(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】眼科観察装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/13 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
A61B3/13
(21)【出願番号】P 2022558821
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045755
(87)【国際公開番号】W WO2022091429
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-11-21
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】山田 和広
(72)【発明者】
【氏名】大森 和宏
(72)【発明者】
【氏名】福間 康文
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059314(WO,A1)
【文献】特開2020-130607(JP,A)
【文献】特開2007-028295(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221507(WO,A1)
【文献】特開2017-012430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0146287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが撮像素子と前記撮像素子に導かれる光の量を調整するための絞りとを含む一対の撮影系を含み、
前記一対の撮影系により互いに異なる絞り条件で被検眼を撮影することによって明度が互いに相違する一対の映像データを取得する顕微鏡と、
前記一対の映像データの
前記明度が第1の条件を満足するように、前記顕微鏡に対する制御及び前記一対の映像データの少なくとも一方に対する画像処理の少なくとも一方を含む第1の処理を実行するプロセッサと、
前記第1の処理を介して得られた前記一対の映像データに基づく一対の映像を表示装置に表示させる表示制御部と
を含
み、
前記プロセッサは、前記一対の撮影系の間における前記絞り条件の相違に起因する前記一対の映像の明度の相違を補償するように前記第1の処理を実行する、
眼科観察装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記明度の相違を補償するために、前記一対の撮影系の少なくとも一方の前記撮像素子のゲインを制御する、
請求項
1の眼科観察装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記明度の相違を補償するために、前記一対の映像データの少なくとも一方の明度を調整する、
請求項
1又は2の眼科観察装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記一対の映像の前記明度が更に第2の条件を満足するように、前記顕微鏡に対する制御及び前記一対の映像データの少なくとも一方に対する画像処理の少なくとも一方を含む第2の処理を実行する、
請求項
1~3のいずれかの眼科観察装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記一対の映像の双方の前記明度が所定の閾値以上になるように前記第2の処理を実行する、
請求項
4の眼科観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年10月27日に出願された「APPARATUS AND METHOD FOR OPHTHALMIC OBSERVATION(眼科観察のための装置及び方法)」と題する米国仮特許出願第63/106,087号に基づく優先権を主張するものであり、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本開示は、眼科観察装置に関する。
【背景技術】
【0003】
眼科観察装置は、患者の眼(被検眼と呼ぶ)を観察するための装置である。眼科観察は、検査、手術、治療などの様々な場面において被検眼の状態を把握するために行われる。
【0004】
旧来の眼科観察装置は、対物レンズや変倍光学系により得られた拡大像を接眼レンズを介してユーザーに提供するものであったが、近年の眼科観察装置には、対物レンズや変倍光学系により得られた拡大像を撮像素子で撮影し、得られた撮影像を表示するように構成されたものがある(デジタル眼科観察装置と呼ぶ)。デジタル眼科観察装置の種類としては、手術用顕微鏡、スリットランプ顕微鏡、眼底カメラなどがある。また、レフラクトメーター、ケラトメーター、眼圧計、スペキュラーマイクロスコープ、ウェーブフロントアナライザー、マイクロペリメーターといった各種の眼科検査装置にも、デジタル眼科観察装置としての機能が設けられている。
【0005】
一般に、眼科観察装置は、被検眼の像をユーザー(例えば、医師などの医療従事者)に提供する。デジタル眼科観察装置は、典型的には、赤外光及び/又は可視光を照明光とした動画撮影と、それにより得られた画像のリアルタイム動画表示とを実行するように構成されている。このようにして提供されるリアルタイム動画像(映像)を観察画像又はライブ画像と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
旧来の接眼レンズ型(非デジタル)双眼眼科観察装置の使用方法として、左右一対の光学系の条件を違えて観察を行う方法がある。例えば、接眼レンズ型手術用顕微鏡を用いた眼科手術において、第1の光学系の絞りを第2の光学系の絞りよりも絞ることにより、第1の光学系を介して被写界深度(焦点深度)が比較的深い像を観察しつつ第2の光学系を介して解像力が比較的高い像を観察することが行われている。これにより、術者は、観察像の解像度を担保しつつ深い被写界深度での観察を行うことが可能になる。
【0008】
非デジタル眼科観察装置で行われていたこのような観察手法をデジタル眼科観察装置に応用することが考えられる。しかし、双眼のデジタル眼科観察装置において左右の光学系の条件を違えると、左右の光学系でそれぞれ得られる左右の撮影画像の態様に大きな違いが生じるため、これらの撮影画像を表示しても好適に観察を行うことは難しいという問題がある。例えば、左右の光学系の絞りの条件を違える場合、左右の撮影画像の明度に大きな違いが生じるため、術者は、一方の眼で明るい画像を観察しつつ他方の眼で暗い画像を観察するという状況が発生してしまう。
【0009】
本開示の1つの目的は、デジタル眼科観察装置の新たな使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置は、一対の撮影系を含み、被検眼の一対の映像データを取得する顕微鏡と、前記一対の映像データの所定のパラメータが第1の条件を満足するように、前記顕微鏡に対する制御及び前記一対の映像データの少なくとも一方に対する画像処理の少なくとも一方を含む第1の処理を実行するプロセッサと、前記第1の処理を介して得られた前記一対の映像データに基づく一対の映像を表示装置に表示させる表示制御部とを含む。
【0011】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記一対の撮影系の間における所定の撮影条件の相違に起因する前記一対の映像の前記パラメータの相違を補償するように前記第1の処理を実行するように構成されていてよい。
【0012】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記一対の撮影系のそれぞれは、撮像素子と、前記撮像素子に導かれる光の量を調整するための絞りとを含んでいてよく、前記撮影条件は、前記絞りの条件を含んでいてよい。
【0013】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記一対の映像の明度の相違を補償するように前記第1の処理を実行するように構成されていてよい。
【0014】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記明度の相違を補償するために、前記一対の撮影系の少なくとも一方の前記撮像素子のゲインを制御するように構成されていてよい。
【0015】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記明度の相違を補償するために、前記一対の映像データの少なくとも一方の明度を調整するように構成されていてよい。
【0016】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記一対の映像の前記明度が更に第2の条件を満足するように、前記顕微鏡に対する制御及び前記一対の映像データの少なくとも一方に対する画像処理の少なくとも一方を含む第2の処理を実行するように構成されていてよい。
【0017】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記一対の映像の双方の前記明度が所定の閾値以上になるように前記第2の処理を実行するように構成されていてよい。
【0018】
幾つかの例示的な態様に係る眼科観察装置において、前記プロセッサは、前記一対の映像の明度の相違を補償するように前記第1の処理を実行するように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0019】
例示的な態様によれば、デジタル眼科観察装置の新たな使用方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】例示的な実施形態に係る眼科観察装置(眼科手術用顕微鏡)の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】例示的な実施形態に係る眼科観察装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】例示的な実施形態に係る眼科観察装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図4A】例示的な実施形態に係る眼科観察装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図4B】例示的な実施形態に係る眼科観察装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】例示的な実施形態に係る眼科観察装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態に係る眼科観察装置の幾つかの例示的な態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書において引用された文献に記載された事項や任意の公知技術を例示的な態様に組み合わせることが可能である。
【0022】
例示的な態様に係る眼科観察装置は、手術、検査、治療などの医療行為において被検眼の状態を把握するために使用される。以下に説明される例示的な態様の眼科観察装置は手術用顕微鏡システムであるが、眼科観察装置は手術用顕微鏡システムに限定されない。例えば、眼科観察装置は、スリットランプ顕微鏡、眼底カメラ、レフラクトメーター、ケラトメーター、眼圧計、スペキュラーマイクロスコープ、ウェーブフロントアナライザー、及びマイクロペリメーターのうちのいずれかであってよく、また、これらのうちのいずれか1つ以上を含むシステムであってよい。より一般に、眼科観察装置は、観察機能を有する任意の眼科装置であってよい。
【0023】
眼科観察装置を用いた観察の対象部位は、被検眼の任意の部位であってよく、前眼部の任意の部位及び/又は後眼部の任意の部位であってよい。前眼部の観察対象部位としては、例えば、角膜、虹彩、前房、隅角、水晶体、毛様体、チン小帯などがある。後眼部の観察対象部位としては、例えば、網膜、脈絡膜、強膜、硝子体などがある。観察対象部位は、眼球組織に限定されるものではなく、瞼、マイボーム腺、眼窩など、眼科(及び/又は他科)において観察対象となる任意の部位であってもよい。
【0024】
本明細書に開示された要素の機能の少なくとも一部は、回路構成(circuitry)又は処理回路構成(processing circuitry)を用いて実装される。回路構成又は処理回路構成は、開示された機能の少なくとも一部を実行するように構成及び/又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、従来の回路構成、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかを含む。プロセッサは、トランジスタ及び/又は他の回路構成を含む、処理回路構成又は回路構成とみなされる。本開示において、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、開示された機能の少なくとも一部を実行するハードウェア、又は、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されたハードウェアであってよく、或いは、記載された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラム及び/又は構成された既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが或るタイプの回路構成とみなされ得るプロセッサである場合、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、このソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサを構成するために使用される。
【0025】
<眼科観察装置>
例示的な態様の眼科観察装置の構成を
図1に示す。
【0026】
実施形態に係る眼科観察装置1(手術用顕微鏡システム)は、操作装置2と、表示装置3と、手術用顕微鏡10とを含む。幾つかの態様では、手術用顕微鏡10が操作装置2及び表示装置3の少なくとも1つを含んでいてよい。また、幾つかの態様では、表示装置3は眼科観察装置1に含まれていなくてもよい。つまり、表示装置3は眼科観察装置1の周辺機器であってよい。
【0027】
<操作装置2>
操作装置2は、操作デバイス及び/又は入力デバイスを含む。例えば、操作装置2は、ボタン、スイッチ、マウス、キーボード、トラックボール、操作パネル、ダイアルなどを含んでいてよい。典型的には、操作装置2は、一般的な眼科手術用顕微鏡と同様に、フットスイッチを含んでいる。また、音声認識や視線入力などを用いて操作を行うように構成されてもよい。
【0028】
<表示装置3>
表示装置3は、手術用顕微鏡10により取得された被検眼の画像を表示させる。表示装置3は、フラットパネルディスプレイなどの表示デバイスを含む。また、表示装置3は、タッチパネルなどの各種表示デバイスを含んでいてもよい。典型的な表示装置3は、大画面の表示デバイスを含む。表示装置3は、1つ以上の表示デバイスを含む。表示装置3が2つ以上の表示デバイスを含む場合、例えば、1つは比較的大画面の表示デバイスであり、他の1つは比較的小画面の表示デバイスであってよい。また、1つの表示デバイスに複数の表示領域を設けて複数の情報を表示させる構成を採用してもよい。
【0029】
操作装置2と表示装置3は、それぞれ個別のデバイスである必要はない。例えば、タッチパネルのように操作機能と表示機能とが一体化されたデバイスを表示装置3として用いてもよい。その場合、操作装置2は、このタッチパネルとコンピュータプログラムとを含む。操作装置2に対する操作内容は、電気信号としてプロセッサ(不図示)に入力される。また、表示装置3に表示されたグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)と、操作装置2とを用いて、操作や情報入力を行うようにしてもよい。幾つかの態様では、操作装置2及び表示装置3の機能はタッチスクリーンによって実現されてよい。
【0030】
<手術用顕微鏡10>
手術用顕微鏡10は、仰臥位の患者の眼(被検眼)を観察するために用いられる。手術用顕微鏡10は、被検眼を撮影してデジタル画像データ(映像データ)を生成する。特に、手術用顕微鏡10は、被検眼の動画像(映像)を生成する。手術用顕微鏡10により生成された動画像は、有線及び/又は無線の信号路を通じて表示装置3に送信されて表示される。ユーザー(術者)は、表示される映像(観察画像、ライブ画像)によって被検眼を観察しつつ手術を行うことができる。幾つかの態様の手術用顕微鏡10は、このような映像の観察に加えて、旧来のような接眼レンズを介した観察が可能であってもよい。
【0031】
幾つかの態様では、手術用顕微鏡10は、操作装置2との間で電気信号を送受信するための通信デバイスを含む。操作装置2は、ユーザーによる操作を受け付け、それに対応する電気信号(操作信号)を生成する。操作信号は、有線及び/又は無線の信号路を通じて手術用顕微鏡10に送信される。手術用顕微鏡10は、受信した操作信号に対応した処理を実行する。
【0032】
<手術用顕微鏡10の光学系>
手術用顕微鏡10の光学系の構成の例を説明する。以下では、説明の便宜上、対物レンズの光軸方向をz方向(例えば、手術時には鉛直方向、上下方向)とし、z方向に直交する所定方向をx方向(例えば、手術時には水平方向、術者及び患者にとって左右方向)とし、z方向及びx方向の双方に直交する方向をy方向(例えば、手術時には水平方向、術者にとって前後方向、患者にとって体軸方向)とする。
【0033】
手術用顕微鏡10の観察光学系は、一対の光学系を有している。一方の光学系はユーザーの左眼に提示される映像データを取得し、他方の光学系は右眼に提示される映像データを取得する。これにより、ユーザーは、両眼での観察(双眼観察)が可能となり、特に立体視が可能となる。
【0034】
手術用顕微鏡10の光学系の構成例を
図2に示す。
図2は、光学系を上から見た模式的な上面図(top view)と光学系を側方から見た模式的な側面図(side view)とを対応付けて図示したものである。図示を簡略化するため、上面図においては、対物レンズ20の上方に配置される照明光学系30の図示が省略されている。
【0035】
手術用顕微鏡10は、対物レンズ20と、ダイクロイックミラーDM1と、照明光学系30と、観察光学系40とを含む。観察光学系40は、ズームエキスパンダ50と、絞り55と、撮像カメラ60とを含む。幾つかの態様では、照明光学系30又は観察光学系40は、ダイクロイックミラーDM1を含む。
【0036】
対物レンズ20は、被検眼に対向するように配置される。対物レンズ20は、その光軸がz方向に沿うように配置されている。対物レンズ20は、2枚以上のレンズを含んでいてもよい。
【0037】
ダイクロイックミラーDM1は、照明光学系30の光路と観察光学系40の光路とを結合する。ダイクロイックミラーDM1は、照明光学系30と対物レンズ20との間に配置される。ダイクロイックミラーDM1は、照明光学系30からの照明光を透過して対物レンズ20を介して被検眼に導くとともに、対物レンズ20を介して入射する被検眼からの戻り光を反射して観察光学系40の撮像カメラ60に導く。
【0038】
ダイクロイックミラーDM1は、照明光学系30の光路と観察光学系40の光路とを同軸に結合する。つまり、照明光学系30の光軸と観察光学系40の光軸とがダイクロイックミラーDM1において交差している。照明光学系30は、左眼用照明光学系(31L)及び右眼用照明光学系(31R)を含み、且つ、観察光学系40は、左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rを含む。ダイクロイックミラーDM1は、左眼用照明光学系(第1照明光学系31L)の光路と左眼用観察光学系40Lの光路とを同軸に結合し、且つ、右眼用照明光学系(第1照明光学系31R)の光路と右眼用観察光学系40Rの光路とを同軸に結合する。
【0039】
照明光学系30は、対物レンズ20を介して被検眼を照明するための光学系である。照明光学系30は、色温度が異なる2以上の照明光のいずれかによって被検眼を照明するように構成されていてよい。照明光学系30は、後述の制御部(200)の制御の下に、指定された色温度の照明光を被検眼に投射する。
【0040】
照明光学系30は、第1照明光学系31L及び31Rと、第2照明光学系32とを含んでいる。
【0041】
第1照明光学系31Lの光軸OL及び第1照明光学系31Rの光軸ORのそれぞれは、対物レンズ20の光軸と略同軸に配置されている。これにより、同軸照明を実現することができ、眼底での拡散反射を利用した徹照像を得ることが可能となる。本態様では、被検眼の徹照像を双眼で観察することが可能である。
【0042】
第2照明光学系32は、その光軸OSが対物レンズ20の光軸から偏心するように配置されている。第1照明光学系31L及び31R並びに第2照明光学系32は、対物レンズ20の光軸に対する光軸OSの偏位が対物レンズ20の光軸に対する光軸OL及びORの偏位よりも大きくなるように配置されている。これにより、いわゆる「角度付き照明(斜め照明)」を実現することができ、角膜反射などに起因するゴーストの混入を防止しつつ被検眼を双眼で観察することが可能になる。更に、被検眼の部位や組織の凹凸を詳細に観察することも可能になる。
【0043】
第1照明光学系31Lは、光源31LAと、コンデンサーレンズ31LBとを含む。光源31LAは、例えば、3000K(ケルビン)の色温度に相当する可視領域の波長の照明光を出力する。光源31LAから出力された照明光は、コンデンサーレンズ31LBを通過し、ダイクロイックミラーDM1を透過し、対物レンズ20を通過して被検眼に入射する。
【0044】
第1照明光学系31Rは、光源31RAと、コンデンサーレンズ31RBとを含む。光源31RAもまた、例えば、3000Kの色温度に相当する可視領域の波長の照明光を出力する。光源31RAから出力された照明光は、コンデンサーレンズ31RBを通過し、ダイクロイックミラーDM1を透過し、対物レンズ20を通過して被検眼に入射する。
【0045】
第2照明光学系32は、光源32Aと、コンデンサーレンズ32Bとを含む。光源32Aは、例えば、4000K~6000Kの色温度に相当する可視領域の波長の照明光を出力する。光源32Aから出力された照明光は、コンデンサーレンズ32Bを通過し、ダイクロイックミラーDM1を経由することなく対物レンズ20を通過して被検眼に入射する。
【0046】
すなわち、第1照明光学系31L及び31Rからの照明光の色温度は、第2照明光学系32からの照明光の色温度よりも低い。このような構成とすることで、第1照明光学系31L及び31Rを用いて暖色系の色で被検眼を観察することが可能になり、被検眼の構造や形態を詳細に観察することが可能となる。
【0047】
幾つかの態様では、光軸OL及びORのそれぞれが対物レンズ20の光軸に対して相対的に移動可能とされる。この相対移動の方向は対物レンズ20の光軸に交差する方向であり、この相対移動はx成分及びy成分の少なくとも一方がゼロでない変位ベクトルで表現される。幾つかの態様では、光軸OL及びORのそれぞれが独立に移動可能であってよい。一方、幾つかの態様では、光軸OL及びORが一体的に移動可能であってよい。例えば、手術用顕微鏡10は、第1照明光学系31L及び31Rを独立に又は一体的に移動する移動機構(31d)を備えており、この移動機構によって第1照明光学系31L及び31Rを独立に又は一体的に対物レンズ20の光軸に交差する方向に移動する。それにより、被検眼の見え具合を調整することが可能になる。幾つかの態様では、後述の制御部(200)の制御の下に移動機構が動作する。
【0048】
幾つかの態様では、光軸OSが対物レンズ20の光軸に対して相対的に移動可能とされる。この相対移動の方向は、対物レンズ20の光軸に交差する方向であり、この相対移動はx成分及びy成分の少なくとも一方がゼロでない変位ベクトルで表現される。例えば、手術用顕微鏡10は、第2照明光学系32を移動する移動機構(32d)を備えており、この移動機構によって第2照明光学系32を対物レンズ20の光軸に交差する方向に移動する。それにより、被検眼の部位や組織における凹凸の見え具合を調整することが可能になる。幾つかの態様では、後述の制御部(200)の制御の下に移動機構が動作する。
【0049】
以上のように、本態様では、対物レンズ20の直上の位置(ダイクロイックミラーDM1の透過方向の位置)に照明光学系30が配置され、且つ、ダイクロイックミラーDM1の反射方向の位置に観察光学系40が配置されている。例えば、観察光学系40の光軸と対物レンズ20の光軸に直交する平面(xy平面)とのなす角が±20度以下になるように、観察光学系40が配置されていてよい。
【0050】
本態様の構成によれば、一般的に照明光学系30よりも光路長が長い観察光学系40がxy平面に対して略平行に配置されるため、術者の眼前に観察光学系が鉛直方向に配置される従来の手術用顕微鏡のように術者の視野を邪魔することがない。したがって、術者は、正面に設置された表示装置3の画面を容易に見ることができる。つまり、手術中などにおける表示情報(被検眼の画像や映像、その他の各種参照情報)の視認性が向上する。また、術者の眼前に筐体が配置されることがないため、術者に圧迫感を与えることがなく、術者の負担が軽減される。
【0051】
観察光学系40は、対物レンズ20を介して被検眼から入射した照明光の戻り光に基づき形成される像を観察するための光学系である。本態様では、観察光学系40は、撮像カメラ60の撮像素子に像を提供する。
【0052】
上記したように、観察光学系40は、左眼用観察光学系40Lと、右眼用観察光学系40Rとを含んでいる。左眼用観察光学系40Lの構成は、右眼用観察光学系40Rの構成と同様である。幾つかの態様では、左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rは、互いに独立に光学配置の変更が可能であってよい。左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rは、一対の撮影系として機能する。
【0053】
ズームエキスパンダ50は、ビームエキスパンダ、可変ビームエキスパンダなどとも呼ばれる。ズームエキスパンダ50は、左眼用ズームエキスパンダ50Lと、右眼用ズームエキスパンダ50Rとを含んでいる。左眼用ズームエキスパンダ50Lの構成は、右眼用ズームエキスパンダ50Rの構成と同様である。幾つかの態様では、左眼用ズームエキスパンダ50L及び右眼用ズームエキスパンダ50Rは、互いに独立に光学配置の変更が可能であってよい。
【0054】
左眼用ズームエキスパンダ50Lは、複数のズームレンズ51L、52L及び53Lを含む。複数のズームレンズ51L、52L及び53Lの少なくとも1つは、変倍機構(不図示)によって光軸方向に移動可能である。
【0055】
同様に、右眼用ズームエキスパンダ50Rは、複数のズームレンズ51R、52R及び53Rを含んでおり、複数のズームレンズ51R、52R、53Rの少なくとも1つは、変倍機構(不図示)によって光軸方向に移動可能である。
【0056】
変倍機構は、左眼用ズームエキスパンダ50Lの各ズームレンズ及び右眼用ズームエキスパンダ50Rの各ズームレンズを独立に又は一体的に光軸方向に移動するように構成されてよい。それにより、被検眼を撮影する際の拡大倍率が変更される。幾つかの態様では、後述の制御部(200)の制御の下に変倍機構が動作する。
【0057】
絞り55は、通過する光の量を調整するための光学素子である。換言すると、絞り55は、撮像カメラ60に導かれる光の量を調整するための光学素子である。絞り55は、左眼用絞り55Lと右眼用絞り55Rとを含んでいる。左眼用絞り55Lと右眼用絞り55Rとは、後述の制御部(200)によって互いに独立に制御される。
【0058】
典型的な構成の左眼用絞り55Lは、光を通過させる開口部と、光を遮断する遮断部とを有する。開口部の外縁は遮断部の内縁に相当する。つまり、開口部は、遮断部によって画定される。左眼用絞り55Lは可変絞りであり、その種類は任意であってよい。例えば、左眼用絞り55Lは、虹彩絞り、回転絞り、水門絞り、及びウォーターハウス絞りのいずれかであってよい。右眼用絞り55Rは、左眼用絞り55Lと同じ構成であってよい。
【0059】
左眼用絞り55Lの条件(開口部の寸法(径))を変更すると、左眼用撮像カメラ60Lに導かれる光の量が変化する。具体的には、左眼用絞り55Lの開口部の寸法を小さくすると(つまり、左眼用絞り55Lを絞ると)、左眼用観察光学系40Lの焦点深度(被写界深度)が拡大し、ピントの合う範囲が広くなるが、左眼用撮像カメラ60Lに導かれる光の量が減少するため、得られる画像は暗くなる(明度が減少する)。逆に、左眼用絞り55Lの開口部の寸法を大きくすると(つまり、左眼用絞り55Lを開けると)、左眼用撮像カメラ60Lに導かれる光の量が増加するため、得られる画像が明るくなる(明度が増加する)が、左眼用観察光学系40Lの焦点深度(被写界深度)が減少するため、ピントの合う範囲が狭くなる。
【0060】
右眼用絞り55Rの条件(開口部の寸法(径))を変更すると、右眼用撮像カメラ60Rに導かれる光の量が変化する。具体的には、右眼用絞り55Rの開口部の寸法を小さくすると、右眼用観察光学系40Rの焦点深度(被写界深度)が拡大し、ピントの合う範囲が広くなるが、右眼用撮像カメラ60Rに導かれる光の量が減少するため、得られる画像は暗くなる(明度が減少する)。逆に、右眼用絞り55Rの開口部の寸法を大きくすると、右眼用撮像カメラ60Rに導かれる光の量が増加するため、得られる画像が明るくなる(明度が増加する)が、右眼用観察光学系40Rの焦点深度(被写界深度)が減少するため、ピントの合う範囲が狭くなる。
【0061】
撮像カメラ60は、観察光学系40により形成される像を撮影してデジタル画像データを生成するデバイスであり、典型的にはデジタルカメラ(デジタルビデオカメラ)である。撮像カメラ60は、左眼用撮像カメラ60Lと、右眼用撮像カメラ60Rとを含んでいる。左眼用撮像カメラ60Lの構成は、右眼用撮像カメラ60Rの構成と同様である。幾つかの態様では、左眼用撮像カメラ60L及び右眼用撮像カメラ60Rは、互いに独立に光学配置の変更が可能である。
【0062】
左眼用撮像カメラ60Lは、結像レンズ61Lと、撮像素子62Lとを含んでいる。結像レンズ61Lは、左眼用絞り55Lを通過した戻り光に基づく像を撮像素子62Lの撮像面に形成する。撮像素子62Lは、エリアセンサであり、典型的には電荷結合素子(CCD)イメージセンサ又は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサであってよい。撮像素子62Lは、後述の制御部(200)の制御の下に動作する。
【0063】
右眼用撮像カメラ60Rは、結像レンズ61Rと、撮像素子62Rとを含んでいる。結像レンズ61Rは、右眼用絞り55Rを通過した戻り光に基づく像を撮像素子62Lの撮像面に形成する。撮像素子62Rは、エリアセンサであり、典型的にはCCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサであってよい。撮像素子62Rは、後述の制御部(200)の制御の下に動作する。
【0064】
<処理系>
眼科観察装置1の処理系について説明する。処理系の幾つかの構成例を
図3、
図4A、及び
図4Bに示す。以下に説明される各種の構成例のうちの任意の2つ以上を少なくとも部分的に組み合わせることができる。例えば、
図3の構成例に
図4Aの構成例を組み合わせることができ、
図3の構成例に
図4Bの構成例を組み合わせることができ、
図3の構成例に
図4Aの構成例と
図4Bの構成例とを組み合わせることができる。なお、処理系の構成はこれらの例に限定されない。
【0065】
制御部200は、眼科観察装置1の各部の制御を行う。制御部200は、主制御部201と記憶部202とを含む。主制御部201は、プロセッサを含み、眼科観察装置1の各部を制御する。例えば、プロセッサは、本態様に係る機能を実現するために、記憶部202又は他の記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することができ、また、記憶部202又は他の記憶装置に格納されているデータや情報を利用(参照、加工、演算など)することができる。
【0066】
主制御部201は、照明光学系30の光源31LA、31RA及び32Aのそれぞれの制御、観察光学系40の絞り55L及び55Rのそれぞれの制御、観察光学系40の撮像素子62L及び62Rのそれぞれの制御、移動機構31d及び32dのそれぞれの制御、変倍機構50Ld及び50Rdのそれぞれの制御、操作装置2の制御、表示装置3の制御などを実行することができる。
【0067】
光源31LAの制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、照明絞りの調整などがある。光源31RAの制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、照明絞りの調整などがある。主制御部201は、光源31LA及び31RAに対して互いに排他的に制御を行うことができる。光源32Aの制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、照明絞りの調整などがある。
【0068】
照明光学系30が色温度を変更可能な光源を含む場合、主制御部201は、この光源を制御することによって、出力される照明光の色温度を変更することができる。
【0069】
撮像素子62Lの制御には、露光調整、ゲイン調整、撮影レート調整などがある。撮像素子62Rの制御には、露光調整、ゲイン調整、撮影レート調整などがある。また、主制御部201は、撮像素子62L及び62Rの撮影タイミングが一致するように撮像素子62L及び62Rを制御すること、又は、撮像素子62L及び62Rの撮影タイミングの差が所定時間以内になるように撮像素子62L及び62Rを制御することができる。更に、主制御部201は、撮像素子62L及び62Rにより得られたデジタルデータの読み出し制御を行うことができる。
【0070】
移動機構31dは、対物レンズ20の光軸に交差する方向に光源31LA及び31RAを独立に又は一体的に移動する。主制御部201は、移動機構31dを制御することにより、対物レンズ20の光軸に対して光軸OL及びORを独立に又は一体的に移動することができる。
【0071】
移動機構32dは、対物レンズ20の光軸に交差する方向に光源32Aを移動する。主制御部201は、移動機構32dを制御することにより、対物レンズ20の光軸に対して光軸OSを移動することができる。
【0072】
移動機構70は、手術用顕微鏡10を移動する。例えば、移動機構70は、照明光学系30の少なくとも一部と観察光学系40とを一体的にするように構成されている。これにより、照明光学系30の少なくとも一部と観察光学系40との間の相対位置関係を保ちつつ、照明光学系30の少なくとも一部及び観察光学系40の被検眼に対する相対位置を変更することができる。幾つかの態様では、移動機構70は、第1照明光学系31L及び31Rと観察光学系40とを一体的に移動するように構成されている。これにより、同軸照明の状態を保ちつつ、第1照明光学系31L及び31R並びに観察光学系40の被検眼に対する相対位置を変更することが可能になる。幾つかの態様では、移動機構70は、第2照明光学系32と観察光学系40とを一体的に移動するように構成されている。これにより、斜め照明の照明角度を保ちつつ、第2照明光学系32及び観察光学系40の被検眼に対する相対位置を変更することが可能になる。幾つかの態様では、移動機構70は、第1照明光学系31L及び31R並びに第2照明光学系32と観察光学系40とを一体的に移動するように構成されている。これにより、同軸照明の状態及び斜め照明の照明角度の双方を保ちつつ、照明光学系30及び観察光学系40の被検眼に対する相対位置を変更することが可能になる。移動機構70は、制御部200の制御の下に動作する。
【0073】
幾つかの態様では、主制御部201は、移動機構31d、32d及び70のうちの少なくとも2つを連係的に制御することができる。
【0074】
変倍機構50Ldは、左眼用ズームエキスパンダ50Lの複数のズームレンズ51L~53Lの少なくとも1つを光軸方向に移動する。主制御部201は、変倍機構50Ldを制御することによって左眼用観察光学系40Lの拡大倍率を変更することができる。
【0075】
同様に、変倍機構50Rdは、右眼用ズームエキスパンダ50Rの複数のズームレンズ51R~53Rの少なくとも1つを光軸方向に移動する。主制御部201は、変倍機構50Rdを制御することによって右眼用観察光学系40Rの拡大倍率を変更することができる。
【0076】
操作装置2に対する制御には、操作許可制御、操作禁止制御、操作装置2からの操作信号の送信制御及び/又は受信制御などがある。主制御部201は、操作装置2により生成された操作信号を受信し、この受信信号に対応する制御を実行する。
【0077】
表示装置3に対する制御には、情報表示制御などがある。主制御部201は、表示制御部として、撮像素子62L及び62Rにより生成されたデジタル画像データに基づく画像を表示装置3に表示させることができる。典型的には、撮像素子62L及び62Rによりそれぞれ並行して生成された一対の映像データ(映像信号)に基づいて、一対の映像(一対の動画像)を並行して表示装置3に表示させることができる。また、主制御部201は、一対の映像のいずれかに含まれる静止画像(フレーム)を表示装置3に表示させることができる。更に、主制御部201は、撮像素子62L及び62Rにより生成されたデジタル画像データを加工して得られた画像(動画像、静止画像など)を表示装置3に表示させることができる。また、主制御部201は、眼科観察装置1により生成された任意の情報や、眼科観察装置1が外部から取得した任意の情報を表示装置3に表示させることができる。
【0078】
主制御部201は、本実施形態の表示制御部として機能するものである。表示制御部として機能する場合の第1の例として、主制御部201は、撮像素子62Lにより左眼用映像データとして逐次に生成されるデジタル画像データ(フレーム)を逐次に表示装置3に表示させることによって左眼用映像を表示させつつ、撮像素子62Lと同期された撮像素子62Rにより右眼用映像データとして逐次に生成されるデジタル画像データ(フレーム)を逐次に表示装置3に表示させることによって右眼用映像を表示させることができる。ここで、左眼用映像の表示と右眼用映像の表示とは互いに同期されている。すなわち、主制御部201は、左右の撮像素子62L及び62Rにより実質的に同時に得られた左右のフレームを実質的に同時に表示装置3に表示させる。この第1の例は、例えば
図4A(詳細は後述する)に示す構成が適用される場合に採用されてよい。
【0079】
表示制御部として機能する場合の第2の例では、観察光学系40により取得された映像データは、データ処理部210によって処理された後に主制御部201によって表示装置3に表示される。データ処理部210は、撮像素子62Lにより左眼用映像データとして逐次に生成されるデジタル画像データ(フレーム)に対して逐次に所定の処理(画像処理)を適用しつつ、撮像素子62Lと同期された撮像素子62Rにより右眼用映像データとして逐次に生成されるデジタル画像データ(フレーム)に対して逐次に所定の処理(画像処理)を適用することができる。ここで、左眼用映像データの処理と右眼用映像データの処理とは互いに同期されていてよい。すなわち、データ処理部210は、左右の撮像素子62L及び62Rにより実質的に同時に得られた左右のフレームを並行して処理することができる。並行して処理が施された左右のフレームは、例えば、一対のフレームとして(つまり、互いに関連付けられて)主制御部201に送られる。主制御部201は、データ処理部210から逐次に入力される一対のフレーム(左眼用フレーム及び右眼用フレーム)を受けて、逐次に入力される左眼用フレームを逐次に表示装置3に表示させることによって左眼用映像を表示させつつ、逐次に入力される右眼用フレームを逐次に表示装置3に表示させることによって右眼用映像を表示させることができる。ここで、左眼用映像の表示と右眼用映像の表示とは互いに同期されている。これにより、主制御部201は、左右の撮像素子62L及び62Rにより実質的に同時に得られたフレームを実質的に同時に表示装置3に表示させることができる。この第2の例は、例えば
図4B(詳細は後述する)に示す構成が適用される場合に採用されてよい。
【0080】
表示制御部として機能する主制御部201は、例えば上記した第1の例の処理及び第2の例の処理の少なくとも一方を介して得られた左眼用映像及び右眼用映像を立体視可能な態様で表示装置3に表示させることができる。例えば、主制御部201は、実質的に同時に取得された左眼用フレーム及び右眼用フレームから左右一対の視差画像を作成し、この一対の視差画像を表示装置3に表示させることができる。ユーザー(術者など)は、公知の立体視手法を利用して一対の視差画像を立体画像として認識することができる。本態様に適用可能な立体視手法は任意であってよく、例えば、裸眼での立体視手法、補助器具(偏光眼鏡など)を用いた立体視手法、左眼用フレーム及び右眼用フレームに対する画像処理(画像合成、レンダリングなど)を利用した立体視手法、一対の視差画像を同時に表示させる立体視手法、一対の視差画像を切り換え表示させる立体視手法、及び、これらのうちの2つ以上を組み合わせた立体視手法のうちのいずれかであってよい。
【0081】
データ処理部210は、各種のデータ処理を実行する。データ処理部210が実行可能な処理については、幾つかの例を以下に説明する。データ処理部210(その各要素)は、所定のソフトウェア(プログラム)にしたがって動作するプロセッサを含んでおり、ハードウェアとソフトウェアとの協働によって実現される。
【0082】
本実施形態の眼科観察装置1は、左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rを含む手術用顕微鏡10によって被検眼の左眼用映像データ及び右眼用映像データを取得し、これら映像データの所定のパラメータが所定の条件(第1の条件)を満足するように所定の処理(第1の処理)を実行し、第1の処理を介して得られた左眼用映像データ及び右眼用映像データに基づく左眼用映像及び右眼用映像を表示するように構成されている。
【0083】
ここで、映像データの所定のパラメータは、任意であってよく、例えばフレームの明るさ(明度、輝度)であってよい。
【0084】
また、第1の処理は、任意であってよく、例えば、手術用顕微鏡10に対する制御を含んでいてよく、及び/又は、左眼用映像データ及び右眼用映像データの少なくとも一方に対する画像処理を含んでいてよい(つまり、当該制御及び当該画像処理の少なくとも一方を含んでいてよい)。手術用顕微鏡10に対する制御は、制御部200によって実行され、例えば
図4Aに示す撮像素子制御部203によって実行されてよい。左眼用映像データ及び右眼用映像データの少なくとも一方に対する画像処理は、データ処理部210によって実行され、例えば
図4Bに示す画像処理部211によって実行されてよい。
【0085】
第1の条件は、任意であってよく、例えば、左眼用映像データと右眼用映像データとの間において所定のパラメータの条件が同等になることであってよい。この第1の条件(パラメータ条件の同等化)は、例えば、双方のパラメータ値が等しくなること、及び、双方のパラメータ値の差が所定閾値未満となることのいずれであってもよい。
【0086】
幾つかの態様では、眼科観察装置1は、左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rを含む手術用顕微鏡10によって被検眼の左眼用映像データ及び右眼用映像データを取得し、左眼用映像データ及び右眼用映像データにおいて対応する左右のフレームが同等の明度になるように第1の処理を実行し、この第1の処理を介して得られた左眼用映像データ及び右眼用映像データ(つまり、対応するフレーム間の明度が同等化された左眼用映像データ及び右眼用映像データ)に基づく左眼用映像及び右眼用映像を表示するように構成される。
【0087】
このような眼科観察装置1を実現するための構成例を以下に説明する。
図4Aは第1の構成例を示し、
図4Bは第2の構成例を示す。なお、対応するフレーム間の明度が同等化するための構成はこれらの例に限定されない。
【0088】
また、第1の処理の目的は、対応するフレーム間の明度を同等化することに限定されず、任意であってよい。例えば、第1の処理で考慮される映像データのパラメータは、明度パラメータに限定されず、任意のパラメータであってよく、考慮されるパラメータの個数も任意であってよい。例えば、第1の処理で考慮される映像データのパラメータの例として、色調パラメータ、コントラストパラメータ、ガンマパラメータ、色温度パラメータ、ホワイトバランスパラメータ、RGBバランスパラメータ、グレイバランスパラメータ、エッジ強調パラメータ、影強調パラメータ、鮮鋭化パラメータ、ハイダイナミックレンジパラメータなどがある。
【0089】
また、第1の処理の目的は、左右のパラメータ条件を同等にすることに限定されず、例えば、左右のパラメータに所定閾値以上の差を持たせること、左右のパラメータを所定範囲に属させること、左右のパラメータから得られる他のパラメータが所定の条件を満足することなど、任意であってよい。
【0090】
図4Aに示す構成例及び
図4Bに示す構成例はいずれも、左眼用観察光学系40Lと右眼用観察光学系40Rとの間における撮影条件の相違に起因する映像パラメータの相違を補償するように機能する。より具体的には、
図4Aに示す構成例及び
図4Bに示す構成例はいずれも、左眼用観察光学系40Lの左眼用絞り55Lの条件と右眼用観察光学系40Rの右眼用絞り55Rの条件との相違に起因する左眼用映像データの明度と右眼用映像データの明度との相違を打ち消す(相違を無くす、又は、閾値よりも相違を小さくする)ように機能する。
【0091】
図4Aに示す第1の構成例は、制御部200の構成に関する。本例の制御部200Aは、制御部200の例であり、撮像素子制御部203を含んでいる。撮像素子制御部203は、第1の処理を実行するプロセッサとして機能し、左眼用映像データの明度と右眼用映像データの明度との相違を補償するために、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62L及び右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rの少なくとも一方を制御するように構成されている。
【0092】
本例では、撮像素子制御部203は、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62Lのゲイン及び右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rのゲインの少なくとも一方を制御するように構成される。
【0093】
ここで、ゲインの調整量は、例えば、左眼用絞り55Lの条件(開口部の寸法)と右眼用絞り55Rの条件(開口部の寸法)との相違の量(差、比など)に基づいて撮像素子制御部203により決定される。
【0094】
第1の例を説明する。本例の撮像素子制御部203は、左右の絞りの条件の単位相違量に対応する単位ゲイン調整量を予め記憶している。本例の撮像素子制御部203は、左眼用絞り55Lの条件と右眼用絞り55Rの条件とを主制御部201から受け付け、これら条件の相違量を求め、求められた相違量を単位相違量で除算し、その商と単位ゲイン調整量とに基づきゲイン調整量を決定することができる。
【0095】
第2の例を説明する。本例の撮像素子制御部203は、左右の絞りの条件の相違量とゲイン調整量とを対応付けた情報(対応情報)を予め記憶している。本例の撮像素子制御部203は、左眼用絞り55Lの条件と右眼用絞り55Rの条件とを主制御部201から受け付け、これら条件の相違量を求め、求められた相違量に対応するゲイン調整量を対応情報を参照して決定することができる。対応情報は、例えば、テーブル又はグラフであってよい。
【0096】
左眼用絞り55Lの開口部の寸法が右眼用絞り55Rの開口部の寸法よりも小さい場合、撮像素子制御部203は、例えば、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62Lのゲインを上げる制御、右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rのゲインを下げる制御、又は、これら制御の双方を実行することができる。これにより、左右の絞り条件の相違に起因する左右の映像データの明度の相違を小さくすることができ、例えば左右の映像データの明度を同等にすることができる。
【0097】
逆に、左眼用絞り55Lの開口部の寸法が右眼用絞り55Rの開口部の寸法よりも大きい場合、撮像素子制御部203は、例えば、右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rのゲインを上げる制御、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62Lのゲインを下げる制御、又は、これら制御の双方を実行することができる。これにより、左右の絞り条件の相違に起因する左右の映像データの明度の相違を小さくすることができ、例えば左右の映像データの明度を同等にすることができる。
【0098】
撮像素子制御部203のこのような機能により、眼科観察装置1は、解像力の高い映像と被写界深度の深い映像とを並行して提示することができるだけでなく、双方の映像を同等の明るさで提示することが可能である。したがって、ユーザーは、眼科手術において、広範囲にピントが合った第1の映像を左眼(又は右眼)で観察しつつ、第1の映像と明度が同等であり且つ解像力の高い映像を右眼(又は左眼)で観察することが可能になる。
【0099】
上記した幾つかの例では、左右の絞りの条件の相違に基づいてゲイン調整を行っているが、眼科観察装置1により実行可能な処理はこれに限定されない。例えば、制御部200は、左右の絞りの条件の相違量とゲイン調整量とを対応付けた情報(対応情報)を参照して、主制御部201による左眼用絞り55L及び右眼用絞り55Rの少なくとも一方の制御と、撮像素子制御部203による左眼用観察光学系40Lの撮像素子62L及び右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rの少なくとも一方の制御とを、連係して実行するように構成されていてもよい。
【0100】
図4Bに示す第2の構成例は、データ処理部210の構成に関する。本例のデータ処理部210Aは、データ処理部210の例であり、画像処理部211を含んでいる。画像処理部211は、第1の処理を実行するプロセッサとして機能し、左眼用映像データの明度と右眼用映像データの明度との相違を補償するために、左眼用映像データ及び右眼用映像データの少なくとも一方の明度を調整するように構成されている。
【0101】
ここで、映像データの明度の調整量は、例えば、左眼用絞り55Lの条件(開口部の寸法)と右眼用絞り55Rの条件(開口部の寸法)との相違の量(差、比など)に基づいて画像処理部211により決定される。また、映像データ(そのフレーム)の明度を算出する方法や、明度を変更する方法は、任意の公知の方法であってよい。
【0102】
第1の例を説明する。本例の画像処理部211は、左右の絞りの条件の単位相違量に対応する単位明度調整量を予め記憶している。本例の画像処理部211は、左眼用絞り55Lの条件と右眼用絞り55Rの条件とを主制御部201から受け付け、これら条件の相違量を求め、求められた相違量を単位相違量で除算し、その商と単位明度調整量とに基づき明度調整量(明度調整のための画像処理におけるパラメータ)を決定することができる。
【0103】
第2の例を説明する。本例の画像処理部211は、左右の絞りの条件の相違量と明度調整量とを対応付けた情報(対応情報)を予め記憶している。本例の画像処理部211は、左眼用絞り55Lの条件と右眼用絞り55Rの条件とを主制御部201から受け付け、これら条件の相違量を求め、求められた相違量に対応する明度調整量を対応情報を参照して決定することができる。対応情報は、例えば、テーブル又はグラフであってよい。
【0104】
左眼用絞り55Lの開口部の寸法が右眼用絞り55Rの開口部の寸法よりも小さい場合、画像処理部211は、例えば、左眼用映像データの明度を上げる画像処理、右眼用映像データの明度を下げる画像処理、又は、これら画像処理の双方を実行することができる。これにより、左右の絞り条件の相違に起因する左右の映像データの明度の相違を小さくすることができ、例えば左右の映像データの明度を同等にすることができる。
【0105】
逆に、左眼用絞り55Lの開口部の寸法が右眼用絞り55Rの開口部の寸法よりも大きい場合、画像処理部211は、例えば、右眼用映像データの明度を上げる画像処理、左眼用映像データの明度を下げる画像処理、又は、これら画像処理の双方を実行することができる。これにより、左右の絞り条件の相違に起因する左右の映像データの明度の相違を小さくすることができ、例えば左右の映像データの明度を同等にすることができる。
【0106】
画像処理部211のこのような機能により、眼科観察装置1は、解像力の高い映像と被写界深度の深い映像とを並行して提示することができるだけでなく、双方の映像を同等の明るさで提示することが可能である。したがって、ユーザーは、眼科手術において、広範囲にピントが合った第1の映像を左眼(又は右眼)で観察しつつ、第1の映像と明度が同等であり且つ解像力の高い映像を右眼(又は左眼)で観察することが可能になる。
【0107】
上記した幾つかの例では、左右の絞りの条件の相違に基づいて明度調整のための画像処理を行っているが、眼科観察装置1により実行可能な処理はこれに限定されない。例えば、制御部200及びデータ処理部210は、左右の絞りの条件の相違量と明度調整量(画像処理におけるパラメータ)とを対応付けた情報(対応情報)を参照して、主制御部201による左眼用絞り55L及び右眼用絞り55Rの少なくとも一方の制御と、画像処理部211による左眼用映像データ及び右眼用映像データの少なくとも一方の画像処理とを、連係して実行するように構成されていてもよい。
【0108】
幾つかの態様の眼科観察装置1は、上記した第1の処理に加えて第2の処理を実行可能に構成されていてよい。第2の処理は、左右の映像データの明度に第2の条件を満足させることを目的とした処理であり、手術用顕微鏡10に対する制御、及び、左右の映像データの少なくとも一方に対する画像処理の少なくとも一方を含む。第2の処理において実行される処理項目は、第1の処理の処理項目と同じでもよいし、異なってもよい。例えば、第1の処理の処理項目がゲイン調整である場合において、第2の処理の処理項目は、ゲイン調整、明度調整(画像処理)、他の処理項目、及び、これらの任意の組み合わせのいずれでもよい。また、第1の処理の処理項目が明度調整(画像処理)である場合において、第2の処理の処理項目は、明度調整、ゲイン調整、他の処理項目、及び、これらの任意の組み合わせのいずれでもよい。また、第1の処理の処理項目がゲイン調整及び明度調整(画像処理)のいずれでもない場合において、第2の処理の処理項目は、ゲイン調整、明度調整、他の処理項目、及び、これらの任意の組み合わせのいずれでもよい。
【0109】
第2の処理の具体例を説明する。本例の第2の処理は、左右の映像データの明度をともに所定閾値以上にすることを目的とする。本例の撮像素子制御部203は、左眼用映像データの明度及び右眼用映像データの明度のそれぞれが閾値以上になるように、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62Lのゲイン調整(ゲインの増加)及び右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rのゲイン調整(ゲインの増加)の少なくとも一方を実行するように構成されていてよい。また、本例の画像処理部211は、左眼用映像データの明度及び右眼用映像データの明度のそれぞれが閾値以上になるように、左眼用映像データに対する画像処理及び右眼用映像データに対する画像処理の少なくとも一方を実行するように構成されていてよい。
【0110】
このような第2の処理を実行することで、十分な明るさの映像(つまり、十分な解像力の映像)をユーザーの両眼に提示することが可能になる。
【0111】
<動作・使用形態>
眼科観察装置1の動作及び使用形態について説明する。眼科観察装置1の動作及び使用形態の例を
図5に示す。
【0112】
本例では、デジタル双眼手術用顕微鏡の左右の撮影系の間における所定の撮影条件(絞り条件(焦点深度、被写界深度))の相違に起因する左右の映像データの間における所定のパラメータ(明度)の相違を補償する場合について説明する。しかし、手術用顕微鏡以外の眼科観察装置に応用する場合や、絞り条件以外の撮影条件を考慮する場合や、撮影条件以外の条件を考慮する場合や、明度以外の映像パラメータを考慮する場合などにおいても、応用される眼科観察装置の固有の特性や考慮される事項の固有の特性に関する相違を除き、実質的に本例と同様の動作及び使用形態を実施することが可能である。
【0113】
(S1:ライブ画像の生成及び表示を開始する)
まず、ユーザーは、操作装置2を用いて所定の操作を行うことで、眼科観察装置1による被検眼(前眼部)のライブ画像の生成及び表示を開始させる。具体的には、手術用顕微鏡10は、照明光学系30によって被検眼を照明しつつ左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rによって左眼用映像データ及び右眼用映像データをそれぞれ生成する。主制御部201は、左眼用映像データに基づく左眼用映像と右眼用映像データに基づく右眼用映像とを表示装置3にリアルタイムで表示させる。ユーザーは、左右のライブ画像を観察しながら手術を行うことができる。
【0114】
(S2:左右の絞り条件を違える)
次に、ユーザー(術者、助手など)は、左眼用絞り55Lの条件(開口部の寸法)と右眼用絞り55Rの条件(開口部の寸法)とを違えるように、操作装置2を用いて操作を行う。これにより、被写界深度及び明度の双方が互いに相違した左眼用映像データと右眼用映像データとが手術用顕微鏡10により生成され、被写界深度及び明度の双方が互いに相違した左眼用映像と右眼用映像とが表示装置3に表示される。
【0115】
(S3:第1の処理を行う)
ステップS2の操作が行われたことに対応し、眼科観察装置1のプロセッサは、左眼用映像と右眼用映像との間における明度の相違を補償するように第1の処理を実行する。
【0116】
撮像素子制御部203がプロセッサとして機能する場合、主制御部201は、ステップS2の操作が行われたことに対応し、撮像素子制御部203に指示を送る。指示を受けた撮像素子制御部203は、左眼用映像と右眼用映像との間における明度の相違を補償するために、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62Lのゲインの制御及び右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rのゲインの制御の少なくとも一方を実行する。ゲイン制御(ゲイン調整)は、前述した要領で実行される。ゲイン制御が行われると、撮像素子62Lから出力される左眼用映像データの明度と撮像素子62Rから出力される右眼用映像データの明度とが同等になる。これにより、互いに同等の明度を有し且つピントの合っている範囲が互いに相違した左眼用映像及び右眼用映像がユーザーに提供されるようになる。
【0117】
画像処理部211がプロセッサとして機能する場合、主制御部201は、ステップS2の操作が行われたことに対応し、画像処理部211に指示を送る。指示を受けた画像処理部211は、左眼用映像と右眼用映像との間における明度の相違を補償するために、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62Lにより得られた左眼用映像データに対する画像処理(明度調整)及び右眼用観察光学系40Rの撮像素子62Rにより得られた右眼用映像データに対する画像処理(明度調整)の少なくとも一方を開始する。これにより、画像処理部211は、撮像素子62Lから逐次に出力される左眼用フレームそれぞれに対する画像処理及び撮像素子62Rから逐次に出力される右眼用フレームそれぞれに対する画像処理の少なくとも一方を実行する。画像処理は、前述した要領で実行される。画像処理の適用が開始されると、表示装置3に提供される左眼用映像データ及び右眼用映像データのそれぞれの明度が同等になる。これにより、互いに同等の明度を有し且つピントの合っている範囲が互いに相違した左眼用映像及び右眼用映像がユーザーに提供されるようになる。
【0118】
(S4:ライブ画像の生成及び表示を継続する)
眼科観察装置1は、手術用顕微鏡10による左眼用映像データ及び右眼用映像データの生成を継続するとともに、ステップS3により達成された左眼用映像及び右眼用映像、つまり、互いに同等の明度を有し且つピントの合っている範囲が互いに相違した左眼用映像及び右眼用映像の表示を継続する(エンド)。
【0119】
ユーザーは、操作装置2を用いて、明度の微調整、絞り条件の微調整、他の微調整などを行うことができる。術者は、所望の態様に調整された左眼用映像及び右眼用映像を観察しながら手術を行うことができる。
【0120】
本例の動作及び使用形態によれば、デジタル双眼手術用顕微鏡において、絞り条件を左右で違えたときに、左右の撮像素子の一方又は双方のゲイン調整を行ったり、左右の映像データの一方又は双方の明度調整を行ったりすることができる。このような連係動作(絞り調整とゲイン調整との連係、絞り調整と明度調整との連係、絞り調整とゲイン調整及び明度調整との連係)によって、例えば、左右の撮影系の一方の絞りを収縮させたときに、絞りが収縮された撮影系の撮像素子のゲインを上げたり、映像データの明度を上げたりすることで、この撮影系により得られる映像データの明るさの低下を補償することができ、左右の映像の明るさをバランスさせることが可能となる。これにより、解像力を優先した映像とピントの合う範囲を優先した映像とを、互いの明るさを同等にしつつ、並行して提示することが可能になる。本例によれば、旧来の接眼レンズ型(非デジタル)双眼眼科観察装置を用いて行われていた左右の光学系の条件を違えた観察手法を、デジタル眼科観察装置でも実施することが可能になる。
【0121】
<変形例>
上記した実施形態の幾つかの変形例を説明する。
【0122】
上記した実施形態では、左右の絞り条件の相違に対応したゲイン調整を自動で行っているが、これを手動で行うようにしてもよい。例えば、主制御部201は、左右の絞り条件が違えられたことに対応し、ゲイン調整の実施を促すための情報、ゲイン調整量などを表示装置3に表示させることができる。
【0123】
上記した実施形態は、左右の絞りの条件の相違に起因した左右の映像の明度の相違を補償しているが、左右の映像の明度を相違させる原因は左右の絞りの条件の相違に限定されない。例えば、前述した同軸照明では、被検眼に対する光学系の位置決めを精密に行う必要があり、光学系の位置の微小な変化でも像(徹照像)の明度が変化することが知られている。よって、デジタル双眼眼科観察装置で同軸照明を行う際、左眼用映像の明度と右眼用映像の明度とが相違することがある。そこで、上記した実施形態と同様に、ゲイン調整や画像処理(明度調整)を行って左眼用映像の明度と右眼用映像の明度とを同等にすることが可能である。また、徹照像は赤みを帯びた画像であり、左眼用映像の色と右眼用映像の色とが相違する場合もある。そこで、明度を同等化する場合と同様に、画像の色に関するパラメータ(色調パラメータ、色温度パラメータ、RGBバランスパラメータなど)を同等化するための処理(画像処理など)を行って左眼用映像の色と右眼用映像の色とを同等にすることが可能である。
【0124】
本開示は、実施態様を例示したものに過ぎず、本開示及びその均等の範囲内において任意の変形、省略、追加、置換などを施すことが可能である。
【符号の説明】
【0125】
1 眼科観察装置
2 操作装置
3 表示装置
10 手術用顕微鏡
30 照明光学系
40L 左眼用観察光学系
40R 右眼用観察光学系
62L、62R 撮像素子
200 制御部
201 主制御部
203 撮像素子制御部
210 データ処理部
211 画像処理部