IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイセルの特許一覧

<>
  • 特許-エクソソーム産生促進剤 図1
  • 特許-エクソソーム産生促進剤 図2
  • 特許-エクソソーム産生促進剤 図3
  • 特許-エクソソーム産生促進剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】エクソソーム産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20241127BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241127BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241127BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20241127BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241127BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K31/164
A61K31/7088
A61P25/28
A61P43/00 111
A23L2/00 F
A23L2/52
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019216505
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021083415
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼刊行物名:第12回セラミド研究会学術集会要旨集、第30頁 発行者名:セラミド研究会 発行日: 令和1年10月24日 ▲2▼集会名: 第12回セラミド研究会学術集会 開催場所:北海道大学学術交流会館(北海道札幌市北区北8条西5丁目) 開催日: 令和1年10月24日~25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】向井 克之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 靖之
(72)【発明者】
【氏名】湯山 耕平
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150290(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122495(WO,A1)
【文献】特表2012-502954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0031562(US,A1)
【文献】Guangbi Li, Dandan Huang, Jinni Hong, Owais M. Bhat, Xinxu Yuan, and Pin-Lan Li,Control of lysosomal TRPML1 channel activity and exosome release by acid ceramidase in mouse podocytes,Am J Physiol Cell Physiol,2019年07月03日,vol.317,C481-C491,doi:10.1152/ajpcell.00150.2019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性セラミダーゼ阻害剤及び/又は酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制剤を有効成分とし、リソソーム関連膜貫通タンパク質4Bの発現を抑制する成分を含有しない、エクソソーム産生促進剤。
【請求項2】
酸性セラミダーゼ阻害剤が、酸性セラミダーゼに対して機能阻害する低分子化合物、酸性セラミダーゼに対する抗体、及び当該抗体の断片よりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記酸性セラミダーゼに対して機能阻害する低分子化合物が、N-オレイルエタノールアミン、セラニブ1、セラニブ2、及び下記式に示す低分子化合物のうちの1種又は2種以上である、請求項1に記載のエクソソーム産生促進剤:
【化1】
【化2】
【請求項3】
前記酸性セラミダーゼに対して機能阻害する低分子化合物が、N-オレイルエタノールアミンである、請求項2に記載のエクソソーム産生促進剤。
【請求項4】
前記酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制が、酸性セラミダーゼに対するsiRNA、shRNA、dsRNA、miRNA、及びアンチセンス核酸よりなる群から選択される、請求項1に記載のエクソソーム産生促進剤。
【請求項5】
エクソソーム産生促進用飲食品である、請求項1~4のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
【請求項6】
エクソソーム産生促進用医薬品である、請求項1~4のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
【請求項7】
アミロイドβ関連の疾患の改善又は予防剤である、請求項1~4のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
【請求項8】
アルツハイマー病の予防又は治療剤である、請求項1~4のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームの産生を促進することができる剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、アルツハイマー病は、認知症の原因の半数以上を占める神経変性疾患であり、治療・予防法の確立が望まれている。これまでの研究で、アルツハイマー病の病態機序の解明が進んでおり、アルツハイマー病の予防や進行抑制、改善のために、病態機序の中心となるアミロイドβタンパク質の蓄積を抑制することが重要な点の一つであると考えられている。
【0003】
アミロイドβタンパク質の蓄積を抑制する薬剤については、これまでに広く研究されている。例えば、特許文献1には、水溶性ペプチド金属錯体アレイを含むアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤が開示されている。また、例えば、特許文献2には、シソの抽出物を有効成分とする、アミロイドβタンパク質の凝集阻害用組成物が開示されている。また、例えば、特許文献3には、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルマンノサミン、及びシアリルラクトースの少なくとも何れか一つを含有する、GNE遺伝子変異に起因するアミロイドβ凝集抑制剤が開示されている。
【0004】
ところで、近年の研究から、脳内アミロイドβタンパク質の代謝やアルツハイマー病の発現・進行へのエクソソームの関与が示唆されている。エクソソームは、細胞から分泌される脂質二重膜に囲まれた直径30~200nmの膜小胞体であり、mRNA、miRNA等の核酸やタンパク質等を内包し、細胞間コミュニケーションの担い手として機能している。
【0005】
アミロイドβタンパク質は、エクソソームを介してミクログリアに移動し、その後に分解されると考えられている。例えば、非特許文献1では、神経細胞由来エクソソームが、アミロイドβ結合性糖脂質を高発現し、アミロイドβタンパク質を捕捉する能力をもつこと、脳内の貪食細胞ミクログリアと連携してアミロイドβタンパク質を除去する作用を有することが示唆されている。また、非特許文献2では、ニューロン由来エクソソームが、その表面でアミロイドβを捕捉し、ミクログリアへ輸送することで、アミロイドβタンパク質の分解効率を高めていることが示唆されている。また、例えば、非特許文献3では、エクソソームの分泌により、ミクログリアによるアミロイドβタンパク質の除去機能が促進されることが示唆されている。また、例えば、非特許文献4では、エクソソームが、脳内のアミロイドβの代謝に関与していることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-145175号公報
【文献】特開2016-124865号公報
【文献】特開2014-224132号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】月刊「細胞」、ニューサイエンス社発行、2016、48(1)、第44頁~第47頁
【文献】Dementia Japan 30,Vol.30,No.3,358-367(2016)
【文献】Yuyama K et al., J Biol Chem., 289(35), 24488-98(2014)
【文献】Yuyama K et al., J Biol Chem., 287(14), 10977-89(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、エクソソームは、アミロイドβタンパク質の除去・蓄積抑制に関与することが知られている。従って、エクソソームの産生を促進することは、アミロイドβタンパク質の蓄積を抑制することができ、アルツハイマー病の予防・治療にも有効であると考えられる。
【0009】
しかしながら、エクソソームの産生を促進し得る薬剤については、未だ十分な検討がなされていない。
【0010】
本発明者は、前記現状に鑑みて、容易に生体内でのエクソソームの産生を促進することができるエクソソーム産生促進剤の探索において、エクソソームスタンダードであるヒト神経芽腫細胞由来SH-SY5Yに、フィンゴイド部分に結合している脂肪酸の炭素数が異なる様々な鎖長のスフィンゴ脂質を添加したところ、培養上清からエクソソームを回収したところ、セラミドを添加した場合にコントロールに比べて多くのエクソソームを回収することができることが見出された。特に、C6セラミド及びC18セラミドを添加した場合にエクソソームを回収量が多く、それらの回収量が同レベルであった。つまり、C6セラミド及びC18セラミドが、特に優れたエクソソーム産生促進能を有することが見出された。
【0011】
本発明者は、更に効率的に生体内でのエクソソームの産生を促進することができるエクソソーム産生促進剤を探索すべく、内因性セラミドを増加させることによってエクソソームを産生させるため、セラミダーゼに対して機能阻害及び/又は発現抑制することに着眼した。
【0012】
セラミダーゼは、スフィンゴ脂質代謝酵素群のうち、セラミドから脂肪酸を切り出してスフィンゴシンを生成する酵素であり、細胞内での局在部位と至適pHにより、酸性セラミダーゼ(リソソームに局在、至適pH:4.5)、中性セラミダーゼ(細胞膜に局在、至適pH:7.0)、アルカリ性セラミダーゼ(小胞体又はゴルジ体に局在、至適pH:8.5~9.5)に分類される。しかしながら、どのセラミダーゼがエクソソーム産生を効率的に促進できる内因性セラミドの効率的な増加に有効かについては知られていない。
【0013】
そこで本発明は、エクソソーム酸性の効率的促進を目的として内因性セラミドを効率的に増加させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意検討の結果、セラミダーゼのうち酸性セラミダーゼに対して機能阻害又は発現抑制を行うことによって、効率的に内因性の長鎖セラミドを増加させてエクソソーム産生を促進できることを見出した。このような優れた効果が得られる理由は、C18セラミド等の長鎖セラミドがリソソームに局在する一方で、C6セラミド等の短鎖セラミドがそのような局在態様を示さないため、リソソームに局在する酸性セラミダーゼを機能阻害又は発現抑制のターゲットとすることで、内因性セラミドのうち選択的に局在性の長鎖セラミドを増加させることが内因性セラミドの効率的増加を可能にしたためであると考えられる。更に、本発明は、酸性セラミダーゼに対する機能阻害又は発現抑制により生じるエクソソーム産生促進に、リソソーム関連膜貫通タンパク質4B(LAPTM4B)が関与していることも見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0015】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質を有効成分とする、エクソソーム産生促進剤。
項2. 酸性セラミダーゼに対する機能阻害が可能な物質が、酸性セラミダーゼに対して機能阻害する低分子化合物、酸性セラミダーゼに対する抗体、及び当該抗体の断片よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載のエクソソーム産生促進剤。
項3. 前記酸性セラミダーゼに対して機能阻害する低分子化合物が、N-オレイルエタノールアミンである、項2に記載のエクソソーム産生促進剤。
項4. 前記酸性セラミダーゼに対する発現抑制が可能な物質が、酸性セラミダーゼに対するsiRNA、shRNA、dsRNA、miRNA、及びアンチセンス核酸よりなる群から選択される、項1に記載のエクソソーム産生促進剤。
項5. 前記有効成分が、リソソーム関連膜貫通タンパク質4Bの発現を抑制しないものである、項1~4のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
項6. エクソソーム産生促進用飲食品である、項1~5のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
項7. エクソソーム産生促進用医薬品である、項1~5のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
項8. アミロイドβ関連の疾患の改善又は予防剤である、項1~5のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
項9. アルツハイマー病の予防又は治療剤である、項1~5のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内因性セラミドを効率的に増加させることでエクソソーム酸性の効率的促進が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】siRNAによる酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制によるエクソソーム産生促進を示す結果であり、酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制群(ASAH1 siRNA)によるエクソソーム産生量を、コントロール群(CTRL)、LAPTM4B遺伝子抑制群(LAPTM4B siRNA)、並びに酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制及びAPTM4B遺伝子抑制群(ASAH1/LAPTM4B siRNA)それぞれによるエクソソーム産生量と対比したグラフである。
図2】酸性セラミダーゼ阻害剤によるエクソソーム産生促進を示す結果であり、酸性セラミダーゼ阻害剤処理群(NOE)によるエクソソーム産生量を、コントロール群(CTRL)、LAPTM4B遺伝子抑制群(LAPTM4B siRNA)、並びに酸性セラミダーゼ阻害剤処理及びLAPTM4B遺伝子抑制群(NOE/LAPTM4B siRNA)それぞれによるエクソソーム産生量と対比したグラフである。
図3】長鎖脂肪酸セラミド(C18:0セラミド)の細胞内での局在態様を、短鎖脂肪酸セラミド(C6:0セラミド)の存在態様と対比して蛍光により示す画像である。
図4】外部添加セラミド鎖長とエクソソーム産生効果及びLAPTM4B発現抑制との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質を有効成分とする、エクソソーム産生促進剤である。以下、本発明のエクソソーム産生促進剤の実施形態について詳述する。
【0019】
有効成分
本発明のエクソソーム産生促進剤は、酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質を有効成分として使用する。酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質によって、内因性セラミドが増加させられ、エクソソームの産生が促進される。エクソソームの産生が促進されるより具体的なメカニズムにおいては、セラミドの増加によって、リソソーム関連膜貫通タンパク質4B(LAPTM4B)が刺激されて、前駆オルガネラを細胞膜方向に移行(リサイクリング経路に移行)させることによって、エクソソームが産生促進されると考えられる。
【0020】
酸性セラミダーゼは、N-アシルスフィンゴシンデアシラーゼ(AC)とも呼ばれ、セラミドのスフィンゴシンおよび遊離脂肪酸への加水分解を触媒する酵素である。成熟型の酸性セラミダーゼは、αサブユニット(約13kDa)及びβサブユニット(約40kDa)を含む約50kDaのタンパク質であり、Asah1遺伝子の産物である酸性セラミダーゼ前駆タンパク質の切断によって産生される。
【0021】
酸性セラミダーゼの機能阻害が可能な物質としては、薬学的に許容され、且つ当該標的の機能を抑制できるものであることを限度として特に制限されない。酸性セラミダーゼの機能を阻害する物質として、例えば、酸性セラミダーゼの機能を阻害する低分子化合物、酸性セラミダーゼに特異的に結合する抗体又はその断片、酸性セラミダーゼに特異的に結合するアプタマー等が挙げられる。これらの物質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
酸性セラミダーゼの機能を阻害する低分子化合物としては、酸性セラミダーゼの機能を阻害し得る限り、公知の低分子化合物であっても、将来開発される低分子化合物であってもよい。当該低分子化合物の例としては以下が挙げられる。
【0023】
【化1】
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
これらの低分子化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の一実施形態においては、これらの低分子化合物の中でも好ましくはN-オレオイルエタノールアミンが挙げられる。
【0029】
酸性セラミダーゼに特異的に結合する抗体としては、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体が挙げられる。また、これらの抗体のアイソタイプについては、特に制限されず、IgG、IgM、IgA等のいずれであってもよいが、好ましくはIgGが挙げられる。
【0030】
本発明の一実施形態による治療剤をヒトに投与する場合には、前記抗体は、ヒト体内での抗原性が低減されている抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス-ヒトキメラ抗体、ニワトリ-ヒトキメラ抗体等が好ましい。これらの中でも、完全ヒト抗体、ヒト化抗体が更に好ましい。
【0031】
前記抗体の断片としては、酸性セラミダーゼを特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであればよく、具体的には、Fab、Fab’
、F(ab’)2、scFv、scFv-Fc等が挙げられる。
【0032】
前記抗体及びその断片は、常法に従って遺伝子工学的に作製することができる。
【0033】
また、酸性セラミダーゼの発現抑制が可能な物質としては、薬学的に許容され、且つ酸性セラミダーゼをコードするDNAから酸性セラミダーゼの発現を抑制できることを限度として特に制限されない。酸性セラミダーゼの発現を抑制する物質は、酸性セラミダーゼをコードしている遺伝子(ASAH1遺伝子)の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾等のいずれの段階で酸性セラミダーゼの発現に対する抑制作用を発揮するものであってもよい。酸性セラミダーゼの発現を抑制する物質として、具体的には、デコイ核酸等の酸性セラミダーゼをコードする遺伝子の転写を抑制する核酸分子;siRNA、shRNA、dsRNA等の酸性セラミダーゼのmRNAに対してRNA干渉作用を有するRNA分子又はその前駆体;miRNA、アンチセンス核酸(アンチセンスDNA、アンチセンスRNA)、リボザイム等の酸性セラミダーゼのmRNAの翻訳を抑制する核酸分子等の核酸医薬が挙げられる。これらの核酸医薬は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの核酸医薬の塩基配列は、酸性セラミダーゼをコードする遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、当業者が公知の手法により適宜設計することができる。これらの核酸医薬の中でも、臨床応用への容易性等の観点から、好ましくは、siRNA、shRNA、dsRNA、miRNA、アンチセンス核酸、更に好ましくはsiRNAが挙げられる。
【0034】
また、前記核酸分子がRNA分子である場合は、生体内で生成し得るようにデザインされたものであってもよい。具体的には、当該RNA分子をコードしているDNAを哺乳動物細胞用の発現ベクターに挿入したものであってもよい。このような発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミド等が挙げられる。
【0035】
酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質によってもたらされるエクソソームの産生においては、LAPTM4Bが刺激されてLAT1と結合し、前駆オルガネラを細胞膜方向に移行(リサイクリング経路に移行)させると考えられるため、本発明の好ましい一態様においては、酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質は、LAPTM4Bの発現を抑制しないものである。
【0036】
酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質によって増加させられるセラミドは、スフィンゴイドに脂肪酸がアミド結合した構造を有する化合物である。本発明の一実施形態により増加させられるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分の構造については、特に限定されないが、セラミドを構成するスフィンゴイド部分の炭素数としては、18が挙げられる。また、スフィンゴイド部分の構造の具体例としては、4-スフィンゲニン(スフィンゴシン)、4-ヒドロキシスフィンガニン(フィトスフィンゴシン)、4-ヒドロキシ-トランス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、スフィンガニン、トランス-8-スフィンゲニン、シス-8-スフィンゲニン、トランス-4-スフィンゲニン、トランス-4,トランス-8-スフィンガジエニン、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、シス4-シス8-スフィンガジエニン、シス4-トランス8-スフィンガジエニン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、シス4-シス8-スフィンガジエニン、トランス4-トランス8-スフィンガジエニン、シス4-トランス8-スフィンガジエニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロシキ-トランス8-スフィンゲニンが挙げられる。
【0037】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤により増加させられるセラミドは、酸性セラミダーゼによる分解を受けるものであればよく、具体的には、酸性セラミダーゼが局在しているリソソームに存在するセラミドが挙げられ、より具体的には、リソソームに局在している長鎖セラミドが挙げられる。ここで、長鎖セラミドは、スフィンゴ部分に結合している脂肪酸が長鎖脂肪酸であるセラミドをいい、そのような長鎖脂肪酸の炭素数としては、本発明の好ましい一態様では12~26、別の好ましい一態様では14~24、さらに別の好ましい一態様では16~22、さらに別の好ましい一態様では18~20が挙げられる。また、前記脂肪酸は、飽和脂肪酸、炭素-炭素二重結合及び/又は炭素-炭素三重結合を含む不飽和脂肪酸、並びにα-ヒドロキシ脂肪酸のいずれであってもよい。
【0038】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤により増加させられるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分に結合している脂肪酸として、具体的には、ドデカン酸(C12:0)、テトラデカン酸(C14:0)、ヘキサデカン酸(C16:0)、オクタデカン酸(C18:0)、イコサン酸(C20:0)、ヘネイコサン酸(C21:0)、ドコサン酸(C22:0)、トリコサン酸(C23:0)、テトラドコサン酸(C24:0)、ペンタコサン酸(C25:0)、ヘキサドコサン酸(C26:0)、ヘプタコサン酸(C27:0)、オクタドコサン酸(28:0)、シス-9-オクタデセン酸(C18:1)等が挙げられる。なお、前記脂肪酸の括弧内に示す表記「CX:Y」において、CXは1分子当たりの炭素数を示し、Yは1分子当たりの不飽和結合の数を示し、例えば「C16:0」とは炭素数16且つ不飽和結合数が0の脂肪酸を表す。これらの脂肪酸の中でも、好ましくはオクタデカン酸が挙げられる。
【0039】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤中の酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質の含有量としては、生体内でセラミドを増加させてエクソソームの産生を促進できる有効量であることを限度として特に限定されず、用途、剤型、投与形態等に応じて適宜調整することができる。
【0040】
その他の添加成分
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、前述した有効成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、剤型に応じて、他の添加成分を含有していてもよい。本発明の一実施形態エクソソーム産生促進剤に含有され得る添加成分としては、例えば、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤などが挙げられる。これらの添加成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加成分の含有量については、使用する添加成分の種類や本発明のエクソソーム産生促進剤の剤型等に応じて適宜設定される。
【0041】
剤型・製剤形態・用途
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、エクソソーム産生促進剤の種類、用途、投与方法などに応じて適宜設定すればよい。
【0042】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤の投与方法としては、特に限定されず、適用する疾患の種類に応じて適宜選択すればよく、全身投与であっても、局所投与であってもよい。具体的には、経口、経血管内(動脈内又は静脈内)、経皮、経腸、経肺、鼻腔内、脳室内、髄質内投与等が挙げられる。経血管内投与には、血管内注射、持続点滴も含まれる。
【0043】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤の製剤形態については、特に限定されず、投与方法に適した製剤形態に適宜設定することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤、注入剤、輸液剤、坐剤等の任意の製剤形態を挙げることができる。例えば、本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤の具体例としては、飲食品及び医薬品が挙げられる。
【0044】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤を飲食品の製剤形態にする場合、エクソソーム産生促進剤を、そのままで、他の食品素材や添加成分と組み合わせて、又は、経口投与に応じたデリバリー技術と組み合わせて、所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に限定されないが、具体的にはカプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品;等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくは飲料、サプリメント、より好ましくは飲料、カプセル剤が挙げられる。
【0045】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤を医薬品の製剤形態にする場合、エクソソーム産生促進剤を、そのままで、他の添加成分と組み合わせて、又は、投与形態に応じたデリバリー技術と組み合わせて、所望の形態に調製すればよい。このような医薬品としては、具体的には、ドリンク剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、シロップ剤、リポソーム製剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤、注入剤、輸液剤、坐剤等が挙げられる。
【0046】
また、本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤を医薬品の製剤形態にする場合であって、且つ有効成分として核酸分子を使用する場合であれば、有効成分が核酸導入補助剤と共に製剤化されていることが望ましい。核酸導入補助剤としては、具体的には、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト、リポソーム、ポリアミン、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマー等が挙げられる。
【0047】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤の投与量は、使用する有効成分の種類、患者の症状の程度、患者の性別、年齢等に応じて、標的分子の発現抑制及び/又は機能阻害が可能な範囲で適宜設定すればよい。
【0048】
本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、エクソソームの産生促進に基づいて、症状が軽減又は改善させる疾患に対して適用することができる。例えば、エクソソームは、アルツハイマー病の発症原因の一つであるアミロイドβタンパク質の蓄積を抑制することができるので、エクソソームの産生を促進すると、アルツハイマー病の発症を抑制したり、症状を軽減したりすることができると考えられる。つまり、本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、アルツハイマー病の発症を抑制したり、症状を軽減したりすることができる。このように本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、アルツハイマー病予防剤としても好適に適用することができる。特に、家族性アルツハイマー病を発症した親族が存在するが、家族性アルツハイマー病を発症していない者は、家族性アルツハイマー病の予防が日常的に求められているので、本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、このような家族性アルツハイマー病の発症のおそれがある者に対して、好適に適用される。
【0049】
また、エクソソームの産生を促進することによって症状が改善され得る他の疾患としては、例えば、パーキンソン病、前頭側頭型変性症、ポリグルタミン病などの神経変性疾患等が挙げられる。
【0050】
以上のように、酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質を有効成分とするエクソソーム産生促進剤は、エクソソームの産生を促進することができる。本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、エクソソームの産生を促進することにより、症状が改善させる疾患の治療又は予防用途に使用することができる。具体的には、例えば、本発明の一実施形態におけるエクソソーム産生促進剤は、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病を含む)、パーキンソン病、前頭側頭型変性症、ポリグルタミン病などの神経変性疾患等の予防又は治療用途に使用することができる。
【実施例
【0051】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0052】
[試験例1:siRNAによる酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制によるエクソソーム産生促進]
(1)培養細胞として、ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞を使用した。12ウェルプレートに、細胞密度1.0x105cells/wellとなるようにSH-SY5Y細胞を播種し、37℃で一晩培養した。
【0053】
(2)培養後、Lipofectamine RNAiMAX (ThermoFisher社)によるリポフェクション法を用いて各siRNAを導入した。酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制群(ASAH1 siRNA)においては、siRNAとして、ASAH1(ID:s497:Silencer(R)Select Pre-designed siRNA, ThermoFisher社)を、最終濃度10nMとなるように用い、37℃で24時間培養した。コントロール群(CTRL)群においては、コントロールsiRNAとして、Stealth RNAiTM siRNA negative control med GC (ThermoFisher社)を上記と同濃度となるように用い、37℃で24時間培養した。LAPTM4B遺伝子抑制群(LAPTM4B siRNA)においては、siRNAとして、LAPTM4B(ID:s30810:Silencer(R)Select Pre-designed siRNA,ThermoFisher社)を上記と同濃度で用い、37℃で24時間培養した。また、酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制及びAPTM4B遺伝子抑制群(ASAH1/LAPTM4B siRNA)においては、siRNAとして、上記のASAH1及びLAPTM4Bをそれぞれ上記と同濃度となるように用い、37℃で24時間培養した。
【0054】
(3)培養後、培地を血清不含有培地に交換し、更に24時間培養した。
(4)培養後、培養上清を回収し、超遠心法を用いて培養上清中のエクソソームを沈渣として回収した。超遠心においては、2,000xg,10分、10,000xg,30分、及び100,000xg,70分の一連の操作を3回行った。
【0055】
(5)Human PS Capture Exosome ELISA Kit (富士フィルム和光社)を用いて、コントロール群(CTRL)、酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制群(ASAH1 siRNA)、LAPTM4B遺伝子抑制群(LAPTM4B siRNA)、並びに酸性セラミダーゼ遺伝子発現抑制及びAPTM4B遺伝子抑制群(ASAH1/LAPTM4B siRNA)それぞれから回収したエクソソーム量を測定した。エクソソーム量は、吸光度で得た。
(6)吸光度として得られたエクソソーム量を、コントロール群(CTRL)における吸光度の平均値を100%として数値化(%CTRL)し、グラフ化した。得られた結果を図1に示す。
【0056】
図1から明らかな通り、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を抑制することによって、エクソソーム産生量が促進された。一方、LAPTM4B遺伝子の発現を抑制すると、エクソソームの産生促進効果は得られず、また、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を抑制したとしても、LAPTM4B遺伝子の発現が抑制されていると、エクソソームの産生促進効果は得られなかった。つまり、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を抑制することによるエクソソーム産生量の促進には、LAPTM4Bの存在が関わっていることが示された。
【0057】
[試験例2:酸性セラミダーゼ阻害剤によるエクソソーム産生促進]
(1)培養細胞として、ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞を使用した。12ウェルプレートに、細胞密度1.0x105cells/wellとなるようにSH-SY5Y細胞を播種し、37℃で一晩培養した。
【0058】
(2)培養後、LAPTM4B遺伝子抑制群(LAPTM4B siRNA)と酸性セラミダーゼ阻害剤処理及びLAPTM4B遺伝子抑制群(NOE/LAPTM4B siRNA)とにおいては、siRNAとして、LAPTM4B(ID:s30810:Silencer(R)Select Pre-designed siRNA,ThermoFisher社)を最終濃度10nMとなるように用い、37℃で24時間培養した。
【0059】
(3)培養後、培地を血清不含培地に交換した。更に、酸性セラミダーゼ阻害剤処理群(NOE)と酸性セラミダーゼ阻害剤処理及びLAPTM4B遺伝子抑制群(NOE/LAPTM4B siRNA)とにおいては、酸性セラミダーゼ阻害剤NOE(N-オレイルエタノールアミン,Sigma社)を濃度50μMになるように添加し、更に37℃で24時間培養した。なお、コントロール群(CTRL)においては、工程(2)及び(3)を通じて、siRNA及び酸性セラミダーゼ阻害剤のいずれも添加しなかったことを除いて、同様に培養を行った。
【0060】
(4)培養後、培養上清を回収し、超遠心法を用いて培養上清中のエクソソームを沈渣として回収した。超遠心においては、2,000xg,10分、10,000xg,30分、及び100,000xg,70分の一連の操作を3回行った。
【0061】
(5)Human PS Capture Exosome ELISA Kit (富士フィルム和光社)を用いて、コントロール群(CTRL)、酸性セラミダーゼ阻害剤処理群(NOE)、LAPTM4B遺伝子抑制群(LAPTM4B siRNA)、並びに酸性セラミダーゼ阻害剤処理及びLAPTM4B遺伝子抑制群(NOE/LAPTM4B siRNA)それぞれから回収したエクソソーム量を測定した。エクソソーム量は、吸光度で得た。
(6)吸光度として得られたエクソソーム量を、コントロール群(CTRL)における吸光度の平均値を100%として数値化(%CTRL)し、グラフ化した。得られた結果を図2に示す。
【0062】
図2から明らかな通り、酸性セラミダーゼの機能を阻害することによって、エクソソーム産生量が促進された。一方、LAPTM4B遺伝子の発現を抑制すると、エクソソームの産生促進効果は得られず、また、酸性セラミダーゼの機能を阻害したとしても、LAPTM4B遺伝子の発現が抑制されていると、エクソソームの産生促進効果は得られなかった。つまり、酸性セラミダーゼの機能を阻害することによるエクソソーム産生量の促進には、LAPTM4Bの存在が関わっていることが示された。
【0063】
[試験例3:長鎖脂肪酸セラミドの局在]
試験例1及び2と同様に培養細胞を培養した。培養後、ニトロベンゾオキサジアゾールにより緑色蛍光標識されたC18セラミド(d18:1/18:0)又はC6セラミド(d18:1/6:0)(いずれもAvanti Polar Lipid社製)を5μM濃度で培地に添加し、併せて、リソソーム標識蛍光色素LysoTracker Red DND-99(ThermoFisher Scientific社)も培地に添加し、更に37℃で30分間培養した。その後、蛍光画像を蛍光顕微鏡キーエンスBZ-X710で取得した。取得した蛍光画像を図3に示す。
【0064】
図3から明らかなとおり、長鎖脂肪酸セラミド(C18:0セラミド)については、リソソームでの局在が観察される一方、短鎖脂肪酸セラミド(C6:0セラミド)についてはそのような局在は認められなかった。試験例1及び2で観察されたエクソソーム産生促進をもたらした酸性セラミダーゼがリソソームに局在することに鑑みると、試験例1及び2で観察された酸性セラミダーゼに対する機能阻害又は発現抑制による優れたエクソソーム産生促進は、増加させるべき内因性セラミドとして非局在性の短鎖脂肪酸セラミドではなく局在性の長鎖脂肪酸セラミドを選択的することで効率的にセラミドを増加させた結果であり、機能阻害又は発現抑制の標的として酸性セラミダーゼを選択したことによる特有の効果であるといえる。
【0065】
[試験例4:外部添加セラミド鎖長とエクソソーム産生効果及びLAPTM4B発現抑制との関係]
試験例1及び2と同様に培養細胞を培養した。培養後、LAPTM4B siRNA処理群(LAPTM4B siRNA)とコントロール siRNA処理群(Cont siRNA)とに郡分けし、各群に、後述する各種セラミドを10μMで添加し、更に37℃で24時間培養した。
【0066】
(添加したセラミド)
ブタ脳由来セラミド;Avanti Polar Lipid社製
合成C2セラミドd18:1/2:0;Avanti Polar Lipid社製
合成C6セラミドd18:1/6:0;Avanti Polar Lipid社製
合成C16セラミドd18:1/16:0;Avanti Polar Lipid社製
合成C18セラミドd18:1/18:0;Avanti Polar Lipid社製
合成C24セラミドd18:1/24:0;Avanti Polar Lipid社製
【0067】
培養後、培養上清を回収し、超遠心を行うことで、培養上清中のエクソソームを沈渣として回収した。超遠心では、2,000xg,10分、10,000xg,30分、及び100,000xg,70分の一連の操作を3回行った。Human PS Capture Exosome ELISA Kit (富士フィルム和光社)を用いて、各群から回収したエクソソーム量を測定した。エクソソーム量は、吸光度で得た。測定結果を図4に示す。
【0068】
図4からは、外部添加セラミド鎖長とエクソソーム産生効果及びLAPTM4B発現抑制との関係が把握できる。図4から明らかなとおり、セラミドによるエクソソーム産生には、LAPTM4Bが関与していることが認められ、中でも、LAPTM4B発現が抑制されている場合と対比したエクソソーム産生量の増加は、長鎖脂肪酸セラミド(C16:0セラミド、C18:0セラミド)の場合に顕著であった。LAPTM4Bが酸性セラミダーゼと同様にリソソームに局在することに鑑みると、試験例1及び2で観察された酸性セラミダーゼに対する機能阻害又は発現抑制による優れたエクソソーム産生促進は、増加させるべき内因性セラミドとして、エクソソームを増加させるためのLAPTM4Bと強い関連性がある長鎖脂肪酸セラミドを選択的することで効率的にセラミドを増加させた結果であり、機能阻害又は発現抑制の標的として酸性セラミダーゼを選択したことによる特有の効果であるといえる。
図1
図2
図3
図4