(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C5/00 H
(21)【出願番号】P 2020162091
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大地
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-136667(JP,A)
【文献】特開2020-015461(JP,A)
【文献】特開2013-159320(JP,A)
【文献】特開2019-051773(JP,A)
【文献】特開2019-051935(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178167(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面に吸音材が装着され
ると共に、車両に対する装着方向が表示された空気入りタイヤにおいて、前記
タイヤ内面に装着された全ての吸音材はタイヤ子午線断面においてタイヤ径方向高さが最大となる単一の頂点を含む内周面を有し、該内周面はタイヤ軸方向に対して平行な面及びタイヤ子午線断面において窪んだ谷部を含まずに前記頂点から前記吸音材の外端位置に向かってタイヤ径方向高さが連続的に減少し、前記頂点から前記外端位置までのタイヤ軸方向の距離の70%となる位置において前記内周面上に中間点を規定したとき、前記頂点と前記中間点とを結ぶ仮想直線がタイヤ軸方向に対してなす角度αが前記吸音材の水に対する滑落開始角度βに対してα>βの関係を満足
し、
前記頂点が前記吸音材の幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在し、前記内周面が前記頂点から車両外側に向かって延びる外側傾斜面と前記頂点から車両内側に向かって延びる内側傾斜面とを有し、前記外側傾斜面のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α
1
及び前記内側傾斜面のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α
2
が60°≦α
1
≦90°かつ10°≦α
2
≦45°の範囲内にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記頂点がタイヤ幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在することを特徴とする請求項
1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記吸音材がタイヤ周方向に沿って延在し、前記吸音材がタイヤ周方向の少なくとも1箇所に欠落部を有し、各欠落部のタイヤ周方向の長さが5mm~150mmの範囲にあることを特徴とする請求項1~
2のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記吸音材の外表面が撥水加工されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記吸音材が非接着状態で前記タイヤ内面に装着されていることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内面に吸音材が装着された空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、パンク修理液が吸音材に吸収されることを抑制し、パンク修理性能を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、騒音の低減を目的として、タイヤ内面に吸音材が装着されたものがある。一方、空気入りタイヤがパンクした場合、リムのバルブからタイヤ内にパンク修理液を注入する場合がある(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
しかしながら、タイヤ内面に吸音材が装着された空気入りタイヤでは、バルブから注入されたパンク修理液が吸音材に直接当たることにより、パンク修理液が吸音材に吸収されてしまうという問題がある。その結果、タイヤ内で流動可能なパンク修理液の減少により、パンク修理性能が悪化することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018/143127号
【文献】特許第6481080号公報
【文献】特許第5347555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、パンク修理液が吸音材に吸収されることを抑制し、パンク修理性能を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内面に吸音材が装着されると共に、車両に対する装着方向が表示された空気入りタイヤにおいて、前記タイヤ内面に装着された全ての吸音材はタイヤ子午線断面においてタイヤ径方向高さが最大となる単一の頂点を含む内周面を有し、該内周面はタイヤ軸方向に対して平行な面及びタイヤ子午線断面において窪んだ谷部を含まずに前記頂点から前記吸音材の外端位置に向かってタイヤ径方向高さが連続的に減少し、前記頂点から前記外端位置までのタイヤ軸方向の距離の70%となる位置において前記内周面上に中間点を規定したとき、前記頂点と前記中間点とを結ぶ仮想直線がタイヤ軸方向に対してなす角度αが前記吸音材の水に対する滑落開始角度βに対してα>βの関係を満足し、
前記頂点が前記吸音材の幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在し、前記内周面が前記頂点から車両外側に向かって延びる外側傾斜面と前記頂点から車両内側に向かって延びる内側傾斜面とを有し、前記外側傾斜面のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α
1
及び前記内側傾斜面のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α
2
が60°≦α
1
≦90°かつ10°≦α
2
≦45°の範囲内にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、タイヤ内面に吸音材が装着された空気入りタイヤにおいて、吸音材はタイヤ子午線断面においてタイヤ径方向高さが最大となる単一の頂点を含む内周面を有し、内周面はタイヤ軸方向に対して平行な面及びタイヤ子午線断面において窪んだ谷部を含まずに頂点から吸音材の外端位置に向かってタイヤ径方向高さが連続的に減少し、頂点から外端位置までのタイヤ軸方向の距離の70%となる位置において内周面上に中間点を規定したとき、頂点と中間点とを結ぶ仮想直線がタイヤ軸方向に対してなす角度αが吸音材の水に対する滑落開始角度βに対してα>βの関係を満足しているので、バルブからタイヤ内に注入されたパンク修理液が吸音材に掛かった場合でも、そのパンク修理液がタイヤ内面に向かって迅速に流れ落ちる。これにより、パンク修理液が吸音材に吸収されることを抑制し、パンク修理性能を改善することができる。
【0008】
車両に対する装着方向が表示された空気入りタイヤにおいては、頂点が吸音材の幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在し、内周面が頂点から車両外側に向かって延びる外側傾斜面と頂点から車両内側に向かって延びる内側傾斜面とを有することが好ましい。パンク修理液は一般的に車両外側から注入され、車両内側に向かって勢い良く流入する。上述のように頂点が吸音材の幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在する場合、車両内側の内側傾斜面の長さが相対的に大きくなるが、車両内側に向かうパンク修理液の流速が速いため、そのパンク修理液は内側傾斜面上を迅速に流れることになる。一方、車両外側の外側傾斜面はタイヤ軸方向に対する傾斜角度が相対的に大きくなるため、外側傾斜面に当たったパンク修理液はタイヤ内面に向かって迅速に落下することになる。これにより、パンク修理液が吸音材に吸収されることを抑制し、パンク修理時間を短縮することができる。
【0009】
特に、外側傾斜面のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α1及び内側傾斜面のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α2は60°≦α1≦90°かつ10°≦α2≦45°の範囲内にあることが好ましい。これにより、内側傾斜面に当たったパンク修理液が内側傾斜面上を迅速に流れる一方で、外側傾斜面に当たったパンク修理液はタイヤ内面に向かって迅速に落下する。なお、傾斜角度α1,α2の両方を一律に大きくした場合、パンク修理液はタイヤ内面に向かって迅速に落下することになるが、この場合、吸音材の体積が小さくなり、吸音性能を十分に確保することが困難になる。そのため、上述のような非対称構造を採用することで、吸音性能を十分に確保しながら、吸音材によるパンク修理液の吸収量を可及的に低減し、パンク修理時間を短縮することができる。
【0010】
また、車両に対する装着方向が表示された空気入りタイヤにおいて、頂点がタイヤ幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在することが好ましい。このように吸音材の頂点がタイヤ幅方向中心位置よりも車両外側の位置に偏在することにより、パンク修理液の流入経路を阻害せずに、パンク修理液を効果的に導入することが可能となる。これにより、吸音材によるパンク修理液の吸収量を可及的に低減し、パンク修理時間を短縮することができる。
【0011】
本発明において、吸音材がタイヤ周方向に沿って延在する場合、その吸音材がタイヤ周方向の少なくとも1箇所に欠落部を有し、各欠落部のタイヤ周方向の長さが5mm~150mmの範囲にあることが好ましい。これにより、タイヤ内に注入されたパンク修理液が欠落部を通って吸音材の両側に移動可能になるので、パンク修理性能を効果的に改善することができる。
【0012】
吸音材の外表面は撥水加工されていることが好ましい。このように吸音材の外表面が撥水加工されていることにより、パンク修理液が吸音材の外表面を迅速に流れるようになるため、吸音材によるパンク修理液の吸収量を可及的に低減し、パンク修理時間を短縮することができる。
【0013】
吸音材は非接着状態でタイヤ内面に装着されていることが好ましい。このように吸音材は非接着状態でタイヤ内面に装着されていることにより、これら吸音材とタイヤ内面とが互いに密着しない状態となり、その隙間にパンク修理液が流れ込み易くなるため、パンク修理時間を短縮することができる。
【0014】
本発明において、タイヤ子午線断面における各寸法は、空気入りタイヤを正規リムに組み付けて180kPaの内圧を充填した状態でのタイヤ形状に基づいて特定されるものとする。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】吸音材の水に対する滑落開始角度βの測定方法を示す側面図である。
【
図3】
図1の空気入りタイヤにおけるパンク修理液の注入状態を示す子午線断面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図9】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図11】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図12】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図13】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図14】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図15】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図16】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図17】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図18】本発明における吸音材の変形例を示す子午線断面図である。
【
図19】本発明における吸音材の他の変形例を示す子午線断面図である。
【
図20】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図21】
図20の空気入りタイヤにおけるパンク修理液の注入状態を示す子午線断面図である。
【
図22】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤにおけるパンク修理液の注入状態を示す子午線断面図である。
【
図23】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す赤道線断面図である。
【
図24】
図23の空気入りタイヤにおけるパンク修理液の流動状態を示す切り欠き平面図である。
【
図25】空気入りタイヤにおけるシール可能時間の測定試験状態を例示する子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図1において、空気入りタイヤTと該空気入りタイヤTが組み付けられたリムRとの組立体が構成されている。
【0017】
空気入りタイヤTは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。トレッド部1には複数層のベルト層4が埋設されている。これらベルト層4はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層4の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用されている。
【0018】
空気入りタイヤTにおいて、タイヤ内面5におけるトレッド部1に対応する領域には、タイヤ周方向に沿って延在する帯状の吸音材6が装着されている。吸音材6は、連続気泡を有する樹脂発泡体により構成されている。連続気泡を有する樹脂発泡体としては、ポリウレタンフォーム等が挙げられる。吸音材6のタイヤ子午線断面における形状は特に限定されるものではないが、
図1の例では三角形になっている。
【0019】
一方、リムRはホイールの一部を構成し、空気入りタイヤTのビード部3に沿って環状に延在している。リムRには空気入りタイヤTの空洞部内に連通するバルブ11が配設されている。バルブ11は車両に対して外側となる位置に配設されている。
【0020】
上述した空気入りタイヤTにおいて、吸音材6はタイヤ子午線断面においてタイヤ径方向高さが最大となる単一の頂点Pmを含む内周面Sを有している。吸音材6の内周面Sは、タイヤ軸方向に対して平行な面及びタイヤ子午線断面において窪んだ谷部を含まずに、頂点Pmから吸音材6の幅方向の外端位置Peに向かってタイヤ径方向高さが連続的に減少するように構成されている。頂点Pmから外端位置Peまでのタイヤ軸方向の距離Dの70%となる位置において内周面S上に中間点P70を規定したとき、頂点Pmと中間点P70とを結ぶ仮想直線Lがタイヤ軸方向に対してなす角度αが後述する吸音材6の水に対する滑落開始角度βに対してα>βの関係を満足している。
【0021】
図2は吸音材の水に対する滑落開始角度βの測定方法を示すものである。
図2において、吸音材6と同じ材料から構成された平板状の試験片16は水平面Hに対する傾斜角度を変更自在に支持されている。そして、室温25℃±2°、相対湿度50%の条件下で、水平状態の試験片16上に500μLの純水を高さ1cmの位置から滴下し、1°/秒の速度で試験片16を傾斜させ、水滴17が滑落し始めたときの滑落開始角度βを求める。
【0022】
図3は
図1の空気入りタイヤにおけるパンク修理液の注入状態を示すものである。空気入りタイヤTがパンクした場合、
図3に示すように、リムRのバルブ11から空気入りタイヤTの空洞部内にパンク修理液12を注入する。その際、パンク修理液12は圧縮空気と共にバルブ11から勢い良く注入されるが、その少なくとも一部は吸音材6上に落下する。そして、パンク修理液12が吸音材6上に留まっていると、そのパンク修理液12が吸音材6により吸収されてパンク修理性能が低下することになる。
【0023】
しかしながら、上述した空気入りタイヤTでは、吸音材6はタイヤ子午線断面においてタイヤ径方向高さが最大となる単一の頂点Pmを含む内周面Sを有し、内周面Sはタイヤ軸方向に対して平行な面及びタイヤ子午線断面において窪んだ谷部を含まずに頂点Pmから吸音材6の外端位置Peに向かってタイヤ径方向高さが連続的に減少し、頂点Pmと中間点P70とを結ぶ仮想直線Lがタイヤ軸方向に対してなす角度αが吸音材6の水に対する滑落開始角度βに対してα>βの関係を満足しているので、バルブ11からタイヤ内に注入されたパンク修理液12が吸音材6に掛かった場合でも、そのパンク修理液12がタイヤ内面5に向かって迅速に流れ落ちる。これにより、パンク修理液12が吸音材6に吸収されることを抑制し、パンク修理性能を改善することができる。
【0024】
吸音材6の内周面Sの角度αは滑落開始角度βに対してα≧β×1.2の関係を満足すると良い。これにより、パンク修理液12の吸音材6からの落下を促進し、パンク修理性能を効果的に改善することができる。また、角度αの上限値が過大になると吸音材6の体積が減少し、吸音性能が低下することになる。そのため、吸音材6の内周面Sの角度αは頂点Pmの両側の平均値で60°以下であることが望ましい。また、吸音材6の内周面Sはタイヤ軸方向に対して平行な面及びタイヤ子午線断面において両側が傾斜面で挟まれるように窪んだ谷部を含まない構造を有しているが、これらの平行面や谷部はパンク修理液12が吸音材6上に留まる要因となる。
【0025】
図4~
図17はそれぞれ本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図4~
図17の実施形態は、いずれも頂点Pm及び中間点P
70とから特定される角度αが滑落開始角度βに対してα>βの関係を満足している。
図4では吸音材6が二等辺三角形をなし、
図5では吸音材6が半楕円形をなし、
図6では吸音材6が長方形と半楕円形とを組み合わせた形状をなし、
図7では吸音材6が直角三角形をなし、
図8では吸音材6が台形をなし、
図9では吸音材6が五角形をなしている。
図10~
図13では複数の吸音材6がタイヤ幅方向に並ぶように配置されている。この場合、複数の吸音材6はタイヤ周方向に沿って平行に配置されていても良く、或いは、一連の吸音材がタイヤ周方向に沿って螺旋状に配置されていても良い。
図14~
図17では吸音材6が種々の多角形をなしている。
【0026】
図18及び
図19はそれぞれ本発明における吸音材の変形例を示すものである。吸音材6は、
図18及び
図19に示すように、タイヤ幅方向Twにおいて頂点Pmから吸音材6の外端位置に向かってタイヤ径方向高さが連続的に減少することが必要であるが、タイヤ周方向Tcに沿って波打つような構造を有していても良い。この場合も、パンク修理液12が吸音材6の内周面Sに沿って迅速に流れ落ちる。
【0027】
図20は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図1と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。
図20において、空気入りタイヤTは、タイヤ内面5に吸音材6が装着されると共に、車両に対する装着方向が指定され、その装着方向がタイヤ外面に表示されている。
図20において、OUTは車両装着時の車両外側であり、INは車両装着時の車両内側である。
【0028】
上述のように車両に対する装着方向が表示された空気入りタイヤTにおいて、吸音材6の頂点Pmが吸音材6の幅方向中心位置CSよりも車両外側の位置に偏在し、内周面Sが頂点Pmから車両外側に向かって延びる外側傾斜面S1と頂点Pmから車両内側に向かって延びる内側傾斜面S2とを有している。
【0029】
図21は
図20の空気入りタイヤにおけるパンク修理液の注入状態を示すものである。
図21に示すように、パンク修理液12は車両外側に位置するバルブ11から注入され、車両内側に向かって勢い良く流入する。上述のように頂点Pmが吸音材6の幅方向中心位置CSよりも車両外側の位置に偏在する場合、車両内側の内側傾斜面S2の長さが相対的に大きくなるが、車両内側に向かうパンク修理液12の流速が速いため、そのパンク修理液12は内側傾斜面S2上を迅速に流れることになる。一方、車両外側の外側傾斜面S1はタイヤ軸方向に対する傾斜角度α
1が相対的に大きくなるため、外側傾斜面S1に当たったパンク修理液12はタイヤ内面5に向かって迅速に落下することになる。これにより、パンク修理液12が吸音材6に吸収されることを抑制し、パンク修理時間を短縮することができる。
【0030】
外側傾斜面S1のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α1及び内側傾斜面S2のタイヤ軸方向に対する傾斜角度α2は60°≦α1≦90°かつ10°≦α2≦45°の範囲内にあると良い。これにより、内側傾斜面S2に当たったパンク修理液12が内側傾斜面S2上を迅速に流れる一方で、外側傾斜面S1に当たったパンク修理液12はタイヤ内面5に向かって迅速に落下する。
【0031】
ここで、外側傾斜面S1の傾斜角度α1が60°よりも小さいとバルブ11から注入されたパンク修理液12が外側傾斜面S1を上るように逆流し、その間に吸音材6により吸収される可能性が高くなり、逆に90°よりも大きいと吸音材6の体積が小さくなり、吸音性能を十分に確保することが困難になる。特に、70°≦α1≦90°であると良い。通常、バルブ11のタイヤ軸方向に対する傾斜角度は15°~20°の範囲にあり、バルブ11の傾斜角度と外側傾斜面S1の傾斜角度α1との和が90°以上である場合、外側傾斜面S1に当たったパンク修理液12がタイヤ内面5に向かって落下し易くなる。一方、内側傾斜面S2の傾斜角度α210°よりも小さいとパンク修理液12が内側傾斜面S2上を流れ難くなり、逆に45°よりも大きいと吸音材6の体積が小さくなり、吸音性能を十分に確保することが困難になる。
【0032】
図22は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図20と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。
図22において、空気入りタイヤTは、タイヤ内面5に吸音材6が装着されると共に、車両に対する装着方向が指定され、その装着方向がタイヤ外面に表示されている。
図22において、OUTは車両装着時の車両外側であり、INは車両装着時の車両内側である。
【0033】
上述のように車両に対する装着方向が表示された空気入りタイヤTにおいて、吸音材6の頂点Pmはタイヤ幅方向中心位置CLよりも車両外側の位置に偏在している。このように吸音材6の頂点Pmがタイヤ幅方向中心位置CLよりも車両外側の位置に偏在することにより、パンク修理液12の流入経路を阻害せずに、パンク修理液12を効果的に導入することが可能となる。これにより、吸音材6によるパンク修理液12の吸収量を可及的に低減し、パンク修理時間を短縮することができる。
図22では、
図20と同様に吸音材6が左右非対称の構造を有しているが、吸音材6の頂点Pmをタイヤ幅方向中心位置CLよりも車両外側の位置に偏在させるにあたって、吸音材6が左右対称の構造を有していても良い。
【0034】
図23及び
図24は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図23において、吸音材6はタイヤ周方向に沿って延在しているが、その吸音材6がタイヤ周方向の少なくとも1箇所(好ましくは、複数個所)に欠落部6Xを有し、各欠落部6Xのタイヤ周方向の長さXが5mm~150mmの範囲に設定されている。これにより、
図24に示すように、空気入りタイヤT内に注入されたパンク修理液12が欠落部6Xを通って吸音材6の両側に移動可能になるので、パンク修理性能を効果的に改善することができる。
【0035】
ここで、各欠落部6Xのタイヤ周方向の長さXが5mm未満であると吸音材6の両側にパンク修理液12が十分に流れ込まなくなり、逆に150mm超であるとタイヤ周方向のバランスが崩れ、空気入りタイヤTのユニフォミティが悪化する要因となる。特に、各欠落部6Xのタイヤ周方向の長さXが10mm~120mmの範囲にあることが望ましい。また、欠落部6Xはタイヤ周上の1~8箇所にあることが好ましい。欠落部6Xの配置数が下限値より小さいとパンク修理性能の改善効果が低下し、逆に上限値より大きいと吸音性能が低下する要因となる。更に、吸音材6のタイヤ周方向の占有率(タイヤ幅方向の特定位置、例えば、タイヤ幅方向中心位置におけるタイヤ内面の周長に対する吸音材の総長さの比率)は80%~99%であることが好ましいい。
【0036】
図23において、吸音材6は面ファスナー7を介してタイヤ内面5に装着されている。このように吸音材6は非接着状態でタイヤ内面5に装着されていると良い。吸音材6が非接着状態でタイヤ内面5に装着されることにより、これら吸音材6とタイヤ内面5とが互いに密着しない状態となり、その隙間にパンク修理液12が流れ込み易くなるため、パンク修理時間を短縮することができる。吸音材6を非接着状態でタイヤ内面5に装着するための他の手段として、アメリカンホックやスナップボタンのような機械的留め具、或いは、リング状の樹脂バンドの弾性復元力に基づく取り付け構造を採用することができる。勿論、吸音材6は接着剤や粘着剤によりタイヤ内面5に装着されていても良い。また、
図23及び
図24の構造は
図1~
図22の実施形態において適用することが好ましい。
【0037】
また、上述した空気入りタイヤTにおいて、吸音材6の内周面Sを含む外表面は撥水加工されていることが好ましい。このように吸音材6の外表面が撥水加工されていることにより、パンク修理液12が吸音材6の外表面を迅速に流れるようになるため、吸音材6によるパンク修理液の吸収量を可及的に低減し、パンク修理時間を短縮することができる。撥水加工としては、例えば、フッ素コーティングや樹脂コーティングが可能である。
【実施例】
【0038】
タイヤ内面に吸音材が装着された空気入りタイヤ(タイヤサイズ:225/45R18)において、吸音材の構造を種々異ならせた比較例1~2及び実施例1~7のタイヤを製作した。比較のため、吸音材を持たない空気入りタイヤ(基準例)を用意した。吸音材の水に対する滑落開始角度βは16°である。なお、本明細書において、実施例1~3は参考例である。
【0039】
比較例1~2及び実施例1~7において、吸音材における傾斜の有無、吸音材の頂点位置、吸音材の傾斜角度α1,α2、吸音材の欠落部の数、吸音材に対する撥水加工の有無、吸音材の固定形態を表1のように種々異ならせた。
【0040】
なお、吸音材の頂点位置について、タイヤ幅方向中心位置を0とし、吸音材の車両外側の外端位置を+100とし、吸音材の車両内側の外端位置を-100とする指数に基づいて吸音材の頂点位置を表示した。
【0041】
これら基準例、比較例1~2及び実施例1~7の空気入りタイヤについて、下記の方法により、シール可能時間を測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0042】
シール可能時間:
各試験タイヤをバルブ付きのリム(リムサイズ:18×7.5J)に装着し、
図25に示すように、空気入りタイヤのセンター部に、「JIS A 5508」の規格に基づいた鉄丸釘「N38(長さ:38mm、胴部径:2.15mm)」を、タイヤトレッド面と釘頭部が接するように打ち込んでパンクさせ、釘を抜き取り、バルブを介して空気と共に450mlのパンク修理液を注入して空気圧を230kPaとした後、速度40km/hで走行させ、パンク孔がシールするまでに要した時間を測定した。評価結果は、基準例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどシール可能時間が短いことを意味する。特に、指数値が200より大きいと空気圧の低下が顕著になり、空気の再注入が必要となるが、200以下であればパンク修理性能が良好である。
【0043】
【0044】
表1から判るように、実施例1~7のタイヤでは、吸音材を備えた比較例1のタイヤとの対比において、いずれもシール可能時間が短く、パンク修理性能が良好であった。一方、比較例2のタイヤは、吸音材の傾斜角度α1,α2が小さいため、パンク修理性能の改善効果が不十分であった。
【符号の説明】
【0045】
1 トレッド部
2 ビード部
3 サイドウォール部
4 ベルト層
5 タイヤ内面
6 吸音材
7 面ファスナー
11 バルブ
12 パンク修理液
16 吸音材の試験片
R リム
T 空気入りタイヤ