(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】フレキソ印刷版原版
(51)【国際特許分類】
B41N 1/00 20060101AFI20241127BHJP
B41C 1/00 20060101ALI20241127BHJP
G03F 7/11 20060101ALI20241127BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B41N1/00
B41C1/00
G03F7/11 503
G03F7/11 502
G03F7/00 502
(21)【出願番号】P 2020213967
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英幸
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-231546(JP,A)
【文献】国際公開第2004/104701(WO,A1)
【文献】特開昭60-186834(JP,A)
【文献】特開2017-3754(JP,A)
【文献】特開2008-170921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00-3/08
B41C 1/00-3/08
G03F 7/11
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の面上に接着剤層と感光性樹脂層を順に有し、
前記支持体は、ポリエステル樹脂を含有し、
前記接着剤層は、以下の成分(a),(b),(c)を含有する、フレキソ印刷版原版。
(a)ポリエステル樹脂
(b)イソシアネート化合物
(c)100℃以下の融点または軟化点を有するキシレン系樹脂
【請求項2】
前記成分(c)のキシレン系樹脂は水酸基を有する、請求項1に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項3】
前記成分(c)のキシレン系樹脂は、m-キシレンとホルムアルデヒドとの縮合物よりなる骨格の末端に水酸基を有する、請求項2に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項4】
前記成分(c)のキシレン系樹脂は、フェノール性水酸基を有さない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項5】
前記接着剤層は、前記成分(a)100質量部に対して、前記成分(c)を10質量部以上、30質量部以下含有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項6】
前記成分(a)のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、20℃以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項7】
前記成分(b)のイソシアネート化合物は、1分子あたり3つ以上のイソシアネート基を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項8】
前記接着剤層の厚さは、10μm以上である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項9】
前記感光性樹脂層は、水分散ラテックスを含有する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項10】
前記成分(b)のイソシアネート化合物はイソシアヌレート骨格を有する、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のフレキソ印刷版原版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、印刷版を用いて、包装材やラベル、雑誌等の被刷体に、凸版印刷、凹版印刷、あるいは、平版印刷が行われている。このうち、凸版印刷は、凸版を用いて行われる。この凸版には、材質が柔らかいことから被刷体を選ばず、種々の被刷体に適用可能なフレキソ印刷版がある。フレキソ印刷版の原版は、ポリエステルフィルムなどからなる支持体の上に、接着剤層を介して、感光性の樹脂組成物からなる感光性樹脂層を備えているのが一般的である。
【0003】
フレキソ印刷版原版の感光性樹脂層にレリーフ像を形成したフレキソ印刷版は、印刷機の版胴に両面テープなどで固定して印刷に使用され、その後、再利用のために、版胴から剥がされる。フレキソ印刷版を版胴から剥がす際には、支持体や感光性樹脂層に大きな力が加えられるため、支持体から感光性樹脂層が剥がれてしまう可能性がある。感光性樹脂層が支持体から剥がれると、フレキソ印刷版の再利用が困難になるため、フレキソ印刷版を構成する接着剤層には、十分な接着力が求められる。また、フレキソ印刷版は、印刷中にインクに接触した状態となるが、インクに含まれる溶剤が、感光性樹脂層のみならず、接着剤層にまで浸透し、接着剤層の接着力を低下させてしまう可能性がある。そこで、フレキソ印刷版を構成する接着剤層においては、インク溶剤と接触した状態でも十分な接着力を維持できる、高い耐溶剤性が求められる。
【0004】
フレキソ印刷版原版において、高い接着性と高い耐溶剤性を示す接着剤層として、例えば、下記の特許文献1に、特定の熱可塑性エラストマーと、少なくとも1種類のエチレン性不飽和化合物と、少なくとも1種類の重合開始剤とを含有するものが開示されている。上記のエチレン性不飽和化合物は、少なくとも1種類の、分子内に1つ以上の芳香環及び/又は1つ以上の水酸基を有する(メタ)アタリレートを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、フレキソ印刷版原版を構成する接着剤層には、フレキソ印刷版を版胴から剥がす際に、支持体と感光性樹脂層の間に剥離が生じるのを避けるために、高い接着性が求められるとともに、インクに接触した状態でも接着性を維持できるだけの高い耐溶剤性が求められる。特許文献1に開示されているもののように、熱可塑性エラストマーとアクリレート系化合物を含む接着剤層は、感光性樹脂層との間に組成の類似性を有すること等により、感光性樹脂層に対しては高い接着性を示すが、支持体との間には、十分に高い接着性を示しにくい。よって、フレキソ印刷版を版胴から剥がす際に、支持体と接着剤層の間に剥離が生じる可能性や、インクと接触した環境において、支持体と接着剤層の間で、溶剤に起因する接着力の低下が起こる可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、支持体との間の接着性および耐溶剤性に優れた接着剤層を有するフレキソ印刷版原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明にかかるフレキソ印刷版原版は、支持体の面上に接着剤層と感光性樹脂層を順に有し、前記支持体は、ポリエステル樹脂を含有し、前記接着剤層は、以下の成分(a),(b),(c)を含有する。
(a)ポリエステル樹脂
(b)イソシアネート化合物
(c)100℃以下の融点または軟化点を有するキシレン系樹脂
【0009】
ここで、前記成分(c)のキシレン系樹脂は水酸基を有するとよい。この場合に、前記成分(c)のキシレン系樹脂は、m-キシレンとホルムアルデヒドとの縮合物よりなる骨格の末端に水酸基を有するものであるとよい。前記成分(c)のキシレン系樹脂は、フェノール性水酸基を有さないものであるとよい。
【0010】
前記接着剤層は、前記成分(a)100質量部に対して、前記成分(c)を10質量部以上、30質量部以下含有するとよい。前記成分(a)のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、20℃以下であるとよい。前記成分(b)のイソシアネート化合物は、1分子あたり3つ以上のイソシアネート基を含むとよい。前記接着剤層の厚さは、10μm以上であるとよい。前記感光性樹脂層は、水分散ラテックスを含有するとよい。前記成分(b)のイソシアネート化合物はイソシアヌレート骨格を有するものであるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるフレキソ印刷版原版においては、接着剤層が、粘着付与剤として機能する成分(c)のキシレン系樹脂を含有することで、感光性樹脂層およびポリエステル樹脂を含んだ支持体に対して、高い接着性を示す。また、接着剤層が高い耐溶剤性を有し、インクに含まれる溶剤と接触した状態でも、高い接着性を維持することができる。
【0012】
ここで、成分(c)のキシレン系樹脂が水酸基を有する場合、特に、m-キシレンとホルムアルデヒドとの縮合物よりなる骨格の末端に水酸基を有する場合には、成分(c)のキシレン系樹脂が成分(b)のイソシアネート化合物と架橋反応を起こすことで、接着剤層の耐溶剤性が特に高くなる。ただし、フェノール性水酸基は、接着剤層の耐溶剤性の向上に高い効果を示さないため、成分(c)のキシレン系樹脂は、フェノール性水酸基を有さないものであるとよい。
【0013】
接着剤層が、成分(a)100質量部に対して、成分(c)を10質量部以上、30質量部以下含有する場合には、接着剤層において、成分(c)の寄与による接着性および耐溶剤性向上の効果が高く得られる。
【0014】
成分(a)のポリエステル樹脂のガラス転移温度が、20℃以下である場合には、接着剤層を硬質になりすぎないように保ち、接着性を高める効果に優れる。
【0015】
成分(b)のイソシアネート化合物が、1分子あたり3つ以上のイソシアネート基を含む場合には、接着剤層において、優れた接着性および耐溶剤性が得られる。
【0016】
接着剤層の厚さが、10μm以上である場合には、接着剤層による接着効果が高くなる。
【0017】
感光性樹脂層が、水分散ラテックスを含有する場合には、感光性樹脂層に水現像性を付与することができる。
【0018】
成分(b)のイソシアネート化合物がイソシアヌレート骨格を有するものである場合には、接着剤層の接着性および耐溶剤性を高めやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるフレキソ印刷版原版の断面図である。
【
図2】フレキソ印刷版原版からフレキソ印刷版を製造する工程を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明について詳細に説明する。本明細書においては、各種物性は、特記しないかぎり、大気中、室温における値とする。
【0021】
(フレキソ印刷版原版の概略)
図1は、本発明の一実施形態にかかるフレキソ印刷版原版の断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態にかかるフレキソ印刷版原版10は、支持体12と、接着剤層14と、感光性樹脂層16と、を備える。支持体12の面上に、接着剤層14と感光性樹脂層16とがこの順で積層されている。接着剤層14は、支持体12に接して設けられ、感光性樹脂層16は、接着剤層14に接して設けられている。
【0022】
支持体12は、その上に積層される感光性樹脂層16などの層を支持する。支持体12は、ポリエステル樹脂を含んでおり、好ましくは、ポリエステル樹脂を主成分として(全体の50質量%以上含有して)構成されている。ポリエステル樹脂を含んだ支持体12は、寸法安定性に優れる。また、後に説明する接着剤層14との間に、高い接着性を示す。支持体12を構成するポリエステル樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等の芳香族ポリエステルを好適に用いることができる。
【0023】
支持体12は、フィルム体として構成されていることが好ましく、その上に積層される感光性樹脂層16などの層を支持するのに十分な強度が得られるなどの観点から、50μm以上の厚さを有することが好ましい。一方、支持体12の厚さは、高い可撓性を確保する等の観点から、300μm以下、さらには200μm以下であることが好ましい。
【0024】
(接着剤層)
接着剤層14は、支持体12に対して感光性樹脂層16を接着する機能を果たす。接着剤層14は、以下の成分(a),(b),(c)を含有している。
(a)ポリエステル樹脂
(b)イソシアネート化合物
(c)キシレン系樹脂
【0025】
成分(a)のポリエステル樹脂は、接着剤層14において、バインダー樹脂としての役割を果たす。成分(a)のポリエステル樹脂として、例えば、ポリエステル系接着剤やポリエステル系バインダーとして知られている熱可塑性ポリエステルを、好適に利用することができる。ポリエステル樹脂は、飽和ポリエステルであっても不飽和ポリエステルであってもよい。
【0026】
具体的なポリエステル樹脂における共重合成分としては、特に限定されるものではないが、酸成分として、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。また、アルコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールS及びそれらのアルキルオキシド付加体等を例示することができる。
【0027】
成分(a)のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、20℃以下であることが好ましい。すると、接着剤層14の硬度が低くなるため、接着剤層14の接着力を特に高めやすくなる。ポリエステル樹脂のTgは、15℃以下、また10℃以下であると、さらに好ましい。ポリエステル樹脂としては、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
成分(b)のイソシアネート化合物は、接着剤層14において、架橋剤(硬化剤)として機能し、成分(a)が有する末端水酸基や他の官能基と反応して、架橋構造を形成する。成分(b)のイソシアネート化合物として、例えば、ポリエステル樹脂に適用可能なイソシアネート系硬化剤として知られているものを、好適に利用することができる。具体的なイソシアネート化合物の種類は、特に限定されるものではないが、1分子内に含まれるイソシアネート基の数が、2以上(2官能以上)、特に3以上(3官能以上)のものを用いることが好ましい。3官能以上のイソシアネート化合物を用いることで、架橋密度が高くなり、接着剤層14の接着性、耐溶剤性を高めやすくなる。特に好ましくは、イソシアネート化合物として、イソシアヌレート骨格を有するものを用いるとよい。イソシアネート化合物は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
接着剤層14におけるイソシアネート化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、架橋密度および耐溶剤性を高める観点から、成分(a)100質量部に対して、1質量部以上であるとよい。一方、接着剤層14の過度の硬化を抑制する観点から、その含有量は15質量部以下であるとよい。
【0030】
成分(c)のキシレン系樹脂は、接着剤層14において、粘着付与剤として機能し、接着剤層14の接着性と耐溶剤性を高めるものとなる。キシレン系樹脂は、m-キシレンとホルムアルデヒドを酸触媒下で縮合させた縮合物よりなる骨格を有するポリマーである(オリゴマー等、低重合度のものも含む)。本実施形態において成分(c)として用いられるキシレン系樹脂は、100℃以下の融点または軟化点を有している。成分(c)のキシレン系樹脂が、100℃以下の融点または軟化点を有することで、接着剤層14の接着性および耐溶剤性の向上に、高い効果が発揮される。キシレン系樹脂が、接着剤層14の接着性と耐溶剤性を向上させる機構は明らかではないが、キシレン系樹脂として、100℃以下の融点または軟化点を有するものを用いることで、接着剤層14の柔軟性が高くなり、接着性を向上させる効果に特に優れたものとなる。
【0031】
成分(c)のキシレン系樹脂は、水酸基を有するものであることが好ましい。特に、m-キシレンとホルムアルデヒドとの縮合物よりなる骨格の末端に水酸基を有するものであるとよい。キシレン系樹脂が水酸基を有することで、接着剤層14の接着性および耐溶剤性を向上させる効果が、特に高くなる。これは、成分(c)のキシレン系樹脂が、水酸基において、成分(b)のイソシアネート化合物と反応して架橋構造を形成することによると考えられる。すると、成分(a)と成分(c)が、ともに成分(b)によって架橋された構造が、接着剤層14に形成されることになる。ただし、キシレン系樹脂が有する水酸基が、フェノール変性によって導入されたもの等、フェノール性水酸基である場合には、接着剤層14の接着性および耐溶剤性の向上に効果的に寄与するものとなりにくい。よってキシレン系樹脂は、フェノール性水酸基を有さず、アルコール性水酸基を有するものであるとよい。キシレン系樹脂が有する水酸基の数は、特に限定されるものではないが、接着性および耐溶剤性の向上効果を高める観点から、分子鎖あたり、2つ以上の水酸基を有していることが好ましい。キシレン系樹脂としては、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
接着剤層14における成分(c)のキシレン系樹脂の含有量は、成分(a)のポリエステル樹脂を100質量部として、5質量部以上、さらには10質量部以上、15質量部以上であるとよい。すると、接着剤層14の接着性および耐溶剤性を高める効果が高くなる。一方、成分(c)の含有量は、成分(a)を100質量部として、30質量部以下、さらには25質量部以下であるとよい。すると、多量のキシレン系樹脂を含有することによる接着剤層14の軟化を避けて、成分(c)を接着剤層14の接着性の向上に有効に寄与させやすくなる。
【0033】
接着剤層14は、接着性および耐溶剤性を大きく損なわない限りにおいて、上記成分(a),(b),(c)以外の成分を適宜含有してもよい。そのような成分としては、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填剤等を例示することができる。
【0034】
接着剤層14の厚さは、特に限定されるものではないが、10μm以上、さらには15μm以上であることが好ましい。すると、接着剤層14による接着性を、支持体12と感光性樹脂層16の間の接着に、有効に発揮しやすくなる。また、接着剤層14を過剰に厚くするのを避ける等の観点から、接着剤層14の厚さは、50μm以下程度に留めておくとよい。
【0035】
本実施形態にかかるフレキソ印刷版原版10は、以上に説明したように、支持体12と感光性樹脂層16の間に設けられる接着剤層14が、(a)ポリエステル樹脂、(b)イソシアネート化合物、(c)100℃以下の融点または軟化点を有するキシレン系樹脂を含有している。接着剤層14は、(a)ポリエステル樹脂と、(c)キシレン系樹脂を含有していることで、感光性樹脂層16のみならず、ポリエステル樹脂を含有する支持体12に対しても、高い接着性を示す。その結果、フレキソ印刷版原版10よりフレキソ印刷版を形成し、版胴に固定して使用した後、版胴から剥がす際にも、支持体12に対して感光性樹脂層16が接着された状態を、安定に維持することができる。さらに、接着剤層14は、高い耐溶剤性を示し、印刷に用いられるインクに含まれる溶剤が、接着剤層14に接触することがあっても、高い接着性を維持することができる。
【0036】
接着剤層14の高い接着性および耐溶剤性は、接着剤層14が成分(c)のキシレン系樹脂を粘着付与剤として含有することによるものである。上記のように、特にキシレン系樹脂が水酸基を有している場合に、接着性および耐溶剤性を向上させる効果に優れる。一般に、粘着付与剤としては、石油樹脂を用いたものや、ロジンを用いたもの等、他種のものも知られているが、後の実施例に示すように、それら他種の粘着付与剤を用いた場合には、接着剤層14において、キシレン系樹脂を用いた場合のような接着性および耐溶剤性の向上効果は見られない。
【0037】
(感光性樹脂層)
感光性樹脂層16は、バインダーポリマーと、光重合性不飽和化合物と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物で構成される。光重合性不飽和化合物を含有していることから、感光性樹脂層16は光(紫外光)により硬化される。
【0038】
感光性樹脂層16のバインダーポリマーは、水現像可能にするなどの観点から、疎水性ゴムとともに親水性の水分散ラテックスを含有することが好ましい。水分散ラテックスとは、重合体粒子を分散質として水中に分散したものである。この水分散ラテックスから水を除去することにより、重合体が得られる。水分散ラテックスは、感光性樹脂層16に水現像性を付与することができる。
【0039】
水分散ラテックスの含有量は、疎水性ゴムと水分散ラテックスの合計質量に対する割合で20~90質量%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは30~80%の範囲内、さらに好ましくは50~70%の範囲内である。水分散ラテックスが20質量%以上であると、感光性樹脂層16への水系現像液の浸透性が高くなるため、水現像速度に優れる。一方、水分散ラテックスが90質量%以下であると、画像再現性に優れる。
【0040】
水分散ラテックスとしては、具体的には、ポリブタジエンラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、ポリウレタンラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、ビニルピリジン重合体ラテックス、ブチル重合体ラテックス、チオコール重合体ラテックス、アクリレート重合体ラテックスなどの水分散ラテックス重合体やこれら重合体にアクリル酸やメタクリル酸などの他の成分を共重合して得られる重合体などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併合して用いてもよい。
【0041】
疎水性ゴムは、感光性樹脂層16のゴム弾性を増加させることができる。これにより、例えば、種々の被刷体に印刷しやすくできるなどの効果が期待できる。疎水性ゴムとしては、具体的には、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、スチレンイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン-プロピレン共重合体、塩素化ポリエチレン、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)などを挙げることができる。また、これらのゴムのうち、不飽和結合を有するものについての部分あるいは完全水素添加物などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併合して用いてもよい。このうち、水分散ラテックスと併せて用いたときに感光性樹脂層16の水現像性および乾燥性のバランスに優れるなどの観点から、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)が好ましい。
【0042】
光重合性不飽和化合物は、光(紫外光)により感光性樹脂層16を硬化できるものである。光重合性不飽和化合物の含有量としては、好ましくは10~80質量%の範囲内、より好ましくは20~50質量%の範囲内である。光重合性不飽和化合物の含有量が10質量%以上であれば、架橋密度の不足がなく、良好な画像再現性とインク溶剤耐性が得られる。一方、光重合性不飽和化合物の含有量が80質量%以下であれば、レリーフが脆くなく、かつ、フレキソ印刷版の特徴である柔軟性を確保することができる。
【0043】
光重合性不飽和化合物としては、エチレン性不飽和化合物を挙げることができる。エチレン性不飽和化合物としては、(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルオリゴマー、(メタ)アクリル変性重合体などを挙げることができる。(メタ)アクリル変性重合体としては、例えば(メタ)アクリル変性ブタジエンゴム、(メタ)アクリル変性ニトリルゴムなどを挙げることができる。
【0044】
光重合開始剤は、光重合性不飽和化合物の光重合を開始させるものであれば特に限定されず、例えば、アルキルフェノン類、アセトフェノン類、ベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アントラキノン類、ベンジル類、ビアセチル類等の光重合開始剤を挙げることができる。具体的には、例えば、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、メチル-O-ベンゾイルベンゾエート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどを挙げることができる。
【0045】
光重合開始剤の含有量は、好ましくは0.3~10質量%の範囲内、より好ましくは0.5~8質量%の範囲内である。光重合開始剤の含有量が0.3質量%以上であれば、光重合性不飽和化合物の光重合反応が十分に起こり、良好な画像が形成できる。一方、光重合開始剤の含有量が5質量%以下であれば、感度が高すぎないため、露光時間の調節が容易になる。
【0046】
感光性樹脂層16は、これらの成分の他に、各種の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、界面活性剤、可塑剤、熱重合禁止剤(安定剤)、紫外線吸収剤、染料、顔料、消泡剤、香料などを挙げることができる。
【0047】
界面活性剤は、感光性樹脂層16の水現像性を向上させることができる。界面活性剤の含有量としては、水分散ラテックスと疎水性ゴムと界面活性剤の合計質量に対する割合で、0.1~20質量%の範囲内が好ましい。より好ましくは0.1~15%の範囲内、さらに好ましくは0.1~10%の範囲内である。界面活性剤の含有量が0.1%以上であると、水系現像液の感光性樹脂層16への浸透性が高くなり、水現像速度に優れる。一方、界面活性剤の含有量が20質量%以下であると、乾燥性にも優れる。
【0048】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤のうち、アニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0049】
可塑剤は、感光性樹脂層16に柔軟性を付与できる。また、感光性樹脂層16に柔軟性を付与してこれを低硬度にできる結果、光重合性不飽和化合物の含有量を増やすことができるため、インク溶剤耐性も向上できる効果を奏する。可塑剤の含有量としては、0.1~30質量%の範囲内が好ましい。より好ましくは5~20質量%の範囲内である。可塑剤の含有量が0.1質量%以上であれば、感光性樹脂層16に柔軟性を付与する効果に優れる。これにより、感光性樹脂層16の溶剤インクに対する耐性(耐溶剤インク膨潤性)が向上する。一方、可塑剤の含有量が30質量%以下であれば、感光性樹脂層16の強度を確保できる。
【0050】
可塑剤としては、液状ゴム、オイル、ポリエステル、リン酸系化合物などを挙げることができる。特に、水分散ラテックスあるいは疎水性ゴムと相溶性が良好なものが好ましい。液状ゴムとしては、例えば液状のポリブタジエン、液状のポリイソプレン、あるいは、これらをマレイン酸やエポキシ基により変性したものなどを挙げることができる。オイルとしては、パラフィン、ナフテン、アロマなどを挙げることができる。ポリエステルとしては、アジピン酸系ポリエステルなどを挙げることができる。リン酸系化合物としては、リン酸エステルなどを挙げることができる。
【0051】
熱重合禁止剤(安定剤)は、混練時の熱安定性を高める、あるいは、貯蔵安定性を高めることができる。熱重合禁止剤としては、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類のものなどを挙げることができる。熱重合禁止剤の含有量は、0.001~5質量%の範囲内が一般的である。
【0052】
感光性樹脂層16は、より柔軟な材料で構成されることが好ましい。この観点から、水分散ラテックス、疎水性ゴム、界面活性剤、光重合性不飽和化合物、および、光重合開始剤を含有することが好ましい。また、さらに、可塑剤を含有することが好ましい。
【0053】
感光性樹脂層16の厚みは、0.01~10mmの範囲内であることが好ましい。感光性樹脂層16の厚みが0.01mm以上であれば、レリーフ深度を十分に確保できる。一方、感光性樹脂層16の厚みが10mm以下であれば、フレキソ印刷版原版10の重さを抑えることができ、実用上、印刷版として使用することができる。感光性樹脂層16の厚みは、より好ましくは0.1~5mmの範囲内、さらに好ましくは0.6~4mmの範囲内である。
【0054】
(その他の層)
本発明にかかるフレキソ印刷版原版10は、使用時に、感光性樹脂層16の上にネガフィルム(すでに画像が形成されているもの)を密着させる、いわゆるアナログ方式のフレキソ印刷版原版であってもよいし、予め感光性樹脂層16の上に赤外線アブレーション層が密着している、いわゆるCTP(Computer to plate)方式に含まれるLAM(Laser ablation mask)方式のフレキソ印刷版原版であってもよい。
【0055】
アナログ方式のフレキソ印刷版原版は、
図1に示すように、支持体12と、接着剤層14と、感光性樹脂層16と、を備える。感光性樹脂層16の上には、保護層が設けられていてもよい。保護層は、使用前において感光性樹脂層16の傷を防止する。アナログ方式のフレキソ印刷版原版は、使用時には、保護層を剥がし、感光性樹脂層16の上に、予め画像が形成されているネガフィルムが密着される。
【0056】
LAM方式のフレキソ印刷版原版は、アナログ方式のフレキソ印刷版原版と比較して、感光性樹脂層16の上にさらに赤外線アブレーション層を有する点が異なる。つまり、LAM方式のフレキソ印刷版原版は、支持体12と、接着剤層14と、感光性樹脂層16と、赤外線アブレーション層と、を備える。赤外線アブレーション層の上には、保護層が設けられていてもよい。保護層は、使用前において赤外線アブレーション層の傷を防止する。LAM方式のフレキソ印刷版原版は、使用時には、保護層を剥がし、赤外線アブレーション層が露出される。赤外線アブレーション層は、バインダーポリマーと、赤外線吸収物質を含有する樹脂組成物で構成される。赤外吸収物質は、赤外線を吸収して熱に変換し得る物質であり、カーボンブラック、カーボングラファイトなどを用いることが好ましい。
【0057】
アナログ方式のフレキソ印刷版原版およびLAM方式のフレキソ印刷版原版のいずれにおいても、保護層は、使用時には剥離されることから、剥離性に優れることが好ましい。この観点から、保護層は樹脂製フィルムが好ましい。具体的には、PETフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルムなどが挙げられる。
【0058】
保護層の厚みは、取り扱い性に優れる、傷などから保護する機能に優れるなどの観点から、25~200μmの範囲内が好ましい。より好ましくは50~150μmの範囲内である。保護層には、シリコーン樹脂などの剥離剤が塗布されていても良い。
【0059】
(フレキソ印刷版原版の製造方法)
本実施形態にかかるフレキソ印刷版原版10は、支持体12の表面に、接着剤層14を形成し、さらにその表面に、感光性樹脂層16を、適宜保護層および赤外線アブレーション層とともに接合することで、製造することができる。
【0060】
接着剤層14は、成分(a),(b),(c)、さらに溶剤を含有する接着剤層用塗工液を調製し、これを支持体12に塗工した後、乾燥させて溶剤を除去することにより形成することができる。溶剤としては、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤や、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤や、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤や、酢酸メチルなどのエステル系溶剤や、グリコール系溶剤や、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性の極性溶剤などを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0061】
感光性樹脂層16の感光性樹脂組成物は、各成分を混練しながら脱水することにより調製できる。あるいは、予め水分散ラテックスを脱水した後、水分散ラテックスから得られた重合体と、これ以外の成分とを混練することにより調製できる。
【0062】
赤外線アブレーション層は、赤外線アブレーション層を形成する樹脂組成物の各成分を溶剤に溶解させて塗工液を調製し、これを基材となる保護層に塗工した後、乾燥させて溶剤を除去することにより形成することができる。アナログ方式のフレキソ印刷版原版は、支持体12および接着剤層14からなる積層体の接着剤層14と、保護層と、の間に感光性樹脂組成物を挟み、感光性樹脂組成物が所定の厚みになるようにプレスすることにより製造できる。LAM方式のフレキソ印刷版原版は、支持体12および接着剤層14からなる積層体の接着剤層14と、保護層および赤外線アブレーション層からなる積層体の赤外線アブレーション層と、の間に感光性樹脂組成物を挟み、感光性樹脂組成物が所定の厚みになるようにプレスすることにより製造できる。
【0063】
(フレキソ印刷版の製造方法)
次に、フレキソ印刷版原版を用いてフレキソ印刷版を製造する方法について説明する。
図2は、フレキソ印刷版原版からフレキソ印刷版を製造する工程を説明する図である。
図2に示すフレキソ印刷版原版20は、LAM方式のフレキソ印刷版原版であり、
図1に示すフレキソ印刷版原版10に、赤外線アブレーション層18をさらに備える。フレキソ印刷版30は、フレキソ印刷版原版20の感光性樹脂層16にレリーフ像を形成したものである。
【0064】
フレキソ印刷版30を製造する工程は、裏露光工程、描画工程、主露光工程、現像工程を有する。各工程は、基本的にはこの順で実施されるが、裏露光工程と描画工程は、順序を前後してもよい。
【0065】
裏露光工程では、
図2(a)に示すように、フレキソ印刷版原版20の支持体12側から紫外線を照射する。これにより、
図2(b)に示すように、感光性樹脂層16の下側16aが硬化され、いわゆるレリーフ像のためのフロアが形成される。
【0066】
描画工程では、
図2(c)に示すように、フレキソ印刷版原版20の赤外線アブレーション層18側から赤外線レーザを照射して、赤外線アブレーション層18の所定の部分18aを除去することにより、感光性樹脂層16の上に所望のネガパターンを作製する。これにより、感光性樹脂層16の上に所望の画像マスクが形成される。アナログ方式のフレキソ印刷版の場合には、この描画工程の代わりに、ネガフィルムを感光性樹脂層16の表面に密着させる工程を実施すればよい。
【0067】
主露光工程では、
図2(d)に示すように、画像マスクの上から感光性樹脂層16に紫外線を照射する。これにより、感光性樹脂層16の上側16bで画像マスクに覆われていない部分16cが硬化される。感光性樹脂層16には、硬化部分16a,16cと未硬化部分(16bのうち16cを除いた部分)とが生じている。
【0068】
現像工程では、現像液中で画像マスクおよび感光性樹脂層16の未硬化部分(16bのうち16cを除いた部分)を除去する。これにより、
図2(e)に示すように、レリーフ像が形成されたフレキソ印刷版30が得られる。現像液としては、水系の現像液を用いるとよい。その後、必要に応じて、フレキソ印刷版30を乾燥させる乾燥工程や、乾燥させたフレキソ印刷版30全体に再度紫外線を照射する後露光工程を実施してもよい。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。本発明はこれらによって限定されるものではない。本実施例においては、特記しないかぎり、試料の作製および評価における各工程は、大気中、室温にて行っている。
【0070】
[試料の作製]
<接着剤層の形成>
各実施例および比較例にかかる試料の接着剤層として、質量比でメチルエチルケトン:トルエン=1:1で混合した混合溶剤に、表1,2に挙げた各成分を、固形分が30質量%となるように配合し、羽攪拌することで、接着剤層用塗工液を調製した。得られた接着剤層用塗工液を、125μm厚のPETフィルムよりなる支持体に、表1,2に示した接着層厚みが乾燥後に得られるようにバーコートで塗工し、120℃で10分間乾燥させることにより、支持体上に接着剤層を形成した。
【0071】
接着剤用塗工液の調製に用いた原料は、以下のとおりである。以下の中で、キシレン系樹脂1~3については、25℃にて高粘度液体となっていることから、融点が25℃以下である。
・ポリエステル樹脂1:東洋紡株式会社製 「バイロン30SS」(Tg=7℃)
・ポリエステル樹脂2:ユニチカ株式会社製 「エリーテルUE-9300」(Tg=11℃)
・ポリエステル樹脂3:ユニチカ株式会社製 「エリーテルUE-9100」(Tg=18℃)
・ポリエステル樹脂4:ユニチカ株式会社製 「エリーテルUE-3350」(Tg=52℃)
・イソシアネート1:旭化成株式会社製 「デュラネートTPA100」(3官能)
・イソシアネート2:東京化成工業株式会社製 「ヘキサメチレンジイソシアネート」(2官能)
・キシレン系樹脂1:フドー株式会社製 「ニカノールH」(水酸基なし、25℃にて高粘度液体)
・キシレン系樹脂2:フドー株式会社製 「ニカノールL5」(分子鎖あたりアルコール性水酸基1つ、25℃にて高粘度液体)
・キシレン系樹脂3:フドー株式会社製 「ニカノールK-100」(分子鎖あたりアルコール性水酸基2つ、25℃にて高粘度液体)
・キシレン系樹脂4:フドー株式会社製 「ニカノールHP-100」(フェノール性水酸基あり、軟化点:105~125℃)
・石油樹脂:荒川化学工業株式会社製 「アルコンP-90」
・ロジン系樹脂:ハリマ化成株式会社 「ハリタックPH」
【0072】
<感光性樹脂組成物の調製>
水分散ラテックス45.5質量部(固形分としての重合体は25質量部)と、アクリル変性液状BR15質量部と、アクリルモノマー5質量部とを混合し、120℃に加熱した乾燥機で2時間水分を蒸発させて、水分散ラテックスから得られた重合体と光重合性不飽和化合物との混合物を得た。この混合物と、BR30質量部と、界面活性剤4質量部(固形分としての重合体は3.2質量部)と、可塑剤15質量部とをニーダー中で45分間混練した。その後、ニーダー中に、熱重合禁止剤0.2質量部と、光重合開始剤1質量部とを投入し、5分間混練して、感光性樹脂組成物を調製した。
【0073】
感光性樹脂組成物の調製に用いた原料は、以下のとおりである。
・水分散ラテックス:日本ゼオン株式会社製 「ニポールLX111NF」から得られた重合体
・BR:日本ゼオン株式会社製 「ニポールBR1220」
・アクリル変性液状BR:大阪有機化学株式会社製 「BAC-45」
・アクリルモノマー:日油株式会社製 「1,9-ノナンジオールジメタクリレート」
・界面活性剤:日油株式会社製 「ラピゾールA80」
・熱重合禁止剤:精工化学株式会社製 MEHQ(ハイドロキノンモノメチルエーテル)
・光重合開始剤:BASF株式会社製 「イルガキュア651」
・可塑剤:日本サン石油株式会社製 「サンパー110」
【0074】
<フレキソ印刷版原版の作製>
支持体に形成された接着剤層と、保護層としての片面離型処理されたポリエステルフィルムとの間に、得られた感光性樹脂組成物を挟み、感光性樹脂層の厚さが1.5mmになるように、120℃に加熱したプレス機でプレスすることにより、支持体、接着剤層、感光性樹脂層、保護層がこの順で積層されたフレキソ印刷版原版を作製した。
【0075】
<試験用硬化体の作製>
800Wのケミカル灯を15本並べた露光装置を用い、上記で作製したフレキソ印刷版原版のそれぞれに対して、支持体側から10秒間の裏露光を行った。次いで、保護層側から、6分間の露光(主露光)を行った。これにより、フレキソ印刷版原版の感光性樹脂層を硬化させた試験用硬化体を得た。
【0076】
[評価方法]
<接着性>
上記で作製した試験用硬化体を、幅2cm×長さ10cmに打ち抜き、保護層を剥離した試験片に対して、剥離試験を行った。剥離試験においては、剥離試験機を用いて、試験片の長さ方向に沿って、支持体と接着剤層の間を強制的に剥離する際の剥離力(単位:N/cm)を計測した。計測は、試験片速度50mm/min.で、180℃の方向に行った。剥離初期の剥離力が上昇する部分の除き、計測された剥離力の長さ方向全域にわたる平均値を、接着力とて記録した。
【0077】
剥離試験機に試験片をセットするために、試験片の端部において支持体と接着剤層の間を剥離する操作である口出しを行えず、剥離試験を行えなかった場合を、接着性が極めて高い「A」とした。剥離試験において計測された接着力が5N/cm以上であった場合を、接着性が特に高い「B」とした。剥離試験において計測された接着力が2N/cm以上、5N/cm未満であった場合を、接着性が高い「C」とした。剥離試験において計測された接着力が2N/cm未満であった場合を、接着性が低い「D」とした。
【0078】
<耐溶剤性>
上記で作製した試験用硬化体を、2cm×2cmに打ち抜き、保護層を剥離した試験片を、質量比で酢酸プロピル:1-プロパノール=30:70のインク溶剤を模した混合溶剤に、24時間浸漬した。浸漬後の試験片に対して、強制的に支持体と接着剤層を剥離することで、支持体と接着剤層の間の接着状態を確認し、耐溶剤性の評価を行った。
【0079】
強制的に支持体と接着剤層を剥離すると感光性樹脂層が破壊してしまい、剥離が行えない場合に、耐溶剤性が極めて高い「A」と評価した。強制的に支持体と接着剤層を剥離すると、一部の領域で、界面において剥離が進行するものの、その後剥離をしていくと感光性樹脂層が破壊する場合に、耐溶剤性が特に高い「B」と評価した。強制的に支持体と接着剤層を剥離すると、界面で剥離するものの、剥離中の手ごたえが強い場合を、耐溶剤性が高い「C」と評価した。溶剤浸漬中に剥離してしまった場合、および強制的に支持体と接着剤層を剥離すると、界面で手ごたえなく容易に剥離できる場合を、耐溶剤性が低い「D」と評価した。
【0080】
[評価結果]
下の表1,2に、各実施例および比較例にかかる試料について、接着剤層の組成と厚さを上段に、接着性および耐溶剤性の評価結果を下段に示す。接着剤層の組成は、各成分の含有量を、質量部を単位として表示している。実施例1と実施例13、および実施例2と実施例20は、それぞれ同一のものである。
【0081】
【0082】
【0083】
実施例1~26はいずれも、接着剤層が、ポリエステル樹脂、イソシアネート化合物、融点または軟化点が100℃以下のキシレン系樹脂を含んでいる。これら各実施例においては、高い接着性および耐溶剤性(A~C)が得られている。一方、接着剤層がキシレン系樹脂および他の粘着付与剤を含んでいない比較例1では、接着性が低くなっている(D)。接着剤層がキシレン系樹脂を含んでいるが、その軟化点が100℃を超えている比較例2では、接着性および耐溶剤性が低くなっている(D)。さらに、接着剤層が、粘着付与剤として、石油樹脂またはロジン系樹脂を含んでいる比較例3,4でも、接着性および耐溶剤性が低くなっている(D)。これらの結果より、実施例1~26のように、接着剤層に、ポリエステル樹脂およびイソシアネート化合物と合わせて、融点または軟化点が100℃以下のキシレン系樹脂を添加することで、フレキソ印刷版原版において、接着剤層と支持体の間で高い接着性が得られ、さらに溶剤と接触してもその接着性を高く維持できる耐溶剤性が得られることが分かる。
【0084】
次に、実施例1~26を相互に比較する。実施例1~9では、ポリエステル樹脂、イソシアネート化合物、キシレン系樹脂として用いている化合物が相互に異なっている。これらによると、3官能のイソシアネート化合物と、Tgが20℃以下のポリエステル樹脂を用いている実施例1~3,5~8では、極めて高い接着性が得られている(A)。さらに、キシレン系樹脂として、アルコール性水酸基を有するものを用いている実施例2,3,6,8では、極めて高い耐溶剤性が得られている(A)。これらより、ポリエステル樹脂として、Tgが20℃以下のもの、イソシアネート化合物として3官能以上のもの、キシレン系樹脂としてアルコール性水酸基を有するものを用いることが、接着性および耐溶剤性の向上の観点で、特に好ましいと言える。
【0085】
試料10~16の組、および試料17~23の組では、それぞれ、接着剤層におけるキシレン系樹脂の含有量が相互に異なっている。これらによると、キシレン系樹脂の含有量を、ポリエステル樹脂100質量部に対し、3質量部以上、30質量部以下としておくことで、高い接着性と耐溶剤性が得られると言える。特に、その含有量が、10質量部以上であるとよい。
【0086】
実施例20,24~26では、接着剤層の厚さが相互に異なっている。これらによると、接着剤層の厚さが10μm以上の場合に、高い接着性と耐溶剤性が得られると言える。特に、接着剤層の厚さが、15μm以上であるとよい。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0088】
10 フレキソ印刷版原版
12 支持体
14 接着剤層
16 感光性樹脂層