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特許7594371ジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20241127BHJP
   A61K 36/736 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241127BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241127BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241127BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/736
A61P43/00 111
A61P3/10
A61P13/12
A23L2/00 F
A61K31/353
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020095378
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021187791
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】白井 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ブンヤポン チンタムミット
(72)【発明者】
【氏名】宅見 央子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2019-0061440(KR,A)
【文献】特開2008-133192(JP,A)
【文献】特開平11-171766(JP,A)
【文献】特開2012-072103(JP,A)
【文献】DING Shumei et al,Activation of 20-HETE/PPARs involved in reno-therapeutic effect of naringenin on diabetic nephropathy, Chemico-Biological Interactions,2019年07月,Vol.307,pp.116-124
【文献】ZHANG Junwei,Naringin ameliorates diabetic nephropathy by inhibiting NADPH oxidase 4,European Journal of Pharmacology,2017年06月,Vol.804,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーモンド種皮抽出物を含む、ジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤。
【請求項2】
フラバノン及びその配糖体よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、ジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤。
【請求項3】
前記フラバノンとして、フラバノンを含む植物抽出物を含む、請求項に記載のジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤。
【請求項4】
前記植物抽出物が、アーモンド種皮抽出物である、請求項3に記載のジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤を含む、ジアシルグリセロールキナーゼα活性化用の飲食品。
【請求項6】
糖尿病患者又は糖尿病性腎症患者の食事療法に使用される、請求項5に記載のジアシルグリセロールキナーゼα活性化用の飲食品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤を含む、ジアシルグリセロールキナーゼα活性化用の医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や医薬品等に使用でき、ジアシルグリセロールキナーゼα(DGKα)を効果的に活性化できるジアシルグリセロールキナーゼα活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性腎症は、糖尿病の細小血管合併症の1つであり、血液透析導入の原腎疾患の1位になっている。糖尿病性腎症は、実用化されている治療薬はなく、食事療法や、血糖や血圧のコントロール等が治療の基本になっている。
【0003】
糖尿病性腎症の発症及び増悪化には様々な要因があるが、血中グルコースから合成されたジアシルグリセロール(DG)によるプロテインキナーゼC(PKC)の活性化が一要因になっていることが解明されている。一方、DGKαは、DGをリン酸化してフォスファチジン酸に変換する脂質キナーゼであり、DGKαの活性化が、間接的なPKCの活性低下を導き、糖尿病性腎症の予防又は改善に有効であることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
従来、ビタミンEが、DGKαを活性化する作用があることが報告されている(非特許文献2参照)。また、ガレート型カテキンにはDGKαを活性化する作用があるが、遊離型カテキンにはDGKαを活性化する作用がないことが報告されている(非特許文献3)。但し、従来、食経験がある成分で、DGKαを活性化作用が報告されているのは、これらのビタミンEとガレート型カテキンのみである。
【0005】
そこで、糖尿病性腎症の食事療法や予防に有効な成分を新たに見出すことが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Isabel Merida et al., Biochem. J., 476, p.1205-1219 (2019).
【文献】Daiki Hayashi et al., Nutritional and Therapeutic Interventions for Diabetes and Metabolic Syndrome (Second Edition), p.375-383 (2018).
【文献】Daiki Hayashi et al., J. Functional Foods, 15, p.561-569 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、DGKαを効果的に活性化できるDGKα活性化剤を提供することである。
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、フラバノン類には、優れたDGKα活性化作用があり、DGKα活性化剤として使用できることを見出した。また、本発明者は、アーモンド種皮抽出物には、フラバノン類が含まれており、格段に優れたDGKα活性化作用があることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. フラバノン類を含む、DGKα活性化剤。
項2. 前記フラバノン類として、フラバノン、ナリンゲニン、及びこれらの配糖体よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、項1に記載のDGKα活性化剤。
項3. 前記フラバノン類として、フラバノン類を含む植物抽出物を含む、項1又は2に記載のDGKα活性化剤。
項4. 前記植物抽出物が、アーモンド種皮抽出物である、項3に記載のDGKα活性化剤。
項5. 項1~4のいずれかに記載のDGKα活性化剤を含む、DGKα活性化用の飲食品。
項6. 糖尿病患者又は糖尿病性腎症患者の食事療法に使用される、項5に記載のDGKα活性化用の飲食品。
項7. 項1~4のいずれかに記載のDGKα活性化剤を含む、DGKα活性化用の医薬品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のDGKα活性化剤によれば、食経験があるフラバノン類を使用してDGKαを活性化することができるので、食事療法等によって本発明のDGKα活性化剤を摂取することにより、糖尿病性腎症の予防又は改善が可能になる。また、本発明の一態様では、アーモンド種皮抽出物を使用するので、廃棄物とされているアーモンド種皮の有効活用の点でも、利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例1において、GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイを行い、共焦点蛍光顕微鏡にて細胞を観察した像を示す。
図2】試験例1において、GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイを行い、アーモンド種皮抽出物、フラバノン、ナリンゲニン、及びエピカテキンガレート(ポジティブコントロール)について細胞膜へのDGKαのトランスロケーション率を測定し、エピカテキンガレート(ポジティブコントロール)のトランスロケーション率に対する、アーモンド種皮抽出物、フラバノン、及びナリンゲニンのトランスロケーション率の比率(トランスロケーション相対比、%)を求めた結果を示す図である。
図3】試験例2において、GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイを行い、各種濃度のアーモンド種皮抽出物、フラバノン、ナリンゲニン、及びエピカテキンガレート(ポジティブコントロール)について、細胞膜へのDGKαのトランスロケーション率を測定した結果を示す図である。
図4】試験例3において、GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイを行い、各種濃度のアーモンド種皮抽出物、及びフラボノイド混合物について、細胞膜へのDGKαのトランスロケーション率を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のDGKα活性化剤は、フラバノン類を含むことを特徴とする。以下、本発明のDGKα活性化剤について詳述する。
【0013】
[フラバノン類]
本発明のDGKα活性化剤では、DGKαを活性化させる有効成分として、フラバノン類を含有する。
【0014】
フラバノン類とは、2-フェニルクロマノン骨格を有するアグリコン及びその配糖体である。本発明で使用されえるフラバノン類の種類については、特に制限されないが、例えば、フラバノン(2,3-ジヒドロフラボン)、ナリンゲニン、ヘスペレチン、リクイリチゲニン、エリオジクチオール、ホモエリオジクチオール、サクラネチン、イソサクラネチン、ピノセムブリン、ステルビン、及びこれらの配糖体が挙げられる。配糖体としては、具体的には、ナリルチン、ナリンギン、プルニン等のナリンゲニン配糖体;ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、ヘスペレチン-7-ラムノシド等のヘスペレチン配糖体;リクイリチン等のリクイリチゲニン配糖体;エリオシトリン、ネオエリオシトリン等のエリオジクチオール配糖体;サクラニン等のサクラネチン配糖体;ポンシリン等のイソサクラネチン配糖体等が挙げられる。
【0015】
これらのフラバノン類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
これらのフラバノン類の中でも、より一層効果的にDGKαを活性化させるという観点から、好ましくはフラバノン、ナリンゲニン、及びこれらの配糖体、より好ましくはフラバノン及びその配糖体が挙げられる。
【0017】
本発明において、フラバノン類は、植物等の天然物から得られたものであってもよく、また、化学合成、酵素合成等によって合成又は半合成によって得られたものであってもよい。また、本発明において、フラバノン類として、精製品又は粗精製品を使用してもよく、また、フラバノン類を含む素材を使用してもよい。
【0018】
本発明のDGKα活性化剤の好適な一態様として、フラバノン類として、フラバノン類を含む植物抽出物を使用する態様が挙げられる。フラバノン類は、例えば、アーモンドの種皮、チャノキの葉(茶葉)、柑橘類の果実、トマトの果実、米等の植物に含まれていることが知られており、フラバノン類を含む植物抽出物は、これらの植物原料を抽出処理することにより得ることができる。
【0019】
前記植物抽出物を得るための抽出処理は、一般的な植物抽出物の製造に使用される抽溶媒抽出処理であればよい。
【0020】
溶媒抽出処理に供される植物原料は、そのままの生の状態であってもよいが、必要に応じて、粉砕、切断、蒸熱、揉捻、乾燥、焙煎、湯通し、ボイル等の前処理に供されていてもよい。
【0021】
溶媒抽出処理に使用される抽出溶媒は、フラバノン類を抽出可能であることを限度として特制限されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の炭素数1~4の1価低級アルコール;プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン等のケトン;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素;酢酸、塩酸等の酸;これらの混合液等が挙げられる。これらの抽出溶媒の中でも、好ましくは、好ましくは、水、1価低級アルコール、及びこれらの混合液;より好ましくは水、エタノール、及びこれらの混合液;更に好ましくは水とエタノールの混合液が挙げられる。また、抽出溶媒には、酢酸、塩酸等の酸;
【0022】
抽出溶媒として、水と1価低級アルコールの混合溶媒を使用する場合、当該混合溶媒における低級アルコールの含有量としては、例えば、10~95容量%、好ましくは20~90容量%、より好ましくは30~80容量%、更に好ましくは60~80容量%が挙げられる。
【0023】
溶媒抽出処理は、抽出溶媒中に植物原料を浸漬又は還流させて行えばよい。溶媒抽出処理後に固液分離により固形物を除去することにより、フラバノン類を含む植物抽出液が得られる。得られた抽出液は、そのまま又は一部の溶媒を除去して液状の植物抽出物として使用してもよいが、全ての溶媒を除去することにより固形状の植物抽出物として使用してもよい。
【0024】
また、得られた植物抽出物は、吸着樹脂、イオン交換樹脂、活性炭等を使用した精製処理に供してもよい。例えば、得られた植物抽出物を吸着樹脂に吸着させた後に、10~90容量%(好ましくは20~80容量%、より好ましくは20~60容量%)のエタノールを含む水溶液を用いて溶出させ、溶出画分を回収することによって、フラバノン類を濃縮させた植物抽出物を得ることができる。
【0025】
フラバノン類を含む植物抽出物の中でも、アーモンド種皮の抽出物は、フラバノン、ナリンゲニン、及びそれらの配糖体等のフラバノン類を含む特有の組成によって、DGKαを活性化させる作用が飛躍的に向上しているので、本発明のDGKα活性化剤における活性化成分として特に好適に使用できる。
【0026】
[用途・適用量]
本発明のDGKα活性化剤は、DGKαの活性化用途に使用される。DGKαの活性化によって、血中グルコースから合成されたDGがPAに効率的に変換され、その結果、糖尿病性腎症の発症及び増悪に関与しているPKCがDGによって活性化されるのを抑制できるので、本発明のDGKα活性化剤は、糖尿病性腎症の予防又は改善用途に使用することができる。
【0027】
例えば、糖尿病性腎症を罹患していない糖尿病患者は、糖尿病性腎症を罹患するリスクがあるため、本発明のDGKα活性化剤は、当該糖尿病患者に対しては、糖尿病性腎症の予防用途で使用できる。また、本発明のDGKα活性化剤は、糖尿病性腎症患者に対しては、糖尿病性腎症の症状の改善や増悪の予防用途で使用することができる。
【0028】
本発明のDGKα活性化剤の適用方法としては、特に制限されないが、例えば、経口、経腸、経静脈、経動脈、皮下、筋肉内等が挙げられる。これらの適用形態の中でも、簡便且つ効率的に生体内でDGKαを活性化させるという観点から、好ましくは経口適用が挙げられる。
【0029】
本発明のDGKα活性化剤の適用量については、DGKαを活性化させるのに有効量であればよく、使用される製品の種類や形態、期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、フラバノン類の成人1日当たりの摂取又は投与量が10~3000mg程度、好ましくは200~1400mg程度、より好ましくは400~1200mg程度、更に好ましくは600~1000mg程度となるように設定すればよい。なお、フラバノン類を含む植物抽出物を使用する場合であれば、植物抽出物のフラバノン類換算量が前記範囲を満たすように設定すればよい。
【0030】
[使用対象となる製品]
本発明のDGKα活性化剤が使用される製品の剤型については、特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、DGKα活性化剤の適用方法等に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
本発明のDGKα活性化剤が使用される製品の製剤形態については、特に制限されないが、例えば、飲食品、医薬品等が挙げられる。
【0032】
本発明のDGKα活性化剤を飲食品分野に使用する場合、フラバノン類(DGKα活性化剤)を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製し、DGKα活性化用の飲食品として提供すればよい。当該DGKα活性化用の飲食品は、糖尿病性腎症を罹患していない糖尿病患者又は糖尿病性腎症患者の食事療法に使用できる。
【0033】
飲食品としては、一般の飲食品の他、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品を含む)、病者用食品等の食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に限定されないが、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤等のサプリメント;パン類、麺類等の主菜;チーズ、ハム、ウインナー、魚介加工品等の副菜;ガム、チョコレート、ソフトキャンディー、ハードキャンディー、ビスケット、クッキー、クラッカー、おかき、煎餅、膨化スナック等の菓子類;アイスクリーム、ソフトクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓類;清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、粉末飲料、ゼリー飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、エナジードリンク、ノンアルコール飲料、アルコール飲料等の飲料類等が挙げられる。
【0034】
本発明のDGKα活性化剤を飲食品に使用する場合、飲食品における当該DGKα活性化剤の配合量については、飲食品の種類や形態等に応じて、前述する適用量を充足できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば、フラバノン類が0.001~95質量%、好ましくは0.005~90質量%、より好ましくは0.01~85質量%となるように設定すればよい。なお、フラバノン類を含む植物抽出物を使用する場合であれば、植物抽出物のフラバノン類換算量が前記範囲を満たすように設定すればよい。
【0035】
また、DGKα活性化剤を医薬品分野で使用する場合、フラバノン類(DGKα活性化剤)を単独で、又は他の薬理成分、薬学的に許容される基剤や添加剤等と組み合わせて所望の剤型に調製して、DGKα活性化用の医薬品として提供すればよい。このような医薬品の形態としては、特に制限されないが、具体的には、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、シロップ剤等の内服用医薬品;注射剤、輸液等の全身投与用医薬品等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは内服用医薬品が挙げられる。
【0036】
本発明のDGKα活性化剤を医薬品に使用する場合、医薬品における当該DGKα活性化剤の配合量については、医薬品の種類や剤型等に応じて、前述する適用量を充足できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば、例えば、フラバノン類が0.001~95質量%、好ましくは0.005~90質量%、より好ましくは0.01~85質量%となるように設定すればよい。なお、フラバノン類を含む植物抽出物を使用する場合であれば、植物抽出物のフラバノン類換算量が前記範囲を満たすように設定すればよい。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
製造例1:アーモンド種皮抽出物Aの製造及び組成分析
湯通ししたアーモンド種皮を水分含量が5重量%未満になるまで、60℃で乾燥させた。次いで、乾燥させたアーモンド種皮に対して10倍量(重量比)の70容量%エタノール水溶液を添加し、80℃で1時間還流させることにより溶媒抽出処理を行った。溶媒抽出処理後の液を濾紙にて濾過し、得られた濾液を乾燥させて抽出物(アーモンド種皮抽出物A)を得た。
【0039】
液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析によりアーモンド種皮抽出物Aのポリフェノール組成を分析した。その結果、アーモンド種皮抽出物Aには、少なくとも、ナリンゲニン配糖体が含まれていることが確認され、1g当たりのナリンゲニン配糖体含量は0.025 mgであった。
【0040】
製造例2:アーモンド種皮抽出物B及びCの製造
湯通ししたアーモンド種皮を水分含量が5重量%未満になるまで、60℃で乾燥させた。次いで、乾燥させたアーモンド種皮に対して10倍量(重量比)の70容量%エタノール水溶液を添加し、80℃で1時間還流させることにより溶媒抽出処理を行った。溶媒抽出処理後の液を遠心分離(17,000 x g、15分間)に供し、固形分を除去した。次いで、得られた抽出液を吸着樹脂(「ダイアイオンHP20」、三菱ケミカル株式会社)を充填したカラムにロードして、カラムの5倍量の10容量%エタノール水溶液を通液して洗浄した後に、30容量%又は50容量%エタノール水溶液を通液し、溶出画分を回収し、乾燥した。30容量%エタノール水溶液を用いて溶出させた画分をアーモンド種皮抽出物Bとし、50容量%エタノール水溶液を用いて溶出させた画分をアーモンド種皮抽出物Cとした。
【0041】
液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析によりアーモンド種皮抽出物B及びCに含まれるアグリコン形態のポリフェノールの組成を分析した。その結果、アーモンド種皮抽出物Bには、少なくとも、フラバノン、ナリンゲニン、及びエピカテキンガレートが含まれていることが確認され、フラバノン:ナリンゲニン:エピカテキンガレートの重量比は740:8.1:16であった。また、アーモンド種皮抽出物Cには、少なくとも、フラバノン、ナリンゲニン、エリオジクチオール、リクイリチゲニンが含まれていることが確認され、フラバノン:ナリンゲニン:エリオジクチオール:リクイリチゲニンの重量比は1300:170:5500:350であった。
【0042】
試験例1:GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイ-1
ハムスター精管平滑筋肉腫(DDT1-MF2)細胞を、2mMのL-グルタミン、5%の子牛胎児血清(FBS)、及び1%のペニシリン-ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)で培養した。サブコンフルエントになった時点で、細胞を1.0×105 cells/dishとなるように35mmポリリジンコートガラスボトムディッシュに入れて、37℃で24時間インキュベートした。次いで、FuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega)を用いて、緑色蛍光タンパク質(GFP)が融合されているDGKα(GFP-DGKα)をコードしているプラスミドを細胞に導入した。次いで、表1に示す条件で各試験サンプルを所定量添加して37℃で5分間インキュベートした。その後、4%パラフォルムアルデヒドで細胞を固定し、共焦点蛍光顕微鏡にて細胞内でのGFP-DGKαの局在部位を観察し、下記算出式に従って、DGKαのトランスロケーション率を算出した。そして、ポジティブコントロールのDGKαのトランスロケーション率に対する各サンプルのトランスロケーション率の比率(トランスロケーション相対比、%)を求めた。なお、細胞内でDGKαが活性化されると、DGKαは細胞質から細胞膜にトランスロケーションされるため、DGKα活性が高い程、前記トランスロケーション率が高くなる。
【数1】
【0043】
【表1】
【0044】
共焦点蛍光顕微鏡にて細胞を観察した像を図1に示す。図1中、ネガティブコントロールでは、GFPが細胞膜に局在化しておらず、DGKαが細胞質から細胞膜にトランスロケーションされていない細胞の像を示している。図1中、ネガティブコントロール以外は、GFPが細胞膜に局在化しており、DGKαが細胞質から細胞膜にトランスロケーションされている細胞の像を選んで示している。
【0045】
また、各条件でのトランスロケーション相対比を図2に示す。この結果、フラバノン配糖体及びナリンゲニン配糖体を含むアーモンド種皮抽出物A~C、フラバノン、並びにナリンゲニンには、DGKαを活性化する作用が優れており、とりわけ、ナリンゲニンには、DGKαを活性化する作用が格段優れていることが分かった。なお、図2には示していないが、ネガティブコントロールでは、トランスロケーション相対比は0%であった。以上の結果から、フラバノン類には、DGKαを活性化する作用があることが明らかとなった。
【0046】
試験例2:GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイ-2
表2に示す条件で試験サンプルを添加したこと以外は、前記試験例1と同条件でDGKαのトランスロケーション率を求めた。
【0047】
【表2】
【0048】
結果を図3に示す。この結果、アーモンド種皮抽出物B及びC、フラバノン、並びにナリンゲニンは、濃度依存的に、DGKαを活性化する作用が高まることが確認された。
【0049】
試験例3:GFP-DGKαのトランスロケーションアッセイ-3
表3に示す条件で試験サンプルを添加したこと以外は、前記試験例1と同条件でDGKαのトランスロケーション率を求めた。なお、実施例6で使用したフラボノイド混合物におけるフラバノン、ナリンゲニン及びエピカテキンガレートの比率は、実施例2で使用したアーモンド種皮抽出物Bに含まれるフラバノン、ナリンゲニン及びエピカテキンガレートの比率と同一となるように設定されている。
【0050】
【表3】
【0051】
結果を図4に示す。この結果、フラバノン、ナリンゲニン及びエピカテキンガレートを含むフラボノイド混合物でも、DGKαを活性化する作用が認められた。また、実施例2で使用したアーモンド種皮抽出物Bは、実施例6で使用したフラボノイド混合物とフラバノン、ナリンゲニン及びエピカテキンガレートの比率が同一であるにもかかわらず、実施例2は、実施例6に比べてDGKαを活性化する作用が高かったことから、アーモンド種皮抽出物には、DGKαを活性化する作用を向上させ得る特有の組成を有していることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4