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特許7594212レーザ走査装置、レーザ走査方法、レーザ加工装置及び電磁鋼板の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】レーザ走査装置、レーザ走査方法、レーザ加工装置及び電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/12 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
G02B26/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023511691
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016369
(87)【国際公開番号】W WO2022210995
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021058353
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/103887(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101804518(CN,A)
【文献】特開2001-062577(JP,A)
【文献】特開2004-191863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00-26/12
B23K 26/00-26/70
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査装置であって、
前記レーザビームを照射するレーザビーム出力部と、
前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームをミラーで反射させるポリゴンミラーと、
前記ミラーと前記対象物との間に設けられ、前記ミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く光学系と、を有し、
前記ポリゴンミラーの回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行であり、
前記ポリゴンミラーの回転に伴って、前記対象物の表面で走査されるレーザビームの走査長さを有効走査長さLsとし、前記ポリゴンミラーの前記回転軸の方向に沿った前記レーザ走査装置の幅を幅Wとした場合に、W<Lsを満たす、レーザ走査装置。
【請求項2】
前記光学系は、
前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを反射し前記レーザビームの走査方向を変化させる反射ミラーと、
前記反射ミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物に反射する集光ミラーと、
前記反射ミラーと前記集光ミラーとを支持し、前記反射ミラーと前記集光ミラーとの間の前記レーザビームの光路を含む平面に沿って回転する回転部材と、
を備える、
請求項1に記載のレーザ走査装置。
【請求項3】
対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査方法であって、
レーザビーム出力部、ポリゴンミラー、及び光学系を有するレーザ走査装置を用い、
前記レーザビーム出力部を用いて、前記レーザビームを照射するレーザビーム出力ステップと、
前記ポリゴンミラーを用いて、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームをミラーで反射させる反射ステップと、
前記ミラーと前記対象物との間に設けられた前記光学系を用いて、前記ミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く導光ステップと、
を有し、
前記ポリゴンミラーの回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行であり、
前記ポリゴンミラーの回転に伴って、前記対象物の表面で走査されるレーザビームの走査長さを有効走査長さLsとし、前記ポリゴンミラーの前記回転軸の方向に沿った前記レーザ走査装置の幅を幅Wとした場合に、W<Lsを満たす、レーザ走査方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ走査装置を、電磁鋼板又は電磁鋼板に形成される鋼板の板幅方向に複数並べて配置し、前記電磁鋼板又は前記電磁鋼板に形成される鋼板の表面を前記レーザビームで走査して加工する、
レーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ走査装置を、電磁鋼板又は電磁鋼板に形成される鋼板の板幅方向に複数並べて配置し、前記電磁鋼板又は前記電磁鋼板に形成される鋼板の表面をレーザビームで走査して加工する、
電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ走査装置、レーザ走査方法、レーザ加工装置及び電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の表面にレーザビームを照射し、対象物の表面をレーザビームで走査することで、対象物の表面に加工を施したり、対象物の表面を改質したりするレーザ走査装置が知られている。そうしたレーザ走査装置には、例えば、特表2018-507111号公報の図2に記載されているもののように、レーザビームを出力するレーザビーム出力部と、回転軸に固定され、レーザビーム出力部から出力されたレーザビームを反射するポリゴンミラーと、ポリゴンミラーで反射したレーザビームを対象物の表面に導く光学系とを備えるものがある。
【0003】
特許文献1:特表2018-507111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで電磁鋼板の製造方法において、帯状の鋼板を連続で通板し、その表面に板幅方向にほぼ平行にレーザビームを走査及び照射して、熱歪や溝を形成し、鉄損を改善する磁区制御が知られている。この製造方法ではレーザビームの走査方向は、板幅方向の一方向であり、一方向のレーザビームの走査装置としては回転ポリゴンミラーが、最も適する。
【0005】
なお、電磁鋼板の板幅は、通常1000mm以上であり、一方、レーザ照射装置の走査幅は、150~200mm程度である。そのため5~7台の複数台のレーザ照射装置が必要になる。また隣り合う走査線が離れて、板幅方向にレーザ未照射部が発生すると鉄損の低減効果が大きく減少するため、隣り合う照射線は隙間なく、あるいは数mm重畳するようにレーザ照射装置を配置する必要がある。この際、レーザの走査幅に対して、レーザ照射装置全体の幅が広いと、隣り合う走査線を重畳させるには、板の通板方向にレーザ照射装置を延在させて配置する必要があり、そのため設備が大型化する課題があった。
【0006】
したがって、1台当たりのレーザ走査線の幅はできるだけ広い方が好ましいが、一方でポリゴンミラーの反射を用いる走査光学系においては、多面体であるポリゴンミラーの隣り合うミラーの間(すなわち、ミラーの角部)では、有限な径を持つレーザビームのパワー反射損失が発生する問題がある。この損失を低減するには、ポリゴンミラーに入射するビーム径に対して、ポリゴンミラーの円周方向の反射面長さを相対的に大きくする必要がある。すなわちポリゴンミラーの直径を大きくする必要がある。
【0007】
ここで、ポリゴンミラーの回転軸がレーザ走査方向に対して直交する場合、すなわちポリゴンミラーの回転面が走査面と平行の場合であって、かつ、ポリゴンミラーの直径が大きい場合、レーザ照射装置の走査方向の幅はポリゴンミラーの直径よりも大きくなり、結果、レーザ走査装置が占有する幅が増加する。そのため、電磁鋼板表面のレーザ走査線を板幅方向に隙間なく配置するにはレーザ照射装置を通板方向に延在して配置する必要があり、設備が大型化する問題があった。
【0008】
本開示は、ポリゴンミラーの回転平面が対象物の表面と平行であるレーザ走査装置等で例示される従来のレーザ走査装置に比して、レーザ走査装置が占有する幅を低減し、複数のレーザ走査線を板幅方向にコンパクトに配置可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の第1の観点に係るレーザ走査装置は、対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査装置であって、前記レーザビームを照射するレーザビーム出力部と、多角形の頂面及び底面を有する角柱状であり、前記頂面及び前記底面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されており、前記頂面及び前記底面を貫く軸を回転軸として回転して、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームを前記ミラーで反射させるポリゴンミラーと、前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く光学系と、を有し、前記ポリゴンミラーの前記回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行である。
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の第2の観点に係るレーザ走査方法は、対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査方法であって、レーザビーム出力部を用いて、前記レーザビームを照射するレーザビーム出力ステップと、多角形の頂面及び底面を有する角柱状であり、前記頂面及び前記底面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されており、前記頂面及び前記底面を貫く軸を回転軸として回転するポリゴンミラーを用いて、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームを前記ミラーで反射させる反射ステップと、光学系を用いて、前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く導光ステップと、を有し、前記ポリゴンミラーの前記回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行である。
【0011】
本開示によれば、ポリゴンミラーの回転平面が対象物の表面と略平行であるレーザ走査装置等で例示される従来のレーザ走査装置に比して、レーザ走査装置が占有する幅を低減し、複数のレーザ走査線を板幅方向にコンパクトに配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係るレーザ走査装置の斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係るレーザ走査装置の平面図である。
図3図3は、第1実施形態に係るレーザビームの有効走査長さを説明する図である。
図4図4は、第1実施形態に係るレーザ加工装置の平面図である。
図5図5は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の斜視図である。
図6図6は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の平面図である。
図7図7は、第2実施形態に係るレーザ加工装置の平面図である。
図8図8は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第1変形例に適用される第1回転部材の斜視図である。
図9図9は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第1変形例に適用される第1回転部材の平面図である。
図10図10は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第2変形例に適用される第2回転部材の斜視図である。
図11図11は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第2変形例に適用される第2回転部材の正面図である。
図12図12は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第2変形例に適用される第2回転部材の正面図である。
図13図13は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第2変形例に適用される第2回転部材の平面図である。
図14図14は、第2実施形態に係るレーザ走査装置の第2変形例に適用される第2回転部材の側面図である。
図15図15は、第3実施形態に係るレーザ走査装置の斜視図である。
図16図16は、第3実施形態に係るレーザ走査装置の平面図である。
図17図17は、第3実施形態に係るレーザ加工装置の平面図である。
図18図18は、第4実施形態に係るレーザ走査装置の平面図である。
図19図19は、第4実施形態に係るレーザ加工装置の平面図である。
図20図20は、比較例に係るレーザ走査装置の斜視図である。
図21図21は、比較例に係るレーザ走査装置の平面図である。
図22図22は、比較例に係るレーザビームの有効走査長さを説明する図である。
図23図23は、比較例に係るレーザビームの理想走査長さを説明する図である。
図24】比較例に係るレーザ加工装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本開示の第1~第4実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。但し、図面における厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0014】
はじめに、レーザ走査装置を用いて方向性電磁鋼板にレーザ加工を施す場合の課題について説明する。
【0015】
近年、方向性電磁鋼板(以下、電磁鋼板と称する)を圧延方向に高速で通板しながら、直径1mm以下に集光した微小なレーザビームを電磁鋼板の表面に照射し、板幅方向に走査して、電磁鋼板の表面に線状の歪み又は溝である被加工部を一定間隔で形成することにより電磁鋼板の鉄損を低減する、いわゆる磁区制御プロセスについて種々の検討が行われている。
【0016】
このような磁区制御プロセスでは、レーザビームの走査を行うために、例えば、ポリゴンミラーを用いたポリゴンミラー式のレーザ走査装置が用いられるが、1.0m~1.5m程度の板幅を有する電磁鋼板を毎分100m程度の速さで通板させる場合に、1台のレーザ走査装置だけで走査して、電磁鋼板の表面に被加工部を形成しようとすると、レーザビームを超高速に走査できるポリゴンミラーが必要となり、且つ、大出力であるレーザビーム出力部が必要となる。しかしながら、このようなポリゴンミラーやレーザビーム出力部を有するレーザ走査装置は非常に高価なものとなる。また、1.0m~1.5m程度の板幅を有する電磁鋼板の板幅方向の全域に亘ってレーザビームを直径1mm以下に均一に集光することができるミラー又はレンズは、実現が困難であり、仮に実現できたとしても、このようなレーザ走査装置は非常に高価なものとなる。
【0017】
そこで、コストを抑えるために、レーザ走査装置1台当たりが走査する幅を短いのものとし、電磁鋼板の板幅方向に複数のレーザ走査装置を並べることで、複数のレーザビームを用いて電磁鋼板の板幅方向の略全域に亘って走査できるようにする手法が採用される。
【0018】
(比較例)
図20及び図21には、ポリゴンミラー式のレーザ走査装置の一例として、比較例に係るレーザ走査装置150が示されている。比較例に係るレーザ走査装置150は、レーザビーム出力部152、平面ミラー154、ポリゴンミラー156、モータ160、及び集光ミラー170を備える。X軸方向は電磁鋼板40の板幅方向に相当し、Y軸方向は電磁鋼板40の長さ方向に相当し、Z軸方向は電磁鋼板40の板厚方向に相当する。電磁鋼板40は、Y軸方向-側から+側へ向けて通板される。以下、電磁鋼板40の板幅方向をX軸方向と称し、電磁鋼板40の長さ方向をY軸方向と称し、電磁鋼板40の板厚方向をZ軸方向と称する場合がある。
【0019】
レーザビーム出力部152は、レーザビームBを照射し、平面ミラー154は、レーザビーム出力部152から照射されたレーザビームBをポリゴンミラー156の側に反射する。ポリゴンミラー156は、背の低い多角柱によって円盤状に形成されたものであり、外周面に当たる各面の表面にはミラーが張られ、複数のミラー面162が形成されている。ポリゴンミラー156は、モータ160の回転軸164に固定されており、回転軸164と一体に回転する。
【0020】
回転軸164は、電磁鋼板40の表面の法線方向(すなわちZ軸方向)に延びており、ポリゴンミラー156の回転平面は、電磁鋼板40の表面と略平行(すなわちX-Y平面と略平行)である。ポリゴンミラー156は、複数のミラー面162のうちX軸方向に平面ミラー154と対向し、Y軸方向に集光ミラー170と対向する位置に移動したミラー面162のミラーによって、平面ミラー154で反射されたレーザビームBを集光ミラー170に向けて反射する。集光ミラー170は、ミラー面162で反射したレーザビームBを電磁鋼板40の側に反射し、かつ、レーザビームBを電磁鋼板40の表面に集光させる。
【0021】
ポリゴンミラー156が回転すると、ミラー面162のミラーで反射する際のレーザビームBの反射角が連続的に変化し、集光ミラー170へ入射するレーザビームBの入射位置が変化する。これにより、レーザビームBが照射される電磁鋼板40上の位置が変化し、レーザビームBで電磁鋼板40の表面が連続的に走査されることにより、電磁鋼板40の表面に線状の歪み又は溝である被加工部42が形成される。そして、ポリゴンミラー156の回転に伴い、レーザビームBを反射するミラー面162が次のミラー面162に切り替わることにより、レーザビームBが照射される電磁鋼板40上の位置が不連続に変化し、同時に電磁鋼板40がY方向に一定速度で移動することで、今回の被加工部42からY軸方向に一定間隔を空けて、電磁鋼板40の表面に次回の被加工部42が形成される。図20では、便宜上、今回の被加工部42のみが示されている。
【0022】
しかしながら、電磁鋼板40の幅方向の略全域に亘って走査を行うために、上述のようなレーザ走査装置150を、電磁鋼板40の板幅方向に複数並べて複数のレーザビームBを電磁鋼板40の板幅方向に走査しようとすると、次の課題が生じる。
【0023】
図22は、レーザビームBの有効走査長さLs’を説明する図である。有効走査長さLs’は、ポリゴンミラー156の回転に伴って、レーザビーム出力部152から有限なビーム径diを持った照射されたレーザビームBが、ポリゴンミラー156のミラー面162に形成されたミラーに到達した際のビーム径が、当該ミラーの一端に接してから、当該ミラーの他端に接するまでの間に、ポリゴンミラー156で反射した前記レーザビームが電磁鋼板40に到達した際のビーム径が、電磁鋼板の表面で移動するポリゴンミラー156の回転軸164の方向に沿った長さに相当する。
【0024】
なお、レーザビーム出力部152から照射されたレーザビームBのビーム径diは、ポリゴンミラー156の回転平面に平行な方向のレーザビームBの強度分布を、ガウシアン分布であると仮定して、強度が光軸中心強度の「1/e」となる径であり、レーザビームBの全体パワーの約86%を含む領域の径として定義されるのが一般的であるが、全体パワーの90%を含む領域であったり、全体パワーの95%を含む領域であったりといったように、適宜定義しても良い。
【0025】
図23は、レーザビームBの理想走査長さLs”を説明する図である。理想走査長さLs”は、ポリゴンミラー156の回転に伴って、レーザビーム出力部152から照射されたレーザビームB(すなわち、ビーム径が点と見なせるレーザビームB)がポリゴンミラー156のミラー面162に形成されたミラーに到達した際の光軸が、当該ミラーの一端に接してから、当該ミラーの他端に接するまでの間に、ポリゴンミラー156で反射した前記レーザビームが電磁鋼板40に到達した際の光軸が、電磁鋼板の表面で移動するポリゴンミラー156の回転軸164の方向に沿った長さに相当する。
【0026】
上述のポリゴンミラー式のレーザ走査装置では、ポリゴンミラー156の外周面に形成された複数のミラー面162の境界部でレーザビームBの乱反射及び/又はレーザビームBの分割反射が発生する。このため、レーザビームBの外形が境界部を通り越して境界部がレーザビームBの外形の内側に位置するタイミングでは、電磁鋼板40の表面に照射されるレーザビームBのパワーが減少するので、レーザビームBのビーム径の大きさを考慮した有効走査長さLs’が、レーザビームBのビーム径の大きさを考慮しない理想走査長さLs”よりも短くなる。
【0027】
したがって、複数のポリゴンミラー式のレーザ走査装置を電磁鋼板40の板幅方向に並べて複数のレーザビームBを電磁鋼板40の板幅方向に走査する場合には、複数のレーザビームBを電磁鋼板40の板幅方向に走査するために必要なレーザ走査装置150の台数が増加する。
【0028】
また、上述の比較例に係るレーザ走査装置150では、複数のミラー面162の境界部でのレーザビームBの反射損失が、ポリゴンミラー156の接線方向に沿ったミラー面162の接線方向長さLmと、ミラー面162に入射するレーザビームBのビーム径diとの比率で決まる。例えば、接線方向長さLmがビーム径diに比べて十分に大きければ、反射損失は低下し、有効走査長さLs’が増加する。
【0029】
ここで、レーザビームBの反射損失を低減するために、Lm/diを大きくするには、ビーム径diを小さくすることが考えられるが、レーザビームBの集光径dfは、下記式(1)で示すように、1/diに比例する。

df=α×(f×λ)/di・・・(1)

ただし、αはレーザビームBに固有の定数であり、λはレーザビームBの波長であり、fは集光ミラー170の焦点距離である。
【0030】
このため、ビーム径diが小さくなると、レーザビームBの集光性能が低下し、電磁鋼板40の表面に歪又は溝を加工できなくなる虞がある。また、電磁鋼板40の表面に溝を加工する場合のように高出力のレーザビームBを用いる場合は、ビーム径diを小さくすると、ミラー面上でのパワー密度が高くなり、ミラーの損傷の問題も発生するという問題がある。従って、ビーム径diを小さくするには限界がある。
【0031】
一方、Lm/diを大きくするために、接線方向長さLmを長くすることが考えられる。接線方向長さLmを長くするためには、ポリゴンミラー156の径を大きくすればよい。しかしながら、比較例に係るレーザ走査装置150では、ポリゴンミラー156の回転平面が電磁鋼板40の表面と平行である。このため、ポリゴンミラー156の径を大きくすると、図21に示すように、レーザ走査装置150の幅(すなわち、レーザ走査装置150が占有する幅)wが増加する。したがって、設置場所の制約から、全てのレーザ走査装置150を電磁鋼板40の板幅方向に並べて設置することが困難になるという課題がある。
【0032】
そこで、図24に示すように、複数のレーザ走査装置150を電磁鋼板40の板幅方向及び長さ方向に並べて配置することが考えられる。しかしながら、このように複数のレーザ走査装置150を電磁鋼板40の板幅方向及び長さ方向に並べて配置した場合には、複数のレーザ走査装置150を含むレーザ加工装置180の全体が大型化し、かつ、コストが増大するという課題がある。
【0033】
なお、図20に示す比較例では、集光素子としてビームのX-Y平面方向の光を一つの集光ミラー170で集光する構成を挙げたが、その他の方法として、集光ミラー170の代わりにfθレンズを用いる構成とすることもできる。また、平面ミラー154の前に集光レンズを用い、且つ集光ミラー170の代わりに平面ミラーを用いる構成や、レーザビームBのX軸方向の光のみを集光する集光ミラーとY軸方向の光のみを集光する集光ミラーとを組み合わせて、レーザビームBを楕円上に集光する構成であってもよい。いずれの構成においても、上述の理由により、ポリゴンミラー156のミラー面22上でのビーム径diの縮小には限界があるため、有効走査長さLs’を拡大するにはポリゴンミラー156の径を大きくする必要がある。
【0034】
[第1実施形態]
次に、本開示の第1実施形態について説明する。
【0035】
本開示の第1実施形態は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、比較例に係るレーザ走査装置のように、ポリゴンミラーの回転平面が電磁鋼板の表面と平行である構成に比して、レーザ走査装置が占有する幅を低減することができるレーザ走査装置を提供すること、ひいては、複数のレーザビームを電磁鋼板の板幅方向に走査するために必要なレーザ走査装置の台数を削減して小型化及びコストダウンを実現することができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【0036】
本開示では、後述するように、レーザビームBを所定の対象物の表面に照射して、対象物の表面に加工を施したり、対象物の表面を改質したりすることになる。対象物としては、種々の金属材料を用いることができるが、一例として電磁鋼板40を用いることができ、特に方向性電磁鋼板を用いると好適であるため、以下では、電磁鋼板40を対象物の例として説明を行うものとする。
【0037】
(レーザ走査装置)
図1に示すように、第1実施形態に係るレーザ走査装置10は、レーザビーム出力部12、平面ミラー14、ポリゴンミラー16、光学系18、及びモータ20を備える。
【0038】
レーザビーム出力部12は、不図示のレーザ光源で発振され、光ファイバ等を用いて伝達されたレーザビームBを、後述する平面ミラー14に向けて照射するものである。レーザビーム出力部12は、例えば、ポリゴンミラー16のY軸方向+側(換言すると、Y軸の正方向側)で、電磁鋼板40のZ軸方向+側(換言すると、Z軸の正方向側)に配置される。レーザビーム出力部12は、レーザビームBをZ軸方向-側(換言すると、Z軸の負方向側、すなわち電磁鋼板40の側)に向けて照射する向きで配置される。
【0039】
平面ミラー14は、レーザビーム出力部12から出力されたレーザビームBを反射し、レーザビームBの進行方向を、後述するポリゴンミラー16のミラー面22の方向へと変えるものである。平面ミラー14は、例えば、レーザビーム出力部12の下側(すなわち、Z軸方向-側)で、電磁鋼板40の上側(すなわち、Z軸方向+側)の空間に配置され、レーザビーム出力部12と後述するポリゴンミラー16との間のレーザビームBの光路上に配置される。この場合、平面ミラー14は、レーザビーム出力部12から出力されたレーザビームBをY軸方向-側(すなわちポリゴンミラー16の側)に反射する向きで配置される。
【0040】
ポリゴンミラー16は、多角形の頂面(すなわち、上面)及び底面(すなわち、下面)を有する角柱状である。ポリゴンミラー16は、頂面及び底面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されて、ミラー面22をなしている。ポリゴンミラー16は、頂面及び底面を貫く軸を回転軸24として回転する。ポリゴンミラー16は、レーザビーム出力部12から照射されて平面ミラー14で反射したレーザビームBを、ミラー面22のミラーで反射させるものである。
【0041】
そのため、ポリゴンミラー16の回転に応じて、ミラー面22で反射されるレーザビームBの方向が変化することになり、後述する光学系18を通じてレーザビームBが電磁鋼板40の表面に到達する位置も変化することになる。そのため、ポリゴンミラー16の回転に応じて、電磁鋼板40の表面をレーザビームBで走査することが可能となる。なお、ポリゴンミラー16の頂面及び底面は、多角形ではあるが、多角形を円形と見なして、その対角線を、以下の説明において「外径」と表現する場合がある。
【0042】
ポリゴンミラー16の回転軸24は、モータ20の回転軸に固定されており、一体に回転する。モータ20は、回転軸24に接続された減速機構を備えていてもよい。ポリゴンミラー16の回転軸24は、電磁鋼板40の表面と平行に延び、例えば、X軸方向に延びている。ポリゴンミラー16の回転平面は、Z軸方向から見てX軸方向と直交するY-Z平面となる。ポリゴンミラー16は、複数のミラー面22が、略Y軸方向に平面ミラー14と対向し、略Z軸方向に後述する第1ミラー26と対向する位置に来た時に、レーザビームBが、略Z軸方向-側に位置する第1ミラー26に反射する位置に、配置される。
【0043】
光学系18は、ポリゴンミラー16で反射したレーザビームBを対象物である電磁鋼板40の表面に導く光学素子群である。光学系18は、公知の光学素子を適宜組み合わせることで実現できるが、例えば、第1ミラー26、第2ミラー28及び集光ミラー30を備える。
【0044】
第1ミラー26は、複数のミラー面22のうちレーザビームBを反射するミラー面22に対向するZ軸方向-側に配置される。第1ミラー26は、ミラー面22で反射したレーザビームBをX軸方向+側に反射する向きで配置される。また、第1ミラー26は、第1ミラー26の光軸がX軸方向と平行となる向きで配置される。
【0045】
第2ミラー28は、第1ミラー26に対するX軸方向+側に配置され、第1ミラー26で反射したレーザビームBをY軸方向+側に反射する向きで配置される。また、第2ミラー28は、第2ミラー28の光軸がY軸方向と平行となる向きで配置される。集光ミラー30は、例えば、集光放物面ミラーである。
【0046】
集光ミラー30は、第2ミラー28に対するY軸方向+側かつ電磁鋼板40に対するZ軸方向+側に配置される。集光ミラー30は、第2ミラー28で反射したレーザビームBをZ軸方向-側(すなわち電磁鋼板40の側)に反射する向きで配置される。また、集光ミラー30は、集光ミラー30の光軸がZ軸方向と平行となる向きで配置される。集光ミラー30の位置は、入射したレーザビームBを電磁鋼板40の表面に集光させる位置に設定される。
【0047】
この集光ミラー30は、長尺状に形成されている。集光ミラー30の向きは、Z軸方向から見て集光ミラー30の長手方向がX軸方向と平行になる向きに設定されており、これにより、レーザビームBの走査方向がX軸方向に略平行に設定される。このように、光学系18は、ポリゴンミラー16で反射したレーザビームBを、電磁鋼板40の表面に導くことができ、ポリゴンミラー16の回転に応じて、電磁鋼板40の表面における、レーザビームBが照射される位置を、例えば、X軸方向に平行に変化させることができる。即ち、レーザビームBで、対象物である電磁鋼板40の表面を走査することができ、電磁鋼板40の表面を加工したり、電磁鋼板40の表面を改質したりすることができる。
【0048】
本開示では、図1に例示されるように、ポリゴンミラー16の回転軸24が、X軸方向を向いている場合には、光学系18、特に、集光ミラー30から出たレーザビームBが電磁鋼板40の表面を走査する方向は、X軸方向に沿うことになる。すなわち、ポリゴンミラー16の回転軸24の方向と走査する方向とが平行となる。換言すると、回転軸24は、レーザビームBが走査される方向に沿って延びる。従って、本開示のレーザ走査装置10を用いることで、回転軸24に垂直な径方向に大きくなりがちなポリゴンミラー16が電磁鋼板40の幅方向に占有する幅を、走査できる幅に対して相対的に小さいものとすることが可能である。つまり、レーザ走査装置10の1台当たりの占有する幅を小さくすることができる。
【0049】
(レーザ走査装置を用いた処理の流れ)
続いて、第1実施形態に係るレーザ走査装置10を用いた処理の流れについて説明する。
【0050】
レーザ走査装置10を用いた処理は、電磁鋼板40の表面をレーザビームBで走査する処理を含むものであり、レーザ走査装置10によって実行される。
【0051】
レーザ走査装置10において、レーザビーム出力部12から平面ミラー14に向けてレーザビームBが照射されると、このレーザビームBが、平面ミラー14によってY軸方向-側(すなわちポリゴンミラー16の側)に反射される。
【0052】
次に、モータ20を作動させることで、モータ20の回転軸24と一体にポリゴンミラー16を回転させ、レーザビーム出力部12から照射されたレーザビームBを、ポリゴンミラー16のミラー面22のミラーで反射させる。
【0053】
ミラー面22のミラーで反射したレーザビームBは、第1ミラー26によってX軸方向+側に反射され、第1ミラー26で反射したレーザビームBは、第2ミラー28によってY軸方向+側に反射される。また、第2ミラー28で反射したレーザビームBは、集光ミラー30によって反射され、電磁鋼板40の表面に集光される。すなわち、ポリゴンミラー16で反射したレーザビームBが電磁鋼板40の表面に導かれる。
【0054】
ポリゴンミラー16が回転すると、ミラー面22で反射するレーザビームBの反射角が連続的に変化し、第1ミラー26へ入射するレーザビームBの入射位置、第2ミラー28へ入射するレーザビームBの入射位置、及び集光ミラー30へ入射するレーザビームBの入射位置がそれぞれ変化する。そして、レーザビームBがX軸方向に照射され、レーザビームBで電磁鋼板40の表面を走査ことにより、電磁鋼板40の表面に線状の歪み又は溝である被加工部42が形成される。
【0055】
また、ポリゴンミラー16の回転に伴い、レーザビームBを反射するミラー面22が次のミラー面22に切り替わることにより、今回の被加工部42からY軸方向に一定間隔を空けて、電磁鋼板40の表面に次回の被加工部42が形成される。図1では、便宜上、今回の被加工部42のみが示されている。
【0056】
(レーザ走査装置の幅及び有効走査長さの関係)
続いて、図2に示すレーザ走査装置10の幅W及び有効走査長さLsの関係について説明する。
【0057】
第1実施形態に係るレーザ走査装置10では、ポリゴンミラー16の回転平面(すなわちY-Z平面)がX軸方向と直交する。これにより、第1実施形態に係るレーザ走査装置10の幅Wは、図21中に例示された比較例に係るレーザ走査装置150の幅(すなわち、電磁鋼板40の幅方向に占有する幅)wよりも狭い。また、第1実施形態に係るレーザ走査装置10は、幅W及び有効走査長さLsとの関係において、W<Lsを満たす。例えば、有効走査長さLsが200mm程度の場合、ポリゴンミラー16の直径は400mm以上が好ましいが、本発明の実施例ではレーザ照射装置の幅Wはポリゴンミラーの直径に依存せず、例えば150mm程度である。
【0058】
なお、幅Wは、X軸方向に沿ったレーザ走査装置10の幅(すなわち、電磁鋼板40の幅方向に占有する幅)である。幅Wは、レーザ走査装置10におけるX軸方向+側の端部から-側の端部までの間の最大幅に相当する。
【0059】
図3に示すように、有効走査長さLsは、ポリゴンミラー16の回転に伴って、レーザビーム出力部12から照射されたレーザビームBがポリゴンミラー16に形成されたミラーに到達した際のビーム径が、当該ミラーの一端に接してから、当該ミラーの他端に接するまでの間に、ポリゴンミラー16で反射したレーザビームBが電磁鋼板40に到達した際のビーム径が、電磁鋼板40の表面で移動する長さである。有効走査長さLsは、ポリゴンミラー16の回転軸24の方向に沿った長さで規定される。有効走査長さLsは、被加工部42のX軸方向の長さに相当する。
【0060】
図2に示すように、第1実施形態に係るレーザ走査装置10では、レーザ走査装置10の幅Wの範囲の一部が有効走査長さLsの範囲からはみ出しているが、W<Lsの関係が満たされるのであれば、レーザ走査装置10の幅Wの範囲が有効走査長さLsの範囲からはみ出していてもよい。
【0061】
このようなレーザ加工装置によって、電磁鋼板の磁区制御において要求される板幅方向に複数のレーザ走査線を各々が一定幅を重畳させる場合において、レーザ照射装置を幅方向に一列に並べることが可能となり、省スペースでコンパクトな設備を構成することができる。
【0062】
(レーザ加工装置)
続いて、第1実施形態に係るレーザ走査装置10を用いたレーザ加工装置50について説明する。
【0063】
図4に示すように、第1実施形態に係るレーザ加工装置50は、複数のレーザ走査装置10を備える。複数のレーザ走査装置10は、X軸方向に並んで配置されている。複数のレーザ走査装置10の位置は、隣り合うレーザ走査装置10によって被加工部42がX軸方向に連続又は被加工部42の一部がX軸方向に重複して形成される位置に設定されている。
【0064】
また、第1実施形態に係るレーザ加工装置50では、隣り合うレーザ走査装置10によって電磁鋼板40の表面に照射される2本のレーザビームBが干渉することを避けるために、隣り合うレーザ走査装置10に対してレーザビームBを同じ向きに走査する制御及び/又はレーザビームBを走査するタイミングをずらす制御が行われる。
【0065】
なお、図4には、一例として、3台のレーザ走査装置10が示されているが、レーザ加工装置50が備える複数のレーザ走査装置10の台数は、2台以上であれば、何台でもよい。
【0066】
レーザ加工装置50は、レーザ走査装置10を用いていることで、電磁鋼板40の幅方向において、各レーザ走査装置10が占有する幅を、走査する幅に対して小さくすることができるため、レーザ加工装置50全体をコンパクトに構成することが可能となる。
【0067】
(電磁鋼板の製造方法)
続いて、第1実施形態に係る電磁鋼板の製造方法について説明する。
【0068】
第1実施形態に係る電磁鋼板の製造方法は、第1実施形態に係るレーザ走査装置10を用いて電磁鋼板を製造する方法であり、熱延工程、冷延工程、一次再結晶焼鈍工程、二次再結晶焼鈍工程、コーティング工程、及びレーザ加工工程を備える。
【0069】
熱延工程では、スラブに対して熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。冷延工程では、熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。一次再結晶焼鈍工程では、冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、冷延鋼板に一次再結晶を発現させる。二次再結晶焼鈍工程では、脱炭焼鈍後の冷延鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、冷延鋼板に二次再結晶を発現させ、冷延鋼板を電磁鋼板40に形成する。コーティング工程では、仕上げ焼鈍後の電磁鋼板40に対してコーティングを実施する。
【0070】
レーザ加工工程は、例えば、二次再結晶焼鈍工程の後に実施される。レーザ加工工程では、電磁鋼板40の表面にレーザビームBを走査して照射し電磁鋼板40の表面に被加工部42を形成する。レーザ加工工程では、上述の図4中に例示されたレーザ加工装置50を用いたレーザ加工方法が実行される。
【0071】
レーザ加工方法は、X軸方向に並んで配置された複数のレーザ走査装置10のそれぞれにおいて、レーザビーム出力部12からレーザビームBを出力し、レーザビーム出力部12から出力されたレーザビームBを平面ミラー14で反射させ、ポリゴンミラー16を回転させながら、平面ミラー14で反射したレーザビームBをポリゴンミラー16で反射させ、ポリゴンミラー16で反射したレーザビームBを光学系18によって電磁鋼板40の表面に導く。このレーザ加工方法により、電磁鋼板40の表面に板幅方向に亘って歪み又は溝である被加工部42が形成される。
【0072】
また、レーザ加工工程では、電磁鋼板40を通板させながら、上述のレーザ加工方法を繰り返し実行することにより、X軸方向に連続又は一部がX軸方向に重複する複数の被加工部42が電磁鋼板40の長さ方向に一定間隔で形成される。
【0073】
(第1実施形態の作用及び効果)
続いて、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0074】
以上詳述したように、第1実施形態に係るレーザ走査装置10では、回転軸24がX軸方向に延びており、ポリゴンミラー16の回転平面がZ軸方向から見てX軸方向と直交する。したがって、例えば図20中に例示された比較例に係るレーザ走査装置150のように、ポリゴンミラー156の回転平面が電磁鋼板40の表面と平行である場合に比して、図2中に例示された第1実施形態に係るレーザ走査装置10では、X軸方向に沿ったレーザ走査装置10が占有する幅Wを低減することができる。
【0075】
また、第1実施形態に係るレーザ走査装置10では、ポリゴンミラー16の回転平面がZ軸方向から見てX軸方向と直交することにより、レーザ走査装置10の幅Wを有効走査長さLsよりも狭くすることができる。したがって、複数のレーザ走査装置10を備えるレーザ加工装置50では、隣り合うレーザ走査装置10の干渉を回避しつつ、複数のレーザ走査装置10をX軸方向に並べて配置することができる。これにより、例えば図24中に例示された比較例に係るレーザ加工装置180のように、複数のレーザ走査装置150をX軸方向及びY軸方向に並べて配置する場合に比して、図4中に例示された第1実施形態に係るレーザ加工装置50では、複数のレーザ走査装置10を含むレーザ加工装置50の小型化及びコストダウンを実現することができる。
【0076】
(第1実施形態の変形例)
続いて、第1実施形態の変形例について説明する。
【0077】
第1実施形態において、レーザ加工工程は、一例として、二次再結晶焼鈍工程の後に実施されるが、冷延工程、一次再結晶焼鈍工程、及びコーティング工程のうちいずれかの工程の後に実施されてもよい。また、レーザ加工工程において電磁鋼板40の表面に歪を形成する場合、レーザ加工工程は、コーティング工程の後に実施されてもよい。また、必要に応じてレーザ加工工程の後に再コーティング工程が実施されてもよい。
【0078】
なお、レーザ加工工程が冷延工程の後に実施される場合には、冷延鋼板が、本開示における「対象物」及び「電磁鋼板に形成される鋼板」の一例に相当する。
【0079】
また、第1実施形態において、レーザ走査装置10、レーザ走査方法、レーザ加工装置50、及びレーザ加工方法は、電磁鋼板のレーザ加工に適用されているが、電磁鋼板以外の対象物のレーザ加工に適用されてもよい。
【0080】
また、第1実施形態において、レーザ走査装置10及びレーザ走査方法は、レーザ加工以外の用途に適用されてもよい。
【0081】
また、第1実施形態において、レーザ走査装置10は、レーザビーム出力部12から出力されたレーザビームBをポリゴンミラー16の側に向けて反射する平面ミラー14を備えるが、平面ミラー14が省かれてもよい。そして、レーザビーム出力部12の位置がレーザビームBをポリゴンミラー16に向けて出力する位置に設定されてもよい。
【0082】
また、第1実施形態において、レーザビーム出力部12、平面ミラー14、第1ミラー26、第2ミラー28、及び集光ミラー30の配置は、上記以外でもよい。
【0083】
また、第1実施形態において、光学系18は、第1ミラー26、第2ミラー28、及び集光ミラー30を備えるが、第1ミラー26、第2ミラー28、及び集光ミラー30以外の光学部品を備えていてもよい。
【0084】
また、第1実施形態において、光学系18は、集光ミラー30を備えるが、集光ミラー30の代わりにfθレンズを備えていてもよい。
【0085】
また、第1実施形態では、水平方向に通板される電磁鋼板40の表面にレーザ走査装置10によってレーザビームBが照射されるが、鉛直方向又は鉛直方向に対する傾斜方向に通板される電磁鋼板40の表面にレーザ走査装置10によってレーザビームBが照射されてもよい。
【0086】
また、第1実施形態に係るレーザ加工装置50では、X軸方向に並ぶ複数のレーザ走査装置10がY軸方向の同じ位置に配置されているが、X軸方向に並ぶ複数のレーザ走査装置10のうちいくつかのレーザ走査装置10は他のレーザ走査装置10に対してY軸方向にずれて配置されていてもよい。
【0087】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について説明する。
【0088】
図5及び図6に示す第2実施形態に係るレーザ走査装置60は、上述の図1及び図2中に例示された第1実施形態に係るレーザ走査装置10に対し、次のように構成が変更されている。
【0089】
すなわち、第2実施形態に係るレーザ走査装置60では、Z軸方向から見て集光ミラー30の長手方向がX軸方向に対して傾斜しており、これにより、Z軸方向から見てレーザビームBの走査方向がX軸方向に対して傾斜している。なお、仮に集光ミラー30の長手方向がX軸方向に対して傾斜することなく、X軸方向に平行である場合であっても、走査が行われる周期の間も電磁鋼板40が搬送されるため、走査の方向は、多くの場合X軸に対して平行ではなく、X軸から若干Y軸方向側に傾くことになる。そのため、ポリゴンミラー16の回転軸24は、対象物である電磁鋼板40の表面の法線方向から見て、レーザビームBが走査される方向と交差する方向を向くことになる。すなわち、本開示では、ポリゴンミラー16の回転軸24が、電磁鋼板40の表面の法線方向から見て、レーザビームBが走査される方向と交差する方向を向く場合であっても、回転軸24は、走査される方向と略平行となるものと見做す。換言すると、回転軸24は、レーザビームBが走査される方向に沿って延びる。レーザビームBの走査方向とX軸方向との間の第1傾斜角度θ1は、例えば、0°<θ<45°に設定される。
【0090】
第1傾斜角度θ1が0°より大きいと、電磁鋼板40の表面に形成される被加工部42をX軸方向に対して傾斜させることができる。したがって、電磁鋼板40が曲げ加工される場合には、被加工部42を起点に電磁鋼板40が破断することを抑制することができる。また、第1傾斜角度θ1が45°より小さいと、電磁鋼板40の表面に被加工部42を形成したことによる鉄損低減効果を確保することができる。なお、第1傾斜角度θ1は、5°以上、10°以下であることが、より好ましい。
【0091】
第2実施形態に係るレーザ走査装置60では、レーザビームBがX軸方向に対する傾斜方向に走査されるが、有効走査長さLsは、上述の通り、レーザビームBのX軸方向に沿った長さで規定される。有効走査長さLsは、レーザビームBの走査長さをLとした場合に、L×cosθで算出される。
【0092】
また、図6に示すように、第2実施形態に係るレーザ走査装置60では、ポリゴンミラー16の回転平面(すなわちY-Z平面)がZ軸方向から見てX軸方向と交差する。これにより、第2実施形態に係るレーザ走査装置60の幅Wは、図21中に例示された比較例に係るレーザ走査装置150の幅wよりも狭い。また、第2実施形態に係るレーザ走査装置60は、幅W及び有効走査長さLsとの関係において、W<Lsを満たす。
【0093】
なお、幅Wは、X軸方向に沿ったレーザ走査装置60の幅である。幅Wは、レーザ走査装置60におけるX軸方向+側の端部から-側の端部までの間の幅に相当する。レーザ走査装置60におけるX軸方向+側の端部及び-側の端部は、レーザ走査装置60のどの部分でもよい。
【0094】
図7に示すように、第2実施形態に係るレーザ加工装置70は、複数のレーザ走査装置60を備える。複数のレーザ走査装置60は、X軸方向に並んで配置されている。複数のレーザ走査装置60の位置は、隣り合うレーザ走査装置60によって被加工部42の一部がX軸方向に重複して形成される位置に設定されている。重複長さWoは、X軸方向に隣り合って形成された被加工部42の一部がX軸方向に重複する長さに相当する。X軸方向に隣り合う被加工部42の一部はY軸方向に離れて形成される。
【0095】
なお、図7には、一例として、3台のレーザ走査装置60が示されているが、レーザ加工装置70が備える複数のレーザ走査装置60の台数は、2台以上であれば、何台でもよい。
【0096】
第2実施形態に係るレーザ走査方法及びレーザ加工方法は、レーザビームBがX軸方向に対する傾斜方向に走査される以外は、上述の第1実施形態に係るレーザ走査方法及びレーザ加工方法と同様であり、その説明を省略する。
【0097】
(第2実施形態の作用及び効果)
続いて、第2実施形態の作用及び効果について第1実施形態と異なる点を説明する。
【0098】
第2実施形態に係るレーザ走査装置60では、レーザビームBがX軸方向に対する傾斜方向に走査されるので、電磁鋼板40の表面に形成される線状の歪み又は溝である被加工部42をX軸方向に対して傾斜させることができる。したがって、電磁鋼板40が曲げ加工される場合でも、被加工部42を起点に電磁鋼板40が破断することを抑制することができる。
【0099】
なお、第2実施形態において、上述の第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0100】
(第2実施形態の第1変形例)
続いて、本開示の第2実施形態の第1変形例について説明する。
【0101】
図8及び図9に示すように、第2実施形態に係る光学系18は、第1回転部材62を備えていてもよい。第1回転部材62は、板状であり、平面視で、等脚台形状である。なお、本開示では、第1回転部材62の形状は適宜変更できる。第1回転部材62は、不図示の回転支持機構によって第1回転中心62Aを中心にX-Y平面に沿って回転可能に支持されている。第1回転中心62Aは、Z軸方向から見て第1ミラー26の光軸上であって第2ミラー28の反射面上に位置する。
【0102】
第1回転部材62が回転しても、第1ミラー26と第2ミラー28との間の光軸上の距離は同じである。また、第1回転部材62は、第2ミラー28と集光ミラー30との間のレーザビームBの光路を含む平面に沿って回転する。
【0103】
第2ミラー28及び集光ミラー30は、第1回転部材62の上面上に固定されている。第1回転部材62には、集光ミラー30で反射したレーザビームBを通過させる穴64が形成されている。穴64は、平面視で、等脚台形状である。第2ミラー28は、本開示の反射ミラーに相当する。なお、本開示では、穴64の形状は適宜変更できる。
【0104】
このように第2実施形態に係る光学系18が第1回転部材62を備えていると、レーザビームBの走査方向とX軸方向との間の第1傾斜角度θ1を調節することができる。
【0105】
第1変形例では、第1回転部材62は、第2ミラー28と集光ミラー30との相対位置を固定するように、第2ミラー28と集光ミラー30とを支持する。このため、走査方向とX軸方向との間の第1傾斜角度θ1を変えるように第2ミラー28の位置が変化する場合であっても、第1回転部材62が回転することによって、第2ミラー28の位置の変化と集光ミラー30の位置の変化とを連動させることができる。例えば、レーザビームBの走査開始の前に予め、第1回転部材62を回転させることによって、所定の第1傾斜角度θ1を形成しておけばよい。または、通板速度の変化や、その他必要に応じて図示されない角度回転装置によって随時第1傾斜角度θ1を変更してもよい。
【0106】
すなわち、第1変形例では、必要に応じて走査方向を変更する際に、第2ミラー28と集光ミラー30を個別に調整する必要がなく、第1回転部材62の回転だけで容易に変更可能であり、その際に第2ミラー28と集光ミラー30の相対位置関係が固定されているため、集光ミラー30の反射面に入射するレーザビームの位置が一定である。このため、走査方向の変更前後で集光性が変化せず、安定した加工を行うことができる。
【0107】
(第2実施形態の第2変形例)
続いて、本開示の第2実施形態の第2変形例について説明する。
【0108】
図10図14に示すように、第2実施形態に係る光学系18は、第2回転部材63を備えていてもよい。図10に示すように、第2回転部材63は、板状であり、平面視で、矩形状である。なお、本開示では、第2回転部材63の形状は適宜変更できる。
【0109】
第2回転部材63において、不図示のポリゴンミラーの下側に対応する一端(図10中の左端)の位置の上面には、第1ミラー26が設置される。第2回転部材63は、不図示の回転支持機構によって第2回転中心63Aを中心にZ-X平面に沿って回転可能に支持されている。第2回転中心63Aは、Y軸方向から見て第2ミラー28の光軸上であって第1ミラー26の平面上の反射面上に位置する。
【0110】
第2回転部材63は、第2回転中心63Aの軸を中心に回転する機能を有する。第2回転部材63が回転しても、第1ミラー26と第2ミラー28との間の光軸上の距離は同じである。第2回転部材63の回転によって、第1ミラー26と第2ミラー28との間のレーザビームBの光路を含む平面が、図10中のX-Y平面に向かって、すなわち電磁鋼板40の表面に向かって、近づく又は離れるように回転する。
【0111】
また、図10中の第2回転部材63の上面で第1ミラー26と離れた位置に、第1回転部材62が、第1回転中心62Aを中心にX-Y平面に沿って回転可能に支持されている。図10中の第2変形例に係る第1回転部材62は、第1変形例で説明した第1回転部材62と比べ、平面視で、矩形状である点と、穴64が矩形状である点とが異なる。なお、第2変形例の第1回転部材62においても、穴64の形状は、適宜変更できる。第2変形例に係る第1回転部材62の他の構成については、第1変形例に係る第1回転部材62と同様である。
【0112】
ここで、電磁鋼板40の表面上の走査開始位置P1と集光ミラー30の反射点との第1距離L1と、電磁鋼板40の表面上の走査終了位置P2と集光ミラー30の反射点との第2距離L2とを設定する。ここで、第1距離L1及び第2距離L2が集光ミラー30の焦点距離と一致する際に、走査開始位置P1と走査終了位置P2の間の走査線全長で焦点ボケが発生しない。例えば電磁鋼板40の表面が水平方向に対して傾斜することによって、図11に示すように、電磁鋼板40の表面とX軸方向との間に、第2傾斜角度θ2が形成されると、第1距離L1と第2距離L2とが異なる。
【0113】
しかし、第2変形例では図12に示すように、第2回転部材63が第2傾斜角度θ2回転することによって、第1距離L1と第2距離L2とが集光ミラー30の焦点距離と一致するように制御できる。例えば、レーザビームBの走査開始の前に予め、第2回転部材63を回転させることによって、所定の第2傾斜角度θ2を形成しておけばよい。あるいは図示されない鋼板傾斜計測装置によって傾斜の変動を随時検知して第2傾斜角度θ2を随時変更してもよい。このため、第2変形例では、電磁鋼板40の表面上において、レーザビームBの走査方向の全幅に亘って均一なレーザ加工を行うことができる。
【0114】
また、図13に示すように、第2回転部材63には、第1回転部材62が設けられているため、走査方向がX軸方向との間に第1傾斜角度θ1を形成するように第2ミラー28の位置が変化する場合であっても、第2ミラー28の位置と集光ミラー30の位置とが一体的に変化する。このため、図14に示すように、第1変形例と同様に、焦点ボケの発生を抑制して、電磁鋼板40の表面にレーザ加工を施すことができる。なお、本開示では、第1回転部材62が設けられることなく、第2回転部材63に、第1ミラー26と第2ミラー28と集光ミラー30とが設けられてもよい。
【0115】
また、第2実施形態では、上述の第1実施形態と同様の変形例が採用されてもよい。
【0116】
[第3実施形態]
次に、本開示の第3実施形態について説明する。
【0117】
図15及び図16に示す第3実施形態に係るレーザ走査装置80は、上述の図5及び図6中に例示された第2実施形態に係るレーザ走査装置60に対し、次のように構成が変更されている。
【0118】
すなわち、第3実施形態に係るレーザ走査装置80は、第1レーザ走査部82、第2レーザ走査部84、ポリゴンミラー16、及びモータ20を備える。第1レーザ走査部82は、レーザビーム出力部12、平面ミラー14、及び光学系18を備える。第1レーザ走査部82を構成するレーザビーム出力部12、平面ミラー14、及び光学系18は、上述の第2実施形態における構成と同一である。また、ポリゴンミラー16及びモータ20は、上述の第2実施形態における構成と同一である。レーザビーム出力部12は、第1レーザビームB1を出力する。第1レーザビームB1は、平面ミラー14、ポリゴンミラー16、光学系18を経由して電磁鋼板40の表面に照射される。
【0119】
第2レーザ走査部84は、レーザビーム出力部92、ミラー94、及び光学系98を備える。光学系98は、第1ミラー106、第2ミラー108、及び集光ミラー110を備える。レーザビーム出力部92、ミラー94、第1ミラー106、第2ミラー108、及び集光ミラー110は、回転軸24に対して、レーザビーム出力部12、平面ミラー14、第1ミラー26、第2ミラー28、及び集光ミラー30とそれぞれY軸方向に対称な位置に配置されている。一例として、レーザビーム出力部92、ミラー94、第1ミラー106、第2ミラー108、及び集光ミラー110は、レーザビーム出力部12、平面ミラー14、第1ミラー26、第2ミラー28、及び集光ミラー30とそれぞれ同一の構成である。
【0120】
レーザビーム出力部92は、第2レーザビームB2を出力する。レーザビーム出力部12から出力された第1レーザビームB1が、平面ミラー14、ポリゴンミラー16、及び光学系18を経由して電磁鋼板40の表面に照射されるのと同様に、レーザビーム出力部92から出力された第2レーザビームB2は、ミラー94、ポリゴンミラー96、及び光学系98を経由して電磁鋼板40の表面に照射される。第2レーザビームB2は、第1レーザビームB1と逆向きに走査される。
【0121】
第2ミラー108及び集光ミラー110の向きは、第2レーザビームB2の走査方向が第1レーザビームB1の走査方向と平行になる向きに設定されている。また、第2ミラー108及び集光ミラー110の位置は、第2レーザビームB2によって形成される被加工部42のX軸方向における位置及び長さが第1レーザビームB1によって形成される被加工部42のX軸方向における位置及び長さと同じになる位置に設定されている。第1レーザビームB1の有効走査長さLs1及び第2レーザビームB2の有効走査長さLs2は同じである。
【0122】
また、第3実施形態に係るレーザ走査装置80では、第1レーザビームB1によって形成された複数の被加工部42の間の中央部に第2レーザビームB2によって形成される被加工部42が形成されるように、ポリゴンミラー16の外径及び/又は光学系18の配置位置等が設定されている。つまり、第3実施形態に係るレーザ走査装置80では、複数の被加工部42のピッチをPLとし、第1レーザビームB1によって形成される被加工部42と第2レーザビームB2によって形成される被加工部42との間の間隔をGとし、nを0以上の整数とした場合に、下記式(2)を満たす。

G=(2n+1)×PL・・・(2)
【0123】
さらに、図16に示すように、第3実施形態に係るレーザ走査装置80は、幅W、有効走査長さLs1、及び有効走査長さLs2との関係において、W<Ls1=Ls2を満たす。
【0124】
図17に示すように、第3実施形態に係るレーザ加工装置120は、複数のレーザ走査装置80を備える。複数のレーザ走査装置80は、X軸方向に並んで配置されている。複数のレーザ走査装置80の位置は、隣り合うレーザ走査装置80によって被加工部42の一部がX軸方向に重複して形成される位置に設定されている。重複長さWoは、X軸方向に隣り合って形成された被加工部42の一部がX軸方向に重複する長さに相当する。X軸方向に隣り合う被加工部42の一部はY軸方向に離れて形成される。
【0125】
なお、図17には、一例として、2台のレーザ走査装置80が示されているが、レーザ加工装置120が備える複数のレーザ走査装置80の台数は、2台以上であれば、何台でもよい。
【0126】
第3実施形態に係るレーザ走査方法及びレーザ加工方法は、1台のレーザ走査装置80によって第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2が電磁鋼板40の表面に照射される以外は、上述の第2実施形態に係るレーザ走査方法及びレーザ加工方法と同様であり、その説明を省略する。
【0127】
(第3実施形態の作用及び効果)
続いて、第3実施形態の作用及び効果について第2実施形態と異なる点を説明する。
【0128】
第3実施形態に係るレーザ走査装置80では、ポリゴンミラー16に対するY軸方向の両側で第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2が電磁鋼板40の表面に照射されるので、ポリゴンミラー16に対するY軸方向の両側で被加工部42をそれぞれ形成することができる。したがって、例えばポリゴンミラー16に対するY軸方向の片側で被加工部42が形成される場合に比して、電磁鋼板40の表面に複数の被加工部42を形成する際の加工効率を向上させることができる。
【0129】
また、第3実施形態に係るレーザ走査装置80では、ポリゴンミラー16に対するY軸方向の両側で被加工部42を形成することができるので、被加工部42のピッチを同じにして比べた場合、例えばポリゴンミラー16に対するY軸方向の片側で被加工部42が形成される場合に比して、第1レーザ走査部82によって形成される被加工部42のピッチ及び第2レーザ走査部84によって形成される被加工部42のピッチをそれぞれ拡げることができる。したがって、一つの被加工部42の形成に要する時間を増やすことができるので、第1レーザビームB1の有効走査長さLs及び第2レーザビームB2の有効走査長さLsをそれぞれ拡大することができる。これにより、電磁鋼板40の表面に複数の被加工部42を形成する際の加工効率を向上させることができる。
【0130】
(第3実施形態の変形例)
続いて、本開示の第3実施形態の変形例について説明する。
【0131】
第3実施形態に係るレーザ走査装置80では、第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2がそれぞれX軸方向に対する傾斜方向に走査されるが、第1実施形態のレーザビームBと同様に、第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2がそれぞれX軸方向に走査されてもよい。
【0132】
また、第3実施形態では、上述の第1実施形態と同様の変形例が採用されてもよい。
【0133】
[第4実施形態]
次に、本開示の第4実施形態について説明する。
【0134】
図18及び図19に示す第4実施形態に係るレーザ走査装置130は、上述の図15及び図16中に例示された第3実施形態に係るレーザ走査装置80に対し、次のように構成が変更されている。
【0135】
すなわち、第4実施形態に係るレーザ走査装置130では、第2レーザ走査部84が、Z軸方向から見てポリゴンミラー16の中心点16Aを中心に第1レーザ走査部82に対して点対称に構成されている。具体的には、第1レーザ走査部82の第2ミラー28及び集光ミラー30がポリゴンミラー16に対してX軸方向+側かつY軸方向+側に配置されているのに対し、第2レーザ走査部84の第2ミラー108及び集光ミラー110がポリゴンミラー16に対してX軸方向-側かつY軸方向-側に配置されている。第2レーザビームB2は、第1レーザビームB1と逆向きに走査される。
【0136】
また、第2ミラー108及び集光ミラー110の向きは、第2レーザビームB2の走査方向が第1レーザビームB1の走査方向と平行になる向きに設定されている。さらに、第2ミラー108及び集光ミラー110の位置は、第2レーザビームB2によって形成される被加工部42のX軸方向における長さが第1レーザビームB1によって形成される被加工部42のX軸方向における長さと同じになる位置に設定されている。第1レーザビームB1の有効走査長さLs1及び第2レーザビームB2の有効走査長さLs2は同じである。
【0137】
図19に示すように、第4実施形態に係るレーザ加工装置140は、複数のレーザ走査装置130を備える。複数のレーザ走査装置130は、X軸方向に並んで配置されている。複数のレーザ走査装置130の位置は、隣り合うレーザ走査装置130によって被加工部42の一部がX軸方向に重複して形成される位置に設定されている。重複長さWoは、X軸方向に隣り合って形成された被加工部42の一部がX軸方向に重複する長さに相当する。X軸方向に隣り合う被加工部42の一部はY軸方向に離れて形成される。
【0138】
第4実施形態に係るレーザ走査装置130は、幅W、第1レーザビームB1の有効走査長さLs1、第2レーザビームB2の有効走査長さLs2、重複長さWoとの関係において、W<Ls1+Ls2-Woを満たす。
【0139】
なお、図19には、一例として、2台のレーザ走査装置130が示されているが、レーザ加工装置140が備える複数のレーザ走査装置130の台数は、2台以上であれば、何台でもよい。
【0140】
第4実施形態に係るレーザ走査方法及びレーザ加工方法は、第2レーザ走査部84が第1レーザ走査部82に対して点対称に構成されることにより、第2レーザビームB2によって形成される被加工部42の位置が第1レーザビームB1によって形成される被加工部42の位置に対して点対称になる以外は、上述の第3実施形態に係るレーザ走査方法及びレーザ加工方法と同様であり、その説明を省略する。
【0141】
(第4実施形態の作用及び効果)
続いて、第4実施形態の作用及び効果について第3実施形態と異なる点を説明する。
【0142】
第4実施形態に係るレーザ走査装置130では、ポリゴンミラー16に対するX軸方向の両側で第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2が電磁鋼板40の表面に照射されるので、ポリゴンミラー16に対するX軸方向の両側で被加工部42をそれぞれ形成することができる。したがって、例えばポリゴンミラー16に対するX軸方向の片側で被加工部42が形成される場合に比して、1台のレーザ走査装置10によってX軸方向の広い範囲に被加工部42を形成することができる。
【0143】
また、第4実施形態に係るレーザ走査装置130では、ポリゴンミラー16に対するX軸方向の両側で被加工部42を形成することができるので、1台のレーザ走査装置130によって形成される被加工部42の長さを同じにして比べた場合、例えば1台のレーザ走査装置130によってポリゴンミラー16に対するX軸方向の片側に被加工部42が形成される場合に比して、レーザ走査装置130を小型化することができる。
【0144】
(第4実施形態の変形例)
続いて、本開示の第4実施形態の変形例について説明する。
【0145】
第4実施形態に係るレーザ走査装置130では、第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2がそれぞれX軸方向に対する傾斜方向に走査されるが、第1実施形態のレーザビームBと同様に、第1レーザビームB1及び第2レーザビームB2がそれぞれX軸方向に走査されてもよい。
【0146】
また、第4実施形態では、上述の第1実施形態と同様の変形例が採用されてもよい。
【0147】
以上、本開示の第1乃至第4実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0148】
≪付記≫
本明細書からは、以下の態様が概念化される。
【0149】
すなわち、態様1は、
対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査装置であって、
前記レーザビームを照射するレーザビーム出力部と、
多角形の頂面及び底面を有する角柱状であり、前記頂面及び前記底面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されており、前記頂面及び前記底面を貫く軸を回転軸として回転して、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームを前記ミラーで反射させるポリゴンミラーと、
前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く光学系と、を有し、
前記ポリゴンミラーの前記回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行である、
レーザ走査装置。
【0150】
態様2は、
前記ポリゴンミラーの回転に伴って、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームが前記ポリゴンミラーに形成された前記ミラーに到達した際のビーム径が、当該ミラーの一端に接してから、当該ミラーの他端に接するまでの間に、前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームが前記対象物に到達した際のビーム径が、前記対象物の表面で移動する前記ポリゴンミラーの前記回転軸の方向に沿った長さを、有効走査長さLsとし、
前記ポリゴンミラーの前記回転軸の方向に沿った前記レーザ走査装置の幅をWとした場合に、W<Lsを満たす、
態様1に記載のレーザ走査装置。
【0151】
態様3は、
前記光学系は、
前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを反射し前記レーザビームの走査方向を変化させる反射ミラーと、
前記反射ミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物に反射する集光ミラーと、
前記反射ミラーと前記集光ミラーとを支持し、前記反射ミラーと前記集光ミラーとの間の前記レーザビームの光路を含む平面に沿って回転する回転部材と、
を備える、
態様1又は2に記載のレーザ走査装置。
【0152】
態様4は、
対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査方法であって、
レーザビーム出力部を用いて、前記レーザビームを照射するレーザビーム出力ステップと、
多角形の頂面及び底面を有する角柱状であり、前記頂面及び前記底面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されており、前記頂面及び前記底面を貫く軸を回転軸として回転するポリゴンミラーを用いて、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームを前記ミラーで反射させる反射ステップと、
光学系を用いて、前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く導光ステップと、
を有し、
前記ポリゴンミラーの前記回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行である、
レーザ走査方法。
【0153】
態様5は、
態様1に記載のレーザ走査装置を、電磁鋼板又は電磁鋼板に形成される鋼板の板幅方向に複数並べて配置し、前記電磁鋼板又は前記電磁鋼板に形成される鋼板の表面を前記レーザビームで走査して加工する、
レーザ加工装置。
【0154】
態様6は、
態様1に記載のレーザ走査装置を、電磁鋼板又は電磁鋼板に形成される鋼板の板幅方向に複数並べて配置し、前記電磁鋼板又は前記電磁鋼板に形成される鋼板の表面をレーザビームで走査して加工する、
電磁鋼板の製造方法。
【0155】
≪他の態様≫
また、本明細書からは、以下の他の態様が概念化される。
【0156】
すなわち、他の態様1は、
対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査装置であって、
前記レーザビームを照射するレーザビーム出力部と、
多角形の上面及び下面を有する角柱状であり、前記上面及び前記下面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されており、前記上面及び前記下面を貫く軸を回転軸として回転して、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームを前記ミラーで反射させるポリゴンミラーと、
前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く光学系と、を有し、
前記ポリゴンミラーの前記回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行である、
レーザ走査装置。
【0157】
他の態様2は、
前記ポリゴンミラーの回転に伴って、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームが前記ポリゴンミラーに形成された前記ミラーに到達した際のビーム径が、当該ミラーの一端に接してから、当該ミラーの他端に接するまでの間に、前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームが前記対象物に到達した際のビーム径が、前記対象物の表面で移動する前記ポリゴンミラーの前記回転軸の方向に沿った長さを、有効走査長さLsとし、
前記ポリゴンミラーの前記回転軸の方向に沿った前記レーザ走査装置の幅をWとした場合に、W<Lsを満たす、
他の態様1に記載のレーザ走査装置。
【0158】
他の態様3は、
対象物の表面をレーザビームで走査するレーザ走査方法であって、
レーザビーム出力部を用いて、前記レーザビームを照射するレーザビーム出力ステップと、
多角形の上面及び下面を有する角柱状であり、前記上面及び前記下面を除く少なくともいずれか一つの面がミラーで形成されており、前記上面及び前記下面を貫く軸を回転軸として回転するポリゴンミラーを用いて、前記レーザビーム出力部から照射された前記レーザビームを前記ミラーで反射させる反射ステップと、
光学系を用いて、前記ポリゴンミラーで反射した前記レーザビームを前記対象物の表面に導く導光ステップと、
を有し、
前記ポリゴンミラーの前記回転軸は、前記対象物の表面と平行で、前記レーザビームが走査される方向と略平行である、
レーザ走査方法。
【0159】
他の態様4は、
他の態様1に記載のレーザ走査装置を、電磁鋼板又は電磁鋼板に形成される鋼板の板幅方向に複数並べて配置し、前記電磁鋼板又は前記電磁鋼板に形成される鋼板の表面を前記レーザビームで走査して加工する、
レーザ加工装置。
【0160】
他の態様5は、
他の態様1に記載のレーザ走査装置を、電磁鋼板又は電磁鋼板に形成される鋼板の板幅方向に複数並べて配置し、前記電磁鋼板又は前記電磁鋼板に形成される鋼板の表面をレーザビームで走査して加工する、
電磁鋼板の製造方法。
【0161】
他の態様によれば、ポリゴンミラーの回転平面が対象物の表面と略平行であるレーザ走査装置等で例示される従来のレーザ走査装置に比して、レーザ走査装置が占有する幅を低減することができる。
【0162】
2021年3月30日に出願した日本国特許出願2021-058353号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0163】
また、本明細書に記載されたすべての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0164】
10 レーザ走査装置
12 レーザビーム出力部
14 平面ミラー
16 ポリゴンミラー
18 光学系
20 モータ
22 ミラー面
24 回転軸
26 第1ミラー
28 第2ミラー
30 集光ミラー
40 電磁鋼板
42 被加工部
50 レーザ加工装置
60 レーザ走査装置
62 第1回転部材
63 第2回転部材
64 穴
70 レーザ加工装置
80 レーザ走査装置
82 第1レーザ走査部
84 第2レーザ走査部
92 レーザビーム出力部
94 ミラー
96 ポリゴンミラー
98 光学系
106 第1ミラー
108 第2ミラー
110 集光ミラー
120 レーザ加工装置
130 レーザ走査装置
140 レーザ加工装置
B レーザビーム
B1 第1レーザビーム
B2 第2レーザビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24