(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体及びヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/83 20060101AFI20241127BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20241127BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241127BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C04B41/83 G
H01L23/36 D
C08K3/38
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2024093312
(22)【出願日】2024-06-07
【審査請求日】2024-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515243372
【氏名又は名称】アドバンスコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】服部 淳一
(72)【発明者】
【氏名】林 睦夫
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
(72)【発明者】
【氏名】勝亦 修平
(72)【発明者】
【氏名】落合 翔梧
(72)【発明者】
【氏名】高木 義夫
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139645(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/203031(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/201012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/83
C08L 101/00
H01L 23/36
C08K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に切り出して複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得るために用いるブロック状のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体であって、
少なくとも、ヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子と、気孔形成剤が除去された跡である連続的な気孔と、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれかのバインダーからなる硬化体を含んで形成されてなる多孔質BN成形体の前記気孔に樹脂が含浸した状態で固化されてなり、且つ、前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が介在していることを特徴とするヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体。
【請求項2】
容積が200cm
3以上で、且つ、その一番長い辺を最大長さとし、その一番短い辺の長さを厚みとした場合に、最大長さ/厚みの比mが1≦m≦3である大型で厚みが厚い形状を有してなる請求項1に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体。
【請求項3】
前記多孔質BN成形体の気孔率が20~50%である請求項1又は2に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体。
【請求項4】
前記多孔質BN成形体の前記気孔に樹脂が含浸した状態で固化されてなる複合体のヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子の配向方向に起因する熱伝導率が20W/m・K以上である請求項1又は2に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体。
【請求項5】
板状に切り出して複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得るために用いるブロック状のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法であって、
少なくとも、ヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子と、気孔形成剤と、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれかのバインダーを含んでなる混合物から1次BN成形体を造形するための造形工程と、
前記1次BN成形体中の前記バインダーを硬化させて前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が接着層として介在するようにして強度を高めた2次BN成形体を形成するためのバインダーの硬化工程と、
該バインダーの硬化工程と実施の順番を前後させて行う、或いは、前記バインダーの硬化工程と同時に実施を行って2工程を兼務させて行う、前記1次BN成形体
を造形するための造形工程で含有させた前記気孔形成剤を除去して連続的な気孔を有してなる多孔質BN成形体を形成するための多孔質化工程と、
前記硬化及び前記多孔質化
をすることで得られた前記多孔質BN成形体に樹脂を含浸させて複合化を行うための複合化工程を有することを特徴とするヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
前記造形工程で、前記混合物からプレス成形又は沈降法で1次BN成形体を造形する請求項5に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
前記硬化及び前記多孔質化
をすることで、気孔率が20~50%である多孔質BN成形体を形成する請求項5又は6に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【請求項8】
前記気孔形成剤が粒径5~200μmの固体からなり、且つ、前記2次BN成形体を形成するためのバインダーの硬化工程と、
前記気孔形成剤を除去するための前記多孔質化工程とを
、加熱することで同時に行
って上記2工程を兼務させる請求項5又は6に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【請求項9】
前記複合化工程で、前記多孔質BN成形体に樹脂を含浸させる際に、真空吸引含浸法又は加圧含浸法、もしくは、真空吸引含浸法及び加圧含浸法を組合せる方法のいずれかを使用して樹脂を含浸させる請求項5又は6に記載のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体及びヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法に関する。詳しくは、優れた機能性を有するヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子(以下、BN粒子と記載する)が樹脂中に良好に分散されてなる安定して高熱伝導性・高絶縁性を示す樹脂複合体を簡便に提供する技術に関し、特に、安定して高熱伝導性・高絶縁性を示す、大型のブロック状のBN粒子分散樹脂複合体の提供を可能にし、該ブロックから、薄板状の高熱伝導性・高絶縁性の伝熱シートを直接切り出すことで、薄板状の伝熱シートの生産性を著しく高めることができる、大型のブロック状のBN粒子分散樹脂複合体から複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得ることを実現した有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子制御ユニットにおいて、半導体(IC)が発生する熱を放熱ヒートシンクに拡散伝熱するヒートスプレッダーや伝熱シートなどに使われる高熱伝導性板体としては、セラミックスが電気絶縁性と熱伝導性の両面から好ましく用いられている。しかし、セラミックスは剛直であり、表面も固くて被接触面との密着性に劣るため、放熱構造全体としての熱伝導率改善が求められており、下記に挙げるような提案がされている。例えば、特許文献1には、伝熱部材が、特定の粒径及びアスペクト比を有するセラミックス一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体に樹脂組成物が含浸しているセラミックス樹脂複合体が提案されており、これを用いた電気回路装置の放熱構造が開示されている。また、用いるセラミックスとして、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が挙げられている。特許文献1で提供する伝熱部材は、その目的から、厚さが0.05mm以上1.0mm以下の薄い平板状、特に熱抵抗を少なくしたい場合は0.1~0.35mmの薄シート状とするとしたものである。
【0003】
また、特許文献2には、高熱伝導率、高絶縁性等、電気絶縁材料として優れた性質を有している六方晶窒化ホウ素(hexagonal Boron Nitrid)が注目されていること、結晶構造と鱗片形状に由来する熱伝導率の異方性が大きいことが開示されている。そして、窒化ホウ素焼結体内部の空隙に樹脂を含浸し、板状に切り出して放熱部材を製造することで配向を任意の方向に制御することが可能となり、熱伝導率に優れた任意の厚みの放熱部材を作製することが容易となることが開示されている。また、窒化ホウ素粒子が3次元に結合した気孔率が10~70%の窒化ホウ素焼結体と樹脂からなり、貫通穴を有し、貫通穴の部位が接着性を有する樹脂で充填された樹脂含浸窒化ホウ素焼結体が提案されている。引用文献2では、一辺の長さが約50mmの立方体の樹脂含浸窒化ホウ素焼結体を得たとしており、板状の樹脂含浸窒化ホウ素焼結体の厚さは、好ましくは、0.15~1.50mmであるとしている。
【0004】
特許文献3では、一実施形態の複合体として、200~1000μm程度の目開きのメッシュ状窒化ホウ素シートを焼成した窒化ホウ素焼結体と、該窒化ホウ素焼結体の気孔を充填する樹脂とを含む薄型かつ軽量の複合体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7282950号公報
【文献】特許第6262522号公報
【文献】特許第7322323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来技術ではいずれも、窒化ホウ素焼結体等のセラミックス内部に、その材料特有の構造に起因して形成される空隙に樹脂を含浸させてセラミックスと樹脂との複合体としている。すなわち、下記に示すように、いずれの従来技術も、薄板状もしくは小さな形状(厚さの薄い)のBN等のセラミックス焼結体の微細な空隙に樹脂を含浸させて、薄板状もしくは小さなセラミックス樹脂複合体を形成したものであるが、本発明者らの検討によれば、この点に起因して下記に挙げるような課題がある。
【0007】
具体的には、上記した従来技術はいずれも1500℃以上の高温で焼結させたセラミックス焼結体に樹脂組成物を含浸させてなるセラミックス樹脂複合体であり、下記に挙げるような技術課題があった。まず、特許文献1の技術は、「窒化ホウ素粉末を3次元的に焼結させた窒化ホウ素焼結体に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させた窒化ホウ素焼結体の樹脂複合体」に関し、樹脂を含浸させるための窒化ホウ素焼結体は、下記のような煩雑な手順で、高い温度や高い圧力を利用して調製された簡便な方法とは言い難いものであり、生産性に劣るという課題がある。具体的には、窒化ホウ素を含む混合粉末を金型に充填してプレス成形した成形体を、さらにCIP(冷間等方圧加圧法)装置により75MPaで加圧処理を行った後、バッチ式高周波炉にて2000℃で10時間、窒素流量10L/minの条件で焼結させている。
【0008】
さらに、特許文献1の技術では、その実施例にあるように、上記のようにして得た窒化ホウ素焼結体から0.32mmの厚みのシートを切り出し、切り出した厚みの薄い焼結体シートに対して下記のようにしてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、含浸後に樹脂を熱硬化させて複合体としている。具体的には、真空加温含浸装置を用いて、温度145℃、圧力15Paの真空中で、各々10分間脱気した後、引き続き同装置内で前記の加温真空下で熱硬化性樹脂組成物中に浸漬処理して、次いで、熱硬化性樹脂組成物を含浸させたた厚みの薄い窒化ホウ素焼結体を、さらに、加圧加温含浸装置内に設置し、温度145℃、圧力3.5MPaの加圧状態で120分間保持し、その後、大気圧下、160℃で、120分間の条件で加熱し、熱硬化性樹脂組成物を半硬化させたシート状のセラミックス樹脂複合体を得ている。上記した特許文献1に記載の技術のように、窒化ホウ素焼結体からなる厚みの薄いシートを得、該焼結体に樹脂を含浸して1個1個を製造することは、工数が非常に多くかかり煩雑であり、著しく生産性に劣るという実用上の大きな課題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載されているように、ブロック状のセラミックス樹脂複合体を作製して、その後に薄板状の伝熱シートを切り出すようにすれば、特許文献1に記載されている、窒化ホウ素焼結体から切り出した薄いシートに樹脂を含浸させて1個1個を製造するよりも生産性が向上することが期待できる。しかしながら、特許文献2に記載の技術でも、樹脂を含浸させる前の窒化ホウ素焼結体は、「1600℃以上で1時間以上焼結させて製造することが好ましい。焼結を行わないと、気孔径が小さく、樹脂の含浸が困難となる。」とし、焼結温度の上限は2200℃程度が実際的であるとされており、プレス成形したブロック成形体をバッチ式高周波炉にて窒素流量10L/minで焼結させることで窒化ホウ素焼結体を得ており、特許文献1の場合と同様に、煩雑な手順で、高い温度や高い圧力を利用しており、この点で生産性に劣るという課題がある。
【0010】
また、先に挙げた特許文献3に記載の技術では、メッシュ状の塗工体を、1600℃以上又は1700℃以上、2200℃以下又は2100℃以下で焼結して窒化ホウ素焼結体を得ており、上記した特許文献1や2と同様の技術課題がある。上記構成の特許文献3の技術では、窒化ホウ素焼結体の気孔中に樹脂を充填させた複合体は薄いため、気孔中に樹脂を十分に充填させることができるとしており、特許文献3の技術も焼結体に樹脂を含浸して1個1個を製造する技術である。従って、特許文献3の技術においても、特許文献1と同様に、工数が非常に多くかかり煩雑であり、著しく生産性に劣るという実用上の大きな課題がある。
【0011】
さらに、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載されている、焼結体に樹脂を含浸させたブロック状のセラミックス樹脂複合体から薄板状の伝熱シートを切り出す構成とした場合は、下記の課題が生じる。すなわち、薄板状の伝熱シートの生産性を向上させる目的で、シートを切り出すためのセラミックス樹脂複合体を大型にした場合、窒化ホウ素焼結体の構造に起因する空隙(気孔)に樹脂を含浸させる従来技術では、高温で焼結させたとしてもブロック状の窒化ホウ素焼結体の内部まで十分に樹脂を含浸させることが難しく、あまり大型にすることはできないという技術課題がある。特にブロック状の窒化ホウ素焼結体の厚みを厚くすると、この傾向が高くなる。
【0012】
本発明者らの検討によれば、窒化ホウ素焼結体の空隙(気孔)内にマトリクスの樹脂が含浸せず空洞のままであると、得られる樹脂複合体の熱伝導率は大きく低下する。これは空洞内の空気もしくは真空状態は高断熱層であることに起因すると考えられ、窒化ホウ素焼結体の空隙(気孔)内に樹脂が含浸するか否かで樹脂複合体の熱伝導性は大きくが変わる。ここで、本発明で利用を考えているヘキサゴナル窒化ホウ素粒子(BN粒子)は鱗片状であるため、プレス成形や沈降させてブロック状の成形体を得る際に、プレス方向や沈降方向に鱗片状粒子の短手(厚さ)面が積層し、プレス方向や沈降方向に垂直の方向には鱗片状粒子の長手面が配向する。このため、例えば、ブロック状の成形体を作製する際のプレス成形のプレス方向を、薄板状のシートを切り出しが行われる樹脂複合体の厚み方向にすると、切り出した薄板状のシートの長手面方向の熱伝導が非常に高くなる。しかし、先に述べたように、従来技術では、ブロック状の窒化ホウ素焼結体の厚みを厚くすると、焼結体の内部まで十分に樹脂を含浸させることが困難になるという大きな問題がある。
【0013】
上記した理由に起因すると考えられるが、従来技術で行われていることは、ブロック状の窒化ホウ素焼結体から薄板状のシートを切り出した後に切り出したシートに樹脂を含浸させるか、窒化ホウ素焼結体と樹脂との複合体からシートを切り出すとしても、小さいブロック状の複合体から薄板状の伝熱シートを切り出している。小さいセラミックス樹脂複合体から薄板状の伝熱シートに切り出す場合は、1つのセラミックス樹脂複合体から切り出すことができる伝熱シートの数量は少なく、薄板状の伝熱シートの生産性を向上させる方法としては効果的な方法とは言い難いという、実用上の課題がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、板状に切り出してより多くの数の薄板状のシートを作製することができ、しかも切り出した薄板状のシートのいずれもが高熱伝導・高絶縁性である性能に優れる伝熱シートになる、薄板状の伝熱シートの生産性を著しく高めることが可能な、大きくて厚みの厚い大型のブロック形状でありながら内部まで樹脂が十分に含浸してなる高熱伝導性を示すBN粒子樹脂複合体を簡便に得ることができる新たな技術を開発することにある。本明細書における「厚み」との表現は、大型のブロック形状である成形体や複合体における一番短い辺の長さを意味するものとして使用しており、また、その一番長い辺を「最大長さ」と呼んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的は下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記のヘキサゴナル窒化ホウ素(BN)粒子分散樹脂複合体を提供する。
[1]板状に切り出して複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得るために用いるブロック状のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体であって、
少なくとも、ヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子と、気孔形成剤が除去された跡である連続的な気孔と、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれかのバインダーからなる硬化体を含んで形成されてなる多孔質BN成形体の前記気孔に樹脂が含浸した状態で固化されてなり、且つ、前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が介在していることを特徴とするヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体。
【0016】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[2]容積が200cm3以上で、且つ、その一番長い辺を最大長さとし、その一番短い辺の長さを厚みとした場合に、最大長さ/厚みの比mが1≦m≦3である大型で厚みが厚い形状を有してなる上記[1]に記載のBN粒子分散樹脂複合体。
[3]前記多孔質BN成形体の気孔率が20~50%である上記[1]又は[2]に記載のBN粒子分散樹脂複合体。
[4]前記多孔質BN成形体の前記気孔に樹脂が含浸した状態で固化されてなる複合体のヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子の配向方向に起因する熱伝導率が20W/m・K以上である上記[1]~[3]のいずれか1に記載のBN粒子分散樹脂複合体。
【0017】
本発明は別の実施形態として下記のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法を提供する。
[5]板状に切り出して複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得るために用いるブロック状のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法であって、
少なくとも、ヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子と、気孔形成剤と、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれかのバインダーを含んでなる混合物から1次BN成形体を造形するための造形工程と、
前記1次BN成形体中の前記バインダーを硬化させて前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が接着層として介在するようにして強度を高めた2次BN成形体を形成するためのバインダーの硬化工程と、
前記1次BN成形体中の気孔形成剤を除去して連続的な気孔を有してなる多孔質BN成形体を形成するための多孔質化工程と、
該多孔質化工程で得られた前記多孔質BN成形体に樹脂を含浸させて複合化を行うための複合化工程を有することを特徴とするヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【0018】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[6]前記造形工程で、前記混合物からプレス成形又は沈降法で1次BN成形体を造形する上記[5]に記載のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法。
[7]前記多孔質化工程で、気孔率が20~50%である多孔質BN成形体を形成する上記[5]又は[6]に記載のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法。
[8]前記気孔形成剤が粒径5~200μmの固体からなり、且つ、前記2次BN成形体を形成するためのバインダーの硬化工程と、気孔形成剤を除去するための前記多孔質化工程とを加熱することで同時に行う上記[5]~[7]のいずれか1に記載のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法。
[9]前記複合化工程で、前記多孔質BN成形体に樹脂を含浸させる際に、真空吸引含浸法又は加圧含浸法、もしくは、真空吸引含浸法及び加圧含浸法を組合せる方法のいずれかを使用して樹脂を含浸させる上記[5]~[8]のいずれか1に記載のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複合体の内部に樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥がない、均一性の高い、高熱伝導で高絶縁性の、大きくて厚みが厚い大型のブロック形状でありながら内部まで樹脂が十分に含浸してなるBN粒子分散樹脂複合体を簡便に提供することが実現可能になる。そして、この大型のブロック形状のBN粒子分散樹脂複合体からは、非常に多くの薄板状の伝熱シートを切り出すことができ、しかも、切り出したそれぞれの伝熱シートは、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性のものになる。本発明によれば、このように優れた特性の薄板状の伝熱シートの生産性を著しく高めることができる。さらに、本発明によれば、高熱伝導性・高絶縁性を示す高機能の、大きくて厚みが厚い大型のブロック形状のBN粒子分散樹脂複合体から、切削加工をすることで、例えば、ヒートスプレッダーと一体化したヒートシンクなどの大型の放熱部品を製造することが可能になるので、その実用価値は極めて高い。本発明によれば、複合体を構成するヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子の配向方向に起因する熱伝導率が20W/m・K以上であり、しかも、大型であっても複合体の熱伝導率にばらつきが少ない高熱伝導性の大型のブロック形状のBN粒子分散樹脂複合体を得ることができる。その結果、本発明によれば、この大型のブロック形状のBN粒子分散樹脂複合体を薄板に切り出すことで、ばらつきの少ない、ほぼ同様の高熱伝導度を示す複数の薄板状の伝熱シートを安定して得ることが実現可能になる。本発明では、複合体の熱伝導率を、キセノンフラッシュアナライザーを用いて、JIS R1611に準じたキセノンフラッシュ法で測定した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明のヘキサゴナル窒化ホウ素(BN)粒子分散樹脂複合体は、少なくとも、BN粒子と、気孔形成剤が除去された跡である連続的な気孔と、無機系バインダー又は有機系バインダーのいずれかのバインダーからなる硬化体とを含んで形成されてなる多孔質BN成形体の前記連続的な気孔に樹脂が含浸した状態で固化されて複合化されてなり、且つ、前記BN粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が介在していることを特徴とする。上記した本発明のBN粒子分散樹脂複合体は、下記の本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法によって簡便に製造することができる。本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法は、板状に切り出して複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得るために用いるブロック状のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体の製造方法であって、少なくとも、ヘキサゴナル窒化ホウ素(BN)粒子と、気孔形成剤と、無機系バインダー又は有機系バインダーのいずれかのバインダーを含んでなる混合物から1次BN成形体を造形するための造形工程と、前記1次BN成形体中の前記バインダーを硬化させて前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が接着層として介在するようにして強度を高めた2次BN成形体を形成するためのバインダーの硬化工程と、前記1次BN成形体中の気孔形成剤を除去して連続的な気孔を有してなる多孔質BN成形体を形成するための多孔質化工程と、該多孔質化工程で得られた前記多孔質BN成形体に樹脂を含浸させて複合化を行うための複合化工程を有することを特徴とする。
【0021】
上記した本発明の製造方法によれば、例えば、容積が200cm3以上で、且つ、その一番長い辺を最大長さとし、その一番短い辺の長さを厚みとした場合に、最大長さ/厚みの比mが1≦m≦3の範囲内である、大きくて厚みが厚い大型のブロック形状を有してなる高熱伝導・高絶縁性を安定して示すBN粒子分散樹脂複合体を簡便に製造することができる。本発明者らの検討によれば、本発明が目的としている板状に切り出してより多くの数の薄板状の伝熱シートを作製することを実現することができる、大型のブロック形状でありながら内部まで樹脂が十分に含浸してなる高熱伝導性を示すBN粒子樹脂複合体としては、その容積が800cm3以上、より好ましくは1000cm3以上になるように構成するとよい。具体的には、例えば、下記のような寸法の大型で厚みが厚い形状を有してなる複合体とすることが好ましい。
【0022】
例えば、最大長さ/厚みの比mが1になる立方体形状のものとしては、一辺が93mm~150mmの立方体(容積が804cm3~3375cm3)形状のBN粒子分散樹脂複合体が挙げられる。また、直方体のブロック状の複合体としては様々な形状のものが考えられ、一例として、先に挙げた要件を満たすBN粒子分散樹脂複合体としては下記のような形状にすることが挙げられる。例えば、厚みが50mm、最大長さ/厚みの比mが3になるようにすると最大長さは150mmであり、複合体の容積を約800cm3とするためには、15cm×10.7cm×5cm=802.5の直方体となるようにすることが挙げられる。また、最大長さ/厚みの比mを2.5、厚みを7cmとすると、17.5cm×8.2cm×7cm=1004.5cm3の直方体形状の複合体になり、上記の比mを3、厚みを8cmとすると、24cm×8.3cm×8cm=1594cm3の容積が約1600cm3の直方体になる。本発明者らの検討によれば、上記したような厚みの厚いブロック状の立方体や直方体のBN粒子分散樹脂複合体とすることで、板状に切り出してより多くの数の薄板状のシートを作製することが可能になる。本発明によれば、上記に挙げたような立方体や直方体に限らず、使用目的に応じてその他の形状のブロック状の良好な特性を有する複合体を得ることができる。そして、上記した大型のブロック形状のBN粒子分散樹脂複合体から切り出すことで、本発明が最終的な目的としている薄板状の伝熱シートを、非常に多くの数で、且つ、いずれもが高熱伝導・高絶縁性を示す機能性に優れる製品として安定して効率よく調製することが可能になる。
【0023】
本発明では先に述べた従来技術における課題を解決するため、上記した本発明の構成を採用している。すなわち、本発明者らは、先に述べた1600℃から2000℃以上に及ぶ高温で焼結することで小さい気孔径を大きくして樹脂の含浸を向上させた窒化ホウ素焼結体を用いる従来技術によっても、ブロック状の焼結体が大きい場合には内部の空隙(気孔)にまで十分に樹脂を含浸させることが難しいことを見出して、この点を改善すべく鋭意検討を行った。上記した気孔径を大きくした窒化ホウ素焼結体を得るためには、煩雑で厳しい条件の処理が必要であり、この点についても改善する必要があるとの認識をもった。
【0024】
本発明者らは、まず、大きくて厚みの厚い大型のブロック状のBN粒子分散樹脂複合体を得るには、樹脂を安定して内部にまで良好な状態に含浸させることができる大型の多孔質BN成形体を成形する必要があることを見出した。これに対し、本発明者らの検討によれば、多孔質BN成形体が大きくて厚みが厚くなると重量も重くなるため、搬送時や、樹脂を含浸するために行う金型への設置の際に、自重で破損したり、樹脂を含浸する際における含浸圧力によって多孔質BN成形体が変形・破損を生じたりすることが起こる。本発明の製造方法の特徴の一つは、上記した課題を解決するための手段として、1次BN成形体を造形するための造形工程で造形原料に無機系のバインダーもしくは有機系の少なくともいずれかのバインダーを用いたこと、さらに、1次BN成形体中に添加された上記のバインダーを硬化させることで、強度を高めた2次BN成形体を形成するバインダーの硬化工程を設けたことにある。上記した構成を有する本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法によれば、1次BN成形体の原料に用いたバインダーを硬化させることで、樹脂を含浸させる前の中間体として有用な、前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が接着層として介在した状態の強度を高めた2次BN成形体を簡便に得ることができる。
【0025】
ここで樹脂を含浸させる際に、先述した従来技術で調製した1600℃から2000℃以上に及ぶ高温でBN成形体を焼結することで小さい気孔径を大きくしてなるBN焼結体を使用した場合は、BN焼結体の内部中央までに樹脂を十分に安定して含浸させることが難しく、樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が発生するという課題があった。本発明の製造方法の特徴は、先に挙げたBN成形体の強度を高めるための構成に加えて、この点を解決するために、従来技術とは全く異なる手段として、気孔形成剤を効果的に利用して樹脂を良好な状態に安定して含浸させることができる中間体である多孔質BN成形体を形成したことにある。具体的には、本発明の製造方法では、1次BN成形体を造形(成形)する造形工程で用いる混合物中に、加熱により蒸発・気化させることができる、或いは、溶媒に溶解させて溶出除去することができる気孔形成剤を添加しておき、1次BN成形体の成形後に加熱して気孔形成剤を蒸発・気化させて除去する、或いは、気孔形成剤を溶媒に溶解・溶出させて除去することで、多孔質BN成形体を形成する多孔質化工程を設けたことを特徴とする。気孔形成剤を除去する手段として加熱により蒸発・気化させる方法を用いた場合には、先に説明した1次BN成形体の原料に用いたバインダーを硬化させることで強度を高めた2次BN成形体を形成するバインダーの硬化工程を同時に実施することができる場合がある。このように構成すれば、製造工程をより短縮できる。
【0026】
上記した本発明の製造方法を特徴づける多孔質BN成形体を形成するための多孔質化工程では、BN成形体中の気孔形成剤を、熱で蒸発・気化させたり、溶媒に溶解させて溶出させたりして除去する。そして、気孔形成剤の除去後の跡として気孔が形成され、該気孔は連続的なものになる。このため樹脂を含浸させる際に本発明の製造方法で得た多孔質BN成形体を適用すると、この連続的な気孔が大型のブロック状の多孔質BN成形体の内部中央までの樹脂の良好な含浸経路となる。その結果、本発明の製造方法で得られたBN粒子分散樹脂複合体では、従来技術における複合体の内部にみられた樹脂の未含浸や不均質含浸が生じるという技術課題が解決される。すなわち、本発明によれば、従来技術において生じていた、窒化ホウ素焼結体の空隙(気孔)内にマトリクスの樹脂が十分に含浸せず空洞のままの状態の部分があることで生じていた、得られる樹脂複合体の熱伝導率が大きく低下するという課題が解決できる。
【0027】
さらに、本発明の製造方法を特徴づける構成の多孔質化工程で形成される、気孔形成剤が除去された跡である連続的な気孔によって、多孔質BN成形体に樹脂が含浸しやすくなることで樹脂の含浸圧力(抵抗)も低くなり、多孔質BN成形体の変形・破損させる応力が小さくなる。このため、多孔質BN成形体に樹脂を含浸させた後のBN粒子分散樹脂複合体に生じることがあった変形や破損が生じるという課題を解決できる。また、本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法では、下記のようにして各工程の実施をすることができるので、優れたBN粒子分散樹脂複合体の製造をより効率よく行うことも可能である。具体的には、1次BN成形体を造形するための造形工程で造形された1次BN成形体中の無機系バインダー又は有機系バインダーを硬化させて強度の高い2次BN成形体を形成するためのバインダーの硬化工程と、1次BN成形体中の気孔形成剤をBN成形体外へ除去した跡の連続した気孔を有する多孔質BN成形体を得るための多孔質化工程とを、実施の順番を前後させたり、同時に上記2工程を兼務させたりすることができる。
【0028】
先に挙げた従来技術の特許文献2では、窒化ホウ素焼結体もしくは樹脂含浸窒化ホウ素焼結体に貫通穴を形成する工程が記載されている。しかし、この貫通穴の形成工程は、「貫通穴を設け、そこへ接着性を有する樹脂を充填することにより接着性を確保し且つ、ヒーターから発生した熱を効率よくヒートシンク等へ放熱することが出来る」、さらに、「ソリッドドリル(菱高精機社製)等により」「貫通穴径が0.03mm~2.0mm」とした記載がされていることからも明らかなように、樹脂の含浸性をよくする目的で設けられたものではない。さらに、本発明者らの検討によれば、ドリル加工で成形した穴の形態は直線状で穴径も大きくなるため、薄板状に切り出して薄肉伝熱シートにした場合に、貫通穴近傍部と貫通穴から離れた部位とでは、高熱伝導のBN粒子と低熱伝導の樹脂とのVF%(容積比)が違うため、熱伝導率が大きく違って不均一性を生じ、伝熱シートとしての特性が非常に低下することにもなる。これに対して本発明の製造方法で、例えば、粒径が5~200μmである固体の気孔形成剤を用いた場合は、無機系の気孔形成剤であっても有機系の気孔形成剤であっても、多孔質BN成形体に形成される気孔は、特許文献2に開示されている貫通穴の2mm以下に比べて、径が小さく、且つ、非直線形状の連続的な気孔が形成される。本発明者らの検討によれば、上記した気孔の特性から、本発明のBN粒子分散樹脂複合体は、薄板状に小さく切り出して伝熱シートにした場合でも、熱伝導の均一性が非常に高く、伝熱シートとしての特性を安定に発揮することができるものになる。
【0029】
また、先に挙げた従来技術である特許文献3には、「窒化ホウ素焼結体と、前記窒化ホウ素焼結体の気孔を充填する樹脂」との記載があるが、これは窒化ホウ素成形体を粉末プレスやドクターブレード法で成形する際にできる窒化ホウ素粒子同士の積層隙間に自然にできる微細な気孔(平均細孔径は4.0μm未満との記載あり)であり、本発明を特徴づける気孔形成剤を除去した跡として形成される気孔と比べて非常に小さいものになる。このため、特許文献3に記載の技術で、例え、大きくて厚みの厚い大型のブロック状の多孔質のBN成形体を作製したとしても、窒化ホウ素粒子同士の積層隙間に自然にできる微細な気孔では、成形体の内部中央まで樹脂を十分に欠陥なく含浸させることはできない。
【0030】
いずれにしても、先に挙げた特許文献1~3に示された従来技術は、本発明を特徴づける気孔形成剤を除去した跡として形成される連続的な気孔を利用する技術的思想を何ら開示するものではない。上記した基本構成の違いから、本発明のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体と、従来技術によって形成された複合体とは、顕微鏡で観察した場合に下記の大きな相違点がある。先に説明したように、従来技術では樹脂を含浸させる材料としていずれもBN等のセラミックス焼結体を用いており、該材料は、焼結の際に原料粒子を融点以下の高温(少なくとも1500℃以上)にされたものであることから、原料粒子同士が直接反応して結合(融合)した状態になる。一方、本発明のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体は、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれかのバインダーを低温で硬化させて原料粒子同士を接着させてなることから、粒子間にはバインダーからなる硬化体が介在した状態になっており、該硬化体が原料粒子同士の接着層(バインダー層)として存在した状態になっている。このように、本発明のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体は、前記した樹脂が含浸する気孔の形態が全く異なることに加えて、原料粒子同士の接着層(バインダー層)が存在する点でも従来技術における複合体とは異なっており、両者における樹脂含浸複合体は、互いに形態状の特徴が異なるものになっている。
【0031】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体では、樹脂を含浸させる多孔質BN成形体の構成を、従来技術で樹脂の含浸に利用している窒化ホウ素の3次元構造に起因する空隙や、窒化ホウ素成形体を成形する際にできる窒化ホウ素粒子同士の積層隙間に自然にできる微細な気孔に加えて、1次BN成形体の造形の際に用いた気孔形成剤によって意図的(強制的)に形成した連続的な気孔を有するものとした点を特徴とする。本発明のBN粒子分散樹脂複合体は、上記した構成の多孔質BN成形体を用いることで、樹脂を含浸させる複合化工程での充填性を格段に向上させることを実現しており、大きくて厚みが厚い大型のブロック状の複合体とした場合であっても内部まで良好な状態で樹脂が含浸した複合体になる。この結果、従来技術におけるBN粒子分散樹脂複合体における樹脂の未含浸や不均質含浸の問題が解決される。このため、大きくて、厚みが厚い本発明の大型のブロック状のBN粒子分散樹脂複合体を、板状に切り出して薄板状の伝熱シートとした場合に、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた薄板状の伝熱シートを数多く作製することができる。具体的には、例えば、本発明の大型のブロック状のBN粒子分散樹脂複合体から切り出して、数千枚の均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性の伝熱シートの提供が可能になる。
【0032】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体を構成するヘキサゴナル窒化ホウ素(h-BN)粒子としては、先に挙げた従来技術で用いられている窒化ホウ素粒子を用いることができる。ヘキサゴナル窒化ホウ素は、ホウ素(B)と窒素(N)からなる化合物で、黒鉛に似た燐片状結晶構造で「白い黒鉛」とも呼ばれている。金属に濡れにくく、高熱伝導率、低熱膨張率、電気絶縁性など特色にあふれることから、主に半導体・電子部品のプローブカードなどに使用されている。BN粒子は、市場から適宜な粒径のものを容易に入手することができる。本発明を構成するBN粒子は、その用途にもよるが、例えば、平均粒径が5μm~30μm程度の、純度の高い窒化ホウ素粉末を用いることが好ましい。上記平均粒径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、累積粒度分布の累積値50%の粒径である。
【0033】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法の、1次BN成形体を造形するための造形工程で原材料である混合物中に少なくともいずれかを含有して用いられる無機系バインダー又は有機系バインダーとしては、下記に挙げるようなものが使用できる。無機系バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、エチルシリケート及びケイ酸ナトリウム(水ガラス)などが挙げられる。また、有機系バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂及びポリイミド樹脂などの熱硬化樹脂類を用いることができる。これらの無機系バインダー又は有機系バインダーは、バインダーの硬化工程で、1次BN成形体中の無機系バインダー又は有機系バインダーを硬化させて硬化体とすることで、強度を高めた2次BN成形体を形成する目的で用いる。先述したように、上記硬化体はBN粒子同士の接着剤層(バインダー層)となる。
【0034】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法で用いる気孔形成剤は、1次BN成形体を造形するための造形工程で原材料である混合物中に含有して使用され、多孔質化工程で、1次BN成形体中の気孔形成剤を各種の方法で除去して連続的な気孔を有してなる、良好な樹脂の含浸を可能にする多孔質BN成形体を形成するために用いられる。気孔形成剤としては、下記に挙げるようなものを使用することができる。例えば、粒状のメラミンシアヌレート、粒状の樟脳等の結晶性テルペノイド化合物などの、「蒸発・気化してBN成形体中から除去できる化合物」や、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド等、水等の「溶媒に溶解させてBN成形体中から溶出除去できる有機化合物」や、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、硝酸カリウム(KNO3)及び硝酸ナトリウム(NaNO3)等の「水溶性無機化合物」や、氷、ドライアイスなどの「常温で水やCO2ガスになってBN成形体中から溶出除去できる化合物」などを用いることができる。
【0035】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法における1次BN成形体を造形するための造形工程で原材料として用いる混合物には、上記したような、BN粒子と、気孔形成剤と、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれか以外に、必要に応じて下記に挙げるような添加剤を用いることができる。例えば、濡れ性を改善する界面活性剤、消泡剤、粘度調整剤等の助剤及び溶媒などを適宜に添加することもできる。
【0036】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法における1次BN成形体を造形するための造形工程で使用する方法としては、例えば、プレス成形法、沈降法、押出成形法、凍結成形法及び加圧成型法などを用いることができる。下記に述べるように、中でもプレス成形法で1次BN成形体を造形した場合、BN粒子の配向状態が定まった状態の大型のブロック状のBN粒子分散樹脂複合体が得られるので、下記のように切り出す方向を選定することで伝熱方向が調整された薄板状の伝熱シートを作製することが可能になる。先述したように、BN粒子は鱗片状であるため、プレス成形した際に、プレス方向には鱗片状粒子の短手(厚さ)面が積層し、プレス方向に垂直の方向には鱗片状粒子の長手面が配向する。従って、例えば、プレス方向に垂直な方向を、薄板の切り出し材であるBN粒子分散樹脂複合体の厚み(短手)方向にすると、切り出した薄板状のシートの長手方向の熱伝導が非常に高くなる。一方、プレス方向を、薄板の切り出し材であるBN粒子分散樹脂複合体の厚み方向にすると、切り出した薄板状のシートの厚み(短手)方向の熱伝導が非常に高くなる。上記のように切り出す方向を選定することで、切り出した薄板状のシートの熱伝導の方向を調整変化させることができる。上記に限らず、本発明の技術を利用することで、大きなブロック形状のBN粒子分散樹脂複合材を形成することができれば、切り出し方向を変更することで抜熱(熱移動)方向を任意に可変させた大きな放熱部材を製作することもできるようになる。
【0037】
本発明のBN粒子分散樹脂複合体の製造方法におけるバインダーの硬化工程で強度を高め、且つ、多孔質化工程で形成した、気孔形成剤を除去して連続的な気孔を有してなる多孔質BN成形体に樹脂を含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、真空吸引含浸法もしくは加圧含浸法、及び、真空吸引後に加圧含浸させる真空吸引加圧法などを用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」は特に断らない限り質量基準である。
【0039】
[実施例1]
(多孔質BN成形体の調製)
平均粒径が30μmのBN粒子を90部と、平均粒径が5μmのBN粒子を10部に、無機系バインダーとしてエチルシリケートを10部、気孔形成剤として平均粒径が100μmのメラミンシアヌレート粒子を10部加えた混合粉を調製した。得られた混合粉を1次BN成形体の調製用の金型に充填して、10MPaの圧力でプレス成形して1辺が100mmの立方体形状の1次BN成形体を造形した。造形した1次BN成形体を500℃に加熱することで、無機系バインダーのエチルシリケートを硬化させて、1次BN成形体よりも強度が高い2次BN成形体を形成するとともに、同時に、1次BN成形体中に含まれている気孔形成剤のメラミンシアヌレート粒子を2次BN成形体外へ蒸発・気化させて、気孔形成剤が除去された跡である連続的な気孔を形成した。そして、気孔率が30%の多孔質BN成形体を製作した。
【0040】
(BN粒子分散樹脂複合体の作製)
上記で得た多孔質BN成形体を真空含浸装置内に設置し、-90kPaの減圧下でエポキシ樹脂(2液硬化型)を多孔質BN成形体に含浸させた後、室温にて48時間経過させて、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体を製作した。得られた本実施例の複合体についてキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467、NETZSCH社製)を用いて、熱伝導率を測定した。まず、プレス方向と垂直方向へのBN粒子の長手面の配向が確認できた。このため、測定に用いる熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を、そのBN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出した。また、試験片の切り出し部位は、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体のプレス面中央部から、プレス方向に最上面、中央面、最下面とその各中間部の5か所とし、5個の試験片について測定した。その結果、熱伝導率は25W/m・K~30W/m・Kと高く、ばらつきも平均値27.4W/m・K±9.5%と少なかった。このことから、上記で得られた本実施例の大型のBN粒子分散樹脂複合体は、安定して高熱伝導性を示すものであることがわかった。
【0041】
(薄板状の伝熱シートの作製)
上記で得た100mm角の立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体から、プレス成形方向に垂直な方向に厚み1mmを取り、5mm角の板状に切り出して、6000枚以上の薄板状の伝熱シートを調製することができた。そして、得られたいずれの薄板状の伝熱シートも、樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が認められず、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた良好なものであることを確認した。
【0042】
[実施例2]
(多孔質BN成形体の調製)
平均粒径が30μmのBN粒子を100部に、有機系バインダーとして液状レゾール型フェノール樹脂を5部、気孔形成剤として平均粒径が50μmの粒状樟脳(結晶性テルペノイド化合物)20部を加えた混合粉を調製した。得られた混合粉を1次BN成形体の調製用の金型に充填して、7MPaの圧力でプレス成形して1辺が100mmの立方体形状の1次BN成形体を造形した。造形した1次BN成形体を180℃に加熱してフェノール樹脂を硬化させて、1次BN成形体よりも強度の高い2次BN成形体を形成した。さらに-70kPaの減圧下で250℃に加熱して、1次BN成形体中の気孔形成剤の粒状樟脳(結晶性テルペノイド化合物)を1次BN成形体外へ蒸発・気化させて気孔を形成して、気孔率20%の多孔質BN成形体を製作した。
【0043】
(BN粒子分散樹脂複合体の作製)
上記で得た多孔質BN成形体を真空含浸装置内に設置し、-90kPaの減圧下でシリコーン樹脂を多孔質BN成形体に真空吸引含浸後、連続して5MPaにて加圧含浸させた後、室温にて72時間経過させて、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体を製作した。得られた本実施例の複合体について、実施例1と同様にキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467)を用いて熱伝導率を測定した。その結果、プレス方向と垂直方向へのBN粒子の長手面の配向が確認できた。そして、実施例1で行ったと同様にして、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体の5か所から、BN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出して、熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を5個得た。得られた試験片についての熱伝導率は30W/m・K~35W/m・Kと高く、ばらつきも平均値33.0W/m・K±9.1%と少なかった。このことから、上記で得られた本実施例の大型のBN粒子分散樹脂複合体は、安定して高熱伝導性を示すものであることが確認された。
【0044】
(薄板状の伝熱シートの作製)
上記で得た100mm角の立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体からプレス成形方向に厚み2mmを取り、10mm角の板状に切り出して2000枚以上の薄板状の伝熱シートを調製することができた。得られたいずれの薄板状の伝熱シートも樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が認められず、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた良好なものであった。
【0045】
[実施例3]
(多孔質BN成形体の調製)
平均粒径が30μmのBN粒子を100部に、有機系バインダーとして粉末状フェノール樹脂を5部と液状レゾール型フェノール樹脂を5部、気孔形成剤として、平均粒径が100μmの食塩(粗塩)25部を加えた混合粉を調製した。得られた混合粉を1次BN成形体の調製用の金型に充填して、30MPaの圧力でプレス成形して1辺が150mmの立方体形状の1次BN成形体を造形した。造形した1次BN成形体を180℃に加熱してフェノール樹脂を硬化させて、1次BN成形体よりも強度の高い2次BN成形体を形成した。この強度の高い2次BN成形体を室温の流水中に24時間浸漬させて、気孔形成剤として用いた食塩(粗塩)を2次BN成形体外へ溶解・溶出除去して気孔を形成した。そして、気孔率40%の多孔質BN成形体を製作した。
【0046】
(BN粒子分散樹脂複合体の作製)
上記で得た多孔質BN成形体を乾燥後、真空含浸装置内に設置し、-90kPaの減圧下でシリコーン樹脂を多孔質BN成形体に含浸させた後、室温にて72時間経過させて、1辺が150mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体を製作した。得られた本実施例の複合体について、実施例1と同様にキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467)を用いて熱伝導率を測定した。その結果、プレス方向と垂直方向へのBN粒子の長手面の配向が確認できた。このため、測定に用いる熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を、そのBN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出した。また、試験片の切り出し部位を、1辺が150mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体のプレス面中央部から、プレス方向に、最上面、中央面、最下面とその各中間部の5か所とした。そして、切り出した5個の試験片について熱伝導率を測定した結果、熱伝導率は20W/m・K~25W/m・Kと高く、ばらつきも平均値22.8W/m・K±12.3%と少なかった。このことから上記で得られた本実施例の大型のBN粒子分散樹脂複合体は、安定して高熱伝導性を示すものであることがわかった。
【0047】
(薄板状の伝熱シートの作製)
上記で得た150mm角の立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体からプレス成形方向に垂直な方向に厚み10mmを取り、10mm角の板状に切り出して8000枚以上の薄板状の伝熱シートを調製することができた。得られたいずれの薄板状の伝熱シートも樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が認められず、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた良好なものであった。
【0048】
[実施例4]
(多孔質BN成形体の調製)
平均粒径が30μmのBN粒子を80部と、平均粒径が5μmのBN粒子を20部に、有機系バインダーとして、粉末状フェノール樹脂5部と液状レゾール型フェノール樹脂5部、気孔形成剤として、平均粒径が50μmの硝酸カリウム20部を加えた混合粉を調製した。調製した混合粉を1次BN成形体金型に充填して、30MPaの圧力でプレス成形して1辺が150mmの立方体形状の1次BN成形体を造形した。造形した1次BN成形体を180℃に加熱してフェノール樹脂を硬化させて、1次BN成形体よりも強度の高い2次BN成形体を形成した。この強度の高い2次BN成形体を60℃のウォーターバスに12時間浸漬させて、気孔形成剤の硝酸カリウムを2次BN成形体外へ溶解・溶出除去して気孔を形成して、気孔率35%の多孔質BN成形体を製作した。
【0049】
(BN粒子分散樹脂複合体の作製)
上記で得た多孔質BN成形体を真空含浸装置内に設置し、-85kPaの減圧下でエポキシ樹脂(1液硬化型)を多孔質BN成形体に含浸させた後、50℃にて24時間経過させ、1辺が150mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体を製作した。得られた本実施例の複合体について、実施例1と同様にキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467)を用いて熱伝導率を測定した。その結果、プレス方向と垂直方向へのBN粒子の長手面の配向が確認できた。このため測定に用いる熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を、そのBN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出した。また、各試験片の切り出し部位を、1辺が150mmの立方体形状のBN粒子分散樹脂複合体のプレス面中央部から実施例3と同様の5か所とし、5個の試験片を得た。そして、切り出した5個の試験片について熱伝導率を測定した結果、熱伝導率は23W/m・K~26W/m・Kと高く、ばらつきも平均値24.4W/m・K±6.6%と少なかった。このことから、上記で得られた本実施例の大型のBN粒子分散樹脂複合体は、安定して高熱伝導性を示すものであることがわかった。
【0050】
(薄板状の伝熱シートの作製)
上記で得た150mm角の立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体からプレス成形方向に厚み2mmを取り、70mm角の板状に切り出して200枚以上の薄板状の伝熱シートを調製することができた。得られたいずれの薄板状の伝熱シートも樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が認められず、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた良好なものであった。
【0051】
[実施例5]
(多孔質BN成形体の調製)
平均粒径が30μmのBN粒子1を80部と、平均粒径が5μmのBN粒子2を20部に、無機系バインダーとしてエチルシリケート5部、気孔形成剤兼溶媒として水200部を加えてスラリーを調製した。調製したスラリーを1次BN成形体の調製用の金型に充填して1昼夜鎮静放置してBN粒子を沈降させた。そして、上水を除去した後に、-20℃の冷凍庫内に1昼夜入れて凍結・固化させて、1辺が100mmの立方体形状の1次BN成形体を造形した。造形した1次BN成形体を500℃の乾燥炉に入れて加熱してエチルシリケートを硬化させると同時に、凍結した水を蒸発させて気孔率40%の多孔質BN成形体を製作した。
【0052】
(BN粒子分散樹脂複合体の作製)
上記で得た多孔質BN成形体を真空含浸装置内に設置し、-85kPaの減圧下でエポキシ樹脂(2液硬化型)を多孔質BN成形体に含浸させた後、室温にて24時間経過させ、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体を製作した。得られた本実施例の複合体について、実施例1と同様にキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467)その結果、沈降方向と垂直方向へのBN粒子の長手面の配向が確認できた。そして、実施例1で行ったと同様にして、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体の5か所から、BN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出して、熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を5個得た。得られた試験片についての熱伝導率は22W/m・K~25W/m・Kと高く、ばらつきも平均値23.6W/m・K±6.8%と少なかった。このことから、上記で得られた本実施例の大型のBN粒子分散樹脂複合体は、安定して高熱伝導性を示すものであることが確認された。
【0053】
(薄板状の伝熱シートの作製)
上記で得た100mm角の立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体から沈降方向に垂直な方向に厚み2mmを取り、10mm角の板状に切り出して2000枚以上の薄板状の伝熱シートを調製することができた。得られたいずれの薄板状の伝熱シートも樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が認められず、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた良好なものであった。
【0054】
[実施例6]
(多孔質BN成形体の調製)
平均粒径が30μmのBN粒子を100部、有機系バインダーとして、粉末状フェノール樹脂5部と液状レゾール型フェノール樹脂5部、気孔形成剤として平均粒径100μmの氷を15部混合して調製原料を得た。得られた調製原料を-20℃に冷却した1次BN成形体の調製用の金型に充填して、3MPaの圧力でプレス成形して1辺が100mmの立方体形状の1次BN成形体を造形した。造形直後に1次BN成形体を200℃の乾燥炉に入れて加熱して、液状レゾール型フェノール樹脂を硬化させると同時に、氷を蒸発させて気孔率30%の多孔質BN成形体を製作した。
【0055】
(BN粒子分散樹脂複合体の作製)
上記で得た多孔質BN成形体を真空含浸装置内に設置し、-85kPaの減圧下でエポキシ樹脂(1液硬化型)を多孔質BN成形体に含浸させた後、50℃にて24時間経過させ、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体を調製した。得られた本実施例の複合体について、実施例1と同様にキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467)を用いて熱伝導率を測定した。その結果、プレス方向と垂直方向へのBN粒子の長手面の配向が確認できた。そして、実施例1で行ったと同様にして、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体の5か所から、BN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出して、熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を5個得た。得られた試験片についての熱伝導率は25W/m・K~30W/m・Kと高く、ばらつきも平均値27.6W/m・K±9.4%と少なかった。このことから、上記で得られた本実施例の大型のBN粒子分散樹脂複合体は、安定して高熱伝導性を示すものであることがわかった。
【0056】
(薄板状の伝熱シートの作製)
上記で得た100mm角の立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体からプレス成形方向に、厚み1mmを取り、5mm角の板状に切り出して6000枚以上の薄板状の伝熱シートを調製することができた。また、得られたいずれの薄板状の伝熱シートも樹脂の未含浸や不均質含浸などの欠陥が認められず、均一で安定した高熱伝導性・高絶縁性を示す品質に優れた良好なものであった。
【0057】
[比較例1]
気孔形成剤を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして調製した混合粉を用い、500℃に加熱することで、無機系バインダーのエチルシリケートを硬化させて比較例1のBN成形体を作製した。得られたBN成形体を用いて実施例1で行ったと同様にしてエポキシ樹脂(2液硬化型)を含浸させたところ、BN成形体への樹脂含浸が悪く、中央内部に樹脂未含浸が多く発生するとともに、BN成形体に亀裂が見られた。得られた本比較例の複合体について、実施例1と同様にキセノンフラッシュアナライザー(商品名:LFA467)を用いて熱伝導率を測定した。そして、実施例1で行ったと同様に、1辺が100mmの立方体形状の大型のBN粒子分散樹脂複合体の5か所から、BN粒子の長手面配向方向が厚さとなるように切り出して、熱伝導率測定試験片(φ10mm、厚さ2mm)を5個得た。得られた試験片について測定した結果、実施例の複合体の場合と異なり、熱伝導率は1W/m・K~30W/m・Kとばらつきが非常に大きく、安定して高熱伝導性を示す大型のBN粒子分散樹脂複合体を得ることができなかった。このため、薄板状の伝熱シートの作製を行わなかった。
【0058】
[比較例2]
有機系バインダーを加えなかったこと以外は実施例2と同様にして調製した混合粉を用い、180℃に加熱してフェノール樹脂を硬化させて比較例2のBN成形体を作製した。得られたBN成形体を用いて、実施例2で行ったと同様にしてシリコーン樹脂を含浸させたところ、樹脂の含浸時にBN成形体が破損してしまい、BN粒子分散樹脂複合体自体を得ることができなかった。
【0059】
【0060】
【要約】
【課題】切り出して多数の高熱伝導・高絶縁性である性能に優れる薄板状の伝熱シートを作製できる、薄板状の伝熱シートの生産性を著しく高めることが可能な、大きくて厚みの厚い大型のブロック形状でありながら内部まで樹脂が十分に含浸してなる高熱伝導性を示すBN粒子樹脂複合体を簡便に得ることができる技術の開発。
【解決手段】板状に切り出して複数枚の薄板状の伝熱シートを直接得るためのブロック状のヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体であって、少なくとも、ヘキサゴナル窒化ホウ素粒子と、気孔形成剤が除去された跡である連続的な気孔と、無機系バインダー又は有機系バインダーの少なくともいずれかのバインダーからなる硬化体を含んで形成されてなる多孔質BN成形体の前記気孔に樹脂が含浸した状態で固化されてなり、且つ、前記粒子の間に前記バインダーからなる硬化体が介在しているヘキサゴナル窒化ホウ素粒子分散樹脂複合体及び製造方法。
【選択図】 なし