(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】有害物質除去剤およびそれを用いた有害物質の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20241126BHJP
C02F 1/62 20230101ALI20241126BHJP
C02F 1/64 20230101ALI20241126BHJP
【FI】
C02F1/58 H
C02F1/58 M
C02F1/58 R
C02F1/62 B
C02F1/62 C
C02F1/62 Z
C02F1/64 Z
(21)【出願番号】P 2023177506
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2020218131の分割
【原出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000191135
【氏名又は名称】株式会社日本海水
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 徹
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-341139(JP,A)
【文献】特開2016-198740(JP,A)
【文献】特開2010-253462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/58-1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質を除去するための有害物質除去剤であって、
前記有害物質除去剤は、溶媒およびセリウム化合物を含み、
前記溶媒は、水、塩酸および硝酸からなる群から選択される1種を少なくとも含み、
前記セリウム化合物は、塩化セリウムおよび炭酸セリウム
を含み、
塩化セリウムおよび炭酸セリウムを、質量比で55:45~25:75含み、
前記有害物質除去剤は、セリウムイオンを酸化セリウム換算で10~50質量%含み、
前記有害物質除去剤は、マグネシウムおよびカルシウムを含み、
前記有害物質は、セレン、ヒ素、六価クロム、フッ素、ホウ素、リン、カドミウム、鉛、マンガン、銅、亜鉛およびアンチモンからなる群から選択される1種を少なくとも含む、有害物質除去剤。
【請求項2】
マグネシウムを10~60mg/Lおよびカルシウムを10~210mg/L含む、請求項1に記載の有害物質除去剤。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の有害物質除去剤を準備する工程と、
前記有害物質を含有する被処理水に前記有害物質除去剤を添加し、pH調整剤を用いてpHを7~9に調整し、前記有害物質を不溶性沈殿物として生成させる工程と、
前記不溶性沈殿物を分離し、脱水する工程と、を含み、
前記有害物質を2種以上同時に処理する、有害物質の処理方法。
【請求項4】
前記有害物質除去剤の前記被処理水に対する添加量は、0.4~4.0体積%である、請求項
3に記載の有害物質の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有害物質除去剤およびそれを用いた有害物質の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属等の有害物質を含む排水は、環境基準および排水基準により遵守すべき基準値が定められている。従来、これらの有害物質を含む排水の処理方法としてはイオン交換体による吸着法、薬品および電解による還元処理法、鉄塩による共沈法、アルミニウム塩およびカルシウム塩による凝集沈殿法等が知られている。
【0003】
これらの有害物質を含む排水の処理方法としては、例えば、特開2016-198740号公報(特許文献1)では、排水にセリウム化合物を添加し、pH調整剤を用いてpHを8~10に調整することで凝集沈殿させる有害物質の処理方法が開示されている。また、特開2010-253462号公報(特許文献2)では、フッ素と重金属を含有する有害物質を含む処理対象物に、水酸化カルシウムを添加した後、塩化セリウムを添加して有害物質を含有する沈殿を生成する有害物質の不溶化処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-198740号公報
【文献】特開2010-253462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2においては、セリウム化合物を添加することで有害物質を効率的に除去することが可能になったが、有害物質の除去能力は必ずしも十分とは言えなかった。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、優れた有害物質の除去能力を有する有害物質除去剤およびそれを用いた有害物質の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る有害物質除去剤は、セリウムイオンを酸化セリウム換算で10~50質量%含む。
【0008】
また、本開示に係る有害物質の処理方法は、有害物質除去剤を準備する工程と、
有害物質を含有する被処理水に上記有害物質除去剤を添加し、pH調整剤を用いてpHを7~9に調整し、有害物質を不溶性沈殿物として生成させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、優れた有害物質の除去能力を有する有害物質除去剤およびそれを用いた有害物質の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、発生した沈殿物の沈降時間と沈降距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0012】
≪有害物質除去剤≫
本開示における有害物質除去剤は、セリウム(Ce)イオンを酸化セリウム(CeO2)換算で10~50質量%含む。有害物質除去剤は、セリウムイオンが溶解している溶液である。
【0013】
<セリウム>
上記有害物質除去剤は、Ceイオンを含む。Ceイオンは、3価および4価のイオンが存在するが、3価のイオンであることが好ましい。セリウムは、上記有害物質除去剤中にCeイオンとして存在し、有害物質と結合して効率的に不溶性沈殿物を生成することができる。これは、Ceイオンが有害物質の固定剤としての役割を果たすためである。
【0014】
Ceイオンを含むCe化合物は、特に限定されないが、例えば、Ceの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物等が挙げられ、塩化セリウム、炭酸セリウムが好ましく、塩化セリウムおよび炭酸セリウムを併用することがより好ましい。塩化セリウムおよび炭酸セリウムを併用することにより、より高濃度のCeイオンを含む有害物質除去剤が得られやすい。塩化セリウムおよび炭酸セリウムを併用する場合、質量比で60:40~20:80の比率であることが好ましく、55:45~25:75であることがより好ましい。
【0015】
有害物質除去剤における上記Ceイオンを含むCe化合物の含有量は、有害物質の種類及び含有量に応じて調整することができる。一般に、有害物質の含有量が多い場合は、含有量を多くし、有害物質が少ない場合は、含有量を少なくすることが好ましい。上記有害物質除去剤は、CeイオンをCeO2換算で10~50質量%含んでおり、15~48質量%含んでいることが好ましく、20~46質量%含んでいることがより好ましく、20~45質量%含んでいることがさらに好ましく、25~45質量%含んでいることがなおさらに好ましく、30~45質量%含んでいることが特に好ましい。上記有害物質除去剤中のCeイオンの含有量が多い場合、有害物質の処理能力が向上するためである。
【0016】
<溶媒>
上記有害物質除去剤に用いられる溶媒は、特に限定されないが、例えば、水、塩酸、硝酸等が挙げられ、硝酸を使用することが好ましい。硝酸を使用することにより、上記Ceイオンを含むCe化合物の溶解性が上がり、より高濃度のCeイオンを含む有害物質除去剤が得られやすい。硝酸を使用する場合、上記有害物質除去剤は、5~50質量%含んでいることが好ましく、10~40質量%含んでいることがより好ましく、15~35質量%含んでいることがさらに好ましい。
【0017】
<その他の含有元素>
上記有害物質除去剤は、マグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましく、MgおよびCaを含んでいることがより好ましい。これにより、有害物質除去剤の処理能力が向上するためである。
【0018】
Mgを含むMg化合物は、特に限定されないが、例えば、Mgの塩化物、酸化物、水酸化物等が挙げられる。上記有害物質除去剤は、Mgを1~100mg/L含んでいることが好ましく、5~80mg/L含んでいることがより好ましく、10~60mg/L含んでいることがさらに好ましい。上記有害物質除去剤中のMgの含有量が多い場合、有害物質の処理能力が向上するためである。
【0019】
Caを含むCa化合物は、特に限定されないが、例えば、Caの塩化物、酸化物、水酸化物等が挙げられる。上記有害物質除去剤は、Caを1~250mg/L含んでいることが好ましく、5~230mg/L含んでいることがより好ましく、10~210mg/L含んでいることがさらに好ましい。上記有害物質除去剤中のCaの含有量が多い場合、有害物質の処理能力が向上するためである。
【0020】
≪有害物質の処理方法≫
本開示における有害物質の処理方法は、上記有害物質除去剤を準備する工程(準備工程)と、有害物質を含有する被処理水に上記有害物質除去剤を添加し、pH調整剤を用いてpHを7~9に調整し、有害物質を不溶性沈殿物として生成させる工程(沈殿工程)と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0021】
<準備工程>
準備工程は、上記有害物質除去剤を作製する工程である。上記有害物質除去剤は、例えば、上述のCeイオンを含むCe化合物を上述の溶媒に溶解することで得ることができる。
【0022】
Ceイオンを含むCe化合物として塩化セリウムを用い、溶媒として水を用いる調整方法では、有害物質除去剤中のCeイオンのCeO2換算の濃度は30質量%までしか高めることができない。
【0023】
これに対して、Ceイオンを含むCe化合物として、(i)炭酸セリウム、または(ii)塩化セリウムおよび炭酸セリウムを併用すること、溶媒として硝酸を使用することにより、有害物質除去剤中のCeイオンのCeO2換算濃度を30~40質量%まで高めることができる。
【0024】
また、Ceイオンを含むCe化合物として塩化セリウムおよび炭酸セリウムを併用する場合、炭酸セリウムと硝酸を加えて撹拌した後、塩化セリウムを加えることが好ましい。これにより、有害物質除去剤中のCeイオンのCeO2換算の濃度をより高くすることができる。
【0025】
<沈殿工程>
沈殿工程は、有害物質を含有する被処理水(以下、「被処理水」とも記す。)に上述の準備工程で準備した有害物質除去剤を添加し、pH調整剤を用いてpHを7~9に調整し、有害物質を不溶性沈殿物として生成させる工程である。
【0026】
上記有害物質除去剤の被処理水に対する添加量は、0.1体積%~5.0体積%、好ましくは0.4体積%~4.0体積%、より好ましくは0.8体積%~3.0体積%、さらに好ましくは1.2体積%~2.5体積%である。また、被処理水中のCeイオンの濃度が同じ場合、上記有害物質除去剤のCeイオンの含有量が多い程、上記有害物質除去剤の有害物質の除去能力が高い。これは、Ceイオンを高含有で保持することで、高い反応性が発揮されるためである。
【0027】
(pH調整)
上記有害物質除去剤を添加後、被処理水のpHを7~9に調整することで、効率的に被処理水中に単独で存在するまたは2種以上混在する有害物質とCeイオンが結合して不溶性沈殿物を生成する。また、pHを高アルカリ域に調整する必要がないため、沈殿物の発生量が少なくなる。被処理水のpHは、7.5~9に調整することが好ましく、8~9に調整することがより好ましい。
【0028】
pH調整に使用するpH調整剤は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属の水酸化物、無機酸等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化物ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましく、無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が好ましい。pH調整剤として、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物を使用した場合、処理汚泥量が多くなる。
【0029】
(有害物質)
上記有害物質の処理方法における有害物質としては、セレン(Se(VI))、ヒ素(As)、六価クロム(Cr(VI))、フッ素(F)、ホウ素(B)、リン(P)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)等を挙げることができ、これらからなる群から選択される1種もしくは2種以上を少なくとも含む被処理水を、本開示の処理方法を用いて処理することにより、有害物質を単独で、または2種以上を同時に除去することができる。特に、セレン、六価クロム、フッ素、ホウ素およびカドミウムからなる群から選択される1種もしくは2種以上を少なくとも含む被処理水を、本開示の処理方法を用いて処理することにより、有害物質を単独で、または2種以上を同時に効率良く除去することができる。また、セレン、ホウ素およびカドミウムからなる群から選択される1種もしくは2種以上を少なくとも含む被処理水を、本開示の処理方法を用いて処理することにより、有害物質を単独で、または2種以上を同時にさらに効率良く除去することができる。
【0030】
本開示における被処理水としては、石炭火力発電所の脱硫排水や、廃棄処分場の浸出水、ほうろう製造業や電気メッキ業等の工場排水等が挙げられる。これらの被処理水は、排出される場所により含有される有害物質の種類や含有量が異なり、また有害物質が多種にわたり、水量も多いが、本開示の処理方法により、合理的に効率良く、有害物質を同時除去することができる。
【0031】
(その他)
本工程においては、必要に応じて、生成する沈殿物の沈降速度を加速させるために、凝集剤を使用することができる。被処理水中の浮遊物質が多い場合、生成する沈殿物の沈降速度は速く、分離に要する時間が短いため、凝集剤を必要としない場合が多い。一方、被処理水中の浮遊物質が少ない場合、生成する沈殿物の沈降速度は遅く、分離に要する時間が長い場合が多く、凝集剤を併用することができる。凝集剤は、特に限定されないが、例えば、一般的なアニオン系高分子凝集剤で十分な沈降速度の加速が可能である。
【0032】
<その他の工程>
本開示の有害物質の処理方法は、上記沈殿工程の後に、生成した不溶性沈殿物を分離し、脱水する工程を有することが好ましい。分離としては、例えば、固液分離が挙げられる。固液分離は、常法により行うことができ、例えば、ろ過分離、遠心分離、沈降分離等が挙げられるが、通常は重力による沈降分離で十分な固液分離が可能である。分離された沈殿物は、乾燥させてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0034】
<有害物質除去剤の作製>
表1に示す配合組成で溶媒にCe化合物を添加し、ジャーテスターを用いて以下の条件で撹拌することで、試料1~試料9を得た。なお、試料1および試料2は、60℃に加熱して撹拌することで得た。また、試料9は、硝酸に炭酸セリウムを添加し、以下の条件で撹拌した後、塩化セリウムを添加し、再度以下の条件で撹拌することで得た。
[撹拌条件]
速度:100rpm~300rpm
時間:30分~180分
温度:10℃~30℃
【0035】
【0036】
<模擬排水の作製>
処理排水として、表2に示す各有害物質を含む模擬排水を調製した。上記模擬排水は、一般に発電所で発生する脱硫排水や、化学工業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、電気機械器具製造業等の洗浄処理、加工処理等で発生する廃液を想定して作製された。なお、表2の「排水基準」は、水質汚濁防止法で定められた処理排水に含まれる各元素の排水基準を示す。
【0037】
【0038】
≪評価試験≫
<試験1>
試験1では、表2に示す各有害物質を含む模擬排水に上述の試料9を0.4体積%~1.6体積%添加し、25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH=8~9に調整し、ジャーテスターを用いて以下の条件で撹拌を行った(実施例1~4)。また、上記模擬排水に上述の試料6を0.4体積%~2.4体積%添加し、25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH=8~9に調整し、ジャーテスターを用いて以下の条件で撹拌を行った(実施例5~10)。
[撹拌条件]
速度:100rpm~300rpm
時間:10分~15分
温度:20℃~25℃
【0039】
比較例1および比較例2は、上記模擬排水に酸化アルミニウムとして8質量%含有する硫酸アルミニウム水溶液(試薬A)を1.6体積%~2.4体積%添加し、20質量%水酸化カルシウム水溶液でpHを12以上に調整し、ジャーテスターを用いて上述の撹拌条件で撹拌を行った。また、比較例3および比較例4は、上記模擬排水に38質量%塩化第二鉄水溶液(試薬B)を1.6体積%~2.4体積%添加し、25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH=7~8に調整し、ジャーテスターを用いて上述の撹拌条件で撹拌を行った。
【0040】
撹拌後、沈殿物を沈降させ、上澄み溶液を採取し、得られた処理排水中の組成分析を実施した。その結果を表3および表4に示す。なお、本試験における各有害物質の組成分析の方法は以下の通りである。
[組成分析方法]
Se(VI)、Cd、Pb:電気加熱原子吸光法((株)日立ハイテクノロジーズ社製 電気加熱原子吸光装置 Z-2710)
B、P、Mn、Cu、Zn:ICP発光分光分析法((株)リガク社製 ICP発光分光分析装置 CIROS CCD)
As、Sb :水素化物発生ICP発光分光分析法(ThermoFisherScientific(株)社製 水素化物発生装置 HYD-10)
Cr(VI) :ジフェニルカルバジド吸光光度法((株)日立ハイテクノロジーズ社製 分光光度計 UH5300)
F :イオン電極法(蒸留分離実施後)((株)堀場製作所社製 水質分析計 F-73)
【0041】
【0042】
【0043】
また、上記沈殿物をろ紙にて回収後、脱水し、定温乾燥機にて乾燥させ、乾燥後の沈殿物の重量を測定し、沈殿物の発生量を、含水率60質量%として換算して求めた。その結果を表3および表4の「沈殿物発生量」に示す。
【0044】
表3および表4に示されるように、実施例1~10では、模擬排水の各有害物質が同時に除去されることが確認された。一方、比較例1および比較例2では、有害物質の除去が十分ではなく、沈殿物の発生量も増大であった。比較例3および比較例4では、沈殿物の発生量は少ないものの、有害物質の除去が十分ではなかった。
【0045】
また、実施例3、実施例4および実施例10では、他の実施例および比較例と比較して有害物質の除去能力が高いことが確認された。特に、実施例3はセレンおよびカドミウムの、実施例4および実施例10はホウ素の除去能力が高い。
【0046】
また、実施例3はCeイオンをCeO2換算で40質量%含んだ試料9を1.2体積%、実施例8はCeイオンをCeO2換算で30質量%含んだ試料6を1.6体積%、それぞれ模擬排水中に添加していることから、Ceイオンの含有量は同一であると考えられる。実施例3および実施例8の有害物質の除去能力を確認すると、有害物質除去剤中のCeイオンの濃度が高い実施例3は、有害物質除去剤中のCeイオンの濃度が低い実施例8と比較して、セレンおよびカドミウムの除去能力が高いことが確認された。
【0047】
<試験2>
試験2では、上述の試料9と、以下で説明する試料10および11を準備した。試料10は、表1に示す試料9と同様の配合組成で硝酸に炭酸セリウムを添加し、上述の<有害物質除去剤の作製>と同様の条件で撹拌した後、塩化セリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを添加し、再度同様の条件で撹拌することで得た。また、試料11は、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを添加しなかったことを除いては、試料10と同様の条件で作製された。作製した試料9~11のMgおよびCaの濃度を表5に示す。なお、試料9には、表5に示す濃度のMgおよびCaが不可避的に存在していた。
【0048】
【0049】
次に、表2に示す各有害物質を含む模擬排水に、試料9~11を0.4体積%~0.8体積%添加し、25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH=8~9に調整し、ジャーテスターを用いて上述の<試験1>の撹拌条件と同様の条件で撹拌を行った(実施例1、2、11および12、比較例5および6)。
【0050】
撹拌後、沈殿物を沈降させ、上澄み溶液を採取し、得られた処理排水中の組成分析を実施した。その結果を表6に示す。また、上記沈殿物をろ紙にて回収後、脱水し、定温乾燥機にて乾燥させ、乾燥後の沈殿物の重量を測定し、沈殿物の発生量を、含水率60質量%として換算して求めた。その結果を表6の「沈殿物発生量」に示す。
【0051】
【0052】
表6に示されるように、実施例1、2、11および12は、比較例5および6と比較して、フッ素およびホウ素の除去能力が高いことが確認された。また、試料中のMgおよびCaの含有量に比例して、フッ素およびホウ素の除去能力が高くなることも確認された。これは、MgおよびCaがフッ素およびホウ素と結合し、汚泥となって沈降したことによると考えられる。また、ホウ素に関しては、pHを10以上に高めた場合、MgおよびCaによるホウ素の除去能力がより高くなると考えられる。
【0053】
<試験3>
試験3では、表2に示す各有害物質を含む模擬排水に上述の試料9~11を0.8体積%添加し、以下の条件で5分間撹拌を行った後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH=8~9に調整し、再度以下の条件で10~15分間撹拌を行った。
[撹拌条件]
速度:100rpm~300rpm
温度:10℃~30℃
【0054】
撹拌後、発生した沈殿物の平均沈降速度を計測した。平均沈降速度は、撹拌停止後の沈殿物表面(沈殿物の最表面)の沈降距離から求めた。結果を表7および
図1に示す。
【0055】
【0056】
表7および
図1に示されるように、上記模擬排水に試料9および10を添加した場合は、試料11を添加した場合と比較して、平均沈降速度が増加したことが確認された。また、試料中のMgおよびCaの含有量に比例して、沈降速度が増加したことも確認された。これは、Ceイオンにより生成する不溶性沈殿物にMgおよびCaが水酸化物として析出、付着することで不溶性沈殿物の比重が増加し、平均沈降速度が増加したものと考えられる。
【0057】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。