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7594200中継装置、無線通信システム、無線通信方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】中継装置、無線通信システム、無線通信方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/155 20060101AFI20241127BHJP
   H04B 7/185 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H04B7/155
H04B7/185
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022570961
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048794
(87)【国際公開番号】W WO2022137521
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂元 一光
(72)【発明者】
【氏名】藤野 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】五藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】小島 康義
(72)【発明者】
【氏名】糸川 喜代彦
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-502858(JP,A)
【文献】特表2020-517161(JP,A)
【文献】特開2019-047262(JP,A)
【文献】「低軌道衛星-地上間の20Gbps超通信と超広域なIoTデータ収集」実現に向けた技術実証案が革新的衛星技術実証,NTTニュースリリース,日本,日本電信電話株式会社,2020年05月29日,第1-2頁,[検索日2021.03.20],インターネット<URL:https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/05/29/200529a.html?_ga=2.260484429.1980764300.1616995518-596875783.1616995518>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/155
H04B 7/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第一通信装置から第二通信装置へ伝送される無線の信号を、移動しながら中継する中継装置であって、
前記複数の第一通信装置からそれぞれ送信された信号を受信アンテナにより受信する第一受信部と、
前記信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で前記第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて前記受信アンテナの受信方向を制御する方向制御部と、
を備え
前記方向制御部は、軌道が同一であり又は近似しており進行方向が同一である他の中継装置が前記進行方向に対して左側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する場合には、前記進行方向に対して右側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御し、前記他の中継装置が前記進行方向に対して右側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する場合には、前記進行方向に対して左側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する
中継装置。
【請求項2】
前記地域は、前記信号に含まれる、前記信号を送信した第一通信装置の位置を示す位置情報に基づいて推定される
請求項1に記載の中継装置。
【請求項3】
前記地域は、前記第一受信部によって受信される前記信号の受信信号強度と、前記中継装置の軌道情報と、に基づいて推定される
請求項1に記載の中継装置。
【請求項4】
前記地域は、前記第一受信部によって受信される前記信号の受信信号数と、前記中継装置の軌道情報と、に基づいて推定される
請求項1に記載の中継装置。
【請求項5】
前記信号の受信に関する受信情報を示す信号を前記第二通信装置へ送信する送信部と、
前記第二通信装置から送信された、前記受信情報に基づいて推定された前記地域を示す前記密集地域情報に基づく信号を受信する第二受信部と、
をさらに備える請求項1から4のうちいずれか一項に記載の中継装置。
【請求項6】
前記方向制御部は、前記中継装置の姿勢を制御することにより前記受信方向を制御する
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の中継装置。
【請求項7】
複数の第一通信装置と、第二通信装置と、前記複数の第一通信装置から前記第二通信装置へ伝送される信号を、移動しながら中継する、軌道が同一であり又は近似しており進行方向が同一である2つの中継装置と、を有する無線通信システムであって、
前記第一通信装置は、
前記信号を2つの前記中継装置のいずれかへ送信する第一送信部
を備え、
前記中継装置は、
前記複数の第一通信装置からそれぞれ送信された前記信号を受信アンテナにより受信する第一受信部と、
前記信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で前記第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて前記受信アンテナの受信方向を制御する方向制御部と、
前記信号を前記第二通信装置へ送信する第二送信部と、
を備え
前記方向制御部は、他の中継装置が前記進行方向に対して左側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する場合には、前記進行方向に対して右側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御し、前記他の中継装置が前記進行方向に対して右側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する場合には、前記進行方向に対して左側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する
無線通信システム。
【請求項8】
前記地域は、前記信号に含まれる、前記信号を送信した第一通信装置の位置を示す位置情報に基づいて推定される
請求項7に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記地域は、前記信号の受信信号強度と、前記中継装置の軌道情報と、に基づいて推定される
請求項7に記載の無線通信システム。
【請求項10】
前記地域は、前記信号の受信信号数と、前記中継装置の軌道情報と、に基づいて推定される
請求項7に記載の無線通信システム。
【請求項11】
前記第二送信部は、前記信号の受信に基づく受信情報を示す信号を前記第二通信装置へ送信し、
前記第二通信装置は、
前記信号を受信する第二受信部と、
前記受信情報に基づいて前記地域を推定する解析部と、
前記解析部によって推定された前記地域を示す前記密集地域情報に基づく信号を前記中継装置へ送信する第三送信部と、
を備え、
前記中継装置は、
前記第二通信装置から送信された前記密集地域情報を示す信号を受信する第三受信部
をさらに備える請求項7から10のうちいずれか一項に記載の無線通信システム。
【請求項12】
前記方向制御部は、前記中継装置の姿勢を制御することにより前記受信方向を制御する
請求項7から請求項11のうちいずれか一項に記載の無線通信システム。
【請求項13】
複数の第一通信装置から第二通信装置へ伝送される信号を、軌道が同一の又は近似しており進行方向が同一である、移動する2つの中継装置によって中継する無線通信方法であって、
前記第一通信装置が、2つの前記中継装置のいずれかへ前記信号を送信する第一送信ステップと、
前記中継装置が、前記複数の第一通信装置からそれぞれ送信された前記信号を受信アンテナにより受信する受信ステップと、
前記中継装置が、前記信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で前記第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて前記受信アンテナの受信方向を制御する方向制御ステップと、
前記中継装置が、前記信号を前記第二通信装置へ送信する第二送信ステップと、
を有し、
前記方向制御ステップでは、他の中継装置が前記進行方向に対して左側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する場合には、もう一方の前記中継装置は前記進行方向に対して右側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御し、前記他の中継装置が前記進行方向に対して右側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する場合には、もう一方の前記中継装置は前記進行方向に対して左側の前記地域を示す前記密集地域情報に基づいて前記受信方向を制御する
無線通信方法。
【請求項14】
請求項1から請求項6のうちいずれか一項の中継装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中継装置、無線通信システム、無線通信方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
小型の端末装置をインターネットに接続させて様々なアプリケーションを実現するIoT(Internet of Things)システムが普及している。IoTシステムの応用例として、複数のIoT端末が、気温、室温、加速度、及び光度などの環境情報をセンシングして無線信号で送信し、クラウド側で環境情報を収集するシステムが知られている。各種センサを備えたIoT端末は、様々な場所に設置される。例えば、海上のブイや船舶、及び山岳地帯など、基地局の設置が困難な場所のデータを収集するためにIoTを活用することも想定されている。
【0003】
一方で、通信衛星又はUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)などを中継局として、地上の複数の通信装置の間で無線通信を行う無線システムがある。通信衛星を中継局とする無線システムとして、高度1,000[km]前後の低い軌道を周回する低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit)を用いる場合と、高度36,000[km]を周回する静止衛星(GEO:Geostationary Orbit)を用いる場合とがある。低軌道衛星は、静止衛星に比べて伝搬距離が短い。そのため、低軌道衛星を中継局とする場合、低遅延かつ低伝搬損失な通信の実現が可能である(非特許文献1)。また、この場合、低軌道衛星や地上の通信装置が備える高周波回路の構成が容易になる。ところが、低軌道衛星は、静止衛星とは異なり地球の上空を周回するため、地上の通信装置から見た衛星方向が常時変化する。地上の各通信装置における低軌道衛星の一周回当たりの可視時間は数分である。そのため、低軌道衛星と地上の各通信装置とが通信可能な時間帯が制限される。
【0004】
一方で、IoT端末の通信に適した低電力かつ低伝送レートで広域通信が可能な無線システムとしてLPWA(Low Power Wide Area)が知られている。昨今、通信衛星がLPWAを用いてIoT端末からデータを収集する衛星IoTシステムの検討が行われている。一般的に、通信衛星と地上の通信装置との間の無線通信は、地上の複数の通信装置の間で直接通信を行う無線通信に比べて伝搬距離が長い。しかしながら、低軌道衛星を用いることによりLPWAの適用が可能になる。このような衛星IoTシステムの場合、通常のLPWAのみでは困難であった、航空分野、船舶分野、及びルーラルエリアでのIoT端末の収容が可能になる。また、この場合、ハブ局を必要としないためサービス展開が容易になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Z. QU et al., "LEO Satellite Constellation for Internet of Things," IEEE Access, Vol.5, pp.18391-18401, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今、IoT端末数は増加の一途をたどっている。また、例えばLPWAはデータレートが低いため、IoT端末がデータを送信している時間が相対的に長くなる。そのため、特定の地域に密集して存在する複数のIoT端末が、同一タイミングで信号を低軌道衛星へそれぞれ送信する機会も増大することが想定される。このような状況に対し、低軌道衛星が、複数の受信アンテナを搭載し、受信ビーム制御を行うことによって、複数のIoT端末から同一タイミングでそれぞれ送信された信号を受信することが可能になる。この場合、低軌道衛星は、受信された複数の信号の分離を行う必要がある。一般的に、同一タイミングで信号を送信する複数のIoT端末が密集して存在する方向と、低軌道衛星に搭載された受信アレーアンテナ面の正面方向(受信方向)とは、必ずしも一致しているとは限らない。受信アレーアンテナ面の正面方向ほど受信ビームを鋭くすることができ信号分離の性能が高くなるが、両者の方向が異なっているほど、信号分離の性能はより低下する。したがって、低軌道衛星とIoT端末との位置関係によっては信号分離の性能が低下し、通信の信頼性が低下することがある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、通信の信頼性低下を抑制することができる中継装置、無線通信システム、無線通信方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、複数の第一通信装置から第二通信装置へ伝送される無線の信号を、移動しながら中継する中継装置であって、前記複数の第一通信装置からそれぞれ送信された信号を受信アンテナにより受信する第一受信部と、前記信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で前記第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて前記受信アンテナの受信方向を制御する方向制御部と、を備える中継装置である。
【0009】
本発明の一態様は、複数の第一通信装置と、第二通信装置と、前記複数の第一通信装置から前記第二通信装置へ伝送される信号を、移動しながら中継する中継装置と、を有する無線通信システムであって、前記第一通信装置は、前記信号を前記中継装置へ送信する第一送信部を備え、前記中継装置は、前記複数の第一通信装置からそれぞれ送信された前記信号を受信アンテナにより受信する第一受信部と、前記信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で前記第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて前記受信アンテナの受信方向を制御する方向制御部と、前記信号を前記第二通信装置へ送信する第二送信部と、を備える無線通信システムである。
【0010】
本発明の一態様は、前記複数の第一通信装置から前記第二通信装置へ伝送される信号を、移動する中継装置によって中継する無線通信方法であって、前記第一通信装置が、前記中継装置へ前記信号を送信する第一送信ステップと、前記中継装置が、前記複数の第一通信装置からそれぞれ送信された前記信号を受信アンテナにより受信する受信ステップと、前記中継装置が、前記信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で前記第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて前記受信アンテナの受信方向を制御する方向制御ステップと、前記中継装置が、前記信号を前記第二通信装置へ送信する第二送信ステップと、を有する無線通信方法である。
【0011】
本発明の一態様は、上記の中継装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、通信の信頼性低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態における無線通信システムの構成図である。
図2】同実施形態における移動中継局の基地局通信部の構成を示すブロック図である。
図3】同実施形態における無線通信システムによるデータ収集処理を示すフローチャートである。
図4】同実施形態における無線通信システムによるデータ収集処理を示すフローチャートである。
図5】同実施形態における無線通信システムによる送信制御処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2の実施形態における無線通信システムによる送信制御処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の第3の実施形態における無線通信システムによる送信制御処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態の変形例1における無線通信システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
【0016】
図1は、第1の実施形態による無線通信システム1の構成図である。無線通信システム1は、移動中継局2と、端末局3と、基地局4とを有する。無線通信システム1が有する移動中継局2、端末局3及び基地局4のそれぞれの個数は任意であるが、端末局3の個数は多数であることが想定される。無線通信システム1は、即時性が要求されない情報の伝送を行う通信システムである。複数の端末局3からそれぞれ送信された情報は、移動中継局2を介して伝送され、基地局4によって収集される。
【0017】
移動中継局2は、移動体に搭載され、時間の経過に伴って通信可能なエリアが移動する中継装置の一例である。移動中継局2は、例えば、LEO(Low Earth Orbit)衛星に備えられる。LEO衛星の高度は2000[km]以下であり、地球を1周約1.5時間程度で周回する。端末局3及び基地局4は、地上や海上など地球上に設置される。複数の端末局3は、互いに異なる場所に存在する。端末局3は、例えば、IoT端末である。
【0018】
端末局3は、センサが検出した環境データ等のデータを収集し、移動中継局2へ無線により送信する。同図では、2台の端末局3のみを示している。移動中継局2は、地球の上空を移動しながら、複数の端末局3のそれぞれから送信されたデータを無線信号により受信する。移動中継局2は、受信したこれらのデータを蓄積する。移動中継局2は、蓄積しておいたデータを、基地局4との通信が可能なタイミングで一括して基地局4へ無線送信する。基地局4は、端末局3によって収集されたデータを移動中継局2から受信する。
【0019】
移動中継局2として、静止衛星、ドローン、又はHAPS(High Altitude Platform Station)などの無人航空機に搭載された中継局を用いることが考えられる。しかしながら、静止衛星に搭載された中継局の場合、地上のカバーエリア(フットプリント)は広いものの、高度が高いために、地上に設置されたIoT端末に対するリンクバジェットは非常に小さい。一方、ドローンやHAPSに搭載された中継局の場合、リンクバジェットは高いものの、カバーエリアが狭い。さらには、ドローンにはバッテリーが、HAPSには太陽光パネルが必要である。
【0020】
そこで、本実施形態では、移動中継局2は、地球の上空を周回するLEO衛星に搭載される。これにより、リンクバジェットは限界内に収まり、LEO衛星は大気圏外を周回するために空気抵抗がなく、燃料消費が少ない。また、ドローンやHAPSに中継局を搭載する場合と比較して、フットプリントも大きい。
【0021】
LEO衛星に搭載された移動中継局2は、高速で移動しながら通信を行うため、個々の端末局3や基地局4と移動中継局2とが通信可能な時間が限られている。具体的には、移動中継局2は、地上から見ると、数分間で上空を通り過ぎる。また、端末局3には、様々な仕様の無線通信方式が使用される。そこで、移動中継局2は、移動中の現在位置におけるカバレッジ内の端末局3から端末アップリンク信号を受信し、受信した端末アップリンク信号の波形データを保存しておく。移動中継局2は、複数本のアンテナにより端末アップリンク信号を受信する。
【0022】
移動中継局2は、カバレッジに基地局4が存在するタイミングにおいて、端末アップリンク信号の波形データを設定した基地局ダウンリンク信号を、基地局4に無線送信する。移動中継局2は、複数本のアンテナにより基地局ダウンリンク信号を送信する。以下では、基地局ダウンリンク信号の送信に、MIMO(Multiple Input Multiple Output)を用いる場合を例にして説明する。
【0023】
なお、本実施形態では、基地局4と移動中継局2とがMIMOによる通信を行うが、これに限られず、基地局4及び移動中継局2の少なくとも一方が、1つのアンテナを用いて通信を行うものであってもよい。
【0024】
基地局4は、移動中継局2から受信した基地局ダウンリンク信号を復調して端末アップリンク信号の波形データを得る。さらに、基地局4は、波形データが表す端末アップリンク信号に対して信号処理及び復号を行うことにより、端末局3が送信したデータである端末送信データを得る。
【0025】
なお、本実施形態による無線通信システム1では、一例として、移動中継局2と端末局3とがLPWA(Low Power Wide Area)を用いて無線通信を行う構成であるものとする。前述のとおり、端末局3の数は多数であることが想定される。また、LPWAはデータレートが低いため、端末局3が端末アップリンク信号を送信している時間が相対的に長くなる。なお、各々の端末局3は、通信の信頼性を確保するため、同一の端末アップリンク信号を複数回、移動中継局2へ向けて送信するようにしてもよい。これらのことから、特定の方向に密集して存在する複数の端末局3からそれぞれ送信される信号を移動中継局2が同一タイミングで受信する機会が増大することが想定される。
【0026】
このような状況に対し、移動中継局2が、複数の受信アンテナを搭載し、受信ビーム制御を行うことによって、複数の端末局3から同一タイミングでそれぞれ送信された信号を受信することが可能になる。この場合、移動中継局2は、受信された複数の信号の分離を行う必要がある。ここで、移動中継局2の位置から見て端末局3が密集する密集地域の方向と、移動中継局2に搭載された受信アレーアンテナ面の正面方向(受信方向)とが異なっているほど、信号分離の性能はより低下する。したがって、移動中継局2と端末局3の密集地域との位置関係によっては信号分離の性能が低下し、通信の信頼性が低下することがある。そこで、本実施形態における移動中継局2は、端末局3が密集する方向へ受信アンテナの受信方向を向けるように制御を行う。
【0027】
具体的には、各端末局3は、移動中継局2と通信可能なタイミングで、自己位置を示す位置情報を移動中継局2へ送信する。移動中継局2は、各々の端末局3の位置情報を含む波形データを収集し、蓄積する。移動中継局2は、基地局4と通信可能なタイミングで、蓄積された各々の端末局3の位置情報を含む波形データを基地局4へ送信する。
【0028】
基地局4は、各々の端末局3の位置情報に基づいて地球上における端末局3の分布を解析し、端末局3が密集して存在する密集地域を特定する。密集地域とは、所定の基準を超えて高い密度で複数の端末局3が位置している地域である。基地局4は、特定された密集地域を示す情報(以下、「密集地域情報」という。)と、移動中継局2の軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21の受信方向を決定する。すなわち、基地局4は、移動中継局2が密集地域に存在する端末局3と通信可能な位置に位置している時間帯に、アンテナ21の受信方向が密集地域(例えば、密集地域の中の位置)の方向に向くように、受信方向を決定する。アンテナ21の受信方向とは、例えばアレーアンテナの面の向きである。
【0029】
さらに、基地局4は、上記決定されたアンテナ21の受信方向となるような移動中継局2の姿勢(向き)を特定する。なお、基地局4は、例えばアンテナ21の受信方向と移動中継局2の姿勢(向き)とが対応付けられた情報を予め保持している。基地局4は、単位時間ごとの移動中継局2の姿勢を示す情報(以下、「方向制御情報」という。)を移動中継局2へ送信する。移動中継局2は、方向制御情報に従って単位時間ごとに姿勢を変化させる。このような構成により、アンテナ21の受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように随時制御される。
【0030】
なお、本実施形態では、移動中継局2は、自らの姿勢(向き)を変化させることによって受信アンテナの受信方向を制御するものとしたが、これに限られるものではない。例えば、移動中継局2が、受信方向を任意に変化させることができる受信アンテナを用いて、受信アンテナの動作によって受信方向を変化させる構成であってもよい。
【0031】
なお、本実施形態では、基地局4が、端末局3の密集地域を特定する処理を行うものとしたが、これに限られるものではない。例えば、移動中継局2が、端末局3の密集地域を特定する処理を行う構成であってもよい。また、本実施形態では、基地局4が、移動中継局の姿勢(向き)を決定する処理を行うものとしたが、これに限られるものではない。例えば、基地局4が、密集地域情報を移動中継局2へ送信し、移動中継局2が、密集地域情報に基づいて方向制御情報を生成するような構成であってもよい。すなわち、密集地域解析部46の少なくとも一部の機能が、基地局4側ではなく移動中継局2側に搭載されている構成であってもよい。但し、この場合、移動中継局2には、密集地域解析部46の少なくとも一部に相当する機能部の設置スペース及び当該機能部を動作させるための電力等が必要となる。そのため、これらの機能部は、設置スペースや利用可能な電力の確保が容易である地上の基地局4等に備えられていることが望ましい。
【0032】
以下の説明において、端末局3の密集地域を特定し、特定された密集地域の方向に受信アンテナの受信方向を向けるように移動中継局2の姿勢を制御するための処理を、「方向制御処理」という。また、各々の端末局3から送信された環境データ等のデータを、移動中継局2を介して基地局4が収集するための処理を、「データ収集処理」という。
【0033】
方向制御処理は、例えば、データ収集処理が開始される前の時点における移動中継局2の周回時、あるいは、データ収集処理が開始された時点における移動中継局2の初回の周回時等に行われる。また、方向制御処理は、例えば、定期的に(例えば、1日毎に)実行されてもよい。方向制御処理における各装置の構成及び動作の詳細については後述される。以下、データ収集処理における各装置の構成及び動作の詳細についてまず説明する。
【0034】
(データ収集処理)
以下、データ収集処理における各装置の構成を説明する。
移動中継局2は、N本のアンテナ21(Nは2以上の整数)と、端末通信部22と、データ記憶部23と、基地局通信部24と、複数本のアンテナ25とを備える。N本のアンテナ21をそれぞれ、アンテナ21-1~21-Nと記載する。
【0035】
端末通信部22は、N個の受信部221と、N個の周波数変換部222と、N個の受信波形記録部223とを有する。N個の受信部221を、受信部221-1~221-Nと記載し、N個の周波数変換部222を、周波数変換部222-1~222-Nと記載し、N個の受信波形記録部223を、受信波形記録部223-1~223-Nと記載する。
【0036】
受信部221-n(nは1以上N以下の整数)は、アンテナ21-nにより端末アップリンク信号を受信する。周波数変換部222-nは、受信部221-nが受信した端末アップリンク信号を、RF信号からベースバンド信号に周波数変換(例えば、直交復調器等による周波数変換)する。受信波形記録部223-nは、周波数変換部222-nが周波数変換した端末アップリンク信号の受信波形をサンプリングし、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-nは、アンテナ21-nのアンテナ識別子と、アンテナ21-nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成した波形データとを設定した受信波形情報をデータ記憶部23に書き込む。アンテナ識別子は、アンテナ21-nを特定する情報である。データ記憶部23は、アンテナ21-1~21-Nのそれぞれが受信した端末アップリンク信号の波形データを含む受信波形情報を記憶する。
【0037】
基地局通信部24は、任意の無線通信方式の基地局ダウンリンク信号により受信波形情報を基地局4へ送信する。
図2は、移動中継局2の基地局通信部24の構成を示すブロック図である。基地局通信部24は、記憶部241と、制御部242と、送信データ変調部243と、MIMO送信部244とを備える。
【0038】
記憶部241は、移動中継局2を搭載しているLEO衛星の軌道情報と、基地局4の位置とに基づいて予め計算された送信開始タイミングを記憶する。LEO衛星の軌道情報は、任意の時刻におけるLEO衛星の位置、速度、移動方向などを得ることが可能な情報である。なお、送信時刻は、例えば、送信開始タイミングからの経過時間で表してもよい。
【0039】
さらに、記憶部241は、各アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号の送信時刻毎のウェイトを予め記憶している。送信時刻毎のウェイトは、LEO衛星の軌道情報と、基地局4が備える各アンテナ局41の位置とに基づいて計算される。なお、送信時刻によらず、一定のウェイトを使用してもよい。
【0040】
なお、記憶部241は、例えば、センサデータの収集対象である地上の範囲が区分けされた複数の地域に関する情報を予め記憶していてもよい。
【0041】
制御部242は、記憶部241に記憶された送信開始タイミングにおいて、受信波形情報を基地局4へ送信するように送信データ変調部243及びMIMO送信部244を制御する。さらに、制御部242は、記憶部241から読み出した送信時刻毎のウェイトをMIMO送信部244に指示する。送信データ変調部243は、データ記憶部23から受信波形情報を送信データとして読み出し、読み出した送信データをパラレル信号に変換した後、変調する。MIMO送信部244は、変調されたパラレル信号に、制御部242から指示されたウェイトにより重み付けを行い、各アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号を生成する。MIMO送信部244は、生成した基地局ダウンリンク信号をアンテナ25からMIMOにより送信する。
【0042】
図1に示されるように、端末局3は、データ記憶部31と、送信部32と、1本または複数本のアンテナ33とを備える。データ記憶部31は、収集の対象であるセンサデータなどを記憶する。送信部32は、データ記憶部31からセンサデータを端末送信データとして読み出し、読み出した端末送信データを設定した端末アップリンク信号を、移動中継局2と通信可能なタイミングで、アンテナ33から無線により送信する。
【0043】
送信部32は、例えば、LPWA(Low Power Wide Area)により信号を送信する。LPWAには、LoRaWAN(登録商標)、Sigfox(登録商標)、LTE-M(Long Term Evolution for Machines)、NB(Narrow Band)-IoT等があるが、任意の無線通信方式を用いることができる。また、送信部32は、他の端末局3と時分割多重、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)などにより送信を行ってもよい。送信部32は、使用する無線通信方式において予め決められた方法により、自局が端末アップリンク信号の送信に使用するチャネル及び送信タイミングを決定する。また、送信部32は、使用する無線通信方式において予め決められた方法により、複数本のアンテナ33から送信する信号のビーム形成を行ってもよい。
【0044】
基地局4は、複数のアンテナ局41と、MIMO受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44とを備える。
アンテナ局41は、移動中継局2の複数のアンテナ25のそれぞれからの信号の到来角差が大きくなるように、他のアンテナ局41と離れた位置に配置される。各アンテナ局41は、移動中継局2から受信した基地局ダウンリンク信号を電気信号に変換してMIMO受信部42に出力する。
【0045】
MIMO受信部42は、複数のアンテナ局41により受信した基地局ダウンリンク信号を集約する。MIMO受信部42は、LEO衛星の軌道情報と、各アンテナ局41の位置とに基づいて、各アンテナ局41のそれぞれが受信した基地局ダウンリンク信号に対する受信時刻毎のウェイトを記憶している。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から入力した基地局ダウンリンク信号に対して、その基地局ダウンリンク信号の受信時刻に対応したウェイトを乗算し、ウェイトが乗算された受信信号を合成する。なお、受信時刻によらず同じウェイトを用いてもよい。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号の復調及び復号を行い、受信波形情報を得る。基地局信号受信処理部43は、受信波形情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0046】
端末信号受信処理部44は、受信波形情報が示す端末アップリンク信号の受信処理を行う。このとき、端末信号受信処理部44は、端末局3が送信に使用した無線通信方式により受信処理を行うことによって端末送信データを取得する。端末信号受信処理部44は、分配部441と、信号処理部442と、端末信号復号部443とを備える。
【0047】
分配部441は、受信波形情報から同じ受信時刻の波形データを読み出し、読み出した波形データを、その波形データに対応付けられたアンテナ識別子ごとに信号処理部442に出力する。
【0048】
信号処理部442は、フレーム検出(端末信号検出)、ドップラーシフト補償、及びオフラインビーム制御等の処理を行う。
フレーム検出(端末信号検出)とは、波形データから端末送信信号(端末送信フレーム)が含まれる区間を検出する処理である。
ドップラーシフト補償とは、波形データが示す信号に対して、移動中継局2のアンテナ21-nが受信した端末アップリンク信号のドップラーシフトを補償する処理である。各アンテナ21-nが受信した端末アップリンク信号が受けるドップラーシフトは、端末局3の位置と、移動中継局2が搭載されているLEOの軌道情報に基づき予め計算される。
オフラインビーム制御とは、(移動中継局2で受信ビーム制御を行うのではなく)信号処理部442によって行われる、後処理として受信ビーム制御を行う処理である。
信号処理部442は、上記の処理の結果得られるシンボルを端末信号復号部443に出力する。
【0049】
端末信号復号部443は、信号処理部442から出力されたシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。
【0050】
以下、データ収集処理における無線通信システム1の動作を説明する。
図3は、端末局3から端末アップリンク信号を送信する場合の無線通信システム1の動作を示すフローチャートである。
【0051】
端末局3は、外部又は内部に備えられた図示しないセンサが検出したセンサデータを随時取得し、取得したセンサデータをデータ記憶部31に書き込む(ステップS111)。送信部32は、データ記憶部31からセンサデータを端末送信データとして読み出す。送信部32は、移動中継局2を搭載したLEO衛星の軌道情報に基づいて予め得られた送信開始タイミングにおいて、端末送信データを設定した端末アップリンク信号をアンテナ33から無線送信する(ステップS112)。端末局3は、ステップS111からの処理を繰り返す。なお、端末局3は、他の端末局3と時分割多重、OFDM、MIMOなどにより送信を行ってもよい。
【0052】
移動中継局2の受信部221-1~221-Nは、端末局3から送信された端末アップリンク信号を受信する(ステップS121)。送信元の端末局3の無線通信方式によって、同一の周波数については時分割で1台の端末局3からのみ端末アップリンク信号を受信する場合と、同一の周波数で同時に複数台の端末局3から端末アップリンク信号を受信する場合がある。周波数変換部222-1~222-Nは、受信部221-1~221-Nが受信した端末アップリンク信号を、RF信号からベースバンド信号に周波数変換(例えば、直交復調器等による周波数変換)する。
【0053】
受信波形記録部223-1~223-Nは、周波数変換部222-1~222-Nが周波数変換した端末アップリンク信号の受信波形をサンプリングし、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-1~223-Nは、アンテナ21-1~21-Nのアンテナ識別子と、アンテナ21-1~21-Nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成した波形データとを設定した受信波形情報をデータ記憶部23に書き込む。(ステップS122)。移動中継局2は、ステップS121からの処理を繰り返す。
【0054】
図4は、移動中継局2から基地局ダウンリンク信号を送信する場合の無線通信システム1の処理を示すフローチャートである。移動中継局2の基地局通信部24が有する制御部242は、記憶部241に記憶された送信開始タイミングであることを検出すると、受信波形情報の送信を送信データ変調部243及びMIMO送信部244に指示する(ステップS211)。
【0055】
送信データ変調部243は、データ記憶部23に蓄積されている受信波形情報を送信データとして読み出し、読み出した送信データをパラレル変換した後、変調する。MIMO送信部244は、送信データ変調部243が変調した送信データに制御部242から指示されたウェイトにより重み付けを行って、各アンテナ25から送信する送信信号である基地局ダウンリンク信号を生成する。MIMO送信部244は、生成された各基地局ダウンリンク信号をアンテナ25からMIMOにより送信する(ステップS212)。移動中継局2は、ステップS211からの処理を繰り返す。
【0056】
基地局4のアンテナ局41は、移動中継局2から基地局ダウンリンク信号をMIMOにより受信する(ステップS221)。各アンテナ局41は、受信した基地局ダウンリンク信号を電気信号に変換した受信信号をMIMO受信部42に出力する。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から受信した受信信号のタイミングを同期させる。MIMO受信部42は、各アンテナ局41が受信した受信信号にウェイトを乗算して加算する。基地局信号受信処理部43は、加算された受信信号を復調し、復調した受信信号を復号する(ステップS222)。基地局信号受信処理部43は、復号により得られた受信波形情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0057】
端末信号受信処理部44の分配部441は、受信波形情報から受信時刻が同じ波形データを読み出し、読み出された波形データを、その波形データに対応付けられたアンテナ識別子ごとに信号処理部442に出力する。信号処理部442は、フレーム検出(端末信号検出)、ドップラーシフト補償、及びオフラインビーム制御等の処理を行う。信号処理部442は、上記の処理の結果得られるシンボルを端末信号復号部443に出力する。
【0058】
端末信号復号部443は、信号処理部442から出力されたシンボルを、特定された無線通信方式により復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る(ステップS223)。なお、端末信号復号部443は、SIC(Successive Interference Cancellation)のように、計算負荷が大きな復号方式を用いることも可能である。基地局4は、ステップS221からの処理を繰り返す。
【0059】
(方向制御処理)
以下、方向制御処理における各装置の構成を説明する。
端末局3の構成について説明する。データ記憶部31は、自己位置を示す位置情報を予め記憶している。例えば位置情報は、緯度及び経度を表す情報である。例えば端末局3は図示しないGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)受信機等の測位システムを備えており、例えば位置情報は、測位システムによって得られた2次元又は3次元の座標データである。
【0060】
送信部32は、データ記憶部31から位置情報を端末送信データとして読み出し、読み出された端末送信データを設定した端末アップリンク信号を、移動中継局2と通信可能なタイミングで、アンテナ33から無線により送信する。
【0061】
移動中継局2の構成について説明する。受信部221-n(nは1以上N以下の整数)は、端末局3から送信された端末アップリンク信号をアンテナ21-nにより受信する。端末アップリンク信号には、当該端末アップリンク信号を送信した端末局3の位置情報を示す端末送信データが設定されている。周波数変換部222-nは、受信部221-nが受信した端末アップリンク信号を、RF信号からベースバンド信号に周波数変換(例えば、直交復調器等による周波数変換)する。受信波形記録部223-nは、周波数変換部222-nが周波数変換した端末アップリンク信号の受信波形をサンプリングし、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-nは、アンテナ21-nのアンテナ識別子と、アンテナ21-nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成された波形データとを設定した受信波形情報を、データ記憶部23に書き込む。データ記憶部23は、アンテナ21-1~21-Nのそれぞれが受信した端末アップリンク信号の波形データを含む受信波形情報を記憶する。
【0062】
基地局通信部24は、任意の無線通信方式の基地局ダウンリンク信号により受信波形情報を基地局4へ送信する。具体的には、基地局通信部24の制御部242は、記憶部241に記憶された送信開始タイミングにおいて、受信波形情報を基地局4に送信するように送信データ変調部243及びMIMO送信部244を制御する。さらに、制御部242は、記憶部241から読み出した送信時刻毎のウェイトをMIMO送信部244に指示する。送信データ変調部243は、データ記憶部23から受信波形情報を送信データとして読み出し、読み出された送信データをパラレル信号に変換した後、変調する。MIMO送信部244は、変調されたパラレル信号に、制御部242から指示されたウェイトにより重み付けを行い、各アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号を生成する。MIMO送信部244は、生成した基地局ダウンリンク信号をアンテナ25からMIMOにより送信する。
【0063】
図2に示されるように、移動中継局2の基地局通信部24は、MIMO受信部245と、受信処理部246とをさらに備える。また、図1に示されるように、移動中継局2は、方向制御部26をさらに備える。方向制御部26は、記憶部261と、姿勢制御部262とを備える。
【0064】
MIMO受信部245は、アンテナ25により基地局アップリンク信号を受信する。基地局アップリンク信号には、単位時間ごとの移動中継局の姿勢(向き)を示す方向制御情報が設定されている。受信処理部246は、基地局アップリンク信号を復調及び復号し、方向制御情報を得る。受信処理部246は、方向制御情報を記憶部261に記録する。
【0065】
姿勢制御部262は、記憶部261に記録された方向制御情報を取得する。姿勢制御部262は、方向制御情報によって指定された時間帯に、方向制御情報によって指定された移動中継局2の姿勢(向き)となるように、姿勢を随時制御する。これにより、アンテナ21-nの受信方向が、通信可能な範囲に存在する端末局3の密集地域の方向へ向けられるように制御がなされる。
【0066】
なお、例えばアンテナ21-nが受信方向を任意に変化させることができる機構を有する受信アンテナである場合には、移動中継局2の姿勢(向き)そのものを変化させるのではなく、アンテナ21-nの受信方向のみを変化させるようにしてもよい。この場合、基地局4は、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を示す方向制御情報を生成し、生成された方向制御情報を基地局アップリンク信号に設定して移動中継局2へ送信すればよい。
【0067】
なお、移動中継局2は、密集地域に存在する端末局3と通信可能な位置に位置していない時間帯においては、アンテナ21-nの受信方向が、例えば地球の中心方向等の所定の方向(以下、「通常時の方向」ともいう。)に向くように、姿勢が制御される。移動中継局2は、密集地域に存在する端末局3と通信可能な位置に位置している時間帯において、アンテナ21-nの受信方向が密集地域の位置する方向(例えば、密集地域の中心の方向)となるように、姿勢が制御される。
【0068】
なお、移動中継局2の姿勢(すなわち、アンテナ21-nの受信方向)の切り替えタイミングは、例えば、密集地域の位置における移動中継局2の仰角に基づいて行われる。例えば、ある密集地域の位置における仰角が所定の閾値以上となる場合に、当該密集地域の位置する方向へアンテナ21-nの受信方向が向くように移動中継局2の姿勢が制御される。また、例えば、ある密集地域の位置における仰角が所定の閾値未満となる場合に、通常時の方向へアンテナ21-nの受信方向が向くように移動中継局2の姿勢が制御される。あるいは、次に接近する密集地域が位置する方向へアンテナ21-nの受信方向が向くように移動中継局2の姿勢が制御される。なお、仰角は、移動中継局2の軌道情報と密集地域の位置とに基づいて特定される。
【0069】
基地局4の構成について説明する。MIMO受信部42は、複数のアンテナ局41により受信した基地局ダウンリンク信号を集約する。MIMO受信部42は、LEO衛星の軌道情報と、各アンテナ局41の位置とに基づいて、各アンテナ局41のそれぞれが受信した基地局ダウンリンク信号に対する受信時刻毎のウェイトを記憶している。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から入力した基地局ダウンリンク信号に対して、その基地局ダウンリンク信号の受信時刻に対応したウェイトを乗算し、ウェイトが乗算された受信信号を合成する。なお、受信時刻によらず同じウェイトを用いてもよい。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号の復調及び復号を行い、受信波形情報を得る。基地局信号受信処理部43は、受信波形情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0070】
端末信号受信処理部44は、受信波形情報が示す端末アップリンク信号の受信処理を行う。このとき、端末信号受信処理部44は、端末局3が送信に使用した無線通信方式により受信処理を行うことによって端末送信データを取得する。端末信号受信処理部44は、分配部441と、信号処理部442と、端末信号復号部443とを備える。
【0071】
分配部441は、受信波形情報から同じ受信時刻の波形データを読み出し、読み出した波形データを、その波形データに対応付けられたアンテナ識別子ごとに信号処理部442に出力する。
【0072】
信号処理部442は、フレーム検出(端末信号検出)、ドップラーシフト補償、及びオフラインビーム制御等の処理を行う。信号処理部442は、上記の処理の結果得られるシンボルを端末信号復号部443に出力する。
端末信号復号部443は、信号処理部442から出力されたシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。ここで得られる端末送信データは、各端末局3の位置情報を含むデータである。
【0073】
図1に示されるように、基地局4は、記憶部45と、基地局信号送信処理部47と、MIMO送信部48とをさらに備える。
端末信号復号部443は、各端末局3の位置情報を記憶部45に記録する。記憶部45は、各端末局3の位置情報を記憶する。また、記憶部45は、移動中継局2の軌道情報を予め記憶している。また、記憶部45は、移動中継局2を搭載しているLEO衛星の軌道情報と、基地局4の位置とに基づいて予め計算された送信開始タイミングを記憶する。
【0074】
密集地域解析部46は、各端末局3の位置情報と、移動中継局2の軌道情報とを取得する。密集地域解析部46は、各端末局3の位置情報に基づいて地球上における端末局3の分布を解析し、端末局3の密集地域の位置を示す密集地域情報を生成する。密集地域解析部46は、生成された密集地域情報と、移動中継局2の軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を決定する。
【0075】
さらに、密集地域解析部46は、上記決定されたアンテナ21-nの受信方向となるような移動中継局2の姿勢(向き)を特定する。なお、記憶部45は、例えばアンテナ21-nの受信方向と移動中継局2の姿勢とが対応付けられた情報を予め保持している。密集地域解析部46は、単位時間ごとの移動中継局2の姿勢を示す方向制御情報を生成する。密集地域解析部46は、生成された方向制御情報を基地局信号送信処理部47へ出力する。
【0076】
基地局信号送信処理部47は、密集地域解析部46から方向制御情報を取得する。基地局信号送信処理部47は、方向制御情報を送信データとし、送信データをパラレル信号に変換した後、変調する。基地局信号送信処理部47は、記憶部45に記憶された送信開始タイミングにおいて、密集地域情報を移動中継局2へ送信するように、MIMO送信部48を制御する。
【0077】
MIMO送信部48は、変調されたパラレル信号にウェイトによる重み付けを行い、各アンテナ25から送信する方向制御情報を示す送信データが設定された基地局アップリンク信号を生成する。MIMO送信部48は、生成された基地局アップリンク信号を複数のアンテナ局41からMIMOにより移動中継局2へ送信する。
【0078】
以下、方向制御処理における無線通信システム1の動作を説明する。
図5は、方向制御処理における無線通信システム1の処理を示すフローチャートである。
【0079】
端末局3の送信部32は、データ記憶部31から自己位置を示す位置情報を端末送信データとして読み出し、端末アップリンク信号に設定する(ステップS311)。送信部32は、移動中継局2への送信タイミングにおいて、端末アップリンク信号をアンテナ33から無線により送信する(ステップS312)。
【0080】
移動中継局2の受信部221-1~221-Nは、アンテナ21-1~21-Nにより端末アップリンク信号を受信する(ステップS321)。周波数変換部222-1~222-Nは、受信部221-1~221-Nが受信した端末アップリンク信号を、RF信号からベースバンド信号に周波数変換(例えば、直交復調器等による周波数変換)する。
【0081】
受信波形記録部223-1~223-Nは、周波数変換部222-1~222-Nが周波数変換した端末アップリンク信号の受信波形をサンプリングし、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-1~223-Nは、アンテナ21-1~21-Nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成された波形データと、アンテナ21-1~21-Nのアンテナ識別子とを設定した受信波形情報をデータ記憶部23に書き込む。データ記憶部23は、受信波形記録部223-1~223-Nにより書き込まれた受信波形情報を記憶する(ステップS322)。
【0082】
移動中継局2は、各端末局3から端末アップリンク信号を収集する(ステップS323)。なお、例えば移動中継局2は、地球を一回周回した時点で、端末アップリンク信号の収集を完了する。この場合、各端末局3は、移動中継局2が地球を一回周回する間に自己位置を示す位置情報を設定した端末アップリンク信号を移動中継局2へ送信する。
【0083】
端末アップリンク信号の収集が完了した場合(ステップS323・YES)、基地局通信部24の制御部242は、記憶部241に記憶された送信開始タイミングにおいて、受信波形情報を基地局4に送信するように送信データ変調部243及びMIMO送信部244を制御する。送信データ変調部243は、データ記憶部23から受信波形情報を送信データとして読み出し、読み出した送信データを変調して基地局ダウンリンク信号に設定する(ステップS324)。MIMO送信部244は、基地局ダウンリンク信号を電気信号から無線信号に変換し、アンテナ25からMIMOにより送信する(ステップS325)。
【0084】
基地局4のアンテナ局41は、移動中継局2から基地局ダウンリンク信号をMIMOにより受信する(ステップS331)。各アンテナ局41は、受信した基地局ダウンリンク信号を電気信号に変換する。各アンテナ局41は、電気信号に変換された受信信号をMIMO受信部42に出力する。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から受信した受信信号のタイミングを同期させる。MIMO受信部42は、各アンテナ局41が受信した受信信号にウェイトを乗算して加算する。
【0085】
基地局信号受信処理部43は、加算された受信信号を復調し、復調した受信信号を復号する。基地局信号受信処理部43は、復号により得られた受信波形情報を端末信号受信処理部44の分配部441に出力する。端末信号受信処理部44の分配部441は、受信波形情報から同じ受信時刻の波形データを読み出し、読み出した波形データを、その波形データに対応付けられたアンテナ識別子ごとに信号処理部442に出力する。
【0086】
信号処理部442は、フレーム検出(端末信号検出)、ドップラーシフト補償、及びオフラインビーム制御等の処理を行う。信号処理部442は、上記の処理の結果得られるシンボルを端末信号復号部443に出力する。端末信号復号部443は、信号処理部442から出力されたシンボルを、特定された無線通信方式により復号し、端末局3から送信された端末送信データを取得する。ここで得られる端末送信データは、各端末局3の位置情報を含むデータである(ステップS332)。このとき、端末信号復号部443は、端末局3が送信に使用した無線通信方式により受信処理を行って端末送信データを取得する。端末信号復号部443は、各端末局3の位置情報を記憶部45に記録する。
【0087】
密集地域解析部46は、各端末局3の位置情報と、移動中継局2の軌道情報とを記憶部45から取得する。密集地域解析部46は、各端末局3の位置情報に基づいて地球上における端末局3の分布を解析し、端末局3の密集地域の位置を示す密集地域情報を生成する。なお、密集地域の位置とは、例えば密集地域の中心の位置である。密集地域解析部46は、生成された密集地域情報と、移動中継局2の軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を決定する。
【0088】
さらに、密集地域解析部46は、上記決定されたアンテナ21-nの受信方向となるような移動中継局2の姿勢(向き)を特定する。密集地域解析部46は、単位時間ごとの移動中継局2の姿勢を示す方向制御情報を生成する(ステップS333)。密集地域解析部46は、生成された方向制御情報を基地局信号送信処理部47へ出力する。
【0089】
基地局信号送信処理部47は、密集地域解析部46から方向制御情報を取得する。基地局信号送信処理部47は、方向制御情報を送信データとし、当該送信データをパラレル信号に変換した後、変調する。基地局信号送信処理部47は、記憶部45に記憶された送信開始タイミングにおいて、方向制御情報を移動中継局2へ送信するように、MIMO送信部48を制御する。
【0090】
MIMO送信部48は、変調されたパラレル信号にウェイトによる重み付けを行い、各アンテナ25から送信する方向制御情報を示す送信データを基地局アップリンク信号に設定する(ステップS334)。MIMO送信部48は、送信データが設定された基地局アップリンク信号をアンテナ局41からMIMOにより移動中継局2へ送信する(ステップS335)。
【0091】
移動中継局2のMIMO受信部245は、アンテナ25により基地局アップリンク信号をMIMOにより受信する(ステップS341)。基地局アップリンク信号には、単位時間ごとの移動中継局の姿勢(向き)を示す方向制御情報が設定されている。受信処理部246は、基地局アップリンク信号を復調及び復号し、方向制御情報を取得する(ステップS342)。受信処理部246は、方向制御情報を記憶部261に記録する。
【0092】
姿勢制御部262は、記憶部261に記録された方向制御情報を取得する。姿勢制御部262は、方向制御情報に基づいて姿勢の制御を実行開始する(ステップS343)。すなわち、姿勢制御部262は、方向制御情報に指定された時間帯に、を方向制御情報に指定された移動中継局の姿勢(向き)となるように、姿勢を随時制御する。これにより、アンテナ21-nの受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御がなされる。移動中継局2は、ステップS341からの処理を繰り返す。
【0093】
なお、例えば、端末局3が固定して設置されるなどして移動するものではなく、端末局3が追加及び削除されることがない場合など、密集地域に変化がないため、方向制御情報の更新が不要である場合がある。この場合、移動中継局2は、ステップS341からの処理を繰り返さずに、1度だけ処理を実行して終了するようにしてもよい。
【0094】
以上説明したように、第1の実施形態による無線通信システム1は、各端末局3の位置を示す位置情報に基づいて、端末局3が密集して存在する密集地域を基地局4において推定する。移動中継局2は、推定された密集地域が存在する方向へアンテナ21の受信方向が向けられるように、基地局4による制御により自己の姿勢を制御する。このような構成を備えることで、第1の実施形態による無線通信システム1は、密集地域が存在する方向へアンテナ21-nの受信方向を一致あるいは近似させることができるため、密集地域に位置する複数の端末局3から同時に端末アップリンク信号が受信された場合であっても、信号分離の性能低下を抑制することができる。これにより、無線通信システム1は、通信の信頼性低下を抑制することができる。
【0095】
また、第1の実施形態による無線通信システム1によれば、移動中継局2は、複数の端末局3から受信し、蓄積しておいたデータを、基地局4と通信可能なタイミングで、短い時間で一括して品質良く送信することができる。
【0096】
また、第1の実施形態によれば、移動中継局2は、端末局3から送信された端末アップリンク信号をダイバーシティ受信や、MIMO受信などにより受信する。よって、第1の実施形態による無線通信システム1によれば、移動中継局2と端末局3との間の通信のリンクバジェットを向上させることができる。
【0097】
(第2の実施形態)
【0098】
前述の第1の実施形態では、各端末局3が、自己位置を示す位置情報を移動中継局2へ送信し、移動中継局2は、収集された位置情報を示す波形データを基地局4へ送信した。基地局4は、収集された位置情報に基づいて、端末局3の密集地域を特定し、単位時間ごとの移動中継局2の姿勢(向き)を示す方向制御情報を生成した。基地局4は、生成された方向制御情報を移動中継局2へ送信し、移動中継局2は方向制御情報に基づいて姿勢を制御した。これにより、アンテナ21の受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御がなされる構成であった。
【0099】
これに対し、以下に説明する第2の実施形態では、端末局3は、自己位置を示す位置情報を移動中継局2へ送信しない。第2の実施形態では、基地局4aにおいて、単位時間当たりの端末アップリンク信号の受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator:)を計測する。ここでいう受信信号強度とは、例えば端末局3から送信される端末アップリンク信号の周波数帯の、単位時間ごとの受信信号強度である。
【0100】
基地局4aは、計測された単位時間ごとの受信信号強度に基づいて、端末局3の密集地域を特定し、単位時間ごとの移動中継局2aの姿勢(向き)を示す方向制御情報を生成する。なお、単位時間ごとの受信信号強度が強いほど、移動中継局2aのアンテナ21のその時点での受信方向に、より多くの端末局3が密集していると推定される。基地局4aは、生成された方向制御情報を移動中継局2aへ送信し、移動中継局2aは方向制御情報に基づいて姿勢を制御する。これにより、複数のアンテナ21-nの受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御される構成である。
【0101】
なお、もし移動中継局2aの受信アンテナが1つのみであった場合、受信アンテナの半値幅の広さのため、移動中継局2aは、例えば地上の半径数百[km]程度の地域内に存在する各端末局3から到来する端末アップリンク信号をまとめて受信することになる。よって、受信アンテナが1つのみでは、受信信号強度から地上の地域ごとの端末密集度を推定することは困難である。そのため、移動中継局2aは、複数の受信アンテナによって鋭い受信ビーム(狭ビーム)を形成する。
【0102】
なお、鋭い受信ビームは、例えば、移動中継局2aでサンプリングにより取得および記録した受信波形情報(波形データ)を基地局4aに送信し、基地局4aにて波形データを用いて後処理として形成される。基地局4aでの後処理により、地上の各地域の方向に順番に鋭い受信ビームを形成し(スイープし)、この受信ビーム処理の結果として得られる受信信号強度を計測していくことで、地上の地域ごとの端末密集度が推定可能になる。
【0103】
なお、上記の通り、受信信号強度の計測においては、ある時刻における波形データを繰り返し用いて鋭い受信ビームを形成し、地上の各エリアをスイープしながら計測するという計算量の多い処理が必要となる。さらに、各時刻において同様の計算処理を行う必要がある。そのため、受信信号強度の計測は、移動中継局2aと比べて計算リソースに余裕がある場合が多い基地局4aにおいて行われることが望ましい。
【0104】
以下、図1及び図2を参照しながら、第2の実施形態による無線通信システム1aの構成について説明する。なお、第2の実施形態による無線通信システム1aの構成部のうち、前述の第1の実施形態による無線通信システム1の構成部と同様の構成であるものについては、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0105】
無線通信システム1aは、移動中継局2aと、端末局3と、基地局4aとを有する。
移動中継局2aは、N本のアンテナ21(Nは2以上の整数)と、端末通信部22と、データ記憶部23と、基地局通信部24と、複数本のアンテナ25と、方向制御部26とを備える。端末通信部22は、受信部221-1~221-Nと、周波数変換部222-1~222-Nと、受信波形記録部223-1~223-Nとを備える。方向制御部26は、記憶部261と、姿勢制御部262とを備える。
【0106】
移動中継局2aのMIMO受信部245は、複数のアンテナ25により基地局アップリンク信号を受信する。基地局アップリンク信号には、単位時間ごとの移動中継局の姿勢(向き)を示す方向制御情報が設定されている。受信処理部246は、基地局アップリンク信号を復調及び復号し、方向制御情報を得る。受信処理部246は、方向制御情報を記憶部261に記録する。
【0107】
姿勢制御部262は、記憶部261に記録された方向制御情報を取得する。姿勢制御部262は、方向制御情報に指定された時間帯に、方向制御情報に指定された移動中継局2aの姿勢(向き)となるように、姿勢を随時制御する。これにより、アンテナ21-nの受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御がなされる。
【0108】
基地局4aは、複数のアンテナ局41と、MIMO受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44と、記憶部45aと、密集地域解析部46aと、基地局信号送信処理部47と、MIMO送信部48とを備える。
【0109】
MIMO受信部42は、複数のアンテナ局41により受信した基地局ダウンリンク信号を集約する。MIMO受信部42は、LEO衛星の軌道情報と、各アンテナ局41の位置とに基づいて、各アンテナ局41のそれぞれが受信した基地局ダウンリンク信号に対する受信時刻毎のウェイトを記憶している。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から入力した基地局ダウンリンク信号に対して、その基地局ダウンリンク信号の受信時刻に対応したウェイトを乗算し、ウェイトが乗算された受信信号を合成する。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号の復調及び復号を行い、受信波形情報を得る。基地局信号受信処理部43は、受信波形情報を端末信号受信処理部44aに出力する。
【0110】
端末信号受信処理部44aの信号処理部442aは、受信波形情報を解析し、単位時間ごとの受信信号強度を計測する。端末信号復号部443aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報を記憶部45aに記録する。
【0111】
記憶部45aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報を記憶する。また、記憶部45aは、移動中継局2aの軌道情報を予め記憶している。また、記憶部45aは、移動中継局2aを搭載しているLEO衛星の軌道情報と、基地局4aの位置とに基づいて予め計算された送信開始タイミングを記憶する。
【0112】
密集地域解析部46aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報と、移動中継局2aの軌道情報とを記憶部45aから取得する。密集地域解析部46aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報と移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、端末局3の密集地域の位置を示す密集地域情報を生成する。密集地域解析部46aは、生成された密集地域情報と、移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を決定する。
【0113】
さらに、密集地域解析部46aは、上記決定されたアンテナ21-nの受信方向となるような移動中継局2aの姿勢(向き)を特定する。なお、記憶部45aは、例えばアンテナ21-nの受信方向と移動中継局2aの姿勢とが対応付けられた情報を予め保持している。密集地域解析部46aは、単位時間ごとの移動中継局2aの姿勢を示す方向制御情報を生成する。密集地域解析部46aは、生成された方向制御情報を基地局信号送信処理部47へ出力する。
【0114】
基地局信号送信処理部47は、密集地域解析部46aから方向制御情報を取得する。基地局信号送信処理部47は、方向制御情報を送信データとし、当該送信データを変調する。基地局信号送信処理部47は、記憶部45aに記憶された送信開始タイミングにおいて、密集地域情報を移動中継局2aへ送信するように、MIMO送信部48を制御する。
【0115】
MIMO送信部48は、変調されたパラレル信号にウェイトによる重み付けを行い、各アンテナ25から送信する方向制御情報を示す送信データが設定された基地局アップリンク信号を生成する。MIMO送信部48は、生成された基地局アップリンク信号を複数のアンテナ局41からMIMOにより移動中継局2aへ送信する。
【0116】
以下、方向制御処理における無線通信システム1aの動作を説明する。
図6は、方向制御処理における無線通信システム1aの処理を示すフローチャートである。
【0117】
移動中継局2aの受信部221-1~221-Nは、アンテナ21-1~21-Nにより端末局3から送信される端末アップリンク信号を受信する(ステップS411)。周波数変換部222-1~222-Nは、受信部221-1~221-Nが受信した端末アップリンク信号を、RF信号からベースバンド信号に周波数変換(例えば、直交復調器等による周波数変換)する。
【0118】
受信波形記録部223-1~223-Nは、周波数変換部222-1~222-Nによって周波数変換された端末アップリンク信号の受信波形をサンプリングし、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-1~223-Nは、アンテナ21-1~21-Nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成された波形データと、アンテナ21-1~21-Nのアンテナ識別子とを設定した受信波形情報をデータ記憶部23に書き込む。データ記憶部23は、受信波形記録部223-1~223-Nにより書き込まれた受信波形情報を記憶する(ステップS412)。
【0119】
移動中継局2aは、各端末局3から端末アップリンク信号を収集する(ステップS413)。なお、例えば移動中継局2aは、地球を一回周回した時点で、端末アップリンク信号の収集を完了する。
端末アップリンク信号の収集が完了した場合(ステップS413・YES)、基地局通信部24の制御部242は、記憶部241に記憶された送信開始タイミングにおいて、受信波形情報を基地局4aに送信するように送信データ変調部243及びMIMO送信部244を制御する。送信データ変調部243は、データ記憶部23から受信波形情報を送信データとして読み出し、読み出した送信データを変調して基地局ダウンリンク信号に設定する(ステップS414)。MIMO送信部244は、基地局ダウンリンク信号を電気信号から無線信号に変換し、アンテナ25からMIMOにより送信する(ステップS415)。
【0120】
基地局4aの各アンテナ局41は、移動中継局2から基地局ダウンリンク信号を受信する(ステップS421)。各アンテナ局41は、受信した基地局ダウンリンク信号を、電気信号に変換する。各アンテナ局41は、電気信号に変換された受信信号をMIMO受信部42に出力する。
【0121】
MIMO受信部42は、複数のアンテナ局41により受信した基地局ダウンリンク信号を集約する。MIMO受信部42は、LEO衛星の軌道情報と、各アンテナ局41の位置とに基づいて、各アンテナ局41のそれぞれが受信した基地局ダウンリンク信号に対する受信時刻毎のウェイトを記憶している。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から入力した基地局ダウンリンク信号に対して、その基地局ダウンリンク信号の受信時刻に対応したウェイトを乗算し、ウェイトが乗算された受信信号を合成する。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号の復調及び復号を行い、受信波形情報を得る。基地局信号受信処理部43は、受信波形情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0122】
端末信号受信処理部44aの信号処理部442aは、受信波形情報を解析し、単位時間ごとの受信信号強度を計測する(ステップS422)。端末信号復号部443aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報を記憶部45aに記録する。
【0123】
密集地域解析部46aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報と、移動中継局2aの軌道情報とを記憶部45aから取得する。密集地域解析部46aは、単位時間ごとの受信信号強度を示す情報と移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、端末局3の密集地域の位置を示す密集地域情報を生成する。密集地域解析部46aは、生成された密集地域情報と、移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を決定する。
【0124】
さらに、密集地域解析部46aは、上記決定されたアンテナ21-nの受信方向となるような移動中継局2aの姿勢(向き)を特定する。密集地域解析部46aは、単位時間ごとの移動中継局2aの姿勢を示す方向制御情報を生成する(ステップS423)。密集地域解析部46aは、生成された方向制御情報を基地局信号送信処理部47へ出力する。
【0125】
基地局信号送信処理部47は、密集地域解析部46aから方向制御情報を取得する。基地局信号送信処理部47は、方向制御情報を送信データとし、当該送信データを変調する。基地局信号送信処理部47は、記憶部45aに記憶された送信開始タイミングにおいて、密集地域情報を移動中継局2aへ送信するように、MIMO送信部48を制御する。
【0126】
MIMO送信部48は、変調されたパラレル信号にウェイトによる重み付けを行い、各アンテナ25から送信する方向制御情報を示す送信データを基地局アップリンク信号に設定する(ステップS424)。MIMO送信部48は、送信データが設定された基地局アップリンク信号を複数のアンテナ局41に出力する。複数のアンテナ局41は、記憶部45aに記憶された送信開始タイミングにおいて、基地局アップリンク信号をMIMOにより移動中継局2aへ送信する(ステップS425)。
【0127】
移動中継局2aのMIMO受信部245は、複数のアンテナ25により基地局アップリンク信号をMIMOにより受信する(ステップS431)。基地局アップリンク信号には、単位時間ごとの移動中継局の姿勢(向き)を示す方向制御情報が設定されている。受信処理部246は、基地局アップリンク信号を復調及び復号し、方向制御情報を取得する(ステップS432)。受信処理部246は、方向制御情報を記憶部261に記録する。
【0128】
姿勢制御部262は、記憶部261に記録された方向制御情報を取得する。姿勢制御部262は、方向制御情報に基づいて姿勢の制御を実行開始する(ステップS433)。すなわち、姿勢制御部262は、方向制御情報に指定された時間ごとに、方向制御情報に指定された移動中継局の姿勢(向き)となるように、姿勢を随時制御する。これにより、アンテナ21-nの受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御がなされる。移動中継局2aは、ステップS431からの処理を繰り返す。
【0129】
なお、例えば、端末局3が固定して設置されるなどして移動するものではなく、端末局3が追加及び削除されることがない場合など、密集地域に変化がないため、方向制御情報の更新が不要である場合がある。この場合、移動中継局2aは、ステップS431からの処理を繰り返さずに、1度だけ処理を実行して終了するようにしてもよい。
【0130】
以上説明したように、第2の実施形態による無線通信システム1aは、単位時間ごとの端末アップリンク信号の受信信号強度に基づいて、端末局3が密集して存在する密集地域を推定する。移動中継局2aは、推定された密集地域が存在する方向へアンテナ21-nの受信方向が向けられるように姿勢を制御する。このような構成を備えることで、第2の実施形態による無線通信システム1aは、密集地域が存在する方向へアンテナ21-nの受信方向を一致あるいは近似させることができるため、密集地域に位置する複数の端末局3から同時に端末アップリンク信号が受信された場合であっても、信号分離の性能低下を抑制することができる。これにより、無線通信システム1aは、通信の信頼性低下を抑制することができる。
【0131】
(第3の実施形態)
【0132】
前述の第2の実施形態では、基地局4aは、端末局3から送信される端末アップリンク信号の周波数帯の、単位時間ごとの受信信号強度を計測した。
【0133】
これに対し、以下に説明する第3の実施形態では、基地局4bにおいて、単位時間あたりの端末アップリンク信号の受信信号数を計測する。
【0134】
基地局4bは、計測された単位時間ごとの受信信号数に基づいて、端末局3の密集地域を特定し、単位時間ごとの移動中継局2aの姿勢(向き)を示す方向制御情報を生成する。なお、単位時間ごとの受信信号数が多いほど、移動中継局2aのアンテナ21-nのその時点での受信方向に、より多くの端末局3が密集していると推定される。基地局4bは、生成された方向制御情報を移動中継局2aへ送信し、移動中継局2aは方向制御情報に基づいて姿勢を制御する。これにより、複数のアンテナ21-nの受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御がなされる構成である。
【0135】
なお、もし移動中継局2aの受信アンテナが1つのみであった場合、受信アンテナの半値幅の広さのため、移動中継局2aは、例えば地上の半径数百[km]程度の地域内に存在する各端末局3から到来する端末アップリンク信号をまとめて受信することになる。よって、受信アンテナが1つのみでは、受信信号数から地上の地域ごとの端末密集度を推定することは困難である。そのため、移動中継局2aは、複数の受信アンテナによって鋭い受信ビーム(狭ビーム)を形成する。
【0136】
なお、鋭い受信ビームは、例えば、移動中継局2aでサンプリングにより取得および記録した受信波形情報(波形データ)を基地局4aに送信し、基地局4aにて波形データを用いて後処理として形成される。基地局4aでの後処理により、地上の各地域の方向に順番に鋭い受信ビームを形成し(スイープし)、この受信ビーム処理の結果として得られる受信信号数を計測していくことで、地上の地域ごとの端末密集度が推定可能になる。
【0137】
なお、上記の通り、受信信号数の計測においては、ある時刻における波形データを繰り返し用いて鋭い受信ビームを形成し、地上の各エリアをスイープしながら計測するという計算量の多い処理が必要となる。さらに、各時刻において同様の計算処理を行う必要がある。そのため、端末数の計測は、移動中継局2aと比べて計算リソースに余裕がある場合が多い基地局4bにおいて行われることが望ましい。
【0138】
以下、図1及び図2を参照しながら、第3の実施形態による無線通信システム1bの構成について説明する。なお、第3の実施形態による無線通信システム1bの構成部のうち、前述の第1の実施形態による無線通信システム1の構成部及び前述の第2の実施形態による無線通信システム1aの構成部と同様の構成であるものについては、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0139】
無線通信システム1bは、移動中継局2aと、端末局3と、基地局4bとを有する。
移動中継局2aは、N本のアンテナ21(Nは2以上の整数)と、端末通信部22と、データ記憶部23と、基地局通信部24と、複数本のアンテナ25と、方向制御部26とを備える。端末通信部22は、受信部221-1~221-Nと、周波数変換部222-1~222-Nと、受信波形記録部223-1~223-Nとを備える。方向制御部26は、記憶部261と、姿勢制御部262とを備える。
【0140】
移動中継局2aのMIMO受信部245は、複数のアンテナ25により基地局アップリンク信号を受信する。基地局アップリンク信号には、単位時間ごとの移動中継局の姿勢(向き)を示す方向制御情報が設定されている。受信処理部246は、基地局アップリンク信号を復調及び復号し、方向制御情報を得る。受信処理部246は、方向制御情報を記憶部261に記録する。
【0141】
姿勢制御部262は、記憶部261に記録された方向制御情報を取得する。姿勢制御部262は、方向制御情報に指定された時間帯に、方向制御情報に指定された移動中継局2aの姿勢(向き)となるように、姿勢を随時制御する。これにより、アンテナ21-nの受信方向が端末局3の密集地域の方向となるように制御がなされる。
【0142】
基地局4bは、複数のアンテナ局41と、MIMO受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44と、記憶部45bと、密集地域解析部46bと、基地局信号送信処理部47と、MIMO送信部48とを備える。
【0143】
MIMO受信部42は、複数のアンテナ局41により受信した基地局ダウンリンク信号を集約する。MIMO受信部42は、LEO衛星の軌道情報と、各アンテナ局41の位置とに基づいて、各アンテナ局41のそれぞれが受信した基地局ダウンリンク信号に対する受信時刻毎のウェイトを記憶している。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から入力した基地局ダウンリンク信号に対して、その基地局ダウンリンク信号の受信時刻に対応したウェイトを乗算し、ウェイトが乗算された受信信号を合成する。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号の復調及び復号を行い、受信波形情報を得る。基地局信号受信処理部43は、受信波形情報を端末信号受信処理部44bに出力する。
【0144】
端末信号受信処理部44bの信号処理部442bは、受信波形情報を解析し、単位時間ごとの受信信号数を計測する。端末信号復号部443aは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報を記憶部45bに記録する。
【0145】
記憶部45bは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報を記憶する。また、記憶部45bは、移動中継局2aの軌道情報を予め記憶している。また、記憶部45bは、移動中継局2aを搭載しているLEO衛星の軌道情報と、基地局4bの位置とに基づいて予め計算された送信開始タイミングを記憶する。
【0146】
密集地域解析部46bは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報と、移動中継局2aの軌道情報とを記憶部45bから取得する。密集地域解析部46bは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報と移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、端末局3の密集地域の位置を示す密集地域情報を生成する。密集地域解析部46bは、生成された密集地域情報と、移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を決定する。
【0147】
さらに、密集地域解析部46bは、上記決定されたアンテナ21-nの受信方向となるような移動中継局2aの姿勢(向き)を特定する。なお、記憶部45bは、例えばアンテナ21-nの受信方向と移動中継局2aの姿勢とが対応付けられた情報を予め保持している。密集地域解析部46bは、単位時間ごとの移動中継局2aの姿勢を示す方向制御情報を生成する。密集地域解析部46bは、生成された方向制御情報を基地局信号送信処理部47へ出力する。
【0148】
基地局信号送信処理部47は、密集地域解析部46bから方向制御情報を取得する。基地局信号送信処理部47は、方向制御情報を送信データとし、当該送信データを変調する。基地局信号送信処理部47は、記憶部45bに記憶された送信開始タイミングにおいて、密集地域情報を移動中継局2aへ送信するように、MIMO送信部48を制御する。
【0149】
MIMO送信部48は、変調されたパラレル信号にウェイトによる重み付けを行い、各アンテナ25から送信する方向制御情報を示す送信データが設定された基地局アップリンク信号を生成する。MIMO送信部48は、生成された基地局アップリンク信号を複数のアンテナ局41からMIMOにより移動中継局2aへ送信する。
【0150】
以下、方向制御処理における無線通信システム1bの動作を説明する。
図7は、方向制御処理における無線通信システム1bの処理を示すフローチャートである。
【0151】
なお、方向制御処理における無線通信システム1bの処理は、図6に示した方向制御処理における無線通信システム1aの処理のうちステップS422及びステップS423の処理がそれぞれ以下に説明するステップS522及びステップS523の処理に変わったものである。
【0152】
端末信号受信処理部44bの信号処理部442bは、受信波形情報を解析し、単位時間ごとの受信信号数を計測する(ステップS522)。端末信号復号部443bは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報を記憶部45bに記録する。
【0153】
密集地域解析部46bは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報と、移動中継局2aの軌道情報とを記憶部45bから取得する。密集地域解析部46bは、単位時間ごとの受信信号数を示す情報と移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、端末局3の密集地域の位置を示す密集地域情報を生成する。密集地域解析部46bは、生成された密集地域情報と、移動中継局2aの軌道情報とに基づいて、単位時間ごとのアンテナ21-nの受信方向を決定する。
【0154】
さらに、密集地域解析部46bは、上記決定されたアンテナ21-nの受信方向となるような移動中継局2aの姿勢(向き)を特定する。密集地域解析部46bは、単位時間ごとの移動中継局2aの姿勢を示す方向制御情報を生成する(ステップS523)。密集地域解析部46bは、生成された方向制御情報を基地局信号送信処理部47へ出力する。
【0155】
なお、例えば、端末局3が固定して設置されるなどして移動するものではなく、端末局3が追加及び削除されることがない場合など、密集地域に変化がないため、方向制御情報の更新が不要である場合がある。この場合、移動中継局2aは、ステップS431からの処理を繰り返さずに、1度だけ処理を実行して終了するようにしてもよい。
【0156】
以上説明したように、第3の実施形態による無線通信システム1bは、単位時間ごとの端末アップリンク信号の受信信号数に基づいて、端末局3が密集して存在する密集地域を推定する。移動中継局2aは、推定された密集地域が存在する方向へ受信アンテナの受信方向が向けられるように姿勢を制御する。このような構成を備えることで、第3の実施形態による無線通信システム1bは、密集地域が存在する方向へ受信アンテナの受信方向を一致あるいは近似させることができるため、密集地域に位置する複数の端末局3から同時に端末アップリンク信号が受信された場合であっても、信号分離の性能低下を抑制することができる。これにより、無線通信システム1bは、通信の信頼性低下を抑制することができる。
【0157】
(変形例1)
上記の各実施形態では、移動中継局2の周波数変換部222-1~222-NにおいてRF信号をベースバンド信号に周波数変換(直交復調器等による周波数変換)を行ってから、受信波形記録部223-1~223-Nにより波形データを記録する構成であった。但し、この構成に限られるものではなく、例えば、移動中継局2においてはRF信号のまま波形データを記録し、基地局4においてRF信号をベースバンド信号に周波数変換(直交復調器等による周波数変換)する構成としてもよい。
【0158】
図8は、本発明の実施形態の変形例1における無線通信システムの構成図である。以下、図1に示した無線通信システム1の構成との差分を中心に説明する。
変形例1における無線通信システム1cは、移動中継局2cと、端末局3と、基地局4cとを有する。
【0159】
(データ収集処理)
以下、データ収集処理における各装置の構成を説明する。
移動中継局2cは、N本のアンテナ21(Nは2以上の整数)と、端末通信部22と、データ記憶部23と、基地局通信部24と、複数本のアンテナ25とを備える。N本のアンテナ21をそれぞれ、アンテナ21-1~21-Nと記載する。
【0160】
端末通信部22は、受信部221-1~221-Nと、受信波形記録部223-1~223-Nとを備える。
受信部221-n(nは1以上N以下の整数)は、アンテナ21-nにより端末アップリンク信号を受信する。受信波形記録部223-nは、受信部221-nが受信した端末アップリンク信号をRF信号のまま受信波形のサンプリングを行い、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-nは、アンテナ21-nのアンテナ識別子と、アンテナ21-nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成した波形データとを設定した受信波形情報をデータ記憶部23に書き込む。アンテナ識別子は、アンテナ21-nを特定する情報である。
【0161】
基地局4cの構成について説明する。基地局4cは、複数のアンテナ局41と、MIMO受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44cとを備える。
【0162】
端末信号受信処理部44cは、受信波形情報が示す端末アップリンク信号の受信処理を行う。このとき、端末信号受信処理部44cは、端末局3が送信に使用した無線通信方式により受信処理を行うことによって端末送信データを取得する。端末信号受信処理部44cは、分配部441と、N個の周波数変換部444と、信号処理部442と、端末信号復号部443とを備える。以下、N個の周波数変換部444を、周波数変換部444-1~444-Nと記載する。
【0163】
分配部441は、受信波形情報から同じ受信時刻の波形データを読み出し、読み出した波形データを、その波形データに対応付けられたアンテナ識別子に応じて周波数変換部444-1~444-Nに出力する。つまり、分配部441は、アンテナ21-n(nは1以上N以下の整数)のアンテナ識別子に対応付けられた波形データを、周波数変換部444-nに出力する。
【0164】
周波数変換部444-1~444-Nは、波形データを取得し、RF信号からベースバンド信号に周波数変換(例えば、直交復調器等による周波数変換)する。周波数変換部444-1~444-Nは、周波数変換された波形データを、信号処理部442に出力する。
【0165】
信号処理部442は、フレーム検出(端末信号検出)、ドップラーシフト補償、及びオフラインビーム制御等の処理を行う。
フレーム検出(端末信号検出)とは、波形データから端末送信信号(端末送信フレーム)が含まれる区間を検出する処理である。
ドップラーシフト補償とは、波形データが示す信号に対して、移動中継局2のアンテナ21-nが受信した端末アップリンク信号のドップラーシフトを補償する処理である。各アンテナ21-nが受信した端末アップリンク信号が受けるドップラーシフトは、端末局3の位置と、移動中継局2が搭載されているLEOの軌道情報に基づき予め計算される。
オフラインビーム制御とは、(移動中継局2で受信ビーム制御を行うのではなく)信号処理部442によって行われる、後処理として受信ビーム制御を行う処理である。
信号処理部442は、上記の処理の結果得られるシンボルを端末信号復号部443に出力する。
【0166】
端末信号復号部443は、信号処理部442から出力されたシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。
【0167】
(方向制御処理)
以下、方向制御処理における各装置の構成を説明する。
【0168】
移動中継局2cの構成について説明する。受信部221-n(nは1以上N以下の整数)は、端末局3から送信された端末アップリンク信号をアンテナ21-nにより受信する。端末アップリンク信号には、当該端末アップリンク信号を送信した端末局3の位置情報を示す端末送信データが設定されている。受信波形記録部223-nは、受信部221-nが受信した端末アップリンク信号をRF信号のまま受信波形のサンプリングを行い、サンプリングにより得られた値を示す波形データを生成する。受信波形記録部223-nは、アンテナ21-nのアンテナ識別子と、アンテナ21-nにおける端末アップリンク信号の受信時刻と、生成された波形データとを設定した受信波形情報を、データ記憶部23に書き込む。
【0169】
基地局4cの構成について説明する。基地局4cは、複数のアンテナ局41と、MIMO受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44cとを備える。
【0170】
端末信号受信処理部44cは、受信波形情報が示す端末アップリンク信号の受信処理を行う。このとき、端末信号受信処理部44cは、端末局3が送信に使用した無線通信方式により受信処理を行うことによって端末送信データを取得する。端末信号受信処理部44cは、分配部441と、周波数変換部444-1~444-Nと、信号処理部442と、端末信号復号部443とを備える。
【0171】
分配部441は、受信波形情報から同じ受信時刻の波形データを読み出し、読み出した波形データを、その波形データに対応付けられたアンテナ識別子に応じて周波数変換部444-1~444-Nに出力する。つまり、分配部441は、アンテナ21-nのアンテナ識別子に対応付けられた波形データを、周波数変換部444-nに出力する。
【0172】
信号処理部442は、フレーム検出(端末信号検出)、ドップラーシフト補償、及びオフラインビーム制御等の処理を行う。信号処理部442は、上記の処理の結果得られるシンボルを端末信号復号部443に出力する。
端末信号復号部443は、信号処理部442から出力されたシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。ここで得られる端末送信データは、各端末局3の位置情報を含むデータである。
【0173】
以上説明したように、変形例1における無線通信システム1cは、移動中継局2においてはRF信号のまま波形データを記録し、基地局4においてRF信号をベースバンド信号に周波数変換(直交復調器等による周波数変換)する。
【0174】
(変形例2)
上記の各実施形態において、複数の移動中継局2を用いることができる場合には、端末アップリンク信号の受信における受信方向の変更角度をより小さくするように制御することができる。端末アップリンク信号の受信における受信方向の変更角度をより小さくすることによって、受信方向の制御に要する消費電力を抑制することができる。
【0175】
例えば、端末局3の密集地域が複数存在する場合において、それぞれの密集地域のより近くを通過するほうの移動中継局2が、端末局3からの端末アップリンク信号を受信するように制御すればよい。または、例えば、2つの移動中継局2の軌道が同一又は近似しており、進行方向が同一である場合には、一方の移動中継局2が進行方向に対して右側の密集地域に含まれる端末局3からの端末アップリンク信号を受信し、もう一方の移動中継局2が進行方向に対して左側の密集地域に含まれる端末局3からの端末アップリンク信号を受信するようにすればよい。
【0176】
なお、上記の各実施形態において、移動中継局が搭載される移動体は、LEO衛星である場合を説明したが、静止衛星、ドローンやHAPSなど上空を飛行する他の飛行体であってもよい。
【0177】
上述した実施形態によれば、中継装置は、複数の第一通信装置から第二通信装置へ伝送される無線の信号を、移動しながら中継する。例えば、中継装置は、実施形態における移動中継局2,2a,2cであり、第一通信装置は、実施形態における端末局3であり、第二通信装置は、実施形態における基地局4,4a,4bである。
【0178】
中継装置は、第一受信部と、方向制御部とを備える。第一受信部は、複数の第一通信装置からそれぞれ送信された信号を受信アンテナにより受信する。例えば、第一受信部は、実施形態における受信部221,221-1~221-Nであり、信号は、実施形態における端末アップリンク信号であり、受信アンテナは、実施形態におけるアンテナ21,21-1~21-Nである。方向制御部は、信号の受信に基づいて推定される第一通信装置の密集地域を示す密集地域情報に基づいて受信アンテナの受信方向を制御する。
【0179】
また、上述した実施形態によれば、無線通信システムは、複数の第一通信装置と、第二通信装置と、複数の第一通信装置から第二通信装置へ伝送される信号を移動しながら中継する中継装置とを有する。第一通信装置は、信号を中継装置へ送信する第一送信部を備える。例えば、第一送信部は、実施形態における送信部32である。中継装置は、第一受信部と、方向制御部と、第二送信部とを備える。第一受信部は、複数の第一通信装置からそれぞれ送信された信号を受信アンテナにより受信する。方向制御部は、信号の受信に基づいて推定される、所定の基準を超えて高い密度で第一通信装置が位置している地域を示す密集地域情報に基づいて受信アンテナの受信方向を制御する。第二送信部は、信号を第二通信装置へ送信する。例えば第二送信部は、実施形態におけるMIMO送信部244である。
【0180】
なお、上記地域は、信号に含まれる、信号を送信した第一通信装置の位置を示す位置情報に基づいて推定されるようにしてもよい。
なお、上記地域は、第一受信部によって受信される信号の受信信号強度と、中継装置の軌道情報とに基づいて推定されるようにしてもよい。
なお、上記地域は、第一受信部によって受信される信号の受信信号数と、中継装置の軌道情報とに基づいて推定されるようにしてもよい。
【0181】
なお、中継装置は、送信部と、第二受信部とをさらに備えていてもよい。送信部は、信号の受信に関する受信情報を示す信号を第二通信装置へ送信する。例えば、送信部は、実施形態におけるMIMO送信部244であり、信号の受信に関する情報は、実施形態における、端末局3の位置を示す位置情報、端末アップリンク信号の単位時間ごとの受信信号強度、又は、端末アップリンク信号の単位時間ごとの受信信号数である。第二受信部は、第二通信装置から送信された、受信情報に基づいて推定された密集地域を示す密集地域情報に基づく信号を受信する。例えば、第二受信部は、実施形態におけるMIMO受信部245であり、密集地域情報に基づく信号とは、実施形態における基地局アップリンク信号である。
【0182】
なお、方向制御部は、中継装置の姿勢を制御することにより受信方向を制御するようにしてもよい。
【0183】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0184】
上述した実施形態における移動中継局2、2a、2c、端末局3、基地局4、4a、4b、4cの少なくとも一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0185】
1、1a、1b…無線通信システム、2、2a、2c…移動中継局、3…端末局、4、4a、4b、4c…基地局、21-1~21-N、21-n…アンテナ、22…端末通信部、23…データ記憶部、24…基地局通信部、25…アンテナ、26…方向制御部、31…データ記憶部、32…送信部、33…アンテナ、41…アンテナ局、42…MIMO受信部、43…基地局信号受信処理部、44、44a、44b、44c…端末信号受信処理部、45、45a、45b…記憶部、46、46a、46b…密集地域解析部、47…基地局信号送信処理部、48…MIMO送信部、221-1~221-N、221-n…受信部、222-1~222-N、222-n…周波数変換部、223-1~223-N、223-n…受信波形記録部、241…記憶部、242…制御部、243…送信データ変調部、244…MIMO送信部、245…MIMO受信部、246…受信処理部、261…記憶部、262…姿勢制御部、441…分配部、442、442a、442b…信号処理部、443…端末信号復号部、444-1~444-N…周波数変換部
図1
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図8