(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】構造物及び回路基板
(51)【国際特許分類】
C04B 35/596 20060101AFI20241127BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20241127BHJP
C01B 35/14 20060101ALI20241127BHJP
H01L 23/15 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C04B35/596
C01B33/02 E
C01B35/14
H01L23/14 C
(21)【出願番号】P 2019168946
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2021-09-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】五戸 康広
(72)【発明者】
【氏名】越崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖
(72)【発明者】
【氏名】米津 麻紀
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184337(JP,A)
【文献】特開2000-34172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/596
C01B33/00-33/193
H01L23/34-23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素を含む第1結晶粒と、
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、
及びルテチウ
ムからなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む単結晶の第2結晶粒と、
前記第1元素の酸化物を含む第1領域と、
を備えた構造物。
【請求項2】
前記第1結晶粒は、複数設けられ、
前記複数の第1結晶粒は、前記第2結晶粒の周りに設けられた請求項1記載の構造物。
【請求項3】
前記第1結晶粒は、複数設けられ、
前記第2結晶粒は、前記複数の第1結晶粒の1つと、前記複数の第1結晶粒の別の1つと、の間に位置し、
前記第2結晶粒の少なくとも一部は、前記複数の第1結晶粒の前記1つ及び前記複数の第1結晶粒の前記別の1つの少なくとも一方と接する請求項1記載の構造物。
【請求項4】
前記第1群より選択された第2元素と、酸素と、を含む第3結晶粒をさらに備え、
前記第2元素は、前記第1元素と異なる請求項1記載の構造物。
【請求項5】
前記第1結晶粒は、複数設けられ、
前記第2結晶粒は、前記複数の第1結晶粒の一部に囲まれ、
前記第3結晶粒は、前記複数の第1結晶粒の別の一部に囲まれた請求項
4記載の構造物。
【請求項6】
前記第2結晶粒は、前記複数の第1結晶粒の前記一部の少なくとも1つと接し、
前記第3結晶粒は、前記複数の第1結晶粒の前記別の一部の少なくとも1つと接する請求項
5記載の構造物。
【請求項7】
前記第3結晶粒は、前記第1結晶粒の中に設けられた請求項
4記載の構造物。
【請求項8】
窒化珪素を含み、酸素濃度が0wt%より高く0.1wt%以下である第1結晶粒と、
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、
及びルテチウ
ムからなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む第2結晶粒と、
前記第1元素の酸化物を含む第1領域と、
を備えた構造物。
【請求項9】
窒化珪素を含む第1結晶粒と、
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、
及びルテチウ
ムからなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含み、体積割合が0.0001vol%以上5vol%以下である第2結晶粒と、
前記第1元素の酸化物を含む第1領域と、
を備えた構造物。
【請求項10】
窒化珪素を含む第1結晶粒と、
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、
及びルテチウ
ムからなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む第2結晶粒と、
前記第1元素の酸化物と、ホウ素と、を含む第1領域と、
を備えた構造物。
【請求項11】
前記第1結晶粒に含まれるシリコンのモル数に対する、前記第1領域に含まれるホウ素のモル数のモル比は、0.001以上、1以下である請求項
10記載の構造物。
【請求項12】
前記複数の第1結晶粒の最大径の平均に対する、前記複数の第1結晶粒の最小径の平均の比は、0より大きく、0.1以下である請求項
2、3、5、及び6のいずれか1つに記載の構造物。
【請求項13】
前記複数の第1結晶粒の最大径の平均に対する、前記第2結晶粒の最大径の比は、0.001以上、0.5以下である請求項
2、3、5、6、及び12のいずれか1つに記載の構造物。
【請求項14】
窒化珪素を含む第1結晶粒と、
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、
及びルテチウ
ムからなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む第2結晶粒と、
前記第1元素の酸化物を含む第1領域と、
を備え、
シリコンの含有量に対する
ホウ素の含有量のモル比は、0.001%以上、1%以下である構造物。
【請求項15】
窒化珪素を含む第1結晶粒と、
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、
及びルテチウ
ムからなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む第2結晶粒と、
前記第1元素の酸化物を含む第1領域と、
を備え、
前記第1領域に含まれるホウ素mol濃度は、
前記第1結晶粒に含まれるホウ素mol濃度よりも大きく、
前記第2結晶粒に含まれるホウ素mol濃度よりも大きい構造物。
【請求項16】
前記第1元素は、イットリウ
ムである、請求項1~
15のいずれか1つに記載の構造物。
【請求項17】
前記第2結晶粒は、前記第1元素及び酸素からなる単結晶である、請求項1~
16のいずれか1つに記載の構造物。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか1つに記載の前記構造物と、
前記構造物と接合された第1金属部と、
を備えた回路基板。
【請求項19】
前記第1金属部と接合された半導体素子をさらに備え、
前記第1金属部は、前記構造物と前記半導体素子との間に位置する請求項
18記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造物及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素を含む構造物について、信頼性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Journal of the Ceramic Society of Japan 104 [1] 63-70 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、信頼性を向上できる構造物及び回路基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る構造物は、第1結晶粒と、第2結晶粒と、第1領域と、を含む。前記第1結晶粒は、窒化珪素を含む。前記第2結晶粒は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、チタン、ガリウム、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅からなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む。前記第1領域は、前記第1元素の酸化物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1(a)~
図1(c)は、実施形態に係る構造物を例示する模式的断面図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は、実施形態に係る別の構造物を例示する模式的断面図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、実施形態に係る別の構造物を例示する模式的断面図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、実施形態に係る別の構造物を例示する模式的断面図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、実施形態に係る構造物を例示する模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る回路基板を例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既に説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1(a)~
図1(c)は、実施形態に係る構造物を例示する模式的断面図である。
実施形態に係る構造物110は、
図1(a)~
図1(c)に示すように、第1結晶粒11、第2結晶粒12、及び第1領域21を含む。
【0009】
第1結晶粒11は、結晶性の窒化珪素を含む。第2結晶粒12は、第1結晶粒11の中に設けられている。第2結晶粒12は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、チタン、ガリウム、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅からなる第1群より選択された第1元素と、酸素と、を含む。例えば、第2結晶粒12は、第1元素の酸化物の結晶を含む。
【0010】
第1結晶粒11は、複数設けられる。複数の第1結晶粒11は、第2結晶粒12の周りに設けられる。例えば、第2結晶粒12は、複数の第1結晶粒11に囲まれている。第2結晶粒12は、1つの第1結晶粒11と、別の1つの第1結晶粒11と、の間に位置する。例えば、第2結晶粒12の少なくとも一部は、前記1つの第1結晶粒11、及び前記別の1つの第1結晶粒11の少なくとも一方と接する。第2結晶粒12が、第1結晶粒11に囲まれる又は第1結晶粒11と接することで、第1結晶粒11に生ずる歪を、第2結晶粒12が吸収できるため好ましい。
【0011】
また、例えば、第2結晶粒12の少なくとも一部の結晶格子は、前記1つの第1結晶粒11の少なくとも一部の結晶格子、及び前記別の1つの第1結晶粒11の少なくとも一部の結晶格子と整合している。第1結晶粒11の組成は、例えば一般式Si3N4±x(0≦x≦0.1)で表される。また、第1結晶粒11の結晶格子の内部に、Al及びOからなる群より選択される少なくとも1つの元素が含まれていても良い。
【0012】
例えば、第1結晶粒11の結晶構造は、六方晶である。例えば、第2結晶粒12がイットリウムを含むとき、第2結晶粒12の結晶構造は、立方晶である。
【0013】
第1結晶粒11同士の間には、第1領域21が設けられている。複数の第1結晶粒11の少なくとも1つと第2結晶粒12との間に、第1領域21が設けられていても良い。第1領域21は、非晶質である。また、第1領域21は、結晶相を含んでも良い。つまり、第1領域21は、非晶質相のみからなっても良いし、非晶質相と結晶質相の両方を含んでいても良い。第1領域21が結晶質相を含む場合、この結晶質相の組成は、第2結晶粒の組成とは異なる。第1領域21は、第1元素の酸化物を含む。
【0014】
第1結晶粒11及び第2結晶粒12のそれぞれの形状は、
図1(a)~
図1(c)に示すように、断面によって変化しうる。第1結晶粒11及び第2結晶粒12のそれぞれの形状は、円形、楕円形、略四角形、又は略三角形など、任意である。
【0015】
構造物110が第2結晶粒12を含むことで、構造物110の熱衝撃への耐性を向上させることができる。これにより、構造物110の信頼性を向上させることができる。
【0016】
例えば、構造物110における1つの第2結晶粒12の体積割合は、0.0001vol%以上、5vol%以下である。好ましくは、体積割合は、0.0001vol%以上、1vol%以下である。体積割合がこの範囲内にあることで、曲げ強度と熱伝導率を維持したまま熱衝撃耐性を向上出来るため好ましい。より好ましくは、体積割合は、0.0001vol%以上、0.5vol%以下である。体積割合がこの範囲内にあることで、曲げ強度と熱伝導率をより高く維持したまま、熱衝撃耐性を向上出来るためより好ましい。
【0017】
複数の第1結晶粒11の少なくとも1つにおける酸素濃度は、0wt%より高く、0.1wt%以下である。好ましくは、酸素濃度は、0wt%より高く、0.01wt%以下である。酸素濃度がこの範囲内にあることで、熱伝導率を向上できるため好ましい。より好ましくは、酸素濃度は、0wt%より高く、0.005wt%以下である。酸素濃度がこの範囲内にあることで、熱伝導率をさらに向上できるためより好ましい。
【0018】
構造物110の一断面において、複数の第1結晶粒11の最大径の平均に対する、複数の第1結晶粒11の最小径の平均の比は、0より大きく、0.1以下である。複数の第1結晶粒の最大径の平均に対する、第2結晶粒12の最大径の比は、0.001以上、0.5以下である。最大径は、一断面において、一つの結晶粒の外縁上の任意の2点を結んで得られる複数の線分のうち、最も長い線分の長さである。最小径は、複数の線分のうち、最も長い線分の中心を通り且つ最も長い線分に垂直な線分の長さである。
図1(a)に、一例として、1つの第1結晶粒11の最大径L1、1つの第1結晶粒11の最小径L2、第2結晶粒12の最大径を示す。
【0019】
図2(a)、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、及び
図4(b)は、実施形態に係る別の構造物を例示する模式図である。
【0020】
図2(a)及び
図2(b)に示す構造物120は、第3結晶粒13をさらに含む。第3結晶粒13は、第1群より選択された第2元素と、酸素と、を含む。例えば、第3結晶粒13は、第2元素の酸化物の結晶を含む。第2元素は、第1元素とは異なる。
【0021】
複数の第1結晶粒11の一部は、第3結晶粒13の周りに設けられる。複数の第1結晶粒11の別の一部は、第2結晶粒12の周りに設けられる。例えば、第3結晶粒13は、複数の第1結晶粒11に囲まれている。第3結晶粒13は、1つの第1結晶粒11と、別の1つの第1結晶粒11と、の間に位置する。例えば、第3結晶粒13の少なくとも一部は、前記1つの第1結晶粒11と、前記別の1つの第1結晶粒11と接する。例えば、第3結晶粒13の少なくとも一部の結晶格子は、前記1つの第1結晶粒11の少なくとも一部の結晶格子、及び前記別の1つの第1結晶粒11の少なくとも一部の結晶格子と整合している。第3結晶粒13は、例えば、第2結晶粒12から離れている。
【0022】
第3結晶粒13の形状は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、断面によって変化しうる。第3結晶粒13の形状は、円形、楕円形、略四角形、又は略三角形など任意である。
【0023】
構造物120が第2結晶粒12及び第3結晶粒13を含むことで、構造物120の熱衝撃への耐性を向上させることができる。これにより、構造物120の信頼性を向上させることができる。
【0024】
図3(a)に示す構造物131では、第2結晶粒12が1つの第1結晶粒11の中に設けられている。
図3(b)に示す構造物132は、複数の第2結晶粒12を含む。複数の第2結晶粒12の1つは、複数の第1結晶粒11に囲まれている。複数の第2結晶粒12の別の1つは、1つの第1結晶粒11の中に設けられている。第2結晶粒12が中に設けられた第1結晶粒11が、別の第2結晶粒12を囲む複数の第1結晶粒11の1つであっても良い。
【0025】
図4(a)に示す構造物141では、第3結晶粒13が1つの第1結晶粒11の中に設けられている。例えば、第3結晶粒13が、複数の第1結晶粒11の1つの中に設けられている。第2結晶粒12は、複数の第1結晶粒11の別の2以上に囲まれている。
【0026】
図4(b)に示す構造物142は、複数の第3結晶粒13を含む。第2結晶粒及び複数の第3結晶粒13の1つのそれぞれは、複数の第1結晶粒11の2以上に囲まれている。複数の第3結晶粒13の別の1つは、複数の第1結晶粒11の別の1の中に設けられている。
【0027】
第3結晶粒13が中に設けられた第1結晶粒11が、別の第3結晶粒13を囲む複数の第1結晶粒11の1つであっても良い。構造物142は、さらに、1つの第1結晶粒11の中に設けられた別の第2結晶粒12を含んでいても良い。第3結晶粒11が、第1結晶粒11に囲まれる又は第1結晶粒11と接することで、第1結晶粒11に生ずる歪を、第3結晶粒13が吸収できるため好ましい。
【0028】
ここで、本実施形態に係る構造物の製造方法を説明する。
SiをSi3N4換算で100mol%、Y2O3を2mol%、MgOを5mol%秤量する。Y2O3及びMgOは、助剤として用いられる。助剤としては他にもB2O3を用いることができ、これらは単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。助剤の割合はSi3N4換算で2mol%以上20mol%以下であることが好ましい。これらの材料を遊星ボールミルにて0.5時間以上10時間以下解砕して混合する。解砕時間が短すぎると、材料の粒径が大きすぎ、構造物の強度が低下するため好ましくない。解砕時間が長すぎると、材料の酸化により熱伝導率が低下するため好ましくない。
次に、混合物を乾燥させ、バインダを加えて造粒する。このとき、バインダとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、及びエチルセルロースなどを用いることができる。これらのバインダは、単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。バインダは、混合物に対して2wt%以上20wt%以下加えることが好ましい。2wt%より少ないと、材料どうしが結着しにくくなり、構造物の強度が低下するため好ましくない。20wt%より多いと構造物中のバインダの量が多くなりすぎ、構造物の密度が低下するため好ましくない。
その後、0.3t/cm2以上3t/cm2以下の圧力を加えて成型する。圧力は、材料に合わせて調整する。圧力が低すぎると、結着が弱く成型体が崩れやすいため好ましくない。圧力が高すぎると、成型体が割れる可能性があるため好ましくない。
成型体を400℃以上700℃以下にて空気中で脱脂した後、窒素雰囲気において1200℃以上1400℃以下で処理する。脱脂温度が低すぎると、バインダ成分が残留するため好ましくない。脱脂温度が高すぎると、原料が酸化してしまうため好ましくない。また、窒化の熱処理温度が低すぎると、反応が生じにくいため好ましくない。熱処理温度が高すぎると、窒化する前にSiが融解してしまい好ましくない。脱脂及び窒化(*)の際の処理時間は、処理温度に応じて調整する。
その後、1600℃以上2000℃以下で1時間以上96時間以下焼結を行うことで、実施形態に係る構造物が得られる。焼結温度が低すぎると、構造が緻密化せずにため好ましくない。焼結温度が高すぎると、粒成長が過剰になる。この結果、強度が低下し、且つSiの揮発による組成ずれが起こるため好ましくない。焼結時間についても同様である。
【0029】
実施形態に係る構造物の製造方法の一例を具体的に説明する。
SiをSi3N4換算で100mol%、Y2O3を2mol%、MgOを5mol%秤量する。Y2O3及びMgOは、助剤として用いられる。これらの材料を遊星ボールミルにて1時間解砕して混合する。混合物を乾燥させ、5wt%のポリビニルブチラールをバインダとして加えて造粒する。その後、1t/cm2の圧力を加えて成型する。成型体を500℃にて空気中で脱脂した後、窒素雰囲気において1400℃で8時間処理する。その後、1900℃で24時間焼結を行うことで、実施形態に係る構造物が得られる。
比較例に係る構造物の製造方法では、SiをSi3N4換算で100mol%、Y2O3を2mol%、MgOを5mol%秤量する。Y2O3及びMgOは、助剤として用いられる。これらの材料を遊星ボールミルにて1時間解砕して混合する。混合物を乾燥させた粉末を静水圧プレスにて3t/cm2の圧力を加え成型する。その後、窒素雰囲気において1400℃で8時間処理する。その後、1900℃で24時間焼結を行うことで、比較例に係る構造物が得られる。
【0030】
得られた構造物について、第1結晶粒11における酸素濃度と、第2結晶粒12の体積割合と、を測定した。この例では、第2結晶粒12は、Y2O3の結晶を含む。測定の結果、実施形態に係る構造物では、第2結晶粒12の体積割合は、0.003vol%であった。第1結晶粒11における酸素濃度は、0.015wt%であった。得られた構造物の熱伝導率を評価した結果、熱伝導率は、105W/(mK)であった。
比較例の構造物には、Y2O3の結晶は観察されなかった。そのため、比較例では、第2結晶粒12の体積割合は、0vol%であった。比較例では、第1結晶粒11の酸素濃度は0.01wt%であり、熱伝導性は110W/(mK)であった。
【0031】
また、3点曲げ強度評価(JIS-R-1601(2008))を行ったところ、実施形態に係る構造物の曲げ強度は、711MPaであった。更に、熱衝撃試験を次の方法で行った。電気炉にて1000℃に熱した試験片を水に投入する試験を10回繰り返した。その後、上述した3点曲げ試験を行ったところ、実施形態に係る構造物の曲げ強度は、723MPaであった。この値は、熱衝撃試験前に測定した値とほぼ同等である。
これに対して、比較例に係る構造物の3点曲げ強度は、705MPaであった。また、同様の熱衝撃試験を行った後に3点曲げ試験を行ったところ、比較例に係る構造物の曲げ強度は598MPaに低下した。
【0032】
構造物における第2結晶粒12の体積の測定方法は、以下の通りである。
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、構造物の断面の一部の像を得る。構造物を観察する際の倍率は、任意である。例えば、倍率は、20000倍以上が好ましい。エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いたマッピング分析等により、第2結晶粒12を見いだす。例えば、電子回折パターンにより、その第2結晶粒12が単結晶であることを確認できる。第2結晶粒12の電子回折パターンは1点の情報であるが、単相粒子であるため、溶解せずに残存した単結晶と見なすことが出来る。観察している全体の面積中における対象の第2結晶粒12の占める面積を算出する。複数の視野にて同様の作業を繰り返す。構造体全体に対する対象の第2結晶粒12の面積を求めてそれらを平均化し、平均結果を3/2乗することで体積比とする。
【0033】
各第1結晶粒11の最大径及び最小径は、TEMを用いて測定できる。例えば、観測視野から第1結晶粒11を任意で10個選ぶ。観測視野は、例えば、3500nm×3500nmに設定する。観測視野の端で一部が見切れている第1結晶粒11は、測定の対象外とする。次に、選択した10個の第1結晶粒11のそれぞれの最大径及び最小径を測定する。最大径が最も大きい第1結晶粒11と、最小径が最も小さい第1結晶粒11と、を選択した10個から除外する。これにより、8個又は9個の第1結晶粒11が残る。残った第1結晶粒11のそれぞれの最大径及び最小径を用いて、最大径の平均に対する最小径の平均の比を算出する。複数の第1結晶粒の最大径の平均に対する第2結晶粒12の最大径の比を算出する場合も、同様に、複数の第1結晶粒の最大径の平均を算出する。
【0034】
第1結晶粒11における酸素濃度の測定方法は、以下の通りである。
振動ミルを用いて、得られた構造物を解砕する。粒界をおおよそ除去した後、フッ酸及び硫酸を用いて粒界および表面の酸化層を除去する。水で洗った後に、100#のふるいを用いてより分ける。より分けによって得られた試料を2500℃で熱し、放出されたガスを分析して酸素濃度を求める。この測定方法については、例えば、Adv. Mater. 2011, 23, 4563-4567に記載されている。
又は、EDXを用いて、第2結晶粒12における元素のマッピングを取得し、その結果に基づいての酸素濃度を算出しても良い。
【0035】
(変形例)
上述した実施形態に係る各構造物は、ホウ素(ボロン:B)をさらに含むことが好ましい。ホウ素を含むことで、より高い熱伝導率と強度熱衝撃への耐性に優れた構造体を実現することができる。構造物が含むシリコン(Si)の含有量に対する、構造物が含むホウ素の含有量のモル比(ホウ素含有量/シリコン含有量)は、0.001%以上、1%以下である。モル比がこの範囲内にあることで、窒化時に熱暴走により第1結晶粒11の表面が窒化すれば、シリコンが融解してもシリコン同士の凝集を抑制することができると推察される。この結果、シリコンが塊となって析出することが抑制され、窒化を円滑に進めることができると推察される。
また、第1領域21に含まれるホウ素のmol濃度は、第1結晶粒11に含まれるホウ素のmol濃度、第2結晶粒12に含まれるホウ素のmol濃度、及び第3結晶粒13に含まれるホウ素のmol濃度のいずれよりも大きい。第1領域21に含まれるホウ素mol濃度が、第1結晶粒11及び第2結晶粒12のそれぞれに含まれるホウ素mol濃度よりも大きいことで、窒化反応を円滑に進行させることができるため好ましい。
また、第1領域21に含まれるホウ素mol濃度は、第3結晶粒13に含まれるホウ素mol濃度よりも大きい。より好ましくは、第1領域21がホウ素を含む。例えば、第1領域21は、ホウ素の酸化物を含む。例えば、第1結晶粒11に含まれるシリコンのモル数に対する第1領域21に含まれるホウ素のモル数のモル比(第1領域21に含まれるホウ素のモル数/第1結晶粒11に含まれるシリコンのモル数)は、0.001%以上、1%以下である。好ましくは、第1結晶粒11に含まれるシリコンのモル数に対する第1領域21に含まれるホウ素のモル数のモル比は、0.005%以上、0.5%以下である。より好ましくは、第1結晶粒11に含まれるシリコンのモル数に対する第1領域21に含まれるホウ素のモル数のモル比は、0.01%以上、0.5%以下である。モル比がこの範囲内にあることで、窒化時に熱暴走によりシリコンが融解してもシリコン同士の凝集を抑制することができ、シリコンの塊となって析出することが抑制され、窒化をさらに円滑に進めることができるため、より好ましい。
【0036】
変形例に関する製造方法についても、ホウ素化合物を加える点を除いて、先述した方法と同様である。ホウ素化合物は、Siに対して0.001mol%以上1mol%以下加えることが好ましい。この範囲にあることで、シリコンが塊となって析出することが抑制され、窒化をさらに円滑に進めることができるためである。
【0037】
変形例に係る構造物の製造方法の具体的な一例を説明する。
SiをSi3N4換算で100mol%、Y2O3を2mol%、MgOを5mol%を秤量する。このとき、B2O3をSiに対して0.1mol%添加した。以降は、実施形態に係る構造物の製造方法と同様の処理を実行した。作製された構造物について、第1結晶粒11におけるY2O3の結晶粒の体積割合は、0.005vol%であった。第1結晶粒11における酸素濃度は、0.013wt%であった。作製された構造物の熱伝導率は、111W/(mK)であった。
【0038】
上記の製造方法により構造物を作製した結果、構造物におけるシリコンの析出を抑制できることが分かった。シリコンの析出が抑制されることで、構造物の熱衝撃への耐性、熱伝導性、又は曲げ強度を向上できる。
【0039】
窒化珪素焼結体は、シリコンから、以下の理由により形成されると考えられる。
成型体を窒素雰囲気中で加熱したとき、窒化したシリコン(例えばSi3N4)が形成される。その後、第1群より選択された元素の酸化物が液相を形成する。窒化したシリコン(例えばSi3N4)は、液相に包み込まれる。液相は、フラックスのように窒化珪素を溶解させる。この結果、窒化珪素の構成原子が移動し易くなり、窒化珪素粒子の成長が促される。このため、酸化物は、焼結助剤とも呼ばれる。液相は、焼結終了後の冷却過程で急冷されるために、結晶化せずに非晶質相となる。
本願発明者は、焼結助剤が完全に液相になる前に窒化を終了させ、焼結を行うことで、一部の助剤が固体のままシリコン粒子の中に取り込まれることを発見した。取り込まれた助剤は、他の助剤と共晶を形成せずに、結晶のまま残存する。これにより、原料シリコン粒子の酸素が、窒化珪素粒子内に残留することを抑制できる。
さらに、構造体がホウ素(特にB2O3)を含有することで、窒化が促進される。これは、シリコン粒子表面の酸化層と酸化ホウ素が、共晶を低温(例えば1000℃以下)で形成して液相となるため、窒化が低温で進むためと考えられる。シリコン粒子の表面がある程度窒化すれば、シリコンが融解しても、シリコン同士は凝集しない。このため、シリコンが析出することを抑制できる。
【0040】
図5は、実施形態に係る構造物を例示する斜視図である。
例えば
図5(a)及び
図5(b)に示すように、実施形態に係る構造物は、基板である。基板の形状は、任意である。基板の一断面が、
図1(a)~
図1(c)、
図2(a)、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、及び
図4(b)のいずれかに示す構造を含む。又は、実施形態に係る構造物は、ベアリング等であっても良い。
【0041】
図6は、実施形態に係る回路基板を例示する模式的断面図である。
実施形態に係る回路基板210は、
図6に示すように、第1金属部31及び構造物110を含む。構造物110に代えて、
図2(a)、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、又は
図4(b)に示す構造物が設けられても良い。この例では、構造物110は、基板として用いられる。
【0042】
第1金属部31は、構造物110と接合されている。例えば、第1金属部31と構造物110との間に、接合部41が設けられる。第1金属部31は、接合部41を介さずに、構造物110と直接接合されても良い。
【0043】
図6に示す例では、回路基板210は、第2金属部32及び半導体素子50をさらに含む。半導体素子50は、第1金属部31と接合される。第1金属部31は、構造物110と半導体素子50との間に位置する。例えば、半導体素子50と第1金属部31との間に、接合部42が設けられる。半導体素子50は、接合部42を介さずに、第1金属部31と直接接合されても良い。
【0044】
第2金属部32は、構造物110と接合されている。構造物110は、第1金属部31と第2金属部32との間に位置する。例えば、第2金属部32と構造物110との間に、接合部43が設けられる。第2金属部32は、接合部43を介さずに、構造物110と直接接合されても良い。第2金属部32は、例えばヒートシンクとして機能する。
【0045】
第1金属部31及び第2金属部32は、例えば、銅、アルミニウム、及び銀からなる群より選択された少なくとも1つを含む。接合部41~43は、例えば、銀及び銅からなる群より選択された少なくとも1つを含む。接合部41~43は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、インジウム、錫、及び炭素からなる群より選択された少なくとも1つをさらに含んでも良い。半導体素子50は、例えば、ダイオード、MOSFET、又はIGBTを含む。
【0046】
構造物110を用いることで、回路基板210の熱衝撃への耐性を向上できる。これにより、回路基板210の信頼性を向上できる。
【0047】
以上で説明した各実施形態によれば、熱耐性を向上できる構造物及び回路基板を提供できる。
【0048】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、構造物及び回路基板に含まれる第1結晶粒、第2結晶粒、第3結晶粒、第1領域、金属部、接合部、半導体素子などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0049】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0050】
その他、本発明の実施の形態として上述した構造物及び回路基板を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての構造物及び回路基板も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0051】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
11 第1結晶粒、 12 第2結晶粒、 13 第3結晶粒、 21 第1領域、 31 第1金属部、 32 第2金属部、 41~43 接合部、 50 半導体素子、 110,120,131,132,141,142 構造物、 210 回路基板、 L1~L3 長さ