(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】塩化鉄(III)の高純度化方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/10 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
C01G49/10
(21)【出願番号】P 2021087217
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000233734
【氏名又は名称】株式会社アステック入江
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾脇 凌之介
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-179037(JP,A)
【文献】特開平05-125563(JP,A)
【文献】特開2001-354426(JP,A)
【文献】特開2002-371386(JP,A)
【文献】特開2011-235222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤とを混合し、混合液中で水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得る工程(A)と、
前記沈殿物を回収する工程(B)と、
回収された前記沈殿物と塩酸とを混合して、塩化鉄(III)を含む溶液を得る工程(C)とを含み、
前記工程(A)の前記混合液のpHをpH
Aとし、下記式(1)で表されるpHの理論値をpH
Tとし、D=pH
A-pH
Tとした場合、3.00≦D≦7.00である、塩化鉄(III)の高純度化方法。
【数1】
ただし、K
spは水酸化物溶解度積であり、M
n+は
Fe
3+
であり、[M
n+]は
前記工程(A)で得られる前記混合液中のFe
3+
のモル濃度であり、nは価数であり、K
wは水のイオン積である。
【請求項2】
前記Dが、3.67≦D≦6.05である、請求項1に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
【請求項3】
前記工程(A)で得られる前記混合液中のFe
3+のモル濃度が、0.05mol/L~2mol/Lである、請求項1又は2に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
【請求項4】
前記工程(A)で用いられる前記塩化鉄(III)を含む溶液が、エッチング廃液に由来する溶液である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
【請求項5】
前記工程(B)が、前記沈殿物を含むスラリーを濾過する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
【請求項6】
前記工程(B)と前記工程(C)の間に、前記工程(B)で回収された沈殿物を水洗する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化鉄(III)の高純度化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板やIC、LSI用のリードフレームなどは、塩化鉄(III)を含むエッチング液で部分的に腐食処理することにより製造されている。
エッチング処理によって、エッチング液に含まれる塩化鉄(III)が還元されて塩化鉄(II)になり、塩化鉄(III)の濃度が低下してエッチング効率が悪くなるので、定期的にエッチング液の交換が行われている。
【0003】
なお、特許文献1には、鋼材酸洗廃液より高純度の酸化鉄を製造するための酸洗廃液の精製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エッチング処理後の廃液であるエッチング廃液は銅成分、ニッケル成分を多量に含んでいる。そこで鉄粉を加えることでイオン化傾向の差により銅粉、ニッケル粉を液中から取り出す還元処理がなされている。還元後の塩化鉄(II)は酸化処理され、塩化鉄(III)となり、エッチング液として再びリサイクルされるが、プロセス上、余剰に塩化鉄(III)を含む溶液が生成され、廃棄されているのが現状である。
【0006】
廃棄される塩化鉄(III)を含む溶液を再利用することができれば、資源の有効利用の観点、及び廃棄物の減少による環境負荷の低減の観点から望ましい。
しかしながら、還元処理工程において銅成分、ニッケル成分が除去されても完全に除去されるわけではなく、また、鉄粉を加えても還元されない成分も種々液中には含まれる。塩化鉄(III)を含む溶液中の不純物成分としては、典型元素であるカルシウムや亜鉛、遷移元素である銅、ニッケル、マンガン、コバルト等が挙げられる。これらの不純物が含まれる結果、塩化鉄(III)の純度が低いため、様々な用途(例えば、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの正極材料や顔料の原料など)に再利用することが難しいという問題があった。
【0007】
特許文献1には、塩化第二鉄溶液にアルカリを添加し、pHを3~4に制御することが記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載された条件では、得られる沈殿物の固液分離性に劣り、処理時間が長くなり、効率が低い。また、得られた沈殿物を濾過した場合、不純物を含む濾液が付着しているため、沈殿物を水洗する場合があるが、特許文献1に記載された条件では沈殿物が水洗中に溶解してしまうため、純度を高めることは難しい。また、特許文献1ではFe3+のモル濃度について記載されておらず、固液分離性の効率についても記載されていない。
【0008】
本発明の課題は、塩化鉄(III)の純度を高くすることができ、かつ効率に優れる塩化鉄(III)の高純度化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記手段により達成することができる。
<1>
塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤とを混合し、混合液中で水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得る工程(A)と、
前記沈殿物を回収する工程(B)と、
回収された前記沈殿物と塩酸とを混合して、塩化鉄(III)を含む溶液を得る工程(C)とを含み、
前記工程(A)の前記混合液のpHをpH
A
とし、下記式(1)で表されるpHの理論値をpH
T
とし、D=pH
A
-pH
T
とした場合、3.00≦D≦7.00である、塩化鉄(III)の高純度化方法。
【数4】
ただし、K
sp
は水酸化物溶解度積であり、M
n+
はFe
3+
であり、[M
n+
]は前記工程(A)で得られる前記混合液中のFe
3+
のモル濃度であり、nは価数であり、K
w
は水のイオン積である。
<2>
前記Dが、3.67≦D≦6.05である、<1>に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
<3>
前記工程(A)で得られる前記混合液中のFe
3+
のモル濃度が、0.05mol/L~2mol/Lである、<1>又は<2>に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
<4>
前記工程(A)で用いられる前記塩化鉄(III)を含む溶液が、エッチング廃液に由来する溶液である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
<5>
前記工程(B)が、前記沈殿物を含むスラリーを濾過する工程を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
<6>
前記工程(B)と前記工程(C)の間に、前記工程(B)で回収された沈殿物を水洗する工程を含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
本発明は、上記<1>~<6>に係るものであるが、本明細書には参考のためその他の事項についても記載した。
〔1〕
塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤とを混合し、混合液中で水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得る工程(A)と、
前記沈殿物を回収する工程(B)と、
回収された前記沈殿物と塩酸とを混合して、塩化鉄(III)を含む溶液を得る工程(C)とを含み、
前記工程(A)の前記混合液のpHをpH
Aとし、下記式(1)で表されるpHの理論値をpH
Tとし、D=pH
A-pH
Tとした場合、3.00≦D≦7.00である、塩化鉄(III)の高純度化方法。
【数1】
ただし、K
spは水酸化物溶解度積であり、M
n+は金属イオンであり、[M
n+]はM
n+のモル濃度であり、nは価数であり、K
wは水のイオン積である。
〔2〕
前記Dが、3.67≦D≦6.05である、〔1〕に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
〔3〕
前記工程(A)で得られる前記混合液中のFe
3+のモル濃度が、0.05mol/L~2mol/Lである、〔1〕又は〔2〕に記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
〔4〕
前記工程(A)で用いられる前記塩化鉄(III)を含む溶液が、エッチング廃液に由来する溶液である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
〔5〕
前記工程(B)が、前記沈殿物を含むスラリーを濾過する工程を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
〔6〕
前記工程(B)と前記工程(C)の間に、前記工程(B)で回収された沈殿物を水洗する工程を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の塩化鉄(III)の高純度化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩化鉄(III)の純度を高くすることができ、かつ効率に優れる塩化鉄(III)の高純度化方法を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の塩化鉄(III)の高純度化方法は、
塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤とを混合し、混合液中で水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得る工程(A)と、
前記沈殿物を回収する工程(B)と、
回収された前記沈殿物と塩酸とを混合して、塩化鉄(III)を含む溶液を得る工程(C)とを含み、
前記工程(A)の前記混合液のpHをpHAとし、下記式(1)で表されるpHの理論値をpHTとし、D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00である、塩化鉄(III)の高純度化方法である。
【0012】
【0013】
ただし、Kspは水酸化物溶解度積であり、Mn+は金属イオンであり、[Mn+]はMn+のモル濃度であり、nは価数であり、Kwは水のイオン積である。
【0014】
[工程(A)]
工程(A)は、塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤とを混合し、混合液中で水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得る工程である。
工程(A)で用いられる塩化鉄(III)を含む溶液は、塩化鉄(III)を含む水溶液であることが好ましく、エッチング廃液に由来する溶液であることがより好ましい。エッチング廃液に由来する溶液とは、エッチング廃液又はエッチング廃液に対して何らかの処理(例えば酸化処理や還元処理)を行った後の溶液である。エッチング廃液に由来する溶液は通常は鉄以外の金属などの不純物を含有しており、本発明の方法を適用した際に本発明の効果が顕著に現れる。
工程(A)で用いられる塩化鉄(III)を含む溶液は、鉄以外の金属を含むものであることが好ましく、カルシウム、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、ニッケル少なくとも1種を含むものであることがより好ましく、カルシウム及びマンガンの少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
工程(A)で用いられる塩化鉄(III)を含む溶液は、例えば、塩化鉄(III)を1~50質量%、カルシウムを50~3000ppm、マンガンを50~3000ppm含むものであってもよい。「ppm」は「parts per million」の略であり、質量基準(「質量ppm」)である。
【0015】
工程(A)で用いるアルカリ剤は特に限定されない。アルカリ剤としては、例えば、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。
【0016】
工程(A)では、塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤とを混合し、得られた混合液中で水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得る。
塩化鉄(III)を含む溶液とアルカリ剤との混合比は特に限定されない。
【0017】
工程(A)で得られる混合液のpHをpHAとし、下記式(1)で表されるpHの理論値をpHTとし、D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00である。
【0018】
【0019】
ただし、Kspは水酸化物溶解度積であり、Mn+は金属イオンであり、[Mn+]はMn+のモル濃度であり、nは価数であり、Kwは水のイオン積である。
【0020】
なお、pHは温度によって変動するが、例えば10~50℃のpHとすることができ、15~40℃のpHとすることが好ましい。
【0021】
上記式(1)において、Kspは具体的には、水酸化鉄(III)の溶解度積であり、18~25℃における値は、7.1×10-40である。Mn+はFe3+である。Kwは25℃では1×10-14である。
【0022】
Dが、3.67≦D≦6.05であることが特に好ましい。
【0023】
工程(A)で得られる混合液中のFe3+のモル濃度は、0.05mol/L~2mol/Lであることが好ましく、0.075mol/L~1mol/Lであることがより好ましい。
【0024】
[工程(B)]
工程(B)は、工程(A)で得られた水酸化鉄(III)を含む沈殿物を回収する工程である。
工程(B)は、公知の手段(固液分離工程)により行うことができる。
工程(B)は、沈殿物を含むスラリーを濾過する工程を含むことが好ましく、沈殿物を含むスラリーを吸引濾過する工程を含むことがより好ましい。
【0025】
[工程(C)]
工程(C)は、回収された沈殿物と塩酸とを混合して、塩化鉄(III)を含む溶液を得る工程である。
工程(C)で得られる塩化鉄(III)を含む溶液は、塩化鉄(III)を含む水溶液であることが好ましい。
工程(C)で得られる塩化鉄(III)を含む溶液は、前述の工程(A)で用いた塩化鉄(III)を含む溶液よりも塩化鉄(III)の純度が高くなっている。
工程(C)で用いる塩酸の濃度は特に限定されない。
【0026】
[その他の工程]
本発明の塩化鉄(III)の高純度化方法は、前述の工程(A)と工程(B)と工程(C)に加え、更にその他の工程を含むことができる。
その他の工程は特に限定されないが、本発明の塩化鉄(II)の高純度化方法は、工程(B)と工程(C)の間に、工程(B)で回収された沈殿物を水洗する工程を含むことが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例及び比較例で使用した塩化鉄(III)水溶液A~Cは、下記表1に示す成分を表1に示す含有量で含む塩化鉄(III)水溶液である。
【0029】
【0030】
(実施例1)
塩化鉄(III)水溶液A40mLに希釈アンモニア水を120mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。30℃における混合液のpH(pHA)は5.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.87(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は0.97であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を80g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。カルシウム及びマンガンの除去率が高いと、相対的に塩化鉄(III)の純度が高くなるため、高純度化の効果が優れる。
【0031】
除去率(%)=100×[{用いた塩化鉄(III)水溶液中の不純物量(ppm)-水酸化鉄(III)溶解後の不純物量(ppm)}/用いた塩化鉄(III)水溶液中の不純物量(ppm)]
【0032】
(実施例2)
塩化鉄(III)水溶液A40mLに希釈アンモニア水を120mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。28℃における混合液のpH(pHA)は7.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.87(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は0.97であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を80g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。
【0033】
(実施例3)
塩化鉄(III)水溶液B220mLに希釈アンモニア水を650mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。25℃における混合液のpH(pHA)は5.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.08(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は1.32であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を50g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。
【0034】
(実施例4)
塩化鉄(III)水溶液A40mLに希釈水酸化ナトリウム溶液を100mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。31℃における混合液のpH(pHA)は5.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は1(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は0.95であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を80g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。
【0035】
(実施例5)
塩化鉄(III)水溶液A40mLに希釈水酸化ナトリウム溶液を100mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。30℃における混合液のpH(pHA)は7.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は1(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は0.95であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を80g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。
【0036】
(実施例6)
塩化鉄(III)水溶液B200mLに希釈水酸化ナトリウム溶液を650mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。24℃における混合液のpH(pHA)は5.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.075(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は1.33であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を50g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。
【0037】
(実施例7)
塩化鉄(III)水溶液C40mLに希釈アンモニア水を120mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。30℃における混合液のpH(pHA)は5.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.87(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は0.97であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしているので、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を80g得た。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT2とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を得た。それぞれの吸引濾過に要した時間(T1及びT2)を表3に示す。水洗済みの水酸化鉄(III)を含む濾物を塩酸にて溶解し、塩化鉄(III)水溶液を得た。得られた塩化鉄(III)水溶液の成分分析を行い、表4に結果を示した。また、カルシウム及びマンガンの除去率を表4に記載した。
【0038】
(比較例1)
塩化鉄(III)水溶液A35mLに希釈アンモニア水を100mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。34℃における混合液のpH(pHA)は3.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.91(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は0.96であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしていなかったが、そのまま得られたスラリーを吸引濾過(この吸引濾過に要した時間をT1とする。)し、水酸化鉄(III)を含む濾物を70g得た。濾液を見ると茶色がかっており、完全に水酸化鉄(III)になっていないことがわかった。得られた水酸化鉄(III)を含む濾物と純水200mLをビーカーに入れ攪拌し、スラリーを作成した。得られたスラリーを再び吸引濾過したが水酸化鉄(III)が溶出してしまったため中止した。
【0039】
(比較例2)
塩化鉄(III)水溶液B220mLに希釈アンモニア水を650mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。27℃における混合液のpH(pHA)は3.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.08(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は1.32であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしていなかったが、そのまま得られたスラリーに対して吸引濾過を試みたところ、水酸化鉄(III)はほとんど得ることができなかったため中止した。
【0040】
(比較例3)
塩化鉄(III)水溶液B200mLに希釈水酸化ナトリウム溶液を650mL添加して混合液を得た。混合液中に水酸化鉄(III)を含む沈殿物を得た。25℃における混合液のpH(pHA)は3.00であり、混合液中のFe3+のモル濃度は0.075(mol/L)であった。式(1)より算出したpHの理論値(pHT)は1.33であった。D=pHA-pHTとした場合、3.00≦D≦7.00を満たしていなかったが、そのまま得られたスラリーに対して吸引濾過を試みたところ、水酸化鉄(III)はほとんど得ることができなかったため中止した。
【0041】
実施例1~7、比較例1~3のpHA、pHT、D(pHA-pHT)を下記表2にまとめた。
【0042】
【0043】
【0044】
実施例1~7は、吸引濾過に要する時間が短く、効率に優れていた。
【0045】
【0046】
実施例1~7は、カルシウムとマンガンの含有率が低くなり(除去率が高く)、塩化鉄(III)の純度を高くすることができた。