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特許7594011ステータ、回転電機およびステータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ステータ、回転電機およびステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20241126BHJP
   H02K 1/04 20060101ALI20241126BHJP
   H02K 15/10 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K1/04 A
H02K15/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022536767
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045072
(87)【国際公開番号】W WO2022124329
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020203912
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021066387
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西川 敦准
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆博
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋也
(72)【発明者】
【氏名】小坂 弥
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】棚田 一也
【審判官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163797(JP,A)
【文献】特開2018-44129(JP,A)
【文献】特開2020-94092(JP,A)
【文献】特開2015-33323(JP,A)
【文献】特開2003-158842(JP,A)
【文献】特表2008-503993(JP,A)
【文献】特開2008-29142(JP,A)
【文献】特開2003-284277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティース部を有するステータコアと、前記ティース部の間に設けられコイルが収容されるスロットと、前記スロットに収容されたコイルと、を有するステータであって、
前記スロットの内面に設けられ、絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層を有し、
前記樹脂層のスロット内部側の壁面は、回転軸方向と平行に設けられており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上であり、
前記樹脂層の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であり、
前記コイルと前記樹脂層の間には接着層を有さず、
前記コイルを収容する樹脂製のライナー部材を有し、
前記コイルは、前記ライナー部材に収容された状態で前記スロットに収容されているステータ。
【請求項2】
前記樹脂組成物は充填剤としてフィラーを含有する、請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記樹脂組成物のフィラー含有量が樹脂組成物全量に対し60体積%以上である、請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
複数のティース部を有するステータコアと、前記ティース部の間に設けられコイルが収容されるスロットと、前記スロットに収容されたコイルと、を有するステータであって、
前記スロットの内面に設けられ、絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層を有し、
前記樹脂層のスロット内部側の壁面は、回転軸方向と平行に設けられており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上であり、
前記樹脂層の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であり、
前記樹脂組成物は充填剤としてフィラーを含有し、
前記樹脂組成物の前記フィラー含有量が樹脂組成物全量に対し60体積%以上であり、
前記樹脂組成物の前記フィラーはシリカを含み、
前記コイルを収容する樹脂製のライナー部材を有し、
前記コイルは、前記ライナー部材に収容された状態で前記スロットに収容されているステータ。
【請求項5】
前記樹脂組成物は離型剤としてのワックスを含有している、請求項1から4までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項6】
前記樹脂層の厚みが50μm以上500μm以下である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1から6までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項8】
前記コイルは、コイル表面を樹脂により被覆した樹脂被覆層を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載のステータを有する回転電機。
【請求項10】
複数のティース部を有するステータコアと、前記ティース部の間に設けられコイルが収容されるスロットと、前記スロットに収容されたコイルとを有する回転電機に用いられるステータの製造方法であって、
前記スロットの内面に絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層が設けられたスロット内に、前記コイルを配置するコイル配置工程と、
を有し、
前記樹脂層のスロット内部側の壁面は、前記回転電機の回転軸方向と平行に設けられており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上であり、
前記樹脂層の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であり、
前記コイルと前記樹脂層の間には接着層を有さず、
前記コイルを収容する樹脂製のライナー部材を有し、
前記コイルは、前記ライナー部材に収容された状態で前記スロットに収容されるステータの製造方法。
【請求項11】
複数のティース部を有するステータコアと、前記ティース部の間に設けられコイルが収容されるスロットと、前記スロットに収容されたコイルとを有する回転電機に用いられるステータの製造方法であって、
前記スロットの内面に絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層が設けられたスロット内に、前記コイルを配置するコイル配置工程と、
を有し、
前記樹脂層のスロット内部側の壁面は、前記回転電機の回転軸方向と平行に設けられており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上であり、
前記樹脂層の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であり、
前記樹脂組成物は充填剤としてフィラーを含有し、
前記樹脂組成物の前記フィラー含有量が樹脂組成物全量に対し60体積%以上であり、
前記樹脂組成物の前記フィラーはシリカを含み、
前記コイルを収容する樹脂製のライナー部材を有し、
前記コイルは、前記ライナー部材に収容された状態で前記スロットに収容されるステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、回転電機およびステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ(発動機)や発電機のような回転電機において、ステータに設けられたスロットにコイルを収容する際に、スロット内に絶縁紙や樹脂材料を充填して、スロットとコイルの絶縁を確保する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1では、導体(コイル)とスロットの周壁部との間に、樹脂を注入し硬化させて絶縁層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6814568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータとして性能向上において、コイルの絶縁を適正に保ちつつ正確に配置させるとともに、スロットの空間利用効率を向上させること、すなわち、よりスロット内においてコイルが占める比率を大きくすることができる技術が求められていた。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであって、スロットの空間利用効率を向上させることができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
複数のティース部を有するステータコアと、前記ティース部の間に設けられコイルが収容されるスロットと、前記スロットに収容されたコイルと、を有するステータであって、
前記スロットの内面に設けられ、絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層を有し、
前記樹脂層のスロット内部側の壁面は、回転軸方向と平行に設けられており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上である、
ステータが提供される。
本発明によれば、上述のステータを有する回転電機が提供される。
本発明によれば、
複数のティース部を有するステータコアと、前記ティース部の間に設けられコイルが収容されるスロットと、前記スロットに収容されたコイルとを有する回転電機に用いられるステータの製造方法であって、
前記スロットの内面に絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層が設けられたスロット内に、前記コイルを配置するコイル配置工程と、
を有し、
前記樹脂層のスロット内部側の壁面は、前記回転電機の回転軸方向と平行に設けられており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上である、
ステータの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スロットの空間利用効率を向上させることができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係るモータの回転軸方向と垂直な方向の断面図である。
図2】第1の実施形態に係るモータの回転軸方向の縦断面図である。
図3】第1の実施形態に係るスロット周辺を拡大して示した図である。
図4】第1の実施形態に係るスロット周辺を拡大して示した図であって、図3からスロット内のコイルや樹脂封止部を省いて示した図である。
図5】第1の実施形態に係るスロット周辺の断面図であって、図3のA-A断面図である。
図6】第1の実施形態に係るスロット周辺の断面図であって、図4のB-B断面図である。
図7】第2の実施形態に係るモータの回転軸方向と垂直な方向の断面図である。
図8】第2の実施形態に係るモータの回転軸方向の縦断面図である。
図9】第2の実施形態に係るスロット周辺を拡大して示した図である。
図10】第3の実施形態に係るスロット周辺を拡大して示した図である。
図11】第3の実施形態に係る4種類のライナー部材の形状を示した図である。
図12】第4の実施形態に係る、パワーモジュールの模式図である。
図13】第4の実施形態に係る、小径樹脂パイプの模式図である。
図14】第4の実施形態に係る、小径樹脂パイプの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<<第1の実施形態>>
<概要>
本実施形態では、回転電機(電動機、発電機または電動機/発電機の両用機)として電動機(モータ)に適用した例を説明する。図1はモータ100の回転軸方向と垂直な方向の断面図を模式的に示している。図2はモータ100の回転軸方向の断面図を模式的に示している。図3は、スロット周辺(図1の領域X)を拡大して示した図であって、コイル9がスロット8の端部から突出した部分の断面図を模式的に示している。図4は、図3からスロット8のコイル9や樹脂封止部65を省いて示した図である。図5図3のA-A断面図である。図6図4のB-B断面図である。なお、図3図4および後述の図7では、樹脂層50を便宜的に墨塗りで示している。また、以下では、モータ100において回転軸3側を内周側(または回転軸側)、ケース1側を外周側として説明する。
【0010】
本実施形態の概要は次の通りである。モータ100において、ステータ4のスロット8(ティース部7)の壁面72を絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層50で覆う。このとき、樹脂層50の壁面(すなわち内面樹脂層51の樹脂層表面55)をモータ100の回転軸と平行とする。言い換えると、図5図6に示すように、樹脂層表面55が、断面図で見た場合、一方(上側)の端部55aから他方(下側)の端部55bまで、図6の直線Lで示すように、テーパ形状を設けずに直線に設けられている。また、樹脂層50の樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、そのガラス転移温度Tgが120℃以上となっている。
以下具体的に説明する。
【0011】
<モータ100の基本構造>
モータ100は、ケース1と、ケース1の内部に収容されたロータ2とステータ4とコイル9とを備える。
【0012】
<ケース1>
ケース1は、円筒部1aと、この円筒部1aの軸方向両端を閉塞する側板部1b、1cとを有して構成される。ケース1の材料として、例えば、アルミニウム合金(鋳物鋳造品)や樹脂材料、それらを組み合わせたものを用いることができる。
【0013】
<ロータ2>
ロータ2は、ケース1の内部に収容されている。ロータ2の中心には出力軸として回転軸3が取り付けられている。回転軸3の両端がそれぞれベアリング3aを介して側板部1b、1cに支持されている。これによって、ロータ2は回転軸3を中心に回転自在となっている。
【0014】
ロータ2には永久磁石5が内装されている。具体的には、図1に示すように、複数(ここでは8個)の永久磁石5が同一円周上に等間隔で配置されている。このとき、隣合う永久磁石5の磁極は互いに異なるように設置されている。
【0015】
円筒部1aの内周側には円筒型のステータ4が、ロータ2の外周を取り囲むように配置され固定されている。ステータ4の内周面とロータ2の外周面との間には微少な間隙(エアギャップ)が設けられている。
【0016】
<ステータ4>
ステータ4は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定して設けられており、図1に示すように軸方向端部から見たときに、環状に設けられたヨーク部6と、ヨーク部6からロータ2側(内周側)に向かって延出する複数のティース部7とが設けられている。複数のティース部7は周方向に等間隔に配列されて設けられている。ここでは、図1に示すように、24個のティース部7が設けられている。各ティース部7の間にスロット8が設けられている。また、ティース部7には、樹脂組成物で周回させて薄肉に覆った樹脂層50が設けられている。
【0017】
<コイル9>
コイル9は、平角線U字形状であって、ティース部7を跨いで離間した二つのスロット8に収納されるようにして巻かれている。ここでは、スロット8に配置されたライナー部材20にコイル9が分布巻きで収容されている。
コイル9は、銅等の良導体であって断面矩形のコイル本体91と、コイル本体91の表面を被覆する樹脂被覆層92とを有する。樹脂被覆層92は、後述する樹脂層50の樹脂材料として説明するものと同じ材料を用いることができる。
【0018】
<ティース部7>
ティース部7は上述したロータ2の永久磁石5と対応して設けられ、各コイル9を順次励磁していくことにより、これに対応した永久磁石5との吸引、反発によりロータ2が回転する。
【0019】
ティース部7は、外周側の周方向の幅が大きく、内周側の幅が小さく、内周側に向けて先細に形成されている。ティース部7の内周側の端部には、スロット8の幅を縮めるように周方向に沿って対向するティース部先端71が形成されている。
【0020】
<スロット8>
スロット8は、隣接するティース部7間の空間であって、図3図4に示すように、径方向に沿って対向するティース部7の壁面72が平行面となるように設けられている。ティース部先端71間がスロット8の内周側開口となっている。スロット8には、外周側(ヨーク部6側)に配置された複数のコイル9と、内周側(ティース部先端71側)に設けられた樹脂封止部65とを備える。
【0021】
<樹脂層50>
図5図6に示すように樹脂層50は、ティース部7の周縁を樹脂組成物で一体に周回させて覆っており、ティース部7の壁面72を覆う内面樹脂層51と、ティース部7の上面75a及び下面75bを覆う外面樹脂層52とを有する。
【0022】
樹脂層50は、インサート成形によりティース部7を薄肉状に周回させて覆うことで、ステータ4、より具体的にはティース部7における、積層されている複数の電磁鋼板を密着固定する。
【0023】
ティース部7の壁面72を覆う内面樹脂層51のスロット8内部側の面、すなわち樹脂層表面55は、図5図6に示すように、一方(上側)の端部55aから他方(下側)の端部55bまで、テーパ形状を設けずに直線状(具体的には図6の直線L)に設けられている。テーパ形状を設ける場合、その形状に対するためにある程度の厚みが必要になる。しかし、本実施形態では、テーパ形状を設けないため、内面樹脂層51の厚みを薄くすることができる。その結果、スロット8内で活用できる空間を増やすことがでる。例えば、コイル9の占める領域を増やすことができ、すなわち大径化やコイル本数の増加が可能となり、その結果モータ100の出力増が可能になる。
【0024】
樹脂層50の内面樹脂層51の厚みは、50μm以上500μm以下である。厚みの下限値は、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは150μm以上である。厚みの上限値は、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。外面樹脂層52の厚みは特に限定はしないが、内面樹脂層51と同程度とすることができる。
厚みの下限値は、インサート成形時においてステータ軸長(すなわちステータ4の厚み)に対して、金型とティース部7(壁面72)との間の極狭部における樹脂組成物の流動性確保の観点から、上記の範囲にすることが好ましい。
厚みの上限値は、コイル9をティース部7に巻装しスロット8に配置する構造において、スロット8内の空間利用効率を高め使用可能なコイル9のサイズの自由度や磁束密度等性能確保の観点から、上記の範囲にすることが好ましい。
【0025】
<樹脂層50の物性>
樹脂層50を構成する樹脂材料の硬化物の物性は例えば以下の通りである。
樹脂材料の硬化物の熱伝導率は0.5W/(m・K)以上である。熱伝導率の下限は、好ましくは1.0W/(m・K)以上であり、より好ましくは2W/(m・K)以上である。熱伝導率の上限は、特に限定しないが、現実的な値として10W/(m・K)である。
【0026】
樹脂層50の樹脂組成物のガラス転移温度Tgは120℃以上であり、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上である。ガラス転移温度Tgを上記範囲とすることで、モータ100を高温下で使用することができ、またコイル9の発熱に強くなり高出力で使用することができる。
樹脂層50の樹脂組成物を以下に具体的に説明する。
【0027】
<樹脂層50の材料>
樹脂層50の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)、充填剤(B)、および硬化剤(C)などを含むことが好ましい。
【0028】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)としては、たとえば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノキシ樹脂、およびアクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂(A)として、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
なかでも、高い絶縁性を有する観点から、熱硬化性樹脂(A)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびフェノキシ樹脂であることが好ましい。成形時における極狭部の流動確保の観点から、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0029】
エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
エポキシ樹脂の中でも、耐熱性および絶縁信頼性をより一層向上できる観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0031】
フェノール樹脂としては、たとえば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
フェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂であることが好ましい。
【0032】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、樹脂層50の樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、樹脂層50の樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記下限値以上であると、樹脂層50の樹脂組成物全量のハンドリング性が向上し、内面樹脂層51を形成するのが容易となるとともに、内面樹脂層51の強度が向上する。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記上限値以下であると、内面樹脂層51の線膨張率や弾性率がより一層向上したり、熱伝導性がより一層向上したりする。
【0033】
[充填剤(B)]
本実施形態における充填剤(B)は、樹脂層50(より具体的には内面樹脂層51)の熱伝導性を向上させるとともに強度を得る観点から用いられる。
【0034】
充填剤(B)としては、無機充填剤が好ましく、熱伝導性フィラーであることが特に好ましい。より具体的には、充填剤(B)としては、熱伝導性と電気絶縁性とのバランスを図る観点から、たとえば、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、充填剤(B)は、アルミナ、窒化ホウ素であることが好ましい。
【0035】
充填剤(B)の含有量は、すなわち上記のフィラーの含有量は、樹脂組成物全量に対し、60質量%以上が好ましい。
【0036】
[硬化剤(C)]
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂を用いる場合、さらに硬化剤(C)を含むことが好ましい。
【0037】
硬化剤(C)としては、硬化触媒(C-1)およびフェノール系硬化剤(C-2)から選択される1種以上を用いることができる。
硬化触媒(C-1)としては、たとえば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン類;2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン等の有機リン化合物;フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物;酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等、またはこの混合物が挙げられる。硬化触媒(C-1)として、これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。
硬化触媒(C-1)の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全量に対し、0.001質量%以上1質量%以下が好ましい。
【0038】
また、フェノール系硬化剤(C-2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリスフェノールメタン型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、フェノール系硬化剤(C-2)がノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂が好ましい。
【0039】
フェノール系硬化剤(C-2)の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0040】
[カップリング剤(D)]
樹脂組成物は、カップリング剤(D)を含んでもよい。カップリング剤(D)は、熱硬化性樹脂(A)と充填剤(B)との界面の濡れ性を向上させることができる。
【0041】
カップリング剤(D)としては、特に限定されないが、たとえば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種または2種以上のカップリング剤を使用することが好ましい。
カップリング剤(D)の含有量は、特に限定されないが、充填剤(B)100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、充填剤(B)100質量%に対して、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0042】
[フェノキシ樹脂(E)]
さらに、樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(E)を含んでもよい。フェノキシ樹脂(E)を含むことにより樹脂層50の耐屈曲性を向上でき、また弾性率を低下させることが可能となり、樹脂層50の応力緩和力を向上させることができる。
【0043】
また、フェノキシ樹脂(E)を含むと、粘度上昇により、流動性が低減し、ボイド等が発生することを抑制できる。また、樹脂層50を金属部材(すなわちティース部7)と密着させて用いる場合などに、金属と樹脂組成物の硬化体との密着性を向上できる。
【0044】
フェノキシ樹脂(E)としては、たとえば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹
脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0045】
フェノキシ樹脂(E)の含有量は、たとえば、樹脂組成物全量に対して、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0046】
[離型剤]
樹脂組成物は、好ましくは離型剤を含む。これにより、成形後の離型性を高めることができる。離型剤としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
離型剤を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体中、好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。これにより、離型性向上の効果を確実に得ることができる。その結果、樹脂層50の内面樹脂層51の成形精度を高くすることができる。
【0048】
[その他の成分]
樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ほかに酸化防止剤、レベリング剤等を含むことができる。
【0049】
<樹脂封止部65>
樹脂封止部65は、スロット8の内周側(ティース部先端71側)に設けられている。樹脂封止部65は、インサート成形によって設けられてもよいし、別部品として設けられてもよい。樹脂封止部65に用いられる樹脂材料は、樹脂層50の樹脂材料として説明したものを用いることができる。
【0050】
<ステータ4の製造方法>
本実施形態のステータ4の製造方法を説明する。
まず、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定させたステータ4を用意する(ステータ準備工程)。
ついで、インサート成形によりティース部7の周縁(壁面73、上面75a及び下面75b)を絶縁性の樹脂組成物で一体に周回させて覆って樹脂層50を形成する(樹脂層形成工程)。
つぎに、樹脂層50が設けられたスロット8内に、コイル9を配置する(コイル配置工程)。
全てのコイル9の収容後、スロット8の内周側の領域に樹脂材料を充填してインサート成形することで樹脂封止部65を得る(樹脂充填工程)。
以上の工程により、図3に示したステータ4が得られる。
【0051】
<第1の実施形態のまとめ>
以上、本実施形態の特徴をまとめると次の通りである。
(1)ステータ4は、複数のティース部7を有するステータコア41と、前記ティース部7の間に設けられコイル9が収容されるスロット8と、スロット8に収容されたコイル9と、を有するステータであって、
スロット8の内面に設けられ、絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層50を有し、
樹脂層50のスロット8内部側の壁面(内面樹脂層51の樹脂層表面55)は、回転軸方向と平行に設けられており、
樹脂層50の樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上である。
樹脂層表面55が回転軸方向と平行、すなわちテーパ形状などの傾斜が無く直線状に設けられているので、内面樹脂層51を薄肉にすることができる。また、ガラス転移温度Tgが120℃以上の熱硬化性樹脂を用いることで、モータ100を高温下で使用することができる。また、モータ100の高出力化に伴う発熱増に対応することができる。
(2)樹脂層50の樹脂組成物は離型剤としてのワックスを含有している。これによって、成形後の離型性を高めることができ、内面樹脂層51を薄肉した場合でも成形不良を抑制できる。
(3)樹脂層50の樹脂組成物は充填剤としてフィラーを含有する。これによって、樹脂層50の強度を高めることができる。
(4)樹脂層50の樹脂組成物のフィラー含有量が樹脂組成物全量に対して60体積%以上である。これによって、樹脂層50の強度を高めることができる。
(5)樹脂層50の厚みが50μm以上500μm以下である。これによって、スロット8内の空間利用効率を高めることができるとともに、極狭部における樹脂組成物の流動性を確保することができる。
(6)樹脂層50の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上である。これによって、コイル9の熱をステータ4へ円滑に伝えることができる。
(7)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である。これによって、高い耐熱性および絶縁信頼性が得られる。
(8)コイル9は、コイル表面(コイル本体91)を樹脂により被覆した樹脂被覆層92を有する。これにより、コイル9の絶縁性を良好に確保できる。
(9)上述のステータ4を有する回転電機(モータ100)。
(10)複数のティース部7を有するステータコア41と、ティース部7の間に設けられコイル9が収容されるスロット8と、スロット8に収容されたコイル9とを有する回転電機(ここではモータ100)に用いられるステータ4の製造方法であって、
スロット8の内面、すなわちティース部7の壁面72に絶縁性の樹脂組成物で構成される樹脂層50を形成する樹脂層形成工程と、
樹脂層50が設けられたスロット8内に、前記コイル9を配置するコイル配置工程と、
を有し、
樹脂層50のスロット8内部側の壁面(内面樹脂層51の樹脂層表面55)は、回転電機(モータ100)の回転軸方向と平行に設けられており、
樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含み、
熱硬化性樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上である。
【0052】
<<第2の実施形態>>
図7図9を参照して第2の実施形態を説明する。図7はモータ100の回転軸方向と垂直な方向の断面図を模式的に示している。図8はモータ100の回転軸方向の断面図を模式的に示している。図9は、スロット周辺(図7の領域Y)を拡大して示した図であって、コイル9がスロット8の端部から突出した部分の断面図を模式的に示している。
以下では、第1の実施形態と異なる点について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と異なり、樹脂封止部65に冷却水路10を設け、ケース1に外部の冷却流路とを連結部材12を介して連結する外部接続流路17が設けられている。以下、具体的に説明する。
【0053】
本実施形態では、ケース1の側板部1b、1cには、スロット8内の冷却水路10と外部の冷却流路とを連結部材12を介して連結する外部接続流路17が設けられている。
【0054】
樹脂封止部65には、軸方向に延びる冷却水路10が設けられている。冷却水路10には冷却液、例えば冷却水が循環する。この冷却水路10は、樹脂材料を直接成形する方法や、筒状の部品をスロット8に挿入して周囲を樹脂材料で充填する方法により形成可能である。
【0055】
一つのスロット8に配置する冷却水路10の数は1本または複数本のいずれでも良いが、スロット8の空間幅が狭い状況に於いては冷却液が通過する際の流路抵抗を考慮して流路の断面積が大きくなるように本数は少ない方が好ましい。冷却水路10の断面形状は本実施形態の様な円形の他、四角やスロット8の形状に合わせることもできる。
【0056】
<ステータ4の製造方法>
本実施形態のステータ4の製造方法を説明する。
第1の実施形態と同様に、ステータ準備工程、樹脂層形成工程及びコイル配置工程を行う。つづいて、全てのコイル9の収容後、スロット8の内周側の所定の領域に冷却水路10に対応する金型構造(入れ子構造)を配置してインサート成形することで、冷却水路10を有する樹脂封止部65を得る(樹脂充填工程)。
以上の工程により、図7図9に示したステータ4が得られる。
【0057】
以上本実施形態の特徴を纏めると次の通りである。
本実施形態は、第1の実施形態の特徴(1)~(10)と同様の特徴を有する。さらに、コイル9を冷却する構成として冷却水路10を有することで、モータ100の高出力化に対応することができる。
【0058】
<<第3の実施形態>>
図10及び図11を参照して第3の実施形態を説明する。
図10はスロット周辺を拡大して示した図である。以下では、第2の実施形態と異なる点について説明する。本実施形態では、第2の実施形態と異なり、スロット8にコイル9を収容するときにライナー部材20を用いる。
【0059】
<ライナー部材20>
ライナー部材20は、樹脂材料で構成された回転軸方向に長尺状であって、断面が枠状に設けられた筒状の部材である。ライナー部材20の枠内部がコイル9を収容するコイル収容部21となっている。
【0060】
ライナー部材20の長さ方向の端部は、ステータ4の両端(すなわちスロット8の両端)から所定長だけ外側に出ている。ライナー部材20は、例えば押し出し成形によって予め別部材として製造され、モータ100の製造時にスロット8に配置される。
【0061】
ライナー部材20は、図10に示すように、断面がロ字の枠状に設けられている。ライナー部材20がスロット8に配置された状態において、ライナー部材20の外周面は、スロット8の壁面72、73および樹脂封止部65に密着している。ここで、ライナー部材20の外周面は、内面樹脂層51と同様に、回転軸方向と平行に直線状に設けられる。これによって、内面樹脂層51とライナー部材20が全体的に密着することができ、ライナー部材20から樹脂層50への伝熱特性を良好にすることができる。いいかえると、内面樹脂層51の樹脂層表面55がテーパ形状を有さず回転軸方向と平行に直線状に設けられ、ライナー部材20の外周面(樹脂層表面55と接する領域)も同様にテーパ形状を有さず回転軸方向と平行に直線状に設けられている。これによって、ライナー部材20と樹脂層表面55とを、それらの間に隙間がなく密着させることができる。
【0062】
ライナー部材20の厚みは、最も薄い領域(壁面72、73とライナー部材20のライナー内面との間)で、例えば0.3mm程度である。
【0063】
<ライナー部材20の材料>
ライナー部材20の材料は、第1の実施形態の樹脂層50の材料として説明したものが挙げられる。
【0064】
<ライナー部材20の形状の種類>
図11はライナー部材20の形状の例を示している。ここでは4種類の断面形状を例示している。
図11(a)のライナー部材20Aは、図10に示したライナー部材20の形状に対応しており、断面がロ字の枠状に設けられており、複数のコイル9が共通のコイル収容部21に収容される。
図11(b)のライナー部材20Bは、断面がコ字の枠状に設けられている。ライナー部材20がスロット8に収容される際に、開口している端部側が、樹脂封止部65側に位置するように配置される。
図11(c)のライナー部材20Cは、断面がロ字の枠状のコイル収容部21が複数(ここでは5つ)繋がった形状を有する。それぞれのコイル収容部21にコイル9が収容される。これによって、コイル9間の絶縁を確実に確保できる。
図11(d)のライナー部材20Dは、第1の実施形態のライナー部材20と樹脂封止部65が一体となった構成である。
【0065】
以上本実施の形態の特徴を纏めると次の通りである。
本実施形態の特徴は、第1の実施形態の特徴(1)~(10)と同様の特徴を有するとともに、下記(11)の特徴を有する。
(11)回転電機(モータ100)は、コイル9を収容する樹脂製のライナー部材20(20A、20B、20C、20D)を有し、
コイル9は、前記ライナー部材20に収容された状態で前記スロット8に収容されている。
これにより、コイル9を精度よくスロット8に収容することができる。その結果、モータ100の出力効率を高めることができ、また、振動や騒音を抑制することもできる。
【0066】
<<第4の実施形態>>
本実施形態では、樹脂中空体、モジュール、樹脂中空体の製造方法、およびモジュールの製造方法に関して説明する。
【0067】
樹脂製のパイプ製品やパイプ部品等の樹脂中空体は、金属製のパイプと比較して軽量であり成形性に優れるところから、様々な分野で利用されてきており、また各種の技術が提案されている。例えば、一方の端部を閉塞した樹脂パイプを射出成形で製造する際に、設計自由度を高める技術が提案されている(例えば特許第5864373号)。
【0068】
近年、上述したように、樹脂パイプの特徴から、樹脂パイプのような樹脂中空体を適用して各種製品を実現することが望まれるようになっている。特に、パワーモジュールや第2の実施形態で説明したモータ100のように高温域で動作する製品に対して、小径パイプ構造の樹脂中空体を適用したいという需要が高まっている。一般に、小径パイプの製作については、長さLが内径Dに対して長い場合(すなわちL/Dが大きい場合)、押出成形による製法、より具体的には、可塑品による成形品が用いられていたが、高温域で動作する製品においては要求される仕様を満たすことができないこともあり、熱硬化性樹脂を用いた技術が求められていた。
【0069】
本実施形態では、熱硬化性樹脂からなる長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体及びそれを用いたモジュール、およびそれらを製造する製造方法について説明する。
【0070】
本実施形態の概要は次の通りである。
1.熱硬化性樹脂からなる長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体であって、
前記パイプ構造の内径D1と長さLの比L/D1が20以上、125以下である、樹脂中空体。
2.前記パイプ構造の内面の端部がテーパ形状の無いストレートに形成されている、1.に記載の樹脂中空体。
3.前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂からなる、1.または2.に記載の樹脂中空体。
4.前記パイプ構造の前記内径D1が1.8mm以上3.5mm以下である、1.から3.までのいずれかに記載の樹脂中空体。
5.前記パイプ構造の肉厚tが0.10mm以上1mm以下である、1.から4.までのいずれかに記載の樹脂中空体。
6.前記パイプ構造の外径D2が2.0mm以上4.5mm以下である、1.から5.までのいずれかに記載の樹脂中空体。
7.上記1.から6.までのいずれかに記載の樹脂中空体を一体に備えたモジュール。
8.前記樹脂中空体が冷却用水路として設けられている、7.に記載のモジュール。
9.長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体の製造方法であって、
前記パイプ構造の内周面に対応する外周面を有する長尺直線状の金型ピンを有する成形用金型に熱硬化性樹脂を充填する樹脂充填工程と、
前記金型ピンを引き抜く金型ピン引抜工程と、
を有し、
前記パイプ構造の内径D1と長さLの比L/D1が20以上125以下である、樹脂中空体の製造方法。
10.前記金型ピンは、引き抜き用のテーパ形状を有さない、9.に記載の樹脂中空体の製造方法。
11.前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂からなる、9.または10.に記載の樹脂中空体の製造方法。
12.前記パイプ構造の前記内径D1が1.8mm以上3.5mm以下である、9.から11.までのいずれかに記載の樹脂中空体の製造方法。
13.前記パイプ構造の肉厚tが0.10mm以上1mm以下である、9.から12.までのいずれかに記載の樹脂中空体の製造方法。
14.前記パイプ構造の外径D2が2.0mm以上4.5mm以下である、9.から13.までのいずれかに記載の樹脂中空体の製造方法。
15.前記成形用金型に前記熱硬化性樹脂を充填する際の充填圧力が10MPa以上12MPa以下である、9.から14.までのいずれかに記載の樹脂中空体の製造方法。
16.上記9.から15.までのいずれかに記載の樹脂中空体の製造方法を用いて、前記樹脂中空体を有するモジュールを製造するモジュールの製造方法。
17.前記樹脂中空体を冷却用水路として製造する、16.に記載のモジュールの製造方法。
【0071】
以下、樹脂パイプ(樹脂中空体)をパワーモジュール(パワー半導体チップ)の冷却に適用した構成について具体的に説明するが、その他に、例えば、上述した第2の実施形態のモータ100の冷却水路10に適用することができる。
【0072】
<パワーモジュール201>
本実施形態に係るパワーモジュール201について説明する。
図12は本実施形態に係るパワーモジュール201の模式図であって、断面図を示している。図13は小径樹脂パイプ200の模式図である。
【0073】
パワーモジュール201は、パワー半導体チップ202と、シンタリング層203と、Cu回路204と、放熱シート205と、Cuベースプレート206と、リードフレーム207とを有し、樹脂封止層209(封止材)により封止されている。さらに、パワーモジュール201は、樹脂封止層209に設けられた第1冷却用水路210と、Cuベースプレート206に設けられた第2冷却水路220とを有する。
【0074】
<パワー半導体チップ202>
パワー半導体チップ202は、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT;Insulated Gate Bipolar Transistor)およびダイオード等である。パワー半導体チップ202の上面には図示しない電極パターンが形成され、パワー半導体チップ202の下面には図示しない導電パターンが形成されている。
【0075】
パワー半導体チップ202の下面は、接合層であるシンタリング層203を介してCu回路204の一方の面に接合されている。パワー半導体チップ202の上面の電極パターンは、リードフレーム207に対して電気的に接続されている。
【0076】
<シンタリング層203>
シンタリング層203は、金属粒子が含有されたシンタリングペーストを焼結させ接合層である。シンタリングペーストとしては、銀粒子を含有するAgシンタリングペースト、アルミニウム粒子を含有するALシンタリングペースト、銅粒子を含有するCuシンタリングペーストのいずれかを用いることができる。
【0077】
パワー半導体チップ202とCu回路204との間に上記のようなシンタリングペーストを設けて積層し、焼結工程により、パワー半導体チップ202とCu回路204がシンタリング層203により接合される。また、リードフレーム207とCu回路204とがシンタリング層203により接合されている。
【0078】
シンタリング層203では、金属粒子によるシンタリングネットワーク(金属結合バス)が形成されており、高熱伝導性や低い電気抵抗が実現される。なお、シンタリング層203による接合性の向上の観点から、Cu回路204やリードフレーム207に、シンタリングペーストに含有される金属によるメッキの表面処理が施されてもよい。具体的には、本実施形態では、Cu回路204やリードフレーム207の表面にAgメッキが施されてもよい。
【0079】
<Cu回路204>
Cu回路204は、導電性を有する金属材料で構成された金属回路基板である。Cu回路204の一方の面(図示で上側の面)に形成された回路パターンに、接合層であるシンタリング層203を介して、パワー半導体チップ202が設けられている。
【0080】
Cu回路204は、金属材料をパターンニングした回路基板であって、例えば厚みが0.3mm以上5mm以下である。Cu回路204を構成する金属材料には、例えば、厚銅(圧延銅)を好適に用いることができる。これにより、Cu回路204は、比較的抵抗値が小さくなる。なお、Cu回路204は、その少なくとも一部がソルダーレジスト層で覆われていてもよい。
【0081】
Cu回路204は、例えば、Cuベースプレート206の上面に放熱シート205を介して積層された金属層(厚銅など)を切削及びエッチングにより所定のパターンに加工することにより形成されたり、または予め所定のパターンに加工された状態で放熱シート205によりCu回路204に貼りつけられる。
【0082】
Cu回路204の厚さの下限値は、例えば、0.3mm以上である。このような数値以上であれば、高電流を要する用途であっても、回路パターンの発熱を抑えることができる。また、回路パターンの厚さの上限値は、例えば、5.0mm以下であり、好ましくは4.0mm以下であり、さらに好ましくは3.0mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0083】
<放熱シート205>
放熱シート205は、Cu回路204とCuベースプレート206の間に配置される。パワー半導体チップ202の熱をCu回路204で受け、さらに、放熱シート205を介して放熱手段であるCuベースプレート206に伝熱される。
【0084】
放熱シート205の平面形状は、特に限定されず、Cu回路204やCuベースプレート206の形状に合わせて適宜選択することが可能であるが、たとえば矩形とすることができる。放熱シート205の膜厚は、例えば50μm以上250μm以下である。これにより、機械的強度や耐熱性の向上を図りつつ、Cu回路204の熱をより効果的にCuベースプレート206へ伝えることができる。さらに、放熱シート205の放熱性と絶縁性のバランスが優れる。放熱シート205の熱伝導率として、特に限定はしないが、好ましくは10W/mK(175℃)以上、より好ましくは15W/mK(175℃)以上のものが用いられる。
【0085】
[放熱シート205の材質]
放熱シート205は、例えば樹脂シートであって、シート用樹脂組成物を用いて形成されている。以下、シート用樹脂組成物について説明する。
本実施形態において、シート用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)、充填剤(B)、および硬化剤(C)などを含むことが好ましい。熱硬化性樹脂を含む場合、放熱シート205は、熱硬化性樹脂(A)をBステージ化したものである。
【0086】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)としては、たとえば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノキシ樹脂、およびアクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂(A)として、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
なかでも、高い絶縁性を有する観点から、熱硬化性樹脂(A)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0087】
エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0088】
エポキシ樹脂の中でも、耐熱性および絶縁信頼性をより一層向上できる観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0089】
フェノール樹脂としては、たとえば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
フェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂であることが好ましい。
【0090】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記下限値以上であると、シート用樹脂組成物のハンドリング性が向上し、放熱絶縁シートを形成するのが容易となるとともに、放熱絶縁シートの強度が向上する。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記上限値以下であると、放熱絶縁シートの線膨張率や弾性率がより一層向上したり、熱伝導性がより一層向上したりする。
【0091】
[充填剤(B)]
本実施形態における充填剤(B)は、放熱シート205の熱伝導性を向上させるとともに強度を得る観点から用いられる。
【0092】
充填剤(B)としては、熱伝導性フィラーであることが好ましい。より具体的には、充填剤(B)としては、熱伝導性と電気絶縁性とのバランスを図る観点から、たとえば、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、充填剤(B)は、アルミナ、窒化ホウ素であることが好ましい。
【0093】
充填剤(B)の含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。一方、熱伝導性の観点から、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0094】
[硬化剤(C)]
シート用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂を用いる場合、さらに硬化剤(C)を含むことが好ましい。
【0095】
硬化剤(C)としては、硬化触媒(C-1)およびフェノール系硬化剤(C-2)から選択される1種以上を用いることができる。
硬化触媒(C-1)としては、たとえば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン類;2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン等の有機リン化合物;フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物;酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等、またはこの混合物が挙げられる。硬化触媒(C-1)として、これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。
硬化触媒(C-1)の含有量は、特に限定されないが、シート用樹脂組成物全量に対し、0.001質量%以上1質量%以下が好ましい。
【0096】
また、フェノール系硬化剤(C-2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリスフェノールメタン型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、フェノール系硬化剤(C-2)がノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂が好ましい。
【0097】
フェノール系硬化剤(C-2)の含有量は、特に限定されないが、シート用樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0098】
[カップリング剤(D)]
シート用樹脂組成物は、カップリング剤(D)を含んでもよい。カップリング剤(D)は、熱硬化性樹脂(A)と充填剤(B)との界面の濡れ性を向上させることができる。
【0099】
カップリング剤(D)としては、特に限定されないが、たとえば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種または2種以上のカップリング剤を使用することが好ましい。
カップリング剤(D)の含有量は、特に限定されないが、充填剤(B)100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、充填剤(B)100質量%に対して、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0100】
[フェノキシ樹脂(E)]
さらに、シート用樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(E)を含んでもよい。フェノキシ樹脂(E)を含むことにより放熱シート205の耐屈曲性を向上できる。
また、フェノキシ樹脂(E)を含むことにより、放熱シート205の弾性率を低下させることが可能となり、放熱シート205の応力緩和力を向上させることができる。
【0101】
また、フェノキシ樹脂(E)を含むと、粘度上昇により、流動性が低減し、ボイド等が発生することを抑制できる。また、放熱シート205を金属部材と密着させて用いる場合などに、金属とシート用樹脂組成物の硬化体との密着性を向上できる。これらの相乗効果により、パワーモジュール201の絶縁信頼性をより一層高めることができる。
【0102】
フェノキシ樹脂(E)としては、たとえば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹
脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0103】
フェノキシ樹脂(E)の含有量は、たとえば、シート用樹脂組成物全量に対して、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0104】
[その他の成分]
シート用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ほかに酸化防止剤、レベリング剤等を含むことができる。
【0105】
<第1冷却用水路210>
パワー半導体チップ202やリードフレーム207の上部には図示で左右に延びる第1冷却用水路210が設けられている。第1冷却用水路210は、後述する小径樹脂パイプ200が樹脂封止層209に埋め込まれた構成として設けられている。小径樹脂パイプ200は、必要とされる放熱条件に応じて複数設けられる。第1冷却用水路210には冷媒(例えば冷却水)が循環して、パワー半導体チップ202が発する熱を外部に放熱する。
【0106】
<小径樹脂パイプ200(樹脂中空体)>
小径樹脂パイプ200は、熱硬化性樹脂(A)からなる長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体である。なお、本実施形態では、小径樹脂パイプ200(樹脂中空体)をパワー半導体チップ202の冷却に適用した構成について例示しているが、その他に例えば、上述した第2の実施形態のモータ100の冷却水路10に適用することができる。
【0107】
熱硬化性樹脂(A)としては、たとえば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノキシ樹脂、およびアクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂(A)として、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよいが、エポキシ樹脂が好ましい。
【0108】
エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0109】
エポキシ樹脂の中でも、耐熱性および絶縁信頼性をより一層向上できる観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0110】
フェノール樹脂としては、たとえば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
フェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂であることが好ましい。
【0111】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記下限値以上であると、樹脂中空体用樹脂組成物のハンドリング性が向上し、小径樹脂パイプ200(樹脂中空体)を形成するのが容易となるとともに、小径樹脂パイプ200の強度が向上する。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記上限値以下であると、小径樹脂パイプ200の線膨張率や弾性率がより一層向上したり、熱伝導性がより一層向上したりする。
【0112】
[充填剤(B)]
本実施形態における充填剤(B)は、小径樹脂パイプ200の熱伝導性を向上させるとともに強度を得る観点から用いられる。
【0113】
充填剤(B)としては、熱伝導性フィラーであることが好ましい。より具体的には、充填剤(B)としては、熱伝導性と電気絶縁性とのバランスを図る観点から、たとえば、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、充填剤(B)は、アルミナ、窒化ホウ素であることが好ましい。
【0114】
充填剤(B)の含有量は、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対し、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。一方、熱伝導性の観点から、当該含有量は、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0115】
[硬化剤(C)]
樹脂中空体用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂を用いる場合、さらに硬化剤(C)を含むことが好ましい。
【0116】
硬化剤(C)としては、硬化触媒(C-1)およびフェノール系硬化剤(C-2)から選択される1種以上を用いることができる。
硬化触媒(C-1)としては、たとえば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン類;2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン等の有機リン化合物;フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物;酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等、またはこの混合物が挙げられる。硬化触媒(C-1)として、これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。
硬化触媒(C-1)の含有量は、特に限定されないが、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対し、0.001質量%以上1質量%以下が好ましい。
【0117】
また、フェノール系硬化剤(C-2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリスフェノールメタン型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、フェノール系硬化剤(C-2)がノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂が好ましい。
【0118】
フェノール系硬化剤(C-2)の含有量は、特に限定されないが、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0119】
[カップリング剤(D)]
樹脂中空体用樹脂組成物は、カップリング剤(D)を含んでもよい。カップリング剤(D)は、熱硬化性樹脂(A)と充填剤(B)との界面の濡れ性を向上させることができる。
【0120】
カップリング剤(D)としては、特に限定されないが、たとえば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種または2種以上のカップリング剤を使用することが好ましい。
カップリング剤(D)の含有量は、特に限定されないが、充填剤(B)100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、充填剤(B)100質量%に対して、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0121】
[フェノキシ樹脂(E)]
さらに、樹脂中空体用樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(E)を含んでもよい。フェノキシ樹脂(E)を含むことにより小径樹脂パイプ200の耐屈曲性を向上できる。
また、フェノキシ樹脂(E)を含むことにより、小径樹脂パイプ200の弾性率を低下させることが可能となり、小径樹脂パイプ200の応力緩和力を向上させることができる。
【0122】
また、フェノキシ樹脂(E)を含むと、粘度上昇により、流動性が低減し、ボイド等が発生することを抑制できる。
【0123】
フェノキシ樹脂(E)としては、たとえば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹
脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0124】
フェノキシ樹脂(E)の含有量は、たとえば、樹脂中空体用樹脂組成物全量に対して、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0125】
[その他の成分]
樹脂中空体用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ほかに酸化防止剤、レベリング剤等を含むことができる。
【0126】
<小径樹脂パイプ200のパイプ構造>
小径樹脂パイプ200が呈するパイプ構造の特徴は次の通りである。
小径樹脂パイプ200は、内面211の端部212がテーパ形状の無いストレートに形成された円筒パイプである。本実施形態では、断面が円形の円筒パイプを例示しているが、断面が楕円や多角形等の異形パイプであってもよい。
【0127】
小径樹脂パイプ200の内径D1は1.8mm以上3.5mm以下である。なお、小径樹脂パイプ200が異形パイプの場合は、内径の最狭幅をD1とする。内径D1の下限は、好ましくは1.9mm以上であり、より好ましくは2.0mm以上である。上限は好ましくは3.2mm以下であり、より好ましくは3.0mm以下である。
【0128】
小径樹脂パイプ200の外径D2は2.0mm以上4.5mm以下である。好ましくは2.1mm以上であり、より好ましくは2.2mm以上である。上限は好ましくは4.2mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。
【0129】
小径樹脂パイプ200の肉厚t(=(D2-D1)/2)が0.10mm以上1mm以下である。肉厚tの下限は、好ましくは0.15mm以上であり、より好ましくは0.20mm以上である。上限は、好ましくは0.9mm以下であり、より好ましくは0.8mm以下である。
【0130】
小径樹脂パイプ200の長さLは60mm以上250mm以下である。長さLの下限は、好ましくは70mm以上であり、より好ましくは80mm以上である。上限は、好ましくは230mm以下であり、より好ましくは200mm以下である。
【0131】
小径樹脂パイプ200の内径D1と長さLの比L/D1が20以上、125以下である。
比L/D1の下限は、好ましくは25以上であり、より好ましくは30以上である。上限は、好ましくは120以下であり、より好ましくは100以下である。例えば、長さLが60mm、内径D1が3mmの場合、比L/D1は20である。長さLが250mm、内径D1が2mmの場合、比L/D1は125である。
【0132】
<Cuベースプレート206>
Cuベースプレート206は、放熱部材の一種であって、銅の板状の基部と、基部の図示下側領域に設けられた第2冷却水路220とを有する。
【0133】
放熱部材として、Cuベースプレート206の他に、例えばアルミニウムのベースプレートが採用されてもよい。また、パワー半導体チップ202の発熱をCu回路204を介して取得して他に逃がす機能を有すれば、一般的な放熱部材に限らず、他の構成の一部(例えばハウジング)などであってもよい。
【0134】
<第2冷却水路220>
第2冷却水路220は、第1冷却用水路210と同様に、内部に冷媒が循環して、Cuベースプレート206の熱を外部に放出する機能を有する。第2冷却水路220は、Cuベースプレート206をくり抜いて形成し全ての内壁面がCuベースプレート206の一部として構成されてもよいし、Cuベースプレート206にパイプ配置構造を軽視しそこに小径樹脂パイプ200と同様の樹脂中空体を配置し、周囲を樹脂で埋めることで構成してもよい。
【0135】
<リードフレーム207>
リードフレーム207は、パワー半導体チップ202を支持固定し、また外部配線との電気的接続をするものであって、銅や鉄などの金属素材の薄板をプレス加工やエッチング加工等によって作られた部品である。
【0136】
<樹脂封止層209>
樹脂封止層209は、例えばモールド樹脂であって、パワー半導体チップ202と、シンタリング層203と、Cu回路204と、放熱シート205と、Cuベースプレート206と、リードフレーム207と、第1冷却用水路210をその内部に一体封止している。
【0137】
樹脂封止層209として、モールド樹脂の他に、シリコーンゲルなどが用いられてもよい。以下では、モールド樹脂で一体封止する構成について説明する。
【0138】
この封止において、リードフレーム207の一部が封止され、封止されない他部は、外部機器に接続される。また、Cuベースプレート206については、Cuベースプレート206の上面及び側面が、樹脂封止層209により覆われ封止されている。Cuベースプレート206の下面及び第2冷却水路220は樹脂封止層209に覆われていない。すなわち、樹脂封止層209は、Cuベースプレート206の基部5Aの厚さ方向の側面の一部又は全部を覆うように、パワー半導体チップ202を覆って封止している。ここでは、Cuベースプレート206の基部5Aの側面の全てが樹脂封止層209により覆われている構成を例示している。
【0139】
[樹脂封止層209(モールド樹脂)の成分]
樹脂封止層209のモールド樹脂は、熱硬化性樹脂(A)および無機充填材(B)を含む熱硬化性組成物(C)の硬化体である。熱硬化性組成物(C)には、硬化促進剤(D)が含まれる。
【0140】
[硬化促進剤(D)]
本実施形態の硬化促進剤(D)は、活性が強いものである。これにより、低温硬化を実現する一方で、特段の工夫をせずにそのまま用いると保存中に反応が進行する等し、保存性が低下する。
硬化促進剤(D)としては、たとえば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、または、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、イミダゾール等のアミジン系化合物;ベンジルジメチルアミン等の3級アミン、アミジニウム塩、またはアンモニウム塩等の窒素原子含有化合物等が挙げられる。
なかでも、硬化促進剤(D)が、イミダゾール系硬化促進剤またはリン系硬化促進剤であることが好ましい。イミダゾール系硬化促進剤として、例えば、アミジン系化合物のイミダゾール化合物を含むことがより好ましい。イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、イダゾール-2-カルボアルデヒド、5-アザベンゾイミダゾール、4-アザベンゾイミダゾール等が挙げられるがこれらに限定されない。中でも、2-メチルイミダゾールが好ましく用いられる。
【0141】
封止樹脂組成物中における硬化促進剤(D)の含有量は、とくに限定されないが、たとえば封止樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上4質量%以下であることがより好ましい。
硬化促進剤(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物を適切に硬化しやすくなる。一方、硬化促進剤(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、溶融状態を長くし、より低粘度状態を長くできる結果、低温封止を実現しやすくなる。
【0142】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、およびポリウレタン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0143】
エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。
エポキシ樹脂としては、具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、アルコキシナフタレン骨格含有フェノールアラルキルエポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール型エポキシ樹脂等の変性フェノール型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂等の複素環含有エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アルミニウム電解コンデンサの信頼性、および成形性のバランスを向上させる観点からは、アラルキル型エポキシ樹脂およびナフチルエーテル型エポキシ樹脂のうちの少なくとも一方を用いることがより好ましい。
【0144】
熱硬化性樹脂(A)の150℃におけるICI粘度は、無機充填材(B)の含有量により適宜設定されることが好適であるが、たとえば、上限値は、好ましくは60ポアズ以下であり、より好ましくは50ポアズ以下であり、さらに好ましくは40ポアズ以下である。これにより、封止用樹脂組成物の流動性を向上させ、また、低温封止を実現しやすくする。
一方、熱硬化性樹脂(A)の150℃におけるICI粘度の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01ポアズ以上としてもよい。
なお、1ポアズは、0.1Pa・sである。
【0145】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、とくに限定されないが、たとえば封止樹脂組成物全体に対して、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物の流動性や成型性をより効果的に向上させることができる。また、熱硬化性樹脂(A)の含有量を上記上限値以下とすることにより、アルミニウム電解コンデンサの信頼性をより効果的に向上させることができる。
【0146】
[無機充填材(B)]
無機充填材(B)としては、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、または木材等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0147】
上記のシリカとしては、結晶性シリカ(破砕状の結晶性シリカ)、溶融シリカ(破砕状のアモルファスシリカ、球状のアモルファスシリカ)、および液状封止シリカ(液状封止用の球状のアモルファス止シリカ)が挙げられる。なかでも、低温、低圧封止を実現しやすくする観点から、溶融球状シリカであることが好ましい。
【0148】
無機充填剤(B)の平均粒径は、特に限定されないが、典型的には1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~20μmである。平均粒径が適当であることにより、後述の造粒工程において、溶融混合物を含むシェルがより均一にコーティングされる等の効果が得られると考えられる。また、最終的に得られたコアシェル粒子を半導体封止材として使用するときに、金型キャビティ内での半導体素子周辺への充填性を高めることができる。
なお、無機充填材(B)の体積基準粒度分布は、市販のレーザー式粒度分布計(たとえば、株式会社島津製作所製、SALD-7000)で測定することができる。
【0149】
無機充填材(B)の含有量は、とくに限定されないが、たとえば封止樹脂組成物全体に対して、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。
無機充填材(B)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物により封止されたアルミニウム電解コンデンサの信頼性を効果的に向上させることができる。また、無機充填材(B)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0150】
本実施形態の封止樹脂組成物は、上記以外に、以下の成分を含んでもよい。
[硬化剤(C)]
封止樹脂組成物は、硬化剤(C)を含むことができる。硬化剤(C)としては、熱硬化性樹脂(A)と反応して硬化させるものであればとくに限定されないが、たとえば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、および、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2~20の直鎖脂肪族ジアミン、ならびに、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4-アミノフェニル)フェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、ジシアノジアミド等のアミン類;アニリン変性レゾール樹脂、ジメチルエーテルレゾール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル樹脂;ナフタレン骨格やアントラセン骨格のような縮合多環構造を有するフェノール樹脂;ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等を含む酸無水物等;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、封止樹脂組成物の低温・低圧封止を実現させる観点からは、ノボラック型フェノール樹脂またはフェノールアラルキル樹脂のうちの少なくとも一方を用いることがより好ましい。
【0151】
封止樹脂組成物中における硬化剤(C)の含有量は、とくに限定されないが、たとえば封止樹脂組成物全体に対して、1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
硬化剤(C)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物を適切に硬化しやすくなる。一方、硬化剤(C)の含有量を上記上限値以下とすることにより、適度な流動性を保持し、低温・低圧封止を実現しやすくなる。
【0152】
[カップリング剤(E)]
封止樹脂組成物は、たとえばカップリング剤(E)を含むことができる。カップリング剤(E)としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。
より具体的には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルーブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0153】
封止樹脂組成物中におけるカップリング剤(E)の含有量は、とくに限定されないが、たとえば封止樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。カップリング剤(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物中における無機充填材(B)分散性を良好なものとすることができる。また、カップリング剤(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性の向上を図ることができる。
【0154】
さらに、本実施形態の封止樹脂組成物は、上記成分の他に、たとえば、カーボンブラック等の着色剤;天然ワックス、合成ワックス、高級脂肪酸もしくはその金属塩類、パラフィン、酸化ポリエチレン等の離型剤;ハイドロタルサイト等のイオン捕捉剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力剤;水酸化アルミニウム等の難燃剤;酸化防止剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0155】
<小径樹脂パイプ200の製造方法>
図14のフローチャートを参照して小径樹脂パイプ200の製造方法を説明する。
【0156】
(金型準備工程S10)
小径樹脂パイプ200の成形品を製造するための金型として、合わせ面に凹部が形成された割型を用意する。凹部は円柱形状であって、小径樹脂パイプ200の外周面形状に対応する。例えば、二つの割型から構成される場合には、それぞれの割型の凹部が、小径樹脂パイプ200の外形形状の半周に対応する。
凹部には、軸方向(パイプ長さ方向)に延びるように、長尺直線状の金型ピン(コアピン)が配置される。金型ピンの外周面が、小径樹脂パイプ200の内周面に対応する。樹脂充填の際に金型ピンがズレないようにコアピンの両端が支持される。金型ピンを配置し型閉じた後に次の樹脂充填工程S20に移る。
【0157】
(樹脂充填工程S20)
凹部及び金型ピン(コアピン)とで構成される空隙(キャビティ)に、上述した熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)が高圧で充填される。このときの充填圧力は10MPa以上12MPa以下であることが好ましい。このような充填圧力で熱硬化性樹脂を充填することで、樹脂の流れをムラ無くスムーズにして、ショートショット等の充填不具合を抑制することができる。
【0158】
(金型ピン引抜工程S30)
充填された熱硬化性樹脂が硬化したら、所定の治具を用いて金型ピンを小径樹脂パイプ200から引き抜く。引き抜く力は、例えば、60kg重~130kg重とすることができ、小径樹脂パイプ200の肉厚が薄い場合には、引き抜く力を小さくし、離型時の座屈や表面傷等の発生を抑制する。
【0159】
(型開工程S40)
金型ピンから小径樹脂パイプ200を離型したのち(S30)、型開きして金型から小径樹脂パイプ200を取り出す。
【0160】
以上の小径樹脂パイプ200の製造方法によると、
充填時の樹脂の流れがスムーズであって金型の凹部表面や金型ピンのピン表面への貼り付きを抑制できていることから、離型時、特に金型ピンから小径樹脂パイプ200を引き抜くときをスムーズに行える。言い換えると、小径樹脂パイプ200に引き抜き用のテーパ(型抜きテーパ)が設けられていない場合であっても、破損することなく小径樹脂パイプ200を引き抜くことができる。すなわち、型抜きテーパのない直線状の小径樹脂パイプ200(樹脂中空体)を製造することができる。
【0161】
<パワーモジュール201の製造方法>
パワー半導体チップ202と、シンタリング層203と、Cu回路204と、放熱シート205と、Cuベースプレート206(第2冷却水路220を含む)と、リードフレーム207とを固定したセットと、上述の製造方法で製造された小径樹脂パイプ200を所定の金型に配置し、樹脂封止層209で封止することで、パワーモジュール201を製造する。
【0162】
<実施形態の特徴のまとめ>
本実施形態の特徴を纏めると次の通りである。
(1)小径樹脂パイプ200は、熱硬化性樹脂からなる長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体であって、
パイプ構造(すなわち小径樹脂パイプ200)の内径D1と長さLの比L/D1が20以上、125以下である。
熱硬化性樹脂を用いて長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体を成形する際に、内径D1と長さLの比L/D1を上記範囲とすることで、熱硬化性樹脂の材料および成形圧力を調整して、品質上の問題なく小径樹脂パイプ200を成形することができる。
小径樹脂パイプ200が熱硬化性樹脂からなるため、高温領域での使用が想定される製品に適用することができる。
(2)小径樹脂パイプ200において、パイプ構造の内面の端部102がテーパ形状の無いストレートに形成されている。
上述のように内径D1と長さLの比L/D1を上記範囲とすることで、熱硬化性樹脂の材料および成形圧力を調整することで、金型成形時においてパイプ内面がテーパ形状の無いストレートにすることができる。
(3)小径樹脂パイプ200において、熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂からなる。
特に高熱伝導のエポキシ樹脂を用いることで、パワーモジュール201の第1冷却用水路210や、モータの冷却水路等に活用することができ、絶縁性能と熱効率(熱伝導性)に優れた構造を実現できる。
(4)小径樹脂パイプ200において、パイプ構造の内径D1が1.8mm以上3.5mm以下である。
内径D1が上記範囲のような小径の樹脂中空体、すなわち小径樹脂パイプ200を熱硬化性樹脂で成形できるため、小径のパイプ形状を樹脂中空体として有する各種製品を実現できる。
(5)小径樹脂パイプ200において、パイプ構造の肉厚tが0.10mm以上1mm以下である。
肉厚tが上記範囲のような小径かつ薄肉の樹脂中空体、すなわち小径樹脂パイプ200を熱硬化性樹脂で成形できるため、小径かつ薄肉のパイプ形状を樹脂中空体として有する各種製品を実現できる。
(6)小径樹脂パイプ200において、パイプ構造の外径D2が2.0mm以上4.5mm以下である。
外径D2が上記範囲のような小径の樹脂中空体、すなわち小径樹脂パイプ200を熱硬化性樹脂で成形できるため、内径D1及び外径D2ともに小径のパイプ形状を樹脂中空体として有する各種製品を実現できる。
(7)小径樹脂パイプ200において、上述の樹脂中空体を一体に備えたモジュール(ここではパワーモジュール201)である。
小径樹脂パイプ200のようなパイプ形状をベースとした各種形状に対応した様々なモジュールに適用することが容易になる。
(8)小径樹脂パイプ200において、樹脂中空体が冷却用水路(第1冷却用水路210)として設けられている。パワーモジュール201やモータ等のモジュールにおいて、絶縁性能と熱効率(熱伝導性)に優れた冷却構造(水路構造)を実現できる。
(9)長尺直線状のパイプ構造を有する樹脂中空体(小径樹脂パイプ200)の製造方法であって、
パイプ構造の内周面に対応する外周面を有する長尺直線状の金型ピンを有する成形用金型に熱硬化性樹脂を充填する樹脂充填工程(S20)と、
金型ピンを引き抜き抜く金型ピン引抜工程(S30)と、
を有し、
パイプ構造の内径D1と長さLの比L/D1が20以上、125以下である。
樹脂中空体を金型ピンを有する金型(成形金型)を用いて製造できるため、パイプ内径部分に相当する構造を犠牲材を入れて成形後除去する製造方法と比べて、生産性を大幅に向上させることができる。
(10)小径樹脂パイプ200の製造法において、金型ピンは、引き抜き用のテーパ形状を有さない。
上述のように内径D1と長さLの比L/D1を上記範囲とすることで、熱硬化性樹脂の材料および成形圧力を調整することで、金型成形時においてパイプ内面がテーパ形状の無いストレートにすることができる。
引抜力を例えば60~130kg重とすること、テーパ形状の無い構造であっても、樹脂割れ等の成形不良を回避して離型を実現できる。
(11)小径樹脂パイプ200の製造法において、熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂からなる。
特に高熱伝導のエポキシ樹脂を用いることで、パワーモジュール201の第1冷却用水路210や、モータの冷却水路等に活用することができ、絶縁性能と熱効率(熱伝導性)に優れた構造を実現できる。
(12)小径樹脂パイプ200の製造法において、パイプ構造の前記内径D1が1.8mm以上3.5mm以下である。
内径D1が上記範囲のような小径の樹脂中空体、すなわち小径樹脂パイプ200を熱硬化性樹脂で成形できるため、小径のパイプ形状を樹脂中空体として有する各種製品を実現できる。
(13)小径樹脂パイプ200の製造法において、パイプ構造の肉厚tが0.10mm以上1mm以下である。
肉厚tが上記範囲のような小径かつ薄肉の樹脂中空体、すなわち小径樹脂パイプ200を熱硬化性樹脂で成形できるため、小径かつ薄肉のパイプ形状を樹脂中空体として有する各種製品を実現できる。
(14)小径樹脂パイプ200の製造法において、パイプ構造の外径D2が2.0mm以上4.5mm以下である。
外径D2が上記範囲のような小径の樹脂中空体、すなわち小径樹脂パイプ200を熱硬化性樹脂で成形できるため、内径D1及び外径D2ともに小径のパイプ形状を樹脂中空体として有する各種製品を実現できる。
(15)小径樹脂パイプ200の製造法において、成形用金型に前記熱硬化性樹脂を充填する際の充填圧力が10MPa以上12MPa以下である。
充填圧力を上記範囲に制御して硬化性樹脂を充填することで、充填時の樹脂の流れをムラ無くスムーズにして、ショートショット等の充填不具合を抑制することができる。
(16)上記の樹脂中空体(小径樹脂パイプ200)の製造方法を用いて、樹脂中空体を有するモジュール(パワーモジュール201)の製造方法である。
小径樹脂パイプ200のようなパイプ形状をベースとした各種形状に対応した様々なモジュールに適用することが容易になる
(17)パワーモジュール201の製造方法において、樹脂中空体を冷却用水路(第1冷却用水路210)として製造する方法である。
【0163】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0164】
本発明の第4の実施態様を、実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0165】
表1に上述した第4の実施形態の小径樹脂パイプ200に対応する樹脂パイプ(樹脂中空体)を熱硬化性樹脂で成形した成形品(実施例1~6)に用いた熱硬化性樹脂の配合例(wt%)を示す。実施例1~3が3W高熱伝導エポキシ材(シリカベース)、実施例4~6が5W高熱伝導エポキシ材(アルミナベース)である。表2に、実施例1~6について評価した結果を示す。
【0166】
実施例1~6の樹脂パイプ(樹脂中空体)の製造条件は次の通りである。
成形方式:トランスファー成形
金型温度:170℃
タブレット径:φ30mm
プランジャー径:φ35mm
タブレット予熱温度:90℃
材料注入圧力:8MPa
材料注入時間:8秒
硬化時間:180秒
【0167】
実施例1、4では、樹脂充填工程の樹脂の充填性が良好であり、また、金型ピン引抜工程におけるピン破損が無かった。引抜力130kg以下での離型が可能であることが確認できた。
【0168】
実施例2、5では、樹脂充填工程の樹脂の充填性が良好であり、また、金型ピン引抜工程におけるピン破損や成形不良が無かった。引抜力60kg以下での離型が可能であることが確認できた。
【0169】
実施例3、6では、樹脂充填工程の樹脂の充填性が良好であり、また、金型ピン引抜工程におけるピン破損が無かった。引抜力60kg以下での離型が可能であることが確認できた。ただし、薄肉の影響と考えられる離型時の座屈が発生することがあった。
【0170】
【表1】
【表2】
【0171】
この出願は、2020年12月9日に出願された日本出願特願2020-203912号および2021年4月9日に出願された日本出願特願2021-066387号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0172】
100 モータ
1 ケース
2 ロータ
4 ステータ
5 永久磁石
6 ヨーク部
7 ティース部
8 スロット
9 コイル
10 冷却水路
20、20A、20B、20C、20D ライナー部材
21 コイル収容部
50 樹脂層
51 内面樹脂層
52 外面樹脂層
55 樹脂層表面
55a、55b 端部
65 樹脂封止部
71 ティース部先端
72、73 壁面
75a 上面
75b 下面
100 モータ
200 樹脂パイプ
201 パワーモジュール
202 パワー半導体チップ
203 シンタリング層
204 Cu回路
205 放熱シート
206 Cuベースプレート
210 第1冷却用水路
220 第2冷却用水路
211 内面
212 端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14