(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】プログラム評価装置および教示装置
(51)【国際特許分類】
B25J 9/22 20060101AFI20241126BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20241126BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20241126BHJP
B23Q 15/28 20060101ALI20241126BHJP
G05B 19/42 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B25J9/22 A
B25J19/06
G05B19/404 F
B23Q15/28
G05B19/42 J
(21)【出願番号】P 2022578426
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002749
(87)【国際公開番号】W WO2022163669
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021013046
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 俊也
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-122428(JP,A)
【文献】特開平05-108123(JP,A)
【文献】特開2002-283059(JP,A)
【文献】特開2016-101644(JP,A)
【文献】国際公開第2015/132936(WO,A1)
【文献】特開平08-294820(JP,A)
【文献】特開2009-160636(JP,A)
【文献】特開2002-273675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00- 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット用の動作プログラムを評価するプログラム評価装置であって、前記動作プログラムが、ツールを使用したワークの加工を前記ロボットに実行させるためのプログラムであって、前記ワークを加工する加工点での前記ツールの配置に関する
優先順位が設定された複数のパラメータを含み、前記ロボットが、前記ツールの摩耗量に応じて前記ツールの位置を補正する機能を有し、
所定の範囲内の複数の摩耗量の各々において前記ロボットが前記動作プログラムに従って正常に動作するか否かを確認する動作確認部と、
少なくとも1つの前記摩耗量において前記ロボットが正常に動作しないことが前記動作確認部によって確認された場合に、
前記優先順位の高いものから順に前記パラメータを修正するプログラム修正部とを備え、
前記パラメータが、前記加工点の位置を含み、
前記プログラム修正部が、前記加工点の位置を修正する、プログラム評価装置。
【請求項2】
前記動作確認部は、少なくとも1つの前記摩耗量において前記ロボットの動作中に所定の問題が発生した場合に、前記ロボットが正常に動作しないと判断し、
前記所定の問題は、前記ロボットの位置が該ロボットの動作範囲外に位置すること、前記ロボットが特異姿勢に配置されること、および、前記ロボットが周辺物体と干渉すること、の少なくとも1つを含む、請求項1に記載のプログラム評価装置。
【請求項3】
前記ツールがスポット溶接ガンであり、前記摩耗量が前記スポット溶接ガンの固定側電極チップの摩耗量である、請求項1
または請求項
2に記載のプログラム評価装置。
【請求項4】
前記動作確認部が、各前記摩耗量における前記ロボットの動作をシミュレーションすることによって、前記ロボットが正常に動作するか否かをオフラインで確認する、請求項1から請求項
3のいずれかに記載のプログラム評価装置。
【請求項5】
ロボットの動作を教示する教示装置であって、
請求項1から請求項
4のいずれかに記載のプログラム評価装置を備える、教示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム評価装置および教示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークに対して溶接または加工等の所定の作業を行うロボットには、ロボットの位置を補正し、それによりツールの位置を補正する機能が搭載されている(例えば、特許文献1,2参照。)。例えば、スポット溶接ガンの電極チップは溶接を繰り返すうちに摩耗し、摩耗量の分だけ電極チップの先端の位置にずれが発生する。特許文献1には、摩耗量を計測し、摩耗量に応じてロボットおよびスポット溶接ガンの位置を補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-125427号公報
【文献】特開平8-328632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットの位置が補正によって変化したとき、ロボットが正常に動作しなくなることがある。例えば、補正された位置がロボットの動作範囲外であるときには、エラーが発生してロボットが停止する。補正された位置がロボットの特異点であるときには、ロボットの動作を制御することができなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ロボット用の動作プログラムを評価するプログラム評価装置であって、前記動作プログラムが、ツールを使用したワークの加工を前記ロボットに実行させるためのプログラムであって、前記ワークを加工する加工点での前記ツールの配置に関する優先順位が設定された複数のパラメータを含み、前記ロボットが、前記ツールの摩耗量に応じて前記ツールの位置を補正する機能を有し、所定の範囲内の複数の摩耗量の各々において前記ロボットが前記動作プログラムに従って正常に動作するか否かを確認する動作確認部と、少なくとも1つの前記摩耗量において前記ロボットが正常に動作しないことが前記動作確認部によって確認された場合に、前記優先順位の高いものから順に前記パラメータを修正するプログラム修正部とを備え、前記パラメータが、前記加工点の位置を含み、前記プログラム修正部が、前記加工点の位置を修正する、プログラム評価装置である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】一実施形態に係る教示装置の機能を示すブロック図である。
【
図4】パラメータの他の修正方法を説明する図である。
【
図5】パラメータの他の修正方法を説明する図である。
【
図6】教示装置が実行する処理のフローチャートである。
【
図7】摩耗量に応じてツールの位置が補正された状態を示すロボットの部分構成図である。
【
図8】ツールの姿勢を修正した状態を示すロボットの部分構成図である。
【
図9】ツールの角度を修正した状態を示すロボットの部分構成図である。
【
図10】教示装置が実行する処理の変形例のフローチャートである。
【
図11A】切削工具の径方向の位置の補正を説明する平面図である。
【
図11B】切削工具の長手方向の位置の補正を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、一実施形態に係るプログラム評価装置および教示装置について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る教示装置1は、ロボット10用の動作プログラムの作成、評価および修正をオフラインで行う装置である。
図1に示されるように、ロボット10は、多関節のロボットアーム11およびツール12を有するロボット本体13と、ロボット本体13を制御する制御装置14とを備える。教示装置1は、ツール12を使用したワークWの加工をロボット10に実行させる動作プログラムを作成する。
図1に示されるロボット本体13は、6軸の垂直多関節ロボットである。ロボット本体13は、ワークWの加工に一般に使用される他の任意の産業用ロボットであってもよい。
【0008】
ツール12は、相互に対向する2つの電極チップ15,16間に電流を流すスポット溶接ガンであり、ロボットアーム11の先端に取り付けられている。一方の電極チップ15は、ロボットアーム11の先端に対して固定された固定側電極チップである。他方の電極チップ16は、固定側電極チップ15に対して、電極チップ15,16の中心軸線Aに沿って移動可能である可動側電極チップである。可動側電極チップ16の移動によって、電極チップ15,16間にワークWを把持することができる。
【0009】
固定側電極チップ15は、溶接を繰り返すうちに摩耗し、徐々に短くなる。動作プログラムは、固定側電極チップ15が所定の長さを有し摩耗量がゼロであるときに、固定側電極チップ15の先端が溶接点(加工点)Pに配置されるように、設計される。溶接点Pは、電極チップ15,16によって溶接が行われるワークW上の位置である。ロボット10は、固定側電極チップ15の摩耗に関わらず固定側電極チップ15の先端をワークW上の溶接点Pに配置するために、固定側電極チップ15の摩耗量に応じて溶接点Pでのツール12の位置を補正する自動補正機能を有する。ツール12の位置の補正に伴って、ロボットアーム11の位置および姿勢も補正される。したがって、溶接点Pでのロボットアーム11の位置および姿勢は摩耗量毎に異なる。
【0010】
例えば、作業者が摩耗量を制御装置14に入力することによって、摩耗量が制御装置14に設定される。制御装置14は、設定された摩耗量と等しい量だけ、溶接点Pにおけるツール12の位置を摩耗方向とは反対方向に補正する。
図1の例の場合、固定側電極チップ15の摩耗方向は下方向であるので、制御装置14は、ツール12の位置を上方向に補正する。これにより、摩耗によって短くなった固定側電極チップ15の先端を、溶接点PにおいてワークWに接触させ、ワークWを確実に溶接することができる。
【0011】
図2に示されるように、教示装置1は、動作プログラムの作成に必要なデータを記憶する記憶部2と、データを教示装置1に入力するための入力部3と、動作プログラムを作成するプログラム作成部4と、動作プログラムに基づくロボット10の動作を確認する動作確認部5と、ロボット10の動作に問題が確認された場合に動作プログラムを修正するプログラム修正部6と、表示部7とを備える。プログラム評価装置は、教示装置1の一部として実現され、少なくとも動作確認部5およびプログラム修正部6から構成される。
【0012】
記憶部2は、ROM(read-only memory)またはハードディスクドライブ等の不揮発性の記録媒体である。教示装置1は、中央演算処理装置のような少なくとも1つのプロセッサと、メモリとを備える。記憶部2には、後述する処理をプロセッサに実行させるためのプログラムが記憶されている。プログラム作成部4、動作確認部5およびプログラム修正部6の後述の機能は、プログラムがメモリに読み込まれプロセッサによって実行されることにより、実現される。
【0013】
入力部3は、キーボード、マウスおよびタッチパネル等の少なくとも1つの入力デバイスを有する。作業者は、動作プログラムの作成に必要なデータを、入力部3を使用して教示装置1に入力することができる。
記憶部2には、3次元の仮想空間のデータと、ロボット10、ワークW、およびロボット10の周辺に配置される周辺物体の各々の3次元のモデルのデータと、を記憶する。これらのデータは、例えば、CADデータである。
【0014】
また、記憶部2は、入力部3を使用して作業者によって教示装置1に入力された教示データを記憶する。教示データは、溶接点Pを含む1つ以上の教示点の教示位置と、溶接点Pにおけるツール12の教示姿勢および教示角度と、を含む。
教示姿勢は、溶接点Pを通り摩耗方向に平行な所定の軸線回りのツール12の姿勢であり、本実施形態においては中心軸線A回りの姿勢である。ツール12の教示角度は、所定の方向に対するツール12の傾斜角度であり、本実施形態においては、鉛直方向に対する中心軸線Aの傾斜角度である。
【0015】
プログラム作成部4は、記憶部2に記憶された教示データに基づき、ロボット10にワークWのスポット溶接を実行させるための動作プログラムをオフラインで作成する。
すなわち、プログラム作成部4は、仮想空間のデータと、ロボット10、ワークWおよび周辺物体の各々の3次元のモデルのデータとを記憶部2から読み出し、ロボット10、ワークWおよび周辺物体のモデルを仮想空間に配置する。モデルが配置された仮想空間は、液晶ディスプレイ等の表示部7に表示されてもよい。次に、プログラム作成部4は、仮想空間内の1つ以上の教示点を順番に通る動作経路を設定し、動作経路に沿ってツール12を移動させるための動作プログラムを作成する。
【0016】
作成された動作プログラムは、少なくとも一時的に記憶部2に記憶される。動作プログラムには、溶接点Pでのツール12の配置に関するパラメータとして、溶接点P(すなわち、固定側電極チップ15の先端)の教示位置ならびに溶接点Pでのツール12の教示姿勢および教示角度が含まれる。
【0017】
動作確認部5は、プログラム作成部4によって作成された動作プログラムに基づくロボット10の動作をシミュレーションすることによって、ロボット10が動作プログラムに従って正常に動作するか否かをオフラインで確認する。このとき、動作確認部5は、摩耗量を段階的に変化させ、所定の範囲内の複数の摩耗量の各々においてロボット10の動作を確認する。所定の範囲および複数の摩耗量は、固定側電極チップ15の摩耗量の長さに基づいて作業者によって決定され、入力部3を使用して作業者によって教示装置1に入力され設定される。
【0018】
具体的には、動作確認部5は、プログラム作成部4と同様に、3次元の仮想空間内にロボット10、ワークWおよび周辺物体の各々の3次元のモデルを配置する。次に、動作確認部5は、実在のロボット10の自動補正機能と同様に、摩耗量に応じて溶接点Pでのツール12の位置を補正し、それに伴いロボットアーム11の位置および姿勢を補正する。次に、動作確認部5は、ロボット10のモデルを仮想空間内で動作プログラムに従って動作させ、補正された位置および姿勢でロボット本体13が正常に動作するか否かを確認する。
【0019】
ロボット10の動作中に所定の問題が発生した場合、動作確認部5は、ロボット10が正常に動作しないと判断する。一方、ロボット10の動作中に所定の問題が発生しなかった場合、動作確認部5は、ロボット10が正常に動作すると判断する。所定の問題は、ツール12およびロボットアーム11の少なくとも一方の補正された位置がロボット本体13の所定の動作範囲外に位置すること、ロボットアーム11が特異姿勢に配置されること、および、ロボット本体13が周辺物体と干渉すること、を含む。
【0020】
全ての摩耗量においてロボット10が正常に動作すると判断された場合、動作確認部5は、動作確認を終了する。
一方、少なくとも1つの摩耗量において問題が発生しロボット10が正常に動作しないと判断された場合、動作確認部5は、プログラム修正部6による動作プログラムの修正後、修正された動作プログラムに従ってロボット10が正常に動作するか否かを確認する。全ての摩耗量においてロボット10が正常に動作すると判断されるまで、動作プログラムの修正および動作確認が繰り返される。
【0021】
プログラム修正部6は、ロボット10が正常に動作しないと動作確認部5によって判断された場合、
図3から
図5に示されるように、問題が発生した摩耗量において問題を解消するように、溶接点Pでのツール12の配置に関する少なくとも1つのパラメータを修正する。パラメータは、前述したように、溶接点Pの教示位置ならびに溶接点Pでのツール12の教示姿勢および教示角度である。教示位置、教示姿勢および教示角度の各々の調整可能な範囲を作業者が指定可能であってもよい。また、教示位置、教示姿勢および教示角度の各々の修正量および修正方向を作業者が指定可能であってもよい。
【0022】
図3は、溶接点Pの教示位置の修正を説明している。溶接点Pの教示位置は、ワークWの表面上の近傍の位置に修正される、すなわち、摩耗方向に交差しワークWの表面に沿う方向に修正される。
図3の例において、教示位置は、水平方向に修正される。これにより、ツール12の位置が水平方向に修正され、ロボットアーム11の位置および姿勢も修正される。
【0023】
図4は、ツール12の教示姿勢の修正を説明している。教示姿勢の修正によって、ツール12は、固定側電極チップ15の先端の位置を溶接点Pに維持しながら固定側電極チップ15の中心軸線A回りに回転する。これにより、ロボットアーム11の位置および姿勢も修正される。
【0024】
図5は、ツール12の教示角度の修正を説明している。教示角度の修正によって、ツール12は、固定側電極チップ15の先端の位置を溶接点Pに維持しながら、所定の方向に対して傾斜する。
図5の例において、教示角度は、鉛直方向に対して傾斜する方向に修正される。これにより、ロボットアーム11の位置および姿勢も修正される。
【0025】
次に、プログラム評価装置および教示装置1の作用について
図6を参照して説明する。
作業者が、動作プログラムの作成に必要なデータを入力部3を使用して教示装置1に入力した後(ステップS1)、教示装置1による動作プログラムの作成が開始される。入力されるデータには、教示データ、摩耗量の範囲および摩耗量が含まれる。
まず、プログラム作成部4によって、ロボット10にスポット溶接を実行させるための動作プログラムが作成される(ステップS2)。
【0026】
次に、動作確認部5によって、所定の範囲内の複数の摩耗量の各々においてロボット10の動作確認がシミュレーションによって実行され、動作プログラムが評価される(ステップS3~S7)。具体的には、摩耗量が設定され(ステップS3)、摩耗量に応じて溶接点Pでのツール12の位置とロボットアーム11の位置および姿勢とが補正され(ステップS4)、ロボット本体13のモデルが動作プログラムに従って仮想空間内で動作させられる(ステップS5)。1つの摩耗量での動作確認の終了後、摩耗量が変更され(ステップS7)、ステップS4,S5が再び実行される。
【0027】
例えば、1回目の動作確認において、摩耗量はゼロであり、ツール12およびロボットアーム11の補正量もゼロである。2回目以降の動作確認において、摩耗量はゼロ以外の値であり、ツール12が摩耗量と等しい量だけ上方に変位するように、ツール12の位置とロボットアーム11の位置および姿勢とが補正される。
【0028】
全ての摩耗量での動作確認の終了後(ステップS6のYES)、全ての摩耗量での動作確認において所定の問題が発生しなかった場合(ステップS8のYES)、動作プログラムの作成が終了し、作成された動作プログラムが記憶部2に保存される(ステップS10)。
一方、少なくとも1つの摩耗量での動作確認において所定の問題が発生した場合(ステップS8のNO)、次に、プログラム修正部6によって、動作プログラム内の、溶接点Pでのツール12の配置に関するパラメータが修正される(ステップS9)。続いて、修正された動作プログラムを使用して全ての摩耗量での動作確認が再度実行される(ステップS3~S8)。
【0029】
図7は、摩耗量の変更に伴って発生する問題の例を示している。
図7において、ツール12の位置を上方に補正した結果、ツール12が周辺物体Bと干渉し、ロボットアーム11が、第4軸線J4と第6軸線J6が略一直線に並ぶ特異姿勢に配置されている。この場合、例えば、
図8に示されるように、ツール12の教示姿勢を修正することによって、固定側電極チップ15の先端の位置を溶接点Pに保持しながら、ロボットアーム11の特異姿勢が解消される。溶接点Pの教示位置の近傍の位置への変更が許容される場合、教示姿勢の修正に代えて、またはこれに加えて、教示位置を修正してもよい。また、
図9に示されるように、ツール12の教示角度を修正することによって、固定側電極チップ15の先端の位置を溶接点Pに保持しながら、ツール12の周辺物体Bとの干渉が解消される。
【0030】
全ての摩耗量での動作確認において所定の問題が発生しなくなるまで(ステップS8のYES)、ステップS9の動作プログラムの修正とステップS3~S7のロボット10の動作確認とが繰り返される。
ステップS9においてどのような修正が行われたかを作業者が後で確認することができるようにするために、プログラム修正部6は、修正したパラメータおよびその修正量を記憶部2に記憶させてもよい。
【0031】
このように、本実施形態によれば、所定の範囲内の複数の摩耗量の各々において、位置および姿勢が補正されたロボット本体13が動作プログラムに従って正常に動作するか否かが確認される。これにより、動作プログラムが、いずれの摩耗量においても問題を発生させることなくロボット10を動作させることができるものであるか否かを、実在のロボット10によってワークWを実際に加工する前に、事前に評価することができる。
【0032】
また、少なくとも1つの摩耗量において問題が確認された場合、動作プログラム内の溶接点Pでのツール12の配置に関するパラメータが修正され、修正された動作プログラムに従ってロボット10が正常に動作するか否かが再度確認される。全ての摩耗量においてロボット10が正常に動作するまで、動作プログラムの修正とロボット10の動作確認とが繰り返される。これにより、全ての摩耗量において正常にロボット10が動作する動作プログラムを作成することができる。
【0033】
教示装置1によって最終的に作成された動作プログラムは、実在のロボット10の制御装置14に組み込まれる。制御装置14が動作プログラムに従って実在のロボット本体13にスポット溶接を繰り返し実行させるうちに、固定側電極チップ15が摩耗する。作業者は、固定側電極チップ15の摩耗量を制御装置14に入力し設定する。制御装置14は、設定された摩耗量に応じて、溶接点Pでのツール12の位置を補正し、それに伴いロボットアーム11の位置および姿勢を補正する。このときに、ツール12の位置の補正後もロボット本体13は正常に動作することができ、実際にワークWのスポット溶接を行う工場等の現場において、摩耗量の設定値の変更が原因でロボット本体13の動作に問題が発生することを防ぐことができる。
【0034】
スポット溶接において、高い溶接品質を得るために、通常、溶接点Pでのツール12の教示角度は、ワークWの表面に対して電極チップ15,16が垂直に配置される角度に設定される。すなわち、
図3、
図4および
図5の3つのパラメータの修正の内、教示角度の修正は溶接品質に影響し得る。したがって、3つのパラメータに優先順位が設定され、プログラム修正部6は、優先順位が高いものから順にパラメータを修正してもよい。
例えば、ある摩耗量において問題が発生した場合、プログラム修正部6は、最初にツール12の教示姿勢を修正する。その後の動作確認で問題が再び発生した場合、プログラム修正部6は、次に溶接点Pの位置を修正する。その後の動作確認で問題が再び発生した場合、プログラム修正部6は、次にツール12の教示角度を修正する。
【0035】
上記実施形態において、動作確認においてロボット10と周辺物体との干渉が発生した場合、動作確認部5は、干渉したときのロボット10の位置および姿勢を記憶部2に記憶してもよい。
動作プログラムの作成終了後、作業者は、干渉が発生した位置とそのときのロボット本体13の姿勢を確認し、周辺物体およびロボット本体13の設計変更によって干渉を回避できるか否かを検討する。設計変更は、例えば、周辺物体Bおよびロボット本体13の各々の形状および配置の変更である。設計変更による干渉回避が可能である場合、作業者は、周辺物体およびロボット本体13の少なくとも一方の設計を変更する。これにより、教示位置、教示姿勢および教示角度のいずれも修正されていない動作プログラムを実在のロボット10の動作に使用することができる。
【0036】
上記実施形態において、教示装置1が、オフラインで動作プログラムを作成することとしたが、これに代えて、オンラインで動作プログラムを作成してもよい。
例えば、作業者は、可搬式の教示操作盤を使用するリモートティーチ、または、ロボットの一部分を持ちロボットを直接操作するダイレクトティーチによって、動作プログラムの作成に必要な教示データを教示装置1に入力する。動作確認部5は、プログラム作成部4によって作成された動作プログラムに従って実在のロボット10を動作させ、各摩耗量においてロボット10が正常に動作するか否かをオンラインで確認する。動作確認において問題が発生した場合、作業者が手動で動作プログラムを修正してもよい。あるいは、オフラインの場合と同様に、プログラム修正部6が自動で動作プログラムを修正してもよい。
【0037】
上記実施形態において、プログラム評価装置が、教示装置1に組み込まれていることとしたが、これに代えて、プログラム評価装置が、ロボット10の制御装置14に組み込まれ、制御装置14の一部として実現されてもよい。
この場合、少なくとも動作確認部5が制御装置14に搭載される。作業者は、必要に応じて電極チップ15,16をツール12から取り外し、動作確認の実行を制御装置14に指示する。
【0038】
動作確認部5は、制御装置14に組み込まれた動作プログラムに従って実在のロボット10を動作させ、各摩耗量においてロボット10が正常に動作するか否かをオンラインで確認する。動作確認において問題が発生した場合、作業者が手動で動作プログラムを修正してもよい。あるいは、制御装置14に搭載されたプログラム修正部6が自動で動作プログラムを修正してもよい。
この構成によれば、工場等の現場でも、全ての摩耗量においてロボット10が正常に動作することを事前に確認し、その後にワークWの加工をロボット10に実行させることができる。
【0039】
上記実施形態において、摩耗量に関わらず同一の動作プログラムを使用してロボット本体13を動作させるために、教示装置1が、全ての摩耗量においてロボット本体13が正常に動作する動作プログラムを作成することとしたが、これに代えて、
図10に示されるように、教示装置1が、摩耗量毎に動作プログラムを作成してもよい。
すなわち、1つの摩耗量での動作確認の終了後(ステップS4,S5)、その摩耗量での動作確認において所定の問題が発生しなかった場合(ステップS11のYES)、1つの摩耗量用の動作プログラムの作成が終了し、作成された動作プログラムが摩耗量と対応付けて記憶部2に保存される(ステップS12)。
【0040】
一方、所定の問題が発生した場合(ステップS11のNO)、動作プログラム内のパラメータが修正され(ステップS9)、修正された動作プログラムを使用して同一の摩耗量での動作確認が再度実行される(ステップS5)。問題が発生しなくなるまで、同一の摩耗量での動作確認および動作プログラムの修正が繰り返される。
1つの摩耗量用の動作プログラムの作成終了後(ステップS12)、摩耗量が変更され(ステップS7)、ステップS4,S5,S9,S11,S12が再び実行される。全ての摩耗量での動作確認が終了し全ての摩耗量用の動作プログラムの作成が終了するまで(ステップS6のYES)、ステップS4~S12が繰り返される。これにより、所定の範囲内の複数の摩耗量にそれぞれ対応する複数の動作プログラムが作成され記憶部2に保存される。
【0041】
上記実施形態において、プログラム評価装置が、教示装置1または制御装置14の一部として実現されることとしたが、これに代えて、教示装置1および制御装置14とは別体の装置として実現されてもよい。
例えば、プログラム評価装置は、教示装置1と接続され、プログラム作成部4によって作成された動作プログラムを教示装置1から受け取り、動作プログラムに従ってロボット10の動作確認をオフラインまたはオンラインで行い、必要に応じて動作プログラムを修正してもよい。
【0042】
上記実施形態において、負の値の摩耗量を制御装置14に入力可能であってもよい。標準的な固定側電極チップ15よりも長い固定側電極チップ15がツール12に取り付けられた場合、負の値の摩耗量を入力することによって、ツール12の位置を、摩耗方向と同一方向に補正し、長い固定側電極チップ15の先端をワークW上の溶接点Pに配置することができる。
上記実施形態において、教示姿勢および教示角度の修正に伴ってロボット本体13の動作が変化し、サイクルタイムが変化することがある。したがって、作業者がサイクルタイムの許容範囲を設定することができるように構成されていてもよい。
【0043】
上記実施形態において、ツール12がスポット溶接ガンであることとしたが、ツール12はこれに限定されるものではなく、使用に伴って摩耗する任意のツールであってもよい。例えば、ツール12は、先端がワークWとの接触によって摩耗するドリルであってもよい。
ツール12の種類に応じて、修正されるパラメータは選択される。例えば、ツール12がドリルである場合、プログラム修正部6は、加工点での教示姿勢のみを修正してもよい。
【0044】
上記実施形態において、ツール12が長手方向に摩耗する場合について説明したが、プログラム評価装置は、ツール12が径方向に摩耗する場合にも適用可能である。
例えば、ツール12が切削工具である場合、切削工具12は、先端の長手方向の摩耗によって徐々に短くなるとともに、外周面の径方向の摩耗によって徐々に細くなる。
図11Aおよび
図11Bは、切削工具12を経路Cに沿って移動させて切削面Dを加工する場合に、ロボット10が行う切削工具12の位置の自動補正を説明している。二点鎖線の切削工具12は、摩耗していない工具であり、実線の切削工具12は、長手方向および径方向に摩耗した工具である。
図11Aに示されるように、径方向の摩耗に関わらず切削面Dの輪郭を維持するために、切削工具12の位置は、径方向の摩耗量に応じて、経路Cを広げる方向に、すなわち切削面D側へ径方向に補正される。また、
図11Bに示されるように、切削工具12の位置は、長手方向の摩耗量に応じて、長手方向前方に補正される。
【0045】
切削工具12の位置の径方向の補正に伴い、ロボットアーム11の位置および姿勢も補正される。したがって、径方向および長手方向のそれぞれについて所定の範囲および摩耗量が設定され、動作確認部5は、径方向の摩耗量と長手方向の摩耗量の各組み合わせにおいて、ロボット本体13が正常に動作するか否かを確認する。これにより、動作プログラムが、長手方向のみならず径方向のいずれの摩耗量においても問題を発生させることなくロボット10を動作させることができるものであるか否かを、事前に評価することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 教示装置
4 プログラム作成部
5 動作確認部
6 プログラム修正部
10 ロボット
11 ロボットアーム
12 ツール
14 制御装置
15 固定側電極チップ
A 中心軸線
B 周辺物体
P 溶接点(加工点)
W ワーク