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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】プレス金型製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/20 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
B21D37/20 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023189144
(22)【出願日】2023-11-06
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠也
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏樹
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-230236(JP,A)
【文献】特開2004-66261(JP,A)
【文献】特許第6118625(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材及びこの母材に局部的に設けられる硬化部からなるプレス金型を、製造するプレス金型製造方法であって、
前記母材は、平坦な第1の面、及びこの第1の面と異なる平坦な第2の面を有し、
前記硬化部は、前記第1の面と前記第2の面との間に設けられ、且つ外面が湾曲する稜線で構成され、
前記プレス金型が、ワイヤフレームで示され、このワイヤフレームが画面上の点である頂点と、2つの前記頂点が直線又は曲線で結ばれた稜線と、複数の前記稜線が直列に繋げられているワイヤと、複数の前記ワイヤで構成される骨格構造とで定義され、
前記第1の面を通る直線状の稜線とこの直線状の稜線に接続され前記湾曲する稜線との継ぎ目に存在する頂点を第1変曲点と定め、前記第2の面を通る直線状の稜線とこの直線状の稜線に接続され前記湾曲する稜線との継ぎ目に存在する頂点を第2変曲点と定め、前記第1変曲点と前記第2変曲点とを結ぶ直線で切断面が定められるときに、
前記プレス金型に倣った形状に加工された第1中間品を得る第1加工工程と、
前記第1中間品から前記硬化部と同形の軟質弓断面部を前記切断面に沿って切除することで、前記切断面を含む第2中間品を得る第2加工工程と、
前記第2中間品の前記切断面に前記母材より硬度の高い材料で肉盛りを施し、前記軟質弓断面部に余肉を加えた断面形状の肉盛り部を含む第3中間品を得る第3加工工程と、
前記第3中間品か前記余肉を切除することで、前記プレス金型を得る第4加工工程とからなるプレス金型製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレス金型製造方法であって、
前記母材は機械構造用炭素鋼からなり、前記硬化部は高速度工具鋼からなることを特徴とするプレス金型製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のプレス金型製造方法であって、
前記余肉に、前記軟質弓断面部の裾から前記第1の面及び前記第2の面へ張出した張出し部を含めたことを特徴とするプレス金型製造方法。
【請求項4】
請求項記載のプレス金型製造方法であって、
前記切断面は、前記ワイヤフレームに形成したルールド面であり、前記第2加工工程では前記ルールド面に基づいて作成されるルールド面加工データに基づいて加工がなされることを特徴とするプレス金型製造方法。
【請求項5】
請求項記載のプレス金型製造方法であって、
前記肉盛りは、前記ワイヤフレームに形成した前記軟質弓断面部に余肉を加えて作成される肉盛りデータに基づいて形成されることを特徴とするプレス金型製造方法。
【請求項6】
請求項記載のプレス金型製造方法であって、
前記肉盛りデータは、制御部に記憶され、この制御部に記憶された前記肉盛りデータに基づいて肉盛り溶接が実施されることを特徴とするプレス金型製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に硬化部を備えるプレス金型の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス金型はブランク材の絞りや切断や曲げに用いられる。ブランク材は金属の平板であり、十分に硬い。そのため、プレス作業を繰り返すと、プレス金型の隅や凸部がその他の面(一般面)よりも先に摩耗する。
【0003】
対策の一つとして、隅に一般面より硬度が高い硬化部を部分的に肉盛り形成することが、従来から行われている(例えば、切断の場合の特許文献1(図2)参照)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11(a)~(d)は従来のプレス金型の製造方法を説明する図である。
球状黒鉛鋳鉄のブロックに切削加工を施すことで金型の母材101を準備する。この母材101は切削加工により隅に三角形断面の切欠き部102が設けられている。
【0005】
図11(a)にて、切欠き部102の切断面103に、下地材104が付設される。
図11(b)にて、下地材104にハイス鋼105が肉盛り溶接される。
【0006】
図11(c)にて、肉盛り溶接されたハイス鋼105が機械加工により整形される。
図11(d)にて、整形されたハイス鋼105に、ハロゲンランプ106で加熱する。加熱及び冷却を行うことでハイス鋼105に熱処理が施される。
【0007】
以上により、球状黒鉛鋳鉄からなる母材101の隅にハイス鋼105が付設されたプレス金型100が提供される。
ハイス鋼105は球状黒鉛鋳鉄に比較して格段に硬く、摩耗しにくいという利点を有する。
【0008】
ただし、従来の技術によるプレス金型100には次に述べる問題点がある。
図11(a)において、三角形断面の切欠き部102は人又はNC工作機(マシニングセンタ)、フライス盤などで形成される。
人による場合、個人差により、削り過ぎ又は削り不足が不可避的に発生する。NC工作機(マシニングセンタ)、フライス盤などによる場合、データの打込みの際に人為的な誤りが起こり得る。この誤りにより、削り過ぎ又は削り不足が不可避的に発生する。
【0009】
図11(a)にて、hが過大である場合、すなわち削り過ぎの場合は、ハイス鋼105の所要量が増加する。ハイス鋼105は金型母材101より高価である。結果、プレス金型100の製造コストが高まる。削られた母材は廃材となるので環境上好ましくはない。
図11(a)にて、hが過小である場合、すなわち削り不足の場合は、ハイス鋼105の量が少なくなり、耐摩耗性能が低下する。
【0010】
しかし、このトリミング部(削られる切欠き部102)に限らず、デザイン線、輪郭、凹凸形状、外形を形成するプレス部も製造コストの抑制と耐摩耗性能の向上が求められる中、個人差又は人為的な誤りが起こりにくい製造技術が求められる
しかし、製造コストの抑制と耐摩耗性能の維持が求められる中、個人差又は人為的な誤りが起こりにくい製造技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6118625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、部分的に硬化部を備えるプレス金型において、個人差又は人為的な誤りが起こりにくい製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、母材及びこの母材に局部的に設けられる硬化部からなるプレス金型を、製造するプレス金型製造方法であって、
前記母材は、平坦な第1の面、及びこの第1の面と異なる平坦な第2の面を有し、
前記硬化部は、前記第1の面と前記第2の面との間に設けられ、且つ外面が湾曲する稜線で構成され、
前記プレス金型が、ワイヤフレームで示され、このワイヤフレームが画面上の点である頂点と、2つの前記頂点が直線又は曲線で結ばれた稜線と、複数の前記稜線が直列に繋げられているワイヤと、複数の前記ワイヤで構成される骨格構造とで定義され、
前記第1の面を通る直線状の稜線とこの直線状の稜線に接続され前記湾曲する稜線との継ぎ目に存在する頂点を第1変曲点と定め、前記第2の面を通る直線状の稜線とこの直線状の稜線に接続され前記湾曲する稜線との継ぎ目に存在する頂点を第2変曲点と定め、前記第1変曲点と前記第2変曲点とを結ぶ直線で切断面が定められるときに、
前記プレス金型に倣った形状に加工された第1中間品を得る第1加工工程と、
前記第1中間品から前記硬化部と同形の軟質弓断面部を前記切断面に沿って切除することで、前記切断面を含む第2中間品を得る第2加工工程と、
前記第2中間品の前記切断面に前記母材より硬度の高い材料で肉盛りを施し、前記軟質弓断面部に余肉を加えた断面形状の肉盛り部を含む第3中間品を得る第3加工工程と、
前記第3中間品か前記余肉を切除することで、前記プレス金型を得る第4加工工程と
からなるプレス金型製造方法を提供する。
【0016】
請求項に係る発明は、請求項1記載のプレス金型製造方法であって、
前記母材は機械構造用炭素鋼からなり、前記硬化部は高速度工具鋼からなることを特徴とする。
【0020】
請求項に係る発明は、請求項1記載のプレス金型製造方法であって、
前記余肉に、前記軟質弓断面部の裾から前記第1の面及び前記第2の面へ張出した張出し部を含めたことを特徴とする。
【0021】
請求項に係る発明は、請求項記載のプレス金型製造方法であって、
前記切断面は、前記ワイヤフレームに形成したルールド面であり、前記第2加工工程では前記ルールド面に基づいて作成されるルールド面加工データに基づいて加工がなされることを特徴とする。
【0022】
請求項に係る発明は、請求項記載のプレス金型製造方法であって、
前記肉盛りは、前記ワイヤフレームに形成した前記軟質弓断面部に余肉を加えて作成される肉盛りデータに基づいて形成されることを特徴とする。
【0023】
請求項に係る発明は、請求項記載のプレス金型製造方法であって、
前記肉盛りデータは、制御部に記憶され、この制御部に記憶された前記肉盛りデータに基づいて肉盛り溶接が実施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明では、プレス金型はCADによるワイヤフレームで示され、切断面が、第1変曲点と第2変曲点を結ぶ直線で定められる。結果、切断面は一義的に決まり、個人差や人為的誤りが発生する余地はない。
加えて、請求項1に係る発明において、第1加工工程で得られる第1中間品は、最終製品であるプレス金型と同形である。すなわち、第1中間品は、平坦な第1の面と平坦な第2の面との間に軟質弓断面部を有する。第1・第2の面と軟質弓断面部の境目が視認できる。
人による切削において、この境目に達したら切削を終了すればよいので、削り過ぎ又は削り不足が起こることはない。すなわち、境目がはっきりしているため、個人差による不具合は起こらない。
【0025】
また、第1・第2の面と軟質弓断面部のサーフェス面(加工面)のデータを利用して簡易的にNCデータが作成できる。このNCデータを用いたNC工作機(マシニングセンタ)、フライス盤などによる切削においても、人為的な誤りが起こりにくいとともに、前記サーフェス面(加工面)のデータをコンピュータ管理することで、切削量、肉盛り量の安定化が可能となり品質を安定化できる。また、同一の金型を複数製造する場合の金型の品質も確保できる。
よって、本発明により、部分的に硬化部を備えるプレス金型において、個人差又は人為的な誤りが起こりにくい、品質を安定化できる製造技術が提供される。
【0026】
さらには、第1中間品は、最終製品であるプレス金型と同形であるため、第1中間品の形状が一義的に定まり、第1中間品の製造は容易となる。
【0029】
請求項に係る発明では、母材は機械構造用炭素鋼からなり、硬化部は高速度工具鋼からなる。機械構造用炭素鋼は、高速度工具鋼より柔軟で延性があるため、熱処理がない状態で十分プレス加工に伴う摩耗に耐えうる硬度(例えばHRC60以上)が得られる。
【0033】
請求項に係る発明では、余肉に、第1・第2の面へ張出した張出し部を含めた。張出し部の存在により、第4加工工程で硬化部と母材の境界を、段のない滑らかな連続面に仕上げることができる。
【0034】
請求項に係る発明では、第2加工工程で、ルールド面に基づいて作成されるルールド面加工データに基づいて加工がなされる。ルールド面加工データを作成すると、レーザ溶接、ガス溶接、アーク溶接で高硬度材を肉盛り溶接することができる。溶接は、人、ロボット、3Dプリンタのような複合加工機などで行える。
【0035】
請求項に係る発明では、肉盛りは、ワイヤフレームに形成した軟質弓断面部に余肉を加えて作成される肉盛りデータに基づいて形成される。複雑な形状のプレス金型であっても、肉盛り溶接の自動化が可能となる。
【0036】
請求項に係る発明では、肉盛りデータは、制御部に記憶され、この制御部に記憶された肉盛りデータに基づいて肉盛り溶接が実施される。肉盛りデータに基づくため精密な肉盛り溶接がなされる。精密であるため、高価な高硬度材の無駄な使用が是正され、製造コストの適正化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に係るプレス金型の要部の斜視図である。
図2図1の2部拡大図である。
図3】(a)~(e)は本発明に係るプレス金型製造方法を説明する図である。
図4】(a)~(e)はワイヤフレームを説明する図であり、(f)、(g)はルールド面を説明する図である。
図5】一般的な図面にて本発明を実施することを説明する図である。
図6】(a)、(b)は切断面に溝を設けた例を説明する図である。
図7】(a)は図1の7a部拡大図、(b)は(a)のbーb線断面図である。
図8】(a)、(b)は2つの硬質弓断面部が近接配置されている例を説明する図である。
図9】肉盛り溶接装置の原理図である。
図10】ルールド面加工及び肉盛溶接を説明するフロー図である。
図11】(a)~(d)は従来のプレス金型の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例
【0039】
[プレス金型]
図1に示すように、プレス金型10は、大部分を占める母材11と、この母材11に局部的に設けられる硬化部20とからなる。
硬化部20は、原則としてプレス金型10の隅(角)や凸部に設けられる。
【0040】
一般に、1個のプレス金型10に複数条又は複数個の硬化部20が設けられる。
場所を区別する必要があるときには、ある硬化部20A、隣の硬化部20Bのように、英文字を添えて区別する。
硬化部20の基本形状を、図2で説明する。
【0041】
[母材]
図2に示すように、母材11は平坦な第1の面12と、この第1の面12とは異なる平坦な第2の面13とを有する。母材11の材質は後述する。
【0042】
[硬化部]
硬化部20は、第1の面12と第2の面13との間に設けられ、且つ断面が弦を含む弓の形を呈する硬質弓断面部21で構成される。Tは硬質弓断面部21の最大厚さである。硬化部20の材質は後述する。
以上の形態からなるプレス金型10の製造方法を、図3に基づいて詳しく説明する。
【0043】
[プレス金型製造方法]
図3(a)に第1加工工程を示し、この第1加工工程では、図2に示すプレス金型10に倣った形状に加工された第1中間品31を得る。
【0044】
この第1中間品31は、隅(角)に軟質弓断面部11aを有する。この軟質弓断面部11aは、硬質弓断面部(図2、符号21)と同形である。
プレス金型に倣った形状であるため、最終製品であるプレス金型(図2、符号10)のデータがそのまま使える。そのため、第1中間品31の製造は容易になる。
【0045】
図3(b)に第2加工工程を示し、この第2加工工程では、第1中間品31から、軟質弓断面部11aを切除する。結果、切断面14を含む第2中間品32を得ることができる。
【0046】
図3(c)に第3加工工程を示し、この第3加工工程では、切断面14に肉盛り部15を形成する。肉盛り部15は、軟質弓断面部11aに余肉16を加えた形状とする。加えて肉盛り部15は、母材より硬度の高い材料で構成する。
【0047】
[母材の材質]
母材は、JIS G 4051で規定される機械構造用炭素鋼又は同等の炭素鋼が好ましい。機械構造用炭素鋼は高速度工具鋼より安価で、柔軟な延性があり、熱処理のない状態でもプレス加工の摩耗に耐える硬度(例えばHRC60)を有する。HRCはロックウェルCスケール硬度を意味する。機械構造用炭素鋼には、S10C~S58Cが基準化されているが、C(炭素)成分が0.50%であるS50Cが、強度及び硬さの点で優れており、母材により相応しい。
【0048】
[母材より高硬度の材質]
母材より硬度の高い材料は、JIS G 4403で規定される高速度工具鋼又は同等の鋼が好ましい。高速度工具鋼は、熱処理を施した後の硬度がS50Cより高く、HRC65程度が期待できる。硬度が高い分だけ耐摩耗性が向上するからである。
【0049】
[肉盛り溶接]
肉盛り溶接は、溶接棒を用いたアーク溶接、溶接粉(高速度工具鋼又は同等の鋼の粉末、以下同じ)を用いたレーザ溶接などが採用できる。
後者(溶接粉を用いたレーザ溶接)がより好ましい。切断面(ルールド面)に溶接粉を整然と並べレーザの熱(プラズマアーク熱)で溶かす。溶接粉の使用量が適正化できる。
過剰使用に比較して、溶接粉の使用量が低減でき、二酸化炭素の発生量が低減できる。 よって、溶接粉を用いたレーザ溶接によれば、環境に適した生産(製造)が可能となり、より好ましい。溶接粉を用いたレーザ溶接に関しては、図9に基づいて後述する。
【0050】
[張出し部]
設けることは任意であるが、図3(d)に示すように、余肉16に、第2の面13(及び第1の面12)へ張出す張出し部17を含める。
張出し部17の張出し長さLは、0.1~0.5mm程度で差し支えない。張出し部17の厚さは溶接粉を積層するときの第1層の厚さで差し支えない。
【0051】
張出し部17の存在により、図3(e)に示す第4加工工程で硬化部20と母材11の境界を、段のない滑らかな連続面に仕上げることができる。
【0052】
加えて、肉盛りの量が不足するなどの理由で、硬質弓断面部21と第2の面13(又は第1の面12)の境目にV字状の窪み(ノッチ)ができることがある。このV字状のノッチは、放置すると疲労破壊の起点になり、好ましくない。この点、張出し部17を設けることで、ノッチの発生をより確実に防止することができるという利点もある。
【0053】
図3(e)に第4加工工程を示し、この第4加工工程では、図3(c)に示す余肉16を切除することで、プレス金型10を得る。このプレス金型10は図2と同形である。
【0054】
図3(a)に示す第1中間品31は、最終製品であるプレス金型(図2、符号10)と同形である。すなわち、第1中間品31は、平坦な第1の面12と平坦な第2の面13との間に軟質弓断面部11aを有し、第1・第2の面12、13と軟質弓断面部11aの境目が直線から曲線に変わる変曲点であるため、視認は可能である。
人による切削において、この境目に達したら切削を終了すればよいので、削り過ぎ又は削り不足が起こることはない。すなわち、境目がはっきりしているため、個人差による不具合は起こらない。
【0055】
また、第1・第2の面12、13と軟質弓断面部11aのサーフェス面(加工面)のデータを利用して簡易的にNCデータを作成できる。このNCデータを用いたNC工作機(マシニングセンタ)、フライス盤などによる切削においても、人為的な誤りが起こりにくいとともに、前記サーフェス面(加工面)のデータをコンピュータ管理することで、切削量、肉盛り量の安定化が可能となり品質を安定化できる。また、同一の金型を複数製造する場合の金型の品質も確保できる。
よって、本発明により、部分的に硬化部20を備えるプレス金型10において、個人差又は人為的な誤りが起こりにくい、品質を安定化できる製造技術が提供される。
【0056】
ところで、図3(b)で説明した切断面14の特定もしくは設定は重要である。この特定もしくは設定は、CAD(コンピューターで支援されるデザイン)によるワイヤフレームと、一般的な図面との何れにおいても可能である。以下、これらについて順に説明する。
【0057】
[ワイヤフレーム]
図4(a)~(e)に基づいてワイヤフレームを説明し、(f)、(g)に基づいて切断面に相当するルールド面を説明する。
なお、ルールド面は、CAD用語の一つであり、ruled surfaceと英文表記され、特定の稜線(稜線の定義は後述する。)群で囲われた面を意味する。稜線は表面に現われるので、ルールド面はルールド表面と同じである。
【0058】
図4(a)に、頂点35を示す。この頂点35はCAD画面上に設定される点である。
図4(b)に、直線状の稜線36を示す。この稜線36は2つの頂点35が直線で結ばれた線である。
図4(c)に、湾曲した稜線37を示す。この稜線37は2つの頂点35が曲線で結ばれた線である。曲線は曲率半径Rで規定される。
【0059】
図4(d)に、ワイヤ38を示す。ワイヤ38は、直線状の稜線36同士、湾曲した稜線37同士、又は直線状の稜線36と湾曲した稜線37が、直列に繋げられている折れ線や蛇行線である。
図4(e)に、ワイヤフレーム39を示す。ワイヤフレーム39は複数本のワイヤ38が格子状に配置されてなる骨格構造である。
【0060】
[ルールド面]
図4(d)において、縦向きの稜線36を、第1の面を通る直線状の稜線36vと読み替え、横向きの稜線36を、第2の面を通る直線状の稜線36hと読み替える。
その上で、第1の面を通る直線状の稜線36vとこの直線状の稜線36vに接続され湾曲する稜線37との継ぎ目に存在する頂点35を第1変曲点41と定める。
同様に、第2の面を通る直線状の稜線36hとこの直線状の稜線36hに接続され湾曲する稜線37との継ぎ目に存在する頂点35を第2変曲点42と定める。
【0061】
次に、図4(f)に示すように、第1変曲点41と第2変曲点42とを線43で結ぶ。この線43が、図3(a)に示す軟質弓断面部11aの弓の弦に相当し、且つ図3(b)に示す切断面14に相当する。
二次元表示である図4(f)を三次元表示にすると、図4(g)となる。
【0062】
図4(g)では、第1変曲点41と第2変曲点42とを結ぶ線43と、この線43に直交する(ほぼ直交を含む)ワイヤ38、38と、奥の線44で囲われる面が、ルールド面45となる。このルールド面45は切断面14に相当する。
【0063】
以上に述べたように、プレス金型はCADによるワイヤフレーム39で示され、軟質弓断面部に係る弓の弦が、第1変曲点41と第2変曲点42を結ぶ線43で定められる。結果、切断面14は一義的に決まり、個人差や人為的誤りが発生する余地はない。
【0064】
[一般的な図面]
図5は、図2の再掲図(ただし、符号は異なる。)であり、プレス金型の要部の断面を示す一般的な図面である。このような図5に基づいて切断面14を特定又は設定することができる。
図5において、第1の面12の一端で且つ直線から曲線に変化する点を第1変曲点41と定める。同様に、第2の面13の一端で且つ直線から曲線に変化する点を第2変曲点42と定める。
次に、第1変曲点41と第2変曲点42とを結ぶ線43で結ぶ。この線43が弓の弦に相当するとともに、切断面14に相当する。
【0065】
よって、本発明方法は、CAD利用と一般的な図面利用の何れにおいても容易に実施できる。
【0066】
ところで、図2において、硬質弓断面部21の最大厚さTが所定値(例えば、1.0mm)以下であると、硬化部20が母材11から剥離することがある。そのときの対策を、図6(a)、(b)に基づいて説明する。
【0067】
[切削面に設ける溝]
図6(a)又は図6(b)に示すように、硬質弓断面部21(正しくは軟質弓断面部11a)の最大厚さTが所定値に満たないときは、切断面14に樋のような溝47を形成し、この溝47に硬化部20の一部を収容するようにする。
収納された硬化部20の一部がアンカー作用を発揮するため、母材11に対する硬化部20の接合強度が高まる。
【0068】
なお、溝47の断面形状は任意であるが、図6(a)に示すように、弓形断面でもよく、弓形断面であれば、機械加工により溝47は容易に形成できる。
又は、図6(b)に示すように、溝47は矩形断面でもよい。矩形断面は機械加工がやや面倒ではあるが、弓形断面よりはアンカー作用が強化される。
よって、費用対効果を考慮して、溝47の断面形状を決定すればよい。
【0069】
図1に示すプレス金型10には、島状突起48が設けられている。この島状突起48にも、本発明は適用できる。
【0070】
[島状硬化部]
図7(a)は図1の7a部拡大図である。
図7(a)に示すように、島状突起48は、本発明により島状硬化部20Cとされる。
図7(b)は図7(a)のbーb線断面図であり、島状硬化部20Cは第1の面12と第2の面13との間に形成される硬質弓断面部21である。
よって、本発明に係る硬化部(図1、符号20)は凸条の他、島状突起であってもよい。
【0071】
また、図1において、ある硬化部20Aに隣の硬化部20Bがごく近い位置に配置されることがある。
すなわち、図8(a)に示すように、ある硬化部20Aに隣の硬化部20Bがごく近い位置に配置される。この場合は、図8(b)の形態が採用できる。
【0072】
[フタコブラクダ]
図8(b)に示すように、硬化部20には、フタコブラクダの瘤のように2つの硬質弓断面部21が合併形成されている。
【0073】
この例を採用する場合は、図8(a)において、ある硬化部20Aの2つの変曲点41、42のうち、隣の硬化部20Bから遠い方を第1変曲点41と定める。次に、隣の硬化部20Bの2つの変曲点41、42のうち、ある硬化部20Aから遠い方を第2変曲点42と定める。
図8(b)に示すように、定められた第1変曲点41と第2変曲点42とを直線で結ぶことで、切断面14を特定する。
【0074】
図8(a)に比べて、図8(b)であれば、2回の肉盛り溶接が1回で済む。
反面、図8(a)に比べて、図8(b)は高価な溶接粉の量が増える。
そのため、2つの硬化部20が離れているときには図8(a)の形態とし、2つの硬化部20がごく近接しているときに図8(b)の形態とすることが推奨される。
【0075】
[肉盛り溶接装置]
肉盛り溶接装置50は、例えば、溶接ガン51を備える溶接ロボット52と、溶接ガン51へ所定量の溶接粉53を供給する粉末定量供給機54と、溶接ガン51が発射するプラズマジェット55のための電気エネルギーを溶接ガン51へ供給する高圧電源56と、溶接ガン51が発射するシールドガス57のためのアルゴンガスを供給するガス容器58と、溶接ロボット52、溶接ガン51、粉末定量供給機54、高圧電源56及びガス容器58を制御する制御部59とからなる。
【0076】
制御部59により、溶接ガン51へ、適量の溶接粉53、アルゴンガス、電気エネルギーが供給される。溶接ガン51からプラズマジェット55と、溶接粉53と、シールドガス57が噴射される。この噴射により溶接粉53が切断面14に成層される。
【0077】
積層された溶接粉53がプラズマ熱で順次溶かされる。この間、シールドガス57で遮断されるため、溶接粉53が酸化することはなく、健全な硬化部20が形成される。
【0078】
図3(a)~(e)に基づいて説明したプレス金型製造方法は、ルールド面加工データや肉盛りデータに基づいて、実施されることがより望ましい。そこで、ルールド面加工データや肉盛りデータにつき、図10に基づいて説明する。
【0079】
[ルールド面加工データ]
図10のステップ番号(以下、ST)01にて、図4(e)に示すようなワイヤフレームを作成する。
ST02にて、図4(g)に示すようなルールド面を設定する。
このルールド面に基づいて、ルールド面加工データを作成する(ST03)。
このルールド面加工データに基づいてルールド面(すなわち切断面)を形成する(ST04)。
【0080】
ルールド面加工データを作成すると、レーザ溶接、ガス溶接、アーク溶接で高硬度材を肉盛り溶接することができる。溶接は、人、ロボット、3Dプリンタのような複合加工機などで行えるという利点がある。
【0081】
[肉盛りデータ]
ST03で作成したルールド面加工データに基づいて、肉盛りデータを作成する(ST05)。
この肉盛りデータに基づいて、図3(c)に示すような形態の肉盛り溶接を行う(ST06)。
この、肉盛りに機械加工を施して仕上げる(ST07)。
【0082】
すなわち、肉盛りは、ワイヤフレームに形成した軟質弓断面部に余肉を加えて作成される肉盛りデータに基づいて形成される。複雑な形状のプレス金型であっても、肉盛り溶接の自動化が可能となる。
【0083】
この肉盛りデータは、図9に示す制御部59に記憶され、この制御部59に記憶された肉盛りデータに基づいて肉盛り溶接が実施される。肉盛りデータに基づくため精密な肉盛り溶接がなされる。精密であるため、高価な高硬度材の無駄な使用が是正され、製造コストの適正化が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、母材及びこの母材に局部的に設けられる硬化部からなるプレス金型を、製造する技術に好適である。
【符号の説明】
【0085】
10…プレス金型、11…母材、11a…軟質弓断面部、12…第1の面、13…第2の面、14…切断面、15…肉盛り部、16…余肉、17…張出し部、20…硬化部、20A…ある硬化部、20B…隣の硬化部、20C…島状硬化部、21…硬質弓断面部、31…第1中間品、32…第2中間品、33…第3中間品、35…頂点、36…直線状の稜線、37…湾曲した稜線、38…ワイヤ、39…ワイヤフレーム、41…第1変曲点、42…第2変曲点、43…結ぶ線(第1・第2変曲点を結ぶ線)、45…ルールド面、47…溝、59…制御部、T…最大厚さ(軟質弓断面部の最大厚さ、兼硬質弓断面部の最大厚さ)。
【要約】
【課題】硬化部を備えるプレス金型において、個人差又は人為的な誤りが起こりにくい製造技術を提供する。
【解決手段】図3(a)にて、第1中間品31を得る。この第1中間品31は、軟質弓断面部11aを含んでいる。図3(b)にて、軟質弓断面部11aを切除することで切断面14を含む第2中間品32を得る。図3(c)にて、切断面14に肉盛り部15を形成する。図3(e)にて、余肉(図3(c)、符号16)を切除することで、プレス金型10を得る。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11