(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】油圧ユニットおよび油圧アクチュエータの診断方法
(51)【国際特許分類】
F15B 20/00 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
F15B20/00 D
(21)【出願番号】P 2020165645
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】池本 貴正
(72)【発明者】
【氏名】河田 健一
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025982(JP,A)
【文献】特開2016-070407(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1476999(KR,B1)
【文献】国際公開第2013/128622(WO,A1)
【文献】特開2012-97822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 20/00
F15B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)に作動油を供給する油圧ポンプ(12)と、
上記油圧ポンプ(12)を駆動するモータ(13)と、
上記モータ(13)の回転速度を検出する回転速度センサ(16)と、
上記油圧ポンプ(12)が吐出する作動油の圧力を検出する圧力センサ(15)と、
上記モータ(13)を制御する制御部(20)と
を備え、
上記油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)の保圧工程では、
上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量を一定に保つように上記モータ(13)の回転速度が制御される流量一定制御と、
上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の圧力を一定に保つように上記モータ(13)の回転速度が制御される圧力一定制御と
が行われ、
上記制御部(20)は、上記モータ(13)を制御中に上記保圧工程の開始信号
の入力の有無を判定し、上記保圧工程の開始信号の入力があると判定した場合、上記流量一定制御において上記圧力センサ(15)が検出した作動油の圧力が、所定の基準圧力を超えているとき、または、上記圧力一定制御において上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量が、所定の基準流量を超えているとき、上記油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)が異常であると判定する、油圧ユニット。
【請求項2】
上記油圧ポンプ(12)の容量を検出する容量検出部(12a)を備え、
上記制御部(20)は、上記容量検出部(12a)により検出された上記油圧ポンプ(12)の容量に基づいて上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量を算出する、請求項1に記載の油圧ユニット。
【請求項3】
上記開始信号は、上記油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)と上記油圧ポンプ(12)との間に設けられるバルブ(4,4A,4B,4C)の状態変更を表す信号である、請求項1又は2に記載の油圧ユニット。
【請求項4】
油圧ユニットの油圧ポンプ(12)によって作動油が供給される油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)の異常を診断する油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)の診断方法であって、
上記油圧ユニットは、
上記油圧ポンプ(12)を駆動するモータ(13)と、
上記モータ(13)の回転速度を検出する回転速度センサ(16)と、
上記油圧ポンプ(12)が吐出する作動油の圧力を検出する圧力センサ(15)と、
上記モータ(13)を制御する制御部(20)と
を備え、
上記油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)の保圧工程では、
上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量を一定に保つように上記モータ(13)の回転速度が制御される流量一定制御と、
上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の圧力を一定に保つように上記モータ(13)の回転速度が制御される圧力一定制御と
が行われ、
上記制御部(20)による上記モータ(13)の制御中に上記保圧工程の開始信号
の入力の有無を判定し、上記保圧工程の開始信号の入力があると判定した場合、上記流量一定制御において上記圧力センサ(15)が検出した作動油の圧力が、所定の基準圧力を超えているとき、または、上記圧力一定制御において上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量が、所定の基準流量を超えているとき、上記油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)が異常であると判定する工程を備える、油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)の診断方法。
【請求項5】
複数の油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)に作動油を供給する油圧ポンプ(12)と、
上記油圧ポンプ(12)を駆動するモータ(13)と、
上記モータ(13)の回転速度を検出する回転速度センサ(16)と、
上記油圧ポンプ(12)が吐出する作動油の圧力を検出する圧力センサ(15)と、
上記モータ(13)を制御する制御部(20)と
を備え、
各油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)の保圧工程では、
上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量を一定に保つように上記モータ(13)の回転速度が制御される流量一定制御と、
上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の圧力を一定に保つように上記モータ(13)の回転速度が制御される圧力一定制御と
が行われ、
上記制御部(20)は、上記モータ(13)を制御中に上記複数の油圧アクチュエータ(3,3A,3B,3C)のうちのいずれかの油圧アクチュエータ(3)において上記保圧工程が開始されたことを示す開始信号
の入力の有無を判定し、上記保圧工程の開始信号の入力があると判定した場合、上記流量一定制御において上記圧力センサ(15)が検出した作動油の圧力が、所定の基準圧力を超えているとき、または、上記圧力一定制御において上記油圧ポンプ(12)から吐出される作動油の流量が、所定の基準流量を超えているとき、上記保圧工程が行われている上記油圧アクチュエータ(3)が異常であると判定する、油圧ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧ユニットおよび油圧アクチュエータの診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の油圧ユニットとしては、複数の油圧シリンダを備え、各油圧シリンダのヘッド側とロッド側とのそれぞれに、作動油フィルタと、作動油フィルタの入口と出口との間の差圧を検知する差圧計とを設けたものがある(特許文献1参照)。上記油圧ユニットでは、差圧計により検出された差圧が所定値を超えた場合に、油圧シリンダの内部リークの発生を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の油圧ユニットでは、各油圧シリンダの異常を診断するために、各油圧シリンダに対して2つの作動油フィルタおよび2つの差圧計を設ける必要がある。そのため、油圧シリンダの数が増えるほど油圧ユニットの構成が複雑になるという問題がある。
【0005】
本開示は、油圧シリンダの異常を診断するための構成を簡素にできる油圧ユニットを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の油圧ユニットは、
油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、
上記油圧ポンプを駆動するモータと、
上記モータの回転速度を検出する回転速度センサと、
上記油圧ポンプが吐出する作動油の圧力を検出する圧力センサと、
上記モータを制御する制御部と
を備え、
上記油圧アクチュエータの保圧工程では、
上記油圧ポンプから吐出される作動油の流量を一定に保つように上記モータの回転速度が制御される流量一定制御と、
上記油圧ポンプから吐出される作動油の圧力を一定に保つように上記モータの回転速度が制御される圧力一定制御と
が行われ、
上記制御部は、上記モータを制御中に上記保圧工程の開始信号が入力された場合、上記流量一定制御において上記圧力センサが検出した作動油の圧力が、所定の基準圧力を超えているとき、または、上記圧力一定制御において上記油圧ポンプから吐出される作動油の流量が、所定の基準流量を超えているとき、上記油圧アクチュエータが異常であると判定する。
【0007】
本開示の油圧ユニットによれば、油圧ポンプが吐出する作動油の圧力又は流量を用いて油圧アクチュエータの異常を診断する。これにより、油圧アクチュエータに異常を診断する機器を別途設ける必要がない。その結果、油圧アクチュエータの異常を診断するための構成を簡素にできる。これは、油圧ユニットに接続される油圧アクチュエータが複数あるときに特に有効である。
【0008】
一実施形態の油圧ユニットは、
上記油圧ポンプの容量を検出する容量検出部を備え、
上記制御部は、上記容量検出部により検出された上記油圧ポンプの容量に基づいて上記油圧ポンプから吐出される作動油の流量を算出する。
【0009】
上記実施形態によれば、容量検出部により検出された油圧ポンプの容量に基づいて油圧ポンプから吐出される作動油の流量を算出できる。
【0010】
一実施形態の油圧ユニットでは、上記開始信号は、上記油圧アクチュエータと上記油圧ポンプとの間に設けられるバルブの状態変更を表す信号である。
【0011】
上記実施形態によれば、制御部に入力される開始信号として、油圧アクチュエータと油圧ポンプとの間に設けられるバルブの状態変更を表す信号を用いるので、例えば、油圧アクチュエータが搭載される主機において開始信号を別途生成する必要がない。その結果、油圧ユニットと上記主機とを含む油圧システム全体として、油圧アクチュエータの異常を診断するための構成および制御を簡素にできる。
【0012】
本開示の油圧アクチュエータの診断方法は、油圧ユニットの油圧ポンプによって作動油が供給される油圧アクチュエータの異常を診断する油圧アクチュエータの診断方法であって、
上記油圧ユニットは、
上記油圧ポンプを駆動するモータと、
上記モータの回転速度を検出する回転速度センサと、
上記油圧ポンプが吐出する作動油の圧力を検出する圧力センサと、
上記油圧アクチュエータの保圧工程の開始信号が入力され、上記モータを制御する制御部と
を備え、
上記保圧工程では、
上記油圧ポンプから吐出される作動油の流量を一定に保つように上記モータの回転速度が制御される流量一定制御と、
上記油圧ポンプから吐出される作動油の圧力を一定に保つように上記モータの回転速度が制御される圧力一定制御と
が行われ、
上記制御部による上記モータの制御中に上記開始信号が上記制御部に入力された場合、上記流量一定制御において上記圧力センサが検出した作動油の圧力が、所定の基準圧力を超えているとき、または、上記圧力一定制御において上記油圧ポンプから吐出される作動油の流量が、所定の基準流量を超えているとき、上記油圧アクチュエータが異常であると判定する工程を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る油圧ユニットを用いた油圧システムの概略ブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る油圧ユニットの動作を説明するためのフローチャートである。
【
図3】第1実施形態に係る油圧アクチュエータの異常診断制御を説明するためのフローチャートである。
【
図4】第1実施形態に係る油圧アクチュエータの診断処理を説明するためのフローチャートである。
【
図5】本開示の第2実施形態に係る油圧ユニットを用いた油圧システムの概略ブロック図である。
【
図6】本開示の第3実施形態に係る油圧アクチュエータの異常診断制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態に係る油圧ユニット及び油圧アクチュエータの診断方法を説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本開示の第1実施形態に係る油圧ユニット1を用いた油圧システムの概略ブロック図である。
【0016】
図1を参照すると、本実施形態の油圧ユニット1は、工作機械(例えば、プレス機械)のような主機2に流体的に接続される。
【0017】
主機2は、3つの油圧シリンダ3A,3B,3Cと3つの方向切換弁4A,4B,4Cとを有する油圧回路を備える。油圧ユニット1は、方向切換弁4A,4B,4Cのそれぞれを介して油圧シリンダ3A,3B,3Cと流体的に接続されている。油圧ユニット1は、油圧シリンダ3A,3B,3Cに作動油を供給して、油圧シリンダ3A,3B,3Cを駆動する。本実施形態の油圧シリンダ3A,3B,3Cは、本開示に係る油圧アクチュエータの一例である。
【0018】
以下の説明において、油圧シリンダ3A,3B,3Cのそれぞれを特に区別する必要がない場合、油圧シリンダ3A,3B,3Cのうちの1つを単に油圧シリンダ3という場合がある。同様に、方向切換弁4A,4B,4Cのそれぞれを特に区別する必要がない場合、方向切換弁4A,4B,4Cのうちの1つを単に方向切換弁4という場合がある。
【0019】
方向切換弁4A,4B,4Cは、油圧シリンダ3A,3B,3Cの始動、停止、及び運動方向を制御する。本実施形態の方向切換弁4は、電磁切換弁である。方向切換弁4は、方向切換弁4の動作状態を表すモニタ信号を出力する。
【0020】
方向切換弁4は、第1ソレノイド4aが励磁かつ第2ソレノイド4bが非励磁の場合、左側の第1切換位置となる。第1切換位置では、油圧シリンダ3のヘッド側のポートと、油圧ユニット1の吐出側とが連通する。また、第1切換位置では、油圧シリンダ3のロッド側のポートと、油タンク4cとが連通する。
【0021】
一方で、方向切換弁4は、第1ソレノイド4aが非励磁かつ第2ソレノイド4bが励磁の場合、右側の第2切換位置となる。第2切換位置では、油圧シリンダ3のロッド側のポートと、油圧ユニット1の吐出側とが連通する。また、第2切換位置では、油圧シリンダ3のヘッド側のポートと、油タンク4cとが連通する。
【0022】
方向切換弁4は、第1ソレノイド4aが非励磁かつ第2ソレノイド4bが非励磁の場合、中立位置となる。中立位置では、方向切換弁4の全てのポートが閉鎖されている。
【0023】
また、主機2は、主機制御装置5を備えている。主機制御装置5は、方向切換弁4A,4B,4Cのそれぞれに対して、第1ソレノイド4aを励磁する励磁信号と、第2ソレノイド4bを励磁する励磁信号とを出力する。これにより、主機制御装置5は、方向切換弁4の切換位置を切り換える。一方で、主機制御装置5には、方向切換弁4から動作状態を表すモニタ信号が入力される。
【0024】
本実施形態の主機制御装置5は、主機2が通常の運転(例えば、プレス加工)を行うときに、油圧シリンダ3A,3B,3Cを順次動作させる。つまり、本実施形態では、油圧シリンダ3A,3B,3Cのうちの複数の油圧シリンダ3が同時に動作することがない。例えば、油圧シリンダ3Aが動作しているとき、方向切換弁4Aは、第1切換位置又は第2切換位置となっており、方向切換弁4B,4Cは、中立位置となっている。
【0025】
油圧ユニット1は、油圧シリンダ3と流体的に接続された油圧回路10と、油圧回路10を制御するユニット制御装置20とを備える。本実施形態のユニット制御装置20は、本開示に係る制御部の一例である。
【0026】
(油圧回路)
油圧回路10は、作動油を貯留する作動油タンク11と、作動油を作動油タンク11から油圧シリンダ3に供給する油圧ポンプ12と、油圧ポンプ12を駆動するモータ13とを備える。また、油圧回路10は、油圧ポンプ12の吐出側と油圧シリンダ3とを流体的に接続する吐出流路14を備える。また、油圧回路10は、吐出流路14内の作動油の圧力を検出する圧力センサ15を備える。
【0027】
本実施形態の油圧ポンプ12は、作動油タンク11内の作動油を吸入して吐出する固定容量型ポンプである。
【0028】
本実施形態のモータ13は、油圧ポンプ12に機械的に接続され、油圧ポンプ12を駆動する可変速モータである。本実施形態のモータ13は、IPM(Interior Permanent Magnet)モータである。本実施形態のモータ13には、パルスジェネレータ16が接続されている。パルスジェネレータ16は、モータ13の回転速度(単位時間当たりの回転数)を表すパルス信号を出力する。本実施形態のパルスジェネレータ16は、本開示に係る回転速度センサの一例である。
【0029】
吐出流路14は、方向切換弁4Aを介して油圧シリンダ3Aに接続されている。同様に、吐出流路14は、方向切換弁4Bを介して油圧シリンダ3Bに接続されている。吐出流路14は、方向切換弁4Cを介して油圧シリンダ3Cに接続されている。
【0030】
圧力センサ15は、吐出流路14内の作動油の圧力を検出して、圧力信号を出力する。言い換えれば、圧力センサ15は、油圧ポンプ12の吐出圧力を検出して、圧力信号を出力する。
【0031】
(ユニット制御装置)
本実施形態のユニット制御装置20は、PQ制御部21と、速度検出部22と、速度制御部23と、インバータ24と、異常判定部25とを備える。ユニット制御装置20には、主機制御装置5から圧力指令信号と、流量指令信号と、油圧シリンダ3A,3B,3Cのいずれかにおいて保圧工程を開始することを示す開始信号とが入力される。
【0032】
PQ制御部21には、圧力センサ15によって検出された圧力信号が入力される。PQ制御部21は、入力された圧力信号と、
図2に示す吐出圧力-吐出流量特性(以下、P-Q特性という)とに基づいて、速度制御部23に速度指令信号を出力する。
【0033】
速度検出部22には、パルスジェネレータ16からパルス信号が入力される。速度検出部22は、パルス信号の入力間隔を測定することにより、モータ13の単位時間当たりの回転数(以下、回転速度という)を現在回転速度として検出して、速度信号を出力する。
【0034】
速度制御部23には、PQ制御部21から速度指令が入力され、速度検出部22から速度信号が入力される。速度制御部23は、入力された速度指令信号と速度信号とを用いて速度制御演算を行い、インバータ24に電流指令信号を出力する。
【0035】
インバータ24は、速度制御部23から入力された電流指令信号に基づいて、モータ13に駆動信号を出力することにより、モータ13の回転速度を制御する。
【0036】
本実施形態では、PQ制御部21と、速度制御部23と、インバータ24とは、主機2が通常の運転を行うときに実行される油圧シリンダ3の保圧工程において、
図2に示すP-Q特性に基づいて、油圧ポンプ12の流量一定制御と、圧力一定制御とを切り換えて行う。
図2は、本実施形態の油圧ユニット1の吐出圧力-吐出流量特性を示す図である。
【0037】
油圧シリンダ3の保圧工程では、油圧シリンダ3のピストンを目標位置に移動させるまで流量一定制御を行い、ピストンが目標位置に移動した後は圧力一定制御を行う。つまり、油圧シリンダ3の保圧工程では、流量一定制御を実行した後に、流量一定制御に続いて圧力一定制御を実行する。流量一定制御と圧力一定制御とは、同時に実行されない。
【0038】
図2を参照すると、流量一定制御では、油圧ポンプ12の吐出流量が流量設定値Qaとなるように、モータ13の回転速度(油圧ポンプ12の回転速度)が制御される。本実施形態では、油圧ポンプ12が固定容量型ポンプであるので、油圧ポンプ12の吐出流量は、ポンプ容量(1回転当たりの吐出流量)とモータ13の回転速度の積で求められる。流量設定値Qaは、主機制御装置5から入力される流量指令信号により決定される。
【0039】
流量一定制御では、各吐出圧力において、油圧ポンプ12の吐出流量が流量設定値Qaとなるように、モータ13の回転速度(油圧ポンプの回転速度)が設定されており、モータ13の回転速度は、その設定された回転速度設定値Naになるように制御される。
【0040】
流量一定制御における作動油の圧力の上昇(
図2におけるA点からB点への遷移)は、例えば、油圧シリンダ3のピストンと、上記ピストンを収容するケーシングとの間に設けられたパッキンの摩耗に起因する。パッキンが摩耗すると、ピストンが移動する際の摩擦が増加し、圧力センサ15により検出される圧力が上昇する。
【0041】
圧力一定制御では、油圧ポンプ12の吐出圧力が圧力設定値Paとなるようにモータ13の回転速度(油圧ポンプ12の回転速度)が制御される。圧力設定値Paは、主機制御装置5から入力される圧力指令信号により決定される。
【0042】
圧力一定制御における油圧ポンプ12の作動油の吐出流量の増加(例えば、
図2におけるC点からD点への遷移)は、油圧シリンダ3の内部における作動油の漏れ量の増加に起因する。油圧シリンダ3の内部における作動油の漏れ量が増加すると、吐出流路14における作動油の圧力が低下し、圧力設定値Paを下回る。これにより、油圧ポンプ12の吐出圧力を圧力設定値Paに保持するために、油圧ポンプ12の吐出流量が増加する。
【0043】
また、
図1を参照すると、異常判定部25は、圧力センサ15から圧力信号(吐出圧力)が入力され、速度検出部22から速度信号(モータ13の単位時間当たりの回転数を表す信号)が入力される。異常判定部25は、入力された吐出圧力と、入力されたモータ13の単位時間当たりの回転数から得られる油圧ポンプ12の吐出流量とにより、油圧シリンダ3の状態を判定する。
【0044】
本実施形態の異常判定部25は、油圧シリンダ3の状態の判定結果を主機制御装置5に出力する。これにより、例えば、異常判定部25による判定結果が、油圧シリンダ3が異常であることを示している場合には、主機2に警告が通知される。
【0045】
(油圧シリンダの異常診断制御)
以下、
図3を参照して、本実施形態に係るユニット制御装置20による油圧シリンダ3の異常診断制御について説明する。
図3は、本実施形態のユニット制御装置20による油圧シリンダ3の異常診断制御のフローチャートである。本実施形態の異常診断制御は、主機2が通常の運転を行っているときに、同時に実行される。
【0046】
図3を参照すると、ユニット制御装置20は、油圧ユニット1が待機状態から運転状態になったときに、油圧シリンダ3の異常診断制御を開始する。
【0047】
まず、異常診断制御が開始すると、ユニット制御装置20は、主機制御装置5からの開始信号の入力の有無を判定する(ステップS1)。本実施形態では、主機制御装置5は、油圧シリンダ3A,3B,3Cを順次動作させるため、ユニット制御装置20には、油圧シリンダ3A,3B,3Cのいずれかにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号が入力される。具体的には、ユニット制御装置20には、油圧シリンダ3Aにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号、油圧シリンダ3Bにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号、及び油圧シリンダ3Cにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号が入力される。これにより、ユニット制御装置20は、油圧シリンダ3A,3B,3Cのうちどの油圧シリンダ3において保圧工程が開始されたかを特定できる。本実施形態の開始信号は、油圧シリンダ3A,3B,3Cいずれかにおいて保圧工程を開始することを表す信号である。
【0048】
ステップS1において、上記開始信号の入力が無いと判定された場合、ステップS1に戻り、ステップS1を繰り返す。
【0049】
一方で、ステップS1において、上記開始信号の入力が有ると判定された場合、ユニット制御装置20は、保圧工程を開始する油圧シリンダ3について、診断処理を実行する(ステップS2)。
【0050】
その後、ユニット制御装置20は、油圧ユニット1が停止しているか否かを判定する(ステップS3)。
【0051】
ステップS3において、油圧ユニット1が停止していると判定された場合、ユニット制御装置20は、異常診断制御を終了する。
【0052】
一方で、ステップS3において、油圧ユニット1が運転していると判定された場合、ステップS1に戻る。
【0053】
(油圧シリンダの診断処理)
図4は、異常診断制御において実行される診断処理のフローチャートである。
【0054】
図4を参照すると、本実施形態の診断処理が開始すると、ユニット制御装置20は、流量一定制御(
図2に示す)を開始する(ステップS10)。
【0055】
次に、ユニット制御装置20は、圧力センサ15により検出された圧力Pと、所定の基準圧力Ptとの大小関係を判定する(ステップS11)。
【0056】
ステップS11において、圧力センサ15により検出された圧力Pが所定の基準圧力Pt以上であると判定された場合、ユニット制御装置20は、診断対象の油圧シリンダ3において、パッキンの摩耗が発生していると判定する(ステップS14)。
【0057】
油圧シリンダ3毎に設定される所定の基準圧力Ptは、ユニット制御装置20に設けられた不揮発性メモリのような記憶部(図示せず)に記憶されていてもよい。この場合、開始信号とともに、保圧工程を開始する油圧シリンダ3の情報が主機制御装置5からユニット制御装置20に入力される。
【0058】
また、油圧シリンダ3毎に設定される所定の基準圧力Ptは、主機制御装置5に設けられた不揮発性メモリのような記憶部(図示せず)に記憶されていてもよい。この場合、開始信号とともに、保圧工程を開始する油圧シリンダ3の基準圧力Ptを示す信号が主機制御装置5からユニット制御装置20に入力される。
【0059】
その後、ユニット制御装置20は、主機2に警告を通知し(ステップS15)、診断処理を終了する。ユニット制御装置20から主機2に警告を通知することで、主機2において、保圧工程を開始した油圧シリンダ3に異常があることを特定できる。
【0060】
一方で、ステップS11において、圧力センサ15により検出された圧力Pが所定の基準圧力Pt未満であると判定された場合、ユニット制御装置20は、診断対象の油圧シリンダ3において、パッキンの摩耗が発生していないと判定し(ステップS12)、流量一定制御を終了する(ステップS13)。
【0061】
次に、ユニット制御装置20は、圧力一定制御を開始する(ステップS16)。
【0062】
そして、ユニット制御装置20は、油圧ポンプ12から吐出された作動油の流量Qと、所定の基準流量Qtとの大小関係を判定する(ステップS17)。ここで、本実施形態では、油圧ポンプ12が固定容量型ポンプであるので、モータ13の回転速度Nと、基準流量Qtに対応する所定の基準回転速度Ntとの大小関係を判定してもよい。
【0063】
また、ユニット制御装置20に油圧シリンダ3において保圧工程の開始されたことを表す開始信号が入力された後、図示しないタイマにより予め定めた一定時間が経過したときに、ユニット制御装置20は、油圧ポンプ12から吐出された作動油の流量Qと、所定の基準流量Qtとの大小関係を判定してもよい。これにより、保圧工程を開始した後において、油圧ポンプ12から吐出された作動油の圧力が上昇して圧力設定値Pa(
図2に示す)に到達した後に、圧力が安定した状態で油圧シリンダ3の診断を実行できる。
【0064】
油圧シリンダ3毎に設定される所定の基準流量Qtは、ユニット制御装置20に設けられた不揮発性メモリのような記憶部(図示せず)に記憶されていてもよい。この場合、開始信号とともに、保圧工程を開始する油圧シリンダ3の情報が主機制御装置5からユニット制御装置20に入力される。
【0065】
また、油圧シリンダ3毎に設定される所定の基準流量Qtは、主機制御装置5に設けられた不揮発性メモリのような記憶部(図示せず)に記憶されていてもよい。この場合、開始信号とともに、保圧工程を開始する油圧シリンダ3の基準流量Qtを示す信号が主機制御装置5からユニット制御装置20に入力される。
【0066】
ステップS17において、油圧ポンプ12から吐出された作動油の流量Qが、所定の基準流量Qt以上であると判定された場合、ユニット制御装置20は、診断対象の油圧シリンダ3において、油圧シリンダ3の内部における作動油の漏れがあると判定する(ステップS20)。
【0067】
その後、ユニット制御装置20は、主機2に警告を通知し(ステップS21)、診断処理を終了する。ユニット制御装置20から主機2に警告を通知することで、主機2において、保圧工程を開始した油圧シリンダ3に異常があることを特定できる。
【0068】
一方で、ステップS17において、油圧ポンプ12から吐出された作動油の流量Qが、所定の基準流量Qt未満であると判定された場合、ユニット制御装置20は、診断対象の油圧シリンダ3において、油圧シリンダ3の内部における作動油の漏れがないと判定する(ステップS18)。
【0069】
その後、ユニット制御装置20は、圧力一定制御を終了し(ステップS19)、診断処理を終了する。
【0070】
本実施形態の油圧ユニット1によれば、以下の作用効果を奏する。
【0071】
本実施形態の油圧ユニット1によれば、油圧ポンプ12が吐出する作動油の圧力又は流量を用いて油圧シリンダ3の異常を診断する。これにより、油圧シリンダ3A,3B,3Cのそれぞれに異常を診断する機器を別途設ける必要がない。その結果、油圧シリンダ3の異常を診断するための構成を簡素にできる。
【0072】
なお、本実施形態において油圧ポンプ12に、油圧ポンプ12の容量を検出する容量検出部12a(
図1参照)を設けてもよい。この場合、油圧ポンプ12として可変容量型ポンプを用い、モータ13として定速モータを用いてもよい。油圧ポンプ12として可変容量型ポンプを用いる場合であっても、油圧ポンプ12の吐出流量は、容量検出部12aにより検出されたポンプ容量とモータ13の回転速度との積で求められる。
【0073】
[第2実施形態]
第2実施形態では、方向切換弁4A,4B,4Cからモニタ信号がユニット制御装置20に入力される点を除いて、第1実施形態と同様の構成を有しており、
図2から
図4を援用する。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成には、同一の参照符号を付して示し、その詳細な説明を省略する。
【0074】
図5は、第2実施形態に係る油圧ユニット1を用いた油圧システムの概略ブロック図である。
【0075】
図5を参照すると、本実施形態のユニット制御装置20の異常判定部25には、方向切換弁4A,4B,4Cの動作状態を表すモニタ信号が入力される。本実施形態の方向切換弁4の動作状態を表すモニタ信号は、本開示に係るバルブの状態変更を表す信号の一例である。
【0076】
本実施形態では、油圧シリンダ3の異常診断制御に用いる開始信号(保圧工程を開始することを示す信号)として、上記モニタ信号を用いる。具体的には、
図3に示すステップS1において、ユニット制御装置20は、方向切換弁4A,4B,4Cのうちの1つの方向切換弁4から、中立位置から第1切換位置に変化したことを表すモニタ信号が入力された場合に、開始信号が入力されたと判定する。例えば、方向切換弁4Aから、中立位置から第1切換位置に変化したことを表すモニタ信号が入力された場合に、油圧シリンダ3Aを診断対象として、診断処理(
図3に示すステップS2)を実行する。
【0077】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0078】
上記実施形態によれば、ユニット制御装置20に入力される開始信号として、油圧シリンダ3A,3B,3Cのそれぞれと油圧ポンプ12との間に設けられる方向切換弁4A,4B,4Cのモニタ信号を用いる。このため、例えば、油圧シリンダ3A,3B,3Cが搭載される主機2において開始信号を別途生成する必要がない。その結果、油圧ユニット1と主機2とを含む油圧システム全体として、油圧シリンダ3A,3B,3Cの異常を診断するための構成および制御を簡素にできる。
【0079】
[第3実施形態]
第3実施形態では、油圧シリンダ3の異常診断制御を除いて、第1実施形態と同様の構成を有しており、
図1-2、及び
図4を援用する。第3実施形態において、第1実施形態と同様の構成には、同一の参照符号を付して示し、その詳細な説明を省略する。
【0080】
本実施形態の主機制御装置5は、主機2の通常の運転(例えば、プレス加工)において油圧シリンダ3A,3B,3Cのうちの複数の油圧シリンダ3を同時に動作させることがある。つまり、本実施形態では、主機2での加工工程中に、方向切換弁4A,4B,4Cのうちの複数の方向切換弁4が同時に第1切換位置(又は第2切換位置)となることがある。
【0081】
本実施形態の主機制御装置5は、油圧シリンダ3A,3B,3Cのそれぞれの異常を診断するために、油圧シリンダ3A,3B,3Cにおいて順次保圧工程を行う診断モードを備える。主機制御装置5は、診断モードが開始したとき及び診断モードを終了したときに、ユニット制御装置20に診断モード信号を出力する。上記診断モードでは、主機制御装置5は、油圧シリンダ3A,3B,3Cにおいて順次保圧工程を行い、油圧シリンダ3において保圧工程を開始する度に開始信号をユニット制御装置20に出力する。具体的には、ユニット制御装置20には、油圧シリンダ3Aにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号、油圧シリンダ3Bにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号、及び油圧シリンダ3Cにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号が入力される。これにより、ユニット制御装置20は、油圧シリンダ3A,3B,3Cのうちどの油圧シリンダ3において保圧工程が開始されたかを特定できる。
【0082】
図6は、本実施形態のユニット制御装置20による油圧シリンダ3の異常診断制御のフローチャートである。本実施形態の異常診断制御は、主機2の通常の運転とは別に実行される。
【0083】
図6を参照すると、ユニット制御装置20は、主機制御装置5から診断モードを開始したことを示す診断モード信号が入力されたときに、油圧シリンダ3の異常診断制御を開始する。
【0084】
まず、異常診断制御が開始すると、ユニット制御装置20は、主機制御装置5からの開始信号の有無を判定する(ステップS101)。主機制御装置5は、診断モードにおいて油圧シリンダ3A,3B,3Cにおいて順次保圧工程を行うため、ユニット制御装置20には、油圧シリンダ3A,3B,3Cのいずれかにおいて保圧工程が開始されたことを表す開始信号が入力される。
【0085】
ステップS101において、上記開始信号の入力が無いと判定された場合、ステップS101に戻り、ステップS101を繰り返す。
【0086】
一方で、ステップS101において、上記開始信号の入力が有ると判定された場合、ユニット制御装置20は、保圧工程を開始する油圧シリンダ3について、診断処理を実行する(ステップS102)。ここで、本実施形態の診断処理は、第1実施形態の診断処理(
図4参照)と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0087】
その後、ユニット制御装置20は、全ての油圧シリンダ3について診断処理を行ったか否かを判定する(ステップS103)。具体的には、ユニット制御装置20は、主機制御装置5から診断モードを終了したことを表す診断モード信号が入力されたときに、全ての油圧シリンダ3について診断処理を行ったと判定する。
【0088】
ステップS103において、全ての油圧シリンダ3について診断処理を行ったと判定された場合、ユニット制御装置20は、異常診断制御を終了する。
【0089】
一方で、ステップS1033において、全ての油圧シリンダ3について診断処理が行われていないと判定された場合、ステップS101に戻る。
【0090】
第3実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0091】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0092】
1 油圧ユニット
2 主機
3,3A,3B,3C 油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
4,4A,4B,4C 方向切換弁(バルブ)
5 主機制御装置
11 作動油タンク
12 油圧ポンプ
12a 容量検出部
13 モータ
14 吐出流路
15…圧力センサ
16…パルスジェネレータ(回転速度センサ)
20…ユニット制御装置(制御部)
21…PQ制御部
22…速度検出部
23…速度制御部
24…インバータ
25…異常判定部