(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】耐熱性炭化物層
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20241126BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C23C16/42
C30B29/36 A
(21)【出願番号】P 2023535034
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2021084917
(87)【国際公開番号】W WO2022122877
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】102020215592.5
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514194886
【氏名又は名称】エスジーエル・カーボン・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ウィジャヤワルダナ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ミリツァー
(72)【発明者】
【氏名】ジン-ジア・フアン
(72)【発明者】
【氏名】ウルバン・フォルスベリ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク・ペデルセン
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03769562(US,A)
【文献】特開平1-112728(JP,A)
【文献】特開昭63-286576(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046191(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0196038(US,A1)
【文献】Structural Controlling of Highly-Oriented Polycrystal 3C-SiC Bulks via Halide CVD,MATERIALS,2019年01月27日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C30B 29/36
H01L 21/205
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素結晶
からなる層を調製するための化学気相堆積(CVD)法であって、前記層の少なくとも一部が、ケイ素源と芳香族炭素源とを含有するガス混合物から形成され、前記ガス混合物のC/Siモル比
が0.85
~1.4
5である、化学気相堆積法。
【請求項2】
前記芳香族炭素源が、C
6~C
30の芳香族化合物であ
る、請求項1に記載の化学気相堆積法。
【請求項3】
反応温度が
、900℃
~1800
℃である、請求項1又は2に記載の化学気相堆積法。
【請求項4】
反応が、減圧下で行わ
れる、及び/又は、
前記ガス混合物が
、不活性キャリアガスを更に備
える、請求項1から3のいずれか一項に記載の化学気相堆積法。
【請求項5】
前記化学気相堆積法が自立層を生成する、又は、
前記層が
、炭素質基
板上に、若しくは、ケイ素質基
板上に、若しくは
、耐熱性炭化金属
からなる層の上に堆積される、請求項1から4のいずれか一項に記載の化学気相堆積法。
【請求項6】
炭化ケイ素結晶
からなる層であって、該層の断面のSEM像分析において、断面の面積
の20%以下が
、前記層の表
面に対して15°よりも大きく傾斜している
前記炭化ケイ素結晶の平行
な成長ライ
ンを有する、層。
【請求項7】
前記層の表面が、正六角錐形状の炭化ケイ素結晶頂部を備え、前記表面の10%未満が、正六角形の底面の一角から対角までの距離
が25μm以上である大きな正六角錐形状の結晶頂部によって占められている、及び/又は、
前記層が、重なっている二つのピークを有するラマンスペクトルを特徴とし、前記二つのピークのうち第一ピークが758cm
-1~778cm
-1の範囲内に最大強度を有し、第二ピークが785cm
-1~805cm
-1の範囲内に最大強度を有し、前記第一ピークの第一面積を前記第二ピークの第二面積で割ることによって計算される面積比
が0.05以上である、請求項6に記載の層。
【請求項8】
前記表面の10%以上の部分が、前記正六角錐形状の炭化ケイ素結晶頂部を備える、請求項7に記載の層。
【請求項9】
炭化ケイ素結晶配向の分布が、配向クオリティQ
が0.90以
上となる分布であり、
前記配向クオリティQは、以下の式に従って波長1.5406ÅでのCuKα線で検出されるX線ディフラクトグラムの最大ピーク強度から計算され、
Q=(I
111+I
222+I
333/511)/(I
111+I
200+I
220+I
311+I
222+I
400+I
331+I
420+I
333/511+I
422)
I
111は、34.6°~36.6°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
200は、40.4°~42.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
220は、59.0°~61.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
311は、70.8°~72.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
222は、74.5°~76.5°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
400は、89.0°~91.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
331は、99.8°~101.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
420は、103.4°~105.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
333/511は、132.4°~134.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I
422は、119.0°~121.0°の範囲内の2θでの最大強度である、請求項6から8のいずれか一項に記載の層。
【請求項10】
前記表面が
、0.2μm
~25μ
mの範囲内の平均粒径を有する、請求項6から9のいずれか一項に記載の層。
【請求項11】
前記層の表面硬度が、前記層の断面硬度より
も0.5%以
上高い、請求項6から10のいずれか一項に記載の層。
【請求項12】
前記層の一表面のISO4287に準拠した平均粗さRaが
、0.1nm
~100n
mのナノスケール粗さの範囲内であるか、又は
、100nm
~10μ
mのマイクロスケール粗さの範囲内である、請求項6から11のいずれか一項に記載の層。
【請求項13】
前記層の厚さが
、0.5μm以
上である、請求項6から12のいずれか一項に記載の層。
【請求項14】
高温応用のためのデバイ
スであって、該デバイスの表面上に請求項6から13のいずれか一項に記載の層を備えるデバイス。
【請求項15】
半導体を支持するための請求項6から12のいずれか一項に記載の層の使用。
【請求項16】
前記デバイスがウェーハキャリアである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
前記層が、自立層であり、半導体を堆積させるためのウェーハとして用いられる、請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性炭化物結晶を備える層を調製するための新規CVD法、その方法によって得ることができる層、その多様な用途と応用、例えば、ウェーハキャリア上に堆積されたものに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性(refractory、耐火性)の炭化物、特に炭化ケイ素(SiC)で被覆されたグラファイト部品は、例えば、LED(発光ダイオード)の製造や半導体処理において一般的に用いられている。こうしたプロセスは、高純度の部品を要するので、耐熱性コーティングは、化学気相堆積(CVD,chemical vapor deposition)法を用いて一般的に適用されている。CVDでは、SiC層を堆積させるため、キャリアガス(例えば、H2)と前駆体ガス(SiCl4+CH4等)とを含有するガス混合物を、1000℃を超える温度に加熱された反応器内に供給し、そこで前駆体が化学反応して、配置されたグラファイト部品の表面上に固体SiCを形成する。グラファイト部品に対するSiCのCVDに一般的に用いられている前駆体は、短鎖炭化水素(メタン(CH4)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)等)と組み合わせた四塩化ケイ素(SiCl4)や、メチルトリクロロシラン(Cl3SiCH3、「MTS」)である。
【0003】
CVD法は、SiCコーティングに特定の結晶構造(通常はβ‐SiCであり、3C‐SiCとも称される)をもたらす。この結晶は、コーティング中にランダムに配向するか、又は優先方向に配向し得る。その配向は、SiC成長中における複雑な相互作用の結果である。一般的には、基板(例えば、グラファイトやケイ素)上に堆積させたSiC結晶は、強い優先配向を示さないか、SiC結晶の(220)面が基板表面に平行になるように配向する(「(220)配向」)。耐熱性炭化物コーティングを改善しようとする過去の試みは、以下に挙げる従来技術から理解されるように、耐熱性炭化物のXRD(X線回折)特性に注目しているものである。
【0004】
非特許文献1には、ハロゲン化物のCVDによる<110>配向β‐SiCの超高速製造が記載されている。ハロゲン化物の化学気相堆積は、四塩化ケイ素(SiCl4)とメタン(CH4)を前駆体として用いて行われている。1773Kの超高温の堆積温度と40kPaの全圧で調製されたβ‐SiC膜の表面形態は、六方晶構造をもたらす。その六方晶構造は大きな六角形の結晶を含んでいるようである。図面は、六角形の一角からその対角の角までの距離が5μmの多数倍であることを示している。
【0005】
非特許文献2には、ハロゲン化物前駆体によるSiC厚膜の高速堆積が記載されている。四塩化ケイ素(SiCl4)とメタン(CH4)を前駆体として用いた1573Kの堆積温度の膜は、強い<111>優先配向を示している。それにもかかわらず、1573Kで調製されたβ‐SiC膜のXRDパターンは、顕著な(220)回折ピークを有している。1573Kで堆積させたβ‐SiC膜の表面形態は、六回対称の角錐を示していると記載されている。しかしながら、一つのSEM像に描かれている六角形は対応の粒にフィットしていないようにみえる。
【0006】
非特許文献3には、ハロゲン化物の化学気相堆積による超厚β‐SiC膜の調製について記載されている。SiCl4をケイ素源として用い、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、プロパン(C3H8)、液化石油ガスをそれぞれ炭素源として用いている。1473Kの堆積温度と炭素源CH4を含む特定の条件下におけるCVDの後に、{111}ピークのみがXRDにおいて特定されたと記載されている。低い堆積温度範囲(<1473K)では、β‐SiC膜の形態は平滑な積層構造を示している。高い堆積温度範囲(1573~1773K)では、カリフラワー状の結晶、丸みを帯びた小丘(ヒロック)状の結晶、多重双晶の結晶がそれぞれ異なる炭素源を用いて得られている。
【0007】
非特許文献4では、多様な温度(1100℃、1200℃、1300℃)で化学気相堆積(CVD)を用いて炭素/炭素(C/C)複合基板上にSiCコーティングを生成している。メチルトリクロロシラン(MTS,CH3SiCl3)‐H2‐Arガス系が化学反応に用いられている。多様な堆積温度で生成されたSiCコーティングの全てのX線回折パターンは、強い(220)反射を有し、これは、(111)配向についてのみの特定の優先的な配向を示している。十分発達したファセット状の構造が1200℃で生成されたコーティングについて得られていると述べられてはいるが、SEM像は全体的に結晶表面の高い不均一性を示している。筆者はその機械的特性も調べていて、(111)テクスチャが、機械的特性を決めるのに重要な役割を果たし、粒度と、結晶化度と、積層欠陥密度はあまり重要ではないと結論付けている。硬度の最高値(41±2GPa)は、1200℃で生成されたコーティングから観測されている。
【0008】
非特許文献5には、多数のSiCコーティングが記載されていて、各コーティングは異なる条件でMTSから形成されている。低い堆積温度で堆積させたコーティングの多くでは、優先配向の面(三指数)が(111)と示されている。1400℃の堆積温度のラン71で六角形の断面の結晶が偶然得られている。
【0009】
非特許文献6には、グラファイト上のMTSとH2とからのSiCコーティングにおいて、気相中の前駆体が部分的に枯渇した場合に、(110)の優先配向を得ることができると示されている。多角形等の特定の構造的な表面特徴を結論付けるにはSiC表面の構造の分解能が不十分である。
【0010】
非特許文献7には、ハロゲン化物のレーザー化学気相堆積による高配向β‐SiCバルク体の調製が記載されている。10kPaの全圧と1573Kの堆積温度で調製したバルク体の一枚の表面SEM像は、略50μmの結晶断面直径の大きな六回対称表面形態を示している。硬度は僅か略33GPaである。最近の別の文献の非特許文献8には、ハイブリッドレーザー化学気相堆積によって調製した微粒子状の3C‐SiC厚膜が記載されており、3C‐SiC厚膜のビッカース微小硬さの値が30GPaから35GPaに改善されている。
【0011】
耐熱性炭化物層の有用な定時性が場合によってはレーザーCVDによって得られているように思われるが、この方法は、より大きな表面を効率的にコーティングするようには適用できない。
【0012】
非特許文献9に開示されているCVD法では、ガス状SiOとトルエン蒸気を反応させて、触媒成分としての酸化鉄の存在下においてSiCを発生させている。この方法は実験的なものであり、その結果物のコーティングには、XRDパターンにおいて明らかなように特定の優先的なSiC結晶配向が与えられていない。更に、この方法は、繊維状の副生成物を生じさせ、Feを含むコーティングをもたらすものであるので、多くの商業的な設定に適していないものとなり得る。
【0013】
効率的なプロセスで生成可能であって、非常に高い機械的安定性とエッチング耐性を与える耐熱性炭化物層に対する要求は満たされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Tu et al., J. Am. Ceram. Soc., 99 [1] 84-88 (2016)
【文献】Han et al., Key Engineering Materials Vol. 616 (2014) pp 37-42
【文献】Tu et al., Materials Research Innovations, 2015, 19, 397-402
【文献】Long et al., International Journal of Applied Ceramic Technology, Vol. 10, No. 1, p. 11-19 (2013)
【文献】Chin et al., Thin Solid Films, 40 (1977) 57-72
【文献】Kim et al., Thin Solid Films 266 (1995) 192-197
【文献】Cheng et al., Journal of the European Ceramic Society 37 (2017) 509-515
【文献】Lai et al., Journal of the American Ceramic society, 2019, 1-11
【文献】Murakawa et al., Journal of the Ceramic Society of Japan 125 (2017) 85-87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本開示は、上述の問題のうち一つ以上に対処することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第一態様では、本開示は、炭化ケイ素結晶を備える層を調製するための化学気相堆積(CVD)法に関する。層の少なくとも一部は、ケイ素源と芳香族炭素源とを含むガス混合物から形成される。ガス混合物のC/Siのモル比は略0.85~略1.45であり、より具体的には略0.9~略1.3であり、特に略1.0~略1.2である。
【0017】
一部実施形態では、芳香族炭素源はC6~C30の芳香族化合物であり得る。一部実施形態では、芳香族化合物は、ベンゼン、C1~C6のアルキルベンゼン、C1~C6のジアルキルベンゼン、C1~C6のトリアルキルベンゼン、C1~C6のテトラアルキルベンゼン、ビフェニル誘導体、ジフェニルメタン誘導体、及び、ナフタレン誘導体から選択された芳香族化合物であり得て、より具体的には、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p‐キシレン、o‐キシレン、m‐キシレン、メシチレン、ジュレン、2‐フェニルヘキサン、ビフェニル、ジフェニルメタン、及び、ナフタレンから選択された化合物であり得て、特にトルエンであり得る。
【0018】
一部実施形態では、反応温度は、略900℃~略1800℃となり得て、より具体的には略1000℃~略1400℃となり得て、特に略1100℃~略1200℃となり得る。
【0019】
一部実施形態では、反応は、減圧下で行われ得て、具体的には略0mbar~略300mbar、より具体的には略50mbar~略200mbar、特に略75mbar~略150mbarで行われ得る。一部実施形態では、ガス混合物は、H2やAr等のキャリアガスを更に備え得る。一部実施形態では、Siに対する不活性キャリアガスのモル比は、略10~略40、より具体的には略15~略35、特に略20~略30である。
【0020】
一部実施形態では、本方法は自立層をもたらし得る。一部実施形態では、本方法は、グラファイト等の炭素質基板、特にグラファイトを備えるウェーハキャリア上に、又は、ケイ素質基板、ウェーハ等のケイ素を備える半導体上に、又は、炭化ケイ素等の耐熱性炭化金属を備える層の上に上記層を堆積させることを備え得る。
【0021】
第二態様では、本開示は、炭化ケイ素結晶を備える層に関する。その層は、本開示の第一態様に記載の方法によって生成されたもの又は生成可能なものであり得る。その層は、層断面のSEM像分析において、その断面の面積の略20%以下が、各像に最も近い層の表面の部分に対して15°よりも大きく傾斜している平行なラインのパターンを有するものである。
【0022】
一部実施形態では、上記層の表面は、正六角錐形状の炭化ケイ素結晶頂部を備え得て、表面の10%未満が、頂部の正六角形の底面の一角から底面の対角までの距離が略25μm以上である大きな正六角錐形状の結晶頂部によって占められている。追加的に又は代替的に、その層は、重なっている二つのピークを有する層のラマンスペクトルによって特徴付けられ得て、それらピークのうち第一ピークは758cm-1~778cm-1の範囲内に最大強度を有し、第二ピークは785cm-1~805cm-1の範囲内に最大強度を有し、第一ピークの第一面積を第二ピークの第二面積で割ることによって計算される面積比は略0.05以上である。
【0023】
一部実施形態では、上記層の表面の10%以上の部分が、正六角錐形状の頂部によって覆われ得る。
【0024】
一部実施形態では、上記層は、配向クオリティQが略0.90以上、具体的には略0.95以上、より具体的には0.97以上、特に略0.99以上となるような炭化ケイ素結晶配向の分布を有し得て、その配向クオリティQは、以下の式に従って波長1.5406ÅでのCuKα線で検出されるX線ディフラクトグラムの最大ピーク強度から計算される:
Q=(I111+I222+I333/511)/(I111+I200+I220+I311+I222+I400+I331+I420+I333/511+I422)
式中、
I111は、34.6°~36.6°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I200は、40.4°~42.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I220は、59.0°~61.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I311は、70.8°~72.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I222は、74.5°~76.5°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I400は、89.0°~91.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I331は、99.8°~101.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I420は、103.4°~105.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I333/511は、132.4°~134.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I422は、119.0°~121.0°の範囲内の2θでの最大強度である。
【0025】
一部実施形態では、上記層の表面は、略0.2μm~略25μm、より具体的には略0.4μm~略10μm、特に略0.6μm~略5μmの範囲内の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)を有し得る。
【0026】
一部実施形態では、上記層の表面硬度は、上記層の断面硬度よりも略0.5%以上高く、より具体的には略1%以上高く、特に略2%以上高い。
【0027】
一部実施形態では、上記層の一表面のISO4287に準拠した平均粗さRaは、略0.01nm~略100nm、より具体的には略0.2nm~略50nm、特に略0.4nm~略25nmの範囲内であり得る(ナノスケール粗さ)。追加的に又は代替的に、層の一表面のISO4287に準拠した平均粗さRaは、略100nm~略10μm、より具体的には略200nm~略8μm、特に略300nm~略6μmの範囲内であり得る(マイクロスケール粗さ)。
【0028】
一部実施形態では、上記層の厚さは、略0.5μm以上、より具体的には略1μm以上、特に略10μm以上となり得る。
【0029】
本開示の第三態様では、炭化ケイ素結晶を備える層が提供され、炭化ケイ素結晶配向の分布は、配向クオリティQが略0.90以上、具体的には略0.95以上、より具体的には略0.97以上、特に略0.99以上となるようなものであり、その配向クオリティQは、以下の式に従って波長1.5406ÅでのCuKα線で検出されるX線ディフラクトグラムの最大ピーク強度から計算される:
Q=(I111+I222+I333/511)/(I111+I200+I220+I311+I222+I400+I331+I420+I333/511+I422)
式中、
I111は、34.6°~36.6°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I200は、40.4°~42.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I220は、59.0°~61.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I311は、70.8°~72.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I222は、74.5°~76.5°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I400は、89.0°~91.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I331は、99.8°~101.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I420は、103.4°~105.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I333/511は、132.4°~134.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I422は、119.0°~121.0°の範囲内の2θでの最大強度である。
【0030】
一部実施形態では、その層には、本開示の第二態様で説明したような特徴が与えられ得る。
【0031】
第四態様では、本開示は、高温応用のためのデバイス、特にウェーハキャリアに関する。デバイスは、本開示の第二態様又は第三態様に係る層を備える。層はデバイスの表面上に設けられる。
【0032】
第五態様では、本開示は、半導体を支持するための本開示の第二態様又は第三態様に係る層の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本開示の多様な層の上面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【
図3】
図1に示される層のX線ディフラクトグラム(低強度ピークの視認性を向上させるために対数スケールの強度)を示す。
【
図5】
図5A、
図5Bは、本開示の多様な層の上面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【
図6】本開示の多様な層の上面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【
図7】本開示のCVDコーティング法の持続時間の関数として層厚成長を示す。
【
図8】左図は本開示の多様な層の上面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、右図は断面SEM像を示す。
【
図9】ナノインデンテーションによって測定された硬度を示す。
【
図10】断面SEM像中の平行ラインパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
立方晶ポリタイプの炭化ケイ素(3C‐SiC)を備えるコーティングには、高い硬度と強度、良好な熱衝撃耐性と腐食耐性が与えられる。驚くべきことに、本発明者は、芳香族炭素源を用いる最適化されたCVDコーティング法を用いることによって、(多結晶)炭化ケイ素コーティングの機械的特性及び化学的特性が改善可能であることを発見した。本方法は、大型のSiC堆積物を生成可能であり、大規模生産に適している。上述の非特許文献9で報告されている良好ではない結果とは異なり、驚くべきことに、本発明者は、反応条件を最適化することで、極めて均一で{111}配向の炭化ケイ素結晶を多様な基板上に大規模で堆積させることに成功した。その炭化ケイ素結晶の均一性と非常に高い{111}配向性に起因して、コーティングに優れた機械的特性及び化学的特性が与えられる。
【0035】
第一態様では、本開示は、炭化ケイ素結晶を備える層を調製するための化学気相堆積(CVD)法に関する。その層の少なくとも一部は、ケイ素源と芳香族炭素源とを含有するガス混合物から形成される。
【0036】
そのガス混合物のC/Siモル比は、略0.85~略1.45、より具体的には略0.9~略1.3、特に略1.0~略1.2である。モル比とは、反応室内に存在するガス混合物のケイ素原子の総数(モル数、又はmol/l単位)に対する炭素原子の総数(モル数、又はmol/l単位)を意味するものである。ガス混合物は、予め混合されたものであるか、反応室に個別に独立して供給されるものであり得ることを理解されたい。
【0037】
一部実施形態では、ガスが更にハロゲン源を備えることが有利となり得る。適切なハロゲン源は当該分野において周知であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子を含み得る。具体的な例として、塩化水素と臭化水素が挙げられる。
【0038】
一部実施形態では、ケイ素源は、Si‐X結合を含み得て、Xは、水素原子、ヒドロカルビル残留物(C1~C12のヒドロカルビル残留物等)、ハロゲン原子(塩素原子や臭素原子等)、又はこれらの混合物である。特に、ケイ素源は、一種以上のC1~C4のヒドロカルビル残留物(メチルやエチル等)、一種以上のハロゲン(塩素等)、又はこれらの混合物を備え得る。
【0039】
一部実施形態では、ケイ素源の少なくとも一部と、ハロゲン源の少なくとも一部とが、ガスの同じ成分の部分となり、例えば、ケイ素源がSi‐X結合を含む場合、Xがハロゲン原子となることが有利となり得る。
【0040】
一部実施形態では、ケイ素源がSiCl4であることが特に有利となり得る。
【0041】
一部実施形態では、芳香族炭素源は、C6~C30の芳香族化合物であり得る。一部実施形態では、芳香族化合物は、ベンゼン、C1~C6のアルキルベンゼン、C1~C6のジアルキルベンゼン、C1~C6のトリアルキルベンゼン、C1~C6のテトラアルキルベンゼン、ビフェニル誘導体、ジフェニルメタン誘導体、及び、ナフタレン誘導体から選択された芳香族化合物であり得て、より具体的には、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p‐キシレン、o‐キシレン、m‐キシレン、メシチレン、ジュレン、2‐フェニルヘキサン、ビフェニル、ジフェニルメタン、及び、ナフタレンから選択された化合物であり得て、特にトルエンであり得る。
【0042】
一部実施形態では、反応は、減圧下で行われ得て、具体的には略0mbar~略300mbar、より具体的には略50mbar~略200mbar、特に略75mbar~略150mbarで行われ得る。代わりに、CVD圧力は、10mbar~600mbar、より好ましくは25mbar~400mbarの範囲内となり得る。しかしながら、特に高揮発性の反応物質については、減圧下にする必要はないことを理解されたい。従って、一部実施形態では、反応は大気圧下(例えば、略1bar)で行われ得る。
【0043】
一部実施形態では、ガス混合物は、H2やAr等のキャリアガスを更に備え得る。一部実施形態では、Siに対するキャリアガスのモル比は、略10~略40、より具体的には略15~略35、特に略20~略30である。モル比は、上述のように定められ得る。
【0044】
一部実施形態では、反応温度は、略900℃~略1800℃となり得て、より具体的には略1000℃~略1400℃となり得て、特に略1100℃~略1200℃となり得る。一部実施形態では、本発明のCVD法は、熱CVDを含み得る。熱CVDは、プラズマ増強化学気相堆積(PECVD、plasma enhanced chemical vapor deposition)と異なる。熱CVDは、典型的にはPECVDよりもはるかに高い温度を要するが、プラズマ源を要さない。本願において「熱CVD」との用語は、800℃以上、例えば1000℃~1400℃の温度範囲内の温度でのCVDを称する。
【0045】
一部実施形態では、本方法が熱CVDであることが特に有利となり得て、(全)層が800℃以上、例えば1000℃~1400℃の温度範囲内の温度で堆積される。
【0046】
一部実施形態では、本方法は自立層をもたらし得る。自立層は、基板上に層を堆積させて、続いて基板から層を剥がすことによって得られ得る。
【0047】
一部実施形態では、本方法は、グラファイト等の炭素質基板、特にグラファイトを備えるウェーハキャリア上に、又はケイ素質基板、特にウェーハ等のケイ素を備える半導体基板上に、又は炭化ケイ素等の耐熱性炭化金属を備える層上に上記層を堆積させることを備え得る。
【0048】
第二態様では、本開示は、炭化ケイ素結晶を備える層に関する。その層は、本開示の第一態様に記載の方法によって生成されたもの又は生成可能なものとなり得る。
【0049】
その層は、層断面のSEM像分析において、その断面の面積の略20%以下が、各像に最も近い(closest to the respective image)層の表面の部分に対して15°よりも大きく傾斜した平行なラインのパターンを有するものである。この特徴は、CVDコーティング法に関して理解されるものであり、高配向の{111}SiC堆積を表し、SiCが{111}配向で優先的に堆積したこと、つまり、断面SEM像において、CVD法で被覆された表面に平行又は実質的に平行に見えるライン(成長ライン、柱状粒、又は双晶軸)を有することを意味する。つまり、この特徴は、層断面のSEM像分析において、分析される断面が、その断面の面積の80%以上が、各像に最も近い層表面の部分に対して15°未満で傾斜した平行なラインのパターンを有することを特徴とすることを意味する。このような断面の準備と分析は、当該分野において十分に確立されているものである。例えば、その特徴は以下のように決定され得る:層表面の凹凸を無視し、つまり、表面の各部分に平行な直線と、パターンの平行ラインに平行な他の直線との間の角度を測定する。平坦ではなくて縁を有する層の場合には、縁でのSEM像分析は行われない。これは、複数の断面SEM像を分析することによって簡単に決定可能である。断面SEM像の一例が
図10に示されている。その断面は、異なる複数の結晶部分を含む。各結晶部分は平行ラインの特徴的なパターンを有する。平行ラインは、炭化ケイ素結晶内の双晶面によって生じると考えられる。各結晶部分において、ラインは、層表面に対して所定の角度で傾斜している。より具体的には、断面分析は、炭化ケイ素層の表面に垂直に切断された断面を準備すること、層表面に対する縁も含んでいる略1000μm
2以上の断面積のSEM像を得ること、SEM像の画像分析を行い、層表面に対して撮像された縁に実質的に平行なラインを定めること、撮像された断面の複数の箇所を選択すること(例えば、撮像された断面にわたって分布する10か所のランダムな選択)、各箇所について、その箇所の画像分析を行い、層表面に対して撮像された縁に実質的に平行であるとして定められるラインに対して15°未満で傾斜している平行ラインが占める面積を特定すること、各箇所について、画像分析を行い、各箇所の総面積に対するその面積の面積%を求めること、全箇所に対する平均面積%を計算することによって層表面の部分に対して15°未満で傾斜している平行ラインのパターンを有する断面の面積を求めることによって、行われ得る。
【0050】
一部実施形態では、層断面のSEM像分析において、断面の面積の18%以下、具体的には16%以下、より具体的には14%以下、特に12%以下が、各像に最も近い層の表面の部分に対して15°よりも大きく傾斜した平行ラインのパターンを有することが有利となり得る。
【0051】
炭化ケイ素結晶を備える層は、更に以下の特性を有することで特徴付けられ得る:
【0052】
一部実施形態では、層表面は、正六角錐形状の炭化ケイ素結晶頂部を含み、表面の10%未満が、頂部の正六角形底面の一角から底面の対角までの距離が25μm以上である大きな正六角錐形状の結晶頂部で占められること(表面特性);及び、又は、
【0053】
層は炭化ケイ素結晶を備え、その層のラマンスペクトルは、重なっている二つのピークを有し、それらピークのうち第一ピークは758cm-1~778cm-1の範囲内に最大強度を有し、第二ピークは785cm-1~805cm-1の範囲内に最大強度を有し、第一ピークの第一面積を第二ピークの第二面積で割ることによって計算される面積比は、0.05以上、具体的には0.06以上、特に0.08以上、例えば、0.12以上であること(ラマンスペクトル特性)。面積比は、1.50以下、より具体的には1.30以下、特に1.10以下、例えば、0.90以下であるか、又は0.60以下である。これら下限と上限で面積比範囲を定めることができる。0.05~1.50、0.12~1.50、0.05~0.60、0.12~0.60が、具体的な下限と上限に基づいた具体的な範囲のいくつかの例である。
【0054】
本開示の層は、上述の「表面特性」、「断面特性」、「ラマンスペクトル特性」と略称される三つの特性によって説明され得る。しかしながら、これらの特性は同じコーティングを相互可換に定めるものではなく、つまり、「ラマンスペクトル特性」によって特徴付けられるコーティングが、必ずしも「表面特性」も示す訳ではないことを理解されたい。同様に、「ラマン特性」や「表面特性」の存在は、必ずしも「断面特性」も実現されていることを意味する訳ではない。他の例として、表面を研磨することで、「断面特性」を維持しつつ、「表面特性」を無くすことができる。
【0055】
以下で与えられる例から、本開示の方法によって作製される層が、「表面特性」と「断面特性」と「ラマンスペクトル特性」の三つ全ての特性を有することができることが理解される。
【0056】
また、本開示は、耐熱性炭化物結晶を備える層にも関する。耐熱性炭化物は、一般的な表面コーティングや化学気相堆積(CVD)の技術分野の当業者には周知である。耐熱性炭化物は、非炭素炭化物成分と炭素とを含む。例えば、炭化ケイ素の場合、非炭素炭化物成分はケイ素である。以下の更なる説明から明らかなように、本開示は特定の耐熱性炭化物に限定されるものではなく、炭化ケイ素は重要ではあるが単に一例である。そこで、以下で言及される耐熱性炭化物は、特に炭化ケイ素であるが、炭化ケイ素のみについて言及するものではない。
【0057】
表面特性に関して述べたように、層表面は、正六角錐形状の耐熱性炭化物結晶頂部を有する。「正六角錐」との用語は当該分野における一般的な意味を有し、正六角形の底面を有する角錐のことを称し、つまり、六つの角度の大きさが全て等しく、六つの辺が全て同じ長さを有する六角形の底面を有する角錐のことを称する。耐熱性炭化物結晶の頂部は、表面のSEM像において見える結晶部分である。結晶の全高は、一般的には、表面に露出している角錐頂部の高さよりもはるかに高い。多くの結晶は、表面に対してほぼ又は完全に直交して配向していて、SEM像に見える結晶の頂部は、本開示の層の「表面特性」を記述するために用いられる六角錐の形状と非常に良く合っている。一部実施形態では、六角錐の形状はファセット化され得る。
【0058】
表面特性に関して更に述べられているように、表面の10%未満が、頂部の正六角形の底面の一角から底面の対角までの距離が25μm以上である大きな正六角錐の形状の結晶頂部によって占められる。このような大きな結晶頂部で占められる表面の割合は、複数の表面SEM像を分析することによって極めて簡単に求めることができるものである。底面の一角から底面の対角までの距離が25μm以上である正六角形の底面を完全に占める単一の結晶頂部によって覆われる表面の各部分が、大きな結晶頂部によって占められる特定の表面部分を成す。表面の他の部分は、大きな結晶頂部によって占められた表面とはみなされない。
【0059】
表面の特定のパーセンテージが大きな結晶頂部によって占められているのかを求める際には、表面の凹凸(角錐の結晶頂部の傾斜によって生じる表面の凹凸等)は考慮しない。その表面のパーセンテージを求める際には、表面が完璧に平坦であるとみなす。従って、上面SEM像を分析して、所定のパーセンテージが検討中の特定の層に合っているのかを求めることができる。
【0060】
本願において「六角」(hexagonal)との用語は、結晶内での原子格子の積み重ねのこと(六方晶)を称するものではない。本願において「六角」との用語は、SEM像に見える結晶や結晶部分の外形のことを称するものであって、結晶の種類を称するものではない。
【0061】
一部実施形態では、表面の9%未満、より具体的には8%未満、特に7%未満、例えば6%未満が、頂部の正六角形の底面の一角から底面の対角までの距離が25μm以上である大きな正六角錐形状の結晶頂部によって占められる。
【0062】
ラマンスペクトル特性は、層のラマンスペクトル中の重なっている二つのピークによって本開示の層を定める。本願においてラマンスペクトルは、波長532nmの波長と10mWのパワーで動作するArレーザーを層の露出表面に垂直照射することによって得られる。以下で説明するように、両ピークの面積は、略730cm-1~略840cm-1の範囲内の強度を近似形状の二本のラインでフィッティングすることによって(例えば、ガウス関数とローレンツ関数の線形結合)、導出可能である。それらピークのうち第一ピークは、典型的には763cm-1~774cm-1、より具体的には765cm-1~772cm-1、例えば767cm-1~770cm-1の範囲内に最大強度を有し、第二ピークは、典型的には790cm-1~801cm-1、より具体的には792cm-1~799cm-1、例えば794cm-1~797cm-1の範囲内に最大強度を有する。
【0063】
一部実施形態では、表面の10%以上、具体的には15%以上、より具体的には20%以上、特に25%以上の部分が、正六角錐形状の頂部によって覆われる。この部分は、頂部や正六角錐の底面のサイズにかかわらず、正六角錐形状の全ての頂部を含む。これは、高い結晶品質と高度な優先配向を表し、硬度を向上させる。理論に縛られるものではないが、エッチング耐性が改善されると考えられる。この部分の増加は、六角形の底面を有する結晶がハニカム状の配置に近づくことの指標となる。理論に縛られるものではないが、このような結晶の規則的な配置は、深いピッチの数を減らし、つまりは腐食傾向を減らすと考えられる。
【0064】
一部実施形態では、本開示の層は、0.2μm~25μm、典型的には0.4μm~20μm、例えば、0.5μm~15μmの範囲内の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)(ISO13382‐1:2012(EN)で定められる)を有する表面を有する。理論に縛られるものではないが、これが有用なエッチング性を与えると考えられる。上述の粒径範囲は、比較的大きな結晶サイズを表す。多くのより小さな結晶は、長い粒界に起因して素早くエッチングされ、少数の大きな結晶が、大きくて場合によっては楔状のギャップを促進し、そのギャップが、相当量のエッチングガスが層深くに侵入することを促進する。一部実施形態では、本開示の層は、1μm~20μm、より具体的には1.2μm~15μm、特に2~10μmの範囲内の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)(ISO13382‐1:2012(EN)で定められる)を有する表面を有する。
【0065】
一部実施形態では、耐熱性炭化物は、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タングステン、炭化ホウ素、炭化タンタルニオブ、炭化タンタルハフニウム、炭化チタン、及び、炭化ニオブハフニウムから選択され、特に、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化チタン、及び、炭化ハフニウムから選択される。上述のように、耐熱性炭化物が炭化ケイ素であることが特に有利となり得る。耐熱性炭化物結晶は、特に炭化ケイ素結晶である。
【0066】
上述のように、特定の文脈は別にして、本願で用いられる「耐熱性炭化物」との用語は、特に「炭化ケイ素」のことを称する。本願では特に炭化ケイ素について具体的な効果が示されているが、CVDにおける種々の耐熱性炭化物の成長は以下の例で示すように同一又は同様の物理的原理に従うものであるので、他の耐熱性炭化物についても同一又は同様の効果が観測されるというのが合理的である。
【0067】
一部実施形態では、波長1.5406ÅのCuKα線で検出される層のX線ディフラクトグラムにおいて最大ピーク強度I220は、最大ピーク強度I110の10%以下、具体的には8%以下、より具体的には7%以下、更に具体的には6%以下、特に5%以下である。これは、高い結晶品質と強力な結晶配向をもたらす。(111)面は、立方晶系における最密充填面である。この面が表面に平行に配向することで、高い機械的安定性がもたらされ、腐食耐性が改善される。理論に縛られるものではないが、本発明者は、これが、近接の結晶に対して厳密にフィットする結晶の数を増やすと考えている。結果として、深いピッチの確率が低くなり、腐食が遅くなり得る。
【0068】
一部実施形態では、本開示に係る層は、以下の式に従って波長1.5406ÅのCuKα線で検出されるX線ディフラクトグラムの最大ピーク強度から計算される配向クオリティQが、0.60以上、具体的には0.80以上、より具体的には0.90以上、更に具体的には0.95以上、特に0.99以上となるような炭化ケイ素結晶配向の分布を有し得る。これが層の硬度と腐食耐性に更に寄与すると考えられる:
Q=(I111+I222+I333/511)/(I111+I200+I220+I311+I222+I400+I331+I420+I333/511+I422)
式中、
I111は、34.6°~36.6°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I200は、40.4°~42.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I220は、59.0°~61.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I311は、70.8°~72.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I222は、74.5°~76.5°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I400は、89.0°~91.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I331は、99.8°~101.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I420は、103.4°~105.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I333/511は、132.4°~134.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I422は、119.0°~121.0°の範囲内の2θでの最大強度である。
【0069】
一部実施形態では、I200、I220、I311、I400、I331、I420、I422の各強度は、ランダムな分布の炭化ケイ素結晶配向において予測される対応の参考強度I200R、I220R、I311R、I400R、I331R、I420R、I422Rの80%以下、具体的には60%以下、より具体的には40%以下、特に30%以下である。
【0070】
一部実施形態では、層は、(波長1.5406ÅのCuKα線での2θにおいて)略0.4°未満、より具体的には略0.3°未満、特に0.2°未満の半値全幅(FWHM、full width at half maximum)値を有するピーク強度I111を更に特徴とし得る。この特徴は、大きな結晶の成長を促進する本開示に係る熱CVD法によって得ることができるような比較的大きな結晶を表す。
【0071】
一部実施形態では、本開示の層は、(波長1.5406ÅのCuKα線での2θにおいて)略0.4°未満、より具体的には略0.3°未満、特に0.2°未満の半値全幅(FWHM)値を有するピーク強度I111と、1μm~20μm、より具体的には1.2μm~15μm、特に2~10μmの範囲内の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)(ISO13382‐1:2012(EN)で定められる)を有する表面とを特徴とすることが特に有利となり得る。
【0072】
一部実施形態では、本開示の層は、34.0GPa以上、好ましくは34.5GPa以上、例えば35.0GPa以上の硬度を有する。硬度は、層表面を研磨した後にナノインデンテーションによって層表面に直交して測定される。硬度が測定される研磨表面は、本開示のCVD法中に徐々に成長する結晶の端によって形成される表面である。研磨は、結晶の頂部が平坦になるようにして行われる。その異常に高い硬度が、部品の取り扱いと使用中の機械的損傷を減らすので、本開示の層で被覆された部品の寿命を向上させる。
【0073】
一部実施形態では、層の表面硬度は、層の断面硬度よりも0.5%以上、具体的には1%以上、より具体的には1.5%、特に2.0%以上高い。断面硬度は、層の断面を研磨した後にナノインデンテーションによって測定される。断面は、層の一方又は両方の表面に直交する。理論に縛られるものではないが、頂部からの異常な硬度は、高度に一貫した配向に起因するものであると考えられる。
【0074】
層は、デバイスの部品の表面上の層、又は自立層となり得る。自立層は基板を含まない。典型的な自立層の両主面はいずれも基板に取り付けられているものではない。
【0075】
更に、本開示は、高温応用のためのデバイスにも関し、そのデバイスは、デバイスの材料の表面上に本開示の層を備える。上述の高温とは、典型的には、200℃~4000℃、具体的には300℃~3000℃、特に400℃~2500℃の範囲内の温度のことを称する。
【0076】
デバイスの材料は特に限定されない。上記高温応用の高温に適した全ての材料が、デバイスの材料として適している。一部実施形態では、デバイスの材料は、グラファイト、ケイ素単体、耐熱性耐火物、例えば炭化ケイ素を含む。デバイスの材料は、例えば、グラファイト材、炭素繊維強化材、ケイ素単体であり得る。ケイ素単体は、特に、ウェーハ状であり、例えば、半導体業界で使用されているようなものであり得る。その材料は、半導体応用のための支持体の形状を有し得る。当該分野では周知のように、半導体応用のための支持体は、その支持体上で処理されるケイ素系ウェーハ等の半導体基板を配置するための一つ以上の凹部を有するディスクの形状を有することが多く、例えば、そのような支持体がウェーハ上に層を成長させるために通常用いられるエピタキシー反応器やMOCVD(有機金属化学気相堆積)反応器内や、集束リングやRTP(急速熱処理)反応器(つまり、RTPリング)等のプラズマエッチング反応器内で用いられる。しかしながら、デバイスは、他の高温反応器の構成要素や、高温炉の構成要素であってもよい。その構成要素は、例えば、加熱器、チャージングラックやチャージングラック部品(例えば、ストリップ)、バッフル、ウェーハキャリア以外の他のCVD室の構成要素、例えば、CVD室のリフトピン、天井、流入部、流出部等であり得る。
【0077】
上記層は、多層のうちの単層であってもよい。多層は、少なくとも一つの他の層を備える。一つ以上の他の層は、各々、例えば、他の耐熱性炭化物層や炭素系層であり得る。多層は、自立多層であり得る。多層は、デバイスの表面上に堆積されたコーティングでもあり得る。
【0078】
一部実施形態では、上記層は、本開示に係る層を一つ以上備え、一つ以上の追加の炭化ケイ素層を備える多層であり得る。
【0079】
層の厚さは概して0.5μm以上である。一部実施形態では、層が、デバイス(例えば本開示のデバイス)の層である場合、その層の厚さは、1μm~1mmの範囲内である。これが、合理的な堆積時間、ひいては合理的なコストで、その層で被覆された材料の信頼性のある保護を保証する。一部実施形態では、層が自立層、つまり本開示の自立層である場合、層の厚さは100μm~100mmの範囲内である。
【0080】
代替実施形態では、層の厚さは、略0.5μm以上、より具体的には略1μm以上、特に略10μm以上であり得る。一部実施形態では、層の厚さが50μm以上であることが特に有利になり得る。
【0081】
本開示が更に関する耐熱性炭化物結晶を備える層、好ましくは、本開示の層は、自立層であり、その層の一表面の平均粗さRa(ISO4287で定められる)は:
0.01nm~100nm、具体的には0.02nm~50nm、特に0.04nm~25nm、例えば、0.08nm~15nmの範囲内(ナノスケール粗さ);
0.1nm~100nm、具体的には0.2nm~50nm、特に0.4nm~25nm、例えば0.8nm~15nmの範囲内(ナノスケール粗さ);又は
100nm~10μm、具体的には200nm~8μm、特に300nm~6μm、例えば400nm~5μmの範囲内(マイクロスケール粗さ)である。
【0082】
ナノスケール粗さは原子間力顕微鏡法によって測定される。マイクロスケール粗さはプロフィロメータ(表面形状測定)法によって測定される。両測定法は当該分野において周知である。
【0083】
層の一方の表面がナノスケール粗さを有する本開示の層は、本開示の方法において、単結晶基板、特に単結晶ケイ素、例えばケイ素ウェーハを用い、単結晶基板上に層を堆積させ、層から基板を除去することによって形成可能である。層からの基板の除去は、層からの基板の熱的除去、例えば、ケイ素の溶融を含み得る。本発明者は、単結晶ケイ素表面のナノスケール粗さが上記層の表面に引き継がれるものであることを発見した。
【0084】
層の一方の表面がマイクロスケール粗さを有する本開示の層は、本開示の方法において、グラファイト基板、特にアイソスタティックグラファイト基板を用い、グラファイト基板上に層を堆積させて、層から基板を除去することによって形成可能である。層からの基板の除去は、グラファイト基板の機械的劣化や酸化劣化を含み得る。本発明者は、グラファイト粒に起因しているグラファイト表面のマイクロスケール粗さが、上記層の表面に引き継がれるものであることを発見した。
【0085】
ナノスケール粗さやマイクロスケール粗さは、層の堆積後に基板に接触している層の表面において得られる。自立層のこの表面が基板の粗さに整合するものである一方で、その反対側の表面は、上述の「表面特性」や、標準的な研磨(例えば、CMP)によって得られる0.01nm以上の粗さを有し得る。
【0086】
本開示の好ましい自立層は、本願で定められるナノスケール粗さ又はマイクロスケール粗さ、好ましくは本願で定められるナノスケール粗さを有する一つの表面を有し、更に、ナノスケール粗さを有する表面の反対側の表面において本願で定められる「表面特性」、及び/又は、本願で定められる「断面特性」、及び/又は、本願で定められる「ラマンスペクトル特性」を有する。
【0087】
更に、本開示は、半導体を支持するための、本開示の層、デバイス、ウェーハキャリア、本開示の方法に従って作成された層、デバイス、ウェーハキャリアの使用に関する。自立層について、そのような自立層の具体的な一実施形態は、半導体を堆積させるためのウェーハである。
【0088】
また、上述の開示に従って、本開示は、第三態様において、炭化ケイ素結晶配向の分布が、配向クオリティQが、略0.90以上、具体的には略0.95以上、より具体的には略0.97以上、特に略0.99以上となるような炭化ケイ素結晶を備える層を提供し、その配向クオリティQは、以下の式に従って波長1.5406ÅのCuKα線で検出されるX線ディフラクトグラムの最大ピーク強度から計算される:
Q=(I111+I222+I333/511)/(I111+I200+I220+I311+I222+I400+I331+I420+I333/511+I422)
式中、
I111は、34.6°~36.6°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I200は、40.4°~42.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I220は、59.0°~61.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I311は、70.8°~72.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I222は、74.5°~76.5°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I400は、89.0°~91.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I331は、99.8°~101.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I420は、103.4°~105.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I333/511は、132.4°~134.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I422は、119.0°~121.0°の範囲内の2θでの最大強度である。
【0089】
一部実施形態では、その層には、本開示の第二態様に関して記載の特徴が与えられ得る。
【0090】
第四態様において、本開示は、高温応用のためのデバイス、特にウェーハキャリアに関する。そのデバイスは、本開示の第二態様又は第三態様に係る層を備える。その層はデバイスの表面上に設けられる。
【0091】
第五態様において、本開示は、半導体を支持するための本開示の第二態様又は第三態様に係る層の使用に関する。
【0092】
以下、本開示を非限定的な図面及び例によってより詳細に説明する。
【0093】
例1‐多様な温度でのグラファイト上の成長(サンプル1及びサンプル2)
CVD容器内でアイソスタティックグラファイト基板を炭化ケイ素で被覆した。CVD反応器は、誘導加熱SiC被覆グラファイトサセプタがグラファイトフェルト(SGLカーボン社のMFA断熱材)によって断熱され、石英管内に配置されたものであった。キャリアガスH2、前駆体の四塩化ケイ素、トルエンを供給するガス供給システムに反応器の流入側が接続された。反応器の流出口は、絞り弁を介して真空ポンプとスクラビングシステムに接続された。
【0094】
二つのグラファイト基板をそれぞれ本開示の炭化ケイ素結晶を備える一つの層で被覆した。表1にまとめられているCVD成長条件下において層を形成した。
【0095】
【0096】
被覆サンプルの表面は、六角形の良好にファセット化されたSiC結晶で覆われていた。正六角錐形状の炭化ケイ素結晶頂部が、
図1のサンプル1(左図)とサンプル2(右図)の両方の層に見て取ることができる。結晶頂部がむしろ小さいので、一目で見て取れるように、表面の10%未満が、頂部の六角形の底面の一角から底面の対角までの距離が25μm以上である大きな正六角錐形状の結晶頂部で占められている。この形態は表面の大部分に存在していて、少なくともSEMで調べられた部分にわたっては均一である。結晶中心の暗い点は、帯電効果によるアーティファクトであり、SEMで調べる前に導電性金属でサンプルがスパッタコーティングされる場合には存在しない。1100℃で調製されたサンプル1の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)(ISO13383‐1:2012(EN)で定められる)は、1.2μmであった。1200℃で調製されたサンプル2の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)は、2.6μmであった。
【0097】
断面SEM像が、グラファイト表面から成長している粒の柱状構造を明らかにしている(
図2)。表面に平行なラインは、SiC結晶内の双晶面に因るものである。これら双晶面は、(111)結晶面に平行な場合が多いと考えられる。
【0098】
図3は、サンプル1(上図)とサンプル2(下図)のX線ディフラクトグラムを示す。強度は、低強度ピークの視認性を向上させるために対数スケールでプロットされている。正方形で示されるピークはβ‐SiCに因るものであり、円で示されるピークはグラファイトに因るものである。サンプル1とサンプル2のX線ディフラクトグラム(3)は三つの強力なピークのみを示す。これらピークは、横軸で示される35.6°、75.2°、略133°の2θ値に位置し、β‐SiC結晶の(111)面、(222)面、(333)/(511)面に割り当てられる。
【0099】
β‐SiCの(333)面と(511)面の両方が132.4°から134.4°に及ぶ2θの信号を生じさせて、区別不能であることに留意されたい。そのため、この信号は(333)/(511)と表されている。(111)信号と(222)信号のみが高強度で見て取れるという事実が、第三ピークが(333)面によって主に生じるものであるという結論につながる。これら三つ全ての面は、平行であり、同系列の結晶面に属する。
【0100】
(111)信号が最も強い信号で、(222)信号と(333)/(511)信号は、(111)信号の4%未満である(表2)。(111)面に平行な面によっては生じていない最も強いβ‐SiC XRD信号は、サンプル1については(220)信号(0.13%)であり、サンプル2については(311)信号と(420)信号(0.11%)である。(111)に平行ではない面の極端に低い信号強度は、本開示の層の結晶の強い優先配向を示す。(111)配向の強度は、以下の式に従って、全ての信号の総XRD信号強度に対する(111)+(222)+(333)/(511)面系列の信号の配向クオリティQによって定量化可能である:
Q=(I111+I222+I333/511)/(I111+I200+I220+I311+I222+I400+I331+I420+I333/511+I422)
【0101】
配向クオリティQが1となるのは、(111)信号、(222)信号及び(333)/(511)信号のみが検出される場合、つまり、測定された全ての結晶が、(111)面が基板表面に平行になるように完全に配向している場合である。配向クオリティQが0となるのは、(111)系列の信号が検出されない場合、つまり、測定された結晶がいずれも(111)面が基板表面に平行になるように配向していない場合である。ランダムに配向した粉末で予測される配向クオリティQは、予測される信号強度の変動に起因して0.5116である。
【0102】
【0103】
ランダムな粉末の値は、粉末回折ファイル(powder diffraction file,PDFカード)#00‐029‐1129から取られたものである。
【0104】
本願に記載の全ての強度は、最大強度であり、つまり、X線ディフラクトグラムの対応ピークの最高点から導出された強度である。
【0105】
サンプル1とサンプル2をラマン分光で更に特性評価した(
図4Aと
図4B)。横軸の数字は波数(cm
-1単位)であり、縦軸の数字は相対強度である。スペクトルの主な特徴は、β‐SiCの非常に強力なTO信号とLO信号(786cm
-1と963cm
-1)と、それらの二次ピーク(1514cm
-1と1703cm
-1)である。
図4Bから、略786cm
-1に最高値を有する信号が、二つの重なっているピークに起因するものであることが見て取れる。1612cm
-1付近のマイナーなピークは、グラファイト質炭素に起因するものであり得る。サンプル1については、196cm
-1と462cm
-1にLA信号とTA信号が見て取れ、小さな粒径を示している。
【0106】
図4Bは、730cm
-1~840cm
-1の範囲内に二つの重なっているピークを有するサンプル1(左図)とサンプル2(右図)の層のラマンスペクトルを示す。両サンプルについて、重なっているピークを擬フォークト曲線(ガウス関数とローレンツ関数の線形結合)でフィッティングした。フィッティングは、特別な背景処理無しで行われた。これで、両ピークのうち第一ピークが768cm
-1に最大強度を有し、第二ピークが795cm
-1~796cm
-1に最大強度を有することが明らかになった。表3に更なる詳細が与えられている。第一ピークの第一面積を第二ピークの第二面積で割ることによって計算された面積比は、サンプル1について0.33であり、サンプル2について0.30であった。
【0107】
【0108】
例2‐多様なC/Si比でのグラファイト上の成長
複数の堆積実験を行い、コーティングに対する炭素前駆体濃度と、結果としてのC/Si気相モル比との影響を調べた。他のパラメータを一定にしたままでトルエンの流れを変化させることによって、C/Siを変化させた(表4において、サンプル2は上記例1からのもの)。
【0109】
【0110】
図1Aと
図5Bは、表4の多様な条件で形成された層で被覆されたグラファイト基板のSEM上面像を示す。サンプル2は、
図5Aの右図に示されている。サンプル4は
図5Bの左図に示されている。
図5Aの左図(比較サンプル3)と
図5Bの右図(比較サンプル5)は、それぞれ炭素モル過剰とケイ素モル過剰の極端な条件で作製された他の層のSEM上面像を示す。サンプル2とサンプル4のみが本開示の特徴的な炭化ケイ素結晶頂部を示している。一方で、炭素とケイ素のいずれかがモル過剰なコーティングは、異なる表面形態を生じさせ、本質的には、正六角錐形状の耐熱性炭化物結晶頂部を有していなかった。
【0111】
XRDピークの強度が表5にまとめられている。比較サンプル3のXRDピーク強度は、サンプル2とサンプル4よりもランダムに配向した粉末にかなり近く、サンプル3の層に強い優先結晶配向が存在しないことを示している。サンプル2とサンプル4は最も強いピークとして(111)ピークを有し、(222)ピークと(333)/(511)ピークが続き、コーティングの強い(111)優先配向を示している。他の系列の面からの最も強力なピークは、サンプル2について0.11%の(311)ピークと(420)ピークであり、サンプル4について0.80%の(311)ピークである。比較サンプル5では、(220)ピークが最も強力であり、17.58%の(111)ピークが続き、コーティングの強い(220)配向を示している。本開示の層の形成は、極端なC/Siモル比では促進されない一方で、本開示の層が、これら両極端のC/Siモル比の間の範囲内において容易に形成されるように見られる。その範囲は、1.0~1.2のC/Siモル比を含む。
【0112】
【0113】
例3‐多様な堆積時間でのグラファイト上の成長
本開示の層の厚さは、堆積時間を変更することによって調節可能である。例1のサンプル2(堆積時間30分間)に加えて、サンプル6は、僅か5分間に短縮した堆積を伴い、サンプル7は、60分間に延長した堆積を伴っていた(表6)。残りのプロセス条件は変更しないままであった。
【0114】
【0115】
図7は、サンプル2、サンプル6、サンプル7の平均層厚さ(縦軸、μm単位)を堆積時間(横軸、分単位)の関数として示す。サンプル6とサンプル7の表面は、正六角錐形状の結晶頂部を含む。粒径とコーティング厚さ(図7)の両方が、堆積時間の増加に伴い、サンプル6からサンプル2、サンプル2からサンプル7と増加している。これは、コーティングが厚く成長しても優先配向が変化せず、基板の表面効果ではないことを実証している。実際に、表7のXRDデータは、厚さが増加するにつれて、結晶がより(111)方向に配向することを証明していて、その優先配向コーティングが、コーティングプロセス自体の結果であることを示している。
【0116】
【0117】
例4‐ケイ素ウェーハ上の成長
本願で実証されているCVD法は、多結晶等方性基板(アイソスタティックグラファイト等)上だけではなくて、単結晶基板(ケイ素ウェーハ等)上にも高(111)配向β‐SiCコーティングを生成することができる。本開示の(hkl)配向とは、(hkl)面(及びその平行結晶面)が主に層表面に平行に配向していることを意味する。基板と層の二つの結晶構造が十分同様なものである場合(エピタキシャル成長)、単結晶基板は、成長している層がまさに基板の配向のような結晶配向に従うように成長に影響し得る。(100)配向ケイ素ウェーハの欠片を、例1のサンプル2と同様の条件下でβ‐SiCで被覆した(サンプル8)。この場合も、表面のコーティングは、六角パターンを示す結晶で構成されている(
図8)。その断面は、高配向結晶の柱状で十分秩序的な成長を明らかにしている。また、XRDが、コーティングが、0.9993のQで高度に(111)配向していることを示している。
【0118】
【0119】
例5‐ナノインデンテーション測定
研磨された表面に対してナノインデンテーションによって硬度を測定したが、硬度測定に対する基板の影響を避けるため、コーティンが厚さ100μm以上となるようにした。ナノインデンテーション測定を、結晶配向(比Qによって定量化される)が異なる本開示の多様な耐熱性炭化物層に対して行った。全てのサンプルについて、測定は、研磨された断面に対して行われ、更に、厚さ100μmを超えるコーティングについては、研磨された上面に対しても測定を行った。
【0120】
図9には、ナノインデンテーション測定(縦軸、GPa単位)の結果が、調査対象のサンプルの配向クオリティQ(横軸)に対してプロットされている。白四角は、研磨された上面に対するナノインデンテーション測定の結果を示す。黒丸は、研磨された断面に対するナノインデンテーション測定の結果を示す。
【0121】
驚くべきことに、耐熱性炭化物層において、SiC結晶が、本願記載の「表面特性」、「断面特性」、「ラマンスペクトル特性」のうち一つ以上を有し、また、上面測定時に非常に高い硬度を有することがわかった。更に驚くべきことに、上面測定の硬度が、Qの増加と共に、略35GPaから略38GPaに増加した。断面測定の硬度は逆の傾向に従い、Qの増加と共に減少した。こうした相反する傾向は、強力な優先的結晶配向の結果であると考えられる。断面に対して硬度を測定する場合、優先配向面に対して90°の角度で力が実際に加えられる。より耐性のある(111)面が基板に平行に配向している場合、断面に対して測定される硬度は減少する。この考え方は、原子密度によって更にサポートされる。β‐SiCの(111)面は最も高い原子密度を有し、その面に直交して異常に高い硬度をサポートするが、その(111)面に直交する「面」は、顕著に低い原子密度を有する。この場合の原子密度の低下は、硬度の低下と関連していると考えられる。更に、表面に平行な高い原子密度は、エッチング剤に対して最も耐性があると考えられる。
【0122】
図10は、サンプル2の層の断面のSEM像を示す。
図10の上部の水平線は、層表面に平行である。破線は、その断面の最も強く傾斜した粒の平行ラインと整列して揃っている。水平線と破線との間の角度は12°である。この断面では、断面の面積の略0%が、層表面に対して15°よりも大きく傾斜した平行ラインのパターンを有する。層表面に対して所定の角度を超えて傾斜している断面の面積の正確なパーセンテージを求めるために、当業者であれば複数のSEM像を分析するものである。
【0123】
例6‐高(111)配向SiCを備える多層構造の成長
本開示の層は、多層構造の一部ともなり得る。本例では、3つの高(111)配向層と3つの非(111)配向層とを備える6層コーティングシステムをアイソスタティックグラファイト基板上に堆積させた。これら6層は、炭化水素源の切り替えと、プロセス中のC/Si比の変更によって生成された。
【0124】
【0125】
図11に見て取れるように、層の配向は、表面に平行なラインのパターンによって視認可能であり、堆積プロセス中に変更可能なものである。ラインは、
図11の右図に示される例示的な拡大図において容易に視認可能である。例6のコーティングでは、(基板から数えて)2番目の層、4番目の層、6番目の層が本開示の層であり、1番目の層、3番目の層、5番目の層は(111)方向に配向していない。このような多層構造は、クリーニングプロセスにおけるエッチングピンホールの形成の危険性を減らすことができ、また、高い機械的負荷の下における基板からのコーティングのチッピングによって誘起される損傷を減らすことができる。
【0126】
本願は、更に以下の項の実施形態に関する:
【0127】
実施形態1
耐熱性炭化物結晶を備える層であって、
前記層の表面は正六角錐形状の耐熱性炭化物結晶頂部を備え、前記表面の10%未満が、頂部の正六角形の底面の一角から底面の対角までの距離が25μm以上である大きな正六角錐形状の結晶頂部によって占められている、及び/又は、
前記層の断面のSEM像分析において、断面の面積の20%以下が、各像に最も近い(closest to the respective image)前記層の表面の部分に対して15°よりも大きく傾斜している平行ラインのパターンを有する、及び/又は、
前記耐熱性炭化物結晶が炭化ケイ素結晶であり、前記層のラマンスペクトルが、重なっている二つのピークを有し、前記二つピークのうち第一ピークが758cm-1~778cm-1の範囲内に最大強度を有し、第二ピークが785cm-1~805cm-1の範囲内に最大強度を有し、第一ピークの第一面積を第二ピークの第二面積で割ることによって計算される面積比が0.05以上である、層。
【0128】
実施形態2
前記表面の10%以上の部分が、正六角錐形状の頂部によって覆われている、実施形態1に記載の層。
【0129】
実施形態3
前記表面が、0.2μm~25μmの範囲内の平均粒径(mean linear intercept surface grain size)を有する、実施形態1に記載の層。
【0130】
実施形態4
前記耐熱性炭化物結晶が炭化ケイ素結晶である、実施形態1に記載の層。
【0131】
実施形態5
波長1.5406ÅでのCuKα線で検出される前記層のX線ディフラクトグラムのI220最大ピーク強度がI111最大ピーク強度の10%以下である、実施形態1に記載の層。
【0132】
実施形態6
炭化ケイ素結晶の配向の分布が、配向クオリティQが0.60以上となるようなものであり、該配向クオリティQが、以下の式に従って波長1.5406ÅでのCuKα線で検出されるX線ディフラクトグラムの最大ピーク強度から計算され、
Q=(I111+I222+I333/511)/(I111+I200+I220+I311+I222+I400+I331+I420+I333/511+I422)
式中、
I111は、34.6°~36.6°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I200は、40.4°~42.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I220は、59.0°~61.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I311は、70.8°~72.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I222は、74.5°~76.5°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I400は、89.0°~91.0°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I331は、99.8°~101.8°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I420は、103.4°~105.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I333/511は、132.4°~134.4°の範囲内の2θでの最大強度であり、
I422は、119.0°~121.0°の範囲内の2θでの最大強度である、実施形態1又は4に記載の層。
【0133】
実施形態7
I200、I220、I311、I400、I331、I420、I422の各強度が、ランダムな分布の炭化ケイ素結晶配向において予測される対応の参考強度I200R、I220R、I311R、I400R、I331R、I420R、I422Rの80%以下である、実施形態6に記載の層。
【0134】
実施形態8
前記層の表面硬度が、前記層の断面硬度よりも0.5%以上高い、実施形態1に記載の層。
【0135】
実施形態9
高温応用のためのデバイスであって、該デバイスの材料の表面上に先行するいずれかの実施形態の層を備えるデバイス。
【0136】
実施形態10
前記デバイスの材料がグラファイト、ケイ素単体、又は炭化ケイ素を備える、実施形態9に記載のデバイス。
【0137】
実施形態11
先行するいずれかの実施形態の層を含む又はその層で作製された耐熱性炭化物被覆ウェーハキャリア。
【0138】
実施形態12
実施形態1に記載の層、実施形態9に記載のデバイス、又は実施形態11に記載のウェーハキャリアを調製するためのCVD法であって、
前記層の少なくとも一部が、ケイ素源と芳香族炭素源と含有するガスから形成される、方法。
【0139】
実施形態13
耐熱性炭化物結晶を備える層、好ましくは実施形態1に記載の層であって、前記層が自立層であり、前記層の一表面の粗さが、0.01nm~100nmの範囲内、又は100nm~10μmの範囲内である、層。
【0140】
実施形態14
半導体を支持するための、実施形態1から8、13のいずれかに記載の層、実施形態9若しくは10に記載のデバイス、実施形態11に記載の耐熱性炭化物被覆ウェーハキャリア、又は、実施形態12に記載の方法によって作製された層、デバイス若しくはウェーハキャリアの使用。