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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】プロトテカ症の新規治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/427 20060101AFI20241127BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A61K31/427
A61K31/661
A61P31/04
A61P31/04 171
A61P43/00 123
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021530729
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026904
(87)【国際公開番号】W WO2021006317
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019128864
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519127362
【氏名又は名称】株式会社セレンファーマ
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】加納 塁
(72)【発明者】
【氏名】尾川 修
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】INOUE Maki et al.,Case report of cutaneous protothecosis caused by Prototheca wickerhamii designated as genotype 2 and,Journal of Dermatology,2018年01月31日,Vol.45, No.1,p.67-71
【文献】Clemons. K. V. et al.,Efficacy of Ravuconazole in Treatment of Systemic Murine Histoplasmosis,ANTIMICROB. AGENTS CHEMOTHER.,2002年12月31日,Vol.46, No.3,p.922-924
【文献】渡辺 晋一,爪白癬治療の新しい夜明け,感染症学雑誌,2019年03月01日,第93巻, 臨時増刊号,p.436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/427
A61K 31/661
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラブコナゾール、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を有効成分として含む、プロトテカ症に対する治療又は予防のための組成物であって、前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamii及び/又はPrototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である組成物
【請求項2】
イヌ又はネコが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のために使用する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ウシが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のために使用する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ヒトが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のための医薬組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ホスラブコナゾール、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を有効成分として含む、プロトテカ症に対する治療又は予防のための組成物であって、前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamii及び/又はPrototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である組成物
【請求項6】
前記ホスラブコナゾールあるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物が、ホスラブコナゾールのL-リシンエタノール付加物である請求項に記載の組成物。
【請求項7】
イヌ又はネコが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のために使用される請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
ウシが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のために使用される請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項9】
ヒトが罹患したプロトテカ症に対する治療又は予防のための医薬組成物である請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項10】
プロトテカ症に罹患した動物(ヒトを除く)に対して、治療有効量のラブコナゾール、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を投与することを含む、プロトテカ症の治療方法であって、前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamii及び/又はPrototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である治療方法
【請求項11】
前記動物がイヌ又はネコである請求項10に記載の治療方法。
【請求項12】
前記動物がウシである請求項10に記載の治療方法。
【請求項13】
プロトテカ症を罹患した動物(ヒトを除く)に対して、治療有効量のホスラブコナゾール、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を投与することを含む、プロトテカ症の治療方法であって、前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamii及び/又はPrototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である治療方法
【請求項14】
前記ホスラブコナゾールあるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物が、ホスラブコナゾールのL-リシンエタノール付加物である請求項13に記載の治療方法。
【請求項15】
前記動物がイヌ又はネコである請求項13又は14に記載の治療方法。
【請求項16】
前記動物がウシである請求項13又は14に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトテカ症の新規治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトテカは、藻類の一種であるが、二次的に葉緑体を失っているため光合成を行わない。そのため、外部からエネルギー源を接種する従属栄養生物であるので、腐生性または寄生性に栄養を得ている。世界中の土壌、植物表面、動物の消化器内(宿主腸内フローラ)、湖沼や汚水中などの湿潤な環境下に生息しているが、ヒトや動物に感染する人獣共通病原体でもある。
【0003】
プロトテカにより引き起こされる感染症はプロトテカ症と呼ばれ、イヌ、ネコ、家畜及びヒトに感染する人獣共通感染症である。プロトテカ感染症は、近年新興感染症として注目され、その対策には学際的かつ国際的な協力が必要である。日本では最初のヒトのプロトテカ症は1983年に報告され、その後散見されるようになった。
【0004】
プロトテカは、植物表面や土壌及び湖沼などに生息するため、環境から感染すると考えられているが、一方で動物の消化管にも常在していることから、日和見感染症の病原体でもある。そのため、動物のプロトテカ症は、イヌ、ネコの動物から酪農牛における乳房炎原因微生物として、日本を含め世界各地で報告されている。
【0005】
イヌ及びネコのプロトテカ症は、皮膚の急性~慢性の炎症病原を引き起こすが、さらに中枢神経を含めた全身の臓器へ播種する致死的な疾患でもある。ネコの場合は専ら皮膚への感染がみられ、感染経路は皮膚の外傷であることが多い。一方、イヌではより重症の播種性(深在性)プロトテカ症が多いと言われている。プロトテカ症は日和見感染症とも考えられており、下痢症に対する抗菌剤投与による菌交代症の発症や、免疫抑制剤や抗ガン剤投与の使用頻度の増加とともに発症が増えやすくなると考えられている。免疫不全の場合はまた、皮膚感染から播種性への移行が懸念される。また、ウシのプロトテカ性乳房炎は、乳汁の質の低下及び人獣共通感染症の原因となる。このように、動物のプロテカ症は、産業動物及び愛玩動物において問題視されており、その防除法及び治療法の確立が急務となっている。
【0006】
プロトテカ症の病原体として最も良く知られる種は、Prototheca wickerhamiiとPrototheca zopfiiである。Prototheca wickerhamiiは最も一般的なヒト及び小動物の病原体であり、Prototheca zopfiiはヒト及び小動物において散発性のプロトテカ症を引き起こす。
【0007】
抗真菌剤であるアムホテリシンB(AMB)やアゾール類がこの疾患の治療に使われてきているが、ヒトや動物の治療における臨床応答は一般的に弱い。インビボでの、AMB、ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)及びイトラコナゾール(ITZ)に対する感受性に関する本発明者の以前の研究より、Prototheca wickerhamii及びPrototheca zopfiiのいくつかの株に対し、これらの薬剤は効果的でないと示されている(非特許文献1)。
【0008】
本発明者により、プロトテカ性ウシ乳房炎分離株を用いて、カナマイシン(KM)、ゲンタマイシン(GM)、アムホテリシンB(AMB)、イトラコナゾール(ITZ)に対する感受性が報告されている(非特許文献2)。その結果、乳房炎の原因菌であるPrototheca zopfii の Genotype 2は、薬剤感受性が低く、それが薬剤による乳房炎の治療を困難にしている原因の一つであると報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Sobukawa Hら、In vitro susceptibility of Ptototheca zofii genotypes 1 and 2, Med. Mycol. 2011; 49:222-224
【文献】Rui Kanouら, The Journal of Farm Animal in Infectious Diease, Vol.5, No.4, 2016, p139-143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、プロトテカによる感染症に対して有効な新規な治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、プトロテカがラブコナゾールに対して高い感受性を示すことを見いだし、本発明を完成した。本発明は、以下の態様を含むものである。
[1]ラブコナゾール、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を有効成分として含む、プロトテカ症に対する治療又は予防のための組成物。
[2]イヌ又はネコが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のために使用する上記[1]に記載の組成物。
[3]ウシが罹患したプロトテカ症(好ましくは、プロトテカ性ウシ乳房炎)の治療又は予防のために使用する上記[1]に記載の組成物。
[4]ヒトが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のための医薬組成物である上記[1]に記載の組成物。
[5]前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6]前記プロトテカ症が、Prototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[7]ラブコナゾールのプロドラッグ(好ましくは、ホスラブコナゾール)、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を有効成分として含む、プロトテカ症に対する治療又は予防のための組成物。
[8]イヌ又はネコが罹患したプロトテカ症の治療又は予防のために使用される上記[7]に記載の組成物。
[9]ウシが罹患したプロトテカ症(好ましくは、プロトテカ性ウシ乳房炎)の治療又は予防のために使用される上記[7]に記載の組成物。
[10]ヒトが罹患したプロトテカ症に対する治療又は予防のための医薬組成物である上記[7]に記載の組成物。
[11]前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[7]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
[12]前記プロトテカ症が、Prototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[7]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
【0012】
[13]プロトテカ症に罹患した動物に対して、治療有効量のラブコナゾール、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を投与することを含む、プロトテカ症の治療方法。
[14]前記動物がイヌ又はネコである上記[13]に記載の治療方法。
[15]前記動物がウシである上記[13]に記載の治療方法。
[16]前記動物がヒトである上記[13]に記載の治療方法。
[17]前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[13]~[16]のいずれか一つに記載の治療方法。
[18]前記プロトテカ症が、Prototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[13]~[16]のいずれか一つに記載の治療方法。
[19]プロトテカ症を罹患した動物に対して、治療有効量のラブコナゾールのプロドラッグ(好ましくは、ホスラブコナゾール)、あるいはその薬学的に許容できる塩、水和物又は溶媒和物を投与することを含む、プロトテカ症の治療方法。
[20]前記動物がイヌ又はネコである上記[19]に記載の治療方法。
[21]前記動物がウシである上記[19]に記載の治療方法。
[22]前記動物がヒトである上記[19]に記載の治療方法。
[23]前記プロトテカ症が、Prototheca wickerhamiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[19]~[22]のいずれか一つに記載の治療方法。
[24]前記プロトテカ症が、Prototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症である上記[19]~[22]のいずれか一つに記載の治療方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によりプロトテカ症に対して有効な治療又は予防のための組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
【0015】
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを上限としてYを含む意味で、或いは上限としてXを下限としてYを含む意味で用いる。
本明細書において、治療又は予防のための組成物、あるいは治療方法又は予防方法との関連で「ラブコナゾール」という場合は、ラブコナゾール、その薬学的に許容される塩、水和物及び溶媒和物の全てを含む意味で用いられる。同様に、本明細書において、「ホスラブコナゾール」という場合は、ホスラブコナゾール、その薬学的に許容される塩、水和物及び溶媒和物の全てを含む意味で用いられる。
【0016】
本発明の一つの態様は、プロトテカ症に罹患した動物に使用することを目的としたラブコナゾールを有効成分として含む組成物(好ましくは医薬組成物)である。
本発明の別の一つの態様は、Prototheca wickerhamiiにより引き起こされるプロトテカ症に罹患した動物に使用することを目的としたラブコナゾールを有効成分として含む組成物(好ましくは医薬組成物)である。
本発明の別の一つの態様は、Prototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症に罹患した動物に使用することを目的としたラブコナゾールを有効成分として含む組成物(好ましくは、医薬組成物)である。
本発明の一つの態様は、プロトテカ症に罹患した動物に使用することを目的としたラブコナゾールのプロドラッグ、好ましくはホスラブコナゾールを有効成分として含む組成物(好ましくは医薬組成物)である。
本発明の別の一つの態様は、Prototheca wickerhamiiにより引き起こされるプロトテカ症に罹患した動物に使用することを目的としたラブコナゾールのプロドラッグ、好ましくはホスラブコナゾールを有効成分として含む組成物(好ましくは医薬組成物)である。
本発明の別の一つの態様は、Prototheca zopfiiにより引き起こされるプロトテカ症に罹患した動物に使用することを目的としたラブコナゾールのプロドラッグ、好ましくはホスラブコナゾールを有効成分として含む組成物(好ましくは、医薬組成物)である。
【0017】
ラブコナゾールは、カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコックス属を含む様々な菌類病原体に対して抗菌活性を示す化合物として報告されている。ラブコナゾールは、以下の構造式(I)を有するアゾール系抗真菌化合物である。
【0018】
【化1】
ラブコナゾールの製造方法は、例えば、Organic Process Research & Development 2009, 13, 716-728に開示されており、かかる開示を参考にして製造することができる。かかる開示は引用することにより本明細書の一部である。製造に当たっては、当業者は当該技術分野において公知の技術を制限なく適宜利用することができる。
【0019】
ホスラブコナゾールは、ラブコナゾールの水酸基にホスホモノオキシメチルエステルが置換した以下の構造式(II)を有する化合物である。
【0020】
【化2】
ホスラブコナゾールはラブコナゾールのプロドラッグであり、動物、例えばヒトに投与すると速やかにラブコナゾールに変換される。ホスラブコナゾールのL-リシンエタノール付加物が、爪白癬に対する医薬品として現在販売されている。ホスラブコナゾールはまた、当該技術分野で公知の技術を適宜用い合成することもできる。
【0021】
本発明の組成物が含有するラブコナゾールは、薬学的に許容される塩であってもよい。「薬学的に許容される塩」とは、上記式(I)で表される化合物から形成されるあらゆる非毒性の塩を示す。適切な塩としては、例えば、これに限定しないが、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、フタル酸塩、メチルスルホン酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩などの有機酸、アンモニウム塩などの無機塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、カルボン酸塩などの酸性基の塩、メチルアミン、エチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの低級アルキルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの置換低級アルキルアミンなどの有機塩基との塩、グリシン塩、リシン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩などのアミノ酸塩をあげることができる。
【0022】
本発明の組成物が含有するラブコナゾールはまた、上記式(I)で表される化合物から形成される水和物のような含水生成物又は溶媒和物などでもよい。本明細書で使用する「水和物」という用語は、非共有結合性分子間力によって結合する、化学量論的又は非化学量論的量の水をさらに含む、化合物又はその塩を意味する。 本明細書で使用する「溶媒和物」という用語は、非共有結合性分子間力によって結合する、化学量論的又は非化学量論的量の溶媒をさらに含む、化合物又はその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性の、無毒の、及び/又は微量の、動物、好ましくはヒトに投与するのに許容されるものである。例えば、これに限定されないが、水、エタノールなどである。
【0023】
本発明の組成物が含有するホスラブコナゾールは、薬学的に許容される塩であってもよい。「薬学的に許容される塩」とは、上記式(II)で表される化合物から形成されるあらゆる非毒性の塩を示す。具体的には、ラブコナゾールとの関連で記載した上記塩をあげることができる。
本発明の組成物が含有するホスラブコナゾールは、上記式(II)で表される化合物から形成される水和物のような含水生成物又は溶媒和物などでもよい。水和物及び溶媒和物は上記と同様の意味である。好ましい溶媒は、揮発性の、無毒の、及び/又は微量の、動物、好ましくはヒトに投与するのに許容されるものであり、これに限定されないが、水、エタノールなどである。
本発明の組成物が有効成分として含有するホスラブコナゾールは、好ましくは、ホスラブコナゾールのL-リシンエタノール付加物である。
【0024】
本発明の組成物は、有効成分としてラブコナゾールのプロドラッグを含有してもよい。ラブコナゾールの「プロドラッグ」は、「プロドラッグエステル」及び「プロドラッグエーテル」の両方を包含する。「プロドラッグエステル」には、当業者に公知の方法を用いて、上記式(I)で表される化合物のヒドロキシルを、アルキル、アルコキシ、もしくはアリール置換アシル化剤もしくはリン酸化剤のいずれかと反応させて、アセテート、ピバレート、メチルカーボネート、ベンゾエート、アミノ酸エステル、ホスフェート、ハーフ酸エステル(例えばマロネート、スクシネート、もしくはグルタレート)などを生成することにより形成される、エステルおよびカーボネートが含まれる。本明細書で用いる用語「プロドラッグエーテル」には、当業者に公知の方法を用いて製造される、上記式で表される化合物のホスフェートアセタール及びグルコシドの両方が含まれる。
プロドラッグは、インビボで、例えば血中での加水分解により、上記式(I)で表される親化合物に変換される化合物をいう。
【0025】
本発明の組成物が含有するラブコナゾールのプロドラッグは、薬学的に許容される塩であってもよい。本発明の組成物が含有するラブコナゾールのプロドラッグはまた、水和物のような含水生成物又は溶媒和物などでもよい。
本発明の組成物が含有するプロドラッグは、好ましくはホスラブコナゾール、より好ましくはホスラブコナゾール-L-リシンエタノール付加物である。
【0026】
本発明の組成物は、ラブコナゾール又はラブコナゾールのプロドラッグのいずれかの化合物に加え、1以上の薬学的に許容される担体、及び、適宜、他の薬剤、例えば抗真菌剤を含むことができる。
【0027】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、当業者に知られているように、任意及びすべての、溶媒、分散媒体、コーティング剤、酸化防止剤、キレート剤、保存剤(例えば、抗菌剤)、界面活性剤、緩衝剤、浸透圧調節剤、吸収遅延剤、塩、薬物安定剤、賦形剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、甘味剤、芳香剤、潤沢剤、染料など、及びそれらの組合せを含む。何れかの担体が本発明の活性成分と不適合である場合以外は、本発明の組成物又は治療方法において使用することができる。
【0028】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、治療を必要とする動物に投与される場合、治療効果を生じさせるのに十分な量のラブコナゾール又はラブコナゾールのプロドラッグ(好ましくは、ホスラブコナゾール)をいう。治療有効量は、対象とする動物及び治療する疾患症状、対象とする動物の体重及び年齢、疾患症状の重症度、投与方法などに依存して異なり、当該技術分野における当業者により容易に決定されることができる。
【0029】
本明細書で使用される対象とする動物という用語は、治療を必要とする動物であり、典型的には、哺乳動物である。例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ラット、マウス、コアラなどを指す。ある種の実施形態において、対象である動物は、好ましくはヒト、ネコ、イヌ又はウシである。
【0030】
本発明の組成物が投与される対象は、プロトテカ症に罹患した動物である。好ましくは、Prototheca wickerhamii 又は Prototheca zopfii により引き起こされたプロトテカ症に罹っている動物である。
【0031】
ラブコナゾール(上記式(I))又はラブコナゾールのプロドラッグ(例えば、ホスラブコナゾール(上記式(II)))のいずれかを含む本発明の組成物は、例えば、医薬組成物の処方のための既知の方法に準じて処方することができる。代表的な医薬組成物には、上記した薬学的に許容される担体が含まれうる。これらの担体の使用は、当該技術分野においてよく知られている。また、活性成分を含む医薬組成物を調製するための方法は、当該技術分野においてよく知られている。
【0032】
本発明の組成物は、使用目的に応じた特定の投与経路に適合するように製剤化されうる。投与経路は、これに限定されないが、例えば、経口、非経口、静脈内、皮内、皮下、経皮、吸入、局所、経粘膜的、直腸、又は点眼投与がある。本発明の組成物は、固体形態又は液体形態で製剤化されうる。固定形態は、これに限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤を含む。液体形態は、これに限定されないが、例えば、溶液剤、懸濁剤、乳濁剤、ローション剤、スプレー剤を含む。本発明の組成物の投与には、これに限定されないが、通常、経口投与、静脈内投与、筋肉内、又は経皮投与が用いられる。
【0033】
経口投与用に調合された本発明の組成物は、液体組成物又は固体組成物のいずれでもよい。液体製剤については、水、グリコール、油、アルコール及びこれらに類するものなどの液体担体を用いて組成物を調製することができる。錠剤及びカプセル剤などの固体製剤については、ステアリン酸カルシウムなどの潤滑剤とともに結合剤、崩壊剤及びこれらに類するものを一般には含有し、デンプン、糖、カオリン、エチルセルロース、炭酸カルシウム及びナトリウム、リン酸カルシウム、タルク、ラクトースなどの固体担体を用いて組成物を調製することができる。錠剤及びカプセルは、投与が容易なため、最も有利な経口剤形である。投与の容易さ及び投薬量の均一性のためには、組成物を単位剤形で調合すると特に有利である。単位剤形での組成物は本発明の一つの態様を構成する。
【0034】
本発明の組成物は、経皮投与のために、例えば貼付剤、軟膏剤、クリーム剤として調製することができる。貼付剤は、テープ剤又はハップ剤のいずれでもよく、これに限定されないが、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を基材として用い、これにラブコナゾール又はラブコナゾールのプロドラッグを有効成分として基材に配合することにより調製できる。また、常法に従い、有効成分の安定化や溶出性の制御、粘着性の制御のために、貼付剤において用いられる添加剤を加えることができる。軟膏剤やクリーム剤として調製する場合は、疎水性基剤(例えばワセリン)や親水性基剤(例えば、乳化剤やポリエチレングリコール)を用いて常法に従って調製できる。また、当該技術分野で用いられている各種添加剤を加えることができる。その他、本発明の組成物は、ゲル剤、液剤、懸濁剤、スプレー剤等、いずれの剤型で用いることもでき、それらの剤型への調製は、当該技術分野で用いられている材料及び方法を用いて行うことができる。
【0035】
本発明の組成物は、点眼投与のために、例えば、点眼剤とすることもできる。点眼剤は、水性点眼剤、懸濁性点眼剤、油性点眼剤、眼軟膏剤、用時溶解点眼剤のいずれの剤型でもよく、それらの剤型への調製は、当該技術分野で用いられている材料及び方法を用いて行うことができる。
【0036】
本発明の組成物は、注射用に調製することができ、水中0.85%の塩化ナトリウム又は5%のデキストロースなどの油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルジョンなどの形態を取ることができる。また、懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤などの調合剤を含有することができる。緩衝剤ならびに添加剤(生理食塩水又はグルコースなど)を添加して、溶液を等張性にすることができる。点滴静脈内投与のために、化合物をアルコール/プロピレングリコール又はポリエチレングリコールに溶解することもできる。これらの組成物は、望ましくは保存剤を添加した、アンプル内又は複数回分用容器内の単位剤形で提供することもできる。あるいは、有効成分は、投与前に適するビヒクルと再構成するように、粉末形態であることができる。
【0037】
本発明の組成物における上記化合物の投与量は、疾患の種類、投与対象の症状、年齢、投与方法等により適宜選択される。ヒトへの投与の場合、例えばこれに限定されないが、経口剤であれば、通常、1日当たり10~5000mg、好ましくは20~2000mg、より好ましくは50~500mg、さらに好ましくは100~200mgを、1日1回~2回、数日から数週間、場合によっては数カ月間から1年間、連続して又は間歇的に投与すればよい。また、ネコへの投与の場合、例えばこれに限定されないが、通常、1日当たり2~1000mg、好ましくは10~100mg、より好ましくは20~40mgを、1日1回~2回、数日から数週間、場合によっては数カ月間から1年間、連続して又は間歇的に投与すればよい。イヌへの投与の場合、例えばこれに限定されないが、通常、1日当たり2~1000mg、好ましくは10~500mg、より好ましくは20~100mgを、1日1回~2回、数日から数週間、場合によっては数カ月間から1年間、連続して又は間歇的に投与すればよい。ウシのプロトテカ性乳房炎の治療のための投与の場合、例えばこれに限定されないが、通常、1日当たり10~10000mg、好ましくは20~5000mg、より好ましくは50~1000mgを、1日1回~2回、数日から数週間、場合によっては数カ月間から1年間、連続して又は間歇的に投与すればよい。
【0038】
本発明の組成物は、ラブコナゾール又はホスラブコナゾールに加えて他の抗真菌剤を含むこともできる。他の抗真菌剤としては、これに限定されないが、ナタマイシン、リモシジン、ナイスタチン、アムホテリシンB、カンジシン、ハマイシン、ペリマイシン、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、オモコナゾール、ビホナゾール、ブトコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、チオコナゾール、フルコナゾール、ホスフルコナゾール、イトラコナゾール、イサブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、テルコナゾール、アルバコナゾール、アバファンギン、テルビナフェン、ナフティフィン、ブテナフィン、アモロルフィン、アニデュラファンギン、カスポファンギン、ミカファンギン、シクロピロックス、トルナフテート、又はフルシトシンをあげることができる。好ましくは、単独では有効性が十分でないが、カナマイシン(KM)、ゲンタマイシン(GM)、アムホテリシンB(AMB)、イトラコナゾール(ITZ)をあげることができる。よって、本発明の組成物は、ラブコナゾール又はラブコナゾールのプロドラッグ(好ましくはホスラブコナゾール)に加え、他の抗真菌剤を含む2つ以上の有効成分の組合せ(配合剤)を含む。
【0039】
本発明の組成物はまた、併用療法のために他の薬剤と併用投与することができる。併用投与は、二つの薬剤の逐次、同時又は並行投与を含む。併用投与することができる他の薬剤は、上記した抗真菌剤をあげることができる。
【0040】
本発明はまた、治療有効量のラブコナゾール又はラブコナゾールのプロドラッグ(好ましくはホスラブコナゾール)をプロトテカ症の動物、好ましくはイヌ、ネコ、ウシ、又はヒトに投与することを含む、プロトテカ症の治療のための方法を含む。本発明はまた、他の既知の薬剤と組み合わせて患者に投与することを含む、プロトテカ症の治療のための方法(併用)を含む。他の薬剤は、上記した抗真菌剤をあげることができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
Prototheca wickerhamii、Prototheca zopfii、及びPrototheca blaskeae の臨床分離株及び環境分離株を用い、それらのラブコナゾールに対する感受性を試験した。
(実施例1)分離株の調製
Prototheca wickerhamii について、プロトテカ症に罹患したイヌ、ネコより分離株(ネコ 1株、イヌ 2株)を得た。Prototheca zopfii について、プロトテカ性ウシ乳房炎分離株(Genotype 2、10株)及び環境分離株(Genotype 1、10株)を得た。Prototheca blaskeae について、プロトテカ性乳房炎分離株(1株)を得た。Prototheca zopfii については、Genotype 1の樹立株(SAG20063T)及びGenotype 2の樹立株(SAG2021T)についても薬剤感受性をテストした。
分離株は、Yeast Extract-Peptone-Dextrose 寒天培地(YPD:1% yeast extract、2% peptone、2% dextrose、2% agar)で維持し、抗真菌感受性テストを行った。抗真菌剤イトラコナゾール(ITZ、Merck KGA)及びラブコナゾール(RVZ、セレンファーマ)に対する分離株の感受性は、微量液体希釈法(broth microdilution assay)を用い、CLSI M27-A3ガイドラインに従って行った。最少発育阻止濃度(MIC)は、32度で72時間培養した後に測定した。MICは、成長の顕著な阻害(約50%以上の阻害)を誘導する最少の濃度と定義した。コントロールとして、ATCCから入手したCandida parapsilosis ATCC 22019 を用い、CLSI M27-A3テストのMICアッセイを行った。CLSI M27-A3テストの各分離株のMICの結果を以下の表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
Prototheca wickerhamiiの3つの臨床分離株のMICは、イトラコナゾールでは4~>32mg/Lであるのに対しラブコナゾールでは0.03mg/Lであった。Prototheca zopfii のGenotype 1の11の分離株のMICは、イトラコナゾールでは0.25~>32mg/Lであるのに対しラブコナゾールでは0.03mg/Lであった。Prototheca zopfii のGenotype 2の11の分離株のMICは、イトラコナゾールでは4~>32mg/Lであるのに対しラブコナゾールでは0.03~0.25mg/Lであった。Prototheca blaskeae の1つの分離株のMICは、イトラコナゾールでは32mg/Lであるのに対しラブコナゾールでは0.03mg/Lであった。
コントロール(参照)株であるCandida parapsilosis ATCC 22019 に対するアゾール系薬剤のMICは、イトラコナゾールでは0.125であり、ラブコナゾールでは0.03mg/Lであり、CLSI M27-A3アッセイの添付書に記載の推奨の範囲内に収まった。
これらの結果は、ラブコナゾールがプロトテカ種の菌に対しイトラコナゾールよりも有効である(言い換えれば、防藻効果が高い)ことを示している。また、プロトテカであるPrototheca wickerhamii、Prototheca zopfii 、Prototheca blaskeae に対するカナマイシン(KM)、ゲンタマイシン(GM)、アムホテリシンB(AMB)、イトラコナゾール(ITZ)の効果についての公知の結果と比べてもラブコナゾールは強い活性を示した。
これらの結果は、ラブコナゾールが、ヒト及び動物のプロトテカ症の治療における第一選択薬剤となりうる可能性を示している。
【0045】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により提供されるラブコナゾールを含む組成物は、プロトテカ症の治療薬として有用である。