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特許7594109高強度熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法
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  • 特許-高強度熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】高強度熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241126BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20241126BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241126BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/14
C22C38/38
C21D9/46 U
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023528466
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 KR2021016320
(87)【国際公開番号】W WO2022108220
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0153945
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キョン-ス
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 チャン-ヤン
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-530068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0071789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、及びバナジウム(V):0.1%以下を含み、残り鉄(Fe)及び不可避不純物からなり
体積分率で、55~90%のベイナイト及び10~45%のフェライトを微細組織として含み、
前記ベイナイトに存在する炭化物のうち、長軸の長さが25~500nmの炭化物の単位面積当たりの個数が3×10個/mm以上であり、
前記ベイナイトに存在する炭化物の平均アスペクト比(長軸/短軸)が2.0以下である、熱延鋼板。
【請求項2】
前記熱延鋼板は、体積分率で、10%以下(0%含む)のパーライト、1%以下(0%含む)のマルテンサイト及び1%以下(0%含む)の残留オーステナイトのうちの1種以上を微細組織として含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
前記ベイナイトの平均パケットサイズは、前記フェライトの平均結晶粒径の50~200%である、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
前記熱延鋼板は、下記関係式1を満たす、請求項1に記載の熱延鋼板。
[関係式1]
30*[Ti]+100*[Nb]+5*[V]≦1.65
前記関係式1において、[Ti]、[Nb]及び[V]は、それぞれ前記熱延鋼板に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量(質量%)を意味する。
【請求項5】
前記熱延鋼板は、質量%で、クロム(Cr):0.2%以下をさらに含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項6】
前記熱延鋼板の曲げ加工性(R/t)は1.0以下である、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項7】
前記熱延鋼板の降伏強度(YS)は550MPa以上であり、引張強度(TS)は650MPa以上である、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項8】
前記熱延鋼板の厚さは3mm以下(0mmを除く)である、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項9】
素地鋼板、及び前記素地鋼板の少なくとも一面に形成されためっき層を備え、
前記素地鋼板は、請求項1~8のいずれか一つに記載の熱延鋼板であり、
前記めっき層は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛合金、及びアルミニウム合金の中から選択されたいずれか一つのめっき層である、熱延めっき鋼板。
【請求項10】
質量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下を含み、残り鉄(Fe)及び不可避不純物からなるスラブを加熱するスラブ加熱段階;
前記加熱されたスラブを、下記関係式3を満たす圧延終了温度(Tfm)で熱間圧延して鋼板を提供する熱間圧延段階;
前記熱間圧延された鋼板を、下記関係式4を満たす第1冷却停止温度(T)まで第1冷却速度で冷却する第1冷却段階;
前記第1冷却された鋼板を、下記関係式5を満たす第2冷却停止温度(T)まで前記第1冷却速度よりもさらに速い50~500℃/sの第2冷却速度で冷却する第2冷却段階;
前記第2冷却された鋼板を、下記関係式6を満たす第3冷却停止温度(T)まで前記第2冷却速度よりもさらに遅い第3冷却速度で冷却する第3冷却段階;
前記第3冷却された熱延鋼板を、前記第3冷却停止温度(T)で巻き取る巻き取り段階;及び
前記巻き取られた鋼板を、450~720℃の温度範囲で熱処理する熱処理段階を含む、請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。
[関係式3]
fm(℃)≧800+3000*[Ti]+10000*[Nb]-20*t(1/2)
前記関係式3において、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ前記スラブに含まれるチタン(Ti)及びニオブ(Nb)の含有量(質量%)を意味し、tは熱延鋼板の厚さ(mm)を意味する。
[関係式4]
fm(℃)-80℃≦T(℃)≦Tfm(℃)-5℃
前記関係式4において、Tfmは前記熱間圧延段階の圧延終了温度(Tfm)を意味する。
[関係式5]
(℃)≦750-270*[C]-90*[Mn]
前記関係式5において、[C]及び[Mn]は、それぞれ前記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(質量%)を意味する。
[関係式6]
540-423*[C]-30.4*[Mn]≦T(℃)<T(℃)
前記関係式6において、Tは前記第2冷却段階の第2冷却停止温度(T)を意味し、[C]及び[Mn]はそれぞれ前記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(質量%)を意味する。
【請求項11】
前記第1冷却速度は5~50℃/sであり、
前記第3冷却速度は5~50℃/sである、請求項10に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記スラブは、下記関係式1を満たす、請求項10に記載の熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
30*[Ti]+100*[Nb]+5*[V]≦1.65
前記関係式1において、[Ti]、[Nb]及び[V]は、それぞれ前記スラブに含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量(質量%)を意味する。
【請求項13】
前記スラブは、質量%で、クロム(Cr):0.2%以下をさらに含む、請求項10に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記熱間圧延された鋼板の厚さは3mm以下である、請求項10に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項15】
素地鋼板を準備する段階;及び
前記素地鋼板の少なくとも一面に、溶融めっき方式、電気めっき方式及びプラズマ方式の中から選択されたいずれか一つの方式によってめっき層を形成するめっき段階を含み、
前記素地鋼板は、請求項10~14のいずれか一つに記載の製造方法によって提供され、
前記めっき層は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛合金、及びアルミニウム合金の中から選択されたいずれか一つのめっき層である、熱延めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法に関するものであり、より詳細には、鋼建材用に適合した物性を有する熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度熱延鋼板及び熱延めっき鋼板は、支持用構造材として主に用いられる。特に、高強度熱延めっき鋼板は優れた変形抵抗性及び耐食性を有しながらも、冷延めっき鋼板に対して優れた経済性を有するため、建築用足場(construction scaffolding)、ビニールハウス構造材、太陽光支持台などの鋼建材用素材として多様に利用されている。
【0003】
但し、このような熱延鋼板または熱延めっき鋼板に対して高強度及び軽量化要求が増える傾向であるものの、現在までは構造材として適合した物性を有する熱延鋼板または熱延めっき鋼板を提供するための現実的な方法が提供できていないのが実情である。
【0004】
特許文献1~4は、合金元素の添加による析出強化によって鋼板の強度を確保する技術を開示する。これらは通常のHSLA鋼(High Strength Low Alloy Steel)の製造方法を用いたもので、Ti、Nb、V及びMoなどの合金元素を添加しなければならない。したがって、高価な合金元素を添加することが必須となるため、製造費用の側面で好ましくなく、このような合金元素は圧延負荷を増加させて薄物材を製造することができないという問題点がある。
【0005】
特許文献5~7は、フェライトとマルテンサイトの二相組織(dual phase)を利用するか、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト及び残留オーステナイトの複合組織を活用して強度を確保する技術を開示する。しかしながら、フェライト及び残留オーステナイトは加工性の側面では利点があるが、降伏強度の側面では不利益を伴い、構造材として適合した強度を確保するには技術的困難がある。
【0006】
したがって、支持用構造材として適合した高強度特性を有しつつも、軽量化の側面から薄物化が可能な熱延鋼板及び熱延めっき鋼板に対する開発が至急必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許公報10-2005-0113247号(2005.12.01.公開)
【文献】日本公開特許公報2002-322542号(2002.11.08.公開)
【文献】日本公開特許公報2006-161112号(2006.06.22.公開)
【文献】韓国公開特許公報10-2006-0033489号(2006.04.19.公開)
【文献】日本公開特許公報2005-298967号(2005.10.27.公開)
【文献】米国公開特許公報2005-0155673号(2005.07.21.公開)
【文献】欧州公開特許公報1396549号(2004.03.10.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面によれば、高強度薄物熱延鋼板及び熱延めっき鋼板、これらの製造方法が提供できる。
【0009】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面による熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、体積分率で、55~90%のベイナイト及び10~45%のフェライトを微細組織として含み、上記ベイナイトに存在する炭化物のうち長軸の長さが25~500nmの炭化物の単位面積当たりの個数は3×10個/mm以上であり、上記ベイナイトに存在する炭化物の平均アスペクト比(長軸/短軸)は2.0以下とすることができる。
【0011】
上記熱延鋼板は、体積分率で、10%以下(0%含む)のパーライト、1%以下(0%含む)のマルテンサイト及び1%以下(0%含む)の残留オーステナイトのうちの1種以上を微細組織として含むことができる。
【0012】
上記ベイナイトの平均パケットサイズは、上記フェライトの平均結晶粒径の50~200%とすることができる。
【0013】
上記熱延鋼板は、下記関係式1を満たすことができる。
[関係式1]
30*[Ti]+100*[Nb]+5*[V]≦1.65
上記関係式1において、[Ti]、[Nb]及び[V]は、それぞれ上記熱延鋼板に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量(重量%)を意味する。
【0014】
上記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.2%以下をさらに含むことができる。
【0015】
上記熱延鋼板の曲げ加工性(R/t)は1.0以下とすることができる。
【0016】
上記熱延鋼板の降伏強度(YS)は550MPa以上であり、引張強度(TS)は650MPa以上とすることができる。
【0017】
上記熱延鋼板の厚さは3mm以下(0mmを除く)とすることができる。
【0018】
本発明の一側面による熱延めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の少なくとも一面に形成されためっき層を備え、上記素地鋼板は上記熱延鋼板であり、上記めっき層は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛系合金、及びアルミニウム系合金の中から選択されたいずれか一つのめっき層とすることができる。
【0019】
本発明の一側面による熱延鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むスラブを加熱するスラブ加熱段階;上記加熱されたスラブを、下記関係式3を満たす圧延終了温度(Tfm)で熱間圧延して鋼板を提供する熱間圧延段階;上記熱間圧延された鋼板を、下記関係式4を満たす第1冷却停止温度(T)まで第1冷却速度で冷却する第1冷却段階;上記第1冷却された鋼板を、下記関係式5を満たす第2冷却停止温度(T)まで上記第1冷却速度よりもさらに速い50~500℃/sの第2冷却速度で冷却する第2冷却段階;上記第2冷却された鋼板を、下記関係式6を満たす第3冷却停止温度(T)まで上記第2冷却速度よりもさらに遅い第3冷却速度で冷却する第3冷却段階;上記第3冷却された熱延鋼板を、上記第3冷却停止温度(T)で巻き取る巻き取り段階;及び上記巻き取られた鋼板を、450~720℃の温度範囲で熱処理する熱処理段階を含むことができる。
[関係式3]
fm(℃)≧800+3000*[Ti]+10000*[Nb]-20*t^(1/2)
上記関係式3において、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ上記スラブに含まれるチタン(Ti)及びニオブ(Nb)含有量(重量%)を意味し、tは熱延鋼板の厚さ(mm)を意味する。
[関係式4]
fm(℃)-80℃≦T(℃)≦Tfm(℃)-5℃
上記関係式4において、Tfmは上記熱間圧延段階の圧延終了温度(Tfm)を意味する。
[関係式5]
(℃)≦750-270*[C]-90*[Mn]
上記関係式5において、[C]及び[Mn]は、それぞれ上記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
[関係式6]
540-423*[C]-30.4*[Mn]≦T(℃)<T(℃)
上記関係式6において、Tは上記第2冷却段階の第2冷却停止温度(T)を意味し、[C]及び[Mn]はそれぞれ上記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0020】
上記第1冷却速度は5~50℃/sであり、上記第3冷却速度は5~50℃/sであることができる。
【0021】
上記スラブは下記関係式1を満たすことができる。
[関係式1]
30*[Ti]+100*[Nb]+5*[V]≦1.65
上記関係式1において、[Ti]、[Nb]及び[V]は、それぞれ上記スラブに含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量(重量%)を意味する。
【0022】
上記スラブは、重量%で、クロム(Cr):0.2%以下をさらに含むことができる。
【0023】
上記熱間圧延された鋼板の厚さは3mm以下であることができる。
【0024】
本発明の一側面による熱延めっき鋼板の製造方法は、素地鋼板を準備する段階;及び、上記素地鋼板の少なくとも一面に、溶融めっき方式、電気めっき方式及びプラズマ方式の中から選択されたいずれか一つの方式によってめっき層を形成するめっき段階を含み、前記素地鋼板は前記熱延鋼板の製造方法によって提供され、上記めっき層は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛系合金、及びアルミニウム系合金の中から選択されたいずれか一つのめっき層とすることができる。
【0025】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴の全てを列挙したものではなく、本発明の様々な特徴及びそれによる利点及び効果は、以下の具体的な実施例を参照してより詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一側面によると、高強度支持用構造材として適合した高強度特性を有しながらも、軽量化の側面で薄物化が可能な熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法を提供することができる。
【0027】
本発明の効果は上述の事項に限定されず、通常の技術者が以下に記述される説明から推論可能な効果を含むものと解釈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】走査電子顕微鏡(SEM)を用いて試験片1の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、熱延鋼板、熱延めっき鋼板及びこれらの製造方法に関するものであり、以下では本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の実施形態は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施形態に限定されると解釈されてはいけない。本発明の実施形態は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0030】
以下、本発明の熱延鋼板についてより詳細に説明する。
【0031】
本発明の一側面による熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、体積分率で、55~90%のベイナイト及び10~45%のフェライトを微細組織として含み、上記ベイナイトに存在する炭化物のうち長軸の長さが25~500nmの炭化物の単位面積当たりの個数は3×10個/mm以上であり、上記ベイナイトに存在する炭化物の平均アスペクト比(長軸/短軸)は2.0以下とすることができる。
【0032】
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、各元素の含有量を表す%は、重量を基準とする。
【0033】
本発明の一側面による熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、0.2重量%以下のクロム(Cr)をさらに含むことができる。
【0034】
炭素(C):0.1~0.25%
炭素(C)は、鋼板の強度を向上させるのに効果的に寄与する元素である。また、炭素(C)は、本発明で実現しようとする微細組織を確保するために、適正な添加が必要な元素でもある。したがって、目的とするレベルの強度を確保し、熱間圧延後の冷却時に目的とするレベルのベイナイト分率を確保するために、本発明は、0.1%以上の炭素(C)を添加することができる。好ましい炭素(C)含有量の下限を0.12%とすることができ、より好ましい炭素(C)含有量の下限を0.14%とすることができる。但し、炭素(C)が過度に添加された場合、炭化物が多量に形成されて成形性が低下するか、鋼建材用途で用いる場合、溶接性が低下することがあるため、本発明は炭素(C)含有量を0.25%以下に制限することができる。好ましい炭素(C)含有量の上限は0.24%とすることができ、より好ましい炭素(C)含有量の上限は0.23%とすることができる。
【0035】
マンガン(Mn):0.2~2.0%
マンガン(Mn)は、鋼の強度及び硬化能を向上させる元素であるだけでなく、鋼の製造工程中に不可避に含有される硫黄(S)と結合してMnSを形成するため、硫黄(S)によるクラック発生を抑制するのに効果的に寄与する元素でもある。したがって、本発明は、0.2%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。好ましいマンガン(Mn)含有量の下限は0.3%とすることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量の下限は0.4%とすることができる。但し、マンガン(Mn)が過度に添加された場合、溶接性が低下するだけでなく、経済性の側面でも好ましくないため、本発明はマンガン(Mn)含有量を2.0%以下に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は1.9%とすることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は1.8%とすることができる。
【0036】
シリコン(Si):0.3%以下
シリコン(Si)は、脱酸剤として作用する元素であるだけでなく、鋼板の強度向上に効果的に寄与する元素であるため、本発明はこのような効果を達成するために、シリコン(Si)を添加することができる。好ましいシリコン含有量の下限は0.01%とすることができ、より好ましいシリコン含有量の下限は0.02%とすることができる。但し、シリコン(Si)含有量が一定レベルを超過する場合、鋼板表面に形成されたスケールによって表面品質が低下し、溶接性が低下することがあるため、本発明はシリコン(Si)含有量を0.3%以下に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含有量の上限は0.2%であることができ、より好ましいシリコン(Si)含有量の上限は0.1%であることができる。
【0037】
アルミニウム(Al):0.05%以下
アルミニウム(Al)は、鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素であり、本発明はこのような効果のためにアルミニウム(Al)を添加することができる。好ましいアルミニウム(Al)含有量の下限は0.005%とすることができ、より好ましいアルミニウム(Al)含有量の下限は0.01%とすることができる。但し、アルミニウム(Al)が過度に添加された場合、鋼板の介在物が増加するだけでなく、鋼板の加工性が低下することになるため、本発明はアルミニウム(Al)含有量を0.05%以下に制限することができる。好ましいアルミニウム(Al)含有量の上限は0.04%とすることができる。
【0038】
リン(P):0.05%以下
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される不純物元素であり、結晶粒界に偏析されて鋼の靭性を低下させる元素である。したがって、可能な限りその含有量を低く制御することが好ましく、理論上はリン(P)含有量を0%に制限することが有利である。但し、製造工程で不可避に含有される含有量を考慮して、本発明はリン(P)含有量を0.05%以下に制限することができる。好ましいリン(P)含有量の上限は0.04%とすることができ、より好ましいリン(P)含有量は0.03%とすることができる。
【0039】
硫黄(S):0.03%以下
硫黄(S)は、鋼中に不可避に含有される不純物であり、マンガン(Mn)と反応することでMnSを形成して析出物の含有量を増加させ、鋼を脆化させる元素である。したがって、可能な限りその含有量を低く制御することが好ましく、理論上は硫黄(S)含有量を0%に制限することが有利である。但し、製造工程で不可避に含有される含有量を考慮して、本発明は硫黄(S)含有量を0.03%以下に制限することができる。好ましい硫黄(S)含有量の上限は0.02%とすることができ、より好ましい硫黄(S)含有量の上限は0.01%とすることができる。
【0040】
窒素(N):0.01%以下
窒素(N)は、鋼中に不可避に含有される不純物であり、連続鋳造中に窒化物を形成してスラブの割れを引き起こす元素である。したがって、可能な限りその含有量を低く制御することが好ましく、理論上は窒素(N)含有量を0%に制限することが有利である。但し、製造工程で不可避に含有される含有量を考慮して、本発明は窒素(N)含有量を0.01%以下に制限することができる。好ましい窒素(N)含有量は0.008%以下とすることができ、より好ましい窒素(N)含有量は0.006%以下とすることができる。
【0041】
チタン(Ti):0.005~0.05%
チタン(Ti)は、炭素(C)や窒素(N)と結合して炭化物及び窒化物を形成する元素である。本発明では、ホウ素(B)を添加して硬化能を確保しているが、このとき、ホウ素(B)が窒素(N)と結合する前にチタン(Ti)が窒素(N)と結合することでホウ素(B)の添加効果を向上させることができる。本発明は、このような効果を達成するために0.005%以上のチタン(Ti)を添加することができる。好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.01%とすることができ、より好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.015%とすることができる。但し、チタン(Ti)が過度に添加された場合、スラブ製造段階で連鋳性を低下させる原因となり、熱間圧延中に圧延負荷が増加して圧延性を低下させる原因となり得る。したがって、本発明は、チタン(Ti)含有量を0.05%以下に制限することができる。好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.04%とすることができ、より好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.03%とすることができる。
【0042】
ホウ素(B):0.0005~0.005%
ホウ素(B)は、鋼板の硬化能を向上させるのに重要な役割を果たす元素であり、圧延終了後の冷却時にフェライトやパーライトの変態を抑制する元素である。本発明は、このような効果を達成するために0.0005%以上のホウ素(B)を添加することができる。好ましいホウ素(B)含有量の下限は0.0007%とすることができ、より好ましいホウ素(B)含有量の下限は0.001%とすることができる。但し、ホウ素(B)の添加量が一定レベルを超過する場合、過度に添加されたホウ素(B)が鉄(Fe)と結合して粒界を脆弱にする問題があるため、本発明はホウ素(B)含有量を0.005%以下に制限することができる。好ましいホウ素(B)含有量の上限は0.004%とすることができ、より好ましいホウ素(B)含有量の上限は0.003%とすることができる。
【0043】
ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下
ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)は、炭素(C)や窒素(N)と反応して炭化物や窒化物などの析出物を形成する元素である。但し、これらは高価な元素であるため、添加量が増加するにつれて価格が上昇するだけでなく、熱間圧延中に圧延負荷を増加させて薄物材の製造を難しくすることがある。したがって、本発明は、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)の添加を抑制してよく、不可避に添加されてもニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)の含有量をそれぞれ0.01%以下、0.1%以下、0.01%以下に制限することができる。好ましいニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)含有量の上限はそれぞれ0.005%及び0.01%とすることができる。ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)の含有量は、それぞれ0%とすることができ、その下限はそれぞれ0.0005%とすることができる。
【0044】
一方、析出物を形成して圧延性を低下させるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量は、下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1]
30*[Ti]+100*[Nb]+5*[V]≦1.65
上記関係式1において、[Ti]、[Nb]及び[V]は、それぞれ上記熱延鋼板に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量(重量%)を意味する。
【0045】
上記関係式1は、高強度特性及び高成形性の特性を確保した薄物材の鋼板を提供するための条件である。すなわち、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量が関係式1を満たさない場合、薄物材の製造のために不可避に高温で熱間圧延を行う必要があるだけでなく、炭化物のアスペクト比(長軸/短軸)が目的とするレベルを超過して曲げ加工性(R/t)が低下することがある。
【0046】
クロム(Cr):0.2重量%以下
クロム(Cr)は、鋼の硬化能の向上に寄与する元素であるため、本発明はこのような効果を達成するために、選択的にクロム(Cr)を添加することができる。但し、クロム(Cr)は高価な元素であるため、過度に添加すると、経済的の側面で好ましくない。クロム(Cr)の過度な添加は、溶接性の低下を引き起こす可能性があるため、本発明はクロム(Cr)含有量を0.2%以下に制限することができる。好ましいクロム(Cr)含有量の上限は0.15%とすることができ、より好ましいクロム(Cr)含有量の上限は0.1%とすることができる。
【0047】
本発明の一側面による熱延鋼板は、上述した成分以外に、残りのFe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造工程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野で通常の知識を有する者であれば誰でも分かることであるため、そのすべての内容を本明細書では特に言及しない。さらに、上述した成分以外に有効な成分の追加的な添加が全面的に排除されるわけではない。
【0048】
本発明の一側面による熱延鋼板の微細組織は、55~90体積%のベイナイト及び10~45体積%のフェライトを含むことができ、10体積%以下(0%含む)のパーライト、1体積%以下(0%含む)のマルテンサイト及び1体積%以下(0%含む)の残留オーステナイトのうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0049】
ベイナイトは強度を高めるのに効果的な微細組織であり、フェライトは延性を確保するのに効果的な微細組織であるため、高強度特性及び優れた成形性を両立する側面から、ベイナイト分率とフェライト分率は適切に制御される必要がある。したがって、本発明はベイナイト分率を55~90体積%の範囲に制御することができ、フェライト分率を10~45%の範囲に制御することができる。
【0050】
また、本発明の熱延鋼板は微細組織として、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイト、及びその他の析出物のうちの1種以上を含むことができるが、高強度特性及び優れた成形性を両立する側面から、その分率を一定範囲以下に制限することができる。パーライトが多量に形成される場合、複合組織の形成によって成形性が低下するか、ベイナイト分率が減少するようになって強度を確保するのに困難があることから、本発明はパーライト分率を10体積%以下(0%含む)に制限することができる。マルテンサイトは強度確保の側面では有利であるが、成形性確保の側面では不利であるため、本発明はマルテンサイト分率を1%以下(0%含む)に制限することができる。残留オーステナイトは成形性確保の側面では有利であるが、降伏強度確保の側面では不利であるため、本発明は残留オーステナイト分率を1%以下(0%含む)に制限することができる。
【0051】
ベイナイトに存在する炭化物のうち、長軸の長さが25~500nmの炭化物の単位面積当たりの個数は3×10個/mm以上であることが好ましい。ベイナイトに存在する炭化物のうち、粒度が小さすぎる炭化物は、熱間圧延時の圧延負荷を増加させて薄物圧延を困難にし、粒度が大きすぎる炭化物は強度及び延性確保に不利に作用することがある。また、強度を確保するために、ベイナイトに存在する炭化物の個数は一定量以上であることが好ましい。したがって、本発明の熱延鋼板は、ベイナイトに存在する炭化物のうち、長軸の長さが25~500nmの炭化物の単位面積当たりの個数を3×10個/mm以上に制御することができる。
【0052】
ベイナイトに存在する炭化物の形状も鋼板の成形性に大きな影響を及ぼす要素であり、ベイナイトに存在する炭化物の形状が球形に近いほど鋼板の成形性確保にはより有利である。したがって、本発明は、成形性確保の側面から、ベイナイトに存在する炭化物の平均アスペクト比(長軸/短軸)を2.0以下に制限することができる。
【0053】
一方、ベイナイトとフェライトの大きさの差異が大きくなるほど成形性の側面では好ましくない。そのため、本発明の熱延鋼板では、ベイナイトの平均パケットサイズをフェライトの平均結晶粒径の50~200%のレベルに制御することができる。
【0054】
本発明の一側面による熱延鋼板は、3mm以下(0mmを除く)の厚さを有する薄物材とすることができ、550MPa以上の降伏強度(YS)、650MPa以上の引張強度(TS)及び1.0以下の曲げ加工性(R/t)を有することができる。
【0055】
本発明の一側面による熱延鋼板は、高強度及び薄物化による軽量化の目的に適合するように、鋼板の降伏強度及び厚さは下記関係式2を満たすことができる。
[関係式2]
YS-100*T≧350
上記関係式2において、YSは熱延鋼板の降伏強度(MPa)を意味し、tは熱延鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【0056】
一方、本発明の一側面による熱延鋼板は、少なくとも一面にめっき層を備える熱延めっき鋼板とすることができる。本発明の熱延めっき鋼板が備えるめっき層の成分は、特に限定されるものではない。非制限的な例として、亜鉛、アルミニウム、亜鉛系合金、及びアルミニウム系合金の中から選択されたいずれか一つのめっき層とすることができる。また、非制限的な例として、亜鉛系合金めっき層は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の中から選択された1種以上と、残部として亜鉛(Zn)とを含むめっき層とすることができる。アルミニウム系合金めっき層は、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の中から選択された1種以上と、残部としてアルミニウム(Al)とを含むめっき層とすることができる。
【0057】
以下、本発明の一側面による高強度熱延鋼板の製造方法についてより詳細に説明する。
【0058】
本発明の他の一側面による熱延鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.1~0.25%、マンガン(Mn):0.2~2.0%、シリコン(Si):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、窒素(N):0.01%以下、チタン(Ti):0.005~0.05%、ホウ素(B):0.0005~0.005%、ニオブ(Nb):0.01%以下、モリブデン(Mo):0.1%以下、バナジウム(V):0.1%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むスラブを加熱するスラブ加熱段階;上記加熱されたスラブを、下記関係式3を満たす圧延終了温度(Tfm)で熱間圧延して鋼板を提供する熱間圧延段階;上記熱間圧延された鋼板を、下記関係式4を満たす第1冷却停止温度(T)まで第1冷却速度で冷却する第1冷却段階;上記第1冷却された鋼板を、下記関係式5を満たす第2冷却停止温度(T)まで上記第1冷却速度よりもさらに速い50~500℃/sの第2冷却速度で冷却する第2冷却段階;上記第2冷却された鋼板を、下記関係式6を満たす第3冷却停止温度(T)まで上記第2冷却速度よりもさらに遅い第3冷却速度で冷却する第3冷却段階;上記第3冷却された熱延鋼板を、上記第3冷却停止温度(T)で巻き取る巻き取り段階;及び、上記巻き取られた鋼板を、450~720℃の温度範囲で熱処理する熱処理段階を含むことができる。
[関係式3]
fm(℃)≧800+3000*[Ti]+10000*[Nb]-20*t^(1/2)
上記関係式3において、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ上記スラブに含まれるチタン(Ti)及びニオブ(Nb)の含有量(重量%)を意味し、tは熱延鋼板の厚さ(mm)を意味する。
[関係式4]
fm(℃)-80℃≦T(℃)≦Tfm(℃)-5℃
上記関係式4において、Tfmは上記熱間圧延段階の圧延終了温度(Tfm)を意味する。
[関係式5]
(℃)≦750-270*[C]-90*[Mn]
上記関係式5において、[C]及び[Mn]は、それぞれ上記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
[関係式6]
540-423*[C]-30.4*[Mn]≦T(℃)≦T(℃)
上記関係式6において、Tは上記第2冷却段階の第2冷却停止温度(T)を意味し、[C]及び[Mn]はそれぞれ上記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0059】
鋼スラブの準備及び加熱
所定の成分を有する鋼スラブを準備する。本発明の鋼スラブは、上述した熱延鋼板の合金組成に対応する合金組成を有するため、鋼スラブの合金組成に対する説明は、上述した熱延鋼板の合金組成に対する説明に代わる。
【0060】
準備された鋼スラブを一定温度範囲に加熱することができ、このとき、鋼スラブの加熱方式及び加熱温度は特に制限されない。一例として、鋼スラブの加熱温度は1100~1350℃の範囲とすることができる。鋼スラブの加熱温度が1100℃未満の場合、目的とする仕上げ熱間圧延の温度範囲以下の温度区間で熱間圧延されるおそれがある。鋼スラブの加熱温度が1350℃を超過する場合、エネルギーが過度に投入されて追加費用が発生するか、スラブの表層にスケールが厚く形成されるおそれがある。
【0061】
熱間圧延
鋼スラブの加熱後の熱間圧延を行い、3mm以下(0mmを除く)の厚さを有する熱延鋼板を提供することができる。加熱された鋼スラブの温度が、通常の熱間圧延を行うことができる温度であれば、特に再加熱を行わずに、そのまま熱間圧延を行うことができる。加熱された鋼スラブの温度が、通常の熱間圧延を行うことができる温度より低い温度であれば、再加熱を行った後に熱間圧延を行うことができる。
【0062】
このとき、熱間圧延時の熱間圧延の終了温度(Tfm)は、下記関係式3を満たすことが好ましい。圧延温度が過度に低い場合、圧延負荷が増加して圧延性を低下させるか、圧延ロールの疲労による表面粗さが誘発されるだけでなく、低温圧延によって炭化物のアスペクト比が目的とするレベルから外れる可能性があるためである。
[関係式3]
fm(℃)≧800+3000*[Ti]+10000*[Nb]-20*t^(1/2)
上記関係式3において、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ上記スラブに含まれるチタン(Ti)及びニオブ(Nb)含有量(重量%)を意味し、tは熱延鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【0063】
第1冷却
熱間圧延された鋼板は、下記関係式4を満たす第1冷却停止温度(T)まで、第1冷却速度(VC1)で冷却されてよい。
[関係式4]
fm(℃)-80℃≦T(℃)≦Tfm(℃)-5℃
上記関係式4において、Tfmは上記熱間圧延段階の圧延終了温度(Tfm)を意味する。
【0064】
第1冷却停止温度(T)が一定レベル以下の場合、フェライトまたはパーライトへの変態が発生して本発明が目的とする微細組織を確保できず、そのことにより、目的とするレベルの強度を確保できないおそれがある。したがって、本発明は、第1冷却停止温度(T)の下限をTfm(℃)-80℃に制限することができる。また、第1冷却停止温度(T)が一定レベルを超過する場合、オーステナイト結晶粒が粗大になって均一ではなく、ベイナイトの平均パケットサイズとフェライトの平均結晶粒径との差異が大きくなりすぎる可能性があるため、本発明は、第1冷却停止温度(T)の上限をTfm(℃)-5℃に制限することができる。
【0065】
第1冷却速度(VC1)は、通常の徐冷に適用される冷却速度であればよく、限定されないが、鋼板形状の不良防止及び目的とする微細組織確保の側面から、5~50℃/sの範囲に制限することができる。
【0066】
第2冷却
第1冷却された鋼板は、下記関係式5を満たす第2冷却停止温度(T)まで、第2冷却速度(VC2)で冷却されてよい。
[関係式5]
(℃)≦750-270*[C]-90*[Mn]
上記関係式5において、[C]及び[Mn]は、それぞれ上記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0067】
第2冷却停止温度(T)が一定レベルを超過する場合、フェライトまたはパーライトへの変態が発生して、本発明が目的とする微細組織を確保することができず、そのことにより、目的とするレベルの強度を確保できないおそれがある。したがって、本発明は、第2冷却停止温度(T)の上限を750-270*[C]-90*[Mn]に制限することができる。
【0068】
第2冷却は、第1冷却に比べてさらに速い速度で行われることが好ましく、より好ましい第2冷却速度(VC2)は50~500℃/sの範囲とすることができる。第2冷却速度(VC2)が50℃/s未満の場合、フェライトまたはパーライトへの変態が増加して、強度低下を引き起こすことがある。また、500℃/s超過の冷却速度を実現するためには追加的な設備が必要であるため、経済性の側面から好ましくない。
【0069】
第3冷却及び巻き取り
第2冷却された鋼板は、下記関係式6を満たす第3冷却停止温度(T)まで第3冷却速度(VC3)で冷却された後、第3冷却停止温度(T)で巻き取ることができる。
[関係式6]
540-423*[C]-30.4*[Mn]≦T(℃)<T(℃)
上記関係式6において、Tは上記第2冷却段階の第2冷却停止温度(T)を意味し、[C]及び[Mn]はそれぞれ上記スラブに含まれる炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0070】
第3冷却は、巻取温度を制御するための冷却段階であり、第2冷却速度(VC2)よりもさらに遅い第3冷却速度(VC3)で、第2冷却停止温度(T)よりさらに低い第3冷却停止温度(T)まで冷却を行うことができる。好ましい第3冷却速度(VC3)は、5~50℃/sの範囲とすることができる。
【0071】
但し、第3冷却終了温度(T)が過度に低い場合、低温組織が過度に形成されて、目的とする微細組織及び成形性を確保できないため、本発明は第3冷却終了温度(T)の下限を540-423*[C]-30.4*[Mn]に制限することができる。
【0072】
熱処理
巻き取られた鋼板を昇温した後に維持して熱処理を行うことができる。後続されるめっき工程での鋼板の温度の確保及び炭化物の安定的な確保のために、450~720℃の温度範囲で熱処理を行うことができる。
【0073】
めっき
熱処理後に熱処理された鋼板の少なくとも一面にめっき層を形成することができる。本発明のめっき層の成分及び形成方法は特に制限されるものではなく、熱延めっき鋼板に通常的に提供されるめっき層の成分及び形成方法を含む概念として解釈してよい。一例として、上記めっき層は、溶融めっき方式、電気めっき方式、及びプラズマ方式の中から選択されたいずれか一つの方式によって形成されることができ、上記めっき層は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛系合金、及びアルミニウム系合金の中から選択されたいずれか一つのめっき層とすることができる。
【0074】
上述した製造方法によって提供される熱延鋼板は、微細組織として、55~90体積%のベイナイト及び10~45体積%のフェライトを含むことができ、10体積%以下(0%含む)のパーライト、1体積%以下(0%含む)のマルテンサイト及び1体積%以下(0%含む)の残留オーステナイトのうちの1種以上をさらに含むことができる。上記ベイナイトに存在する炭化物のうち、長軸の長さが25~500nmの炭化物の単位面積当たりの個数は3×10個/mm以上であってよく、上記ベイナイトに存在する炭化物の平均アスペクト比(長軸/短軸)は、2.0以下であってよい。また、上述した製造方法によって提供される熱延鋼板は、ベイナイトの平均パケットサイズがフェライトの平均結晶粒径の50~200%レベルであってよい。
【0075】
上述した製造方法によって提供される熱延鋼板は、3mm以下(0mmを除く)の厚さを有し、550MPa以上の降伏強度(YS)、650MPa以上の引張強度(TS)及び1.0以下の曲げ加工性(R/t)を満足することができる。また、上述した製造方法によって提供される熱延鋼板の降伏強度及び厚さは、下記関係式2を満足することができる。
[関係式2]
YS-100*t≧350
上記関係式2において、YSは熱延鋼板の降伏強度(MPa)を意味し、tは熱延鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【実施例
【0076】
以下、具体的な実施例によって本発明の高強度熱延鋼板及びその製造方法についてより詳細に説明する。下記実施例は本発明の理解のためのものであって、本発明の権利範囲を特定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定される。
【0077】
(実施例)
下記表1の合金組成を有する鋼スラブに対して、下記表2の工程条件を適用して熱延鋼板を製造した。表1において、残りは鉄(Fe)及び不可避不純物であり、1200℃の鋼スラブ加熱条件を共通的に適用した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
この後、各試験片の微細組織を観察し、機械的物性を測定して表3に記載した。
【0081】
各試験片を圧延方向と平行な方向に切断した後、板厚さの1/4地点の切断面から微細組織の観察用試験片を採取した。このように採取されたサンプルを研磨し、ナイタル溶液で腐食した後、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)を用いて各試験片の微細組織を観察した。微細組織分率はイメージ分析によって測定した。ベイナイトパケットの平均サイズ及びフェライト結晶粒の平均サイズは、板厚の1/4地点についてEBSD(electron backscatter diffraction)を用いて測定した。ベイナイトパケットの平均サイズは、方位差15°を超過した位置を結晶粒の境界として定義して測定し、フェライト結晶粒の平均サイズはLinear Intercept Methodを用いて測定した。表3において、Fはフェライト、Pはパーライト、Bはベイナイト、Mはマルテンサイト、R-γは残留オーステナイトを意味する。走査電子顕微鏡(SEM)の倍率を5000倍とし、各サンプルの互いに異なる領域に存在するベイナイトの電子顕微鏡イメージを最小5つ以上確保し、このように得られたイメージにそれぞれ横20μm、縦20μmの正方形の領域を算定して炭化物の大きさ、個数密度及び平均アスペクト比を測定した。表3において炭化物の個数密度は、長軸の長さが25~500nmの炭化物の個数密度を意味する。
【0082】
引張強度及び降伏強度は、各試験片についてDIN規格を用いてL方向に引張試験を行って測定した。曲げ加工性(R/t)は、90°V-曲げ(V-bending)試験を適用して測定した。互いに異なる曲率(R)を有するV字状の治具で試験片を90°曲げた後、曲げ部での割れ発生の有無を確認して測定した。
【0083】
【表3】
【0084】
表1~表3に示されたように、本発明の合金組成及び工程条件の全てを満足する試験片は、550MPa以上の降伏強度(YS)、650MPa以上の引張強度(TS)及び1.0以下の曲げ加工性(R/t)を満たす。これに対し、本発明の合金組成または工程条件のいずれか1つ以上を満たさない試験片は、550MPa以上の降伏強度(YS)、650MPa以上の引張強度(TS)及び1.0以下の曲げ加工性(R/t)を同時に満たさないことを確認することができる。
【0085】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載される特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
図1