(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】双極性障害モデル動物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20240101AFI20241127BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20241127BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241127BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241127BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 110
C12N15/864 100Z
C12Q1/02
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2021545553
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2020033988
(87)【国際公開番号】W WO2021049497
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019163646
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】新田 淳美
(72)【発明者】
【氏名】所 一輝
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/153760(WO,A2)
【文献】加藤忠史,双極性障害の原因はどこまでわかったか,Pharma Medica,2013年,vol.31, no.3, p.9-12
【文献】Nature Genetics,2011年,vol. 43, no. 10, p. 977-983
【文献】Molecular Psychiatry,2018年,vol. 23, no. 3, p. 639-647
【文献】MIYASHITA, M. et al.,Study of Teneurin-4 function to establish the bipolar disease mice model using CRISPR-Cas9 system,第60回日本神経化学会大会 抄録集(WEB),2017年,1P-57,インターネット<https://www.neurochemistry.jp/web/60th/contents/1P5.html#12>,[検索日 2020.11.06]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前頭前皮質
のみにおいてTeneurin-4タンパク質の発現が減少している、双極性障害の非ヒトモデル動物。
【請求項2】
マウスである、請求項1記載の非ヒトモデル動物。
【請求項3】
前頭前皮質
のみにおいてTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることを含む、双極性障害の非ヒトモデル動物の作製方法。
【請求項4】
前頭前皮質
のみにおいてTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることが、Cas9をコードする遺伝子およびODZ4を標的とするガイドRNAをコードする遺伝子を組み込んだベクターを前頭前皮質に投与することを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
非ヒトモデル動物がマウスである、請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の非ヒトモデル動物を用いることを特徴とする、双極性障害の処置に有効な物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下を含む、請求項7記載のスクリーニング方法:
(1)請求項1または2に記載の非ヒトモデル動物に候補物質を投与する工程、および
(2)双極性障害に対する候補物質の有効性を評価する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2019-163646号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、双極性障害モデル動物を提供する。
【背景技術】
【0003】
双極性障害は、鬱状態の中で、15分から3時間程度の躁期が現れることを繰り返す疾患である。現在のところ、躁症状にはリチウム製剤(薬理メカニズムは解明されていない)やバルプロ酸ナトリウム(抗てんかん薬)を投与し、鬱症状には抗うつ薬を投与するという対症療法しか薬物的治療法はない。日本においては、双極性障害の躁期および鬱期の両方の症状の改善に統合失調症治療薬であるアロピプラゾールが使用されているが、病状の改善が大きくは期待できないとされている。
【0004】
双極性障害の脳神経回路の異常や神経伝達物質の変化については不明な点が多く、双極性障害のモデル動物も存在しない。覚醒剤やフェンサイクリジンを投与することでドパミン受容体やNMDA受容体を刺激して誘導される過活動を躁期とし、ドパミンやグルタミン酸を不足させてマウスが動けなくなる状況を鬱期とする古典的モデル動物が提案されたが、双極性障害の発症メカニズムとは乖離していることが分かっている。
【0005】
現在まで双極性障害のモデルマウスは存在せず、新たなモデルの創生が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、双極性障害モデル動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非ヒト動物の前頭前皮質においてTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることによって、双極性障害患者に類似した躁期と鬱期を繰り返すモデル動物を作成できることを初めて見出した。
【0008】
ある態様において、本願は前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現が減少している、双極性障害の非ヒトモデル動物を提供する。
【0009】
別の態様において、前頭前皮質においてTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることを含む、双極性障害の非ヒトモデル動物の作製方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願によって、双極性障害の非ヒトモデル動物が提供される。また本願の方法により、双極性障害の非ヒトモデル動物を作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】リチウム曝露されたSH-SY5Y細胞におけるTeneurin-4発現の低下を示すウエスタンブロッティング。
【
図1B】リチウム曝露されたSH-SY5Y細胞のTeneurin-4発現レベル。値は平均値±S.E.Mである。n=8;ctrl、n=8;Li2CO3。p=0.000305742。***p<0.005 vs ctrl (Student t-test)。
【
図1C】リチウム曝露されたSH-SY5Y細胞のミトコンドリア活性。n=10;ctrl、n=10;Li2CO3。p=9.78654E-05。***p<0.005 vs ctrl (Student t-test)。
【0012】
【
図2A】ヒトODZ4遺伝子のgRNA近傍配列(配列番号1)、作成したgRNA(配列番号2)およびpGuide-it Vectorのベクターマップ。
【
図2B】Cleavage detection assayの結果。
【
図2C】sequencing analysisの結果。
【0013】
【
図3A】gRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入したSH-SY5Y細胞におけるTeneurin-4発現の低下を示すウエスタンブロッティング。
【
図3B】gRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入したSH-SY5Y細胞のTeneurin-4発現レベル。値は平均値±S.E.Mである。n=5;WT、n=5;gRNA。p=0.001125104。***p<0.005 vs WT (Student t-test)。
【
図3C】gRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入したSH-SY5Y細胞のミトコンドリア活性。n=10;WT、n=10;gRNA。p=0.032230494。*p<0.05 vs WT (Student t-test)。
【0014】
【
図4A】各脳部位におけるTeneurin-4タンパク質の発現を示すウエスタンブロッティング。PFC、前頭前皮質;NAc、側坐核;STR、線条体;HIP、海馬;OB、嗅球;MB、中脳;TH、視床;CB、小脳。
【
図4B】各脳部位におけるTeneurin-4タンパク質の発現レベル。
【0015】
【
図5A】前頭前皮質(PFC)へのベクターのインジェクションを示す模式図。
【
図5B】前頭前皮質(PFC)にgRNA-Cas9-GFPベクターを注入したマウスにおいて、PFCにおけるTeneurin-4発現の低下を示すウエスタンブロッティング。
【
図5C】前頭前皮質(PFC)にgRNA-Cas9-GFPベクターを注入したマウスのPFCにおけるTeneurin-4の発現レベル。
【0016】
【0017】
【
図7A】Teneurin-4の発現を減少させるためのCas9ウイルスを注入したマウス(miTenm4)およびコントロールウイルスを注入したマウス(mock)のLocomotor activity(行動量測定)1日目。
【
図7B】miTenm4マウスおよびmockマウスのLocomotor activity(行動量測定)2日目。
【0018】
【
図8A】Y-maze test(自発的交替行動)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスの交替行動率。
【
図8B】Y-maze test(自発的交替行動)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスの進入回数。
【0019】
【
図9】miTenm4マウスおよびmockマウスのL/D box test(明暗箱試験)。
【0020】
【
図10A】Elevated plus maze test(高架式十字迷路)でのmiTenm4マウスおよびmockマウスのオープンアームにおける滞在時間。
【
図10B】Elevated plus maze test(高架式十字迷路)でのmiTenm4マウスおよびmockマウスのオープンアームへの進入回数。
【0021】
【
図11A】Three chamber social interaction test(社会性試験)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスのobjectとstranger mouseに対するアプローチ時間の比率。
【
図11B】Three chamber social interaction test(社会性試験)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスのアプローチの合計時間。
【0022】
【
図12】miTenm4マウスおよびmockマウスのNovel object recognition test(新奇物体認知試験)。
【0023】
【
図13】miTenm4マウスおよびmockマウスのPre pulse inhibition test。
【0024】
【
図14A】Forced swimming test(強制水泳試験)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスの1分間ごとの無動時間。
【
図14B】Forced swimming test(強制水泳試験)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスの全6分間での無動時間。
【0025】
【
図15A】Tail suspension test(尾懸垂法)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスの1分間ごとの無動時間。
【
図15B】Tail suspension test(尾懸垂法)におけるmiTenm4マウスおよびmockマウスの全6分間での無動時間。
【0026】
【
図16】Fear conditioning testでのmiTenm4マウスおよびmockマウスのenvironmentおよびtoneにおける静止時間。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0028】
本明細書において「統計学的に有意に差がある」または「有意に差がある」とは、被験体の測定値と個体群の測定値の差異を統計学的に処理したときに両者間に有意に差があることをいう。「統計学的に有意」または「有意」とは、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には、p<0.05(5%未満)、p<0.01(1%未満)またはp<0.001(0.1%未満)の場合が挙げられる。ここで、「p(値)」とは、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって、p値が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【0029】
1.双極性障害の非ヒトモデル動物
本願の第1の態様において、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現が減少している双極性障害の非ヒトモデル動物を提供する。
【0030】
Teneurin-4タンパク質は、ODZ4遺伝子がコードするタンパク質である。ODZ4遺伝子は、大規模なゲノム解析により双極性障害患者において変異が認められることが報告された遺伝子である。
【0031】
Teneurin-4タンパク質のアミノ酸配列およびTeneurin-4タンパク質をコードする核酸配列は公知である。例えば、Teneurin-4タンパク質のアミノ酸配列およびTeneurin-4タンパク質をコードする核酸配列は、米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)が公開するデータベースに登録されている。
【0032】
以下に、マウス、ヒト、チンパンジー、ラット、ニワトリのTeneurin-4タンパク質のアミノ酸配列およびTeneurin-4タンパク質をコードする核酸配列のアクセッション番号を示す:
マウス(Mus musculus):NP_001297691(アミノ酸配列)、NM_001310762(核酸配列);
ヒト(Homo sapiens):NP_001092286(アミノ酸配列)、NM_001098816(核酸配列);
チンパンジー(Pan troglodytes):XP_016777196(アミノ酸配列)、XM_016921707(核酸配列);
ラット(Rattus norvegicus):NP_001178557(アミノ酸配列)、NM_001191628(核酸配列);
ニワトリ(Gallus gallus):NP_001341660(アミノ酸配列)、NM_001354731(核酸配列)。
【0033】
「Teneurin-4タンパク質の発現が減少している」とは、正常な同種の動物、あるいはTeneurin-4タンパク質の発現を減少させるための操作を施していない同種の動物と比較してTeneurin-4タンパク質の発現量が有意に低いことを意味する。ある実施態様において、本願の双極性障害の非ヒトモデル動物は正常な同種の動物と比較して、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現量が約10~約90%、約20~約80%、約30~約70%、または約40~約60%に減少している。別の実施態様において、本願の双極性障害の非ヒトモデル動物は、前頭前皮質においてTeneurin-4を発現しない。Teneurin-4タンパク質の発現量は、抗体染色法およびウエスタンブロッティング法などの公知の手法により検証できる。Teneurin-4タンパク質の発現量が低いことは、正常な同種の動物と比較してODZ4遺伝子の量またはODZ4遺伝子の発現量が有意に低いことによっても確認することができる。ODZ4遺伝子の量またはODZ4遺伝子の発現量は、ノザンブロッティング法、in situハイブリダイゼーション法およびRT-PCR法などの公知の手法により確認できる。
【0034】
非ヒト動物は、非ヒトであって実験動物として使用できるものであれば、Teneurin-4タンパク質を発現する動物である限りいかなる種の動物でもよい。ヒトの双極性障害のモデルとして用いる観点から、ヒト以外の哺乳類であることが好ましい。このような哺乳類としては、サルなどの霊長類、齧歯類、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ等が挙げられる。実験動物としての取り扱いが容易であるとの観点から、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の齧歯類が好ましく、マウスがより好ましい。
【0035】
2.双極性障害の非ヒトモデル動物の作製方法
本願の第2の態様において、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることを含む、双極性障害の非ヒトモデル動物を作製する方法を提供する。
【0036】
ある態様において、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることは、Teneurin-4タンパク質の発現を減少させる物質を前頭前皮質に投与することを含む。
【0037】
Teneurin-4タンパク質の発現を減少させる物質を前頭前皮質に投与する方法は特に限定されないが、例えばTeneurin-4タンパク質の発現を減少させる物質を前頭前皮質に直接注入することを含む。
【0038】
Teneurin-4タンパク質の発現を減少させる物質は例えば、ODZ4遺伝子を標的とするゲノム編集に用いる物質、ODZ4遺伝子を標的とするRNAi法に用いる物質、またはリチウム塩であり得る。
【0039】
ODZ4遺伝子を標的とするゲノム編集に用いる物質は特に限定されないが、ZFN、TALENまたはCRISPR/Cas9システムを組み込んだベクターであり得、例えばCRISPR/Cas9システムを組み込んだベクターである。ある実施態様において、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることは、Cas9をコードする遺伝子およびODZ4遺伝子を標的とするgRNAをコードする遺伝子を組み込んだベクターを前頭前皮質に投与することを含む。
【0040】
ODZ4遺伝子を標的とするgRNAは、CRISPR/Cas9システムによりODZ4遺伝子の発現を減少させることができるgRNAを意味する。例えば、ODZ4遺伝子を標的とするgRNAは、CRISPR/Cas9システムによりTeneurin-4タンパク質を発現しないようにODZ4遺伝子を遺伝子改変(1以上の塩基の置換、欠失、挿入など)するgRNAである。ODZ4遺伝子を標的とするgRNAは公知の方法により設計することができ、例えばCRISPRdirect(https://crispr.dbcls.jp/)などのgRNA設計支援ツールを用いてもよい。
【0041】
ODZ4遺伝子を標的とするRNAi法に用いる物質は特に限定されないが、ODZ4遺伝子のsiRNAもしくはmiRNA、またはODZ4遺伝子のsiRNAもしくはmiRNAを組み込んだベクターである。ODZ4遺伝子のsiRNAは公知のものを使用してもよい。該siRNAまたはmiRNAの適用は、生理的食塩水などの溶媒に溶解した溶液として、前頭前皮質に投与することを含む。
【0042】
本明細書において、ベクターはin vivoにおいて直接脳内に遺伝子を導入できるベクターであればよく、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターであり得、例えばウイルスベクターである。ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどであり得、例えばAAVベクターである。アデノ随伴ウイルスは、1型アデノ随伴ウイルス(AAV1)、2型アデノ随伴ウイルス(AAV2)、3型アデノ随伴ウイルス(AAV3)、4型アデノ随伴ウイルス(AAV4)、または5型アデノ随伴ウイルス(AAV5)であり得る。ベクターの適用は、ベクターを含む組成物として前頭前皮質に投与することを含む。ベクターを含む組成物の調製において、ベクターは必要に応じて薬学的に許容され得る担体または媒体と組み合わせることができる。「薬物動態学的に許容され得る担体または媒体」とは、ベクターと共に投与することが可能であり、ベクターによる遺伝子導入を有意に阻害しない物質である。ベクターを含む組成物は、例えばベクターを生理的食塩水などの溶媒で適切に希釈することにより形成され得る。ベクターを含む組成物は、保存剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、その他の添加剤などをさらに含んでもよい。
【0043】
ベクターにTeneurin-4タンパク質の発現を減少させる物質をコードする遺伝子を組み込む方法としては、公知の方法が使用できる。市販品を用いてもよく、ODZ4遺伝子を標的とするゲノム編集に用いる物質をコードする遺伝子を組み込む場合には、例えばpGuide-it Vector (Clontech Laboratories)が使用できる。
【0044】
ある態様において、Teneurin-4タンパク質の発現を減少させる物質はリチウム塩であり得る。リチウム塩は例えば、炭酸リチウム、クエン酸リチウムまたはオロチン酸リチウムであり得るが、これらに限定されない。リチウム塩の適用は、精製水や生理的食塩水などの溶媒に溶解した溶液として、前頭前皮質に投与することを含む。
【0045】
別の態様において、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることは、遺伝子ノックアウト技術などの公知の遺伝子改変技術の使用を含む。例えば、前頭前皮質におけるTeneurin-4タンパク質の発現を減少させることは、公知の遺伝子ノックアウト技術によりODZ4遺伝子をノックアウトした動物を作製することを含む。
【0046】
本方法により双極性障害の非ヒトモデル動物が作製されていることは、公知の様々な行動実験によって確認することができる。行動実験は特に限定されないが、例えば、Locomotor activity(行動量測定)、Y-maze test(自発的交替行動)、L/D box test(明暗箱試験)、Elevated plus maze test(高架式十字迷路)、Three chamber social interaction test(社会性試験)、Novel object recognition test(新奇物体認知試験)、Pre pulse inhibition test、Forced swimming test(強制水泳試験)、Tail suspension test(尾懸垂法)、および/またはFear conditioning testであり得る。うつ症状を調べる行動実験としては、例えばThree chamber social interaction test(社会性試験)、Forced swimming test(強制水泳試験)、およびTail suspension test(尾懸垂法)があげられる。躁症状を調べる行動実験としては、例えばLocomotor activity(行動量測定)が挙げられる。ある実施態様において、本願の双極性障害モデル非ヒト動物は、Locomotor activity(行動量測定)、Y-maze test(自発的交替行動)、L/D box test(明暗箱試験)、Elevated plus maze test(高架式十字迷路)、Three chamber social interaction test(社会性試験)、Novel object recognition test(新奇物体認知試験)、Pre pulse inhibition test、Forced swimming test(強制水泳試験)、Tail suspension test(尾懸垂法)、およびFear conditioning testのうち1つ、2つ、3つまたはそれ以上の行動実験において、正常な同種の動物と比較して有意な差を示す。別の実施態様において、本願の双極性障害モデル非ヒト動物は、うつ症状を調べる行動実験のうち少なくとも1つ、および躁症状を調べる行動実験のうち少なくとも1つにおいて、正常な同種の動物と比較して有意な差を示す。
【0047】
3.双極性障害の処置に有効な物質のスクリーニング方法
本願の第3の態様において、本願の双極性障害の非ヒトモデル動物または本願の方法で作製された双極性障害の非ヒトモデル動物を用いることを特徴とする、双極性障害の処置に有効な物質のスクリーニング方法を提供する。
【0048】
ある態様において、本願のスクリーニング方法は以下を含む:
(1)候補物質を本願の双極性障害の非ヒトモデル動物または本願の方法で作製された双極性障害の非ヒトモデル動物に投与する工程、および
(2)双極性障害に対する候補物質の有効性を評価する工程。
【0049】
上記工程(1)において、候補物質を本願の双極性障害の非ヒトモデル動物または本願の方法で作製された双極性障害の非ヒトモデル動物に投与する。
「候補物質」には、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物、無機化合物などの、あらゆる物質が包含される。候補物質は、典型的には精製または単離されているものを使用できるが、未精製または未単離の粗精製品であってもよい。候補物質は、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ランダムペプチドライブラリーなどの形態で提供されてもよく、また天然物として提供されてもよい。
【0050】
候補物質の投与方法は特に限定されない。投与方法として経口投与、経皮投与、粘膜を介した投与、注射または点滴による静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、皮肉、腹腔内などへの投与などが例示される。候補物質の投与は、必要に応じて候補物質を担体と共に適宜製剤化した投与形態により行うことができる。
【0051】
上記工程(2)において、双極性障害に対する候補物質の有効性を評価する。
ある態様において、有効性の評価は、上記の行動実験を含む公知の様々な行動実験によりなされ得る。例えば、候補物質を投与した非ヒトモデル動物において、上記の行動実験の結果のうち少なくとも1つが対照または候補物質を投与する前の非ヒトモデル動物と比較して改善している場合、候補物質を双極性障害の処置に有効な物質として選択できる。対照は、例えば候補物質を投与していない非ヒトモデル動物または不活性物質を投与した非ヒトモデル動物であり得る。
【0052】
本明細書において、「処置」は、疾患の原因を軽減または除去すること、疾患の進行を遅延または停止させること、その症状を軽減、緩和、改善または除去すること、および/またはその症状の悪化を抑制することを意味する。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
参考例1.リチウム曝露によるTeneurin-4発現の低下およびミトコンドリア活性の上昇
Day0に、SH-SY5Y細胞をWestern blotting analysisのために2.0×105cells/well、およびMTT assayのために1.9×104cells/wellで播種した。Day1に、リチウムが1.0mEq/LとなるようにLi2CO3溶液を培地に添加した。Day3および5に1.0mEq/Lのリチウムを含む培地を新たな培地に交換した。Day7に細胞を回収し、Western blotting analysisおよびMTT assayを行った。
【0055】
Western blotting analysisの結果、Teneurin-4タンパク質はリチウム曝露によって発現が有意に低下していることが分かった(
図1AおよびB)。また、MTT assayの結果、ミトコンドリア活性がリチウム曝露によって有意に上昇していることが分かった(
図1C)。
【0056】
参考例2.CRISPR/Cas9システムによるODZ4 DNAへの変異導入
CRISPER direct(https://crispr.dbcls.jp/)を用いてODZ4のDNA配列からPAM配列(NGG)に隣接したターゲット配列特異性の高い20塩基を選択し、gRNA(CCCCAAAGAACCGGTTACCG、配列番号2)を設計した。gRNAをpGuide-it Vector (Clontech Laboratories) に組み込み、gRNA-Cas9-GFPベクターを作製した。標的とするヒトODZ4遺伝子のgRNA近傍配列、作成したgRNAおよびpGuide-it Vectorのベクターマップを
図2Aに示す。
【0057】
Nucleofector (Lonza) を用いたエレクトロポレーション法により、SH-SY5Y細胞にgRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入した。遺伝子導入の7日後に、遺伝子変異をsequencing analysisおよびCleavage detection assayにより検出した。
【0058】
Cleavage detection assayの結果を
図2Bに示す。TemplateはGeneArt Genomic Cleavage Detection Kitの付属品であり、500bpのDNAフラグメントである。ControlはgRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入していない細胞である。gRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入したSH-SY5Y細胞のみが約300bpと約200bpのサイズの2つのDNAフラグメントを示した。
【0059】
sequencing analysisの結果、CRISPR/Cas9システムによるODZ4 DNAへの単一塩基の挿入が確認された(
図2C)。
【0060】
参考例3.Teneurin-4発現低下SH-SY5Y細胞におけるミトコンドリア活性評価
Day0において、SH-SY5Y細胞にgRNA-Cas9-GFPベクターをエレクトロポレーション法にて遺伝子導入し、Western blotting analysisのために2.0×105cells/well、およびMTT assayのために8.0×104cells/wellで播種した。Day1(エレクトロポレーションの24時間後)に培地を新たな培地に交換した。Day3に細胞を回収し、Western blotting analysisおよびMTT assayを行った。
【0061】
Western blotting analysisの結果、Teneurin-4タンパク質はgRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入したSH-SY5Y細胞において発現が有意に低下していることが分かった(
図3AおよびB)。また、MTT assayの結果、ミトコンドリア活性がgRNA-Cas9-GFPベクターを遺伝子導入したSH-SY5Y細胞において有意に上昇していることが分かった(
図3C)。
【0062】
実施例1.Teneurin-4の各脳部位の発現
マウス脳を分割し、lysis buffer (150 mM NaCl、0.5 mM EDTA、1% triton X-100、0.5% sodium deoxy cholate、0.001% PMSF (phenylmethylsulfonyl fluoride)、protease inhibitor cocktail (Nacalai tesque, Kyoto, Japan)、phosphatase inhibitor cocktail (Nacalai tesque, Kyoto, Japan) を含む10 mM Tris-HCl (pH7.5)) に溶解し、超音波破砕機 (XL-2000 sonicator (Misonix, Farmingdale, NY)) で懸濁した後、12,000gで遠心後の上清を組織抽出液とした。サンプルはbicinchoninic acid (BCA) 法によってタンパク質濃度の定量後、4℃で保存した。調製したサンプルに、sodium dodecyl sulfate (SDS) 処理用緩衝液 (2% SDS、30% 2-mersaptoethanol、20% glycerol、0.01% bromophenol blueを含む250 mM Tris-HCl (pH6.8)) を容量比4:1で加えて4℃で一晩インキュベートした後、使用するまで-30℃で保存した。
【0063】
次いで10% ポリアクリルアミドゲルを用いて室温で電気泳動した。泳動終了後、あらかじめ100% methanolに浸したpolyvinylidene fluoride (PVDF) 膜 (Merck Millipore, Darmstadt, Germany) に100Vで1時間ブロッティングした。ブロッティング終了後、5% スキムミルク(137 mM NaClおよび0.05% Tween20を含む20 mM Tris-HCl緩衝液 (TBS-T) (pH7.5) に溶解) 中で1時間ブロッキングし、TBS-Tで洗浄後1%スキムミルクを加えたTBS-Tに溶解させた一次抗体 (anti Teneurin-4 from sheep (1μg/ml, R&D systems, Minneapolis, MN) , anti βtubulin from mouse (1 μg/ml MBL, Naka, Japan)) を反応させ、4℃で一晩反応させた。反応終了後TBS-Tで10分間ずつ3回洗浄した後、1%スキムミルクを加えたTBS-Tに溶解させた二次抗体 (anti sheep IgG HRP (1μg/ml R&D systems), anti mouse IgG HRP (0.5 μg/ml GE Healthcare)) との反応を常温で1時間行い、TBS-Tで洗浄後SolutionA Luminol Enhancer Solution (GE Healthcare) とSolutionB Peroxide Solution (GE Healthcare) を1:1で混合したものをメンブレンと反応させImageQuant LAS4000mini (GE Healthcare)を用いて発光を観察した。その結果、Teneurin-4は各脳部位で普遍的に発現していることが分かった(
図4AおよびB)。
【0064】
実施例2.マウス前頭前皮質へのAAVの注入
7週齡の雄性のC57BL/6(SLC Hamamatsu Japan)に3種混合麻酔 (ドミトール 0.75 mg/kg, ミダゾラム 4 mg/kg,ベトルファール 5 mg/kg, i.p.) を用いて麻酔し、脳定位固定器に固定した後、前頭前皮質(PFC)(AP: +1.8 mm, ML: ±0.3 mm, DV: 1.5 mm, Franklin & Paxinos, The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates 3rd Edition)にTeneurin-4 の発現を低下させるためのCas9ウイルス(0.5μl)またはコントロールウイルス(0.5 μl)のインジェクションを行った(
図5A)。4週間後に感染による発現低下を確認するためそれぞれのマウスから前頭前皮質(PFC)を断頭の上摘出しWestern blottingによりTeneurin-4の発現を確認した。注入部位においてTeneurin-4の発現が有意に減少していることが確認できた(
図5BおよびC)。
【0065】
実施例3.Teneurin-4発現減少マウスにおける各種行動実験
Teneurin-4の発現を減少させるためのCas9ウイルスを注入したマウス(miTenm4)およびコントロールウイルスを注入したマウス(mock)に対して各種行動実験を行った。各種行動実験のスケジュールを
図6に示す。得られた結果を平均値±標準誤差で表す。統計解析は、対応のないStudentのt検定および一元配置分散分析(One-way ANOVA)において有意差が認められた場合にのみ、多重比較検定のBonferroni testを用いて検定した。p < 0.05を有意差有りとした。一元配置分散分析は、Prism version 5 (GraphPad Software, LaJolla, CA) を用いて行った。
【0066】
(1)Locomotor activity(行動量測定)
行動量の測定を既報に従って行った(Miyamoto et al., Int J. Neuropsychopharmacol 17: 1283-1294. 2014)。1日目および2日目において、アクリル製の四角い箱(40×40×30 cm)の中でマウスを自由に行動させ、Scanet MV-40(Melquest, Toyama, Japan)を用いて5分間隔で計60分間行動量を測定した。1日目の行動量は、マウスが新しい環境に興味を示すことから2日目よりも増加すると考えられている。また、2日目は運動量のみを示すと考えられている。
【0067】
1日目(
図7A)および2日目(
図7B)において、Teneurin-4の発現を減少させるためのCas9ウイルスを注入したマウス(miTenm4)とコントロールウイルスを注入したマウス(mock)との間で自発運動量に有意な変化は観察されなかった(mock: n=14、miTenm4: n=16)(
図7AおよびB)。
【0068】
(2)Y-maze test(自発的交替行動)
自発的交替行動を測定するY-maze testを既報に従って行った(Furukawa-Hibi et al., Neurosci Lett. 526:79-84. 2012)。マウスをY字型迷路アームの1つ(40×10×12 cm)の先端に置いた後、8分間マウスを自由に行動させ、マウスが進入したアームを順番に記録した。各アームへの進入回数(total arm entries)と連続して異なるアームを選択した回数(交替行動回数: number of alternations)を記録した。指標となる交替行動率(alternation behavior (%))を以下の式で算出した:交替行動率 (%) = [交替行動回数/ 進入回数-2]×100。
【0069】
miTenm4マウスとmockマウスとの間で交替行動率(
図8A)および進入回数(
図8B)に有意な変化は確認されなかった(mock: n=14、miTenm4: n=16)。
【0070】
(3)L/D box test(明暗箱試験)
不安様行動を測定するlight/dark box testを既報に従って行った(Fu et al., Sci Rep. 7:13084. 2017)。2つのコンパートメント(15×30×15cm)からなる明暗箱の中でマウスを10 分間自由に行動させ、Scanet MV-40 LD(MELQUEST)を用いて明箱および暗箱に滞在した時間を測定した。
【0071】
miTenm4マウスでは、mockマウスと比較して明箱における滞在時間が有意に減少した(
図9)(mock: n=14、miTenm4: n=16)。
【0072】
(4)Elevated plus maze test(高架式十字迷路)
不安様行動を測定するelevated plus-mazeを既報に従って行った(Fu et al., Sci Rep. 7:13084. 2017)。2つのオープンアーム(25×5×5 cm)、2つのクローズアーム(25×5×27cm)およびプラットホーム(5×5 cm)で構成された高架式十字迷路の装置を用いた。走路面の床からの高さは55cm とした。この装置を用いて、マウスがオープンアームに滞在した時間を10分間観察した。
【0073】
mockマウスと比較して、miTenm4マウスのオープンアームにおける滞在時間(
図10A)およびオープンアームへの進入回数(
図10B)が有意に減少した(mock: n=14、miTenm4: n=16)。
【0074】
(5)Three chamber social interaction test(社会性試験)
社会性行動を測定するthree chambered social interaction testを既報に従って行った(Nadler et al., Genes Brain Behav. 3:303-314. 2004; Nakatani et al., Cell. 137:1235-1246. 2009)。アクリル製の3つのチャンバーに分かれた実験装置(60×40×22 cm)を使用した。1日目に20分間マウスを装置の中で自由に行動させ、ホームケージに戻した(habituation)。2日目に左のチャンバーに物体を入れたワイヤーケージを置き、他のチャンバーには何も置かなかった。中央のチャンバーにマウスを10分間入れ、その後左右のチャンバーへの移動を可能にした。10分間3つのチャンバーを自由に行動させ、ワイヤーケージにアプローチした時間を測定した。
【0075】
miTenm4マウスとmockマウスとを比較すると、物体に対するアプローチ時間の比率には変化がなかった(
図11A)が、アプローチの合計時間はmiTenm4マウスで有意に減少していた(
図11B)(mock: n=14、miTenm4: n=16)。これは、miTenm4マウスの物体に対する興味がmockマウスと比較して低下していることを示している。
【0076】
(6)Novel object recognition test(新奇物体認知試験)
認知能力を測定するnovel object recognition testを、既報に従って行った(Furukawa-Hibi et al., Neurosci Lett. 526:79-84. 2012)。3日間連続して、マウスをアクリル製の四角い箱(30×30×35cm)中で1日30分間探索させた(habituation)。4日目に、箱内に2つの物体を置き、マウスを入れた。各物体にマウスがアプローチした時間と回数を10分間測定した(training)。trainingから24時間後に一方の物体を新奇物体に変えてマウスを箱に入れ、アプローチした時間を10分間測定した(trial)。
【0077】
Novel object recognition testにおいて、miTenm4マウスとmockマウスとの間で有意な変化は観察されなかった(
図12)(mock: n=6、miTenm4: n=8)。
【0078】
(7)Pre pulse inhibition test
聴覚性驚愕反応と感覚運動制御機能を測定するPPI testは、既報を参考にした(Miyamoto et al., Int J. Neuropsychopharmacol. 20:1027-1035. 2017)。音刺激に対する驚愕反応をSR-LAB System(San Diego, CA)を用いて測定した。装置内では背景ノイズ(Back ground; BG)として70dBの音を与えた。70dBのBG下で10分間馴化させた後、驚愕反応試験を行った。驚愕反応試験は、2つ刺激パターンから成り立っており、(i)驚愕反応刺激(70、80、90、100、110、120 dB のパルス刺激、40msec)あるいは(ii)PPI刺激(パルス刺激(120dB, 40msec)の100msec前に、20msecの74、78、82、86 dBプレパルス刺激を5~25秒の間隔でランダムに10回ずつ行った。この時、パルス刺激と同期させて1msec間隔で100msecの驚愕強度を記録した。得られたデータから、以下の式に従いPPIを算出した:PPI (%) = 100 - {[120dBのメインパルス刺激の驚愕強度最大値の平均値-(ii)の驚愕強度最大値の平均値 / 120dBのメインパルス刺激の驚愕強度最大値の平均値]×100。
【0079】
Pre pulse inhibition testにおいて、miTenm4マウスとmockマウスとの間で有意な変化は観察できなかった(
図13)(mock: n=14、miTenm4: n=16)。
【0080】
(8)Forced swimming test(強制水泳試験)
うつ様行動を測定するforced swimming testを既報を参考に行った(Fu et al., Sci Rep. 7:13084. 2017)。マウスを水(水温25℃)の入ったプラスチックの容器(21×21×22.5 cm)の中に6分間入れ、Scanet MV-40 AQを用いて1分間ごとの無動時間を測定した。
【0081】
mockマウスと比較して、miTenm4マウスの無動時間は有意に増加していた(
図14AおよびB)(mock: n=13、miTenm4: n=14)。
【0082】
(9)Tail suspension test(尾懸垂法)
うつ様行動を測定するTail suspension testは、既報を参考に行った(Miyamoto et al., Int J. Neuropsychopharmacol. 20:1027-1035. 2017) 。マウスを尾部から吊るして、無動時間を1分間隔で計10分間測定した。
【0083】
mockマウスと比較して、miTenm4マウスの無動時間は有意に増加していた(
図15AおよびB)(mock: n=13、miTenm4: n=16)。
。
【0084】
(10)Fear conditioning test
文脈記憶を測定するContextual Fear Conditioning testは、既報を参考にした(Miyamoto et al., Int J. Neuropsychopharmacol. 20:1027-1035. 2017)。天井にスピーカーが取り付けられ、床に鉄格子が敷かれたアクリル製の箱(15×15×30cm)の中にマウスを入れ、2分間自由に行動させた。その後に、15秒間のブザー音(約100dB)をスピーカーから流し、最後の5秒間には鉄格子に0.6 mAの電流を流してマウスに電気刺激を与え(conditioning)、これを15秒おきに4回繰り返した。マウスをホームケージに戻して24時間後、マウスを再び箱の中に入れ、4分間自由に行動させ、マウスが動いていない時間(freezing)を測定した。
【0085】
mockマウスと比較して、miTenm4マウスはenvironmentとtoneのどちらにおいても静止時間が有意に増加していた(mock: n=13、miTenm4: n=16)。
【配列表】