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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20241127BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20241127BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20241127BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/09
B60W30/095
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022031523
(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公開番号】P2023127686
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 雄佑
(72)【発明者】
【氏名】八十嶋 恒和
【審査官】宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110218(JP,A)
【文献】特開2018-036114(JP,A)
【文献】特開2019-040436(JP,A)
【文献】特開2015-099469(JP,A)
【文献】特開2018-024338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方領域に存在している物標についての情報である第1情報を取得するレーダ装置である第1物標情報取得手段と、
前記自車両の前側方領域に存在している物標についての情報である第2情報を取得するレーダ装置である第2物標情報取得手段と、
前記第1情報及び前記第2情報に基づいて前記自車両と衝突する可能性が高いと判定される物標である衝突リスク物標が存在すると判定された場合に前記自車両と前記衝突リスク物標との衝突を回避するための支援である衝突回避支援を行う衝突回避支援制御手段と、
を備えた運転支援装置において、
前記第1物標情報取得手段が前記自車両の前方に存在する物標である前方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である前方物標情報を取得し、
前記第2物標情報取得手段が前記自車両の進行方向に対して側方に位置する所定の範囲である前側方範囲に存在する物標である前側方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である前側方物標情報を取得し、
前記衝突回避支援制御手段が、
前記前方物標情報及び前記前側方物標情報に基づいて、前記前方物標と前記前側方物標との位置関係が、前記自車両が走行する路面を含む平面内における2方向及び鉛直方向を含む3次元空間において前記前側方物標情報に基づいて算出される前記前側方物標の移動経路である前側方物標経路と前記自車両の移動経路である自車両経路とが交差しないこと並びに/又は前記前方物標及び前記前側方物標の両方が鉛直方向において同じ高さに位置する平面上を走行していると仮定した場合に前記前方物標と前記前側方物標とが衝突する可能性が高いことからなる条件である所定の条件を満たすと判定された場合に、前記前側方物標経路が前記自車両経路と鉛直方向において離れており交差しない経路である立体交差経路であると判定する処理である立体交差経路判定処理を実行する立体交差判定部と、
前記立体交差判定部によって前記立体交差経路であると判定された前記前側方物標経路に存在する前記前側方物標については前記衝突リスク物標であると判定しない処理である衝突リスク除外処理を実行する衝突リスク除外判定部と、
を備え、
前記衝突リスク除外判定部が、
二次元の座標系において、前記第2物標情報取得手段によって取得された前記前側方物標情報に含まれる前記前側方物標の座標の一方の座標軸における座標値を前記立体交差判定部によって算出される前記前側方物標経路に当てはめることによって得られる他方の座標軸における前記前側方物標の計算上の座標値である算出座標値と、前記第2物標情報取得手段によって取得された前記前側方物標情報に含まれる前記前側方物標の座標の前記他方の座標軸における前記前側方物標の実際の座標値である検出座標値と、の差の絶対値が所定の閾値以下であること、及び
前記二次元の座標系における前記前側方物標経路の前記前側方物標の座標における傾きである算出角度と前記第2物標情報取得手段によって取得された前記前側方物標の進行方向に対応する傾きである検出角度との差の絶対値が所定の閾値以下であること、
が成立する場合にのみ、
前記前側方物標が前記立体交差経路上に存在すると判定する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載された運転支援装置であって、
前記衝突回避支援制御手段が、前記自車両が直進状態にあると判定される場合にのみ、前記立体交差経路判定処理及び前記衝突リスク除外処理を実行することを特徴とする、
運転支援装置。
【請求項3】
請求項に記載された運転支援装置であって、
前記衝突回避支援制御手段が、前記自車両経路の曲率半径が所定の閾値よりも大きい場合に、前記自車両が直進状態にあると判定する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載された運転支援装置であって、
前記第1物標情報取得手段が、前記自車両の前方に存在すると共に前記自車両の進行方向と同じ方向に移動している物標を前記前方物標であると判定する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項5】
請求項に記載された運転支援装置であって、
前記第1物標情報取得手段が、前記自車両の前方に存在しており且つ前記自車両の進行方向と同じ方向に移動していると共に前記第1情報に基づいて算出される前記自車両の進行方向における物標の速度から前記自車両の速度を減算して得られる値が所定の閾値よりも大きい状態が所定の期間が経過して現時点に至るまでの期間において所定の回数以上発生した履歴を有する物標を前記前方物標であると判定する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載された運転支援装置であって、
前記第2物標情報取得手段が、前記前側方範囲に存在すると共に前記自車両の進行方向に直交する方向において前記自車両に近付く速度が所定の閾値よりも大きく、前記自車両の進行方向に直交する方向と物標の進行方向とがなす角度が所定の閾値以下であり且つ前記自車両の進行方向に直交する方向における前記自車両との距離が所定の閾値よりも大きい物標を前記前側方物標であると判定する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載された運転支援装置であって、
前記立体交差判定部が、前記前側方物標について算出された前記前側方物標経路を前記自車両の速度に基づいて更新する処理である前側方物標経路更新処理を実行し、
前記衝突リスク除外判定部が、前記前側方物標経路更新処理によって更新された前記前側方物標経路が前記自車両よりも前方にある場合に当該前側方物標経路に存在する前記前側方物標について前記衝突リスク除外処理を実行する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載された運転支援装置であって、
前記立体交差判定部が、前記前側方物標経路を直線として算出する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項9】
請求項に記載された運転支援装置であって、
前記立体交差判定部が、前記自車両の位置を原点とし前記自車両の進行方向及び進行方向に直交する方向を座標軸とする座標系における前記前側方物標経路を表す一次式の前記自車両の進行方向に該当する軸における切片の値から前記自車両の速度及び演算周期に基づいて得られる値を減算することにより前記前側方物標経路を更新する、
ことを特徴とする、運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置に関する。より具体的には、本発明は、前側方レーダによって検出される自車両の前側方から自車両の前方に移動してくる物標のうち自車両と衝突する可能性が低い物標については衝突回避支援の対象外として不要な衝突回避支援が行われる頻度を低減することができる運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、自車両の周辺に存在する物標を検出し、当該物標と自車両とが衝突する可能性が高いと判定される場合に、当該物標と自車両との衝突を回避するための支援(以降、「衝突回避支援」と称呼される場合がある。)を行う運転支援装置が知られている。更に、このような運転支援装置において、例えば自車両よりも上方に位置する物標(以降、「上方物」と称呼される場合がある。)等、実際には自車両と衝突しない物標については衝突回避支援の対象外とすることにより、不要な衝突回避支援が行われる頻度を低減する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1において開示されている車両用制御装置は、自車前方の物体を検出するレーダ装置と、自車前方の物体との衝突の可能性があるときに衝突の可能性を低減する所定制御を実行する所定制御実行部と、レーダ装置が異なる距離に第1物体と第2物体とを同時に検出し且つ自車の進行方向を基準とした横方向における第1物体の横位置と第2物体の横位置との差が所定値よりも小さいことを条件として第1物体及び第2物体のうちの自車に近い方の物体に係る所定制御を禁止する禁止部と、を含む。当該装置によれば、レーダ装置により検出される通過可能物体に対して衝突の可能性を低減する所定制御が実行されてしまう可能性を低減することができる。
【0004】
また、特許文献2において開示されているレーダ装置は、物標データ導出部により物標からの反射波を受信して得られる受信信号に基づいて物標に係る物標データを一定時間ごとに導出し、上方物判定部により物標データが新規に表れた静止物であり且つ該物標の前方の所定距離以内に他車両が存在する場合は該物標が上方物であると判定する。当該装置によれば、新規に表れた物標データに係る物標が上方物であるか否かを高精度に判定することができる。
【0005】
上記従来技術は何れも前方レーダによって検出された物標と自車両とが衝突する可能性が高いか否かを判定するものである。しかしながら、前方レーダの画角が狭いため、例えば交差点等において側方から自車両に接近してくる物標を早期に検出することは困難である。そこで、昨今では、側方から自車両に接近してくる物標を早期に検出すること等を目的として自車両の前側方(右前及び左前)に存在する物標を検出するレーダ(以降、「前側方レーダ」と称呼される場合がある。)が導入されている。
【0006】
図1は、前方レーダ及び前側方レーダを備える自車両に対して他車両が側方から接近してくる様子を示す模式図である。図1において、自車両10が備える前方レーダ(図示せず)によって物標を検出することが可能な領域Fには縦のストライプによるハッチングが施されており、自車両10が備える前側方レーダ(図示せず)によって物標を検出することが可能な領域Sには横のストライプによるハッチングが施されている。その結果、領域Fと領域Sとが重なる範囲には縦横の格子によるハッチングが施されている。領域Fによって示されるように前方レーダの画角が狭いため、自車両10に対して側方から接近してくる他車両30を前方レーダによって早期に検出することは困難である。しかしながら、領域Sによって示されるように自車両10の前側方に向かって広い画角を有する前側方レーダを導入することにより、他車両30を早期に検出することができる。尚、図1に示すように、本明細書においては、自車両の進行方向をX軸の正方向とし、自車両の右側方から左側方へ向かう方向をY軸の正方向とする。また、図示しないが、自車両の位置を原点とするものとする。
【0007】
上記のように前側方レーダを導入することより、より確実に衝突回避支援を行うことが可能となる。一方、自車両の周辺に存在する物標として検出される物標の数が増えるので、実際には自車両と衝突しない物標については衝突回避支援の対象外として不要な衝突回避支援が行われる頻度を低減する必要性が益々高まっている。
【0008】
図2は、自車両が走行している道路の上方をモノレールが横切る様子を示す模式図である。図2に例示するように自車両10が走行している道路の上方をモノレール31が横切る場合、モノレール31は自車両10の上方を通過するので、モノレール31と自車両10とが衝突する可能性は無い。従って、自車両10に側方から接近してくる物標としてモノレール31が前側方レーダによって検出されたとしても衝突回避支援を行う必要は無いので、モノレール31を衝突回避支援の対象から外し、不要な衝突回避支援が行われる頻度を低減することが望ましい。
【0009】
しかしながら、自車両に対して側方から接近してくる物標が上方物に該当するか否かを正確に判定するには前側方レーダの鉛直方向における分解能は不十分である。このため、モノレール31が上方物であるのか否かを切り分けることができず、図2において破線によって描かれているように、自車両10と衝突する可能性のある物標としてモノレール31を認識してしまう場合がある。
【0010】
また、上述した従来技術のような前方レーダによって物標を検出することを前提とする判定方法によっては、前側方レーダによって検出される自車両の前側方から自車両の前方に移動してくる物標と自車両とが衝突する可能性が高いか否かを判定することは困難である。即ち、当該技術分野においては、前側方レーダによって検出される自車両の前側方から自車両の前方に移動してくる物標のうち自車両と衝突する可能性が低い物標については衝突回避支援の対象外として不要な衝突回避支援が行われる頻度を低減することができる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-218629号公報
【文献】特開2018-119985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、当該技術分野においては、前側方レーダによって検出される自車両の前側方から自車両の前方に移動してくる物標のうち自車両と衝突する可能性が低い物標については衝突回避支援の対象外として不要な衝突回避支援が行われる頻度を低減することができる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、例えば前側方から自車両の移動経路上に近付いてくる物標の移動経路と自車両の前方を走行する先行車の移動経路とが路面への垂直投影面において交差するか否かに基づいて当該物標と自車両とが衝突する可能性を判定することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0014】
具体的には、本発明に係る運転支援装置(以降、「本発明装置」と称呼される場合がある。)は、第1物標情報取得手段と、第2物標情報取得手段と、衝突回避支援制御手段と、を備えた運転支援装置である。第1物標情報取得手段は、自車両の前方領域に存在している物標についての情報である第1情報を取得する。第2物標情報取得手段は、自車両の前側方領域に存在している物標についての情報である第2情報を取得する。衝突回避支援制御手段は、第1情報及び第2情報に基づいて自車両と衝突する可能性が高いと判定される物標である衝突リスク物標が存在すると判定された場合に自車両と衝突リスク物標との衝突を回避するための支援である衝突回避支援を行う。
【0015】
更に、本発明装置においては、第1物標情報取得手段が前方物標情報を取得し、第2物標情報取得手段が前側方物標情報を取得する。前方物標情報は、自車両の前方に存在する物標である前方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である。前側方物標情報は、前側方範囲に存在する物標である前側方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である。前側方範囲は、自車両の進行方向に対して側方に位置する所定の範囲である。
【0016】
加えて、本発明装置においては、衝突回避支援制御手段が、立体交差判定部と、衝突リスク除外判定部と、を備える。立体交差判定部は、立体交差経路判定処理を実行する。立体交差経路判定処理とは、前方物標情報及び前側方物標情報に基づいて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定された場合に、前側方物標情報に基づいて算出される前側方物標の移動経路である前側方物標経路が立体交差経路であると判定する処理である。立体交差経路とは、自車両の移動経路である自車両経路と鉛直方向において離れており交差しない経路である。衝突リスク除外判定部は、衝突リスク除外処理を実行する。衝突リスク除外処理とは、立体交差判定部によって立体交差経路であると判定された前側方物標経路に存在する前側方物標については衝突リスク物標であると判定しない処理である。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明装置においては、前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たす場合、前側方物標の移動経路が自車両の移動経路と鉛直方向において離れており交差しない立体交差経路であると判定される。そして、立体交差経路であると判定された前側方物標経路上に存在する前側方物標については自車両と衝突する可能性が高いとは判定されない。これにより、本発明装置においては、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外することができる。従って、本発明装置によれば、不要な衝突回避支援の実行によ例えば不要な警報の発出並びに/又は不要な自動制動及び/若しくは自動操舵の実行を低減することができ、市場受容性の高い出会い頭プリクラッシュセーフティシステム(PCS)を提供することができる。
【0018】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】前方レーダ及び前側方レーダを備える自車両に対して他車両が側方から接近してくる様子を示す模式図である。
図2】自車両が走行している道路の上方をモノレールが横切る様子を示す模式図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る運転支援装置(第1装置)の構成の一例を示す模式的なブロック図である。
図4】第1装置において実行される立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を含む衝突リスク除外ルーチンにおける種々の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】好ましい態様に係る第1装置において実行される衝突リスク除外ルーチンについて説明する模式図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る運転支援装置(第2装置)において実行される立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を含む衝突リスク除外ルーチンにおける種々の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】ある時点(現在)において路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標と前側方物標とが存在する状態を例示する模式図である。
図8】ある時点(現在)において路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点の近傍に前方物標と前側方物標とが存在する状態を例示する模式図である。
図9】ある時点(現在)において路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点の近傍に前方物標と前側方物標とが存在する他の状態を例示する模式図である。
図10】前方物標及び前側方物標の両方について過去、現在及び将来における位置に存在する9つの場合について、平面視において前方物標と前側方物標とが重なる状態をそれぞれ例示する模式図である。
図11】本発明の第6実施形態に係る運転支援装置(第6装置)において実行される立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を含む衝突リスク除外ルーチンにおける種々の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図12】第2物標情報取得手段によって前側方物標情報として取得された前側方物標の位置及び速度及び進行方向に基づいて衝突回避支援制御手段が備える立体交差判定部が前側方物標の移動経路である前側方物標経路を直線として算出する手順の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る運転支援装置(以降、「第1装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0021】
図3は、第1装置の構成の一例を示す模式的なブロック図である。図3に描かれている破線の矢印は、図3に例示する第1装置における情報(を含むデータ信号)の流れを表している。
【0022】
第1装置101は、第1物標情報取得手段110と、第2物標情報取得手段120と、衝突回避支援制御手段130と、を備えた運転支援装置である。第1物標情報取得手段110は、自車両の前方領域に存在している物標についての情報である第1情報I1を取得する。第1物標情報取得手段110は、例えば、自車両の前方領域に存在している物標を検出するように構成されたミリ波レーダなどのレーダ装置である(以降、「前方レーダ」と称呼される場合がある。)。第1情報I1は、例えば、第1物標情報取得手段110によって検出される物標の位置及び速度及び進行方向についての情報を含む。
【0023】
第2物標情報取得手段120は、自車両の前側方領域に存在している物標についての情報である第2情報I2を取得する。第2物標情報取得手段120は、例えば、自車両の前側方領域に存在している物標を検出するように構成されたミリ波レーダなどのレーダ装置である(以降、「前側方レーダ」と称呼される場合がある。)。第2情報I2は、例えば、第2物標情報取得手段120によって検出される物標の位置及び速度及び進行方向についての情報を含む。
【0024】
衝突回避支援制御手段130は、第1情報I1及び第2情報I2に基づいて自車両と衝突する可能性が高いと判定される物標である衝突リスク物標が存在すると判定された場合に自車両と衝突リスク物標との衝突を回避するための支援である衝突回避支援を行う。衝突回避支援には、例えば、ドライバに対する警報及び衝突を回避するための車両制御等が含まれる。警報の具体例としては、例えば、音、光及び振動の発生、並びに画像及び/又は文字の表示等を挙げることができる。
【0025】
警報としての音は、例えば、自車両が備えるオーディオ機器及び/又はブザー等、音を発生する装置である音発生装置から発生させることができる。尚、このような音の具体例としては、例えば、音響(例えば、アラーム音等)、音声(合成音声を含む)、及び音楽等を挙げることができる。警報としての光は、例えば、自車両が備える警告灯等、光を発生する装置である光発生装置が備える電球及び/又は発光素子(例えば、発光ダイオード(LED)等)等から発生させることができる。
【0026】
警報としての振動は、例えば、自車両が備えるハンドル及び/又はシート等を振動させるように組み込まれたモータ及び/又はバイブレータ等、振動を発生する装置である振動発生装置から発生させることができる。警報としての画像及び/又は文字は、例えば、自車両が備えるマルチインフォメーションディスプレイ(MID:Multi-Information Display)及び/又はマルチメディア(MM:MultiMedia)機器のディスプレイ等、画像及び/又は文字を表示する画像表示装置によって表示することができる。尚、このような画像の具体例としては、例えば、静止画(例えば、図形、図柄及びマーク等)及び動画(例えば、アニメーション等)等を挙げることができる。
【0027】
車両制御の具体例としては、例えば、自動制動及び自動操舵等を挙げることができる。このような車両制御は、例えば、衝突回避支援制御手段によって制御されるアクチュエータ等によって自車両が備える制動機構及び操舵機構を操作することによって実行することができる。
【0028】
更に、第1装置101においては、自車両の前側方領域に存在する物標として検出された物標であっても、自車両とが衝突する可能性が低いと判定される物標については、衝突回避支援の対象から外す処理が行われる。以降、当該ルーチンは「衝突リスク除外ルーチン」と称呼される。図4は、第1装置において実行される立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を含む衝突リスク除外ルーチンにおける種々の処理の流れの一例を示すフローチャートである。第1装置101においては、以下に詳述する衝突リスク除外ルーチンが所定の短い時間間隔(例えば、0.05秒)にて繰り返し実行される。
【0029】
衝突リスク除外ルーチンが開始されると、第1装置101においては、第1物標情報取得手段110が前方物標情報Ifを取得し(ステップS10及びS20)、第2物標情報取得手段120が前側方物標情報Isを取得する(ステップS30及びS40)。前方物標情報Ifは、自車両の前方に存在する物標である前方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である。即ち、前方物標情報Ifは、上述した第1情報I1から得ることができる。前側方物標情報Isは、前側方範囲に存在する物標である前側方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である。即ち、前側方物標情報Isは、上述した第2情報I2から得ることができる。
【0030】
前側方範囲は、自車両の進行方向に対して側方に位置する所定の範囲である。前側方範囲は、第2物標情報取得手段によって自車両の前側方領域に存在している物標を検出することが可能な領域(例えば、図1に例示した領域S)内において自車両と衝突する可能性の高い物標と当該可能性が低い物標(例えば、上方物)とを判別することが可能な範囲の全体であってもよい。或いは、前側方範囲は、第1物標情報取得手段によって自車両の前方領域に存在している物標を検出することが可能な領域(例えば、図1に例示した領域F)内において自車両と衝突する可能性の高い物標と当該可能性が低い物標とを判別することが可能な範囲を第2物標情報取得手段によって自車両の前側方領域に存在している物標を検出することが可能な領域(例えば、図1に例示した領域S)内において自車両と衝突する可能性の高い物標と当該可能性が低い物標とを判別することが可能な範囲から除いた範囲であってもよい。
【0031】
加えて、第1装置101においては、衝突回避支援制御手段130が、立体交差判定部131と、衝突リスク除外判定部132と、を備える。立体交差判定部131は立体交差経路判定処理を実行する(ステップS50及びS60)。立体交差経路判定処理とは、前方物標情報If及び前側方物標情報Isに基づいて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定された(ステップS50:Yes)場合に、前側方物標情報Isに基づいて算出される前側方物標の移動経路である前側方物標経路が立体交差経路であると判定する(ステップS60)処理である。立体交差経路とは、自車両の移動経路である自車両経路と鉛直方向において離れており交差しない経路である。
【0032】
即ち、立体交差経路判定処理においては、前方物標情報If及び前側方物標情報Isに基づいて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすか否かが判定される。この「所定の条件」は、例えば、自車両が走行する路面を含む平面内における2方向及び鉛直方向を含む3次元空間において前側方物標経路と自車両経路とが交差しないと判定されることである。
【0033】
上記のような所定の条件は、例えば、前方物標及び前側方物標の両方が鉛直方向において同じ高さに位置する平面上を走行していると仮定した場合に前方物標と前側方物標とが衝突する可能性が高いと判断されることであると言うことができる。同じ高さに位置する平面上を走行していたら衝突する可能性が高い位置関係に前方物標と前側方物標とが存在し得るということは、鉛直方向において異なる高さに両者の移動経路が存在すると考えることができる。換言すれば、所定の条件は、前方物標の移動経路である前方物標経路と前側方物標経路とが路面への垂直投影面において交差するということであると言うことができる。斯かる所定の条件の詳細については、本発明の他の実施形態に関する説明において詳しく後述する。
【0034】
上記所定の条件が成立する場合、立体交差判定部131は、前側方物標経路が立体交差経路であると判定する。立体交差経路とは、自車両の移動経路である自車両経路と鉛直方向において離れており交差しない経路である。即ち、上記所定の条件が成立する場合、当該前側方物標経路を走行する前側方物標は自車両と衝突すること無く鉛直方向における異なる位置において擦れ違うことが可能であると判定することができる。
【0035】
一方、衝突リスク除外判定部132は衝突リスク除外処理を実行する。衝突リスク除外処理とは、立体交差判定部131によって立体交差経路であると判定された前側方物標経路に存在する前側方物標については衝突リスク物標であると判定しない処理である(ステップS70)。前述したように、衝突リスク物標は自車両と衝突する可能性が高いと判定される物標であり、衝突回避支援制御手段によって自車両との衝突を回避するための支援である衝突回避支援を行う対象となる物標である。即ち、立体交差経路であると判定された前側方物標経路に存在する前側方物標については、自車両と衝突する可能性が低いと判定され、衝突回避支援の対象から除外される。
【0036】
尚、前方物標が検出されたか否かを判定するステップS10、前側方物標が検出されたか否かを判定するステップS30、及び前方物標と前側方物標とが所定の位置関係にあるか否かを判定するステップS50の何れかにおいて判定結果が「No」である場合は、その時点において衝突リスク除外ルーチンが一旦終了される。
【0037】
以上のような第1装置の機能は、例えば、自車両に搭載されたECUによって実現することができる。本明細書において、「ECU」は、マイクロコンピュータを主要部として備える電子式制御装置(Electronic Control Unit)であり、「コントローラ」とも称呼される。マイクロコンピュータは、CPU(プロセッサ)、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェース等を含む。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するように構成されている。これら各種機能は、第1装置を構成する特定の1つのECUによって実行されてもよく、或いは、複数のECUによって分散的に実行されてもよい。後者の場合、複数のECUは、例えば、CAN(Controller Area Network)を介して接続されて互いに通信可能であるように構成することができる。
【0038】
上述したように、第1装置においては、前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たす場合、前側方物標の移動経路が自車両の移動経路と鉛直方向において離れており交差しない立体交差経路であると判定される。そして、立体交差経路であると判定された前側方物標経路上に存在する前側方物標については自車両と衝突する可能性が高いとは判定されない。これにより、第1装置においては、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外することができる。従って、第1装置によれば、不要な衝突回避支援の実行により例えば不要な警報の発出並びに/又は不要な自動制動及び/若しくは自動操舵の実行を低減することができ、市場受容性の高い出会い頭プリクラッシュセーフティシステム(PCS)を提供することができる。
【0039】
ところで、例えば自車両が走行している道路と立体交差する道路を走行する複数の車両及び自車両が走行している道路と立体交差する軌道を走行するモノレールを構成する複数の車両等の物標については、先に検出された前側方物標について算出された前側方物標経路に存在し、当該経路に沿って後続する物標が移動する。従って、このような物標については、立体交差経路上に存在すると衝突リスク除外判定部が判定して衝突回避支援の対象から除外する(衝突リスク物標であると判定しない)ことが望ましい。
【0040】
一方、例えば脇道から自車両の前方へ進入してきた他車両等、衝突リスク除外ルーチンの実行途中に前側方範囲に出現した物標等が、それまでに前側方物標経路に存在する前側方物標として検出されていた物標であると誤認される場合がある。このような物標は必ずしも前側方物標経路に沿って移動する訳ではないので、当該物標を衝突回避支援の対象から除外することは望ましくない。
【0041】
そこで、好ましい態様に係る第1装置においては、以下に列挙する第1条件及び第2条件の両方が成立する場合にのみ前側方物標が立体交差経路上に存在すると判定するように衝突リスク除外判定部が構成されていてもよい。
【0042】
第1条件:二次元の座標系において第2物標情報取得手段によって取得された前側方物標情報に含まれる前側方物標の座標の一方の座標軸における座標値を立体交差判定部によって算出される前側方物標経路に当てはめることによって得られる他方の座標軸における前側方物標の計算上の座標値である算出座標値と第2物標情報取得手段によって取得された前側方物標情報に含まれる当該前側方物標の座標の上記他方の座標軸における当該前側方物標の実際の座標値である検出座標値との差の絶対値が所定の閾値以下である。
第2条件:二次元の座標系における上記前側方物標経路の当該前側方物標の座標における傾きである算出角度と第2物標情報取得手段によって取得された当該前側方物標の進行方向に対応する傾きである検出角度との差の絶対値が所定の閾値以下である。
【0043】
図5は、好ましい態様に係る第1装置において実行される衝突リスク除外ルーチンについて説明する模式図である。図5に示す例においては、衝突リスク除外ルーチンが開始されると、×印Aによって示すように、第1物標情報取得手段110によって自車両10の前方を自車両10と同じ方向に走行している先行車が前方物標20として検出され(ステップS10)、前方物標情報Ifが取得される(ステップS20)。次に、×印Bによって示すように、第2物標情報取得手段120によって自車両の前側方(前側方範囲)を走行しているモノレールが前側方物標30として検出され(ステップS30)、前側方物標情報Isが取得される(ステップS40)。前側方物標30としてのモノレールは3つの車両30a、30b及び30cからなる三両編成のモノレールである。尚、以下の説明において、前方物標20としての先行車は「先行車20」と称呼される場合があり、前側方物標30としてのモノレールは「モノレール30」と称呼される場合がある。
【0044】
次に、太い破線によって囲まれた部分Cによって示すように、衝突回避支援制御手段130が備える立体交差判定部131によって立体交差経路判定処理が実行される(ステップS50及びS60)。即ち、前方物標情報If及び前側方物標情報Isに基づいて前方物標20と前側方物標30との位置関係が所定の条件を満たすか否かが判定される(ステップS50)。図5に示す例においては、平面視において先行車20(前方物標)の移動経路(前方物標経路)とモノレール30の先頭の車両30a(前側方物標)の移動経路(前側方物標経路)とが重なるか否かが判定される。平面視において前方物標経路と前側方物標経路とが重なると判定された場合(ステップS50:Yes)、Dによって指し示すように、前側方物標情報Isに基づいて前側方物標経路P1が算出され、当該前側方物標経路P1が立体交差経路であると判定される(ステップS60)。
【0045】
そして、衝突回避支援制御手段130が備える衝突リスク除外判定部132によって衝突リスク除外処理が実行され、立体交差判定部131によって立体交差経路であると判定された前側方物標経路P1に存在する前側方物標30については衝突リスク物標であると判定されない(衝突回避支援の対象から除外される)(ステップS70)。尚、この場合、衝突リスク除外処理の対象となる前側方物標はモノレール30の先頭の車両30aに限定されない。×印E及び×印Eから延びる矢印によって示すように、後続する車両30b及び30cもまた前側方物標経路P1に存在し且つ先頭の車両30aと同様の方向に向かって移動している。
【0046】
従って、図5の右下に示す二次元の座標系において第2物標情報取得手段120によって取得された前側方物標情報Isに含まれるモノレール30の後続の車両30b及び30cの座標のY軸における座標値をモノレール30の先頭の車両30aについて算出される前側方物標経路P1に当てはめることによって得られるX軸における後続の車両30b及び30cの計算上の座標値(算出座標値)は第2物標情報取得手段120によって取得された前側方物標情報Isに含まれる後続の車両30b及び30cの座標のX軸における実際の座標値(検出座標値)に等しい値又は近い値(両者の差の絶対値が所定の閾値以下)である(第1条件が成立する)。また、上記二次元の座標系における前側方物標経路P1の後続の車両30b及び30cの座標における傾き(算出角度)もまた、第2物標情報取得手段120によって取得された後続の車両30b及び30cの進行方向に対応する傾き(検出角度)に等しい値又は近い値(両者の差の絶対値が所定の閾値以下)である(第2条件が成立する)。その結果、好ましい態様に係る第1装置においては、後続する車両30b及び30cもまた衝突リスク物標であると判定されない(衝突回避支援の対象から除外される)。
【0047】
しかしながら、上記とは異なり衝突リスク除外ルーチンの実行途中に前側方範囲に出現した物標は、必ずしも前側方物標経路に沿って移動する訳ではなく、算出座標値と検出座標値との差の絶対値が所定の閾値を超えていたり、算出角度と検出角度との差の絶対値が所定の閾値を超えていたりする。即ち、このような物標については上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立しない。その結果、好ましい態様に係る第1装置においては、このような物標が衝突回避支援の対象から除外されない。従って、好ましい態様に係る第1装置によれば、例えば脇道から自車両の前方へ進入してきた他車両等、衝突リスク除外ルーチンの実行途中に前側方範囲に出現した物標等が、それまでに前側方物標経路に存在する前側方物標として検出されていた物標であると誤認されて衝突回避支援の対象から除外されることを回避することができる。
【0048】
尚、図5に示す例においては、白抜きの湾曲した矢印F1及びF2によって示すように、モノレール30の移動経路である前側方物標経路P1が、自車両10の進行に伴うモノレール30の移動経路への接近に合わせて更新されている。このような前側方物標経路の更新については、後述する本発明の他の実施形態に関する説明において詳しく説明する。
【0049】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る運転支援装置(以降、「第2装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0050】
上述したように、第1装置においては、衝突リスク除外ルーチンの実行により、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外して、例えば不要な警報の発出並びに/又は不要な自動制動及び/若しくは自動操舵の実行を低減することができる。しかしながら、例えばカーブ走行時等、自車両の進行方向が刻一刻と変化する状況においては、上述した立体交差経路判定処理により前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たす否かを正確に判定することが困難な場合がある。即ち、自車両が直進していない状態においては、前側方物標経路が立体交差経路に該当するか否かを正確に判定することが困難な場合がある。このような状況において立体交差経路判定処理が実行されると、自車両と衝突する可能性が高い前側方物標が衝突回避支援の対象から誤って除外されてしまう虞がある。
【0051】
そこで、第2装置は、上述した第1装置であって、衝突回避支援制御手段が、自車両が直進状態にあると判定される場合にのみ立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を実行することを特徴とする、運転支援装置である。
【0052】
好ましい態様に係る第2装置において、自車両経路の曲率半径が所定の閾値よりも大きい場合に自車両が直進状態にあると判定するように衝突回避支援制御手段が構成されていてもよい。
【0053】
図6は、第2装置において実行される立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を含む衝突リスク除外ルーチンにおける種々の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図6に例示するフローチャートは、第1物標情報取得手段110が前方物標情報Ifを取得する(ステップS10及びS20)前に、自車両が直進状態にあるか否かを判定するステップS05が追加されている点を除き、図4に例示したフローチャートと同様である。
【0054】
即ち、図6に例示するフローチャートによって表される第2装置において実行される衝突リスク除外ルーチンにおいては、先ず、ステップS05において、自車両が直進状態にあるか否かが判定される。自車両が直進状態にある場合は、ステップS05において「Yes」と判定され、次のステップS10へと処理が進む。ステップS10以降の処理の流れについては上述した図4に例示したフローチャートによって表される第1装置において実行される衝突リスク除外ルーチンと同様である。一方、例えばカーブ走行時等において自車両の進行方向が刻一刻と変化する状況等、自車両が直進状態にない場合は、ステップS05において「No」と判定され、衝突リスク除外ルーチンが一旦終了される。
【0055】
上述したように、第2装置においては、衝突回避支援制御手段が、自車両が直進状態にあると判定される場合にのみ立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を実行する。従って、例えばカーブ走行時等、自車両の進行方向が刻一刻と変化する状況において立体交差経路判定処理が実行されて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たす否かが不正確に判定されることを防止することができる。その結果、第2装置によれば、前側方物標経路が立体交差経路に該当するか否かが不正確に判定されることが防止されるので、自車両と衝突する可能性が高い前側方物標が衝突回避支援の対象から誤って除外されてしまう可能性を低減することができる。
【0056】
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係る運転支援装置(以降、「第3装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0057】
上述したように、第1装置及び第2装置においては、第1物標情報取得手段が、自車両の前方に存在する物標を前方物標として検出し、前方物標情報を取得する。しかしながら、例えば、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外するためのECUにおける演算負荷を軽減する観点からは、前側方物標と自車両とが衝突する可能性を判定するのに好適な前方物標のみを立体交差経路判定処理の対象とすることが望ましい。換言すれば、自車両の前方に存在する物標であっても、前側方物標と自車両とが衝突する可能性を判定するのに適切ではない物標を前方物標として立体交差経路判定処理に付した場合、前側方物標と自車両とが衝突する可能性を正しく判定することは困難である。このような前側方物標と自車両とが衝突する可能性を判定するのに適切ではない物標の具体例としては、例えば、自車両の進行方向とは異なる方向に移動している物標及び静止している物標(静止物)等を挙げることができる。
【0058】
そこで、第3装置は、上述した第1装置又は第2装置であって、第1物標情報取得手段が、自車両の前方に存在すると共に自車両の進行方向と同じ方向に移動している物標を前方物標であると判定することを特徴とする、運転支援装置である。
【0059】
上記のように、第3装置においては、自車両の前方に存在すると共に自車両の進行方向と同じ方向に移動している物標のみが前方物標として検出される。即ち、例えば自車両の進行方向とは異なる方向に移動している物標及び静止している物標(静止物)等、前側方物標と自車両とが衝突する可能性を判定するのに適切ではない物標は前方物標から除外される。これにより、例えば、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外するためのECUにおける演算負荷を軽減することができる。
【0060】
一方、立体交差経路判定処理において自車両の前方において自車両と同じ方向に移動している前方物標の移動経路と前側方物標の移動経路とが交差しないと判定される場合、前方物標の後方において前方物標と同じ方向に移動している自車両の移動経路と前側方物標の移動経路とが交差しないと判断することができる。即ち、不要な衝突回避支援の実行により例えば不要な警報の発出並びに/又は不要な自動制動及び/若しくは自動操舵の実行を低減することができ、市場受容性の高い出会い頭プリクラッシュセーフティシステム(PCS)を提供することができる。
【0061】
ところで、ある時点において自車両の前方に存在しており且つ自車両の進行方向と同じ方向に移動している物標が検出されて当該物標が前方物標であると判定された場合においても、異なる時点においても当該物標が上記と同様の状況にあるとは限らない。換言すれば、ある時点において自車両の前方に存在しており且つ自車両の進行方向と同じ方向に移動している物標が、異なる時点においては自車両の前方に存在していなかったり自車両の進行方向と異なる方向に移動していたりする可能性がある。
【0062】
そこで、好ましい態様に係る第3装置においては、自車両の前方に存在しており且つ自車両の進行方向と同じ方向に移動していると共に第1情報に基づいて算出される自車両の進行方向における物標の速度から自車両の速度を減算して得られる値が所定の閾値よりも大きい状態が所定の期間が経過して現時点に至るまでの期間において所定の回数以上発生した履歴を有する物標を前方物標であると判定するように第1物標情報取得手段が構成されていてもよい。
【0063】
上記のように自車両の進行方向における自車両との速度差が所定の閾値よりも大きい状態が所定の期間内に所定の回数以上発生した履歴を有する物標は、ある時点において自車両の前方に存在しており且つ自車両の進行方向と同じ方向に移動しているだけの物標に比べて、自車両に先行する車両である可能性が高い。即ち、当該物標は前方物標に該当するという判定の確からしさが高い。従って、好ましい態様に係る第3装置によれば、前側方物標と自車両とが衝突する可能性を判定するのにより好適な前方物標のみを立体交差経路判定処理の対象とすることができるので、例えば、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外するためのECUにおける演算負荷を更に軽減することができる。
【0064】
《第4実施形態》
以下、本発明の第4実施形態に係る運転支援装置(以降、「第4装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0065】
上述したように、第1装置乃至第3装置においては、第2物標情報取得手段が、自車両の進行方向に対して側方に位置する所定の範囲である前側方範囲に存在する物標である前側方物標の位置及び速度及び進行方向についての情報である前側方物標情報を取得する。しかしながら、例えば、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外するためのECUにおける演算負荷を軽減する観点からは、前側方物標と自車両とが衝突する可能性を判定するべき前側方物標のみを立体交差経路判定処理の対象とすることが望ましい。換言すれば、前側方範囲に存在する物標であっても、そもそも自車両と衝突する可能性が極めて低い物標を前側方物標として立体交差経路判定処理に付すことは徒に演算負荷を高めるだけで、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外することに寄与しない。従って、前側方範囲に存在する物標の中で自車両と衝突する可能性が高い物標のみを前側方物標として立体交差経路判定処理に付すことが望ましい。
【0066】
上記のような前側方物標の具体例としては、例えば、自車両の進行方向に直交する方向において自車両に近付く速度が所定の閾値よりも大きく、自車両の進行方向に直交する方向と物標の進行方向とがなす角度が所定の閾値以下であり且つ自車両の進行方向に直交する方向における自車両との距離が所定の閾値よりも大きい物標を挙げることができる。自車両の進行方向に直交する方向において自車両に近付く速度が大きい物標は、当該物標と自車両との衝突が起こり得る位置に短時間で到達する可能性が高い。また、自車両の進行方向に直交する方向と物標の進行方向とがなす角度が小さい物標は、自車両の移動経路を横切る可能性が高い。更に、自車両の進行方向に直交する方向における自車両との距離が大きい物標は、第1物標情報取得手段(例えば、前方レーダ等)によって検出されない可能性が高い。
【0067】
そこで、第4装置は、上述した第1装置乃至第3装置の何れかであって、第2物標情報取得手段が、側方範囲に存在すると共に自車両の進行方向に直交する方向において自車両に近付く速度が所定の閾値よりも大きく、自車両の進行方向に直交する方向と物標の進行方向とがなす角度が所定の閾値以下であり且つ自車両の進行方向に直交する方向における自車両との距離が所定の閾値よりも大きい物標を前記前側方物標であると判定することを特徴とする、運転支援装置である。
【0068】
上記から明らかであるように、第4装置においては、前側方範囲に存在する物標の中で自車両と衝突する可能性が高い物標のみが前側方物標として判定され、立体交差経路判定処理に付される。従って、第4装置によれば、自車両と衝突する可能性が低い前側方物標を衝突回避支援の対象から除外するためのECUにおける演算負荷をより一層軽減することができる。
【0069】
《第5実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第5実施形態に係る運転支援装置(以降、「第5装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0070】
上述したように、第1装置乃至第4装置においては、衝突回避支援制御手段が備える立体交差判定部が、前方物標情報及び前側方物標情報に基づいて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすか否かを判定する。そして、前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすかと判定された場合、前側方物標経路が立体交差経路であると判定する。
【0071】
上記「所定の条件」は、例えば、自車両が走行する路面を含む平面内における2方向及び鉛直方向を含む3次元空間において前側方物標経路と自車両経路とが交差しないと判定されることである。このような所定の条件は、例えば、前方物標及び前側方物標の両方が鉛直方向において同じ高さに位置する平面上を走行していると仮定した場合に前方物標と前側方物標とが衝突する可能性が高いと判断されることであると言うことができる。
【0072】
そこで、第5装置は、上述した第1装置乃至第4装置の何れかであって、衝突回避支援制御手段が、前方物標情報に基づいて算出される前方物標の移動経路である前方物標経路と前側方物標経路とが路面を含む平面への垂直投影面において交差する場合に、前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定することを特徴とする、運転支援装置である。
【0073】
図7は、ある時点(現在)において路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標と前側方物標とが存在する状態を例示する模式図である。図7に例示するように、前方物標20と前側方物標30とが平面視において衝突している(重なっている)ように見える位置に存在している。それにもかかわらず前方物標20と前側方物標30とがそれぞれの移動経路に沿って進行することができるということは、少なくとも前方物標経路と前側方物標経路との交差点において前方物標20と前側方物標30とが鉛直方向における異なる位置において衝突すること無く擦れ違うことが可能であることを意味する。従って、当該前方物標の後方を走行している自車両もまた、前側方物標30と衝突すること無く擦れ違うことが可能であると判定することができる。従って、当該前側方物標は、衝突リスク物標ではないと判定され、衝突回避支援の対象から除外される。
【0074】
図8は、ある時点(現在)において路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点の近傍に前方物標と前側方物標とが存在する状態を例示する模式図である。図7に例示した状態とは異なり、図8に例示する状態においては、前側方物標30は交差点に到達しているが、前方物標20は交差点の手前の位置に存在しており、両者は重なっていない。しかしながら、白抜きの矢印によって示すように、やがて前方物標20は交差点に到達する。この際、前側方物標30の速度によっては、路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点において前方物標20と前側方物標30とが重なる可能性がある。それにもかかわらず前方物標20と前側方物標30とがそれぞれの移動経路に沿って進行することができるということは、少なくとも前方物標経路と前側方物標経路との交差点において前方物標20と前側方物標30とが鉛直方向における異なる位置において衝突すること無く擦れ違うことが可能であることを意味する。従って、当該前方物標の後方を走行している自車両もまた、前側方物標30と衝突すること無く擦れ違うことが可能であると判定することができる。従って、当該前側方物標は、衝突リスク物標ではないと判定され、衝突回避支援の対象から除外される。尚、上記のような判定の対象とする前方物標20の交差点からの距離(白抜きの矢印の長さに対応)の上限は、例えば前方物標20の速度等に基づいて適宜設定することができる。
【0075】
図9は、ある時点(現在)において路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点の近傍に前方物標と前側方物標とが存在する他の状態を例示する模式図である。図7に例示した状態とは異なり、図9に例示する状態においては、前側方物標30は交差点に到達しているが、前方物標20は交差点を既に通過した位置に存在しており、両者は重なっていない。しかしながら、白抜きの矢印によって示すように、過去の時点において前方物標20は交差点に存在していた。この際、前側方物標30の速度によっては、路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点において前方物標20と前側方物標30とが重なっていた可能性がある。それにもかかわらず前方物標20と前側方物標30とがそれぞれの移動経路に沿って進行することができたということは、少なくとも前方物標経路と前側方物標経路との交差点において前方物標20と前側方物標30とが鉛直方向における異なる位置において衝突すること無く擦れ違うことが可能であったことを意味する。従って、当該前方物標の後方を走行している自車両もまた、前側方物標30と衝突すること無く擦れ違うことが可能であると判定することができる。従って、当該前側方物標は、衝突リスク物標ではないと判定され、衝突回避支援の対象から除外される。尚、上記のような判定の対象とする前方物標20の交差点からの距離(白抜きの矢印の長さに対応)の上限は、例えば前方物標20の速度等に基づいて適宜設定することができる。
【0076】
以上のように図7乃至図9においては、前側方物標30については現在における位置に固定する一方で前方物標20については過去、現在及び将来における位置に存在する3つの場合につき、平面視において前方物標20と前側方物標30とが重なる状態をそれぞれ例示した。しかしながら、前側方物標30についても現在における位置に存在する場合のみならず、前方物標20と同様に過去、現在及び将来における位置に存在する場合を考慮する必要がある。
【0077】
図10は、前方物標20及び前側方物標30の両方について過去、現在及び将来における位置に存在する9つの場合(a)乃至(i)について、平面視において前方物標20と前側方物標30とが重なる状態をそれぞれ例示する模式図である。(a)、(b)及び(c)は、上述した図7図8及び図9にそれぞれ該当する。また、(d)、(e)及び(f)は、現在、過去及び将来における位置に存在する前方物標20と将来における位置に存在する前側方物標30とが重なる場合を例示している。更に、(g)、(h)及び(i)は、現在、過去及び将来における位置に存在する前方物標20と過去における位置に存在する前側方物標30とが重なる場合を例示している。
【0078】
以上のように、前方物標及び前側方物標の位置及び速度によっては、ある時点(現在)において前方物標と前側方物標とが平面視において重なる位置に存在していなくても、将来又は過去において前方物標と前側方物標とが平面視において重なる位置に存在する可能性がある。このため、第5装置においては、前方物標経路と前側方物標経路とが路面を含む平面への垂直投影面において交差する場合に、前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定され、前側方物標経路が立体交差経路であると判定される。即ち、当該前側方物標経路に存在する前側方物標が自車両と衝突する可能性は低いと判定することができる。従って、当該前側方物標経路に存在する前側方物標は衝突リスク物標ではないと判定され、衝突回避支援の対象から除外される。その結果、第5装置によれば、不要な衝突回避支援の実行により例えば不要な警報の発出並びに/又は不要な自動制動及び/若しくは自動操舵の実行をより有効に低減することができる。
【0079】
ところで、第5装置においては、上記のように、ある時点(現在)においては前方物標と前側方物標とが平面視において重なる位置に存在していなくても将来又は過去の位置に存在する何れか一方の物標と他方の物標とが平面視において重なる位置に存在し得る場合は、当該前側方物標が衝突回避支援の対象から除外される。しかしながら、衝突回避支援の対象から前側方物標が過剰に除外されることを防止する観点からは、平面視における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標と前側方物標とが同時に存在すると判定される場合にのみ当該前側方物標が衝突回避支援の対象から除外されることが望ましい。
【0080】
そこで、好ましい態様に係る第5装置においては、路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標と前側方物標とが同時に存在すると判定される場合に前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定するように衝突回避支援制御手段が構成されていてもよい。
【0081】
ここで再び図10を参照する。(a)乃至(i)の9つの場合うち、(a)、(e)及び(i)の3つの場合においては、それぞれ現在、将来及び過去の同じ時点において平面視における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標及び前側方物標の両方が存在する。一方、(a)乃至(i)の9つの場合うち、(a)、(e)及び(i)以外の6つの場合は、将来又は過去の異なる時点において平面視における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標及び前側方物標の何れかが存在するかもしれないという場合である。
【0082】
従って、(a)乃至(i)の9つの場合うち、好ましい態様に係る第5装置において前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定されるのは、路面を含む平面への垂直投影面における前方物標経路と前側方物標経路との交差点に前方物標と前側方物標とが同時に存在すると判定される場合に該当する(a)、(e)及び(i)の3つの場合である。即ち、好ましい態様に係る第5装置によれば、衝突回避支援の対象から前側方物標が過剰に除外されることを防止することができる。
【0083】
《第6実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第6実施形態に係る運転支援装置(以降、「第6装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0084】
上述したように、第1装置乃至第5装置においては、前方物標情報及び前側方物標情報に基づいて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定された場合に、前側方物標情報に基づいて前側方物標の移動経路である前側方物標経路が算出される。自車両、前方物標及び前側方物標の位置関係は刻一刻と変化するが、前述したように、衝突リスク除外ルーチンは所定の短い時間間隔(例えば、0.05秒)にて繰り返し実行されるので、その都度の前側方物標情報に基づいて前側方物標経路を算出することができ、これによって前側方物標経路を更新することができる。
【0085】
しかしながら、前方物標と前側方物標とがすれ違うのに要する期間は極めて短いので、その期間内に前側方物標経路が大幅に変化する可能性は低い。従って、当該前側方物標を衝突回避支援の対象から除外すべきか否かの判定においては、前側方物標経路が一旦算出されたら、衝突リスク除外ルーチンが実行される度に前側方物標経路を算出するのではなく一旦算出された前側方物標経路を自車両の移動に応じて修正するようにしてもよい。
【0086】
そこで、第6装置は、上述した第1装置乃至第5装置の何れかであって、立体交差判定部が前側方物標について算出された前側方物標経路を自車両の速度に基づいて更新する処理である前側方物標経路更新処理を実行し、衝突リスク除外判定部が前側方物標経路更新処理によって更新された前側方物標経路が自車両よりも前方にある場合に当該前側方物標経路に存在する前側方物標について衝突リスク除外処理を実行することを特徴とする、運転支援装置である。
【0087】
第6装置において前側方物標経路を自車両の速度に基づいて更新する処理である前側方物標経路更新処理は、例えば衝突リスク除外ルーチンの実行周期の長さと自車両の速度に基づいて求められる自車両の移動量に応じて自車両を原点とする座標系における前側方物標経路を平行移動させること等を意味する。
【0088】
また、更新された前側方物標経路が自車両の位置よりも後方に存在する場合、当該前側方物標経路に存在する物標と自車両との衝突を回避する必要は無いので、更新された前側方物標経路が自車両よりも前方にある場合にのみ当該前側方物標経路に存在する前側方物標について衝突リスク除外処理が実行される。
【0089】
図11は、第6装置において実行される立体交差経路判定処理及び衝突リスク除外処理を含む衝突リスク除外ルーチンにおける種々の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図11に例示するフローチャートは、衝突リスク除外処理が実行されるステップS70の後に、前側方物標経路を更新するステップS80、更新された前側方物標経路が自車両よりも前方にあるか否かを判定するステップS85、及び更新された前側方物標経路に前側方物標が存在しているか否かを判定するステップS90が追加されている点を除き、図4に例示したフローチャートと同様である。
【0090】
即ち、図11に例示するフローチャートによって表される第6装置において実行される衝突リスク除外ルーチンにおいては、ステップS60において立体交差経路であると判定された前側方物標経路に存在する前側方物標が衝突リスク物標から除外された後に、ステップS80において前側方物標経路が更新される。そして、次のステップS85において、更新された前側方物標経路が自車両よりも前方にあるか否かが判定される。換言すれば、当該前側方物標経路を自車両が既に通過したか否かがステップS85において判定される。
【0091】
更新された前側方物標経路が自車両よりも前方にある(ステップS85:Yes)場合は、次のステップS90において、更新された前側方物標経路に前側方物標が存在しているか否かが判定される。更新された前側方物標経路に前側方物標が存在している(ステップS90:Yes)場合は、上述したステップS70へと戻り、ステップS60において立体交差経路であると判定された前側方物標経路に存在する前側方物標が衝突リスク物標から除外され、ステップS80以降の処理が繰り返し実行される。
【0092】
尚、更新された前側方物標経路が自車両よりも前方にあるか否かが判定されるステップS85及び更新された前側方物標経路に前側方物標が存在しているか否かが判定されるステップS90の何れかにおいて判定結果が「No」である場合は、その時点において衝突リスク除外ルーチンが一旦終了される。
【0093】
第6装置においては、上記のように、前側方物標について算出された前側方物標経路を自車両の速度に基づいて更新するように立体交差判定部が構成されている。従って、第6装置によれば、衝突リスク除外ルーチンが実行される度に前側方物標情報に基づいて前側方物標経路が算出される場合に比べて、前側方物標経路の更新するためのECUにおける演算負荷を軽減することができる。
【0094】
《第7実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第7実施形態に係る運転支援装置(以降、「第7装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0095】
上述したように、第1装置乃至第6装置においては、前方物標情報及び前側方物標情報に基づいて前方物標と前側方物標との位置関係が所定の条件を満たすと判定された場合に、前側方物標経路が立体交差経路であると判定する。前述したように、前側方物標経路は前側方物標情報に基づいて算出される前側方物標の移動経路である。前側方物標経路は厳密には直線状ではない場合があり、実際の前側方物標の移動経路に正確に合致する前側方物標経路を前側方物標情報に基づいて算出しようとするとECUにおける演算負荷が過大となる虞がある。一方、前述したように、前方物標と前側方物標とがすれ違うのに要する期間は極めて短いので、前側方物標経路を直線であると見做しても実際の前側方物標の移動経路とのずれは小さい。
【0096】
そこで、第7装置は、上述した第1装置乃至第6装置の何れかであって、立体交差判定部が前側方物標経路を直線として算出することを特徴とする、運転支援装置である。
【0097】
図12は、第2物標情報取得手段によって前側方物標情報として取得された前側方物標の位置及び速度及び進行方向に基づいて衝突回避支援制御手段が備える立体交差判定部が前側方物標の移動経路である前側方物標経路を直線として算出する手順の一例を説明するための模式図である。図12に例示する前側方物標30は、図示しない自車両の右前方から左後方へ向かって自車両の前方を斜めに横切っている。前述した自車両の位置を原点(黒い丸印)とし自車両の右側方から左側方へ向かう方向をY軸の正方向とし自車両の進行方向をX軸の正方向とするY-X座標系において、前側方物標30の位置を示す座標は(Y,X)である。前側方物標30の路面に対する速度(対地速度)V(破線の矢印)のY軸成分及びX軸成分をそれぞれVy及びVxとする(実線の矢印)。これらの情報は、所定の短い時間間隔(例えば、0.05秒)にて、例えば前側方レーダ等の第2物標情報取得手段によって前側方物標情報として繰り返し取得される。
【0098】
上記のようにして取得された前側方物標情報(Y、X,Vy及びVx)に基づいて前側方物標経路を直線と見做して前側方物標経路を表す数式を一次式として算出する手順の一例を以下に示す。Y軸を横軸、X軸を縦軸とした場合における上記一次式の傾きをa、X軸切片をbとすると、前側方物標30の座標(Y,X)は以下の式(1)によって表される関係を満足する。
【0099】
【数1】
【0100】
その後、所定の期間Δtが経過した時点における前側方物標30の座標(Y,X)は、以下の式(2)によって表される関係を満足する。
【0101】
【数2】
【0102】
(2)式の両辺から(1)式の両辺を差し引いた結果として得られる式の両辺をΔtで除算すると以下の(3)式が得られるので、前側方物標経路を表す一次式の傾きaを以下の式(4)によって求めることができることが判る。
【0103】
【数3】
【0104】
(4)式を(1)式に導入すると以下の(5)式が得られるので、前側方物標経路を表す一次式の切片bを以下の式(6)によって求めることができることが判る。
【0105】
【数4】
【0106】
以上のように、第7装置においては、第2物標情報取得手段によって取得された前側方物標情報(Y、X,Vy及びVx)に基づいて前側方物標経路を表す一次式を簡便に算出することができる。即ち、第7装置によれば、前側方物標経路を直線として算出するように立体交差判定部が構成されているので、前側方物標経路を算出するためのECUにおける演算負荷を軽減することができる。
【0107】
尚、上記のように前側方物標経路を直線と見做して当該前側方物標経路を表す式を一次式として算出するように立体交差判定部が構成されている場合、上述した第6装置におけるように前側方物標について算出された前側方物標経路を自車両の速度に基づいて更新するように立体交差判定部が構成されていることが好ましい。
【0108】
そこで、好ましい態様に係る第7装置においては、自車両の位置を原点とし自車両の進行方向及び進行方向に直交する方向を座標軸とする座標系における前側方物標経路を表す一次式の自車両の進行方向に該当する軸における切片の値から自車両の速度及び演算周期に基づいて得られる値を減算することにより前側方物標経路を更新するように立体交差判定部が構成されていてもよい。
【0109】
例えば、図12に例示した前側方物標30の対地速度V(破線の矢印)に対応する前側方物標経路を一次式である式(1)(X=Y*a+b)によって表すことができる場合、好ましい態様に係る第7装置においては、式(1)の切片bの値から自車両の速度及び演算周期に基づいて得られる値を減算することによって前側方物標経路が更新される。尚、「自車両の速度及び演算周期に基づいて得られる値」は、例えば、自車両の速度と演算周期との乗算によって得られる演算周期における自車両の移動量である。
【0110】
また、上記において、前側方物標経路更新に伴って切片bの値が0(ゼロ)以下になった場合、対象とする前側方物標経路を自車両が通過したと判断されるので、衝突回避支援制御手段が備える立体交差判定部によって実行される立体交差経路判定処理の対象から当該前側方物標経路に対応する前側方物標を除外することができる。
【0111】
以上のように、好ましい態様に係る第7装置においては、前側方物標情報に基づいて前側方物標経路を表す一次式を簡便に算出することができると共に当該一次式を簡便に更新することができる。従って、好ましい態様に係る第7装置によれば、前側方物標経路を算出するためのECUにおける演算負荷のみならず、前側方物標経路を更新するためのECUにおける演算負荷をも軽減することができる。
【0112】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0113】
10…自車両
20…前方物標
30,31…前側方物標
30a,30b,30c…モノレールの車両
101…運転支援装置(第1装置)
110…第1物標情報取得手段
120…第2物標情報取得手段
130…衝突回避支援制御手段
131…立体交差判定部
132…衝突リスク除外判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12