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7594216二酸化炭素の気相還元装置および二酸化炭素の気相還元方法
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  • -二酸化炭素の気相還元装置および二酸化炭素の気相還元方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素の気相還元装置および二酸化炭素の気相還元方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20241127BHJP
   C25B 3/21 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 1/55 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 11/049 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20241127BHJP
   C25B 3/03 20210101ALN20241127BHJP
   C25B 1/23 20210101ALN20241127BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B3/21
C25B3/07
C25B1/55
C25B15/023
C25B11/031
C25B11/049
C25B9/00 G
C25B15/00 302
C25B3/03
C25B1/23
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023523756
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019783
(87)【国際公開番号】W WO2022249276
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弓
(72)【発明者】
【氏名】渦巻 裕也
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-045527(JP,A)
【文献】特開2021-059760(JP,A)
【文献】特開2018-141227(JP,A)
【文献】特開2019-019363(JP,A)
【文献】特開2015-180765(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121556(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0034348(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0146470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 9/77
C25B 13/00 - 15/08
C25B 11/00 - 11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる二酸化炭素の気相還元装置であって、
水溶液が入れられる酸化槽と、
二酸化炭素が供給される還元槽と、
前記酸化槽の水溶液中に設置される半導体光電極と、
電解質膜と多孔質還元電極の接合体であって、前記電解質膜を前記酸化槽に向け、前記多孔質還元電極を前記還元槽に向けて、前記酸化槽と前記還元槽との間に設置される多孔質電極支持型電解質膜と、
前記半導体光電極と前記多孔質還元電極とに電気的に接続され、前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間電圧を印加する制御部と、
前記酸化槽の水溶液中に設置される第1の参照電極と、
前記電解質膜に接触させて前記還元槽側に設置される第2の参照電極と、
前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧を測定する電圧計を備え、
前記制御部は、前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧の反応開始時の初期値からの減少分を補うように前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間に印加する電圧を上げる
二酸化炭素の気相還元装置。
【請求項2】
請求項1に記載の二酸化炭素の気相還元装置であって、
前記制御部は、太陽電池と定電圧電源を備え、
前記太陽電池は、前記半導体光電極に光を照射する光源から前記半導体光電極に向かう直線の延長線上に配置され、前記半導体光電極に照射されて透過した光を利用して発電する
二酸化炭素の気相還元装置。
【請求項3】
請求項2に記載の二酸化炭素の気相還元装置であって、
前記半導体光電極が吸収可能な波長域の長波長端は、前記太陽電池が吸収可能な波長域の長波長端よりも短波長側にある
二酸化炭素の気相還元装置。
【請求項4】
請求項1に記載の二酸化炭素の気相還元装置であって、
前記制御部は、前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧の反応開始時の初期値からの変化分ΔVに応じて、前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間にV0-ΔVの電圧(V0は前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間に印加した電圧の初期設定値である。)を印加する二酸化炭素の気相還元装置。
【請求項5】
水溶液が入れられる酸化槽と、二酸化炭素が供給される還元槽と、前記酸化槽の水溶液中に設置される半導体光電極と、電解質膜と多孔質還元電極の接合体であって、前記電解質膜を前記酸化槽に向け、前記多孔質還元電極を前記還元槽に向けて、前記酸化槽と前記還元槽との間に設置される多孔質電極支持型電解質膜とを備えた二酸化炭素の気相還元装置を用いた二酸化炭素の気相還元方法であって、
前記酸化槽の水溶液中に設置した第1の参照電極と前記電解質膜に接触させて前記還元槽側に設置した第2の参照電極との間の電圧を測定し、
前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧の反応開始時の初期値からの減少分を補うように前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間に印加する電圧を上げる
二酸化炭素の気相還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の気相還元装置および二酸化炭素の気相還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用した人工光合成技術および再生可能エネルギー由来の電力を利用した電解還元技術は、二酸化炭素を一酸化炭素、ギ酸、エチレン等の炭化水素やメタノール、エタノール等のアルコールに再資源化することが可能な技術として注目され、近年盛んに研究されている。
【0003】
人工光合成技術および二酸化炭素の電解還元技術では、還元電極を水溶液に浸漬させて、水溶液中に溶解させた二酸化炭素を還元電極に供給し、還元する反応系が用いられてきた(非特許文献1,2参照)。しかし、この二酸化炭素の還元方法では、水溶液への二酸化炭素の溶解濃度および水溶液中での二酸化炭素の拡散係数に限界があり、還元電極への二酸化炭素の供給量が制限される。
【0004】
この問題に対し、還元電極への二酸化炭素の供給量を増加させるため、還元電極に対して気相の二酸化炭素を供給する研究が進められている。非特許文献3よると、還元電極に対して気相の二酸化炭素を供給できる構造を有する反応装置を用いることで、還元電極への二酸化炭素の供給量が増大し、二酸化炭素の還元反応が促進される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Satoshi Yotsuhashi、外6名、“CO2Conversion with Light and Water by GaN Photoelectrode”、Japanese Journal of Applied Physics、51、2012年、p.02BP07-1-p.02BP07-3
【文献】Yoshio Hori、外2名、“Formation of Hydrocarbons in the Electrochemical Reduction of Carbone Dioxide at a Copper Electrode in Aqueous Solution”、Journal of the Chemical Society、85(8)、1989年、p.2309-p.2326
【文献】Qingxin Jia、外2名、”Direct Gas-phase CO2 Reduction for Solar Methane Generation Using a Gas Diffusion Electrode with a BiVO4:Mo and a Cu-In-Se Photoanode”、Chemistry Letter、47、2018、p.436-439
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二酸化炭素の気相還元反応装置では、還元槽内の水溶液を排除して気相の二酸化炭素を充填するが、気相の二酸化炭素を充填しただけではプロトン(H)が気相中を移動できない。そのため、酸化槽と還元槽の間に多孔質の還元電極を接合した電解質膜を設置し、気相の二酸化炭素が還元電極と電解質膜の界面に到達できるようにする。
【0007】
還元電極の対極に設置した半導体光電極に光を照射すると、電子と正孔が生成、分離する。半導体光電極では式(1)に示す水の酸化反応が進行する。還元電極では式(2)から式(5)に示す二酸化炭素の気相還元反応と、副反応として式(6)に示す水素生成反応が進行する。
【0008】
2H2O + 4h+ → O2 + 4H+ (1)
CO2+ 2H+ + 2e- → CO + H2O (2)
CO2+ 2H+ + 2e- → HCOOH (3)
CO2+ 6H+ + 6e- → CH3OH + H2O (4)
CO2+ 8H+ + 8e- → CH4 + 2H2O (5)
2H++ 2e- → H2 (6)
【0009】
一般的に、式(2)から式(5)に示す二酸化炭素還元反応は多電子・多段階反応であるため、還元反応の進行には、式(6)に示す副反応進行よりも高い起電力(1.23V以上)が必要とされている。
【0010】
酸化槽の水溶液中でのプロトン伝導度を向上させるため、水溶液にはpH=13以上の強アルカリの水溶液が用いられることが多い。また、二酸化炭素の気相還元装置では、電解質膜と還元電極の接合体の電解質膜側を酸化槽の水溶液(強アルカリ)に接触させる構成で使用する。水溶液接触前には電解質膜が中性の水を含んでいるため、電解質膜と還元電極の界面においてpH=7(中性)であるが、電解質膜を水溶液に接触させて光照射試験を開始すると、電解質膜中に酸化槽の強アルカリ水溶液が拡散し、電解質膜と還元電極の界面がpH=7からpH=13以上に徐々に変化する。これにより、半導体光電極に対する還元電極の電位が0.059[V]×(pHの変化)だけ減少することで起電力が低下し、より高い電位差を必要とする二酸化炭素の還元反応が抑制されてしまい、二酸化炭素の還元反応の寿命が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素の還元反応の寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の二酸化炭素の気相還元装置は、光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる二酸化炭素の気相還元装置であって、水溶液が入れられる酸化槽と、二酸化炭素が供給される還元槽と、前記酸化槽の水溶液中に設置される半導体光電極と、電解質膜と多孔質還元電極の接合体であって、前記電解質膜を前記酸化槽に向け、前記多孔質還元電極を前記還元槽に向けて、前記酸化槽と前記還元槽との間に設置される多孔質電極支持型電解質膜と、前記半導体光電極と前記多孔質還元電極とに電気的に接続され、前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間電圧を印加する制御部と、前記酸化槽の水溶液中に設置される第1の参照電極と、前記電解質膜に接触させて前記還元槽側に設置される第2の参照電極と、前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧を測定する電圧計を備え、前記制御部は、前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧の反応開始時の初期値からの減少分を補うように前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間に印加する電圧を上げる。
【0013】
本発明の一態様の二酸化炭素の気相還元方法は、水溶液が入れられる酸化槽と、二酸化炭素が供給される還元槽と、前記酸化槽の水溶液中に設置される半導体光電極と、電解質膜と多孔質還元電極の接合体であって、前記電解質膜を前記酸化槽に向け、前記多孔質還元電極を前記還元槽に向けて、前記酸化槽と前記還元槽との間に設置される多孔質電極支持型電解質膜とを備えた二酸化炭素の気相還元装置を用いた二酸化炭素の気相還元方法であって、前記酸化槽の水溶液中に設置した第1の参照電極と前記電解質膜に接触させて前記還元槽側に設置した第2の参照電極との間の電圧を測定し、前記第1の参照電極と前記第2の参照電極との間の電圧の反応開始時の初期値からの減少分を補うように前記半導体光電極と前記多孔質還元電極との間に印加する電圧を上げる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二酸化炭素の還元反応の寿命を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の二酸化炭素の気相還元装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、多孔質電極支持型電解質膜の構成の一例を示す断面図である。
図3図3は、多孔質電極支持型電解質膜を製造する際に熱圧着する様子の一例を示す図である。
図4図4は、本実施形態の二酸化炭素の気相還元方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。本発明は、以下に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更を加えてもよい。
【0017】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
図1を参照し、本実施形態の二酸化炭素の気相還元装置100について説明する。図1に示す気相還元装置100は、光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる二酸化炭素の気相還元装置である。
【0018】
気相還元装置100は、筐体内の内部空間を多孔質電極支持型電解質膜20で二分して形成された酸化槽1と還元槽4を備える。
【0019】
酸化槽1は水溶液3で満たされる。水溶液3中に半導体または金属錯体からなる半導体光電極2が挿入される。
【0020】
半導体光電極2は、例えば、窒化物半導体、酸化チタン、アモルファスシリコン、ルテニウム錯体、レニウム錯体のような光活性およびレドックス活性を示す化合物である。
【0021】
水溶液3は、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ルビジウム水溶液、または水酸化セシウム水溶液である。還元反応中、水溶液3には、チューブ8からヘリウムガスが供給される。
【0022】
還元槽4は、気体入力口10から二酸化炭素が供給されて、二酸化炭素または二酸化炭素を含む気体で満たされる。
【0023】
多孔質電極支持型電解質膜20は、図2に示すように、電解質膜6と多孔質還元電極5とを接合した接合体である。多孔質電極支持型電解質膜20は、図3に示すように、多孔質還元電極5と電解質膜6とを重ねて2枚の銅板40a,40bで挟み、熱圧着装置(ホットプレート)により所定の加熱温度の条件で圧力を加えて作製できる。多孔質電極支持型電解質膜20は、電解質膜6を酸化槽1に向け、多孔質還元電極5を還元槽4に向けて設置される。
【0024】
多孔質還元電極5は、例えば、銅、白金、金、銀、インジウム、パラジウム、ガリウム、ニッケル、スズ、カドミウム、それらの合金の多孔質体、または、酸化銀、酸化銅、酸化銅(II)、酸化ニッケル、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タングステン、酸化タングステン(VI)、酸化銅などの多孔質体、もしくは金属イオンとアニオン性配位子を有する多孔性金属錯体である。
【0025】
電解質膜6は、例えば、炭素-フッ素からなる骨格を持つ電解質膜であるナフィオン(商標登録)やフォアブルー、アクイヴィオン、炭化水素系骨格を持つ電解質膜であるセレミオンやネオセプタである。
【0026】
光源9が、半導体光電極2に光が照射されるように設置される。光源9は、例えば、キセノンランプ、擬似太陽光源、ハロゲンランプ、水銀ランプ、および太陽光である。光源9は、これら組み合わせて構成してもよい。
【0027】
半導体光電極2は、導線7によって多孔質還元電極5と電気的に接続される。半導体光電極2と多孔質還元電極5との間には制御部11が接続される。制御部11は、太陽電池12と定電圧電源13を備え、起電力を還元反応開始時の初期値に維持する。
【0028】
太陽電池12は、半導体光電極2の背面、つまり、太陽電池12は光源9と半導体光電極2とを結ぶ直線の先に設置される。半導体光電極2よりも太陽電池12の方がバンドギャップエネルギーの小さい(吸収波長域の大きい)材料を用いることで、光源9からの光を半導体光電極2が吸収し、透過した光を太陽電池12が吸収できる構成になっている。太陽電池12は、例えばシリコン(Si)系太陽電池、CIGS系太陽電池、III-V族系太陽電池、CdTe系太陽電池、色素増感系太陽電池、または有機半導体系太陽電池である。なお、制御部11は、太陽電池12を備えなくてもよい。
【0029】
参照電極15,16が、酸化槽1内の水溶液3中と、電解質膜6の多孔質還元電極5側に設置される。参照電極15は電解質膜6に接触させず、参照電極16は電解質膜6に接触させて設置する。参照電極16と多孔質還元電極5とは絶縁である。参照電極15,16は、例えば、銅、白金などの金属、標準水素電極(NHE)、または銀酸化銀電極(Ag/AgCl電極)である。
【0030】
電圧計14が参照電極15,16に接続されて、参照電極15,16間の電圧を測定する。電圧計14で測定した参照電極15,16間の電圧変化がpH変化に起因した起電力の変化に相当する。制御部11は、変化分を補うように、太陽電池12および定電圧電源13の両端の電圧を変化させて、半導体光電極2と多孔質還元電極5との間の起電力を還元反応開始時の初期値に維持する。例えば、電圧計14で測定した電圧の減少分を定電圧電源13の可変抵抗にフィードバックし、可変抵抗を制御することで定電圧電源13から出力される電圧値を制御できる。
【0031】
[二酸化炭素の気相還元方法]
次に、図4のフローチャートを参照し、本実施形態の二酸化炭素の気相還元方法について説明する。
【0032】
ステップS1にて、光源9は、半導体光電極2への光照射を開始する。
【0033】
ステップS2にて、電圧計14は、参照電極15,16間の電圧を測定し、制御部11へ送信する。制御部11は、光照射開始時の電圧の初期値を記憶しておく。
【0034】
ステップS3にて、制御部11は、参照電極15,16間の電圧の初期値からの変化分を補うように、定電圧電源13を制御する。
【0035】
ステップS2,S3は、光照射中繰り返して実行され、起電力を還元反応開始時の初期値に維持する。
【0036】
[気相還元装置の実施例]
吸収端波長の異なる半導体光電極2を用いた実施例1-3の気相還元装置100について気相還元試験を行った。また、半導体光電極2と多孔質還元電極5との間の電圧を初期値に維持しない比較対象例1-3の気相還元装置についても気相還元試験を行った。以下、実施例1-3の気相還元装置100と比較対象例1-3の気相還元装置について説明する。
【0037】
<実施例1>
実施例1の半導体光電極2には、サファイア基板上にn型半導体であるGaNの薄膜とAlGaNを順にエピタキシャル成長させ、AlGaN上にNiを真空蒸着して熱処理を行うことでNiOの助触媒薄膜を形成した半導体光電極を用いた。
【0038】
太陽電池12には、スフェラーパワー社製(形名:KSP-OC-1830MR-ER-X03)のSi系太陽電池で、単セルで開放電圧が0.6Vのものを用いた。
【0039】
半導体光電極2の吸収端波長は365nmである。太陽電池12の吸収端波長は1130nmであるから、光源9からの光のうち波長365nmまでの光を半導体光電極2が吸収し、透過した波長1130nmまでの光を太陽電池12が吸収する構成になっている。
【0040】
多孔質電極支持型電解質膜20は、多孔質還元電極5の材料には厚み0.2mm、気孔率97%の銅多孔質体を用い、電解質膜6にはカチオン交換膜であるナフィオンを用いて、ホットプレートにより加熱温度150℃の条件で圧力を加えて3分間放置後、素早く冷却して取り出すことで作製した。熱圧着後の多孔質還元電極5の厚みは0.14mm、気孔率は96%であった。
【0041】
<実施例2>
実施例2の半導体光電極2には、サファイア基板上にn型半導体であるGaNの薄膜とInGaNを順にエピタキシャル成長させ、InGaN上にNiを真空蒸着して熱処理を行うことでNiOの助触媒薄膜を形成した半導体光電極を用いた。
【0042】
太陽電池12には、スフェラーパワー社製のSi系太陽電池で、2直列で開放電圧が1.2Vのものを用いた。太陽電池12および定電圧電源13で0.8V印加した状態を光照射初期の状態として、0.8Vからさらに起電力低下分を昇圧することで起電力を一定に制御した。
【0043】
半導体光電極2の吸収端波長は388nm、太陽電池12の吸収端波長は1130nmであるから、光源9からの光のうち波長388nmまでを半導体光電極2が吸収し、透過した波長1130nmまでの光を太陽電池12が吸収する構成になっている。
【0044】
その他の条件は実施例1と同様である。
【0045】
<実施例3>
実施例3の半導体光電極2には、サファイア基板上にn型半導体であるGaNの薄膜をエピタキシャル成長させ、GaN上にTaをスパッタリング成膜して窒化処理することでTa薄膜を形成し、Ta薄膜上にNiを真空蒸着して熱処理を行うことでNiOの助触媒薄膜を形成した半導体光電極を用いた。
【0046】
太陽電池12には、スフェラーパワー社製のSi系太陽電池で、2直列で開放電圧が1.2Vのものを用いた。太陽電池12および定電圧電源13で0.8V印加した状態を光照射初期の状態として、0.8Vからさらに起電力低下分を昇圧することで起電力を一定に制御した。
【0047】
半導体光電極2の吸収端波長は590nm、太陽電池12の吸収端波長は1130nmであるから、光源9からの光のうち波長590nmまでを半導体光電極2が吸収し、透過した波長1130nmまでの光を太陽電池12が吸収する構成になっている。
【0048】
その他の条件は実施例1と同様である。
【0049】
<比較対象例1>
比較対象例1の気相還元装置は、実施例1の気相還元装置100と比較して、制御部11(太陽電池12と定電圧電源13)、電圧計14、および参照電極15,16を備えていない点で相違する。半導体光電極2と多孔質還元電極5とが導線7によって電気的に接続されている。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0050】
<比較対象例2>
比較対象例2の気相還元装置は、実施例2の気相還元装置100と比較して、電圧計14および参照電極15,16を備えていない点で相違する。電圧計14で測定した電圧の減少分は制御部11にフィードバックされない。その他の構成は、実施例2と同様である。
【0051】
<比較対象例3>
比較対象例3の気相還元装置は、実施例3の気相還元装置100と比較して、電圧計14および参照電極15,16を備えていない点で相違する。電圧計14で測定した電圧の減少分は制御部11にフィードバックされない。その他の構成は、実施例3と同様である。
【0052】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
実施例1-3の気相還元装置100と比較対象例1-3の気相還元装置について以下の還元反応試験を行った。
【0053】
酸化槽1を水溶液3で満たした。水溶液3は、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液とした。
【0054】
実施例1-3および比較対象例1-3の半導体光電極2を水溶液3に浸水するように酸化槽1内に設置した。
【0055】
光源9、半導体光電極2、および太陽電池12を図1に示した順に並べて設置した。なお、比較対象例1では太陽電池12を設置していない。
【0056】
光源9には、300Wの高圧キセノンランプ(波長450nm以上をカット、照度6.6mW/cm)を用いた。光源9は、半導体光電極2の酸化助触媒が形成されている面が照射面となるように固定した。半導体光電極2の光照射面積を1.5cmとした。
【0057】
参照電極15には白金を用いた。参照電極16には銅薄膜を用い、多孔質還元電極5と同様に、電解質膜6に熱圧着して形成した。なお、比較対象例1-3では、参照電極15,16を設置していない。
【0058】
酸化槽1に対してはチューブ8からヘリウム(He)を、還元槽4に対しては気体入力口10から二酸化炭素(CO)を、それぞれ流量5ml/minかつ圧力0.18MPaで流した。この系では、多孔質電極支持型電解質膜20内の[電解質膜-銅-気相の二酸化炭素]からなる三相界面において、二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。
【0059】
酸化槽1および還元槽4をヘリウムと二酸化炭素で十分に置換した後、光源9を用いて半導体光電極2に均一に光を30時間照射した。光照射により、半導体光電極2と多孔質還元電極5との間に電子が流れる。
【0060】
実施例1-3では、半導体光電極2と多孔質還元電極5の間の電圧値を、光照射開始時の初期値に維持するよう制御した。フィードバック制御方式は問わないが、実施例1-3では線形制御方式を用いた。具体的には、定電圧電源13の印加電圧の初期設定値をV0とする。電圧計14は、0.1秒毎に参照電極15に対する参照電極16の電位を測定して制御部11のコンピュータ(図示せず)に転送する。制御部11は、初期から各測定時刻までの電位の変化分ΔVを算出し、定電圧電源13の印加電圧の設定値をV0-ΔVに制御する。このようにして、制御部11は、電圧の低下分を太陽電池12および定電圧電源13で補う制御を実施した。
【0061】
なお、比較対象例1では、半導体光電極2と多孔質還元電極5と間の電圧を制御していない。比較対象例2,3では、太陽電池12と定電圧電源13で0.8V印加した状態を保ち、半導体光電極2と多孔質還元電極5と間の電圧値を光照射開始時の初期値に維持していない。
【0062】
光照射時の半導体光電極2と多孔質還元電極5との間の電流値を、電気化学測定装置(Solartron社製、1287型ポテンショガルバノスタット)を用いて測定した。また、光照射中任意の時間に、酸化槽1および還元槽4内のガスと液体を採取し、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、およびガスクロマトグラフ質量分析計にて反応生成物を分析した。その結果、酸化槽1内では酸素が、還元槽4内では、水素、一酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、エタノール、エチレンが生成していることを確認した。
【0063】
[実施例と比較対象例の評価]
次に、実施例1-3と比較対象例1-3の試験結果について説明する。表1に、実施例1-3と比較対象例1-3に関して、30時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率維持率を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
ファラデー効率とは、式(7)に示すように、光照射時に電極間に流れた電流値に対して、各還元反応に使われた電流値の割合を示すものである。
【0066】
各還元反応のファラデー効率[%]=(各還元反応に消費された電荷)/(酸化電極-還元電極間を流れた電荷)×100 (7)
【0067】
ここで、式(7)の「各還元反応に消費された電荷」は、各還元反応の反応生成物量の測定値を、その還元反応に必要な電荷に換算することで求めることができる。各還元反応の反応生成物量をA[mol]、還元反応に必要な電子数をZ、ファラデー定数をF[C/mol]としたとき、式(8)を用いて算出した。
【0068】
各還元反応に消費された電荷[C]=A×Z×F (8)
【0069】
また、30時間後の各還元反応のファラデー効率維持率は下記の式(9)の通り定義し、算出した。
【0070】
30時間後の各還元反応のファラデー効率維持率[%]=(30時間後の各還元反応のファラデー効率)/(1時間後の各還元反応のファラデー効率)×100 (9)
【0071】
表1より、実施例1-3と比較対象例1-3を比較すると、それぞれ実施例の方が比較対象例よりも30時間後の二酸化炭素還元反応のファラデー効率維持率が高いことを確認した。これは実施例において、半導体光電極2と多孔質還元電極5の起電力を初期値に維持することができ、二酸化炭素の還元反応の効率が維持できたためと考えられる。さらに、電極間の起電力維持のために太陽電池を用いて昇圧することで、光源から与えた光エネルギーを有効活用できるというメリットがある。
【0072】
以上説明したように、本実施形態の二酸化炭素の気相還元装置100は、水溶液3が入れられる酸化槽1と、二酸化炭素が供給される還元槽4と、水溶液3中に設置される半導体光電極2と、電解質膜6と多孔質還元電極5の接合体であって、電解質膜6を酸化槽1に向け、多孔質還元電極5を還元槽4に向けて、酸化槽1と還元槽4との間に設置される多孔質電極支持型電解質膜20と、を備える。水溶液3中に設置した参照電極15と電解質膜6に接触させて設置した参照電極16との間の電圧を電圧計14で測定し、制御部11が、参照電極15,16間の電圧の反応開始時の初期値からの変化に応じて半導体光電極2と多孔質還元電極5との間の電圧を上げる。これにより、半導体光電極2と多孔質還元電極5との間の起電力の低下分が制御部11による昇圧で補われるので、二酸化炭素還元反応の寿命を向上できる。
【0073】
制御部11は、太陽電池12と定電圧電源13を備え、太陽電池12は、光源9から半導体光電極2に向かう直線の延長線上に配置され、半導体光電極2に照射されて透過した光を利用して発電する。これにより、光源9から与えた光エネルギーを有効活用できる。
【符号の説明】
【0074】
100 気相還元装置
1 酸化槽
2 半導体光電極
3 水溶液
4 還元槽
5 多孔質還元電極
6 電解質膜
7 導線
8 チューブ
9 光源
10 気体入力口
11 制御部
12 太陽電池
13 定電圧電源
14 電圧計
15,16 参照電極
20 多孔質電極支持型電解質膜
図1
図2
図3
図4