(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】水系難燃塗料組成物及び難燃熱可塑性樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241126BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241126BHJP
C09D 5/18 20060101ALI20241126BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241126BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241126BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D5/18
C09D7/61
C09D133/00
B32B27/18 B
(21)【出願番号】P 2022509420
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006487
(87)【国際公開番号】W WO2021192767
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020058709
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 凌
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-186686(JP,A)
【文献】国際公開第2018/087315(WO,A1)
【文献】特表2015-535021(JP,A)
【文献】特開2006-176729(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105463853(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機リン酸塩、無機粒子、水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂、及び水を含有し、
前記無機リン酸塩及び前記無機粒子の合計100質量部に対する前記水系バインダー樹脂の含有量が3~60質量部であ
り、
前記水系バインダー樹脂が金属系架橋剤、エポキシ系架橋剤、エピクロロヒドリン系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤によって架橋されている、水系難燃塗料組成物。
【請求項2】
前記無機リン酸塩:前記無機粒子で表される質量比が95:5~50:50である、請求項1に記載の水系難燃塗料組成物。
【請求項3】
前記無機リン酸塩がポリリン酸アンモニウムを含む、請求項1又は2に記載の水系難燃塗料組成物。
【請求項4】
前記無機粒子が層状ケイ酸塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水系難燃塗料組成物。
【請求項5】
前記水系バインダー樹脂がアクリル樹脂を含み、
前記アクリル樹脂が前記水系難燃塗料組成物中に分散している、請求項1~
4のいずれか一項に記載の水系難燃塗料組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に、請求項1~
5のいずれか一項に記載の水系難燃塗料組成物により層が形成された、難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に、無機リン酸塩、無機粒子、及び水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂を含有する難燃層を備え、
前記無機リン酸塩及び前記無機粒子の合計100質量部に対する前記水系バインダー樹脂の含有量が3~60質量部であ
り、
前記水系バインダー樹脂が金属系架橋剤、エポキシ系架橋剤、エピクロロヒドリン系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤によって架橋されている、難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
前記無機リン酸塩:前記無機粒子で表される質量比が95:5~50:50である、請求項
7に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m
2に対し、前記難燃層における前記無機リン酸塩が1~45g/m
2、かつ、前記無機粒子が0.1~25g/m
2である、請求項
7又は8に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m
2に対し、前記難燃層における前記無機リン酸塩と前記無機粒子の合計が50g/m
2未満である、請求項
7~9のいずれか一項に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項11】
前記難燃層の、前記熱可塑性樹脂フィルムが位置する側とは反対側の表面に印刷層及び印刷受容層の少なくとも一方を備える、請求項
7~10のいずれか一項に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系難燃塗料組成物及び難燃熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲンを含むハロゲン系難燃剤は、難燃化の効果に加え、成形性や機械的強度も比較的良好であるとして、従来用いられてきた。しかしながら、ハロゲン系難燃剤は、加工時や燃焼時にハロゲン系ガスが発生するおそれがあり、人体や環境への影響や金属の腐食等が懸念される。
【0003】
そこでハロゲンを含まない非ハロゲン系難燃剤として、リン系難燃剤が挙げられる。このリン系難燃剤を、ポリオレフィン系樹脂や窒素含有樹脂、黒鉛等と組み合わせた難燃性の樹脂組成物が種々検討されている。
特許文献1では、熱可塑性樹脂、層状ケイ酸塩、及び、非ハロゲン系難燃剤を含有する難燃樹脂組成物が開示されており、非ハロゲン系難燃剤としてリン系化合物が挙げられている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された難燃樹脂組成物は、十分な難燃性を発現させるためには、多量の難燃剤を基材に練り込む必要があり、難燃樹脂組成物の成形性や機械的強度の低下が懸念される。
【0005】
そこで特許文献2には、有機樹脂成分と、無機リン酸のアンモニウム塩と、層状無機物からなる阻燃化用組成物が開示されている。かかる阻燃化用組成物を繊維シートに塗工、乾燥することで、難燃性の機能を付与する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2003-171569号公報
【文献】日本国特開2007-246697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、良好な難燃性を実現するためには、繊維シートの表面に阻燃化用組成物を厚く塗工する必要がある。そのため、練り込みや含浸と同様、繊維シート等の基材が本来有する特性を損なうおそれがあり、また、多量使用によるコストの上昇も懸念される。
【0008】
そこで本発明では、ハロゲンを含まず、基材表面への薄い塗工が可能で、かつ優れた難燃性を付与できる難燃塗料組成物、及び、かかる難燃塗料組成物により形成された層を備える難燃熱可塑性樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、無機リン酸塩、無機粒子、水系バインダー樹脂及び水を特定の割合で含む水系難燃塗料組成物を用いることにより、基材の特性を損なわないほどの薄い塗工が可能であり、かつ優れた難燃性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記[1]~[12]に関するものである。
[1] 無機リン酸塩、無機粒子、水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂、及び水を含有し、前記無機リン酸塩及び前記無機粒子の合計100質量部に対する前記水系バインダー樹脂の含有量が3~60質量部である、水系難燃塗料組成物。
[2] 前記無機リン酸塩:前記無機粒子で表される質量比が95:5~50:50である、前記[1]に記載の水系難燃塗料組成物。
[3] 前記無機リン酸塩がポリリン酸アンモニウムを含む、前記[1]又は[2]に記載の水系難燃塗料組成物。
[4] 前記無機粒子が層状ケイ酸塩を含む、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の水系難燃塗料組成物。
[5] 前記水系バインダー樹脂が金属系架橋剤、エポキシ系架橋剤、エピクロロヒドリン系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤によって架橋されている、前記[1]~[4]のいずれか一に記載の水系難燃塗料組成物。
[6] 前記水系バインダー樹脂がアクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂が前記水系難燃塗料組成物中に分散している、前記[1]~[5]のいずれか一に記載の水系難燃塗料組成物。
[7] 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に、前記[1]~[6]のいずれか一に記載の水系難燃塗料組成物により層が形成された、難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【0011】
[8] 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に、無機リン酸塩、無機粒子、及び水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂を含有する難燃層を備え、前記無機リン酸塩及び前記無機粒子の合計100質量部に対する前記水系バインダー樹脂の含有量が3~60質量部である、難燃熱可塑性樹脂フィルム。
[9] 前記無機リン酸塩:前記無機粒子で表される質量比が95:5~50:50である、前記[8]に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
[10] 前記熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m2に対し、前記難燃層における前記無機リン酸塩が1~45g/m2、かつ、前記無機粒子が0.1~25g/m2である、前記[8]又は[9]に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
[11] 前記熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m2に対し、前記難燃層における前記無機リン酸塩と前記無機粒子の合計が50g/m2未満である、前記[8]~[10]のいずれか一に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
[12] 前記難燃層の、前記熱可塑性樹脂フィルムが位置する側とは反対側の表面に印刷層及び印刷受容層の少なくとも一方を備える、前記[8]~[11]のいずれか一に記載の難燃熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水系難燃塗料組成物は塗工性及び難燃性に優れることから、基材表面への薄い塗工でも優れた難燃性を発現する。そのため、基材の特性を阻害することなく、低コストで、良好な難燃性を付与することができる。
かかる水系難燃塗料組成物により形成された層を備える難燃熱可塑性樹脂フィルムは、優れた難燃性を示すと同時に、熱可塑性樹脂フィルム固有の特性も抑制されることなく発現される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0014】
<水系難燃塗料組成物>
本実施形態に係る水系難燃塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」と称することがある。)は、無機リン酸塩、無機粒子、水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂、及び水を含有する。また、無機リン酸塩及び無機粒子の合計100質量部に対する水系バインダー樹脂の含有量は3~60質量部である。
【0015】
(無機リン酸塩)
無機リン酸塩は、塗料組成物において主に難燃剤として機能する成分である。「無機リン酸塩」のリン酸には、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸等が包含され、好ましくは正リン酸である。無機リン酸塩は、燃焼時に生成する強酸による脱水炭化反応により、チャーと呼ばれる不燃性の炭化層を形成する。また一方で、無機リン酸塩は気相におけるラジカルトラップ効果も奏する。無機リン酸塩は、特に上記炭化層によって基材を熱と酸素から遮断することで、難燃剤としての機能を果たす。
【0016】
無機リン酸塩は上記機能を果たす塩であれば特に限定されないが、例えば無機リン酸のアンモニウム塩や無機リン酸の金属塩が挙げられる。これら無機リン酸塩は1種を用いても2種以上用いてもよい。なお、本発明の効果の観点から、無機リン酸塩としては無機リン酸のアンモニウム塩がより好ましい。
【0017】
無機リン酸のアンモニウム塩の場合、燃焼に伴う加熱によって分解温度に達すると、アンモニアが脱離して縮合リン酸が形成される。この縮合リン酸が脱水溶媒として作用することで、上記炭化層が形成される。また、同時に発生するアンモニアガスは発泡剤として作用し、塗料組成物を膨張させる働きを有する。
【0018】
無機リン酸のアンモニウム塩としては、例えば、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。中でも塗膜の耐水性の点からポリリン酸アンモニウムが好ましい。
【0019】
無機リン酸の金属塩の場合、脱水触媒として作用する他、自らも不燃性の無機質リン酸被膜を形成する働きを有する。
無機リン酸の金属塩としては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸一ナトリウム、亜リン酸二ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどのナトリウム塩;リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、亜リン酸一カリウム、亜リン酸二カリウム、次亜リン酸カリウムなどのカリウム塩;リン酸一リチウム、リン酸二リチウム、リン酸三リチウム、亜リン酸一リチウム、亜リン酸二リチウム、次亜リン酸リチウムなどのリチウム塩;リン酸二水素バリウム、リン酸水素バリウム、リン酸三バリウム、次亜リン酸バリウムなどのバリウム塩;リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸三マグネシウム、次亜リン酸マグネシウムなどのマグネシウム塩;リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、次亜リン酸カルシウムなどのカルシウム塩;リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛などの亜鉛塩;リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩等が挙げられる。中でも酸化被膜を形成することにより、高い難燃性を発揮する点から亜リン酸アルミニウムが好ましい。
【0020】
無機リン酸塩としてポリリン酸アンモニウムを用いる際、ポリリン酸アンモニウムは製造しても市販のものを用いてもよい。市販品としては、例えばクラリアント社製のEXOLIT AP 423(商品名)、AP462(商品名)や、住友化学工業社製のスミセーフP(商品名)、チッソ社製のテラージュC60(商品名)等が挙げられる。
【0021】
無機リン酸塩の平均一次粒径は、塗料粘度の上昇を抑制する点から0.5μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましく、5.0μm以上がさらに好ましい。また、平均一次粒径は、粒子の分散性と難燃性、すなわち、粒子径が小さいと比表面積が増加し、難燃性が向上する点から、35μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において、無機リン酸塩の平均一次粒径は、レーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD-2200)を用いて測定される体積平均粒径であり、D50で表されるメジアン径のことをいう。
【0022】
塗料組成物中における無機リン酸塩の含有量は、無機リン酸塩及び無機粒子の合計100質量部に対して、炭化発泡層が十分に形成し、難燃性を発現させる点から50質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。また、無機リン酸塩の含有量は、無機リン酸塩の難燃層からの脱落を防ぎ、十分な難燃性を発揮することができることから95質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、78質量部以下がさらに好ましい。
【0023】
(無機粒子)
無機粒子は、燃焼による加熱によって不燃性ガスや無機層を形成するものであれば特に限定されない。
例えば、層状ケイ酸塩、酸化チタン、シリカ、ホウ酸、ホウ酸亜鉛、ホウ酸鉛、ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、膨張性黒鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス(中空ガラスビーズ)、シラス(シラスバルーン、Silas Balloons)、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカアルミナ、マグネシア、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらのうち1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
【0024】
無機粒子の中でも、燃焼時に発生する可燃性ガスを遮断する効果の点から層状ケイ酸塩が好ましい。層状ケイ酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物や、タルク、カオリナイト、パイロフィライト、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等が挙げられる。
上記の中でもスメクタイト系粘土鉱物は、結晶層間に水を多く取り込むことができ、燃焼により加熱した際に、上記層間へ取り込んだ水が揮発することで熱可塑性樹脂を冷却し、かつ、揮発した水によって周囲の酸素濃度を低下させる。これらにより難燃性をより向上させる効果が高いことから、スメクタイト系粘土鉱物がより好ましい。スメクタイト系粘土鉱物の中でも、モンモリロナイト、バイデライトがさらに好ましい。
【0025】
無機粒子の平均一次粒径は、塗料の粘度上昇を抑制する点から0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。また、無機粒子の平均一次粒径が無機リン酸塩の粒子より小さいことで、無機リン酸塩の粒子の隙間に無機粒子が入り込む。これにより緻密な層が形成され、可燃性ガスの流れを遮断し、難燃性をより向上させることができるため好ましい。具体的には、無機粒子の平均一次粒径は10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において、無機粒子の平均一次粒径は、レーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD-2200)を用いて測定される体積平均粒径であり、D50で表されるメジアン径のことをいう。
【0026】
塗料組成物中における無機粒子の含有量は、無機リン酸塩及び無機粒子の合計100質量部に対して、下限値を下回ると難燃性が低下するため、すなわち、含水量の低下と、可燃性ガスの遮断が不十分になるおそれがあるため、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、22質量部以上がさらに好ましい。また、無機粒子の含有量は、塗料の粘度上昇を抑制するため50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0027】
すなわち、無機リン酸塩:無機粒子で表される含有量の比(質量比)は、95:5~50:50が好ましく、85:15~55:45がより好ましく、85:15~70:30又は78:22~55:45がさらに好ましく、78:22~70:30がよりさらに好ましい。なお、含有量の比が95:5~50:50とは無機リン酸塩及び無機粒子の合計の含有量に対する無機粒子の含有比率が0.05~0.5であることを意味する。
無機粒子の含有比率は、十分な含水量を確保と、可燃性ガスの遮断により良好な難燃性を得るため0.05以上が好ましい。また、無機粒子の含有比率は、塗料の粘度上昇を抑制するため0.5以下が好ましい。
【0028】
(水系バインダー樹脂)
水系バインダー樹脂は、水に溶解又は分散可能な樹脂を意味する。
塗料組成物には水も含有されることから、塗料組成物に含まれている水に溶解する場合には、水系バインダー樹脂は水溶液として含まれる。塗料組成物に含まれている水に水系バインダー樹脂が溶解しない場合は、水系バインダー樹脂は水中に分散した状態で、すなわちエマルションとして含まれる。耐水性の観点から、水系バインダー樹脂はエマルションとして含まれることが好ましい。なお、本明細書において分散するとは、溶媒中に樹脂粒子が均一で安定的な状態で存在することを意味する。
【0029】
塗料組成物中における水系バインダー樹脂の含有量は、無機リン酸塩及び無機粒子の合計100質量部に対して、塗膜とした際の良好な表面強度を得る観点から3質量部以上であり、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、水系バインダー樹脂の含有量は、良好な難燃性を得る観点から60質量部以下であり、45質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0030】
水に分散可能な水系バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は1種を用いても、2種以上を用いてもよい。また水に溶解可能な水系バインダー樹脂と共に用いてもよい。
これら樹脂は他の樹脂成分で変性されていてもよく、また、架橋剤により一部架橋されていてもよい。
【0031】
これらの中でも、耐候性と取扱性の観点からアクリル樹脂が好ましく、アクリル樹脂が塗料組成物中に分散していることがより好ましい。
なお、本明細書においてアクリル樹脂とは(メタ)アクリル酸モノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種である(メタ)アクリルモノマーの重合体を意味し、(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーの共重合体でもよい。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方を示す。アクリル樹脂の中でも、スチレンアクリル樹脂が特に好ましい。
【0032】
また、柔軟性の観点から、水に分散可能な水系バインダー樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0033】
水に溶解可能な水系バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂等が挙げられる。これら樹脂は1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
【0034】
これらの中でも、耐候性と取扱性の観点からアクリル樹脂が好ましい。また、柔軟性の観点から熱可塑性樹脂であることが好ましい。
これら樹脂は他の樹脂成分で変性されていてもよく、また、架橋剤により一部架橋されていてもよい。
【0035】
架橋剤の種類は特に限定されないが、金属系架橋剤、エポキシ系架橋剤、エピクロロヒドリン系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤によって架橋されることが、塗膜の耐水性の点から好ましい。
金属系架橋剤としては、例えば、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、硫酸亜鉛等が挙げられ、耐水性発現の効果から、炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
【0036】
架橋剤の含有量は用いる架橋剤によっても異なるが、例えば金属系架橋剤を用いる場合、水系バインダー樹脂の合計の含有量100質量部に対して、架橋の効果を良好に発揮するために、金属系架橋剤の含有量は0.04質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上がさらに好ましい。また、塗料の粘度と塗膜の柔軟性の点から、含有量は32質量部以下が好ましく、16質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0037】
(溶媒又は分散媒)
塗料組成物には、溶媒又は分散媒として水が含まれるが、水以外の溶媒又は分散媒をさらに含んでいてもよい。水は、環境や人体への影響及びコストの観点から良好であり、イオン交換水がより好ましい。
水以外の溶媒又は分散媒として、例えば、エタノール、2-プロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0038】
塗料組成物の溶媒及び分散媒の合計量に対する水の含有量は50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。水はイオン交換水が好ましい。
【0039】
塗料組成物の固形分濃度は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。また、固形分濃度は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
塗料組成物の固形分濃度は、塗料組成物1.0gをアルミカップに精秤し、これを120℃オーブンで30分乾燥させた後、残留物の質量を精秤し、元の質量に対する残留物の質量の割合を加熱残分(質量%)として求めた値である。
塗料組成物の固形分濃度は、溶媒及び分散媒の合計の含有量により調整することができる。
【0040】
(任意成分)
塗料組成物は、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有することができる。
他の任意成分としては、例えば、シランカップリング剤、顔料、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥材、可塑剤、防錆剤、抗菌剤、殺虫剤、防腐剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電性防止剤、導電性付与剤等が挙げられる。これらは公知のものを公知の方法で用いることができる。
【0041】
(塗工方法)
塗料組成物の調製は、上記無機リン酸塩、無機粒子、水系バインダー樹脂、水及び他の任意成分を混合することにより調製できる。
得られた塗料組成物を、被塗物である基材の少なくとも一方の表面に塗布、乾燥させることにより塗膜が得られる。塗料組成物による塗膜は基材の一方の表面に形成しても、両方の表面に形成してもよい。難燃熱可塑性樹脂フィルムの難燃性の観点からは、基材の両方の表面に形成することが好ましい。塗膜を両面に形成する際には、両面の塗膜の構成は同一でも異なっていてもよく、その厚みも同一でも異なっていてもよい。
【0042】
塗膜は、塗料組成物の水等の溶媒が揮発して形成された塗膜であり、無機リン酸塩、無機粒子、及び水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂を含有する難燃層となる。
【0043】
本実施形態に係る塗料組成物を塗工する基材は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂フィルム、熱硬化性樹脂フィルム、不織布、紙、ガラス等が挙げられる。中でも、薄い膜厚で高い難燃性を発揮できるという本実施形態に係る塗料組成物の優位性を、より顕著に発揮できる点から熱可塑性樹脂フィルムが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらを1種用いても2種以上用いてもよい。
【0044】
塗料組成物は、上記いずれの基材に対しても塗工できるが、例えば熱可塑性樹脂フィルムを基材とする場合には、フィルムを構成する熱可塑性樹脂の酸素指数の違いによって、塗料組成物の好適な塗工量が異なる。
酸素指数とは、樹脂が有炎燃焼を維持するのに必要な、酸素と窒素との混合ガスにおける最小酸素濃度である。酸素指数が小さいほど燃焼しやすく、大きいほど燃焼しにくい樹脂であると言える。
【0045】
上記例示した熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂のうち、酸素指数が20未満の樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロプレン樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
他方、酸素指数が20以上の樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。なお本明細書における「酸素指数」は、「プラスチックス,44(9),18,1993(ポリマーデータブックP91)」記載の値を採用した。
【0046】
酸素指数が20未満である熱可塑性樹脂は、酸素指数が20以上である熱可塑性樹脂に比べて燃焼しやすいことから、本実施形態に係る塗料組成物による難燃性の効果がより顕著に得られる点でより好ましく、中でも酸素指数が低く、一般に難燃化が難しいと言われているポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
他方、酸素指数が20以上である熱可塑性樹脂を用いると、酸素指数が20未満である熱可塑性樹脂に比べてそもそも燃焼しにくいことから、本実施形態に係る塗料組成物の塗工量が少なくても、燃焼しにくい難燃熱可塑性樹脂フィルムとなる点でより好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。
【0047】
塗料組成物は、熱可塑性樹脂フィルムの酸素指数に関わらず、従来の塗料組成物と比して少量の塗工で、基材に高い難燃性を付与することができる。
熱可塑性樹脂フィルム上に塗料組成物による塗膜を形成する際の塗工量は、熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m2に対し、無機リン酸塩と無機粒子の合計の塗工量が50g/m2未満であっても十分な難燃性を付与できる。
熱可塑性樹脂フィルムの酸素指数が20未満である場合、熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m2に対し、無機リン酸塩と無機粒子の合計の塗工量は50g/m2未満がより好ましく、40g/m2以下がさらに好ましい。また無機リン酸塩と無機粒子の合計の塗工量は15g/m2以上がより好ましく、25g/m2以上がさらに好ましい。
一方、熱可塑性樹脂フィルムの酸素指数が20以上である場合には、より低膜厚の難燃層で、高い難燃性を実現できるため、熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m2に対し、無機リン酸塩と無機粒子の合計の塗工量は20g/m2以下がより好ましく、10g/m2以下がさらに好ましい。また無機リン酸塩と無機粒子の合計の塗工量は0.5g/m2以上がより好ましく、2g/m2以上がさらに好ましい。
無機リン酸塩と無機粒子の合計の塗工量を上記上限以下とすることにより、得られる難燃熱可塑性樹脂フィルムの生産性を確保し、またコスト上昇を抑制することができる。また上記下限以上とすることにより、得られる難燃熱可塑性樹脂フィルムの延焼時間を短縮することができる。
なお、難燃層に含まれる無機リン酸塩と無機粒子の含有量の比(質量比)、及び無機リン酸塩と無機粒子の合計100質量部に対する水系バインダー樹脂の含有量は、前述のとおりである。
【0048】
基材が熱可塑性樹脂フィルムである場合、その厚みは、良好なフィルム強度を得る観点から50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましい。また、良好な柔軟性を得る観点から、基材の厚みは300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0049】
<難燃熱可塑性樹脂フィルム>
本実施形態に係る難燃熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に、無機リン酸塩、無機粒子、及び水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂を含有する難燃層を備える。
無機リン酸塩及び無機粒子の合計100質量部に対する水系バインダー樹脂の含有量は3~60質量部である。
【0050】
難燃層を構成する無機リン酸塩、無機粒子、及び水に溶解又は分散可能な水系バインダー樹脂、並びに、熱可塑性樹脂フィルムの好ましい態様は、上記<水系難燃塗料組成物>に記載の好ましい態様とそれぞれ同様である。
【0051】
熱可塑性樹脂フィルムの両方の表面上に難燃層を形成する場合、両面の難燃層は同一の構成でも異なる構成であってもよく、その厚みも同一でも異なっていてもよい。
また、両方の表面上に難燃層を形成する場合、難燃層を構成する無機リン酸塩、無機粒子、及び水系バインダー樹脂の好ましい含有量や塗工量は、両面の難燃層を構成する無機リン酸塩、無機粒子、及び水系バインダー樹脂の合計の含有量や塗工量が、上記<水系難燃塗料組成物>に記載の好ましい含有量や塗工量となるようにする。
【0052】
難燃熱可塑性樹脂フィルムは、難燃層の、熱可塑性樹脂フィルムが位置する側とは反対側の表面に、印刷層及び印刷受容層の少なくとも一方を備えることもできる。
【0053】
印刷層とは印刷インクまたはトナーにて形成された文字や画像等からなる層であり、印刷方式としては、オフセット印刷、インクジェット方式、電子写真(レーザー)方式、感熱記録方式、熱転写方式等の各種印刷方式を用いることができる。したがって、印刷層は難燃熱可塑性樹脂フィルムの最表面に位置し、難燃熱可塑性樹脂フィルム表面の少なくとも一部の領域を覆っていればよく、すべての領域を覆っていてもよい。
印刷層は従来公知のものを、公知の方法で用いることができる。
【0054】
印刷受容層とは、印刷層を設ける際のインクまたはトナー受理層として機能する層である。
印刷受容層の性質により、印刷層の耐摩耗性や帯電防止性、印刷性、耐水性、保管安定性等の各特性を調整することができる。
印刷受容層は従来公知のものを、公知の方法で用いることができる。
【0055】
難燃熱可塑性樹脂フィルムは、印刷層や印刷受容層の他、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意の層を設けることができる。他の任意の層としては、例えば、粘着剤層、光沢層、ガスバリア層等が挙げられる。
【0056】
<水系難燃塗料組成物の物性>
(難燃性:UL94 VTM試験)
水系難燃塗料組成物による難燃性の評価として、熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、その両表面に水系難燃塗料組成物を塗布、乾燥して難燃層を形成した難燃熱可塑性樹脂フィルムを用いて、以下の試験を行う。
難燃熱可塑性樹脂フィルムを50mm×200mmのシート状に切り取り、シートの長辺の下端から125mmの位置に標線を記す。そして、23℃、相対湿度50%の条件下で48時間以上静置してコンディショニングする。
シートの長辺の下端から125~200mmの範囲にセロハンテープ(登録商標)を貼り付けて、直径13mmとなるように短辺を丸めて接着し、シートを筒状とする。
筒状のシートの上端をクランプで挟んで吊るし、下端から300mm下方に0.05g以下の綿(100%)を置く。
口径が10mmのバーナーを用意し、ガス流量が105mL/分かつ20mmの高さの青い炎となるように調整する。バーナーが、筒状のシートと綿の間に位置し、かつ青い炎の10mmの高さの位置に筒状のシートの下端が当たるように3秒間の接炎を2回行う。かかる操作により筒状のシートの溶融が標線まで達するか否か、及び綿(100%)がシート溶融物の落下による着火によって燃えたか否かを確認する。筒状のシートの溶融が標線まで到達しないことが好ましく、また、綿の燃焼もないことがより好ましい。
【0057】
(難燃性:延焼時間)
上記UL94 VTM試験と同様に、難燃熱可塑性樹脂フィルムの筒状のシートに3秒間接炎し、筒状のシートに着火した火が消火するまでの時間を測定する。消火するまでの時間は20秒未満が好ましく、15秒未満がより好ましい。
【0058】
(塗工性)
水系難燃塗料組成物による塗工性の評価に供するために、水系難燃塗料組成物の固形分濃度が10重量%となるように水の量を調整した水性分散体を得る。かかる水性分散体について、B型粘度計を用いて、ロータ回転速度60rpm、20℃における粘度を測定する。粘度は、少ない塗工量で安定して塗工し、良好な塗膜を得る観点から8000mPa・s以下が好ましく、1500mPa・s以下がより好ましく、500mPa・s以下がさらに好ましい。また、無機リン酸塩等の沈降による凝集物の発生を抑制する観点から、粘度は5mPa・s以上が好ましく、50mPa・s以上がより好ましく、100mPa・s以上がさらに好ましい。
【0059】
(表面強度)
水系難燃塗料組成物を用いて形成された難燃層の表面強度の評価として、以下の試験を行う。
長さ5cmに切り取ったニチバン社製セロハンテープ(登録商標)を難燃層表面に貼った後、2.5cmを低速(2.5cm/s)で、残りの2.5cmを高速(25cm/s)で手で剥がす。剥がした後の、難燃層の剥離の程度によって、表面強度を評価する。高速及び低速での剥離による剥離面積は、それぞれ小さい方が好ましい。
【実施例】
【0060】
以下に実施例、比較例及び試験例を記載して本発明をさらに具体的に説明する。以下の例に示す材料、使用量、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。なお、以下に記載される%は、特記しない限り質量%を意味する。
【0061】
[実施例1]
無機リン酸塩(ポリリン酸アンモニウム、クラリアントケミカルズ社製、EXOLIT AP 423、平均一次粒径D50=10μm)75質量部、無機粒子(精製ベントナイト、クニミネ工業社製、クニピア-F、平均一次粒径D50=2μm)25質量部、水系バインダー樹脂(スチレンアクリル樹脂、星光PMC社製、ハイロスX・ZE-1425、固形分濃度48質量%)25質量部(固形分換算)、架橋剤(炭酸ジルコニウムアンモニウム、サンノプコ社製、5800MT)1質量部を混合し、イオン交換水を固形分濃度10質量%になるように配合し、水系難燃塗料組成物を得た。なお、ベントナイトとはモンモリロナイトを主成分とする無機粒子である。
熱可塑性樹脂フィルム(ポリプロピレン系合成紙、多孔質二軸延伸フィルム、ユポ・コーポレーション社製、FPG80、厚さ80μm)の両面に、得られた水系難燃塗料組成物を、固形分換算での塗工量が各5g/m2になるように、バーコーターで塗工した。その後80℃で10分乾燥させることで難燃層を形成し、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
難燃熱可塑性樹脂フィルムの樹脂成分100g/m2に対する無機リン酸塩と無機粒子の各含有量は表1に記載のとおりである。
なお塗料組成物の固形分濃度は、塗料組成物1.0gをアルミカップに精秤し、これを120℃オーブンで30分乾燥後、残留物の質量を精秤し、元の質量に対する残留物の質量の割合を加熱残分(質量%)として求めた値である。
【0062】
[実施例2~6及び比較例1~3]
無機リン酸塩、無機粒子及び水系バインダー樹脂の配合比及び水系難燃塗料組成物の塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~3の各難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、表1中、水系難燃性塗料組成物の項目における「-」とは含有していないことを意味する。
【0063】
[実施例7及び8]
熱可塑性樹脂フィルム(ポリプロピレン系合成紙、多孔質二軸延伸フィルム、ユポ・コーポレーション社製、FPG130、厚さ130μm)を用い、水系難燃塗料組成物の塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7及び8の各難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0064】
[実施例9]
熱可塑性樹脂フィルム(ポリプロピレン系合成紙、多孔質二軸延伸フィルム、ユポ・コーポレーション社製、FPG200、厚さ200μm)を用い、水系難燃塗料組成物の塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0065】
[実施例10]
熱可塑性樹脂フィルム(ポリプロピレン系合成紙、多孔質二軸延伸フィルム、ユポ・コーポレーション社製、FPG250、厚さ250μm)を用い、水系難燃塗料組成物の塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0066】
[実施例11]
熱可塑性樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸フィルム、三菱ガス化学社製、ダイヤホイル O-100E、厚さ100μm)を用い、水系難燃塗料組成物の塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0067】
[実施例12~15並びに比較例4及び5]
水系バインダー樹脂の配合量及び水系難燃塗料組成物の塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0068】
[比較例6]
無機リン酸塩、無機粒子及び水系バインダー樹脂の配合比及び塗工量を表1に記載の値に変更した以外は実施例11と同様にして、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0069】
[比較例7]
実施例1の水系難燃塗料組成物に代えて、有機リン酸塩(主骨格にペンタエリスリトールと2個のリン酸とのエステル構造を含有する化合物、帝人社製、ファイヤーガード FCX210、平均一次粒径D50=20μm)、無機粒子としてコロイダルシリカ、水系バインダー樹脂としてスチレンアクリル酸エステル共重合体とポリエステル樹脂の混合エマルションを用い、表1に記載の固形分換算での塗工量となるように用いた以外は、請求項1と同様にして、難燃熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、表1中の無機リン酸塩の配合比における「※」とは、有機リン酸塩であるものの、便宜上かかる項目に配合比を記載したことを意味するものである。
【0070】
得られた難燃熱可塑性樹脂フィルムに対し、下記評価を行った。結果を表1に示すが、塗工性評価における数値は粘度を、カッコ書きは評価A~Dを意味し、「-」とは評価未実施であることを意味する。
【0071】
(難燃性:UL94 VTM試験)
難燃熱可塑性樹脂フィルムを50mm×200mmのシート状に切り取り、シートの長辺の下端から125mmの位置に標線を記した。そして、23℃、相対湿度50%の条件下で48時間以上静置してコンディショニングした。
シートの長辺の下端から125~200mmの範囲にセロハンテープ(登録商標)を貼り付けて、直径13mmとなるように短辺を丸めて接着し、シートを筒状とした。
筒状のシートの上端をクランプで挟んで吊るし、下端から300mm下方に0.05g以下の綿(100%)を置いた。
口径が10mmのバーナーを用意し、ガス流量が105mL/分かつ20mmの高さの青い炎となるように調整した。バーナーが、筒状のシートと綿の間に位置し、かつ青い炎の10mmの高さの位置に筒状のシートの下端が当たるように3秒間の接炎を2回行った。かかる操作により筒状のシートの溶融が標線まで達するか否か、及び綿(100%)がシート溶融物の落下による着火によって燃えたか否かを確認し、下記基準で評価した。Aが合格であり、B及びCが不合格である。
A(良好):筒状のシートの溶融が標線まで到達せず、綿の燃焼もなかった。
B(不良):筒状のシートの溶融が標線に到達したが、綿の燃焼はなかった。
C(非常に不良):筒状のシートの溶融が標線に到達し、綿も燃焼した。
【0072】
(難燃性:延焼時間)
上記UL94 VTM試験と同様に、難燃熱可塑性樹脂フィルムの筒状のシートに3秒間接炎し、筒状のシートに着火した火が消火するまでの時間を測定し、下記基準で評価した。A及びBが合格であり、Cが不合格である。
A(非常に良好):15秒未満で消火した。
B(良好):15秒以上20秒未満で消火した。
C(不良):20秒以上で消火した、又は消火しなかった。
【0073】
(塗工性)
固形分濃度が10重量%である水系難燃塗料組成物に対し、B型粘度計を用いて、ロータ回転速度60rpm、20℃における粘度を測定し、下記基準で評価した。A~Cが合格であり、Dが不合格である。
A(非常に良好):粘度が100~500mPa・s
B(良好):粘度が50mPa・s以上100mPa・s未満、又は、500mPa・s超1500mPa・s以下
C(通常):粘度が5mPa・s以上50mPa・s未満、又は、1500mPa・s超8000mPa・s以下
D(不良):粘度が5mPa・s未満、又は、8000mPa・s超
【0074】
(表面強度)
長さ5cmに切り取ったニチバン社製セロハンテープを難燃層表面に貼った後、2.5cmを低速(2.5cm/s)で、残りの2.5cmを高速(25cm/s)で手で剥がした。剥がした後の、難燃層の剥離の程度によって、表面強度を評価し、下記基準で評価した。2以上が合格であり、1が不合格である。
5:低速、高速で共に剥離なし。
4:低速で剥離なし、高速で部分的(高速剥離面全体の50%未満)に剥離した。
3:低速で剥離なし、高速で全面的(高速剥離面全体の50%以上)に剥離した。
2:低速で部分的(低速剥離面全体の50%未満)に剥離、高速で全面的(高速剥離面全体の50%以上)に剥離した。
1:低速、高速で共に全面的に剥離した。
【0075】
【0076】
以上の結果から、本実施形態に係る水系塗料組成物により形成した難燃層は、塗工性に優れ、薄い塗膜を形成できることが確認された。また、優れた難燃性を示すことから、薄い塗膜でも、基材に対して十分な難燃性を付与できることが分かった。
【0077】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2020年3月27日出願の日本特許出願(特願2020-058709)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る水系塗料組成物は、薄い塗工が可能で、かつ少量でも優れた難燃性を示す。そのため、基材の特性を阻害しないような薄膜の難燃層としつつ、基材に高い難燃性を付与する際に非常に有用である。