(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】アルミニウム合金部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/057 20060101AFI20241127BHJP
C22C 21/12 20060101ALI20241127BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
C22F1/057
C22C21/12
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 651Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692Z
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2020128343
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 信人
(72)【発明者】
【氏名】森 祐輝也
(72)【発明者】
【氏名】森 真俊
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012183(JP,A)
【文献】特開2010-276088(JP,A)
【文献】特開平01-152237(JP,A)
【文献】特開2020-012182(JP,A)
【文献】特開2008-101264(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107236916(CN,A)
【文献】特開2021-134414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
C22F 1/04 - 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.90~2.70質量%のCuと、1.30~1.80質量%のMgと、0.90~1.30質量%のFeと、0.90~1.20質量%のNiと、0.04~0.10質量%のTiと、0.25質量%未満のSiと、0.010質量%未満のZnと、0.050質量%未満のPbと、0.050質量%未満のSnと、0.050質量%未満のBiとを含有し、残部がAlと不可避不純物とからなる連続鋳造材に対し、均質化処理を行った後、断面減少率が20.0~99.0%となるような
鍛造加工を行う、
アルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項2】
1.90~2.70質量%のCuと、1.30~1.80質量%のMgと、0.90~1.30質量%のFeと、0.90~1.20質量%のNiと、0.04~0.10質量%のTiと、0.25質量%未満のSiと、0.010質量%未満のZnと、0.010質量%未満のPbと、0.010質量%未満のSnと、0.010質量%未満のBiとを含有し、残部がAlと不可避不純物とからなる連続鋳造材に対し、均質化処理を行った後、断面減少率が20.0~99.0%となるような
鍛造加工を行う、
アルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項3】
前記
鍛造加工で得られた
鍛造加工品に対して熱処理を行う、
請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理として、溶体化処理と焼入れ処理と時効処理とを順次行うとともに、
前記溶体化処理において500~540℃の温度で1時間~15時間加熱し、
前記焼入れ処理において15~90℃の水で冷却し、
前記時効処理において170~230℃の温度で1時間~24時間加熱する、
請求項3に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理を行う前の前記
鍛造加工品に対して切削加工を行う、
請求項3または請求項4に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を行った後の前記
鍛造加工品に対して切削加工を行う、
請求項3または請求項4に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム合金部品の製造方法に関し、特に塑性加工を行うアルミニウム合金部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車および船舶等における輸送機器の内燃機関としてのターボチャージャーのコンプレッサホイールインペラーや機械式真空ポンプであるターボ分子ポンプの羽根車や火力発電所などの大型送風機の動翼などの耐熱部品には、100~280℃の高温環境にて100~10000rpmを超える回転数の回転が与えられる。そのため、これらの耐熱部品に適用される素材には、高温下において高強度および高剛性が求められる。加えて、コンプレッサホイールインペラーは、エネルギー損失の低減を図るためにも軽量化が要求されるとともに、高速回転に耐えることができる強度も要求される。
【0003】
例えば従来において、これらの耐熱部品は2618合金の合金組成を備えた鋳造・鍛造品を切削加工することにより製造されていた。しかしながら、近年における切削加工の高速度化・高精度化により、アルミニウム押出材からの切削品化が進んできており、切削性の向上や高温強度の改善がさらに必要となってきた。
【0004】
例えば、170℃程度の高温環境下での強度を従来以上に向上させたAl-Cu-Mg系アルミニウム合金鍛造品が開示されている(特許文献1、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環境負荷低減の観点から、上述した耐熱部品には、現状以上の高速回転化が求められ、使用温度の更なる上昇に耐えることが求められており、特許文献1のAl-Cu-Mg系アルミニウム合金鍛造品では、高温強度および高温での剛性が不足するという問題があった。
【0007】
本発明は、前記課題にかんがみてなされたものであり、高温強度および高温での剛性を向上させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明のアルミニウム合金部品の製造方法において、1.90~2.70質量%のCuと、1.30~1.80質量%のMgと、0.90~1.30質量%のFeと、0.90~1.20質量%のNiと、0.04~0.10質量%のTiと、0.25質量%未満のSiと、0.010質量%未満のZnと、0.050質量%未満のPbと、0.050質量%未満のSnと、0.050質量%未満のBiとを含有し、残部がAlと不可避不純物とからなる連続鋳造材に対し、均質化処理を行った後、断面減少率が20.0~99.0%となるような鍛造加工を行う。
【0009】
前記のように構成したアルミニウム合金部品の製造方法によれば、高温強度および高温での剛性に優れたアルミニウム合金部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】アルミニウム合金部品の
塑性加工の形態例の模式図である。
【
図2】アルミニウム合金部品の
塑性加工の形態例の模式図である。
【
図3】アルミニウム合金部品の
塑性加工の形態例の模式図である。
【
図4】実施例及び比較例のクリープ強度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
<合金組成>
本発明のアルミニウム合金部品は、1.90~2.70質量%のCuと、1.30~1.80質量%のMgと、0.90~1.30質量%のFeと、0.90~1.20質量%のNiと、0.04~0.10質量%のTiと、0.25質量%未満のSiと、0.010質量%未満のZnと、0.050質量%未満のPbと、0.050質量%未満のSnと、0.050質量%未満のBiとを含有し、残部がAlと不可避不純物とからなる合金組成を備えている。
【0012】
前記合金組成において、Cuは常温強度および高温強度を向上させるために添加することが必要な元素である。このCuの含有量が1.90質量%未満では十分な強度向上の効果を得ることはできず、好ましくない。また、Cuの含有量が2.70質量%を超えると鋳造性が悪くなり、凝固時に割れが生じやすくなるため、好ましくない。従って、Cuの含有量は1.90~2.70質量%とするのが良い。
【0013】
MgはCuと同様、常温強度および高温強度を向上させるために添加することが必要な元素である。このMgの含有量が1.30質量%未満では十分な強度向上の効果を得ることはできず、好ましくない。また、Mgの含有量が1.80質量%を超えると鋳造時の溶湯酸化が著しくなり、Mgの含有量の制御が難しくなるため、好ましくない。従って、Mgの含有量は1.30~1.80質量%とするのが良い。
【0014】
Feは高温強度を向上させるために添加する元素である。Feの含有量が0.90質量%未満では十分な強度向上の効果を得ることはできず、好ましくない。また、Feの含有量が1.30質量%を超えると、Cuと結合して晶出物を形成し、強度の低下を招くので好ましくない。従って、Feの含有量は0.90~1.30質量%とするのが良い。
【0015】
NiはFeと同様に高温強度を向上させるために添加する元素である。Niの含有量が0.90質量%未満では十分な強度向上の効果を得ることはできず、好ましくない。また、Niの含有量が1.20質量%を超えると、Feと結合し巨大晶出物が発生し、強度の低下や塑性加工時の割れを招くので好ましくない。従って、Niの含有量は0.90~1.20質量%とするのが良い。
【0016】
Tiは鋳造に形成される金属組織を微細化して機械的性質を安定化させる元素である。Tiの含有量が0.04質量%未満では十分な金属組織の微細化効果を得ることはできず、好ましくない。また、Tiの含有量が0.10質量%を超えると、Alと結合し巨大晶出物が発生し、強度の低下や塑性加工時の割れを招くので好ましくない。従って、Tiの含有量は0.04~0.10質量%とするのが良い。
【0017】
ところで、実操業で得られるアルミニウム合金には、種々の不可避不純物が含まれる。本発明に係る2618合金を基としたAl-Cu-Mg系アルミニウム合金においても、他のJISS2000系アルミニウム合金とほぼ同様な不可避不純物が含まれる。これまで、不可避不純物は、個々に0.05質量%未満、不可避不純物の合計で0.15質量%未満であれば特に問題は生じないとされていた。
【0018】
しかし、本発明の発明者による検証の結果、不可避不純物のうち、Zn、Pb、Bi、Snは2618合金を基としたAl-Cu-Mg系アルミニウム合金において、高温特性に著しい影響を与えることが明らかになった。
【0019】
Znは金属組織の結晶粒界に偏在し、100℃以上の高温環境下ではその強度を低下させ、高温での剛性を著しく低下させる元素である。そのため、Zn含有量は0.010質量%未満に制限される必要がある。さらに望ましくは、0.005質量%未満であると前記効果をより確実に得ることができる。
【0020】
Pbは、327℃以上でAlと反応して液相を生じる元素であり、100~280℃の高温環境下で素材の強度および剛性を著しく低下させる。そのため、Pb含有量は、0.050質量%未満に制限され、0.010質量%未満に制限されることが望ましい。さらに望ましくは、Pb含有量が0.005質量%未満であると前記効果をより確実に得ることができる。
【0021】
Snは228.3℃以上でAlと反応して液相を生じる元素であり、Pbと同様に100~280℃の高温環境下で素材の強度および剛性を著しく低下させる。そのため、Sn含有量は、0.050質量%未満に制限され、0.010質量%未満に制限されることが望ましい。さらに望ましくは、Sn含有量が0.005質量%未満であると前記効果をより確実に得ることができる。
【0022】
Biは271.4℃以上でAlと反応して液相を生じる元素であり、Pb、Snと同様に100~280℃の高温環境下で素材の強度および剛性を著しく低下させる。そのため、Bi含有量は、0.050質量%未満に制限され、0.010質量%未満に制限されることが望ましい。さらに望ましくは、Bi含有量が0.005質量%未満であると前記効果をより確実に得ることができる。
【0023】
<製造方法>
本発明においては、例えば、周知の方法で溶製することによって前記の合金組成の連続鋳造材(ビレットもしくはスラブ)を製作して、均質化処理を行い、さらに熱間で、あるいは、熱間と冷間を組み合わせて、断面減少率が20.0~99.0%、好ましくは80.0~95.0%となるような塑性加工を加えることによりアルミニウム合金部品が得られる。連続鋳造材の形状としては、例えば、円柱状の形状が挙げられる。
【0024】
本発明において、断面減少率は、以下の式(1)によって求められる値である。
断面減少率(%)=((A-a)/A)×100 (1)
式(1)中、aは、「本発明のアルミニウム合金部品の製造方法を行い得られるアルミニウム合金部品の中心軸に垂直な面」の断面積である。Aは、「本発明のアルミニウム合金部品の製造方法を行い得られるアルミニウム合金部品の中心軸に垂直な面」に対応する「本発明のアルミニウム合金部品の製造方法を行う前の連続鋳造材の断面のうち面積が最大の面」の面積である。なお、「本発明のアルミニウム合金部品の製造方法を行う前の連続鋳造材」とは、本発明のアルミニウム合金部品の製造方法に供される連続鋳造材である。また、本発明のアルミニウム合金部品の製造方法において、複数の塑性加工を行う場合は、断面減少率は、最後の塑性加工後の塑性加工材の断面積を「a」とし、最初の塑性加工前の連続鋳造材の断面積を「A」とする。
【0025】
例えば、
図1に示す形態例のように、円柱状の連続鋳造材10aを、熱間で中心軸方向11aに圧縮して、直径方向に広げる、鍛造加工を行い、円柱状の鍛造丸棒20aを得る場合、鍛造丸棒20aの中心軸方向に垂直な断面の断面積が「a」であり、連続鋳造材10aの中心軸を含む平面で切断したときの断面の断面積が「A」である。なお、
図1に示す形態例の場合は、鍛造丸棒20aの中心軸方向に垂直な断面の形状は円形であり、連続鋳造材10aの中心軸を含む平面で切断したときの断面の形状は矩形である。中心軸方向とは、連続鋳造材10a又は鍛造丸棒20aの長手方向を意味する。
【0026】
また、例えば、
図2に示す形態例のように、円柱状の連続鋳造材10bを、熱間で直径方向11bに圧縮して、中心軸方向に広げる、鍛造加工を行い、円柱状の鍛造丸棒20bを得る場合、鍛造丸棒20bの中心軸方向に垂直な断面の断面積が「a」であり、連続鋳造材10bの中心軸方向に垂直な断面の断面積が「A」である。なお、
図2に示す形態例の場合は、鍛造丸棒20bの中心軸方向に垂直な断面の形状は円形であり、連続鋳造材10bの中心軸方向に垂直な断面の形状は円形である。中心軸方向とは、連続鋳造材10b又は鍛造丸棒20bの長手方向を意味する。
【0027】
また、例えば、
図3に示す形態例のように、円柱状の連続鋳造材10cを、中心軸方向11cに、熱間で押出する押出加工を行い、円柱状の鍛造丸棒20cを得る場合、鍛造丸棒20cの中心軸方向に垂直な断面の断面積が「a」であり、連続鋳造材10cの中心軸方向に垂直な断面の断面積が「A」である。なお、
図3に示す形態例の場合は、鍛造丸棒20cの中心軸方向に垂直な断面の形状は円形であり、連続鋳造材10cの中心軸方向に垂直な断面の形状は円形である。中心軸方向とは、連続鋳造材10c又は鍛造丸棒20cの長手方向を意味する。
【0028】
本発明のアルミニウム合金部品の製造方法では、連続鋳造材に対し、均質化処理を行った後、1種の熱間の塑性加工のみを行ってもよい。
【0029】
また、本発明のアルミニウム合金部品の製造方法では、2種以上の熱間の塑性加工を組み合わせることができる。例えば、連続鋳造材に対し、均質化処理を行った後、先ず、円柱状の連続鋳造材を、中心軸方向に圧縮して、直径方向に広げる第一鍛造加工を行い、次いで、得られる円柱状の第一鍛造加工材を、直径方向に圧縮して、中心軸方向に広げる第二鍛造加工を行い、塑性加工材(鍛造丸棒)を得ることができる。この場合は、第一鋳造加工前の円柱状の連続鋳造材の中心軸を含む平面で切断したときの断面の断面積が「A」であり、第二鍛造加工を行った後の塑性加工材(鍛造丸棒)の中心軸方向に垂直な断面の断面積が「a」である。
【0030】
本発明のアルミニウム合金部品の製造方法では、連続鋳造材に対し、均質化処理を行った後、熱間での塑性加工を行い、さらに鍛造丸棒での塑性加工を行ってもよい。
【0031】
連続鋳造材に塑性加工を行うことにより得られる塑性加工品の形状としては、例えば、丸棒形状が挙げられる。
【0032】
連続鋳造材に塑性加工を行うことにより得られた塑性加工品に対して熱処理を施すことにより、より確実に高温環境における強度および剛性を得ることができる。熱処理として、例えば溶体化処理と焼入れ処理と時効処理とを順に行うことが良い。溶体化処理においては、加熱温度を500~540℃とし、処理時間を1時間~15時間とするのが良い。焼入れ処理においては、15~90℃の水で冷却するのが良い。時効処理においては、加熱温度を170~230℃とし、処理時間を1時間~24時間とするのが良い。
【0033】
熱処理を施した塑性加工品に対して切削加工を行ない、各種用途に応じた形状に整えることで、輸送機器の内燃機関としてのターボチャージャーのコンプレッサホイールインペラーやターボ分子ポンプの羽根車や大型送風機の動翼などの耐熱部品を得ることができる。この切削加工は熱処理を施す前に実施してもよく、切削加工後に熱処理を行ってもよい。
【0034】
また、本発明に係る塑性加工は、軸方向(加工前の部材の長手方向)に圧縮する鍛造加工や軸方向(加工前の部材の長手方向)に押し出す押出加工が望ましく、これらを組み合わせて行ってもよいし、これらの一方を複数回行ってもよい。また、本発明に係る塑性加工は、熱間での塑性加工のみであってもよいし、あるいは、熱間と冷間の組み合わせの塑性加工、例えば、熱間で1回又は複数回塑性加工を行った後、冷間での仕上げの塑性加工を行うような塑性加工であってもよい。塑性加工における断面減少率を20.0~99.0%、好ましくは80.0~95.0%に設定するのが良い。この断面減少率を前記の規定範囲内に設定することにより、十分な常温強度、高温強度および高温での剛性を確実に得ることができる。
【0035】
以上説明した本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム合金部品においては、常温強度、高温強度および高温での剛性が高くなる。とりわけ、高温での剛性特性の一つである耐クリープ性が高くなる。そして、耐クリープ性が高いので、高温でも高強度が維持される。従って、100~280℃の高温環境下で使用される前記耐熱部品として、本発明によって製造されたアルミニウム合金部品を使用することにより、高温環境下での負荷状態での経年変形(クリープ変形)を抑制することが可能となる。さらに、前記耐熱部品が組み込まれたシステム全体の性能(例えば、ターボチャージャーのコンプレッサーホイールであれば燃費性能)を安定化することができるとともに、製品寿命を延ばすことが可能となる。
【0036】
このように、本発明の製造方法によれば、前記の優れた性能を有するアルミニウム合金部品、鍛造素形材、押出素棒、輸送機器の内燃機関としてのターボチャージャーのコンプレッサホイールインペラーやターボ分子ポンプの羽根車や大型送風機の動翼などの耐熱部品を製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明に関連した実施例および実施例と対比する比較例について詳細に説明する。
【0038】
<合金組成>
表1に示すように、合金組成が異なる3種類の合金A,B,Cを準備した。合金Aは本発明に規定する合金(実施例)である。合金B,Cは比較材(比較例)であり、合金Aの組成と比べて、特にZnの含有量が高くなっている。含有量が測定下限値を下回るものについては、表1に“検出されず”と示す。
【0039】
【0040】
<鋳造および均質化処理>
合金A,B,Cを直径600mm×長さ1000mmの円柱状のビレットに鋳造し、495℃×14hrの均質化処理を施した。
【0041】
<塑性加工(熱間鍛造)>
均質化処理によって得られた連続鋳造材10aを
図1に示すように、軸方向に熱間据え込鍛造を行い、さらに熱間鍛造により連続鋳造材10aの半径方向に引伸ばすことで、直径271mm×長さ4550mmの円柱状の鍛造丸棒(塑性加工品)20aを作製した。鍛造丸棒20aの断面積をaとし、原料の連続鋳造材10aの断面積をAとした場合に、「断面減少率(%)=((A-a)/A)×100」で定義される断面減少率は90.3%であった。なお、
図1中、連続鋳造材10aの断面積Aは、中心軸を含む平面で連続鋳造材10aを切断して得られる矩形断面の面積である。鍛造丸棒20aの断面積aは、
図1中、中心軸に垂直な平面で鍛造丸棒20aを切断して得られる円形断面の面積である。
【0042】
以上のようにして製造した合金Aの鍛造丸棒20aに対して、上述した熱処理と切削加工とを行うことにより、輸送機器の内燃機関としてのターボチャージャーのコンプレッサホイールインペラーやターボ分子ポンプの羽根車や大型送風機の動翼などの耐熱部品を製造することができる。
【0043】
<クリープ試験>
上述した鍛造丸棒20aから直径271mm×長さ255mmの円柱を切出し、さらに半径方向を切断して、長さ約271mm×幅255mm×厚さ95mmの板材を得た。前記板材に対して、前記耐熱部品を製造する際と同様の熱処理を行った。具体的に、530℃×7hrの溶体化処理と、90℃の水に投入する焼入れ処理と、200℃×12hrの時効処理とを順に行った。
【0044】
前記熱処理を施した板材から鍛造丸棒20aの半径方向が長手方向となるように「JIS Z 2271 金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法」に規定された試験片を切り出し、同規格に従って、120℃におけるクリープ試験を実施した。
【0045】
図4は、クリープ試験の結果を示す。
図4の縦軸はクリープ歪み(クリープ変形量)を示し、横軸は時間を示す。
図4から明らかなように、実施例の合金A(A-1,A-2)は、比較例の合金B,C(C-1,C-2)と比較して、500hr保持時点のクリープ歪みが十分に抑制されており、120℃において、優れた剛性を示す。これに対して、比較例の合金B,Cはクリープ歪みが十分に抑制されておらず、120℃での剛性が低くなることが分かった。
【0046】
以上説明したように、本発明の製造方法によって製造された実施例のアルミニウム合金部品は、特に高温での剛性に優れているため、輸送機器の内燃機関としてのターボチャージャーのコンプレッサホイールインペラーやターボ分子ポンプの羽根車や大型送風機の動翼などの耐熱部品に好適である。
【符号の説明】
【0047】
10 連続鋳造材
11a、11c 中心軸方向
11b 直径方向
20 鍛造丸棒(塑性加工品)