(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】はんだペースト及びはんだ継手
(51)【国際特許分類】
B23K 35/22 20060101AFI20241127BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20241127BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20241127BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20241127BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B23K35/22 310B
B23K35/26 310A
B23K35/30 310D
C22C19/03 G
C22C13/00
(21)【出願番号】P 2024008280
(22)【出願日】2024-01-23
【審査請求日】2024-01-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】菊池 真司
(72)【発明者】
【氏名】立花 芳恵
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智揮
(72)【発明者】
【氏名】美尾 歩
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-076097(JP,A)
【文献】特開2012-091223(JP,A)
【文献】特開2016-083695(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101041901(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22
B23K 35/26
B23K 35/30
C22C 19/03
C22C 13/00
B23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属粉末と、第2金属粉末と、フラックスと、を含有するはんだペーストであって、
前記第1金属粉末は、Snを含み、
前記第2金属粉末は、Ni及びFeを含む合金からなるコア部と、前記コア部を被覆し、Niを含む金属からなる表層とを有し、
前記第1金属粉末中のSnの含有量は、前記第1金属粉末の総質量に対して、20質量%以上100質量%以下であり、
前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属中のNiの含有量が、前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属の総質量に対して、80質量%以上99質量%以下であり、
前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属中のFeの含有量が、前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下であり、
前記第2金属粉末の前記表層を形成する金属中のNiの含有量は、前記第2金属粉末の前記表層を形成する金属の総質量に対して、50質量%以上であり、
前記第1金属粉末の粒径が、0.1~1000μmであり、
前記第2金属粉末の粒径が、0.2~1000μmであり、
前記第2金属粉末の前記表層の厚さは、0.05μm以上
0.30μm
以下である、
はんだペースト。
【請求項2】
前記第1金属粉末の含有量は、前記第1金属粉末及び前記第2金属粉末の合計の質量に対して、30~99質量%であり、
前記第2金属粉末の含有量は、前記第1金属粉末及び前記第2金属粉末の合計の質量に対して、1~70質量%である、
請求項1に記載のはんだペースト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のはんだペーストを用いて形成されたはんだ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだペースト及びはんだ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、炭化ケイ素(SiC)等を用いたパワー半導体素子の動作環境の高温化に伴い、はんだ継手の部位が250~280℃程度に達することがある。このため、このような高温条件での動作時に、溶融しない高温はんだが求められている。
【0003】
上記はんだ継手の作製には、はんだ付け材料として、各種のはんだペーストが用いられている。例えば、はんだペーストとしては、低温焼結が可能なAgペースト、欧州連合によるRoHS指令に対応したTLP(Transient Liquid Phase、液相拡散)ペーストが挙げられる。
TLPペーストは、複数種類のはんだ粉末を含有するペーストである。TLPペーストにおいては、加熱時にはんだ粉末同士が高融点の化合物を形成する。その結果、はんだ継手が再加熱されたとしても再溶融を抑制することができ、耐熱性を高めることが可能となる。このようなTLPペーストとして、例えば、Cuボール及びSnはんだボールを、フラックスを介して分散させたペースト、が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたようなフラックスを含有するはんだペーストは、はんだ粉末の溶融時にガス化したフラックスが溶融はんだ中に留まり、凝固時にボイドが大量に発生しやすい、という問題がある。特に、凝固時に、高融点の化合物が形成されるTLPペーストでは、流動性が低下し、ガス化したフラックスが外部に放出され難くなる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れるとともに、はんだ接合の際にボイドの発生をより抑制することができる、はんだペースト、及び、そのはんだペースト用いて形成されたはんだ継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]第1金属粉末と、第2金属粉末と、フラックスと、を含有するはんだペーストであって、前記第1金属粉末は、Snを含み、前記第2金属粉末は、Ni及びFeを含む合金からなるコア部と、前記コア部を被覆し、Niを含む金属からなる表層とを有し、前記第1金属粉末中のSnの含有量は、前記第1金属粉末の総質量に対して、20質量%以上100質量%以下であり、前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属中のNiの含有量が、前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属の総質量に対して、80質量%以上99質量%以下であり、前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属中のFeの含有量が、前記第2金属粉末の前記コア部を形成する金属の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下であり、前記第2金属粉末の前記表層を形成する金属中のNiの含有量は、前記第2金属粉末の前記表層を形成する金属の総質量に対して、50質量%以上であり、前記第1金属粉末の粒径が、0.1~1000μmであり、前記第2金属粉末の粒径が、0.2~1000μmであり、前記第2金属粉末の前記表層の厚さは、0.05μm以上1.20μm未満である、はんだペースト。
[2]前記第1金属粉末の含有量は、前記第1金属粉末及び前記第2金属粉末の合計の質量に対して、30~99質量%であり、前記第2金属粉末の含有量は、前記第1金属粉末及び前記第2金属粉末の合計の質量に対して、1~70質量%である、[1]に記載のはんだペースト。
[3][1]又は[2]に記載のはんだペーストを用いて形成されたはんだ継手。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性に優れるとともに、はんだ接合の際にボイドの発生をより抑制することができる、はんだペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】はんだペーストの第1実施形態における第2金属粉末20Aの断面を示す模式図である。
【
図2】はんだペーストの第2実施形態における第2金属粉末20Bの断面を示す模式図である。
【
図3】はんだペーストの第3実施形態における第2金属粉末20Cの断面を示す模式図である。
【
図4】実施例1~3、5、6、比較例1~2のはんだ接合部におけるボイドについてのX線観察像である。
【
図5】実施例1~3、5、比較例1~2についての、DSC曲線を示す図である。
【
図6】実施例1~3、5、比較例1~2についての、発熱量を示す図である。
【
図7】比較例1の発熱量に対する、実施例1~3、5、比較例2の発熱量の割合を示すグラフである。
【
図8】実施例1~3、5、6、比較例1~2のはんだペーストにおける、リフロー後の化合物の形成についての写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、それぞれ、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0011】
本明細書において、「第1金属」、「第2金属」、「第3金属」とは、それぞれ、「第1金属で形成されている粒子」、「第2金属で形成されている粒子」、「第3金属で形成されている粒子」を意味する場合がある。
本明細書において、「第1金属粉末」、「第2金属粉末」、「第3金属粉末」とは、それぞれ、「第1金属で形成されている粒子群」、「第2金属で形成されている粒子群」、「第3金属で形成されている粒子群」を意味する場合がある。
【0012】
(はんだペースト 第1実施形態)
第1実施形態に係るはんだペーストは、第1金属粉末と、第2金属粉末と、フラックスと、を含有する。
第1金属粉末は、Snを含む。
第2金属粉末は、Ni及びFeを含む合金からなるコア部と、コア部を被覆するNiを含む表層とを有する。
【0013】
<第1金属粉末>
第1金属粉末を構成する金属(以下、第1金属という)は、Snを含む金属である。第1金属は、Sn以外の金属を含んでもよい。
第1金属が含んでもよいSn以外の金属としては、例えばAg、Cu、In、Bi、Ni、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Fe、Mn、Zr、Asが挙げられる。これらのSn以外の金属は、1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。Sn以外の金属群は、これらの金属の中から任意に選択できる。
【0014】
第1金属が含んでもよい金属は、Sn及びSn以外の金属のそれぞれの単体であってもよいし、SnとSn以外の金属の単体とを合金化したものであってもよい。
【0015】
第1金属は、例えば、Sn単体であってもよいし、Sn以外の金属とSnとが混合したものであってもよいし、Sn以外の金属とSnとが合金化したものであってもよいし、Snを含む合金とこれ以外の金属とが混合したものであってもよい。
【0016】
第1金属は、前述の金属の他に不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物を含んでいる場合であっても、本発明の効果に影響することはない。
第1金属は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0017】
本明細書でいう「金属の融点、又は金属粉末の融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)により測定した融点のことをいう。第1金属の融点は、例えば、日立ハイテクサイエンス社製のDSC7020を使用して測定することができる。後述する第2金属の融点は、例えば、NETZSCH社製のDSC404-F3Pegasusを使用して測定することができる。
【0018】
第1金属の融点は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下でもよく、80~200℃でもよい。
第1金属の融点が、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、はんだの濡れ性を確保しやすくなる。
【0019】
第1金属中のSnの含有量は、第1金属の総質量に対して、20質量%以上100質量%以下である。Snの特性が充分に発揮されるためには、第1金属中のSnの含有量が、第1金属の総質量に対して、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0020】
本明細書でいう「金属の粒径、又は金属粉末の粒径」とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて体積基準で測定した場合の平均粒径をいう。
平均粒径は、例えば、マイクロトラック・ベル社製のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(MT3300EXII)を使用して測定することができる。
【0021】
第1金属粉末の粒径は、0.1~1000μmであり、1~100μmであることが好ましい。
第1金属粉末の粒径が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、濡れ性が確保しやすくなる。前記の好ましい範囲の上限値以下であると、金属間化合物をより形成しやすくなる。
【0022】
<第2金属粉末>
図1に例示するように、第2金属粉末20Aは、コア部201と、コア部201の全体を被覆する表層202と、を有する。
Rcは、コア部201のコア径を意味する。
Rsは、表層202の厚さを意味する。
コア部201を形成する金属は、Ni及びFeを含む合金からなる。
表層202を形成する金属は、Niを含む金属からなる。
【0023】
≪表層≫
第2金属粉末の表層を形成する金属は、Niのみからなるものであってもよいし、NiとNi以外の金属とを含む金属であってもよい。
NiとNi以外の金属とを含む金属は、Ni以外の金属とNiとが合金化したものであってもよい。
表層を形成する金属は、Ni単体であることが好ましい。
【0024】
表層を形成する金属が含んでもよいNi以外の金属としては、例えばAg、Cu、In、Bi、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Fe、Mn、Zr、Sn、Asが挙げられる。これらのNi以外の金属は、1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。Ni以外の金属群は、これらの金属から任意に選択できる。
【0025】
表層を形成する金属は、前述の金属の他に不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物を含んでいる場合であっても、本発明の効果に影響することはない。
【0026】
表層を形成する金属がNiとNi以外の金属とを含む金属である場合、表層を形成する金属中のNiの含有量は、表層を形成する金属の総質量に対して、50質量%以上100質量%未満であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましく、98質量%以上が最も好ましい。
表層を形成する金属がFeを含む場合、表層を形成する金属中のFeの含有量は、表層を形成する金属の総質量に対して、0質量%以上5質量%未満であることが好ましい。
【0027】
表層の厚さRsは、0.05μm以上1.20μm未満である。
表層の厚さRsは、0.05μm、0.10μm、0.15μm、0.20μm、0.25μm、0.30μm、0.35μm、0.40μm、0.45μm、0.50μm、0.55μm、0.60μm、0.70μm、0.75μm、0.80μm、0.90μm、1.00μm、1.10μm、1.15μmであることが好ましく、上下限値はこれらの値より適宜選択可能である。
表層の厚さRsは、0.10μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.15μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.20μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.25μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.30μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.35μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.40μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.45μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.50μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.55μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.60μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.70μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.75μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.80μm以上1.20μm未満であってもよいし、0.90μm以上1.20μm未満であってもよいし、1.00μm以上1.20μm未満であってもよいし、1.10μm以上1.20μm未満であってもよいし、1.15μm以上1.20μm未満であってもよい。
表層の厚さRsは、0.05μm以上1.15μm以下であってもよいし、0.05μm以上1.10μm以下であってもよいし、0.05μm以上1.00μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.90μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.80μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.75μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.70μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.60μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.55μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.50μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.45μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.40μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.35μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.30μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.25μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.20μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.15μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.10μm以下であってもよい。
【0028】
耐熱性を十分なものとすると共に、ボイド抑制能をさらに高める観点から、表層の厚さRsは、0.10μm以上1.20μm未満であることが好ましい。
ボイド抑制能を十分なものとすると共に、耐熱性をさらに高める観点から、表層厚さRsは、0.05μm以上1.0μm以下が好ましく、0.05μm以上0.75μm以下がより好ましく、0.05μm以上0.30μm以下が更に好ましく、0.05μm以上0.25μm以下であることが特に好ましく、0.05μm以上0.20μm以下であることが最も好ましく、0.05μm以上0.15μm以下であってもよいし、0.05μm以上0.10μm以下であってもよい。
表層の厚さRsが前記下限値以上であることにより、ボイド抑制能をより高めることが可能である。表層の厚さRsが前記上限値以下であることにより、耐熱性をより高めることができる。
【0029】
本明細書において、第2金属粉末の表層の厚さRs及びコア部のコア径Rc、ならびに、後述する第2実施形態における第2金属粉末の中間層の厚さRi及び第3実施形態における第2金属粉末の金属層の厚さRmは、光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて、第2金属粉末の断面組織から測定することができる。
あるいは、第2金属の表層の厚さRsは、オージェ電子分光法(Auger electron spectroscopy)に基づき、オージェ電子分光分析装置を用いて測定することができる。
【0030】
あるいは、第2金属粉末のコア部のコア径Rcは、以下のように測定することができる。第2金属粉末を製造する際に、コア部として用いるために準備した金属粉末の粒径を、コア径Rcとすることができる。
【0031】
表層を形成する金属の融点は、300℃超であることが好ましく、500℃以上がより好ましく、600~1600℃がさらに好ましい。
【0032】
表層は、めっき処理により形成されるめっき層であってもよい。
めっき処理の方法としては、例えば、公知の電気めっき及び、無電解めっき等が挙げられる。
【0033】
コア部の表面の少なくとも一部は、表層により被覆されている。
図1においては、コア部の表面の全体が表層により被覆されている。
表層により被覆される、コア部の表面の面積の割合は、コア部の全表面積(100%)に対して、50%以上100%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下であることが更に好ましく、95%以上100%以下であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0034】
≪コア部≫
第2金属粉末のコア部は、Ni及びFeを含む合金からなる。
コア部における合金は、Ni及びFeを含み、融点が第1金属粉末に比べて高いものである。
コア部における合金の融点は、300℃超であることが好ましく、500℃以上がより好ましく、600~1600℃がさらに好ましい。
コア部における合金の融点が、前記の好ましい範囲の下限値超であると、耐熱性を高めることができ、はんだ継手のシェア強度を高めやすくなる。
【0035】
コア部における合金は、Ni及びFe以外の金属を含んでもよい。すなわち、第2金属は、NiとFeとの合金であってもよいし、NiとFeとこれら以外の金属との合金であってもよいし、これらの中でも、NiとFeとの合金であることが好ましい。
【0036】
コア部における合金が含んでもよいNi及びFe以外の金属としては、例えばAg、Cu、In、Bi、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Mn、Zr、Sn、Asが挙げられる。これらのNi及びFe以外の金属は、1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。Ni及びFe以外の金属群は、これらの金属の中から任意に選択できる。
【0037】
コア部を形成する金属は、前述の金属の他に不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物を含んでいる場合であっても、本発明の効果に影響することはない。第2金属は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0038】
コア部を形成する金属中のNiの含有量は、コア部を形成する金属の総質量に対して、80質量%以上99質量%以下であり、好ましくは85質量%以上95質量%以下である。
コア部を形成する金属中のFeの含有量は、コア部を形成する金属の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは5質量%以上15質量%以下である。
コア部を形成する金属中のNi及びFeの含有量が、前記の好ましい範囲であると、金属間化合物がより早い段階で形成され、耐熱性を向上させることができる。
【0039】
第2金属粉末20Aのコア部201のコア径Rcは、0.1~1000μmであることが好ましく、3~300μmがより好ましく、5~100μmが更に好ましく、10~50μmが特に好ましい。
【0040】
第2金属粉末20Aについて、コア部201のコア径Rcと表層202の厚さRsとの比は、Rc/Rsで表される比として、0.2~20000であることが好ましく、2~2000であることがより好ましく、10~1000であることが更に好ましく、20~500であることが特に好ましく、30~500であることが最も好ましく、30~452であってもよい。
Rc/Rsで表される比は、452、400、350、300、250、226、65、45、30であることが好ましく、上下限値はこれらの値より適宜選択可能である。
Rc/Rsが前記範囲内であることにより、耐熱性を高めやすく、ボイドを抑制しやすくなる。
【0041】
第2金属粉末は、粒径が0.2~1000μmであり、1~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましい。
第2金属の粒径が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、濡れ性を確保しやすくなり、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、金属間化合物をより形成しやすくなる。
【0042】
第2金属粉末20Aは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0043】
<第1金属粉末、第2金属粉末の含有量の関係>
第1実施形態に係るはんだペーストにおいて、第1金属粉末と第2金属粉末との混合比は、第1金属粉末の含有量が、第1金属粉末と第2金属粉末との合計の含有量(100質量%)に対して、30~99質量%であることが好ましく、60~95質量%であることがより好ましく、70~95質量%が更に好ましく、80~95質量%が特に好ましい。
第1金属粉末と第2金属粉末との混合比は、第2金属粉末の含有量が、第1金属粉末と第2金属粉末との合計の含有量(100質量%)に対して、1~70質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、5~30質量%が更に好ましく、5~20質量%が特に好ましい。
【0044】
第1実施形態に係るはんだペーストにおいて、第1金属粉末の含有量と第2金属粉末の含有量との比は、第1金属粉末の含有量/第2金属粉末の含有量で表される質量比として、4、8、9であることが好ましく、上下限値はこれらの値より適宜選択可能である。第1金属粉末の含有量/第2金属粉末の含有量で表される質量比は、例えば、1~20であってもよいし、3~15であってもよいし、6~10であってもよいし、4~9であってもよい。
【0045】
<フラックス>
第1実施形態に係るはんだペーストは、フラックスを含有する。
フラックスに含まれる成分としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、例えば、ロジン等の樹脂成分、活性剤、チキソ剤、溶剤、金属不活性化剤、界面活性剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0046】
ロジンとしては、アビエチン酸を主成分とする、アビエチン酸とこの異性体との混合物を含む天然樹脂、及び天然樹脂を化学修飾したものが挙げられる。
【0047】
活性剤としては、例えば、有機酸、アミン、ハロゲン化合物等が挙げられる。
チキソ剤としては、例えば、エステル系チキソ剤、アマイド系チキソ剤、ソルビトール系チキソ剤等が挙げられる。
【0048】
はんだペースト中、フラックスの含有量は、はんだペーストの全質量に対して5~30質量%であることが好ましく、8~15質量%であることがより好ましい。
【0049】
以上説明した第1実施形態に係るはんだペーストは、第1金属粉末と、第2金属粉末と、フラックスと、を含有する。第1金属粉末は、Snを含む。第2金属粉末は、Ni及びFeを含む合金からなるコア部と、コア部を被覆するNiを含む表層とを有する。
第1実施形態に係るはんだペーストは、はんだ付けの際に、Snと、Ni及びFeを含む合金とが高融点の化合物を形成するため、はんだ継手が再加熱されたとしても再溶融を抑制することができる。
【0050】
第1実施形態に係るはんだペーストでは、第2金属粉末は、コア部、及び、コア部を被覆するNiを含む表層を有する。表層を形成する金属中のNiの含有量は、表層を形成する金属の総質量に対して、50質量%以上である。表層の厚さは、0.05μm以上1.20μm未満である。
第1実施形態に係るはんだペーストは、第2金属粉末が上述のような表層を有することにより、耐熱性に優れるとともに、はんだ接合の際にボイドの発生をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが以下のように推測される。
【0051】
リフローを開始して一定の時間が経過するまでは、第2金属粉末の表層は、第2金属粉末のコア部を保護する役割がある。第2金属粉末の表層に含まれるNiは、Ni及びFeを含む合金よりも、Snとの反応性が低いため、Ni及びFeを含む合金と、Snとが急激に化合物を形成することを抑制することが可能である。その結果、ガス化したフラックスははんだペーストから排出されやすくなり、はんだ接合の際にボイドの発生をより抑制することができる。
表層の厚さが0.05μm以上であることにより、Ni及びFeを含む合金と、Snとの間の急激な化合物の形成を抑制することができ、ボイドの発生をより抑制することができる。
【0052】
リフローを開始して一定の時間が経過する間に、徐々に、表層のNiが溶融したSnへ拡散する。表層のNiが消失するにつれて、コア部であるNi及びFeを含む合金は、Snと反応して、高融点の化合物が形成される。
表層の厚さが1.20μm未満であることにより、表層のNiが溶融したSnへ拡散しやすくなるため、高融点の化合物を形成することができ、はんだ接合部の耐熱性が向上する。
【0053】
第1実施形態に係るはんだペーストは、リフローの際、Ni及びFeを含む合金からなる第2金属粉末のコア部と、第1金属粉末のSnとが高融点の化合物を形成することにより、耐熱性が高められる。
【0054】
高融点の化合物を形成する反応は、発熱反応である。本実施形態に係るはんだペーストに含まれる、第1金属粉末及び第2金属粉末についての発熱量は、以下の範囲内であることが好ましい。
【0055】
まず、対象の本実施形態に係るはんだペーストに含まれる、第1金属粉末及び第2金属粉末からなる混合粉を準備する(以下、この混合粉を「対象試料」という)。
対象試料における第1金属粉末と、第2金属粉末との混合比(質量比)は、それぞれ、対象の本実施形態に係るはんだペーストにおける第1金属粉末と、第2金属粉末との混合比(質量比)と同一に設定する。
【0056】
対象試料において、第2金属粉末を、第2金属粉末のコア部の金属粉末に代えた以外は同一である、混合粉を準備する(以下、この混合粉を「基準試料」という)。
基準試料中、第1金属粉末と、第2金属粉末のコア部の金属粉末との混合比(質量比)は、それぞれ、対象の本実施形態に係るはんだペーストにおける第1金属粉末と、第2金属粉末との混合比(質量比)と同一に設定する。
【0057】
まず、基準試料について、以下の手順により、発熱量を示差走査熱量測定(DSC, Differential Scanning Calorimetry)により測定する。
測定では、測定装置として、EXSTAR DSC7020(日立ハイテクサイエンス社製)を用い、試料をアルミパンに入れて測定することができる。測定プログラムは、100~350℃、昇温速度5℃/minに設定する。
【0058】
示差走査熱量測定の結果は、横軸が時刻t、縦軸が熱流(単位は、[W]あるいは[J][s]-1)であるDSC曲線として得られる。あるいは、横軸が温度T、縦軸が熱流であるDSC曲線として得られる。
得られるDSC曲線は、Snを含む第1金属粉末が溶融する235℃付近で、大きく負の値となる(すなわち、大きく吸熱する)。
【0059】
DSC曲線に基づき、基準試料の単位質量(mg)あたりの熱流を時間で積分することにより、時刻t0から時刻tまでの、基準試料の単位質量(mg)あたりの積分値Q0’(単位は[J])を算出する。ここで、時刻t0は、基準試料の温度が200℃に達する時刻とする。
200℃から350℃の範囲において、基準試料の熱流の積分値Q0’が最小となる時刻tを、tin0とする。時刻tin0は、基準試料の発熱が開始する時刻となる。時刻tin0から、時刻tまでの発熱量を、基準試料の発熱量とする(以下、これを「基準発熱量Q0」という)。基準発熱量Q0は、基準試料の単位質量(mg)あたりの発熱量である。
【0060】
基準発熱量Q0は、温度Tin0から温度Tまでの発熱量であるということもできる。
ここで、時刻tin0での基準試料の温度はTin0であり、時刻tでの基準試料の温度はTである。
Tin0は、200℃から350℃の範囲において、基準試料の熱流の積分値Q0’が最小となるときの、基準試料の温度である。
【0061】
次に、対象試料について、基準試料と同様に、示差走査熱量測定によりDSC曲線を得る。
基準試料のTin0と同様に、対象試料のTinを算出する。対象試料について、温度Tinから温度Tまでの発熱量を算出する(以下、これを「対象発熱量Q」という)。対象発熱量Qは、対象試料の単位質量(mg)あたりの発熱量である。
対象発熱量Qは、温度Tinから温度Tまでの発熱量であるということもできる。
ここで、時刻tinでの対象試料の温度はTinであり、時刻tでの対象試料の温度はTである。
Tinは、200℃から350℃の範囲において、対象試料の熱流の積分値が最小となるときの、対象試料の温度である。
【0062】
実施例において後述するが、温度T
inから温度Tまでの対象発熱量Qは、例えば、
図6のように算出される。
図6中、温度T
in0から温度Tまでの基準発熱量Q
0は、比較例1の発熱量である。
【0063】
温度Tinから温度300℃の範囲における対象試料の対象発熱量Qの割合は、温度Tin0から温度300℃の範囲における基準試料の基準発熱量Q0(100%)に対して、10%以上100%未満であることが好ましい。
対象発熱量の割合の下限値は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましく、25%以上であることが特に好ましく、30%以上であることが最も好ましく、40%以上であってもよいし、50%以上であってもよいし、60%以上であってもよい。
対象発熱量の割合の上限値は、特に限定されないが、100%未満であってもよいし、80%以下であってもよい。
【0064】
実施例において後述するが、基準試料の温度T
in0から300℃の範囲における基準発熱量Q
0(100%)に対する、対象試料の温度T
inから300℃の範囲における対象発熱量Qの割合は、例えば、
図7のように算出される。
【0065】
以上より、まとめると、第1金属粉末及び第2金属粉末についての発熱量は、以下の通りであることが好ましい。
示差走査熱量測定による測定で、単位質量(mg)あたりの対象試料の温度Tinから300℃の範囲における対象発熱量Qの割合は、単位質量(mg)あたりの基準試料の温度Tin0から300℃の範囲における基準発熱量Q0(100%)に対して、10%以上100%未満であることが好ましい。
対象試料は、第1金属粉末及び第2金属粉末からなる混合粉である。対象試料における第1金属粉末と、第2金属粉末との混合比(質量比)は、それぞれ、はんだペーストにおける第1金属粉末と、第2金属粉末との混合比(質量比)と同一である。
基準試料は、第1金属粉末と、第2金属粉末のコア部の金属粉末とからなる混合粉である。基準試料における第1金属粉末と、第2金属粉末のコア部の金属粉末との混合比(質量比)は、それぞれ、はんだペースト中の第1金属粉末と、第2金属粉末との混合比(質量比)と同一である。
温度Tinは、200℃から温度Tの範囲において、対象試料の熱流の積分値が最小となるときの対象試料の温度である。対象試料の温度Tは、200℃から350℃までの温度をとりうる。
温度Tin0は、200℃から温度Tの範囲において、基準試料の熱流の積分値が最小となるときの対象試料の温度である。基準試料の温度Tは、200℃から350℃までの温度をとりうる。
【0066】
第2金属粉末の表層の主成分が、Niではなく、Cu、Au、Ag又はPdである場合、Cu、Au、Ag及びPdは、Niよりも、溶融したSnへ拡散しやすい。そのため、Cu、Au、Ag又はPdを主成分とする表層は、Ni及びFeを含む合金と、Snとが急激に化合物を形成することを十分に抑制することができない。
第2金属粉末の表層の主成分が、Niではなく、Biである場合も、BiはSnへ溶解するため、Ni及びFeを含む合金と、Snとが急激に化合物を形成することを十分に抑制することができない。
第2金属粉末の表層の主成分が、Niではなく、Inのような低融点金属である場合、リフローを開始して短時間で、表層は溶融してしまうため、Ni及びFeを含む合金と、Snとが急激に化合物を形成することを十分に抑制することができない。
【0067】
また、Cu、Au、Ag及びPdは、Niよりも、Snと反応して化合物を形成しやすい。そのため、Cu、Au、Ag又はPdを含む表層は、Snと化合物を形成してしまい、Snと、Ni及びFeを含む合金とが高融点の化合物を形成することを阻害し、その結果、はんだ接合部の耐熱性が十分に高められない。
【0068】
本発明の実施形態は、第1実施形態に限定されず、第1実施形態以外のその他実施形態であってもよい。その他実施形態として、第2~第4実施形態について説明する。
【0069】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るはんだペーストは、第1実施形態に係るはんだペーストにおいて、第2金属粉末20Aを第2金属粉末20Bに変更したものである。
第2実施形態に係るはんだペーストは、第2金属粉末20Bを含有する以外は、第1、第3又は第4実施形態と同様である。
第2金属粉末20Bにおけるコア部201及び表層202としては、第2金属粉末20Aにおいて上述したものと同様のものが挙げられる。
【0070】
図2に例示するように、第2金属粉末20Bは、コア部201と、コア部201を被覆する表層202との間に、コア部201を被覆する中間層203を有する。
【0071】
中間層は、コア部の表面の一部を被覆していてもよいし、コア部の表面の全体を被覆していてもよく、コア部の表面の全体を被覆していることが好ましい。
図2においては、中間層203は、コア部201の表面の全体を被覆している。
中間層により被覆される、コア部の表面の面積の割合は、コア部の全表面積(100%)に対して、50%以上100%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下であることが更に好ましく、95%以上100%以下であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0072】
Riは、中間層203の厚さを意味する。
中間層は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
図2に例示される第2金属粉末20Bにおいては、中間層203は1層である。
【0073】
中間層203を形成する金属の組成は、コア部201を形成する金属及び表層202を形成する金属とは異なる。
中間層を形成する金属は、1種類の単体金属であってもよいし、2種類以上の金属元素で形成された合金であってもよい。
【0074】
中間層が含んでもよい金属としては、例えばAg、Cu、In、Bi、Ni、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Fe、Mn、Zr、Sn、Asが挙げられる。これらの金属は、1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。中間層が含んでもよい金属群は、これらの金属から任意に選択できる。
【0075】
中間層は、前述の金属の他に不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物を含んでいる場合であっても、本発明の効果に影響することはない。
中間層を形成する金属は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0076】
中間層の厚さRiは、例えば、0.01μm以上100μm以下であってもよいし、0.05μm以上50μm以下であってもよいし、0.1μm以上10μm以下であってもよい。
【0077】
中間層は、めっき処理により形成されるめっきであってもよい。
めっき処理の方法としては、例えば、公知の電気めっき、無電解めっき等が挙げられる。
【0078】
第2金属粉末20Bは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0079】
第2金属粉末20Bが中間層203を有することにより、第2金属粉末20Bの表層202を設けやすくなる。
【0080】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るはんだペーストにおいて、第2金属粉末の表層は、金属層により被覆されている。
第3実施形態に係るはんだペーストは、第2金属粉末が金属層を有する以外は、第1、第2又は第4実施形態と同様である。
【0081】
図3に例示するように、第2金属粉末20Cは、コア部201と、コア部201を被覆する表層202と、表層202を被覆する金属層204を有する。
【0082】
表層の表面の少なくとも一部は、金属層により被覆されている。
図3においては、表層202の表面の全体が金属層204により被覆されている。
金属層により被覆される、表層の表面の面積の割合は、表層の全表面積(100%)に対して、50%以上100%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下であることが更に好ましく、95%以上100%以下であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0083】
金属層は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
図3に例示される第2金属粉末20Cにおいては、金属層は1層である。
【0084】
金属層204を形成する金属の組成は、表層を形成する金属とは異なる。
金属層を形成する金属は、1種類の単体金属であってもよいし、2種類以上の金属元素で形成された合金であってもよい。
【0085】
金属層が含んでもよい金属としては、例えば、Ag、Cu、In、Bi、Ni、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Fe、Mn、Zr、Sn、Asが挙げられる。これらの金属は、1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。コア部が含んでもよい金属群は、これらの金属から任意に選択できる。
【0086】
金属層は、前述の金属の他に不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物を含んでいる場合であっても、本発明の効果に影響することはない。
金属層を形成する金属は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0087】
金属層を形成する金属がFeを含む場合、金属層を形成する金属中のFeの含有量は、金属層を形成する金属の総質量に対して、0質量%以上5質量%未満であることが好ましい。
【0088】
金属層の厚さRmは、例えば、0.01μm以上100μm以下であってもよいし、1μm以上50μm以下であってもよいし、2μm以上10μm以下であってもよい。
【0089】
金属層は、めっき処理により形成されるめっきであってもよい。
めっき処理の方法としては、例えば、公知の電気めっき、無電解めっき等が挙げられる。
【0090】
第2金属粉末20Cが金属層204を有することにより、前記金属層がSnを含むことにより、はんだペーストの溶融時に濡れ性が向上し、更にボイドの低減も期待できる。前記金属層ははんだペーストを溶融させる際の加熱開始後に溶けて、第3金属の表層が露出するため、本願の効果を阻害しない。
【0091】
(第4実施形態)
第4実施形態に係るはんだペーストは、第1金属粉末及び第2金属粉末以外の金属粉末(以下これを「第3金属粉末」ともいう)を更に含有する。
第4実施形態に係るはんだペーストは、第3金属粉末を更に含有する以外は、第1、第2又は第4実施形態と同様である。
【0092】
第3金属粉末は、第1金属粉末及び第2金属粉末と組成が異なれば、特に組成の制限は無く、例えば、Ni、Ag、Cu、In、Bi、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Fe、Mn、Zr、Sn、Asの各単体金属からなる粉末、又はこれら単体金属の2つ以上の元素で形成された合金が好ましい。
【0093】
第3金属粉末としては、例えば、コア部と、コア部を被覆し、Niを含む金属からなる表層とを有するものであってもよい。
コア部は、第1実施形態及び第2実施形態のコア部と組成が異なれば、特に組成の制限は無く、例えば、Ni、Ag、Cu、In、Bi、Ge、P、Co、Ga、Zn、Sb、Pb、Au、Al、Pt、Pd、Fe、Mn、Zr、Sn、Asの各単体金属からなる粉末、又はこれら単体金属の2つ以上の元素で形成された合金が好ましい。
【0094】
第3金属粉末は、粒径が0.1~1000μmであることが好ましく、1~100μmがより好ましく、5~50μmがさらに好ましい。
第3金属粉末を構成する金属は、1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
第3金属粉末は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0095】
第3金属粉末を含有することにより、はんだペーストの熱伝導率を高めることが可能である。
【0096】
(はんだ継手)
本発明に係るはんだ継手は、前記実施形態に係るはんだペーストを用いて形成されたものである。
はんだ継手により接合する対象物は、特に限定されるものではない。例えば、はんだ継手により、半導体素子と基板とを接合することができる。
半導体素子としては、炭化ケイ素(SiC)チップ、Siチップ等が挙げられる。
基板としては、回路基板、セラミックス基板、メタル基板、DCB(Direct Copper Bonding)基板等が挙げられる。基板上の電極は、例えば、Cu電極、又はCu電極上にSnめっき、Niめっき、Ni-Auめっき、Ni-Pdめっき若しくはNi-Pd-Auめっきのいずれかが処理されたものでもよい。
【0097】
前記実施形態に係るはんだペーストを用いた、接合対象物を接合する方法としては、例えば、リフロー法が挙げられる。リフローの条件は、公知の方法を参照し、適宜設定可能である。
リフロー中に、リフロー炉の内部を減圧してもよい。減圧により、はんだペーストから、ガス化したフラックスが排出されやすくなり、ボイドの発生を抑制しやすくなる。
半導体素子と基板とを接合する際の温度は、例えば120℃以上400℃以下が好ましく、200℃以上400℃以下であってもよいし、250℃以上400℃以下であってもよい。
対象物を接合する際の雰囲気は、大気雰囲気でもよいし、窒素雰囲気等の不活性雰囲気でもよいし、還元雰囲気でもよい。
【0098】
以上説明したように、本発明に係るはんだ継手は、第1金属粉末と、第2金属粉末と、フラックスと、を含有する、前記実施形態に係るはんだペーストを用いているため、耐熱性及びシェア強度が優れている。
本発明に係るはんだ継手は、特に、パワー半導体素子のような高温条件での動作時に、溶融しない高温はんだが求められる用途に有用である。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
<ペーストの調製>
(実施例1~7、比較例1~2)
表1に示す組成の金属粉末と、フラックスとを混合して、実施例及び比較例のペーストを調合した。
実施例1~5、7のペーストは、いずれも、フラックスが12質量%、第1金属粉末及び第2金属粉末の合計の質量が88質量%である。
実施例6のペーストは、フラックスが12質量%、第1金属粉末、第2金属粉末及び金属粉末Cの合計の質量が88質量%である。
比較例1のペーストは、フラックスが12質量%、第1金属粉末及び金属粉末Bの合計の質量が88質量%である。
比較例2のペーストは、フラックスが12質量%、第1金属粉末及び金属粉末Aの合計の質量が88質量%である。
表中の数値は、ペースト中の金属粉末の総質量(100質量%)に対する、各金属粉末の含有量を意味する。表中の空欄は、「0」を意味する。
【0101】
金属粉末の粒径及びコア部の粒径Rcは、マイクロトラック・ベル社製のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(MT3300EXII)を用いて、平均粒径を体積基準で測定した。
金属粉末の融点は、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。第1金属粉末については日立ハイテクサイエンス社製のDSC7020により測定し、第2金属粉末、金属粉末A~CについてはNETZSCH社製のDSC404-F3Pegasusにより測定した。
第2金属粉末(1)~(5)、金属粉末A及び金属粉末Cにおける表層の厚さRsは、オージェ電子分光法(Auger electron spectroscopy)に基づき、オージェ電子分光分析装置を用いて測定した。
【0102】
第1金属粉末:
Sn100質量%の金属粉末(Sn100質量%粉)
第1金属粉末は、JIS Z 3284-1:2004の表2における粉末サイズの分類において記号4を満たすサイズ(粒度分布)であった。すなわち、第1金属粉末は、粒子径が38μm以下の粒子の含有量が、第1金属粉末の総質量に対して99質量%以上である。第1金属粉末の平均粒径は、34.54μmであった。
第1金属粉末の融点は、232℃であった。
【0103】
第2金属粉末(1)~(5):
第2金属粉末(1)~(5)では、コア部をNi90質量%とFe10質量%との合金からなる金属粉末(Ni-10質量%Fe粉)とした。
コア部であるNi-10質量%Fe粉は、JIS Z 3284-1:2004の表2における粉末サイズの分類において記号5を満たすサイズ(粒度分布)であった。すなわち、Ni-10質量%Fe粉は、粒子径が25μm以下の粒子の含有量が、Ni-10質量%Fe粉の総質量に対して99質量%以上である。コア部であるNi-10質量%Fe粉の粒径(すなわち、コア径Rc)は、22.59μmであった。
コア部の融点は、1444℃であった。
【0104】
第2金属粉末(1)~(5)、金属粉末A及び金属粉末Cにおいて、コア部の表面全体を被覆する表層を形成する金属を、Ni100質量%の金属とした。この表層は、コア部の全体をNiめっきで被覆したものである。これらのNiめっきは、いずれも、電気めっきにより形成した。
表層の厚さRs(すなわち、Niめっきの厚さ)は、それぞれ、(1)0.05μm、(2)0.10μm、(3)0.35μm、(4)0.50μm、(5)0.75μmであった。
表層を形成するNiの融点は、1455℃であった。
【0105】
金属粉末A~C:
金属粉末Aとして、コア部と、コア部を被覆し、Niからなる表層とを有するものを用いた。金属粉末Aは、表層の厚さRsが1.20μmであること以外は第2金属粉末(1)と同一の金属粉末であった。
金属粉末Aのコア部の粒径(すなわち、コア径Rc)は、22.59μmであった。
コア部の融点は、1444℃であった。表層を形成するNiの融点は、1455℃であった。
【0106】
金属粉末Bとして、第2金属粉末(1)~(5)のコア部として用いた金属粉末(Ni-10質量%Fe粉)と同一の金属粉末を用いた。第3金属粉末は、表層を有しない金属粉末であった。
金属粉末Bの粒径は、22.59μmであった。
金属粉末Bの融点は、1444℃であった。
【0107】
金属粉末Cとして、コア部と、コア部を被覆し、Niからなる表層とを有するものを用いた。金属粉末の表層の厚さは1~3μmであった。
コア部は、Cuからなる金属粉末(Cu100質量%粉)とした。
金属粉末Cのコア部の粒径(すなわち、コア径Rc)は、55.3μmであった。
コア部の融点は、1085℃であった。表層を形成するNiの融点は、1455℃であった。
【0108】
フラックスとして、SDC5(千住金属工業株式会社製)を用いた。
【0109】
下記の<評価>に記載した評価方法にしたがって、≪ボイド抑制能の評価≫、≪化合物形成の評価≫、≪耐熱性の評価≫を行った。これらの評価結果を表1、
図8に示した。
【0110】
<評価>
≪ボイド抑制能の評価≫
(1)評価方法
マスク(開口部:サイズ3mm×3mm、厚さ0.15mm)とスキージを用いて、各例のペーストをCu基板(サイズ50mm×50mm、厚さ0.3mm)の上に印刷し、Siチップ(サイズ3mm×3mm)を搭載した後、リフローした。リフローのプロファイルは、30℃からピーク温度(250℃)まで昇温速度3℃/secで昇温した。窒素雰囲気、ピーク時間は2.5分に設定し、ピークの最初の2分間は減圧した。
その後、X線観察装置を用いて、ボイドを観察した。
【0111】
(2)判定基準
A 比較例2のペーストを用いた場合と同程度の少量のボイドが発生した。
B 比較例2のペーストを用いた場合よりも多く、比較例1のペーストを用いた場合よりも少ない量のボイドが発生した。
C 比較例1のペーストを用いた場合と同程度の多量のボイドが発生した。
【0112】
実施例1~3、5、6、比較例1~2のX線観察像を
図4に示す。実施例1~3、5、6、比較例2は、比較例1に比べて、ボイドが抑制されている様子が確認された。撮影像は示していないが、実施例4では、実施例3及び実施例5と同程度に、ボイドが抑制されていた。撮影像は示していないが、実施例7では、比較例1に比べて、ボイドが抑制されている様子が確認された。
【0113】
【0114】
≪耐熱性の評価≫
(1)評価方法
はんだペーストが含有するSnと、Ni及びFeを含む合金とが高融点の化合物を形成することにより、はんだ接合部の耐熱性が高められる。この化合物を形成する反応は、発熱反応である。そこで、化合物形成時の発熱量を測定することにより、耐熱性を評価した。
【0115】
まず、実施例1~3、5、比較例1~2の各はんだペーストのそれぞれに含まれる金属粉末からなる混合粉末を準備した。以下、これら混合粉末を、それぞれ、実施例1~3、5、比較例1~2の混合粉末という。各混合粉末中、各金属粉末の混合比(質量比)は、はんだペースト中の混合比(質量比)と同一に設定した。
【0116】
各混合粉末をアルミパンに入れて、DSCにより、発熱ピークの測定を行った。測定装置として、EXSTAR DSC7020(日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。測定プログラムは、100~350℃、昇温速度5℃/minに設定した。
【0117】
実施例1~3、5、比較例1~2の各混合粉末についての、単位質量(mg)あたりの発熱ピーク(熱流)の測定結果(DSC曲線)を
図5に示す。
図5中、230℃付近の大きなピークは、Snが溶融した際の吸熱ピークを示す。
【0118】
次いで、DSC曲線に基づき、単位質量(mg)あたりの熱流を時間で積分することにより、実施例1~3、5、比較例1~2の各混合粉末について、単位質量(mg)あたりの積分値(単位は[J])を算出した。
比較例1の混合粉末において、200℃から350℃の範囲において、発熱量が最小値となる温度Tを、T
in0とした。実施例1~3、5、比較例2の各混合粉末において、200℃から350℃の範囲において、積分値が最小値となる温度Tを、それぞれ、T
inとした。
温度T
inから350℃までの範囲における、実施例1~3、5、比較例2の各混合粉末の単位質量(mg)あたりの発熱量、及び、T
in0から350℃までの範囲における比較例1の混合粉末の単位質量(mg)あたりの発熱量を、
図6に示す。
【0119】
次いで、温度T
inから300℃までの範囲における、実施例1~3、5、比較例2の各混合粉末の発熱量の割合を、温度T
in0から300℃までの範囲における、比較例1の混合粉末の発熱量(100%)に対する割合として算出した。発熱量の割合の算出結果を
図7に示す。発熱量の割合がより高いほど、はんだ付けの際に化合物形成がより進行し、耐熱性がより高められることを意味する。
【0120】
以上より、実施例においては、Niめっきの厚さが厚いほど、発熱反応の開始は遅くなり、化合物を形成する反応が抑制されていることが確認された。
【0121】
(2)判定基準
A 混合粉末の発熱量の割合が、比較例1の混合粉末の発熱量に対して、60%以上であった。
B 混合粉末の発熱量の割合が、比較例1の混合粉末の発熱量に対して、20%以上60%未満であった。
C 混合粉末の発熱量の割合が、比較例1の混合粉末の発熱量に対して、20%未満であった。
【0122】
実施例1~7、比較例1は、比較例2に比べて、耐熱性が高いことが確認された。
【0123】
≪化合物形成の評価≫
≪ボイド抑制能の評価≫と同様に、各例のペーストを基板に印刷し、Siチップを搭載せずに、リフローした。リフロー後のはんだを撮影した。
【0124】
実施例1~3、5、6、比較例1~2の撮影像を
図8に示す。
撮影像中の白色部分は、金属光沢が弱い部分であり、Ni及びFeからなる合金と、Snとの化合物を示す。
撮影像中の黒色部分は、金属光沢が強い部分であり、化合物化が進行していない、未反応のSnを示す。
【0125】
実施例1~3、5、6、比較例1では、比較例2に比べて、より多くの化合物が形成されている様子が確認された。撮影像は示していないが、実施例4では、実施例3及び実施例5と同程度に、化合物が形成されていた。撮影像は示していないが、実施例7では、比較例2に比べて、より多くの化合物が形成されていた。比較例2はNiめっきが厚すぎたため、接合時にコア部が完全に露出することがなく、コア部と第1金属とで耐熱性を発揮するために十分な量の化合物が形成されなかったと推測される。
この結果から、実施例1~7、比較例1は、比較例2に比べて、耐熱性が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0126】
20A、20B、20C 第2金属粉末
201 コア部
202 表層
203 中間層
204 金属層
Rc コア部のコア径
Rs 表層の厚さ
Ri 中間層の厚さ
Rm 金属層の厚さ
【要約】
【課題】耐熱性に優れるとともに、はんだ接合の際にボイドの発生をより抑制することができる、はんだペースト、及び、そのはんだペーストを用いて形成されたはんだ継手を提供する。
【解決手段】第1金属粉末と、第2金属粉末と、フラックスと、を含有するはんだペーストを採用する。第1金属粉末は、Snを含む。第2金属粉末20Aは、Ni及びFeを含む合金からなるコア部201と、コア部201を被覆するNiを含む金属からなる表層202とを有する。第2金属粉末20Aの表層202を形成する金属中のNiの含有量は、第2金属粉末20Aの表層202を形成する金属の総質量に対して、50質量%以上である。第2金属粉末20Aの表層202の厚さは、0.05μm以上1.20μm未満である。
【選択図】
図1