(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】被検体情報取得装置、磁気共鳴イメージング装置、被検体情報取得方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20241127BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/055 390
(21)【出願番号】P 2020206972
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七海 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和也
(72)【発明者】
【氏名】大石 崇文
【審査官】村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-151458(JP,A)
【文献】特開2019-208876(JP,A)
【文献】特開2007-061439(JP,A)
【文献】特開2019-115465(JP,A)
【文献】国際公開第2019/192929(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/174963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる周波数が設定され、それぞれの周波数に対応する高周波信号を生成する信号生成部と、
少なくとも一つのアンテナから、それぞれの周波数に対応する高周波信号が被検体に照射され、前記被検体からの反射信号又は透過信号に基づく複数の検出信号を取得する取得部と、
前記複数の検出信号の指標値に基づいて、前記複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部において選択された検出信号に基づいて、前記アンテナと前記被検体との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する結合量検出部と、
前記結合量検出部において検出された結合量に基づいて、前記被検体の変位を示す変位信号を生成する変位検出部と、
前記信号選択部により選択された前記検出信号、および、前記変位検出部により検出された前記変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する信号補正部を備え
、
前記指標値は基準の信号波形を示すテンプレート信号と前記複数の検出信号との類似度であり、
前記信号補正部は、前記信号が反転している事を前記類似度に基づいて検出した場合、前記信号の符号を反転させる補正を行うことを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記信号選択部は、前記選択した検出信号に対応する高周波信号の周波数を選択し、前記信号生成部は、前記信号選択部により選択された前記周波数に基づいて前記高周波信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記信号選択部は
、前記類似度に基づいて、前記複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択することを特徴とする請求項1または2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記信号選択部は、前記複数の検出信号において、前記結合量を示す信号成分と、ノイズ信号成分との信号比を前記指標値とし、前記信号比に基づいて、前記複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記信号補正部は、前記信号をデコンボリューションして補正を行うことを特徴とする請求項
1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記信号補正部は、前記信号の統計処理により得られた信号の値が、基準値から外れた場合、前記基準値を満たすように前記信号の値を補正することを特徴とする請求項
1乃至
5のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記変位検出部は、前記信号補正部により補正された前記信号に基づいて前記変位信号を生成することを特徴とする請求項
1乃至
6のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記変位信号に基づいて前記被検体の動きを示す情報を取得する信号処理部を更に備えることを特徴とする請求項1または
7に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
前記アンテナは、前記被検体の異なる部位に、前記信号生成部で生成された前記高周波信号を照射することを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
単一のアンテナを前記被検体に沿って移動可能な走査部を更に備え、
前記走査部の走査により移動した位置で、前記単一のアンテナから前記被検体の異なる部位に、前記信号生成部で生成された前記高周波信号を照射することを特徴とする請求項
9に記載の被検体情報取得装置。
【請求項11】
前記信号選択部は、前記走査部の各走査位置で取得された前記指標値に基づいて、前記高周波信号を照射する照射位置を選択し、
前記走査部を制御して前記照射位置に前記アンテナを移動させることを特徴とする請求項
10に記載の被検体情報取得装置。
【請求項12】
前記信号生成部により生成された前記高周波信号は、複数のアンテナから前記被検体に照射されることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項13】
前記複数のアンテナは、前記被検体の部位に応じて異なる形状を有することを特徴とする請求項
12に記載の被検体情報取得装置。
【請求項14】
前記複数のアンテナは前記被検体の異なる部位に前記高周波信号を照射するように配置されていることを特徴とする請求項
12または
13に記載の被検体情報取得装置。
【請求項15】
前記信号選択部は、各アンテナにおける
前記指標値に基づいて前記高周波信号を照射するアンテナを選択することを特徴とする請求項
12乃至
14のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項16】
設定された周波数に基づいて高周波信号を生成する信号生成部と、
少なくとも一つのアンテナから前記高周波信号が被検体に照射され、前記被検体からの反射信号又は透過信号に基づく検出信号を取得する取得部と、
前記検出信号に基づいて、前記アンテナと前記被検体との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する結合量検出部と、
前記結合量検出部において検出された前記結合量に基づいて、前記被検体の変位を示す変位信号を生成する変位検出部と、
前記検出信号、および、前記変位検出部により検出された前記変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する信号補正部と、を備え
、
前記信号補正部は、前記信号が反転している事を、基準の信号波形を示すテンプレート信号と前記検出信号との類似度に基づいて検出した場合、前記信号の符号を反転させる補正を行うことを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項17】
前記変位検出部は、前記信号補正部により補正された前記信号に基づいて前記変位信号を生成することを特徴とする請求項
16に記載の被検体情報取得装置。
【請求項18】
前記信号補正部は、前記信号の統計処理により得られた信号の値が、基準値から外れた場合、前記基準値を満たすように前記信号の値を補正することを特徴とする請求項
16または
17に記載の被検体情報取得装置。
【請求項19】
前記変位信号に基づいて前記被検体の動きを示す情報を取得する信号処理部を更に備えることを特徴とする請求項
16乃至
18のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項20】
請求項1乃至
19のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置と、
前記被検体情報取得装置から出力された信号に基づいて撮像シーケンスを制御する撮像制御部と、
を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項21】
被検体情報取得装置の被検体情報取得方法であって、
異なる周波数が設定され、それぞれの周波数に対応する高周波信号を生成する信号生成工程と、
少なくとも一つのアンテナから、それぞれの周波数に対応する高周波信号が被検体に照射され、前記被検体からの反射信号又は透過信号に基づく複数の検出信号を取得する取得工程と、
前記複数の検出信号の指標値に基づいて、前記複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択する信号選択工程と、
前記信号選択工程で選択された検出信号に基づいて、前記アンテナと前記被検体との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する結合量検出工程と、
前記結合量検出工程で検出された結合量に基づいて、前記被検体の変位を示す変位信号を生成する変位検出工程と、
前記信号選択工程で選択された前記検出信号、および、前記変位検出工程で検出された前記変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する信号補正工程を有
し、
前記指標値は基準の信号波形を示すテンプレート信号と前記複数の検出信号との類似度であり、
前記信号補正工程では、前記信号が反転している事を前記類似度に基づいて検出した場合、前記信号の符号を反転させる補正を行うことを特徴とする被検体情報取得方法。
【請求項22】
被検体情報取得装置の被検体情報取得方法であって、
設定された周波数に基づいて高周波信号を生成する信号生成工程と、
少なくとも一つのアンテナから前記高周波信号が被検体に照射され、前記被検体からの反射信号又は透過信号に基づく検出信号を取得する取得工程と、
前記検出信号に基づいて、前記アンテナと前記被検体との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する結合量検出工程と、
前記結合量検出工程で検出された前記結合量に基づいて、前記被検体の変位を示す変位信号を生成する変位検出工程と、
前記検出信号、および、前記変位検出工程で検出された前記変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する信号補正工程と、を有
し、
前記信号補正工程では、前記信号が反転している事を、基準の信号波形を示すテンプレート信号と前記検出信号との類似度に基づいて検出した場合、前記信号の符号を反転させる補正を行うことを特徴とする被検体情報取得方法。
【請求項23】
コンピュータに、請求項
21または
22に記載の被検体情報取得方法の各工程を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置、磁気共鳴イメージング装置、被検体情報取得方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置を用いた撮像では、心臓の拍動(心拍)や呼吸などによる人体の動きによって収集するデータが変動する。例えば、心拍に関しては、撮像技師が人体に心電計の電極を貼り付け、心電計から出力される信号を用いて撮像タイミングを調整したり、収集したデータを心電計の信号に基づいて補正したりする手法が用いられている。
【0003】
しかしながら、人体に電極を貼り付けることは患者にとって負担であり、また、撮像技師にとっても作業効率の低下の要因となり得る。このため、非接触により被検体情報を取得する技術は、磁気共鳴イメージング装置を用いた撮像の場面のみならず、広くヘルスケアの分野でも要望されている。
【0004】
特許文献1には、電波を用いて被検体の動きを検出する技術に関して、被検体から取得したパイロットトーン信号から被検体の体動信号を生成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2018/353140号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、被検体から取得した複数のパイロットトーン信号に低精度のパイロットトーン信号が含まれている場合は、被検体の動きを検出する精度が低下し得る。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、高い精度で被検体の動きを検出し、被検体の挙動や状態に関する情報を高精度に取得することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による被検体情報取得装置は、異なる周波数が設定され、それぞれの周波数に対応する高周波信号を生成する信号生成部と、
少なくとも一つのアンテナから、それぞれの周波数に対応する高周波信号が被検体に照射され、前記被検体からの反射信号又は透過信号に基づく複数の検出信号を取得する取得部と、
前記複数の検出信号の指標値に基づいて、前記複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部において選択された検出信号に基づいて、前記アンテナと前記被検体との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する結合量検出部と、
前記結合量検出部において検出された結合量に基づいて、前記被検体の変位を示す変位信号を生成する変位検出部と、
前記信号選択部により選択された前記検出信号、および、前記変位検出部により検出された前記変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する信号補正部を備え、
前記指標値は基準の信号波形を示すテンプレート信号と前記複数の検出信号との類似度であり、
前記信号補正部は、前記信号が反転している事を前記類似度に基づいて検出した場合、前記信号の符号を反転させる補正を行う。
【0009】
本発明の他の態様による被検体情報取得装置は、設定された周波数に基づいて高周波信号を生成する信号生成部と、
少なくとも一つのアンテナから前記高周波信号が被検体に照射され、前記被検体からの反射信号又は透過信号に基づく検出信号を取得する取得部と、
前記検出信号に基づいて、前記アンテナと前記被検体との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する結合量検出部と、
前記結合量検出部において検出された前記結合量に基づいて、前記被検体の変位を示す変位信号を生成する変位検出部と、
前記検出信号、および、前記変位検出部により検出された前記変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する信号補正部と、を備え、
前記信号補正部は、前記信号が反転している事を、基準の信号波形を示すテンプレート信号と前記検出信号との類似度に基づいて検出した場合、前記信号の符号を反転させる補正を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い精度で被検体の動きを検出し、被検体の挙動や状態に関する情報を高精度に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一の実施形態の被検体情報取得装置の構成を模式的に示す図。
【
図2】被検体情報取得装置の構成要素の接続関係を模式的に示す図。
【
図3】検出信号と抽出された呼吸信号と心拍信号を示す図。
【
図4】検出信号に含まれる一周期分の心拍信号を示す図。
【
図5】理想テンプレートに対する相関値を指標値とした処理を示す図。
【
図6】検出信号のSN比を指標値とした処理の概要を示す図。
【
図7】第一の実施形態における処理フローを示す図。
【
図8】第二の実施形態の被検体情報取得装置の構成を模式的に示す図。
【
図9】第二の実施形態の装置本体における構成要素の接続関係を模式的に示す図。
【
図12】第二の実施形態における処理フローを示す図。
【
図13】第三の実施形態の被検体情報取得装置の構成を模式的に示す図。
【
図14】第三の実施形態の装置本体における構成要素の接続関係を模式的に示す図。
【
図15】第三の実施形態における処理フローを示す図。
【
図16】第四の実施形態における磁気共鳴イメージング装置の模式図。
【
図17】磁気共鳴イメージング装置における撮像制御の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
本発明は、被検体を伝播する電磁波を検出し、被検体の状態や挙動に関する情報を生成し、取得する技術に関するもので、被検体情報取得装置またはその制御方法、あるいは被検体情報取得方法や信号処理方法として捉えられる。また、本発明は、被検体情報取得方法や信号処理方法をCPU等のハードウェア資源を備える情報処理装置に実行させるプログラムや、そのプログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。さらには、それらを含んだ磁気共鳴イメージング装置としても捉えられる。
【0014】
[第一の実施形態]
<被検体情報取得装置の構成>
図1は、第一の実施形態にかかる被検体情報取得装置の構成を模式的に示す図である。被検体情報取得装置1は、アンテナ110と被検体情報取得装置1を構成する装置本体120とを備える。
【0015】
アンテナ110はアンテナ装置の構成である。本実施形態では、被検体情報取得装置1は基本的には1つのアンテナを有する構成であるため、アンテナ装置は1つのアンテナから構成されることになる。なお、後述の実施形態では、被検体情報取得装置1が複数のアンテナを有することがあり、その場合は、アンテナ装置は複数のアンテナから構成されることになる。アンテナ装置(照射部)は、少なくとも一つのアンテナから被検体に高周波信号を照射する。
【0016】
被検体情報取得装置1による測定対象は、被検体100であり、被検体情報取得装置1は、心拍や呼吸などによる被検体100の動きを取得することを主な目的とする。被検体100としては、例えば、生体、具体的には人体や動物の心臓、肺、腹部やその近傍の部位が想定される。ただし、必ずしもこれら部位に限定されるものではなく、被検体100の動きが発生するあらゆる部位を対象とすることができる。
【0017】
図2は装置本体120の構成要素の接続関係を模式的に示す図である。装置本体120の各構成要素は、
図2のようにバス200を介して相互接続されている。装置本体120の各構成要素はバス200を介して情報をやり取りすることができる。信号処理回路160(信号処理部)は、制御部として機能して、バス200を介して装置本体120の各構成要素の動作を制御する。また、信号処理回路160は、後述する被検体情報取得方法が記述されたプログラムを内部のメモリに保持しており、信号処理回路160は、メモリからプログラムを読み出し、装置本体120の各構成要素を制御して被検体情報取得装置1に被検体情報取得方法を実行させることが可能である。
【0018】
なお、動作特性が一度設定されると設定変更されることが少なかったり、動作が受動的であったりする電力増幅器142(PA)や方向性結合器143(DC)、アンテナ110は、
図2には明示していないが、装置本体120による能動的な制御が必要である場合等はバス200へ接続してもよい。
【0019】
(アンテナ110)
アンテナ110は人体である被検体100に近接して配置される。アンテナ110は心電計の電極のように被検体100の肌に直接密着させて貼り付ける必要はなく、例えば、被検体100の衣服の上に配置してもよい。また、
図1では、寝台の天板101の上に横臥する被検体100の胸部にアンテナ110を配置している例を示しているが、アンテナ110を配置する際の被検体の姿勢や、アンテナ110を配置する被検体の部位は、
図1の例示に限定されない。例えば、アンテナ110を立位の被検体の胸部や背部に配置してもよいし、例えば、車両運転中などの座位の被検体の胸部や背部に配置してもよい。
【0020】
(装置本体120)
装置本体120は、構成要素として、高周波信号生成器130、送信回路140、結合量検出回路150、及び信号処理回路160を備えている。
【0021】
(高周波信号生成器130)
高周波信号生成器130(信号生成部)は、所定の周波数に基づいて連続波の高周波信号を生成する。高周波信号の周波数は特に限定するものではないが、アンテナ110の寸法等から、例えば、VHF帯やUHF帯の周波数が選択される。例えば、高周波信号生成器130(信号生成部)は、異なる周波数が設定され、それぞれの周波数に対応する高周波信号を生成することが可能である。
【0022】
(送信回路140)
送信回路140は、高周波信号生成器130で生成された高周波信号をバンドパスフィルタ(BPF)141を通過させた後、電力増幅器(PA)142によって所定の電力まで増幅し、方向性結合器(DC)143を介してアンテナ110に出力する。
【0023】
(結合量検出回路150)
結合量検出回路150(結合量検出部)は、被検体100とアンテナ110との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する機能を有しており、例えば、バンドパスフィルタ(BPF)151、自動利得調整機能付きの低雑音増幅器(LNA/AGC)152、及び、検波回路153を備えて構成されている。結合量検出回路150は、取得部として機能して、少なくとも一つのアンテナ110から、それぞれの周波数に対応する高周波信号が被検体に照射され、被検体100からの反射信号又は透過信号に基づく複数の検出信号を取得する。そして、結合量検出回路150は、取得された検出信号に基づいて、アンテナ110と被検体100との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する。
【0024】
高周波信号生成器130、送信回路140、及び、結合量検出回路150は、例えば、1つのケーシングに収納される印刷基板の上に実装することができる。
【0025】
送信回路140の方向性結合器143から出力された高周波信号はアンテナ110に入力されるが、この高周波信号の一部は被検体100に向かわず、アンテナ110の入力端で跳ね返されて(反射して)、方向性結合器143に戻り、結合量検出回路150に分岐入力される。
【0026】
結合量検出回路150は、方向性結合器143の分岐端から出力される信号(反射信号)を、検波回路153で検波することにより、アンテナ110からの反射信号の大きさを測定する。ここで、反射信号の大きさは、アンテナ110と被検体100との距離や、アンテナ110が作る電界内に含まれる被検体100の状態の変化(心拍や呼吸による被検体内外部の形状変化や組成変化等)に応じて変動する。例えば、被検体100とアンテナ110が近づくと、被検体100がアンテナ110からの電力を多く吸収し、反射される電力が減少する(すなわち、近傍界結合の結合量が大きい状態になる)。
【0027】
一方、被検体100とアンテナ110が離れるとその逆となる(すなわち、近傍界結合の結合量が小さい状態になる)。すなわち、結合量検出回路150は反射信号の大きさに基づいて近傍界結合の結合量を検出している。
【0028】
以上の説明ではアンテナ110の反射信号が方向性結合器143により結合量検出回路150に入力される構成を説明したが、アンテナ110を送信専用アンテナとし、アンテナ110の他に受信専用アンテナ(図示せず)を設け、受信専用アンテナの出力(透過信号)をバンドパスフィルタ151に入力してもよい。この場合、方向性結合器143は構成から除かれ、受信専用アンテナの出力(透過信号)はバンドパスフィルタ151に入力されるように構成すればよい。受信専用アンテナは、
図1に示すように被検体100の正面側に対してアンテナ110と同じ側に配置しても良いし、被検体100の背面側(例えば寝台の天板101内部等)に配置しても良い。反射信号の場合と同様、被検体100と両アンテナとの距離変化や両アンテナ間の電界内に含まれる被検体100の状態の変化に応じて、透過信号の大きさが変動する。すなわち、結合量検出回路150は透過信号の大きさに基づいて近傍界結合の結合量を検出している。以後、反射信号や透過信号を検波した信号を、検出信号と呼ぶ。
【0029】
(信号処理回路160)
信号処理回路160は、変位検出回路161(変位検出部)と信号選択回路162(信号選択部)を有する。信号処理回路160は、典型的にはCPU、GPU、A/D変換器などの素子や、FPGA、ASICなどの回路から構成される。また、プロセッサーを備えた専用の印刷基板として構成してもよいし、ディスプレイを備えたパーソナルコンピュータやタブレット端末装置などの情報処理装置として構成してもよい。1つの素子や回路から構成されるだけではなく、複数の素子や回路から構成されていてもよい。また、被検体情報取得方法で行われる各処理をいずれの素子や回路が実行してもよい。なお、信号処理回路160は非一時的な記録媒体を有し、被検体情報取得方法で行われるそれぞれの処理を、自身が実行するプログラムとして保存しておくことができる。
【0030】
(変位検出回路161)
変位検出回路161は、近傍界結合の結合量(例えば、近傍界結合の結合量の変化)に基づいて、検波回路153で検出された検出信号から、被検体100の所望の動きに対応する信号(変位信号)を抽出する。変位検出回路161が抽出する変位信号は、例えば、呼吸による被検体100の動きに対応する信号(呼吸信号)、心拍による被検体100の動きに対応する信号(心拍信号)、まばたきに対応する信号、うなずきに対応する信号、痙攣に対応する信号等である。これら信号(変位信号)を抽出する処理として、変位検出回路161は、フーリエ変換、短時間フーリエ変換、ウェーブレット変換、無限インパルス応答フィルタ、有限インパルス応答フィルタ、カルマンフィルタ、主成分分析、独立成分分析、ニューラルネットワーク等を用いることができる。
図3に検波回路153で検出された検出信号(変位検出回路161への入力信号)と、検出信号から抽出された変位信号として、呼吸信号と心拍信号の例を示す。
【0031】
信号処理回路160は、抽出した変位信号を波形としてディスプレイ等に表示させてもよいし、変位信号を解析することにより呼吸数や呼吸周期、或いは、心拍数や心拍周期等を取得して表示しても良い。さらに、信号処理回路160は、波形、呼吸数、心拍数等から、呼吸や心拍の異常の有無を検出してもよい。同様に、被検体100のまばたき、うなずき、痙攣等を検出してもよい。信号処理回路160は、これら検出された被検体100の情報を基に、被検体100を検査する装置を動きに同期して制御したり、被検体100や第三者に警告を知らせたり、被検体100の操作する機械や車両にフィードバックをかけて安全性を高めたりすることができる。
【0032】
(信号選択回路162)
信号選択回路162は、高周波信号生成器130に設定された異なる周波数に対応して取得された複数の検出信号の指標値に基づいて、複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択する。ここで、信号選択回路162は、複数の検出信号ごとに算出した指標値に基づいて、高精度と評価された指標値の信号(検出信号)を被検体情報の取得に適した信号として選択し、この検出信号を取得したときに高周波信号生成器130に設定されていた高周波信号の周波数を選択する。すなわち、信号選択回路162は、複数の検出信号ごとに算出した指標値に基づいて、被検体情報の取得に適した信号(検出信号)と、この検出信号に対応する高周波信号の周波数とを選択する。
【0033】
(テンプレート信号との相関値を指標値とする場合)
まず、最初に信号選択回路162が検出信号を選択するための指標(選択指標)として、基準の信号波形を示すテンプレート信号との相関値(類似度)を用いる処理を説明する。信号選択回路162は、基準の信号波形を示すテンプレート信号と、高周波信号生成器130に設定された異なる周波数に対応して取得された複数の検出信号との類似度を指標値とし、類似度に基づいて、複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択する
図4は検出信号に含まれる一周期分の心拍信号の例を示す図である。心拍信号と同じ時相の心電図と比較すると、例えば、心拍信号のピークや変曲点は心電図のR波の近傍に位置し、心拍信号は心電図の波形と時間的な関連性を有する。すなわち、
図4のような心拍信号が取得できれば、従来手法である心電図と同様に、心臓の挙動や状態を把握することができる。なお、心拍波形のピークや変曲点は一例であり、被検体の動きに対応するのであれば他の特徴点を用いてもよい。従って、
図4のような心拍信号を基準とするテンプレート信号(以下、理想テンプレートともいう)とし、理想テンプレートに対する相関値(類似度)を求めることにより、変位検出回路161により生成された心拍信号を含む検出信号の精度を評価することができる。
【0034】
図5は理想テンプレートに対する相関値(類似度)を指標値とした処理の概要を示す図である。信号選択回路162は、
図5に示すように心拍信号と理想テンプレートとで正規化相互相関演算を行って相関波形を生成し、相関波形の絶対値の最大値を指標値とする。すなわち、信号選択回路162は、複数の検出信号ごとに算出した指標値を比較して、理想テンプレートと類似する指標値が大きいほど心拍信号(心拍信号を含む検出信号)は高精度と評価する。複数の検出信号は高周波信号の周波数の設定がそれぞれ異なるものであり、高精度と評価された指標値の検出信号を取得したときの高周波信号の周波数を選択し、高周波信号生成器130は、信号選択回路162により選択された周波数に基づいて高周波信号を生成する。これにより、被写体情報を取得するために適した検出信号で測定を行うことができる。
【0035】
心拍信号(心拍信号を含む検出信号)は、高周波信号の周波数や被検体100の特性によって理想テンプレートを反転した形状となる場合が生じ得るため、信号選択回路162は、信号処理において、相関波形の絶対値を用いている。このような信号処理に限られず、信号選択回路162は、相関波形の絶対値を取る前に、相関波形の極大値の平均値と極小値の平均値をそれぞれ計算し、絶対値の大きい方を指標値とすることも可能であり、指標値は理想テンプレートとの類似度を反映するものであればいかなるものでもよい。
【0036】
図5に示した例では、正規化相互相関演算を用いたが、差分絶対値和(SAD)や差分二乗和(SSD)等、理想テンプレートとの類似度を計算できる演算方法であればいかなる手法を用いることも可能である。なお、理想テンプレートは、
図4に限らず、心臓の挙動や状態、所望の体動を反映するいかなる信号を用いても良い。また、心拍信号の周期を検出して、検出周期に合わせて理想テンプレートを時間方向に拡大、縮小してもよい。
【0037】
(検出信号のSN比を指標値とする場合)
次に、検出信号を選択するための指標(選択指標)として、検出信号のSN比(signal to noise ratio)を用いる処理を説明する。
【0038】
図6は検出信号のSN比を指標値とした処理の概要を示す図である。信号選択回路162は、高周波信号生成器130に設定された異なる周波数に対応して取得された複数の検出信号において、被検体100の所望の動きに対応した近傍界結合の結合量を示す信号成分と、ノイズ信号成分との信号比を指標値とし、信号比に基づいて、複数の検出信号から少なくとも一つの検出信号を選択する。信号選択回路162は、
図6に示すように検出信号(変位検出回路161への入力信号)をフーリエ変換し、被検体100の所望の動きに対応する信号成分(I
s)と、ノイズ信号成分(ノイズフロア:I
n)との信号比(SN比)I
s/I
nを指標値とする。すなわち、信号選択回路162は、SN比が良いほど高精度と評価する。例えば、心拍に対応する成分は1[Hz]前後、呼吸に対応する成分は0.3[Hz]前後となるので、それら周波数前後のピーク成分値をI
sとすればよい。SN比を取得できるのであれば、フーリエ変換に限らずウェーブレット変換やカルマンフィルタ等、いかなる手法を用いてもよい。
【0039】
信号選択回路162は、以上のようにして複数の検出信号から検出信号を選択するための指標値を算出し、指標値が大きい信号(検出信号)を選択し、この検出信号に対応する高周波信号の周波数を選択結果として出力する。信号選択回路162は、選択結果として、例えば、複数の検出信号の中で指標値が大きい信号(検出信号)を識別するためのインデックスや、選択した信号(検出信号)を出力する。
【0040】
信号選択回路162は、選択した検出信号に対応する高周波信号の周波数を選択し、高周波信号生成器130に選択した周波数を設定する。高周波信号生成器130は、信号選択回路162により設定された周波数に基づいて高周波信号を生成する。また、変位検出回路161は、結合量検出回路150において検出された近傍界結合の結合量に基づいて、被検体100の変位を示す変位信号を生成する。
【0041】
<被検体情報の取得方法>
図7は第一の実施形態における処理フローを示す図であり、本実施形態に係る被検体情報の取得方法の各工程を、
図7を参照して説明する。なお、各工程は、信号処理回路160が装置本体120の各構成の動作を制御することにより実行される。
【0042】
(S110:高周波信号周波数を設定する工程)
本工程では、信号処理回路160は、アンテナ110から被検体100に照射する高周波信号の周波数を、高周波信号生成器130に設定する。信号処理回路160は、S130の条件分岐で発生するループ処理ごとに、異なる周波数を高周波信号生成器130に設定する。典型的には、高周波信号の周波数は100[MHz]から1[GHz]の範囲で設定することが可能であるが、アンテナ110の幾何学的形状や被検体100の部位や組成に応じて、被写体情報の測定に適した範囲を選択しても良い。例えば、心拍信号や呼吸信号の場合、400[MHz]から650[MHz]の範囲で高周波信号の周波数を設定することができる。この周波数の範囲内で、信号処理回路160は、ループ処理ごとに異なる周波数を高周波信号生成器130に設定する。高精度な検出信号を捉えるために周波数の増分としては、所定の周波数(例えば、5[MHz])の間隔で周波数を設定すること可能であるが、測定時間の短縮を目的として、5[MHz]より大きな間隔を設定することも可能である。
【0043】
(S120:検出信号を取得する工程)
本工程では、S110で設定された周波数の高周波信号が、送信回路140を介してアンテナ110から被検体100に照射され、結合量検出回路150は、高周波信号に基づいた検出信号を取得する。検出信号を取得する時間幅は、信号選択回路162で指標値を算出できる時間幅とする。より短い時間幅を設定することにより、測定時間を短縮することができる。信号処理回路160は、結合量検出回路150から取得した検出信号を内部の記憶媒体に保存する。
【0044】
(S130:全周波数の検出信号の取得を判定する工程)
本工程では、信号処理回路160は、全ての周波数の高周波信号に基づいた検出信号を取得したかどうかを判定する。検出信号の取得が完了した場合はS140へ進み(S130-Yes)、完了していない場合はS110へ戻る(S130-No)。S110へ処理を戻す場合には、S110において異なる周波数が設定される。そして、S120において、結合量検出回路150は設定された周波数の高周波信号に基づいた検出信号を取得し、信号処理回路160は結合量検出回路150から取得した検出信号と検出信号に対応する高周波信号の周波数とを内部の記憶媒体に保存する。信号処理回路160は、このようなループ処理を、全ての周波数の高周波信号に基づいた検出信号を取得するまで行う。S110~S130の処理により、高周波信号の周波数の設定がそれぞれ異なる複数の検出信号が取得される。
【0045】
(S140:高周波信号の周波数を選択し設定する工程)
本工程では、信号選択回路162は、S110からS130で取得した、高周波信号の周波数が異なる複数の検出信号ごとに、指標値を算出し、算出した複数の検出信号の指標値から指標値の大きい検出信号を選択し、この検出信号を取得したときに高周波信号生成器130に設定されていた高周波信号の周波数を選択する。すなわち、信号選択回路162は、複数の検出信号ごとに算出した指標値に基づいて、被検体情報の取得に適した信号(検出信号)と、この検出信号に対応する高周波信号の周波数とを選択する。本工程において、信号選択回路162は、算出した複数の指標値から、指標値の大きさに基づいて一つの検出信号に対応する高周波信号の周波数を選択してもよいし、指標値の大きい順に上位の検出信号に対応する高周波信号の周波数を複数選択することも可能である。
【0046】
例えば、S170での変位信号の検出処理において、主成分分析や独立成分分析を用いる場合には、指標値の大きい順に上位の検出信号に対応する高周波信号の周波数を複数選択すればよい。信号処理回路160は、信号選択回路162により選択された高周波信号の周波数を、高周波信号生成器130に設定する。
【0047】
なお、本工程をS120とS130の間で実行し、S130で検出信号を記憶媒体に保存せずに、S120で取得された検出信号から指標値を取得して、取得した指標値を記憶媒体に保存してもよい。この場合、信号選択回路162は、記憶媒体から検出信号の指標値を取得し、指標値の大きさに基づいて検出信号に対応する一つの高周波信号の周波数を選択してもよいし、検出信号の指標値の大きい順に上位の検出信号に対応する高周波信号の周波数を複数選択してもよい。そして、信号処理回路160は、信号選択回路162により選択された周波数を高周波信号生成器130に設定する。
【0048】
(S150:検出信号を取得する工程)
本工程では、S140で高周波信号生成器130に設定された周波数の高周波信号は、送信回路140を介してアンテナ110から被検体100に照射され、結合量検出回路150は、設定された周波数の高周波信号に基づいた検出信号を取得する。結合量検出回路150は取得した検出信号を信号処理回路160の変位検出回路161に入力する。
【0049】
(S160:変位信号を検出する工程)
本工程では、信号処理回路160の変位検出回路161は、S150で取得された検出信号から被検体100の所望の動きに対応する変位信号を取得する。
【0050】
(S170:変位信号を解析する工程)
本工程では、信号処理回路160は、S160で変位検出回路161により取得された変位信号を解析して被検体100の挙動や状態に関する情報を取得する。
【0051】
なお、
図7で説明した処理フローのうち、S150、S160、S170の処理を並列に実行することで、リアルタイムに変位信号を取得し、被検体100の挙動や状態に関する情報を取得しても良い。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、被検体情報の取得に適した高周波信号の周波数を選択することで、被写体情報を取得するために適した検出信号で測定を行うことができ、高い精度で動きを検出し、被検体の挙動や状態に関する情報を高精度に取得することができる。
【0053】
[第二の実施形態]
本実施形態では、検出信号や変位信号を補正する構成を有する被検体情報取得装置について説明する。なお、第一の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
<被検体情報取得装置の構成>
図8は、第二の実施形態にかかる被検体情報取得装置の構成を模式的に示す図であり、
図9は第二の実施形態の装置本体120における構成要素の接続関係を模式的に示す図である。第一の実施形態で説明した接続関係と同様に、
図9に示すように装置本体120の各構成要素はバス200を介して情報をやり取りすることができ、信号処理回路160は、バス200を介して装置本体120の各構成要素の動作を制御する。第二の実施形態では、信号処理回路160が、検出信号や変位信号を補正する信号補正回路163(信号補正部)を有する点で、第一の実施形態で説明した構成要素の接続関係(
図2)とは相違する。
【0055】
(信号補正回路163)
信号補正回路163は、信号選択回路162により選択された検出信号、および、変位検出回路161により検出された変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する。ここでは、変位信号(例えば、心拍信号)の反転を例にして、信号補正回路163において変位信号の符号を反転させる補正を行う場合を説明する。心拍信号は、高周波信号の周波数や被検体100の特性によって理想テンプレートを反転した形状となる場合が生じ得る。
【0056】
信号補正回路163は、変位信号の反転を検出した場合、例えば、変位信号に対して補正値(-1)をかけて、非反転とした補正信号を生成する。これにより、非反転を前提として信号処理回路160が変位信号を解析する場合であっても、解析精度の低下を抑制することができる。例えば、変位信号から極大値を検出する解析処理の場合、変位信号が反転していると検出すべき極大値が極小値となっているために検出することができない場合が生じ得るが、非反転の補正信号であれば検出すべき極大点を検出することができる。
【0057】
図10は信号の反転検出の処理の概要を示す図である。信号補正回路163は、
図10に示すように心拍信号(反転、非反転)と理想テンプレートとで正規化相互相関演算をそれぞれ行って相関波形を生成し、極大値平均値I
peakと、極小値平均値I
valleyとを算出する。心拍信号が非反転の場合の相関波形1010は|I
peak|>|I
valley|となり、心拍信号が反転の場合の相関波形1020は|I
peak|<|I
valley|となるので、信号補正回路163は、|I
peak|と|I
valley|の大小関係から信号の反転と非反転を判定することができる。
【0058】
変位信号に信号の反転が生じ、変位信号の補正が必要とされる場合、信号補正回路163は、変位信号に対して補正値(-1)をかけて、非反転とした補正信号を生成する。
【0059】
次に、検出信号の補正を説明する。例えば、被検体100の周期的な動きに対応する検出信号であっても、検出信号が生体由来の擾乱等を受ける場合がある。信号補正回路163はそのような検出信号における波形の擾乱を補正する。ここでは、信号の補正の例として検出信号の補正を例として説明するが、信号補正回路163は、変位信号に対しても同様に信号の補正を行うことができる。
【0060】
図11は生体由来の擾乱を補正する処理の概要を示す図である。
図11のIQプロット1110は、検波回路153で検出されたIn-phase信号(I信号)とQuadrature信号(Q信号)を、検出信号(例えば、心拍信号)の複数周期に渡って、2次元平面にプロットした図である。IQプロット1110上の各点と原点を結ぶ直線の長さは検波振幅を表す。また、IQプロット1110上の各点と原点を結ぶ直線とI信号軸となす角は検波位相を表す。
【0061】
図11のIQ統計値プロット1120は、検波位相ごとの検波振幅の平均値m(実線)と標準偏差σ(破線)をプロットしたものである。また、
図11の擾乱検出プロット1130は、擾乱を検出する様子を示す図である。ここで、信号補正回路163は、信号(検出信号、変位信号)の統計処理を行い、統計処理により得られた信号の値が、基準値から外れた場合、基準値を満たすように信号の値を補正する。擾乱検出プロットのうち、黒丸1140は検出振幅が基準値(標準偏差σ内)に収まっているので、信号補正回路163は擾乱が小さいと判定し、信号の補正を行わない。
【0062】
一方、破線の丸印1150の値は検出振幅が基準値(標準偏差σ)から外れているので、信号補正回路163は、破線の丸印1150で示す信号値の擾乱が基準値(標準偏差σ)に比べて大きいと判定して、基準値を満たすように信号の値(破線の丸印1150の値)を、例えば、実線の白丸1160で示す平均値mの値に補正する。このようにして、信号補正回路163による補正処理により、信号に含まれる擾乱の影響を低減することができる。なお、擾乱の影響を低減するための補正処理を行うか否かの判定基準は、基準値(標準偏差σ)の値を基準とする場合の他、2σや3σの値を基準値としてもよい。
【0063】
図11の擾乱検出プロット1130では、信号の擾乱が基準値(標準偏差σ)に比べて大きいと判定された場合の例を説明したが、本実施形態はこの例に限られない。例えば、標準偏差-σを基準値として、信号の擾乱が基準値(標準偏差-σ)に比べて小さく、基準値(標準偏差-σ)から外れている場合(例えば、破線の丸印1170)、信号補正回路163は、基準値を満たすように信号の値(破線の丸印1170の値)を、例えば、実線の白丸1160で示す平均値mの値に補正する。このような信号補正回路163による補正処理により、信号に含まれる擾乱の影響を低減することができる。標準偏差-σの値を基準とする場合の他、-2σや-3σの値を基準としてもよい。
【0064】
また、経験的に得た任意の閾値等、標準偏差(-σ、σ)以外の基準値を補正要否の判定基準として採用してもよい。また、
図11に示す例では、基準値(標準偏差σ)から外れている破線の丸印1150の値を補正値(補正目標値)として平均値mの値に補正しているが、経験的に得た任意の補正値や標準偏差σの境界値等を補正値(補正目標値)として採用してもよい。さらに、変位信号や検出信号の周波数成分を使った補正を行うこともできる。例えば、信号補正回路163は、変位信号や検出信号の周波数成分を、想定される理想的な信号波形の周波数成分でデコンボリューションし、信号(変位信号や検出信号)をデコンボリューションして補正を行うことが可能である。
【0065】
心拍波形の場合、
図6に示すような周波数成分を、
図4のような理想テンプレートの周波数成分でデコンボリューションする。具体的には、フーリエ変換をしてデコンボリューションを行い逆フーリエ変換して補正した信号を得ることができる。また、理想テンプレートの周波数成分の逆数を逆フーリエ変換してデコンボリューション波形を生成し、デコンボリューション波形からデコンボリューションFIRフィルタを構成して変位信号や検出信号に適用することもできる。以上のデコンボリューションにおいては、Wienerフィルタを用いることができる。
【0066】
変位検出回路161は、信号補正回路163により補正された信号に基づいて変位信号を生成し、信号処理回路160は、生成された変位信号に基づいて被検体の動きを示す情報を取得する。
【0067】
<被検体情報の取得方法>
図12は第一の実施形態における処理フローを示す図であり、本実施形態に係る被検体情報取得方法の各工程を、
図12を参照して説明する。
図12では、変位信号を補正する処理フロー1210)と、検出信号を補正する処理フロー1220の2種類の処理フローを示している。なお、処理フロー1210及び処理フロー1220における各工程は、信号処理回路160が装置本体120の各構成の動作を制御することにより実行される。第一の実施形態の処理フロー(
図7)と同一の工程については説明を省略する。
【0068】
まず、変位信号を補正する処理フロー1210について説明する。S110~S160の処理は第一の実施形態の処理フロー(
図7)と同一の工程である。
【0069】
(S210:変位信号を補正するか判定する工程)
本工程では、信号補正回路163は、S160で検出された変位信号を補正するかどうかを判定する。変位信号に対する補正の内容としては、例えば、変位信号における波形の反転が挙げられる。
図10で説明したように、極大値平均値I
peakと、極小値平均値I
valleyとの大小関係により、変位信号の波形に反転が生じている場合、信号補正回路163は、変位信号を補正すると判定し(S210-Yes)、処理をS220に進める。
【0070】
(S220:変位信号を補正する工程)
本工程では、信号補正回路163は、変位信号に対して補正値(-1)をかけて、非反転とした補正信号を生成する。そして、次の工程(S170)では、信号処理回路160は、S220で信号補正回路163により補正された変位信号を解析して被検体100の挙動や状態に関する情報を取得する。
【0071】
一方、S210の判定処理で、変位信号の波形に反転が生じていない場合、信号補正回路163は変位信号を補正しないと判定し(S210-No)、処理をS170に進める。この場合は、信号処理回路160は、S160で変位検出回路161により取得された変位信号を解析して被検体100の挙動や状態に関する情報を取得する。
【0072】
次に、検出信号を補正する処理フロー1220について説明する。S110~S150の処理は第一の実施形態の処理フロー(
図7)と同一の工程である。
【0073】
(S230:検出信号を補正するか判定する工程)
本工程では、信号補正回路163は、S150で取得された検出信号を補正するかどうかを判定する。検出信号に対する補正の内容としては、例えば、検出信号における波形の擾乱が挙げられる。
図11で説明したように、検出信号における波形の値(例えば、破線の丸印1150の値)が基準値(例えば、標準偏差σ、2σや3σの値、経験的に得た任意の閾値等)から外れている場合、信号補正回路163は、検出信号を補正すると判定し(S230-Yes)、処理をS240に進める。
【0074】
(S240:検出信号を補正する工程)
本工程では、信号補正回路163は、検出信号を所定の補正値(例えば、信号の平均値m、経験的に得た任意の補正値や標準偏差σの境界値等)に補正する。そして、次の工程(S160)では、変位検出回路161は、S240で信号補正回路163により補正された検出信号から被検体100の所望の動きに対応する変位信号を取得する。そして、信号処理回路160は、S160で変位検出回路161により取得された変位信号を解析して被検体100の挙動や状態に関する情報を取得する。
【0075】
一方、S230の判定処理で、検出信号における波形の擾乱が検出されない場合、信号補正回路163は検出信号を補正しないと判定し(S230-No)、処理をS160に進める。この場合は、信号処理回路160は、S150で取得された検出信号から被検体100の所望の動きに対応する変位信号を取得する。そして、S170では、信号処理回路160は、S160で変位検出回路161により取得された変位信号を解析して被検体100の挙動や状態に関する情報を取得する。
【0076】
なお、信号の補正は上記の例に限られず、例えば、変位信号を補正する処理フロー1210において、変位信号に含まれる擾乱を処理フロー1220の処理と同様に補正してもよい。また、検出信号を補正する処理フロー1220において、検出信号に含まれる波形の反転を処理フロー1210の処理と同様に補正してもよい。すなわち、S140で選択・設定された条件で取得された検出信号やそこから抽出された変位信号に対する補正であれば、いかなる補正でもよい。また、波形の反転及び擾乱の補正を組み合わせて行ってもよい。
【0077】
また、S210とS220の処理を、S150やS160、S170の処理と並列に実行し、リアルタイムに処理結果を出力してもよい。同様に、S230とS240の処理を、S150やS160、S170の処理と並列に実行してもよい。さらに、S150の処理の前にS210やS230の処理を実行して、補正の要否を予め判定しておき、リアルタイムに処理を実行している最中の判定処理を省いてもよい。
【0078】
(変形例)
第二の実施形態では、信号補正回路163が、検出信号及び変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する構成について説明した。ここで、検出信号は、複数の検出信号の指標値に基づいて、信号選択回路162により選択される信号である。また、被検体の変位を示す変位信号は、アンテナ110と被検体100との間の電界による近傍界結合の結合量に基づいて変位検出回路161により生成される信号であり、近傍界結合の結合量は、信号選択回路162により選択された検出信号に基づいて検出されるものである。すなわち、信号補正回路163による補正対象の信号(検出信号及び変位信号)は、信号選択回路162の選択処理に基づいて取得される信号となる。
【0079】
なお、信号補正回路163の処理は、この例に限られず、信号選択回路162の選択処理によらず、信号補正回路163は、結合量検出回路150に入力された検出信号(入力検出信号)と、変位信号とののうち、少なくともいずれか一方の信号を補正することも可能である。この場合、高周波信号生成器130(信号生成部)は、設定された周波数に基づいて高周波信号を生成する。結合量検出回路150は、取得部として機能して、少なくとも一つのアンテナ110から高周波信号が被検体100に照射され、被検体100からの反射信号又は透過信号に基づく検出信号(入力検出信号)を取得する。
【0080】
そして、結合量検出回路150(結合量検出部)は、検出信号(入力検出信号)に基づいて、アンテナ110と被検体100との間の電界による近傍界結合の結合量を検出する。また、変位検出回路161は、結合量検出回路150において検出された近傍界結合の結合量に基づいて、被検体100の変位を示す変位信号を生成する。そして、信号補正回路163は、検出信号(入力検出信号)、および、変位検出回路161により検出された変位信号のうち、少なくともいずれか一方の信号を補正する。信号補正回路163による信号の補正処理は、先に説明した処理と同様であり、変位検出回路161は、信号補正回路163により補正された信号に基づいて変位信号を生成する。
【0081】
以上、本実施形態によれば、検出信号および変位信号に補正を実施することで、高い精度で被検体の動きを検出し、被検体の挙動や状態に関する情報を高精度に取得することができる。
【0082】
[第三の実施形態]
本実施形態では、複数のアンテナを有する被検体情報取得装置について説明する。なお、第一の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0083】
<被検体情報取得装置の構成>
図13は、第三の実施形態にかかる被検体情報取得装置の構成を模式的に示す図であり、
図14は第三の実施形態の装置本体120における構成要素の接続関係を模式的に示す図である。第一の実施形態で説明した接続関係と同様、
図14に示すように装置本体120の各構成要素はバス200を介して情報をやり取りすることができ、信号処理回路160は、バス200を介して装置本体120の各構成要素の動作を制御する。アンテナ群111は、複数のアンテナから構成されており、
図14では、複数のアンテナを切替える切替部(以下、スイッチ(SW)112)がバス200に接続されている点で第一の実施形態で説明した構成要素の接続関係(
図2)とは相違する。
【0084】
(アンテナ群111)
高周波信号生成器130は、異なる周波数が設定され、それぞれの周波数に対応する高周波信号を生成する。高周波信号生成器130により生成された高周波信号は、複数のアンテナから構成されるアンテナ群111から被検体100に照射される。アンテナ群111は、例えば、複数のアンテナ113、114、115から構成される。複数のアンテナは被検体100の異なる部位に、高周波信号生成器130で生成された高周波信号を照射するように配置されている。これにより、複数のアンテナのうちいずれかのアンテナが被検体100の所望の動きに対応した反射信号(透過信号)を捉えられるように構成されている。なお、
図13では、複数のアンテナとして3つのアンテナを例示的に示しているが、本実施形態はこの例に限られない。
【0085】
また、単一のアンテナを被検体100に沿って機械的に走査することで仮想的に複数のアンテナを構成してもよい。例えば、被検体情報取得装置1は、単一のアンテナを被検体100の体軸方向に沿って移動可能な走査部を備え、走査部の走査により移動した位置で、単一のアンテナから被検体100の異なる部位に、高周波信号生成器130で生成された高周波信号を照射するようにしてもよい。
【0086】
また、複数のアンテナ113、114、115は、被検体100の部位に応じて異なる形状を有するように構成することも可能である。例えば、物理長や形状の異なる複数のアンテナが同一の部位に高周波信号を照射するように配置してもよい。この場合、複数のアンテナから、被検体100の個体差(例えば心臓や肺や腹腔の大きさ等)に対応する物理長や形状を有するアンテナを選択することができる。
【0087】
(スイッチ112)
スイッチ112は、アンテナ群111を構成する各アンテナ113~115から高周波信号を照射する少なくとも一つのアンテナを選択する。例えば、スイッチ112は、アンテナ群111から高周波信号を照射するアンテナを選択し、切り替えることが可能である。
【0088】
また、周波数の設定の異なる高周波信号が各アンテナ113~115から同時に照射されるようにスイッチ112を設定することも可能である。検波回路153が、異なる高周波信号の同時照射に基づいて入力された検出信号(入力検出信号)を検波する際に、検波回路153は、入力検出信号を、各アンテナから照射された高周波信号に対応する検出信号に分離する。この場合、スイッチ112は仮想的にスイッチングされたように構成される。
【0089】
スイッチ112の構成は電気的スイッチや機械的スイッチ等、いかなる構成でもよい。また、アンテナ群111を構成する複数のアンテナのそれぞれに高周波信号生成器130、送信回路140、及び結合量検出回路150を設けてもよい。
【0090】
(信号選択回路164)
本実施形態の信号選択回路164(信号選択部)は、第一の実施形態と同様に複数の検出信号から被検体情報の取得に適した信号(検出信号)を選択するが、アンテナごとに指標値を取得して各アンテナに最適な検出信号を取得することができるように高周波信号の周波数を選択する。例えば、胸部付近のアンテナ113に対して、信号選択回路164は心拍信号の取得に適した周波数を選択する。また、信号選択回路164は、腹部付近のアンテナ114、115に対して、呼吸信号の取得に適した周波数を選択することができる。
【0091】
さらに、信号選択回路164は、被検体100の所望の動きに対応した変位信号を取得するのに適したアンテナを、各アンテナ113~115の指標値に基づいて選択することができる。信号選択回路164が選択するアンテナは、取得した指標値の大きい順に上位の複数アンテナを選択することが可能である。
【0092】
例えば、変位検出回路161において主成分分析や独立成分分析等の複数信号に基づいた処理を実行する際に、被検体100の所望の動きに対応した検出信号がほとんど含まれないような低精度な検出信号を除外することで、抽出する変位信号を高精度化したり演算量を低減したりすることができる。また、アンテナの選択をせずに全てのアンテナの検出信号を装置本体120が処理する場合であっても、信号選択回路164の処理により、アンテナごとに最適な周波数が選択されているため、抽出する変位信号の高精度化を期待できる。
【0093】
<被検体情報の取得方法>
図15は第三の実施形態における処理フローを示す図であり、本実施形態に係る被検体情報取得方法の各工程を、
図15を参照して説明する。なお、各工程は、信号処理回路160が装置本体120の各構成の動作を制御することにより実行される。第一の実施形態と同一の工程については説明を省略する。S110~S140の処理は第一の実施形態の処理フロー(
図7)と同一の工程である。
【0094】
(S310:全アンテナの検出信号の取得を判定する工程)
本工程では、信号処理回路160は、全てのアンテナ113~115に関する処理が終了したか判定する。すなわち、信号処理回路160は、全てのアンテナに関する検出信号の取得処理(S130)、及び、検出信号の指標値に基づいてアンテナごとの最適な周波数の選択処理(S140)が終了したか判定する。全てのアンテナに関する処理が終了したと判定する場合、信号処理回路160は処理をS320に進める。一方、全てのアンテナに関する処理が終了していないと判定する場合、信号処理回路160は処理をS110へ戻す。
【0095】
S110へ処理が戻される場合、信号処理回路160はスイッチ112を制御して、アンテナ群111を構成する次のアンテナに切り替える。
【0096】
S110では、アンテナごとに設定されている周波数範囲の初期値が高周波信号生成器130に設定される。信号処理回路160は、S130のループ処理を、全ての周波数の高周波信号に基づいた検出信号を取得するまで行う。そして、信号処理回路160は、検出信号の指標値に基づいてアンテナごとの最適な高周波信号の周波数を選択する。信号処理回路160は、全てのアンテナ113~115に対する処理が終了するまで、S310のループ処理を行う。
【0097】
(S320:アンテナを選択する工程)
本工程では、信号選択回路164は、S110~S310までの工程で取得された各アンテナにおける指標値に基づいて高周波信号を照射するアンテナを選択する。例えば、信号選択回路164は、各アンテナにおける指標値を比較して、指標値の大きいアンテナを選択する。
【0098】
なお、本工程において、信号選択回路164は、複数のアンテナにおける指標値から、指標値の大きさに基づいて一つのアンテナを選択してもよいし、指標値の大きい順に上位のアンテナを複数選択することも可能である。
【0099】
信号選択回路164によりアンテナが選択されると、信号処理回路160は、選択されたアンテナから高周波信号が照射されるようにスイッチ112を制御する。
【0100】
また、走査部により単一のアンテナを被検体100の体軸に沿って移動させる場合、信号選択回路164は、走査部の各走査位置で取得された指標値に基づいて、高周波信号を照射する照射位置を選択し、走査部を制御して照射位置にアンテナを移動させてもよい。
【0101】
アンテナごとに高周波信号生成器130、送信回路140、結合量検出回路150が設けられている場合、信号処理回路160は、選択されたアンテナに対応する、高周波信号生成器130、送信回路140、結合量検出回路150を選択し、動作を制御する。
【0102】
単一のアンテナを走査する場合、信号選択回路164は、アンテナを移動可能な走査部の各走査位置で取得された指標値に基づいて、最も大きい指標値が得られた位置をアンテナ位置として選択し、信号選択回路164は、選択されたアンテナ位置にアンテナを移動させる。なお、全てのアンテナを用いる場合は本工程を省略することができる。
【0103】
以上、本実施形態によれば、所望の動きに対応した変位信号を取得するのに適したアンテナ形状や測定部位を選択することで、高い精度で被検体の動きを検出し、被検体の挙動や状態に関する情報を高精度に取得することができる。
【0104】
[第四の実施形態]
本実施形態では、上述した各実施形態に係る被検体情報取得装置を具備する磁気共鳴イメージング装置に関する構成を説明する。
【0105】
<磁気共鳴イメージング装置の構成>
図16は、本実施形態にかかる磁気共鳴イメージング装置の模式図である。磁気共鳴イメージング装置は、静磁場磁石312、傾斜磁場コイル310、WB(Whole Body)コイル320等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。また、磁気共鳴イメージング装置は、寝台本体620と天板101とを具備する寝台600、及び、被検体100に近接して配置される局所コイル400を有している。
【0106】
さらに、磁気共鳴イメージング装置は、傾斜磁場電源410、RF受信器420、RF送信器430、及びシーケンスコントローラ440を備えている。また、磁気共鳴イメージング装置は、処理回路500、記憶回路510、ディスプレイ520、及び入力デバイス530を有するコンピュータ、即ち、コンソールを有している。
【0107】
アンテナ110は、被検体100に近接して配置されることが好ましく、本実施形態では局所コイル400に内蔵される。また、アンテナ110は、天板101に内蔵して配置されても良いし、これら磁気共鳴イメージング装置とは独立した別の装置として被検体100に近接して配置されても良い。さらに、傾斜磁場コイル310、WB(Whole Body)コイル320等の磁気共鳴イメージング装置に具備されているコイルをアンテナ110として用いても良い。
【0108】
処理回路500(撮像制御部)は、被検体情報取得装置1の装置本体120から出力された、検出信号や変位信号を解析して取得した被検体100の状態や挙動に関する情報を基に、磁気共鳴イメージング装置の撮像シーケンスを制御する。
【0109】
図17は、磁気共鳴イメージング装置における撮像制御の概要を示す図である。
図17では、被検体100の状態や挙動に関する情報として、心拍信号の拡張期と呼吸信号の呼気相を用いて、磁気共鳴イメージング装置の撮像シーケンス(MR撮像シーケンス)を制御する場合の時相関係の例を示している。
図4に示したように、心拍信号の変曲点はR波と時相が近いので、変曲点から一定時間後は拡張期となる。変曲点を抽出してから一定時間後の期間を心拍拡張期とみなして、この期間の心拍撮像可能信号をHighにする。
【0110】
また、呼吸信号に対して閾値を設け、閾値以下の期間を呼気相とみなすことができる。呼気相の期間の間、呼吸撮像可能信号をHighにする。さらに、心拍撮像可能信号と呼吸撮像可能信号のAND演算を行い、撮像可能信号を生成する。信号処理回路160は、以上の各信号処理を実行し、撮像可能信号を磁気共鳴イメージング装置の処理回路500に出力する。処理回路500は、撮像可能信号がHighの期間中にMR撮像シーケンスを実行する。拡張期では心臓の動きが小さく、呼気相では呼吸による胸部や腹部の動きが小さい。このため、両者が重なっている撮像可能信号がHighの期間にMR撮像シーケンスを実行することで、被検体100の動きによるMR撮像画像の画質の低下(アーティファクトや解像度低下等)を改善することができる。さらに本発明では、心拍信号と呼吸信号を高精度に取得することができるので、そこから生成される撮像可能信号の精度も高く、MR撮像画像の画質をより改善することができる。
【0111】
以上では拡張期と呼気相の両方を考慮したが、拡張期および呼気相の少なくともいずれか一方のみを示す信号に基づいて撮像可能信号としても良い。また、拍動や呼吸による動きに限らず、被検体100の任意の動きに基づいて撮像可能信号を生成しても良い。
【0112】
本実施形態によれば、高精度に取得した被検体100の挙動や状態に関する情報に基づいて磁気共鳴イメージング装置の撮像を制御することで、高精度なMR撮像画像を取得することができる。
【0113】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0114】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0115】
110:アンテナ、10:生体情報取得装置、120:生体情報取得装置の装置本体、130:高周波信号生成器、140:送信回路、150:結合量検出回路、160:信号処理回路、161:変位検出回路、162:信号選択回路、163:信号補正回路、164:信号選択回路(第三の実施形態)