(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241127BHJP
【FI】
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2020137385
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-295786(JP,A)
【文献】特開平10-23760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、
前記制御装置は、
前記モータの各相に印加する電圧を生成するための三相変調電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、
前記三相変調電圧指令値に基づき、前記インバータ回路の一相の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、他の二相の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値を演算する線間変調演算部と、
前記二相変調電圧指令値に基づき、前記インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を有し、
特定の一相の前記上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、
ON/OFF状態を変調させる前記二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、前記モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、
前記制御装置は、
前記モータの各相に印加する電圧を生成するための三相変調電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、
前記三相変調電圧指令値に基づき、前記インバータ回路の一相の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、他の二相の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値を演算する線間変調演算部と、
前記二相変調電圧指令値に基づき、前記インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を有し、
前記線間変調演算部は、特定の一相の前記上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させる前記二相変調電圧指令値を出力すると共に、
前記PWM信号生成部は、前記線間変調演算部が出力した前記二相変調電圧指令値を補正することにより、ON/OFF状態を変調させる前記二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、前記モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
前記制御装置は、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の上アームスイッチング素子がONし、他方の下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記制御装置は、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の相電圧の立ち下がりと他方の相電圧の立ち上がりのタイミング、及び、前記一方の相電圧の立ち上がりと前記他方の相電圧の立ち下がりのタイミング、のうちの何れかのタイミングのみを同期させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記制御装置は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方の前記タイミングを選択して同期させることを特徴とする請求項4に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記特定の一相の上下アームスイッチング素子は、電動圧縮機で最も低温となる箇所と熱交換関係に配置されていることを特徴とする
請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流出力モータに印加して駆動するインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりモータを駆動するためのインバータ装置は、複数のスイッチング素子により三相インバータ回路を構成すると共に、UVW各相のスイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御し、正弦波に近い電圧波形をモータに印加して駆動するものであるが、モータの中性点電位の変動により発生するコモンモードノイズが問題となっていた。
【0003】
このコモンモードノイズは、例えば電動コンプレッサを構成するモータの場合、コンプレッサの筐体と接地間の浮遊容量を通して漏洩するコモンモード電流によって発生するものであるが、従来ではノイズフィルタを設置して規制を満足させていた。しかしながら、係るノイズフィルタの設置は装置の大型化を招き、コストも高騰する問題がある。
【0004】
それに対して、三相変調電圧指令値(U相電圧指令値Vu’、V相電圧指令値Vv’、W相電圧指令値Vw’)を補正して各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを合わせることで、中性点電位の変動によるコモンモードノイズの発生をキャンセルする方式も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
次に、
図10は係る方式のインバータ装置におけるU相電圧指令値Vu’を補正したU相電圧指令補正値Cu’、V相電圧指令値Vv’を補正したV相電圧指令補正値Cv’、W相電圧指令値Vw’を補正したW相電圧指令補正値Cw’と、キャリア信号(carrier)、U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位Vcを示した図である。尚、
図10の各値は、直流電圧Vdcで正規化(-1~1に補正)した後の値である。
【0006】
この場合、鋸波のキャリア信号(実線)を使用しているため、U相電圧指令補正値Cu’には1キャリア周期内に立ち上げ指令値Cu’up(細かい破線。以下、同じ)と立ち下げ指令値Cu’down(幅広の破線。以下、同じ)が存在する。同様に、V相電圧指令補正値Cv’にも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Cv’upと立ち下げ指令値Cv’downが存在し、W相電圧指令補正値Cw’にも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Cw’upと立ち下げ指令値Cw’downが存在する。
【0007】
そして、U相電圧指令補正値Cu’の立ち上げ指令値Cu’up、立ち下げ指令値Cu’down、V相電圧指令補正値Cv’の立ち上げ指令値Cv’up、立ち下げ指令値Cv’down、W相電圧指令補正値Cw’の立ち上げ指令値Cw’up、立ち下げ指令値Cw’downとキャリア信号の大小を比較することで、インバータ回路の駆動指令信号となるPWM信号を生成する。このPWM信号が正規化後のU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧となる。
【0008】
そして、モータの中性点電位Vcは、各相電圧の平均値である(Vu+Vv+Vw)/3で算出されるが、特許文献1の方式では、電圧指令補正値Cu’、Cv’、Cw’で
図11に示すように各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことで、中性点電位Vcの変動を抑制する。尚、
図11は
図10の枠Z1部分を拡大したものである。また、この場合の条件は、例えばキャリア周波数20kHz、直流電圧350Vの場合である。更に、各図では中性点電位Vcの変動幅を整数で比較したいため、平均値では無く、Vc=(Vu+Vv+Vw)で表現している。
【0009】
また、
図11の如くU相は上アームスイッチング素子がONし、V相とW相は下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始される。例えば、
図11中の45°の位相t9と52°を少許過ぎた位相t11では、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングに合わせてV相電圧Vvが立ち上がるように立ち上げ指令値Cu’upが生成され、46.5°の位相t10と54°の少許手前の位相t12では、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングに合わせてW相電圧Vwが立ち下がるように立ち下げ指令値Cw’downが生成されており、これにより、各位相t9~t12における中性点電位Vcの変動はキャンセルされている。尚、中性点電位Vcの変動幅は、-1~1の2となる(
図10、
図11)。
【0010】
これにより、1キャリア周期中に発生するコモンモードノイズを理論的には1/3にまで低減することができる。
図12は上記方式のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラム(FFT結果)を示し、
図13は一般的な三相変調方式のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラムを示している。各図から明らかな如く、上記方式によれば一般的な三相変調に比して中性点電位Vcの変動が抑制されていることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO2019/180763A1号公報
【文献】特開2019-115158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記方式の如くU相電圧の立ち下がりタイミング(t9、t11)と立ち上がりタイミング(t10、t12)にそれぞれ合わせてV相電圧の立ち上がりタイミングとW相電圧の立ち下がりタイミングを合わせる場合、変調幅が狭くなり、高い変調率にすることができなくなって、モータが駆動できる領域が非常に狭くなってしまうという課題がある。
【0013】
一方、近年ではスイッチング素子の損失と発熱を低減する目的で、二相変調と称される方式を適用したインバータ装置も提案されている。この二相変調方式のインバータ装置は、UVWの各相のうち何れか一相のON/OFF状態を固定し、他の二相のみON/OFF状態を変調させながら制御することにより、三相変調方式よりもスイッチング素子のスイッチング回数を減少させ、スイッチング損失と発熱量を減少させつつ、PWM制御するものである(例えば、特許文献2参照)。また、スイッチング回数が減少することで、当然に中性点電位が変動する回数も少なくなるので、確実にコモンモードノイズを2/3に低減できる。
【0014】
図14は一般的な二相変調方式のインバータ装置において三相変調電圧指令値(U相電圧指令値Vu’、V相電圧指令値Vv’、W相電圧指令値Vw’)から生成された二相変調電圧指令値であるU相電圧指令値、V相電圧指令値、W相電圧指令値をそれぞれU、V、Wで示している。尚、この場合も各値は、直流電圧Vdcで正規化(-1~1に補正)した後の値である。
【0015】
また、この場合も鋸波のキャリア信号(実線)を使用しているため、二相変調のU相電圧指令値Uには1キャリア周期内に立ち上げ指令値Uupと立ち下げ指令値Udownが存在する。同様に、二相変調のV相電圧指令値Vにも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Vupと立ち下げ指令値Vdownが存在し、二相変調のW相電圧指令値Wにも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Wupと立ち下げ指令値Wdownが存在する。
【0016】
そして、U相電圧指令値Cuの立ち上げ指令値Uup、立ち下げ指令値Udown、V相電圧指令値Vの立ち上げ指令値Vup、立ち下げ指令値Vdown、W相電圧指令値Wの立ち上げ指令値Wup、立ち下げ指令値Wdownとキャリア信号の大小を比較することで、インバータ回路の駆動指令信号となるPWM信号を生成する。このPWM信号が正規化後のU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧となる。
【0017】
図14に示す如く0°から120°の位相では、W相の下アームスイッチング素子がON状態に固定され、120°から240°の位相では、U相の下アームスイッチング素子がON状態に固定されている。また、240°から360°の位相では、V相の下アームスイッチング素子がON状態に固定されている。
【0018】
そして、モータの中性点電位Vcは、同様に各相電圧の平均値である(Vu+Vv+Vw)/3で算出されるが、特許文献2の方式では、二相変調の各電圧指令値U、V、Wで
図15に示すように各相の上下アームスイッチング素子のスイッチング回数が2/3に減少するので、中性点電位Vcが変動して発生するコモンモードノイズも、一般的な三相変調方式に比して2/3に低減される。尚、中性点電位Vcの変動幅は4(-3~1)となる。また、
図15は
図14の枠Z2部分を拡大したものである。また、この場合の条件もキャリア周波数20kHz、直流電圧350Vである。
【0019】
図16は係る二相変調方式のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラムを示している。この図からも明らかな如く、二相変調方式によれば高い変調率を維持しながら、一般的な三相変調(
図13)に比して中性点電位Vcの変動が抑制されるものであった。
【0020】
本発明は、係る従来の状況に鑑みて成されたものであり、二相変調方式を基本とし、更なるコモンモードノイズの低減を図ることができるインバータ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1の発明のインバータ装置は、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、モータの各相に印加する電圧を生成するための三相変調電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、三相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路の一相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、他の二相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値を演算する線間変調演算部と、二相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を有し、特定の一相の前記上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、ON/OFF状態を変調させる前記二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことを特徴とする。
【0022】
請求項2の発明のインバータ装置は、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、モータの各相に印加する電圧を生成するための三相変調電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、三相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路の一相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、他の二相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値を演算する線間変調演算部と、二相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を有し、線間変調演算部は、特定の一相の上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の前記上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させる二相変調電圧指令値を出力すると共に、PWM信号生成部は、線間変調演算部が出力した二相変調電圧指令値を補正することにより、ON/OFF状態を変調させる二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことを特徴とする。
【0023】
請求項3の発明のインバータ装置は、上記各発明において制御装置は、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の上アームスイッチング素子がONし、他方の下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始することを特徴とする。
【0024】
請求項4の発明のインバータ装置は、上記各発明において制御装置は、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の相電圧の立ち下がりと他方の相電圧の立ち上がりのタイミング、及び、一方の相電圧の立ち上がりと他方の相電圧の立ち下がりのタイミング、のうちの何れかのタイミングのみを同期させることを特徴とする。
【0025】
請求項5の発明のインバータ装置は、上記発明において制御装置は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させることを特徴とする。
【0026】
請求項6の発明のインバータ装置は、上記各発明において特定の一相の上下アームスイッチング素子は、電動圧縮機で最も低温となる箇所と熱交換関係に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、制御装置が、モータの各相に印加する電圧を生成するための三相変調電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、三相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路の一相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、他の二相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値を演算する線間変調演算部と、二相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を有しているので、二相変調により上下アームスイッチング素子のスイッチング回数を減少させ、スイッチング損失と発熱量を減少させ、且つ、モータの中性点電位の変動も低減することができるようになる。
【0028】
本発明ではそれに加えて制御装置が、ON/OFF状態を変調させる前記二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようにしたので、スイッチング素子のスイッチングタイミングによりモータの中性点電位の変動をより一層抑制し、コモンモードノイズの発生を著しく抑制することが可能となる。
【0029】
また、スイッチングタイミングの同期に誤差が生じた場合にも、上記二相変調による中性点電位の変動低減によるノイズ抑制効果は最低限享受することができるので、総じて安定的にノイズの少ないモータ制御装置を実現することができるようになるものである。
【0030】
特に、請求項1の発明のでは制御装置が、特定の一相の上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させるようにしたので、二相変調とスイッチングタイミングの同期の双方を容易且つ円滑に実現することが可能となる。
【0031】
また、請求項2の発明では線間変調演算部が、特定の一相の上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させる二相変調電圧指令値を出力すると共に、PWM信号生成部が、線間変調演算部が出力した二相変調電圧指令値を補正することにより、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようにしたので、線間変調演算部が、相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すような二相変調電圧指令値を出力するものでは無くなり、計算が簡素化されるようになる。
【0032】
この場合、請求項3の発明の如く制御装置が、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の上アームスイッチング素子がONし、他方の下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始するようにすれば、相電圧の変化を他の相電圧の変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0033】
特に、請求項4の発明の如く制御装置が、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の相電圧の立ち下がりと他方の相電圧の立ち上がりのタイミング、及び、一方の相電圧の立ち上がりと他方の相電圧の立ち下がりのタイミング、のうちの何れかのタイミングのみを同期させるようにすれば、変調幅が狭くなる不都合を解消若しくは抑制し、高い変調率でモータを駆動することが可能となる。
【0034】
この場合、請求項5の発明の如く制御装置が、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させるようにすれば、回路に生じるサージ電圧も効果的に抑制することができるようになる。
【0035】
この場合、請求項6の発明の如く特定の一相の上下アームスイッチング素子を、電動圧縮機で最も低温となる箇所と熱交換関係に配置することで、ON/OFF状態を固定されること無く常時スイッチングされ、温度が高くなる特定の一相の上下アームスイッチング素子を効果的に冷却し、電動圧縮機が強制停止される等の不都合を未然に回避することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施例のインバータ装置の電気回路図である。
【
図2】
図1のインバータ装置を備えた一実施例の電動圧縮機の縦断側面図である。
【
図3】
図2の電動圧縮機をインバータ収容部側から見たカバーと基板を除く側面図である。
【
図4】
図1のインバータ装置の二相変調の電圧指令補正値とキャリア信号、相電圧、モータの中性点電位を示す図である。
【
図9】
図1のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラムを示す図である。
【
図10】従来の三相変調方式でスイッチングタイミングを合わせるインバータ装置の三相変調の電圧指令補正値とキャリア信号、相電圧、モータの中性点電位を示す図である。
【
図12】
図10のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラムを示す図である。
【
図13】一般的な三相変調方式のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラムを示す図である。
【
図14】従来の一般的な二相変調方式のインバータ装置の電圧指令値とキャリア信号、相電圧、モータの中性点電位を示す図である。
【
図16】
図14のインバータ装置における中性点電位の周波数スペクトラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。先ず、
図2と
図3を参照しながら本発明のインバータ装置1を一体に備えた実施例の電動圧縮機(所謂インバータ一体型電動圧縮機)16について説明する。尚、実施例の電動圧縮機16は、エンジン駆動自動車やハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0038】
(1)電動圧縮機16の構成
図2において、電動圧縮機16の金属性の筒状ハウジング2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。この場合、モータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0039】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0040】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0041】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明のインバータ装置1が収容される。この場合、インバータ装置1は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0042】
(2)インバータ装置1の構造(スイッチング素子18A~18Fの配置)
実施例の場合、インバータ装置1は、基板17と、この基板17の一面側に配線された上アームスイッチング素子18A、18B、18Cと、下アームスイッチング素子18D、18E、18Fの計6個のスイッチング素子と、基板17の他面側に配線された制御装置21と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている。各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0043】
この場合、実施例では後述する三相のインバータ回路28のU相インバータ19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18D、V相インバータ19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18E、W相インバータ19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fは二つずつそれぞれ並んだかたちとされ、この並んだ一組の上下アームスイッチング素子18A及び18D、上下アームスイッチング素子18B及び18E、上下アームスイッチング素子18C及び18Fが、
図3に示す如く基板17の中心の周囲に放射状に配置されている。
【0044】
また、実施例ではU相インバータ19Uの上下アームスイッチング素子18A及び18Dが吸入口14側に位置しており、それに対して
図3における反時計回り90°の位置にV相インバータ19Vの上下アームスイッチング素子18B及び18Eが配置され、吸入口14とは反対側の位置にW相インバータ19Wの上下アームスイッチング素子18C及び18Fが配置されたかたちとされている。そして、吸入口14から吸入された冷媒は、
図3中破線矢印の如くハウジング2の軸を中心として反時計回りに回転する。そのため、吸入冷媒の流れに対してU相インバータ19Uの上下アームスイッチング素子18A及び18Dが最も上流側(電動圧縮機16で最も低温となる箇所)に位置し、その下流側にV相インバータ19Vの上下アームスイッチング素子18B及び18Eが位置し、最も下流側にW相インバータ19Wのスイッチング素子18C及び18Fが配置されたかたちとなる。
【0045】
また、各スイッチング素子18A~18Fの端子部22は、基板17の中心側となった状態で基板17に接続されている。そして、このように組み立てられたインバータ装置1は、各スイッチング素子18A~18Fがある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0046】
このようにインバータ装置1が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18A~18Fは仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。このとき、各スイッチング素子18A~18Fは軸受12及び駆動軸13に対応する箇所を避けた位置に配置され、その周囲を囲繞するかたちで配置される(
図3)。
【0047】
そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18A~18Fは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18A~18F自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。
【0048】
(3)インバータ装置1の回路構成
次に、
図1においてインバータ装置1は、前述した三相のインバータ回路28と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、350V)29の直流電圧を三相交流電圧(三相交流出力)に変換してモータ8に印加する回路である。このインバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0049】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cの上端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fの下端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。
【0050】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fが直列に接続されている。
【0051】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点(U相電圧Vu)は、モータ8のU相の電機子コイル41に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点(V相電圧Vv)は、モータ8のV相の電機子コイル42に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点(W相電圧Vw)は、モータ8のW相の電機子コイル43に接続されている。
【0052】
(4)制御装置21の構成
次に、制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ8からモータ電流(相電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0053】
実施例の制御装置21は、相電圧指令演算部33と、線間変調演算部34と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37と、モータ8に流れる各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26Bを有しており、各電流センサ26A、26Bは相電圧指令演算部33に接続されている。
【0054】
尚、電流センサ26AはU相電流iuを測定し、電流センサ26BはV相電流ivを測定する。そして、W相電流iwはこれらから計算により求める。また、各相のモータ電流を検出する方法については実施例のように電流センサ26A、26Bで測定する以外に、下アーム電源ライン15の電流値を検出し、その電流値とモータ8の運転状態から相電圧指令演算部33が推定する方法などがあることから、各相電流を検出・推定する方法に関しては、特に限定しない。
【0055】
この相電圧指令演算部33は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流から得られるd軸電流、q軸電流に基づくベクトル制御により、モータ8の各相の電機子コイル41~43に印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調電圧指令値Vu’(以下、U相電圧指令値Vu’)、Vv’(以下、V相電圧指令値Vv’)、Vw’(以下、W相電圧指令値Vw’)を演算し、生成する。この三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’とは、モータ8の三相変調制御を行う場合における電圧指令値である。
【0056】
線間変調演算部34は、相電圧指令演算部33により演算され、算出された三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’に基づき、二相変調電圧指令値U(U相電圧指令値)、V(V相電圧指令値)、W(W相電圧指令値)を演算する。この線間変調演算部34の動作については後述する。
【0057】
PWM信号生成部36は、線間変調演算部34により演算され、算出された二相変調電圧指令値U、V、Wを入力し、これら二相変調電圧指令値U、V、Wを後述する如く補正した後、キャリア信号との大小を比較することによって、インバータ回路28のU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19Wの駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0058】
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号に基づき、U相インバータ19Uのスイッチング素子18A、18Dのゲート電圧と、V相インバータ19Vのスイッチング素子18B、18Eのゲート電圧と、W相インバータ19Wのスイッチング素子18C、18Fのゲート電圧を発生させる。
【0059】
そして、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0060】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイル41に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイル42に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイル43に印加(出力)される。
【0061】
(5)制御装置21の動作
次に、
図4~
図9を参照しながら、制御装置21の動作について説明する。
(5-1)線間変調演算部34の動作
実施例の制御装置21の線間変調演算部34は、特定の一相、実施例ではU相の上下アームスイッチング素子18A、18Dは常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相、即ち、V相とW相については、相電圧指令演算部33が算出した三相変調電圧指令値であるV相電圧指令値Vv’とW相電圧指令値Vw’を比較し、絶対値が最大となる相のスイッチング素子18B、18E、18C、18FのON/OFF状態を、ON又はOFF状態に固定させる二相変調電圧指令値であるU相電圧指令値Uと、V相電圧指令値Vと、W相電圧指令値Wを演算し、出力することにより、三相変調制御を行う場合に比して、スイッチング素子18A~18Fのスイッチング回数を減少させる二相変調制御を実行する。
【0062】
係る二相変調制御では、各相のスイッチング素子18A~18Fのスイッチング回数は、2/3まで低下するので、三相変調制御に比して各スイッチング素子18A~18Fにおいて発生するスイッチング損失と、それよる発熱が抑制される。また、スイッチング回数が減少することで、中性点電位Vcの変動も、二相変調制御によって確実に2/3に抑制されることになる。
【0063】
(5-2)PWM信号生成部36の動作
次に、実施例の制御装置21のPWM信号生成部36の動作について説明する。
図4はインバータ装置1の二相変調電圧指令値であるU相電圧指令値U、V相電圧指令値V、W相電圧指令値Wを補正した二相変調のU相電圧指令補正値Cu、V相電圧指令補正値Cv、W相電圧指令補正値Cwと、キャリア信号(carrier)、相電圧Vu、Vv、Vw、モータ8の中性点電位Vcを示す図であり、
図5は
図4の枠Z3部分を拡大した図、
図6は
図4の枠Z4部分を拡大した図、
図7は
図4の枠Z5部分を拡大した図、
図8は
図4の枠Z6部分を拡大した図である。
【0064】
尚、各図中の各値は、直流電圧Vdcで正規化(-1~1に補正)した後の値である。また、この場合の条件もキャリア周波数は20kHz、直流電圧は350Vである。
図4では、0°~120°の位相でW相の下アームスイッチング素子18FがON状態に固定され、120°~180°の位相ではV相の上アームスイッチング素子18BがON状態に固定され、180°~240°の位相ではW相の上アームスイッチング素子18CがON状態に固定され、240°~360°の位相ではV相の下アームスイッチング素子18EがON状態に固定されている。
【0065】
実施例のPWM信号生成部36は、線間変調演算部34が出力する二相変調電圧指令値であるU相電圧指令値Uと、V相電圧指令値Vと、W相電圧指令値Wに補正を加えて二相変調のU相電圧指令補正値Cu、V相電圧指令補正値Cv、W相電圧指令補正値Cwとし、各相の上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチングタイミングを同期させ、モータ8に印加される相電圧Vu、Vv、Vwの変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことで、中性点電位Vcの変動を抑制する制御を実行する。
【0066】
以下、各図を参照しながらPWM信号生成部36の動作を具体的に説明する。この場合も鋸波のキャリア信号(実線)を使用しているため、U相電圧指令補正値Cuには1キャリア周期内に立ち上げ指令値Cuup(細かい破線。以下、同じ)と立ち下げ指令値Cudown(幅広の破線。以下、同じ)が存在する。同様に、V相電圧指令補正値Cvにも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Cvupと立ち下げ指令値Cvdownが存在し、W相電圧指令補正値Cwにも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Cwupと立ち下げ指令値Cwdownが存在する。
【0067】
そして、U相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuup、立ち下げ指令値Cudown、V相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値Cvup、立ち下げ指令値Cvdown、W相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwup、立ち下げ指令値Cwdownとキャリア信号の大小を比較することで、インバータ回路28の駆動指令信号となるPWM信号を生成する。このPWM信号が正規化後のU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧となる。
【0068】
図4の枠Z3部分の位相では
図5に拡大して示す如く、線間変調演算部34は常時ON/OFF状態を変調させるU相の上アームスイッチング素子18AがONし、残りのV相とW相は下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間を開始している。また、W相の上アームスイッチング素子18CはOFF、下アームスイッチング素子18FはONした状態に固定している。
【0069】
この状態でPWM信号生成部36は、
図5の例ではU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミングを同期させるようにV相電圧指令補正値Cvを生成する(
図5の44°付近の位相t1と51°付近の位相t2を参照)。これにより、各位相t1、t2における中性点電位Vcの変動はキャンセルされている。尚、中性点電位Vcの変動幅は、-3~-1の2となる(
図4、
図5)。
【0070】
但し、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングは同期させない(
図5の49.5°付近の位相と57°付近の位相を参照)。尚、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミングを同期させず、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングを同期させてもよい。
【0071】
即ち、PWM信号生成部36は、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミング、及び、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングのうちの何れか一方のみを同期させる。この場合、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミングを同期させるか、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングを同期させるかについては、PWM信号生成部36は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させる。このサージ電圧については、電流センサ26A、26Bの検出値から把握されるモータ電流(U相電流iu、V相電流iv、W相電流iw)と電気回路の寄生インダクタンスから算出される。
【0072】
次に、
図4の枠Z4部分の位相では
図6に拡大して示す如く、線間変調演算部34は常時ON/OFF状態を変調させるU相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相の上アームスイッチング素子18BがONし、W相は下アームスイッチング素子18FがONした状態からスイッチングの規定区間を開始している。また、V相の上アームスイッチング素子18BはON、下アームスイッチング素子18EはOFFした状態に固定している。
【0073】
この状態でPWM信号生成部36は、
図6の例ではU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミングを同期させるようにW相電圧指令補正値Cwを生成する(
図6の144.5°付近の位相t3と152°付近の位相t4を参照)。これにより、各位相t3、t4における中性点電位Vcの変動はキャンセルされている。尚、中性点電位Vcの変動幅は、1~3の2となる(
図4、
図6)。
【0074】
但し、この場合もU相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングは同期させない(
図6の146.5°付近の位相と153.5°付近の位相を参照)。尚、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミングを同期させず、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングを同期させてもよい。
【0075】
即ち、PWM信号生成部36は、この場合もU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミング、及び、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングのうちの何れか一方のみを同期させる。この場合も、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミングを同期させるか、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングを同期させるかについては、PWM信号生成部36は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させる。
【0076】
次に、
図4の枠Z5部分の位相では
図7に拡大して示す如く、線間変調演算部34は常時ON/OFF状態を変調させるU相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相の下アームスイッチング素子18EがONし、W相は上アームスイッチング素子18CがONした状態からスイッチングの規定区間を開始している。また、W相の上アームスイッチング素子18CはON、下アームスイッチング素子18FはOFFした状態に固定している。
【0077】
この状態でPWM信号生成部36は、
図7の例ではU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミングを同期させるようにV相電圧指令補正値Cvを生成する(
図7の216.5°付近の位相t5と224°付近の位相t6を参照)。これにより、各位相t5、t6における中性点電位Vcの変動はキャンセルされている。尚、中性点電位Vcの変動幅は、1~3の2となる(
図4、
図7)。
【0078】
但し、この場合もU相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングは同期させない(
図6の218°付近の位相と226°付近の位相を参照)。尚、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミングを同期させず、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングを同期させてもよい。
【0079】
即ち、PWM信号生成部36は、この場合もU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミング、及び、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングのうちの何れか一方のみを同期させる。この場合も、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとV相電圧Vvが立ち上がるタイミングを同期させるか、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとV相電圧Vvが立ち下がるタイミングを同期させるかについては、PWM信号生成部36は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させる。
【0080】
次に、
図4の枠Z6部分の位相では
図8に拡大して示す如く、線間変調演算部34は常時ON/OFF状態を変調させるU相の上アームスイッチング素子18AがONし、残りのV相とW相の下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間を開始している。また、V相の上アームスイッチング素子18BはOFF、下アームスイッチング素子18EはONした状態に固定している。
【0081】
この状態でPWM信号生成部36は、
図8の例ではU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミングを同期させるようにW相電圧指令補正値Cwを生成する(
図8の303°付近の位相t7と310.5°付近の位相t8を参照)。これにより、各位相t7、t8における中性点電位Vcの変動はキャンセルされている。尚、中性点電位Vcの変動幅は、-3~-1の2となる(
図4、
図8)。
【0082】
但し、この場合もU相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングは同期させない(
図8の309°の少許手前の位相と316°の少許手前の位相を参照)。尚、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミングを同期させず、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングを同期させてもよい。
【0083】
即ち、PWM信号生成部36は、この場合もU相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミング、及び、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングのうちの何れか一方のみを同期させる。この場合も、U相電圧Vuが立ち下がるタイミングとW相電圧Vwが立ち上がるタイミングを同期させるか、U相電圧Vuが立ち上がるタイミングとW相電圧Vwが立ち下がるタイミングを同期させるかについては、PWM信号生成部36は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させるものとする。
【0084】
これにより、1キャリア周期中に発生するコモンモードノイズを1/3にまで低減することができる。
図9は実施例のインバータ装置1における中性点電位Vcの周波数スペクトラム(FFT結果)を示している。この図からも明らかな如く本発明によれば、
図12や
図13に示した方式や、
図16に示した一般的な二相変調方式に比して、中性点電位Vcの変動が更に効果的に抑制されていることが分かる。
【0085】
以上詳述した如く本発明によれば、制御装置21が、モータ8の各相に印加する電圧を生成するための三相変調電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部33と、三相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路28の一相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させると共に、他の二相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値を演算する線間変調演算部34と、二相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路28をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部36を有しているので、二相変調により上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチング回数を減少させ、スイッチング損失と発熱量を減少させ、且つ、モータ8の中性点電位の変動も低減することができるようになる。
【0086】
それに加えて本発明では、制御装置21がON/OFF状態を変調させる前記二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータ8に印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようにしたので、スイッチング素子18A~18Fのスイッチングタイミングによりモータ8の中性点電位の変動をより一層抑制し、コモンモードノイズの発生を著しく抑制することが可能となる。
【0087】
また、スイッチングタイミングの同期に誤差が生じた場合にも、上記二相変調による中性点電位の変動低減によるノイズ抑制効果は最低限享受することができるので、総じて安定的にノイズの少ないモータ制御装置1を実現することができるようになる。
【0088】
この場合、実施例の制御装置21は、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の上アームスイッチング素子がONし、他方の下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始するようにしたので、相電圧の変化を他の相電圧の変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0089】
特に、実施例の制御装置21は、ON/OFF状態を変調させる前記二相のうちの一方の相電圧の立ち下がりと他方の相電圧の立ち上がりのタイミング、及び、一方の相電圧の立ち上がりと他方の相電圧の立ち下がりのタイミング、のうちの何れかのタイミングのみを同期させるようにしたので、両方のタイミングを同期させる場合の如く変調幅が狭くなる不都合も解消若しくは抑制することができるようになり、高い変調率でモータ8を駆動することが可能となる。
【0090】
この場合、実施例の制御装置21は、スイッチング時のサージ電圧が大きい方のタイミングを選択して同期させるようにしているので、電気回路に生じるサージ電圧も効果的に抑制することができるようになる。
【0091】
また、実施例の制御装置21は、特定の一相(実施例ではU相)の上下アームスイッチング素子は常時ON/OFF状態を変調させ、残りの二相のうちの一方の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定させるようにしているので、二相変調とスイッチングタイミングの同期の双方を容易且つ円滑に実現することが可能となる。
【0092】
この場合、実施例では当該特定の一相(U相)の上下アームスイッチング素子18A、18Dを、電動圧縮機16で最も低温となる箇所と熱交換関係に配置しているので(
図3)、ON/OFF状態を固定されること無く常時スイッチングされ、温度が高くなる特定の一相(U相)の上下アームスイッチング素子18A、18Dを効果的に冷却し、電動圧縮機16が強制停止される等の不都合を未然に回避することができるようになる。
【0093】
また、実施例ではPWM信号生成部36が、線間変調演算部34が出力した二相変調電圧指令値を補正することにより、モータ8に印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようにしているので、線間変調演算部34が、相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すような二相変調電圧指令値を出力するものでは無くなり、計算が簡素化されるようになる。
【0094】
尚、実施例ではU相の上下アームスイッチング素子18A、18Dを常時スイッチングさせるようにしたが、他の一相(V相、W相のうちの何れか)の上下アームスイッチング素子を採用してもよい。また、実施例では電動圧縮機16のモータ8を駆動制御するインバータ装置1に本発明を適用したが、請求項6以外の発明ではそれに限らず、各種機器のモータの駆動制御に本発明は有効である。
【0095】
また、
図4では前述した如く二相変調により、0°~120°の位相でW相の下アームスイッチング素子18FをON状態に固定し、120°~180°の位相ではV相の上アームスイッチング素子18BをON状態に固定し、180°~240°の位相ではW相の上アームスイッチング素子18CをON状態に固定し、240°~360°の位相ではV相の下アームスイッチング素子18EをON状態に固定したが、
図4の60°~120°の位相でV相の上アームスイッチング素子18BをON状態に固定しても良く、同様に240°~300°の位相でW相の上アームスイッチング素子18CをON状態に固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0096】
1 インバータ装置
8 モータ
16 電動圧縮機
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相インバータ
19V V相インバータ
19W W相インバータ
21 制御装置
28 インバータ回路
33 相電圧指令演算部
34 線間変調演算部
36 PWM信号生成部
37 ゲートドライバ