IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラレノリタケデンタル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ジルコニア複合焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20241126BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20241126BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20241126BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20241126BHJP
【FI】
C04B35/488
C04B35/645 500
A61C13/083
A61C5/77
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024524949
(86)(22)【出願日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2023020515
(87)【国際公開番号】W WO2023234399
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022089662
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 貴広
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴理博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新一郎
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127294(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132644(WO,A1)
【文献】特表2018-505829(JP,A)
【文献】国際公開第2021/153211(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42 -35/447
C04B 35/46 -35/515
A61C 13/083
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb25及び/又はTa25とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb25、及びTa25の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb25及びTa25の合計含有率が1~9mol%であり、
前記安定化剤が、Y 2 3 を含み、
さらに第I族元素及びTiO2を含み、
前記第I族元素の含有率が、ZrO 2 、HfO 2 、前記安定化剤、Nb 2 5 、及びTa 2 5 の合計100mol%に対して、0mol%超3mol%以下である、
TiO 2 の含有率が、ZrO 2 と、HfO 2 と、前記安定化剤と、Nb 2 5 及びTa 2 5 との合計100質量%に対して、0質量%超5.0質量%以下である、ジルコニア複合焼結体。
【請求項2】
TiO2の含有率が、ZrO2と、HfO2と、前記安定化剤と、Nb25及びTa25との合計100質量%に対して、0.01質量%以上5.0質量%以下である、請求項1に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項3】
前記第I族元素の含有率が、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb25、及びTa25の合計100mol%に対して、0.05mol%以上3mol%以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項4】
前記第I族元素が、Li、Na、及びKからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1又は2に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項5】
前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb25及びTa25の合計含有率をBmol%とするとき、
A/Bが0.9以上3以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項6】
TiO2の含有率が0.6質量%以上4.3質量%以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項7】
ISO 6872:2015に準拠して測定した2軸曲げ強さが350MPa以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項8】
前記ジルコニア複合焼結体の平均結晶粒径が0.5~5.0μmである、請求項1又は2に記載のジルコニア複合焼結体。
【請求項9】
ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb25及び/又はTa25とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb25、及びTa25の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が、1~12mol%であり、
Nb25及びTa25の合計含有率が、1~9mol%であり、
さらに第I族元素の原料化合物及びTiO2を含む、原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを含む、
請求項1に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記第I族元素の原料化合物が、前記第I族元素の水酸化物及び/又は塩であり、
前記原料組成物の各原料を、水を含む溶媒中で湿式混合して原料組成物を得る工程をさらに含む、
請求項に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記原料組成物において、前記安定化剤が、ZrO2及びHfO2に対して固溶していない安定化剤を含む、請求項又は10に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記成形体を焼結する工程において、
1300~1680℃で焼結する工程と、
1200℃以上でHIP処理する工程を含む、
請求項又は10に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記HIP処理する工程後に、1400℃以下で大気中又は酸素過剰雰囲気にて熱処理する工程を含む、
請求項12に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア複合焼結体及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、強度及び透光性に優れ、かつ、焼結体の状態で加工性に優れるジルコニア複合焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物からなるセラミックスは、工業的に幅広く利用されてきた。中でも、ジルコニア焼結体は、その高い強度と審美性から、歯科用補綴物等の歯科材料用途に使用されている。
【0003】
ジルコニア焼結体は、強度に優れるため、補綴物等の歯科材料用途に使用された場合、破損などの問題はほとんど起きない。また、ジルコニア焼結体は、透光性も高く、口腔内で着色しづらいため、審美性にも優れる。一方、完全に焼結した状態の焼結体とした後は、高い硬度を有するため、歯科用加工機ではほとんど加工することができない。例えば、立方体の形状を有するジルコニア焼結体を、患者の歯の形状に合う形状を有するジルコニア焼結体を得るために機械加工すると、金属製の加工用工具の消耗が非常に大きくなる上、わずか1個の歯科用補綴物を製造する場合にも膨大な時間を要する。
【0004】
このような事情から、ジルコニア焼結体を歯科材料用途に使用する際には、通常、完全に焼結した焼結体ではなく、加工しやすい半焼結状態である仮焼体を所望の歯科用補綴物の形状に加工した後、さらに焼結させることにより、目的の歯科用補綴物の形状に加工された焼結体として製造される。その後、歯科用補綴物の形状を有する焼結体を歯科医院で患者の口腔内に装着した際に違和感なく適合するように、焼結体に対して微量の調整加工が行われている。
また、近年、仮焼体を所望の歯科用補綴物の形状に加工する際には、患者の治療部位の歯牙に合わせた形状を得ることができるCAD/CAMシステムによる機械加工が使用され、CAD/CAMシステム用の仮焼体(ミルブランク)が多用されている。
【0005】
上記のように、ジルコニア焼結体を歯科材料用途に使用する場合、ジルコニアの焼結における特有の問題に起因して、焼結体とした後に大きな機械加工を行うことを回避し、焼結体への加工は歯科医院で患者の口腔内に装着した際に微調整のために行う程度に留まっている。言い換えると、ジルコニアの焼結による段階的な物性変化に沿った、歯科材料用途における対応がなされている。
【0006】
また、歯科治療においては、上記のジルコニア焼結体の物性に起因する特有の事情を考慮して、歯列情報などの患者の口腔内形状の情報を取得する工程、取得した情報に基づいてCAD/CAMシステムにより仮焼体(ミルブランク)を所望の歯科用補綴物の形状に機械加工する工程、所望の歯科用補綴物の形状を有する仮焼体を焼結して焼結体を得る工程、及び歯科医院で患者の口腔内に装着した際に違和感なく適合するように焼結体に対して微量の調整加工をする工程、という多くの工程を経た治療が一般的に行われる。
【0007】
このように、ジルコニア焼結体の歯科用補綴物を用いた歯科治療において、1回の通院では、上記したすべての工程を完結することは困難である。そのため、1本の歯の治療であっても、歯科医院への通院が複数回になり、治療開始から治療完了までの治療期間も1か月以上を要することが多い。
【0008】
一方、患者としては、治療後の新しい人工歯が装着されるまでの時間を減らす点、通院負担を軽減する点から、できるだけ通院回数が少ないことが望ましく、短時間で治療を終えたいというニーズは年々高まっている。
【0009】
仮に、ジルコニア焼結体の状態において大幅な機械加工ができる場合、一度仮焼体の状態で機械加工し、その後、焼結によって焼結体を製造する工程が不要になり、患者の口腔内形状の情報を取得した後に、当該情報に基づいてCAD/CAMシステムにより未加工の焼結体を所望の歯科用補綴物の形状に機械加工し、患者の口腔内に装着して微調整の加工を行い、一日で歯科治療を終えることも可能となる。
【0010】
また、歯科用補綴物を用いる場合に一日で終える歯科治療は、ジルコニア以外の二ケイ酸リチウムガラスセラミック、長石系ガラスセラミック等の材料を用いた場合は可能になっているものの、ジルコニア焼結体の場合、ジルコニア焼結体の物性に起因する特有の事情があり、実現には高い困難性がある。
【0011】
上記のように、ジルコニアには強度及び審美性の面から需要も高いため、治療期間の短縮に対するニーズの高まりに伴って、焼結体の状態で機械加工性に優れ、角柱状又は円盤状のミルブランクから、所望の歯科用補綴物の形状に加工できるジルコニア焼結体も提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0012】
例えば、特許文献1には、79.8~92mol%のZrO及び4.5~10.2mol%のYと、3.5~7.5mol%のNb又は5.5~10.0mol%のTaと、を含む正方晶ジルコニア複合粉末と、前記ジルコニア複合粉末に対する質量比が0質量%超2.5質量%以下であるTiOナノ粉末とを含むように形成された焼結体である加工性ジルコニア及びその製造方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献2には、78~95mol%のZrOと2.5~10mol%のYと、2~8mol%のNb及び/又は3~10mol%のTaとを含み、かつZrOの主たる結晶相が単斜晶である原料を用いる機械加工性を有するジルコニア組成物及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2015-127294号公報
【文献】国際公開第2021/132644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1及び2に開示されたジルコニア焼結体は、焼結状態でも機械加工可能である。しかしながら、歯科用補綴物を切り出す加工時間が長くなってしまい、治療時間の短縮という観点からは、改善の余地があった。
また、特許文献1及び2に開示されたジルコニア焼結体では、機械加工可能であるものの、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって得られる歯科用補綴物の個数が少なく、加工用工具の消耗が早いため、加工用工具を交換する頻度が上がり、工具の交換時間が増え、生産性及び経済性が低下するという問題があった。
【0016】
また、機械加工性を向上させるために、材料の硬度を下げると、材料の強度が低下してしまうという問題があった。
【0017】
本発明は、歯科用として好適な強度と透光性を有し、かつ機械加工性に優れる、ジルコニア複合焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとを所定の割合で含むジルコニア複合焼結体において、さらに第I族元素とTiOとを含むことによって、課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとを含み、
ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、
ZrO及びHfOの合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb及びTaの合計含有率が1~9mol%であり、
さらに第I族元素及びTiOを含む、ジルコニア複合焼結体。
[2]TiOの含有率が、ZrOと、HfOと、前記安定化剤と、Nb及びTaとの合計100質量%に対して、0質量%超5.0質量%以下である、[1]に記載のジルコニア複合焼結体。
[3]前記第I族元素の含有率が、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%に対して、0mol%超3mol%以下である、[1]又は[2]に記載のジルコニア複合焼結体。
[4]前記第I族元素が、Li、Na、及びKからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体。
[5]前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb及びTaの合計含有率をBmol%とするとき、
A/Bが0.9以上3以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体。
[6]前記安定化剤が、Y及び/又はCeOを含む、[1]~[5]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体。
[7]TiOの含有率が0.6質量%以上4.3質量%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体。
[8]ISO 6872:2015に準拠して測定した2軸曲げ強さが350MPa以上である、[1]~[7]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体。
[9]前記ジルコニア複合焼結体の平均結晶粒径が0.5~5.0μmである、[1]~[8]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体。
[10]ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとを含み、
ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、
ZrO及びHfOの合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が、1~12mol%であり、
Nb及びTaの合計含有率が、1~9mol%であり、
さらに第I族元素の原料化合物及びTiOを含む、原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを含む、
[1]に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
[11]前記第I族元素の原料化合物が、前記第I族元素の水酸化物及び/又は塩であり、
前記原料組成物の各原料を、水を含む溶媒中で湿式混合して原料組成物を得る工程をさらに含む、
[10]に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
[12]前記原料組成物において、前記安定化剤が、ZrO及びHfOに対して固溶していない安定化剤を含む、[10]又は[11]に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
[13]前記成形体を焼結する工程において、
1300~1680℃で焼結する工程と、
1200℃以上でHIP処理する工程を含む、
[10]~[12]のいずれかに記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
[14]前記HIP処理する工程後に、1400℃以下で大気中又は酸素過剰雰囲気にて熱処理する工程を含む、
[13]に記載のジルコニア複合焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、歯科用として好適な強度と透光性を有し、かつ機械加工性に優れる、ジルコニア複合焼結体を提供できる。
また、本発明によれば、焼結体の状態で機械加工することができ、機械加工による加工時間が短く、かつ、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工(以下、単に「連続加工」とも称する)によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数が多く、生産性及び経済性に優れるジルコニア複合焼結体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のジルコニア複合焼結体は、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤(以下、単に「安定化剤」とも称する)と、Nb及び/又はTaとを含み、
ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、
ZrO及びHfOの合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb及びTaの合計含有率が1~9mol%であり、
さらに第I族元素及びTiOを含む。
【0022】
本発明のジルコニア複合焼結体は、ZrO粒子(粉末)が完全に焼結している状態(焼結状態)であるものを意味する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有率、各成分から算出される比率、値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。本明細書において、機械加工は、切削加工及び研削加工を含む。また、機械加工は、湿式加工、乾式加工のどちらでもよく、特に限定されない。
【0023】
本明細書において、ジルコニア複合焼結体における各成分の含有率は、原料の仕込み量から算出できる。
また、ジルコニア複合焼結体における、ZrO、HfO、安定化剤、Nb及びTaの各成分の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することもできる。
第I族元素の含有率(mol%)は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%に対する外部添加率である。そのため、ジルコニア複合焼結体における、第I族元素の含有率は、添加する際の原料の仕込み量(質量)をmol%に換算して算出できる。
また、TiOの含有率(質量%)は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100質量%に対する外部添加率である。そのため、ジルコニア複合焼結体における、TiOの含有率は、添加する際の原料の仕込み量(質量)から算出できる。
【0024】
本発明のジルコニア複合焼結体が、歯科用として好適な強度と透光性を有し、かつ高い機械加工性を有するため、焼結体の状態で機械加工できる理由は定かではないが、以下のように推測される。
ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとが含まれるジルコニア複合焼結体において、ジルコニア粒子の粒界に第I族元素が存在することにより、第I族元素が粒界強度を低下させて粒子同士を剥離しやすい方向に作用し、削りやすくなり、機械加工性が向上していると推測される。
ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとが含まれるジルコニア複合焼結体において、ジルコニア粒子の界面(以下、「粒界」とも称する)に第I族元素が存在することにより、第I族元素が粒界強度を低下させて粒子同士を剥離しやすい方向に作用し、削りやすくなり、機械加工性が向上していると推測される。
【0025】
また、Nb及び/又はTaは、ジルコニア複合焼結体において、微細構造が粗大化し、硬度を低下させる方向に作用するため、第I族元素と、Nb及び/又はTaとが一体となって、機械加工性を改善する方向に作用する。よって、第I族元素と、Nb及び/又はTaとが一体となって作用し、人工歯として必要になる強度を有しつつ、優れた快削性を付与できるため、機械加工による加工時間を短くできることに加えて、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって得られる歯科用補綴物の個数を増加させることができ、焼結体の連続加工における特有の問題も解決できるものと推測される。
【0026】
本発明のジルコニア複合焼結体は、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤とを含むジルコニア粒子と、ZrOと、HfOと、Nb及び/又はTaと、TiOとを含む接着性成分と、第I族元素を含む剥離成分とを含む構造を備えるものと推測される。
TiOは、第I族元素とともに主に粒界に存在する。TiOを粒界の各所に局所的に存在させることで、第I族元素の存在によって弱められる粒界強度に対して、破線のように、粒界強度のムラを作り出すことができ、これによって、第I族元素と、Nb及び/又はTaとが一体となって得られる前記作用効果の低下を抑制しつつ、粒界強度を向上させることができる。さらに、TiOは、Nb及び/又はTaが存在する場合に、透光性を向上させることができる。そのため、本発明によれば、歯科用として好適な強度と透光性を有し、かつ高い機械加工性を有するジルコニア複合焼結体が得られるものと推測される。
【0027】
本発明のジルコニア複合焼結体において、第I族元素は、上記のように快削性付与剤として作用し、さらに強度及び透光性を損なうことがないものである。
【0028】
ある好適な実施形態において、本発明のジルコニア複合焼結体に含まれる第I族元素の含有率としては、0mol%超3mol%以下であることが好ましく、機械加工性により優れ、1つの加工用工具で連続して加工できる歯科用補綴物の個数をより増加できる点から、0.05mol%以上3mol%以下であることがより好ましく、強度により優れる点から、0.06mol%以上2.5mol%以下であることがさらに好ましく、0.07mol%以上1.0mol%以下であることが特に好ましく、0.08mol%以上0.34mol%以下であることが最も好ましい。
前記した含有率は、第I族元素である限り、使用できる。
一方、Liに比べて、Na、K、Rb、Cs、及びFrは原子量が高く、原子量が高くなるにつれて、粒子同士を剥離しやすい方向に作用する力が高まり、本発明の効果を奏するために必要な含有率は、低くなる傾向にある。そのため、前記した含有率は、第I族元素がK、Rb、Cs、及びFrである場合に特に好適である。
他のある好適な実施形態において、本発明のジルコニア複合焼結体に含まれる第I族元素の含有率としては、0mol%超4.2mol%以下であることが好ましく、機械加工性により優れ、1つの加工用工具で連続して加工できる歯科用補綴物の個数をより増加できる点から、0.05mol%以上4.0mol%以下であることがより好ましく、0.06mol%以上3.8mol%以下であることがさらに好ましく、0.07mol%以上3.6mol%以下であることが特に好ましく、0.08mol%以上3.5mol%以下であることが最も好ましい。
前記した含有率は、第I族元素である限り、使用できる。
例えば、第I族元素がLi、及び/又はNaである場合、本発明のジルコニア複合焼結体に含まれる第I族元素の含有率としては、前記した含有率としてもよい。
いずれの実施形態における第I族元素の含有率も、他の成分の含有率などを考慮して、本発明の効果が得られる限り適宜使用することができる。
別の他の好適な実施形態において、本発明のジルコニア複合焼結体に含まれる第I族元素の含有率としては、本発明の効果を奏する限り、3mol%超4.2mol%以下としてもよい。
【0029】
第I族元素としては、Li、Na、K、Rb、Cs、及びFrが挙げられる。第I族元素は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
ある実施形態としては、第I族元素が、Li、Na、及びKからなる群より選ばれる1つの元素を含む、ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0030】
本発明のジルコニア複合焼結体において、ZrO及びHfOの合計含有率は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、78~97.5mol%であり、透光性及び強度により優れる点から、79mol%以上96mol%以下であることが好ましく、80mol%以上94mol%以下であることがより好ましく、81mol%以上93mol%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)、酸化セリウム(CeO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ランタン(La)、酸化エルビウム(Er)、酸化プラセオジム(Pr、Pr11)、酸化サマリウム(Sm)、酸化ユウロピウム(Eu)酸化ツリウム(Tm)、酸化ガリウム(Ga)、酸化インジウム(In)及び酸化イッテルビウム(Yb)等の酸化物が挙げられ、本発明の効果がより優れ、特に審美性に優れる点から、Y(イットリア)及び/又はCeOが好ましい。前記安定化剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0032】
上記したように、第I族元素と、Nb及び/又はTaとが一体となって作用し、これらの成分、さらにはTiOも前記安定化剤の効果を損なうことがないため、前記安定化剤は、特に限定されず、本発明の効果を奏する。
【0033】
本発明のジルコニア複合焼結体において、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤の含有率は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、1~12mol%であり、2mol%以上10mol%以下であることが好ましく、透光性及び強度により優れる点から、3mol%以上8mol%以下であることがより好ましく、3.5mol%以上7.5mol%以下であることがさらに好ましい。前記安定化剤の含有率が12mol%を超える場合、十分な機械加工性が得られにくい。
ある好適な実施形態としては、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が、Y及び/又はCeOを含み、Y、及びCeOの合計含有率が、2mol%以上10mol%以下である、ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
他のある好適な実施形態としては、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が、Yを含み、Yの含有率が、2mol%以上10mol%以下である、ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
前記したいずれの実施形態においても、Y、及びCeOの含有率は、本明細書の記載の範囲内であれば適宜変更でき、例えば、透光性及び強度により優れる点から、Y、及びCeOの合計含有率が、2.5mol%以上10mol%以下であってもよく、3mol%以上9mol%以下であってもよい。
【0034】
本発明のジルコニア複合焼結体において、Nb及びTaの合計含有率は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、1~9mol%であり、1.5mol%以上8.5mol%以下であることが好ましく、第I族元素と一体的に作用し、より優れた機械加工性を有する点から、2.5mol%以上8mol%以下であることがより好ましく、3mol%以上7mol%以下であることがさらに好ましい。Nb及びTaの合計含有率が、1mol%未満である場合、十分な機械加工性が得られにくい。また、Nb及びTaの合計含有率が、9mol%を超える場合、得られるジルコニア複合焼結体に欠け等が発生し、十分な物性が得られにくい。
【0035】
Nb及びTaは、上記のように、微細構造を粗大化し、硬度を低下させる方向に作用し、第I族元素と、一体となって作用し優れた快削性を付与できることに加えて、ジルコニア複合焼結体に添加される他の成分(例えば、TiO、Al)との相互作用及びHIPの適用によって焼結密度を最大化して、天然歯の審美性を確保することができる。
【0036】
前記したZrO、HfO、安定化剤、Nb及びTaの各成分の含有率は、ZrO、HfO、安定化剤、Nb及びTaの合計100mol%における割合であり、ZrO、HfO、安定化剤、Nb及びTaの合計は100mol%を超えない。例えば、原料組成物がNbを含み、Taを含まない場合、ZrO、HfO、安定化剤、及びNbの各成分の含有量は、ZrO、HfO、安定化剤、及びNbの合計100mol%に対する含有割合を意味する。
【0037】
また、安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb及びTaの合計含有率をBmol%とするとき、A/Bの比率は、機械加工性の点から、0.9以上3以下であることが好ましく、0.95以上2以下であることがより好ましく、第I族元素とNb及び/又はTaとが一体となって作用する効果が高まり、より優れた快削性を付与でき、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって得られる歯科用補綴物の個数をより増加させることができる点から、1以上1.6以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明のジルコニア複合焼結体において、TiOの含有率は、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及びTaとの合計100質量%に対して、0質量%超5.0質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上4.5質量%以下であることがより好ましく、第I族元素と組み合わせた際に一体となって作用し、強度により優れる点から、0.6質量%以上4.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以上3.7質量%以下であることが特に好ましく、2.5質量%以上3.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0039】
ある好適な実施形態としては、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとを含み、
ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、
ZrO及びHfOの合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb及びTaの合計含有率が1~9mol%であり、
さらに第I族元素及びTiOを含み、
前記安定化剤が、Y及び/又はCeOを含み、
TiOの含有率が0.6質量%以上4.3質量%以下であり、
前記第I族元素の含有率が、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%に対して、0mol%超3mol%以下であり、
前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb及びTaの合計含有率をBmol%とするとき、A/Bが0.9以上3以下である、ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0040】
前記した好適な実施形態において、前記したように、ZrO及びHfOの合計含有率、安定化剤の種類及び含有率、Nb及びTaの合計含有率、第I族元素の種類及び含有率、TiOの含有率、A/Bの比率を適宜変更できる。
【0041】
本発明のジルコニア複合焼結体の平均結晶粒径は、0.5~5.0μmであることが好ましく、機械加工性により優れる点から、0.5~4.5μmであることがより好ましく、1.0~4.0μmであることがさらに好ましい。平均結晶粒径の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
平均結晶粒径は、実施例に記載の方法において、1視野分のSEM写真像に含まれる粒子の数が、50個又は100個程度となるように、粒子の数を調整して測定することができる。
【0042】
ジルコニア複合焼結体の密度は、高密度ほど内部の空隙が少なく、光散乱しにくくなり、透光性が向上する点及び強度が向上する点から、5.5g/cm以上であることが好ましく、5.7g/cm以上であることがより好ましく、5.9g/cm以上であることがさらに好ましい。
ジルコニア複合焼結体は、実質的には空隙が含有されていないことが特に好ましい。
複合焼結体の密度は、(複合焼結体の質量)/(複合焼結体の体積)にて算出できる。
【0043】
本発明の他の実施形態としては、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaとを含み、
ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%において、
ZrO及びHfOの合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が、1~12mol%であり、
Nb及びTaの合計含有率が、1~9mol%であり、
さらに第I族元素の原料化合物及びTiOを含む、原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを含む、ジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。
【0044】
ジルコニア複合焼結体の原料組成物は、ZrOと、HfOと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb及び/又はTaと、第I族元素の原料化合物とTiOとを含む。ジルコニア複合焼結体の原料組成物は、乾燥した状態であってもよく、液体を含む状態又は液体に含まれる状態であってもよい。原料組成物は、例えば、粉末、顆粒又は造粒物、ペースト、スラリー等の形態であってもよい。
【0045】
得られるジルコニア複合焼結体が第I族元素を含むように、原料組成物は、第I族元素の原料化合物を含む。第I族元素の原料化合物としては、例えば、第I族元素の水酸化物及び/又は塩等が挙げられる。
【0046】
第I族元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウム等が挙げられる。
第I族元素の塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられる。
第I族元素の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸フランシウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
第I族元素の炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素フランシウム、炭酸水素セシウムが挙げられる。
第I族元素の水酸化物及び塩は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0047】
ZrOと、HfOについては、市販のジルコニア粉末を使用することできる。市販品としては、例えば、ジルコニア粉末(商品名「Zpex(登録商標)」(Yの含有率:3mol%)、「Zpex(登録商標)4」(Yの含有率:4mol%)、「Zpex(登録商標)4 Smile(登録商標)」(Yの含有率:5.5mol%)、「TZ-3Y」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3YS」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-4YS」(Yの含有率:4mol%)、「TZ-6Y」(Yの含有率:6mol%)、「TZ-6YS」(Yの含有率:6mol%)、「TZ-8YS」(Yの含有率:8mol%)、「TZ-10YS」(Yの含有率:10mol%)、「TZ-3Y-E」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3YS-E」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3YB-E」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3YSB-E」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3YB」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3YSB」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-3Y20AB」(Yの含有率:3mol%)、「TZ-8YSB」(Yの含有率:8mol%)、「TZ-0」(Yの含有率:0mol%);以上、東ソー株式会社製)等が挙げられる。前記市販のジルコニア粉末には、HfOも含まれている。市販品としては、Yも含まれているものを使用することもできる。ジルコニア粉末としては、本発明の原料組成物には、前記市販品のTZシリーズ(商品名の一部に「TZ」を含む)のように、Yを均一に分散固溶させたジルコニア粉末を使用することもできる。
【0048】
ジルコニア粉末の製造方法に特に制限はなく、例えば、粗粒子を粉砕して微粉化するブレークダウンプロセス、原子又はイオンから核形成及び成長過程により合成するビルディングアッププロセスなどの公知の方法を採用することができる。
【0049】
前記原料組成物におけるジルコニア粉末の種類は特に限定されず、ジルコニア粉末が、ZrOと、HfOとを含み、安定化剤を含まない場合又は必要に応じて安定化剤の含有率を増加させる場合、別途安定化剤の粒子を添加できる。安定化剤の粒子は、ジルコニア複合焼結体に含まれる安定化剤の含有率が前記した所定の範囲に調整できればよく、特に限定されない。
安定化剤の粒子は、例えば、市販品を用いてもよく、市販品の粉末を公知の粉砕混合装置(ボールミル等)で粉砕してから使用してもよい。
【0050】
前記安定化剤は、ZrO及びHfOに対して固溶していない安定化剤、ZrO及びHfOに対して固溶している安定化剤のいずれも用いることができる。
ある好適な実施形態においては、前記原料組成物において、目的とするジルコニア複合焼結体が容易に得られる一因となる点から、安定化剤(好適には、Y)が、ZrO及びHfOに対して固溶していない安定化剤を含むジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。安定化剤がジルコニアに固溶されていないものを含むことは、例えば、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンによって確認できる。
【0051】
原料組成物又は成形体のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、原料組成物又は成形体中においてZrO及びHfOに固溶されていない安定化剤が存在していることになる。
安定化剤の全量がZrO及びHfOに固溶している場合には、基本的に、XRDパターンにおいて安定化剤に由来するピークは確認されない。ただし、安定化剤の結晶状態等の条件によっては、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合であっても、安定化剤がZrO及びHfOに固溶されていないこともあり得る。
【0052】
安定化剤が、ZrO及びHfOに対して固溶していない安定化剤を含む場合について、安定化剤がイットリアを例として、以下に説明する。
【0053】
本発明の原料組成物又は成形体において、ZrO及びHfOに固溶されていないイットリア(以下において「未固溶イットリア」ということがある)の存在率fは、以下の数式(1)に基づいて算出することができる。
=I29/(I28+I29+I30)×100
(式中、fは未固溶イットリアの割合(%)を表し、XRD測定において、I28は単斜晶系のメインピークが現れる2θ=28°付近のピークの面積強度を表し、I29はイットリアのメインピークが現れる2θ=29°付近のピークの面積強度を表し、I30は正方晶系又は立方晶系のメインピークが現れる2θ=30°付近のピークの面積強度を表す。)
【0054】
また、イットリア以外の安定化剤を併せて用いる場合、I29の代わりに他の安定化剤のピークを代入することによって、イットリア以外の安定化剤の未固溶存在率の算出にも適用することができる。
【0055】
未固溶イットリアの存在率fは、目的とするジルコニア複合焼結体が容易に得られやすいなどの観点から、0%より大きいことが好ましく、1%以上であることがより好ましく、2%以上であることがさらに好ましく、3%以上であることが特に好ましい。未固溶イットリアの存在率fの上限は、例えば25%以下であってもよいが、好適には原料組成物又は成形体におけるイットリアの含有率に依存する。
【0056】
例えば、本発明の原料組成物又は成形体におけるイットリアの含有率が3mol%以上8mol%以下である場合、以下のとおりである。
イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fは15%以下とすることができる。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fは20%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.8mol%以上8mol%以下であるとき、fは25%以下とすることができる。
【0057】
例えば、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fは2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることが特に好ましい。
イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fは3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、6%以上であることがよりさらに好ましく、7%以上であることが特に好ましい。
イットリアの含有率が5.8mol%以上8mol%以下であるとき、fは4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、6%以上であることがさらに好ましく、7%以上であることがよりさらに好ましく、8%以上であることが特に好ましい。
【0058】
本発明の原料組成物又は成形体においては、該安定化剤の全部がZrO及びHfOに固溶されていなくてもよい。なお、本発明において、安定化剤が固溶するとは、例えば、安定化剤に含まれる元素(原子)がZrO及びHfOに固溶することをいう。
【0059】
本発明の原料組成物に添加するNb及び/又はTaは、ジルコニア複合焼結体に含まれるNb及び/又はTaの含有率が前記した所定の範囲に調整できればよく、特に限定されない。Nb及び/又はTaは、特に限定されず、例えば、市販品を用いてもよく、市販品の粉末を公知の粉砕混合装置(ボールミル等)で粉砕してから使用してもよい。
【0060】
原料組成物を作製する工程としては、例えば、前記原料組成物の各原料(ZrOと、HfOと、安定化剤と、Nb及び/又はTaと、第I族元素の原料化合物(例えば、第I族元素の水酸化物及び/又は塩)と、TiO)を、水を含む溶媒中で湿式混合して原料組成物を得る方法等が挙げられる。
【0061】
前記原料組成物に添加するTiOの形状としては、特に限定されず、粒状、針状等の形態であってもよいが、機械加工性により優れ、焼結体の連続加工によって得られる個数をより増加させやすい点から、粒状が好ましい。
【0062】
前記原料組成物に添加するTiOが粒状TiOである場合、TiOの平均粒子径は、原料の混合後に粉砕するため本発明の効果を奏する限り特に限定されず、7nm以上であってもよく、100μm以下であってもよい。粒状TiOの平均粒子径が限定されない理由は、他の原料成分の粉末と混合した際に、所望の平均粒子径になるまで、粉砕するため、原料として添加する粒状TiOが限定される理由がないためである。
TiOの平均粒子径は、優れた機械加工性が得られやすく、焼結体の連続加工によって得られる個数をより増加させやすい点から、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。また、TiOの平均粒子径は、優れた機械加工性が得られやすく、焼結体の連続加工によって得られる個数をより増加させやすい点から、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0063】
TiOの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法による測定値である。なお、凝集粒子などの1次粒子が集まってなる粒子の場合、1次粒子の平均粒子径と2次粒子の平均粒子径が存在するが、フィラーの平均粒子径としては、粒子径が大きくなる2次粒子の平均粒子径とする。
【0064】
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0065】
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均粒子径が算出される。
【0066】
前記各原料を、水を含む溶媒中で湿式混合する方法は、特に限定されず、例えば、各原料を公知の粉砕混合装置(ボールミル等)で湿式粉砕混合してスラリーを形成し、その後、スラリーを乾燥させて造粒し、顆粒状の原料組成物を作製してもよい。
【0067】
湿式混合工程において、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
前記バインダーは、ZrOと、HfOと、Yと、Nb及び/又はTaと、第I族元素の水酸化物及び/又は塩と、TiOとの混合物からなる一次粉末を水に添加してスラリーとした後に、粉砕した該スラリーに後から添加してもよい。
【0069】
前記バインダーは、特に限定されず、公知のものを使用することができる。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー(パラフィンワックス等)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂等が挙げられる。
【0070】
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸等が挙げられる。
【0071】
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(クエン酸三アンモニウム等)、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等)、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン塩型界面活性剤、オリゴ糖アルコール、ステアリン酸などが挙げられる。
【0072】
乳化剤としては、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体などが挙げられる。
【0073】
消泡剤としては、例えば、アルコール、ポリエーテル、シリコーン、ワックスなどが挙げられる。
【0074】
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウムを含む)などが挙げられる。
【0075】
潤滑剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ワックスなどが挙げられる。
【0076】
湿式混合に用いる溶媒としては、水を含む限り特に限定されず、有機溶媒を使用し、水と有機溶媒の混合溶媒を使用してもよく、水のみを使用してよい。有機溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン溶媒;エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ペンタジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオールなどのアルコール溶媒などが挙げられる。
【0077】
本発明において用いられるジルコニア複合焼結体の原料組成物は、本発明の効果を奏する限り、ZrO、Y、Nb、Ta、第I族元素の水酸化物及び/又は塩、TiO以外の他の成分を含有してもよい。該他の成分としては、例えば、着色剤(顔料、及び複合顔料)、蛍光剤、SiO等が挙げられる。他の成分は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
【0078】
前記顔料としては、例えば、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物(具体的には、NiO、Cr等)が挙げられ、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物が好ましく、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物がより好ましい。ただし、顔料から、Y及びCeOを除いてもよい。
【0079】
前記複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O、Fe(Fe,Cr)、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)・ZrSiO、(Co,Zn)Al等が挙げられる。
【0080】
前記蛍光剤としては、例えば、YSiO:Ce、YSiO:Tb、(Y,Gd,Eu)BO、Y:Eu、YAG:Ce、ZnGa:Zn、BaMgAl1017:Eu等が挙げられる。
【0081】
次に、得られた原料組成物を成形して、成形体を作製する。成形方法は、特に限定されず、公知の方法(例えば、プレス成形等)を使用することができる。
【0082】
原料組成物をプレス成形する工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、プレス成形の具体的な方法に特に制限はなく、公知のプレス成形機を用いて行うことができる。プレス成形の具体的な方法としては、例えば、一軸プレスなどが挙げられる。
【0083】
プレス圧は、目的とする成形体のサイズ、開気孔率、2軸曲げ強さ、原料粉末の粒子径により適宜最適な値が設定され、通常は5MPa以上1000MPa以下である。前記製造方法における成形時のプレス圧を高くすることによって、得られる成形体の気孔がより埋まり、開気孔率を低く設定でき、成形体の密度を上げることができる。また、得られるジルコニア成形体の密度を上げるため、一軸プレスした後に冷間等方圧加圧(CIP)処理をさらに施してもよい。
【0084】
次に、得られた成形体を焼結する。
「成形体」とは、半焼結状態(仮焼状態)、焼結状態のいずれにも至っていないものを意味する。すなわち、成形体は、成形により成形体とした後に未焼成である点で、仮焼体及び焼結体とは区別される。
ジルコニア複合焼結体を得るための焼結温度(最高焼結温度)は、例えば、1300℃以上が好ましく、1350℃以上がより好ましく、1400℃以上がさらに好ましく、1450℃以上がよりさらに好ましく、1500℃以上が特に好ましい。また、該焼結温度は、例えば、1680℃以下が好ましく、1650℃以下がより好ましく、1600℃以下がさらに好ましい。本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法としては、成形体を最高焼結温度1300~1680℃で焼成することが好ましい。前記最高焼結温度は、大気中での温度であることが好ましい。
【0085】
最高焼結温度における保持時間(係留時間)は、温度にもよるが、30時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましく、5時間以下がよりさらに好ましく、3時間以下が特に好ましく、2時間以下が最も好ましい。さらに、該保持時間は25分以下、20分以下、又は15分以下とすることもできる。また、該保持時間は1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。本発明の製造方法によれば、安定化剤の含有率に応じて、曲げ強さ、透光性、及び機械加工性において優れるジルコニア複合焼結体を作製できる。また、本発明の効果を得られる限り、焼結時間を短縮してもよい。焼結時間を短縮することにより、生産効率を高めるとともに、エネルギーコストを低減させることができる。
【0086】
本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記成形体を焼結する際、昇温速度は特に限定されず、0.1℃/分以上であることが好ましく、0.2℃/分以上であることがより好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましい。また、昇温速度は、50℃/分以下であることが好ましく、30℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。昇温速度が上記下限以上であることにより生産性が向上する。
【0087】
前記成形体を焼結する工程には、一般的な歯科ジルコニア用焼成炉を使用することができる。歯科ジルコニア用焼成炉としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、ノリタケ カタナ(登録商標) F-1、F-1N、F-2(以上、SK メディカル電子株式会社)等が挙げられる。
【0088】
さらに、成形体を焼結する工程は、前記した最高焼結温度における焼結以外に、熱間静水圧プレス(Hot Isostatic Pressing;HIP)処理する工程を含むことが好ましい。HIP処理によって、ジルコニア複合焼結体の透光性及び強度をさらに向上させることができる。
【0089】
以下において、前記した最高焼結温度における焼結によって得られる焼結体を「一次焼結体」と称し、HIP処理後の焼結体を「HIP処理焼結体」と称する。
【0090】
HIP処理は、公知の熱間静水圧プレス(HIP)装置を用いて行うことができる。
【0091】
HIP処理の温度は、特に限定されないが、強度が高い緻密なジルコニア複合焼結体を得ることができることなどから、HIP温度は、1200℃以上であることが好ましく、1300℃以上であることがより好ましく、1400℃以上であることがさらに好ましい。また、HIP温度は、1700℃以下であることが好ましく、1650℃以下であることがより好ましく、1600℃以下であることがさらに好ましい。
【0092】
本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、HIP圧力は特に限定されず、強度が高い緻密な焼結体を得ることができることなどから、HIP圧力は、100MPa以上であることが好ましく、125MPa以上であることがより好ましく、130MPa以上であることがさらに好ましい。また、HIP圧力の上限は特に限定されないが、例えば、400MPa以下、300MPa以下、さらには200MPa以下とすることができる。
【0093】
本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、昇温速度は特に限定されず、0.1℃/分以上であることが好ましく、0.2℃/分以上であることがより好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましい。また、昇温速度は、50℃/分以下であることが好ましく、30℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。昇温速度が上記下限以上であることにより生産性が向上する。
【0094】
本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、HIP時間は特に限定されず、強度が高い緻密なジルコニア複合焼結体を得ることができることなどから、HIP処理の時間は、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。また、HIP処理の時間は、10時間以下であることが好ましく、6時間以下であることがより好ましく、3時間以下であることがさらに好ましい。
【0095】
本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、圧力媒体は特に限定されず、ジルコニアへの影響が低い観点から、圧力媒体は、酸素、3%水素を含む酸素、空気、及び不活性ガス(例えば窒素、アルゴン等)からなる群から選ばれる少なくとも1種を選択できる。
酸素混合ガス雰囲気下で、前記一次焼結体をHIP処理する場合、酸素濃度は、特に限定されないが、例えば、0%超20%以下とすることができる。
酸素混合ガスを使用する場合における酸素以外のガスとしては、不活性ガス(例えば窒素、アルゴン等)の少なくとも1種を選択できる。
【0096】
本発明のジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記HIP処理の際に不活性ガスを使用する等、還元雰囲気にて行うと、酸素欠陥により黒変が生じることがある。その場合、黒変を取り除くため、前記HIP処理する工程後に、1650℃以下で大気中又は酸素過剰雰囲気にて熱処理する工程(以下、「焼き戻し処理」とも称する)を含むことが好ましく、効率的に熱処理を行う観点から、酸素過剰雰囲気にて行うことがより好ましい。酸素過剰雰囲気とは、酸素濃度が大気中より多いことを意味する。酸素過剰雰囲気としては、酸素濃度21%超100%以下であれば特に限定されず、この範囲から適宜選択できる。例えば、酸素濃度100%としてもよい。
【0097】
本発明のジルコニア複合焼結体は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されず、一次焼結体であってもよく、HIP処理焼結体であってもよく、焼き戻し処理後の焼結体であってもよい。
ある好適な実施形態としては、焼き戻し処理後の焼結体であるジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0098】
ジルコニア複合焼結体の審美性(例えば、歯科用補綴物のシェード)に応じて、大気中又は酸素過剰雰囲気における熱処理の温度は、適宜変更できる。
ある好適な実施形態においては、大気中又は酸素過剰雰囲気における熱処理の温度は、ジルコニア複合焼結体の審美性の点から、1650℃以下であることが好ましく、1600℃以下であることがより好ましく、1550℃以下であることがさらに好ましい。
他の好適な実施形態においては、大気中又は酸素過剰雰囲気における熱処理の温度は、ジルコニア複合焼結体の審美性の点から、1400℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることがさらに好ましい。
さらに、いずれの実施形態においても、該熱処理の温度は、500℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましく、700℃以上であることがさらに好ましい。
【0099】
前記焼き戻し処理には、一般的な歯科ジルコニア用焼成炉を使用することができる。歯科ジルコニア用焼成炉としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、ノリタケ カタナ(登録商標) F-1、F-1N、F-2(以上、SK メディカル電子株式会社)等が挙げられる。
【0100】
本発明のジルコニア複合焼結体は、焼結体であるにもかかわらず、機械加工性に優れるため、半焼結状態の仮焼体のミルブランクの状態で機械加工したのち、焼結させて焼結体とする必要がない。
一方、ジルコニア複合焼結体の製造方法としては、前記原料組成物を用いて得られる成形体を仮焼して半焼結状態の仮焼体として製造し、未加工の仮焼体を機械加工してから、焼結体とする製造方法としてもよい。
【0101】
ある他の実施形態としては、前記原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、得られた成形体を仮焼して、ジルコニア仮焼体を得る工程(仮焼工程)と、ジルコニア仮焼体を焼結する工程とを含む、
ジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。
【0102】
仮焼工程における焼成温度(仮焼温度)は、ブロック化を確実にするため、例えば、800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、950℃以上がさらに好ましい。
また、仮焼温度は、例えば、1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下がさらに好ましい。仮焼温度としては、例えば、800℃~1200℃であることが好ましい。このような仮焼温度であれば、仮焼工程において安定化剤の固溶は大きく進行しないと考えられる。
【0103】
本発明のジルコニア仮焼体は、ZrO粒子同士がネッキング(固着)しており、ZrO粒子(粉末)が完全には焼結していない状態(半焼結状態)であるものを意味する。
【0104】
ジルコニア仮焼体の密度は2.7g/cm以上が好ましい。また、ジルコニア仮焼体の密度は4.0g/cm以下が好ましく、3.8g/cm以下がより好ましく、3.6g/cm以下がさらに好ましい。この密度範囲にある場合、加工を容易に行うことができる。仮焼体の密度は、例えば、(仮焼体の質量)/(仮焼体の体積)として算出することができる。
【0105】
また、ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、15~70MPaが好ましく、18~60MPaがより好ましく、20~50MPaがさらに好ましい。
前記曲げ強さは、厚み5mm×幅10mm×長さ50mmの試験片を用い、試験片のサイズ以外はISO 6872:2015に準拠して測定することができる。該試験片の面及びC面(試験片の角を45°の角度で面取りした面)は、600番のサンドペーパーで長手方向に面仕上げする。該試験片は、最も広い面が鉛直方向(荷重方向)を向くように配置する。曲げ試験測定において、スパンは30mm、クロスヘッドスピードは1.0mm/分とする。
【0106】
ジルコニア仮焼体を焼結する工程は、前記した成形体を焼結する工程と同様の方法及び条件(温度、圧力等)で行うことができる。そのため、ジルコニア仮焼体を用いる製造方法の実施形態においては、「成形体」を「仮焼体」に読み替えることもできる。
【0107】
本発明のジルコニア複合焼結体は強度に優れる。本発明のジルコニア複合焼結体の2軸曲げ強さは、350MPa以上であることが好ましく、400MPa以上であることがより好ましく、450MPa以上であることがさらに好ましく、450MPa以上であることがよりさらに好ましく、500MPa以上であることが特に好ましい。本発明のジルコニア複合焼結体がこのような2軸曲げ強さを有することで、例えば歯科用補綴物として用いた際に口腔内での破折などを抑制することができる。当該2軸曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該2軸曲げ強さは、例えば、1200MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお、ジルコニア複合焼結体の2軸曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定できる。
【0108】
本発明のジルコニア複合焼結体は高い透光性を有していることが好ましい。透光性は、ΔL*で評価できる。透光性に関して、具体的には、本発明のジルコニア複合焼結体は、直径15mm、厚さ1.2mmにおけるΔL*が10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、13以上であることがさらに好ましく、14以上であることが特に好ましい。当該ΔL*が上記のような範囲内であることにより、透光性の高いジルコニア複合焼結体が得られる。
【0109】
ΔL*は、同一の試料における白背景での明度(第1のL*値)と、黒背景での明度(第2のL*値)との差を意味する。具体的には、白背景でのL*値(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)と、黒背景でのL*値の差を意味する。白背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。
【0110】
ΔL*の上限に特に制限はないが、例えば、25以下、審美性の点から、さらには20以下とすることができる。
【0111】
なお、ジルコニア複合焼結体の直径15mm、厚さ1.2mmにおけるΔL*は分光測色計を用いて測定でき、例えば、歯科用測色装置(「クリスタルアイ CE100-CE/JP」、7band LED光源、解析ソフト「クリスタルアイ」(オリンパス株式会社製))を用い、測定できる。
【0112】
本発明のジルコニア複合焼結体にて製造される歯科用補綴物としては、例えば、インレー、アンレー、ベニア、クラウン、コア一体型クラウン、ブリッジ等の歯冠修復物の他、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント)等が挙げられる。また、機械加工は、例えば市販の歯科用CAD/CAMシステムを用いて行うことが好ましい。かかるCAD/CAMシステムの例としては、デンツプライシロナデンタルシステムズ株式会社製のCERECシステム、クラレノリタケデンタル株式会社製の「カタナ(登録商標) システム」が挙げられる。
【0113】
また、本発明のジルコニア複合焼結体は、歯科用途以外の用途にも用いることができ、特に異形状ないし複雑形状と強度を必要とするジルコニア部材に好適に用いられる。
既存の製造方法(射出成形、CIP、鋳込み成形、又は3Dプリンティング等)のみで製造した焼結体に比べて、本発明のジルコニア複合焼結体は、焼結体をそのまま加工可能である。そのため、例えば、短時間で所望のジルコニア部材が得られる場合は経済的であり、従来の製造方法で製造し難い複雑形状部品の場合は複数の部材を機械的嵌合で得ていく必要が無くなるため高い強度を維持したジルコニア部材を得ることが可能である。さらに、焼結体をそのまま加工可能であることから、寸法精度が必要な場合は焼結工程が不要となり、不均一な焼成収縮が無くなるためジルコニア部材が高い精度で得られる。具体的には、宝飾用途、航空機、自動車等のモビリティのエンジン部材及び内装部材、表示パネルの枠材、建築用部材、電化製品部材、家庭用品部材、玩具類の部品を製造する方法としても用いることができる。
また、本ジルコニア部材と異種材料とを嵌合して複合部材として用いてもよい。
【0114】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成の全部又は一部を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例
【0115】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、下記実施例及び比較例において、平均粒子径とは平均一次粒子径であり、レーザー回折散乱法により求めることができる。具体的にはレーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0116】
[実施例1~34及び比較例1~8]
各実施例及び比較例の測定サンプルは、顆粒状の原料組成物の作製、成形体の作製、焼結体の作製(一次焼結体の作製、HIP処理、及び焼き戻し処理)の工程を経て作製した。
【0117】
[顆粒状の原料組成物の作製]
各実施例及び比較例の顆粒状の原料組成物を作製するため、市販のZrO粉末、Y粉末、Nb粉末、Ta粉末、TiO粉末、第I族元素の原料化合物を表1~表3に記載の組成になるように混合し、水を添加してスラリーを作製し、平均粒子径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕混合した。粉砕後のスラリーにバインダーを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、顆粒状の原料組成物(以下、単に「原料組成物」とも称する)を作製し、後述の成形体の製造に用いた。前記平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定した値である。
なお、実施例5においては、TZ-3Y(Yの含有率:3mol%):TZ-6Y(Yの含有率:6mol%)=18.7:81.3で混合し、各成分の割合が表1に記載の配合割合になるように調整した。
【0118】
[成形体の作製]
各実施例及び比較例について、透光性及び強度評価用と加工性評価用の焼結体サンプルが得られるように、ペレット形状の成形体と、ブロック形状の成形体とを以下の通り作製した。
ペレット形状の成形体では、直径19mmの円柱状金型を使用し、焼結後のジルコニア複合焼結体の厚さが1.2mmとなるように前記原料組成物を金型に入れた。
次に、原料組成物を一軸プレス成形機によって、面圧200MPaでプレス成形して、ペレット形状の成形体を作製した。
【0119】
また、ブロック形状の成形体では、内寸19mm×18mmの金型に、焼結後のジルコニア複合焼結体の高さが14.5mmとなるように前記原料組成物を入れた。
次に、原料組成物を一軸プレス成形機によって、面圧200MPaでプレス成形して、ブロック形状の成形体を作製した。
【0120】
[一次焼結体の作製]
得られたペレット形状及びブロック形状の成形体について、SKメディカル電子株式会社製の焼成炉「ノリタケ カタナ(登録商標)F-1」を用いて、大気中で表1~表3に記載の最高焼結温度にて2時間係留することにより、ペレット形状及びブロック形状のジルコニア複合焼結体(一次焼結体)の試料を得た。
【0121】
[HIP処理焼結体の作製]
得られたペレット形状及びブロック形状のジルコニア複合焼結体(一次焼結体)について、株式会社神戸製鋼所製HIP装置「O-Dr.HIP」を用いて、150MPaで表1~表3に記載のHIP温度にて2時間係留することにより、ペレット形状及びブロック形状のジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)の試料を得た。
【0122】
[ジルコニア複合焼結体(焼き戻し処理後の焼結体)の作製]
得られたペレット形状及びブロック形状のジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)について、SKメディカル電子株式会社製の焼成炉「ノリタケ カタナ(登録商標)F-1」を用いて、700℃にて60時間係留することにより、ペレット形状及びブロック形状のジルコニア複合焼結体(焼き戻し処理後の焼結体)の試料を得た。得られた試料のサイズについて、ペレット形状は直径15mm×厚さ1.2mmであり、ブロック形状は幅15.7mm×長さ16.5mm×高さ14.5mmであった。
【0123】
なお、表1~表3における焼結体の各成分の含有率は、原料の仕込み量から算出した値である。
表1~表3における第I族元素の含有率(mol%)は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%に対する外部添加率である。
表1~表3におけるZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaのそれぞれの含有率(mol%)は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100mol%における各成分の含有率である。ZrO及びHfOについてのみ、ZrO及びHfOの合計含有率として示す。
表1~表3におけるTiOの含有率(質量%)は、ZrO、HfO、前記安定化剤、Nb、及びTaの合計100質量%に対する外部添加率である。
表1~表3におけるA/Bは、Yの含有率をAmol%とし、Nb及びTaの合計含有率をBmol%としたときのBに対するAの比率を表す。
【0124】
[ジルコニア複合焼結体の透光性評価]
各実施例及び比較例のペレット形状のジルコニア複合焼結体(焼き戻し処理後の焼結体)の試料(直径約15mm×厚さ1.2mm)をそのまま用いて、透光性を以下の方法により評価した(n=3)。測定装置として、オリンパス株式会社製歯科用測色装置「クリスタルアイ」(7band LED光源)を用い、まず、試料の背景(下敷き)を白色にして(試料に対して測定装置と反対側を白色にして)L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)のL*値を測定し、第1のL*値とした。次に、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景(下敷き)を黒色にして(試料に対して測定装置と反対側を黒色にして)L*a*b*表色系のL*値を測定し、第2のL*値とした。
本発明においては、第1のL*値と第2のL*値との差(第1のL*値から第2のL*値を控除した値)を透光性とし、ΔL*と表記した。ΔL*が高ければ透光性が高く、ΔL*が低ければ透光性が低いことを示す。色度測定の際に背景(下敷き)とする黒色及び白色は、JIS K 5600-4-1:1999に記載される塗料に関する測定に使用する隠ぺい率試験紙を使用することができる。各試料のΔL*の平均値を結果として表1~表3に示す。
ΔL*としては、10以上を合格とした。
【0125】
[ジルコニア複合焼結体の強度評価]
各実施例及び比較例のペレット形状のジルコニア複合焼結体(焼き戻し処理後の焼結体)の試料をそのまま用いて、2軸曲げ強さを、万能試験機「AGS-X」(株式会社島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピードを1.0mm/minに設定して、ISO6872:2015に従って測定した(n=5)。平均値を測定結果として表1~表3に示す。強度としては、350MPa以上を合格とした。
【0126】
[焼結体中の平均結晶粒径の測定方法]
各実施例及び比較例のペレット形状のジルコニア複合焼結体(焼き戻し処理後の焼結体)において、走査電子顕微鏡(商品名「VE-9800」、株式会社キーエンス製)にて表面の撮像を得た。得られた像に各結晶粒子の粒界を記載した後、画像解析にて平均結晶粒径を算出した。
平均結晶粒径の計測には画像解析ソフトウェア(商品名「Image-Pro Plus」、伯東株式会社製)を用い、取り込んだSEM像を二値化して、粒界が鮮明となるように輝度範囲を調節し、視野(領域)から粒子を認識させた。Image-Pro Plusで得られる結晶粒径とは、結晶粒子の外形線から求まる重心を通る外形線同士を結んだ線分の長さを、重心を中心として2度刻みに測定して平均化したものであり、各実施例及び比較例のSEM写真像(3視野)において、画像端にかかっていない粒子全ての結晶粒径の平均値を、焼結体中の平均結晶粒径(個数基準)とした。
「画像端にかかっていない粒子」とは、SEM写真像の画面内に、外形線が入りきらない粒子(上下左右の境界線上で外形線が途切れる粒子)を除いた粒子を意味する。画像端にかかっていない粒子全ての結晶粒径は、Image-Pro Plusにおいて、すべての境界線上の粒子を除外するオプションで選択した。
【0127】
実施例1のジルコニア複合焼結体における結晶粒子の平均結晶粒径は2.7μmであり、実施例14のジルコニア複合焼結体における結晶粒子の平均結晶粒径は2.2μmであった。
【0128】
[ジルコニア複合焼結体の加工性評価]
各実施例及び比較例のブロック形状のジルコニア複合焼結体(焼き戻し処理後の焼結体)の試料について、幅約15.7mm×高さ14.5mmの面に金属製の治具を接着した試料を30個用意し、CERECシステム「MC-XL」(Dentsply Sirona社製)を用いて一般的な前歯の歯冠形状に加工した。加工プログラムはソフトウェア「inLab(登録商標)CAM virsion 20.0.1.203841」を用い、Manufacture:IVOCLAR VIVADENT、Material name:IPS e.max CAD、Production Method:Grinding、Block size:C16を選択し、加工用工具はStep Bur 12、Cylinder Pointed Bur 12Sを用いた。
【0129】
[加工時間]
表1~表3に示した加工時間は、新品の加工用工具を用い、上記の[ジルコニア複合焼結体の加工性評価]に記載の条件で試料の加工を開始し、1つ目の試料1個を加工完了するまでに要した時間である。
また、加工時の負荷等によってエラーが起き、CERECシステム「MC-XL」が加工途中で停止した場合は、新品の加工用工具に付け換え、加工を再開した。試料1個を加工完了するまで、この操作を繰り返し、要した時間を加工時間とした。
【0130】
[加工個数]
表1及~表3に示した加工個数とは、新品の1組の加工用工具を用い、上記の[ジルコニア複合焼結体の加工性評価]に記載の条件で試料の加工を開始し、加工用工具を一度も交換せずに前歯の歯冠形状に加工できた試料数である。試験に使用する試料は最大30個とし、30個まで1つの加工用工具で加工が完了できた場合は、追加の加工試験は行わず、一律に「30個以上」とした。
また、1個目の試料の加工を完了する前に、加工時の負荷等によってエラーが起き、MC-XLが加工途中で停止した場合は新品の加工用工具に付け換え、加工を再開する。試料1個を加工完了するまで、この操作を繰り返し、使用した加工用工具の数の逆数を加工個数とした。例えば、表3の比較例1の「0.2個」は、5個の加工用工具を使用して、1個の前歯の歯冠形状に加工された試料が得られたことを意味する。結果を下記表1~表3に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
上記結果から、本発明のジルコニア複合焼結体は、歯科用として好適な強度と透光性を有し、かつ機械加工性に優れることが確認できた。
また、実施例1~34では、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具で連続して加工できる歯科用補綴物の個数を従来技術に比べて増加させることができた。
一方、第I族元素を含まない比較例1及び2では、加工時間の短縮が十分ではなかった。
TiOを含まない比較例3及び8では、強度が十分ではなかった。
Nbの含有率が多すぎる比較例4及びYの含有率が少なすぎる比較例7では、試料に欠け又は剥離が発生し、物性を測定できなかった。
Nbの含有率が少なすぎる比較例5では、加工時間の短縮が十分ではなかった。Yの含有率が多すぎる比較例6では、加工時間の短縮が十分ではなかった。
【0135】
また、TiOは、特許文献1では、添加量を増加すると、添加量に比例して強度が低下することが示されているが(図7)、本発明のジルコニア複合焼結体において、Nb及び/又はTaが成分として含まれる場合に、さらに第I族元素とTiOとを含むことによってこれらの成分が一体的に作用し、ジルコニア複合焼結体の透光性及び強度を向上でき、優れた機械加工性、透光性及び強度を兼ね備えるジルコニア複合焼結体が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のジルコニア複合焼結体は、好適な強度と透光性を有し、かつ機械加工性に優れる。特に、歯科治療用途を目的とした歯科用補綴物等の歯科材料として有用である。