(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】超音波受信器及び超音波観測装置
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
H04R17/00 330H
H04R17/00 330G
(21)【出願番号】P 2023515524
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2022018488
(87)【国際公開番号】W WO2022225030
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021072856
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323012807
【氏名又は名称】硅系半導体科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】梅村 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】只木 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】竹本 良章
(72)【発明者】
【氏名】大鋸谷 薫
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-218765(JP,A)
【文献】実開平01-171200(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部と、
前記先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、
前記樹脂製ホーン部の内部であって、前記圧電素子の外形を前記中心軸に沿って投影した背後領域に前記圧電素子と設定最短距離で配置され、前記圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ前記音場検出軸に平行な超音波が前記圧電素子を透過した透過波の反射特性を変更し、前記透過波の反射波が前記圧電素子に入力しない、若しくは前記反射波の波面が前記圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、
前記圧電素子と前記ステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段と
を備え、前記設定最短距離は、前記圧電素子と前記ステルス増幅器との間の距離に依存して増加する成分と前記距離に反比例して減少する成分の和として計算できる、前記入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量の理論的な最小値を基礎として、設計上決まる前記圧電素子と前記ステルス増幅器の間の距離であることを特徴とする超音波受信器。
【請求項2】
前記ステルス増幅器が平坦な主面を有する板状の集積回路チップであり、前記主面の法線方向と前記音場検出軸のなす角度が30°以上、60°以下となるように、集積回路チップの方位が定められていることを特徴とする請求項1に記載の超音波受信器。
【請求項3】
音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部と、
前記先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、
前記樹脂製ホーン部の内部であって、前記圧電素子の外形を前記中心軸に沿って投影した背後領域からずれた位置に前記圧電素子から設定最短距離で配置され、前記圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、前記音場検出軸に平行な超音波が前記圧電素子を透過した透過波の反射波が前記圧電素子に入力しない、若しくは前記反射波の波面が前記圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、
前記圧電素子と前記ステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段と
を備え、前記設定最短距離は、前記圧電素子と前記ステルス増幅器との間の距離に依存して増加する成分と前記距離に反比例して減少する成分の和として計算できる、前記入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量の理論的な最小値を基礎として、設計上決まる前記圧電素子と前記ステルス増幅器の間の距離であることをとする超音波受信器。
【請求項4】
前記ステルス増幅器が平坦な主面を有する板状の集積回路チップであり、前記主面に連続する4つの側面の内、前記圧電素子に最も近い最近接側面が前記主面と30°以上、60°以下の角度となるように面取りがされていることを特徴とする請求項3に記載の超音波受信器。
【請求項5】
前記集積回路チップを一部に搭載するプリント基板と、
前記プリント基板の他の一部に設けられた外部接続リード線と、
前記集積回路チップと前記外部接続
リード線の間となる前記プリント基板の更に他の一部に設けられた平坦なステルス面を有する板状の部材であり、前記ステルス面の法線方向と前記音場検出軸のなす角度が30°以上、60°以下である衝立部材と
を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の超音波受信器。
【請求項6】
音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部を一方の端部側に有する本体と、
前記先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、
前記樹脂製ホーン部の内部であって、前記圧電素子の外形を前記中心軸に沿って投影した背後領域に前記圧電素子と設定最短距離で配置され、前記圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ前記音場検出軸に平行な超音波が前記圧電素子を透過した透過波の反射特性を変更し、前記透過波の反射波が前記圧電素子に入力しない、若しくは前記反射波の波面が前記圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、
前記圧電素子と前記ステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段と、
前記本体の他方の端部側に接続された外部端子と、
前記ステルス増幅器と前記外部端子との間を電気的に接続する出力接続手段と、
前記圧電素子に内在する信号源容量の50倍以上大きな外部接続寄生容量を有し、前記外部端子に接続された伝送線路と、
該伝送線路に接続された観測機器と
を備え、前記設定最短距離は、前記入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量が、前記外部接続寄生容量の1/10よりも小さな値となるように、設計上決まる前記圧電素子と前記ステルス増幅器の間の距離であることを特徴とする超音波観測装置。
【請求項7】
前記ステルス増幅器が平坦な主面を有する板状の集積回路チップであり、前記主面の法線方向と前記音場検出軸のなす角度が30°以上、60°以下となるように、集積回路チップの方位が定められていることを特徴とする請求項6に記載の超音波観測装置。
【請求項8】
音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部を一方の端部側に有する本体と、
前記先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、
前記樹脂製ホーン部の内部であって、前記圧電素子の外形を前記中心軸に沿って投影した背後領域からずれた位置に、前記圧電素子から設定最短距離で配置され、前記圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、前記音場検出軸に平行な超音波が前記圧電素子を透過した透過波の反射波が前記圧電素子に入力しない、若しくは前記反射波の波面が前記圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、
前記圧電素子と前記ステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段と、
前記本体の他方の端部側に接続された外部端子と、
前記ステルス増幅器と前記外部端子との間を電気的に接続する出力接続手段と、
前記圧電素子に内在する信号源容量の50倍以上大きな外部接続寄生容量を有し、前記外部端子に接続された伝送線路と、
該伝送線路に接続された観測機器と
を備え、前記設定最短距離は、前記入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量が、前記外部接続寄生容量の1/10よりも小さな値となるように、設計上決まる前記圧電素子と前記ステルス増幅器の間の距離であることを特徴とする超音波観測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場を計測するために用いるハイドロフォン(水中マイクロフォン)等の超音波受信器に係り、特に医用超音波診断装置などに適用可能な、増幅器内蔵型の超音波受信器及びこの超音波受信器を用いた超音波観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイドロフォンシステムでは、圧電素子の信号源容量が0.1pF程度であるのに対し、圧電素子から増幅器までの配線容量が10pF程度あり、増幅器内蔵型の超音波受信器の受信電圧感度が極めて低くなる。従来の増幅器内蔵型の超音波受信器において、増幅器としての集積回路チップを圧電素子の近傍に配置すると、超音波プローブの先端部が大きくなってしまうため、現実的でないという問題があった(特許文献1参照。)。
【0003】
この点に鑑み、近年の集積回路チップの小型化により、増幅器を圧電素子の近傍に配置することが試みられている(非特許文献1参照。)。しかし、本発明者が検討したところ、かかる場合、圧電素子を透過した超音波が集積回路チップで反射して圧電素子に再入力するという不要エコーの問題が新たに生じることが明らかとなった。尚、非特許文献1では、先端部が金属筐体で覆われ、圧電素子が曲面を有するハイドロフォンにおいて、圧電素子のエッジからの回折波の影響について検討しているが、集積回路チップから戻って来る反射波が不要エコーを発生させる問題については、何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】G.シン(Xing)他2名、『高強度治療用超音波の電界特性解析技術の概観(Review of field characterization techniques for high intensity therapeutic ultrasound)』、メトロジア(Metrologia),第58巻、 (2021年)、022001、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、コンパクトな構造を有し、高感度かつS/N比の高い超音波受信器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様は、(a)音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部と、(b)この樹脂製ホーン部の先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、(c)樹脂製ホーン部の内部であって、圧電素子の外形を中心軸に沿って投影した背後領域に圧電素子と設定最短距離で配置され、圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ音場検出軸に平行な超音波が圧電素子を透過した透過波の反射特性を変更し、透過波の反射波が圧電素子に入力しない、若しくは反射波の波面が一定以上の角度を持つことにより、波面が圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、(d)圧電素子とステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段を備える超音波受信器であることを要旨とする。背景技術の説明からは一見圧電素子とステルス増幅器の距離は短ければ短いほど良いように思われるかもしれないが、第1態様に係る超音波受信器において、圧電素子とステルス増幅器の距離には、これ以上短くすべきではない理論上の最適値が存在する。この理論上の最適値は、
図2Bに例示したような、入力接続手段が有する入力接続寄生容量の変化を示す曲線の最小値(極小値)である。
図2Bには、圧電素子とステルス増幅器との間の距離に依存して増加する成分と距離に反比例して減少する成分の和として、入力接続寄生容量の距離依存性が示されている。「設定最短距離」は、理論上の最適値を基準として、現実の製造技術上の可能な値として設計上決められる値である。
【0008】
本発明の第2態様は、(g)音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部と、(h)この樹脂製ホーン部の先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、(i)樹脂製ホーン部の内部であって、圧電素子の外形を中心軸に沿って投影した背後領域からずれた位置に圧電素子から設定最短距離で配置され、圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、音場検出軸に平行な超音波が圧電素子を透過した透過波の反射波が圧電素子に入力しない、若しくは反射波の波面が一定以上の角度を持つことにより、波面が圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、(j)圧電素子とステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段を備える超音波受信器であることを要旨とする。第2態様に係る超音波受信器において、設定最短距離は、入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量の最小値(理論値)を基礎として、設計上決まる前記圧電素子と前記ステルス増幅器の間の距離である。入力接続寄生容量は、圧電素子とステルス増幅器との間の距離に依存して増加する成分と距離に反比例して減少する成分の和で与えられる。第2態様に係る超音波受信器における「設定最短距離」も、
図2Bに例示したような曲線の理論上の極小値に可能な限り近い値であることは、第1態様に係る超音波受信器と同様である。
【0009】
本発明の第3態様は、(l)音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部を一方の端部側に有する本体と、(m)先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、(n)樹脂製ホーン部の内部であって、圧電素子の外形を中心軸に沿って投影した背後領域に圧電素子と設定最短距離で配置され、圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ音場検出軸に平行な超音波が圧電素子を透過した透過波の反射特性を変更し、透過波の反射波が圧電素子に入力しない、若しくは反射波の波面が圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、(o)圧電素子とステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段と、(p)本体の他方の端部側に接続された外部端子と、(q)ステルス増幅器と外部端子との間を電気的に接続する出力接続手段と、(r)圧電素子に内在する信号源容量の50倍以上大きな外部接続寄生容量を有し、外部端子に接続された伝送線路と、(s)この伝送線路に接続された観測機器を備える超音波観測装置であることを要旨とする。第3態様に係る超音波観測装置において用いられる設定最短距離は、入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量が、外部接続寄生容量の1/10よりも小さな値となるように、設計上決まる圧電素子とステルス増幅器との間の距離である。
【0010】
本発明の第4態様は、(t)音場検出軸を中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部を一方の端部側に有する本体と、(u)先端に一部を露出して設けられた圧電素子と、(v)樹脂製ホーン部の内部であって、圧電素子の外形を中心軸に沿って投影した背後領域からずれた位置に、圧電素子から設定最短距離で配置され、圧電素子が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、音場検出軸に平行な超音波が圧電素子を透過した透過波の反射波が圧電素子に入力しない、若しくは反射波の波面が圧電素子に均一に入力しないように設定されたステルス増幅器と、(w) 本体の他方の端部側に接続された外部端子と、(x)ステルス増幅器と外部端子との間を電気的に接続する出力接続手段と、(y)圧電素子に内在する信号源容量の50倍以上大きな外部接続寄生容量を有し、外部端子に接続された伝送線路と、(z)この伝送線路に接続された観測機器を備える超音波観測装置であることを要旨とする。第4態様に係る超音波観測装置において用いられる設定最短距離は、入力接続手段に寄生する入力接続寄生容量が、外部接続寄生容量の1/10よりも小さな値となるように、設計上決まる圧電素子とステルス増幅器との間の距離である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンパクトな構造を有し、高感度かつS/N比の高い超音波受信器及びこの超音波受信器を用いた超音波観測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明の第1実施形態に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図1B】
図1Aの音場検出軸AXに関して、
図1Aに示した断面図と直交する方向から見た第1実施形態に係る超音波受信器の模式的な断面図である。
【
図1C】第1実施形態に係る超音波受信器の正面図である。
【
図1D】
図1Aの音場検出軸AXに直交する断面における、第1実施形態に係る超音波受信器の断面図である。
【
図2A】圧電素子と集積回路チップの間の距離と、圧電素子と集積回路チップを接続する配線に寄生する入力接続寄生容量を説明する図である。
【
図2B】圧電素子及び集積回路チップ間の距離に対する、圧電素子及び集積回路チップ間の入力接続寄生容量の変化を示す曲線である。
【
図3A】第1実施形態に係る超音波受信器の全体構造の一例を示す図である。
【
図3B】
図3Aに示した超音波受信器を外部機器(観測機器)に接続して、第1実施形態に係る超音波観測装置を構成する場合の例を説明する模式図である。
【
図3C】
図3Aに示した第1実施形態に係る超音波受信器の先端部Xを拡大して示す鳥瞰図である。
【
図4】超音波受信器に外部から超音波が到達し、圧電素子を透過した超音波(透過波)に関し、圧電素子に到達後240ns経過後に集積回路チップに透過波が到達するタイミングにおける、透過波の波頭の波面を説明する概念的な模式図である。
【
図5】
図4の超音波の超音波受信器の内部における伝播や反射の説明において用いられている波面の位置と形状を、音圧の強度として白黒図の濃淡で表現していることを説明する図である。
【
図6】
図4に示した透過波が集積回路チップで反射された後における、超音波(反射波)の波頭の波面の位置を、超音波が圧電素子に外部から到達後460ns経過後のタイミングで説明する概念的な模式図である。
【
図7】
図7(a)は外部から超音波が超音波受信器に到達する前(-20ns)、
図7(b)は外部から超音波が超音波受信器の圧電素子に到達した瞬間(0ns)、
図7(c)は超音波が圧電素子に到達後200ns経過後、
図7(d)は圧電素子に到達後400ns経過後のタイミングにおける透過波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図8】
図8(a)は圧電体層を構成する一対の電極板の電極面に対する集積回路チップの主面のなすチップ主面傾斜角θ=0°を説明する図、
図8(b)はチップ主面傾斜角θ=0°の場合において、透過波が集積回路チップの主面に到達した瞬間(180ns)、
図8(c)は超音波が圧電素子に到達後340ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図9】
図9(a)は圧電体層を構成する一対の電極板の電極面に対する集積回路チップの主面のなすチップ主面傾斜角θ=20°を説明する図、
図9(b)はチップ主面傾斜角θ=20°の場合において、透過波が集積回路チップの主面の中央部に到達した瞬間(220ns)、
図9(c)は超音波が圧電素子に到達後420ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図10】
図10(a)はチップ主面傾斜角θ=30°の場合において、透過波が集積回路チップの主面の中央部に到達した瞬間(240ns)、
図10(b)は超音波が圧電素子に到達後400ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、圧の強度として示す図である。
【
図11】
図11(a)はチップ主面傾斜角θ=40°の場合において、透過波が集積回路チップの主面の中央部の少し手前に到達した瞬間(260ns)、
図11(b)は超音波が圧電素子に到達後400ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図12】
図12(a)はチップ主面傾斜角θ=60°の場合において、透過波が集積回路チップの主面の端部(エッジ)に到達した瞬間(160ns)、
図12(b)は超音波が圧電素子に到達後260ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図13】
図13(a)はチップ主面傾斜角θ=90°の場合において、透過波が集積回路チップの主面の端面(側面)に到達した瞬間(160ns)、
図13(b)は超音波が圧電素子に到達後300ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図14A】チップ主面傾斜角θ=0°の場合における反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図14B】チップ主面傾斜角θ=10°の場合における反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図14C】チップ主面傾斜角θ=20°の場合における反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図14D】チップ主面傾斜角θ=30°の場合における反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図14E】チップ主面傾斜角θ=40°の場合における反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図14F】チップ主面傾斜角θ=50°の場合における反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図15】チップ主面傾斜角θとS/N比との関係を示す図である。
【
図16】超音波の波面と集積回路チップの主面とが交わる最小角度と、S/N比との関係を示す図である。
【
図17A】本発明の第2実施形態に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図17B】
図17Aの音場検出軸AXに関して、
図17Aに示した断面図と直交する方向から見た第2実施形態に係る超音波受信器の模式的な断面図である。
【
図18】
図18(a)はチップ主面傾斜角θ=90°、オフセット量D=0.3mmの場合において、透過波が集積回路チップの主面の端(側面)に到達した瞬間(160ns)、
図18(b)は超音波が圧電素子に到達後300ns経過後のタイミングにおける集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図19】
図19(a)はオフセット量D=0mmの場合において反射波の強度の時間変化を示す波形図、
図19(b)はオフセット量D=0.3mmの第2実施形態に係る超音波受信器における反射波の強度の時間変化を示す波形図である。
【
図20】第2実施形態に係る超音波受信器における集積回路チップのオフセット量DとS/N比との関係を示す図である。
【
図21A】本発明の第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図21B】
図21Aの音場検出軸AXに関して、
図21Aに示した断面図と直交する方向から見た第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器の模式的な断面図である。
【
図22A】第2実施形態の第1変形例を説明するために、垂直端面を有する集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=45°の場合において、透過波が集積回路チップの端部(エッジ)前に到達した瞬間(160ns)のタイミングにおける透過波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図22B】垂直端面を有する集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=45°の場合において、
図22Aに示した状態に引き続き、透過波が集積回路チップの端部から中央部の方向に向かって進行しているタイミング(220ns)における透過波の波頭の波面と、集積回路チップの端部で反射した反射波の波頭の波面を、それぞれ音圧の強度として示す図である。
【
図22C】垂直端面を有する集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=45°の場合において、
図22Bに示した状態に引き続き、透過波が集積回路チップの中央部から反対側の端部に向かって進行しているタイミング(280ns)における透過波の波頭の波面、集積回路チップの主面で反射した反射波、集積回路チップを透過した透過波等のそれぞれの波頭の波面を音圧の強度として示す図である。
【
図22D】垂直端面を有する集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=45°の場合において、
図22Cに示した状態に引き続き、透過波が集積回路チップの反対側の端部に到達したタイミング(340ns)における透過波の波頭の波面、集積回路チップの主面で反射した反射波、集積回路チップを透過した透過波等のそれぞれの波頭の波面を音圧の強度として示す図である。
【
図22E】垂直端面を有する集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=45°の場合において、
図22Dに示した状態に引き続き、透過波が集積回路チップの反対側の端部の位置を超えて更に進行したタイミング(400ns)における透過波の波頭の波面、集積回路チップの主面で反射した反射波、集積回路チップを透過した透過波等のそれぞれの波頭の波面を音圧の強度として示す図である。
【
図23】
図23(a)は、集積回路チップの端部を(11O)面として主面に対し約55°傾斜した傾斜端面とし、且つチップ主面傾斜角θ=90°、オフセット量D=0.4mmの場合において、透過波が集積回路チップの主面と傾斜端面との境界付近に到達した瞬間(200ns)における透過波の波頭の波面を、
図23(b)は
図23(a)に示した状態に引き続き、超音波が圧電素子に到達後380ns経過後のタイミングにおける集積回路チップの主面と傾斜端面との境界及び主面で反射した反射波の波頭の波面を、音圧の強度として示す図である。
【
図24】面取り角φ=45°の集積回路チップを有する第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器において、反射波の強度の時間変化に関し、オフセット量を変えて示す波形図である。
【
図25】面取り角φ=45°の集積回路チップを有する第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器における、集積回路チップのオフセット量とS/N比との関係を示す図である。
【
図26】チップ主面傾斜角θを、
図17Bに示したチップ主面傾斜角θより増大させた、本発明の第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器の構造を説明する模式的な断面図である。
【
図27】
図27(a)は、垂直端面を有する通常の集積回路チップを用いた例であり、チップ主面傾斜角θ=120°で、オフセット量D=0mmの場合において、透過波が集積回路チップの裏面側端部に到達した瞬間(160ns)の透過波の波頭の波面を、
図27(b)は
図27(a)に示した状態に引き続き、圧電素子に到達後240nsのタイミングにおける集積回路チップの裏面で反射した反射波の波頭の波面を、
図27(c)は、
図27(a)と同じ通常の集積回路チップをチップ主面傾斜角θ=120°としたままオフセット量D=0.4mmにした場合において、透過波が集積回路チップの主面側端部に到達した瞬間(180ns)の透過波の波頭の波面を、
図27(d)は
図27(c)に示した状態に引き続き、圧電素子に到達後240nsのタイミングにおける集積回路チップの主面に周り込んで進行している透過波の波頭の波面及び集積回路チップの主面側端部で反射した反射波の波頭の波面を、それぞれ音圧の強度として示す図である。
【
図28】垂直端面を有する集積回路チップをチップ主面傾斜角θ=120°とした第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器において、反射波の強度の時間変化に関し、オフセット量を変えて示す波形図である。
【
図29】垂直端面を有する集積回路チップをチップ主面傾斜角θ=120°とした第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器における、集積回路チップのオフセット量とS/N比との関係を示す図である。
【
図30A】本発明の第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図30B】
図30Aの音場検出軸AXに関して、
図30Aに示した断面図と直交する方向から見た第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の模式的な断面図である。
【
図31A】第3実施形態の比較例に係る超音波受信器において、超音波受信器の本体内に存在する出力線からの超音波の反射を説明する図である。
【
図31B】
図31Aに示した第3実施形態の比較例の構造において問題となる、出力線で反射した不要エコーの強度を示す波形図である。
【
図32】
図30Bに示す比較例に対応させて説明する図であり、
図30Aに示した断面図と直交する方向から見た第3実施形態に係る超音波受信器の模式的な断面図である。
【
図33A】第3実施形態に係る超音波受信器によれば、超音波受信器の本体内に出力線がある場合においても、衝立部材を配置することにより、出力線からの超音波の反射を抑制できることを説明する図である。
【
図33B】第3実施形態に係る超音波受信器において、出力線から反射した反射波による不要エコーの強度が見えなくなることを示す波形図である。
【
図34】本発明の第4実施形態に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図35】第4実施形態に係る超音波受信器において、チップ主面傾斜角θ=0°とした場合における、薄い集積回路チップに向かう透過波の波頭の波面と、薄い集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を示す図である。
【
図36】第4実施形態に係る超音波受信器において、チップ主面傾斜角θ=0°とした場合における、薄い集積回路チップに向かう透過波の波頭の波面と、薄い集積回路チップで反射した反射波の波頭の波面を示す図である。
【
図37】第4実施形態に係る超音波受信器において、集積回路チップの厚さとS/N比との関係を示す図である。
【
図38】本発明の第5実施形態に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図39】第5実施形態に係る超音波受信器において、チップ主面傾斜角θ=0°の場合における、ポリイミドチップに向かう透過波の波頭の波面と、ポリイミドチップで反射した反射波の波頭の波面を示す図である。
【
図40】第5実施形態に係る超音波受信器において、チップ主面傾斜角θ=90°の場合における、ポリイミドチップに向かう透過波の波頭の波面と、ポリイミドチップで反射した反射波の波頭の波面を示す図である。
【
図41】第5実施形態に係る超音波受信器において、集積回路チップをポリイミド基板にした場合において、集積回路チップからの反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図42】本発明のその他の実施形態に係る超音波受信器の概要を説明する模式的な断面図である。
【
図43】その他の実施形態に係る超音波受信器において、円柱型チップに向かう透過波の波頭の波面と、円柱型チップで反射した反射波の波頭の波面を示す図である。
【
図44】その他の実施形態に係る超音波受信器において、円柱型チップからの反射波のS/N比に与える影響を、反射波の強度として示す波形図である。
【
図45】球型の集積回路チップを有するその他の実施形態に係る超音波受信器において、球面の曲率半径と、球面からの反射波のS/N比に与える影響の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、図面を参照して、本発明の第1~第5実施形態を例示的に説明する。以下の第1~第5実施形態の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部材の大きさの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な厚み、寸法、大きさ等は以下の説明から理解できる技術的思想の趣旨を参酌してより多様に判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0014】
又、以下に示す第1~第5実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法及びその方法に用いる装置等を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等、方法の手順等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、第1~第5実施形態で記載された内容に限定されず、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば「上」、「下」は「左」、「右」に変換して読まれ、180°回転して観察すれば「上」、「下」や「左」、「右」はそれぞれ反転して読まれることは勿論である。
【0015】
(第1実施形態)
図1A及び
図1Bに示すように、本発明の第1実施形態に係る超音波受信器は、先細りのホーン形状をなす高分子材料からなる樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先細り側の先端に設けられた圧電素子(圧電性電気音響変換素子)10と、この樹脂製ホーン部(300,301)の内部において、圧電素子10に設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置されたステルス増幅器200aと、圧電素子10とステルス増幅器200aを電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)312及び樹脂製接地配線311を備える。
【0016】
ステルス増幅器200aは、圧電素子10に近ければ近いほどよいのではなく、式(3)を用いて後述するように、これ以上近づくと不利になる理論的な最小値がある。第1実施形態に係る超音波受信器においては、式(3)が規定する理論値に近づくように、プロセス技術上の制限等を考慮して設計した設定最短距離d
optが定義されている。そして、ステルス増幅器200aは、この設定最短距離d
optで、ステルス増幅器200aと圧電素子10の間の距離を規定することにより、圧電素子10とステルス増幅器200aを接続する入力接続手段の入力接続寄生容量C
strayを可能な限り小さな値にすることができる。樹脂製ホーン部(300,301)は、
図1A、
図1B及び
図1Dに示すように、主要部をなす絶縁性樹脂300と、絶縁性樹脂300を囲む表皮部となる薄い導電性樹脂層301で構成されている。
【0017】
圧電素子10は、第1電極板111と、第1電極板111に接した板状の圧電体層101と、圧電体層101に接し、圧電体層101を介して第1電極板111に平行に対向する第2電極板112を有する。圧電体層101としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜等の高分子圧電性膜が使用できる。PVDF膜は、音響インピーダンスが水の固有インピーダンスに近く優れたパルス応答特性を示し、且つ高感度、広帯域、低出力インピーダンス特性を有するため、ハイドロフォンとしての応用に好適であるが、PVDF膜に限定されるものではない。例えば、PVDF膜以外のフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体や、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、或いはピニリデンシアナイド系共重合体等の種々の圧電性膜が使用可能である。更にセラミックスや結晶性の圧電体膜でも構わない。又、高分子圧電性膜とセラミックスとの複合膜等でも構わない。
【0018】
なお、セラミックスや結晶性の圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が有名である。しかし、上述したとおり、音響インピーダンスの水との整合性等のため、PVDF膜をハイドロフォンに使う例の方が、PZTを使う例よりも多い。なお、PZTを超音波受信器の圧電素子に用いた場合は、圧電体層101の信号源容量Csignalが10pF程度と大きくなるので、圧電素子からステルス増幅器までの寄生配線容量を小さくする必要がなく、ステルス増幅器を無理して圧電素子の近くに置く必要がなくなる。これに対し、PVDF膜に代表される高分子圧電性膜の場合は、厚さを30μm程度に薄く設定しても、圧電体層101の信号源容量Csignalが0.01pF程度と極めて小さいので、ステルス増幅器をできる限り圧電素子の近くに置く効果が発揮できる。
【0019】
ステルス増幅器200aとしては、圧電素子10で電気音響変換により生成された電気信号を増幅する増幅回路(プリアンプ回路)を集積化した板状(直方体)の半導体集積回路チップ(以下において単に「集積回路チップ」と略記する。)が好適である。例えば、市販の広帯域オペレーショナル・アンプリファイア用の集積回路チップには、入力端子に保護回路素子等が取り付けられており、この保護回路素子等の浮遊容量が0.1~1pF程度ある。そのような集積回路チップを、第1実施形態に係る超音波受信器に用いる集積回路チップとして採用すると、保護回路素子等の浮遊容量のために受信信号の電圧振幅が1/10以下に減弱してしまい、本発明の目的を損なうことになる。そこで、第1実施形態に係る超音波受信器に用いる集積回路チップには、入力端子の保護回路素子を省略するか、保護回路素子等の浮遊容量を通常の1/10以下とした集積回路チップを用いる必要がある。
【0020】
ステルス増幅器200aを構成するシリコン(Si)などの半導体材料は、PVDF膜に比して、数倍の音響インピーダンスを持つので、樹脂製ホーン部(300,301)を構成している絶縁性樹脂300との境界において超音波が反射される。集積回路チップの主面の周囲には
図1Aに示すように、ボンディングパッド211,212,221,222,223が配置されている。ボンディングパッドの一つである入力パッド(接地側)211には、導電性エポキシ樹脂等の樹脂性接地配線311が入力接続手段(第1内部配線)として接続されている。樹脂性接地配線311は、圧電素子10の表面(外側面)側に設けられた第1電極板111に接続され、入力パッド211は樹脂性接地配線311を介して第1電極板111に電気的に接続されている。
【0021】
一方、ボンディングパッドの他の一つである入力パッド(信号側)212には、導電性エポキシ樹脂等の樹脂製信号配線312が他の入力接続手段(第2内部配線)として接続されている。樹脂製信号配線312は、圧電素子10の裏面(内側面)に位置する第2電極板112に接続されるので、入力パッド(信号側)212は、樹脂製信号配線312を介して第2電極板112に電気的に接続される。ステルス増幅器200aを構成する集積回路チップの主面の周囲には、チップに集積化された増幅回路で増幅した信号を、
図3Aに示した外部端子500に出力するための出力パッド222がボンディングパッドとして設けられている。
図3Aから分かるように、出力パッド222と外部端子500の間は、出力接続手段(出力リード線)437によって電気的に互いに接続されている。更に、ステルス増幅器200aを構成する集積回路チップの主面の周囲には、図示を省略した外部端子から接地電位を受け取るための接地パッド221、外部端子から電源電位を受け取るための電源パッド223等が、それぞれボンディングパッドとして設けられている。
【0022】
「ステルス増幅器200a」とは、圧電素子10を透過して圧電素子10を透過した超音波が集積回路チップで反射した反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは反射波の波面が一定以上の角度を圧電体層101の主面に対して持つことにより、波面が均一に圧電体層101の主面に入力しないという「超音波に対する低被探知性(ステルス性)を特徴とする増幅器」という意味である。仮にステルス増幅器200aからの反射波が圧電素子10に入射する場合であっても、反射波の波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面と一定以上の角度をもてば、正音圧に曝らされる圧電体層101の部分と負音圧に曝らされる圧電体層101の部分で、圧電性電気音響変換で発生する起電力が相殺される。起電力が相殺されることにより、電気に変換される比率が低く抑えられ、ステルス増幅器200aのステルス性に寄与できる。
【0023】
既に述べたように、従来、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅する増幅回路(プリアンプ)を圧電素子10の近傍に配置するという考え方はあった。しかし、増幅器を圧電素子10の近傍に配置しようとすると、圧電素子10を透過した透過波が集積回路チップで反射し、反射波が圧電素子10に再入力することにより、最初に変換された電気信号と遅延時間のずれた信号となり不要エコーが発生し、音圧-電圧応答特性が劣化する問題が新たに生じ、得策ではないことが判明した。本発明者らは、この点について鋭意検討を重ねた結果、ステルス増幅器200aとして用いる集積回路チップの材料、サイズ、形状及び位置関係等の低被探知性に必要な構造を検討した。超音波に対する低被探知性に必要な集積回路チップのサイズには厚さも含まれる。
【0024】
又、超音波に対する低被探知性に必要な集積回路チップの位置関係には、圧電素子10と集積回路チップとの相対的な位置関係や配置場所、圧電素子10を構成する第1電極板111の主面の方向に対する集積回路チップの相対的な向きや角度が含まれる。第1実施形態に係る超音波受信器では、これらの低被探知性のうち、第1電極板111の主面の方向に対する集積回路チップの相対的な傾斜角θについて検討し、不要エコーの問題を解消した。この結果、第1実施形態に係る超音波受信器によれば、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号のS/N比を大幅に改善できる顕著な効果を見出した。
【0025】
第1実施形態に係る超音波受信器は、
図3A及び
図3Cに示すように、音場検出軸AXを中心軸として有し、音場検出軸AXを中心に回転対称となるような外形を有するものとする。「音場検出軸AX」は、圧電素子10の中心を通り、第1電極板111の主面の法線方向に平行に超音波受信器の中心を貫通する中心軸である。説明の便宜上、
図3A及び
図3Cに示す音場検出軸AXが延びる方向を「軸方向」と定義し、音場検出軸AXに垂直な方向を「径方向」と称することにする。軸方向のうち、圧電体層101が配置される方向を超音波受信器の先端側と称することにする。以下の説明から分かるように、圧電素子10を透過し、超音波受信器内を進行する透過波の波面は、曲面を有していたり、複数の波の混合となっていたりする。特に断りがない限り、圧電体層101の中心を透過した透過波の主要部の波面は、
図5(b)に例示したように、第1電極板111の主面の方向と概ね平行な平面波であるものとする。第1電極板111と第2電極板112は互いに平行であるので、圧電体層101の中心を透過した透過波の主要部の波面は第2電極板112の主面の方向とも概ね平行である。
【0026】
図4では、圧電素子10の径方向の一端(上端)の点及び他端(下端)の点を、それぞれ発信源として、あたかも連続波の波面が扇状に出ているように、圧電素子10のエッジからの回折波を表現しているが、
図4の波面の表現は概念を示すための模式的なモデル図に過ぎない。
図4のホーン形状をなす絶縁性樹脂300の外部にも、外部から到達した超音波(被検出超音波)がホーンの外壁側で進行している様子が示されている。ホーン形状をなす絶縁性樹脂300の外部には、圧電素子10のエッジからの被検出超音波の回折波の波面も示されている。
図4以降の図面においては、波面の形状や位置の表示を簡略化するため、超音波受信器に入力する超音波は、スパイク励振されたデルタ関数に近いウェイブレット状の超音波であるかのように、2~3本の波面に単純化した線図で超音波の伝播を表現しているが、ウェイブレット状の超音波に限定する趣旨ではない。
【0027】
即ち、
図4以降の図面で表現されているモデル波形は、ウェイブレットを模す趣旨で示している訳でもないことにも留意が必要である。代表的周波数の正弦波を1波長分で断ち切った波は,代表的周波数を中央とする幅広いスペクトルを含む。即ち、
図4以降の図面における、正弦波を1波長分で断ち切った波は、広帯域性の要求されるハイドロフォンの評価に適するので使っている。なお、超音波受信器の樹脂製ホーン部(300,301)内を伝播する超音波の音圧強度の絶対値については、
図5(a)及び
図5(b)に示すような多階調単色画像(グレースケール)で表すのが基本であるが、その波面については、
図4の表現のように、単純化された実線又は点線で表す場合がある。正弦波を1波長分で断ち切った波で波面の形状や位置を示すことは、実際に超音波受信器に入力する超音波が
図5(a)に示す正弦波等の連続波である場合においては、
図5(b)及び(c)の表示手段を用いて
図7~
図14等に示す透過波や反射波の波面は、連続波を構成している「波頭の波面」のみを図示し、波頭に続く後続の波面の図示を省略していることと等価である。
【0028】
圧電体層101の中心を透過した透過波の波面は、第1電極板111の主面の方向と概ね平行な平面波であると仮定したが、実際には、
図7(c)及び
図7(d)に示すように、超音波受信器内の樹脂製ホーン部(300,301)内を伝播する超音波の波面は、曲面を有し、且つ複数の波の混合となっている。時系列に沿って説明するために、先ず、
図7(a)は外部から超音波が超音波受信器に到達する前の-20nsのタイミングにおける樹脂製ホーン部(300,301)内の状態を示す。次に、
図7(b)は外部から超音波が超音波受信器の圧電素子10に到達した瞬間(0ns)の樹脂製ホーン部(300,301)内の状態を示すが、この状態では-20nsのタイミングにおける状態と樹脂製ホーン部(300,301)内部に変化はない。
図7(c)は超音波が圧電素子10に到達後200ns経過後の状態であり、圧電素子10の中央を透過した平面波である透過波の上部に、圧電素子10の径方向の一端(上端)の点を発信源とする曲面状波面を有する、圧電素子10のエッジからの回折波とが合成している。更に、圧電素子10の中央を透過した平面波の下部に、圧電素子10の径方向の他端(下端)の点を発信源とする曲面状波面を有する回折波とが合成した複雑な波面の形状になっている。
【0029】
樹脂製ホーン部(300,301)の外部にも、200ns経過後のタイミングにおける、外部超音波がホーンの外壁側で進行している様子が示されている。
図4で説明したとおり、樹脂製ホーン部(300,301)の外部では、200ns経過後のタイミングで、圧電素子10のエッジからの回折波がホーンの外壁に沿って進行している。
図7(d)は、圧電素子10に超音波が到達後400ns経過後のタイミングにおける透過波の波頭の波面を、音圧の強度として示しているが、
図7(c)と同様に、平面波の上部に圧電素子10の径方向の上端の点を発信源とする曲面状波面を有する、圧電素子10のエッジからの回折波とが合成している。更に、平面波の下部に圧電素子10の径方向の下端の点を発信源とする曲面波の回折波とが合成した複雑な波面の形状になっている。
図7(d)の樹脂製ホーン部(300,301)の外部には、400ns経過後のタイミングにおける、外部超音波がホーンの外壁側で、
図7(c)に示した状態よりも更に右側に進行している様子が示されている。
図7(d)の樹脂製ホーン部(300,301)の外部では、400ns経過後のタイミングで、圧電素子10のエッジからの回折波がホーンの外壁に沿って、
図7(c)に示した状態よりも更に右側に進行している。
【0030】
図9(a)に定義するように、第1実施形態に係る超音波受信器において、第1電極板111の主面の方向に対する透過波に曝露される集積回路チップの主面のなす角度を、「チップ主面傾斜角θ」と称することにする。「主面」とは、第1電極板111及び集積回路チップを構成するそれぞれの立体形状において、最も広い面積を占める面を意味する。直方体状の平板形状においては、互いに平行な2つの主面が存在する。圧電体層101の中心を透過した透過波の主要部の波面は第1電極板111の主面の方向と概ね平行であるとの前提が成立する場合においては、ステルス増幅器200aを構成する集積回路チップに到達した透過波の波面と、この波面の接平面に対する集積回路チップの主面のなす角度が、チップ主面傾斜角θになる。波面の接平面と音場検出軸AXは互いに直交している。又、集積回路チップの主面の方向と、主面の法線方向は互いに直交している。したがって、チップ主面傾斜角θは、ステルス増幅器200aとして用いている集積回路チップの主面の法線方向と音場検出軸AXのなす角度と等価である。
【0031】
ステルス増幅器200aを構成する板状の集積回路チップは通常6面を有するが、増幅回路(プリアンプ)等の構成に必要な回路素子が形成される側の主面である表面、表面と反対側の裏面、更に、集積回路チップが一定の厚さを有する場合には、表面と裏面を接続する4つの側面(端面)が含まれる。尚、第1実施形態に係る超音波受信器においては、集積回路チップの主面は、平坦であると仮定している。超音波の波面が上述のように一定でないときは、集積回路チップに到達した透過波の波面の接平面と透過波に曝露される集積回路チップの主面とのなす角度のうち、最小角度を「チップ主面傾斜角θ」というものとする。
【0032】
板状の圧電体層101の外側面に接続される第1電極板111は、例えば、接地電極であり、樹脂性接地配線(入力接続手段)311を介してステルス増幅器200aに接続される。圧電体層101の内側面に接続される第2電極板112は、例えば、信号電極であり、樹脂製信号配線(入力接続手段)312を介してステルス増幅器200aに圧電素子10の信号が伝送される。圧電素子10は、例えば、0.1~100MHzの超音波を検出し、これを電気信号に変換する。ステルス増幅器200a内の増幅器は、第1電極板111及び第2電極板112間に電気音響変換で発生した電気信号を増幅する機能を有する。
【0033】
図1A及び
図1B等の右側に示すように、ステルス増幅器200aを内蔵する樹脂製ホーン部(300,301)の先端とは反対側の径が太い側には、樹脂製円柱状部が連続している。樹脂製円柱状部の右側の端部側は、
図3Aに示すように更に拡がり、段差構造をなしている。この段差構造をなす樹脂製円柱状部は、
図1A等の右側に示したように、金属製の筒状筐体800の内部に収納されている。即ち、第1実施形態に係る超音波受信器は、
図1A,
図1B、
図3A及び
図3C等に示すように樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)に連続した段差構造をなす樹脂製円柱状部と、樹脂製円柱状部を内部に収納する筒状筐体800とが一体となることにより本体(300,301,800)が構成されている。筒状筐体800は、圧電素子10が先端に配置される樹脂製ホーン部(300,301)には配置されない。樹脂製ホーン部(300,301)の主要部をなす絶縁性樹脂300は、超音波受信器の最先端側において、圧電体層101とステルス増幅器200aの位置関係を決定し固定している。
【0034】
図2Aに示すように、圧電素子10が、第1電極板111、圧電体層101及び第2電極板112で構成されているとする。超音波受信器の外部との容量カップリングを抑制するために、外側の第1電極板111を接地し、それに対向する内側の第2電極板112を信号電極とする。第2電極板112は、樹脂製信号配線312を介してステルス増幅器200aの入力と電気的に接続される。また、ステルス増幅器200aの外周の大部分は、
図1A、
図1B及び
図1Dに示すように導電性樹脂層301によって被膜され、交流的には、接地電極に接続されているとみなすことができる。
図2Aにおいて、第1電極板111と第2電極板112の間の電気容量のうち、圧電素子10以外の入力接続寄生容量C
strayについて考える。
【0035】
図1A、
図1B及び
図1D等に示したように、入力接続手段(樹脂製信号配線)312と接地電位の間の寄生容量C
lineは、位置の関数となり:
C
line=C
11+…C
1(j-1)+C
1j+…C
21+…C
2(k-1)+C
2k+…C
31+…C
3(l-1)+C
3l
+…C
41+…C
4(m-1)+C
4m+… ………(1)
と表現できる。このため、寄生容量C
lineは、第2電極板112とステルス増幅器200aの間の距離dに依存する成分になる。圧電素子10以外の入力接続寄生容量C
strayには、式(1)で示したC
lineの他に、第1電極板111と樹脂製信号配線312の間、及び第1電極板111とステルス増幅器200aの間の寄生容量C
areaが存在する。寄生容量C
areaは、dに反比例する成分であり、dが小さくなるとdに反比例する成分の寄与が大きくなる。式(1)で示したC
lineは、厳密にはdに比例しないが、近似的にdに比例する成分とみなす。
【0036】
すると、入力接続手段(樹脂製信号配線)312の周りの入力接続寄生容量C
strayは、dに反比例する成分の比例定数A及びdに比例する成分の比例定数Bを用いて
C
stray=A/d+Bd ………(2)
と、近似できる。即ち、入力接続寄生容量C
strayは、dに反比例する成分とdに比例する成分との和によって近似することができ、
図2Bに示すような曲線で表すことができる。
【0037】
式(2)の入力接続寄生容量C
strayの値を最小にするd=d
optの値は、
d
opt=(A/B)
1/2 ………(3)
となる。即ち、
図2Bに示す曲線のように、入力接続手段(樹脂製信号配線)312の周りの入力接続寄生容量C
strayは、理論最短距離d
idl=(A/B)
1/2のときに、
図2Bに示す曲線も極小値としての最小値をとる。第1実施形態に係る超音波受信器によれば、ステルス増幅器200aとしての集積回路チップを圧電素子10から理論最短距離d
idl離間した近傍位置に配置することにより、入力接続寄生容量C
strayを0.1pF程度に抑えた増幅器内蔵型の構造が実現できる。そして、入力接続手段(樹脂製信号配線)312の周りの入力接続寄生容量C
strayを0.1pF程度に抑えることにより、受信電圧感度を従来よりも向上させることができる。
【0038】
一方、理論最短距離d
idlよりも短い距離の位置にステルス増幅器200aを配置すると、
図2Bの曲線が示すように、両者間の入力接続寄生容量C
strayが1pF程度に増大し、却って受信電圧感度が低下する。例えば、圧電素子10とステルス増幅器200aの間の空間を満たす絶縁性樹脂300の比誘電率を3.4程度とする。更に、第1電極板111の面積を0.1mm
2程度とし、第2電極板112とステルス増幅器200aを結ぶ樹脂製信号配線312の第1電極板111に対する電気容量を100pF/m程度と仮定すると、A=3pF/m程度、B=100pF/m程度と見積もることができ、理論最短距離d
idlの値は200μm程度と見積もることができる。このように、第1実施形態に係る超音波受信器では、ステルス増幅器200aを圧電素子10の間の距離は、絶縁性樹脂300の比誘電率や第1電極板111の面積にも依存するが、理論最短距離d
idl=150~250μm程度にすることが望ましいが、現実の製造技術上の制限を考慮すると、設定最短距離d
opt=450~550μm程度にすることが望ましい。
【0039】
即ち、第1電極板111とステルス増幅器200aの間の距離dを設定最短距離dopt程度の値に設定することによって、受信感度低下の要因となる入力接続寄生容量Cstrayを比較的小さく抑えることができる。なお、理論最短距離didl=150~250μm程度、設定最短距離dopt=450~550μm程度という値は単なる例示に過ぎず、これらの値に限定されるものではない。又、現実の製造技術を鑑み、
didl <dopt
………(4)
の場合について例示的に説明したが、製造技術の技術革新により
didl ≒dopt
………(5)
とすることが可能なことは言うまでもない。
【0040】
なお、本体(300,301,800)は、樹脂製ホーン部(300,301)と樹脂製ホーン部(300,301)の太い径側に連続し、且つ段差構造をなす樹脂製円柱状部で構成されている。この段差構造をなす樹脂製円柱状部は、円柱の径を太くできるので、ステルス増幅器200aと外部端子500の間を電気的に接続する出力接続手段437に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低くするのは比較的容易である。又、ステルス増幅器200aと外部端子500の間の距離を短くすることにより、出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができる。更に、圧電素子10の出力電圧を、ステルス増幅器200aで十分に高い電圧に増幅できれば、出力接続寄生容量Coutが寄与することによる、出力電圧減少という不利益も抑制できる。
【0041】
図4に示すように、従来の超音波受信器において、圧電素子10は超音波を検出するが、その超音波は、圧電素子10を透過して、透過波となり超音波受信器の本体(300,301,800)の内部に進入する。
図7に示すように、本明細書の説明では、超音波が一定周波数の連続波の波形又はウェイブレット」状の波形を有する場合において、その超音波が圧電素子10に到達した時点を0nsとする。
図4の例では、圧電素子10を透過した透過波は、240ns後に集積回路チップ200に到達している。更に
図6に示すように、460ns後には、集積回路チップ200からの反射波(不要エコー)が再び圧電素子10に到達している。
図6に示したような反射波は、不要エコーとして再び圧電素子10に到達してノイズとなるため、圧電素子10が本来検出すべき信号のS/N比を悪化させる。この状況は、超音波受信器の先端部の直径が0.5~3mm程度のものに対して、集積回路チップ200の厚さが3μm以上、一辺の長さが0.3mm以上になると、特に顕著となる。なお、
図6の絶縁性樹脂300の外部には、外部超音波(被検出超音波)がホーンの外壁側で、
図4に示した状態よりも右方向に進行している様子が示されている。
図6の絶縁性樹脂300の外部には、圧電素子10のエッジからの被検出超音波の回折波の波面が、
図4に示した状態よりも右方向にホーン形状に沿って進行している。
【0042】
そこで、第1実施形態に係る超音波受信器では、集積回路チップが第1電極板111を透過した透過波の伝播経路上に配置される場合に、チップ主面傾斜角θが30°以上、60°以下となるように集積回路チップの主面の角度を設定してステルス増幅器200aとして用いる。具体的には、
図1Aに示すように、圧電素子10の径方向の一端(上端)から軸方向に延びる仮想線901と、圧電素子10の径方向の他端(下端)から軸方向に延びる仮想線902を定義する。そして、
図1Aの仮想線901と仮想線902との間の領域を圧電素子10の「背後領域」と定義する。圧電素子10が円形であれば、背後領域は、圧電素子10の中心を通り、第1電極板111の法線方向に平行となる音場検出軸AXを中心軸とする、圧電素子10の外周を投影した円柱状の領域である。第1実施形態に係る超音波受信器においては、
図1Aに定義した背後領域にステルス増幅器200aが存在するときは、ステルス増幅器200aが圧電素子10からの超音波を受ける位置にあるものとする。
【0043】
この場合に、
図9(a)に示した第1電極板111の主面方向を表す仮想線911と、超音波に曝露される集積回路チップ200の主面の傾きを表す仮想線912とのなす角度であるチップ主面傾斜角θが30°以上、60°以下となるようにする。このように、第1実施形態に係る超音波受信器においては、ステルス増幅器200aを、チップ主面傾斜角θだけ主面の方向が傾斜した集積回路チップで実現することで、集積回路チップ200による不要エコーの発生を抑制するというステルス効果が得られる。不要エコーが発生しないステルス効果により、結果として第1実施形態に係る超音波受信器のS/N比を向上させることができる。
【0044】
尚、チップ主面傾斜角θの下限となる30°は、後述する
図15に示す解析結果から、現実的に最低限必要とされるS/N比(例えば、28dB)を達成するために得られた下限値である。また、チップ主面傾斜角θの上限60°も
図15に示す解析結果から、現実的に最低限必要とされるS/N比(例えば、28dB)を達成するために得られた上限値である。なお、超音波に曝露される主面(表面)以外の集積回路チップ200の他方の主面(裏面)を考慮すると、チップ主面傾斜角θ=0°以上、90°以下の範囲では、不要エコーの問題は、透過波に曝露される主面について検討すれば十分である。第1実施形態に係る超音波受信器においては、チップ主面傾斜角θ=90°を超えると、いままで超音波に曝露されていなかった他方の主面に超音波が曝露されるようになるが、
図15に示す解析結果を考慮して上限を60°と設定している。
【0045】
図3Aに示すように、第1実施形態に係る超音波受信器の筒状筐体800は、軸方向先端側と反対側の端部側に外部端子500を有する。外部端子500は、他の機器に同軸ケーブル等の伝送線路510を介して接続するコネクタである。
図3Aに示したように、ステルス増幅器200aを構成する集積回路チップに設けられた出力パッド222と外部端子500の間は出力接続手段(出力リード線)437によって接続されているので、ステルス増幅器200aの出力は外部端子500に導かれている。本発明の第1実施形態に係る超音波観測装置は、
図3Bに示すように、本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方の端部側に接続された伝送線路510と、伝送線路510に接続された観測機器520を備える。
図3Bに示すように、同軸ケーブル等の伝送線路510を介して観測機器520が接続されるケーブル付タイプの場合、オシロスコープ等の観測機器520との接続が容易化される。なお、
図3Aに示した外部端子500に他の機器を直結すれば、伝送線路510の有する外部接続寄生容量C
extの影響の問題を解消できる。任意の超音波の空間分布を正確に測定するため必要なハイドロフォン受圧面の寸法は、サンプリング定理に従えば、超音波波長の1/2以下でなくてはならない。超音波周波数が10MHzの場合、その寸法は、λ/2=0.075mm
Φという小さな寸法になる。
【0046】
PVDF膜を圧電体層101とした場合、前述のように、PVDF膜の厚さt=30μmで、圧電素子10の信号源容量Csignalを0.01pF程度と極めて小さくできる。しかし、10cmの同軸ケーブルは、10pF程度の寄生容量(外部接続寄生容量)Cextを有する。そのような外部接続寄生容量Cextを有する同軸ケーブルを伝送線路510として用いて、圧電素子10に生じた電圧を、オシロスコープ等の観測機器520と接続して観測しようとすると、観測される電圧値は、直接測定できたとした場合の僅か1/1000となってしまう。この観測電圧値では実用からほど遠いので、超音波の空間分布については、波長の数倍以下の寸法で細かく変動する分布を測定することを諦め、上記の0.075mmΦの数倍の寸法、すなわち0.075mmΦよりも面積が1桁程度大きな受圧面をもつ構成が、従来技術においても、一般的となっている。
【0047】
測定可能な空間分布の細かさについて妥協することは、ハイドロフォンの指向性を狭く設定することと等価である。なお、オシロスコープ等の観測機器520に表示される受信電圧波形が、超音波受信器の受信音圧波形をよく近似するためには、圧電素子10に優れたパルス応答特性が要求される。PVDF膜に代表される高分子圧電材は、PZTに代表される圧電セラミックに比べて、誘電率が2桁近くも低く、そのため伝送線路510などの容量の影響を強く受けて電圧感度が低くなりやすいという難点がある。しかし、既に述べた通り、PVDF膜の音響インピーダンスが水の固有インピーダンスに近い。音響インピーダンスの整合性が優れたパルス応答特性につながるために、ハイドロフォン用の圧電素子10に用いる圧電体層101としては、PZTよりもPVDF膜が広く使われている。
【0048】
第1実施形態に係る超音波受信器では、
図4等に例示したように、音波が左側から右側の正面方向に伝播している場合について表現しているが、第1実施形態に係る超音波受信器が一方向にしか伝播しない超音波のみを検出する技術に限定しているのではない。特に、医用超音波装置では、任意の超音波の空間分布を正確に測定することが求められており、任意の方向に超音波は伝播している。但し、第1実施形態に係る超音波受信器では、現在の技術レベルで可能な寸法という意味で、任意の方向から超音波受信器に到来する超音波を均一に近い感度にて受信することを断念した結果、便宜上、超音波受信器の受圧面に対してほぼ正面から到来する超音波を主な測定対象としているに過ぎない。即ち、本発明が超音波受信器の受圧面に対してほぼ正面から到来する超音波のみを対象としているのではないことに留意が必要である。第1実施形態に係る超音波受信器によれば、圧電素子10とステルス増幅器200aとが本体(300,301,800)内にコンパクトに組み込まれた構造において、ステルス増幅器200aとして用いる集積回路チップのチップ主面傾斜角θを、30°以上、60°以下となるように設定することで、ステルス増幅器200aからの不要エコーの問題を解消できる。したがって、第1実施形態に係る超音波受信器によれば、受信電圧感度の向上と共に、S/N比の改善を図ることができる。
【0049】
まず、
図8(a)に示すようにチップ主面傾斜角θが0°の場合は、
図8(b)に示すように、時刻180nsに透過波が集積回路チップ200の主面に到達する。その後、時刻340nsには、
図8(c)に示すように、透過波が集積回路チップ200を透過して伝播すると同時に、集積回路チップ200の主面で反射した反射波(不要エコー)が圧電素子10に再入力される。シミュレーション結果として、
図14Aに示すように、圧電素子10における受信電圧波形が時刻340ns付近のタイミングから増加していることが確認された。その結果、S/N比が目標値である28dBよりも小さくなることが分かった。
【0050】
次に、
図9(a)に示すようにチップ主面傾斜角θ=20°の場合は、
図9(b)に示すように、時刻220nsに透過波が集積回路チップ200の主面の中央に到達する。その後、時刻420nsには、
図9(c)に示すように、透過波が集積回路チップ200の主面の端部に到達し、端部を反射点として伝播する反射波や集積回路チップ200を透過して伝播する波等が混在すると同時に、集積回路チップ200の主面で反射した反射波が圧電素子10の近傍に到達している。シミュレーション結果として、チップ主面傾斜角θが20°のときの圧電素子10の受信電圧波形も、
図14Cに示すように、時刻420ns付近のタイミングから増加していることが確認された。その結果、S/N比が目標値である28dBよりも小さくなることが分かった。なお、チップ主面傾斜角θ=10°の場合の波面の変化を図示していないが、チップ主面傾斜角θが10°のときの圧電素子10の受信電圧波形は、
図14Bに示すように、時刻340ns付近のタイミングから増加していることが確認された。その結果、S/N比が目標値である28dBよりも小さくなることが分かった。
【0051】
チップ主面傾斜角θ=30°の場合は、
図10(a)に示すように、時刻240nsに透過波が集積回路チップ200の主面の中央に到達する。その後、時刻400nsには、
図10(b)に示すように、透過波が集積回路チップ200の主面の端部に到達し、端部を反射点として伝播する反射波や集積回路チップ200を透過して伝播する波等が混在する。一方、集積回路チップ200の主面で反射した反射波の波面は圧電素子10の近傍に到達していない。シミュレーション結果として、チップ主面傾斜角θが30°のときの圧電素子10の受信電圧波形も、
図14Dに示すように、反射波が圧電素子10に再入力されると想定される時刻においてもほとんど増加していないことが確認された。その結果、S/N比が目標値である28dB以上になることが分かった。
【0052】
チップ主面傾斜角θ=40°の場合は、
図11(a)に示すように、時刻260nsに透過波が集積回路チップ200の主面の中央に到達する。その後、時刻400nsには、
図11(b)に示すように、透過波が集積回路チップ200の主面の端部に到達し、端部を反射点として伝播する反射波や集積回路チップ200を透過して伝播する波等が混在する。一方、集積回路チップ200の主面で反射した反射波は集積回路チップ200の上方向に向かい、反射波の波面は圧電素子10の近傍に到達していない。シミュレーション結果として、チップ主面傾斜角θが40°のときの圧電素子10の受信電圧波形も、
図14Eに示すように、反射波が圧電素子10に再入力されると想定される時刻においてもほとんど増加していないことが確認された。その結果、S/N比が目標値である28dB以上になることが分かった。なお、チップ主面傾斜角θ=50°の場合の波面の変化を図示していないが、チップ主面傾斜角θが50°のときの圧電素子10の受信電圧波形も、
図14Fに示すように、反射波が圧電素子10に再入力されると想定される時刻においてもほとんど増加していないことが確認された。その結果、S/N比が目標値である28dB以上になることが分かった。
【0053】
チップ主面傾斜角θ=60°の場合は、
図12(a)に示すように、時刻160nsに透過波が集積回路チップ200の主面の手前側の端部に到達する。その後、時刻260nsには、
図12(b)に示すように、透過波が集積回路チップ200の主面の中央部付近に到達し、主面からの反射波や集積回路チップ200を透過して伝播する波等が混在する。一方、集積回路チップ200の主面の端部付近で反射した反射波は圧電素子10の近傍に到達している。チップ主面傾斜角θ=90°の場合は、
図13(a)に示すように、時刻160nsに透過波が集積回路チップ200の端面に到達する。その後、時刻300nsには、
図13(b)に示すように、透過波が集積回路チップ200の両方の主面の中央部付近に到達し、両方の主面からの反射波や集積回路チップ200を透過して伝播する波等が混在する。一方、集積回路チップ200の端面で反射した反射波は圧電素子10の近傍に到達している。
【0054】
以上のように、チップ主面傾斜角θが30°、40°、50°のときの圧電素子10の受信電圧波形は、
図14D~
図14Fに示すように、反射波(不要エコー)が圧電素子10に再入力されると想定される時刻においてもほとんど増加していない。この結果、ステルス増幅器200aとして用いる集積回路チップ200のチップ主面傾斜角θを30°以上、60°以下の範囲に設定すれば、S/N比の目標値である28dB以上が達成できることが分かった。更に、チップ主面傾斜角θを変えたシミュレーションを行うことにより、チップ主面傾斜角θとS/N比との関係として、
図15に示すような関係を得ることができた。
図15の横軸では、チップ主面傾斜角θを「チップ回転角θ(傾斜角)」と表現していることに留意されたい。
【0055】
なお、
図7を用いて既に説明したように、超音波受信器の樹脂製ホーン部(300,301)内を伝播する超音波の波面は、実際には、曲面を有す場合や、複数の波の混合となる場合がある。対象とする超音波の波面が曲面の場合は、曲面をなす波面に対し複数の接平面が存在する。したがって、集積回路チップ200に到達した波面が曲面の場合は、超音波に曝露される集積回路チップ200の主面に対し、複数のチップ主面傾斜角θが存在する。よって、集積回路チップ200に到達する透過波の波面が曲面の場合は、集積回路チップ200の主面が規定する複数の傾斜角のうちの最小角度となる接平面を選択して、
図16の横軸の最小角度を決定する。即ち、集積回路チップ200に到達する透過波の波面が曲面の場合は、
図16の横軸に示した最小角度によって、ステルス増幅器200aとして必要な傾斜角を定義し、最小角度が30°以上である場合に、S/N比の目標値28dB以上が得られる。
【0056】
以上のとおり、第1実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、圧電素子10とステルス増幅器200aを樹脂製ホーン部(300,301)の内部に一体化して固定したコンパクトな構造を実現し、高感度かつS/N比の高い超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。特に、水との音響インピーダンスの整合性の良いPDVF膜が圧電素子10に使用可能で、PVDF膜を用いた場合であっても、入力接続寄生容量Cstrayを小さくできるので、PVDF膜の優れたパルス応答特性を活用し、医用超音波装置が発する微少な超音波を測定するために待望されていた、高感度かつS/N比の高いハイドロフォン及びこのハイドロフォンを用いた超音波観測装置を提供できる。
【0057】
(第2実施形態)
図17A及び
図17Bに示すように、本発明の第2実施形態に係る超音波受信器は、超音波の進行方向に平行な音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域からずれた位置に配置されたステルス増幅器200bと、圧電素子10とステルス増幅器200bとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)312を備える。ステルス増幅器200bは、式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200bは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは、圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に対し波面が一定以上の角度を持つことにより、圧電体層101の主面に波面が均一に入力しないように設定されている。
【0058】
圧電素子10は、PVDF膜等の板状の圧電体層101と、圧電体層101を挟み込む第1電極板111と第2電極板112を有する。圧電体層101の外側面に接続される第1電極板111は、樹脂性接地配線311を介してステルス増幅器200bを構成する集積回路チップの主面(表面)に設けられた入力パッド(接地側)211に接続される。圧電体層101の内側面に接続される第2電極板112は、樹脂製信号配線312を介してステルス増幅器200bを構成する集積回路チップの主面に設けられた入力パッド(信号側)212に接続される。ステルス増幅器200bは、増幅回路(プリアンプ)を構成する回路素子をモノリシックに集積化している。
【0059】
また、ステルス増幅器200bを構成する集積回路チップの主面には、
図3Aに示した外部端子500から接地電位を受け取るための接地パッド221と、外部端子500に集積回路チップに集積化された増幅回路で増幅した信号を出力するための出力パッド222と、外部端子から電源電位を受け取るための電源パッド223がそれぞれ設けられている。即ち、図示を省略しているが、
図3Aに示したのと同様に、第2実施形態に係る超音波受信器は、本体(300,301,800)は、軸方向に沿って先端側と反対側の端部側に、外部端子500を有する。外部端子500は、
図3Bに示したのと同様に、観測機器520に同軸ケーブル等の伝送線路510を介して接続する端子である。
【0060】
第1実施形態に係る超音波受信器と同様に、第2実施形態に係る超音波受信器においても、圧電素子10の径方向の一端(上端)から軸方向に延びる仮想線901と、圧電素子10の径方向の他端(下端)から軸方向に延びる仮想線902との間を「背後領域」と定義している。
図17Bに示すように、第2実施形態に係る超音波受信器においては、ステルス増幅器200bは背後領域から外れた位置において、圧電素子10から設定最短距離d
opt離間した圧電素子10の近傍に配置されている。第1実施形態に係る超音波受信器で説明したとおり、圧電素子10とステルス増幅器200bの間の設定最短距離d
optは、圧電素子10とステルス増幅器200b間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)312の入力接続寄生容量C
strayを考慮して最適値に設定されている。第1実施形態に係る超音波受信器では、背後領域にステルス増幅器200aを配置したため、ステルス増幅器200aが圧電素子10を透過した透過波を受けるが、第2実施形態に係る超音波受信器においては、ステルス増幅器200bは透過波に曝露されない位置に配置されているので、ステルス増幅器200bのチップ主面傾斜角θは、30°以上、60°以下にする必要はない。
【0061】
図1CのA-A’方向から見た断面に対応する
図17Aに示す水平断面図において、ステルス増幅器200bの主面は、一見、圧電素子10の背後領域に存在し、圧電素子10を透過した透過波に曝露されるように見える。しかし、
図1CのB-B’方向から見た断面に対応する
図17Bの垂直断面で見た場合、圧電素子10の背後領域から外れた領域に存在し、ステルス増幅器200bの主面は圧電素子10を透過した透過波に曝露されることはない。即ち、
図17Bの垂直断面で見た場合、ステルス増幅器200bは、圧電素子10からの透過波をなるべく受けないように、中心軸としての音場検出軸AXから径方向に一定距離となるオフセット量Dだけ移動した位置に配置されている。オフセット量Dは、例えば、音場検出軸AX上にステルス増幅器200bの基準位置があるとすれば、この基準位置に対して、圧電素子10の径方向のサイズの半分以上にすればよい。
【0062】
言い換えれば、第2実施形態に係る超音波受信器においては、ステルス増幅器200bは、軸方向先端側から音場検出軸AXに沿って超音波受信器を見た場合に、圧電素子10とオーバーラップしない位置に配置されている。これにより、不要エコーとして寄与する反射波の発生を抑制できる。更に、ステルス増幅器200bを、中心軸である音場検出軸AXから径方向にオフセット量Dだけ移動した位置に配置しているので、仮にステルス増幅器200bによって、反射波が発生した場合であっても、反射波の波面を、圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に一定以上の角度をもたせて、反射波の波面が圧電体層101の主面に均一に入射できないようにできる。反射波の波面が圧電素子10に均一に入射できないようにすることにより、正音圧に曝らされる圧電体層101の部分と負音圧に曝らされる圧電体層101の部分において、圧電性電気音響変換で発生する起電力が相殺され、起電力を小さな値にすることができる。
【0063】
図示を省略しているが、例えば2段の段差構造等で右側が太くなっている超音波受信器の本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方の端部側に設けられた外部端子と、外部端子に接続された伝送線路と、伝送線路によって接続された観測機器とを備えることにより、第2実施形態に係る超音波観測装置を構成できる。第2実施形態に係る超音波観測装置においては、伝送線路が、同軸ケーブルのように圧電素子10の信号源容量Csignalの50倍以上大きな外部接続寄生容量Cext、例えば外部接続寄生容量Cext≒10pF程度の値を有する場合であっても、設定最短距離doptを、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値となるように設定できる。信号源容量Csignalの50倍が外部接続寄生容量Cext、≒10pFとすれば、逆に信号源容量Csignal=0.2pFとなる。外部接続寄生容量Cext、≒10pFを固定して考えると、信号源容量Csignalの100倍は、信号源容量Csignal=0.1pFを意味し、1000倍は信号源容量Csignal=0.01pFを意味する。信号源容量Csignalの大きさに応じて、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値、例えばCext/20やCext/50、更にはCext/100以下になるように、設定最短距離doptを短く設定することにより、第2実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置のS/N比を向上させることができる。
【0064】
なお、本体(300,301,800)は、樹脂製ホーン部(300,301)と樹脂製ホーン部(300,301)の太い径側に連続し、且つ2段の段差構造で右側が更に太くなっている樹脂製円柱状部で構成されており、2段の段差構造をなす樹脂製円柱状部は、円柱の径を太くできるので、ステルス増幅器200bと外部端子500の間を電気的に接続する出力接続手段437に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低くするのは比較的容易である。又、ステルス増幅器200bと外部端子500の間の距離を短くして、第2実施形態に係る超音波受信器の出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができる。更に、圧電素子10の出力電圧を、ステルス増幅器200bで十分に高い電圧に増幅できれば、出力接続寄生容量Coutの寄与による不利益も無視できる。
【0065】
第1実施形態に係る超音波受信器と同様に、金属製の筒状筐体800内には、圧電素子10とステルス増幅器200bの位置関係を固定するための絶縁性エポキシ樹脂300が満たされている。筒状筐体800は、圧電素子10が配置される超音波受信器の最先端及びその近傍には配置されていない。第2実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、圧電素子10とステルス増幅器200bとが本体(300,301,800)内にコンパクトに組み込まれた構造にしても、ステルス増幅器200bからの不要エコーとして寄与する反射波の問題を解消できるので、受信電圧感度の向上と共に、S/N比の改善を図ることができる。
【0066】
第2実施形態に係る超音波受信器を用いることにより、例えば、オフセット量D=0.3mmの場合について、
図18に示すような超音波の音圧強度が観測された。
図18は、第1実施形態に係る超音波受信器で説明したチップ主面傾斜角θ=90°の場合に対応するが、
図18(a)に示すように、時刻160nsにおいて、透過波が背後領域の端において集積回路チップ200の上面の端部に到達する。その後、時刻300nsには、
図18(b)に示すように、透過波が集積回路チップ200の一方の主面(上面)の中央部付近に到達している。一方、集積回路チップ200の上面の端部で反射した反射波の波面が、圧電素子10の近傍に到達していることが分かる。
図19(b)には、
図18に示したオフセット量D=0.3mmの場合についての圧電素子10における受信電圧波形を示した。又、
図19(a)には、比較のために、オフセット量D=0の場合についての圧電素子10における受信電圧波形を示した。
【0067】
更に、図示を省略しているが、それ以外のオフセット量Dについても
図18及び
図19に示したのと同様な検証を行った。その結果、ステルス増幅器200bのオフセット量DとS/N比との関係として、
図20に示すような関係を得ることができた。
図20の結果によれば、オフセット量Dが0.27mm以上の範囲において、S/N比の目標値28dB以上が得られることが分かる。以上のとおり、第2実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、圧電素子10とステルス増幅器200bを樹脂製ホーン部(300,301)の内部に一体化して固定したコンパクトな構造を実現し、高感度かつS/N比の高い超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。特に、水との音響インピーダンスの整合性の良いPDVF膜が圧電素子10に使用可能で、PVDF膜を用いた場合であっても入力接続寄生容量C
strayを小さくできる。このため、PVDF膜の優れたパルス応答特性を活用することにより、医用超音波装置が発する微少な超音波を測定可能とする高感度かつS/N比の高い超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0068】
(第2実施形態の第1変形例)
図21A及び
図21Bに示すように、本発明の第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器は、
図21A及び
図21Bに示すように、超音波の進行方向に平行な音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域からずれた位置に配置されたステルス増幅器200cと、圧電素子10とステルス増幅器200cとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)312を備える。ステルス増幅器200cは、式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200cは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に対し一定以上の角度を持つことにより、波面が圧電素子10に均一に入力しないように設定されている。
【0069】
既に
図15を用いて説明したとおり、チップ主面傾斜角θが、30°≦θ≦60°の範囲外及び120°≦θ≦150°の範囲外である場合は、S/N比の目標値を達成できない。S/N比の目標値を達成できない理由は、立方体をなすステルス増幅器200bのうちで対象としていた一つの主面以外の他の面、即ち4つの側面のいずれか、又は他方の主面の影響が出ているためである。第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器では、
図21A及び
図21Bに示すように、ステルス増幅器200cをオフセット配置し、更にステルス増幅器200cを構成している集積回路チップの4つの側面のうち圧電素子10の最も近い位置に存在し、第1電極板111の平行方向を長手方向とする側面(以下において「最近接側面201c」という。)をテーパ状に切り落とすことで、チップ主面傾斜角θが0°又は180°の場合を除き、すべての角度においてS/N比の改善効果を得ることができる。
【0070】
図1CのA-A’方向から見た断面に対応する
図21Aに示す水平断面図において、一見、ステルス増幅器200cが圧電素子10の背後領域に存在し、圧電素子10を透過した透過波に曝露されるように見える。しかし、第2実施形態の第1変形例では、
図21Aとはとは直交方向となる
図21Bの垂直断面から明らかなように、ステルス増幅器200cの背後領域から外れた位置となるように、オフセット量Dだけシフトして存在している。更に、ステルス増幅器200cを構成している集積回路チップの最近接側面201cは、集積回路チップの主面に対して所定の面取り角φで面取りされている。例えば、集積回路チップの主面が(100)面であれば、(100)面と(111)面のなす鋭角方向に測った角度が55°であるので、面取り角φ=55°とすると、最近接側面201cは簡単に劈開面として得ることができる。
【0071】
面取り角φは55°に限定されるものではなく、例えば面取り角φ=45°等他の角度でもよいが、30°≦φ≦60°が好ましい。最近接側面201cのテーパ角Φを、ステルス増幅器200cに到達した超音波の波面の接平面の方向、即ち、第1電極板111の主面の方向に対して定義すると、ステルス増幅器200cを構成している集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=90°の場合、
Φ=90―φ ………(6)
と、テーパ角Φは、面取り角φの余角の関係になる。即ち、ステルス増幅器200cを構成している集積回路チップのチップ主面傾斜角θ=90°であれば、30°≦Φ≦60°が好ましい。即ち、
図21A及び
図21Bに示したチップ主面傾斜角θで規定される第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器では、ステルス増幅器200cを構成している集積回路チップの最近接側面201cは、ステルス増幅器200cに到達した超音波の波面の接平面に対して、30°以上、60°以下の範囲内のテーパ角Φに設定されている。
【0072】
図22Aは、面取り角φ=90°(面取りなし)の通常の集積回路チップ200jを用い、チップ主面傾斜角θ=45°とした場合において、時刻160nsに透過波が集積回路チップ200jの主面と最近接側面が90°で交わる端部に到達したことを示す。その後、時刻220nsには、
図22Bに示すように、透過波がチップ主面傾斜角θ=45°の集積回路チップ200jの主面の中央部の少し手前の位置に、主面の傾斜に沿って移動して到達しているが、時刻220nsでは主面からの反射波や集積回路チップ200jを透過して伝播する波等が混在する。更に時刻220nsにおいては、集積回路チップ200jの最近接側面と主面が交わる端部付近で反射した曲面反射波が、圧電素子10の近傍に向かって伝搬を開始していることが示されている。
【0073】
図22Cは、時刻280nsにおいて、透過波がチップ主面傾斜角θ=45°の集積回路チップ200jの主面の中央部を超えた位置に、主面の傾斜に沿って移動し到達した状態を示す。時刻280nsでは透過波に直交する方向に向かう主面からの反射波と元の透過波が混在し、更に集積回路チップ200jを透過して伝播する波もが混在する。更に
図22Dに示す時刻340nsにおいては、透過波が主面の反対側の端部の位置に、主面の傾斜に沿って移動して到達している。時刻340nsにおいても、透過波に直交する方向に向かう主面からの反射波と元の透過波が混在し、更に集積回路チップ200jを透過して伝播する波も混在する。更に
図22Dに示す時刻400nsにおいては、透過波が主面の反対側の端部を超えた位置にまで到達し、最近接側面に対向する側面の裏側にまで回り混んでいる。時刻400nsにおいても、透過波に直交する方向に向かう主面からの反射波と元の透過波が混在し、更に集積回路チップ200jを透過して伝播する波が混在する。
【0074】
図22A~
図22Eから分かるように、面取りなしの通常の集積回路チップ200jを用いた場合には、最初に集積回路チップ200jの主面と最近接側面が90°で交わる角部に当たり、角部を中心とした曲面反射波を出している。そして、斜面をなす200jの主面で反射した波は、圧電素子10を透過した透過波の進行に伴い反射波面を順次形成している。
図22A~
図22Eに示すようなチップ主面傾斜角θ=45°の場合には圧電素子10を透過した透過波に直交する方向に伝搬する反射波面が形成され、圧電素子10に影響を及ぼさない。このように、面取りなしの通常の集積回路チップ200jを用いた場合であっても、集積回路チップ200jの主面がなす斜面からの反射波面が圧電素子10に悪影響しないように、チップ主面傾斜角θの制御で可能である。
【0075】
しかし、集積回路チップ200jの最近接側面と主面が交わる角部からの曲面反射波は、チップ主面傾斜角θの制御では回避できないことが分かる。第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器では、ステルス増幅器200cに用いる集積回路チップの面取り角φを、30°≦φ≦60°に設定し、且つステルス増幅器200cをオフセット位置に配置しているので、集積回路チップ200jの最近接側面と主面が交わる角部からの曲面反射波が、圧電素子10に悪影響を及ぼすことが回避できる。
【0076】
第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器において、圧電素子10を透過した透過波に曝露されるステルス増幅器200cの主面は、ステルス増幅器200cの第1主面(表面)又は第2主面(裏面)である。
図21Bの垂直断面において、第1又は第2主面に対し定義されるチップ主面傾斜角θは、90°に設定されている。また、
図21Bの垂直断面で見た場合、ステルス増幅器200cは圧電素子10の背後領域に存在しないように、中心軸としての音場検出軸AXから径方向に、圧電素子10の径方向のサイズの半分以上となるオフセット量Dだけずらして配置されている。
【0077】
このように、第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器のステルス増幅器200cは、軸方向先端側から超音波受信器を見た場合に、圧電素子10とオーバーラップしない位置に配置されている。ステルス増幅器200cに用いる集積回路チップの面取り角φを、30°≦φ≦60°に設定し、更にステルス増幅器200cをオフセット量Dだけ音場検出軸AXからずらした位置に配置することにより、不要エコーとして寄与する反射波の発生を抑制できる。更に、第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器によれば、不要エコーとして寄与する恐れのある反射波が発生する場合であっても、面取り角φを、30°≦φ≦60°に設定することにより、反射波が再び圧電素子10に入力しない方向、若しくは入力しても波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に対し角度を持ち、波面が均一に入力しない方向に伝搬させ、結果としてS/N比を向上させることができる。
【0078】
図23(a)は、面取り角φ=45°の集積回路チップをステルス増幅器200cとして用い、オフセット量D=+0.4mm、チップ主面傾斜角θ=90°とした場合において、時刻180nsに透過波がテーパ状の最近接側面に到達したことを示す音圧強度のプロファイルが示されている。その後、時刻380nsには、
図23(b)に示すように、透過波がチップ主面傾斜角θ=90°のステルス増幅器200cの主面の中央部の少し奥の位置に、平行な主面に沿って移動して到達している音圧強度のプロファイルになっている。時刻380nsでは、最近接側面と主面の境界を音源とする曲面反射波と、平行な主面に沿って移動しているほぼ平面波の透過波が混在している。更に時刻380nsにおいては、オフセット量D=+0.4mmであるので、ステルス増幅器200cの最近接側面と主面の境界を音源とする曲面反射が、圧電素子10の位置から上方に外れた位置に向かって伝搬していることが分かる。
【0079】
図23と同様に、オフセット量D=-0.3mm及びオフセット量D=0mmの場合についても、超音波の音圧強度プロファイルの経時変化を観測した。
図24には、オフセット量D=-0.3mm,0mm,+0.4mmの場合の、圧電素子10における受信電圧波形を示した。
図24では、代表例として、オフセット量D=-0.3mm,0mm,+0.4mmの3つの場合を示したが、それ以外のオフセット量Dについても検証を行った結果を、オフセット量DとS/N比との関係として
図25に示す。
図25は、オフセット量Dが大きくなれば、S/N比の改善効果も大きくなることを示している。ただし、オフセット量D=0mmであっても、最近接側面201cを面取り角φ=45°でテーパ加工することで、S/N比の目標値28dB以上が得られている。このように、第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器によれば、オフセット量Dを付加し、最近接側面201cをテーパ加工することで、S/N比に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0080】
図示を省略しているが、例えば2段の段差構造等で右側が太くなっている超音波受信器の本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方の端部側に設けられた外部端子と、外部端子に接続された伝送線路と、伝送線路によって接続された観測機器とを備えることにより、第2実施形態の第1変形例に係る超音波観測装置を構成できる。第2実施形態の第1変形例に係る超音波観測装置においては、伝送線路が、同軸ケーブルのように圧電素子10の信号源容量Csignalの50倍以上大きな外部接続寄生容量Cext、例えば外部接続寄生容量Cext≒10pF程度の値を有する場合であっても、設定最短距離doptを、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値、例えばCext/100程度の値となるように設定することができる。
【0081】
なお、本体(300,301,800)は、樹脂製ホーン部(300,301)と樹脂製ホーン部(300,301)の太い径側に連続し、且つ2段の段差構造で右端側が更に太くなっている樹脂製円柱状部で構成されており、樹脂製円柱状部の径を太くすることにより、ステルス増幅器200cと外部端子500の間を電気的に接続する出力接続手段437に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低くできる。又、ステルス増幅器200cと外部端子500の間の距離を短くして、第2実施形態の第1変形例に係る超音波受信器の出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができる。更に、圧電素子10の出力電圧を、ステルス増幅器200cで十分に高い電圧に増幅できれば、出力接続寄生容量Coutが寄与する不利益は無視できる。
【0082】
この結果、圧電素子10とステルス増幅器200cを樹脂製ホーン部(300,301)の内部に一体化して固定したコンパクトな構造を実現し、高感度かつS/N比の高い超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。特に、PVDF膜を圧電素子10に用いた場合であっても、入力接続寄生容量Cstrayを小さくでき、微少な超音波を測定可能とする高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0083】
(第2実施形態の第2変形例)
本発明の第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器は、
図26に示すように、超音波の進行方向に平行な音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域からずれた位置に配置されたステルス増幅器200dと、圧電素子10とステルス増幅器200dとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)312を備える。ステルス増幅器200dは、式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200dは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは反射波が発生しても圧電素子10に波面が均一に入力しないように設定されている。超音波の反射波が発生しても、反射波の波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に傾斜を有して、反射波の波面が均一に入力しなければ、圧電性電気音響変換により圧電素子10の内部で発生する起電力が相殺されるので、起電力は小さな値になる。
【0084】
図26に示すように、第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器は、4つの側面が垂直側壁である通常の集積回路チップをステルス増幅器200dとしている。第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器のステルス増幅器200dは、圧電素子10からの透過波を受けないように、中心軸としての音場検出軸AXから径方向にオフセット量Dだけ移動した位置に配置されている。更に、
図26に示すように、ステルス増幅器200dとして用いている集積回路チップのチップ主面傾斜角θを120°とし、90°よりも大きくしている。
図27(c)及び
図27(d)は、オフセット量D=0.4mmとした場合のステルス増幅器200dに関する超音波の音圧強度プロファイルの変化を示す。なお、比較のために、
図27(a)及び
図27(b)には、オフセット量D=0mmとして、垂直側壁を有する通常の集積回路チップ200eを用いた場合について、超音波の音圧強度プロファイルの変化を示した。
【0085】
図27(a)に示すように、通常の集積回路チップ200eを用い、チップ主面傾斜角θ=120°、オフセット量D=0mmとした場合においては、時刻200nsに透過波が集積回路チップ200eの第2主面(裏面)と最近接側面が90°で交わる端部に到達する。その後、時刻240nsには、
図27(b)に示すように、透過波がチップ主面傾斜角θ=120°の集積回路チップ200eの第2主面の中央部の少し手前の位置に、第2主面の傾斜に沿って移動して到達している。時刻240nsでは第2主面からの反射波や集積回路チップ200eを透過して伝播する波等が混在する。更に時刻240nsにおいては、集積回路チップ200eの最近接側面と第2主面が交わる端部付近で反射した曲面反射波が、圧電素子10の近傍に向かって伝搬を開始していることが示されている。この結果、オフセット量D=0mmの場合には、
図28(a)に示すように、圧電素子10によって、時刻280ns~400ns付近に、受信電圧波形が観測されている。
【0086】
図27(c)は、ステルス増幅器200dのチップ主面傾斜角θ=120°、オフセット量D=0.4mmとした場合であり、時刻180nsに透過波がステルス増幅器200d集積回路チップ200eの第1主面(表面)と最近接側面が90°で交わる端部に到達している。その後、時刻240nsにおいて、
図27(d)に示すように、チップ主面傾斜角θ=120°のステルス増幅器200dの第1主面の裏側に、透過波が回り込み、第1主面の中央部の少し手前の位置に到達している。時刻240nsでは第1主面からの反射波やステルス増幅器200dを透過して伝播する波等が混在する。更に時刻240nsにおいては、ステルス増幅器200dとしての集積回路チップの最近接側面と第1主面が交わる端部付近で反射した曲面反射波の主要部分は、圧電素子10の上方となる離れた位置に向かって伝搬している。オフセット量D=0mmの場合には
図28(a)に示すように時刻280ns~400ns付近に受信電圧波形が観測されたが、オフセット量D=0.4mmの場合には、
図28(b)に示すように、時刻280ns~400ns付近に圧電素子10による顕著な受信電圧波形が認められない。
【0087】
図27及び
図28では、オフセット量D=0mm及び0.4mmの場合の2つのみを例示したが、それ以外のオフセット量Dについても検証した。その結果、ステルス増幅器200dとして用いる集積回路チップのオフセット量DとS/N比との関係として、
図29に示すような関係が得られた。
図29に示す関係によれば、オフセット量D=0mmで、チップ主面傾斜角θ=120°とした場合は、S/N比が28dB程度である。一方、チップ主面傾斜角θ=120°に維持してプラス方向にオフセットさせる場合には、オフセット量D≧0.2mmの範囲において、S/N比の目標値28dB以上が得られることが分かる。
図26において、中心軸としての音場検出軸AXの径方向となる下方向を、「プラス方向」と定義している。また、
図29から、チップ主面傾斜角θ=120°に維持してマイナス方向にオフセットさせる場合には、オフセット量D≧0.05mmの範囲において、S/N比の目標値28dB以上が得られることが分かる。
図26において、音場検出軸AXに直交する上方向に移動する場合が、「マイナス方向」になる。
【0088】
なお、ステルス増幅器200dが配置される樹脂製ホーン部(300,301)の内部空間の容量には制限がある。即ち、樹脂製ホーン部(300,301)のサイズが小さくなればなるほど、ステルス増幅器200dの配置の自由度が小さくなる。内部空間の容量を考慮すると、樹脂製ホーン部(300,301)の錐面の母線の傾斜角とチップ主面傾斜角θを合わせることができれば、樹脂製ホーン部(300,301)の内部空間へのステルス増幅器200dの配置の自由度を大きくすることが可能である。図示を省略しているが、例えば左側に圧電素子10が配置されているとして、2段の段差構造等で右側が太くなっている超音波受信器の本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方(右側)の端部側に設けられた外部端子と、外部端子に接続された伝送線路と、伝送線路によって接続された観測機器とを備えることにより、第2実施形態の第2変形例に係る超音波観測装置を構成できる。
【0089】
第2実施形態の第2変形例に係る超音波観測装置において、伝送線路が、同軸ケーブルのように圧電素子10の信号源容量Csignalの50倍以上、更には、例えば100倍以上、或いは1000倍以上大きな外部接続寄生容量Cext、例えば外部接続寄生容量Cext≒10pF程度の値を有する場合であっても、設定最短距離doptを、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値、例えばCext/100程度の値となるように設定できる。この結果、圧電素子10とステルス増幅器200dを樹脂製ホーン部(300,301)の内部に一体化して固定したコンパクトな構造を実現し、高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0090】
なお、本体(300,301,800)の構造に関しては、例えば2段の段差構造で右端側が更に太くなっている樹脂製円柱状部の径を太くすることにより、ステルス増幅器200dと外部端子500の間を電気的に接続する出力接続手段に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低くできる。又、ステルス増幅器200dと外部端子の間の距離を短くして、第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器の出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができ、圧電素子10の出力電圧を、ステルス増幅器200dで十分に高い電圧に増幅できれば、出力接続寄生容量Coutによる不利益は無視可能である。特に、PVDF膜を圧電素子10に用いることにより、入力接続寄生容量Cstrayを小さくして、且つ優れたパルス応答特性を活用できる。よって、第2実施形態の第2変形例に係る超音波受信器によれば、微少な超音波を測定可能とする高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0091】
(第3実施形態の比較例)
本発明の第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の圧電素子10は、
図30A及び
図30Bに示すように、圧電体層101と、圧電層101を挟み込む第1電極板111及び第2電極板112とを有する。
図30Bの垂直断面に示すように、ステルス増幅器200fは、圧電素子10の径方向の一端(上端)から軸方向に延びる仮想線903と、圧電素子10の径方向の他端(下端)から軸方向に延びる仮想線904との間の背後領域に存在しない。即ち、ステルス増幅器200fは、圧電素子10からの透過波をなるべく受けないように、中心軸に位置する音場検出軸AXから径方向にオフセット距離Dだけシフトして配置されている。オフセット距離Dだけ移動することにより、圧電素子10に再入力する恐れのある反射波の発生を抑制できると共に、反射波が発生してもこれを再び圧電素子10に入力させなくし、結果としてS/N比を向上させることができると期待できる。
【0092】
図30Bの垂直断面から分かるように、圧電素子10を透過した透過波に曝露されるステルス増幅器200fを構成している集積回路チップの主面は、集積回路チップの第1主面(表面)である。集積回路チップの第1主面は、チップ主面傾斜角θ=90°に設定されている。音場検出軸AXからオフセット距離Dだけ下方にずれてステルス増幅器200fが配置されているので、圧電体層101の外側に接続される第1電極板111は、下方にL字型に曲がった樹脂性接地配線311を介してステルス増幅器200fの入力パッド(接地側)211に接続される。圧電体層101の内側に接続される第2電極板112は、L字型に曲がった樹脂製信号配線312fを介してステルス増幅器200fの入力パッド(信号側)212に接続される。ステルス増幅器200fは、増幅器(ステルス増幅器200f)を有する。また、ステルス増幅器200fには、外部端子500から接地電位を受け取るためのチップ側接地パッド221と、外部端子500に集積回路チップに集積化された増幅回路で増幅した信号を出力するためのチップ側出力パッド222と、外部端子500から電源電位を受け取るためのチップ側電源パッド223がそれぞれ設けられている。
【0093】
第3実施形態の比較例に係る超音波受信器を構成するステルス増幅器200fは、プリント基板400上に搭載されている。プリント基板400は、ステルス増幅器200fのチップ側接地パッド221に対応する中継接地パッド411及び外部接地パッド421と、ステルス増幅器200fのチップ側出力パッド222に対応する中継出力パッド412及び外部出力パッド422と、ステルス増幅器200fのチップ側電源パッド223に対応する中継電源パッド413及び外部電源パッド423とをそれぞれ有している。チップ側接地パッド221と中継接地パッド411は、Au(金)ワイヤ等の導電線(接地ワイヤ)231により互いに接続され、外部接地パッド421は、Auワイヤ等の導電線(接地リード線)431により超音波受信器の外部端子に接続される。同様に、チップ側出力パッド222と中継出力パッド412は、Auワイヤ等の導電線(出力ワイヤ)232により互いに接続され、外部出力パッド422は、Auワイヤ等の出力接続手段(出力リード線)432により超音波受信器の外部端子500に接続される(
図3A参照。)。また、チップ側電源パッド223及び中継電源パッド413は、Auワイヤ等の導電線(電源ワイヤ)233により互いに接続され、外部電源パッド423は、Auワイヤ等の導電線(電源リード線)433により超音波受信器の外部端子に接続される。
【0094】
第3実施形態の比較例においては、ステルス増幅器200fのチップ主面傾斜角θ=90°に設定している。ステルス増幅器200fを構成している集積回路チップの最近接側面は、所定のテーパ角Φに面取りされている。即ち、ステルス増幅器200fを構成している集積回路チップの最近接側面は、30°≦Φ≦60°のテーパ角Φに設定されている。更に、金属製の筒状筐体800内には、圧電素子10とステルス増幅器200fの位置関係を固定するための絶縁性エポキシ樹脂300が満たされている。筒状筐体800は、圧電素子10が配置される超音波受信器の最先端及びその近傍には配置されていない。このような第3実施形態の比較例に係る超音波受信器によれば、圧電素子10とステルス増幅器200fとが本体(300,301,800)内にコンパクトに組み込まれた構造にしても、ステルス増幅器200fからの不要エコーとして寄与する恐れのある反射波の問題を解消できるので、受信電圧感度の向上と共に、S/N比の改善を図ることが期待できる。しかしながら、
図31A及び
図31Bに示すように、接地リード線431、出力リード線(出力接続手段)432、及び電源リード線433からの反射波が発生し、S/N比に影響を与える問題がある。
【0095】
図31Aは、
図30A及び
図30Bに示す第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の構造において超音波の音圧強度プロファイルの経時変化を観測したものである。
図31Aに示すように、時刻580nsにおいて、透過波が出力リード線(出力接続手段)432の後方の位置まで到達している。この時刻580nsにおいては、出力リード線(出力接続手段)432からの反射波が、ステルス増幅器200fを構成する集積回路チップする第1主面(上面)の中央部付近に到達している。一方、時刻580nsにおいて、ステルス増幅器200fを構成する集積回路チップの上面とテーパ角Φに面取りされた最近接側面との境界で反射した曲面波の反射波の波面も、集積回路チップの上面の上方に存在して混在している。第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の圧電素子10により、受信電圧波形が観測したものが、
図31Bである。第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の構造の場合には、Auワイヤからの反射波(エコー)が時刻580ns付近から表れており、時刻950ns付近まで続いている。第3実施形態の比較例に係る超音波受信器のS/N比は、29dBであった。
【0096】
(第3実施形態)
第3実施形態の比較例に係る超音波受信器では、30°≦Φ≦60°のテーパ角Φに設定することで、S/N比の目標値28dB以上となる29dBが得られた。しかし、ステルス増幅器200fと超音波受信器の外部端子500とを接続する出力接続手段(出力リード線)432の配置位置によっては、出力接続手段432からの反射波が発生し、S/N比に悪影響を与えている。更に、ステルス増幅器200fと超音波受信器の外部端子とを接続する接地リード線431及び電源リード線433の配置位置によっては、外部接続リード線(接地リード線)431及び外部接続リード線(電源リード線)433からの反射波が発生し、S/N比に悪影響を与えている。そこで、
図32に示すように、衝立部材320を配置することが有効となる。即ち、第3実施形態に係る超音波受信器は、超音波の進行方向に平行な音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域からずれた位置に配置されたステルス増幅器200fを備える。
【0097】
ステルス増幅器200fは、式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離dopt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200fは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは反射波の波面が、圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に対し均一に圧電素子10に入力しないように設定されている。超音波の反射波が発生しても、反射波の波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に傾斜を有して、反射波の波面が均一に入力しなければ、圧電性電気音響変換により圧電素子10の内部で発生する起電力が相殺されるので、起電力は小さな値になることは既に述べたとおりである。
【0098】
なお
図32では、図示を省略しているが、圧電素子10とステルス増幅器200fとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)及び樹脂製接地配線が存在することは、第1及び第2実施形態に係る超音波受信器と同様である。第3実施形態に係る超音波受信器は、第3実施形態の比較例に係る超音波受信器と比べて、平坦なステルス面を主面として有する衝立部材320をプリント基板400上に搭載した点に改良の特徴を有している。第3実施形態に係る超音波受信器のその他の構造については、第3実施形態の比較例に係る超音波受信器と同じである。従って、以下では、衝立部材320について説明し、その他の構成要素については、第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の説明で使用した図番と同じ符号を付すことでその詳細な説明を省略する。
【0099】
第3実施形態に係る超音波受信器の衝立部材320の主面をなすステルス面の方向は、第1電極板111の主面の方向に対し定義される「衝立傾斜角ζ」だけ傾斜している。即ち、衝立傾斜角ζは、30°≦ζ≦60°の範囲内に設定されている。衝立傾斜角ζの下限値である30°は、既に述べたチップ主面傾斜角θの下限値と同じであり、その理由も、不要エコーとして寄与する恐れのある反射波によるS/N比の改善ということで同じである。また、衝立傾斜角ζの上限値である60°は、自らが発生する不要エコーとして寄与する恐れのある反射波がS/N比に与える影響をなくすと共に、衝立部材320よりも後方(外部端子500側)にあるAuワイヤ等の接地リード線(外部接続リード線)431、出力リード線(出力接続手段)432、及び電源リード線(外部接続リード線)433に超音波が当たるのを防ぐために必要な条件として決まる角度である。このように、第3実施形態に係る超音波受信器では、衝立部材320のステルス面により、その後方にある接地リード線431、出力リード線(出力接続手段)432、及び電源リード線433からの反射波がなくなるので、圧電素子10とステルス増幅器200fとが本体(300,301,800)内にコンパクトに組み込まれた構造にしても、受信電圧感度の向上と共に、S/N比の改善を図ることができる。
【0100】
第3実施形態に係る超音波受信器では、衝立部材320よりも前方、即ち圧電素子10側にあるAuワイヤ等の接地ワイヤ231、出力ワイヤ232及び電源ワイヤ233については、それらからの反射波の影響を最小限にするため、軸方向先端側から超音波受信器を見た場合に、圧電素子10の背後領域から外れた位置に配置されているのが望ましい。同様に、樹脂性接地配線311f及び樹脂製信号配線(入力接続手段)312fについても、軸方向先端側から超音波受信器を見た場合に、圧電素子10の背後領域から外れた位置に配置されているのが望ましい。更に、衝立部材320が存在しない場合には、接地リード線431、出力リード線(出力接続手段)432、及び電源リード線433についても、軸方向先端側から超音波受信器を見た場合に、圧電素子10の背後領域から外れた位置に配置されているのが望ましい。
【0101】
図33Aは、
図32に示した第3実施形態に係る超音波受信器の構造において超音波の音圧強度プロファイルの経時変化を観測したものである。
図33Aに示すように、時刻520nsは衝立部材320が無い場合には透過波が出力リード線(出力接続手段)432の後方の位置まで到達しているタイミングである。この時刻520nsのタイミングにおいて衝立部材320の存在のため出力リード線(出力接続手段)432からの反射波はない。その代わり衝立部材320のステルス面からの反射波を含めた複数の反射波が、圧電素子10の上方の圧電素子10から離れた位置に向かって伝搬している。又、時刻520nsにおいて、ステルス増幅器200fを構成する集積回路チップの上面とテーパ角Φに面取りされた最近接側面との境界で反射した曲面波の反射波の波面も、集積回路チップの上面の上方に存在して混在している。更に、ステルス増幅器200fを構成する集積回路チップを透過した透過波も、集積回路チップの第2主面(裏面)側に存在している。
【0102】
第3実施形態に係る超音波受信器の圧電素子10により、受信電圧波形が観測したものが、
図33Bである。第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の構造の場合には、Auワイヤからの反射波の影響が時刻580ns付近から表れており、時刻950ns付近まで続いていたが、第3実施形態に係る超音波受信器の場合は、衝立部材320のステルス面からの多少の反射波の影響があるものの、Auワイヤからの反射波と思われるものは何ら観測されなかった。その結果、第3実施形態に係る超音波受信器のS/N比は32dBとなり、第3実施形態の比較例に係る超音波受信器の29dBから改善されることが分かった。
【0103】
図示を省略しているが、例えば左側に圧電素子10が配置されているとして、2段の段差構造等で右側が太くなっている超音波受信器の本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方(右側)の端部側に設けられた外部端子と、外部端子に接続された伝送線路と、伝送線路によって接続された観測機器とを備えることにより、第3実施形態に係る超音波観測装置を構成できる。第3実施形態に係る超音波観測装置においては、伝送線路が、同軸ケーブルのように圧電素子10の信号源容量Csignalの50倍以上、更には、例えば100倍以上、或いは1000倍以上大きな外部接続寄生容量Cext、例えば外部接続寄生容量Cext≒10pF程度の値を有する場合であっても、設定最短距離doptを、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値、例えばCext/100程度の値となるように設定できる。
【0104】
なお、本体(300,301,800)の構造に関しては、例えば2段の段差構造で右端側が更に太くなっている樹脂製円柱状部の径を太くすることにより、ステルス増幅器200fと外部端子の間を電気的に接続する出力接続手段に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低く設計できる。更に、ステルス増幅器200fと外部端子の間の距離を短くして、第3実施形態に係る超音波受信器の出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができ、出力接続寄生容量Coutの値に関する考慮は省略可能である。以上のとおり、第3実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、圧電素子10とステルス増幅器200fを樹脂製ホーン部(300,301)の内部に一体化して固定し、更に衝立部材320を設けることによりコンパクトな構造を実現し、パルス応答特性に優れ、且つ高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0105】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係る超音波受信器は、
図34に示すように、音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域に配置されたステルス増幅器200gを備える。ステルス増幅器200gは、圧電素子10と式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200gは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ圧電素子10を透過した超音波の反射特性を変更し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは反射波の波面が、圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に均一に入力しないように設定されている。超音波の反射波が発生しても、反射波の波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に傾斜を有して、反射波の波面が均一に入力しなければ、起電力は小さな値になることは既に述べたとおりである。なお、圧電素子10とステルス増幅器200gとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)及び樹脂製接地配線に関しては図示を省略している。
【0106】
チップ主面傾斜角θ=45°以上にすると、ステルス増幅器200gに用いる半導体集積回路チップの厚さtが5μm程度以下であれば、一辺の長さが0.5mm程度の方形のシリコン(Si)チップであっても、反射波によるS/N比の悪化がほとんど生じない。この場合、ステルス増幅器200gに厚さt=100μm程度の純エポキシ樹脂層を裏打ちしても、同様に、反射波による不要エコー発生の問題が発生しない。従って、チップ主面傾斜角θは、45°以上にすることがより望ましい。しかし、チップ主面傾斜角θ=45°以上にしても、ステルス増幅器200gに用いる半導体集積回路チップの厚さtが100μmを超えてくると、反射波がS/N比に与える影響を無視できなくなる。従って、ステルス増幅器200gに用いる半導体集積回路チップの厚さtは、100μm以下であることが望ましい。
【0107】
例えば、ステルス増幅器200gに用いるSiチップの厚さt=10μmの場合について、超音波の音圧強度プロファイルの経時変化を観測すると
図35及び
図36に示すようになる。チップ主面傾斜角θが0°の場合は、
図35(a)に示すように、時刻240nsに透過波がSiチップの主面に到達する。その後、時刻460nsには、
図35(b)に示すように、透過波がSiチップを透過して伝播すると同時に、Siチップの主面で反射した弱い反射波(不要エコー)が圧電素子10に再入力される。チップ主面傾斜角θ=90°の場合は、
図36(a)に示すように、時刻140nsに透過波がSiチップの最近接側面に到達する。その後、時刻220nsには、
図36(b)に示すように、透過波がSiチップの両方の主面の中央部付近に到達し、両方の主面からの反射波やSiチップを透過して伝播する波等が混在する。一方、Siチップの端面で反射した反射波は
図36(b)に示した音圧強度プロファイルでは、圧電素子10の近傍には認められない。
【0108】
ステルス増幅器200gに用いるSiチップの厚さtとS/N比との関係を示したものが
図37である。
図37の結果から明らかなように、チップ主面傾斜角θ=0°の場合には、チップ厚さtを4μm程度以下にすることで、また、チップ主面傾斜角θ=90°の場合には、チップ厚さtを40μm程度以下にすることで、それぞれS/N比の目標値である28dB以上を実現できる。但し、ステルス増幅器200gに用いるSiチップの厚さtについては、その取扱いの容易性を考慮する必要がある。即ち、チップ厚さtがあまりにも薄くなり過ぎると、実装時におけるチップ破損の問題が生じるため、そのチップを慎重に取り扱わなければならず、結果として、超音波受信器の組み立て作業の容易性を損ねることになる。
【0109】
従って、ステルス増幅器200gに用いるSiチップの厚さtに関しては、組み立て作業に支障がないことを前提として、チップ主面傾斜角θに応じた所定値以下に薄くすることで、S/N比の改善効果という顕著な効果を得ることができる。例えば、左側に圧電素子10が配置されているとして、2段の段差構造等で右側が太くなっている超音波受信器の本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方(右側)の端部側に設けられた外部端子と、外部端子に接続された伝送線路と、伝送線路によって接続された観測機器とを備えることにより、第4実施形態に係る超音波観測装置を構成できる。
【0110】
第4実施形態に係る超音波観測装置では、伝送線路が、同軸ケーブルのように圧電素子10の信号源容量Csignalの50倍以上、更には、例えば100倍以上、或いは1000倍以上大きな外部接続寄生容量Cext、例えば外部接続寄生容量Cext≒10pF程度の値を有する場合であっても、設定最短距離doptが、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値、例えばCext/100程度の値となるように設定される。なお、本体(300,301,800)の構造に関しては、例えば2段の段差構造で右端側が更に太くなっている樹脂製円柱状部の径を太くすることにより、ステルス増幅器200gと外部端子の間を電気的に接続する出力接続手段に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低く設計できる。更に、ステルス増幅器200gと外部端子の間の距離を短くして、第4実施形態に係る超音波受信器の出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができるので、出力接続寄生容量Coutの値に関する考慮は省略可能である。
【0111】
第4実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、水との音響インピーダンス整合性の良いPDVF膜を使用した場合であっても、板厚の薄い集積回路チップで構成したステルス増幅器200gと圧電素子10を樹脂製ホーン部(300,301)の内部に入力接続寄生容量が小さくなるように一体化して固定したコンパクトな構造を実現できる。その結果、第4実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、パルス応答特性に優れ、且つ高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0112】
(第5実施形態)
図38に示すように、本発明の第5実施形態に係る超音波受信器は、音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域に配置されたステルス増幅器200hを備える。ステルス増幅器200hは、圧電素子10と式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200hは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ圧電素子10を透過した超音波の反射特性を変更し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは反射波が発生しても、圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に波面が均一に入力しないように設定された高分子材料からなるステルス増幅器200hを備える。超音波の反射波が発生しても、反射波の波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に傾斜を有して、反射波の波面が均一に入力しなければ、起電力は小さな値になる。なお、圧電素子10とステルス増幅器200hとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)及び樹脂製接地配線については図示を省略している。
【0113】
ステルス増幅器200hの音響インピーダンスを、絶縁性樹脂300の音響インピーダンスと等しくなるように、ステルス増幅器200hを超音波透過性の高分子材料から構成すれば、チップ主面傾斜角θやチップ厚さt等に関係なく、反射波による不要エコー発生の問題を簡易に解決できる。例えば、近年、ポリイミド基板などの有機物半導体等の高分子材料からなるチップが開発されている。有機物半導体は、一般的なSi基板と比べて超音波を透過する性質を有するので、チップ主面傾斜角θやチップ厚さt等を検討するまでもなく、反射波による不要エコー発生の問題を解決できる。
【0114】
本発明の第5実施形態に係る超音波受信器に用いる高分子材料からなるチップとは、広義の「高分子材料」を意味し、極論すれば、基板の一部が高分子材料の薄膜から構成されていれば、増幅器として機能する能動素子等が形成されるアクティブエリア(活性領域)は有機である必要がない。活性領域とは、例えば素子分離領域で額縁状に囲まれた半導体層でも構わない。半導体層と高分子材料層との複合構造となる場合でも、活性領域を、1μmよりも薄くすれば、音響上、超音波は活性領域及び高分子材料の薄膜を透過し、反射波がほとんど生じないように設定できる。高分子材料からなるチップとしては、ポリイミド基板の他、ポリエチレンナフタレート基板、ワニス製法によるエポキシ基板、エポキシ樹脂と音響特性が似ている材料からなる基板等が使用可能である。
【0115】
第5実施形態に係る超音波受信器のステルス増幅器200hを、超音波透過性の高分子材料から構成すれば、チップ主面傾斜角θやチップ厚さt等に関係なく、反射波による不要エコー発生の問題を簡易に解決できる。例えば、ステルス増幅器200hとして、チップ厚さt=10μmの有機半導体チップを用いた場合について、超音波の音圧強度プロファイルの経時変化を観測すると
図39及び
図40に示すようになる。チップ主面傾斜角θが0°の場合は、
図39(a)に示すように、時刻240nsに透過波が有機半導体チップの第1主面に到達する。その後、時刻340nsには、
図39(b)に示すように、透過波が有機半導体チップの第1主面を透過して第2主面まで到達すると同時に、有機半導体チップの第1主面で反射した弱い反射波(不要エコー)が圧電素子10に向かって伝播を開始する。チップ主面傾斜角θ=90°の場合は、
図40(a)に示すように、時刻160nsに透過波が有機半導体チップの最近接側面に到達する。その後、時刻240nsには、
図40(b)に示すように、透過波が有機半導体チップの第1主面及び第2主面の両方の中央部付近に到達し、第1主面及び第2主面からの反射波や有機半導体チップの内部を透過して右方向に向かって伝播する波等が混在する。一方、有機半導体チップの最近接側面で反射した反射波も、
図40(b)に示した音圧強度プロファイルでは、圧電素子10に向かって伝播を開始している。
【0116】
図39に示した樹脂製ホーン部(300,301)の内部における音圧強度プロファイルの経時変化に対応するのが、
図41(a)に示した圧電素子10で測定された受信電圧波形の変化であり、
図40に示した樹脂製ホーン部(300,301)の内部の音圧強度プロファイルの経時変化に対応するのが、
図41(b)の受信電圧波形の変化である。チップ主面傾斜角θ=0°の場合には、
図15に示すように、ステルス増幅器がSiチップであると、S/N比が12dB程度であった。チップ主面傾斜角θ=90°の場合は、
図15に示すように、S/N比が12dB程度であった。
図20のオフセット量D=0mmのデータからも、ステルス増幅器がSiチップでチップ主面傾斜角θ=90°の場合は、S/N比が12dB程度であることが分かる。これに対し、
図41(a)の結果から、チップ主面傾斜角θ=0°の場合には、ステルス増幅器200hを有機半導体チップとすることで、S/N比を25dB程度に改善できることが導かれた。また、
図41(b)の結果から、チップ主面傾斜角θ=90°の場合には、ステルス増幅器200hを有機半導体チップとすることで、S/N比を27dB程度に改善できることが導かれた。
【0117】
例えば、左側に圧電素子10が配置されているとして、2段の段差構造等で右側が太くなっている超音波受信器の本体(300,301,800)と、本体(300,301,800)の他方(右側)の端部側に設けられた外部端子と、外部端子に接続された伝送線路と、伝送線路によって接続された観測機器とを備えることにより、第5実施形態に係る超音波観測装置を構成できる。第5実施形態に係る超音波観測装置では、伝送線路が、同軸ケーブルのように圧電素子10の信号源容量Csignalの50倍以上、更には、例えば100倍以上、或いは1000倍以上大きな外部接続寄生容量Cext、例えば外部接続寄生容量Cext≒10pF程度の値を有する場合であっても、設定最短距離doptを、入力接続寄生容量Cstrayが外部接続寄生容量Cextの1/10よりも小さな値、例えばCext/100程度の値となるように設定している。
【0118】
なお、本体(300,301,800)の構造に関しては、例えば2段の段差構造で右端側が更に太くなっている樹脂製円柱状部の径を太くすることにより、ステルス増幅器200hと外部端子の間を電気的に接続する出力接続手段に寄生する出力接続寄生容量Coutの値を低く設計できる。更に、ステルス増幅器200hと外部端子の間の距離を短くして、第5実施形態に係る超音波受信器の出力接続寄生容量Coutの値を小さくすることができるので、出力接続寄生容量Coutの値に関する考慮は省略可能である。
【0119】
第5実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、超音波を透過する性質を有する樹脂によりステルス増幅器200hを構成することで、Si基板によりステルス増幅器を構成する場合に比べて、S/N比を改善することができる。特に、ステルス増幅器200hが超音波を100%透過するような音響インピーダンスの材料が開発されれば、チップ主面傾斜角θやチップ厚さt等を検討するまでもなく、反射波による不要エコー発生の問題を解決することができる。以上のとおり、第5実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、水との音響インピーダンス整合性の良いPDVF膜を使用した場合であっても、圧電素子10と高分子材料からなるステルス増幅器200hを樹脂製ホーン部(300,301)の内部に入力接続寄生容量が小さくなるように一体化して固定したコンパクトな構造を実現できる。よって、第5実施形態に係る超音波受信器及び超音波観測装置によれば、パルス応答特性に優れ、且つ高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0120】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は、第1~第5実施形態を用いて例示的に説明してきたが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。例えば、上記の第1~第5実施形態に係る超音波受信器では、ステルス増幅器として採用する集積回路チップの主面が平坦で一様な平面であり、透過波を反射する反射面が平坦で一様な平面である前提で説明したが、反射面を平面に限定する必要はない。「平面」とはガウス曲率と平均曲率が常にゼロのユークリッド平面を意味する。
【0121】
本発明の他の実施形態に係る超音波受信器は、
図42に示すように、音場検出軸AXを中心軸として有する、先端が先細り形状の樹脂製ホーン部(300,301)と、この樹脂製ホーン部(300,301)の先端に一部を露出して設けられた圧電素子10と、樹脂製ホーン部(300,301)の内部であって、圧電素子10の外形を投影した背後領域に配置されたステルス増幅器200iを備える。ステルス増幅器200iは、圧電素子10と式(3)を基礎として、設計上設定可能な距離として決まる設定最短距離d
opt相当の距離で圧電素子10の近傍に配置される。ステルス増幅器200iは、圧電素子10が電気音響変換で生成した電気信号を増幅し、且つ圧電素子10を透過した超音波の反射特性を変更し、超音波の反射波が圧電素子10に入力しない、若しくは反射波が発生しても圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に波面が均一に入力しないように設定された非平面の反射面を有する。超音波の反射波が発生しても、反射波の波面が圧電素子10を構成している圧電体層101の主面に傾斜を有して、反射波の波面が均一に入力しなければ、起電力は小さな値になる。
【0122】
圧電素子10とステルス増幅器200iとの間を電気的に接続する入力接続手段(樹脂製信号配線)及び樹脂製接地配線に付いては図示を省略しているが、他の実施形態に係る超音波受信器では、ステルス増幅器200iとして用いる集積回路チップの主面が非平面(曲面)であり、透過波を反射する反射面が曲面である場合でも適用可能であることについて説明する。透過波を反射する反射面が曲面である立体的構造の例としては、ガウス曲率が正である球、ラグビーボール(回転楕円体)あるいは卵型の形状が一般的であり、既に球状の集積回路チップは実用化されている。しかし、他の実施形態に係る超音波受信器では、複雑化を回避するため、ステルス増幅器200iが円柱型であると仮定し、円柱の中心軸に垂直な断面を解析面とする二次元シミュレーションで説明する。円柱(円筒)のガウス曲率はゼロであるが、平均曲率はゼロではない。円柱型であっても、曲面上のリソグラフィ技術が確立されているので円柱状の集積回路チップは容易に実現できる。なお、ガウス曲率が負の場合は双曲平面になる。
【0123】
他の実施形態に係る超音波受信器は
図42に示すような構造をなし、ステルス増幅器200iがオフセット無しに超音波受信器の音場検出軸AX上に配置されるものとする。ステルス増幅器200iは、直径が1.0mm程度の円柱型チップである。
図42では円柱の回転対称構造を規定する中心軸が紙面に垂直である。
図42に示す他の実施形態に係る超音波受信器の樹脂製ホーン部(300,301)内の超音波の音圧強度プロファイルの経時変化については、
図43に示すような結果が得られた。まず、
図43(a)に示すように、時刻200nsに透過波が円柱型チップの側面のうち圧電素子10に最も近い位置に存在する最近接母線に到達する。時刻200nsでは、圧電素子10に向かって伝播する反射波と、円柱型チップの内部を透過して最近接母線に対向する最離間母線の方向に向かう透過波が発生している。その後、時刻340nsになると、
図43(b)に示すように、透過波が円柱型チップの内部を透過して最近接母線に対向する最離間母線を超えた位置にまで到達すると同時に、円柱型チップの最近接母線の位置で反射した反射波の波面が圧電素子10に到達している。円柱型チップの上方及び下方に向かって伝播を開始している反射波も存在する。更に、円柱型チップの右側に進む円柱型チップの内部を透過した透過波と、円柱型チップの外側から回り込んだ超音波も存在している。
【0124】
圧電素子10における受信電圧波形については、
図44に示すような結果が得られた。
図44からは、S/N比は、15dBという結果が得られた。この結果は、一辺が1.0mm程度の方形板状の集積回路チップを、チップ主面傾斜角θ=0°又は90°で、オフセット無しとした場合のS/N比とほぼ変わらない。しかし、第4実施形態でチップの厚さtを薄くしたのと同様に、円柱型チップのサイズを小さくし、例えば0.1mm程度以下とすることにより、S/N比の目標値である28dB以上を実現できる。或いは、第2実施形態でオフセット配置にしたのと同様に、円柱型チップの位置をオフセット量Dだけ、中心軸に位置する音場検出軸AXから径方向へずらすことで、S/N比の目標値である28dB以上を実現できる。更に、円柱型チップのサイズを小さくし、且つオフセット配置にしてもよい。
【0125】
以上においては複雑化を回避するため、ステルス増幅器200iが円柱型であると仮定し、円柱の中心軸に垂直な断面を解析面とする二次元シミュレーションで説明した。しかし、ステルス増幅器200iが球型であれば、反射波は
図43の紙面の垂直方向を含めた3次元方向に分散して伝播する。3次元曲面をなす球において、球の北極に最初に超音波が入射すると仮定すると、反射部分の面積は北極からの距離の2乗で大きくなる。このため、球面を反射面とする場合、北極で反射する超音波のエネルギーは小さくなり、S/N比が改善される。この場合
図45に示すように、球の曲率半径が小さいほどS/N比が大きくなり、曲率半径が小さい方が好ましい。
図45において曲率半径=∞は平面の場合を示す。曲率半径=∞の場合のS/N比が8dB程度であるのに対し、球の曲率半径を50μmとすることにより、S/N比を目標値の28dBとすることが可能であることが示されている。このように、球型の集積回路チップを用いた場合には、反射波が3次元方向に分散して伝播するため、円柱の場合に比して遙かに小さな反射波しか圧電素子10には到達しなくなるので、第2~第5実施形態に係る超音波受信器の効果をより有効に発揮させることができる。
【0126】
他の実施形態に係る超音波受信器に用いるステルス増幅器200iの形状は、円柱や球に限定されるものではなく、内径が円形のトーラス(円環)やドーナツ状でもよい。圧電素子10が円形であれば、背後領域は圧電素子10を音場検出軸AXに沿って投影した円柱状の領域となる。したがって、円柱状の背後領域を囲むトーラスでステルス増幅器200iを構成すれば、背後領域から外れた位置に、ステルス増幅器200iを配置できる。圧電素子10が円形のときの背後領域は、音場検出軸AXに沿って圧電素子10の外周を平行移動してできる円柱状の投影領域であるので、トーラスの内周の径を圧電素子10の外周の径よりも大きくすればよい。いずれにせよ、他の実施形態に係る超音波受信器及びこの超音波受信器を用いた超音波観測装置によれば、圧電素子10と曲面を外形に有したステルス増幅器200iを、樹脂製ホーン部(300,301)の内部に入力接続寄生容量が小さくなるように一体化したコンパクトな構造を実現し、パルス応答特性に優れ、且つ高感度かつS/N比の高い、医用目的に用いることが好適な超音波受信器及び超音波観測装置を提供できる。
【0127】
なお、超音波受信器として、主に、ハイドロフォンであることを前提として説明してきたが、それ以外の圧電素子10を有する超音波受信器にも適用できる。また、ステルス増幅器が圧電素子10の近傍に配置されることを前提としたが、集積回路チップは、増幅器以外の機能を有する集積回路を含んでいてもよいし、増幅器に代わる別の機能を有するチップであってもよい。更に、集積回路チップに代えて、第3実施形態で説明した衝立部材のようなもののみを圧電素子10の後方に配置するだけでもS/N比の改善効果を得ることができる。
【0128】
又、第1~第5実施形態で説明したそれぞれの技術的思想を互いに組み合わせることも可能である。例えば、第5実施形態に係る超音波受信器の説明では、
図41から導かれたS/N比の値は、目標値である28dBよりも若干低い値であった。しかし、高分子材料チップを用いる第5実施形態に係る超音波受信器の技術的思想を、第1~第4実施形態に係る超音波受信器又はその他の実施形態に係る超音波受信器の技術的思想に適用し、半導体チップの代わりに高分子材料チップを用いることで、目標値である28dB以上を実現できる。
【0129】
更に、第1~第3実施形態等では、圧電素子とステルス増幅器との間を電気的に接続する入力接続手段が樹脂製信号配線である場合について例示的に説明したが、入力接続手段を樹脂製の配線に限定する意図のものではない。「入力接続手段」は、金属配線等種々の圧電素子とステルス増幅器との間を、電気的に接続する機能を有する構成を有するものであれば何でも構わない。このように、本発明は、上述の第1~第5実施形態の説明に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0130】
10…圧電素子、101…圧電体層、111…第1電極板、112…第2電極板、200…集積回路チップ、200a,200b,200c,200d,200f,200g,200h,200i…ステルス増幅器、211,212…入力パッド、221…チップ側接地パッド221、222…チップ側出力パッド222、223…チップ側電源パッド、231,232,233…導電線、300…絶縁性樹脂、301…導電性樹脂層、311…樹脂製接地配線、312…入力接続手段(樹脂製信号配線)、400…プリント基板、411…中継接地パッド、421…外部接地パッド、412…中継出力パッド、422…外部出力パッド、413…中継電源パッド、423…外部電源パッド、431,433…外部接続リード線、432,437…出力接続手段(出力リード線)、500…外部端子、510…伝送線路、520…観測機器、800…筒状筐体