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特許7594016スループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】スループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/20 20090101AFI20241126BHJP
   H04B 17/373 20150101ALI20241126BHJP
   H04W 16/18 20090101ALI20241126BHJP
   H04W 24/10 20090101ALI20241126BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20241126BHJP
【FI】
H04W16/20
H04B17/373
H04W16/18 110
H04W24/10
H04W84/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022546171
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028519
(87)【国際公開番号】W WO2022049955
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020147774
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「IoT/5G時代の様々な電波環境に対応した最適通信方式選択技術の研究開発」に関する委託業務、産業技術力強化法第17条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】竜田 明浩
(72)【発明者】
【氏名】島崎 安徳
(72)【発明者】
【氏名】江村 鉄兵
(72)【発明者】
【氏名】浅田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】濱邉 太一
【審査官】伊東 和重
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0037188(US,A1)
【文献】竜田 明浩、他4名,六面体アンテナを用いた受信電力とスループットの比較検討,電子情報通信学会2019年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2019年09月13日,p.28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26、17/00-17/40
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーコンを生成する第1の通信機が設置された空間内において、前記第1の通信機から送信される前記ビーコンを受信する複数のアンテナを有する電波受信機と、
前記電波受信機からの受信測定結果を処理するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記複数のアンテナのそれぞれが受信した前記ビーコンの受信電力と前記ビーコンを検知した前記複数のアンテナの数とに基づいて、前記第1の通信機と前記空間内において前記ビーコンが受信された地点の近傍に設置すると仮定した第2の通信機との間のスループットを推定する、
スループット推定システム。
【請求項2】
前記電波受信機は、
前記ビーコンを受信する複数のアンテナが配置され、2以上の異なる方向を向いた複数の面を有する、
請求項1に記載のスループット推定システム。
【請求項3】
前記電波受信機は、
前記空間内の複数の異なる地点のそれぞれに配置された時の前記ビーコンの前記地点ごとの前記受信測定結果を前記プロセッサに送り、
前記プロセッサは、
前記ビーコンの前記地点ごとの受信測定結果に対応する前記スループットを前記地点ごとに推定し、少なくとも1つの前記地点に対応する前記スループットの大きさを識別可能な形式で、前記空間内を模した画像に含めてモニタに表示する、
請求項1に記載のスループット推定システム。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記地点のそれぞれに対応する前記スループットの推定結果に基づいて、前記空間内のどの地点に前記第1の通信機を設置するべきかを推論し、前記推論した結果を出力する、
請求項1に記載のスループット推定システム。
【請求項5】
プロセッサにより実行されるスループット推定方法であって、
ビーコンを生成する第1の通信機が設置された空間内において、前記第1の通信機から送信される前記ビーコンを複数のアンテナを有する電波受信機で受信した受信測定結果を取得し、
前記受信測定結果に含まれる、前記複数のアンテナのそれぞれが受信した前記ビーコンの受信電力と前記ビーコンを検知した前記複数のアンテナの数とに基づいて、前記第1の通信機と前記空間内において前記ビーコンが受信された地点の近傍に設置すると仮定した第2の通信機との間のスループットを推定する、
スループット推定方法。
【請求項6】
プロセッサと、
ビーコンを生成する第1の通信機が設置された空間内において、前記第1の通信機から送信される前記ビーコンを複数のアンテナを有する電波受信機で受信した受信測定結果を記憶するメモリと、を備え、
前記プロセッサは、
前記メモリから読み出した前記受信測定結果に含まれる、前記複数のアンテナのそれぞれが受信した前記ビーコンの受信電力と前記ビーコンを検知した前記複数のアンテナの数とに基づいて、前記第1の通信機と前記空間内において前記ビーコンが受信された地点の近傍に設置すると仮定した第2の通信機との間のスループットを推定する、
スループット推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、例えばIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11nなどの高速な無線通信ネットワークをオフィス環境で設計する際に、アクセスポイントから放射される電波のクライアントPCによる受信電力を示すRSSI(Received Signal Strength Indicator)と平均的なスループットとの間に強い相関があり、直線的な関数で近似できることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Takeno, et al., “Radio Wave Propagations through Floors in the Adjacent of a High-speed Indoor Wireless Local Area Network Office Environment”, ISAP 2010, pp. 543-546, November. 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、エリア内の無線通信ネットワークのスループット評価精度を向上し、電波送信機の置局設計を効率的に支援するスループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ビーコンを生成する第1の通信機が設置された空間内において、前記第1の通信機から送信される前記ビーコンを受信する複数のアンテナを有する電波受信機と、前記電波受信機からの受信測定結果を処理するプロセッサと、を備え、前記プロセッサは、前記複数のアンテナのそれぞれが受信した前記ビーコンの受信電力と前記ビーコンを検知した前記複数のアンテナの数とに基づいて、前記第1の通信機と前記空間内において前記ビーコンが受信された地点の近傍に設置すると仮定した第2の通信機との間のスループットを推定する、スループット推定システムを提供する。
【0006】
また、本開示は、プロセッサにより実行されるスループット推定方法であって、ビーコンを生成する第1の通信機が設置された空間内において、前記第1の通信機から送信される前記ビーコンを複数のアンテナを有する電波受信機で受信した受信測定結果を取得し、前記受信測定結果に含まれる、前記複数のアンテナのそれぞれが受信した前記ビーコンの受信電力と前記ビーコンを検知した前記複数のアンテナの数とに基づいて、前記第1の通信機と前記空間内において前記ビーコンが受信された地点の近傍に設置すると仮定した第2の通信機との間のスループットを推定する、スループット推定方法を提供する。
【0007】
また、本開示は、プロセッサと、ビーコンを生成する第1の通信機が設置された空間内において、前記第1の通信機から送信される前記ビーコンを複数のアンテナを有する電波受信機で受信した受信測定結果を記憶するメモリと、を備え、前記プロセッサは、前記メモリから読み出した前記受信測定結果に含まれる、前記複数のアンテナのそれぞれが受信した前記ビーコンの受信電力と前記ビーコンを検知した前記複数のアンテナの数とに基づいて、前記第1の通信機と前記空間内において前記ビーコンが受信された地点の近傍に設置すると仮定した第2の通信機との間のスループットを推定する、スループット推定装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、エリア内の無線通信ネットワークのスループット評価精度を向上でき、電波送信機の置局設計を効率的に支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るスループット推定システムのシステム構成例を詳細に示すブロック図
図2】6面体アンテナ受信機の外観例を示す斜視図
図3】アクセスポイント、6面体アンテナ受信機の配置例を示す図
図4A】アクセスポイントが配置される住戸のレイアウト例を示す図
図4B】受信電力とスループットとの相関関係例を示すグラフ
図4C】ビーコンの検知面数とスループットとの相関関係例を示すグラフ
図4D】受信電力とビーコンの検知面数とスループットとの相関関係例を示すグラフ
図5】実施の形態1に係るスループット推定システムの動作手順例を時系列に示すフローチャート
図6図4Aの住戸を対象としたスループットの推定結果の大きさを示すヒートマップ画面例を示す図
図7図4Aの住戸を対象としたスループットの推定結果の大きさを示すヒートマップ画面例を示す図
図8図4Aの住戸を対象としたスループットの推定結果の大きさを示すヒートマップ画面例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至る経緯)
無線ネットワークで使用される電波送信機(例えば無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイント)の置局設計では、無線通信の対象となるエリア内の各地点での電波の受信電力を電波受信機(例えばPCなど)で計測するという電波調査が一般的に行われる。この電波調査において、エリア内の各地点で電波の受信電力だけでなく、実際に各地点で電波受信機が無線ネットワークを利用する時に想定されるスループットを同時に評価することができれば、より実効性の高い電波調査を実現できると期待されている。
【0011】
上述した非特許文献1では、スループットと受信電力との間に直線的な相関関係があることが開示されている。しかし、例えばIEEE802.11acあるいはIEEE802.11axのように高速なMIMO(Multi-Input Multi-Output)通信に対応した無線通信規格の使用が今後普及することを想定すると、電波調査におけるスループットの評価において上述した受信電力だけを用いた評価では不十分となる可能性があった。
【0012】
そこで、以下の実施の形態では、エリア内の無線通信ネットワークのスループット評価精度を向上し、電波送信機の置局設計を効率的に支援するスループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置の例を説明する。
【0013】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係るスループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0014】
以下の実施の形態1では、無線通信ネットワークで使用される第1の通信機(例えば無線LANのアクセスポイント)の置局設計の対象となるエリアとして住戸を例示して説明する。なお、以下の説明は置局設計の対象となるエリアが住戸に限定されるものではなく、住戸以外のエリア(例えば複数の店舗が併設されるショッピングモール)においても同様に適用可能である。
【0015】
先ず、実施の形態1に係るスループット推定システム100のシステム構成例について、図1および図2を参照して説明する。図1は、実施の形態1に係るスループット推定システム100のシステム構成例を詳細に示すブロック図である。図2は、6面体アンテナ受信機10の外観例を示す斜視図である。図1に示すように、スループット推定システム100は、電波受信機の一例としての6面体アンテナ受信機10と、演算装置20とを少なくとも含む。スループット推定システム100は、上述した第1の通信機の一例としてのアクセスポイントAP1をさらに含んでよい。
【0016】
本明細書において、X軸,Y軸,Z軸のそれぞれの方向は図2に示す矢印の方向に従う。X軸方向は6面体アンテナ受信機10の筐体の上下方向、Y軸方向は6面体アンテナ受信機10の筐体の左右方向、Z軸方向は6面体アンテナ受信機10の筐体の前後方向にそれぞれ相当する。
【0017】
アクセスポイントAP1は、置局設計の対象となるエリア(以下、単に「エリア」と略記)の空間内SPC1の箇所に設置される。なお、アクセスポイントAP1の設置箇所は固定でなく、置局設計を行う主体となるユーザによって適宜変更されてよい。例えば、ユーザが要求する想定スループット(しきい値)が得られない場合あるいは他の箇所に設置する場合には、アクセスポイントAP1は適宜、設置箇所を変えて設置されてよい。
【0018】
アクセスポイントAP1は、所定の周波数帯(例えば1.9GHz~2.4GHz帯)を扱う各種の無線通信方式に準拠した、通信機器相互の存在を検知するための無線信号(言い換えると、ビーコン)を生成し、変調した上で空間内SPC1にビーコンWV1(言い換えると、電波)を放射する。
【0019】
図2に示すように、6面体アンテナ受信機10は、四角柱形状(例えば直方体あるいは立方体)等の多面体(具体的には6面体)の筐体を有する。この筐体を構成する計6つの面(具体的には、前面1PL,左面2PL,後面,右面,上面5PLおよび下面)のそれぞれに対応するように、アンテナ部1,…,6(図1参照)が設けられている。6面体アンテナ受信機10の筐体は、いずれかの面(例えば下面)が、比較的電波を透過させる素材である樹脂製のテーブルTB1上に載置される(図3参照)。これにより、6面体アンテナ受信機10は、6面全てに設けられたアンテナ部1~6を用いて、エリアの空間内SPC1を伝搬するビーコンWV1(図1参照)を受信できる。
【0020】
図1に示すように、6面体アンテナ受信機10は、アンテナ部1~6と、MPU7aと、USB(Universal Serial Bus)ポート7bとを含む。アンテナ部1~6の構成はいずれも同一(共通)であり、説明を簡略化するためにアンテナ部1を例示して説明する。また、以下のアンテナ部1の説明は、他のアンテナ部の対応する構成として読み替えてよい。
【0021】
アンテナ部1は、水平偏波アンテナ1hと、垂直偏波アンテナ1vと、スイッチ1sと、アンテナ制御用プロセッサ1mとを有する。
【0022】
水平偏波アンテナ1hは、エリアの空間内SPC1(図3参照)を伝搬中のビーコンWV1(つまり、アクセスポイントAP1から放射されるビーコンWV1)を含む各種の信号源(図示略)からのビーコンの水平偏波を受信する。具体的には、水平偏波アンテナ1hは、所定の周波数帯(例えば1.9GHz~2.4GHz帯)の水平偏波を受信する。なお、水平偏波アンテナ1hが受信可能となる水平偏波の周波数帯は、1.9GHz~2.4GHzに限定されず、例えば920MHz帯あるいは5.0GHz帯でもよい。水平偏波アンテナ1hは、スイッチ1sと導通される。
【0023】
垂直偏波アンテナ1vは、エリアの空間内SPC1(図3参照)を伝搬中のビーコンWV1(つまり、アクセスポイントAP1から放射されるビーコンWV1)を含む各種の信号源(図示略)からのビーコンの垂直偏波を受信する。具体的には、垂直偏波アンテナ1vは、所定の周波数帯(例えば1.9GHz~2.4GHz帯)の垂直偏波を受信する。なお、垂直偏波アンテナ1vが受信可能となる垂直偏波の周波数帯は、1.9GHz~2.4GHzに限定されず、例えば920MHz帯あるいは5.0GHz帯でもよい。垂直偏波アンテナ1vは、スイッチ1sと導通される。
【0024】
スイッチ1sは、MPU7aのスイッチ切換制御プロセッサ7a2から6面体アンテナ受信機10の筐体を構成する面ごとに時分割で出力されるスイッチ切換信号に応じて、水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vをアンテナ制御用プロセッサ1mに接続する。言い換えると、スイッチ1sは、上述したスイッチ切換信号に応じて、水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vの出力をアンテナ制御用プロセッサ1mに出力する。スイッチ1sは、水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vで受信した電波信号を外部に出力する機能も有する。例えば、アンテナ部1は、スイッチ1sを介して測定機器(図示略、例えばスペクトラムアナライザもしくはネットワークアナライザ)に信号を出力することも可能である。電波信号を入力された測定機器(上述参照)は、電波信号に対して、所定の処理を行った結果を、USBポート7bを介して6面体アンテナ受信機10に出力してもよい。また、6面体アンテナ受信機10は、測定機器(上述参照)によって処理された電波信号を、他のUSBポート7bを介して接続された演算装置20に出力しても良い。このようにすると、電波信号自体に対する前処理や、混入したノイズの除去などが演算処理前に行える。よってより良い精度でスループットの推定が可能となる。
【0025】
アンテナ制御用プロセッサ1mは、所定の周波数帯(上述参照)を扱う各種の無線通信方式に準拠した無線信号を処理可能な回路を用いて構成される。ここでいう無線通信方式は、例えば、DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)、Bluetooth(登録商標)、Wi-fi(登録商標)等の無線LANである。アンテナ制御用プロセッサ1mは、スイッチ1sに接続された水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vの出力(例えば受信電力もしくは受信電界強度)をパラレル形式のデータとして取り出し、そのパラレル形式のデータをMPU7aのデータ変換プロセッサ7a1に出力する。
【0026】
MPU(Micro Processing Unit)7aは、6面体アンテナ受信機10の制御部として機能し、6面体アンテナ受信機10の各部の動作を全体的に統括するための制御処理、6面体アンテナ受信機10の各部との間のデータの入出力処理、データの演算処理、およびデータの記憶処理を行う。MPU7aは、データ変換プロセッサ7a1と、スイッチ切換制御プロセッサ7a2とを含む。
【0027】
MPU7aは、アクセスポイントAP1からのビーコンWV1の受信電力を測定するための測定コマンドが演算装置20から送られると、USBポート7bを介してその測定コマンドを受信する。MPU7aは、測定コマンドの受信に応じて受信測定モードに移行し、アクセスポイントAP1からのビーコンWV1の受信電力の測定を開始するように6面体アンテナ受信機10の各部を制御する。例えば、MPU7aは、受信測定モード時に、6つの面のそれぞれに配置されたアンテナ(具体的には、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナ)を用いて、ビーコンWV1の受信および検知をするように各アンテナ部1~6を制御する。このように、6面体アンテナ受信機10は、演算装置20から送られる測定コマンドに応じて、受信測定モード(つまり、アクセスポイントAP1からのビーコンWV1)の受信および検知を行うことができる。
【0028】
データ変換プロセッサ7a1は、例えばUART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)回路を用いて構成され、それぞれのアンテナ制御用プロセッサ(例えばアンテナ制御用プロセッサ1m~6m)により出力されたパラレル形式のデータをシリアル形式のデータに変換する。このデータ(例えば、アクセスポイントAP1を含む各種の信号源から送信されたビーコンの受信電力あるいは受信電界強度)は、USBポート7bを介して演算装置20に入力される。
【0029】
スイッチ切換制御プロセッサ7a2は、6面体アンテナ受信機10のそれぞれの面のうちいずれかの面の水平偏波アンテナまたは垂直偏波アンテナの出力をMPU7aに入力するためのスイッチ切換信号を時分割に生成する。スイッチ切換制御プロセッサ7a2は、GPIO(General-purpose Input/Output)端子を有し、このGPIO端子を介して、上述したスイッチ切換信号をそれぞれの面のスイッチ(例えばスイッチ1s~6s)に出力する。これにより、スイッチ切換信号により、6面体アンテナ受信機10が有する合計12個のアンテナのうち、所定時間毎にアンテナ部1の水平偏波アンテナ1hの出力、アンテナ部1の垂直偏波アンテナ1vの出力、…、アンテナ部6の水平偏波アンテナ6hの出力、アンテナ部6の垂直偏波アンテナ6vの出力の順に周期的に、いずれかのアンテナの出力値だけが排他的にMPU7aに入力可能となる。
【0030】
USBポート7bは、6面体アンテナ受信機10と演算装置20とを接続する。
【0031】
なお、上述した説明は、6面体アンテナ受信機10がビーコンを受信する場合を例示した説明であるが、6面体アンテナ受信機10はビーコンを送信するための構成を有していると考えてもよい。つまり、6面体アンテナ受信機10は、アンテナ部1~6のうち時分割でいずれかのアンテナ部を使用するように切り換え、さらに、そのアンテナ部に設けられた水平偏波アンテナまたは垂直偏波アンテナからビーコンを時分割に送信してもよい。
【0032】
6面体アンテナ受信機10は、それぞれの面を構成する面材としての積層基板と、6面体アンテナ受信機10の筐体内部に内方されるフレーム体とを主要な構成として有する。積層基板とフレーム体とは、多面体(例えば六面体)である、6面体アンテナ受信機10の筐体を構成する。6面体アンテナ受信機10の筐体は例えば六面体であり、図2では立方体である場合を例示している。積層基板は、立方体のそれぞれの面に、例えば固定ねじ35により貼り付けられている。
【0033】
なお、6面体アンテナ受信機10の筐体を構成する面材は、積層基板に限定されない。また、多面体は、六面体に限定されず、例えば四面体、12面体等であってもよい。また、6面体アンテナ受信機10の形状は、6面体でなく角柱状でもよく、複数の面を有する立体形状であればよい。
【0034】
6面体アンテナ受信機10は、1つの上面5PLに配置された積層基板と、4つの側面(例えば、前面1PL、左面2PL、右面、後面)のそれぞれに配置された積層基板と、1つの下面に配置された積層基板とにそれぞれアンテナ(水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナ)が設けられている。これにより、6面体アンテナ受信機10は、到来するビーコンを計6つの方向から受信することが可能になる。なお、6面体アンテナ受信機10を所定の被載置面に固定してビーコンを測定する際には、6面体アンテナ受信機10の下面には、アンテナを備えた積層基板が省略されてもよい。
【0035】
それぞれの積層基板において配置されたアンテナは、例えば、ダイポールアンテナである。ダイポールアンテナは、例えば積層基板上に形成され、表面の金属箔をエッチング等することによってダイポールアンテナのパターンが形成される。複数の層のそれぞれは、例えば銅箔やガラスエポキシ等で構成される。
【0036】
6面体アンテナ受信機10の立方体の筐体のそれぞれの積層基板には、例えば1.9GHz~2.4GHz帯の水平偏波アンテナ1h~6hと、1.9GHz~2.4GHz帯の垂直偏波アンテナ1v~6vとが表面(上層)に設けられている。
【0037】
積層基板を構成するためにAMC(Artificial Magnetic Conductor)が用いられている。AMCは、PMC(Perfect Magnetic Conductor)特性を有する人工磁気導体であり、所定の金属パターンにより形成される。AMCを利用することで、6面体アンテナ受信機10のアンテナを積層基板に対して平行に配置することができ、全体のサイズを小さくすることができる。また、AMCは、接地導体によって、他の方向からのビーコンを受けないようにすることができ、アンテナの高利得化ができる。
【0038】
6面体アンテナ受信機10は、積層基板の四辺の縁部に、各辺に沿って複数の接地用ビア導体61が直線上に並んで設けられる。なお、接地用ビア導体61は、等間隔に並んで配置されてもよい。また、それぞれの接地用ビア導体61は、積層基板に配置されたアンテナ導体に対応した周波数帯(言い換えると、波長)に応じて、6面体アンテナ受信機10の外部からのビーコンを遮蔽可能な程度に十分なピッチ(間隔)を以て設けられてよい。接地用ビア導体61は、積層基板の上面から下面に貫通して設けられる。
【0039】
6面体アンテナ受信機10は、積層基板が例えば四角形状に形成される。積層基板は、それぞれの辺部に、その辺部の中央に設けられた一つの段部71を境に、その辺部に沿う方向で凹部と凸部とが形成される。即ち、6面体アンテナ受信機10の筐体は、図2に示すように、隣接する積層基板同士の凹部と凸部とを嵌め合わせて、組み合わされている。
【0040】
演算装置20は、6面体アンテナ受信機10と有線のケーブル(例えばUSBケーブル)を介して接続され、6面体アンテナ受信機10により受信されたビーコンの電波強度(例えば、受信電力もしくは受信電界強度)を示す受信測定結果のデータを入力する。演算装置20は、入力されたビーコンの電波強度を用いて、エリア内に設置された通信端末30(第2の通信機の一例)が位置する地点ごとに推定する。また、演算装置20は、スループットの推定結果を比較等することで、エリアの空間内SPC1のどの箇所にアクセスポイントを設置するべきかを判断(推論)する。また、演算装置20は、通信端末30が位置する地点ごとのスループットの推定結果に基づいて、エリア内の通信環境(例えば通信端末30の位置ごとのスループットの大きさを示すヒートマップ)を生成してタッチパネル16に表示する(図6図7図8参照)。
【0041】
スループット推定装置の一例としての演算装置20は、プロセッサ11と、ROM12と、RAM13と、ストレージ14と、入出力インターフェース15と、タッチパネル16と、スピーカ17、通信部18とを含む。ROM12、RAM13、ストレージ14、入出力インターフェース15、タッチパネル16、スピーカ17および通信部18は、それぞれプロセッサ11との間でデータもしくは情報の入出力が可能に内部バス等で接続される。
【0042】
プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて構成される。プロセッサ11は、演算装置20の制御部として機能し、演算装置20の各部の動作を全体的に統括するための制御処理、演算装置20の各部との間のデータもしくは情報の入出力処理、データの演算処理、およびデータもしくは情報の記憶処理を行う。プロセッサ11は、ストレージ14に記憶されたプログラム14aに従って動作する。プロセッサ11は、処理の実行時にROM12およびRAM13を使用し、後述する演算処理により生成された演算結果データ14c、またはその演算結果データ14cに基づく表示データ14dをタッチパネル16に出力して表示させる。
【0043】
プロセッサ11は、6面体アンテナ受信機10から入力されたビーコンの電波強度を用いて、エリア内に設置されたアクセスポイントAP1とエリアの空間内SPC1においてビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30(図3参照)との間のスループットを、通信端末30が位置する地点ごとに推定する。また、プロセッサ11は、スループットの推定結果を比較等することで、エリアの空間内SPC1のどの箇所にアクセスポイントを設置するべきかを判断(推論)する。また、プロセッサ11は、通信端末30が位置する地点ごとのスループットの推定結果に基づいて、エリア内の通信環境(例えば通信端末30の位置ごとのスループットの大きさを示すヒートマップ)を生成してタッチパネル16に表示する(図6図7図8参照)。
【0044】
ROM12は、読み出し専用のメモリであり、OS(Operating System)のプログラムおよびデータを予め格納する。このOSのプログラムは、演算装置20の起動に伴って実行される。
【0045】
RAM13は、書き込みおよび読み出しが可能なメモリであり、スループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理の実行時にワークメモリとして用いられ、スループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理の際に用いるまたは生成されるデータもしくは情報を一時的に保持する。
【0046】
ストレージ14は、スループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理を実行するためのプログラム14aと、スループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理に用いる演算基礎データ14bと、スループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理の結果に相当する演算結果データ14cと、その演算結果データ14cに基づいて生成される表示データ14dとを格納する。演算基礎データ14bは、例えばスループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理をそれぞれ実行する際の数式もしくはテーブルの情報、エリア内のレイアウト(例えば図4A参照)のデータ、入出力インターフェース15を介して入力される6面体アンテナ受信機10の受信測定結果(上述参照)のデータ、アクセスポイントAP1に関する情報が含まれる。
【0047】
スループットの推定処理、アクセスポイントの設置箇所の推論処理あるいはヒートマップの生成処理を実行するためのプログラム14aは、ストレージ14からプロセッサ11を介してRAM13に読み出されて、プロセッサ11によって実行される。また、このプログラム14aは、ストレージ14以外の記録媒体(図示略、例えばCD-ROM)に記録され、対応する読取装置(図示略、例えばCD-ROMドライブ装置)によりRAM13に読み出されてもよい。
【0048】
入出力インターフェース15は、6面体アンテナ受信機10との間のデータもしくは情報の入出力を行うためのインターフェースとして動作する。入出力インターフェース15は、アクセスポイントAP1から放射されるビーコンWV1の受信測定結果を6面体アンテナ受信機10から入力してプロセッサ11に送る。なお、図1では、インターフェースを便宜的に「I/F」と略記している。
【0049】
タッチパネル16は、ユーザとの間のヒューマンインターフェースとしての機能を有し、ユーザの操作を入力する。言い換えると、タッチパネル16は、演算装置20により実行される各種の処理における各種の設定に用いられる。また、タッチパネル16は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)または有機EL(Electroluminescence)等の表示デバイスを用いて構成されてよく、各種の設定の内容あるいは演算装置20の動作状態、各種の演算結果および演算結果に対応する表示データ14dを表示する。
【0050】
スピーカ17は、例えば受信測定モード(上述参照)の期間が経過したとプロセッサ11により判定された場合に、プロセッサ11からの指示に基づいて、受信測定モードが終了したことを示す音声を出力する。また、スピーカ17は、例えば受信測定モード(上述参照)の期間が開始したとプロセッサ11により判定された場合に、プロセッサ11からの指示に基づいて、受信測定モードが開始したことを示す音声を出力してもよい。
【0051】
通信部18は、図1に図示されていない測定機器(例えばスペクトラムアナライザあるいはネットワークアナライザ)との間で有線あるいは無線の通信を行うための通信回路を用いて構成される。なお、通信部18は、上述した測定機器以外の他の通信装置(図示略)との間で有線あるいは無線の通信を行ってもよい。
【0052】
図3は、アクセスポイントAP1、6面体アンテナ受信機10の配置例を示す図である。例えばアクセスポイントAP1はエリアの空間内SPC1(例えば住戸の天井面)に当接するように配置される。なお、アクセスポイントAP1は、天井面に限らず、壁面にかけて設置されてもよい。アクセスポイントAP1は、電源がオンされると、ユーザが要求する無線通信方式(例えばIEEE802.11acあるいはIEEE802.11axなどに準拠した無線LAN方式)に応じた無線信号(例えばビーコンWV1)を生成して放射する。
【0053】
受信測定モードの期間中、6面体アンテナ受信機10は、底部にキャスターが取り付けられた三脚スタンドSTD1の頂部に設けられた樹脂製のテーブルTB1上に配置される。この三脚スタンドSTD1はユーザによって簡単に移動可能となっている。6面体アンテナ受信機10は樹脂製のテーブルTB1上に配置されているので、6面体アンテナ受信機10のうちテーブルTB1と接する面(例えば図2の上面5PLと対向する下面)におけるビーコンWV1の受信の阻害が抑制可能となる。
【0054】
また、図3に示すように、演算装置20は三脚スタンドSTD1の載置台上にかけるように配置されてもよい。図3では、6面体アンテナ受信機10と演算装置20とがUSBケーブルで接続されている様子が図示されている。演算装置20は、6面体アンテナ受信機10の受信測定モードの期間中に測定されたビーコンWV1の受信測定結果のデータを用いて、アクセスポイントAP1とエリアの空間内SPC1のビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを、通信端末30が位置する地点ごとに推定する。ここで、通信端末30は6面体アンテナ受信機10の近傍に位置するので、通信端末30が位置する地点は、6面体アンテナ受信機10が位置する地点と言える。
【0055】
次に、スループットの推定に関する実験例について、図4A図4Dを参照して説明する。図4Aは、アクセスポイントAP1が配置される住戸RM1のレイアウト例を示す図である。図4Bは、受信電力とスループットとの相関関係例を示すグラフである。図4Cは、ビーコンの検知面数とスループットとの相関関係例を示すグラフである。図4Dは、受信電力とビーコンの検知面数とスループットとの相関関係例を示すグラフである。
【0056】
図4AはアクセスポイントAP1が配置された住戸RM1のレイアウトだけが図示されているが、この実験では、住戸RM1と同様なレイアウトを有する他の住戸(例えば2住戸)および住戸の建物周囲の道路の計4地点においてアクセスポイントAP1が順に配置され、それぞれの地点でビーコンWV1が放射された。住戸RM1は3DKの鉄筋コンクリート造りで、広さは44~49平方メートルである。アクセスポイントAP1は、例えば住戸RM1の和室(3)に配置された。6面体アンテナ受信機10は、それぞれの地点に設置(仮設置)されたアクセスポイントAP1から放射されるビーコンWV1の受信測定モードの期間中、ビーコンWV1の受信および検知を行う。受信測定モードが終了すると、受信測定結果のデータが演算装置20に入力された。残り3地点のそれぞれでも同様に6面体アンテナ受信機10によるビーコンWV1の受信測定が実行され、合計4地点のそれぞれの受信測定結果のデータが演算装置20に蓄積された。
【0057】
演算装置20のプロセッサ11は、合計4地点のそれぞれの受信測定結果のデータを用いて、6面体アンテナ受信機10の6つの面のそれぞれに設けられたアンテナ部(具体的には、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの組)がビーコンWV1を受信した時の受信電力を用いて、アクセスポイントAP1とビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを推定してもよい(図4B参照)。図4Bの横軸は受信電力[dBm]を示し、図4Bの縦軸はスループット[Mbps]を示す。演算装置20のプロセッサ11は、受信電力に対するスループットの特性PTY1を例えば一次関数(直線)で近似し(y=ax1+d)、図4Bの近似式の傾きaを算出する。ここで、yはスループット、x1は受信電力、aは図4Bの近似式の傾きを示す。
【0058】
また、演算装置20のプロセッサ11は、合計4地点のそれぞれの受信測定結果のデータを用いて、6面体アンテナ受信機10の6つのアンテナ部(具体的には、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの組)のそれぞれがビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数を判定してもよい。例えば、演算装置20のプロセッサ11は、ビーコンWV1の受信を検知した時の受信電力のしきい値をストレージ14の演算基礎データ14bから読み出し、受信電力としきい値との比較に応じて、上述したアンテナ数を判定する。演算装置20のプロセッサ11は、アンテナ数の判定結果を用いて、アクセスポイントAP1とビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを推定する(図4C参照)。図4Cの横軸はビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数を示し、図4Cの縦軸はスループット[Mbps]を示す。演算装置20のプロセッサ11は、ビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数に対するスループットの特性PTY2を例えば一次関数(直線)で近似し(y=bx2+e)、図4Cの近似式の傾きbを算出する。ここで、yはスループット、x2はビーコンの検知面数、bは図4Cの近似式の傾きを示す。
【0059】
演算装置20のプロセッサ11は、受信電力およびビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数(言い換えると、図4B図4Cのそれぞれの近似式の傾きa,b)を用いた重回帰分析により、受信電力およびアンテナ数に対するスループットを推定する(図4D参照)。なお、演算装置20のプロセッサ11は、上述した受信電力に対するスループットを分析するための単回帰分析、上述したアンテナ数に対するスループットを分析するための単回帰分析のそれぞれの実行を必須とせず、実質的には受電電力およびアンテナ数を用いた1回の重回帰分析によってスループットを推定してよい。図4Dでは、受信電力の軸とアンテナ数の軸とに対するスループットの軸が設定されている。具体的には、演算装置20のプロセッサ11は、近似式の傾きa,b(定数)と受信電力x1(変数)とビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数x2(変数)を用いた近似式(y=ax1+bx2+c)により、アクセスポイントAP1とビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30(図3参照)との間のスループットを推定する。これにより、非特許文献1の受信電力の測定値だけを用いたスループットの推定に比べて、スループットの推定精度が向上する。
【0060】
次に、実施の形態1に係るスループット推定システム100の動作手順例について、図5を参照して説明する。図5は、実施の形態1に係るスループット推定システム100の動作手順例を時系列に示すフローチャートである。なお、各地点においては受信電力およびビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数に加えて、重回帰分析に必要なスループット実測値を、測定を実施する地点のうちの数地点で計測している。以下のステップにおいて各測定地点においてスループットの推定値と実測値が両方存在する地点においては、処理の対象となるスループット推定値を実測値で代替してもよい。
【0061】
図5において、ユーザにより、アクセスポイントAP1がエリア内の箇所(例えば図4Aの住戸RM1の和室(3)参照)に仮設置され、電源がオンされる(St1)。アクセスポイントAP1が仮設置される箇所は、エリアのレイアウト(間取り)に応じてユーザにより予め決められることが好ましい。これにより、アクセスポイントAPは、ビーコンWV1を生成してエリアの空間内SPC1に放射する(図3参照)。また、ユーザによる三脚スタンドSTD1の移動により、6面体アンテナ受信機10がエリア内のいずれかの地点に配置される。
【0062】
6面体アンテナ受信機10は、配置された地点において、6つの面のそれぞれに設けられたアンテナ部(具体的には、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの組)を用いて、アクセスポイントAP1から放射されるビーコンWV1を受信する(St2)。6面体アンテナ受信機10は、6つの面のそれぞれに設けられたアンテナ部(上述参照)でビーコンWV1を受信した時の受信電力を計測する(St2)。
【0063】
ステップSt2の後、ユーザによる三脚スタンドSTD1の移動により、6面体アンテナ受信機10がエリア内の他の地点に配置される(St3)。
【0064】
6面体アンテナ受信機10は、配置された地点において、6つの面のそれぞれに設けられたアンテナ部(具体的には、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの組)を用いて、アクセスポイントAP1から放射されるビーコンWV1を受信する(St4)。6面体アンテナ受信機10は、6つの面のそれぞれに設けられたアンテナ部(上述参照)でビーコンWV1を受信した時の受信電力を計測する(St4)。
【0065】
ここで、6面体アンテナ受信機10がユーザの要求する全ての地点(言い換えると、受信地点)に配置されたか否かが判断される(St5)。6面体アンテナ受信機10がユーザの要求する全ての地点(言い換えると、受信地点)に配置されていない場合には(St5、NO)、6面体アンテナ受信機10がユーザの要求する全ての地点(言い換えると、受信地点)に配置されるまでステップSt3,St4の処理が繰り返される。
【0066】
一方、6面体アンテナ受信機10がユーザの要求する全ての地点(言い換えると、受信地点)に配置された場合には(St5、YES)、演算装置20のプロセッサ11は、複数地点での受信電力とビーコンWV1の受信を検知したアンテナ数とを用いて重回帰分析し、エリアの空間内SPC1でのビーコンWV1の受信位置近傍に位置すると仮定した通信端末30におけるスループットを推定する(St6)。
【0067】
なお、ステップSt5の判断はユーザにより行われてもよいし、ソフトウェア処理として演算装置20のプロセッサ11によって行われてもよい。例えば、プロセッサ11は、6面体アンテナ受信機10が配置された地点の位置情報を外部サーバあるいは6面体アンテナ受信機10から取得して受信測定結果のデータと紐付けしておけば、予め全ての配置される地点の位置情報のそれぞれと紐付けされた受信測定結果のデータを取得したか否かを判定すればよい。また、プロセッサ11は、6面体アンテナ受信機10がユーザの要求する全ての地点(言い換えると、受信地点)に配置されたか否かを示す信号をユーザが操作する端末(図示略)から通信部18を介して受信することで、6面体アンテナ受信機10がユーザの要求する全ての地点(言い換えると、受信地点)に配置されたか否かを判定してもよい。
【0068】
演算装置20のプロセッサ11は、ステップSt6によるスループットの推定結果がユーザの要求するスループットのしきい値(例えば通信端末30の利用環境に応じて最低限必要となるスループットの目標値)を満たすか否かを判定する(St7)。スループットの推定結果がユーザの要求するスループットのしきい値(例えば通信端末30の利用環境に応じて最低限必要となるスループットの目標値)を満たすか否かの判定にあたっては種々の指標が考えられる。例えば各測定地点のスループットの推定結果の平均値をしきい値と比較する方法、または各測定地点のスループットの最低値をしきい値と比較する方法、または各測定地点のスループットがしきい値を超えた地点と全測定地点との割合が第2のしきい値を超えているか否かを判定する方法などが考えられる。
【0069】
また、実際に設置されるアクセスポイントの型番と計測(言い換えると、置局設計)で使用したアクセスポイントAP1の型番との差異に基づいて、しきい値または推定値を変更した上で、判定を行うとより精度よくスループットを推定することができる。例えば計測(言い換えると、置局設計)においてはアンテナ数が3本である型番のアクセスポイントAP1を使用した場合において、実際にアンテナ数が6本である型番のアクセスポイントを使用しようとする場合、推定値の2~3倍が実測値となることが予測される。そのため、プロセッサ11は、予め演算装置20内に記録されたアクセスポイントAP1および型番、アンテナ数を示すDB(データベース)を有し、そのデータベースを参照し、推定値またはしきい値に対して、所定の倍率を掛け合わせる処理を行っても良い。つまり、計測(言い換えると、置局設計)に使用したアクセスポイントAP1のアンテナの本数と、実際に使用するアクセスポイントのアンテナの本数との関係に基づいて、利用環境に応じて最低限必要となるスループットの目標値を変更しても良い。
【0070】
そこで、演算装置20のプロセッサ11は、しきい値を満たさないと判定された場合(St7、NO)、エリア内に設置されるべきアクセスポイントAP1の台数を現状の使用台数値よりプラス1とするべきであると設定する(St8)。ステップSt8の後、スループット推定システム100の動作はステップSt1に戻り、アクセスポイントAP1の設置位置が変更される。なお、ステップSt8でアクセスポイントAP1の使用台数値がプラス1と設定された場合には、元々仮設置されているアクセスポイントAP1の設置位置は変わらずあるいは変更されながら、ステップSt1においてさらにもう1台のアクセスポイントAP1が仮設置される。
【0071】
一方、演算装置20のプロセッサ11は、ステップSt6によるスループットの推定結果がユーザの要求するスループットのしきい値(上述参照)を満たすと判定した場合(St7、YES)、エリア全体のスループットが高くなるようにアクセスポイントAP1の設置するべき位置および台数を推論して決定する(St9)。例えば、演算装置20のプロセッサ11は、アクセスポイントAP1の設置位置および台数の情報を変数とし、ステップSt6による6面体アンテナ受信機10の配置された地点ごとのスループットの推定結果とを用いたエリア内の通信端末30におけるスループットの評価関数をシミュレーションによって導入し、この評価関数の最大値(極大値)が得られる時のアクセスポイントAP1の設置するべき位置および台数を決定する。なお、推論の他の例としては、アクセスポイントAP1の設置するべき位置および台数を上述のステップ内において実際にアクセスポイントAP1を配置した位置および台数として決定してもよい。
【0072】
図6は、図4Aの住戸を対象としたスループットの推定結果の大きさを示すヒートマップ画面例を示す図である。図7は、図4Aの住戸を対象としたスループットの推定結果の大きさを示すヒートマップ例を示す画面図である。図8は、図4Aの住戸を対象としたスループットの推定結果の大きさを示すヒートマップ例を示す画面図である。図6図8のヒートマップHMP1~HMP3を示すヒートマップ画面WD1~WD3は、例えば演算装置20のタッチパネル16に表示される。
【0073】
図6に示すように、演算装置20のプロセッサ11は、住戸RM1(エリアの一例)内の地点ごとのスループットの大きさを視覚的に色で表現したヒートマップHMP1の画像を生成する。ヒートマップHMP1を構成するそれぞれのバーの濃淡はスループットの大きさを示す。例えば図6のヒートマップHMP1は、6面体アンテナ受信機10の6つの面のそれぞれに配置されたアンテナ(具体的には、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナ)が受信した水平偏波および垂直偏波の両方の受信電力に基づいて推定されたスループットの大きさを視覚的に示す。演算装置20のプロセッサ11は、住戸RM1のレイアウトを示す画像データを演算基礎データ14bから読み出し、このレイアウトを示す画像データに上述したヒートマップHMP1の画像を重畳したヒートマップ画面WD1を生成してタッチパネル16に表示する。
【0074】
図7に示すように、演算装置20のプロセッサ11は、住戸RM1(エリアの一例)内の地点ごとのスループットの大きさを視覚的に色で表現したヒートマップHMP2の画像を生成する。ヒートマップHMP2を構成するそれぞれのバーの濃淡はスループットの大きさを示す。例えば図7のヒートマップHMP2は、6面体アンテナ受信機10の6つの面のそれぞれに配置されたアンテナ(具体的には、水平偏波アンテナ)が受信した水平偏波の受信電力に基づいて推定されたスループットの大きさを視覚的に示す。演算装置20のプロセッサ11は、住戸RM1のレイアウトを示す画像データを演算基礎データ14bから読み出し、このレイアウトを示す画像データに上述したヒートマップHMP2の画像を重畳したヒートマップ画面WD2を生成してタッチパネル16に表示する。
【0075】
図8に示すように、演算装置20のプロセッサ11は、住戸RM1(エリアの一例)内の地点ごとのスループットの大きさを視覚的に色で表現したヒートマップHMP3の画像を生成する。ヒートマップHMP3を構成するそれぞれのバーの濃淡はスループットの大きさを示す。例えば図8のヒートマップHMP1は、6面体アンテナ受信機10の6つの面のそれぞれに配置されたアンテナ(具体的には、垂直偏波アンテナ)が受信した垂直偏波の受信電力に基づいて推定されたスループットの大きさを視覚的に示す。演算装置20のプロセッサ11は、住戸RM1のレイアウトを示す画像データを演算基礎データ14bから読み出し、このレイアウトを示す画像データに上述したヒートマップHMP3の画像を重畳したヒートマップ画面WD3を生成してタッチパネル16に表示する。
【0076】
以上により、実施の形態1に係るスループット推定システム100は、ビーコンWV1を生成するアクセスポイントAP1が設置されたエリアの空間内SPC1において、アクセスポイントAP1から送信されるビーコンWV1を受信する複数のアンテナを有する6面体アンテナ受信機10と、6面体アンテナ受信機10と接続される演算装置20とを備える。演算装置20のプロセッサ11は、複数のアンテナのそれぞれが受信したビーコンWV1の受信電力とビーコンWV1を検知した複数のアンテナの数(例えばビーコンの検知面数)とに基づいて、アクセスポイントAP1と空間内SPC1においてビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを推定する。
【0077】
これにより、スループット推定システム100は、6面体アンテナ受信機10が受信したビーコンWV1の受信測定結果のデータを用いてアクセスポイントAP1と空間内SPC1においてビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを高精度に推定できる。したがって、スループット推定システム100は、エリア内の無線通信ネットワークのスループット評価精度を向上でき、電波送信機(例えばアクセスポイントAP1)の置局設計を効率的に支援できる。
【0078】
また、6面体アンテナ受信機10は、ビーコンWV1を受信する複数のアンテナ(例えば水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナ)が配置され、2以上の異なる方向を向いた複数の矩形状面を有する。これにより、6面体アンテナ受信機10は、多方向から水平偏波および垂直偏波のビーコンWV1を受信できる。
【0079】
また、6面体アンテナ受信機10は、空間内SPC1の複数の異なる地点のそれぞれに配置された時のビーコンWV1の地点ごとの受信測定結果のデータを演算装置20(例えばプロセッサ11)に送る。演算装置20のプロセッサ11は、ビーコンWV1の地点ごとの受信測定結果のデータに対応するスループットを6面体アンテナ受信機10の配置された地点ごとに推定する。演算装置20のプロセッサ11は、少なくとも1つの地点に対応するスループットの大きさを識別可能な形式の画像(例えばヒートマップの画像)を、空間内SPC1を模した画像(例えばエリアのレイアウトを示す画像データ)に含めてモニタ(例えばタッチパネル16)に表示する。これにより、演算装置20を操作するユーザは、無線通信ネットワークにおけるアクセスポイントAP1の置局設計において、エリア内のどの地点に通信端末30が位置する場合にどの程度のスループットが得られるかを直感的かつ視覚的に把握できる。
【0080】
また、演算装置20のプロセッサ11は、地点のそれぞれに対応するスループットの推定結果に基づいて、空間内のどの地点にアクセスポイントAP1を設置するべきかを推論し、推論した結果を出力する。これにより、ユーザは、無線通信ネットワークの置局設計においてアクセスポイントAP1の設置するべき箇所を具体的に把握できるので、作業効率を向上できる。
【0081】
また、実施の形態1に係るスループット推定装置の一例としての演算装置20は、プロセッサ11と、ビーコンを生成するアクセスポイントAP1が設置された空間内SPC1において、アクセスポイントAP1から送信されるビーコンWV1を複数のアンテナを有する6面体アンテナ受信機10で受信した受信測定結果を記憶するメモリ(例えばストレージ14)と、を備える。プロセッサ11は、ストレージ14から読み出した受信測定結果に含まれる、複数のアンテナのそれぞれが受信したビーコンWV1の受信電力とビーコンWV1を検知した複数のアンテナの数(例えばビーコンの検知面数)とに基づいて、アクセスポイントAP1と空間内SPC1においてビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを推定する。
【0082】
これにより、演算装置20は、6面体アンテナ受信機10が受信したビーコンWV1の受信測定結果のデータを用いてアクセスポイントAP1と空間内SPC1においてビーコンWV1が受信された地点の近傍に設置すると仮定した通信端末30との間のスループットを高精度に推定できる。したがって、演算装置20は、エリア内の無線通信ネットワークのスループット評価精度を向上でき、電波送信機(例えばアクセスポイントAP1)の置局設計を効率的に支援できる。
【0083】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0084】
なお、本出願は、2020年9月2日出願の日本特許出願(特願2020-147774)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示は、エリア内の無線通信ネットワークのスループット評価精度を向上し、電波送信機の置局設計を効率的に支援するスループット推定システム、スループット推定方法およびスループット推定装置として有用である。
【符号の説明】
【0086】
1、6 アンテナ部
1h、6h 水平偏波アンテナ
1m、6m アンテナ制御用プロセッサ
1s、6s スイッチ
1v、6v 垂直偏波アンテナ
7a MPU
7a1 データ変換プロセッサ
7a2 スイッチ切換制御プロセッサ
7b USBポート
10 6面体アンテナ受信機
11 プロセッサ
12 ROM
13 RAM
14 ストレージ
15 入出力インターフェース
16 タッチパネル
17 スピーカ
20 演算装置
30 通信端末
100 スループット推定システム
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8