IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 木村 将人の特許一覧

特許7594154リンゴ樹の白紋羽病菌防除液及びその使用方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】リンゴ樹の白紋羽病菌防除液及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/30 20200101AFI20241126BHJP
   A01N 63/28 20200101ALI20241126BHJP
   A01N 63/20 20200101ALI20241126BHJP
   A01N 63/27 20200101ALI20241126BHJP
   A01N 63/22 20200101ALI20241126BHJP
   A01N 63/34 20200101ALI20241126BHJP
   A01N 63/36 20200101ALI20241126BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20241126BHJP
   A01N 43/08 20060101ALI20241126BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A01N63/30
A01N63/28
A01N63/20
A01N63/27
A01N63/22
A01N63/34
A01N63/36
A01N59/00 B
A01N43/08 C
A01P3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024131264
(22)【出願日】2024-08-07
【審査請求日】2024-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512215923
【氏名又は名称】木村 将人
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 将人
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-110318(JP,A)
【文献】特開2018-168150(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104230525(CN,A)
【文献】特許第7538368(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N1/00-65/48
A01P1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白紋羽病菌の感染力及び病原力を低下させるマイコウイルスを担持している白紋羽病菌並びに以下の13の菌属に属する細菌群を混合培養した培養液と、亜鉛イオンと、フルボ酸と、水と、を含む混合液であることを特徴とするリンゴ樹の白紋羽病菌防除液。
(1)ストレプトマイセス属(Streptomyces)
(2)スルフォロブス属(Sulfolobus)
(3)サッカロポリスポーラ属(Saccharopolyspora)
(4)ノカルジア属(Nocardia)
(5)シュードモナス属(Pseudomonas)
(6)バシラス属(Bacillus)
(7)サイトファーガ属(Cytophaga)
(8)カンジダ属(Candida)
(9)セルロモナス属(Cellulomonas)
(10)クロストリジューム属(Clostridium)
(11)アスペルギルス属(Aspergillus)
(12)ペニシリウム属(Penicillium)
(13)リゾープス属(Rhizopus)
【請求項2】
前記培養液は、前記細菌群の菌体の合計質量が培養液全体質量の3.0乃至30.0質量%の範囲になるように培養され、前記細菌群の菌体が通過するような目開きのろ過材でろ過されて固形成分が除去されていることを特徴とする請求項1に記載のリンゴ樹の白紋羽病菌防除液。
【請求項3】
前記白紋羽病菌防除液は、前記培養液を50.0乃至150.0リットル、フルボ酸を0.1乃至1.0kg、水溶性の亜鉛イオンを0.1乃至10.0モル当量を加え、更に水を加えて1000リットルとした混合液であることを特徴とする請求項2に記載のリンゴ樹の白紋羽病菌防除液。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリンゴ樹の白紋羽病菌防除液を、白紋羽病菌に感染したリンゴ樹の根圏に地中注入器を用いて圧入することを特徴とするリンゴ樹の白紋羽病菌防除液の使用方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリンゴ樹の白紋羽病菌防除液を、投与対象とするリンゴ樹を中心として半径40乃至100cmの範囲の根圏に、20乃至40cmの間隔で、地表から20乃至40cmの深さに、一穴に10乃至30ml圧入することを特徴とする請求項4記載のリンゴ樹の白紋羽病菌防除液の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ樹に対する白紋羽病菌の感染力及び病原力を低下させることにより、リンゴ樹が白紋羽病菌に感染するのを予防し、白紋羽病の病状を改善し治癒させる、リンゴ樹白紋羽病菌防除液及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴ樹の白紋羽病の原因菌は、子嚢菌類に属する白紋羽病菌(Rosellinia necatrix)である。
白紋羽病菌は伝染が早く、主に根に感染して根を腐敗させる。このために、白紋羽病菌感染の早期発見は容易でなく、1本のリンゴ樹の地上部に感染が確認された時には既に周囲のリンゴ樹も白紋羽病菌に感染している場合が多い。伝染の更なる拡大を防ぐために、感染したリンゴ樹を切り倒さなければならなくなる場合もある。また、感染したリンゴ樹に成ったリンゴは品質が低下し収穫量も減少するため、白紋羽病菌はリンゴ樹の栽培に大きな損害を与えていた。
【0003】
従来は、白紋羽病菌の駆除は農薬等の化学物質によって行われてきたが、この方法は効果が限定的であるのと、使用する農薬等による薬害や環境汚染を引き起こすなどの問題を有していた。
一方、本発明者は、複数の菌体を含有する有機廃棄物の処理システムから排出される培養液(例えば特許文献1を参照)の廃液がリンゴ樹の白紋羽病菌に有効であることを見出だし、その応用を検討していた。
【0004】
ここで、白紋羽病菌に対しては、白紋羽病菌に対する感染力及び病原力を低下させるマイコウイルスが存在する。
近年、このマイコウイルスに感染した弱毒性の白紋羽病菌と、マイコウイルスフリーの白紋羽病菌と、を接触させてマイコウイルスを白紋羽病菌に感染させることによって、白紋羽病菌の感染力や病原力を減少させるバイロコントロール法が検討されている。
【0005】
特許文献2には、白紋羽病菌に対する顕著な感染力及び病原力の低下効果を有し、バイロコントロール法において使用可能なマイコウイルスが記載されている。しかし、通常では、細胞質不和合な細菌の間では、マイコウイルスに感染した細菌からマイコウイルスフリーな細菌へのウイルスの移行(伝染)は起こらない。
【0006】
細胞質不和合な細菌の間で、マイコウイルスに感染した白紋羽病菌から、マイコウイルスフリーな白紋羽病菌にマイコウイルスを移行させる一般的な手法として、粒子トランスフェクション法がある。しかし、粒子トランスフェクション法は、実験室等の環境によってのみ実施可能であるため、粒子トランスフェクション法を果樹園で実施することは困難である(例えば特許文献3を参照)。
【0007】
また、特許文献3には、亜鉛イオンを添加した培地においてマイコウイルスに感染した白紋羽病菌及びマイコウイルスフリーの白紋羽病菌を対峙培養することによって、マイコウイルスに感染した白紋羽病菌からマイコウイルスフリーな白紋羽病菌に、細菌間の細胞質不和合を克服してマイコウイルスを移行させる方法が記載されている。
【0008】
しかし、この方法によるマイコウイルスの移行を行うためには、0.4~2.5ミリモルの高濃度の亜鉛イオンが必要であり、この方法は野外環境での反応実施条件の維持、環境への負荷、生物毒性等が懸念される点に問題があると記載されている(例えば特許文献3及び4を参照)。
【0009】
野外環境において、任意の白紋羽病菌にマイコウイルスを、細胞質不和合反応を克服して直接導入するバイロコントロール技術の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許4043473号公報
【文献】特開第2013-255460号公報
【文献】特許第6715021号公報
【文献】特開2012-110318号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】「ゲル濾過法によるフルボ酸の分画とそのキレート能について」、山田秀和、米林甲陽、服部共生、森田修二、昭和47年度日本土壌肥料学会大阪大会要旨集(1975年7月26日受理)。https://core.ac.uk/download/pdf/235429797.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、マイコウイルスに感染した白紋羽病菌とマイコウイルスフリーな白紋羽病菌とを接触させて、マイコウイルスに感染した白紋羽病菌から白紋羽病菌にマイコウイルスを移行させるバイロコントロール法により、白紋羽病菌の感染力及び病原力を減少させる白紋羽病菌防除液を提供することを課題とする。
また、バイロコントロール法により、マイコウイルスフリーの白紋羽病菌の感染力を低下させて白紋羽病菌感染を防ぎ、病原力を低下させて白紋羽病菌に感染したリンゴ樹を治療し、回復させる白紋羽病菌防除液及びその使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の白紋羽病菌防除液は、白紋羽病菌の感染力及び病原力を低下させるマイコウイルスを担持している白紋羽病菌並びに以下の13の菌属に属する細菌群を混合培養した培養液と、亜鉛イオンと、フルボ酸と、水と、を含む混合液であることを特徴とする。
(1)ストレプトマイセス属(Streptomyces)
(2)スルフォロブス属(Sulfolobus)
(3)サッカロポリスポーラ属(Saccharopolyspora)
(4)ノカルジア属(Nocardia)
(5)シュードモナス属(Pseudomonas)
(6)バシラス属(Bacillus)
(7)サイトファーガ属(Cytophaga)
(8)カンジダ属(Candida)
(9)セルロモナス属(Cellulomonas)
(10)クロストリジューム属(Clostridium)
(11)アスペルギルス属(Aspergillus)
(12)ペニシリウム属(Penicillium)
(13)リゾープス属(Rhizopus)
【0014】
前記培養液は、細菌群の菌体の合計質量が培養液全体の質量の3.0~30.0質量%の範囲になるように培養され、細菌群の菌体が通過するような目開きのろ過材でろ過されて固形成分が除去されていることが好ましい。
【0015】
白紋羽病菌防除液は、培養液を50.0~150.0リットル、フルボ酸を0.1~1.0kg、水溶性の亜鉛イオンを0.1~10.0ミリモル当量加え、更に水を加えて1000リットルとした混合液であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のリンゴ樹の白紋羽病菌防除液の使用方法は、リンゴ樹の白紋羽病菌防除液を、白紋羽病菌に感染したリンゴ樹の根圏に地中注入器を用いて注入することを特徴とする。
【0017】
より詳しくは、本発明の白紋羽病菌防除液の使用方法は、地中注入器を用いて投与対象とするリンゴ樹を中心として半径40~100cmの範囲の根圏に20~40cmの間隔で地表から20~40cmの深さに、1穴に10~30ml注入することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の白紋羽病菌防除液は、強い感染力を有するマイコウイルスフリーの白紋羽病菌にマイコウイルスを感染させ、白紋羽病菌の感染力を減少させることによって、リンゴ樹が白紋羽病菌が感染するのを防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の白紋羽病菌防除液は、白紋羽病菌にマイコウイルスを感染させて、白紋羽病菌の病原力を低下させて白紋羽病を治癒し、リンゴの生産量、及び生産するリンゴの品質を回復させることができる。
【0020】
さらに、本発明の白紋羽病菌防除液は、リンゴ樹の成長力を回復させて治療するので、白紋羽病菌に感染したリンゴ樹を切り倒さなければならなくなる危険性を大幅に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の白紋羽病菌防除液及びその使用方法について説明する。この記載は、本発明を説明するためのものであって、この記載によって本発明の技術範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の技術範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更して実施することが可能である。
【0022】
本発明の白紋羽病菌防除液は、マイコウイルスを担持している白紋羽病菌並びに以下の13の菌属に属する細菌群を用いて混合培養した培養液と、亜鉛イオンと、フルボ酸と、水と、を含む混合液であることを特徴とする。
【0023】
[培養液について]
本発明で用いる培養液は、白紋羽病菌に対する感染力及び病原力の低下作用を有するマイコウイルスを担持している白紋羽病菌と、前記13種の菌属に属する細菌と、が混合され、培地に発酵分解可能な有機物と、水と、を加えて培養される。
培養液は、用いられた細菌の菌体の合計質量が培養液の全質量に対して、3~30質量%になるように培養されることが好ましい。菌体の質量が培養液の質量に対して3質量%未満では、白紋羽病菌防除液として用いた場合に白紋羽病菌に対する十分な防除作用が得られず、一方、30質量%を超えるように培養するのは困難な場合が多く、また菌の活性が低下又は変化することがあるので好ましくない。
【0024】
[培養菌について]
本発明に用いる培養菌は、白紋羽病菌に対する感染力及び病原力の低下作用を有するマイコウイルスを担持している白紋羽病菌と、以下の13の菌属に属する細菌との混合細菌であることが好ましい。
(1)ストレプトマイセス属(Streptomyces)
(2)スルフォロブス属(Sulfolobus)
(3)サッカロポリスポーラ属(Saccharopolyspora)
(4)ノカルジア属(Nocardia)
(5)シュードモナス属(Pseudomonas)
(6)バシラス属(Bacillus)
(7)サイトファーガ属(Cytophaga)
(8)カンジダ属(Candida)
(9)セルロモナス属(Cellulomonas)
(10)クロストリジューム属(Clostridium)
(11)アスペルギルス属(Aspergillus)
(12)ペニシリウム属(Penicillium)
(13)リゾープス属(Rhizopus)
【0025】
なお、マイコウイルスを担持している白紋羽病菌は、白紋羽病菌に汚染されたリンゴ園で収集した白紋羽病菌の複数の菌株の中から、生育力が弱くRNAウイルスを担持している菌株を、特許文献2に記載された方法に準じて分離して用いた。
【0026】
培養に用いる細菌は、マイコウイルスを担持している白紋羽病菌と、上記の13の菌属に属する細菌群の全ての細菌を含んでいることが好ましい。13種の菌属に属する全ての細菌及びマイコウイルスを担持している白紋羽病菌を含むことにより、細菌相互の分解、発酵作用を増大させることができる。
【0027】
培養液の原料として用いる有機物は、本発明の培養条件で発酵分解が可能な有機物であれば特に制限されない。好ましい実例として、例えば農産物処理の廃棄物、水産物処理の廃棄物、食品廃棄物等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【0028】
[亜鉛イオンについて]
細胞質不和合の関係にある糸状菌相互間では、共培養しても通常は菌類寄生ウイルスの伝染(移転)は起こらないが、亜鉛イオン存在下でこれらを共培養すると細胞質不和合を克服して、菌類寄生ウイルスに感染している糸状菌類から菌類寄生ウイルスフリーな糸状菌類へ、ウイルスが移行(伝染)する。
しかし、この方法によるマイコウイルスの移行を行うためには、0.4~2.5ミリモル程度の高濃度の亜鉛イオンが必要であり、野外環境での反応実施条件の維持に問題がある(例えば特許文献3、4を参照)。
【0029】
そこで本発明では、細胞質不和合を克服するために、亜鉛イオンに強い親和性を有し、亜鉛イオンが生体内に取り込まれるのを補助するフルボ酸を加えて白紋羽病菌と共培養した。そして、この混合菌の生育阻止効果を測定した結果、低濃度の亜鉛イオン存在下でもマイコウイルスの移行が起こり、この混合液は強力な白紋羽病菌の阻止作用を示すものとなった。
本発明では、細胞質不和合の関係にあるマイコウイルスに感染した弱毒性の菌と、マイコウイルスフリーの菌とを亜鉛イオンの存在下に接触させてマイコウイルスを白紋羽病菌に感染させるバイロコントロール法に際して、フルボ酸を加えることにより亜鉛イオンの濃度を低下させることが可能となる。
【0030】
水溶液中で乖離して亜鉛イオンを与える水溶性の亜鉛化合物は複数が公知であり、本発明に好ましく用い得る亜鉛塩であればいずれも用いることができる。例えば塩化亜鉛や硫酸亜鉛7水和物が市販されており、これらを使用することができる。
【0031】
[フルボ酸について]
フルボ酸は、森林の地下土壌から希アルカリでフミン酸を抽出、除去した後に無機酸で抽出される上澄み液に黄色ないし橙黄色を与える物質であって、乾固すると無定型の粉末を与える。得られた粉末は、水、エタノールに可溶の無定型の酸性物質である。
フルボ酸は大分子量を有し、単一の化学構造式を有するものではなく、組成、分子量も一定したものでなく、原料及び採取条件により組成、分子量が変化する。
また、フルボ酸は、多くの金属イオン、特に亜鉛イオン及び鉄イオンに強い親和性を有し、亜鉛イオンや鉄イオンが生体に取り込まれるのを補助する。
【0032】
本発明においては、フルボ酸としては非特許文献1に記載された方法で製造した精製フルボ酸を使用することが好ましいが、水溶液のフルボ酸をフルボ酸の含有量を換算して用いることもできる。
【0033】
[白紋羽病菌防除液の組成]
本発明の白紋羽病菌防除液は、上記の培養液と、亜鉛イオンと、フルボ酸と、水と、を混合した混合液である。
本発明の白紋羽病菌防除液は、全容量を1000リットルとした場合に、培養液の含有量が50~150リットルであることが好ましい。培養液の容量が50リットル未満の場合は、白紋羽病菌防除液の防除作用が低下し、含有量が150リットルを超えて加えても、加えた培養液の量の増加に比較して、白紋羽病菌防除液の防除作用の効果の増強が対応しなくなるので好ましくない。
【0034】
また、本発明の白紋羽病菌防除液は、全容量を1000リットルとした場合に、フルボ酸の含有量が、0.1~1.0kgであることが好ましい。この範囲の含有量とすることにより亜鉛イオンの濃度を低下させることができる。フルボ酸の含有量が0.1kg未満の場合は白紋羽病菌防除液の防除作用が低下し、フルボ酸の含有量が1.0kgを超えて加えても、加えたフルボ酸の量の増加に比較して、白紋羽病菌防除液の防除作用の効果の増加が対応しなくなるので経済的に好ましくない。
【0035】
さらに、亜鉛イオンの含有濃度は、0.1~10.0ミリモル濃度/白紋羽病菌防除液であることが好ましく、0.2~5.0ミリモル濃度/白紋羽病菌防除液であることがより好ましく、0.4~2.5ミリモル濃度/白紋羽病菌防除液であることが最も好ましいい。亜鉛イオンの含有量が0.1ミリモル濃度未満では白紋羽病菌防除液の防除作用が低下し、亜鉛イオンの含有量が10・0ミリモルを超えるように加えると、環境汚染を生じる可能性があり、また経済的に好ましくない。
【0036】
本発明のリンゴ白紋羽病菌防除液の使用量及び使用方法は、対象とするリンゴ樹の形状および症状、生育している土地の形状等に応じて異なるが、一般的には被害樹を中心として半径40~100cmの範囲に20~40cmの間隔で根圏の20~40cmの深さの地中に1穴に、例えば地中注入器に装着して10~30ml注入することができる。
【0037】
[実施例]
(1)本発明の培養液は、白紋羽病菌に対する感染力及び病原力低下作用を有するマイコウイルスを担持している白紋羽病菌と、以下の13の菌属に属する細菌群と、を含むことが好ましい。
【0038】
[培養液]
本発明の13種の菌属の細菌として、下記の13菌属を挙げることができる。付してある符号は上記13菌属に対応させてある。
1)ストレプトマイシン生産菌(Streptomyces griseus スト
レプトマイセス属)
2)スルフォロブス アシドカリダリウス(Sulfolobus acidoca
ldarius スルフォロブス属)
3)サッカロポリスポラ エリスラエア(Saccharopolyspora
erythraea サッカロポリスポラ属)
4)ノカルジア アステロイデス(Nocardia asteroides ノ
カルジア属)
5)シュードモナス フローレッセンス(Pseudomonas fluores
cens シュードモナス属)
6)枯草菌(Bacillus subtilis バシラス属)
7)サイトファーガ ハッチンソニ(Cytophaga hutchinsoni
サイトファーガ属)
8)カンジダ バーサチルス(Candida versatillis カンジダ
属)
9)セルロモナス フラビゲナ(Cellulomonas flavigena
セルロモナス属)
10)クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermoce
llum クリストリジウム属)
11)アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae アスペル
ギルス属)
12)ペニシリウム クリソゲナム(Penicillium chrysogenu
mn ペニシリウム属)
13)リゾプス オリゼー(Rhizopus oryzae クモノスカビ属)
【0039】
[培養液の製造]
上記13種の菌属の細菌と、マイコウイルスを担持している白紋羽病菌と、の全ての菌それぞれを、1×10cfu/cm濃度の種菌液を同量ずつ混合して前培養し、全菌体の合計質量が全培養液の10質量%になるまで培養することにより粗培養液を製造した。この粗培養液を菌体が通過する目開きのろ過材を用いて濾過して本発明の培養液を得た。
【0040】
[白紋羽病菌防除液の製造]
培養液100リットルと、非特許文献1に記載された方法に従って製造したフルボ酸1.0kgと、硫酸亜鉛7水和物の所定量(段落[0042]を参照)とに、水を加えて1000リットルの白紋羽病菌防除液を製造した。この場合、白紋羽病防除液の製造に使用する水は、酸化剤を含まない水が好ましい。
【0041】
[白紋羽病菌防除液の散布]
本発明では、以上のようにして製造した白紋羽病防除液を、水で2倍~20倍に希釈した後、地中注入器を用いて、投与対象とするリンゴ樹を中心として40~100cmの範囲の根圏に、20~40cmの間隔で20~40cmの深さに一穴に10~30ml注入する。
【0042】
[試験例]白紋羽病菌防除液のリンゴ苗に対する病原力の比較
以下に示す1~8の組成の異なる白紋羽病菌防除液を作成し、それぞれの白紋羽病菌防除液と対峙させた白紋羽病菌の病原力の比較を行った。
試料組成液1 培養液100リットルに水を加えて1000リットルとした。
試料組成液2 培養液100リットルに硫酸亜鉛7水和物を28.8g加え、次い
で水を加えて全体を1000リットルとした(亜鉛イオン濃度0.
1ミリモル)。
試料組成液3 培養液を100リットルに硫酸亜鉛7水和物を288g加え、
次いで水を加えて全体を1000リットルとした(亜鉛イオン濃度
1.0ミリモル。
試料組成液4 培養液を100リットルに硫酸亜鉛を2876g加え、更に水を加
えて全体を1000リットルをとした(亜鉛イオン濃度10.0ミ
リモル)。
試料組成液5 培養液を100リットルにフルボ酸を300g加え、更に水を加え
て全体を1000リットルをとした。
試料組成液6 培養液を100リットルにフルボ酸を300g及び硫酸亜鉛を2
8.8g加え、更に水を加えて全体を1000リットルとした(亜
鉛イオン濃度0.1ミリモル)。
試料組成液7 培養液を100リットルにフルボ酸を300g及び硫酸亜鉛を28
7.6g加え、更に水を加えて全体を1000リットルをとした
(亜鉛イオン濃度1.0ミリモル)。
試料組成液8 培養液を100リットルにフルボ酸を300g及び硫酸亜鉛
2876gを加え、更に水を加えて全体を1000リットルとした
(亜鉛イオン濃度10.0ミリモル)。
【0043】
リンゴの切枝上で、上記の試料組成液1~8それぞれとウイルスフリーの白紋羽病菌とを混合して14日間共培養し、各切片を白紋羽病菌防除液の接種源とした。
上記各接種源をリンゴ苗の主根の地下部7cmの位置に接するように配置して埋め戻し、ガラス室内で3週間栽培した。そして、各群における枯死した苗の数を比較した。結果を表1に示す。
【0044】
[試験結果]
【表1】
【0045】
表1に示すように、試料組成液番号3のフルボ酸を含まない試料組成液は、亜鉛イオン濃度が1.0ミリモルでは7本のリンゴ苗が枯死したのに対し、試料組成液番号4では亜鉛イオン濃度10.0ミリモルで全部のリンゴ苗が生存した。
一方、フルボ酸を含む試料組成液番号5~8の組成液は、亜鉛イオン濃度が0.1ミリモルでは2/10が枯死したが濃度が1.0ミリモル及び10.0ミリモルでは全部のリンゴ苗が生存した。
【要約】
【課題】マイコウイルスに感染した白紋羽病菌と、マイコウイルスフリーの白紋羽病菌とを接触させて、マイコウイルスに感染した白紋羽病菌から白紋羽病菌にマイコウイルスを移行(伝染)させて、白紋羽病菌の感染力及び病原力を減少させるリンゴ白紋羽病菌防除液を提供する。
【解決手段】本発明のリンゴ白紋羽病菌防除液は、白紋羽病菌の感染力及び病原力の低下させるマイコウイルスを担持している白紋羽病菌並び13の菌属に属する細菌群を混合培養した培養液と、亜鉛イオンと、フルボ酸と、水と、を含む混合液である。
【選択図】 なし