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特許7594054プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20241126BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20241126BHJP
   C12C 12/00 20060101ALI20241126BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20241126BHJP
   A23L 2/56 20060101ALN20241126BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/06
C12C12/00
A23L2/38 J
A23L2/56
A23L2/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023116465
(22)【出願日】2023-07-18
【審査請求日】2024-09-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三▲吉▼ 惟道
(72)【発明者】
【氏名】高橋 沙織
(72)【発明者】
【氏名】齊木 泰宏
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-145601(JP,A)
【文献】特開2021-168688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0338513(US,A1)
【文献】冨士原義徳,ビールフレーバー Beer Flavor,日本香料協会会誌「香料」香りの本,2004年09月,No.223,pp. 145-152
【文献】宮地秀夫著,ビール醸造技術,初版,東京:株式会社食品産業新聞社,1999年12月28日,pp.190-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 5/02
C12G 3/06
C12C 12/00
A23L 2/38
A23L 2/56
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリン体濃度がmg/100mL以下であるビールテイスト飲料であって、2-メチルピラジンを0.5~30ppb含有し、かつ、2,6-ジメチルピラジンを0.5~5ppb含し、アルコール濃度が3~6v/v%である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計含有量が1ppb以上である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
プリン体濃度が0.5mg/100mL以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
麦芽使用比率が50%未満である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
麦芽使用比率が50%以上100%以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
糖質濃度が1.5g/100mL以下である、請求項1または2に記載のビーテイスト飲料。
【請求項7】
糖質濃度が0.5g/100mL以下である、請求項1または2に記載のビーテイスト飲料。
【請求項8】
プリン体濃度が3.5mg/100mL以下であり、糖質濃度が0.5g/100mL以下である、請求項1または2に記載のビーテイスト飲料。
【請求項9】
アルコール濃度が3~6v/v%であり、プリン体濃度がmg/100mL以下であるビールテイスト飲料の製造方法であって、製造された飲料の2-メチルピラジン濃度が0.5~30ppbとなり、かつ、製造された飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度が0.5~5ppbとなるように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有させる工程を含む、製造方法。
【請求項10】
アルコール濃度が3~6v/v%であり、プリン体濃度がmg/100mL以下であるビールテイスト飲料の風味改善方法であって、製造された飲料の2-メチルピラジン濃度が0.5~30ppbとなり、かつ、製造された飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度が0.5~5ppbとなるように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有させる工程を含む、風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵麦芽飲料であるビール中には麦原料等に由来するプリン体化合物が含まれていることが知られている。プリン体化合物は、食餌として摂取された場合、尿酸に分解される。高尿酸血症における食餌制限では、このプリン体化合物の摂取の制限がなされる場合があるが、より高含有食物としての肉、卵、肝等の制限に加えて、ビール等の発酵麦芽飲料についても食餌制限を受けることがある。このため、ビール等の発酵麦芽飲料についてもプリン体化合物を低減した製品が望まれる。
【0003】
プリン体濃度が低減されつつも、ビールらしさや味の厚みが実現されたビールテイスト飲料およびその製造方法としては、例えばこれまでに特許文献1および2の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-196336号公報
【文献】特開2019-097414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プリン体濃度が低減されつつも、中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスが良好な新規なビールテイスト飲料並びにその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料にピラジン類が所定量含まれるようにすることで、プリン体濃度が低減されつつも、中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスが良好なビールテイスト飲料を提供できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]プリン体濃度が12mg/100mL以下であるビールテイスト飲料であって、2-メチルピラジンを0.5ppb以上、および/または、2,6-ジメチルピラジンを0.5ppb以上含有する、ビールテイスト飲料。
[2]2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計含有量が1ppb以上である、上記[1]に記載のビールテイスト飲料。
[3]プリン体濃度が3.0mg/100mL以下である、上記[1]または[2]に記載のビールテイスト飲料。
[4]ビールテイスト発酵麦芽アルコール飲料である、上記[1]または[2]に記載のビールテイスト飲料。
[5]アルコール濃度が10.0v/v%以下である、上記[4]に記載のビールテイスト飲料。
[6]プリン体濃度が12mg/100mL以下であるビールテイスト飲料の製造方法であって、製造された飲料の2-メチルピラジン濃度が0.5ppb以上となり、および/または、製造された飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度が0.5ppb以上となるように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有させる工程を含む、製造方法。
[7]プリン体濃度が12mg/100mL以下であるビールテイスト飲料の風味改善方法であって、製造された飲料の2-メチルピラジン濃度が0.5ppb以上となり、および/または、製造された飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度が0.5ppb以上となるように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有させる工程を含む、風味改善方法。
【0008】
本発明によれば、プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料において、ピラジン類が所定量含まれるようにすることで、プリン体濃度を低減しつつも、中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスが良好なビールテイスト飲料を提供することができる。このため本発明は、消費者の健康志向等、多様なニーズに応えることができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明において「ビールテイスト」とは通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを意味する。
【0010】
本発明において、「ビールテイスト発酵アルコール飲料」は、炭素源、窒素源、および水等を原料として酵母により発酵させた飲料を意味し、ビール、発泡酒および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(2)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。ビールテイスト発酵アルコール飲料の好ましい態様としては、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料が挙げられ、より好ましい態様としては、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料が挙げられる。
【0011】
本発明により製造されるビールテイスト発酵麦芽アルコール飲料は麦芽を原料の少なくとも一部とするものであり、好ましくは、麦芽として、例えば、大麦麦芽および小麦麦芽のいずれかまたは両方を使用するものとすることができる。本発明により製造されるビールテイスト発酵麦芽アルコール飲料が麦芽を原料の少なくとも一部として使用する場合、麦芽使用比率は、例えば、20%以下、20%以上、25%未満、25%以上、30%以下、30%以上、40%以下、40%以上、50%未満、50%以上、55%以下、55%以上、60%以下、60%以上、65%以下、65%以上、70%以下、70%以上、75%以下、75%以上、80%以下、80%以上、85%以下、85%以上、90%以下、90%以上、95%以下、95%以上または100%とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。本明細書において「麦芽使用比率」とは、ホップおよび醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。本発明において、ビールとは、麦芽、ホップ、水その他一定の副原料を発酵させたもの、またはこれにホップ若しくは一定の副原料を加えて発酵させたもので、以下の2つの条件を満たすもの(アルコール分20度未満のものに限る。)
・麦芽比率が100分の50以上であること
・使用した果実(乾燥したもの、煮詰めたもの又は濃縮した果汁を含む。)及び一定の香味料の重量が麦芽の重量の100分の5を超えない(使用していないものを含む。)こと
を意味するものとすることができる(「所得税法等の一部を改正する等の法律」(平成29年法律第4号)により改正された、平成30年4月1日が施行日の酒税法(昭和28年法律第6号)参照)。
【0012】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、アルコール濃度を任意に設定することができるが、アルコール濃度の下限値(以上または上回る)は、例えば、1.0v/v%、1.5v/v%、2.0v/v%、2.5v/v%または3.0v/v%とすることができ、その上限値(以下または下回る)は、例えば、11.0v/v%、10.5v/v%、10.0v/v%、9.5v/v%、9.0v/v%、8.5v/v%、8.0v/v%、7.5v/v%、7.0v/v%、6.5v/v%または6.0v/v%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料のアルコール濃度は、例えば、1.0~10.0v/v%、好ましくは3.0~6.0v/v%とすることができる。
【0013】
飲料中のアルコール濃度(エタノール濃度)の測定方法は、当業者に広く知られており、例えば、「国税庁所定分析法」に記載の方法により測定することができる。
【0014】
本発明のビールテイスト飲料は、ビールテイストノンアルコール飲料を含む。ここで、「ビールテイストノンアルコール飲料」とは、アルコール(エタノール)濃度が1v/v%未満のビールテイスト飲料を意味し、好ましくはアルコールゼロのビールテイスト飲料(例えばアルコール濃度が0.00v/v%であるビールテイスト飲料)とされる。このようなアルコールゼロのビールテイスト飲料は、好ましくは非発酵ビールテイスト飲料、つまり、発酵工程を経ずに製造されたビールテイスト飲料とされる。ここで「発酵工程」とは、酵母等の微生物が有機物を分解することによってアルコール等の代謝産物を生成する工程をいう。本発明のより好ましい実施態様によれば、本発明のビールテイストノンアルコール飲料は、原料として麦芽を使用した、アルコールゼロのビールテイストノンアルコール飲料が提供される。
【0015】
本発明によればまた、「ビールテイストノンアルコール飲料」は、アルコールを1v/v%未満の濃度で含むビールテイスト飲料であってもよく、このようなビールテイスト飲料はビール等のビールテイスト発酵麦芽アルコール飲料を脱アルコール工程に付して製造されたビールテイスト飲料や、制限エタノール発酵を経て製造されたビールテイスト飲料を含む。
【0016】
本発明のビールテイスト飲料は、プリン体濃度が低減されている。具体的には、本発明のビールテイスト飲料のプリン体濃度の上限値(以下または下回る)は、12mg/100mLであり、11mg/100mL、10mg/100mL、9.0mg/100mL、8.0mg/100mL、7.0mg/100mL、6.0mg/100mL、5.0mg/100mL、4.0mg/100mL、3.5mg/100mL、3.4mg/100mL、3.3mg/100mL、3.2mg/100mL、3.1mg/100mL、3.0mg/100mL、2.9mg/100mL、2.8mg/100mL、2.7mg/100mL、2.6mg/100mL、2.5mg/100mL、2.4mg/100mL、2.3mg/100mL、2.2mg/100mL、2.1mg/100mL、2.0mg/100mL、1.9mg/100mL、1.8mg/100mL、1.7mg/100mL、1.6mg/100mL、1.5mg/100mL、1.4mg/100mL、1.3mg/100mL、1.2mg/100mL、1.1mg/100mL、1.0mg/100mL、0.9mg/100mL、0.8mg/100mL、0.7mg/100mL、0.6mg/100mL、0.5mg/100mL、0.4mg/100mL、0.3mg/100mLまたは0.2mg/100mLとすることもできる。なお、プリン体濃度が0.5mg/100mL未満の飲料は「プリン体ゼロ飲料」に対応する。
【0017】
プリン体の測定は公知の方法によって行うことができ、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出する方法(食衛誌55(2):110-116(2014)参照)により測定することができる。なお、本明細書中、「プリン体濃度」とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量を指す。
【0018】
本発明のビールテイスト飲料は、糖質濃度が低減されていてもよい。具体的には、本発明のビールテイスト飲料の糖質濃度の上限値(以下または下回る)は、2.5g/100mL、2.4g/100mL、2.3g/100mL、2.2g/100mL、2.1g/100mL、2.0g/100mL、1.9g/100mL、1.8g/100mL、1.7g/100mL、1.6g/100mL、1.5g/100mL、1.4g/100mL、1.3g/100mL、1.2g/100mL、1.1g/100mL、1.0g/100mL、0.9g/100mL、0.8g/100mL、0.7g/100mL、0.6g/100mL、0.5g/100mL、0.4g/100mL、0.3g/100mLまたは0.2g/100mLとすることができる。なお、糖質濃度が0.5g/100mL未満の飲料は「糖質ゼロ飲料」に対応する。
【0019】
糖質濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、測定対象の試料の質量から、水分、タンパク質、脂質、灰分および食物繊維量を除いて算出する方法(栄養表示基準(平成21年12月16日 消費者庁告示第9号 一部改正)参照)に従って行うことができる。
【0020】
本発明のビールテイスト飲料は、2-メチルピラジン濃度が所定値にあることを特徴とする。具体的には、本発明のビールテイスト飲料の2-メチルピラジン濃度の下限値(以上または上回る)は0.5ppbであり、0.6ppb、0.7ppb、0.8ppb、0.9ppb、1.0ppb、2.0ppb、3.0ppb、4.0ppb、5.0ppb、10ppb、15ppb、20ppb、25ppbまたは30ppbとすることもできる。また、本発明のビールテイスト飲料において、2-メチルピラジン濃度の上限値(以下または下回る)は適宜設定することができるが、例えば、1200ppb、1100ppb、1000ppb、900ppb、800ppb、700ppb、600ppb、500ppb、400ppb、300ppb、200ppb、150ppb、140ppb、130ppb、120ppb、110ppb、100ppb、90ppbまたは80ppbとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、本発明のビールテイスト飲料の2-メチルピラジン濃度は、例えば、0.5ppb以上1200ppb以下、0.6ppb以上1200ppb以下、0.6ppb以上1000ppb以下、0.6ppb以上500ppb以下、0.6ppb以上100ppb以下とすることができる。
【0021】
本発明のビールテイスト飲料は、2,6-ジメチルピラジン濃度が所定値にあることを特徴とする。具体的には、本発明のビールテイスト飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度の下限値(以上または上回る)は0.5ppbであり、0.6ppb、0.7ppb、0.8ppb、0.9ppb、1.0ppb、2.0ppb、3.0ppb、4.0ppb、5.0ppb、10ppb、15ppb、20ppb、25ppbまたは30ppbとすることもできる。また、本発明のビールテイスト飲料において、2,6-ジメチルピラジン濃度の上限値(以下または下回る)は適宜設定することができるが、例えば、500ppb、450ppb、400ppb、350ppb、300ppb、250ppb、200ppb、150ppb、140ppb、130ppb、120ppb、110ppb、100ppb、90ppbまたは80ppbとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、本発明のビールテイスト飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度は、例えば、0.5ppb以上500ppb以下、0.5ppb以上120ppb以下、0.5ppb以上80ppb以下、2.0ppb以上500ppb以下、2.0ppb以上120ppb以下、2.0ppb以上80ppb以下とすることができる。
【0022】
本発明のビールテイスト飲料は、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度を所定値に設定することができる。本発明のビールテイスト飲料の2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度の下限値(以上または上回る)は、例えば1ppb、1.1ppb、1.2ppb、1.4ppb、1.6ppb、1.8ppb、2.0ppb、3.0ppb、4.0ppb、5.0ppb、6.0ppb、7.0ppb、8.0ppb、9.0ppb、10ppb、20ppb、30ppb、35ppb、40ppb、50ppbまたは60ppbとすることができる。本発明のビールテイスト飲料の2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度の上限値(以下または下回る)は、例えば1700ppb、1600ppb、1500ppb、1400ppb、1300ppb、1200ppb、1100ppb、1000ppb、900ppb、800ppb、700ppb、600ppb、500ppb、400ppb、300ppb、280ppb、260ppb、240ppb、220ppb、200ppb、180ppb、160ppb、140ppb、120ppbまたは100ppbとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、本発明のビールテイスト飲料の2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度は、例えば、1ppb以上1700ppb以下、1.1ppb以上1400ppb以下、1.1ppb以上1100ppb以下、35ppb以上1100ppb以下、35ppb以上200ppb以下とすることができる。なお、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度は、それぞれの濃度を足し合わせて算出した濃度である。
【0023】
本発明のビールテイスト飲料においては、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの少なくともいずれかの含有量が0.5ppb以上であればよく、この場合、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度が1ppb以上であることが好ましい。本発明のビールテイスト飲料においてはまた、2-メチルピラジンの含有量が0.5ppb以上であり、かつ、2,6-ジメチルピラジンの含有量が0.5ppb以上であることが好ましく、この場合、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計濃度が2ppb以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明のビールテイスト飲料の製造において、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンのいずれかまたは両方を添加する場合、これらは食品製造に適しているものであればよく、その形態も、水性溶媒に容易に溶解するものであればよく、精製品であっても、粗精製品であってもよい。2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンは食品添加物(香料)として食品への添加が認められており、香料として入手可能なものを本発明に使用できる。本発明においてはまた、2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有する食品素材を本発明のビールテイスト飲料の製造に用いてもよく、また、後述のように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを生成する工程を製造工程で実施してもよい。
【0025】
本発明のビールテイスト飲料において、2-メチルピラジン濃度および2,6-ジメチルピラジン濃度は、例えばGC/MS分析により測定することができる。
【0026】
本発明のビールテイスト飲料は、プリン体濃度が低減されているにもかかわらず、中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスが良好であることを特徴とする。低プリン体のビールテイスト飲料(特に、低プリン体のビールおよび発泡酒)は、低プリン体に調整する方法の特殊性等に起因して、中後半の厚みおよび重厚な味わいが十分ではないという課題があった。本発明のビールテイスト飲料は、中後半の厚みおよび重厚な味わいが良好な状態に改善され、バランスも良好であることから、低プリン体のビールテイスト飲料の上記課題を解決することができる。ここで、「中後半の厚み」とは、試飲して飲み込む手前で感じる味の厚みを意味する。また、「重厚な味わい」とはビール全体の香味を増強させた味の広がりを意味する。また、「バランス」とは、ビールらしい調和のとれた味わいを意味する。
【0027】
本発明のビールテイスト飲料は、プリン体濃度が所定の範囲内に低減され、かつ、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンのいずれかまたは両方を所定の濃度となるように含有させる限り、その製造手順に特に制限はない。
【0028】
ビールテイスト発酵アルコール飲料については、例えば、下記のように通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。すなわち、麦芽等の醸造原料および醸造用水から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液を低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することによりビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。飲料におけるプリン体含量の低減は後記の公知の方法に従って行うことができる。このようにして得られたプリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料に、2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンのいずれかまたは両方の濃度が所定値となるよう2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを添加し、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料とすることができる。ビールテイスト発酵アルコール飲料への2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンの配合は、発酵液の2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの濃度を考慮し、発酵後の発酵液への添加により行うことができ、このようにしてプリン体濃度が低減され、かつ、2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンが所定量で含まれるビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0029】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料におけるプリン体含量の低減は公知の方法に従って行うことができる。ビールテイスト発酵アルコール飲料においてプリン体濃度を低減させる方法の非制限的な例としては、発酵前液や発酵液を活性炭やゼオライト等の吸着剤と接触させて飲料中のプリン体含量を低減させる方法(特開2003-169658号公報、特開2004-290071号公報、特開2004-290072号公報、特開2015-112090号公報等参照)や、プリン体の持込みが少ない麦芽以外の原料(例えば、大豆タンパク、コーングリッツ)を用いて飲料中のプリン体含量を低減させる方法(特開2014-117204号公報、特開2014-117205号公報等参照)が挙げられる。
【0030】
ビールテイストノンアルコール飲料については、例えば、下記のように通常のビールテイストノンアルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。すなわち、各種製造原料(例えば、麦芽、ホップ、副原料、添加物)と水から仕込み液を調製し、該仕込み液から静置により固形分を取り除いた後、濾過を行うことでビールテイストノンアルコール飲料を製造することができる。或いは、本発明においては、各種製造原料および水を調合ないし混合し、静置により固形分を取り除いた後、濾過を行うことでビールテイストノンアルコール飲料を製造することもできる。ビールテイストノンアルコール飲料への2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンの配合は、飲料中の2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの濃度を考慮し、調製後の飲料への添加により行うことができ、このようにしてプリン体濃度が低減され、かつ、2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンが所定量で含まれるビールテイストノンアルコール飲料を製造することができる。ビールテイストノンアルコール飲料中のプリン体濃度を所定の範囲内に低減する方法としては、例えば、プリン体含有量が少ない原材料の選択および活性炭による吸着除去が挙げられる。
【0031】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。ビールテイストノンアルコール飲料の製造で調製する仕込み液も麦汁の調製方法に準じて調製することができる。
【0032】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実(例えば、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(例えば、こしょう、シナモン、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バジル)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハチミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアはその調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素等の着色料、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤、食物繊維等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。本発明のビールテイストノンアルコール飲料の製造においても上記を製造原料として用いることができる。
【0033】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。なお、ビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。
【0034】
ピラジン類は糖とアミノ酸の加熱反応(メイラード反応)により生成することが知られている。従って、麦汁等の仕込み液の調製においてデコクション法を採用したり、熱煮沸時間を延長したりすることにより、ビールテイスト飲料に含まれる2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンの濃度を所定の値にすることができる。これらの手順以外は上記のように、飲料中のプリン体濃度を所定の範囲内に低減する方法を実施しつつ、通常のビールテイスト飲料の製造方法に従って本発明のビールテイスト飲料を製造することができる。
【0035】
本発明のビールテイスト飲料は、pHを2.0以上7.0以下とすることができ、好ましくは2.3以上5.0以下、より好ましくは3.0以上4.7以下、最も好ましくは3.5以上4.5以下とすることができる。本発明のビールテイスト飲料のpHは、pH調整剤を用いて調整することができる。ビールテイスト飲料のpHは、市販のpHメーター(例えば、HORIBA Scientific 卓上pH計、堀場アドバンスドテクノ社)を用いて測定することができる。
【0036】
本発明により提供される飲料は、場合によっては炭酸ガスを添加する工程に付し、さらに、充填工程、殺菌工程等の工程を経て容器詰め飲料として提供することができる。殺菌は容器への充填前であっても充填後であってもよい。また、飲料のpHが4未満に調整されている場合には殺菌工程を経ずにそのまま充填工程を行って容器詰め飲料とすることもできる。
【0037】
本発明による飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、瓶である。
【0038】
本発明の別の面によれば、プリン体濃度が12mg/100mL以下であるビールテイスト飲料の製造方法であって、製造された飲料の2-メチルピラジン濃度が0.5ppb以上となり、および/または、製造された飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度が0.5ppb以上となるように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有させる工程を含む、製造方法が提供される。本発明の製造方法によれば、製造されるビールテイスト飲料の風味が改善される。ここで、ビールテイスト飲料の「風味が改善された」あるいは「風味改善」とは、ビールテイスト飲料において、プリン体濃度が低減されているにもかかわらず、中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスにおいて良好なものが実現されることを意味する。本発明の製造方法は、上記に加えて本発明のビールテイスト飲料に関する記載に従って実施することができる。
【0039】
本発明の別の面によれば、プリン体濃度が12mg/100mL以下であるビールテイスト飲料の風味改善方法であって、製造された飲料の2-メチルピラジン濃度が0.5ppb以上となり、および/または、製造された飲料の2,6-ジメチルピラジン濃度が0.5ppb以上となるように2-メチルピラジンおよび/または2,6-ジメチルピラジンを含有させる工程を含む、風味改善方法が提供される。本発明の風味改善方法によれば、プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料の風味を改善することができる。本発明の風味改善方法は、上記に加えて本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0040】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0041】
ピラジン類濃度の測定
ピラジン類は以下のようにして測定した。すなわち、まず飲料中の香気成分をC18固相抽出カラムで分離し、得られた分析用試料をGC/MSに供した。また、内部標準物質としてボルネオール(Borneol)を用い、分析用試料中50ppbになるように試料に添加した。GC/MS分析の条件は、下記表1に示す通りとした。
【0042】
【表1】
【0043】
プリン体濃度の測定
プリン体濃度は以下のようにして測定した。すなわち、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出する方法(食衛誌55(2):110-116(2014)参照)により測定した。
【0044】
アルコール濃度の測定
アルコール濃度(エタノール濃度)は、「国税庁所定分析法」に記載の方法により測定した。
【0045】
オリジナルエキス濃度の測定
オリジナルエキス濃度(OE濃度)はBCОJビール分析法(ビール酒造組合(2013年)、8.3.6、8.4.3および8.5に準じて測定した。測定はアルコライザー(アントンパール社製)を用いて行った。
【0046】
例1:ビールテイスト飲料の香味に対するピラジン類の効果
(1)概要
本実施例では、市販のビールテイスト飲料を希釈等して調製した飲料サンプルにピラジン類を添加し、得られた各サンプルの香味について官能評価試験を実施した。
【0047】
(2)試飲サンプルの調製
市販の発泡酒(プリン体濃度:0.5mg/100mL未満、糖質:0.5g/100mL未満、麦芽使用比率:25%未満、アルコール濃度:5.5%)および市販のビール(麦芽使用比率:100%、アルコール濃度:5%)を水で希釈し、必要に応じて醸造用エタノール(95%)を添加して所定のプリン体総量およびアルコール濃度のベース飲料を準備した。準備したベース飲料に含まれるピラジン類の濃度を考慮し、後記表3~5に記載された濃度となるように飲料サンプルに2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンを添加して試験区1~20の試飲サンプルを調製した。なお、希釈の程度から試験区1~20の試飲サンプルの糖質濃度は0.5g/100mL未満であることを確認した。
【0048】
(3)官能評価
官能評価試験は訓練されたパネリスト4名で実施した。中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスの評価基準を表2に示す。いずれの評価項目も1.0(最小値)~5.0(最大値)の範囲で0.1刻みの評点で評価し、4名のパネリストのスコアの平均値を算出した。
【0049】
【表2】
【0050】
官能評価に当たっては試験区1の試飲サンプルの中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスの評点をそれぞれ2.0、2.0、3.0とし、パネリスト間で評価基準を統一して試験区2~7の試飲サンプルの評価を行った。同様に、試験区8の試飲サンプルの中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスの評点をそれぞれ2.0、2.0、3.0とし、パネリスト間で評価基準を統一して試験区9~14の試飲サンプルの評価を行った。また、試験区15の試飲サンプルの中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスの評点をそれぞれ2.0、2.0、3.0とし、パネリスト間で評価基準を統一して試験区16~20の試飲サンプルの評価を行った。
【0051】
(4)評価結果および考察
結果は、表3~5に示す通りであった。
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
ベース飲料に対してピラジン類を添加するとその濃度が増加するにしたがって中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスがいずれも向上することが判明した。また、1種のピラジン類が少なくとも0.5ppb程度存在することで中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスの評点がいずれも3.0以上となり、良好な香味が達成できること、また、2種のピラジンが合計濃度で少なくとも1ppb程度存在することでより良好な香味が達成できることが判明した。

【要約】
【課題】プリン体濃度が低減されつつも、中後半の厚み、重厚な味わいおよびバランスが良好な新規なビールテイスト飲料の提供。
【解決手段】本発明によれば、プリン体濃度が12mg/100mL以下であるビールテイスト飲料であって、2-メチルピラジンを0.5ppb以上、および/または、2,6-ジメチルピラジンを0.5ppb以上含有する、ビールテイスト飲料が提供される。2-メチルピラジンおよび2,6-ジメチルピラジンの合計含有量は好ましくは1ppb以上である。
【選択図】なし