(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料および積層体の加工方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20241127BHJP
B23H 1/00 20060101ALI20241127BHJP
B23H 1/02 20060101ALI20241127BHJP
B32B 5/10 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
C08J5/24
B23H1/00 A
B23H1/02 B
B32B5/10
(21)【出願番号】P 2020138888
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.電気加工学会全国大会(2019)講演論文集、発行日:令和1年11月21日 2.電気加工学会全国大会(2019)講演会、開催日:令和1年11月21日、開催場所:金沢大学サテライトプラザ(金沢市西町三番丁16番地)
(73)【特許権者】
【識別番号】505426071
【氏名又は名称】国立大学法人筑波技術大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 啓光
(72)【発明者】
【氏名】明松 圭昭
(72)【発明者】
【氏名】谷 貴幸
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-121825(JP,A)
【文献】特開昭52-122994(JP,A)
【文献】特開昭50-008197(JP,A)
【文献】特開昭58-211826(JP,A)
【文献】特開昭60-255314(JP,A)
【文献】丸井暁, 他3名,"型彫り放電加工による炭素繊維強化プラスチック加工に関する研究",精密工学会春季大会学術講演会講演論文集, A07,2011年,pp.11-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B32B 1/00-43/00
B23H 1/00-11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素繊維と、前記複数の炭素繊維を接着する樹脂と、で構成されているプリプレグを複数重ねてなる炭素繊維複合材料であって、
少なくとも一部の前記炭素繊維が同じ方向に延在し、
複数の前記炭素繊維が互いに密集した密集領域を有する炭素繊維複合材料であって、
表面の少なくとも一部において、前記炭素繊維の端面が露出しており、
前記端面の最大径が隣接する前記炭素繊維の端面の中心間距離より大き
く、
前記端面における前記炭素繊維の形状は、多角形である、炭素繊維複合材料。
【請求項2】
表面の少なくとも一部において、前記炭素繊維の面積占有率が70%以上である、請求項1に記載の炭素繊維複合材料。
【請求項3】
炭素繊維に樹脂を含浸させてなる複数のプリプレグを厚み方向に重ねた積層体を加工し、請求項1または2に記載の炭素繊維複合材料を製造する方法であって、
前記積層体に対して、積層方向に重なる各層の加工領域に500μs以下の時間加熱する加熱工程を有する、積層体の加工方法。
【請求項4】
前記加熱工程は、前記積層体に対して放電加工を行う放電工程であり、
前記放電工程は、加工液に浸漬され、かつ放電回路に接続された放電部を用いて放電を発生させ、前記加工領域を熱的に加工する、請求項3に記載の積層体の加工方法。
【請求項5】
前記放電回路は、電源と、前記電源に直列に接続されたコンデンサおよび抵抗と、
前記電源および前記コンデンサに並列に接続された放電部と、を備える、請求項4に記載の積層体の加工方法。
【請求項6】
前記放電回路は、前記電源、前記コンデンサ、および前記抵抗と直列に接続されたトランジスタをさらに備える、請求項5に記載の積層体の加工方法。
【請求項7】
前記放電回路は、電源と、前記電源に直列に接続されたコンデンサおよび電圧制御部と、
前記電源および前記コンデンサに並列に接続された放電部と、を備え、
前記電圧制御部は、トランジスタと抵抗とが直列に接続された第1ユニットおよび第2ユニットを備え、
前記第1ユニットをオンにし、前記第2ユニットをオフにする第1工程と、
前記コンデンサの極間電圧が立ち上がり電圧を超えた後に、第2ユニットをオンにする第2工程と、
前記放電部と前記積層体との電位差がサーボ基準電圧以上である場合に前記放電部を前記積層体に近づけ、前記放電部と前記積層体との電位差が前記サーボ基準電圧以下である場合に前記放電部を前記積層体から離す3工程と、を有する、請求
項4に記載の積層体の加工方法。
【請求項8】
前記放電回路は、電源と、前記電源に直列に接続された電圧制御部および放電部と、を備え、
前記電圧制御部は、トランジスタと抵抗とが直列に接続された第1ユニットおよび第2ユニットを備え、
前記放電部は、対向する2つの電極を備え、
前記放電工程は、前記第1ユニットおよび前記第2ユニットは、それぞれトランジスタと抵抗とを有し、
前記第1ユニットをオンにし、前記第2ユニットをオフにする第1工程と、
前記放電部の電位が電流重畳電圧を超えたら第2ユニットをオンにする第2工程と、
前記放電部と前記積層体との電位差がサーボ基準電圧以上である場合に前記放電部を前記積層体に近づけ、前記放電部と前記積層体との電位差が前記サーボ基準電圧以下である場合に前記放電部を前記積層体から離す第3工程と、
前記放電部の電位が放電検知電圧を下回ってから、設定放電時間だけ経過したら前記第2ユニットをオフにする第4工程と、
前記放電部を前記積層体から遠ざける第5工程と、を有する、請求項
4に記載の積層体の加工方法。
【請求項9】
前記積層体に細孔を形成する方法であって、
前記細孔の径は、10μm以上である、請求項3~7のいずれか一項に記載の積層体の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料および積層体の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度かつ軽量な材料として、炭素繊維複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)が知られている。鉄と比べると、炭素繊維複合材料の比重は約1/5であり、引張強度は約6倍である。そのため、炭素繊維複合材料は金属材料に代替し得る材料として期待されている。
【0003】
炭素繊維複合材料は、異方性が高く、設計の自由度が高い。そのため、炭素繊維複合材料は、例えば、航空機やロケット等の様々な部品に用いられ、省エネルギー化に貢献している。
【0004】
炭素繊維複合材料を種々の部品に活用するためには、様々な形状に加工する必要がある。炭素繊維複合材料の加工方法としては、切削加工が知られている。例えば、特許文献1には、炭素繊維強化を切削加工する方法が記載されている。
図24は、バンドソーで切削した炭素繊維複合材料の断面を観察した電子顕微鏡像である。
図24に示す切削加工面における炭素繊維の占有面積は約60%であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、切削加工に用いる工具が消耗する場合があった。また、特許文献1に記載の方法では、炭素繊維複合材料の加工面にむしれや毛羽立ち、炭素繊維の引き抜き等が生じ、凹凸があり十分な強度が得られない場合があった。
図24の切削面においても、炭素繊維の引き抜きが確認され、凹凸がある。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、凹凸が少ない加工面を有する炭素繊維複合材料ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)本発明の第1の態様にかかる炭素繊維複合材料は、複数の炭素繊維と、前記複数の炭素繊維を接着する樹脂と、で構成されているプリプレグを複数重ねてなる炭素繊維複合材料であって、少なくとも一部の前記炭素繊維が同じ方向に延在し、複数の前記炭素繊維が互いに密集した密集領域を有する炭素繊維複合材料であって、表面の少なくとも一部において、前記炭素繊維の端面が露出しており、前記端面の最大径が隣接する前記炭素繊維の端面の中心間距離より大きい。
【0010】
(2)上記態様にかかる炭素繊維複合材料は、表面の少なくとも一部において、前記炭素繊維の面積占有率が70%以上であってもよい。
【0011】
(3)本発明の第2の態様にかかる積層体の加工方法は、炭素繊維に樹脂を含浸させてなる複数のプリプレグを厚み方向に重ねた積層体を加工し、第1の態様にかかる炭素繊維複合材料を製造する方法であって、前記積層体に対して、積層方向に重なる各層の加工領域に500μs以下の時間だけ加熱する加熱工程を有してもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかる積層体の加工方法において、前記加熱工程は、前記積層体に対して放電加工を行う放電工程であり、前記放電工程は、加工液に浸漬され、かつ放電回路に接続された放電部を用いて放電を発生させ、前記加工領域を熱的に加工してもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかる積層体の加工方法において、前記放電回路は、電源と、前記電源に直列に接続されたコンデンサおよび抵抗と、前記電源および前記コンデンサに並列に接続された放電部と、を備えていてもよい。
(6)上記態様に係る積層体の加工方法において、前記放電回路は、前記電源、前記コンデンサ、および前記抵抗と直列に接続されたトランジスタをさらに備えていてもよい。
【0014】
(7)上記態様にかかる積層体の加工方法において、前記放電回路は、電源と、前記電源に直列に接続されたコンデンサおよび電圧制御部と、前記電源および前記コンデンサに並列に接続された放電部と、を備え、前記電圧制御部は、トランジスタと抵抗とが直列に接続された第1ユニットおよび第2ユニットを備え、前記第1ユニットをオンにし、前記第2ユニットをオフにする第1工程と、前記コンデンサの極間電圧が立ち上がり電圧を超えた後に、第2ユニットをオンにする第2工程と、前記放電部と前記積層体との電位差がサーボ基準電圧以上である場合に前記放電部を前記積層体に近づけ、前記放電部と前記積層体との電位差が前記サーボ基準電圧以下である場合に前記放電部を前記積層体から離す第3工程と、を有していてもよい。
【0015】
(8)上記態様にかかる積層体の加工方法において、前記放電回路は、電源と、前記電源に直列に接続された電圧制御部および放電部と、を備え、前記電圧制御部は、トランジスタと抵抗とが直列に接続された第1ユニットおよび第2ユニットを備え、前記放電部は、対向する2つの電極を備え、前記放電工程は、前記第1ユニットおよび前記第2ユニットは、それぞれトランジスタと抵抗とを有し、前記第1ユニットをオンにし、前記第2ユニットをオフにする第1工程と、前記放電部の電位が電流重畳電圧を超えたら第2ユニットをオンにする第2工程と、前記放電部と前記積層体との電位差がサーボ基準電圧以上である場合に前記放電部を前記積層体に近づけ、前記放電部と前記積層体との電位差が前記サーボ基準電圧以下である場合に前記放電部を前記積層体から離す第3工程と、前記放電部の電位が放電検知電圧を下回ってから、設定放電時間だけ経過したら前記第2ユニットをオフにする第4工程と、前記放電部を前記積層体から遠ざける第5工程と、を有していてもよい。
【0016】
(9)上記態様にかかる積層体の加工方法は、前記積層体に細孔を形成する方法であって、前記細孔の径は、500μm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、凹凸を低減した炭素繊維複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】炭素繊維複合材料(積層体)の斜視図の一例である。
【
図2】炭素繊維複合材料(積層体)の断面図の一例である。
【
図3】炭素繊維複合材料(積層体)の斜視図の一例である。
【
図4】炭素繊維複合材料(積層体)の斜視図の一例である。
【
図5】炭素繊維複合材料(積層体)を加工する加工装置200の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図6】第1実施形態にかかる放電回路の主要部を示す回路図である。
【
図7】比較例に係る放電回路の主要部を示す回路図である。
【
図8】第1実施形態に係る加工方法で放電加工を行う際の放電部の電圧および電流を示す図である。
【
図9】放電加工前の炭素繊維複合材料(積層体)の側面の電子顕微鏡像である。
【
図10】放電加工後の炭素繊維複合材料の構成の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図11】放電加工後の炭素繊維複合材料の加工面の電子顕微鏡像である。
【
図12】変形例1に係る放電回路の主要部を示す回路図である。
【
図13】変形例1に係る加工方法で放電加工を行う際の放電部の電圧および電流を示す図である。
【
図14】変形例2に係る放電回路の主要部を示す回路図である。
【
図15】変形例2に係る加工方法で放電加工を行う際の放電部の電圧および電流を示す図である。
【
図16】本実施形態の変形例に係る放電回路の主要部を示す回路図である。
【
図17】実施例1の炭素繊維複合材料のおもて面及び裏面の光学顕微鏡像である。
【
図18】実施例1において放電加工を行った際の放電部の電圧および電流を示す図である。
【
図19】実施例1の炭素繊維複合材料の加工面の電子顕微鏡像である。
【
図20】実施例1の炭素繊維複合材料の加工面の光学顕微鏡像である。
【
図21】参考例1の炭素繊維複合材料のおもて面及び裏面の光学顕微鏡像である。
【
図22】参考例1において放電加工を行った際の放電部の電圧および電流を示す図である。
【
図23】実施例2でくりぬき加工を行った炭素繊維複合材料である。
【
図24】炭素繊維複合材料を切削した断面の電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、数、配置、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。例えば、異なる実施形態に記載された構成を適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0020】
図1は、炭素繊維複合材料(積層体)100aを概略的に示す斜視図であり、
図2は、積層体100aの積層方向に対して垂直な断面の断面模式図である。本明細書において、プリプレグを積層した後、加工を行っていない炭素繊維複合材料を積層体という場合がある。尚、ここでいう加工とは、詳細を後述する加熱工程のような所定時間内で加熱を行う加工のことをいう。プリプレグ10は、炭素繊維1に樹脂を含浸させてなる。プリプレグ10の形状は、シート状である。積層体100aは、複数のプリプレグ10を厚み方向に積層した構造体である。プリプレグ10は、炭素繊維1と、炭素繊維1を取り囲む樹脂2と、を備える。炭素繊維は、公知の炭素繊維が用いられる。樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂などが用いられる。尚、積層体100aは、5層のプリプレグ10からなるが、積層体に備えられるプリプレグの数は、制限されない。尚、積層体は1層のプリプレグからなるものであってもよい。
【0021】
プリプレグ10は、複数の炭素繊維を有する。例えば、第1炭素繊維1a、第2炭素繊維1b、第3炭素繊維1c、第4炭素繊維1d、および第5炭素繊維1eを有する。第1炭素繊維1a、第2炭素繊維1b、第3炭素繊維1c、第4炭素繊維1d、および第5炭素繊維1eは、第1方向に延在している。すなわち、第1炭素繊維1a、第2炭素繊維1b、第3炭素繊維1c、第4炭素繊維1d、および第5炭素繊維1eの配向方向は同じである。
図1には、説明の便宜上、第1方向をあわせて示している。本明細書において、第1炭素繊維1a、第2炭素繊維1b、第3炭素繊維1c、第4炭素繊維1d、および第5炭素繊維1eを総称して炭素繊維1という場合がある。炭素繊維1は、合成繊維や石炭系又は石油系のピッチを繊維状にしたものを高温で加熱処理して炭素化又は黒鉛化したものや、カーボンナノチューブやグラフェンを繊維状にしたものである。すなわち、炭素繊維1は、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、およびピッチ炭素繊維のいずれも用いることができる。PAN系炭素繊維としては、レギュラートゥタイプおよび繊維束が40000本以上であるラージトゥタイプのいずれを用いても良い。
【0022】
プリプレグ10の面内方向における端に近い領域を端部3という。端部3には、炭素繊維1の延在方向に垂直な第1端部3aおよび第2端部3bと、炭素繊維1の延在方向に平行な第3端部3cおよび第4端部3dとがある。端部3は、例えば、プリプレグ10の面内方向における端から1mm以内の領域である。
【0023】
図3および
図4は、別の例の炭素繊維複合材料(積層体)100bおよび100cを示す斜視模式図である。積層体100bには、プリプレグ11、20が積層されている。プリプレグ11には、積層方向に複数の炭素繊維を備える。プリプレグ内における炭素繊維の数は任意である。プリプレグ中心に備えられた炭素繊維1は第1方向に延在する。例えば、積層方向に3層以上の炭素繊維が配置されたプリプレグなどであってもよい。プリプレグ20に備えられた複数の炭素繊維は、第2方向に延在する。第2方向は、第1方向と交差する方向である。
図3に示すように、積層体には、プリプレグ毎に炭素繊維の配向方向(延在方向)が異なる場合もある。
図3には、説明の便宜上、第1方向および第2方向の一例が図示されている。
【0024】
積層体100cには、プリプレグ10、20、21が積層されている。プリプレグ21は、第1方向に延在する炭素繊維1と第2方向に延在する炭素繊維1Aとを有する。プリプレグ21において、炭素繊維1と炭素繊維1Aとの織られ方は、例えば綾織である。
図4に示すように、1層のプリプレグは、配向方向の異なる複数の炭素繊維を備えていてもよい。プリプレグは、平織や、綾織などであってもよい。
【0025】
尚、炭素繊維の配向方向は、積層体100a、100b及び100cに限定されない。例えば、炭素繊維の配向方向は、第1方向および第2方向に限らず、任意であり、積層体の備えるプリプレグの数および構成は、任意である。
【0026】
<積層体の加工方法>
第1実施形態に係る積層体の加工方法は、炭素繊維複合材料(積層体)の積層方向に重なる各層の領域に所定時間だけ熱を与える工程を有する。熱を与える手段は、例えばレーザー加工や放電加工である。積層体に対して熱を与える時間は、例えば1μs以上500μs以下であり、200μs以下であることが好ましく、100μs以下であることがさらに好ましい。尚、レーザー加工を用いる場合、積層体に対して熱を与える時間は1fs以上であればよい。また積層体に対して熱を与える時間は、出力に応じて、適宜変更してもよい。本実施形態に係る積層体の加工方法は、加工を行った加工面における炭素繊維の占有面積を増やすことができる。
【0027】
以下、放電加工により積層体を加工する方法について説明する。本実施形態に係る積層体の加工方法は、例えば、積層体の側面の一部を加工することができる。
【0028】
図5は、積層体を加工する加工装置200の一例を概略的に示す断面模式図である。
図5は、積層体100の面内方向における平面視中心を含む断面の模式図である。以下、本実施形態に係る積層体の加工方法を用いて、積層体100aを放電加工する場合を例に説明する。
【0029】
加工装置200は、例えば容器30と、容器30内に設置された精密バイス40と導電補助部材50と放電装置60とを有する。
【0030】
容器30は、任意の形状をした容器であり、加工液70を収容する。加工液70としては、絶縁性を保つことのできる、任意の公知の加工液を用いることができる。加工液70は、例えば、純水、蒸留水、砂糖水、およびエタノールなどの加工液や、ケロシン(白灯油)など放電加工油を用いることができる。加工液70は、放電加工油であることが好ましい。詳細を後述するが、加工液70として放電加工油を用いると、放電加工油の分解カーボンにより炭素繊維1の径を拡大することができる。加工液70内で放電加工を行うことで、周囲に酸素がない環境で放電加工を行うことができ、加工の安全性を高めることができる。
【0031】
精密バイス40は、本体部41と挟持部42とを有する。挟持部42は、例えば本体部41に対して垂直に延びる。挟持部42は、積層体100aを挟持する。
図5に示す例では、挟持部42は、導電補助部材50を介して積層体100aを挟持している。精密バイス40は、積層体を正または負に帯電させ、放電部61を積層体と異なる極性に帯電させて放電加工を行ってもよい。また積層体を帯電させず、放電部61を交流電源に接続することで放電加工を行ってもよい。加工液70として放電加工油を用いる場合は、放電加工油の分解カーボンが正極側に集まりやすいため、積層体を正に帯電させ、詳細を後述する放電部61を負に帯電させることが好ましい。加工液70として純水、蒸留水、砂糖水、およびエタノールなどの加工液を用いる場合は、水の電気分解作用により正極側に酸素が発生し、活性化した炭素は酸素と結合してガス化すると考えられるため、積層体を負に帯電させ、詳細を後述する放電部61を正に帯電させて放電加工を行う。
【0032】
導電補助部材50は、積層体100aの側面を覆う。ここでいう側面とは、積層体100aの積層方向に垂直な面である。導電補助部材50は、導電性を有する材料である。導電補助部材50は、例えば銅製フィルムや、金属製の板、銀ペーストなどである。従来、放電加工は導電性を有する工作物のみに用いることができると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、導電性の小さい積層体100aを工作物にする場合であっても、導電補助部材50を用いて積層体100aの側面を覆うことで安定的な放電加工が可能になることを見出した。
【0033】
尚、導電補助部材50は、
図5に示すように積層体100aの上面および下面にも接する、断面がコの字型の形状であってもよい。そのような場合、導電補助部材50は、積層体100aの端部3a、3b、3c、および3dをいずれも覆うように配置される。ここで、端部3aおよび3bは、第1方向に垂直である。端部3cおよび3dは、第2方向に垂直である。
【0034】
尚、本実施形態は、導電補助部材50を用いる方法に限定されず、積層体100aの側面、または側面および端部3を削り、炭素繊維1を露出し、導電補助部材50を用いずに行ってもよい。
【0035】
本実施形態に係る積層体の加工方法は、精密バイス40が積層体100を挟持した状態で、放電加工を行う。放電加工は、放電装置60により行う。
【0036】
放電装置60は、放電部61と放電回路62と上下駆動機構63とを有する。本明細書において、説明の便宜上、放電部61を放電回路62の一部として扱う場合と、放電部61と放電回路62とがそれぞれ独立して存在するとして扱う場合とがある。放電部61と放電回路62とがそれぞれ独立して存在するとして扱う場合であっても、放電部61は、放電回路62に電気的に接続されるため、放電部61と放電回路62とは一体であるとみなすことができる。
【0037】
放電部61は、所望の加工面の形状に合わせた形状である。例えば、加工面を円形、円環形、多角形にする場合、放電部61は、軸方向に垂直な断面形状が円形、円環形、多角形ある。すなわち、放電部61は、円柱形、円筒形、多角形、錘形などの形状である。尚、この例に限定されず、放電部61は、分岐することで先端が複数存在する構成等であってもよい。放電部61の径は、この例に限定されるものではないが、例えば、10μm以上であり、500μm以上であることが好ましく、1mm以上や2mm以上であってもよい。径が10μm以上の放電部を用いることで、細孔径が10μm以上の孔が形成される。細孔径が充分大きいと、加工液70が十分細孔内に侵入する。尚、放電部61の軸方向に対して垂直な断面形状が多角形などである場合、重心から頂点までの最大距離が上記範囲にあることが好ましい。放電部61は、例えば、銅製、グラファイト製、タングステン製、銀タングステン製、銅タングステン製等の電極である。
【0038】
放電部61は、積層体100aの加工面との距離が放電加工を行うことのできる距離に保たれるよう、積層体100aに近づきながら放電加工を行う。放電部61は、回転しない構成であってもよいが、モーターに接続され、高速回転する構成であってもよい。また、放電部61は、揺動機構に接続され積層体の面内方向に揺動する構成や、積層体の積層方向に一時的に上下する(ジャンプする)構成であってもよい。当該構成により、放電加工で生じた加工くずを逃がすことができる。以下、放電部61がモーターに接続された場合について説明する。
放電部61の回転速度と上下駆動の速度とは、1mm近づくごとに1回転以上するように制御されることが好ましい。例えば600rpmの回転速度で高速回転する場合、上下駆動の速度は、10mm/s以下となるように制御されることが好ましい。尚、放電部61の回転速度は、600rpm以上であることが好ましく、1000rpm以上であることがより好ましく、2000rpm以上であることがさらに好ましい。
【0039】
放電部61が回転することで、積層体100aのような、表面が絶縁材料の工作物も効果的に加工することができる。具体的には、放電部61が切削加工することで、積層体100aの表面を切削加工し、樹脂2からなる表面から炭素繊維1を露出させることができる。炭素繊維1は導電性を有するため、炭素繊維1が露出すれば、放電加工を行うことができる。ここで、樹脂は放電部61と比較し強度が低いため、切削加工のみで積層体を加工する場合のような工具の消耗は生じない。積層体の表面は樹脂2で形成されている。
【0040】
また、放電部61が回転することで、放電加工により生じた放電屑を加工したい箇所から取り除く作用もある。放電加工により生じた放電屑を加工したい箇所から取り除く作用は、放電部を積層体の面内方向に揺動する構成や、積層体の積層方向に一時的に上下する(ジャンプする)構成を用いることで、一層効果的に得られる。尚、放電部61および積層体100aは、加工液70に浸漬されているため、放電屑が飛び散ることを防ぐことができる。
【0041】
図6は、放電回路62の主要な構成の一例を示す。尚、説明の便宜上、
図6には放電部61および被加工物である工作物64をあわせて示している。本実施形態において工作物64は、積層体である。
【0042】
放電回路62は、例えば、電源E0と、電源E0に直列に接続されたコンデンサC0とトランジスタT0と充電抵抗R0と、電源E0およびコンデンサC0に接続された放電部61とを有する。放電回路62は、
図6に示す主要な構成に加え、その要旨の範囲内で種々の構成を追加してもよい。例えば、放電部の電位を測定する電圧計や、放電部61に流れる電流を測定する電流計などが追加されてもよい。
【0043】
本実施形態に係る積層体の加工方法は、放電回路62を利用して放電加工を行うことで、長パルス放電および短絡により積層体の加工面に凹凸が生じることを抑制できる。以下、放電回路62の作用および、長パルス放電および短絡により加工面に凹凸が生じることを抑制できる理由について比較例を用いて説明する。
【0044】
<比較例>
図7は、比較例にかかる放電回路62hの主要部を示す回路図である。
図7では、説明の便宜上、放電部61hおよび工作物64hをあわせて示している。比較例に係る炭素繊維複合材料(積層体)の加工方法は、放電回路62hを用いて放電加工を行う。放電回路62hを用いた積層体の加工方法は、本発明に含まれない。
【0045】
放電回路62hは、内部抵抗RhとトランジスタThと放電部61hとが直列に接続されている。放電部61hに対向するように工作物64hが配置されている。比較例に係る積層体の加工方法において、工作物64hは、積層体である。工作物64hと放電部61hとは加工液に浸漬されている。
【0046】
比較例に係る放電加工方法では、トランジスタThをオンにした状態で、図示しない上下駆動機構により放電部61hを工作物64hに徐々に近づける。放電部61hと工作物64hとの距離が所定値以下となると、放電部61hから放電が発生する。放電が発生すると放電部61hの電位は下がる。放電回路62hは、放電部61hの電位が放電検知電圧を下回った場合に放電の発生を検知する。放電検知電圧は、所定の値に設定されている。放電回路62hは、放電の発生を検知すると、設定放電時間だけ放電部61hの電位を保ち、設定放電時間の経過後、トランジスタをオフにするように設定された、アイソパルス方式の放電装置である。
【0047】
しかしながら、放電回路62hは、工作物64hとして金属材料を用いた場合の電位を基準に放電検知電圧を設定している場合がある。工作物64hとして積層体100を用いた場合、工作物64hとして金属材料を用いた場合と比べ、放電部61hの電位は下がらない。積層体100が抵抗体であることがこの現象に起因する。本比較例は、工作物64hとして金属材料を用いた場合について説明する。放電回路62hは、工作物64hとして金属材料を用いた場合の放電を検知することができるが、工作物64hとして積層体を用いた場合の放電を正しく検知できない。
【0048】
放電回路62hは、放電部61hの放電を検知できていないため、放電を行ったまま、放電部61hを工作物64hへ近づき続ける。この際、放電部62には、電源Ehにより高い電位が印加されている。放電部61hが工作物64hへ近づき続けている間、放電部61hの電位は下がり続け、本来の時間より遅れて放電検知電圧を下回る。放電検知電圧を下回ると、放電設定時間だけ放電部61hの電位を保ち、設定放電時間の経過後、トランジスタをオフにする。実際には、放電部61hからは、設定放電時間よりも大幅に長い時間の間、放電が発生している。すなわち、放電回路62hでは長パルス放電が発生している。
【0049】
長パルス放電が発生すると、炭素繊維より耐熱性が低い樹脂が消失し、炭素繊維が毛羽立つ。その後、毛羽立った状態の炭素繊維が脱落することにより、炭素繊維と放電部61hとの間に短絡を生じ、短絡によるジュール発熱でマトリックス材料である樹脂の消失が選択的に進む。消失する樹脂の量は、炭素繊維の配向方向における量が支配的である。従って、比較例に係る積層体の加工方法では、長パルス放電や短絡が生じてしまい、樹脂の消失や炭素繊維の毛羽立ちにより、加工した面に凹凸が生じてしまう。
【0050】
これに対し、第1実施形態に係る積層体の加工方法は、放電装置60用いる。放電装置60は放電回路62を備えるため、長パルス放電を抑制し、加工面に凹凸が生じることを抑制できる。
【0051】
以下、放電装置60を用いて放電加工を行う場合の作用について詳細に説明する。
図8は、放電加工を行う際の電圧および電流を示す図である。
図8(a)は、放電加工を行う際の電圧を示す図である。
図8(b)は、放電加工を行う際の電流を示す図である。
【0052】
第1実施形態に係る積層体の加工方法では、放電回路62において、まず、トランジスタT0をオンにし、電源E0から電流を流すことでコンデンサC0を充電する。また、コンデンサC0の充電と同じタイミング、またはコンデンサC0の充電を行った後に、放電部61と工作物64との電位差とサーボ基準電圧とを比較しながら、放電部61を工作物64へ近づける。具体的には、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以上である場合、放電部61と工作物64とを近づけ、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以下である場合、放電部61と工作物64とを離す(サーボバック)、といった極間の距離の制御(サーボ制御)を行う。放電部61と工作物64との距離が所定値以下となると、放電部61から工作物64へ放電が発生する。放電回路62における放電は、コンデンサC0にためられた電荷が一気に流れ、放電部61の電位は、時刻t1で放電検知電圧VKを下回る。次いで、トランジスタT0をオフにする。尚、放電回路62が放電を検知すると、設定放電時間だけ放電部61の電位を保ち、放電部61から電流を流す。次いで、トランジスタT0をオンにし、コンデンサC0を充電し、再度同じサイクルを行う。
【0053】
コンデンサが蓄えられる電気容量は決まっており、長パルス放電が発生することはない。
【0054】
尚、放電の際、放電部61へ流れる電流はコンデンサC0からの電流であり、充電抵抗R0を通らない。そのため、充電抵抗R0の抵抗値は、内部抵抗Rhの抵抗値と比べて大きくすることが可能である。そのため、放電部61を工作物64から遠ざける際に、仮に短絡が生じたとしても大電流が流れることを抑制し、その影響を小さくすることができる。また、樹脂の焼失や炭素繊維の毛羽立ちを抑制し、加工面の凹凸を小さくすることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る積層体の加工方法では、コンデンサC0から電流が流れている間、トランジスタT0をオフにすることで回路の一部を完全に絶縁できる。そのため、次の放電を安定して行うことができる。
【0056】
また、本実施形態に係る積層体では、短絡を抑制できるため、サーボバックを抑制でき、くりぬき加工なども可能である。尚、本実施形態に係る積層体の加工方法は、熱硬化型炭素繊維複合材料および熱可塑性炭素繊維複合材料のいずれにも適用できる。
尚、本実施形態に係る積層体の加工方法では、放電回路62からトランジスタT0を取り除いた放電回路を用いてもよい。このような放電回路としては、例えば
図16に示す放電回路62´である。放電回路62´を用いる場合、コンデンサC0を充電し、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以下である場合に近づけ、サーボ基準電圧以上である場合に遠ざける。放電部61と工作物64との距離が所定値以下となると、放電部61から工作物64へ放電が発生する。放電回路62´において放電が発生するとコンデンサC0に蓄えられた電荷が工作物64へ一気に放出される。またこの際電源E0からの電流も流れる。放電部61と工作物64とが接触することにより短絡が発生する場合もある。しかしながら、放電回路62´においても充電抵抗R0の抵抗値を内部抵抗Rhの抵抗値よりも大きな値に設定することができる。すなわち短絡で流れ込む電流は微量であり、樹脂は消失しない。従って、放電回路62´を用いた場合でも加工面に凹凸が生じることを抑制できる。
【0057】
<炭素繊維複合材料>
図9は、第1実施形態に係る積層体の加工方法で加工する前の炭素繊維複合材料(積層体)の電子顕微鏡像である。尚、
図9は、一般社団法人材料科学技術振興財団提供のX線CT像であり、HP上に掲載されたものである。積層体において、炭素繊維1の断面形状は、いずれも円形であり、炭素繊維の直径は、隣接する炭素繊維の中心間距離よりも大きい。積層体の側面において、炭素繊維1の占有面積の占有率(面積占有率)は、どの部分においても概ね均等である。炭素繊維1の面積占有率(面積割合)は概ね60~70%であり、樹脂2の面積占有率の割合は約30~40%である。
【0058】
図10は、加工後の炭素繊維複合材料100dの構成の一例を概略的に示す斜視図である。炭素繊維複合材料100dは、複数の炭素繊維1と複数の炭素繊維を接着する樹脂2とを備える。炭素繊維複合材料100dのおもて面Sの一部から、うら面に向かって貫通するように放電加工されている。符号S1およびS2で示される箇所が加工された箇所であり、それぞれ加工面S1、S2と呼称する。貫通方向は、おもて面Sに対して垂直であることが好ましいが、垂直でなくてもよい。放電加工により、破線で示される細孔径の孔が形成される。加工領域は、例えば加工面で囲まれた領域である。
図11は、炭素繊維複合材料100dの加工面S2(貫通孔の内壁面)の電子顕微鏡像である。尚、
図11は、後述する実施例1で観察した炭素繊維複合材料の加工面の電子顕微鏡像である。ここでの加工面S2は、第1方向に対して垂直であり、かつ表面Sに対して垂直な面である。
図11に示されるように、炭素繊維複合材料100dは、放電加工により、端面において局所的に炭素繊維1の径が拡大する。また、径方向の拡大により、隣接する炭素繊維同士が互いに押し合うことにより、局所的に炭素繊維1の形状が円形から多角形に変化する。
【0059】
放電加工後の炭素繊維複合材料100dは、側面の少なくとも一部に炭素繊維が密集した密集領域を有する。尚、ここでいう側面とは、おもて面Sに対して垂直な面であり、加工面Sを含む。密集領域において、炭素繊維の面積占有率は、例えば70%以上であり、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。尚、
図11に示す領域において、炭素繊維の面積占有率は、94%である。尚、炭素繊維の配向方法が様々なプリプレグが積層された積層体に対して、第1実施形態に係る積層体の加工方法を行ったとき、いずれの加工面においても密集領域は生じる。
【0060】
理論上、炭素繊維が正方形周期最密充電配置をされるとき、炭素繊維複合材料における炭素繊維の面積占有率は最大となる。このとき、炭素繊維複合材料における炭素繊維の面積占有率は、91%である。
【0061】
また、隣接する炭素繊維1A、1Bの中心A、Bの間の距離L
ABは、炭素繊維1Aの最大径L
A、炭素繊維1Bの最大径L
Bのいずれよりも小さい。尚、
図11に示される炭素繊維は、いずれも炭素繊維の端面であり、露出している。ここで、炭素繊維の端面とは、炭素繊維の端のことをいう。
【0062】
本実施形態に係る積層体の加工方法は、炭素繊維が成長源(炭素源)を取り込んで成長していると考えられる。成長源としては、主に放電加工油の分解カーボンであると考えられる。また、その他の原因としては結晶構造の変化などによる炭素繊維1の膨張が考えられる。成長源としては、その他にも、消失した炭素繊維および樹脂が考えられる。尚、本実施形態に係る積層体の加工方法は、積層体に貫通孔が形成されるように積層体を加工する方法に限定されず、積層体に溝が形成されるように積層体を加工してもよい。
【0063】
本実施形態に係る炭素繊維複合材料は、側面における炭素繊維の面積占有率が増えるため、放電加工前の炭素繊維複合材料(積層体)と比較し、硬度が向上する。すなわち、炭素繊維複合材料の強度が向上する。また、放電加工前の積層体における側面と比較し、毛羽立ちおよび樹脂の消失が抑制され、放電加工が行われた加工面は滑らかな形状となる。すなわち、摺動面としても利用することができる。
【0064】
<変形例1>
変形例1に係る炭素繊維複合材料(積層体)の加工方法は、加工装置200の放電回路62に替えて放電回路62Aを用いる。
図12は、放電回路62Aの主要部を示す回路図である。放電回路62Aは、電源EAと、電源EAに接続された電圧制御部Uと、放電部61とを備える。変形例1に係る積層体の加工方法であっても第1実施形態に係る積層体の加工方法と同様の効果を得ることができる。放電回路62と同様の構成は、同様の符号を付し、説明を省略する。
【0065】
電圧制御部Uは、第1ユニットU1および第2ユニットU2を有する。第1ユニットU1および第2ユニットU2は、並列に配置されている。第1ユニットU1および第2ユニットU2は、それぞれトランジスタと抵抗とを備えている。第1ユニットU1に備えられたトランジスタおよび抵抗を、それぞれ第1トランジスタT1および第1抵抗R1という。第2ユニットU2に備えられたトランジスタおよび抵抗を、それぞれ第2トランジスタT2および第2抵抗R2という。本明細書では、第1トランジスタT1および第2トランジスタT2をオンにすることを、それぞれ第1ユニットU1をオンにする、第2ユニットU2をオンにするなどと表現する場合がある。
【0066】
変形例1に係る積層体の加工方法の作用について説明する。
図13は、放電加工を行う際の電圧および電流を示す図である。
図13(a)は、放電加工を行う際の電圧を示す図である。
図13(b)は、放電加工を行う際の電流を示す図である。
【0067】
変形例1に係る積層体の加工方法は、第1工程、第2工程、および第3工程を有する。
【0068】
第1工程は、第1ユニットU1をオンにし、第2ユニットU2をオフにする。すなわち、電源EAから電流が流れ、コンデンサCAが充電される。
【0069】
時刻t0にコンデンサCAの充電が開始し、コンデンサCAの極間電圧が、時間taに立ち上がり電圧VTを超えたら、第2工程を行う。立ち上がり電圧VTは、コンデンサCAの充電を検知する電圧であり、電源EAの電圧よりも小さい値に設定される。立ち上がり電圧VTの値が小さいと、コンデンサCAの充電速度を高められる一方、立ち上がり電圧VTの値が小さすぎると、短絡が生じた場合に工作物64に大電流が流れる恐れがある。そのため、立ち上がり電圧VTは、電源EAの電圧の1/4倍以上3/4倍以下や、1/3倍以上2/3倍以下に設定されていることが好ましく、また15V以上であってもよい。
【0070】
第2工程は、第2ユニットU2をオンにする。第2工程を行うと、第1ユニットU1および第2ユニットU2が、いずれもオンの状態となる。すなわち、放電回路62Aの合成抵抗が低下するため、大電流が流れ、コンデンサCAの充電速度が向上する。
【0071】
さらに、第3工程を行う。第3工程は、放電部61と工作物64との電位差とサーボ基準電圧とを比較しながら、放電部61を工作物64へ近づける。具体的には、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以上である場合、放電部61と工作物64とを近づけ、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以下である場合、放電部61と工作物64とを離す、といった極間の距離の制御を行う。放電部61と工作物64との距離が所定の距離以下となったら、放電部61から放電が発生する。すなわち、時刻tbにコンデンサCAの極間で電圧降下が生じる。放電部61の電位が放電検知電圧VKを下回ったら、電圧制御部Uをオフにし、設定放電時間だけ放電部61の電位を一定に保つ。すなわち、時刻tcまで電流が流れる。次いで、時刻tcに、放電部61を工作物から遠ざけながら第1ユニットU1をオンにすることでコンデンサCAを再び充電する。設定放電時間は、例えば、1μs以上500μs以下であり、100μs以下であることが好ましい。尚、第3工程は第1工程や第2工程と同時に行ってもよく、第1工程および第2工程を行った後に行ってもよい。
【0072】
変形例1に係る積層体の加工方法であっても、第1実施形態に係る積層体の加工方法と同様の効果を得ることができる。また、変形例1に係る積層体の加工方法は、電圧制御部Uを備えることで、合成抵抗を適宜変更することができる。放電回路62Aの合成抵抗は、コンデンサCAを高速充電する観点から、小さいことが好ましい。一方、合成抵抗が小さいと、放電部61を工作物から遠ざける際に、放電部61が炭素繊維と接触すると、大電流が生じる恐れがある。そのため、短絡の恐れがある。変形例1に係る積層体の加工方法は、電圧制御部Uを備えることで、短絡の抑制と高速充電を両立することができる。
【0073】
<変形例2>
変形例2に係る炭素繊維複合材料(積層体)の加工方法は、加工装置200の放電回路62に替えて放電回路62Bを用いる。
図14は、変形例2に係る積層体の加工方法で用いる放電回路62Bの主要部を示す回路図である。放電回路62Bは、電源Eと、電源Eに直列に接続された電圧制御部U´と放電部と、を備える。
【0074】
変形例2に係る積層体の加工方法の作用について説明する。
図15は、放電加工を行う際の電圧および電流を示す図である。
図15(a)は、放電加工を行う際の電圧を示す図である。
図15(b)は、放電加工を行う際の電流を示す図である。
【0075】
変形例に係る積層体の加工方法は、第1工程、第2工程、第3工程、第4工程、および第5工程を有する。
【0076】
第1工程は、に第1ユニットU1をオンにし、第2ユニットU2をオフにする。すなわち、電源Eから電流が流れ、放電部61がチャージされる。この際、第2ユニットU2には電流が流れない。
【0077】
放電部61の電位が電流重畳電圧VDを超えたら、第2工程を行う。第2工程は、第2ユニットU2をオンにする。すなわち、放電回路62Bの合成抵抗が低減される。すなわち、放電部61の電位を上げる速度を向上することができる。
【0078】
また、第3工程を行う。第3工程は第1工程や第2工程と同時に行ってもよく、第1工程および第2工程を行った後に行ってもよい。第3工程は、放電部61と工作物64との電位差とサーボ基準電圧とを比較しながら、放電部61を工作物64へ近づける。具体的には、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以上である場合、放電部61と工作物64とを近づけ、放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以下である場合、放電部61と工作物64とを離す、といった極間の距離の制御を行う。放電部61と工作物との距離が所定の距離以下となったら、放電部61から放電が発生する。放電が発生した時刻を時刻tBとする。すなわち、電圧降下が生じる。電圧降下が生じると同時に電流波形が立ち上がり、パルス放電が発生する。パルス放電は、設定放電時間だけ経過すると終了し、電流波形が立ち下がる。設定放電時間は、例えば、1μs以上500μs以下であり、100μs以下であることが好ましい。尚、放電部61の電位が放電検知電圧VKを下回った段階で、第4工程を行う。
【0079】
第4工程は、第2ユニットU2をオフにする。第2ユニットU2をオフにすることで、放電回路62Bの合成抵抗は増加する。
【0080】
放電部61と工作物64との電位差がサーボ基準電圧以下の場合には、放電部61を工作物64から遠ざける。この際、放電部61と炭素繊維とが接触すると短絡が生じる恐れがある。しかしながら、この際、放電回路62Bの合成抵抗は、高い値に設定されており、短絡電流は抑制される。
【0081】
変形例2に係る放電回路は、トランジスタを用いるが、変形例2に係る積層体の加工方法であっても、第1実施形態に係る積層体の加工方法と同様の効果を得ることができる。また、変形例2に係る積層体の加工方法は、電圧制御部Uにより、合成抵抗を適宜変更することができる。すなわち、短絡の抑制を一層高めることができる。また、コンデンサ式放電回路のように充電を必要としておらず、放電加工を行う際のスループットを向上することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるのではない。
【0083】
<実施例1>
図5に示す加工装置200を再現し、炭素繊維複合材料の面内方向に垂直な方向に開口を形成した。実施例1では、放電回路として
図16に主要部を示す放電回路62´を用いた。放電回路62´は、放電回路62からトランジスタT0を取り除いた放電回路である。以下、実施例1の具体的な条件および結果について詳述する。
【0084】
(炭素繊維複合材料)
市販のプリプレグ(品番:ベスファイト(R) W-3101-A/Q112J、メーカー名:東邦テナックス社)をGHクラフト社により積層された炭素繊維複合材料(積層体)を用意した。この積層体は、8層のプリプレグからなる。実施例1で用いた積層体を加工装置200に設置したとき、放電部61に近いプリプレグから順に、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層、第6層、第7層、第8層とする。第1層は第1方向に配向していた。第2層、第3層、第4層、第5層、第6層、第7層および第8層の配向方向は、それぞれ、第1層の配向方向に対して右回りに45°、90°、-45°、-45°、90°、45°、0°回転した方向である。実施例1では、この積層体を用いた。
【0085】
この積層体の繊維目付けは、197[g/m2]である。この積層体の樹脂含有率は40%であり、炭素繊維含有率は60%である。
【0086】
(加工装置)
放電部61としては、円柱形の銅電極を用いた。放電部の直径は3[mm]である。放電部61は、負に帯電させ、かつ2000[rpm]で回転させながら放電加工を行った。加工液70としては、市販の放電加工油(品番:メタルワークEDFK-2、メーカー名:JXTGエネルギー株式会社)を用いた。精密バイス40として(品番:DS20-2、メーカー名:日本オートマチックマシン株式会社)を用いた。実施例1は、精密バイス40を用いて、積層体を正に帯電させて行った。精密バイス40は、積層体の両面の端部3aおよび側面を、銅製フィルムを介して挟持した。積層体の端部3a、3b、3c、および3dと側面の全面とは、銅製フィルムで覆った。銅製フィルムの厚さは0.1mmであった。
【0087】
(放電回路)
放電部61の無負荷電圧は100[V]、サーボ基準電圧は60[V]とした。コンデンサC0の充電抵抗は2[kΩ]とした。コンデンサC0の電気容量は、2[μF]とした。
【0088】
実施例1は、トランジスタT0をオンにしてコンデンサC0を充電する工程と、放電部61を積層体へ近づける工程と、放電部61からの放電を検知したらトランジスタT0をオフにする工程と、放電部61を積層体から遠ざける工程と、を繰り返し行う。
【0089】
上述した実施例1の条件の要旨を[表1]にまとめる。
【0090】
【0091】
(表面観察試験)
実施例1では、1時間28分で、積層体に貫通孔が形成された。放電加工を行った炭素繊維複合材料に対して、表面観察試験を行った。表面観察試験では、炭素繊維複合材料のおもて面およびうら面を光学顕微鏡で観察した。
図17は、実施例1で加工した炭素繊維複合材料の光学顕微鏡像である。
図17(a)は放電部61に近い側の面(おもて面)であり、
図17(b)は放電部61から遠い側の面(うら面)である。
図17(a)および
図17(b)は、同位置の光学顕微鏡像である。実施例1による放電加工により炭素繊維複合材料に貫通孔が形成されていることが確認される。尚、樹脂が選択的に炭素繊維の配向方向へ激しく消失した場合の特徴である黒ずみが貫通孔の周囲に確認されない。
【0092】
図18は、放電加工を行った際の放電部61の電圧および電流を示す図である。
図18(a)は、放電加工を行った際の電圧を示す図であり、
図18(b)は、放電加工を行った際の電流を示す図である。
図18より、放電発生と同時に短パルスの放電電流が発生しており、長パルス放電および短絡が発生していないことが確認される。
【0093】
(加工面観察試験)
次いで、加工面に対して加工面観察試験を行った。加工面とは、炭素繊維複合材料に対して加工を行った面であり、積層方向に対して垂直な面である。加工面観察試験では、電子顕微鏡および光学顕微鏡を用いて炭素繊維複合材料の加工面を観察した。
図19(a)は、加工面の電子顕微鏡像である。尚、
図19(a)は、第3層の配向方向に対して垂直の断面を電子顕微鏡像で観察した結果である。
図19(b)および
図11は、それぞれ
図19(a)中の領域R1および領域R2を拡大した図である。領域R1は、第1層および第2層に位置し、第1層および第2層の境界を含む。領域R2は、第3層に位置する。
【0094】
図19の電子顕微鏡像は、第1層および第8層の配向方向に対して垂直であり、これらの層を観察することで炭素繊維が配向している様子が確認される。第2層~第7層の炭素繊維は、放電加工により炭素繊維の径が拡大していることが確認される。具体的には、放電加工前のそれぞれの炭素繊維は円形であるため、放電加工前は炭素繊維の直径よりも隣接する炭素繊維の中心間距離の方が大きかった。しかしながら、
図11で確認される通り、少なくとも一部の炭素繊維において、隣接する炭素繊維の中心間距離L
ABよりも、L
AおよびL
Bなどのそれぞれの炭素繊維の最大径の方が長い。すなわち、炭素繊維は、放電加工により径が拡大するように成長している。また、放電加工後の炭素繊維複合材料は、放電加工前と比べ、炭素繊維が密集した密集領域を有する。密集領域では、炭素繊維の面積占有率が増えている。具体的には、炭素繊維の面積占有率は、放電加工前に60%であったが、領域R2において炭素繊維の面積占有率は、94%であった。この面積占有率は、
図11を2値化し、占有面積の比率を算出することにより求めた。
【0095】
図20は、加工面の光学顕微鏡像である。
図20に示す光学顕微鏡像から、放電加工後の炭素繊維複合材料は、加工面全体の炭素繊維の径が拡大していることが確認される。
【0096】
<参考例1>
次いで、実施例1から加工方法を変更し、参考例1を行った。具体的には、参考例1では実施例1から放電回路を変更した。放電回路を変更した点以外の条件は、実施例1と同じ条件で行った。
【0097】
(加工装置)
参考例1で用いた加工装置は、放電回路を放電回路62hに変更した点以外は、実施例1と同様である。
【0098】
参考例1は、放電部61hを工作物64hへ近づける工程と、放電部61hの電位が放電検知電圧を下回ったら、設定放電時間だけ放電を持続させ、放電部61hを工作物64hから遠ざけながら休止時間だけ休止させる工程と、を繰り返し行う。設定放電時間は、4[μs]とし、休止時間は36[μs]とし、トランジスタThの内部抵抗Rhを10[Ω]とした。
【0099】
上述した参考例1の条件の要旨を[表2]にまとめる。
【0100】
【0101】
(表面観察試験)
参考例1では、1時間18分で貫通孔が形成された。放電加工を行った炭素繊維複合材料に対して、実施例1と同様の方法で、表面観察試験を行った。
図21は、参考例1で加工した炭素繊維複合材料の光学顕微鏡像である。
図21(a)は放電部に近い側であった面(おもて面)であり、
図21(b)は放電部から遠い側の面(うら面)である。
図21(a)および
図21(b)は、同位置の光学顕微鏡像である。参考例1による放電加工により炭素繊維複合材料に貫通孔が形成されていることが確認される。貫通孔の周囲には、黒ずんだ領域RKが生じている。領域RKは、樹脂が消失し、炭素繊維が露出しているため、炭素繊維の色が際立って見えると推測される。
【0102】
図22は、放電加工を行った際の放電部の電圧および電流を示す図である。
図22(a)は、放電加工を行った際の電圧を示す図であり、
図22(b)は、放電加工を行った際の電流を示す図である。
図22より、参考例1では長パルス放電および短絡が発生していることが確認される。具体的には、例えば1500[μs]~2500[μs]の時間を中心に長時間の間、連続して電流が発生していることが確認される。設定放電時間の設定は、4[μs]であるのに対し、この時間におけるパルス幅は長く、長パルス放電が発生していることがわかる。また、2500[μs]~3500[μs]、4500[μs]~5000[μs]の時間、放電部の電圧が上がりきらないうちに電流が流れており、短絡の発生が確認される。短絡や長パルス放電は、放電加工の後半の時間に顕著である。炭素繊維複合材料は、抵抗体であり、放電が発生したときの電位は下がりにくい。そのため、放電が発生した場合でも放電検知電圧を下回らずに長パルス放電が発生し、炭素繊維が毛羽立つ。毛羽立った炭素繊維が脱落すると、短絡を生じ、樹脂の消失が進む。
【0103】
尚、孔の深さは時間の経過とともに深くなる。すなわち、放電部も炭素繊維複合材料の奥深くまで潜らせることが必要になり、放電部が毛羽立ち、脱落した炭素繊維と短絡を生じやすくなる。すなわち、放電加工により炭素繊維複合材料の側面を高精度に加工する場合、長パルス放電が生じないように加工を行うことが好ましい。
【0104】
参考例1の放電加工方法で加工した炭素繊維複合材料の断面を観察すると、樹脂が消失し、炭素繊維が露出していることが確認された。従って、実施例1の加工法で加工された炭素繊維複合材料は、参考例1の加工方法で加工された炭素繊維複合材料と比較し、硬度が高く、かつ滑らかである。
【0105】
<実施例2>
実施例2は、円筒形の放電部およびコンデンサ制御放電回路を用いて放電加工を行い、炭素繊維複合材料(積層体)をくりぬいた。
【0106】
(炭素繊維複合材料)
炭素繊維複合材料(積層体)としては、市販のプリプレグ(品番:W-3101-A/Q112J、メーカー名:東邦テナックス社)をGHクラフト社により積層された炭素繊維複合材料(積層体)を用意した。この炭素繊維複合材料は、8層のプリプレグからなる。積層体は、最外層の配向方向を0°としたとき、配向方向が0°、45°、90°、-45°、のプリプレグが順に8層積層している。
【0107】
(加工装置)
放電部61としては、円筒形の銅電極を用いた。放電部の直径は3[mm]であり、肉厚は0.3mmである。放電部61は、負に帯電させ、かつ2000[rpm]で回転させながら放電加工を行った。加工液70としては、市販の放電加工油(品番:メタルワークEDFK-2、メーカー名:JXTGエネルギー株式会社)を用いた。精密バイス40として(品番:DS20-2、メーカー名:日本オートマチックマシン株式会社)を用いた。放電加工は、精密バイス40を用いて、積層体を正に帯電させて行った。精密バイス40は、積層体の両面の端部3a、3b、3c、および3dを、銅製フィルムを介して挟持した。積層体の端部3a、3b、3c、および3dと側面の全面とは、銅製フィルムで覆った。銅製フィルムの厚さは0.1mmであった。
【0108】
(放電回路)
放電部61の無負荷電圧は250[V]、サーボ基準電圧は60[V]とした。コンデンサC0の充電抵抗R0は2[kΩ]とした。コンデンサC0の電気容量は、2[μF]とした。
【0109】
実施例1は、トランジスタをオンにしてコンデンサを充電する工程と、放電部を積層体へ近づける工程と、放電部からの放電を検知したらトランジスタをオフにする工程と、放電部を積層体から遠ざける工程と、を繰り返し行う。
【0110】
上述した実施例2の条件の要旨を[表3]にまとめる。
【0111】
【0112】
図23は、放電加工を行った炭素繊維複合材料およびくりぬいた炭素繊維複合材料を示す。
図23に示す通り、実施例2では炭素繊維複合材料をくりぬき加工することが可能である。実施例2では、2つの貫通孔を形成した。2つの貫通孔の最近接距離は0.4mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明により、高強度な炭素繊維複合材料を実現し、航空機や自動車などの移動媒体を軽量かつ高強度にすることができる。
【符号の説明】
【0114】
1、1A:炭素繊維、2:樹脂、3:端部、10、11、20、21:プリプレグ、30:容器、
40:精密バイス、41:本体部、42:挟持部、50:導電補助部材、60:放電装置、
61、61h:放電部、62、62A、62B:放電回路、63:モーター、64:工作物、
70:加工液、100a、100b、100c:炭素繊維複合材料(積層体)、100d:炭素繊維複合材料、200:加工装置