(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】血液検体の分析方法、分析装置、および分析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20241127BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241127BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N33/483 C
G01N21/59 Z
(21)【出願番号】P 2020171206
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 有香
(72)【発明者】
【氏名】木村 考伸
(72)【発明者】
【氏名】西 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】熊野 穣
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06524861(US,B1)
【文献】特開2007-263907(JP,A)
【文献】特開2020-051824(JP,A)
【文献】特表2002-541431(JP,A)
【文献】家子 正裕,その凝固因子インヒビター値は本当ですか? ~偽陰性・偽陽性をきたす病態~,血栓止血誌,2018年,29(1),pp.3-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/86
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体の分析方法であって、
血液凝固曲線またはその微分曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得し、
前記データ群に含まれる前記複数のデータは、凝固反応の開始から終了までの間に、経時的に所定間隔ごとに取得され、
前記データ群を
、畳み込みニューラルネットワークを含む深層学習アルゴリズムに入力し、
前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、前記血液検体における血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力する、
前記分析方法。
【請求項2】
前記データ群に含まれる複数の前記データは、前記血液凝固曲線を構成する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記データ群に含まれる複数の前記データは、前記血液凝固曲線の一次微分曲線または二次微分曲線を構成する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項4】
前記データ群に含まれる複数の前記データが、光学的な測定によって得られる、請求項1から
3のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項5】
前記データ群が、第1の波長の光を、前記血液検体と凝固時間測定試薬とを含む測定試料に照射することで得られた、複数の前記データと、第1の波長とは異なる第2の波長の光を前記測定試料に照射することで得られた、複数の前記データと、を含む、請求項
4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記データ群が、第1の血液凝固パラメータについての第1データ群と、第2の血液凝固パラメータについての第2データ群と、を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項7】
前記血液凝固時間の延長の原因が、活性化部分トロンボプラスチン時間の延長に関する原因、およびプロトロンビン時間の延長に関する原因よりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1から
6のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項8】
前記血液凝固延長の原因が、肝疾患;播種性血管内凝固症候群;ビタミンK欠乏;大量出血;凝固因子の減少、欠乏または機能異常;凝固因子インヒビターの存在;ループスアンチコアグラントの存在;抗凝固薬の使用;異常タンパク質の存在;および採血手技に由来するものよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記凝固因子の減少、欠乏または機能異常が、フィブリノーゲン、第2因子、第5因子、第7因子、第8因子、フォンビレブランド因子、第9因子、第10因子、第11因子、第12因子、HMWK(High Molecular Weight Kininogen)、およびプレカリクレインよりなる群から選択される少なくとも1つの減少、欠乏または機能異常である、請求項
8に記載の分析方法。
【請求項10】
前記凝固因子インヒビターが、第5因子インヒビター、第8因子インヒビター、フォンビレブランド因子インヒビター、および第9因子インヒビターよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
8に記載の分析方法。
【請求項11】
前記採血手技に由来するものが、ヘパリンの混入を含む、請求項
8に記載の分析方法。
【請求項12】
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報は、前記血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルと、前記ラベルによって示された原因候補が、前記血液凝固時間の延長の原因である確率と、を含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項13】
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報は、前記血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルと、血液凝固時間の延長の複数の原因候補のうち、前記ラベルによって示された前記原因候補が、前記血液凝固時間の延長の原因である確率と、を含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項14】
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力において、前記確率を、グラフ形式で表示する、請求項
12または
13に記載の分析方法。
【請求項15】
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力において、前記確率の最も高い血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルを出力する、請求項
12から
14のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項16】
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力において、前記確率が所定の閾値以上を示した血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルを出力する、請求項
12から
14のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項17】
さらに、前記所定の閾値の設定を受け付ける、請求項
16に記載の分析方法。
【請求項18】
前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、追加検査に関する情報を出力することをさらに含む、請求項1から
17のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項19】
前記追加検査が、凝固因子の検査、凝固因子インヒビターの検査、および前記測定試料について実施された測定項目の再検査よりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
18に記載の分析方法。
【請求項20】
前記追加検査に関する情報の出力において、前記追加検査が複数あるとき、各追加検査の優先順位が出力される、請求項
18または
19に記載の分析方法。
【請求項21】
前記追加検査で特定された血液凝固時間の延長の原因を、前記データ群と関連付けて記憶することをさらに含む、請求項
18から
20のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項22】
さらに、前記関連付けて記憶された前記データ群を前記血液凝固時間の延長の原因とともに出力する、請求項
21に記載の分析方法。
【請求項23】
前記血液検体が、血液凝固時間が延長しているか否かを判定することをさらに含み、
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力は、延長があると判定された場合は実行され、延長がないと判定された場合は実行されない、
請求項1から
22のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項24】
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力要求を受け付けることをさらに含み、
前記血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力は、前記出力要求を受け付けると実行される、
請求項1から
23のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項25】
血液凝固パラメータの種類に応じて、入力先の前記深層学習アルゴリズムを、複数の深層学習アルゴリズムから選択することをさらに含む、請求項1から
24のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項26】
前記血液凝固曲線が、活性化部分トロンボプラスチン時間、またはプロトロンビン時間を取得するための曲線である、請求項1から
25のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項27】
前記深層学習アルゴリズムが、血液凝固時間の延長の原因が既知である血液検体と凝固時間測定試薬とを含む測定試料から得られた、前記データ群と、血液凝固時間の延長の原因を示すラベルと、を含むデータセットにより訓練したものである、請求項1から
26のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項28】
前記血液検体と凝固時間測定試薬とを含む測定試料を調製することと、
前記測定試料から、前記血液凝固曲線を構成する複数の検出情報を生成することと、をさらに含み、
生成された前記複数の検出情報に基づき、前記データ群を取得する、請求項1から
27のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項29】
前記血液検体と凝固時間測定試薬とを含む測定試料から前記データ群を生成する分析装置より、ネットワークを介して、前記データ群を受信し、受信した前記データ群を前記深層学習アルゴリズムに入力する、請求項1から
28のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項30】
血液検体の分析装置であって、
前記血液検体と凝固時間測定試薬とを含む測定試料を調製し、前記測定試料から、血液凝固曲線を構成する複数の検出情報を出力する測定部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記複数の検出情報に基づき、前記血液凝固曲線またはその微分曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得し、
前記データ群に含まれる前記複数のデータは、凝固反応の開始から終了までの間に、経時的に所定間隔ごとに取得され、
前記データ群を
、畳み込みニューラルネットワークを含む深層学習アルゴリズムに入力し、
前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、前記血液検体における血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力する、
前記分析装置。
【請求項31】
コンピュータに実行させたときに、
コンピュータに、
血液凝固曲線またはその微分曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得するステップ
であって、前記データ群に含まれる前記複数のデータは、凝固反応の開始から終了までの間に、経時的に
所定間隔ごとに取得されるステップと、
前記データ群を
、畳み込みニューラルネットワークを含む深層学習アルゴリズムに入力するステップと、
前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、血液検体における血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力するステップと、
を実行させる、前記血液検体の分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、血液検体の分析方法、分析装置、および分析プログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査において、血液凝固時間が延長した場合、医療従事者によりその原因の特定が行われる。血液凝固時間延長の原因特定を支援する方法として、特許文献1には、ニューラルネットワークを用いて、凝固因子の欠乏、検体へのヘパリンの混入、およびループスアンチコアグラントの存在を予測する方法が開示されている。特許文献1では、PTまたはAPTTの時間依存的な光学プロファイルを取得し、光学プロファイルの1次導関数の最小値、1次導関数の最小値の時間インデックス、光学プロファイルの2次導関数の最小値、2次導関数の最小値の時間インデックス、2次導関数の最大値、2次導関数の最大値の時間インデックス、反応中の透過率の全体的な変化、凝固時間、血餅形成前の光学プロファイルの傾き、および血餅形成後の光学プロファイルの傾きのいずれか1つ以上の予測変数をニューラルネットワークの入力値としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法は、ニューラルネットワークへの入力値が特定の予測変数に限定されているため、複数の延長原因において予測変数の変化が類似する場合の予測は困難であり、予測精度の向上が求められていた。
本発明は、従来よりも高い精度で延長原因を予測することが可能な、血液検体の分析方法、分析装置、および分析プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示されるある実施形態は、血液検体の分析方法に関する。前記分析方法は、血液凝固曲線またはその微分曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得し、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、前記血液検体における血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力する。
【0006】
本明細書に開示される別の実施形態は、血液検体の分析装置(1)に関する。前記分析装置(1)は、測定部(2)と、制御部(201)を備える。測定部(2)は、前記血液検体と凝固時間測定試薬とを含む測定試料を調製し、前記測定試料から、血液凝固曲線を構成する複数の検出情報を出力する。制御部(201)は、前記複数の検出情報に基づき、血液凝固曲線またはその微分曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得し、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、前記血液検体における血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力する。
【0007】
本明細書に開示される別の実施形態は、血液検体の分析プログラム(202b)に関する。分析プログラム(202b)は、コンピュータに実行させたときに、コンピュータに、血液凝固曲線またはその微分曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得するステップと、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力するステップと、前記深層学習アルゴリズムから得られる結果に基づき、前記血液検体における血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも高い精度で延長原因を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】分析装置1の制御部201による測定・分析処理のフローを示す。
【
図6】測定プログラム202aに基づいて制御部201が実行する測定処理のフローを示す。
【
図7】分析プログラム202bに基づいて制御部201が実行する分析処理のフローを示す。
【
図8】(A)は血液凝固曲線の例を示す。(B)正規化凝固曲線の一例を示す。
【
図9】(A)は一次微分凝固曲線の例を示す。(B)二次微分凝固曲線の例を示す。
【
図10】深層学習アルゴリズムの訓練の概要を示す。
【
図11】深層アルゴリズムを用いた分析の一例を示す。
【
図12】複数のデータを含むデータ群の変形例を示す。
【
図13】(A)はソフトマックス型で示す確率を円グラフで出力した例である。(B)はバイナリー型で示す確率を棒グラフで出力した例である。
【
図14】追加検査DB202fに記憶される情報の例を示す。
【
図15】(A)訓練装置5の外観例を示す。(B)訓練装置5のハードウエア構成例を示す。
【
図16】訓練プログラム502bに基づいて制御部501が実行する訓練処理の例を示す。
【
図17】分析装置1の変形例のハードウエア構成例を示す。
【
図18】分析装置1’の制御部201が分析プログラム202b’に基づいて実行する処理のフローを示す。
【
図19】(A)は従来法による予測結果を示すヒストグラムである。(B)は、本実施形態による予測結果を示すヒストグラムである。
【
図20】(A)は従来法のROC曲線を示す。(B)は、本実施形態のROC曲線を示す。
【
図21】ワーファリン投与血液検体、DOACs投与検体、肝機能低下検体についてPT測定を行い、鑑別した結果を示す。(A)はワーファリン投与血液検体のROC曲線を示す。(B)はDOACs投与血液検体のROC曲線を示す。(C)は肝機能低下検体のROC曲線を示す。
【
図22】FVIIIインヒビター陽性血液検体、FVIII欠乏血液、LA陽性血液検体、ヘパリン投与血液検体DOACs投与血液検体についてAPTT測定を行い、鑑別を行ったときの結果を示す。(A)はFVIIIインヒビター陽性血液検体のROC曲線を示す。(B)はFVIII欠乏血液検体のROC曲線を示す。(C)はLA陽性血液検体のROC曲線を示す。(D)はヘパリン投与血液検体のROC曲線を示す。(E)はDOACs投与血液検体のROC曲線を示す。
【
図23】FVIIIインヒビター陽性血液検体、LA陽性血液検体、肝機能低下血液検体、ヘパリン投与血液検体、DOACs投与血液検体について、PT測定とAPTT測定を行い、鑑別を行ったときの結果を示す。(A)はFVIIIインヒビター陽性血液検体のROC曲線を示す。(B)はLA陽性血液検体のROC曲線を示す。(C)肝機能低下血液検体のROC曲線を示す。(D)はヘパリン投与血液検体のROC曲線を示す。(E)はDOACs投与血液検体のROC曲線を示す。
【0010】
1.分析装置
図1から
図14を用いて、本実施形態の分析装置(以下、単に「分析装置1」とする)を説明する。
1-1.分析装置のハードウエア構成
分析装置1は、血液検体に凝固測定試薬を添加することにより調製された測定試料に光を照射し、測定試料に照射された光の透過光を検出し、検出した光に基づいて血液検体を分析する装置である。本実施形態の分析装置1の外観例を
図1に示す。分析装置1は、検出情報を取得するための測定部2と、タッチパネル式でデータの入力が可能なディスプレイ4と、を備えている。分析装置1のハードウエア構成例を
図2に示す。
【0011】
分析装置1の測定部2は、制御部201と、記憶部202と、光照射部10と、試料調製部20と、検出器230と、入力インタフェース(I/F)206と、出力インタフェース(I/F)207と通信インタフェース(I/F)208と、バス209を備えている。
【0012】
制御部201は、CPU(CentralProcessingUnit)またはFPGA(field-programmablegatearray)などの演算処理装置を備える。
【0013】
記憶部202は、測定部2による測定動作を制御するための測定プログラム202aと、分析プログラム202bと、1または複数の深層学習アルゴリズム60を格納するアルゴリズムデータベース(DB)202cと、各血液凝固パラメータの血液凝固時間の基準値、および血液凝固時間の延長の原因候補が前記血液凝固時間の延長の原因である確率の閾値を格納する基準値/閾値データベース(DB)202dと、追加検査の情報を格納した追加検査データベース(DB)202eを記憶している。
【0014】
入力インタフェース206は、ディスプレイ4の入力部411からオペレータが入力した入力情報を受け付け、制御部201または記憶部202に送信する。
【0015】
出力インタフェース207は、制御部201が出力する出力情報をディスプレイ4の出力部412に送信する。
【0016】
通信インタフェース208は、測定部2をネットワーク99と通信可能に接続する。接続は、有線であっても無線であってもよい。
測定部2内の信号の伝送は、バス209を介して行われる。
【0017】
光照射部10の構成例を
図3に示す。
図3の構成例では、光照射部10は、5つの光源320と、5つの光源320に対応して設けられた5つの光ファイバ部330と、各光源320と各光ファイバ部330の入射端331とを保持するための1つの保持部材340とを含んでいる。光源320、光ファイバ部330および保持部材340は、例えば金属製のハウジング310内に収容されている。
【0018】
5つの光源320は、いずれも、LEDにより構成されている。LEDは、一般にハロゲンランプの数十倍の寿命がある。これにより、ハロゲンランプなどの広帯域光源と回転フィルタとを用いた構成と比較して、より小型で寿命の長い光照射部10を構成することができる。また、波長ごとに個別のLEDを設けることができるので、それぞれの光源320の発光スペクトルおよび発光強度を個別に最適化できる。
光源320は、第1光源321、第2光源322および第3光源323を含んでいる。
【0019】
図3の構成例では、第1光源321は、第1の波長として、約660nmの光を発生する血液凝固時間測定用の光源である。第2光源322は、第2の波長として、約405nmの光を発生する光源である。第3光源323は、第3の波長として、約800nmの光を発生する光源である。
【0020】
図3の構成例では、複数の光源320は、第2の波長とは異なる第4の波長の光を発生させるための第4光源324をさらに含んでいる。第4の波長は、第2の波長と同様、300nm以上380nm以下の範囲から選択される波長である。より好ましくは、320nm~360nmの波長帯域の光を用いることができる。
図3の構成例では、第4の波長は、例えば340nmである。
【0021】
図3の構成例では、複数の光源320は、第3の波長とは異なる第5の波長の光を発生させるための第5光源325をさらに含んでいる。第5の波長は、第3の波長と同様、550nm以上590nm以下の範囲から選択される波長である。より好ましくは、560nm~580nmの波長帯域の光を用いることができる。
図3の構成例では、第5の波長は、例えば575nmである。
【0022】
光ファイバ部330は、それぞれの光源320に対応して設けられている。5つの光ファイバ部330は、第1光源321、第2光源322、第3光源323、第4光源324および第5光源325からの光がそれぞれの入射端331から入射するように光源320ごとに個別に設けられた光ファイバ部330a、330b、330c、330dおよび330eにより構成されている。
【0023】
図3の構成例では、複数の光ファイバ部330は、それぞれ複数本の光ファイバ333を含む。そして、複数の光ファイバ部330は、出射端332において、各光源320に対応した複数の光ファイバ333が略均一に分布するように混合して束ねられている。ここで「光ファイバ」とは、1本のコアを有する光ファイバ素線あるいは光ファイバ心線を意味する。各光ファイバ部330は、複数本の素線を束ねたケーブルあるいは撚り線として構成されている。この構成により、各々の光ファイバ部330の入射端331に別々に入射した各波長の光を、個別に容器15に照射するのではなく、共通の出射端332から出射させることができる。そのため、各波長の光を出射するための構成を簡素化できる。
【0024】
また、共通の出射端332において各波長の光の分布を均一化した状態で出射できるので、各波長の光を共通の出射端332から出射させる場合でも、波長ごとの光の分布が偏ることを抑制できる。
【0025】
図3の構成例では、5つの光ファイバ部330が、途中で撚り合われて一体化し、2つの出射端332を備えるように構成されている。2つの出射端332は、2つ検出器230にそれぞれ対応するように設けられている。2つの出射端332は、ハウジング310に設けられた2つの取出口311に、それぞれ接続されている。各出射端332は、各光ファイバ部330を構成する光ファイバ333を、それぞれ略等しい本数だけ含んでいる。また、各光ファイバ部330を構成する光ファイバ333が、出射端332の端面内において略均一に分布するように混合されている。各光ファイバ部330を構成する光ファイバ333の本数は、検出器230および240における容器設置部231の数に応じて決定される。例えば、容器設置部231の数をNとし、各光ファイバ部330が1つの容器設置部231に対して光ファイバM本分の光量を伝送する場合、各光ファイバ部330は、N×M本の光ファイバ333を含む。各出射端332は、各光ファイバ部330のうちから(N×M)/2の本数の光ファイバ333を集めて構成されている。
【0026】
図3の構成例では、光照射部10は、光ファイバ部330の出射端332に隣接するように配置され、出射端332側から入射した光の強度分布を均一化させて出射するための均一化部材350をさらに含んでいる。ここで、出射端332に配置された個々の光ファイバ333は、第1の波長から第5の波長のいずれかの光のみを出射する。つまり、出射端332では波長ごとの発光点がそれぞれ均一に分散して配置されることになる。そこで、出射光を均一化部材350に入射させて均一化させることにより、均一化部材350の出射面352では、面内全体にわたって各波長の強度分布が均一化される状態となる。これにより、波長ごとの光強度のばらつきを効果的に均一化できる。
【0027】
均一化部材350は、ハウジング310に設けられた2つの取出口311に、それぞれ配置されている。各均一化部材350は、入射面351が光ファイバ部330の各出射端332と対向し、出射面352が取出口311の出口側に配置されている。これにより、均一化部材350を通って強度分布が均一化された光が、各取出口311から出射される。均一化部材350は、例えば、入射面351から入射した光を内部で多重反射させて、出射面352から出射させるように構成されている。
なお、光ファイバ部330の出射端332において各波長の光の強度分布が十分に均一化される場合には、均一化部材350を設けなくてもよい。
【0028】
光照射部10の保持部材340は、5つの光源320を保持する。したがって、5つの光源320が、共通の保持部材340に支持されている。保持部材340は、例えば、アルミなどの金属製であり、角柱形状に形成されている。
図3の構成例では、光源保持部341と入射端保持部342とは、それぞれ、保持部材340の一端部および他端部に設けられ、保持部材340を貫通する貫通孔からなる通路部344により互いに接続されている。
【0029】
5つの光源保持部341は、各光源320の光の出射方向と直交する方向に沿って直線状に並んで配置されている。各光源320は、中央に第4光源324が配置され、第4光源324の両側に第5光源325および第2光源322が配置され、最も外側に第1光源321および第3光源323が配置されている。
【0030】
図3の構成例では、各光源320を保持する複数の光源保持部341と、複数の光ファイバ部330の入射端331をそれぞれ保持する複数の入射端保持部342とは、保持部材340において互いに直線状に向かい合う位置に配置されている。これにより、光源320の光軸と入射端331における光ファイバ部330の軸中心とを容易に精度よく一致させることができる。光源保持部341と入射端保持部342とが略同一軸線上で互いに対向する位置に配置されている。
【0031】
図3の構成例では、光源保持部341は、ソケット343を介して光源320を保持している。光源保持部341は、通路部344と接続された凹部345を含み、ソケット343は、凹部345に嵌め込まれた筒状部材である。光源320は、ソケット343の内部で固定的に保持されている。入射端保持部342は、保持部材340を貫通する貫通孔からなる通路部344の他端部分により構成されている。したがって、入射端保持部342は、入射端331が挿入できる孔部であり、光ファイバ部330の入射端331を含む所定長さの範囲を内部に挿入させて保持している。
【0032】
光照射部10には、光源320からの光を光ファイバ部330の入射端331に集光するための部材や、入射端331に入射する光の中心波長や半値幅などのスペクトル特性を調節するための部材を設けてもよい。
【0033】
例えば、光照射部10は、所定の波長帯域の光だけを透過させる光学バンドパスフィルタ360をさらに含む。光学バンドパスフィルタ360は、円板状形状を有し、一方の表面に照射された光のうち、所定の波長帯域の光だけを他方の表面へ透過させる。保持部材340は、光源320と、対応する光ファイバ部330の入射端331との間の位置で光学バンドパスフィルタ360を保持している。これにより、光源320から出射された光の中心波長や半値幅などを計測に適した特性となるように調節して、入射端331に入射させることができる。その結果、測定精度が向上する。また、光源320にも個体差が存在し、中心波長や半値幅などが異なる場合があるが、光学バンドパスフィルタ360によって光源320の個体差の影響を吸収し、安定した測定結果を確保することができる。
【0034】
ここでは光源としてLEDを使用する例を示したが、例えば光源としてハロゲンランプを用い、その光をバンドパスフィルタ等で第1の波長から第5の波長まで分光し、それぞれを測定試料に照射してもよい。
【0035】
検出器230の構成例を
図4に示す。検出器230は、上下方向に延びる穴部としての容器設置部231を含み、容器設置部231から側方に延びる穴233に、光分配部材380の出射端382が配置されている。穴233の内部には、集光レンズ234が配置されている。受光部11は、容器設置部231を挟んで穴233と対向するように形成された穴235の端部に設けられている。これにより、光分配部材380の出射端382、集光レンズ234、容器設置部231、および受光部11が、直線状に並んで配置されている。出射端382から出た光は、集光レンズ234を通って容器設置部231内の容器15および容器15内の測定試料を透過し、受光部11により検出される。なお、測定試料は血液検体と凝固時間測定試薬とを含み、容器15内で調製される。受光部11は、それぞれ、受光強度に応じた複数の電気信号(デジタルデータ)を検出情報として出力する。
【0036】
図2に戻り、試料調製部20は、血液検体および凝固時間測定試薬を容器15に分注するための分注機構を備える。
【0037】
光照射部10、試料調製部20および検出部230として、例えば、米国特許第10、048、249号公報に記載の光照射部、試料調製部および検出部を使用することができ、当該公報は本明細書に組み込まれる。
【0038】
1-2.測定・分析処理
図5に、制御部201による測定・分析処理の流れを示す。制御部201は、ステップS1において、測定プログラム202aに基づいて測定処理を実行する。次に、制御部201は、ステップS2において、分析プログラム202bに基づいて分析処理を実行する。
【0039】
1-3.測定プログラムの処理
図6に測定プログラム202aに基づいて制御部201が実行する測定処理の流れを示す。
制御部201は、ステップS11において、各血液検体についてオーダーされた血液凝固パラメータ(分析項目)の情報を血液検体ごとに取得する。血液凝固パラメータの情報は、オペレータがディスプレイ4から入力した情報を受け付けてもよい。あるいは、ネットワークを介して、例えば医療施設の電子カルテシステムから取得してもよい。血液検体と血液凝固パラメータの情報は、例えば検査依頼時に発行される識別子により紐付けることができる。
【0040】
分析装置1が対象とする血液凝固パラメータ(分析項目)は、活性化部分トロンボプラスチン時間(以下、「APTT」と略記することがある)、プロトロンビン時間(以下、「PT」と略記することがある)、トロンボテスト、フィブリノーゲン、第2因子活性、第5因子活性、第7因子活性、第8因子活性、第9因子活性、第10因子活性、第11因子活性、第12因子活性および全血凝固時間よりなる群から選択される少なくとも一種を含み得る。血液凝固パラメータは、好ましくは、APTT、およびPTよりなる群から選択される少なくとも一種を含み得る。
【0041】
制御部201は、ステップS12において、容器15に血液検体を分注するよう測定部2を制御する。このとき容器15に血液検体を希釈するためのバッファー等を分注してもよい。
【0042】
制御部201は、ステップS13において、各血液検体に対応する凝固時間測定試薬を分注し、測定試料を調製するよう測定部2の試料調製部20を制御する。このとき、凝固活性化試薬の添加が必要な場合には、凝固活性化試薬も分注する。凝固時間測定試薬は、各血液凝固パラメータに応じて適宜選択することができる。凝固時間測定試薬は、市販されている試薬を使用することができる。
【0043】
例えば、APTTを測定する場合には、凝固時間測定試薬として、シリカ、エラジン酸、セライト等の活性化剤と;動物由来、植物由来、または人工合成されたリン脂質;等を含み得る、APTT測定用検査試薬を使用できる。例えば、シスメックス株式会社製のトロンボチェック APTTシリーズ、積水メディカル株式会社のコアグピア(登録商標) APTT-N等、Siemens Healthcare Diagnostics Products GmbHのデータファイ・APTT等を例示できる。
また、凝固活性化試薬は、カルシウムイオンを供給できる試薬である。国際標準法にしたがえば、凝固活性化試薬は、20mMの塩化カルシウム溶液である。
【0044】
PTを測定する場合には、凝固時間測定試薬として、トロンビンを含むPT測定用検査試薬を使用できる。例えば、シスメックス株式会社製のトロンボチェック PTシリーズ、積水メディカル株式会社のコアグピア(登録商標) PTシリーズ等を例示できる。PT測定用検査試薬は、一般的に凝固の活性化に必要なカルシウムイオンを含んでいる。
【0045】
制御部201は、ステップS14において、ステップS13において測定試料が調製された容器15に対して、光照射を開始するよう光照射部10を制御する。受光部11は、容器15を介して受光した光の強度に応じた電気信号(デジタルデータ)を検出情報として継続して出力する。
【0046】
1-4.分析プログラムの処理
図7に分析プログラム202bに基づいて制御部201が実行する分析処理の流れを示す。
制御部201は、ステップS21において、血液凝固曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を取得する。具体的には、制御部201は、受光部11から出力された受光強度に応じた複数のデータ(デジタルデータ)を、時系列に配列し、記憶部202に記憶する。
【0047】
制御部201は、検出情報を、受光部11から経時的に、例えば0.1秒~0.5秒ごとに、好ましくは、0.1秒ごとに取得し、記憶部202に記憶する。制御部201は、複数のデータを、例えば、血液試料と所定の凝固時間測定試薬を添加した時点から記憶部202に記憶する。一般的には血液検体と凝固時間測定試薬を添加した後に凝固活性化試薬を添加する。この場合、制御部201は、凝固活性化試薬を添加した時点から複数のデータの記憶を開始する。あるいは、凝固時間測定試薬に凝固活性化試薬が混合されている場合には、制御部201は、血液検体と凝固時間測定試薬を混合した時点から複数のデータの記憶を開始する。制御部201は、経時的に取得している複数のデータの大きさに変化が認められなくなった時点で複数のデータの記憶を終了する。なお、複数のデータの記憶開始および終了のタイミングはこれに限定されず、例えば、容器15への光照射を開始した時点で記憶を開始し、光照射の開始から所定時間(例えば、120秒又は180秒後)経過後に記憶を終了してもよい。
【0048】
なお、制御部201が記憶部202に記憶するデータ群は、受光部11から出力された複数のデータから一部のデータを除いたものであってもよい。一部のデータの除き方としては、光照射の開始直後や終了直前など、一部区間のデータを除いてもよいし、データを所定の頻度で除いてもよい。所定の頻度とは、例えば、データを所定回取得すると、次の1回のデータは除く;偶数番目を除く;データを所定回取得すると、次の所定回を除く等が挙げられる。
【0049】
また、制御部201は、記憶部202に記憶するデータ群における各データを、時系列に並べてもよいし、大きさ順などの時系列以外の順序で並べてもよい。
【0050】
記憶部202に記憶された複数のデータは、血液凝固曲線を構成する。血液凝固曲線について
図8(A)を用いてより詳細に説明する。本例において、複数のデータは、測定試料に光を照射したときの、当該測定試料を透過した光の強度(以下、透過光強度とよぶ)を示す。
図8(A)において、縦軸(Y軸)は、透過光強度を示し、横軸(X軸)は、透過光強度をモニタリングした測定時間(秒:sec)を示す。血液凝固曲線は、モニタリングした透過光強度の経時的変化を透過光強度と測定時間の二軸でプロットすることにより生成できる。
図8(A)中の第I点は、被験試料に凝固活性化試薬であるカルシウムイオンと凝固時間測定試薬とを添加した時点であり、測定開始の時点(tI)でもある。測定開始時は、測定試料中のフィブリノーゲンはフィブリンに変化しておらず、測定試料はまだフィブリンの析出が起こらないため、透過光強度は高値を示す。その後、凝固反応が進行してフィブリンが析出し始めると、析出したフィブリンが光を遮り、透過光強度が減少し始める。この時点が、
図8(A)中の第II点であり、凝固開始時間となる。凝固が開始した測定時間を(tII)で表す。反応が進みフィブリンの析出が進行するにつれて透過光強度は減少する。被験試料のフィブリノーゲンの大半がフィブリンに変化すると反応は収束し、透過光強度の変化はプラトーとなる。この時点が、
図8(A)中の第III点であり、凝固終了時間となる。凝固が終了した測定時間を(tIII)で表す。
【0051】
上記では、測定試料に照射する光の波長が1種である例について説明したが、測定試料に照射する光の波長は複数であってもよい。例えば、第1光源321による第1の波長の光を測定試料に照射して第1の複数のデータを取得し、さらに同じ測定試料に第2光源322による第2の波長の光を測定試料に照射して第2の複数のデータを取得し、さらに同じ測定試料に第3光源323による第3の波長の光を照射して第3の複数のデータを取得し、さらに同じ測定試料に第4光源324による第4の波長の光を照射して第4の複数のデータを取得し、さらに同じ測定試料に第5光源325による第5の波長の光をさらに照射して第5の複数のデータを取得してもよい。この場合、第1の複数のデータ、第2の複数のデータ、第3の複数のデータ、第4の複数のデータ、および第5の複数のデータのそれぞれが、血液凝固曲線を構成する。
【0052】
なお、上記実施形態では、透過光強度に基づいて複数のデータを取得したが、複数のデータは、散乱光方式および透過光方式等の光学方式測定法、磁気を利用しフィブリンの析出時の粘度を測定する物理方式、およびドライヘマト法のいずれの方式でも取得可能である。複数のデータは、光学方式測定法では、測定試料に照射された光の透過光および散乱光等の光量を示す信号で表される。物理方式では、測定試料の粘度に応じたスチールボールの振れ幅を示す信号で表される。
【0053】
次に
図7に示すS22において、制御部201は、複数のデータを含むデータ群に対して前処理を行う。前処理には、スムージング、シャープネス、ケービング、正規化、および微分処理の少なくとも1つが含まれる。
【0054】
正規化は、
図8(B)のように血液凝固曲線の縦軸が0%(L1:ベースライン)から100%(L2)の間で表されるように、データ群に含まれる各データを相対値化することを意図する。各データを正規化した値を相対値とも呼ぶ。また、相対値によってプロットされた血液凝固曲線を正規化凝固曲線とも呼ぶ。正規化は、例えば、凝固反応開始時である第II点の透過光強度と、凝固終了時点である第III点の透過光強度との差である透過光強度の変化量(dH)を100%と仮定し、透過光強度の変化を相対値化することで達成できる。相対値化された複数のデータは、血液凝固曲線を構成する。
【0055】
複数の波長の光を用いてデータ群を取得した場合、相対値化されたデータ群は、波長ごとに生成される。
【0056】
正規化凝固曲線において、凝固時間は、透過光強度の変化量(dH)が、例えば30%、40%、50%、または60%の時点として設定することができる。好ましい実施形態では、凝固時間は、透過光強度の変化量(dH)が50%(L3)となる時間である。
【0057】
複数のデータを含むデータ群に対して微分処理を施した場合、データ群に含まれる複数のデータは、微分曲線を構成する。微分曲線には、例えば、一次微分凝固曲線および二次微分凝固曲線が含まれる。
【0058】
図9(A)に一次微分凝固曲線を示す。一次微分凝固曲線は、
図8(A)で示した血液凝固曲線、または
図8(B)で示した血液凝固曲線に対して、一次微分処理を行うことにより取得する。一次微分凝固曲線を構成する各座標の縦軸(Y軸)データを一次微分値とも呼ぶ。
【0059】
複数の波長の光を用いて複数のデータ群を取得した場合、一次微分凝固曲線は、波長ごとに生成される。
【0060】
図9(B)に二次微分凝固曲線を示す。二次次微分凝固曲線は、
図8(A)で示した血液凝固曲線、または
図8(B)で示した血液凝固曲線に対して、二次微分処理を行うことにより取得する。
【0061】
複数の波長の光を用いて複数のデータ群を取得した場合、二次微分凝固曲線は、波長ごとに生成される。
【0062】
図7に示すステップS23において、制御部201は、ステップS22で生成した正規化凝固曲線に基づいて、凝固時間(透過光強度の変化量(dH)が50%(L3)となる時間)を取得する。
【0063】
なお、本実施形態において、ステップS22は省略可能である。この場合、凝固時間は、例えば、
図8(A)の血液凝固曲線に基づき、凝固時間(sec)=[(tIII)-(tII)]/2に従って算出することができる。ここで、「-」は減算、「/」は除算を意図する。
【0064】
図7に示すステップS24において、制御部201は、血液凝固時間が延長したか否かを判定する。血液凝固時間の基準値は、血液凝固パラメータおよび凝固時間測定試薬に応じてあらかじめ、基準値/閾値202dに記憶されている。制御部201は、血液凝固時間の基準値を基準値/閾値DB202dから読み出し、ステップS23で取得した凝固時間と比較する。制御部201は、凝固時間が基準値を超えた場合(ステップS24において「YES」)、血液凝固時間が延長したと判定し、処理をステップS25に進める。制御部201は、凝固時間が基準値を超えなかった場合(ステップS24において「NO」)、血液凝固時間が延長しなかったと判定し、処理を
図5に示す測定・分析処理に戻す。
【0065】
凝固時間が基準値を超えた場合(ステップS24において「YES」)、制御部201は、
図7に示すステップS25に進み、記憶部202のアルゴリズムDB202cに格納されている、深層学習アルゴリズム60を読み出す。深層学習アルゴリズム60は、各血液検体の血液凝固パラメータ(分析項目)に応じて複数の深層学習アルゴリズム60から選択され、読み出される。制御部201は、読み出した深層学習アルゴリズム60にステップS22で取得した複数のデータを含むデータ群(正規化凝固曲線、一次微分凝固曲線、又は二次微分凝固曲線など)を入力し、結果を取得する。なお、ステップS22を省略し、ステップS25において、ステップS21において取得したデータ群を深層学習アルゴリズム60に入力してもよい。
【0066】
以下、深層学習アルゴリズム60の生成方法(深層学習アルゴリズム50の訓練方法)および、深層学習アルゴリズム50および深層学習アルゴリズム60に入力されるデータ群について説明する。
【0067】
i.深層アルゴリズムの訓練
深層学習アルゴリズムは、ニューラルネットワーク構造を有するアルゴリズムである限り制限されない。畳み込みニューラルネットワーク、フルコネクトニューラルネットワークおよびこれらの組み合わせ等を含み得る。
図10に深層学習アルゴリズムの訓練の概要を示す。
【0068】
深層学習アルゴリズム50を訓練するための訓練データには、血液凝固時間の延長の原因が既知である血液検体から取得した、複数のデータを含むデータ群を使用する。これらのデータ群を、
図7に示すステップS21およびS22に記載した方法にしたがって生成し、第1訓練データとして使用する。
図10に示すとおり、データ群は、波長1に対応する第1データ群D1、波長2に対応する第2データ群D2、波長3に対応する第3データ群D3、波長4に対応する第4データ群D4、および波長5に対応する第5データ群D5、を含む。データ群D1は、複数のデータd1、d2、d3・・・を含む。データ群D2~データ群D5も同様に、複数のデータを含む。第1訓練データを、
図10に示すニューラルネットワーク50の入力層50aに入力し、入力した第1訓練データに対応する血液凝固時間の延長の原因を示すラベル(
図10の例では「第8因子欠乏」)を第2訓練データとして出力層である50bに入力する。これらの入力により、各血液検体について、第1訓練データと第2訓練データを紐付け、ニューラルネットワーク50の中間層50cの各層の重みを算出し、
図11に示す訓練された深層学習アルゴリズム60を生成する。
【0069】
深層学習アルゴリズム50の訓練は、血液凝固パラメータごとに行ってもよく、第1の血液凝固パラメータと第2の血液凝固パラメータのように複数の血液凝固パラメータを組み合わせてもよい。例えば、血液凝固時間の延長の原因が既知である血液検体から取得した、APTT測定によって得られた複数のデータを含むデータ群のみを使って深層学習アルゴリズム50を訓練してもよい。この場合、訓練された深層学習アルゴリズム60は、APTTに由来する複数のデータを含むデータ群に基づいて解析を行う深層学習アルゴリズム60となる。血液凝固時間の延長の原因が既知である血液検体から取得した、PT測定によって得られた複数のデータを含むデータ群のみを使って深層学習アルゴリズム50を訓練してもよい。この場合、訓練された深層学習アルゴリズム60は、PTに由来する複数のデータを含むデータ群に基づいて解析を行う深層学習アルゴリズム60となる。さらに、第1の血液凝固パラメータであるATT測定によって得られた複数のデータを含むデータ群と第2の血液凝固パラメータであるPT測定によって得られた複数のデータを含むデータ群を使って深層学習アルゴリズム50を訓練してもよい。この場合、訓練された深層学習アルゴリズム60は、APPT測定によって得られた複数のデータを含むデータ群とPTに由来する複数のデータを含むデータ群とに基づいて解析を行う深層学習アルゴリズム60となる。
【0070】
訓練する複数の血液凝固パラメータを組み合わせて第1訓練データとする場合には、
図12に示すように、例えば、第1の血液凝固パラメータに由来する複数のデータを含むデータ群に続けて第2の血液凝固パラメータに由来する複数のデータを含むデータ群を配列し第1訓練データとして入力することができる。
【0071】
図12に示すように、第1の血液凝固パラメータ(例えば、APTT)に由来する第1の波長の複数のデータを含むデータ群に続けて第2の波長、第3の波長、第4の波長、第5の波長のそれぞれの複数のデータを含むデータ群を配列したデータ群に続けて、第2の血液凝固パラメータ(例えば、PT)に由来する第1の波長の複数のデータを含むデータ群に続けて第2の波長、第3の波長、第4の波長、第5の波長のそれぞれのデータ群を配列したデータを第1訓練データとして入力することができる。
【0072】
第1訓練データと第2訓練データは、血液凝固時間の延長の原因が既知である複数の血液検体からそれぞれ生成され、深層学習アルゴリズム50の訓練に使用される。
【0073】
ii.訓練された深層学習アルゴリズムによる解析
図11の訓練された深層学習アルゴリズム60の入力層60aには、分析対象となる血液検体から取得された、血液凝固曲線を構成する複数のデータを含むデータ群を解析データとして入力する。分析対象の血液検体は、血液凝固時間の延長があるか否かが不明な患者から採取されたものであっても、血液凝固時間の延長があることが判明している患者から採取されたものであってもよい。
【0074】
解析データは、入力した深層学習アルゴリズム60を訓練した際に使用した第1訓練データと同じ血液凝固パラメータであって同じ構成の複数のデータを含むデータ群であることが好ましい。例えば、
図12に示すとおり、データ群は、波長1に対応する第1データ群D1、波長2に対応する第2データ群D2、波長3に対応する第3データ群D3、波長4に対応する第4データ群D4、および波長5に対応する第5データ群D5、を含む。データ群D1は、複数のデータd11、d12、d13・・・を含む。データ群D2~データ群D5も同様に、複数のデータを含む。第1訓練データと解析データが同じ構成であるとは、解析データが、第1訓練データと同じ光の波長で取得した複数のデータを含むデータ群であることを意図する。また、第1訓練データに使用される複数のデータを含むデータ群から一部のデータを除いた場合には、解析データにおいても同様の処理が行われていることが好ましい。さらに、第1訓練データに前処理を施した場合には、解析データにも同様の前処理を施すことが好ましい。
【0075】
血液凝固パラメータ(分析項目)に応じた複数の深層学習アルゴリズム60がある場合には、血液凝固パラメータの種類に応じて、入力先の深層学習アルゴリズム60を、複数の深層学習アルゴリズムから選択することができる。
【0076】
複数の血液凝固パラメータに基づいて延長原因を予測する場合には、例えば、
図12に示すように、第1の血液凝固パラメータ(例えば、APTT)に由来する第1の波長の複数のデータを含むデータ群に続けて第2の波長、第3の波長、第4の波長、第5の波長のそれぞれの複数のデータを含むデータ群を配列したデータ群に続けて、第2の血液凝固パラメータ(例えば、PT)に由来する第1の波長の複数のデータを含むデータ群に続けて第2の波長、第3の波長、第4の波長、第5の波長のそれぞれのデータ群を配列したデータを深層学習アルゴリズム60に入力することができる。
【0077】
深層学習アルゴリズム60は、出力層60cから結果(
図11では「第8因子欠乏;80%」)を出力する。結果は、血液凝固時間の延長の原因を示すラベル(
図11の例では「第8因子欠乏」)と、そのラベルに属する確率(
図5では「80%」)を含み得る。
【0078】
ここで、第2訓練データとして入力する血液凝固時間の延長の原因を示すラベル、及び結果として出力する血液凝固時間の延長の原因を示すラベルは、文字情報であってもラベル値であってもよい。
【0079】
深層学習アルゴリズム60の出力層60cから出力される血液凝固時間の延長の原因は、肝疾患;播種性血管内凝固症候群(以下、「DIC」と略記することがある);ビタミンK(以下、「VK」と略記することがある)欠乏;大量出血;凝固因子の減少、欠乏または機能異常;凝固因子インヒビターの存在;ループスアンチコアグラント(以下、「LA」と略記することがある)の存在;抗凝固薬の使用;マクログロブリン血症等の異常タンパク質の存在;および採血手技に由来するものよりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0080】
凝固因子の減少、欠乏または機能異常は、フィブリノーゲン(以下、「Fbg」と略記することがある)、第2因子(以下、「FII」と略記することがある)、第5因子(以下、「FV」と略記することがある)、第7因子(以下、「FVII」と略記することがある)、第8因子(以下、「FVIII」と略記することがある)、フォンビレブランド因子(以下、「VWF」と略記することがある)、第9因子(以下、「FIX」と略記することがある)、第10因子(以下、「FX」と略記することがある)、第11因子(以下、「FXI」と略記することがある)、第12因子(以下、「FXII」と略記することがある)、HMWK(High Molecular Weight Kininogen)、およびプレカリクレインよりなる群から選択される少なくとも1つの減少、欠乏または機能異常を含み得る。
【0081】
凝固因子インヒビターには、第5因子インヒビター、第8因子インヒビター、フォンビレブランド因子インヒビター、および第9因子インヒビターよりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0082】
抗凝固薬は、抗血栓薬とも呼ばれ、ワーファリンカリウム等のクマリン系薬;ヘパリン;フォンダパリヌクスナトリウム等の合成Xa阻害薬;エドキサバントシル酸塩水和物、アピキサバン等の経口直接Xa阻害薬;ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩等の経口トロンビン直接阻害薬;アルガトロバン水和物等の抗トロンビン薬等を含み得る。
【0083】
また、所定の血液凝固パラメータがトロンボテスト、または全血凝固時間であるときには、抗凝固薬には抗血小板薬を含み得る。抗血小板薬には、チクロピジン塩酸塩、クロピドグレル硫酸塩、プラスグレル塩酸塩、チカグレロル、クロピドグレル硫酸塩・アスピリン配合剤、シロスタゾール、イコサペント酸エチル、ベラプロストナトリウム、サルホグレラート塩酸塩、アスピリン・ダイアルミネート配合剤、アスピリン等を含み得る。
【0084】
採血手技に由来するものは、ライン採血、透析後採血等で採血時のヘパリンが混入した場合;採血管内にあらかじめ充填されていた抗凝固剤の割合に対して採血量が少ない場合;血管が細く採血が困難であり採血時に組織液が混入した場合;採血から時間が経過してしまった場合等を挙げることができる。
【0085】
深層学習アルゴリズム60の出力層60cから出力される液凝固時間の延長の原因は、好ましくは活性化部分トロンボプラスチン時間の延長に関する原因、およびプロトロンビン時間の延長に関する原因よりなる群から選択される少なくとも1つである。
【0086】
次に、制御部201は、
図7に示すステップS26に進み、深層学習アルゴリズム60から出力された結果に基づいて血液凝固時間の延長の原因に関する情報をディスプレイ4、またはネットワーク99に出力する。ステップS26における出力は、オペレータがディスプレイ4から入力した出力開始要求を制御部201が受け付けてから行ってもよい。
【0087】
血液凝固時間の延長の原因に関する情報には、少なくとも、血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルを含み得る。好ましくは前記ラベルによって示された原因候補が、前記血液凝固時間の延長の原因である確率を含み得る。血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルは、文字情報であっても、ラベル値であってもよい。文字情報の場合、FIX、FVIII等の略語等による表記を含み得る。ラベル値の場合、1、2等の予め所定の延長原因と対応付けられた記号による標記を含み得る。
【0088】
また、原因候補が前記血液凝固時間の延長の原因である確率は、ソフトマックス形式で表されても、バイナリー型で表されてもよい。ソフトマックス形式は、血液凝固時間の延長の複数の原因候補のうち、所定の原因候補が、前記血液凝固時間の延長の原因である確率を示す形式である。例えば、深層学習アルゴリズム60から出力された延長原因に、確率が0%よりも大きいものとして、第8因子の欠乏および第9因子の欠乏のみが含まれる場合、両者の合計が100%となるように、それぞれの延長原因の確率を示す。バイナリー形式は、複数の延長原因候補のそれぞれが、前記血液凝固時間の延長の原因である確率を示す形式であり、各延長原因候補の合計は、必ずしも100%にはならない。原因候補が前記血液凝固時間の延長の原因である確率は、例えば、
図13(A)や
図13(B)に示すようなグラフ形式で出力されてもよい。
図13(A)はソフトマックス型で示す確率を円グラフで出力した例である。
図13(B)はバイナリー型で示す確率を棒グラフで出力した例である。
【0089】
血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力の際、例えば前記確率の最も高い血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルを出力してもよい。この場合、例えば、
図13(A)および
図13(B)の例では、確率の最も高いFVIII欠乏を示すラベルが出力される。
【0090】
血液凝固時間の延長の原因に関する情報の出力の際、例えば、前記確率が所定の閾値以上を示した血液凝固時間の延長の原因候補を示すラベルを出力してよい。閾値は、として、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を挙げることができる。閾値として例えば20%を設定した場合、
図13(A)および
図13(B)の例では、FIX欠乏およびFVIII欠乏が延長原因として出力され、閾値として例えば60%を設定した場合、FVIII欠乏が延長原因として出力される。
【0091】
血液凝固時間の延長の原因に関する情報を出力する際に、閾値を使用する場合には、制御部201は、記憶部202に格納した基準値/閾値DB202dから呼び出すことができる。また、閾値は、オペレータがディスプレイ4から入力し、これを制御部201が受け付けてもよい。
【0092】
図7に示すステップS27において、制御部201は、追加検査に関する情報を記憶部202に格納した追加検査DB202fから読み出し、ディスプレイ4から出力する。追加検査に関する情報は、ステップS25において深層学習アルゴリズム60から出力される結果に基づいて出力する。追加検査とは、凝固因子の検査、凝固因子インヒビターの検査、および前記測定試料について実施された測定項目の再検査よりなる群から選択される少なくとも1つである。追加検査は、深層学習アルゴリズム60から出力される結果の確認検査、再検査を目的とするものである。
【0093】
例えば、深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、肝疾患である確率が最も高い場合には、肝機能を評価する生化学検査(AST、ALT、γ-GTP、LDH、ALP等)が追加検査となりうる。
【0094】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、播種性血管内凝固症候群である確率が最も高い場合には、血小板数測定、血中フィブリノーゲン濃度測定、FDP・D-dimer測定、血中トロンビン-アンチトロンビン複合体濃度測定、プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体等の線溶系マーカー測定等が追加検査となりうる。
【0095】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、ビタミンK欠乏である確率が最も高い場合には、血中ビタミンK濃度測定が追加検査となりうる。
【0096】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、大量出血である確率が最も高い場合には、赤血球数測定、ヘモグロビン濃度測定、ヘマトクリット値測定、血小板数測定等が追加検査となりうる。
【0097】
深層学習アルゴリズム60が出力した、血液凝固延長の原因のうち、所定の凝固因子の減少、欠乏または機能異常が最も高い場合には、前記所定の凝固因子の活性測定(血液凝固法、合成基質法等を含む)、酵素免疫測定法等による前記所定の凝固因子のタンパク質の濃度測定等が追加検査となりうる。
【0098】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、所定の凝固因子インヒビターの存在である確率が最も高い場合には、所定の凝固因子インヒビターの検出、例えば、酵素免疫測定法等による抗凝固因子抗体の検出、ミキシング試験、クロスミキシング試験等が追加検査となりうる。
【0099】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、ループスアンチコアグラントの存在である確率が最も高い場合には、例えば、酵素免疫測定法等による抗リン脂質抗体の検出、クロスミキシング試験等が追加検査となりうる。
【0100】
深層学習アルゴリズム60が、血液凝固延長の原因は、異常タンパク質の存在であると出力した場合には、血清タンパク質解析が追加検査となりうる。
【0101】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、抗凝固薬である確率が最も高い場合には、血液試料を採取した被検者の投薬歴の確認が追加検査となりうる。
【0102】
深層学習アルゴリズム60が出力した血液凝固延長の原因のうち、血手技に由来するものである確率が最も高い場合には、血液試料の再採取も含めた再検査が追加検査となりうる。
【0103】
追加検査に関する情報は、追加検査名を示す文字情報であっても、ラベル値であってもよい。
【0104】
また、追加検査に関する情報の出力において、最も高い確率を有する延長原因に対応する追加検査に加え、2番目以降の確率を有する延長原因に対応する追加検査を出力してもよい。この場合、各追加検査の優先順位を出力してもよい。
なお、本ステップS27は省略可能である。
【0105】
さらに、追加検査により、より詳細な血液凝固時間の延長の原因を特定した場合には、オペレータがディスプレイ4から、特定した延長原因を、前記追加検査を行った血液試料の識別情報と対応付けて入力してもよい。入力された延長原因は、当該血液試料の識別情報、および、当該血液試料についての、複数のデータを含むデータ群と関連付けて記憶部202の追加検査DB202fに記憶してよい。
図14に、追加検査DB202fに記憶された血液試料の識別情報、データ群、および延長原因の一例を示す。追加検査DB202fに記憶された延長原因は、追加検査DB202fに記憶された血液試料の識別情報、データ群、および延長原因は、通信I/F208を介して、ネットワーク99にある他のコンピュータ、例えば、深層学習アルゴリズム60を更に訓練するための訓練用コンピュータに送信してもよい。これにより、訓練用コンピュータは、受信した情報をもとに深層学習アルゴリズム60を更に訓練することができ、深層学習アルゴリズム60の解析能力を更に向上させることができる。
【0106】
2.訓練装置
2-1.訓練装置の構成
本明細書に開示されるある実施形態は、深層学習アルゴリズム50の訓練装置5(以下、単に「訓練装置5」とする)に関する。訓練装置5の外観例を
図15(A)に示す。訓練装置5は、入力部511と、出力部512と通信可能に接続されている。訓練装置5は、いわゆる汎用コンピュータである。
【0107】
図15(B)に、訓練装置5のハードウエア構成例を示す。訓練装置5は、制御部501と、記憶部502と、入力インタフェース(I/F)506と、出力インタフェース(I/F)507と通信インタフェース(I/F)508と、メディアインタフェース(I/F)509と、バス510を備えている。
制御部501は、CPU等の演算処理装置を備える。
【0108】
記憶部502は、後述する訓練プログラム502bと、1または複数の深層学習アルゴリズム50および/または深層学習アルゴリズム60を格納するアルゴリズムデータベース(DB)502cと、第1訓練データと第2訓練データを紐付けて格納する訓練データデータベース(DB)502dを記憶している。
【0109】
入力インタフェース506は、タッチパネル、またはキーボード等から構成される入力部511からオペレータが入力した入力情報を受け付け、制御部501または記憶部502に送信する。
【0110】
出力インタフェース507は、制御部501が出力する出力情報をディスプレイ等の出力部512に送信する。
【0111】
通信インタフェース508は、訓練装置5をネットワーク95と通信可能に接続する。接続は、有線であっても無線であってもよい。
【0112】
メディアインタフェース509は、CD-ROM、DVD-ROM、外付けハードディスク等の不揮発性記憶媒体との間で情報の伝送を行う。
訓練装置5内の信号の伝送は、バス510を介して行われる。
【0113】
2-2.訓練プログラムの処理
図16に訓練プログラム502bが実行する訓練処理の例を示す。
【0114】
制御部501は、ステップS51において、オペレータが入力部511から入力した処理開始要求を受け付け、訓練データDB502dから訓練データを呼び出す。
【0115】
続いて制御部501は、ステップS52において、訓練データを深層学習アルゴリズム50または深層学習アルゴリズム60を記憶部502のアルゴリズムDB502cから呼び出し、これらに訓練データを入力し、訓練する。この訓練の詳細は、「i.深層アルゴリズムの訓練」に記載したとおりである。訓練データを深層学習アルゴリズム60に入力し訓練することを、深層学習アルゴリズム60の再訓練ともいう。
【0116】
次に、制御部501は、ステップS53において、使用すべき訓練データをすべて使って深層学習アルゴリズム50または深層学習アルゴリズム60を訓練したか否かを判定する。すべての訓練データを用いて訓練をした場合(ステップS53において「YES」の場合)には、制御部501はステップS54に進み、訓練した深層学習アルゴリズム60を記憶部202に格納されているアルゴリズムDB502cに記憶する。
【0117】
ステップS53において、すべての訓練データを用いて訓練をしていない場合(ステップS53において「NO」の場合)には、ステップS51に戻り訓練処理を続ける。
【0118】
3.分析プログラムまたは訓練プログラムを格納した記録媒体
分析プログラム202b、および/または訓練プログラム502bは記憶媒体等のプログラム製品として提供されうる。前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶される。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記制御部が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。
【0119】
なお、抗凝固剤と抗凝固薬は本明細書において区別して使用される。抗凝固剤は、採血の際、フィブリンを析出させない目的で採血管や注射器内に充填させるものである。例えば、通常凝固検査に使用する血液を採血する場合、抗凝固剤としてクエン酸塩、例えばクエン酸ナトリウム溶液を用いて採取することが好ましい。血液検体は、例えば抗凝固剤として3.1%から3.3%(重量/容量)のクエン酸三ナトリウム溶液を用い、この抗凝固剤と全血が容量比で約1:8.5から1:9.5となるように混合して調製される。あるいは、血液検体は、抗凝固剤と全血の混合液から分離された血漿であってもよい。
4.変形例
図17に、分析装置1の変形例として、分析装置1’を示す。分析装置1’は、例えばクラウドサービス提供者のコンピュータであり、ネットワーク99を介して、公知の血液分析装置100と接続されている。分析装置1’は、制御部201と、記憶部202と、入力インタフェース(I/F)206と、出力インタフェース(I/F)207と通信インタフェース(I/F)208と、バス209を備えている。制御部201と、入力インタフェース(I/F)206と、出力インタフェース(I/F)207と通信インタフェース(I/F)208と、バス209としては、分析装置1と同じものを使用可能である。記憶部202’としては、分析装置1の記憶部202から測定プログラム201aを除き、分析プログラム202bを分析プログラム202b’に変更したものを使用可能である。
図18に、分析装置1’の制御部201が分析プログラム202b’に基づいて実行する処理のフローを示す。制御部201は、ステップS201において、分析装置100から、血液凝固曲線を構成する複数のデータを含むデータ群と、血液凝固時間とを受信する。受信するデータ群は、
図7のステップS22で取得されるデータ群と同様のデータ群である。また、受信する凝固時間は、
図7のステップS23で取得される凝固時間と同様の凝固時間である。その後、制御部201は、ステップS204~S207を実行する。ステップS204~S207は、それぞれ、
図7のステップS24~S27と同様の処理であるため説明を省略する。
公知の血液分析装置100としては、例えば、シスメックス株式会社製の全自動血液凝固測定装置CN-6000、CN-3000等が使用できる。
【0120】
5.効果の検証
5-1.従来法との比較
APTTの延長原因が、ループスアンチコアグラント(LA)の存在である検体(血漿)と、第8因子インヒビター(FVIII inhibitor)の存在である検体と、を用いて、APTTの測定を行った。その測定結果を用いて、従来法(一次微分法)と分析装置1によって実行された本分析方法の予測精度を比較した。
図19と
図20にその結果を示す。
図19(A)は、各検体の一次微分曲線におけるピーク値(min1)を横軸とするヒストグラムを示す。
図19(B)は、本分析方法によって出力されたAPTTの延長原因が、第8因子インヒビターの存在である確率を横軸とするヒストグラムを示す。従来法では、min1=1.5~min1=3.5において、LA陽性検体と第8因子インヒビター含有検体が重なってしまい、両者を分離できていない。一方本分析方法では、LA陽性検体と、第8因子インヒビター含有検体と、を分離することができた。このことから本分析方法により、従来法では予測できなかった検体(min1=1.5~min1=3.5を示す検体)について、血液凝固時間の延長の原因を予測できることが示された。
【0121】
図19で示した検体について、
図20(A)に従来法のROC曲線を示す。
図20(B)に本分析方法の予想精度を評価したROC曲線を示す。従来法ではAUC=0.752であり、本分析方法ではAUC=0.893であった。これらの結果により本分析方法の方が、感度、特異度ともに高いことが示された。
【0122】
5-2.PT用深層学習アルゴリズムの評価
図21にワーファリン投与血液検体94件、DOACs投与血液検体93検体、肝機能低下血液検体39検体について、PT測定を行い、分析装置1によって本分析方法を実行したときのROC曲線を示す。ワーファリン投与血液検体(
図21A)、肝機能低下血液検体(
図21C)について、AUCが0.80を上回る精度で予測することができた。DOACs投与血液検体(
図21B)については、ワーファリン投与血液検体および肝機能低下血液検体よりも低いが、AUCが0.74を上回る精度で予測することができた。
【0123】
5-3.APTT用深層学習アルゴリズムの評価
図22に第8因子(FVIII)インヒビター陽性血液検体24検体、第8因子(FVIII)欠乏血液検体23検体、LA陽性血液検体80検体、ヘパリン投与血液検体70検体、DOACs投与血液検体79検体について、APTT測定を行い、分析装置1によって本分析方法を実行したときのROC曲線を示す。いずれも、AUCが0.80を上回る精度で予測することができた。
【0124】
5-4.PTおよびAPTT用深層学習アルゴリズムの評価
図23に第8因子(FVIII)インヒビター陽性血液検体15検体、LA陽性血液検体51検体、肝機能低下血液検体36検体、ヘパリン投与血液検体60検体、DOACs投与血液検体56検体について、PT測定とAPTT測定を行い、分析装置1によって本分析方法を実行したときのROC曲線を示す。いずれも、AUCが0.82を上回る精度で予測することができた。
【符号の説明】
【0125】
1 分析装置
2 測定部
201 制御部