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特許7594270排ガス浄化装置用マット及び排ガス浄化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置用マット及び排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020133174
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2021185310
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019144390
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020092409
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522123566
【氏名又は名称】マフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志楽 英之
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-129833(JP,A)
【文献】実開昭58-111312(JP,U)
【文献】国際公開第2009/133613(WO,A1)
【文献】特開2007-292040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00、 3/02、 3/04- 3/38、
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維成形体により構成される排ガス浄化装置用マットであって、
該排ガス浄化装置用マットの長手方向に延在する第1辺及び第2辺と、該第1辺及び第2辺の一端側同士を結ぶ第3辺と、前記第1辺及び前記第2辺の他端側同士を結ぶ第4辺とを有し、
前記第3辺に凸部が突設され且つ前記第4辺に凹部が凹設され、
該第3辺及び第4辺のそれぞれの辺縁の長さZが第1辺と第2辺との距離Wの2.8倍以上であることを特徴とする排ガス浄化装置用マット。
【請求項2】
ZとWとの比Z/Wが2.8~12.8あることを特徴とする請求項1の排ガス浄化装置用マット。
【請求項3】
前記凸部及び前記凹部がそれぞれ複数個設けられていることを特徴とする請求項1又は2の排ガス浄化装置用マット。
【請求項4】
前記無機繊維成形体は、厚み方向に延在したニードル痕を有し、該ニードル痕には、該厚み方向に延在した該無機繊維よりなる縦糸条が存在するニードリングマットであることを特徴とする請求項1~3のいずれかの排ガス浄化装置用マット。
【請求項5】
該無機繊維成形体は、下記剥離試験を行ったときに、50mm×50mmの範囲における、一方の剥離面及び他方の剥離面から突出する全ての縦糸条のうち、直径100μm以上で突出長さ2mm以上である縦糸条を有効縦糸条と表した場合、
下記(I)及び(II)の少なくとも一方の特性を満たすことを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化装置用マット。
(I) 該範囲における有効縦糸条の、前記剥離面から突出した部分の総体積を該範囲におけるニードル痕の数で除した、ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積が0.5mm以上である。
(II) 該範囲における有効縦糸条1条あたりの、前記剥離面から突出した部分の平均体積が1.0mm以上である。
<剥離試験>
無機繊維成形体から幅50mm、長さ150mmの試験片を型抜きする。次いで、この試験片の一方の端面の厚み中央に30mm深さの切り込みを入れ、切り込みにより形成されたその両端をつかみ治具に支持した後、引張試験機にセットする。500mm/minの速度で、試験片の該両端をそれぞれ相反する厚み方向に引っ張って2つに裂く。
【請求項6】
前記ニードル痕密度が1~100個/cmである請求項4または5に記載の排ガス浄化装置用マット。
【請求項7】
前記剥離試験による荷重ピーク(N)として求められる最大剥離強度が3N以上である請求項5に記載の排ガス浄化装置用マット。
【請求項8】
前記無機繊維は、アルミナ/シリカ系繊維である請求項1~7のいずれかの排ガス浄化装置用マット。
【請求項9】
触媒担持体と、該触媒担持体の外側を覆うケーシングと、該触媒担持体と該ケーシングとの間に介装されたマットとを備える排ガス浄化装置において、該マットが請求項1~8のいずれかに記載のマットであることを特徴とする排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維成形体にて構成された排ガス浄化装置用マット、即ち、排ガス浄化装置の触媒担持体の把持材、及びこの排ガス浄化装置用マットを備えた排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックファイバーに代表される無機繊維の成形体は、工業用断熱材、耐火材、パッキン材などの高温の状態に暴露される用途に用いられてきた。また、自動車用排ガス浄化装置用マット(触媒把持材)としても用いられている。触媒把持材は、触媒担持体を金属ケーシングに収容する際に、触媒担持体に巻回され、触媒担持体と金属ケーシングの間(GAP)に介装される排ガス浄化装置用のクッション材である。したがって、GAPの広がりに対応し、排ガスのリークや触媒担持体の破損を防ぐことが求められている。
【0003】
無機繊維成形体により構成される触媒把持材として、特許文献1には、アルミナ/シリカの質量比が72~100/28~0であるである無機短繊維成形体からなるハニカム固定用保持材が記載されている。
【0004】
特許文献2には、排ガス処理体と、前記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、前記排ガス処理体と前記金属ケーシングの間に配設され、前記排ガス処理体を保持する無機繊維からなるマット状の保持シール材において、内外周差による隙間を生じることなく排ガス処理体に巻き付けることを目的として、前記保持シール材は、第1の主面と、第2の主面とを有するとともに、前記第1の主面を含む所定深さの第1の領域と、前記第2の主面を含む所定深さの第2の領域とを有し、前記第1の領域には、第1の有機バインダーが含浸され、前記第2の領域には、第2の有機バインダーが含浸されており、前記第1の有機バインダーのガラス転移温度は、前記第2の有機バインダーのガラス転移温度よりも高く、前記第1の主面が、前記排ガス処理体と接するように配設されることを特徴とする保持シール材が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-292040号公報
【文献】特開2014-202188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、排ガス規制の強化より、排ガス浄化装置における排ガスリークの更なる低減が求められている。排ガスリークは特に、排ガス浄化装置用マットを触媒把持材に巻きつけた際に形成される、マット同士の嵌合部から生じやすい。嵌合部は、エンジンからの振動や走行中の衝撃などによってずれやすく、これにより、マット同士の嵌合部に隙間が生じやすい。
【0007】
本発明は、排ガス浄化装置における排ガスリークが低減される排ガス浄化装置用マット及びこの排ガス浄化装置用マットを備えた排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、排ガス浄化装置用マットを触媒把持材に巻きつけた際に形成されるマット同士の嵌合部において、嵌合部の断面積比率を高めることによって、マット同士の摩擦力を向上させ、隙間が生じづらいマットとなることを見出した。さらに、嵌合部の断面積比率を高めることにより、排ガスリーク流路を延ばし、リークガス量が低減されることを見出した。
【0009】
本発明の排ガス浄化装置用マットは、かかる知見に基づくものであり、無機繊維成形体により構成される排ガス浄化装置用マットであって、該排ガス浄化装置用マットの長手方向に延在する第1辺及び第2辺と、該第1辺と第2辺とを結ぶ第3辺及び第4辺とを有し、該第3辺及び第4辺は、それぞれ、辺縁の長さZが第1辺と第2辺との距離Wの2.8倍以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様では、ZとWとの比Z/Wが2.8~12.8である。
【0011】
本発明の一態様では、前記凸部及び凹部がそれぞれ複数個設けられている。
【0012】
本発明の一態様では、無機繊維成形体は、厚み方向に延在したニードル痕を有し、該ニードル痕には、該厚み方向に延在した該無機繊維よりなる縦糸条が存在する。
【0013】
本発明の一態様において、前記無機繊維成形体は、下記の剥離試験を行ったときに、50mm×50mmの範囲における、一方の剥離面及び他方の剥離面から突出する全ての縦糸条のうち、直径100μm以上で突出長さ2mm以上である縦糸条を有効縦糸条として、下記(I)及び(II)の少なくとも一方の特性を満たす。
【0014】
<剥離試験>
無機繊維成形体から50mm×150mmの試験片を型抜きする。次いで、この試験片の一方の端面の厚み中央に30mm深さの切り込みを入れ、切り込みにより形成されたその両端をつかみ治具に支持した後、引張試験機にセットする。500mm/minの速度で、試験片の該両端をそれぞれ相反する厚み方向に引っ張って2つに裂く。
(I) 該範囲における有効縦糸条の、前記剥離面から突出した部分の総体積を該範囲におけるニードル痕の数で除した、ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積が0.5mm以上である。
(II) 該範囲における有効縦糸条1条あたりの、前記剥離面から突出した部分の平均体積が1.0mm以上である。
【0015】
本発明の一態様ではニードル痕密度が1~100個/cmである。
【0016】
本発明の一態様では、前記剥離強度試験による荷重ピーク(N)として求められる最大剥離強度が3N以上である。
【0017】
本発明の一態様では、前記無機繊維は、アルミナ/シリカ系繊維である。
【0018】
本発明の排ガス浄化装置は、触媒担持体と、該触媒担持体の外側を覆うケーシングと、該触媒担持体と該ケーシングとの間に介装された本発明の排ガス浄化装置用マットとを有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の排ガス浄化装置用マットは、第3辺と第4辺とを突き合わせて凸部と凹部とを嵌合させるので、マット同士の摩擦力が高まるとともに、第3辺と第4辺との接触面積が大きく、排ガスリーク流路が長いものとなる。これにより、本発明の排ガス浄化装置用マットを備える排ガス浄化装置において、排ガスリーク量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態に係る排ガス浄化装置用マットの斜視図である。
図2】実施の形態に係る排ガス浄化装置用マットの平面図である。
図3】実施の形態に係る排ガス浄化装置用マットの装着方法を示す斜視図である。
図4】剥離強度試験の説明図である。
図5】剥離強度試験片の説明図である。
図6】別の実施の形態に係る排ガス浄化装置用マットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
図1,2に示す排ガス浄化装置用マット10は、1対の平行な長辺(第1辺1及び第2辺2)と、それぞれ該第1辺1と第2辺2とを結ぶ短辺(第3辺3及び第4辺4)とを有した略々長方形状のものである。第3辺3からは凸部5が突設されている。第4辺4には凹部6が凹設されている。
凸部5は、第3辺3から第1辺1及び第2辺2と平行方向に延出している。この実施の形態では、長方形状の1個の凸部5が設けられているが、後述の通り凸部の形状は方形でなくてもよく、また2個以上の凸部が設けられてもよい。
【0023】
凸部5は、第1辺1から距離aだけ離隔しており、第2辺2から距離cだけ離隔している。凸部5の第3辺3からの延出長さはdであり、凸部5の延出方向と直交方向の幅はbである。凸部5の延出長さdは排ガス浄化装置用マット10の全長Lの13.5%~90%、特に26.5~40%程度が好ましい。なお、aとcとは略同一であることが好ましいが、これに限定されない。(以下、排ガス浄化装置用マットの全長Lに対する凸部延出長さdの比率を、「比d/L」と表すことがある。)
【0024】
排ガス浄化装置用マットの短手幅(第1辺1と第2辺2との距離)はWであり、W=a+b+cである。凸部5の幅bは、短手幅Wの10~80%特に30~60%程度が好ましい。
【0025】
凹部6は凸部5と同一形状及び同一大きさであり、第4辺4から深さdだけ後退している。凹部6と第1辺1との距離はaであり、凹部6と第2辺2との距離はcであり、凹部6の幅はbである。
【0026】
この排ガス浄化装置用マット10の厚みはtである。
【0027】
本発明において、排ガス浄化装置用マットの短手幅方向の断面積Sは、第1辺と第2辺との距離Wと厚みtとの積である。例えば、図2の排ガス浄化装置用マット10の凸部5及び凹部6以外の部分における短手幅方向の断面積Sは、S=t・W=t・(a+b+c)で表わされる。
【0028】
本発明において、辺縁の長さZは、勘合部断面の全長である。例えば、図2の実施の形態では、第3辺3及び第4辺4は、それぞれ、辺縁の長さ(道のり長さ)Zが、Z=a+d+b+d+c=a+b+c+2dである。第3辺3及び第4辺4における端面の面積Tは、T=t・Z=t・(a+b+c+2d)で表わされる。
【0029】
この実施の形態では、第3辺3及び第4辺4の辺縁の合計長さZは、排ガス浄化装置用マット10の短手幅Wの2.8倍以上であり、好ましくは2.8~12.8倍、より好ましくは3.1倍~10.6倍、更に好ましくは4.4倍~8.0倍、特に好ましくは5.0倍~6.2倍である。
【0030】
この排ガス浄化装置用マット10は、触媒担持体としての排ガスフィルタ(図示略)の外周に巻き付け、図3の通り、第3辺3と第4辺4とを突き合わせ、凸部5と凹部6とを嵌合させて円筒形とする。この排ガス浄化装置用マット10付き排ガスフィルタを排ガス浄化装置の円筒形ケーシング20内に挿入配置する。排ガス浄化装置用マット10は排ガスフィルタ(触媒担持体)の外周面とケーシング20の内周面との間をシールする。
【0031】
この実施の形態では、第3辺3及び第4辺4の辺縁の合計長さZを排ガス浄化装置用マット10の短手幅Wの2.8倍以上とすることにより、第3辺3及び第4辺4の端面積T=t・Zが排ガス浄化装置用マット10の短手幅方向の断面積S=t・Wの2.8倍以上となる。
【0032】
このため、図3のように第3辺3と第4辺4とを突き合わせて凸部5と凹部6とを嵌合させたときの第3辺3と第4辺4との接触面積が大きくなり、シート材のシール特性が向上する。また、第3辺3と第4辺4とのズレが防止される。
【0033】
図1,2では、凸部5及び凹部6は1個ずつ設けられているが、複数個ずつ設けられてもよい。
【0034】
図6の排ガス浄化装置用マット10Aはその一例を示すものであり、長辺形状の凸部5及び凹部6が3個ずつ設けられている。図6では、第3辺3、第4辺4の辺縁の合計長さZはそれぞれ図中の寸法e~k及びmを用いて、Z=e+f+g+h+i+j+k+6・mで表わされる。Z/Wは前述の通り、2.8以上である。
【0035】
複数個の凸部5及び凹部6を有する排ガス浄化装置用マットにおいては、各凸部5の幅f,h,jはほぼ等しいことが好ましく、また凸部5の幅f,h,jと各寸法e,g,i,kがほぼ等しいことが好ましい。
【0036】
上記排ガス浄化装置用マット10,10Aでは、凸部5及び凹部6は長方形状であるが、非方形であってもよい。
【0037】
排ガス浄化装置用マット10Aのその他の構成は排ガス浄化装置用マット10と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0038】
本発明の排ガス浄化装置用マットは、上記以外の各種形状の凸部及び凹部を有することができる。
【0039】
本発明の排ガス浄化装置用マットは、例えば、マット状の無機繊維成形体をトムソン刃で打ち抜くこと等によって製造することができる。
【0040】
[無機繊維成形体]
本発明の排ガス浄化装置用マットを構成する無機繊維成形体は、無機繊維で構成されたものであれば限定されないが、例えば、ニードリング処理が施された無機繊維成形体であることが好ましい。無機繊維成形体の主面(厚み方向と垂直な面)を以下、表面ということがある。また、無機繊維成形体の切断面(厚み方向)を端面ということがある。
【0041】
<無機繊維>
無機繊維成形体を構成する無機繊維としては、特に制限はなく、シリカ、アルミナ/シリカ、これらを含むジルコニア、スピネル、チタニア等の単独、又は複合繊維が挙げられるが、特に好ましいのはアルミナ/シリカ系繊維、特に結晶質アルミナ/シリカ系繊維である。アルミナ/シリカ系繊維のアルミナ/シリカの組成比(重量比)は60~95/40~5の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは70~84/30~16の範囲、特に好ましくは70~76/30~24の範囲である。
【0042】
また、無機繊維は、短繊維であることが好ましい。無機繊維の平均繊維径は3~10μm、特に5~8μmであることが好ましい。無機繊維の平均繊維径が大き過ぎると繊維集合体の反発力が失われ、細過ぎると空気中に浮遊する発塵量が多くなる。
【0043】
<坪量等>
無機繊維成形体の坪量(単位面積当りの質量)は、用途に応じて適宜決定されるが、好ましくは、600g/m以上、より好ましくは700g/m超、より好ましくは800g/m超、更に好ましくは900g/m超、特に好ましくは1000g/m超である。また、本発明の無機繊維成形体の坪量は、特段の制限はないが、好ましくは5000g/m以下、より好ましくは4500g/m以下、さらに好ましくは4000g/m以下、特に好ましくは3500g/m以下である。
【0044】
無機繊維成形体の厚みは、好ましくは4mm以上、より好ましくは5mm以上、特に6mm以上である。また、本発明の無機繊維成形体の厚みは、好ましくは40mm以下、さらに好ましくは35mm以下、特に好ましくは30mm以下である。
【0045】
無機繊維成形体は、単位面積当りの坪量や厚みが高いほど、優れた保温・断熱効果を有することができる。また、単位面積当りの坪量や厚みが高いほど、一般に層間剥離強度は低下傾向にあり有効縦糸条体積を大きくする本願発明の効果は大きくなる。
【0046】
無機繊維成形体の単位面積当りの坪量や厚みは、該無機繊維成形体を構成する無機繊維集積体を折り畳み装置にて積層する際、より多くの層を積層させることによって、上記の範囲とすることができる。また、本発明の無機繊維成形体は、複数の無機繊維成形体を接着した構成であっても、単一の構成であってもよいが、ハンドリング性や接着界面における剥離強度の点から、単一の構成であることが好ましい。
【0047】
無機繊維成形体は、ニードリング処理により形成されたニードル痕を有することが好ましい。即ち、バーブが付いたニードルを無機繊維集積体に抜き刺しするニードリング処理を施すと、ニードルが抜き刺しされた箇所においては、少なくとも一部の繊維がニードルによって略厚み方向に延在せしめられる。これによって、無機繊維成形体の表面にニードル痕が形成される。一方、ニードリング処理をされた無機繊維成形体の内部に存在する、略厚み方向に形成される無機繊維の束を縦糸条という。
【0048】
<有効縦糸条>
無機繊維成形体の内部に存在する、縦糸条のうち、特定の径及び長さを有する縦糸条を有効縦糸条とする。具体的には、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、剥離両面(一方の剥離面及び他方の剥離面)から突出する全ての縦糸条のうち、直径100μm以上で突出長さ2mm以上である縦糸条を有効縦糸条とする。ニードリング処理は、縦糸条の形成により、無機繊維成形体の嵩密度や剥離強度、面圧(高温サイクル後の面圧)、反発力の耐久性(高温サイクル後の面圧保持率)を調整するために行われる。すなわち、本発明において、有効縦糸条は、無機繊維成形体の内部において、略厚み方向に存在する縦糸条のうち、縦糸条として機能しうる径及び長さを有するものを意味する。また、本発明において、有効縦糸条の体積は、剥離面から突出する領域の体積を意味する。
【0049】
ニードル痕1個当たりの縦糸条の平均体積とは、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりの剥離両面(一方の剥離面及び他方の剥離面)に存在する、全ての有効縦糸条の体積の和(総体積)を、単位面積あたりのニードル痕の数で除した値である。すなわち、ニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積が高いほど、ニードリング処理が効果的に行われ、より強固な有効縦糸条が形成される無機繊維成形体であることを意味する。
【0050】
また、有効縦糸条1条あたりの平均体積とは、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりの剥離両面(一方の剥離面及び他方の剥離面)に存在する、全ての有効縦糸条の体積の和(総体積)を、同範囲の有効縦糸の数で除した値である。すなわち、有効縦糸条1条あたりの平均体積が高いほど、ニードリング処理が効果的に行われ、より強固な有効縦糸条が形成される無機繊維成形体であることを意味する。
【0051】
本発明の一実施形態における排ガス浄化装置用マットを構成する無機繊維成形体は、ニードリング処理が効果的に行われ、より強固な有効縦糸条が形成されることが好ましい。これによれば、無機繊維成形体の剥離強度が向上し、無機繊維成形体の切断加工に対する強度が向上するため、嵌合部の形状加工性が高まり、より複雑な形状に加工することができる。特に、比Z/Wが高い態様の排ガス浄化装置用マットや、比d/Lが高い態様の排ガス浄化装置用マット、凸部及び凹部がそれぞれ複数個設けられる態様の排ガス浄化装置用マットに適している。
【0052】
このような無機繊維成形体としては、例えば、ニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積が高いニードリングマットや、有効縦糸条1条あたりの平均体積が高いニードリングマットが挙げられる。
【0053】
本発明の排ガス浄化装置用マットを構成する無機繊維成形体は、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、剥離両面(一方の剥離面及び他方の剥離面)に存在する、ニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積が0.5mm以上であることが好ましい。これにより、無機繊維成形体の内部において、略厚み方向の繊維同士が強固に絡み合い、高い坪量と優れた剥離強度を両立することができる。坪量の低い無機繊維成形体であれば、無機繊維成形体の剥離強度を向上させるために、ニードル痕密度を高めることで、略厚み方向の繊維同士の絡みを増強させる手段が考えられる。しかしながら、坪量の高い無機繊維成形体においては、ニードル痕密度を高めると、他の物性が低下する恐れがあり、剥離強度を向上させる手段がなかった。そこで、他の物性を維持しつつ剥離強度を向上させるために、ニードル痕密度は維持しつつ、効果的なニードリング処理を行うことで、縦糸条の平均体積(ニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積、または、有効縦糸条1条あたりの平均体積)を高める。
【0054】
ニードリング処理により形成される縦糸条をより強固にすることにより、ニードリング処理による糸切れを低減することができる。縦糸条をより強固にする手段としては、特段限定されないが、次にあげる具体的な手段が考えられる。例えば、(I)無機繊維前駆体の集合体の表面に、太い無機繊維前駆体の糸条物を配材し、この太い糸条物をニードリング処理の時にニードルによって無機繊維前駆体の集合体中に押し込むようにして、縦糸条を形成しても良い。太い糸条物をニードリングするニードルの種類は、特に限定はしないが、フォークニードルが好ましい。この太い糸条物は、無機繊維前駆体と同材質であることが好ましく、特に無機繊維前駆体の集合体を集積させるときに集積装置内に副生する、前駆体の繊維が一方向に配向した太い紐状の糸条物が好ましい。また、この太い紐状の糸状物は短繊維の集合体であることが好ましい。この太い紐状の糸状物の平均直径は、有効縦糸条の平均直径の1.2~4倍、特に1.5~3倍であることが好ましい。
【0055】
また、別の方法として、(II)ニードリング処理に先行して、無機繊維前駆体の集合体の表面に、ニードリング助剤液を噴霧等により付着(添着)させることにより、縦糸条を構成する無機繊維前駆体の物性を強化する手法が挙げられる。ニードリング助剤としては、無機繊維前駆体集合体のマット面付近の糸条を強化する作用を有するものであれば、特に限定されず、各種コーティング剤、例えば、アクリル系ポリマーコーティング剤などを用いることができる。ニードリング助剤を付着後に、無機繊維前駆体マット状集合体を乾燥させてもよい。すなわち、ニードリング助剤は、ドライコーディングとすることが好ましい。ニードリング助剤は、無機繊維前駆体を集積するときに付着させてもよい。なお、ニードリング助剤と併用して、ニードルと繊維との摩擦を低減させる作用を有する減摩剤(界面活性剤やエマルジョン)を使用しても良い。その場合、ニードリング助剤と減摩剤とを使用する順序は特に限定されないが、例えば、ニードリング助剤液を付着後に、減摩剤を溶媒に溶かしたり、分散させたりして塗布(ウェットコーティング)することなどが好ましい。
【0056】
無機繊維成形体のニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積は、好ましくは0.5mm以上であり、より好ましくは、1.0mm以上、さらに好ましくは、2.0mm以上、特に好ましくは、2.5mm以上である。縦糸条の平均体積が上記の範囲であれば、剥離強度を向上させることができる。そして、排ガス浄化装置用の触媒担持体とその把持材(排ガス浄化装置用マット)を金属ケーシングに圧入する際、該マットが剥離するのを防ぐことができる。一方で、本発明の無機繊維成形体のニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積は、好ましくは、50mm以下、さらに好ましくは、30mm以下、特に好ましくは、20mm以下である。
【0057】
無機繊維成形体の有効縦糸条1条あたりの平均体積は、好ましくは1.0mm以上であり、より好ましくは、2.0mm以上、さらに好ましくは、3.0mm以上、特に好ましくは、4.0mm以上である。縦糸条の平均体積が上記の範囲であれば、剥離強度を向上させることができる。そして、排ガス浄化装置用の触媒担持体とその把持材(排ガス浄化装置用マット)を金属ケーシングに圧入する際、該マットが剥離するのを防ぐことができる。一方で、無機繊維成形体の有効縦糸条1条あたりの縦糸条の平均体積は、好ましくは、100mm以下、さらに好ましくは、50mm以下、特に好ましくは、40mm以下である。有効縦糸条1条あたりの体積は、剥離面から突出する有効縦糸条の平均太さ(直径)と平均長さから求める。有効縦糸条の長さは、剥離面から突出した部分の長さであって、直径100μm以上の部分を計測する。有効縦糸条の直径は、剥離面から突出した部分の長さ方向中間部で測定された値である。
【0058】
無機繊維成形体の有効縦糸条1条あたりの縦糸条の平均太さ(直径)は、特段の制限はないが、好ましくは550μm以上、より好ましくは600μm以上、特に好ましくは700μm以上である。単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、縦糸条の平均太さが上記の範囲であれば、有効縦糸条に外力が加わった際に破断しにくく、剥離強度の高いブランケットとなる。一方、該縦糸条の平均太さは、好ましくは3000μm以下、より好ましくは2800μm以下、特に好ましくは2500μm以下である。
【0059】
無機繊維成形体の単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、一方の剥離面及び他方の剥離面(剥離両面)に存在する有効縦糸条の総体積(体積の和)は、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上、さらに好ましくは200mm以上、特に好ましくは300mm以上である。有効縦糸条の総体積が、上記の範囲であることは、無機繊維成形体の内部に、縦糸条がさらに強固に存在することを意味し、略厚み方向における層間剥離強度をさらに改善することができる。有効縦糸条の総体積を算出するための、縦糸条の直径、長さ及び本数等は、剥離試験後の無機繊維成形体の剥離面をデジタルマイクロスコープで観察して測定することが好ましい。このとき、倍率は10~20倍とすることが好ましい。本発明において、有効縦糸条の総体積は、有効縦糸条1条あたりの体積と、有効縦糸条の数(条)の積である。
【0060】
無機繊維成形体の縦糸条は、一方の剥離面における有効縦糸条1条あたりの平均長さが、他方の剥離面の厚み(縦糸条の長さの期待値)に対して、特定の比率の範囲内にあることが好ましい。すなわち、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、一方の剥離面の有効縦糸条1条あたりの縦糸条の平均長さを、他方の剥離面の厚みで除した、有効縦糸条1条あたりの縦糸条の平均長さ比率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。有効縦糸条1条あたりの縦糸条の平均長さ比率が上記の範囲にあると、剥離強度をさらに向上することができるため、好ましい。一方、該有効縦糸条の平均長さ比率は、好ましくは200%以下、さらに好ましくは150%以下である。ニードル痕1個あたりの縦糸条の平均長さ比率が上記範囲内であれば、閉ループの突出を小さく抑えられるため、工程上のトラブルを軽減することができる。なお、縦糸条の長さは、突出する縦糸条の先端(先細り部分、解け部分)から剥離面までの、長さの値を測定する。
【0061】
無機繊維成形体の有効縦糸条の数は、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、剥離両面に存在する有効縦糸条の合計が、好ましくは20条以上、より好ましくは40条以上、特に好ましくは60条以上である。有効縦糸条の数が上記の範囲であれば、剥離強度をさらに向上できるため好ましい。一方、該有効縦糸条の数は、好ましくは500条以下、より好ましくは400条以下、特に好ましくは250条以下である。有効縦糸条の数の上限が上記の範囲であれば、無機繊維成形体の面圧を低下させることなく剥離強度を向上させることができるため、特に、面圧が要求される用途等において好ましい。
【0062】
<ニードル痕>
本発明において、無機繊維成形体の主面の単位面積(1cm)当りのニードル痕の数(ニードル痕密度)は、主面全体の平均値として、特段の制限はないが、好ましくは1個/cm以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは5個/cm以上、特に好ましくは8個/cm以上であり、好ましくは100個/cm以下、より好ましくは50個/cm以下、さらに好ましくは40個/cm以下、特に好ましくは30個/cm以下である。ニードル痕の数がこのような範囲にあれば、無機繊維成形体の面圧が高く保持され、排ガス浄化装置用マットのような反発力の耐久性が要求される用途に特に好ましく用いられる。
【0063】
本発明では、ニードル痕は、無機繊維成形体を貫通していてもよく、一方のマット面から貫入し、他方のマット面に達しないように延在してもよい。
【0064】
貫通状、非貫通状のどちらのニードル痕が存在する場合であっても、単位面積当りのニードル痕の数は、無機繊維成形体を単位面積当りに切り取った無機繊維成形体の厚み中央より剥離させた一方の剥離面のニードル痕の数と、他方の剥離面のニードル痕の数の平均値とする。なお、縦糸条の存在する部分はニードル痕としてカウントする。
【0065】
実際には、無機繊維成形体の一方の面に可視光を当てると、剥離面で透過光が観察される。この剥離面への透過による光点と縦糸条の数をカウントすることにより、単位面積当りのすべてのニードル痕の数をカウントすることができる。
【0066】
<剥離試験>
無機繊維成形体から50mm×150mmの試験片を型抜きし、図4,5のようにこの試験片11の一方の端面の厚み中央に30mm深さの切り込みを入れ、切り込みにより形成されたその両端をつかみ治具12,12に支持した後、引張試験機にセットし、500mm/minの速度でマット面と垂直な相反方向に引っ張って試験片を2つに裂く。なお、縦糸条に関する各数値の測定を行う単位面積(50mm×50mm)は、試験片(150mm×50mm)のうち、厚み中央に30mm深さの切り込みを入れた部分を避け、任意の領域とする。
【0067】
<最大剥離強度>
無機繊維成形体は、加工する際、成形時の作業性悪化、密度分布差を最小限に抑えるため、剥離強度に優れるものであることが好ましい。また、自動車等に使用される排ガス浄化装置用マットとして触媒担持体に巻回し、金属ケーシングに組み付けたときにマットの層間ずれを発生させないため、剥離強度に優れるものであることが好ましい。
【0068】
無機繊維成形体は、上記に記載の剥離試験による荷重ピーク(N)として求められる最大剥離強度が3.0N以上であることが好ましく、5.0N以上であることがより好ましく、6.0N以上であることがより好ましく、6.5N以上であることが特に好ましい。無機繊維成形体の剥離強度は高い程有利であるが、50.0N以下が好ましく、45.0N以下がより好ましく、40.0N以下であることが特に好ましい。
【0069】
[無機繊維成形体の製造方法]
無機繊維成形体の製造方法には特に制限はないが、通常、ゾル-ゲル法により無機繊維前駆体のマット状集合体を得る工程と、得られた無機繊維前駆体のマット状集合体にニードリング処理を施す工程と、ニードリング処理された無機繊維前駆体のマット状集合体を焼成して無機繊維成形体とする焼成工程が行われる。本発明の排ガス浄化装置用マットを構成する無機繊維成形体は、好ましくは無機繊維成形体の焼成体である。
【0070】
以下、無機繊維成形体の製造方法を、アルミナ/シリカ系繊維成形体の製造方法を例示して説明するが、本発明の無機繊維成形体は、アルミナ/シリカ系繊維成形体に何ら限定されず、前述の如く、シリカ、ジルコニア、スピネル、チタニア或いはこれらの複合繊維よりなる成形体であってもよい。
【0071】
<紡糸工程>
ゾル-ゲル法によりアルミナ/シリカ系繊維のマット状集合体を製造するには、まず、塩基性塩化アルミニウム、ケイ素化合物、増粘剤としての有機重合体及び水を含有する紡糸液をブローイング法で紡糸してアルミナ/シリカ繊維前駆体の集合体を得る。
【0072】
<紡糸液の調製>
塩基性塩化アルミニウム;Al(OH)3-xClは、例えば、塩酸又は塩化アルミニウム水溶液に金属アルミニウムを溶解させることにより調製することができる。上記の化学式におけるxの値は、通常0.45~0.54、好ましくは0.5~0.53である。ケイ素化合物としては、シリカゾルが好適に使用されるが、その他にはテトラエチルシリケートや水溶性シロキサン誘導体などの水溶性ケイ素化合物を使用することもできる。有機重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子化合物が好適に使用される。これらの重合度は、通常1000~3000である。
【0073】
紡糸液は、塩基性塩化アルミニウム由来のアルミニウムとケイ素化合物由来のケイ素の比が、AlとSiOの重量比に換算して、通常99:1~65:35、好ましくは99:1~70:30で、アルミニウムの濃度が170~210g/Lで、有機重合体の濃度が20~50g/Lであるものが好ましい。
【0074】
紡糸液中のケイ素化合物の量が上記の範囲より少ない場合は、短繊維を構成するアルミナがα-アルミナ化し易く、しかも、アルミナ粒子の粗大化による短繊維の脆化が起こり易い。一方、紡糸液中のケイ素化合物の量が上記の範囲よりも多い場合は、ムライト(3Al・2SiO)と共に生成するシリカ(SiO)の量が増えて耐熱性が低下しやすい。
【0075】
紡糸液中のアルミニウムの濃度が170g/L未満の場合又は有機重合体の濃度が20g/L未満の場合は、何れも、紡糸液の適当な粘度が得られずに得られるアルミナ/シリカ系繊維の繊維径が小さくなる。すなわち、紡糸液中の遊離水が多すぎる結果、ブローイング法による紡糸の際の乾燥速度が遅く、延伸が過度に進み、紡糸された前駆体繊維の繊維径が変化し、所定の平均繊維径で且つ繊維径分布がシャープな短繊維が得られない。しかも、アルミニウムの濃度が170g/L未満の場合は、生産性が低下する。一方、アルミニウムの濃度が210g/Lを超える場合又は有機重合体の濃度が50g/Lを超える場合は、何れも、粘度が高すぎて紡糸液にはならない。紡糸液中のアルミニウムの好ましい濃度は180~200g/Lであり、有機重合体の好ましい濃度は30~40g/Lである。
【0076】
上記の紡糸液は、塩基性塩化アルミニウム水溶液に上記Al:SiO比となる量のケイ素化合物と有機重合体を添加し、アルミニウム及び有機重合体の濃度が上記の範囲となるように濃縮することによって調製される。
【0077】
紡糸(紡糸液の繊維化)は、通常、高速の紡糸気流中に紡糸液を供給するブローイング法によって行われ、これにより、アルミナ短繊維前駆体が得られる。上記の紡糸の際に使用する紡糸ノズルの構造は、特に制限はないが、例えば、特許第2602460号公報に記載されているような、エアーノズルより吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルより押し出される紡糸液流とは並行流となり、しかも、空気の並行流は充分に整流されて紡糸液と接触する構造のものが好ましい。
【0078】
また、紡糸に際しては、先ず、水分の蒸発や紡糸液の分解が抑制された条件下において、紡糸液から充分に延伸された繊維が形成され、次いで、この繊維が速やかに乾燥されることが好ましい。そのためには、紡糸液から繊維が形成されて繊維捕集器に到達するまでの過程において、雰囲気を水分の蒸発を抑制する状態から水分の蒸発を促進する状態に変化させることが好ましい。
【0079】
アルミナ/シリカ系繊維前駆体は、紡糸気流に対して略直角となるように金網製の無端ベルトを設置し、無端ベルトを回転させつつ、これにアルミナ/シリカ系繊維前駆体を含む紡糸気流を衝突させる構造の集積装置により捕集して集積させ、アルミナ/シリカ系繊維前駆体の連続シート状の集積体(薄層シート)として回収することができる。
【0080】
上記の集積装置より回収された薄層シートは、連続的に引出して折畳み装置に送り、所定の幅に折り畳んで積み重ねつつ、折り畳み方向に対して直角方向に連続的に移動させることにより積層シート(無機繊維集積体)にすることが好ましい。このように薄層シートを積層させることにより、積層シートの坪量(目付量)がシート全体に亘って均一となる。上記の折畳み装置としては、特開2000-80547号公報に記載のものを使用することができる。
【0081】
<ニードリング助剤添着工程>
紡糸により得られたアルミナ/シリカ系繊維前駆体のマット状集合体のマット面に必要に応じ前述のニードリング助剤を添着する。ニードリング助剤は、双方のマット面に添着することが好ましい。
【0082】
<ニードリング処理工程>
紡糸により得られたアルミナ/シリカ系繊維前駆体のマット状集合体に、必要に応じニードリング助剤を添着した後、ニードルを用いてニードリング処理を施す。ニードルによるニードリング処理の方向は、いずれか一方の面からのみの処理でもよく、両面からの処理でも良い。好ましくは、両面からの処理である。
【0083】
<焼成工程>
ニードリング処理後の焼成は、通常900℃以上、好ましくは1000~1300℃の温度で行う。焼成温度が900℃未満の場合は結晶化が不十分なため強度の小さい脆弱なアルミナ/シリカ系繊維しか得られず、焼成温度が1300℃を超える場合は繊維の結晶の粒成長が進行して強度の小さい脆弱なアルミナ/シリカ系繊維しか得られない。
【0084】
<バインダーの含有量>
本発明の排ガス浄化装置用マットは、有機バインダーを含まないか、或いは有機バインダーを含む場合であっても、その含有量が10重量%未満であることが好ましく、5重量%未満がより好ましく、2.5重量%未満が特に好ましい。
【0085】
マット中の有機バインダーの含有量が10重量%以上であると、エンジン燃焼時の排ガスの高熱による有機バインダーの分解で、NO、CO、HC等の分解ガス発生の問題が大きくなり、好ましくない。
【0086】
本発明のマットに有機バインダーを用いる場合、その有機バインダーとしては、各種のゴム、水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを使用することができる。
【0087】
上記の有機バインダーを有効成分とする水溶液、水分散型のエマルション、ラテックス、又は有機溶媒溶液が市販されており、これらの有機バインダー液は、そのまま又は水等で希釈して用いることができ、マット中に有機バインダーを含有させるのに好適に使用することができる。なお、マット中に含有されている有機バインダーは、必ずしも1種である必要はなく、2種以上の混合物であっても何等差し支えない。
【0088】
上記有機バインダーの中では、アクリルゴム、ニトリルゴム等の合成ゴム;カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物;又はアクリル樹脂が好ましく、中でもアクリルゴム、ニトリルゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルゴムに含まれないアクリル樹脂が特に好ましい。これらのバインダーは、有機バインダー液の調製又は入手が容易であり、またマット中への含浸操作も簡単であり、比較的低含有量としても十分な厚み拘束力を発揮し、得られる成形体が柔軟で強度に優れ、使用温度条件下で容易に分解又は焼失されることから好適に使用することができる。
【0089】
[排ガス浄化装置]
本発明の排ガス浄化装置は、触媒担持体と、該触媒担持体の外側を覆うケーシングと、該触媒担持体と該ケーシングとの間に介装されたマットとを備える。本発明の排ガス浄化装置は、このマットとして、本発明の排ガス浄化装置用マットを用いたものであり、第3辺3と第4辺4とを突き合わせて凸部5と凹部6とを嵌合させたときの第3辺3と第4辺4との接触面積が大きくいので、マット同士の摩擦力が高まるとともに、排ガスリーク流路が長くすることができる。また、これにより、本発明の排ガス浄化装置において、排ガスリーク量を低減することができる。
【0090】
なお、この排ガス浄化装置の構成自体には特に制限はなく、本発明は、触媒担持体とケーシングと触媒担持体の把持体としてのマットとを備える一般的な排ガス浄化装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 第1辺
2 第2辺
3 第3辺
4 第4辺
5,5B,5C 凸部
6,6B,6C 凹部
10,10A 排ガス浄化装置用マット
11 無機繊維成形体の試験片
12 つかみ治具
20 ケーシング
図1
図2
図3
図4
図5
図6