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特許7594383制御装置、インプリント装置および物品製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】制御装置、インプリント装置および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20241127BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20241127BHJP
   G05D 15/01 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
G05D15/01
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020144872
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039715
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】縄田 亮
(72)【発明者】
【氏名】関口 浩之
(72)【発明者】
【氏名】芝山 卓
(72)【発明者】
【氏名】鬼沢 雄馬
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-021155(JP,A)
【文献】特開2003-108236(JP,A)
【文献】特開2010-123957(JP,A)
【文献】特開2002-367239(JP,A)
【文献】特開2019-071405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
G05D 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物に物体を押し当てることによって前記処理対象物の処理を行うための制御装置であって、
前記処理対象物を処理するために必要な力の目標値である力目標値と前記物体を駆動するために必要な駆動力の目標値である目標駆動力との和に基づいて操作量を求める補償器と、
前記物体に対して力を加える駆動部と、
前記物体に対して加えられる外乱力の推定値を前記物体の状態に関する情報に基づいて推定する推定部と、
前記推定値に基づいて、前記外乱力の影響が低減されるように、前記操作量を補正することによって前記駆動部に与える指令値を生成する補正部と、
前記情報に基づいて前記推定値を得るために前記推定部によって使用される複数のパラメータ値を決定する処理を実行する決定部と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記外乱力は、前記物体に対して直接的または間接的に接続された部材を介して前記物体に加えられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記複数のパラメータ値は、前記部材の剛性および減衰を示すパラメータ値を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記情報を計測するための計測部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記外乱力を取得する取得部を更に備え、
前記決定部は、前記取得部によって得られた前記外乱力に基づいて、機械学習を通して前記複数のパラメータ値を決定する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記取得部は、前記物体の位置を指令する位置指令値に前記物体の位置の計測値が一致するように前記位置指令値と前記計測値との差分に基づいて前記駆動部を動作させる位置フィードバック制御において、前記差分と前記計測値とに基づいて前記外乱力を取得する、
ことを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記機械学習は、教師無し学習である、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記教師無し学習では、損失関数として、二乗和誤差、平均二乗和誤差、平均絶対誤差および平均二乗対数誤差の1つが用いられる、
ことを特徴とする請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記機械学習は、強化学習である、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の制御装置。
【請求項10】
前記強化学習では、報酬として、二乗和誤差、平均二乗和誤差、平均絶対誤差および平均二乗対数誤差の1つの逆数が用いられる、
ことを特徴とする請求項9に記載の制御装置。
【請求項11】
基板の上のインプリント材に型を接触させ該インプリント材を硬化させることによって該インプリント材の硬化物からなるパターンを形成するインプリント装置に組み込まれている、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項12】
前記型を保持する型保持部に加えられる力を前記物体に加えられる力として制御する、
ことを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記物体を制御対象として位置フィードバック制御を行う第1モードと、前記物体を制御対象として力フィードバック制御を行う第2モードとを制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記第1モードで前記物体を前記処理対象物に近づけ、その後、前記第2モードで前記物体を制御し、
前記補償器は、前記第2モードにおいて前記操作量を発生する、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項14】
基板の上のインプリント材に型を押し付けて該インプリント材を硬化させることによって該インプリント材の硬化物からなるパターンを形成するインプリント装置であって、
前記型を保持する型保持部と、
前記インプリント材を処理するために必要な力の目標値である力目標値と前記型保持部を駆動するために必要な駆動力の目標値である目標駆動力との和に基づいて操作量を求める補償器と、
前記型保持部に力を加える駆動部と、
前記型保持部に対して加えられる外乱力の推定値を前記型保持部の状態に関する情報に基づいて推定する推定部と、
前記推定値に基づいて、前記外乱力の影響が低減されるように、前記操作量を補正することによって前記駆動部に与える指令値を生成する補正部と、
前記情報に基づいて前記推定値を得るために前記推定部によって使用される複数のパラメータ値を決定する処理を実行する決定部と、
を備えることを特徴とするインプリント装置。
【請求項15】
前記外乱力は、前記型保持部に対して直接的または間接的に接続された部材を介して前記型保持部に加えられる、
ことを特徴とする請求項14に記載のインプリント装置。
【請求項16】
前記複数のパラメータ値は、前記部材の剛性および減衰を示すパラメータ値を含む、
ことを特徴とする請求項15に記載のインプリント装置。
【請求項17】
前記情報を計測するための計測器を更に備える、
ことを特徴とする請求項14乃至16のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項18】
前記外乱力を取得する取得部を更に備え、
前記決定部は、前記取得部によって得られた前記外乱力に基づいて、機械学習を通して前記複数のパラメータ値を決定する、
ことを特徴とする請求項14乃至17のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項19】
前記取得部は、前記型保持部の位置を指令する位置指令値に前記型保持部の位置の計測値が一致するように前記位置指令値と前記計測値との差分に基づいて前記駆動部を動作させる位置フィードバック制御において、前記差分と前記計測値とに基づいて前記外乱力を取得する、
ことを特徴とする請求項18に記載のインプリント装置。
【請求項20】
前記型保持部を制御対象として位置フィードバック制御を行う第1モードと、前記型保持部を制御対象として力フィードバック制御を行う第2モードとを制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記第1モードで前記型保持部を前記インプリント材に近づけ、その後、前記第2モードで前記型保持部を制御し、
前記補償器は、前記第2モードにおいて前記操作量を発生する、
ことを特徴とする請求項14乃至19のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項21】
請求項14乃至20のいずれか1項に記載のインプリント装置により基板の上にパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された前記基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、インプリント装置および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスまたはMEMSなどの物品を製造する製造装置には、物品の性能および/または歩留まりを高めるために、高精度な制御が要求される。そのためには、製造装置内の制御対象物を高精度に制御する必要があり、制御対象物に対して所望の制御力を正確に加える必要がある。しかし、制御対象物には、多くの場合、電力および/または流体を供給するための実装部および/またはガイド等が不随するために、制御対象物に外乱力が加えられ、制御対象物に所望の制御力を加えられないという課題がある。この課題を解決する方法として、特許文献1では、システムからの出力に基づいて該システムへの外乱入力を推定するフィードバック補正部(外乱オブザーバ)を有するアクティブ除振装置が記載されている。該フィードバック補正部は、該システムの出力に基づいて入力を推定するノミナルモデルを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-108236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の除振装置は、ノミナルモデルを決定する手段を有しないので、除振装置の状態が変化した場合および除振装置が配置された環境が変化した場合に、ノミナルモデルをその変化に追随させることができない。
【0005】
本発明は、制御精度の向上または維持に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの側面は、処理対象物に物体を押し当てることによって前記処理対象物の処理を行うための制御装置に係り、前記制御装置は、前記処理対象物を処理するために必要な力の目標値である力目標値と前記物体を駆動するために必要な駆動力の目標値である目標駆動力との和に基づいて操作量を求める補償器と、前記物体に対して力を加える駆動部と、前記物体に対して加えられる外乱力の推定値を前記物体の状態に関する情報に基づいて推定する推定部と、前記推定値に基づいて、前記外乱力の影響が低減されるように、前記操作量を補正することによって前記駆動部に与える指令値を生成する補正部と、前記情報に基づいて前記推定値を得るために前記推定部によって使用される複数のパラメータ値を決定する処理を実行する決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれ、制御精度の向上または維持に有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における制御装置の構成を示す概略図。
図2】第1実施形態における力フィードバック制御系の構成を示すブロック線図。
図3】第1実施形態における外乱力補正を行った力フィードバック制御系の構成を示すブロック線図。
図4】3要素モデルを用いた外乱推定モデルを示す概略図。
図5】状態空間を示す概略図。
図6】3個の3要素モデルを用いた外乱推定モデルを示す概略図。
図7】第1実施形態における位置フィードバック制御系の構成を示すブロック線図。
図8】第1実施形態に係る機械学習方法を示すフローチャート。
図9】第2実施形態における外乱力補正を行った力フィードバック制御系の構成を示すブロック線図。
図10】ニューラルネットワークを示す概略図。
図11】第5実施形態のインプリント装置の構成を示す概略図。
図12】第5実施形態のインプリント装置におけるインプリント処理を示すフローチャート。
図13図3を具体的なデバイスで説明した図。
図14図7を具体的なデバイスで説明した図。
図15】第4実施形態における最適化手法を説明する図。
図16】第4実施形態における最適化手法を説明する図。
図17】物品製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
図1には、第1実施形態の制御装置1100の構成が示されている。ここで、図1(a)は、加工部1010と被加工物1001とが接触する前の状態を示し、図1(b)は、加工部1010と被加工物1001とが接触した状態を示している。制御装置1100は、例えば、被加工物(処理対象物)1001に対して加工部(物体)1010を所望の力で押し当てることによって被加工物1001の加工(処理)を行うように構成されうる。制御装置1100は、加工部(物体)1010に加えられる力を制御する。以下、加工部1010の駆動方向をX軸として説明する。
【0011】
制御装置1100は、例えば、加工部1010と、加工部1010を所定方向(X軸方向)へ駆動するための駆動部1015と、加工部1010の変位を計測する計測部1025と、駆動部1015に操作量(指令値)を出力する制御部1035とを備えうる。更に、制御装置1100は、加工に必要なエネルギー(例えば、電力)および流体(気体および/または液体)を加工部1010に供給するための実装部(部材)1050を備えうる。実装部1050は、加工部1010に対して直接的または間接的に接続され、加工部1010には、実装部1050を介して外乱力が加えられうる。駆動部1015は、加工部1010に対してX軸方向の力を加えるように構成されうる。駆動部1015は、例えば、リニアアクチュエータ等のアクチュエータを含みうる。計測部1025は、例えば、リニアエンコーダ等が考えられる。制御部1035は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。
【0012】
制御部1035は、加工部1010を制御対象として位置フィードバック制御を行うモードと、加工部1010を制御対象として力フィードバック制御を行うモードとを有しうる。制御部1035は、加工部1010を被加工物1001の近傍まで移動させる場合は、加工部1010を位置フィードバック制御し、被加工物1001を加工部1010で加工する場合は、加工部1010を力フィードバック制御しうる。
【0013】
図2には、力フィードバック制御を行っているときの制御装置1100の構成をおよび動作を示すブロック線図が示されている。ここで、図2(a)は、加工部1010に対して実装部1050による外乱力Fdが加わらない場合を示しており、図2(b)は、加工部1010に対して実装部1050による外乱力Fdが加わる場合を示している。まず、図2(a)について説明を行う。Frは加工部1010に加えられる力の目標値(以下、力目標値)を示し、Gcは制御補償器、Kiは電流ゲイン、Ktは駆動部1015の推力定数を示している。G0は加工部1010の力から変位への伝達関数、X0は加工部1010の変位(計測部1025による位置の計測値)を示している。駆動部1015が出力する出力Fは、加工部1010を駆動するために必要な駆動力F0と、被加工物1001を加工するために必要な加工力Faの和である。
【0014】
力目標値Frの通りに加工力Faを制御するためには、加工力Faをフィードバックする必要がある。しかし、第1実施形態の制御装置1100では、加工の都合上、加工力Faを直接的に計測することができない。そこで、図2(a)では、操作電圧Vcに推力定数Ktと電流ゲインKiを乗じた出力Fをフィードバックしている。操作電圧Vcは、操作量あるいは指令値として理解されうる。出力Fは、加工力Faと駆動力F0とを加算したものなので、力目標値Frに駆動力F0の目標値を足し込む必要がある。そこで、図2(a)では、力目標値Frに目標駆動力F0rを足し込んでいる。目標駆動力F0rは、図2(a)のように加工部1010の変位X0に1/G0を乗じて求めてもよいし、予め変位X0に応じたテーブルとして用意しておいてもよい。これにより、加工力Faを力目標値Fr通りに制御することができる。
【0015】
しかしながら、実際には、図1に示す実装部1050の影響により、図2(b)のように加工部1010に対して外乱力Fdが加わるので、加工力Faは、Fa´=Fa+Fdとなり、力目標値Frの通りの加工力Faで被加工物1001を加工することができない。第1実施形態の場合、外乱力Fdは、加工部1010の変位および速度に依存するので、図2(b)に示すように、加工部1010の変位から外乱力Fdへの伝達関数をGd、加工部1010の変位をX0とすると、外乱力FdはFd=Gd×X0として表される。
【0016】
そこで、第1実施形態では、図3に示すように、外乱オブザーバとして外乱推定部(推定部)Gdeを用いる。外乱推定部Gdeは、加工部1010に対して加えられる外乱力Fdの推定値である推定外乱力Fdeを加工部1010の状態に関する情報に基づいて推定する。外乱推定部Gdeは、例えば、計測部1025により計測された加工部1010の変位X0に基づいて、加工部1010に加わる推定外乱力Fdeを推定することができる。操作電圧Vcから推定外乱力Fdeに相当する電圧を差し引くことで、加工部1010が力目標値Fr通りの加工力Faを出力することができる。外乱推定部1305は、加工部1010の状態に関する情報に基づいて推定外乱値Fdeを得るために、予め決定された複数のパラメータ値を使用する。該複数のパラメータ値は、決定部1350によって決定される。なお、図3に付された符号301~307は、以下で説明される図13に示された構成要素との対応関係を示す。
【0017】
図13には、図3に対応する制御装置1100の物理的な構成例が示されている。制御部1035は、目標値発生部1301、補償器1302、補正部1303、動剛性乗算部1304、外乱推定部1305を含みうる。目標値発生部1301は、力目標値Frを発生する。補償器1302は、力目標値Frと目標駆動力F0rとの和から操作電圧Vcを求める。補償器1302は、図3における制御補償器Gc(301)、電流ゲインKi(302)、推力定数Kt(303)で構成されるブロックに対応し、そのゲインは、Gc/(1+GcKtKi)である。補正部1303は、図3における1/Ki(304)、1/Kt(305)、演算器(減算器)306で構成されるブロックに対応する。動剛性乗算部1304は、図3における1/G0(307)に対応する。補正部1303は、推定外乱力Fdeに基づいて、外乱力Fdの影響が低減されるように、駆動部1015に与える操作量(指令値)を補正する。外乱推定部1305は、図3における外乱推定部Gde(306)に対応する。
【0018】
次に、外乱推定部Gde(306)について説明する。外乱推定部Gdeは、図2(b)および図3に示される外乱の伝達関数Gdをモデル化したものである。外乱の伝達関数Gdは、図1に示される実装部1050により生じる外乱を表現するものである。実装部1050により生じる外乱は、加工部1010の変位および速度により発生するので、バネ(剛性)およびダンパ(減衰)を用いた3要素モデルでモデル化することができる。したがって、外乱推定部Gdeも3要素モデルでモデル化することができる。図4には、1個の3要素モデルを用いた外乱推定モデルが示されている。加工部1010の変位をX0とし、バネK2の変位X1とする場合、推定外乱力Fdeは、数1、数2で表される。
【0019】
【数1】
【0020】
【数2】
【0021】
数1、数2は、それぞれ数3、数4のように変形することができる。
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【0024】
数3は状態方程式、数4は出力方程式を表しているので、図4に示される外乱推定モデルは、図5に示される状態空間として表すことができる。図5の状態行列A、入力行列B、出力行列C、直達行列Dは、数5乃至8で表される。
【0025】
【数5】
【0026】
【数6】
【0027】
【数7】
【0028】
【数8】
【0029】
よって、外乱推定部Gdeは、図5に示される状態空間で表すことができ、外乱推定部Gdeに加工部1010の変位X0を入力すると、推定外乱力Fdeを得ることができる。
【0030】
また、数1および数2で表される微分方程式を解くと、数9で示すように推定外乱力Fdeを時間tの関数として表すことができる。数9のTは、図4に示す外乱推定モデルおよび外乱推定部Gdeの時定数であり、数10で表される。
【0031】
【数9】
【0032】
【数10】
【0033】
実装部1050が、時定数が互いに異なる複数の要素からなる場合、複数個の3要素モデルを組み合わせる必要がある。第1実施形態では、図6ように3個の3要素モデルを組み合わせた外乱推定モデルを用いる。図6に示される外乱推定モデルの場合、外乱推定部Gdeの状態行列A、入力行列B、出力行列C、直達行列Dは、数11乃至14で表される。
【0034】
【数11】
【0035】
【数12】
【0036】
【数13】
【0037】
【数14】
【0038】
また、加工部1010に加わる外乱力Fdは、加工部1010を位置フィードバック制御した状態において、加工部1010の変位X0と、その時に駆動部1015が出力する出力Fから算出することができる。図7には、加工部1010を位置フィードバック制御した状態における制御装置1100の構成をおよび動作を示すブロック線図が示されている。図7に示された制御装置1100は、外乱力Fdを取得する取得部1450含む。Xrは、加工部1010の変位目標値(位置指令値)を表している。加工部1010を位置フィードバック制御している場合、駆動部1015が出力する出力Fは、F=F0-Fdであり、外乱Fdが加わっても加工部1010には駆動力F0が加えられるので、変位目標値Xr通りに加工部1010を位置決めすることができる。そこで、出力F(=F0-Fd)から駆動力F0を差し引き、その結果に-1を乗じれば、外乱力Fdを求めることができる。駆動力F0は、加工部1010の変位X0に1/G0を乗じて求めることができる。
【0039】
外乱力Fdの取得の際に、取得部1450は、加工部1010の位置を指令する変位目標量Xrに加工部1010の変位X0(計測値)が一致するように変位目標量Xrと変位X0との差分に基づいて駆動部1015を動作させる位置フィードバック制御を行う。そして、この位置フィードバック制御において、取得部1450は、変位目標量Xrと変位X0との差分と変位X0(計測値)とに基づいて外乱力Fdを取得する。図7の例では、変位目標量Xrと変位X0との差分に基づいてFが演算され、変位X0(計測値)に基づいてF0が演算され、FとF0とからFdが演算される。なお、図7に付された符号701~708は、以下で説明される図14に示された構成要素との対応関係を示す。
【0040】
図14には、図7に対応する制御装置1100の物理的な構成例が示されている。制御部1035は、目標値発生部1401、補償器1402、動剛性乗算部1403、演算器1404、1405、1406を含みうる。目標値発生部1401は、変位目標値Xr(位置指令値)を発生する。演算器1406は、変位目標値Xrと変位X0との差分(変位偏差)を演算する。補償器1402は、変位目標値Xrと変位X0との差分(変位偏差)から駆動力F(=F0-Fd)を求める。補償器1402は、図7における制御補償器Gc(701)、電流ゲインKi(702)、推力定数Kt(703)で構成されるブロックに対応し、そのゲインは、GcKtKiである。演算器1404は、図7における演算器706に対応する。図7において、演算器706には、制御補償器Gc(701)、電流ゲインKi(704)、推力定数Kt(705)で構成されるブロックによって計算された駆動力F(=F0-Fd)が入力される。演算器1405は、図7における演算器707に対応する。動剛性乗算部1403は、図7における1/G0(708)に対応する。補償器1402、動剛性乗算部1403、演算器1404、1405、1406は、外乱力Fdを取得する取得部1450を構成する。図13に示された決定部1350は、取得部1450によって得られた外乱力Fdに基づいて、機械学習を通して、外乱推定部1305によって使用される複数のパラメータ値を決定する。ここで、該複数のパラメータ値は、加工部1010の状態に関する情報に基づいて推定外乱値Fdeを得るために使用される。
【0041】
ところで、外乱推定部1305によって生成される推定外乱力Fdeが外乱力Fdを正しく推定した値になるためには、外乱推定部Gdeの複数のパラメータ値が正しく決定される必要がある。外乱推定モデルが図6に示される3個の3要素モデルの場合、バネおよびダンパ要素の合計数は9個であり、9個のパラメータ値を机上計算で決定することは非常に困難である。そこで、第1実施形態では、決定部1350は、外乱推定部Gdeの複数のパラメータ値を機械学習によって決定する。機械学習の方法としては、例えば、教師無し学習を用いることができる。機械学習を行う機能は、例えば、制御部1035に組み込まれうる。
【0042】
まず、制御部1035は、機械学習を行うために、訓練に用いるデータの取得を行う。データとしては、加工部1010を位置フィードバック制御し、様々な変位X0における外乱力Fdを加工部1010の変位X0と共に収集する。収集された変位X0のデータを変位データdata_X0、収集された外乱力Fdのデータを外乱力データdata_Fdとする。制御部1035は、変位X0を外乱推定部Gdeに入力し、外乱推定部Gdeから出力される推定外乱力Fdeを推定外乱力データdata_Fdeとして収集する。制御部1035は、このようにして収集されたデータを訓練データとして用いる。
【0043】
教師無し学習では、推定外乱力Fdeを外乱力Fdにできるだけ一致させたい。そこで、制御部1035は、推定外乱力Fdeと外乱力Fdの二乗和誤差を求める関数を損失関数Lとし、損失関数Lを最小にするように外乱推定部Gdeの複数のパラメータ値を最適化するように構成されうる。損失関数Lを数15に示す。数15において、iは訓練データのデータ番号、nは訓練データの総数である。
【0044】
【数15】
【0045】
損失関数としては、二乗和誤差の他に、例えば、平均二乗和誤差、平均絶対誤差、または、平均二乗対数誤差などを求める関数が採用されてもよい。
【0046】
次に、機械学習における最適化の方法について例示的に説明する。機械学習における最適化の方法としては、例えば勾配法を用いることができる。図8(a)には、勾配法の手順が例示されている。まず、工程SS1において、制御部1035は、収集した訓練データの中から学習用の訓練データを選択する。学習用の訓練データは、収集された訓練データの中からランダムに選択されてもよいし、学習したい特徴が良く現れた訓練データが選択されてもよい。次に、工程SSS2において、制御部1035は、損失関数の値を減らすために、各パラメータ値の勾配を求める。各パラメータ値の勾配は、損失関数の値をLとした場合、例えば、数16で表されうる。
【0047】
【数16】
【0048】
続いて、工程SS3では、制御部1035は、各パラメータ値を勾配の方向に微小量だけ更新する。各パラメータ値の更新は、例えば、数17に従って行うことができる。数17のηは学習率を表しており、1回の学習でどれだけパラメータ値を更新するかを決めるパラメータである。一般的に学習率ηは、0.001~0.1程度でありうる。
【0049】
【数17】
【0050】
工程SS4では、制御部1035は、更新したパラメータ値における損失関数Lを計算する。工程SS5では、制御部1035は、終了条件が満たされているか否かを判定し、終了条件が満たされていれば学習を終了し、満たされていなければ工程SS1mに戻り、学習を継続する。
【0051】
図8(b)には、図8(a)に示された勾配法の手順の一部を変更した手順が他の例として示されている。図8(b)に示された勾配法の手順では、数18に示されるように、記憶された損失関数Loldに対する損失関数Lの変化量ΔLが計算され、変化量ΔLが閾値以下であるか否かを判定する工程SS6が追加されている。変化量ΔLが閾値以下でなければ工程SS3に戻ってパラメータ値が更新され、工程SS4で損失関数Lが計算される。図8(b)の手順は、一度勾配を求めて進むべき方向を決めたら、勾配の方向にパラメータ値を変更し続け、損失関数Lの低下が止まったら、新たに勾配を求めてパラメータ値の更新を行う方法である。この方法は、図8(a)に示される手順に比べて、損失関数Lを最小にする最適解をより早く求めることができる。
【0052】
【数18】
【0053】
学習率ηは、学習の進み具合に応じて徐々に小さくされてもよい。これによりパラメータ値が最適解から離れている場合は、パラメータ値を大きく変更し、パラメータ値が最適解に近づいてきた場合は、パラメータ値が細かく変更されるので、最適解により早くかつより正確に到達することができる。
【0054】
第1実施形態では、機械学習における最適化の方法として勾配法が用いられたが、他の最適化の方法が採用されてもよい。
【0055】
外乱推定部Gdeのパラメータ値を決定するための処理は、制御装置1100の稼働中(被加工物1001の加工中)に実行されてもおいし、非稼働時間に専用の駆動プロファイルに従って加工部1010を駆動することによって実行されてもよい。非稼働時に外乱推定部Gdeのパラメータ値を決定する場合は、例えば、定期的、任意のタイミングで、または所定条件を満たす場合に、外乱推定部Gdeのパラメータ値を決定する処理が実行されうる。例えば、外乱力Fdに対する推定外乱力Fdeの誤差がある比率(例えば、5%)を超えた場合は、外乱推定部Gdeのパラメータ値が更新あるいは再決定されうる。
【0056】
図9には、第2実施形態における外乱力補正を行った力フィードバック制御系の構成を示すブロック線図が示されている。第2実施形態では、第1実施形態における外乱推定部Gdeに代えて、ニューラルネットワークで構成された外乱推定部Gdenが使用されうる。外乱推定部Gdenは、図10に例示されるように、入力層と、複数の中間層と、出力層とを含みうる。中間層の総数や、各層のノード数は適切に設定されうる。外乱推定部Gdenのパラメータ値の最適化は、例えば、第1実施形態における外乱推定部Gdeのパラメータ値の決定方法と同様の方法でなされうる。ニューラルネットワークで構成された外乱推定部Gdenを用いることによって、3要素モデルを用いた外乱推定部Gdeよりも、高精度に外乱を推定することができる。
【0057】
第3実施形態では、第1実施形態における外乱推定部Gdeのパラメータ値が強化学習を用いて決定される。強化学習では、学習時の目標となる報酬として様々な形式の値を用いることが可能であるが、一例として、「行動評価関数Qπ(s、a)」による学習例を示す。行動評価関数Qπ(s、a)は、数19で示されうる。
【0058】
【数19】
【0059】
数19において、tは時刻、sは状態、aは行動、πは方策、Eπ{ }は方策πの元での期待値、rは報酬、γは将来報酬の割引率、kは将来報酬までの時刻を表している。
【0060】
行動する主体(エージェント)、ここでは制御部1035は、数19における行動評価関数Qπ(s、a)を最大化するように行動する。その際、「過去の経験上の最適行動」と、更なる報酬獲得を目指した「新規行動の探索」とを、所定の方策πに従って、選択しながら実施する。その際、将来の報酬を考慮した期待値の式になっているため、短期的には報酬が減少するが、長期的には大きな報酬が得られるという状況に対処することができる。これにより、行動評価関数Qπ(s、a)を最大化する状態と行動を学習することができる。
【0061】
数19に示す行動評価関数Qπ(s、a)における報酬は、数20に示されるように、数15の評価関数の逆数として定義されうる。
【0062】
【数20】
【0063】
数20は、外乱推定部Gdeにより推定された外乱力Fdeが、実機の外乱力Fdに近ければ報酬rが大きくなることを期待する式である。
【0064】
行動aは、例えば、以下のように定義されうる。行動aの数は、パラメータ値の数9×2=18となる。
【0065】
【数21】
【0066】
ここで、jは学習回数を表している。行動aは、外乱推定部Gdeの最適なパラメータ値を探索するために、外乱推定モデルのバネ定数、減衰係数を微小量ΔK、ΔCずつ増加或いは減少させるような行動である。ΔK、ΔCの大きさは、初期状態のバネ定数、減衰係数にある比率を掛けたものとすることができ、その比率は、例えば0.1%~10%程度の範囲内でありうる。なお、外乱推定部Gdeの最適なパラメータ値を探索可能な行動であれば、行動aに限定されるものではなく、別の行動を定義しても良い。
【0067】
方策πは、以下のように定義されうる。
【0068】
方策π:ランダムに行動aを選択し、行動評価関数Qπ(s、a)が増加すれば、外乱推定部Gdeのパラメータ値を更新する。
【0069】
ここで、将来報酬を考慮せず、将来報酬までの時刻kを0、将来報酬の割引率γを0.01とし、行動評価関数Qπ(s、a)を報酬rと等価としてもよい。
【0070】
ランダムに選択された行動ajh(hは1~18のいずれか)によって、外乱推定部Gdeのパラメータ値が変更される。このときの行動評価関数Qπ(s、a)が初期状態sの行動評価関数Qπ(s、a)に対して増加している場合、t=1の状態sの外乱推定部Gdeのパラメータ値が更新される。一方、このときの行動評価関数Qπ(s、a)が初期状態sの行動評価関数Qπ(s、a)に対して増加していない場合、t=1の状態sの外乱推定部Gdeのパラメータ値は更新されない。このように、行動評価関数Qπ(s、a)が前回の行動評価関数Qπ(s、a)よりも良い場合に外乱推定部Gdeのパラメータを変更する。これにより、方策πの元で時刻tが進むことで、行動評価関数Qπ(s、a)が増加するように外乱推定部Gdeのパラメータ値を最適化することができる。ここで、時刻tは、学習回数(epoch)と等価であるため、時刻tが1つ進むことを、「1回学習する」と言うことができる。
【0071】
方策πの定義は、上記の例に限定されない。探索済みの状態へ移行する行動を選択しないなどの任意の条件が追加されてもよい。将来報酬までの時刻kを1以上の値とし、累積情報を元に行動評価関数Qπ(s、a)が最大化されてもよい。この場合、最適化までの学習回数は増加するが、局所解にはまらずに、外乱推定部Gdeのパラメータ値の決定が可能となる。
【0072】
第4実施形態は、第1実施形態における外乱推定部Gdeのパラメータ値が、機械学習ではなく、最適化手法を用いて決定される。図15には、最適化手法によってK11を最適化する例が示されている。制御部1035は、K11をΔK11だけ大きくした場合の損失関数LpとK11をΔK11だけ小さくした場合の損失関数Lmを計算するそして、制御部1035は、LpとLmとを比較し、より損失関数Lを小さくできる方向にK11を変化させていく。ここでは、Lpがより小さい場合を例に説明する。
【0073】
まず、制御部1035は、L_oldにLpを代入する。次に、K11を更にΔK11だけ大きくした場合の損失関数Lを計算する。LとL_oldを比較しLが小さければ、L_oldにLを代入し、更にK11をΔK11だけ大きくし、損失関数Lを計算し、LとL_oldを比較するというループを損失関数Lが小さくならなくなるまで続ける。制御部1035は、LがL_oldより大きい場合はループを抜けて、L_K11にL_oldを代入し、K11にK11_oldを代入する。そして最後にK11とL_K11を出力する。
【0074】
次に、複数のパラメータのパラメータ値を最適化する方法について図16を用いて説明する。図16の例では、パラメータK11、K12、C12のパラメータ値が最適化されるが、より多くのパラメータのパラメータ値が同時に最適化されてもよいよく、第4実施形態のように幾つかのパラメータを対象としてそれらのパラメータ値が最適化されてもよい。
【0075】
図16の例では、制御部1035は、まず、現状のK11、K12、C12をそれぞれ、K11_old、K12_old、C12_oldに代入する。次に、制御部1035は、K11、K12、C12をそれぞれ最適化し、最適化したK11、K12、C12とそれぞれの損失関数L_K11、L_K12、L_C12を出力する。更に制御部1035は、L_K11、L_K12、L_C12を比較し、最も損失関数Lを小さくすることができるパラメータのパラメータ値を変更する。例えば、L_K11が一番小さい場合は、制御部1035はK11を変更し、更にLにL_K11を代入する。次に、制御部1035は、LとL_oldとを比較し、LがL_oldより小さければ、L_oldにLを代入し、更にK11、K12、C12をそれぞれ最適化する。L_K11、L_K12、L_C12を比較し、最も損失関数Lを小さくすることができるパラメータのパラメータ値を変更し、Lを更新するというループを損失関数Lが小さくならなくなるまで続ける。LがL_oldより大きい場合は、制御部1035は、ループを抜けて、K11にK11_old、K12にK12_old、C12にC12_oldを代入する。そして、制御部1035は、最後にK11、K12、C12を出力する。以上のようにして、外乱推定部Gdeのパラメータのパラメータ値は、機械学習ではなく、最適化手法を用いて決定されてもよい。
【0076】
第5実施形態は、第1実施形態の外乱推定部Gdeあるいは制御装置1100がインプリント装置に適用された例を提供する。図11には、第5実施形態におけるインプリント装置100の構成が模式的に示されている。図11(a)は、型10と基板1の上のインプリント材60とが接触する前の状態を示し、図11(b)は、型10と基板1の上のインプリント材60とが接触した状態を示している。以下、基板1の表面に平行な面において互いに直交する2つの軸をX軸およびY軸をとし、X軸およびY軸に垂直な軸をZ軸として説明する。
【0077】
インプリント装置100は、基板1を保持する基板操作部23と、インプリント材60を供給する供給部18と、型10を保持する型操作部24と、光源16と、アライメントスコープ21と、制御部35と、を備えうる。インプリント装置100は、基板1の上に供給されたインプリント材60を型10と接触させ、インプリント材60に硬化用のエネルギーを与えることにより、型10の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する。図11のインプリント装置100は、半導体デバイスなどの物品を製造するために使用されうる。
【0078】
基板操作部23は、基板チャック2と、θステージ3(回転駆動部)と、XYステージ4(XY駆動部)と、を備えうる。基板チャック2は、真空吸着力または静電吸着力によって基板1を保持する。図11において、基板1は、基板チャック2によって保持されている。θステージ3は、基板1のθ方向(Z軸回りの回転方向)の位置を補正し、基板1のX方向とY方向の位置決めするためのXYステージ4上に配置される。XYステージ4は、リニアモータ19によりX方向及びY方向に駆動されうる。θステージ3及びXYステージ4は、基板チャック2を保持し、基板チャック2によって保持された基板1を移動させる。XYステージ4は、ベース5上に載置される。リニアエンコーダ6は、ベース5上に、X方向及びY方向に取り付けられ、XYステージ4の位置を計測する。支柱8は、ベース5上に屹立し、天板9を支えている。
【0079】
基板1としては、例えば、単結晶シリコン基板またはSOI(Silicon On Insulator)基板などが用いられる。また、基板1としては、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられてもよく、必要に応じて、母材の表面の上に母材とは別の材料からなる部材あるいは層が形成されていてもよい。具体的には、基板は、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハまたは石英ガラスなどを含みうる。基板1は、複数のショット領域を有してもよく、ショット領域には供給部18によってインプリント材60が供給されうる。インプリント装置100は、ショット領域毎にインプリント材のパターンを形成するインプリント処理を繰り返すことで、基板1の全面にパターンを形成することができる。
【0080】
インプリント材60としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、紫外線等でありうる。硬化性組成物は、光の照射により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。本実施形態では、一例として、紫外線によって硬化する性質を持つ光硬化性組成物をインプリント材60として用いる。インプリント材60は、供給部18により、液滴状、或いは複数の液滴が繋がってできた島状または膜状となって基板1上に配置されうる。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。また、インプリント材60は、スピンコーターやスリットコーターによって基板上に膜状に付与されてもよい。
【0081】
供給部18(ディスペンサ)は、基板1上にインプリント材60を供給する。供給部18は、例えば、吐出ノズル(不図示)を有しており、吐出ノズルから基板1上にインプリント材60を供給する。なお、本実施形態において、供給部18は、一例として基板1の表面に液状のインプリント材60を滴下することにより基板1上にインプリント材を供給する。供給部18によって供給されるインプリント材の量は、必要となるインプリント材の厚さや形成するパターン密度などによって決められても良い。また、供給部18はインプリント装置100に必ずしも設けられていなくてもよく、インプリント装置100外に設けられた供給部によってインプリント材を基板1上に供給してもよい。
【0082】
型10は、基板上のインプリント材を成形するための型である。型は、モールド、テンプレートまたは原版とも呼ばれうる。型10は、例えば、外周部が矩形で、基板1に対向する面に基板1上に供給されたインプリント材60に転写される凹凸状のパターンが3次元形状に形成されたパターン領域Pを備える。パターン領域Pは、メサ部とも呼ばれる。パターン領域Pは、型10のパターン領域P以外(パターン領域Pを囲む領域)が基板1に接触しないように数十μm~数百μmの凸部に形成されている。型10は、基板上のインプリント材を硬化させるための光(紫外線)を透過する材料、例えば、石英などで構成されている。
【0083】
型操作部24は、型チャック(型保持部)11と、型ステージ22と、リニアアクチュエータ15(型駆動部)とを含みうる。型チャック11は、真空吸着力または静電吸着力などによって型10を保持する。型チャック11は、型ステージ22によって保持される。型ステージ22は、型10のZ位置の調整機能、及び、型10の傾きを補正するためのチルト機能を有する。リニアアクチュエータ15は、型チャック11によって保持された型10をZ軸方向に駆動して、型10を基板1上のインプリント材60に接触させ、引き離す。リニアアクチュエータ15は、例えばエアシリンダまたはリニアモータである。なお、型チャック11及び型ステージ22は、第1光源16から照射される光を型10へと通過させる開口(不図示)をそれぞれ有する。
【0084】
光源16は、基板1上のインプリント材60を硬化させる処理において、インプリント材60を硬化させる光(紫外線)を、コリメータレンズ17aを介して基板1に照射する。光源16は、例えば、i線(365nm)を発生する光源でありうるが、他の波長の光を発生してもよい。ビームスプリッタ20は、光源16かと型操作部24との間の光路に配置され、アライメントスコープ21により型10の接触状態を観察するために使用される光とインプリント材60を硬化させる光とを分離する。アライメントスコープ21は、ビームスプリッタ20を介して型10のパターン領域Pを撮像する。
【0085】
制御部35は、インプリント装置100を構成する各部の動作、及び調整等を制御する。制御部35は、例えば、コンピュータなどで構成され、インプリント装置100を構成する各部に通信路を介して接続され、プログラムなどにしたがって各部の制御を実行しうる。制御部35は、インプリント装置100内に設けてもよいし、インプリント装置100とは別の場所に設置し遠隔で制御しても良い。
【0086】
次に、上記のように構成されたインプリント装置100によるインプリント処理について説明する。図12は、第5実施形態に係るインプリント装置100におけるインプリント処理を示すフローチャートである。各ステップは、制御部35によるインプリント装置100の各部の制御により実行されうる。まず、インプリントに必要な各種パラメータの設定を行う(ステップS0)。その後、インプリント装置100のXYステージ4を駆動し、基板1が載置された基板チャック2をX方向及びY方向に移動させ、インプリント処理の対象となるショット領域(以下、対象ショット領域)を供給部18の下に配置する(ステップS1)。そして、所定量の未硬化のインプリント材60を基板1上に供給する(ステップS2)。
【0087】
次に、対象ショット領域が型10のパターン領域Pと対向する位置に配置されるように、再び、XYステージ4を駆動して基板チャック2を移動させ、θステージ3を駆動して基板1のθ方向位置を補正する(ステップS3)。続いて、リニアアクチュエータ15を駆動することにより、型ステージ22を-Z方向に移動させ、型10を基板1上の未硬化のインプリント材60と接触させる(接触工程、ステップS4)。ステップS4では、型ステージ22を移動させる代わりに基板チャック2をZ方向に移動させてもよいし、型ステージ22と基板チャック2をそれぞれ移動させてもよい。制御部35は、型10と基板1上の未硬化のインプリント材60とを接触させた際に生じる接触力が最適であるか判断する(ステップS5)。
【0088】
接触力が最適でない場合(ステップS5、NO)、型ステージ22は、型10のインプリント材60との接触力が所定値となるように、型チャック11の傾きを変化させる。また、リニアアクチュエータ15により押し付け量を変えることにより、型10をインプリント材に押し付ける力が調整される(ステップS6)。
【0089】
接触力が最適である場合(ステップS5、YES)、型10及び基板1に形成されたアライメントマークAMをアライメントスコープ21で検出し、検出された計測結果を基に位置合わせを行う。計測結果から型10と基板1の相対的なずれを求め、XYステージ4及びθステージ3を駆動し、型10と基板1との位置合わせを行う(ステップS7)。
【0090】
型10と基板1の位置合わせを行った後、光源16により基板1上のインプリント材60に光(紫外線)の照射(本露光)を行い、インプリント材60を硬化させる(ステップS8)。本露光の照射領域は、ショット領域の全面である。所定時間の光(紫外線)の照射が終わると、リニアアクチュエータ15を駆動することにより、型ステージ22を+Z方向に上昇させ、基板1上の硬化したインプリント材60から型10を引き離す離型工程(ステップS9)が行われる。ステップS9では、型ステージ22を移動させる代わりに基板チャック2をZ方向に移動させてもよいし、型ステージ22と基板チャック2をそれぞれ移動させてもよい。
【0091】
その後、基板1上の全てのショット領域へのパターン形成が終了したか判断する(ステップS102)。インプリント材のパターンを形成するショット領域が残っている場合には、次の対象ショット領域へのインプリント材60の供給を行うために、XYステージ4を駆動し、基板1を移動させる(ステップS1)。これら一連の処理を、基板1上の全てのショット領域へのパターン形成が終了するまで繰り返す。全てのショット領域へのパターン形成が終了すると、XYステージ4を駆動して基板1を所定の位置に移動させ(ステップS113)、1枚の基板1に対するインプリント処理を終了する。
【0092】
ステップS6において、型10をインプリント材に押し付ける力が調整されるが、型操作部24には、電力および流体を供給するための実装部50が繋がっていて、実装部50が型操作部24に外乱力を加える。そこで、第5実施形態では、制御部35は、外乱推定部Gdeを有し、型操作部24の位置計測器(不図示)により計測された型ステージ22の変位Z0を外乱推定部Gdeに供給する。そして、外乱推定部Gdeによって推定外乱Fdeを求め、推定外乱力Gdeに基づいて操作電圧Vcが補正されうる。外乱推定部Gdeは、複数の3要素モデルであり、外乱推定部Gdeのパラメータ値の決定には、第1実施形態と同様に、教師無し学習の機械学習が用いられうる。
【0093】
第6実施形態では、第2実施形態の外乱推定部Gdenがインプリント装置に適用される。外乱推定部Gdenは、ニューラルネットワークで構成され、外乱推定部Gdenのパラメータ値の決定には、第2実施形態と同様に、教師無し学習の機械学習が用いられうる。
【0094】
第7実施形態では、第3実施形態の外乱推定部Gdeがインプリント装置に適用される。外乱推定部Gdeは、複数の3要素モデルであり、外乱推定部Gdeのパラメータ値の決定には、第3実施形態と同様に、強化学習を用いられうる。
【0095】
第1乃至第7実施形態では、加工部1010または型操作部24に加わる外乱を外乱推定部により推定し、これに基づいて操作量が補正されうる。しかし、インプリント装置の場合、様々な外乱要因が複雑に影響し合っているため、実装部50による外乱力に基づく補正だけでは、オーバーレイ精度を向上できない場合がある。そこで、第8実施形態では、基板の上のインプリント材と型とを接触させる接触工程における外乱力を推定するために、重ね合わせ検査装置の計測結果基づいて計算される外乱力データdata_Fdimpを用いて外乱推定部のパラメータ値が決定される。外乱推定部としては、例えば、ニューラルネットワークが使用されうる。外乱推定部への入力としては、インプリント処理中の型チャック11の変位Z0に加えて、型チャック11を駆動するリニアアクチュエータ15への操作電圧Vcimpを用いることができる。外乱推定部は、変位Z0と操作電圧Vcimpとに基づいて、推定外乱力Fdeimpを出力しうる。外乱力データdata_Fdimpは、ショット領域毎に出力される値なので、推定外乱力Fdeimpについても各ショット領域について接触工程時の推定外乱力Fdeimpを収集し、推定外乱力データdata_Fdeimpとすることができる。接触工程時の外乱力データdata_Fdimpと推定外乱力データdata_Fdeimpを訓練データとして、第2実施形態と同様に、教師無し学習の機械学習を用いて、外乱推定部パラメータ値を決定することができる。これにより、オーバーレイ精度に影響を及ぼすインプリント時の外乱を外乱推定部によって推定し、該外乱に基づいて操作量を補正することによってオーバーレイ精度を向上させることができる。
【0096】
第9実施形態では、第8実施形態の外乱推定部のパラメータ値の決定のために、第3実施形態と同様に強化学習が用いられる。
【0097】
以下、第10実施形態として物品製造方法を説明する。インプリント装置を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0098】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0099】
次に、上記のインプリント装置によって基板にパターンを形成し、該パターンが形成された基板を処理し、該処理が行われた基板から物品を製造する物品製造方法について説明する。図17(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0100】
図17(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。図17(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0101】
図17(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0102】
図17(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。図17(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0103】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0104】
1010:加工部、1001:被加工物、1015:駆動部、1303:補正部、1305:外乱推定部
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