殖速度が遅く、硝化処理に時間がかかる。そのため、硝化細菌の保持数を増やす目的で、硝化細菌を固定化した担体が投入されている。固定化の方法としては、担体の表面に細菌を付着させる結合担体が一般的である。また、ゲル担体等の内部に細菌を包摂させる包括固定化担体や、細菌自体の自己造粒を利用するグラニュール等も知られている。
【0005】
排水には、富栄養化の要因となるリンが含まれている場合もある。近年、排水に含まれる窒素とリンを同時に除去するために、高度処理の導入が進められている。リンを除去する方法は、生物学的脱リン法と物理化学的脱リン法に大別される。生物学的脱リン法では、処理効率がポリリン酸蓄積細菌によるリンの蓄積量に依存するため、流入条件によっては、環境基準の達成が難しい現状がある。そのため、一般には、より処理効率が高い凝集沈殿法が広く利用されている。
【0006】
凝集沈殿法は、被処理水に凝集剤を添加して、リン酸を不溶性のリン酸化合物に変換して凝集させると共に沈殿させる方法である。凝集剤と反応したリンは、沈殿性のフロックを形成するため、活性汚泥等の懸濁物質(suspended solids:SS)と共に処理槽から引き抜くことが可能になる。一般には、凝集沈殿を独立して行う直接凝集法や、汚泥による排水処理後に凝集沈殿を行う後凝集法が実施されている。特許文献1には、後凝集法に関する技術が記載されている。
【0007】
一般に、凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム等のアルミ系凝集剤が用いられている。アルミ系凝集剤は、鉄系凝集剤と比較して、生物学的還元によってリンを再放出せず、コスト性やアルミニウムの再資源化性にも優れている。しかし、アルミニウム等の金属塩は、硝化細菌による硝化を阻害することが報告されている。後凝集法であれば、硝化阻害を回避できるが、汚泥による排水処理と同時に凝集沈殿を行う同時凝集法では硝化速度の低下が問題となる。
【0008】
非特許文献1には、アルミニウムの硝化阻害を起こす阻害濃度が、4mg/Lであることが記載されている。非特許文献2には、アルミ系凝集剤が3~4mg-Al/Lの注入率で硝化阻害を起こすことが記載されている。特許文献2には、高速エアレーション沈殿池を形成する水槽内に凝集剤を添加する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-259683号公報
【文献】特開平06-226292号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】米本豊、山内泉、竹村伸一、イオウ化合物の硝化に与える影響、第38回下水道研究発表会講演集 平成13年度、公益社団法人日本下水道協会、2001年、38、p388-390
【文献】小越真佐司、佐藤和明、野村克巳、循環式硝化脱窒法に付加するリン除去用凝集剤の検討、衛生工学研究論文集,、1988年、第24巻、p105-115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
下水、生活排水、産業排水等を処理する排水処理において、有機物に加え、窒素とリンを同時に処理する技術が求められている。被処理水に含まれるリンを除去する方法としては、処理効率等の観点から、凝集沈殿法が候補となる。しかし、一般的に用いられている凝集剤は、硝化阻害を起こすため、汚泥による排水処理と同時に凝集沈殿を行う同時凝集法の採用が妨げられている。
【0012】
汚泥による排水処理後に凝集沈殿を行う後凝集法であれば、硝化阻害を回避できる。しかし、後段で凝集沈殿処理を行うため、最終沈殿池が必要になる。排水処理施設を新設する場合、最終沈殿池の用地の確保が必要になるという問題がある。また、既存の排水処理施設を高度処理対応に更新し、既存の用地が矮小である場合、最終沈殿池の建設は困難であり、追加的な用地の確保が必要になるという問題がある。
【0013】
近年では、排水の安定的な処理や、運転管理の簡易化等の観点から、回分式活性汚泥法の利用が拡大している。回分式活性汚泥法は、被処理水を回分槽に流入させる流入工程と、被処理水を曝気する曝気工程と、汚泥を沈殿させる沈殿工程と、処理水を回分槽から排出する排出工程とを、単一の回分槽でサイクル的に行うため、用地を確保し易い方法でもある。硝化処理と脱窒処理を単一の回分槽で行うことも可能である。
【0014】
しかし、回分式活性汚泥法に凝集沈殿処理を組み合わせると、回分式活性汚泥法の利点が減殺されるという問題がある。後凝集法を組み合わせる場合、回分槽でサイクル的に行う沈殿工程に加え、後段で凝集沈殿処理を行うことになり、排水処理の効率が悪くなる。また、排水処理施設の規模が拡大して、用地を確保し難くなる。同時凝集法を組み合わせる場合には、凝集剤によって硝化阻害が起こるため、サイクル当たりの処理効率の維持が困難である。
【0015】
特許文献1では、後凝集法を採用しているが、用地の確保が必要になり、コストがかかるという問題がある。また、特許文献2では、硝化細菌にポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を添加しているため、硝化阻害が起こってしまう。特許文献2では、このような硝化阻害の問題について対策が採られていない。高炉水砕スラグ等の担体では、硝化細菌に対する凝集剤の暴露を避け難いため、硝化速度や窒素除去率の低下が懸念される。
【0016】
同時凝集法を採用する場合、凝集剤の添加によって、活性汚泥を含む懸濁物質が沈殿する。そのため、引き抜くべき汚泥量が必然的に増加することになる。高炉水砕スラグ等の担体では、汚泥と担体との分離が困難であるため、担体に固定化された硝化細菌が汚泥と共に引き抜かれる可能性が高くなる。硝化速度が低下すると共に、担体の補充が必要になるため、処理の安定性や運転コストに関しても課題がある。
【0017】
そこで、本発明は、排水に含まれる窒素とリンを同時に安定的に除去することが可能な排水処理装置および排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するため、本発明に係る排水処理装置は、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する処理槽と、前記被処理水に含まれるリンを除去する凝集剤を前記処理槽に添加する凝集剤添加装置と、前記処理槽に投入されており、硝化細菌が固定化された包括固定化担体と、を備え、前記処理槽において、前記包括固定化担体を投入して硝化処理を行うと共に、アルミ系凝集剤を含む凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う
【0019】
また、本発明に係る排水処理方法は、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する処理工程を含み、前記処理工程において、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を前記被処理水に投入して硝化処理を行うと共に、前記被処理水に含まれるリンを除去するアルミ系凝集剤を含む凝集剤を前記被処理水に添加して凝集沈殿処理を行う
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、排水に含まれる窒素とリンを同時に安定的に除去することが可能な排水処理装置および排水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る排水処理装置の構成例を示す図である。
図2A】排水処理装置における処理例(流入工程)を示す図である。
図2B】排水処理装置における処理例(曝気工程)を示す図である。
図2C】排水処理装置における処理例(沈殿工程)を示す図である。
図2D】排水処理装置における処理例(排出工程)を示す図である。
図3】凝集剤の添加に伴う硝化速度の変化率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る排水処理装置および排水処理方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0023】
本実施形態に係る排水処理装置および排水処理方法は、被処理水に含まれる窒素およびリンを単一の処理槽で同時に処理して除去するものである。被処理水に含まれる窒素は、生物学的に脱窒される。被処理水に含まれるリンは、凝集剤の添加による凝集沈殿によって脱リンされる。凝集剤が添加される処理槽には、硝化細菌が固定化された包括固定化担体が投入される。
【0024】
凝集剤に含まれるアルミニウム等の金属塩は、硝化阻害を起こす。硝化処理中にアルミ系凝集剤が添加されると、硝化細菌による硝化速度が低下することが報告されている。硝化細菌が担体に固定化されていない浮遊状態や、硝化細菌が担体の表面に吸着した結合担体では、硝化細菌が凝集剤に暴露されるため、硝化阻害が起こって硝化速度や窒素除去率の低下が起こる。
【0025】
これに対し、包括固定化担体では、担体の内部に細菌が包摂されている。包括固定化担体では、浮遊状態や結合担体と比較して、硝化阻害を受ける硝化細菌の割合が少ないことが確認された。本実施形態では、このような知見に基づいて、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する処理槽において、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を投入して硝化処理を行うと共に、凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う。
【0026】
被処理水としては、アンモニア性窒素や、オルトリン酸を含む排水を処理することができる。被処理水は、アンモニア性窒素や、オルトリン酸に加え、有機物、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素、ポリリン酸等を含んでいてもよい。有機物は、処理槽に保持された浮遊・懸濁状態の活性汚泥によって資化・分解される。
【0027】
被処理水としては、下水、生活排水、産業排水等が挙げられる。産業排水としては、例えば、半導体工場、金属精錬所、薬品製造施設、畜産業施設等の事業場から排出される排水が挙げられる。被処理水の全窒素の濃度およびアンモニア性窒素の濃度は、阻害等が問題とならない限り、特に限定されるものではないが、1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。
【0028】
一般的な窒素処理において、アンモニア性窒素は、好気的条件下、硝化細菌の一種であるアンモニア酸化細菌によって亜硝酸性窒素に酸化される。亜硝酸性窒素は、好気的条件下、硝化細菌の一種である亜硝酸酸化細菌によって硝酸性窒素に酸化される。硝酸性窒素は、無酸素条件下、脱窒細菌によって分子状窒素に還元される。
【0029】
本実施形態に係る排水処理装置は、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する硝化処理を行う処理槽と、被処理水に含まれるリンを除去する凝集剤を処理槽に添加する凝集剤添加装置と、処理槽に投入されており、硝化細菌が固定化された包括固定化担体と、を少なくとも備える。凝集剤は、包括固定化担体に固定化された硝化細菌等が硝化処理を行うとき、または、硝化処理を行う前に、硝化処理を行う同一の処理槽に添加される。
【0030】
硝化処理を行う処理槽は、アンモニア性窒素を硝酸性窒素まで酸化する硝化処理、および、凝集剤を添加してリンを沈殿させる凝集沈殿処理に加え、硝酸性窒素を分子状窒素に還元する脱窒処理、有機物を分解する有機物分解処理等、他の処理を行う機能を備えてもよい。また、他の処理を行う別槽が、前段側または後段側に接続されてもよい。
【0031】
本実施形態に係る排水処理方法は、このような排水処理装置を用いて行うことができる。本実施形態に係る排水処理方法は、被処理水に含まれるアンモニア性窒素を硝化する硝化処理を行う処理工程を、少なくとも含む。アンモニア性窒素を硝化する硝化処理を行う処理工程において、硝化処理を行う単一の処理槽に対し、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を被処理水に投入すると共に、被処理水に含まれるリンを除去する凝集剤を被処理水に添加する。
【0032】
硝化処理を行う処理工程は、アンモニア性窒素を硝酸性窒素まで酸化する硝化処理、および、凝集剤を添加してリンを沈殿させる凝集沈殿処理に加え、硝酸性窒素を分子状窒素に還元する脱窒処理、有機物を分解する有機物分解処理等、他の処理を合わせて行う工程であってもよい。また、他の処理を行う別工程が、前段階または後段階として組み合わされてもよい。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係る排水処理装置の構成例を示す図である。図1には、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を投入すると共に凝集剤を添加する処理槽として回分槽を備えた回分式活性汚泥法(SBR)による排水処理装置100を例示する。
図1に示すように、排水処理装置100は、処理槽(回分槽)1と、微生物汚泥2と、散気装置3と、凝集剤添加装置4と、包括固定化担体5と、被処理水流入機構6と、処理水排出機構7と、pH調整装置8と、を備えている。
【0034】
処理槽1には、処理槽1に被処理水を流入させる被処理水流入機構6と、処理槽1から処理水を排出する処理水排出機構7が接続されている。被処理水流入機構6や、処理水排出機構7は、配管、水路、ポンプ等で構成される。処理槽1には、微生物汚泥2が保持され、包括固定化担体5が投入される。また、処理槽1には、散気装置3と凝集剤添加装置4とpH調整装置8が設置される。
【0035】
回分式活性汚泥法による排水処理装置100では、被処理水を処理槽1に流入させる流入工程と、被処理水を曝気する曝気工程と、微生物汚泥2を沈殿させる沈殿工程と、処理水を処理槽1から排出する排出工程とを、単一の処理槽1でサイクル的に行う。これらの各工程は、時間毎に区別され、工程毎に管理・操作が行われる。これらの工程は、1日当たり数回等のサイクルで、この順に繰り返される。
【0036】
処理槽1は、図1において、曝気攪拌式に設けられている。但し、処理槽1は、機械攪拌式、水流攪拌式等の適宜の方式に設けることができる。処理槽1は、散気装置3に加え、例えば、水中駆動型、水上駆動型、プロペラ型、スクリュ型等の適宜の攪拌装置を備えることができる。
【0037】
微生物汚泥2は、活性汚泥であり、処理槽1に保持される。微生物汚泥2は、有機物を分解する細菌や、アンモニア性窒素や亜硝酸性窒素を酸化する硝化細菌や、硝酸性窒素を分子状窒素に還元する脱窒細菌等を含む。微生物汚泥2は、被処理水に添加される凝集剤に暴露されるため、必ずしも硝化活性が高い汚泥である必要はない。
【0038】
硝化細菌としては、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソロブス(Nitrosolobus)属等に分類されるアンモニア酸化細菌(AOB)や、ニトロバクター(Nitrobactor)属、ニトロスピナ(Nitrospina)属、ニトロコッカス(Nitrococcus)属、ニトロスピラ(Nitrospira)属等に分類される亜硝酸酸化細菌(NOB)が挙げられる。
【0039】
処理槽1における微生物汚泥2の濃度は、特に限定されるものではなく、排水の汚濁負荷等に応じて調整することができる。処理槽1における微生物汚泥2の濃度は、1000mg/L以上5000mg/L以下に調整されることが好ましい。一般的な標準活性汚泥法では、1000~5000mg/Lの活性汚泥が用いられている。微生物汚泥2に含まれる硝化細菌は、被処理水に添加される凝集剤に暴露されるため、凝集剤による硝化阻害を受ける。しかし、処理槽1には、硝化細菌が固定化された包括固定化担体5が投入されるため、一般的な濃度以下で運転できる。
【0040】
散気装置3は、処理槽1の被処理水を曝気して、生物学的処理に必要な酸素を供給する。散気装置3は、被処理水に空気を散気する散気手段や、散気手段に向けて空気を送風するブロアや、ブロアから散気手段に空気を移送する送気管等で構成される。散気装置3としては、微細気泡型を用いてもよいし、粗大気泡型を用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0041】
散気手段としては、散気管等の円筒型、散気板等の平面型、ディスク型等、適宜の手段を用いることができる。散気手段の材料としては、セラミックス製や、ゴム、プラスチック等の樹脂製が挙げられる。散気手段は、多孔質の焼結体、多孔性の成形体、多孔性の膜等のいずれであってもよい。
【0042】
凝集剤添加装置4は、被処理水に含まれるリンを除去するための凝集剤を処理槽1に添加する装置である。凝集剤添加装置4は、凝集剤を含む凝集剤溶液を貯留するタンクや、凝集剤溶液を処理槽1に添加するポンプや、タンクから処理槽1に凝集剤溶液を送液する送液管等で構成される。凝集剤添加装置4は、脱リンに必要な所定量の凝集剤を間欠的に添加する回分式であってもよいし、脱リンに必要な所定量の凝集剤を連続的に添加する連続式であってもよい。
【0043】
凝集剤としては、アルミ系凝集剤、鉄系凝集剤、高分子凝集剤等を用いることができる。凝集剤としては、硝化反応に適した中性付近で凝集作用が得られる中性凝集剤を用いることが好ましい。アルミ系凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられる。鉄系凝集剤としては、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄等が挙げられる。高分子凝集剤としては、ノニオン性高分子凝集剤が挙げられる。
【0044】
凝集剤としては、少なくとも、アルミ系凝集剤を用いることが好ましい。凝集剤としては、アルミ系凝集剤に加え、鉄系凝集剤、高分子凝集剤等を併用してもよい。アルミ系凝集剤は、一般に硝化阻害を起こす可能性がある。しかし、本実施形態では、硝化細菌が固定化された包括固定化担体5を処理槽1に投入するため、アルミ系凝集剤を幅広い添加量で使用することができる。
【0045】
アルミ系凝集剤によると、鉄系凝集剤と比較して、生物学的還元によってリンを再放出しないため、効率的に脱リンを行うことができる。また、低価格であり、凝集沈殿後に回収してアルミ源として再資源化することもできる。特に、ポリ塩化アルミニウムによると、低温や低アルカリ度においても、効率的な凝集沈殿が可能である。また、硫酸アルミニウムと比較して、粗大なフロックが形成されるため、効率的に凝集沈殿を行うことができる。
【0046】
アルミ系凝集剤の添加量は、3mg-Al/L未満であってもよいし、3mg-Al/L以上4mg-Al/L未満であってもよいし、4mg-Al/L以上5mg-Al/L未満であってもよいし、5mg-Al/L以上6mg-Al/L未満であってもよいし、6mg-Al/L以上であってもよい。硝化細菌が固定化された包括固定化担体5を処理槽1に投入するため、一般的な硝化阻害の濃度を超えていても、硝化阻害を抑制できる。
【0047】
凝集剤の添加量は、特に限定されるものではない。凝集剤の添加量は、被処理水のリン濃度、微生物汚泥2の脱リン能力等に応じて調整することができる。但し、凝集剤が過剰であると、フロックが増加するため、活性汚泥有機性浮遊物質(Mixed Liquor Volatile Suspended Solid:MLVSS)を指標とした正確な管理が困難になる。そのため、アルミ系凝集剤の添加量は、50mg-Al/L以下であることが好ましい。
【0048】
包括固定化担体5は、内部に微生物を包摂させた包括固定化による担体であり、少なくとも硝化細菌が固定化された担体である。包括固定化担体5は、流動床として用いられてもよいし、固定床として用いられてもよい。但し、包括固定化担体5は、硝化速度の向上や目詰まりの抑制が可能な点からは、流動床として用いられることが好ましい。
【0049】
包括固定化担体5の材料としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルアミド、アルギン酸、ポリエステル、アクリル樹脂等が挙げられる。包括固定化担体5としては、ゲル状の担体を用いることが好ましい。ゲル状の担体によると、高い硝化速度を確保しつつ、硝化細菌に対する凝集剤の暴露や、排水に伴う硝化細菌の流出を抑制することができる。
【0050】
包括固定化担体5の形状は、球状、円筒状、円盤状、立方体状、直方体状等、適宜の形状とすることができる。包括固定化担体5の大きさは、特に制限されるものではない。包括固定化担体5は、例えば、1mm以上10mm以下の長軸径に設けることができる。包括固定化担体5は、処理水との固液分離性を確保しつつ高い硝化速度を得る観点からは、1mm以上5mm以下の長軸径に設けることが好ましい。
【0051】
包括固定化担体5の比重は、1.00g/cm以上1.03g/cm未満であることが好ましい。このような比重であると、包括固定化担体5が被処理水と一緒に流動することができる。硝化細菌が高濃度の基質と接触し易くなるため、効率的に硝化反応を進めることができる。浮遊状態の包括固定化担体5は、スクリーン等による濾過で処理水から固液分離することができる。
【0052】
包括固定化担体5の充填率は、処理槽1の容量に対して、3体積%以上30体積%以下であることが好ましい。このような充填率であると、包括固定化担体5に固定化された硝化細菌に対する酸素供給量を確保しつつ、処理槽1の全体において高い硝化能力を得ることができる。
【0053】
pH調整装置8は、被処理水のpHを調整する装置である。pH調整装置8は、pH調整液を貯留するタンクや、pH調整液を処理槽1に添加するポンプや、タンクから処理槽1にpH調整液を送液する送液管等で構成される。pH調整装置8は、pH調整液を間欠的に添加する回分式であってもよいし、pH調整液を連続的に添加する連続式であってもよい。
【0054】
pH調整液としては、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等のアルカリ性調整液や、希硫酸等の酸性調整液を用いることができる。被処理水のpHは、通常、硝化反応の進行や凝集剤の添加によって被処理水の酸性化やアルカリ度の消費が進み、酸性側に低下していく。被処理水のpHは、不図示のpHセンサによる測定結果に基づいて、アルカリ性調整液や酸性調整液の添加によって調整することができる。
【0055】
被処理水のpHは、硝化反応に適したpH、且つ、凝集剤による凝集作用が得られるpHに調整されることが好ましい。このようなpHは、曝気工程時に調整されることが好ましい。被処理水のpHは、pH6以上pH9以下に調整されることが好ましく、pH6.5以上pH8.5以下に調整されることがより好ましく、pH7以上pH8以下に調整されることが更に好ましい。
【0056】
このようなpHであると、硝化細菌による硝化作用と凝集剤による凝集作用とを適切に得ることができる。pH6以上の高pHに調整すると、アンモニア性窒素の酸化の停止やフロックの形成の不良を抑制することができる。また、pH9以下の低pHに調整すると、亜硝酸性窒素の酸化の停止や水質基準上で問題となるアルミニウム濃度の上昇を抑制することができる。但し、被処理水のpHの変化が小さい場合には、必ずしもpHを調整しなくてもよい。
【0057】
図2A図2Dは、本発明の実施形態に係る排水処理装置における処理例を示す図である。図2Aは、SBRにおける流入工程を示す図である。図2Bは、SBRにおける曝気工程を示す図である。図2Cは、SBRにおける沈殿工程を示す図である。図2Dは、SBRにおける排出工程を示す図である。
図2A図2Dに示すように、回分式活性汚泥法(SBR)による排水処理装置100では、硝化処理と沈殿処理をサイクル的に繰り返す。硝化細菌が固定化された包括固定化担体5は、微生物汚泥2と共に処理槽1に保持することができる。
【0058】
図2Aに示すように、流入工程では、有機物、アンモニア性窒素、リン等を含む被処理水を、被処理水流入機構6によって処理槽1に流入させる。被処理水の流入量は、被処理水の汚濁負荷等に応じて適宜の量に調整することができる。通常、水理学的滞留時間(Hydraulic Retention Time:HRT)が、3時間以上24時間以下となるような流入量とする。
【0059】
被処理水の温度は、特に限定されるものではない。被処理水の温度は、生物学的な処理の効率や、凝集剤による凝集反応の効率の観点からは、5℃以上35℃以下であることが好ましく、15℃以上30℃以下であることがより好ましい。
【0060】
流入工程では、被処理水に含まれる硝酸性窒素を分子状窒素に還元する脱窒処理を行うことができる。脱窒処理は、硝酸性窒素が生成された曝気工程の後に、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand:BOD)が高い被処理水を処理槽1に流入させると共に、散気装置3を停止させて、溶存酸素濃度が低い無酸素条件下で行う。脱窒処理では、曝気工程において生成された硝酸性窒素が、有機物の存在下、微生物汚泥2に含まれる脱窒細菌によって分子状窒素に還元される。
【0061】
脱窒処理における溶存酸素濃度(DO)は、被処理水のBOD等にもよるが、0.5mg/L以下が好ましい。流入工程で脱窒処理を行う場合、処理槽1は、有機物を含む被処理水と微生物汚泥2とを効率的に接触させる機構を備えることが好ましい。例えば、処理槽1は、機械攪拌式、水流攪拌式等の攪拌装置等を備えることができる。また、メタノール等の有機物を添加する有機物添加装置を備えてもよい。
【0062】
図2Bに示すように、曝気工程では、処理槽1の被処理水を散気装置3によって曝気する。曝気工程には、流入工程において、被処理水の流入、ないし、脱窒処理が終了した段階もしくはタイマーで移行する。硝化細菌が固定化された包括固定化担体5としては、前回のサイクルで用いた担体を用いることができる。また、曝気工程の開始時に、処理槽1に投入するか、または、処理槽1に追加してもよい。
【0063】
曝気工程では、被処理水に含まれるアンモニア窒素を硝酸性窒素まで酸化させる硝化処理を行う。硝化処理は、溶存酸素濃度が高い好気的条件下で行う。硝化処理では、処理槽1に流入した被処理水に含まれるアンモニア性窒素が、包括固定化担体5に固定化された硝化細菌や、微生物汚泥2に含まれる硝化細菌によって硝酸性窒素に酸化される。
【0064】
曝気工程における溶存酸素濃度(Dissolved Oxygen:DO)は、0.1mg/L以上5.0mg/L以下に調整されることが好ましく、1.0mg/L以上3.0mg/L以下に調整されることがより好ましい。このような溶存酸素濃度であると、好気的条件下、硝化反応や有機物の分解を効率的に進めることができる。
【0065】
被処理水に含まれるリンを除去する凝集剤は、沈殿工程よりも前に処理槽1に添加することが好ましい。凝集剤の添加は、流入工程中、曝気工程中、または、これらの両方で行うことが好ましく、曝気工程中に行うことがより好ましい。このような時期であると、凝集剤が添加された被処理水を、散気装置3によって攪拌できる。凝集剤とリン酸とを迅速に凝集反応させられるため、効率的にフロックを形成させることができる。また、曝気工程の後に行う沈殿工程において、フロックを微生物汚泥2と共に一括的に沈殿させることができる。
【0066】
図2Cに示すように、沈殿工程では、処理槽1の処理水を静置させて、処理槽1の微生物汚泥2や凝集反応で生成したフロックを重力によって沈殿させる。沈殿工程には、曝気工程において、硝化処理や凝集反応が終了した段階で移行する。沈殿工程では、硝化処理等を受けた処理水が、微生物汚泥2やフロックと固液分離される。包括固定化担体5は、静置によって沈降する比重に設けられてもよいし、沈降せず浮遊する比重に設けられてもよい。
【0067】
図2Dに示すように、排出工程では、硝化処理等を受けた処理水を、処理水排出機構7によって処理槽1から排出させる。排出工程には、沈殿工程において、微生物汚泥2やフロックの沈降が終了した段階で移行する。処理水の排出量は、水理学的滞留時間(HRT)や、窒素等の除去率等に応じて適宜の量に調整することができる。
【0068】
排出工程では、処理水の排出率を、処理槽1の容量に対して、10体積%以上50体積%以下とすることが好ましい。一般的なSBRでは、10体積%以上50体積%以下の処理水が排出されている。処理槽1には、硝化細菌が固定化された包括固定化担体5や凝集剤が投入されるが、一般的なSBRと同様の排出率で運転することができる。
【0069】
排出工程では、硝化処理等を受けた処理水と共に、微生物汚泥2の一部を処理槽1から排出させてもよい。微生物汚泥2の引き抜き量は、一般的な汚泥滞留時間(Sludge Retention Time:SRT)に応じて適宜の量に調整することができる。処理槽1の下部から微生物汚泥2を排出する場合、包括固定化担体5は、排出される微生物汚泥2からスクリーン等で分離することができる。
【0070】
排出工程では、処理水の排出を適宜の方法で行うことができる。例えば、定量ポンプを用いた一定の流量による処理水の排出や、デカンタを用いた汚泥の引き抜きと併せた処理水の排出等が可能である。また、排出工程と流入工程とを同時期に行い、被処理水の流入による押し出し流れによって、処理水を排出させることもできる。包括固定化担体5は、沈降性が低い場合、排出される処理水からスクリーン等で分離することができる。
【0071】
図2A図2Dに示すサイクルでは、凝集剤の添加による物理化学的脱リン処理に加え、生物学的脱リン処理を行ってもよい。生物学的脱リン処理は、微生物汚泥2に含まれるポリリン酸蓄積微生物によって行う。生物学的脱リン処理は、溶存酸素濃度および結合酸素濃度を低下させた状態で行う。結合酸素濃度は、処理水の排水や被処理水の流入等によって調整することができる。
【0072】
流入工程において、生物化学的酸素要求量(BOD)が高い被処理水を処理槽1に流入させると共に、散気装置3を停止させて、溶存酸素濃度および結合酸素濃度が低い嫌気的条件下で微生物汚泥2にオルトリン酸を放出させる。そして、曝気工程において、好気的条件下で微生物汚泥2にポリリン酸を蓄積させる。その後、微生物汚泥2を所定の汚泥転換率で引き抜くと、生物学的脱リンを行うことができる。
【0073】
生物学的脱リン処理を行う場合、被処理水のBOD[mg/L]とリン濃度[mg/L]との比BOD/Pは、25以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。生物学的脱リン処理による脱リン量は、BODや汚泥転換率に依存する。BOD/Pが25以上であると、生物学的脱リンを有意に行うことができる。生物学的脱リン処理を行うと、凝集剤の添加による物理化学的脱リン処理との合計によって脱リン量を増大させることができる。
【0074】
図2A図2Dに示すサイクルは、排水の汚濁負荷等にもよるが、例えば、1日当たり、2~8回程度のサイクル数で繰り返すことができる。サイクル同士の間には、排出工程の後にアイドリング時間を設けてもよい。また、流入工程と曝気工程とを、適宜の回数で繰り返してから、沈殿工程に移行してもよい。また、図2A図2Dには、流入工程を間欠的に行う間欠流入型のSBRを示しているが、被処理水の流入を各工程中に連続的に行う連続流入型のSBRとしてもよい。
【0075】
このような本実施形態に係る排水処理装置および排水処理方法によると、硝化細菌が固定化された包括固定化担体と凝集剤を同一の処理槽に同時期に投入するため、排水に含まれる窒素とリンを同時に安定的に除去することができる。硝化細菌が固定化された包括固定化担体によると、担体の内部に硝化細菌が生息しているため、硝化細菌が担体に固定化されていない浮遊状態や、硝化細菌が担体の表面に吸着した結合担体と比較して、凝集剤に対する硝化細菌の暴露を抑制することができる。凝集剤による硝化阻害が起こり難くなるため、排水に含まれる窒素とリンを同時に安定的に除去することが可能になる。
【0076】
また、包括固定化担体には、凝集剤やフロックが吸着することもある。凝集剤が添加された処理槽に包括固定化担体を投入すると、作用後の凝集剤や、沈降し難いフロックが、包括固定化担体の表面に捕集される場合がある。そのため、処理槽に浮遊・懸濁状態で保持される微生物汚泥に対する凝集剤の影響を低減する効果も得られる。包括固定化担体に固定化された硝化細菌と、浮遊・懸濁状態で保持される微生物汚泥中の硝化細菌によって、高い硝化速度を得ることができる。
【0077】
また、包括固定化担体は、1mm程度以上の比較的大きいサイズに設けることができる。大きい包括固定化担体は、処理水や微生物汚泥との分離が容易である。処理水の排水時や微生物汚泥の引き抜き時に、硝化細菌の流出を抑制することができるため、硝化細菌が担体の表面に吸着した結合担体とは異なり、高い硝化速度や安定的な硝化率を得ることができる。
【0078】
また、包括固定化担体は、多量の硝化細菌を固定することができる。包括固定化担体に硝化細菌を固定化すると、必要とされる処理能力を得るにあたり、処理槽に浮遊・懸濁状態で保持される微生物汚泥の量を減らすことができる。微生物汚泥の量を減らすと、処理水の排水量を増大させることができるため、処理槽の容積のコンパクト化や、処理水量の増大が可能になる。本実施形態に係る排水処理装置および排水処理方法では、硝化処理と凝集沈殿処理とを、同一の処理槽で同時期に行えるため、最終沈殿池の設置や最初沈殿池の設置を省略することもできる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0080】
例えば、前記の排水処理装置100の処理槽1は、回分式活性汚泥法(SBR)による回分槽とされている。しかし、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を投入して硝化処理を行うと共に凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う処理槽は、他の排水処理方式に適用されてもよい。例えば、オキシデーションディッチ法による無終端循環槽や、膜分離活性汚泥法による膜分離槽等に適用することもできる。この場合、最終沈殿池の設置や最初沈殿池の設置を省略することもできる。
【0081】
また、脱リンの要求性が高い場合等には、脱窒槽と硝化槽で順に処理する硝化脱窒法や、硝化槽から脱窒槽に処理水の一部を返送する循環式硝化脱窒法や、嫌気槽と無酸素槽と好気槽で順に処理する嫌気無酸素好気法や、嫌気槽と好気槽と無酸素槽で順に処理する嫌気無酸素好気法や、アンモニア性窒素の一部を亜硝酸性窒素にまで酸化するアナモックス法の硝化槽等に適用することもできる。この場合、最終沈殿池の設置や最初沈殿池の設置を省略することもできる。
【実施例
【0082】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0083】
<試験1>
硝化細菌が固定化された包括固定化担体を用いて硝化処理を行い、凝集剤の添加量の硝化速度への影響を評価した。
【0084】
被処理水としては、アンモニア性窒素濃度が20mg-N/Lである硫酸アンモニウムを主成分とする合成排水を用いた。凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウムを用いた。包括固定化担体としては、硝化細菌を含む活性汚泥が包括固定化されたポリエチレングリコール製のゲル担体を、下水の連続処理を行っている処理槽から取り出して用いた。
【0085】
被処理水を入れた水槽に、硝化細菌が固定化された包括固定化担体を投入し、凝集剤の添加量を変えて、硝化処理の回分試験を行った。被処理水は、pH7~8の所定値に調整した。凝集剤の各添加量において、凝集剤の添加前の硝化速度に対する凝集剤の添加後の硝化速度の変化率を求めた。
【0086】
図3は、凝集剤の添加に伴う硝化速度の変化率の測定結果を示す図である。
図3において、横軸は、被処理水に対する凝集剤の添加量[mg/L]、縦軸は、凝集剤の添加前の硝化速度を100%とした、凝集剤の添加前の硝化速度に対する凝集剤の添加後の硝化速度の変化率[%]を示す。
【0087】
図3に示すように、硝化細菌が包括固定化担体に固定化されている場合、凝集剤の添加量が増加しても、硝化速度の低下が殆ど起こらないことが確認された。凝集剤の添加量は、42mg/L、82mg/L、165mg/L、247mg/L、411mg/Lと増加させた。この範囲では、凝集剤の添加前に対して97%以上の硝化速度が確保された。
【0088】
硝化細菌が包括固定化担体に固定化されている場合、ゲル状の樹脂担体の内部に硝化細菌が保持されている。硝化細菌に対するアルミニウムの金属塩の暴露が少なくなるため、凝集剤による硝化阻害が起こり難くなると推察される。硝化細菌を包括固定化担体に固定化して用いると、硝化処理と凝集沈殿処理とを同時に行うことが可能になるといえる。
【0089】
<試験2>
硝化細菌が固定化された包括固定化担体を用いて硝化処理を行い、硝化細菌が付着した結合担体を用いた場合との間で、凝集剤の硝化速度への影響を比較した。
【0090】
被処理水としては、アンモニア性窒素濃度が20mg-N/Lである硫酸アンモニウムを主成分とする合成排水を用いた。凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウムを用いた。凝集剤の添加量は、包括固定化担体および結合担体について、約55mg/L(3mg-Al/L)とした。包括固定化担体としては、硝化活性が確認されている活性汚泥を包括固定化したポリエチレングリコール製のゲル担体を用いた。結合担体としては、硝化活性が確認されている活性汚泥を付着させたポリプロピレン製の担体を用いた。
【0091】
被処理水を入れた水槽に、硝化細菌が固定化された包括固定化担体、および、硝化細菌が付着した結合担体を、それぞれ投入し、水温20℃で曝気を行いながら硝化処理の回分試験を行った。被処理水は、pH7~8の所定値に調整した。所定時間の経過後に、凝集剤の添加前の硝化速度に対する凝集剤の添加後の硝化速度の変化率を求めた。
【0092】
【表1】
【0093】
表1は、包括固定化担体および結合担体の構造と、凝集剤の添加前の硝化速度を100%とした、凝集剤の添加前の硝化速度に対する凝集剤の添加後の硝化速度の変化率[%]を示す。
【0094】
表1に示すように、硝化細菌が結合担体に固定化されている場合、凝集剤を添加すると、硝化速度が約50%まで低下した。一方、硝化細菌が包括固定化担体に固定化されている場合、同量の凝集剤を添加しても、硝化速度の低下が殆ど起こらないことが確認された。硝化細菌が包括固定化担体に固定化されている場合、一般的な結合担体を用いる場合とは異なり、凝集剤の添加の影響を殆ど受けず、硝化速度を確保して硝化処理と凝集沈殿処理とを同時に行えるといえる。
【符号の説明】
【0095】
100 排水処理装置
1 処理槽
2 微生物汚泥
3 散気装置
4 凝集剤添加装置
5 包括固定化担体
6 被処理水流入機構
7 処理水排出機構
8 pH調整装置
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3