(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】多孔質電極支持型電解質膜および多孔質電極支持型電解質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/26 20210101AFI20241127BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241127BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20241127BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B9/23
C25B11/031
(21)【出願番号】P 2023522159
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019363
(87)【国際公開番号】W WO2022244234
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弓
(72)【発明者】
【氏名】渦巻 裕也
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023726(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065258(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/128148(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/121556(WO,A1)
【文献】特開2021-059760(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0034348(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0146470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 9/77
C25B 13/00 - 15/08
C25B 11/00 - 11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を還元する気相還元装置に用いられる多孔質電極支持型電解質膜であって、
電解質膜と、
前記電解質膜上に直接接合された多孔質還元電極を有し、
前記多孔質還元電極の平均気孔径が1μm以上
97μm以下であ
り、
前記電解質膜と前記多孔質還元電極を重ねて熱圧着した
多孔質電極支持型電解質膜。
【請求項2】
二酸化炭素を還元する気相還元装置に用いられる多孔質電極支持型電解質膜の製造方法であって、
電解質膜を沸騰硝酸および沸騰純水へ浸漬する工程と、
前記電解質膜の表面上に多孔質還元電極を重ねて熱圧着する工程を有し、
熱圧着後の前記多孔質還元電極の平均気孔径が1μm以上
97μm以下である
多孔質電極支持型電解質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の多孔質電極支持型電解質膜の製造方法であって、
前記熱圧着の加熱温度を100℃以上180℃未満とする多孔質電極支持型電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質電極支持型電解質膜および多孔質電極支持型電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の防止およびエネルギーの安定供給という観点から、二酸化炭素を還元する技術が注目されている。二酸化炭素を還元する技術に関する装置としては、人工光合成技術を利用した還元装置と電解還元技術を利用した還元装置がある。人工光合成技術は、光触媒からなる酸化電極への光照射により、水の酸化反応と二酸化炭素の還元反応を進行させる技術である。電解還元技術は、金属からなる酸化電極と還元電極の間への電圧印加により、水の酸化反応と二酸化炭素の還元反応を進行させる技術である。太陽光を利用した人工光合成技術および再生可能エネルギー由来の電力を利用した電解還元技術は、二酸化炭素を一酸化炭素、ギ酸、エチレン等の炭化水素やメタノール、エタノール等のアルコールに再資源化することが可能な技術として注目され、近年盛んに研究されている。
【0003】
人工光合成技術および二酸化炭素の電解還元技術では、還元電極を水溶液に浸漬させて、水溶液中に溶解させた二酸化炭素を還元電極に供給し、還元する反応系が用いられてきた(非特許文献1,2参照)。しかし、この二酸化炭素の還元方法では、水溶液への二酸化炭素の溶解濃度および水溶液中での二酸化炭素の拡散係数に限界があり、還元電極への二酸化炭素の供給量が制限される。
【0004】
この問題に対し、還元電極への二酸化炭素の供給量を増加させるため、還元電極に対して気相の二酸化炭素を供給する研究が進められている。非特許文献3よると、還元電極に対して気相の二酸化炭素を供給できる構造を有する反応装置を用いることで、還元電極への二酸化炭素の供給量が増大し、二酸化炭素の還元反応が促進される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Satoshi Yotsuhashi、外6名、“CO2 Conversion with Light and Water by GaN Photoelectrode”、Japanese Journal of Applied Physics、51、2012年、p.02BP07-1-p.02BP07-3
【文献】Yoshio Hori、外2名、“Formation of Hydrocarbons in the Electrochemical Reduction of Carbone Dioxide at a Copper Electrode in Aqueous Solution”、Journal of the Chemical Society、85(8)、1989年、p.2309-p.2326
【文献】Qingxin Jia、外2名、”Direct Gas-phase CO2 Reduction for Solar Methane Generation Using a Gas Diffusion Electrode with a BiVO4:Mo and a Cu-In-Se Photoanode”、Chemistry Letter、47、2018、p.436-439
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
式(1)から式(4)に示す二酸化炭素の還元反応は、式(5)に示す水の酸化反応との組み合わせで進行する。
【0007】
CO2+ 2H+ + 2e- → CO + H2O (1)
CO2+ 2H+ + 2e- → HCOOH (2)
CO2+ 6H+ + 6e- → CH3OH + H2O (3)
CO2+ 8H+ + 8e- → CH4 + 2H2O (4)
2H2O + 4h+ → O2 + 4H+ (5)
【0008】
二酸化炭素の気相還元装置では、還元槽内の水溶液を排除して気相の二酸化炭素を充填するが、気相の二酸化炭素を充填しただけではプロトン(H+)が気相中を移動できないため、電解質膜と還元電極を接合する必要がある。さらに、板状の還元電極を電解質膜に接合しただけでは気相の二酸化炭素が還元電極と電解質膜の界面に到達できないため、還元電極を多孔質にして、気相の二酸化炭素が還元電極と電解質膜の界面に到達できるようにする必要がある。この多孔質還元電極について、その気孔径が小さいと電極内での二酸化炭素の拡散抵抗が大きく、二酸化炭素の還元反応の効率が低下するという問題があった。
【0009】
電解質膜をプロトン交換膜として利用する際には一般的に、電解質膜のプロトン移動度を向上させるために、沸騰硝酸および沸騰純水への浸漬処理が行われる。これらの処理は、電解質膜中のプロトン交換基をH+で置換する処理であるが、この処理によって電解質膜が過剰に水分を含み膨潤した状態となってしまう。これは、電解質膜は高分子の逆ミセル構造を有しているために、膨潤し含水率が高まるためである。
【0010】
この膨潤した電解質膜を多孔質還元電極に接合して気相還元装置の多孔質電極支持型電解質膜として使用すると、二酸化炭素の還元反応進行中に徐々に酸化槽の水溶液が還元電極側に浸透してきてしまう。これにより、本来気相の二酸化炭素が供給されるべきである多孔質電極の表面を水溶液が覆い、二酸化炭素の還元反応の効率が経時的に劣化するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素の気相還元効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の多孔質電極支持型電解質膜は、二酸化炭素を還元する気相還元装置に用いられる多孔質電極支持型電解質膜であって、電解質膜と、前記電解質膜上に直接接合された多孔質還元電極を有し、前記多孔質還元電極の平均気孔径が1μm以上97μm以下であり、前記電解質膜と前記多孔質還元電極を重ねて熱圧着した。
【0013】
本発明の一態様の多孔質電極支持型電解質膜の製造方法は、二酸化炭素を還元する気相還元装置に用いられる多孔質電極支持型電解質膜の製造方法であって、電解質膜を沸騰硝酸および沸騰純水へ浸漬する工程と、前記電解質膜の表面上に多孔質還元電極を重ねて熱圧着する工程を有し、熱圧着後の前記多孔質還元電極の平均気孔径が1μm以上97μm以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二酸化炭素の気相還元効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態の多孔質電極支持型電解質膜の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、多孔質電極支持型電解質膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、多孔質電極支持型電解質膜を製造する際に熱圧着する様子の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、多孔質電極支持型電解質膜を備える二酸化炭素の気相還元装置の構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、多孔質電極支持型電解質膜を備える別の二酸化炭素の気相還元装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。本発明は、以下に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更を加えてもよい。
【0017】
[多孔質電極支持型電解質膜の構成]
図1の断面図を参照し、本実施形態の多孔質電極支持型電解質膜20について説明する。
【0018】
図1の多孔質電極支持型電解質膜20は、電解質膜6と、電解質膜6の表面上に直接接合された多孔質還元電極5とを備える。
【0019】
多孔質還元電極5は、電解質膜6に直接重ねて熱圧着されて、接合される。多孔質還元電極5は、熱圧着後の平均気孔径が1μm以上であるとよい。多孔質還元電極5は、例えば、銅、白金、金、銀、インジウム、パラジウム、ガリウム、ニッケル、スズ、カドミウム、それらの合金の多孔質体、または、酸化銀、酸化銅、酸化銅(II)、酸化ニッケル、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タングステン、酸化タングステン(VI)、酸化銅などの多孔質体、もしくは金属イオンとアニオン性配位子を有する多孔性金属錯体である。
【0020】
電解質膜6は、例えば、炭素-フッ素からなる骨格を持つパーフルオロカーボン材料であるナフィオン(商標登録)、フォアブルー、またはアクイヴィオンである。
【0021】
[多孔質電極支持型電解質膜の製造方法]
図2のフローチャートを参照し、本実施形態の多孔質電極支持型電解質膜20の製造方法の一例について説明する。
【0022】
ステップS1にて、電解質膜6のプロトン伝導の抵抗を低減させるために、電解質膜6を沸騰硝酸と沸騰純水のそれぞれに浸漬する。
【0023】
ステップS2にて、電解質膜6の上に多孔質還元電極5を重ねて熱圧着装置(例えばホットプレス機)で熱圧着する。具体的には、
図3に示すように、電解質膜6の上に多孔質還元電極5を重ねて2枚の銅板40a,40bの間に配置し、電解質膜6と多孔質還元電極5を銅板40a,40bとともに熱圧着装置で熱圧着する。熱圧着の際、加熱温度を100℃以上180℃未満にするとよい。
【0024】
熱圧着後、素早く冷却して、電解質膜6と多孔質還元電極5とを接合した多孔質電極支持型電解質膜20が得られる。
【0025】
[気相還元装置(人工光合成)]
次に、
図4を参照し、本実施形態の多孔質電極支持型電解質膜20を備えた二酸化炭素の気相還元装置100について説明する。
図4に示す気相還元装置100は、光照射により二酸化炭素を還元する人工光合成技術を利用した還元装置である。
【0026】
気相還元装置100は、筐体内の内部空間を多孔質電極支持型電解質膜20で二分して形成された酸化槽1と還元槽4を備える。多孔質電極支持型電解質膜20は、電解質膜6を酸化槽1に向け、還元電極5を還元槽4に向けて配置される。
【0027】
酸化槽1は水溶液3で満たされる。水溶液3中に半導体または金属錯体からなる酸化電極2が挿入される。
【0028】
酸化電極2は、例えば、窒化物半導体、酸化チタン、アモルファスシリコン、ルテニウム錯体、レニウム錯体のような光活性およびレドックス活性を示す化合物である。酸化電極2は、導線7によって多孔質還元電極5と電気的に接続される。
【0029】
水溶液3は、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ルビジウム水溶液、または水酸化セシウム水溶液である。還元反応中、水溶液3には、チューブ8からヘリウムガスが供給される。
【0030】
還元槽4は、気体入力口10から二酸化炭素が供給されて、二酸化炭素または二酸化炭素を含む気体で満たされる。
【0031】
光源9が、酸化電極2に光が照射されるように配置される。光源9は、例えば、キセノンランプ、擬似太陽光源、ハロゲンランプ、水銀ランプ、および太陽光である。光源9は、これら組み合わせて構成してもよい。
【0032】
[多孔質電極支持型電解質膜の実施例]
上記の気相還元装置100に配置する多孔質電極支持型電解質膜20として、平均気孔径または熱圧着処理時の加熱温度を変えた実施例1-6を作製し、後述の気相還元試験を行った。以下、実施例1-6の多孔質電極支持型電解質膜について説明する。
【0033】
<実施例1>
実施例1では、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率65%の銅多孔質体を用い、電解質膜6の材料としてプロトン交換膜であるナフィオンを用いた。
【0034】
ステップS1にて、プロトン伝導の抵抗を低減させるために、電解質膜6を沸騰硝酸と沸騰純水にそれぞれ浸漬した。この処理により電解質膜6のプロトン伝導の抵抗が3.0から3.5Ωまで低減されることを確認した。
【0035】
ステップS2にて、電解質膜6の上に多孔質還元電極5を重ねたサンプルを2枚の銅板とホットプレス機で挟み、加熱温度150℃の条件で、多孔質還元電極5の表面に対して垂直方向に圧力を加えて3分放置した。その後、サンプルを素早く冷却して取り出し、電解質膜6と多孔質還元電極5が接合した多孔質電極支持型電解質膜20を得た。
【0036】
熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は50%、平均気孔径は1.3μmであった。
【0037】
<実施例2>
実施例2では、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率79%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は70%、平均気孔径は15μmであった。それ以外の条件は全て実施例1と同様である。
【0038】
<実施例3>
実施例3では、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は90%、平均気孔径は97μmであった。それ以外の条件は全て実施例1と同様である。
【0039】
<実施例4>
実施例4では、実施例3と同様に、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。ホットプレス機で圧力を加える際の加熱温度を100℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例3と同様である。
【0040】
<実施例5>
実施例5では、実施例3と同様に、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。ホットプレス機で圧力を加える際の加熱温度を120℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例3と同様である。
【0041】
<実施例6>
実施例6では、実施例3と同様に、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。ホットプレス機で圧力を加える際の加熱温度を180℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例3と同様である。
【0042】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
実施例1-6の多孔質電極支持型電解質膜20のそれぞれを
図4の気相還元装置100に取り付けて以下の還元反応試験を行った。
【0043】
酸化槽1を水溶液3で満たした。水溶液3は、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液とした。
【0044】
酸化電極2を水溶液3に浸水するように酸化槽1内に設置した。酸化電極2には、次のように作製した半導体光電極を用いた。サファイア基板上にn型半導体であるGaNの薄膜とAlGaNを順にエピタキシャル成長させ、AlGaN上にNiを真空蒸着して熱処理を行ってNiOの助触媒薄膜を形成した半導体光電極を作製した。
【0045】
光源9には、300Wの高圧キセノンランプ(波長450nm以上をカット、照度6.6mW/cm2)を用いた。光源9は、酸化電極2の酸化助触媒が形成されている面が照射面となるように固定した。酸化電極2の光照射面積を2.5cm2とした。
【0046】
酸化槽1に対してはチューブ8からヘリウム(He)を、還元槽4に対しては気体入力口10から二酸化炭素(CO2)を、それぞれ流量5ml/minかつ圧力0.18MPaで流した。この系では、多孔質電極支持型電解質膜20内の[電解質膜-銅-気相の二酸化炭素]からなる三相界面において、二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。多孔質還元電極5の二酸化炭素が直接供給される見かけ面積は、約6.25cm2である。
【0047】
酸化槽1および還元槽4をヘリウムと二酸化炭素で十分に置換した後、光源9を用いて酸化電極2に均一に光を照射した。光照射により、酸化電極2と多孔質還元電極5との間に電子が流れる。
【0048】
光照射時の酸化電極2と多孔質還元電極5との間の電流値を、電気化学測定装置(Solartron社製、1287型ポテンショガルバノスタット)を用いて測定した。また、光照射中任意の時間に、酸化槽1および還元槽4内のガスと液体を採取し、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、およびガスクロマトグラフ質量分析計にて反応生成物を分析した。その結果、酸化槽1内では酸素が、還元槽4内では、水素、一酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、エタノール、エチレンが生成していることを確認した。
【0049】
なお、実施例1-6の試験結果は、下記の実施例7-14および比較対象例1-4の試験結果とともに後述する。
【0050】
[気相還元装置(電解還元)]
次に、
図5を参照し、本実施形態の多孔質電極支持型電解質膜20を備えた二酸化炭素の気相還元装置200について説明する。
図5に示す気相還元装置200は、酸化電極と還元電極との間に電流を流して二酸化炭素を還元する電解還元技術を利用した還元装置である。
【0051】
気相還元装置200は、筐体内の内部空間を多孔質電極支持型電解質膜20で二分して形成された酸化槽1と還元槽4を備える。多孔質電極支持型電解質膜20は、電解質膜6側を酸化槽1に向け、還元電極5側を還元槽4に向けて配置される。
【0052】
酸化槽1は水溶液3で満たされる。水溶液3中に半導体または金属錯体からなる酸化電極2が挿入される。
【0053】
酸化電極2は、例えば、白金、金、銀、銅、インジウム、ニッケルである。
【0054】
水溶液3は、
図4の気相還元装置100と同様である。
【0055】
還元槽4は、気体入力口10から二酸化炭素が供給されて、二酸化炭素または二酸化炭素を含む気体で満たされる。
【0056】
電源11が、導線7によって酸化電極2と多孔質還元電極5とに電気的に接続される。
【0057】
[多孔質電極支持型電解質膜の実施例]
上記の気相還元装置200に配置する多孔質電極支持型電解質膜20として、平均気孔径または熱圧着処理時の温度を変えた実施例7-12を作製し、後述の気相還元試験を行った。以下、実施例7-12の多孔質電極支持型電解質膜について説明する。なお、実施例7-12の多孔質電極支持型電解質膜20は、実施例1-6の多孔質電極支持型電解質膜20と同様に作製した。
【0058】
<実施例7>
実施例7の多孔質電極支持型電解質膜20は、実施例1と同様の手順で作製した。熱圧着時の加熱温度は150℃であり、熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は50%、平均気孔径は1.3μmであった。
【0059】
<実施例8>
実施例8では、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率79%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は70%、平均気孔径は15μmであった。それ以外の条件は全て実施例7と同様である。
【0060】
<実施例9>
実施例9では、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は90%、平均気孔径は97μmであった。それ以外の条件は全て実施例7と同様である。
【0061】
<実施例10>
実施例10では、実施例9と同様に、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。ホットプレス機で圧力を加える際の加熱温度を100℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例9と同様である。
【0062】
<実施例11>
実施例11では、実施例9と同様に、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。ホットプレス機で圧力を加える際の加熱温度を120℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例9と同様である。
【0063】
<実施例12>
実施例12では、実施例9と同様に、多孔質還元電極5の材料として厚み0.2mm、気孔率93%の銅多孔質体を用いて多孔質電極支持型電解質膜20を作製した。ホットプレス機で圧力を加える際の加熱温度を180℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例9と同様である。
【0064】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
実施例7-12の多孔質電極支持型電解質膜20のそれぞれを
図5の気相還元装置200に取り付けて以下の還元反応試験を行った。
【0065】
酸化槽1を水溶液3で満たした。水溶液3は、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液とした。
【0066】
酸化電極2を表面積の約0.55cm2が水溶液3に浸水するように酸化槽1に設置した。酸化電極2には白金(ニラコ社製)を用いた。
【0067】
酸化槽1に対してはチューブ8からヘリウム(He)を、還元槽4に対しては気体入力口10から二酸化炭素(CO2)を、それぞれ流量5ml/minかつ圧力0.18MPaで流した。この系では、多孔質電極支持型電解質膜20内の[電解質膜-銅-気相の二酸化炭素]からなる三相界面において、二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。多孔質還元電極5の二酸化炭素が直接供給される見かけ面積は、約6.25cm2である。
【0068】
酸化槽1および還元槽4をヘリウムと二酸化炭素で十分に置換した後、電源11により電圧2.0Vを印加して酸化電極2と多孔質還元電極5との間に電子を流した。
【0069】
電圧印加時の酸化電極2と多孔質還元電極5との間の電流値を、電気化学測定装置を用いて測定した。
【0070】
また、電圧印加時の任意の時間に、酸化槽1および還元槽4内のガスと液体を採取し、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、およびガスクロマトグラフ質量分析計にて反応生成物を分析した。その結果、酸化槽1内では酸素が、還元槽4内では、水素、一酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、エタノール、エチレンが生成していることを確認した。
【0071】
[比較対象例]
実施例とは平均気孔径または熱圧着処理時の温度が異なる比較対象例1-4を作製し、比較対象例1,2を
図4の気相還元装置100の多孔質電極支持型電解質膜20として配置し、比較対象例3,4を
図5の気相還元装置200の多孔質電極支持型電解質膜20として配置して実施例1-6および実施例7-12と同様の試験を行った。
【0072】
<比較対象例1>
比較対象例1では、厚み0.2mm、気孔率51%の銅多孔質体を用いて実施例1と同様に多孔質電極支持型電解質膜を作製した。熱圧着後の多孔質還元電極の厚みは0.14mm、気孔率は30%、平均気孔径は0.11μmであった。それ以外の条件は全て実施例1と同様である。
【0073】
<比較対象例2>
比較対象例2では、熱圧着時の加熱温度を80℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例3と同様である。
【0074】
<比較対象例3>
比較対象例3では、厚み0.2mm、気孔率51%の銅多孔質体を用いて実施例7と同様に多孔質電極支持型電解質膜を作製した。熱圧着後の多孔質還元電極の厚みは0.14mm、気孔率は30%、平均気孔径は0.11μmであった。それ以外の条件は全て実施例7と同様である。
【0075】
<比較対象例4>
比較対象例4では、熱圧着時の加熱温度を80℃とした。加熱温度以外の条件は全て実施例9と同様である。
【0076】
[実施例と比較対象例の評価]
次に、実施例1-12と比較対象例1-4の試験結果について説明する。表1に、実施例1-12および比較対象例1-4に関して、1時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率および20時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率維持率を示す。
【0077】
【0078】
ファラデー効率とは、式(6)に示すように、光照射時または電圧印加時に電極間に流れた電流値に対して、各還元反応に使われた電流値の割合を示すものである。
【0079】
各還元反応のファラデー効率[%]=(各還元反応に消費された電荷)/(酸化電極-還元電極間を流れた電荷)×100 (6)
【0080】
ここで、式(6)の「各還元反応に消費された電荷」は、各還元反応の反応生成物量の測定値を、その還元反応に必要な電荷に換算することで求めることができる。各還元反応の反応生成物量をA[mol]、還元反応に必要な電子数をZ、ファラデー定数をF[C/mol]としたとき、式(7)を用いて算出した。
【0081】
各還元反応に消費された電荷[C]=A×Z×F (7)
【0082】
また、20時間後の各還元反応のファラデー効率維持率は下記の式(8)の通り定義し、算出した。
【0083】
20時間後の各還元反応のファラデー効率維持率[%]=(20時間後の各還元反応のファラデー効率)/(1時間後の各還元反応のファラデー効率)×100 (8)
【0084】
1時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率について、実施例1-5と比較対象例1、実施例7-11と比較対象例3をそれぞれ比較すると、実施例1-5,7-11の方が比較対象例1,3よりも1時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率が高かった。
【0085】
表1には、気孔径に依存する多孔質電極内での二酸化炭素の拡散係数の評価結果を示している。これによると、気孔径1μmを超える実施例1-5,7-11では、飽和値6.0x10-6m2s-1(自己拡散係数)に達しており、比較対象例1、3のおよそ1.5倍であることが分かった。
【0086】
これらのことから、二酸化炭素の拡散係数が飽和値になる平均気孔径1μm以上の多孔質電極で構成される多孔質電極支持型電解質膜20を用いることで、多孔質還元電極5への二酸化炭素供給量が増加し、二酸化炭素還元反応の効率向上を実現できた。
【0087】
20時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率維持率について、実施例1-5と比較対象例2、実施例7-11と比較対象例4をそれぞれ比較すると、実施例1-5,7-11の方が比較対象例2,4よりも20時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率維持率が高かった。
【0088】
実施例1-5,7-11では20時間後の電極表面には目視で確認できるほどの液体の付着はなかった。一方で、比較対象例2,4では20時間後の電極表面に液体が数百μL付着しており、電極表面に直接的に気相の二酸化炭素を供給できなくなったことでファラデー効率維持率が低くなったことが分かった。電極表面に付着した液体は主に、二酸化炭素還元反応進行の有無にかかわらず酸化槽1から電解質膜6を介して浸透してくる水溶液であることを確認した。これは、電解質膜6が過剰な水分をため込んだ膨潤状態になり、酸化槽1内の水溶液3が浸透したことが原因と考えられる。一方で、実施例1-5と実施例7-11では、熱圧着を100℃以上の温度条件で実施することで、電解質膜中に含まれる水分を気化させることができた。これにより、電解質膜を介した水溶液浸透が抑制されて二酸化炭素還元反応の維持率が向上したと考えらえる。
【0089】
さらに、表1には、測定した電解質膜6のプロトン伝導の抵抗を示している。実施例1-5と実施例7-11では3.0~3.5Ωと低抵抗であり、熱圧着後もプロトン伝導の抵抗低減の効果が失われていないことが確認できた。一方で、実施例6,12では、電解質膜6のイオン伝導の抵抗が360Ωに増大していた。これにより、電極間の電流値が著しく低く反応生成物量が評価系の検出下限界(3%)を下回ったため記録なしとしている。これは、180℃という高い温度条件で熱圧着処理を実施したことで、電解質膜のプロトン交換基が分解されたためと考えられる。
【0090】
以上説明したように、本実施形態によれば、本実施形態の多孔質電極支持型電解質膜20は、電解質膜6と、電解質膜6上に直接接合された多孔質還元電極5を有し、多孔質還元電極5の平均気孔径が1μm以上とする。これにより、電極内での二酸化炭素の拡散抵抗を低減し二酸化炭素の気相還元の効率を向上できる。また、電解質膜6と多孔質還元電極5とを接合する工程で、加熱しながら圧力を加えて、電解質膜6の膨潤を抑制することで、多孔質電極支持型電解質膜20の寿命を向上できる。
【符号の説明】
【0091】
多孔質電極支持型電解質膜 20
多孔質還元電極 5
電解質膜 6