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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】崩れコークス掻き出し方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 33/06 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
C10B33/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021032464
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133660
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】愛澤 禎典
(72)【発明者】
【氏名】上坊 和弥
(72)【発明者】
【氏名】松枝 恵治
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208337(JP,A)
【文献】国際公開第2010/050236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉におけるコークス押し詰まり後の崩れコークスを、先端に掻き出し治具が装着された押出ラムにより掻き出す崩れコークス掻き出し方法において、
試験用押出ラムを備えた試験装置にコークスケーキを収めた後、試験用押出ラムによってコークスケーキの押し出し処理を行うことによりラム荷重と側壁荷重との関係を求める第1ステップと、
試験用掻き出し治具が装着された試験用押出ラムを備えた試験装置に、前記崩れコークスを模擬した模擬崩れコークスを堆積させた後、試験用掻き出し治具によって前記模擬崩れコークスを掻き出す処理を行うことによりラム荷重と側壁荷重との関係を求める第2ステップと、
前記第1及び第2ステップで得られた試験結果に基づき、コークスケーキを押し出すときのラム荷重の上限値である第1のラム荷重上限値に対する、前記第1のラム荷重上限値に対応する模擬崩れコークスを掻き出すときのラム荷重である第2のラム荷重上限値の比率を求める第3ステップと、
コークス炉からコークスケーキを押し出す際のラム荷重の上限値に、前記掻き出し治具の配置領域に対応した押出ラム下部領域に偏重する押出荷重の荷重偏重率を乗じることにより、第3のラム荷重上限値を算出する第4ステップと、
前記第3のラム荷重上限値に前記比率を乗じた第4のラム荷重上限値を算出し、前記第4のラム荷重上限値を超過しないように崩れコークスの掻き出し処理を行う第5ステップと、を有することを特徴とする崩れコークス掻き出し方法。
【請求項2】
前記第4ステップにおいて、高さ方向に複数のロードセルが配設された押出ラムを用いてコークスケーキを押し出すとともに、この押し出しの際の前記ロードセルの検出結果に基づき、前記荷重偏重率を算出することを特徴とする請求項1に記載の崩れコークス掻き出し方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩れコークスを、掻き出し治具が装着された押出ラムによって掻き出す崩れコークス掻き出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室炉式のコークス炉では、炭化室に装入された石炭を乾留することによって、ガスやタールが発生し、残留分がコークスとなる。乾留が終了すると、炭化室の炉長方向両側の蓋を開き、一方の窯口から炭化室に向かって押出機の押出ラムを挿入して、前進させることにより、他方の窯口からコークスを排出する。排出されたコークスは、コークス乾式消化設備等で冷却された後、高炉用コークス等として用いられる。
【0003】
ここで、炭化室内のコークスは、「コークスケーキ」と呼ばれるコークス塊の集合体である。コークスケーキには多数の亀裂が形成されており、炉壁から炭中に向かって延びる主亀裂によって、コークスケーキは複数のコークス塊に分断されている。したがって、コークスケーキにおけるコークス塊は、比較的整然とした状態で炭化室内に収められている。
【0004】
一方、コークスケーキを炉外に押し出す際に、炭化室の壁面に形成されたカーボン由来の凸部等によって押出が阻害され、コークスケーキを押し出す途中で押出機が停止する操業(言い換えると、押し詰まり)が発生する場合がある。この場合、押出ラムを一旦引き戻す作業が必要となるが、押出ラムを引き戻した際に、圧縮されて脆弱になったコークスが崩れる(以下、崩れコークスという場合がある)場合がある。実操業ではこの崩れコークスを押出ラムの先端に装着した掻き出し治具を用いて炭化室から掻き出す作業が行われている。
【0005】
特許文献1には、コークス内に安定挿入が可能で、かつ、より多くのコークスの掻き出しが可能な形状によって構成されたコークス炉用掻き出し治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5994602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、掻き出しの効率性等を治具の形状面から追及した技術が開示されている。しかし、掻き出し治具が装着されたラムの移動に関する定量的なガイダンスがなかったため、過大な負荷が炉壁に加わることによる破孔に至らない様に、オペレータの経験により作業が行われることが多く、掻き出し作業の効率化が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る崩れコークス掻き出し方法は、(1)コークス炉におけるコークス押し詰まり後の崩れコークスを、先端に掻き出し治具が装着された押出ラムにより掻き出す崩れコークス掻き出し方法において、試験用押出ラムを備えた試験装置にコークスケーキを収めた後、試験用押出ラムによってコークスケーキの押し出し処理を行うことによりラム荷重と側壁荷重との関係を求める第1ステップと、試験用掻き出し治具が装着された試験用押出ラムを備えた試験装置に、前記崩れコークスを模擬した模擬崩れコークスを堆積させた後、試験用掻き出し治具によって前記模擬崩れコークスを掻き出す処理を行うことによりラム荷重と側壁荷重との関係を求める第2ステップと、前記第1及び第2ステップで得られた試験結果に基づき、コークスケーキを押し出すときのラム荷重の上限値である第1のラム荷重上限値に対する、前記第1のラム荷重上限値に対応する模擬崩れコークスを掻き出すときのラム荷重である第2のラム荷重上限値の比率を求める第3ステップと、コークス炉からコークスケーキを押し出す際のラム荷重の上限値に、前記掻き出し治具の配置領域に対応した押出ラム下部領域に偏重する押出荷重の荷重偏重率を乗じることにより、第3のラム荷重上限値を算出する第4ステップと、前記第3のラム荷重上限値に前記比率を乗じた第4のラム荷重上限値を算出し、前記第4のラム荷重上限値を超過しないように崩れコークスの掻き出し処理を行う第5ステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
(2)前記第4ステップにおいて、高さ方向に複数のロードセルが配設された押出ラムを用いてコークスケーキを押し出すとともに、この押し出しの際の前記ロードセルの検出結果に基づき、前記荷重偏重率を算出することを特徴とする上記(1)に記載の崩れコークス掻き出し方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、崩れコークスの掻き出し時に守るべき適切なラム荷重上限値を設定することにより、炉壁に過大な負荷を与えることなく崩れコークスの掻き出し作業を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験装置の概略平面図である。
図2】試験装置の概略側面図である。
図3】試験装置に実装された掻き出し治具の斜視図である。
図4(a)】コークスケーキ及び崩れコークスのそれぞれについて、冷間圧縮試験を実施したときのラム荷重と側壁荷重との関係を示したグラフである。
図4(b)】水準IV及びVの側板の一部における平面図である。
図5】複数の計測ユニットが装着された押出ラムなどの概略図である。
図6】計測ユニットの位置と荷重との関係を示したグラフである。
図7】コークス炉で用いられる掻き出し治具(一例)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者等は、掻き出しの状況を模擬した試験を行うことにより、本発明の知見を得た。この模擬試験について、具体的に説明する。図1は、試験装置(冷間圧縮試験装置)の概略平面図である。L軸、H軸及びW軸は互いに直交する三軸であり、L軸は押出ラムの前進方向に対応しており、W軸は一対の側面パネルが対向する対向方向に対応しており、H軸は試験装置の高さ方向に対応している。L軸、H軸及びW軸の定義は、他の図面においても同様である。
【0013】
同図を参照して、基台1に一対の支持体2,3と、油圧シリンダ4と、エアシリンダ5を設置することにより、試験装置100とした。支持体2,3は、基台1に対して設置位置が調整できるように固定した。支持体2,3の間には、側面パネル6,7を設置した。
【0014】
油圧シリンダ4及びエアシリンダ5の間には、可動壁となる前後パネル8,9を配置した。油圧シリンダ4のピストンロッド先端には、コークスに押出力を伝えるためのラムヘッドとなる試験用押出ラム11を取り付けた。
【0015】
また、エアシリンダ5は、押出力に対する反力を作用させる反力付与手段を構成するもので、そのピストンロッド先端には、反力を伝え、押出力を受けるための受側ブロック12を取り付けた。側面パネル6,7と試験用押出ラム11と受側ブロック12とによって、コークスを格納する格納部10を形成した。
【0016】
前後パネル8と試験用押出ラム11との間には、高さ方向(H軸方向)に並ぶ3つのロードセル21aを配設した。支持体2と側面パネル6との間には、押出ラムの前進方向(L軸方向)に並ぶ2つのロードセル21bを配設した。支持体3と側面パネル7との間には、押出ラムの前進方向(L軸方向)に並ぶ2つのロードセル21cを配設した。
【0017】
格納部10にコークスケーキを充填した後、試験用押出ラム11を前進させることによりコークスケーキを押し出す処理を行い、ラム荷重と側壁荷重との関係を調べた。その結果を図4(a)に示した。なお、ラム荷重は、ロードセル21a(合計3つ)の合計値を用いた。また、側壁荷重は、ロードセル21b及び21c(合計4つ)の合計値の1/2の値(すなわち両壁にかかる荷重の平均値)を用いた。
【0018】
図2は、試験用掻き出し治具を装着した試験装置(冷間圧縮試験装置)200の概略側面図である。図1と機能が共通する構成要素には、同一符号を付している。試験用掻き出し治具13は、図示しない締結部材などを用いて試験用押出ラム11の押出面に装着した。なお、試験用掻き出し治具13は、試験用掻き出し治具13及び試験用押出ラム11の底面が略面一となるように取り付けた。
【0019】
図3は試験用掻き出し治具13の斜視図の一例である。試験用掻き出し治具13は、底板部131、一対の側板部132及び土台部133からなるスコップ形状に形成した。土台部133はさらに縦土台部133a及び天板土台部133bによって構成した。底板部131及び縦土台部133aは矩形状に形成した。一対の側板部132はそれぞれ、矩形状の板材の一角部を面取りした形状に形成した。
【0020】
側板部132の下端部のL軸方向の長さ及び縦土台部133aの板厚寸法を合算した寸法L1は、300mmとした。側板部132の上端部のL軸方向の寸法L2は、200mmとした。底板部131のW軸方向の寸法W1は、310mmとした。試験用掻き出し治具13のL軸方向における前方側の高さ(つまり、側板部132の前方端の高さ及び底板部131の厚みの合算)の寸法H2は、200mmとした。土台部133を除いた試験用掻き出し治具13のL軸方向後方側の高さ(つまり、側板部132の後方端の高さ及び底板部131の厚みの合算)の寸法H1は、300mmとした。
【0021】
格納部10内に崩れコークスを模擬した模擬崩れコークス14を堆積させた(図2参照)。模擬崩れコークス14は、コークス塊の裾野が試験用掻き出し治具13の先端に届く位置に堆積させた。具体的には、試験用掻き出し治具13の押し出し方向先端に厚み140mmの木板を立て、この木板と受側ブロック12との間に形成されたスペースにコークス塊を高さ300mmまで充填した後、木板を引き抜き、充填したコークス塊を試験用掻き出し治具13に向かって崩落させることにより、模擬崩れコークス14を堆積させた。ここで、コークス炉における崩れコークスは、粒径の比較的大きいコークスと粉状のコークスとが混在した状態となっており、本試験では、粒径を50mm~75mmに整粒したコークス塊を使用した。
【0022】
上述の実験条件にて、油圧シリンダ4を伸長して試験用押出ラム11を最大ストロークである500mmまで押し切った時の側壁荷重を測定し、図4(a)のグラフに三角印(水準I)でプロットした。側板部132の形状が異なる複数の試験用掻き出し治具について、同様の実験を行い、図4(a)のグラフに丸印(水準II)、丸印(水準III)、三角印(水準IV)、三角印(水準V)、四角印(水準VI)でプロットした。また、それぞれの水準で使用した試験用掻き出し治具の形状及び寸法を以下の表1に示した。
【表1】

水準II及びIIIは、側板部132の形状をそれぞれ直角三角形及び台形に変更した。水準IV及びVでは、水準Iの側板部132の前面(図3参照)にそれぞれ30°及び60°の切込みを形成した。具体的には、図4(b)に図示するように、側板部132の前面に内側の側面が外側の側面よりも短くなるように、L軸方向に対して傾斜した切欠を形成した。
【0023】
図4(a)に示すように、模擬崩れコークスを掻き出す場合、全ての掻き出し治具について、同一のラム荷重で比較したときの側壁荷重がコークスケーキの押し出し時よりも高くなることがわかった。これは、模擬崩れコークスを構成するコークス塊がランダムに堆積しているため、炉長方向に力が作用するとコークスケーキに比較して配置を変えやすく、炉壁方向への荷重が高まり易いためと推察される。なお、コークスケーキにおいては代表的な試験結果1点のみでリニアな直線を線図しているが、既往文献(有馬ら:鉄と鋼,Vol.90 (2004),728)に記載があるように炉壁荷重はラム荷重(押出荷重)にほぼ比例して増加する。
【0024】
ここで、コークスケーキを押し出すときのラム荷重には、上限値(請求項1の第4ステップにおける「ラム荷重の上限値」に相当する)が設けられており、この上限値を超えて押出ラムを前進させることはできない。なお、この上限値は、操業上の実績により、押詰まりを起こす押出力に到達せず、かつ、過大な負荷が炉壁に加わることによる破孔に至らない値で設定され、適宜、余裕をもった低い値で設定されても良い。図4(a)の例では、コークスケーキを押し出すときのラム荷重の上限値(請求項1に記載の第1のラム荷重上限値に相当する)が約70kNであり、ラム荷重が70kNに到達した時の側壁荷重は約5kNである。この実験では、側壁荷重が約5kNであれば、過大な負荷が炉壁に加わることによる破孔に至らないことを意味している。従って、図3で例示した試験用掻き出し治具13を用いて模擬崩れコークスの掻き出し処理を行う場合に、少なくとも側壁荷重が約5kNまでは炉壁が破孔に至らないことから、側壁荷重が約5kNとなるように、ラム荷重を設定することとした。従って、模擬崩れコークスの掻き出し処理を行う場合は、約15kNのラム荷重を、模擬崩れコークスを掻き出すときのラム荷重の上限値(第2のラム荷重上限値)として設定することができる。
【0025】
従来は、掻き出し作業時のガイダンス、すなわち側壁荷重の過負荷を防止するために、押出ラムの押し込み量をどの程度に設定すればよいか等の定量的な指標がなかったため、オペレータの感覚に委ねられていた。したがって、崩れコークスの掻き出し時に炉壁に過大な負荷が加わることにより破孔に至らない様に、過少な負荷で作業が行われることが多く、掻き出し作業の効率化が望まれていた。
【0026】
図4(a)に示すように、コークスケーキを押し出すときのラム荷重と、模擬崩れコークス14を掻き出すときのラム荷重との関係を予め試験的に求めておくことにより、どの程度のラム荷重で掻き出し処理を一旦停止すればよいのか把握することができる。すなわち、図4(a)の例では、第1のラム荷重上限値(約70kN)に対応する、模擬崩れコークス14の掻き出し時のラム荷重(請求項1に記載の第2のラム荷重上限値に相当する)が約15kNである。したがって、模擬崩れコークスを掻き出す時のラム荷重を、第1のラム荷重上限値の約20%(請求項1に記載の比率に相当する)に制限することにより、炉壁に過大な負荷が加わることにより破孔に至らない様に、掻き出し処理を実行できることがわかる。
【0027】
実際のコークス炉で形成される崩れコークスの形態(コークス塊の配列等)を考慮しながら、上述の実験を予め実施しておくことにより、崩れコークス掻き出し時のラム荷重上限値が求められるため、崩れコークスの掻き出し時に炉壁に過大な負荷が働くことを防止できる。
【0028】
ただし、上述の実験によって得られた知見をコークス炉の掻き出し処理に適用するためには、さらに、押し出し荷重の高さ方向偏差を考慮する必要がある。すなわち、押し出し荷重は押出ラムの下部側に偏重する傾向があるため、この点を考慮しながらラム荷重の上限値を設定する必要がある。
【0029】
押し出し荷重の高さ方向偏差を求める方法を図5及び図6を参照しながら、詳細に説明する。図5は、コークス炉の一部における概略図である。
【0030】
図5に示す通り、押出ラム110には、荷重を検出するための計測ユニット(例えば、ロードセル)A1~A10を高さ方向に10点配置した。なお、以下の説明において、個々の計測ユニットを特に区別する必要がない場合には、これらを纏めて計測ユニットAと表記するものとする。隣接する計測ユニットAの間隔は全て500mmに統一した。なお、最も下方に設置した計測ユニットA10と炉底との間隔は、440mmとした。
【0031】
上述の構成において、コークスケーキを押し出す時に押出ラム110に働く荷重を計測ユニットA1~A10で測定し、その結果を図6(a)に示した。図6(a)とは異なる窯についても、同様の測定試験を行い、その結果を図6(b)に示した。図6(a)では、全荷重のうち、実機で用いるスコップ高さに概ね相当する炉底から940mmの範囲、すなわち計測ユニットA9,A10に全押出荷重の32.2%(請求項1に記載の荷重偏重率に相当する。なお、図6(a)の計測ユニット1~10の荷重の総和に対する、計測ユニット9と10の荷重の和の値の比率として求める)が偏重し、図6(b)では計測ユニットA9,A10に全荷重の47.9%(請求項1に記載の荷重偏重率に相当する)が偏重していることがわかった。なお、荷重偏重率の算出方法は図6(a)で求めたときの手法と同じである。
【0032】
図7は、実コークス炉で用いられる掻き出し治具(一例)の斜視図であり、各部の寸法を併記した。実コークス炉で用いられる掻き出し治具の高さは約1000mmであり、上述の荷重偏重領域に概ね対応しているため、実コークス炉におけるコークスケーキ押し出し時のラム荷重の上限値をX(ton)とした場合、図6(a)の例では0.322X(ton)、図6(b)の例では0.479X(ton)が下部約1000mm(つまり、掻き出し治具が配置される領域)に偏重荷重として加わる。なお、ここに例示した0.322X(ton)及び0.479X(ton)が請求項1に記載の第3のラム荷重上限値に相当する。したがって、図4(a)の例では、ラム荷重がその偏重荷重の約20%を超過しない範囲で掻き出し処理を行う。すなわち、第3のラム荷重上限値(偏重荷重)に第1のラム荷重上限値(試験装置100でコークスケーキを押し出すときのラム荷重の上限値)に対する第2のラム荷重上限値(試験装置200で模擬崩れコークスを押し出すときのラム荷重の上限値)の比率を乗じることにより第4のラム荷重上限値を算出し、この算出した第4のラム荷重上限値を超えないように掻き出し処理を行う。
【0033】
図6(a)及び図6(b)に例示する通り、偏重荷重はコークス炉の炉団、窯、押出機の特性によって異なり、また、崩れコークスの崩れ具合によって図4(a)に示す崩れコークス掻き出し時の第2のラム荷重上限値は変動するため、これらの要素を考慮しながらその都度上述の手法により、ラム荷重の上限値を算出して、掻き出し作業を行う必要がある。
【0034】
上述の手順を纏めると以下の通りである。
(第1ステップ)
試験装置100にコークスケーキを収めた後、試験用押出ラム11によってコークスケーキを押し出すことによりラム荷重と側壁荷重との関係を求める(図1及び図4(a)参照)。
(第2ステップ)
試験装置200に、崩れコークスを模擬した模擬崩れコークス14を堆積させた後、試験用押出ラム11に装着された試験用掻き出し治具13によって模擬崩れコークス14の掻き出し処理を行い、ラム荷重と側壁荷重との関係を求める(図2及び図4(a)参照)。なお、第1ステップ及び第2ステップの順番は前後してもよい。
(第3ステップ)
第1ステップの試験結果に基づき、コークスケーキを押し出すときのラム荷重の上限値である第1のラム荷重上限値を求める(図4(a)参照)。第2ステップの試験結果に基づき第1のラム荷重上限値に対応する模擬崩れコークス14を掻き出すときのラム荷重である第2のラム荷重上限値を求める(図4(a)参照)。第1のラム荷重上限値に対する第2のラム荷重上限値の比率を求める。
(第4ステップ)
実コークス炉で用いられる押出機において、掻き出し治具の配置領域に対応した押出ラム下部領域に集中するラム荷重の荷重偏重率を求める(図6参照)。実コークス炉における押出ラムのラム荷重の上限値に荷重偏重率を乗じて、第3のラム荷重上限値を求める。
(第5ステップ)
第3のラム荷重上限値に第3ステップで求めた比率を乗じて第4のラム荷重上限値を算出する。そして、この第4のラム荷重上限値を超過しないように崩れコークスの掻き出し処理を行う。
【0035】
上述の方法によれば、掻き出し処理を行う際のラム荷重の上限値を設けることにより、過大な負荷が炉壁に加わることによる破孔を防止しつつ、極力、最大限の負荷の範囲内で作業することができるため、作業の効率化を図ることができる。また、オペレータの経験に左右されることなく、掻き出し処理を行うことができるため、熟練の作業者でなくても、炉壁に過大な負荷を与えることなく、効率良く掻き出し処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 基台
2,3 支持体
4 油圧シリンダ
5 エアシリンダ
6,7 側面パネル
8,9 前後パネル
10 格納部
11 試験用押出ラム
12 受側ブロック
13 試験用掻き出し治具
21a~21c ロードセル
100 200 試験装置
131 底板部
132 側板部
133 土台部
133a 縦土台部
133b 天板土台部

図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7